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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022078780
(43)【公開日】2022-05-25
(54)【発明の名称】積層塗膜及び塗装物
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/20 20060101AFI20220518BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20220518BHJP
   B05D 5/06 20060101ALI20220518BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20220518BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220518BHJP
   C09D 7/41 20180101ALI20220518BHJP
【FI】
B32B27/20 A
B05D1/36 Z
B05D5/06 101A
C09D201/00
C09D7/61
C09D7/41
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020189702
(22)【出願日】2020-11-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山根 貴和
(72)【発明者】
【氏名】岡本 圭一
(72)【発明者】
【氏名】寺本 浩司
(72)【発明者】
【氏名】野中 隆治
(72)【発明者】
【氏名】玉井 一光
(72)【発明者】
【氏名】河瀬 英一
(72)【発明者】
【氏名】藤本 智宏
(72)【発明者】
【氏名】中本 尊元
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4D075CB13
4D075DB01
4D075DB31
4D075DC12
4D075DC13
4D075EA43
4D075EB22
4D075EB32
4D075EB38
4D075EC10
4D075EC11
4D075EC23
4D075EC53
4D075EC54
4F100AA37B
4F100AB10B
4F100AK25B
4F100AK25C
4F100AK36B
4F100AK36C
4F100AK51B
4F100AK51C
4F100AT00A
4F100BA03
4F100BA07
4F100CA13B
4F100CA13C
4F100CC00B
4F100CC00C
4F100EH46B
4F100EH46C
4F100GB32
4F100JK14B
4F100JL10C
4F100JN01C
4F100JN24
4F100YY00B
4F100YY00C
4J038CG141
4J038DA161
4J038DD001
4J038DG001
4J038HA026
4J038HA066
4J038KA08
4J038KA20
4J038NA01
4J038NA19
4J038PA07
4J038PB07
(57)【要約】
【課題】光輝性層と透光性を有する着色層によって赤系の色を出すようにした積層塗膜において、FF性を改善し、意匠性が高い金属調カラーを実現する。
【解決手段】
積層塗膜12は、光輝材21を含有する光輝性層14と、赤系顔料25を含有し透光性を有する着色層15とを備え、光輝性層14は、光の入射角を45゜として、受光角5゜で測定した反射光のXYZ表色系のY値をY(5゜)とし、受光角15゜で測定した反射光のY値をY(15゜)としたとき、Y(5゜)は30以上700以下であり、Y(15゜)はY(5゜)の0.01倍以上0.3倍以下であり、着色層15における赤系着色材の濃度は1質量%以上17質量%以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗物の表面に直接又は間接的に形成された光輝材を含有する光輝性層と、該光輝性層の上に重ねられ赤系着色材を含有し透光性を有する着色層とを備え、
上記光輝性層は、XYZ表色系の標準白色板で校正したY値に関して、光の入射角(光輝性層の表面の垂線からの角度)を45゜として、受光角(正反射方向から光源側への傾き角度)5゜で測定した反射光のY値をY(5゜)とし、受光角15゜で測定した反射光のY値をY(15゜)としたとき、
Y(5゜)が30以上700以下であり、
Y(15゜)=k×Y(5゜)であって(但し、kは係数である。)、kが0.01以上0.3以下であり、
上記着色層における上記赤系着色材の濃度が1質量%以上17質量%以下であることを特徴とする積層塗膜。
【請求項2】
請求項1において、
上記光輝性層は、上記光輝材として、平均粒径が5μm以上30μm以下、平均厚さが10nm以上500nm以下であるアルミフレークを含有し、
上記光輝性層における上記アルミフレークの濃度が1質量%以上17質量%以下であることを特徴とする積層塗膜。
【請求項3】
請求項2において、
上記アルミフレークの表面粗さRaが50nm以下であることを特徴とする積層塗膜。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一において、
上記着色層における上記赤系着色材の濃度が4質量%以上10質量%以下であることを特徴とする積層塗膜。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一において、
上記着色層は、上記赤系着色材として赤系顔料を含有し、
上記光輝性層に上記着色層が積層された状態で光の入射角45゜及び受光角15゜で測定した分光反射率を、上記着色層が除かれて上記光輝性層表面を露出させた状態で光の入射角45゜及び受光角15゜で測定した分光反射率で除することで得られる当該着色層の絶対値表示の分光透過率スペクトルの620nmでの接線の傾きが0.02nm-1以上0.06nm-1以下であることを特徴とする積層塗膜。
【請求項6】
請求項5において、
上記赤系顔料の平均粒径が2nm以上160nm以下であることを特徴とする積層塗膜。
【請求項7】
請求項5又は請求項6において、
上記接線の傾きが0.03nm-1以上0.06nm-1以下であることを特徴とする積層塗膜。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか一において、
上記着色層は、さらに黒系着色材を含有することを特徴とする積層塗膜。
【請求項9】
請求項8において、
上記着色層における上記黒系着色材の濃度は、6質量%以下であることを特徴とする積層塗膜。
【請求項10】
請求項8又は請求項9において、
