(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022078805
(43)【公開日】2022-05-25
(54)【発明の名称】アルミニウム合金鋳造板の製造方法、およびアルミニウム合金鋳造板の製造装置
(51)【国際特許分類】
B22D 11/00 20060101AFI20220518BHJP
B22D 11/06 20060101ALI20220518BHJP
B22D 11/103 20060101ALI20220518BHJP
B22D 21/04 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
B22D11/00 E
B22D11/06 330B
B22D11/103 B
B22D21/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020189738
(22)【出願日】2020-11-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 書面1:日本機械学会 機械材料・材料加工部門 第27回機械材料・材料加工技術講演会(M&P2019)の講演論文集のダウンロード開始日記載画面と講演論文集のコピー 書面2:日本機械学会 機械材料・材料加工部門 第27回機械材料・材料加工技術講演会(M&P2019)の講演会内容とポスターのコピー 書面3:軽金属学会関西支部若手研究者・院生による研究発表会の案内とポスターのコピー 書面4:軽金属学会第138回春期大会の概要(講演概要集カラーデジタルWEBダウンロード開始日と講演概要集モノクロ冊子体印刷発行日記載)と、講演概要集のコピー 書面5:Materials Science Forum Vol.1007 pp6-11のコピー
(71)【出願人】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100136777
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 純子
(72)【発明者】
【氏名】羽賀 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】山崎 一輝
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004DA13
4E004NA05
4E004NB07
4E004NC08
4E004QA13
4E004QA20
4E004SA08
4E004SA10
4E004SD03
(57)【要約】
【課題】Mg含有量が多くとも表面割れ等の発生が抑制されたアルミニウム合金鋳造板を、大掛かりな設備を必要とせずに高速で、双ロール式連続鋳造方法にて製造する方法等を提供する。
【解決手段】Mgを2質量%以上含むアルミニウム合金の溶湯を、第1回転ロール表面の溶湯注入点に注入し、第1回転ロールと第2回転ロールで押圧冷却凝固して、アルミニウム合金鋳造板を製造する方法であって、溶湯注入点に溶湯を注入するための溶湯注入具により、溶湯注入点への溶湯の注入方向と、溶湯注入点における第1回転ロール表面の接線とがなす角度θ1を0度以上20度以下とし、第1回転ロールと第2回転ロールの間に溶湯を保持する溶湯溜まりを形成させ、溶湯注入点から溶湯溜まりまでの距離Lを、0mm超(ロール周速(mm/秒)×0.2秒)mm以下とし、溶湯の流速を第1回転ロールおよび第2回転ロールのロール周速以上とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mgを2質量%以上含むアルミニウム合金鋳造板を、双ロール式連続鋳造方法で製造するにあたり、Mgを2質量%以上含むアルミニウム合金の溶湯を、第1回転ロール表面の溶湯注入点に注入し、第1回転ロールと第2回転ロールで押圧冷却凝固して、アルミニウム合金鋳造板を製造する方法であって、
前記溶湯注入点に溶湯を注入するための溶湯注入具により、溶湯注入点への溶湯の注入方向と、溶湯注入点における前記第1回転ロール表面の接線とがなす角度θ1を、0度以上、20度以下とし、
