(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022078829
(43)【公開日】2022-05-25
(54)【発明の名称】植物葉由来製造物の製造方法、及び植物葉由来粉末
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20220518BHJP
【FI】
A23L5/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020189769
(22)【出願日】2020-11-13
(71)【出願人】
【識別番号】591240940
【氏名又は名称】株式会社大和生物研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100166545
【弁理士】
【氏名又は名称】折坂 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100142653
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 直樹
(72)【発明者】
【氏名】堀内 美咲
(72)【発明者】
【氏名】中原 喜史
(72)【発明者】
【氏名】戸枝 一喜
(72)【発明者】
【氏名】大泉 高明
【テーマコード(参考)】
4B035
【Fターム(参考)】
4B035LC16
4B035LG37
4B035LP56
4B035LP59
(57)【要約】
【課題】ササ抽出残渣等の湿潤処理葉を適切かつ有効に利用する。
【解決手段】イネ科タケ亜科の植物の葉に含まれる非水溶性成分が塩基性水溶液を保持することで湿潤の状態になっている湿潤体である湿潤処理葉を用いて前記植物の葉に由来する製造物である植物葉由来製造物を製造する植物葉由来製造物の製造方法であって、湿潤処理葉の少なくとも一部が水に浸かるように加水を行う加水工程(S202)と、加水工程において加水した水と陽イオン交換樹脂とを接触させることで湿潤処理葉が保持している水性成分のpHを中性に近づける中和工程(S204)とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イネ科タケ亜科の植物の葉に含まれる非水溶性成分が塩基性水溶液を保持することで湿潤の状態になっている湿潤体である湿潤処理葉を用いて前記植物の葉に由来する製造物である植物葉由来製造物を製造する植物葉由来製造物の製造方法であって、
前記湿潤処理葉の少なくとも一部が水に浸かるように加水を行う加水工程と、
前記加水工程において加水した水と陽イオン交換樹脂とを接触させることで前記湿潤処理葉が保持している水性成分のpHを中性に近づける中和工程と
を備えることを特徴とする植物葉由来製造物の製造方法。
【請求項2】
前記湿潤処理葉は、前記植物の葉に由来する水溶性の成分を塩基性水溶液中で抽出する抽出処理で得られる液体成分から分離されることで生じる残渣であり、
前記抽出処理は、前記植物の葉が含むクロロフィルに由来するクロロフィリン化合物を含む前記液体成分を抽出する処理であることを特徴とする請求項1に記載の植物葉由来製造物の製造方法。
【請求項3】
前記中和工程において、前記湿潤処理葉中の前記非水溶性成分と、前記陽イオン交換樹脂とが直接混じり合うことを防止しつつ、前記非水溶性成分の外にある水と前記陽イオン交換樹脂とを接触させることで、前記湿潤処理葉の外にある水と前記陽イオン交換樹脂とを接触させることを特徴とする請求項1又は2に記載の植物葉由来製造物の製造方法。
【請求項4】
前記中和工程において、水を通し、かつ、前記陽イオン交換樹脂を漏出しない収容体に前記陽イオン交換樹脂を収容して、前記湿潤処理葉の周囲の水と前記収容体とを接触させることで、前記湿潤処理葉の外にある水と前記陽イオン交換樹脂とを接触させることを特徴とする請求項3に記載の植物葉由来製造物の製造方法。
【請求項5】
前記中和工程において、液体を流す流路の途中に前記陽イオン交換樹脂を収容し、前記流路内に前記湿潤処理葉の前記非水溶性成分が進入することを防止しつつ、前記湿潤処理葉の周囲にある水を前記流路に通すことで、前記湿潤処理葉の外にある水と前記陽イオン交換樹脂とを接触させることを特徴とする請求項3に記載の植物葉由来製造物の製造方法。
【請求項6】
イネ科タケ亜科の植物の葉に由来する植物葉由来粉末であって、
多糖と、
リグニン加水分解物と、
前記葉に由来するクロロフィリン化合物と