上記赤系着色材と上記黒系着色材との総計に対する上記黒系着色材の割合は、26質量%以下であることを特徴とする積層塗膜。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれか一の積層塗膜を備えていることを特徴とする塗装物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光輝材を含有する光輝性層(メタリックベース層)の上に、顔料を含有し透光性を有する着色層(カラークリヤ層)を備えた積層塗膜、及び該積層塗膜を備えた塗装物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の高い意匠性が求められる被塗物については、ハイライトの彩度が高く、且つ強い深みを有する塗色を得ることが要望されている。
【0003】
特許文献1には、自動車関連部材等に有用な成形用積層シートに関し、深み感のある意匠を得ることが記載されている。それは、金属光沢層の上に着色層を重ねた積層シートにおいて、着色層の透過光の明度Lを20~80とし、金属光沢層の光沢値を200以上とし、45度の正反射光の彩度Cを150以上にするというものである。同文献には、金属光沢層にアルミフレークを添加すること、並びに着色層の顔料としてペリレンレッドを採用することも記載されている。
【0004】
特許文献2には、被塗物の表面に直接又は間接的に形成された光輝材を含有する光輝性層と該光輝性層の上に重ねられ暖色系顔料を含有し透光性を有する着色層によって暖色系の色を出すようにした積層塗膜において、FF性を改善し、意匠性が高い金属調カラーを実現することが記載されている。それは、上記積層塗膜において、光輝性層を、XYZ表色系の標準白色板で校正したY値に関して、光の入射角を45゜として、受光角10゜で測定した反射光のY値をY(10゜)とし、受光角25゜で測定した反射光のY値をY(25゜)としたとき、Y(10゜)が50以上950以下であり、Y(25゜)=k×Y(10゜)であって(但し、kは係数である。)、k=0.05以上0.35以下とし、着色層の暖色系顔料濃度Cを1質量%以上17質量%以下とするものである。
【0005】
特許文献3には、各種工業製品、特に自動車の外板に適用できる、ハイライト(正反射光近傍)においては高明度且つ高彩度で、シェード(斜め方向)では高彩度であり、ハイライトとシェードとの明度差が大きく、仕上がり意匠が均一な塗膜が得られる複層塗膜形成方法が記載されている。当該方法では、着色顔料及び鱗片状光輝性顔料を含むメタリックベース塗料を塗装して得られるメタリックベース塗膜上に、第1カラークリヤー塗膜を形成し、さらにその上に第2カラークリヤー塗膜が形成される。そして、第1及び第2カラークリヤー塗膜に含まれる着色顔料を同一とする。また、第1及び第2カラークリヤー塗膜における単位膜厚あたりの着色顔料の濃度を、前者対後者の比率として、30/70~60/35の範囲内とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-281451号公報
【特許文献2】国際公開2018/061215号パンフレット
【特許文献3】特開2012-232236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
車体等にメタリック塗装がされたときに金属質感が得られるのは、塗装物を視る角度によって明度が変化するフリップフロップ性(以下、「FF性」という。)が高いことによる。つまり、明(ハイライト)と暗(シェード)のコントラストが強いほど、FF性は高く、金属質感に優れる。このFF性は、X-Rite社のメタリック感指標であるFI(フロップインデックス)値で表すことが多い。しかし、従来、メタリック塗装で実際に得られているFI値は一般には18前後であり、凄みのある高い金属質感を得るに至っていない。
【0008】
上記FI値は、端的に言えば、シェードでの明度に対するハイライト(正反射方向近傍)での明度の強さを表すから、ハイライトの明度が低い場合には、FI値も小さくなる。これに対して、ハイライトでの明度を高めるべく、光輝材の量を増やすと、光輝材による拡散反射も多くなるから、同時にシェードでも明度が高くなり、際だったFF性は得られない。
【0009】
本開示の課題は、光輝性層と透光性を有する着色層によって赤系の色を出すようにした積層塗膜において、FF性を改善し、意匠性が高い金属調カラーを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、上記課題を解決するために、光輝性層の反射特性と着色層における赤系着色材の濃度との関連に着目した。
【0011】
ここに開示する積層塗膜は、被塗物の表面に直接又は間接的に形成された光輝材を含有する光輝性層と、該光輝性層の上に重ねられ赤系着色材を含有し透光性を有する着色層とを備え、上記光輝性層は、XYZ表色系の標準白色板で校正したY値に関して、光の入射角(光輝性層の表面の垂線からの角度)を45゜として、受光角(正反射方向から光源側への傾き角度)5゜で測定した反射光のY値をY(5゜)とし、受光角15゜で測定した反射光のY値をY(15゜)としたとき、Y(5゜)が30以上700以下であり、Y(15゜)=k×Y(5゜)であって(但し、kは係数である。)、kが0.01以上0.3以下であり、上記着色層における上記赤系着色材の濃度が1質量%以上17質量%以下であることを特徴とする。
【0012】
光輝性層と透光性を有する着色層によって赤系の色を出すようにした積層塗膜では、光輝性層に含有される光輝材による反射光が着色層を透過することにより、着色層に含有される着色材(顔料及び/又は染料)を鮮やかに発色させる。ハイライトにおける明度が高く、シェードにおける明度が低いほど、ハイライトにおける赤の鮮やかな発色が得られるとともに、十分なシェードの暗さを得られるから、FF性が高くなり、意匠性が高い金属調カラーを実現できる。
【0013】
ここに、XYZ表色系のY値は、明るさ(視感反射率)を表す刺激値である。Y(5゜)はハイライトの輝度感の指標となる。Y(15゜)は、ハイライト方向から少しずれた観察角度において赤系着色材による色相が明瞭に現れるか否かの指標となる。Y(5゜)が30以上700以下であり、Y(15゜)=k×Y(5゜)のkが0.01以上0.3以下であることにより、光輝性層からの反射光により着色層の着色材を鮮やかに発色し、該着色材による色相がはっきり現れ、FF性も高くなる。
【0014】
但し、光輝性層の反射特性を上述の如く設定するだけでは、FI値を十分に高めることは難しい。ハイライトでの明度を高めるべく、光輝材量を多くすると、光輝材の表面の微細凹凸やエッジで生ずる入射光の拡散反射(乱反射)により、シェード方向の光量が増えるから、シェードの明度も高くなるためである。
【0015】
そこで、本開示は、高FI化の実現のために、光輝性層の反射特性と着色層の透過特性を組み合わせている。すなわち、本開示の重要な特徴は、光輝性層の上記反射特性と着色層の透過特性との組み合わせによって、積層塗膜の高FI化を実現した点にある。
【0016】