前記第1回転ロールと前記第2回転ロールの間に溶湯を保持する溶湯溜まりを形成させ、
前記溶湯注入点から前記溶湯溜まりまでの距離Lを、0mm超、(ロール周速(mm/秒)×0.2秒)mm以下とし、
前記溶湯の流速を、前記第1回転ロールおよび前記第2回転ロールのロール周速以上とすることを特徴とするアルミニウム合金鋳造板の製造方法。
【請求項2】
前記第1回転ロールと前記第2回転ロールの対峙位置と、前記第1回転ロールの中心とを結ぶ線と、前記第1回転ロールの縦半径とがなす角度θ2が、0度超、90度未満の範囲内となるように、前記第2回転ロールを配置する、請求項1に記載のアルミニウム合金鋳造板の製造方法。
【請求項3】
Mgを2質量%以上含むアルミニウム合金鋳造板を、双ロール式連続鋳造方法で製造するための装置であって、
冷却能を有する第1回転ロールと、
前記第1回転ロール表面の溶湯注入点に、Mgを2質量%以上含むアルミニウム合金の溶湯を注入するための溶湯注入具と、
前記溶湯注入点に注入された溶湯を、前記第1回転ロールとともに押圧冷却凝固するための第2回転ロールを有し、
前記溶湯注入具と、前記溶湯注入点における前記第1回転ロール表面の接線とがなす角度θ1が、0度以上、20度以下であることを特徴とするアルミニウム合金鋳造板の製造装置。
【請求項4】
前記第1回転ロールと前記第2回転ロールの対峙位置と、前記第1回転ロールの中心とを結ぶ線と、前記第1回転ロールの縦半径とがなす角度θ2が、0度超、90度未満の範囲内となるように、前記第2回転ロールが配置された、請求項3に記載のアルミニウム合金鋳造板の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金鋳造板の製造方法、およびアルミニウム合金鋳造板の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
合金板の製造において、DC鋳造法が広く使用されている。DC鋳造法の場合、鋳造後に、所望の厚さの金属板を得るため、多段の圧延工程が必要となる。圧延を何回も繰り返すことにより、偏析等の欠陥の解消が見込まれるが、生産設備の規模が大きくなる等の問題がある。近年では、高速回転する冷却ロールの円周面に溶融合金を噴出させ急冷凝固させることによって、上記圧延工程での圧延回数を減少させた製造方法が提案されている。
【0003】
例えば非特許文献1には、2つの回転ロール間で鋳造を行う双ロールキャスター法であって、2つのロールを上下に配置した横型の形式で、マグネシウム合金の連続鋳造を行う方法が示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】セミソリッドスラリーを用いた AZ31B マグネシウム合金薄板の連続鋳造、島田浩和 他、軽金属 第58巻 第7号(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Mg含有量が2質量%以上、特に4質量%以上と多いAl-Mg系合金板は、延性・耐久性に優れ、かつ軽量の為、自動車用パネル等として実用化が望まれている。しかし、Mg含有量の多いAl-Mg系合金板を、双ロールキャスターを用いて高速で鋳造すると、表面割れが発生しやすくなり、品質の安定したアルミニウム合金鋳造板を得ることが困難であった。特にロール周速を10~120m/minと高くしたときに、表面割れ等が生じやすいという問題があった。アルミニウム合金鋳造板の表面性状が悪いと、板成形時に欠陥が生じやすい。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、Mg含有量が多くとも上記表面割れ等の発生が抑制されたアルミニウム合金鋳造板を、大掛かりな設備を必要とせずに高速で、双ロール式連続鋳造方法にて製造する方法、および該アルミニウム合金鋳造板の製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様1は、Mgを2質量%以上含むアルミニウム合金鋳造板を、双ロール式連続鋳造方法で製造するにあたり、Mgを2質量%以上含むアルミニウム合金の溶湯を、第1回転ロール表面の溶湯注入点に注入し、第1回転ロールと第2回転ロールで押圧冷却凝固して、アルミニウム合金鋳造板を製造する方法であって、
