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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022078742
(43)【公開日】2022-05-25
(54)【発明の名称】光フィルタデバイス
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/26 20060101AFI20220518BHJP
   G02B 6/02 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
G02B6/26 311
G02B6/02 461
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020189628
(22)【出願日】2020-11-13
(71)【出願人】
【識別番号】392017004
【氏名又は名称】湖北工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木藤 克哉
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 勝博
(72)【発明者】
【氏名】桐山 智晶
【テーマコード(参考)】
2H137
2H250
【Fターム(参考)】
2H137BA15
2H137BA18
2H137BC04
2H137BC07
2H137BC31
2H137CA15A
2H250AB03
2H250AC64
2H250AC66
2H250AC93
2H250AC94
2H250AC95
2H250AC98
2H250AE71
(57)【要約】      (修正有)
【課題】反射戻り光を低減しつつ光信号を適切に伝送する光フィルタデバイスを提供する。
【解決手段】光フィルタデバイス10は、複数の第1コアを備える第1マルチコア光ファイバ20、第1レンズ30、光軸と直交する面に対して回転軸周りに所定の回転角度だけ回転されており第1レンズからの出射光を透過する光フィルタ40、第2レンズ50及び光ファイバ60を備える。光軸を通り回転軸と平行な基準軸から、光軸及び基準軸と直交する直交軸に沿って、基準軸に対して一方の側に向かう方向及び他方の側に向かう方向をそれぞれ第1直交方向及び第2直交方向と規定すると、第1マルチコア光ファイバの周方向の向きは、その中心軸線に沿ってその端面を見たときに、基準軸から第1直交方向及び第2直交方向にそれぞれ最も離間している第1コアの基準軸からの距離の和である離間距離が最小となるように設定されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状であり、軸線方向に沿って延在している複数の第1コアと、前記複数の第1コアを取り囲む共通のクラッドと、を備える第1マルチコア光ファイバと、
前記第1マルチコア光ファイバの中心軸線上に位置する光軸を有し、前記第1コアのそれぞれから出射されて発散する光線をコリメートし、コリメートされた各第1コアからの光線を集光する第1レンズと、
前記第1レンズから出射された光線が入射する第1面と、前記第1面と対向しており、自身を透過した光線が出射される第2面と、を備え、特定の波長帯域の光線を任意の透過強度で透過させる光フィルタであって、前記第1面が前記第1レンズの光軸と直交する面と平行となる位置から、前記光軸に垂直な特定の方向に延びる回転軸周りに所定の回転角度だけ回転されている光フィルタと、
前記光フィルタから出射された各第1コアからの光線をそれぞれ収束する第2レンズと、
柱状であり、前記第2レンズから出射された各第1コアからの全ての光線が入射する、軸線方向に沿って延在しているコアを備える光ファイバと、
を備え、
前記光軸を通り前記回転軸と平行な基準軸から、前記光軸及び前記基準軸と直交する直交軸に沿って、前記基準軸に対して一方の側に向かう方向を第1直交方向と規定し、前記基準軸に対して他方の側に向かう方向を第2直交方向と規定すると、
前記第1マルチコア光ファイバの周方向の向きは、その中心軸線に沿ってその端面を見たときに、前記基準軸から前記第1直交方向に最も離間している第1コアの前記基準軸からの距離と、前記基準軸から前記第2直交方向に最も離間している第1コアの前記基準軸からの距離と、の和である離間距離が最小となるように設定されている、
光フィルタデバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の光フィルタデバイスにおいて、
前記複数の第1コアは、前記第1マルチコア光ファイバの前記中心軸線を除く軸線に沿って延在する複数の周辺コアを含み、
前記第1マルチコア光ファイバの中心軸線に沿ってその端面を見たときに、
前記周辺コアは、前記端面の中心を通る直線に沿って配置されているか、又は、前記周辺コアのうち前記中心から最も離間している複数の最外周コアが、前記中心を中心とする正多角形の頂点に位置しており、
直線状に配置されている前記周辺コア、又は、前記最外周コアは、前記基準軸に関して線対称であり、且つ、前記直交軸上に位置していない、
光フィルタデバイス。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の光フィルタデバイスにおいて、
前記光ファイバは、前記コアが共通のクラッドで取り囲まれている第2マルチコア光ファイバであり、
前記第2レンズは、前記光フィルタから出射された各第1コアからの光線を、それらの主光線が互いに平行となるように屈折させる、
光フィルタデバイス。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の光フィルタデバイスにおいて、
前記光ファイバは、複数のシングルコア光ファイバを備えるシングルコア光ファイバ群であり、前記シングルコア光ファイバの各々が、1つの前記コアと、それを取り囲むクラッドと、を含む、
光フィルタデバイス。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の光フィルタデバイスにおいて、
前記光フィルタの前記回転角度の大きさは、0°超90°未満である、
光フィルタデバイス。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の光フィルタデバイスにおいて、
前記第1マルチコア光ファイバの端面は、前記光軸と直交する面に対して所定の傾斜方向に所定の研磨角度だけ傾斜するように斜めに研磨されており、
z軸が、前記光軸上に、前記第1レンズから前記光フィルタに向かう方向が正方向となるように延びており、y軸が、前記基準軸上に、前記基準軸の一端から他端に向かう方向が正方向となるように延びており、x軸が、前記第1直交方向及び前記第2直交方向に延びていると規定し、
前記光フィルタを前記y軸の正方向から見た場合において前記光フィルタが前記回転軸周りに反時計回りに回転されたときの前記回転角度が正の値を有し、前記光フィルタが前記回転軸周りに時計回りに回転されたときの前記回転角度が負の値を有すると規定し、
前記第1マルチコア光ファイバの前記端面の中心を通り前記端面と直交し且つ前記傾斜方向と平行な平面が前記端面と交差する線分である斜研磨基準軸に沿って、前記光フィルタからより離間している遠位端からより近接している近位端に向かう方向を、前記端面の中心軸線に沿って見たときの方向を斜研磨方向と規定し、前記斜研磨方向が、前記y軸の前記正方向から反時計回りに成す角を、正の値を有する斜研磨回転角度と規定すると、
前記離間距離が0より大きい場合において、
前記光フィルタの前記回転角度が正の値を有するときは、前記第1マルチコア光ファイバの前記端面は、前記斜研磨回転角度が0°超180°未満の値となるように斜めに研磨され、
前記光フィルタの前記回転角度が負の値を有するときは、前記第1マルチコア光ファイバの前記端面は、前記斜研磨回転角度が-180°超0°未満の値となるように斜めに研磨されている、
光フィルタデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光フィルタデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
インターネットによる通信トラフィック需要は年々増加しており、光通信の更なる高速大容量化が望まれている。従来から、その需要に応えるために、波長分割多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)技術及びデジタルコヒーレント技術等により伝送容量の増大が進められてきた。
【0003】
近年、新たな多重化技術として、マルチコア光ファイバを用いた空間分割多重(SDM:Space Division Multiplexing)技術が注目されている。SDM技術によれば、更に高速大容量化できるとされている。SDM技術の研究開発の進展に伴い、マルチコア光ファイバを用いた光アイソレータや光フィルタデバイス等の需要が高まっている。ここで、光フィルタデバイスとして、例えば、マルチコア光ファイバと、誘電体多層膜から成る光フィルタと、当該マルチコア光ファイバと同数のコアを有する光ファイバ(典型的には、マルチコア光ファイバ)と、が、或る軸線に沿ってこの順に配置されたデバイスが知られている。当該光フィルタは、例えば、特定の波長帯域の光線を透過させる機能を有する。マルチコア光ファイバの各コアから出射された光線は、光フィルタの入射面に入射し、光フィルタを透過して、光ファイバの対応するコアに入射する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5598882号