具体的に説明すると、着色層の透過特性は該着色層の着色材濃度によって変わる。着色層における赤系着色材の濃度が薄いと、赤系の色相の発色性が不十分になる。また、着色材の濃度が薄いと、光輝性層からの反射光、特に拡散反射による光が着色層を透過するときにあまり減衰されず、シェードの明度が高くなるから、FI値が下がる。これに対し、着色材濃度が1質量%以上になると、赤系の色相の十分な発色性を確保できるとともに、拡散反射による光が着色層を透過するときに着色材に十分に吸収されるから、シェードの明度が低下し、FI値が高くなる。一方、着色材濃度が過度に高くなると、光輝性層からの反射光を着色材が吸収及び/又は遮蔽する効果が大きくなってハイライトの明度が下がるから、FI値が下がる。また、着色材が顔料の場合は、顔料粒子による光の散乱もシェードの明度増加、延いてはFI値の低下の原因となるから、着色材濃度の上限は17質量%が好ましい。
【0017】
なお、Y(5゜)は好ましくは150以上500以下、より好ましくは200以上400以下、特に好ましくは200以上300以下である。また、kは好ましくは0.03以上0.2以下、より好ましくは0.05以上0.15以下である。さらに、赤系着色材の濃度は好ましくは4質量%以上10質量%以下、より好ましくは5質量%以上9質量%以下、特に好ましくは5質量%以上7質量%以下である。
【0018】
好ましくは、上記光輝性層は、上記光輝材として、平均粒径が5μm以上30μm以下、平均厚さが10nm以上500nm以下であるアルミフレークを含有し、上記光輝性層における上記アルミフレークの濃度が1質量%以上17質量%以下である。
【0019】
このようなアルミフレークは、可視光線反射率が約90%以上であるから、ハイライト方向の光量を十分に確保して、ハイライトの十分な明度を得ることができる。特に、アルミフレークのエッジでの拡散反射は該フレークの厚さが厚いほど強くなるところ、アルミフレークの厚さを上述のごとく薄くすることにより、拡散反射の強度を弱めることができる。そうして、シェードの明度を低減できる。
【0020】
また、アルミフレークの濃度が1質量%未満では、アルミフレークによる反射光の光量が不足し、ハイライトの十分な明度が得られない。アルミフレークの濃度が17質量%超では、アルミフレークの表面の微細凹凸やエッジによる拡散反射の影響が大きくなり、シェードの明度が高くなりすぎる。アルミフレークの濃度を上記範囲とすることにより、十分なシェードの暗さを確保しつつ、高FI化を達成できる。上記アルミフレークの濃度は、好ましくは5質量%以上12質量%以下である。
【0021】
好ましくは、上記アルミフレークの表面粗さRaが50nm以下である。
【0022】
アルミフレークの表面における微細凹凸による拡散反射は、シェードの明度を増加させる原因となる。アルミフレークの表面粗さRaを上記範囲とすることにより、拡散反射を低減できるから、シェードの明度を低減できる。
【0023】
上記着色層の赤系着色材としては、耐候性に優れる赤系顔料及び/又は透明性に優れる赤系染料が挙げられるが、積層塗膜の十分な耐候性を確保する観点から、好ましくは赤系顔料を採用できる。
【0024】
上記赤系顔料としては、ペリレンレッド、ジブロムアンザスロンレッド、アゾレッド、アントラキノンレッド、キナクリドンレッド、ジケトピロロピロール等の有機顔料を好ましく用いることができる。
【0025】
好ましくは、上記着色層は、上記赤系着色材として赤系顔料を含有し、上記光輝性層に上記着色層が積層された状態で光の入射角45゜及び受光角15゜で測定した分光反射率を、上記着色層が除かれて上記光輝性層表面を露出させた状態で光の入射角45゜及び受光角15゜で測定した分光反射率で除することで得られる当該着色層の絶対値表示の分光透過率スペクトルの620nmでの接線の傾きが0.02nm-1以上0.06nm-1以下である。
【0026】
ここに、本願発明者らは、上記分光透過率スペクトルの620nmでの接線の傾きは、彩度Cと比例関係にあることを見出している。彩度Cが高いほど、赤の発色性は向上する。上記接線の傾きが0.02nm-1以上0.06nm-1以下であることにより、十分な彩度Cが得られるから、濁りの少ない、透明性の高い鮮やかな赤の発色が得られる。
【0027】
なお、上記着色層の分光透過率スペクトルを得るための分光反射率の測定の受光角は、赤の色相がはっきり出る15゜としている。赤系着色材の場合、分光反射率は590nm~650nmの波長範囲で立ち上がるから、その波長範囲の中央値620nmでのスペクトルの接線の傾きとしている。上記分光透過率スペクトルの接線の傾きは、好ましくは0.03nm-1以上0.06nm-1以下である。
【0028】
本構成によれば、上記着色層の透過特性と上記光輝性層の反射特性とが相俟って、ハイライトにおいて、赤色が鮮やかに透明感をもって明るく発色するとともに、シェード側で明度が落ちることによりハイライトの赤色が一層際立つ。そうして、意匠性の高い金属調カラーの実現に有利になる。
【0029】
好ましくは、上記赤系顔料の平均粒径が2nm以上160nm以下である。
【0030】
赤系顔料の顔料粒子の平均粒径(本明細書において、「顔料粒子の平均粒径」を「顔料粒径」と称することがある。)が160nm以下であるから、顔料粒子による幾何光学的な散乱やミー散乱がなく、2nm以上であるから、レイリー散乱も避けられ、透明感ある鮮やかな赤の発色に有利になる。また、顔料粒径が小さいことにより、同じ顔料濃度であれば、顔料粒径が大きい場合に比べて、光が着色層を透過するときに顔料粒子に当たって吸収される頻度が高く、従って、光の減衰が大きくなる。光の減衰が大きくなると、着色層を透過する光量が低下し、全体の明度は低下するが、ハイライト方向の光量はもともと多いため、光の減衰が明度に及ぼす影響は小さい。一方、シェード方向の光量はもともと少ないため、光の減衰が明度に及ぼす影響が大きくなる。そうして、上記顔料粒子の小径化により、高FI化が図れ、高い金属質感を得る上で有利になる。なお、赤系顔料の平均粒径は、より好ましくは2nm以上30nm以下である。
【0031】
好ましくは、上記着色層は、さらに黒系着色材を含有する。
【0032】
本構成によれば、光輝性層の光輝材による反射光が着色層を透過するときに、当該反射光は全波長に亘り黒系着色材によって吸収される。シェード方向は光量が少ないため、黒系着色材により吸収されると、着色層を透過する反射光の光量が大きく低減される。一方、ハイライトの反射光は光量が多いため、黒系着色材によりその一部が吸収されても着色層を透過する反射光の光量は十分確保される。そうして、積層塗膜を備えた塗装物が、シェードでは漆黒に見える一方、ハイライトでは赤色が鮮やかに見え、より意匠性の高い金属調カラーが達成される。
【0033】
好ましくは、上記着色層における上記黒系着色材の濃度は、6質量%以下である。
【0034】
黒系着色材の濃度が高くなりすぎると、反射光の吸収量が増加するから、ハイライトの黒みが過度に増加し、ハイライトにおける赤の発色に濁りが生じる。本構成によれば、黒系着色材の濃度を上記範囲とすることにより、ハイライトにおける黒みの過度な増加を抑えて赤の発色の濁りを抑制できる。そうして、ハイライトにおける鮮やかな赤の発色を得ることができる。