前記溶湯注入点に溶湯を注入するための溶湯注入具により、溶湯注入点への溶湯の注入方向と、溶湯注入点における前記第1回転ロール表面の接線とがなす角度θ1を、0度以上、20度以下とし、
前記第1回転ロールと前記第2回転ロールの間に溶湯を保持する溶湯溜まりを形成させ、
前記溶湯注入点から前記溶湯溜まりまでの距離Lを、0mm超、(ロール周速(mm/秒)×0.2秒)mm以下とし、
前記溶湯の流速を、前記第1回転ロールおよび前記第2回転ロールのロール周速以上とすることを特徴とするアルミニウム合金鋳造板の製造方法である。
【0008】
本発明の態様2は、前記第1回転ロールと前記第2回転ロールの対峙位置と、前記第1回転ロールの中心とを結ぶ線と、前記第1回転ロールの縦半径とがなす角度θ2が、0度超、90度未満の範囲内となるように、前記第2回転ロールを配置する、態様1に記載のアルミニウム合金鋳造板の製造方法である。
【0009】
本発明の態様3は、Mgを2質量%以上含むアルミニウム合金鋳造板を、双ロール式連続鋳造方法で製造するための装置であって、
冷却能を有する第1回転ロールと、
前記第1回転ロール表面の溶湯注入点に、Mgを2質量%以上含むアルミニウム合金の溶湯を注入するための溶湯注入具と、
前記溶湯注入点に注入された溶湯を、前記第1回転ロールとともに押圧冷却凝固するための第2回転ロールを有し、
前記溶湯注入具と、前記溶湯注入点における前記第1回転ロール表面の接線とがなす角度θ1が、0度以上、20度以下であることを特徴とするアルミニウム合金鋳造板の製造装置である。
【0010】
本発明の態様4は、前記第1回転ロールと前記第2回転ロールの対峙位置と、前記第1回転ロールの中心とを結ぶ線と、前記第1回転ロールの縦半径とがなす角度θ2が、0度超、90度未満の範囲内となるように、前記第2回転ロールが配置された、態様3に記載のアルミニウム合金鋳造板の製造装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、Mg含有量が多くとも上記表面割れ等の発生が抑制されたアルミニウム合金鋳造板を、大掛かりな設備を必要とせずに高速で、双ロール式連続鋳造方法にて製造する方法、および該アルミニウム合金鋳造板の製造装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態のアルミニウム合金鋳造板の製造方法を説明するための模式側面図である。
【
図2】本実施形態のアルミニウム合金鋳造板の製造方法に用いる溶湯注入具の一例を示す模式側面図である。
【
図3】溶湯注入点から前記溶湯溜まりまでの距離Lを説明するための模式図である。
【
図4】本実施形態のアルミニウム合金鋳造板の製造方法が適用可能な双ロール式連続鋳造方法の一実施形態を示す図である。
【
図5】本実施形態のアルミニウム合金鋳造板の製造方法の好ましい態様を説明する模式側面図である。
【
図6】本実施形態の別のアルミニウム合金鋳造板の製造方法を説明するための模式側面図である。
【
図7】従来のアルミニウム合金鋳造板の製造装置を示す模式側面図である。
【
図8】実施例における表面割れの観察結果を示す写真である。
【
図9】実施例における表面割れと注入させる溶湯の幅との関係を示す図である。
【
図10】本実施形態のアルミニウム合金鋳造板の断面組織写真である。
【
図11】従来のアルミニウム合金鋳造板の断面組織写真である。
【
図12】本実施形態と従来のアルミニウム合金鋳造板のWeck’s試薬による腐食後の断面組織写真である。
【
図13】実施例における冷間圧延後の表面割れの観察結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