【発明の概要】
【0005】
このような光フィルタデバイスにおいて、光フィルタが、その入射面が軸線と直交する面と平行となるように配置されている場合、マルチコア光ファイバから出射された光線がその入射面において反射する可能性がある。このような反射光は、一般に、「反射戻り光」と称される。反射戻り光は、マルチコア光ファイバを経由して送信側の通信装置に入射したり、多重反射したりすることにより信号光の光学特性を低下させる可能性がある。
【0006】
そこで、従来から、光フィルタの入射面が軸線と直交する面に対し傾斜するように光フィルタを配置することにより、反射戻り光を低減することが行われている。
【0007】
しかしながら、このように光フィルタを傾斜させると、反射戻り光は低減できるものの、マルチコア光ファイバの各コアから出射され光フィルタを透過した後の光線の透過損失にばらつきが生じ、光信号が適切に伝送されない可能性がある。以下、図25A及び図25Bを参照して具体的に説明する。図25Aは、或る光フィルタデバイスの透過損失特性を表したグラフである。この光フィルタデバイスは、7つのコアを有する2つのマルチコア光ファイバと、これら2つのマルチコア光ファイバの間に配置された光フィルタと、を備える。2つのマルチコア光ファイバは同一の構成を有する。具体的には、7つのコアのうち1つのコアは、マルチコア光ファイバの中心軸線に沿って中心コアとして延在している。残りの6つのコアは、中心コアを中心とした正六角形の頂点に位置しており、軸線方向に沿って周辺コアとして延在している。光フィルタには短波長透過光フィルタ(特定の波長より短い波長帯域の光線を透過させる光フィルタ)が用いられる。光フィルタは傾斜している。
【0008】
図25Aに示すように、この光フィルタのカットオフ波長は約1520nmである。図25Bは、図25Aにおいて透過損失が増加し始めている部分を拡大したグラフである。図25Bのグラフ中の4つの実線のうち最も短波長側(左側)に位置する実線101は、或る周辺コアからの出射光の透過スペクトルを示し、最も長波長側(右側)に位置する実線102は、別の或る周辺コアからの出射光の透過スペクトルを示す。なお、この例では、複数の周辺コアの透過スペクトルが実質的に同一であり重畳して図示されているため、グラフ中の透過スペクトル(実線)の数はコアの数とは一致していない。
【0009】
図25Bに示す透過スペクトルは、光フィルタを傾斜させる前における同一コアからの出射光の透過スペクトル(図示省略)と比較して、何れも短波長側にシフトしているが、各透過スペクトルのシフト量は、コア毎に異なっている。この例では、透過スペクトル101のシフト量が最大となっており、透過スペクトル102のシフト量が最小となっている。各透過スペクトルがこのようにシフトすると、光フィルタを傾斜させる前と比較して、透過スペクトルのばらつきの最大値(即ち、最も短波長側に位置する透過スペクトルと最も長波長側に位置する透過スペクトルとのばらつき)が増大する。この例では、透過損失が3dBのときの透過スペクトル(カットオフ波長)のばらつきの最大値は約0.6nmとなっている。
【0010】
このように、透過スペクトルが各コアでばらつくと、任意の或る波長における各コアからの出射光の透過損失にばらつきが生じる。透過損失のばらつきが増大すると、光ファイバ(この例ではマルチコア光ファイバ)の各コアを伝搬する光線の強度にばらつきが生じ、その結果、光信号が適切に伝送されない可能性がある。図25Bに示すように、透過損失のばらつきは、透過スペクトルのばらつきの最大値が増大するほど大きくなる。従って、光フィルタ透過後の光線を光ファイバにより適切に伝送するためには、透過スペクトルのばらつきの最大値を低減することが肝要である。
【0011】
本発明は、上述した問題に対処するためになされたものである。即ち、本発明の目的の一つは、反射戻り光を低減しつつ、光信号を適切に伝送可能な光フィルタデバイスを提供することにある。
【0012】
本発明による光フィルタデバイス(10)は、
柱状であり、軸線方向に沿って延在している複数の第1コア(C1乃至C7)と、前記複数の第1コア(C1乃至C7)を取り囲む共通のクラッド(21)と、を備える第1マルチコア光ファイバ(20)と、
前記第1マルチコア光ファイバ(20)の中心軸線上に位置する光軸(z軸)を有し、前記第1コア(C1乃至C7)のそれぞれから出射されて発散する光線をコリメートし、コリメートされた各第1コア(C1乃至C7)からの光線を集光する第1レンズ(30)と、
前記第1レンズ(30)から出射された光線が入射する第1面(40a)と、前記第1面(40a)と対向しており、自身を透過した光線が出射される第2面(40b)と、を備え、特定の波長帯域の光線を任意の透過強度で透過させる光フィルタであって、前記第1面(40a)が前記第1レンズ(30)の光軸(z軸)と直交する面(xy平面)と平行となる位置から、前記光軸(z軸)に垂直な特定の方向に延びる回転軸(r1)周りに所定の回転角度(η)だけ回転されている光フィルタ(40)と、
前記光フィルタ(40)から出射された各第1コア(C1乃至C7)からの光線をそれぞれ収束する第2レンズ(50)と、
柱状であり、前記第2レンズ(50)から出射された各第1コア(C1乃至C7)からの全ての光線が入射する、軸線方向に沿って延在しているコアを備える光ファイバ(60)と、
を備える。
この光フィルタデバイス(10)では、
前記光軸(z軸)を通り前記回転軸(r1)と平行な基準軸(y軸)から、前記光軸(z軸)及び前記基準軸(y軸)と直交する直交軸(x軸)に沿って、前記基準軸(y軸)に対して一方の側に向かう方向を第1直交方向(-x軸方向)と規定し、前記基準軸(y軸)に対して他方の側に向かう方向を第2直交方向(+x軸方向)と規定すると、
前記第1マルチコア光ファイバ(20)の周方向の向きは、その中心軸線(z軸)に沿ってその端面(20a)を見たときに、前記基準軸(y軸)から前記第1直交方向(-x軸方向)に最も離間している第1コア(第1離間コア)の前記基準軸(y軸)からの距離と、前記基準軸(y軸)から前記第2直交方向(+x軸方向)に最も離間している第1コア(第2離間コア)の前記基準軸(y軸)からの距離と、の和である離間距離が最小となるように設定されている。
なお、「各第1コアからの全ての光線が入射する」コアを備える光ファイバとは、第1マルチコア光ファイバの各コアからの出射光が入射可能なコアを備える光ファイバを意味する。即ち、反射戻り光は、上記「全ての光線」には含まれない。
また、本明細書において、「集光」とは、レンズが複数の光源(例えば、第1マルチコア光ファイバの複数の第1コア)からの光線(厳密には、光線の主光線)を1点に集めることを意味し、「収束(集束)」とは、レンズが1つの光源(例えば、第1マルチコア光ファイバの各第1コア)からの光線の径を絞って1点に集めることを意味する。
【0013】
本発明によれば、反射戻り光を低減しつつ、光信号を適切に伝送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態に係る光フィルタデバイスの平面図である。
図2】出射部材として機能するマルチコア光ファイバの端面を示す図である。
図3】光フィルタに入射する主光線の入射角度α及び光線角度θを示す図である。
図4】入射角度αと波長シフト量Δλの関係を調べるために準備された光フィルタの平面図であり、光線Rが光フィルタを透過する様子を示す図である。
図5図4の光フィルタを用いた測定に基づく透過損失特性を表したグラフである。
図6】入射角度αと波長シフト量Δλとの関係を規定したグラフである。
図7A】直交座標系における入射角度α、光フィルタの回転角度η、光線角度θ及び各コアの角度φの関係を示した図である。
図7B】角度φの算出方法を説明するために用いられる図である。
図8A】マルチコア光ファイバのコア数及びコア配置を示す図である。
図8B】別のマルチコア光ファイバのコア数及びコア配置を示す図である。
図8C】更に別のマルチコア光ファイバのコア数及びコア配置を示す図である。
図9A図8Aのマルチコア光ファイバが直交型に設定されたときの端面を示す図である。
図9B図9Aのマルチコア光ファイバの各コアから出射される光線の入射角度αと波長シフト量Δλとの関係を規定したグラフである。
図10A図8Aのマルチコア光ファイバが平行型に設定されたときの端面を示す図である。
図10B図10Aのマルチコア光ファイバの各コアから出射される光線の入射角度αと波長シフト量Δλとの関係を規定したグラフである。
図11A図8Bのマルチコア光ファイバが対角線型に設定されたときの端面を示す図である。
図11B図11Aのマルチコア光ファイバの各コアから出射される光線の入射角度αと波長シフト量Δλとの関係を規定したグラフである。
図12A図8Bのマルチコア光ファイバが平行型に設定されたときの端面を示す図である。
図12B図12Aのマルチコア光ファイバの各コアから出射される光線の入射角度αと波長シフト量Δλとの関係を規定したグラフである。
図13A図8Cのマルチコア光ファイバが直交型に設定されたときの端面を示す図である。
図13B図13Aのマルチコア光ファイバの各コアから出射される光線の入射角度αと波長シフト量Δλとの関係を規定したグラフである。
図14A図8Cのマルチコア光ファイバが平行型に設定されたときの端面を示す図である。