【0035】
好ましくは、上記着色層における上記赤系着色材と上記黒系着色材との総計に対する上記黒系着色材の割合は、26質量%以下である。
【0036】
着色材における黒系着色材の割合が増加しすぎた場合も、ハイライトの黒みが過度に増加し、ハイライトにおける赤の発色に濁りが生じる原因となる。本構成によれば、ハイライトにおける黒みの過度な増加を抑えて赤の発色の濁りを抑制できるから、ハイライトにおける鮮やかな赤の発色を得る上で有利になる。
【0037】
被塗物に上記積層塗膜を備えた塗装物としては、例えば、自動車の車体があり、また、自動二輪車、その他の乗物のボディであってもよく、或いはその他の金属製品、プラスチック製品であってもよい。
【0038】
また、本開示の積層塗膜及び塗装物は以下の構成を備えていてもよい。
【0039】
上記光輝性層は、黒系着色材を含むことが好ましい。
【0040】
光輝材表面の微小凹凸やエッジ、下地(例えば電着塗膜)において拡散反射された光が着色層を透過すると、シェード方向の光量が増えて、シェードの明度が高くなる。シェードの明度が高まると、シェードの白みが増すから、ハイライトにおける赤の発色がぼやける原因となる。
【0041】
本構成では、光輝性層に黒系着色材が含有されているから、光輝性層において、光輝材同士の隙間を透過する入射光の多くは、黒系着色材により吸収及び/又は遮蔽されるため、下地による光の反射は殆どなくなる。また、光輝材の表面の微小凹凸やエッジによって拡散反射される光が黒系着色材によって吸収及び/又は遮蔽されるから、シェードの明度が低下する。
【0042】
光輝性層に含まれる黒系着色材としては、耐候性に優れる黒系顔料及び/又は透明性に優れる黒系染料が挙げられるが、積層塗膜の十分な耐候性を確保する観点から、黒系顔料を採用できる。黒系顔料としては、例えばカーボンブラック、酸化クロム、酸化鉄、酸化マンガン、黒色インジゴイド顔料等を用いることができる。
【0043】
上記光輝性層に含まれる上記黒系着色材が、カーボンブラックである場合、上記光輝性層における上記カーボンブラックの濃度は1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
【0044】
カーボンブラックの濃度が低すぎると、その光吸収機能及び隠蔽能が十分に得られないおそれがある。一方、カーボンブラックの濃度が高すぎると、一次粒子が凝集してなるストラクチャーが機械的に絡み合った状態になりやすく、光散乱が増加するから、透明性が低下するとともに、シェードの明度が増加するおそれがある。従って、光輝性層におけるカーボンブラックの濃度を上記範囲とすることにより、シェードの明度を低下させるのに有利になる。
【0045】
上記カーボンブラックの平均粒径は200nm以下であることが好ましい。
【0046】
本構成によれば、カーボンブラックの平均粒径が可視光下限(波長400nm)の1/2波長以下であるから、カーボンブラックの粒子による光散乱を抑制できる。
【0047】
上記光輝性層は、着色材として上記黒系着色材以外の着色材、例えば赤系着色材を含んでもよい。これにより、光散乱が抑制される。なお、高FI化の観点からは、着色材として黒系着色材のみを含有することが望ましい。
【0048】
上記光輝性層は、光の入射角(光輝性層の表面の垂線からの角度)を45゜として、受光角(正反射方向から光源側への傾き角度)θで測定した反射光の明度指数L値をL(θ)としたときに、45°≦θ≦80°及び100°≦θ≦110°におけるL(θ)が10以下であることが好ましい。
【0049】
これにより、シェード方向(45°≦θ≦80°及び100°≦θ≦110°)における明度を10以下とすることにより、十分なシェードの暗さを確保できる。なお、45°≦θ≦80°及び100°≦θ≦110°における上記L(θ)は、好ましくは5以下である。特に、45°≦θ≦80°及び100°≦θ≦110°における上記L(θ)は、光輝性層が黒系着色材と赤系着色材とを含有する場合には10以下であることが好ましく、光輝性層が黒系着色材のみを含有する場合には5以下であることが好ましい。
【0050】
上記光輝材を上記光輝性層の底面に投影したときに該底面に占める上記光輝材の投影面積の割合が単位面積当たり3%以上70%以下であることが好ましい。
【0051】
光輝材の投影面積の割合が下限値未満では、光輝材による反射光の光量が不足し、ハイライトの十分な明度が得られない。一方、光輝材の投影面積の割合が上限値を超える場合、光輝性層に含有される光輝材の量が多いため、光輝材の表面かの微細凹凸やエッジによる拡散反射の影響が大きくなり、シェードの明度が高くなりすぎる。光輝材の投影面積の割合を上記範囲とすることにより、十分なシェードの暗さを確保しつつ、高FI化を達成できる。なお、光輝材の前記面積の割合は、単位面積当たり、好ましくは20%以上50%以下である。
【0052】
上記光輝性層は、光の入射角を45゜として受光角45゜及び110゜で測定した波長450nm~700nm範囲の標準白色板に対する分光反射率が絶対値表示で0.02以下であることが好ましい。
【0053】
これにより、シェードの十分な暗さを得ることができる。特に、上記分光反射率は、光輝性層が黒系着色材と赤系着色材とを含有する場合には0.02以下であることが好ましく、光輝性層が黒系着色材のみを含有する場合には0.01以下であることが好ましい。
【0054】
上記光輝性層の上に透明クリヤ層が直接積層されることが好ましい。透明クリヤ層によって耐酸性や耐擦り傷性を得ることができる。
【発明の効果】
【0055】
本開示によれば、光輝性層は、Y(5゜)が30以上700以下であり、Y(15゜)はY(5゜)の0.01倍以上0.3倍以下であり、着色層における赤系着色材の濃度が1質量%以上17質量%以下であるから、当該光輝性層の反射特性と着色層の透過特性との組み合わせによって、ハイライト近傍において光輝性層からの反射光が着色層の赤色を鮮やかに発色させる一方、積層塗膜の高FI化が図れ、鮮やかさと深みを高度に両立した意匠性が高い金属調カラーの実現に有利になる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】積層塗膜を模式的に示す断面図。
図2】製造例1の光輝性層をその表面側から撮影した写真。
図3】光輝性層のY値、L値及び分光反射率の測定方法を示す説明図。
図4】製造例1の光輝性層のY値と受光角との関係を示すグラフ図。
図5】製造例1の光輝性層のL値と受光角との関係を示すグラフ図。
図6】製造例1の光輝性層の分光反射率と波長との関係を示すグラフ図。
図7】実施例3の塗装板における着色層の分光透過率と波長との関係を示すグラフ図。
図8】分光透過率スペクトルの波長620nmでの接線の傾きと彩度Cとの関係を示すグラフ図。
図9】分光透過率スペクトルの波長620nmでの接線の傾きと赤系顔料の平均粒径(顔料粒径)との関係を示すグラフ図。