自動車や缶に用いられるアルミニウム合金として、Mg含有量が2質量%以上である、例えばMg含有量が約2.5質量%のA5052、Mg含有量が約5質量%前後であるA5182,AC7Aで形成される鋳造板を、高速双ロールキャスターで鋳造したときに、表面割れが生じやすいといった問題がある。該問題を解消するため、ロール表面に網目や溝を形成したロールを使用する方法が考えられるが、該方法は、ロールの加工が容易ではなく,耐久性に問題がある。また、上記Mg含有量が高いアルミニウム合金の鋳造では、上記ロール表面に網目等を形成しても、表面割れ等を抑制できなかった。
【0014】
本発明者らは、上記問題を解決すべく鋭意検討した。その結果、Mgを2質量%以上含むアルミニウム合金鋳造板を、双ロール式連続鋳造方法で製造するにあたり、特に第1回転ロールへの溶湯の注入角度等を規定した本実施形態の製造方法によれば、ロール周速を低下させずに高速で、表面割れが抑制されて品質の安定した高Mg含有(2質量%以上)のAl-Mg合金鋳造板を製造できることを見出した。以下、本実施形態に係るアルミニウム合金鋳造板の製造方法、およびアルミニウム合金鋳造板の製造装置について順に説明する。
【0015】
[アルミニウム合金鋳造板の製造方法]
アルミニウム合金鋳造板の製造方法について、以下、本発明の実施形態を、図面を示して説明するが、該実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するために例示するものであって、本発明の技術的思想はかかる実施形態に限定されるものではない。
【0016】
図1は、本実施形態に係るアルミニウム合金鋳造板の製造方法を説明するために模式的に示した側面図である。前記側面図は、第1回転ロールおよび第2回転ロールの回転軸方向に製造装置を見た図である。アルミニウム合金鋳造板の製造装置1は、冷却能を有する第1回転ロール2と、前記第1回転ロール2表面の溶湯注入点6に、Mgを2質量%以上含むアルミニウム合金の溶湯5を注入するための溶湯注入具3と、第1回転ロール2と対向して配置され、前記第1回転ロール2表面に注入された溶湯5を、第1回転ロール2とともに押圧冷却凝固するための第2回転ロール4とを少なくとも備えている。鋳造において、Mgを2質量%以上含むアルミニウム合金の溶湯5を、るつぼ8から、溶湯注入具3を介して、第1回転ロール2表面の溶湯注入点6に注入する。第1回転ロール2表面の溶湯注入点6に注入された溶湯5は、前記第1回転ロール2と前記第2回転ロール4の間に保持され溶湯溜まり7を形成する。そして、溶湯溜まり7を形成する溶湯が、第1回転ロール2と第2回転ロール4で押圧冷却凝固されて、Mgを2質量%以上含むアルミニウム合金鋳造板9が得られる。
【0017】
前記溶湯注入点6とは、第1回転ロール2の表面に溶湯5を注入する位置である。前記
図1では、前記溶湯注入点6は、第1回転ロール2の頂点Aよりも第2回転ロール4側に位置しているが、これに限定されない。前記溶湯注入点6は、前記
図1における第1回転ロール2の表面において、例えば、前記
図1における位置Gから回転方向に第2回転ロール4との対峙位置までの範囲内で設定できる。
【0018】
本実施形態では、溶湯注入具3に溶湯5を沿わせて溶湯注入点6に溶湯5を注入する。溶湯注入具3は、第1回転ロール2とほぼ接触する位置に配置される。前記溶湯注入点6に溶湯5を注入するための溶湯注入具3と、溶湯注入点6における前記第1回転ロール表面の接線Bとがなす角度θ1を、0度(°)以上、20度(°)以下とする。この溶湯注入具3により、溶湯注入点6への溶湯の注入方向、すなわち、溶湯注入点6における溶湯5の第1回転ロール2の回転軸に垂直な平面上における流下方向と、溶湯注入点における前記第1回転ロール表面の接線とがなす角度θ1(以下、前記角度θ1を、単に「溶湯注入角度θ1」ということがある)を、0度以上、20度以下とする。なお、本実施形態の製造装置を構成するロール等の前記角度を含めた配置は、第1回転ロールおよび第2回転ロールの回転軸方向に製造装置を見たときの規定である。溶湯注入角度θ1を20度以下とすることによって、溶湯流速のロール面に垂直成分が小さく溶湯の流速を速めることができ、さらに溶湯のロール面に平行な速度がロール周速以上の場合,ロールと溶湯の実接触面積が狭くなり熱伝達が小さくなり、その結果、第1回転ロールによる過剰な冷却を抑制でき、鋳造板の表面割れを十分に抑制できると考えられる。上記溶湯注入角度θ1は、好ましくは15度以下、より好ましくは10度以下である。一方、実際に注湯可能である観点から、上記溶湯注入角度θ1は0度以上とする。