図14B図14Aのマルチコア光ファイバの各コアから出射される光線の入射角度αと波長シフト量Δλとの関係を規定したグラフである。
図15】本発明の第2実施形態に係る光フィルタデバイスの平面図である。
図16】出射部材として機能するマルチコア光ファイバの斜研磨方向を説明するために用いられる図である。
図17A】端面が斜研磨されたマルチコア光ファイバのコア数及びコア配置を示す図である。
図17B】端面が斜研磨された別のマルチコア光ファイバのコア数及びコア配置を示す図である。
図18】回転角度η=2.9°の場合における光フィルタと図17Aのマルチコア光ファイバとの相対位置関係の一例を示す図である。
図19】回転角度η=2.9°の場合における図17Aのマルチコア光ファイバの斜研磨回転角度Ψとばらつきの最大値Dmaxとの関係を規定したグラフである。
図20】回転角度η=-2.9°の場合における光フィルタと図17Aのマルチコア光ファイバとの相対位置関係の一例を示す図である。
図21】回転角度η=-2.9°の場合における図17Aのマルチコア光ファイバの斜研磨回転角度Ψとばらつきの最大値Dmaxとの関係を規定したグラフである。
図22】回転角度η=1.8°の場合における図17Aのマルチコア光ファイバの斜研磨回転角度Ψとばらつきの最大値Dmaxとの関係を規定したグラフである。
図23】回転角度η=-1.8°の場合における図17Aのマルチコア光ファイバの斜研磨回転角度Ψとばらつきの最大値Dmaxとの関係を規定したグラフである。
図24】回転角度η=2.9°の場合における図17Bのマルチコア光ファイバの斜研磨回転角度Ψとばらつきの最大値Dmaxとの関係を規定したグラフである。
図25A】光フィルタデバイスの透過損失特性を表したグラフである。
図25B図25Aのグラフの部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る光フィルタデバイス10の一例を示す平面図である。図1に示すように、光フィルタデバイス10は、第1マルチコア光ファイバとしてのマルチコア光ファイバ20と、第1レンズ30と、光フィルタ40と、第2レンズ50と、光ファイバとしてのマルチコア光ファイバ60と、を備える。これらの部材は、軸線A1に沿って上記の順に配置されている。光フィルタデバイス10には、直交座標系が設定されている。z軸は、軸線A1上に、第1レンズ30から光フィルタ40に向かう方向が正方向となるように延びている。y軸は、z軸(即ち、軸線A1)と直交しており、紙面手前方向が正方向となるように延びている。x軸は、z軸及びy軸と直交している。以下、マルチコア光ファイバを「MCF」とも称する。なお、本明細書では、図を見易くするために、特定の部材(例えば、MCF20及びMCF60)の寸法及び角度等を変更して図示している。
【0016】
MCF20は円柱状であり、少なくともその+z軸方向の端部における中心軸線は、軸線A1と一致している。MCF20の端面20aは、軸線A1と直交する面(xy平面)と平行である。図2は、MCF20の端面20aを示す図である。図2に示すように、MCF20は、第1コアとしての7つのコアC1乃至C7と、これらのコアC1乃至C7を取り囲む共通のクラッド21と、を備える。コアC4は、MCF20の中心軸線に沿って延在している(以下、「中心コアC4」とも称する。)。コアC1乃至C3並びにC5乃至C7は、中心コアC4を中心とした正六角形の頂点に位置しており、軸線方向に沿って延在している(以下、それぞれ、「周辺コアC1乃至C3並びにC5乃至C7」とも称する。)。別言すれば、周辺コアC1乃至C3並びにC5乃至C7は、MCF20の中心軸線を除く軸線に沿って延在している。隣接するコア間の距離(コアピッチ)は38μmである。コアC1乃至C7並びにクラッド21は、石英を主成分とするガラスにより形成されている。コアC1乃至C7の屈折率は、クラッド21の屈折率よりも大きい。MCF20は、シングルモード光ファイバである。MCF20は、光フィルタデバイス10に用いられるマルチコア光ファイバの一例である(後述)。なお、コアC1乃至C7並びにクラッド21の材質は石英を主成分とするガラスに限られず、他の材料により形成されてもよい。また、本明細書において、円柱には、軸線が湾曲しているものも含まれる。
【0017】
図1に示すように、MCF20の+z軸方向の端部は、円筒状のフェルール22に挿通されて保持されている。フェルール22の端面22aは、MCF20の端面20aと同一平面上に位置している。これは、MCF20の端面20aは、フェルール22に挿通された状態でその端面22aとともに一括して研磨されるためである。図1では、フェルール22内のMCF20を破線で示しているが、コアC1乃至C7の図示は省略している。
【0018】
MCF20の各コアC1乃至C7を伝搬してきた光線は、端面20aから第1レンズ30に向けて出射される。即ち、MCF20は出射部材として機能する。図1では、各コアC1乃至C7から出射される光線のうち、コアC1、C4及びC7(図2参照)から出射される光線の主光線のみを図示している。光線B1、B4及びB7は、それぞれ、コアC1、C4及びC7からの出射光の主光線に相当する。各コアC1乃至C7からの出射光の主光線は互いに平行である(図1の光線B1、B4及びB7参照)が、各出射光は進行するにつれて発散する発散光である。
【0019】
第1レンズ30は、焦点距離が2.5mmの非球面レンズである。第1レンズ30の中心軸(光軸)は、軸線A1上に位置している。第1レンズ30は、各コアC1乃至C7から出射されて発散する光線をコリメート(平行化)する。別言すれば、第1レンズ30は、例えば、コアC1から出射されて発散する光線をコリメートする(図1ではその主光線B1のみ図示している。)。即ち、第1レンズ30は、いわゆるコリメートレンズである。第1レンズ30は、このようにしてコリメートされた各コアC1乃至C7からの光線を焦点にて集光する(図1では、光線B1、B4及びB7のみ図示している。)。以下では、このようにコリメートされた光線を「コリメート光(平行光)」とも称する。
【0020】
光フィルタ40は、短波長透過光フィルタである。短波長透過光フィルタは誘電体多層膜から成る周知の光フィルタであるため、その詳細な説明は省略する。光フィルタ40は、第1面としての入射面40aと、入射面40aと平行に対向している第2面としての出射面40bと、を備える。第1レンズ30から出射された光線は、入射面40aに入射する。光フィルタ40は、第1レンズ30の焦点が入射面40a上に位置するように配置されている。このため、各コアC1乃至C7からの光線は、第1レンズ30を介して入射面40a上に集光し、光フィルタ40を透過して出射面40bから出射される。なお、MCF20と光フィルタ40との間に配置されるレンズは、第1レンズ30に限られず、MCF20の各コアC1乃至C7からの出射光を実質的にコリメート可能なレンズであればよい。例えば、球面レンズ又はGRINレンズであってもよい。
【0021】
光フィルタ40は、軸線A1が入射面40aと交差する位置(即ち、第1レンズ30の焦点)に、y軸方向に延びる回転軸r1を有する。光フィルタ40は、入射面40aが軸線A1と直交する面と平行となる位置から、回転軸r1周りに回転角度ηだけ回転されている。回転角度ηの大きさは、0°<η<90°である。これにより、反射戻り光を低減している。以下では、光フィルタ40を+y軸方向から見た場合(即ち、図1に示される方向から見た場合)において光フィルタ40が回転軸r1周りに反時計回りに回転されたときの回転角度ηが正の値を有し、光フィルタ40が回転軸r1周りに時計回りに回転されたときの回転角度ηが負の値を有すると規定する。
【0022】
図1に示す例では、光フィルタ40は、+y軸方向から見た場合において反時計回りに回転角度ηだけ回転されている。このため、出射面40bから出射される光線の位置は、入射面40aに入射する光線の位置に対して+x軸方向に位置している。光フィルタ40から出射された各コアC1乃至C7からの光線(図1では主光線のみ図示)は何れもコリメート光(平行光)であるが、主光線は互いに離間する方向に進行する(図1の光線B1、B4及びB7参照)。なお、光フィルタ40から出射された主光線B4は、軸線A1と平行である。
【0023】
第2レンズ50は、焦点距離が2.5mmの非球面レンズである。第2レンズ50は、光フィルタ40から出射された主光線B4が第2レンズ50の中心軸(光軸)に沿って進行するように所定の距離だけ+x軸方向にシフトされている。第2レンズ50は、光フィルタ40からの出射光の各主光線の交点(図1では図示省略)から+z軸方向に焦点距離だけ離間した位置に配置されている。第2レンズ50は、光フィルタ40から出射された各コアC1乃至C7からの光線を、これらの主光線が互いに平行となるように屈折させる(図1の光線B1、B4及びB7参照)。また、第2レンズ50は、各コアC1乃至C7からの光線を、それぞれ収束する(図1では主光線のみ図示)。
【0024】
MCF60は、MCF20と同一の構成を有する。即ち、MCF60は円柱状であり、軸線方向に沿って延在している7つのコア(図示省略)と、これらのコアを取り囲む共通のクラッド(図示省略)と、を備える。MCF60は、シングルモード光ファイバである。MCF60の少なくとも-z軸方向の端部における中心軸線は、第2レンズ50の中心軸と一致している。MCF60の-z軸方向の端部は、円筒状のフェルール62に挿通されて保持されている。MCF60の端面60aは、フェルール62に挿通された状態でその端面62aとともに一括して研磨されている。これにより、MCF60の端面60aとフェルール62の端面62aは、同一平面(xy平面)上に位置している。図1では、フェルール62内のMCF60を破線で示している。