図10】FI値の算出に係る反射光の説明図。
図11】Y(15゜)=k×Y(5゜)(係数k=0.01~0.3)でのY(5゜)及び着色層における赤系顔料の濃度の好ましい範囲を示すグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下、本開示を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0058】
<積層塗膜の構成例>
図1に示すように、本実施形態の自動車の車体11(塗装物)は、鋼板11A(被塗物)の表面に、電着塗膜13を介して設けられた積層塗膜12を備える。積層塗膜12は、光輝性層14、透光性を有する着色層15及び透明クリヤ層16を順に積層してなる。電着塗膜13は、鋼板11Aの表面に、予めカチオン電着塗装によって形成されている。
【0059】
光輝性層14は、母材である樹脂成分と、光輝材21と、黒系着色材として第1黒系顔料23と、を含有する。着色層15は、母材である樹脂成分と、赤系着色材としての赤系顔料25と、黒系着色材としての第2黒系顔料27と、を含有する。
【0060】
光輝性層14及び着色層15の樹脂成分としては、限定する意図ではないが、例えば、アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂等を単独で又は複数種類を組み合わせて採用することができる。透明クリヤ層16の樹脂成分としては、例えば、カルボン酸基含有アクリル樹脂、ポリエステル樹脂とエポキシ含有アクリル樹脂の組み合わせ、アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂とポリイソシアネートとの組み合わせ等を採用することができる。
【0061】
光輝性層14及び着色層15は、必要に応じて、紫外線遮蔽材、粘性材、増粘材、顔料分散剤、表面調整材等の添加材を含んでもよい。特に、積層塗膜12の耐光性の観点から、紫外線遮蔽材を含むことが望ましい。紫外線遮蔽材としては、有機化合物系の紫外線吸収剤、無機化合物系の紫外線散乱剤等を採用することができ、なかでも、酸化鉄など酸化金属のナノ粒子を採用することが好ましい。
【0062】
光輝性層14の膜厚は好ましくは6μm以上15μm以下、より好ましくは7μm以上13μm以下であり、着色層15の膜厚は好ましくは8μm以上15μm以下である。
【0063】
電着塗膜13の表面粗さRaは、好ましくは2.0μm以下、より好ましくは1.0μm以下である。これにより、光輝性層14の光輝材21の配向性が向上する。
【0064】
<光輝性層>
[光輝材]
光輝性層14に含有される光輝材21としては、可視光線反射率の高い、金属フレーク等を採用できる。本実施形態では、光輝材21としてアルミフレークを採用している。
【0065】
アルミフレークは、ハイライトの十分な明度を得る観点から、可視光線反射率が90%以上であることが好ましい。これにより、ハイライト方向の光量を十分に確保して、ハイライトの十分な明度を得ることができる。
【0066】
そのようなアルミフレークとして、具体的には、平均粒径が5μm以上30μm以下、好ましくは10μm以上15μm以下、平均厚さが10nm以上500nm以下のものを採用することが好ましい。特に、平均厚さは、蒸着アルミフレークの場合は、10nm以上50nm以下、薄膜アルミフレークの場合は、100nm以上500nm以下であることが好ましい。
【0067】
本明細書において、光輝材21及び各種着色顔料の平均粒径は、例えばレーザ回折式粒度分布測定装置により測定した粒度分布の50%値であるD50を求めることにより得られる。
【0068】
光輝材21の平均厚さは、例えば走査型電子顕微鏡で観察して、複数個(例えば50個)の光輝材21の厚さを測定し、その平均値を算出することにより得られる。
【0069】
平均粒径が小さすぎると、反射特性が低下するおそれがあり、平均粒径が大きすぎると、反射特性は優れるものの外観の粒子感が強くなりすぎるおそれがある。また、アルミフレークのエッジでの拡散反射は該フレークの厚さが厚いほど強くなるところ、上記の通り、その厚さが薄いから、当該拡散反射が弱い。よって、シェードの明度の低減に有利になる。
【0070】
なお、アルミフレークのアスペクト比(平均粒径/平均厚さ)は、30以上300以下であることが好ましい。
【0071】
また、アルミフレークは、その表面粗さRaが50nm以下であることが好ましい。特に、蒸着アルミフレークの場合は、表面粗さRaが7nm以下、平滑アルミフレークの場合は、表面粗さRaが50nm以下であることが好ましい。これにより、アルミフレーク表面の微細凹凸による拡散反射を低減できるから、シェードの明度を低減できる。
【0072】
なお、光輝材21は、ハイライトの明度を高めるため、光輝性層14の表面と略平行になるように(光輝性層14の表面に対する光輝材21の平均配向角度が1.2度以下になるように)配向されている。例えば、光輝材21、第1黒系顔料23等を含有する塗料を電着塗膜13の上に塗布した後、焼付けによる溶剤の蒸発によって塗膜が体積収縮して薄くなることを利用して、平均配向角度が1.2度以下になるように光輝材21を並べる。光輝材21の平均配向角度は、レーザ顕微鏡(株式会社キーエンス製、VK-X1000)を用いて計測した光輝性層14表面の3D形状データ(xyz座標)から、1視野内に含まれる複数個(例えば50個)の光輝材21における光輝性層14の表面に対する傾きを算出し、それらを平均することにより得られる。
【0073】
アルミフレークには、リーフィング型及びノンリーフィング型の2種類があり、いずれを用いてもよいが、ノンリーフィング型のアルミフレークを用いることが好ましい。
【0074】
リーフィング型のアルミフレークは、その表面張力が低いため、リーフィング型のアルミフレークを含有する塗料を塗装した場合、アルミフレークは光輝性層14の表面に浮上し、光当該表面と平行に配向する。アルミフレークが光輝性層14の表面に浮上すると、反射光の光量は増し、FF性は高まるものの、鏡面反射のような平面的な強い光沢が得られる。また、リーフィング型のアルミフレークの場合、表面積が小さいこと、光輝性層14の表面に配置される樹脂成分の量が少なくなること等により、光輝性層14と着色層15との密着性が低下し、チッピング等の外的要因により剥離しやすくなるという課題がある。
【0075】
これに対し、ノンリーフィング型のアルミフレークは、その表面張力が高いため、ノンリーフィング型のアルミフレークを含有する塗料を塗装した場合、例えば図1に示すように、アルミフレークは光輝性層14の表面と平行に配向しつつ膜厚方向には不規則に分散する。これにより、膜厚方向のアルミフレークの位置に対応して反射光の光量が変化するから、立体感のある金属調の光沢が得られ、より意匠性の高い金属調カラーを得ることができる。また、ノンリーフィング型のアルミフレークの場合、光輝性層14の表面に配置される樹脂成分の量を十分確保できるから、光輝性層14と着色層15との十分な密着性を確保できる。
【0076】