【0019】
前記溶湯注入具3は、溶湯注入点6への溶湯5の注入方向と、溶湯注入点6における前記第1回転ロール2表面の接線Bとがなす角度θ1が、0度以上、20度以下を形成するように、溶湯5を第1回転ロール2の表面に注入できればよく、その具体的形態は問わない。前記溶湯注入具3は、上記角度θ1を容易に形成する観点から、前記溶湯注入点6を終点とする直線部分を有するものが好ましい。前記溶湯注入具3の、溶湯5の注入方向に垂直な断面の形状は、例えば半円状、円筒状、逆台形等の多角形状とすることが挙げられ、例えば樋のような形状であって耐火性の材料で形成された溶湯注入具を用いることができる。溶湯注入具3は、溶湯注入点6において上記角度θ1を満たせばよく、一直線の形状に限られない。溶湯注入具は、例えば
図2に示す通り角部11を有していてもよい。角部11を有する場合、該角部11の角度や、溶湯注入点から角部11までの距離は適宜決定することができ、例えば、溶湯注入点から角部11までの距離は10mm以上とすることができる。
【0020】
前記
図1では、前記溶湯注入点6へ溶湯5を注入するために耐火性のるつぼ8を使用しているがこれに限定されない。図示していないが、例えばタンディッシュ等を介して溶湯5を溶湯注入具3へ供給してもよい。
【0021】
本実施形態に係るアルミニウム合金鋳造板の製造方法では、前記第1回転ロールと前記第2回転ロールの間に溶湯を保持する溶湯溜まり7を形成させる。溶湯溜まりの量は、前記第1回転ロールと前記第2回転ロールのロール径、配置、溶湯の流量等にもよるが、目的の厚さの板を鋳造できる量であればよい。例えば、前記第1回転ロールと前記第2回転ロールの径がそれぞれ1000mmと300mmあって、前記第1回転ロールと前記第2回転ロールの対峙位置が、前記第1回転ロールの縦半径に対して、おおよそ35度である場合、側面視で、溶湯溜まりが第1ロール表面と接触している長さは、例えば200mm以下の範囲内で形成されうる。
【0022】
図3は、溶湯注入点から前記溶湯溜まりまでの距離Lを説明するための模式図であり、
図3(a)が上面図、
図3(b)が側面図である。
図3に示す通り、距離Lは、第1回転ロール2の表面における、溶湯注入点6から溶湯溜まり7までの距離である。この溶湯注入点から溶湯溜まりまでの距離Lは、0mm超、(ロール周速(mm/秒)×0.2秒)mm以下とする。上記距離Lを(ロール周速(mm/秒)×0.2秒)mm以下とすることによって、溶湯のロール接触面が過度に冷却されずに凝固するといった効果が得られる。上記距離Lは、好ましくは0mm超であってロール周速(mm/秒)×0.1秒mm以下である。
【0023】
本実施形態に係るアルミニウム合金鋳造板の製造方法において、前記第1回転ロールと前記第2回転ロールのロール周速は同一であり、上記ロール周速(mm/秒)は、前記第1回転ロールと前記第2回転ロールのロール周速をいう。上記ロール周速の範囲は特に限定されない。高速連続鋳造を行う観点からは、上記ロール周速を10~120m/分の範囲とすることが挙げられる。
【0024】
更に、本実施形態に係るアルミニウム合金鋳造板の製造方法では、前記溶湯の流速を、前記第1回転ロールおよび前記第2回転ロールのロール周速よりも速くする。上記溶湯の流速を、溶湯流速のロール面に垂直成分が小さく、さらに溶湯のロール面に平行な速度がロール周速以上と速めることによって、鋳造板の表面割れを十分に抑制することができる。前記溶湯の流速は、例えば溶湯が一定距離を通過するのに要する時間を測定して求めることができる。溶湯の流速が、ロール周速よりも速くなればよく、具体的手段は特に問わない。具体的手段として、例えば注湯する位置の高さを調節、すなわち位置エネルギーを利用する方法、低圧鋳造のようにガス圧で溶湯を押し出す方法等が挙げられる。