【0025】
MCF60の端面60aは、各コアC1乃至C7からの光線がそれぞれ収束する位置に位置している。これにより、第2レンズ50から出射された各コアC1乃至C7からの光線は、MCF60の対応する各コアに低損失で入射する。即ち、MCF20とMCF60は、光フィルタ40を介して、第1レンズ30と第2レンズ50により、光学的に結合している。なお、光フィルタ40とMCF60との間に配置されるレンズは、第2レンズ50に限られず、例えば、球面レンズ又はGRINレンズであってもよい。また、MCF20が、異なるコア数及び/又はコア配置の別のMCFに交換された場合、MCF60も、交換後のMCFと同数のコア数及びコア配置を有する別のMCFに交換されることが好ましい。更に、MCF60は、第2レンズ50からの出射光を受光する受光部材として機能するが、受光部材はマルチコア光ファイバに限られない。例えば、受光部材は、各コアが個別のクラッドで取り囲まれているシングルモード・シングルコア光ファイバを、MCF20のコア数(図1の例では7つ)と同数だけ備えるシングルコア光ファイバ群であってもよい。
以上が光フィルタデバイス10の構成に関する説明である。
【0026】
このような光フィルタデバイス10において、光フィルタ40を回転軸r1周りに回転させると、反射戻り光は低減できるものの、MCF20の各コアC1乃至C7からの光線の透過スペクトルのばらつき(特に、ばらつきの最大値)が増大し、任意の或る波長における透過損失のばらつきが増大することにより、MCF60により光信号を適切に伝送できない可能性がある。これは、光フィルタ40を回転させることにより各コアC1乃至C7からの光線の光フィルタ40への入射角度αのばらつきが増大することが原因であると考えられる。
【0027】
図3を参照して具体的に説明する。図3は、光フィルタ40に入射する各主光線B4、B1及びB7の入射角度α(α1,α2,α3)を示した図である(角度θについては後述)。なお、図3では、光フィルタ40を透過してその出射面40bから出射される主光線の図示は省略している。図3に示すように、光フィルタ40が回転軸r1周りに反時計回りに回転角度η(η>0)だけ回転されている場合、光フィルタ40の法線Nが軸線A1から反時計回りに角度ηだけ回転移動する。これにより、主光線B4(コアC4からの光線)の入射角度α1が角度ηと等しくなり(α1=η)、主光線B1(コアC1からの光線)の入射角度α2が入射角度α1より大きくなり(α2>α1)、主光線B7(コアC7からの光線)の入射角度α3が入射角度α1より小さくなる(α3<α1)。これに対し、光フィルタ40が回転されていない(即ち、入射面40aがxy平面と平行である)場合、入射角度α2と入射角度α3は、コアC1とコアC7のコアC4に関する対称性により、互いに等しい(α2=α3)。即ち、光フィルタ40が回転されると、入射角度α2と入射角度α3とのばらつきが大きくなる。コアC2、C3、C5及びC6からの光線の入射角度αについても同様のばらつきが生じると考えられる。
【0028】
そこで、本願発明者らは、光フィルタ40に入射する光線の入射角度αと、当該光線の透過スペクトルの波長シフト量Δλ(後述)と、の関係を調べることにより、透過スペクトルのばらつきの最大値を低減できるMCF20(及び後述するMCF120、220)の周方向の向きを検討した。以下、詳細に説明する。
【0029】
図4は、入射角度αと波長シフト量Δλの関係を調べるために準備された光フィルタ40の平面図である。光フィルタ40の入射面40aには、軸線A2に沿って光線Rが入射する。光線Rは、光フィルタ40を透過して出射面40bから出射される。光フィルタ40は、軸線A2と直交する面に対して回転軸r1周りに回転角度ηだけ回転可能となっている。これにより、光線Rの入射角度αは、回転角度ηと等しくなる。本願発明者らは、回転角度ηを-2.5°≦η≦2.5°の範囲で0.5°刻みで変化させたとき(別言すれば、光線Rの入射角度αを-2.5°≦α≦2.5°の範囲で0.5°刻みで変化させたとき)の光フィルタ40から出射される光線Rの透過損失を測定した。
【0030】
図5は、上記測定に基づく透過損失特性を表したグラフである。グラフ中の実線L1は、入射角度α=0°の光線Rの透過スペクトルを示し、実線L2及びL3は、それぞれ入射角度α=0.5°及び-0.5°の光線Rの透過スペクトルを示し、実線L4及びL5は、それぞれ入射角度α=1°及び-1°の光線Rの透過スペクトルを示し、実線L6及びL7は、それぞれ入射角度α=1.5°及び-1.5°の光線Rの透過スペクトルを示し、実線L8及びL9は、それぞれ入射角度α=2°及び-2°の光線Rの透過スペクトルを示し、実線L10及びL11は、それぞれ入射角度α=2.5°及び-2.5°の光線Rの透過スペクトルを示す。なお、透過スペクトルL2及びL3は実質的に同一であり重畳して図示されている。
【0031】
図5に示すように、入射角度αの大きさ(絶対値)が等しい場合、透過スペクトルの振る舞いは類似している(例えば、実線L10と実線L11)。また、透過スペクトルL2乃至L11は、何れも透過スペクトルL1から短波長側にシフトしており、そのシフト量は、入射角度αの大きさが大きくなるほど増大している。以下では、透過損失が3dB(即ち、透過率50%)のときに透過スペクトルL2乃至L11が透過スペクトルL1からシフトしている波長のシフト量を、「波長シフト量Δλ」と規定する。即ち、波長シフト量Δλは、「透過損失が3dBのときにおける、入射角度αの光線の透過スペクトルの、入射角度0°の光線の透過スペクトルからの波長のシフト量」である。
【0032】
図6は、入射角度αと波長シフト量Δλとの関係を規定したグラフである。グラフ中の11個の実測値は、図5のグラフに基づいてプロットされた値である。また、入射角度αと波長シフト量Δλとの関係を以下の解析式(1)に基づいて計算した結果も示している。ここで、解析式(1)は以下の文献を参照して導出した。
小檜山光信著、「光学薄膜フィルターデザイン」、第1版、株式会社オプトロニクス社、2006年、p.301-346

【数1】
【0033】
ここで、解析式(1)中のλは入射角度α=0°のときのカットオフ波長(=1522.4nm)、nは空気中の屈折率(=1.0)、nは光フィルタ40の屈折率を表す。nは、解析値を実測値にフィッティングさせるため、n=1.65に設定している。図6のグラフによれば、解析式(1)は、実測値の振る舞いとよく一致している。このため、以下の検討では、解析式(1)に基づいて波長シフト量Δλを算出することとする。また、解析式(1)によれば、波長シフト量Δλは、入射角度αの大きさが大きくなるほど増大している。
【0034】
なお、この例では、波長シフト量Δλは、透過損失が3dBのときの波長のシフト量として規定されるが、これに限られない。例えば、波長シフト量Δλは、透過損失が2dB、4dB又は5dBのときの波長のシフト量として規定されてもよい。これは、図5に示すように、透過損失が少なくとも2dBから5dBの範囲では、透過スペクトル1乃至11は互いに略平行であるため、各透過スペクトル2乃至11の波長のシフト量は、透過損失が3dBのときの波長シフト量Δλと略同一であるから(即ち、解析式(1)とよく一致するから)である。
【0035】
ところで、入射角度αは、「光フィルタ40の回転角度η」と、「第1レンズ30から出射された光線が軸線A1と鋭角に成す光線角度θ(図3参照)」と、「各周辺コアC1乃至C3並びにC5乃至C7の角度φ(後述)」と、から導出可能である。図7A及び図7Bを参照して説明する。図7Aは、直交座標系における入射角度α、回転角度η、光線角度θ及び角度φの関係を示した図であり、図7Bは、MCF20の端面20aを示した図である。図7Bに示すように、任意の周辺コアの角度φは、偏角として規定される。偏角は、x軸の正の部分から、任意の周辺コアの中心と原点とを結ぶ線分までの角度である。図7Bの例では、周辺コアC1、C2、C5、C7、C6及びC3の角度φは、それぞれ0°、60°、120°、180°、240°及び300°である。中心コアC4については、角度φは定義されない。なお、図7Aでは、角度φを、+z軸方向から見てx軸の「負」の部分から反時計回りに増加する角度として図示している。これは、MCF20の各周辺コアC1乃至C3並びにC5乃至C7からの光線が第1レンズ30により屈折するためである。
【0036】
図7AのベクトルBは、任意のコアC1乃至C7から第1レンズ30を介して進行する光線を表す光線ベクトルである。原点から角度φの方向に延びる半直線を半直線bと規定すると、光線ベクトルBは、半直線bとz軸とを通る平面上に位置しており、+z軸方向に延びる単位ベクトルez(図示省略)と光線角度θを成している。このため、光線ベクトルBは、以下の式(2)として表記され得る。
【数2】
【0037】
図7AのベクトルNは、光フィルタ40の出射面40bからの法線ベクトルである。法線ベクトルNは、zx平面上に位置しており、単位ベクトルezと回転角度ηを成している。なお、図7Aでは、法線ベクトルNを出射面40bからの法線ベクトルとして規定しており、図3及び図4に示した法線Nの方向と逆になっているが、これは、+z軸方向に延びる単位ベクトルezとの角度を回転角度ηとして規定するほうが説明し易いからであり、図3及び図4に示す回転角度ηと同一の値を有することに注意されたい。法線ベクトルNは、以下の式(3)として表記され得る。