[光輝材の面積率]
光輝材21を光輝性層14の底面に投影したときに該底面に占める光輝材21の投影面積の割合(本明細書において、「面積率」ともいう。)は、単位面積当たり、好ましくは3%以上70%以下、より好ましくは20%以上50%以下である。
【0077】
光輝材21の面積率が少なすぎると、光輝材21による反射光の光量が不足し、ハイライトの十分な明度が得られない。一方、光輝材21の面積率が多すぎると、光輝材21の量が多いため、光輝材21の表面の微細凹凸やエッジによる拡散反射の影響が大きくなり、シェードの明度が上昇するとともに、光輝性層14の強度及び耐候性が低下する。光輝材21の面積率を上記範囲とすることにより、十分なシェードの暗さを確保しつつ、高FI化を達成できるとともに、十分な強度及び耐候性を得ることができる。
【0078】
アルミフレークの単位面積当たりの面積率は、例えば、光輝性層14をその表面からマイクロスコープで拡大して観察し、画像処理によって複数視野(例えば10視野)におけるアルミフレークの面積率を算出し、それらを平均することにより得られる。
【0079】
具体的に、図2は、表1に示す製造例1に係る光輝性層をその表面側から撮影した写真である。なお、当該製造例1は、光輝材21としてアルミフレーク、第1黒系顔料23としてカーボンブラック、樹脂成分として、アクリル樹脂、ウレタン樹脂及びメラミン樹脂を使用し、鋼板11Aの表面に電着塗膜13を介して光輝性層14のみを形成してなる塗装板である。
【0080】
【表1】
【0081】
図2中の白っぽい粒子はアルミフレークである。同図から、アルミフレークを光輝性層14の底面に投影したとき、該底面に占めるアルミフレークの面積率は、単位面積当たり22.5%と算出できる。
【0082】
上述のような光輝材21の面積率は、例えば、光輝性層14における光輝材21の濃度を、好ましくは1質量%以上17質量%以下、より好ましくは5質量%以上12質量%以下とすることにより達成できる。光輝材21の濃度が1質量%未満では、光輝材21の十分な面積率が得られない。光輝材21の濃度が17質量%を超えると、光輝材21の面積率が大きくなりすぎる。
【0083】
[第1黒系顔料]
フレーク状の光輝材21は、ハイライトの明度を高めることに有効であるものの、フレーク表面の微小凹凸による拡散反射やフレークのエッジでの拡散反射があり、さらに、下地(本実施形態では電着塗膜13)での拡散反射がある。このような拡散反射された光が着色層15を透過すると、シェード方向の光量が増えて、シェードの明度が高くなる。シェードの明度が高まると、シェードの白みが増すから、ハイライトにおける赤の発色がぼやけて鮮やかさが低下する原因となる。そこで、光輝性層14に黒系着色材としての第1黒系顔料23を含有させ、第1黒系顔料23の光吸収機能及び隠蔽能を利用してシェードの反射特性を調整することが望ましい。
【0084】
光輝材21同士の隙間を透過する入射光の多くは、第1黒系顔料23により吸収及び/又は遮蔽されるため、下地(電着塗膜13)による拡散反射は殆どなくなる。そして、光輝材21の微細凹凸やエッジによって拡散反射される光が第1黒系顔料23によって吸収及び/又は遮蔽されることにより、シェードの明度が低下する。
【0085】
光輝性層14に含有される第1黒系顔料23としては、限定する意図ではないが、例えば、耐候性に優れるカーボンブラックを採用できる。光輝性層14における第1黒系顔料23の濃度は1質量%以上20質量%以下であることが望ましい。カーボンブラックの濃度が低すぎると、その光吸収機能及び隠蔽能が十分に得られないおそれがある。一方、カーボンブラックの濃度が高すぎると、一次粒子が凝集してなるストラクチャーが機械的に絡み合った状態になりやすく、光散乱が増加するから、透明性が低下するとともに、シェードの明度が増加するおそれがある。従って、光輝性層14におけるカーボンブラックの濃度を上記範囲とすることにより、シェードの明度を低下させるのに有利になる。
【0086】
カーボンブラックの平均粒径は200nm以下であることが好ましい。カーボンブラックの平均粒径が可視光下限(波長400nm)の1/2波長以下であるから、カーボンブラックの粒子による光散乱を抑制できる。そうして、シェードの明度の上昇を抑制できる。
【0087】
光輝性層14は、黒系以外の色の着色材、例えば赤系着色材を含んでもよい。これにより、光散乱を抑制できる。なお、高FI化の観点からは、着色材として黒系着色材のみを含有することが望ましい。
【0088】
また、光の反射特性の調整のために、光輝性層14と電着塗膜13の間に光を吸収する黒色、その他の暗色下地層(吸収層)を設けるようにしてもよい。すなわち、光輝性層14における光輝材21間の隙間を透過した光を暗色下地層で吸収するという方式である。この方式の場合、暗色下地層の塗装が必要になるが、反射特性を調整することは可能である。
【0089】
<光輝性層の反射特性>
[Y値]
XYZ表色系のY値は、CIE XYZ色空間において下記式により定義される三刺激値X、Y及びZのうちのYであり(https://ja.wikipedia.org/wiki/CIE_1931_%E8%89%B2%E7%A9%BA%E9%96%93)、明るさ(視感反射率)を表す刺激値である。
【0090】
【数1】
【0091】
なお、x(λ)、y(λ)及びz(λ)(各々のアッパーバーの付記省略)はCIE等色関数であり、Le,Ω,λは測色観測者における色の分光放射輝度である。
【0092】
図3に、光輝性層14のY値の測定方法を示す。光源41の光輝性層14に対する入射角は45゜(光輝性層14の表面の垂線からの傾き角度)である。センサ42による受光角θ(正反射方向から光源側への傾き角度)は正反射方向を0゜としている。測定には株式会社村上色彩研究所製三次元変角分光測色システムGCMS-4を用いた。
【0093】
本実施形態では、FI値を高めるために、受光角5゜での反射強度Y(5゜)と、受光角が5°から受光角15゜に変化したときの反射強度の低下率kとが所定の範囲となるように設定している。
【0094】
受光角5゜での反射強度Y(5゜)は、ハイライトの輝度感の指標となる。また、受光角15゜での反射強度Y(15゜)は、ハイライト方向から少しずれた観察角度において赤系顔料25による色相が明瞭に現れるか否かの指標となる。上記低下率kは、Y(15゜)=k×Y(5゜)の係数kで表される。
【0095】
光輝性層14のY(5゜)は、30以上700以下、好ましくは150以上500以下、より好ましくは200以上400以下、特に好ましくは200以上300以下である。そして、係数kは、0.01以上0.3以下、好ましくは0.03以上0.2以下、より好ましくは0.05以上0.15以下である。光輝性層14の反射特性をこのように設定することにより、光輝性層14からの反射光によって着色層15の赤系顔料25を鮮やかに発色させることができる。そうして、赤系顔料25による色相がはっきり現れるとともに、FF性も高くなる。
【0096】