【0025】
本実施形態に係るアルミニウム合金鋳造板の製造方法で用いられる第1回転ロールと第2回転ロールのサイズ、配置については、上記規定を満たしていれば特に限定されない。2つのロールは同径であっても異径であってもよい。双ロール鋳造の方式は、2つのロールが、前記
図1の通り斜めに並ぶ形式の他、
図4に例示する通り水平に並ぶ縦型の連続鋳造方式であってもよい。
【0026】
本実施形態の製造方法に係る製造装置の模式図を
図5に例示する。
図5に示す通り、前記第1回転ロール2と前記第2回転ロール4の対峙位置Dと、前記第1回転ロール2の中心とを結ぶ線Fと、前記第1回転ロールの縦半径Cとがなす角度θ2が、0度(°)超、90度(°)未満の範囲内となるように、前記第2回転ロール4を配置することが好ましい。前記対峙位置Dは、第1回転ロール2と第2回転ロール4の最近接位置でもある。
図5(a)は前記第1回転ロール2が反時計回りの方向に回転する場合を説明した図であり、
図5(b)は前記第1回転ロール2が時計回りの方向に回転する場合を説明した図である。上記角度θ2は、より好ましく10度以上、さらに好ましくは15度以上であり、より好ましくは30度以下、さらに好ましくは20度以下である。第1回転ロール2と第2回転ロール4の対峙面に形成された間隙は、製造されるアルミニウム合金鋳造板の板厚等に応じて適宜決定すればよい。
【0027】
上記
図5に模式的に例示した様な好ましい本実施形態によれば、前記
図4の垂直型の連続鋳造方法と異なり、注湯設備を一つとすることができ、注湯設備を配置しやすいため好ましい。また、第2回転ロールと溶湯との接触開始位置近傍の接触圧力を低く保つことができ、ロールと溶湯の実接触面積が狭くなり熱伝達が小さくなり、その結果より高速で、第2回転ロールによる過剰な冷却を抑制でき、鋳造板の表面割れを十分に抑制できると考えられる。
【0028】
図5では、前記第2回転ロールとして、前記第1回転ロールよりもロール径の小さい回転ロールを用いているがこれに限定されない。第2回転ロールのロール径が、第1回転ロールのロール径と同等又は大きくてもよい。より容易に鋳造する観点からは、前記
図5に示す通り、前記第1回転ロールよりもロール径の小さい第2回転ロールを用いることが好ましい。双ロールの各ロール径や、2つのロールのロール径の比率は、アルミニウム合金鋳造板のサイズや製造量に応じて適宜決定することができる。
【0029】
本実施形態のアルミニウム鋳造板の製造方法および製造装置は、規定する要件を満たせばよく、該製造方法および製造装置における、規定以外の条件については特に問わない。よって別の実施形態として、
図6に例示する通り、前記第1回転ロール2に加えて、前記第2回転ロール4においても、本実施形態に係る製造方法および製造装置で規定する要件を満たすように、溶湯注入具3Aおよび仕切り具10Aを用いて、るつぼ8Aからも溶湯5Aを溶湯注入点6Aに注入し、鋳造を行ってもよい。
【0030】
(注湯温度)
第1回転ロール表面の溶湯注入点に注入させる溶湯の温度、すなわち注湯温度は、例えば液相線温度+(5~150℃)とすることができる。
【0031】
(第2回転ロールの押圧荷重)
本実施形態では、前記第1回転ロール表面に注入された溶湯を、第1回転ロールと第2回転ロールで押圧冷却して鋳造を行うが、第2回転ロールの押圧荷重は、該鋳造を行うことができれば特に問わない。前記押圧荷重は、鋳造するアルミニウム合金鋳造板の大きさ、アルミニウム合金鋳造板を構成する合金の種類にもよる。例えば第2回転ロールの押圧荷重は、好ましくは0.005~0.5kN/mm、より好ましくは0.1~0.3kN/mmとすることができる。
【0032】
(アルミニウム合金の種類)