【数3】
【0038】
入射角度αは、光線ベクトルB(式(2))と法線ベクトルN(式(3))とが成す角度である。このため、内積の定義により、入射角度αは、以下の式(4)として導出され得る。
【数4】
【0039】
なお、中心コアC4からの光線の光線角度θは0°であるため、中心コアC4からの光線の入射角度αを算出する場合、式(4)中の括弧内の第2項の値は0となる(sinθの値が0となるため)。即ち、この場合、式(4)には角度φが含まれなくなる。従って、中心コアC4について角度φが定義されていなくても特段の問題はなく、式(4)を用いて中心コアC4からの光線の入射角度αを適切に算出することができる。
【0040】
以上より、各コアC1乃至C7からの光線の光フィルタ40への入射角度αは、光フィルタ40の回転角度η、当該光線の光線角度θ、及び、当該光線に対応するコアの角度φから算出され得ることが分かる。入射角度αが算出されることにより、式(1)を用いて波長シフト量Δλが算出され得る。本願発明者らは、様々なコア数及びコア配置を有するMCFを光フィルタデバイス10に適用して、式(4)及び式(1)を用いて、透過スペクトルのばらつきの最大値を低減できる周方向の向きを検討した。
【0041】
図8A乃至図8Cは、検討に用いられたMCFの端面を示す図である。図8AのMCFは、MCF20である。MCF20の構成は図2を用いて説明したため、詳細な説明は省略する。中心コアC4からの光線の光線角度θは、0°である。周辺コアC1乃至C3並びにC5乃至C7からの光線の光線角度θは、中心コアC4からの光線に関する対称性により互いに等しく、それぞれ0.87°である(図1参照)。また、回転角度ηは2.9°に設定されている。これは、図8B及び図8Cの例においても同様である。なお、周辺コアC1乃至C3並びにC5乃至C7は、「最外周コア」の一例に相当する。
【0042】
図8BのMCFは、MCF20とコア数及びコア配置のみが異なるMCF120である。MCF120は、第1コアとしての4つのコアC1乃至C4と、これらのコアC1乃至C4を取り囲む共通のクラッド121と、を備える。コアC1乃至C4は、端面120aの中心を中心とする正方形の頂点に位置している。即ち、コアC1乃至C4は「周辺コア」である。コアピッチは50μmである。コアC1乃至C4からの光線の光線角度θは、MCF120の中心軸線に関する対称性により互いに等しく、それぞれ0.81°である。なお、コアC1乃至C4は、「最外周コア」の一例に相当する。
【0043】
図8CのMCFは、MCF120とコア配置のみが異なるMCF220である。MCF220は、第1コアとしての4つのコアC1乃至C4と、これらのコアC1乃至C4を取り囲む共通のクラッド221と、を備える。コアC1乃至コアC4は、端面220aの中心を中心として2回対称となるように直線状に配置されている。即ち、コアC1乃至C4は「周辺コア」である。コアピッチは50μmである。コアC1及びC4からの光線の光線角度θは、MCF220の中心軸線に関する対称性により互いに等しく、それぞれ1.7°である。コアC2及びC3からの光線の光線角度θは、MCF220の中心軸線に関する対称性により互いに等しく、それぞれ0.57°である。
【0044】
図9Aは、MCF20(図8A参照)の周方向の向きを、コアC1、C4及びC7を通る直線が、基準軸としてのy軸(即ち、軸線A1を通り、回転軸r1と平行な軸)と直交するように設定したときの端面20aを示す図である。以下、このような向きを「直交型」とも称する。ここで、y軸から-x軸方向に最も離間しているコアを「第1離間コア」と規定し、y軸から+x軸方向に最も離間しているコアを「第2離間コア」と規定すると、この例では、第1離間コアはコアC7であり、第2離間コアはコアC1である。また、「y軸から第1離間コアまでの距離」と「y軸から第2離間コアまでの距離」との和を「離間距離」と規定すると、この例では、離間距離は75μmである。なお、-x軸方向は、直交軸としてのx軸に沿ってy軸に対して一方の側に向かう「第1直交方向」の一例に相当し、+x軸方向は、x軸に沿ってy軸に対して他方の側に向かう「第2直交方向」の一例に相当する。本実施形態では、回転軸r1も軸線A1を通る軸であるため、基準軸として回転軸r1が用いられてもよい。
【0045】
図9Bは、MCF20が直交型に設定されているときの各コアC1乃至C7からの光線の入射角度αと波長シフト量Δλとの関係を規定したグラフである。入射角度αは、式(4)から算出され、波長シフト量Δλは、式(1)から算出され得る。例えば、コアC7からの光線の波長シフト量Δλは、まず、η=2.9°、θ=0.87°及びφ=180°を式(4)に代入することにより入射角度αを算出し、次いで、当該入射角度αを上述した他の物理量とともに式(1)に代入することにより算出され得る。なお、グラフ中の破線70は、解析式(1)を表す。
【0046】
図9Bのグラフによれば、第1離間コアC7からの光線の入射角度αが最小となり、第2離間コアC1からの光線の入射角度αが最大となっている。このため、第1離間コアC7からの光線の波長シフト量Δλが最小となり、第2離間コアC1からの光線の波長シフト量Δλが最大となっている。透過スペクトルのばらつきの最大値は、波長シフト量Δλの最小値Δλminと最大値Δλmaxとの差分に等しい。以下では、この差分(Δλmax-Δλmin)を、「透過スペクトルのばらつきの最大値Dmax」、若しくは、単に「ばらつきの最大値Dmax」又は「Dmax」と称する。MCF20が直交型に設定されているときの透過スペクトルのばらつきの最大値Dmaxは、0.87nmであった。なお、中心コアC4からの光線の入射角αは、回転角度ηに等しい(図3及び図4参照)。このため、図9Bのグラフによれば、中心コアC4からの光線の入射角αは2.9°となっている。図10Bについても同様である。
【0047】
図10Aは、MCF20の周方向の向きを、コアC1、C4及びC7を通る直線が、y軸と平行となるように設定したときの端面20aを示す図である。以下、このような向きを「平行型」とも称する。この例では、第1離間コアはコアC2及びC5であり、第2離間コアはコアC3及びC6である。また、離間距離は65μmである。
【0048】
図10Bは、MCF20が平行型に設定されているときの各コアC1乃至C7からの光線の入射角度αと波長シフト量Δλとの関係を規定したグラフである。図10Bのグラフによれば、第1離間コアC2及びC5からの光線の入射角度αが最小となり、第2離間コアC3及びC6からの光線の入射角度αが最大となっている。このため、第1離間コアC2及びC5からの光線の波長シフト量Δλが最小となり、第2離間コアC3及びC6からの光線の波長シフト量Δλが最大となっている。MCF20が平行型に設定されているときの透過スペクトルのばらつきの最大値Dmaxは、0.75nmであった。
【0049】
図9A乃至図10Bによれば、平行型のときの離間距離(65μm)のほうが、直交型のときの離間距離(75μm)よりも短い。また、平行型のときの入射角度αのばらつきのほうが直交型のときの入射角度αのばらつきよりも小さいため、平行型のときのほうが波長シフト量Δλのばらつき(即ち、Dmax)が小さい。
【0050】
以上より、x軸方向におけるコアの位置と、入射角度αとの間には相関があることが分かる。より具体的には、離間距離が短くなるほど、入射角度αのばらつきが小さくなり、結果として、波長シフト量Δλのばらつき(Δλmax-Δλmin)を低減できる、つまり、透過スペクトルのばらつきの最大値Dmaxを低減できることが分かる。直交型は、離間距離が最大になる(即ち、Dmaxが最大になる)ときのMCF20の周方向の向きであり、平行型は、離間距離が最小になる(即ち、Dmaxが最小になる)ときのMCF20の周方向の向きである。平行型のときのDmax(0.75nm)は、直交型のときのDmax(0.87nm)に比べて約13%小さい。これは、MCF20の周方向の向きを平行型に設定することにより、Dmaxを最大で約13%低減できることを意味する。
【0051】
また、図9A及び図10Aによれば、周辺コアC1乃至C3並びにC5乃至C7は、MCF20が直交型及び平行型の何れに設定されている場合においても、y軸に関して線対称である。しかしながら、MCF20が直交型に設定されている場合は、6つの周辺コア(コアC1乃至C3並びにC5乃至C7)のうち2つの周辺コア(コアC1及びC7)がx軸上に位置しているのに対し、MCF20が平行型に設定されている場合は、何れの周辺コアもx軸上に位置していない。このことから、離間距離が最小になる(即ち、Dmaxが最小になる)ときのMCF20の周方向の向きは、以下のように規定することもできる。即ち、「周辺コアがMCFの端面の中心を中心とする正六角形の頂点に位置するコア配置」を有するMCF(MCF20)において、周辺コアがy軸に関して線対称である2つの型(直交型、平行型)のうち、周辺コアがx軸上に位置していないほうの型(平行型)にMCFを設定することにより、離間距離を最小にすることができる。
【0052】
図11Aは、MCF120(図8B参照)の周方向の向きを、コアC2とコアC4とを通る直線が、y軸と直交するように設定したときの端面120aを示す図である。以下、このような向きを「対角線型」とも称する。この例では、第1離間コアはコアC2であり、第2離間コアはコアC4である。また、離間距離は71μmである。