具体的に、図4は、上述の製造例1の光輝性層14(表1)のXYZ表色系の標準白色板で校正したY値と受光角との関係を示す。受光角5゜で測定した反射光のY値をY(5゜)、受光角15゜で測定した反射光のY値をY(15゜)とすると、図4の例では、Y(5゜)=236、Y(15゜)=13.1である。
【0097】
[L値]
値は、L表色系の明度指数である。L値は、Y値と同様の方法により測定できる。
【0098】
図3に示すように、光輝性層14について、光の入射角を45゜として、受光角θで測定した反射光の明度指数L値をL(θ)とする。このとき、本実施形態では、45°≦θ≦80°及び100°≦θ≦110°におけるL(θ)が10以下、好ましくは5以下である。なお、受光角90°は、反射光が入射光と重なるため測定が困難である。従って、80°<θ<100°の領域では測定を行っていない。シェード方向(45°≦θ≦80°及び100°≦θ≦110°)における明度を10以下、好ましくは5以下とすることにより、十分なシェードの暗さを確保できる。
【0099】
具体的に、図5は、製造例1の光輝性層14のL値と受光角θとの関係を示すグラフである。図5に示すように、受光角が45°≦θ≦80°及び100°≦θ≦110°では、L値は5以下となっている。
【0100】
なお、45°≦θ≦80°及び100°≦θ≦110°における上記L(θ)は、光輝性層14が第1黒系顔料23に加えて赤系着色材を含有する場合には10以下の条件を満たせばよい。
【0101】
[分光反射率]
分光反射率は、反射率の波長依存性を示している。光輝性層14の分光反射率は、Y値、L値と同様の方法により測定できる。
【0102】
本実施形態では、光輝性層14について、光の入射角を45゜、受光角θを45°及び110゜(代表的なシェード方向)として測定した波長450nm~700nm範囲における標準白色板に対する分光反射率を、絶対値表示で0.02以下、好ましくは0.01以下としている。
【0103】
具体的に、図6は、製造例1の光輝性層14の上記分光反射率と波長との関係を示すグラフである。図6に示すように、受光角45°及び110°において、波長450nm~700nmにおける分光反射率は0.01以下となっている。これにより、シェードの十分な暗さを得ることができる。
【0104】
なお、上記分光反射率は、光輝性層14が第1黒系顔料23に加えて赤系着色材を含有する場合には0.02以下であればよい。
【0105】
<着色層>
[赤系顔料]
赤系顔料25としては、例えば、ペリレンレッド、ジブロムアンザスロンレッド、アゾレッド、アントラキノンレッド、キナクリドンレッド、ジケトピロロピロール等の有機顔料を用いることができ、特に耐候性に優れるペリレンレッドを用いることが好ましい。
【0106】
詳細は後述するが、赤系顔料25の平均粒径は、好ましくは2nm以上160nm以下、より好ましくは2nm以上30nm以下である。
【0107】
赤系顔料の平均粒径が160nm以下であるから、顔料粒子による幾何光学的な散乱やミー散乱がなく、2nm以上であるから、レイリー散乱も避けられ、透明感ある鮮やかな赤の発色に有利になる。また、平均粒径が小さいことにより、同じ顔料濃度であれば、顔料粒径が大きい場合に比べて、光が着色層を透過するときに顔料粒子に当たって吸収される頻度が高く、従って、光の減衰が大きくなる。光の減衰が大きくなると、着色層15を透過する光量が低下し、全体の明度は低下するが、ハイライト方向の光量はもともと多いため、光の減衰が明度に及ぼす影響は小さい。一方、シェード方向の光量はもともと少ないため、光の減衰が明度に及ぼす影響が大きくなる。そうして、顔料粒子の小径化により、高FI化が図れ、高い金属質感を得る上で有利になる。
【0108】
着色層15における赤系顔料25の濃度は、1質量%以上17質量%以下であり、好ましくは4質量%以上10質量%以下、より好ましくは5質量%以上9質量%以下、特に好ましくは5質量%以上7質量%以下である。
【0109】
着色層15における赤系顔料25の濃度が1質量%未満では、ハイライトにおける赤色の十分な発色性が得られない。また、赤系顔料25の濃度が17質量%超では、顔料粒子による反射光の吸収及び/又は遮蔽効果が大きくなってハイライトの明度が下がるとともに、顔料粒子による光散乱の効果によりシェードの明度が増加するから、FI値が低下する。
【0110】
[第2黒系顔料]
着色層15が第2黒系顔料27を含有するから、光輝性層14の光輝材21による反射光が着色層15を透過するときに、当該反射光は全波長に亘り第2黒系顔料27によって吸収される。シェード方向は光量が少ないため、第2黒系顔料27により吸収されると、着色層15を透過する反射光の光量が大きく低減される。一方、ハイライトの反射光は光量が多いため、第2黒系顔料27によりその一部が吸収されても着色層15を透過する反射光の光量は十分確保される。そうして、積層塗膜12を備えた車体11が、シェードでは漆黒に見える一方、ハイライトでは赤色が鮮やかに見え、より意匠性の高い金属調カラーが達成される。
【0111】
第2黒系顔料27としては、限定する意図ではないが、例えば耐候性に優れるカーボンブラックを採用できる。
【0112】
カーボンブラックの平均粒径は、20nm以上160nm以下であることが好ましい。カーボンブラックの平均粒径が可視光下限(波長400nm)の1/2波長以下であるから、カーボンブラックの粒子による光散乱を抑制できる。
【0113】
着色層15における第2黒系顔料27の濃度は、6質量%以下であることが好ましい。また、着色層15における赤系顔料25と第2黒系顔料27との総計に対する第2黒系顔料27の割合は、26質量%以下であることが好ましい。
【0114】
第2黒系顔料27の濃度及び/又は着色材における第2黒系顔料27の割合が高くなりすぎると、反射光の吸収量が増加するから、ハイライトの黒みが過度に増加し、ハイライトにおける赤の発色に濁りが生じる。第2黒系顔料27の濃度及び/又は着色材における第2黒系顔料27の割合を上記範囲とすることにより、ハイライトにおける黒みの過度な増加を抑えて赤の発色の濁りを抑制できる。そうして、ハイライトにおける鮮やかな赤の発色を得ることができる。
【0115】
[着色材全体]
着色層15に含まれる全着色材、すなわち赤系顔料25及び任意の第2黒系顔料27の総計は、好ましくは1質量%以上23質量%以下である。
【0116】
着色層15の透過特性は、着色層15に含まれる着色材の濃度によって変わる。特に、着色層における全着色材の濃度が薄いと、光輝性層からの反射光、特に拡散反射による光が着色層を透過するときにあまり減衰されず、シェードの明度が高くなるから、FI値が下がる。これに対し、全着色材の濃度が1質量%以上になると、拡散反射による光が着色層15を透過するときに顔料粒子に十分に吸収されるから、シェードの明度が低下し、FI値が高くなる。一方、全着色材の濃度が過度に高くなると、光輝性層14からの反射光を顔料粒子が吸収及び/又は遮蔽する効果が大きくなってハイライトの明度が下がるから、FI値が下がる。また、顔料粒子による光の散乱もシェードの明度増加、延いてはFI値の低下の原因となるから、全着色材の濃度の上限は23質量%が好ましい。