延性・耐久性を確保する観点から、本実施形態に係るアルミニウム合金鋳造板は、Mg含有量が2質量%以上含むアルミニウム合金からなる。本実施形態に係るアルミニウム合金鋳造板のMg含有量の上限は、例えば10質量%以下である。上記アルミニウム合金として、下記表1に示す成分(単位は質量%、Mg以外の元素は下限が0質量%であってもよい)を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるものが挙げられる。これらの成分組成の範囲内にあるアルミニウム合金種として、例えば、JIS H 4000(2014)で規定されている合金番号5052、自動車のボディーや缶に使用される、Mg含有量が4.5質量%~5質量%の合金番号5182、JIS H 5202(2010)で規定されている合金番号AC7A等の化学成分の範囲が挙げられる。本実施形態に係るアルミニウム合金鋳造板の製造方法によれば、表面割れがより生じやすいMg含有量が4質量%以上、6質量%以下のアルミニウム合金鋳造板であっても、表面割れを抑制して高速で製造することができる。
【0033】
【0034】
(アルミニウム合金鋳造板の板厚)
本実施形態の製造方法で製造されるアルミニウム合金鋳造板の板厚は、例えば1mm以上、5mm以下である。
【0035】
本実施形態に係るアルミニウム合金鋳造板の製造方法は、上記鋳造に係る条件以外は限定されない。例えば、溶湯の準備工程、鋳造後の熱間圧延、冷間圧延等は公知の方法を採用することができる。例えば、鋳造後はコイルにまいて、その後にコイルから巻き戻しして熱間圧延、冷間圧延に供することが挙げられる。
【0036】
[アルミニウム合金鋳造板の製造装置]
本実施形態に係るアルミニウム合金鋳造板の製造装置は、
Mgを2質量%以上含むアルミニウム合金鋳造板を、双ロール式連続鋳造方法で製造するための装置であって、
冷却能を有する第1回転ロールと、
前記第1回転ロール表面の溶湯注入点に、Mgを2質量%以上含むアルミニウム合金の溶湯を注入するための溶湯注入具と、
前記溶湯注入点に注入された溶湯を、前記第1回転ロールとともに押圧冷却凝固するための第2回転ロールを有し、
前記溶湯注入具と、前記溶湯注入点における前記第1回転ロール表面の接線とがなす角度θ1が、0度以上、20度以下であるところに特徴を有する。本実施形態のアルミニウム合金鋳造板の製造装置における各部位の詳細な態様、好ましい態様は、前述のアルミニウム合金鋳造板の製造方法で述べた通りである。
【実施例0037】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前述および後述する趣旨に合致し得る範囲で、適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0038】
下記表2に成分組成を示すAC7A合金のAl-Mg系アルミニウム合金鋳造板を、前記
図1に模式的に示す装置を用いて、双ロール式連続鋳造法により製造した。詳細には、サイズが#20の耐火性るつぼに入れた上記アルミニウム合金の溶湯を、溶湯注入具を用いて、溶湯注入点に、溶湯注入角度θ1が、実験No.1では0度、実験No.2では20度、実験No.3では40度となるよう注入し、鋳造を行って、板厚が3.4~3.7mmで幅が100mmのアルミニウム合金鋳造板を得た。前記溶湯注入点から前記溶湯溜まりまでの距離Lは、いずれの例も200mmとした。鋳造におけるその他の詳細条件は下記の通りである。また、上記例以外に、実験No.4として、
図7に模式的に示す従来の方法でもアルミニウム合金鋳造板を得た。上記
図7では、溶湯注入具を用いず、仕切り具10を設けて溶湯溜まりを形成した。それ以外のロール形状・設置位置、溶湯量等は、上記実験No.1~3と同様にした。
(鋳造条件)
注湯温度:675℃
第1回転ロールのロール径:1000mm×100mm
第2回転ロールのロール径:300mm×100mm
第2回転ロールによる押圧荷重(初期のロール荷重):0.3kN/mm
第1回転ロールと第2回転ロールの対峙位置:第1回転ロールの縦半径に対して35度
溶湯注入具の形状・サイズ(長さ方向・幅方向)300mm×100mm
溶湯注入点の位置:第1回転ロールの縦半径に対して10度
第1回転ロールと第2回転ロールのロール周速:30m/min
溶湯の流速:35m/min
溶湯溜まりのサイズ:長さ200mm