【0053】
図11Bは、MCF120が対角線型に設定されているときの各コアC1乃至C4からの光線の入射角度αと波長シフト量Δλとの関係を規定したグラフである。図11Bのグラフによれば、第1離間コアC2からの光線の入射角度α及び波長シフト量Δλが最小となり、第2離間コアC4からの光線の入射角度α及び波長シフト量Δλが最大となっている。MCF120が対角線型に設定されているときの透過スペクトルのばらつきの最大値Dmaxは、0.81nmであった。
【0054】
図12Aは、MCF120の周方向の向きを、コアC2とコアC3(又はコアC1とコアC4)とを通る直線が、y軸と平行となるように設定したときの端面120aを示す図である。以下、このような向きを「平行型」とも称する。この例では、第1離間コアはコアC2及びC3であり、第2離間コアはコアC1及びC4である。また、離間距離は50μmである。
【0055】
図12Bは、MCF120が平行型に設定されているときの各コアC1乃至C4からの光線の入射角度αと波長シフト量Δλとの関係を規定したグラフである。図12Bのグラフによれば、第1離間コアC2及びC3からの光線の入射角度α及び波長シフト量Δλが最小となり、第2離間コアC1及びC4からの光線の入射角度α及び波長シフト量Δλが最大となっている。MCF120が平行型に設定されているときの透過スペクトルのばらつきの最大値Dmaxは、0.57nmであった。
【0056】
図11A乃至図12Bによれば、平行型のときの離間距離(50μm)のほうが、対角線型の離間距離(71μm)よりも短い。また、平行型の入射角度αのばらつきのほうが対角線型の入射角度αのばらつきよりも小さいため、平行型のときのほうが波長シフト量Δλのばらつき(即ち、Dmax)が小さい。
【0057】
以上より、MCF20の場合と同様に、離間距離が短くなるほど、入射角度αのばらつきが小さくなり、結果として、透過スペクトルのばらつきの最大値Dmaxを低減できることが分かる。対角線型は、離間距離が最大になるときのMCF120の周方向の向きであり、平行型は、離間距離が最小になるときのMCF120の周方向の向きである。平行型のときのDmax(0.53nm)は、対角線型のときのDmax(0.81nm)に比べて約29%小さい。これは、MCF120の周方向の向きを平行型に設定することにより、Dmaxを最大で約29%低減できることを意味する。
【0058】
また、図11A及び図12Aによれば、周辺コアC1乃至C4は、MCF120が対角線型及び平行型の何れに設定されている場合においても、y軸に関して線対称である。しかしながら、MCF120が対角線型に設定されている場合は、4つの周辺コア(コアC1乃至C4)のうち2つの周辺コア(コアC2及びC4)がx軸上に位置しているのに対し、MCF120が平行型に設定されている場合は、何れの周辺コアもx軸上に位置していない。このことから、離間距離が最小になるときのMCF120の周方向の向きは、MCF20の場合と同様に、以下のように規定することもできる。即ち、「周辺コアがMCFの端面の中心を中心とする正方形の頂点に位置するコア配置」を有するMCF(MCF120)において、周辺コアがy軸に関して線対称である2つの型(対角線型、平行型)のうち、周辺コアがx軸上に位置していないほうの型(平行型)にMCFを設定することにより、離間距離を最小にすることができる。
【0059】
図13Aは、MCF220(図8C参照)の周方向の向きを、コアC1乃至C4を通る直線が、y軸と直交するように設定したときの端面220aを示す図である。以下、このような向きを「直交型」とも称する。この例では、第1離間コアはコアC1であり、第2離間コアはコアC4である。また、離間距離は150μmである。
【0060】
図13Bは、MCF220が直交型に設定されているときの各コアC1乃至C4からの光線の入射角度αと波長シフト量Δλとの関係を規定したグラフである。図13Bのグラフによれば、第1離間コアC1からの光線の入射角度α及び波長シフト量Δλが最小となり、第2離間コアC4からの光線の入射角度α及び波長シフト量Δλが最大となっている。MCF220が直交型に設定されているときの透過スペクトルのばらつきの最大値Dmaxは、1.7nmであった。
【0061】
図14Aは、MCF220の周方向の向きを、コアC1乃至C4を通る直線が、y軸と平行となるように設定したときの端面220aを示す図である。以下、このような向きを「平行型」とも称する。平行型の場合、コアC1乃至C4はy軸に沿って配置されているため、コアC1乃至C4は、第1離間コアであるとともに第2離間コアでもある。従って、離間距離は0μmである。
【0062】
図14Bは、MCF220が平行型に設定されているときの各コアC1乃至C4からの光線の入射角度αと波長シフト量Δλとの関係を規定したグラフである。図14Bのグラフによれば、コアC2及びC3(即ち、軸線A1(z軸)に近いほうのコア)からの光線の入射角度α及び波長シフト量Δλが最小となり、コアC1及びC4(即ち、軸線A1から遠いほうのコア)からの光線の入射角度α及び波長シフト量Δλが最大となっている。MCF220が平行型に設定されているときの透過スペクトルのばらつきの最大値Dmaxは、0.23nmであった。
【0063】
図13A乃至図14Bによれば、平行型のときの離間距離(0μm)のほうが、直交型のときの離間距離(150μm)よりも短い。また、平行型の入射角度αのばらつきのほうが直交型の入射角度αのばらつきよりも小さいため、平行型のときのほうが波長シフト量Δλのばらつき(即ち、Dmax)が小さい。
【0064】
以上より、MCF20及びMCF120の場合と同様に、離間距離が短くなるほど、入射角度αのばらつきが小さくなり、結果として、透過スペクトルのばらつきの最大値Dmaxを低減できることが分かる。直交型は、離間距離が最大になるときのMCF220の周方向の向きであり、平行型は、離間距離が最小になるときのMCF220の周方向の向きである。平行型のときのDmax(0.23nm)は、直交型のときのDmax(1.7nm)に比べて約87%小さい。これは、MCF220の周方向の向きを平行型に設定することにより、Dmaxを最大で約87%低減できることを意味する。
【0065】
また、図13A及び図14Aによれば、周辺コアC1乃至C4は、MCF220が直交型及び平行型の何れに設定されている場合においても、y軸に関して線対称である。しかしながら、MCF220が直交型に設定されている場合は、4つの周辺コア(コアC1乃至C4)の全てがx軸上に位置しているのに対し、MCF220が平行型に設定されている場合は、何れの周辺コアもx軸上に位置していない。このことから、離間距離が最小になるときのMCF220の周方向の向きは、MCF20及び120の場合と同様に、以下のように規定することもできる。即ち、「周辺コアがMCFの端面の中心を通る直線に沿って配置されたコア配置」を有するMCF(MCF220)において、周辺コアがy軸に関して線対称である2つの型(直交型、平行型)のうち、周辺コアがx軸上に位置していないほうの型(平行型)にMCFを設定することにより、離間距離を最小にすることができる。
【0066】
上記の検討結果によれば、光フィルタデバイス10にMCF20、120又は220を適用する場合、これらの周方向の向きは、何れも平行型に設定することが望ましい。これにより、MCF20、120及び220の離間距離が最小となるため、各コアからの光線の光フィルタ40への入射角度αのばらつきを最小限に留めることができる。従って、各コアからの光線の透過スペクトルのばらつきの最大値Dmaxを最小限に留めることができ、任意の或る波長におけるこれらの光線の透過損失にばらつきが生じることを最大限に抑制できる。結果として、反射戻り光を低減しつつ、光信号を適切に伝送することができる。
【0067】
なお、MCFが「周辺コアがMCFの端面の中心を中心とする正多角形の頂点に位置しているコア配置」を有する場合、MCFは、当該周辺コアよりも径方向内側に1又は複数の別の周辺コアを内周コアとして有していてもよい。内周コアは、対称関係を有している必要はなく、どのように配置されていてもよい。これは、ばらつきの最大値Dmaxを最小限に留めるためには離間距離を最小とすればよく、離間距離は、内周コアのコア配置には関係なく(影響を受けずに)決定される値だからである。
【0068】
なお、MCFのコア数及びコア配置は、図8A乃至図8Cに挙げた例に限られない。また、MCFのコア配置は、MCFの端面の中心に関して対称性を有していなくてもよい。別言すれば、第1離間コアと第2離間コアは、互いにy軸方向にずれていてもよいし、y軸から第1離間コアまでの距離は、y軸から第2離間コアまでの距離と異なっていてもよい。このような場合においても、離間距離が最小となるようにMCFの周方向の向きを設定することにより、入射角度αのばらつきを最小限に留めることができるため、上述した効果を奏することができる。
【0069】
更に、光フィルタ40は、回転角度ηが負の値を有するように回転されてもよい。この場合においても、離間距離が最小となるようにMCFの周方向の向きを設定することにより、上述した効果を奏することができる。
【0070】
(第2実施形態)