【0117】
<着色層の透過特性>
[分光透過率]
着色層15の透過特性は、例えばその分光透過率により表される。着色層15の分光透過率は、光輝性層14に着色層15を積層した状態で測定した分光反射率を、着色層15が除かれて光輝性層14表面を露出させた状態で測定した分光反射率で除することで求められる値であり、ここでは絶対値表示とする。光輝性層14に着色層15を積層した状態で測定した分光反射率は、図3に示す方法において、測定対象を光輝性層14に着色層15を積層した状態の塗膜とすればよい。
【0118】
着色層15の分光透過率スペクトルを得るときの、各分光反射率の測定における入射角は45°、受光角は赤の色相がはっきり出る15゜とする。
【0119】
そして、赤系着色材の場合、分光反射率は590nm~650nmの波長範囲で立ち上がるから、その波長範囲の中央値620nmでのスペクトルの接線の傾きを所定の範囲に設定する。
【0120】
すなわち、本実施形態の着色層15では、分光透過率のスペクトルの620nmでの接線の傾きは、0.02nm-1以上0.06nm-1以下、好ましくは0.03nm-1以上0.06nm-1以下である。
【0121】
具体的に、図7は、表2に示すF(実施例3)の塗装板における着色層15の分光透過率のスペクトルを示す。分光反射率の測定には、上記村上色彩技術研究所製の変角分光測色システムGCMS-4を用いた。図7は測定波長範囲390~730nmの分光透過率スペクトルである。塗装板F(実施例3)の積層塗膜12の仕様及び当該スペクトルの波長620nmでの接線の傾きは表2のとおりである。
【0122】
【表2】
【0123】
次に、表2に示すように、着色層15の顔料粒径を種々に変える他は塗装板F(実施例3)と同じ構成の複数の塗装板A~E、Gを作製し、各塗装板の分光透過率スペクトルを測定した。そして、該分光透過率スペクトルから上述のように620nmでの接線の傾きを求めるとともに、等色関数を使ってXYZ表色系のXY及Z値を求めた。XYZをLに変換し、彩度C=√((a)+(b))を求めた。
【0124】
本開示者の検討によれば、図8に示すように、彩度Cは分光透過率スペクトルの波長620nmでの接線の傾きに比例する。そして、傾き0.02nm-1で彩度Cがほぼ50になり、傾き0.06nm-1で彩度Cがほぼ150になる。従って、接線の傾きが0.02nm-1以上では、濁りの少ない、透明性の高い赤の鮮やかな発色を得る観点から、十分な彩度Cが得られると考えられる。
【0125】
また、図9に示すように、上記接線の傾きは着色層15の赤系顔料の平均粒径(顔料粒径)に依存する。ここに、顔料粒径が160nmを超えると、顔料粒子による乱反射、すなわち幾何光学的な散乱やミー散乱により、透明性が低下し、金属調の光沢に乏しい発色になるおそれがある。また、顔料粒径が2nm未満では、レイリー散乱により紫に発色するおそれがある。図8及び図9によれば、上記接線の傾きが0.02nm-1以上0.06nm-1以下、好ましくは0.03nm-1以上0.06nm-1以下であれば、顔料粒子の平均粒径が2nm以上160nm以下、好ましくは2nm以上30nm以下となる。そうして、顔料粒子による乱反射も、レイリー散乱も避けられ、濁りの少ない、透明性の高い鮮やかな赤の発色が得られる。
【0126】
<積層塗膜の光学特性>
[FI値]
FI値は、X-Rite社のメタリック感指標であり、FF性を表す。FI値は、図10に示すように、積層塗膜12の表面に対して光が入射角(該表面の垂線からの角度)45゜で入射したときの、受光角(正反射方向から光源側への傾き角度)45゜の反射光(45゜反射光)の明度指数L*45°と、受光角15゜の反射光(15゜反射光)の明度指数L*15°と、受光角110゜の反射光(110゜反射光)の明度指数L*110°とに基いて、次式により求められる値である。
【0127】
FI=2.69×(L*15°-L*110°)1.11/L*45°0.86
FI値は、積層塗膜12における優れた赤の発色の鮮やかさ及び優れた金属質感を得る観点から、20以上、好ましくは30以上、より好ましくは35以上、特に好ましくは40以上である。
【0128】
[光輝性層の反射特性と着色層の透過特性との組み合わせ]
以上述べたように、本実施形態に係る積層塗膜12では、光輝性層14の反射特性と着色層15の透過特性を組み合わせることにより、積層塗膜12における赤系の色相の優れた発色性と、高FI化とを実現している。
【0129】
すなわち、光輝性層14の反射特性と着色層15の透過特性とが相俟って、ハイライトにおいて、赤色が鮮やかに透明感をもって明るく発色する一方、シェード側で明度が落ちることによりハイライトの赤色が一層際立つとともに深みのある高い金属質感が得られる。そうして、鮮やかさと深みを高度に両立した意匠性の高い金属調カラーが実現される。
【0130】
[実施例]
表3~表5に示す実施例1~17及び比較例1~4の積層塗膜(下地は電着塗膜)を備えた塗装板を作製した。そして、アルミフレークの単位面積当たりの面積率、Y(5゜)、Y(15゜)、波長620nmでの分光透過率スペクトルの接線の傾き、FI値を調べた。また、外観目視試験により赤の発色の鮮やかさ及びコントラストの強さを評価した。外観目視試験は、「◎」、「○」、「△」及び「×」の4段階評価とした。赤の鮮やかさ及びコントラストの強さの評価は、「◎」が最も高く、「○」→「△」→「×」の順で段階的に低くなるというものである。
【0131】
【表3】
【0132】
【表4】
【0133】
【表5】
【0134】
図11は、表3及び表4の結果に基づいて、FI値の、Y(5゜)及び着色層15の赤系顔料25の濃度(顔料濃度)に対する依存性をグラフにしたものである。但し、Y(15゜)=k×Y(5゜)で表されるkは0.01以上0.3以下である。
【0135】
光輝性層14のY(5゜)を30以上700以下としたとき、着色層15の顔料濃度が1質量%以上17質量%以下であるときに、FI値を20以上にすることが可能になる。また、Y(5゜)を150以上500以下としたとき、着色層15の顔料濃度が4質量%以上10質量%以下であるときに、FI値を30以上にすることが可能になる。Y(5゜)を200以上400以下としたとき、着色層15の顔料濃度が5質量%以上9質量%以下であるときに、FI値を35以上にすることが可能になる。Y(5゜)を200以上300以下としたとき、着色層15の顔料濃度が5質量%以上7質量%以下であるときに、FI値を40以上にすることが可能になる。
【符号の説明】
【0136】
11 車体
11A 鋼板
12 積層塗膜
13 電着塗膜
14 光輝性層
15 着色層
16 透明クリヤ層
21 光輝材
23 第1黒系顔料(黒系着色材)
25 赤系顔料(赤系着色材)
27 第2黒系顔料(黒系着色材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11