【0039】
【0040】
上記の通り得られた各アルミニウム合金鋳造板の表面性状、組織を次の通り測定した。
【0041】
(表面割れの観察)
各アルミニウム合金鋳造板の表面性状を、カラーチェック方式で行い、着色された表面割れの状態を確認した。その結果を
図8に示す。
図8は、各アルミニウム合金鋳造板の上面写真であり、上下の方向が鋳造板の幅方向である。
図8(a)が実験No.1(溶湯注入角度θ1=0度)、
図8(b)が実験No.2(溶湯注入角度θ1=20度)、
図8(c)が実験No.3(溶湯注入角度θ1=40度)、
図8(d)が実験No.4(従来方法)の結果である。
【0042】
上記
図8(a)~(d)の比較から、
図8(a)および
図8(b)の通り、本実施形態の製造方法により製造したアルミニウム合金鋳造板は、溶湯注入角度を大きくした
図8(c)および従来方法で実施した
図8(d)よりも、表面割れが十分抑制されていることがわかる。
【0043】
図8(a)および
図8(b)の写真における板の上部と下部の割れの位置は、
図9に示す通り、溶湯溜まりに位置する部分である。この
図9から、例えばるつぼの形状・サイズ等の変更により溶湯の幅Eを増加させれば、
図8(a)および
図8(b)における、表面割れがより抑制されると考えられる。
【0044】
(断面組織の観察)
実験No.1のアルミニウム合金鋳造板を用いて、該鋳造板の板厚方向の断面を、光学顕微鏡により倍率50倍で観察した写真を
図10(a)に示す。更に、
図10(a)の図の断面の下端近傍をパソコン上で拡大した写真を
図10(b)に示す。また、実験No.4のアルミニウム合金鋳造板を用いて、同様に観察した写真を
図11に示す。
【0045】
更に実験No.1と実験No.4のアルミニウム合金鋳造板を用いて、文献「縦型高速双ロールキャストしたAl-Mg合金板の表面模様に及ぼすMg含有量の影響」,原田陽平 他,J.JFS,Vol.91,No.1(2019)pp.021~027に記載の方法と同様にしてWeck’s試薬による腐食を行った後、光学顕微鏡により観察した写真を
図12に示す。
図12(a)が実験No.1のアルミニウム合金鋳造板、
図12(b)が実験No.4のアルミニウム合金鋳造板後の断面組織写真であり、写真下部の黒色部分との境界が第1ロール接触面(下面)である。これらの写真において、従来の方法で製造した実験No.4のアルミニウム合金鋳造板では、
図12(b)の矢印にて、白線として観察される通り、Mgが粒界に染み出している。Mgが染み出している部分は,凝固が遅れ、割れが発生する原因となる。これに対して、本実施形態の製造方法で製造された実験No.1のアルミニウム合金鋳造板では、上記Mgの染み出しは観察されなかった。
【0046】
次に、実験No.1~4のアルミニウム合金鋳造板を用い、板厚が1mmとなるまで冷間圧延を行って圧延板を得た。圧延板における第1ロール接触面(下面)の写真を
図13に示す。該写真で冷間圧延後の表面割れを確認した。
図13(a)が実験No.1(溶湯注入角度θ1=0度)、
図13(b)が実験No.2(溶湯注入角度θ1=20度)、
図13(c)が実験No.3(溶湯注入角度θ1=40度)、
図13(d)が実験No.4(従来方法)の結果である。これらの写真から、
図13において、本実施形態の製造方法により製造したアルミニウム合金鋳造板を用いれば、アルミニウム合金圧延板は、表面割れが存在しないが、従来の方法で製造したアルミニウム合金鋳造板を用いた場合には、依然として割れが存在していることがわかる。
【0047】
本実施形態によれば、高Mg含有(2質量%以上)のAl-Mg合金の鋳造において、ロール周速を低下させることなく、例えばロール周速が20m/min以上の高速で、更にはロール荷重を従来と同様に、例えば0.3kN/mm程度に設定した場合であっても、表面割れの抑えられたAl-Mg合金鋳造板を製造できた。
本実施形態に係るアルミニウム合金鋳造板の製造方法は、延性・耐久性に優れ、かつ軽量である自動車のボディーや缶に適用される、Mg含有量の多いアルミニウム合金鋳造板の製造に適している。