図15は、本発明の第2実施形態に係る光フィルタデバイス310の一例を示す平面図である。本実施形態では、第1実施形態と同一の部材については同一の符号を付し、第1実施形態と同様の構成についてはその詳細な説明を省略する。図15に示すように、光フィルタデバイス310は、MCF20及びフェルール22の代わりにMCF320及びフェルール322を備え、MCF60及びフェルール62の代わりにMCF360及びフェルール362を備える点で光フィルタデバイス10と相違している。また、第2レンズ50の位置が、光フィルタデバイス10におけるそれらの位置と相違している。
【0071】
図15に示すように、MCF320の端面320aは、xy平面に対して所定の傾斜方向に所定の研磨角度(例えば、8°)だけ傾斜するように斜めに研磨(斜研磨)されている。これにより、端面320aにおける反射戻り光を低減している。端面320aは、これに垂直な方向から見ると楕円形状となっている。以下では、端面320aの長軸(斜研磨基準軸の一例)に沿って、光フィルタ40からより離間している遠位端からより近接している近位端に向かう方向を、端面320aの中心軸線に沿って見たときの方向を、「斜研磨方向」と規定する。
【0072】
図16は、端面320aを示す図である。図16の実線の矢印81は、端面320aの斜研磨方向を示し、破線の矢印80は、後述する斜研磨角度の算出基準となる基準方向を示す。図16に示すように、基準方向80は、+y軸方向に沿って延びている。以下では、任意の或る斜研磨方向が、基準方向80から反時計回りに成す角を、「正の値を有する斜研磨回転角度Ψ」と規定する。この例では、斜研磨方向81は、基準方向80から反時計回りに270°の角度を成しているため、斜研磨方向81の斜研磨回転角度Ψは270°(別言すれば、-90°)となる。
【0073】
図15に示すように、MCF320の+z軸方向の端部は、円筒状のフェルール322に挿通されて保持されている。MCF320の端面320aは、フェルール322の端面322aとともに一括して斜研磨されている。但し、フェルール322の端面322aの斜研磨方向81における端部322a1は斜研磨されておらず、xy平面と平行となっている。端部322a1は、いわゆる研磨代(けんましろ)である。
【0074】
MCF320は、7つのコアC1乃至C7と、これらのコアC1乃至C7を取り囲む共通のクラッド321と、を備える。MCF320は、MCF20と同様のコア配置を有する。また、MCF320の周方向の向きは、平行型(即ち、離間距離が最小となる向き)となるように設定されている。
【0075】
MCF320の各コアC1乃至C7を伝搬してきた光線は、端面320aから第1レンズ30に向けて出射される。図15では、コアC3、C4及びC2(図16参照)から出射される光線の主光線B3、B4及びB2のみをそれぞれ図示している。主光線B3、B4及びB2は、斜研磨方向81側(この例では、+x軸方向側)に傾斜して進行するため、軸線A1に対して傾斜している。
【0076】
第1レンズ30は、端面320aにおける中心コアC4の中心から焦点距離だけ+z軸方向に離間した位置に配置されている。このため、第1レンズ30から出射された主光線B4は、軸線A1と平行である。第1レンズ30は、各コアC1乃至C7からの光線をコリメートして集光する。
【0077】
光フィルタ40は、第1レンズ30からの出射光の集光点が入射面40a上に位置するように配置されている。入射面40aに入射した光線は、光フィルタ40を透過して出射面40bから出射される。光フィルタ40は、光線が入射面40a上で集光する位置に、y軸方向に延びる回転軸r2を有する。光フィルタ40は、xy平面と平行となる位置から、回転軸r2周りに回転角度ηだけ回転されている。これにより、反射戻り光を低減している。なお、光フィルタ40から出射された主光線B4は、軸線A1と平行である。
【0078】
第2レンズ50は、その中心軸が軸線A1と一致するように配置されている。第2レンズ50は、光フィルタ40から出射された各コアC1乃至C7からの光線を、これらの主光線が互いに平行となるように屈折させる(図15の光線B3、B4及びB2参照)。また、第2レンズ50は、各コアC1乃至C7からの光線を、それぞれ収束する(図15では主光線のみ図示)。
【0079】
MCF360は、MCF320と同一の構成を有する。MCF360の-z軸方向の端部は、円筒状のフェルール362に挿通されて保持されている。MCF360の端面360aは、フェルール362の端面362aとともに一括して斜研磨されている。これにより、端面360aにおける反射戻り光を低減している。フェルール362の端面362aは、斜研磨方向における端部362a1に研磨代を有する。MCF360は、x軸に関してMCF320と線対称の関係にある。
【0080】
第2レンズ50及びMCF360は、第2レンズから出射された各コアC1乃至C7からの光線がそれぞれ収束する位置に端面360aが位置するように互いの位置関係が決定されている。
以上が光フィルタデバイス310の構成に関する説明である。
【0081】
本願発明者らは、周方向の向きが平行型に設定された後述する2種類のMCFを光フィルタデバイス310に適用して、斜研磨回転角度Ψを0°≦Ψ≦360°の範囲で変化させることにより、斜研磨回転角度Ψと、透過スペクトルのばらつきの最大値Dmaxとの関係について考察した。
【0082】
図17A及び図17Bは、考察に用いられたMCFの端面を示す図である。図17AのMCFは、MCF320である。MCF320の構成は図16を用いて説明したため、詳細な説明は省略する。斜研磨方向82は、基準方向80(図示省略)から反時計回りに360°回転可能となっている。中心コアC4からの光線の光線角度θは0°である(図15参照)。周辺コアC1乃至C3並びにC5乃至C7からの光線の光線角度θの平均値は0.87°である。この例では、回転角度ηはη=±2.9°及び±1.8°の4通りに設定される。
【0083】
図17BのMCFは、MCF320とコア数及びコア配置のみが異なるMCF420である。MCF420は、4つのコアC1乃至C4と、これらのコアC1乃至C4を取り囲む共通のクラッド421と、を備える。MCF420は、MCF220と同様のコア配置を有する。斜研磨方向83は、基準方向80(図示省略)から反時計回りに360°回転可能となっている。コアC1及びC4からの光線の光線角度θは、それぞれ1.7°である。コアC2及びC3からの光線の光線角度θは、それぞれ0.57°である。この例では、回転角度ηは2.9°に設定される。
【0084】
図18は、回転角度η=2.9°の場合における、光フィルタ40と斜研磨されたMCF320(図17A参照)との相対位置関係の一例を示す図である。この例では、MCF320の端面320aは、斜研磨回転角度Ψが90°となるように斜研磨されている。図18では、光フィルタ40を透過して出射面40bから出射される光線の図示は省略している。図20についても同様である。
【0085】
図19は、図18に示すMCF320の斜研磨回転角度Ψを-180°≦Ψ≦180°の範囲で変化させたときの「斜研磨回転角度Ψ」と「ばらつきの最大値Dmax」との関係を規定したグラフである。グラフ中の実線90は、端面が斜研磨されていないMCF(即ち、第1実施形態の平行型のMCF20(図10A及び図10B参照))が用いられたときのばらつきの最大値Dmaxを示す。なお、図10Bでは、Dmax=0.75nmであったが、これは、有効数字2桁で記載しているためであり、厳密な数値は、実線90に示す通り、0.75nmより僅かに小さい。図19によれば、0°<Ψ<180°のときは、斜研磨されたMCF320のDmaxは、斜研磨されていない平行型のMCF20のDmaxと比較して、同等又はより小さくなっている。
【0086】
図20は、回転角度η=-2.9°の場合における、光フィルタ40と斜研磨されたMCF320との相対位置関係の一例を示す図である。この例では、端面320aは、斜研磨回転角度Ψが-90°となるように斜研磨されている。
【0087】
図21は、図20に示すMCF320の斜研磨回転角度Ψを-180°≦Ψ≦180°の範囲で変化させたときの「斜研磨回転角度Ψ」と「ばらつきの最大値Dmax」との関係を規定したグラフである。図21によれば、-180°<Ψ<0°のときは、斜研磨されたMCF320のDmaxは、斜研磨されていない平行型のMCF20のDmaxと比較して、同等又はより小さくなっている。
【0088】
図22は、図18に示す光フィルタ40の回転角度ηを1.8°に変更し、MCF320の斜研磨回転角度Ψを-180°≦Ψ≦180°の範囲で変化させたときの「斜研磨回転角度Ψ」と「ばらつきの最大値Dmax」との関係を規定したグラフである。グラフ中の実線91は、端面が斜研磨されていないMCF(即ち、第1実施形態の平行型のMCF20)が用いられたときのばらつきの最大値Dmaxを示す。図22によれば、0°<Ψ<180°のときは、斜研磨されたMCF320のDmaxは、斜研磨されていない平行型のMCF20のDmaxと比較して、同等又はより小さくなっている。
【0089】
図23は、図20に示す光フィルタ40の回転角度ηを-1.8°に変更し、MCF320の斜研磨回転角度Ψを-180°≦Ψ≦180°の範囲で変化させたときの「斜研磨回転角度Ψ」と「ばらつきの最大値Dmax」との関係を規定したグラフである。図23によれば、-180°<Ψ<0°のときは、斜研磨されたMCF320のDmaxは、斜研磨されていない平行型のMCF20のDmaxと比較して、同等又はより小さくなっている。
【0090】
以上より、斜研磨回転角度Ψと、ばらつきの最大値Dmaxとの間には、一定の傾向があることが分かる。より具体的には、回転角度ηの大きさが同一で符号が異なる場合、Dmaxの振る舞いは、Ψ=0°に関して互いに線対称となっていることが分かる。また、回転角度ηが正の値を有するとき(図19及び図22参照)は、斜研磨回転角度Ψが0°<Ψ<180°を満たすようにMCF320を斜研磨することにより、ばらつきの最大値Dmaxを同等に維持又はより低減できることが分かる。一方、回転角度ηが負の値を有するとき(図21及び図23参照)は、斜研磨回転角度Ψが-180°<Ψ<0°を満たすようにMCF320を斜研磨することにより、ばらつきの最大値Dmaxを同等に維持又はより低減できることが分かる。
【0091】
これに対し、図24は、回転角度η=2.9°の場合において、MCF420(図17B参照)の斜研磨回転角度Ψを-180°≦Ψ≦180°の範囲で変化させたときの「斜研磨回転角度Ψ」と「ばらつきの最大値Dmax」との関係を規定したグラフである。グラフ中の実線92は、端面が斜研磨されていないMCF(即ち、第1実施形態の平行型のMCF220(図14A及び図14B参照))が用いられたときのばらつきの最大値Dmaxを示す。なお、図14Bでは、Dmax=0.23nmであったが、これは、有効数字2桁で記載しているためであり、厳密な数値は、実線92に示す通り、0.23nmより僅かに小さい。図24によれば、回転角度ηが正の値を有するとき、斜研磨されたMCF420のDmaxは、斜研磨されていない平行型のMCF220のDmaxと比較して大きくなっている。
【0092】
MCF320が用いられた場合におけるDmaxの振る舞いの線対称性によれば、MCF420が用いられた場合における「η=-2.9°のときのDmaxの振る舞い」は、「η=2.9°のときのDmaxの振る舞い(図24参照)」をΨ=0°に関して反転させた振る舞いに等しいと推測される。ここで、図24によれば、η=2.9°のときのDmaxの振る舞いは、Ψ=0°に関して線対称である。このため、MCF420が用いられる場合では、「η=-2.9°のときのDmaxの振る舞い」は、「η=2.9°のときのDmaxの振る舞い」と一致すると推測される。この推測によれば、回転角度ηが負の値を有するときも、斜研磨されたMCF420のDmaxは、斜研磨されていない平行型のMCF220のDmaxと比較して大きくなってしまうと考えられる。別言すれば、MCF420を斜研磨すると、回転角度ηの符号に関わらず、ばらつきの最大値Dmaxが増大してしまうと考えられる。
【0093】
このことから、MCF320のコア配置のように、「離間距離がゼロより大きい」場合には、「η>0のときは、0°<Ψ<180°を満たすようにMCF320を斜研磨し、η<0のときは-180°<Ψ<0°を満たすようにMCF320を斜研磨する」ことにより、斜研磨しない構成と比較してばらつきの最大値Dmaxを同等に維持又はより低減できるものの、MCF420のコア配置のように、「離間距離がゼロである」場合には、このような効果は得られないことが分かる。
【0094】
上記の考察結果によれば、MCFの周方向の向きを、離間距離が最小となるように設定した場合(第1実施形態参照)において、当該距離がゼロより大きいときは、上述したように回転角度ηの符号に応じた斜研磨回転角度Ψの範囲内でMCFを斜研磨することが望ましい。これにより、斜研磨しない構成と比較してばらつきの最大値Dmaxを同等に維持又はより低減できるため、反射戻り光を抑制しつつ、光信号を適切に伝送することができる。一方、離間距離がゼロであるときは、ばらつきの最大値Dmaxを増大させないためにはMCFを斜研磨しないことが望ましい。
【0095】
なお、MCFは、内周コアを有していてもよい。また、MCFのコア数及びコア配置は、図17A及び図17Bに挙げた例に限られない。更に、MCFのコア配置は、MCFの端面の中心に関して対称性を有していなくてもよい。この場合においても、離間距離がゼロより大きいときは、上述した斜研磨方向にMCFを斜研磨することにより、入射角度αのばらつきを更に低減できるため、上述した効果を奏することができる。
【0096】
以上、実施形態に係る光フィルタデバイスについて説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限り、種々の変更が可能である。
【0097】
例えば、光フィルタ40は、短波長透過光フィルタに限られず、特定の波長帯域の光を任意の透過強度で透過させる他の光フィルタ(例えば、長波長透過光フィルタ、帯域透過光フィルタ又は利得等価光フィルタ)であってもよい。光フィルタとして長波長透過光フィルタが用いられる場合、上記解析式(1)のλは、入射角度α=0°のときのカットオン波長を表す。光フィルタとして帯域透過光フィルタが用いられる場合、λは入射角度α=0°のときの中心波長を表す。光フィルタとして利得等価光フィルタが用いられる場合、λは波長プロファイルに応じて適宜設定され得る。
【0098】
また、第2実施形態では、MCFの端面は斜研磨されるため、第1レンズ30から出射された各コアからの光線の光線角度θにばらつきが生じる。従って、MCFを斜研磨方向と反対の方向に所定の距離だけ移動させて光線角度θのばらつきを低減させてもよい。
【0099】
また、光フィルタ40の入射面40aは、第1レンズ30からの出射光の集光点上に位置していなくてもよい。この場合、光フィルタ40の回転軸r1及びr2は、光フィルタ40をy軸方向に貫通する任意の軸として設定され得る。
【0100】
また、MCFは、円柱状に限られず、例えば、軸線と直交する断面が楕円又は多角形である柱状であってもよい。この場合、MCFの斜研磨方向は、「MCFの端面の中心を通り、当該端面と直交し且つ傾斜方向(MCFの端面がxy平面に対して傾斜している方向)と平行な平面」が、当該端面と交差する線分である「斜研磨基準軸」に沿って、光フィルタ40からより離間している遠位端からより近接している近位端に向かう方向を、当該端面の中心軸線に沿って見たときの方向として規定される。
【0101】
更に、上記の実施形態では、MCF60(又はMCF360)は、MCF20(又はMCF320)と同数のコア数及びコア配置を有するが、これに限られない。MCF60(又はMCF360)は、MCF20(又はMCF320)の各コアからの出射光が入射可能なコアを有していれば、MCF20(又はMCF320)と異なるコア数及びコア配置であってもよい。例えば、MCF60(又はMCF360)は、上述した7つのコアに加え、1又は複数のコアを有していてもよい。
同様に、シングルコア光ファイバ群は、MCF20(又はMCF320)の各コアからの出射光が入射可能なシングルモード・シングルコア光ファイバを備えていれば、その数は、MCF20(又はMCF320)のコア数より多くてもよい。
これらの場合、MCF20(又はMCF320)の各コアC1乃至C7からの出射光が入射しないコア又はシングルコア光ファイバが存在することになるが、このような構成であっても、第1実施形態と同一の作用効果を奏することができる。
【0102】
更に、MCF20(又はMCF320)は、マルチモード光ファイバであってもよい。この場合、MCF60(又はMCF360)は、7つ以上のコアを有するマルチモード光ファイバであってもよい。或いは、シングルコア光ファイバ群は、7つ以上のマルチモード・シングルコア光ファイバを備えていてもよい。
【0103】
更に、受光部材としてシングルコア光ファイバ群が用いられる場合、第2レンズ50は、MCF20(又はMCF320)のコア数と同数のレンズを備えるレンズアレイであってもよい。レンズアレイの各レンズは、MCF20(又はMCF320)の対応する各コアからの光線が、対応する各シングルコア光ファイバに入射するように当該光線をそれぞれ収束する。
【0104】
更に、MCF20(又はMCF320)の全てのコアC1乃至C7が光線の伝搬に使用されなくてもよい。例えば、コアC1乃至C4のみが光線の伝搬に使用され、コアC5乃至C7は光線の伝搬に使用されなくてもよい。この場合、MCF60(又はMCF360)は、光線の伝搬に使用されたMCF20(又はMCF320)のコア数以上のコアを有していればよい。即ち、MCF60(又はMCF360)は、必ずしもMCF20(又はMCF320)のコア数と同数以上のコアを有している必要はない。或いは、シングルコア光ファイバ群は、光線の伝搬に使用されたMCF20(又はMCF320)のコア数以上のシングルコア光ファイバを備えていればよい。即ち、シングルコア光ファイバ群は、必ずしもMCF20(又はMCF320)のコア数と同数以上のシングルコア光ファイバを備えている必要はない。
【符号の説明】
【0105】
10:光フィルタデバイス、20,120,220:マルチコア光ファイバ、20a,120a,220a:マルチコア光ファイバの端面、21、121、221:クラッド、22:フェルール、22a:フェルールの端面、30:第1レンズ、40:光フィルタ、40a:入射面、40b:出射面、50:第2レンズ、60:マルチコア光ファイバ、60a:マルチコア光ファイバの端面

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図12A
図12B
図13A
図13B
図14A
図14B
図15
図16
図17A
図17B
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25A
図25B