を含むことを特徴とする植物葉由来粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばササ葉等のイネ科タケ亜科の植物の葉に由来する植物葉由来製造物の製造方法、及び植物葉由来粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な分野において、ササ葉を利用して製造される製造物が用いられている。また、ササ葉を利用した製造物に関し、従来、塩基性水溶液(塩基性化合物水溶液)と、無機酸鉄塩及び/又は有機酸鉄塩水溶液とを使用して、鉄クロロフィリン化合物(鉄クロロフィリン類)を高濃度で含有し、緑色の色調を有するササ抽出液を得る方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法によりササ抽出液を製造する場合、有用なササ抽出液を適切に製造することができる。しかし、この場合、ササ抽出液を製造する工程において、ササ抽出液を抽出した後の固形成分である残渣(以下、ササ抽出残渣という)が発生することになる。そして、このようなササ抽出残渣については、通常、産業廃棄物として処分を行うことが必要になる。
【0005】
そのため、従来、ササ抽出残渣を処分するために、多くのコストが必要になるという問題が発生していた。また、この場合、廃棄物が多く発生することで、環境への負荷が大きくなること等も考えられる。そこで、本発明は、上記の課題を解決できる植物葉由来製造物の製造方法、及び植物葉由来粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願の発明者は、ササ抽出残渣について、廃棄物として処分するのではなく、有効利用をすることで、廃棄物の発生を抑えることを考えた。しかし、例えば特許文献1の方法のように、塩基性水溶液を用いてササ抽出液を製造する場合、ササ抽出残渣は、塩基性水溶液を含んで湿潤した状態になる。
【0007】
この場合、例えば微生物を利用してササ抽出残渣を分解する前処理等を行えば、ササ抽出残渣を有効利用すること等も可能になる。しかし、この場合、前処理に多くの時間やコストがかかることが考えられる。また、この場合、微生物がササ抽出残渣を分解することで、ササ抽出残渣が含んでいた有効成分まで分解されてしまう場合がある。また、その結果、このような方法を用いる場合、ササ抽出残渣の用途について、例えば肥料や土壌改良剤等の限られた用途のみになることが考えられる。
【0008】
また、例えば乾燥させたササ抽出残渣を微量成分として添加する用途等であれば、前処理等を行わずに、ササ抽出残渣を用いることも考えられる。より具体的に、このような用途としては、例えば、化粧品の原料等としてササ抽出残渣を用いること等が考えられる。しかし、この場合、ササ抽出残渣の使用量が少なくなるため、ササ抽出残渣の廃棄量を十分に減らすことにはならない。そのため、微量のササ抽出残渣のみを利用する用途では、ササ抽出残渣の有効成分を十分に利用できないことが考えられる。
【0009】
これに対し、本願の発明者は、ササ抽出残渣が含んでいる塩基性水溶液を中和(以下、ササ抽出残渣の中和という)することで、より容易かつ適切にササ抽出残渣を利用することを考えた。また、その方法として、当初、塩酸等の酸性溶液を用いることを考えた。しかし、このような方法でササ抽出残渣の中和を行う場合、中和によって生成される塩がササ抽出残渣中に残ることが考えられる。例えば、ササ抽出残渣中の塩基性水溶液がナトリウム(Na)を含む場合において、酸性溶液として塩酸を用いると、中和によって食塩が発生することになる。また、例えばクエン酸溶液等の塩酸以外の酸性溶液を用いる場合にも、塩等の残存量が多くなること等が考えられる。そして、この場合、ササ抽出残渣の用途への影響が大きくなり、利用可能な用途が限られることになる。
【0010】
この点に関し、例えば酸性溶液でササ抽出残渣を中和した後に、ササ抽出残渣を水で十分に洗浄すれば、発生する塩の影響を抑えられるように思われる。また、そもそも、ササ抽出残渣の中和を行わなくても、大量の水でササ抽出残渣を洗浄すれば、塩基性水溶液の影響を適切に低減できるようにも思われる。しかし、これらの方法によってササ抽出残渣を洗浄する場合、ササ抽出残渣を有効利用したとしても、その代わりに、大量の排水が発生し、各種処理コスト等の増大や環境負荷につながる。また、大量の水での洗浄を行うことで、ササ抽出残渣中に残存する抽出液の有効成分が流失すること等も考えられる。
【0011】
そこで、本願の発明者は、酸性溶液でササ抽出残渣を中和するのではなく、陽イオン交換樹脂を用いて金属イオンを水素イオンに交換することによりササ抽出残渣を中和することを考えた。しかし、ササ抽出残渣が含む塩基性水溶液は、ササ抽出残渣の中に取り込まれた状態になっている。そのため、単に陽イオン交換樹脂を用いたとしても、ササ抽出残渣を適切に中和することは困難である。これに対し、本願の発明者は、単に陽イオン交換樹脂を用いるのではなく、ササ抽出残渣の周囲にも水が存在する状態になるように、ササ抽出残渣に加水を行い、ササ抽出残渣の周囲の水と陽イオン交換樹脂とを接触させることで、ササ抽出残渣の中和を行うことを考えた。また、実際に様々な実験を行うことで、このような方法でササ抽出残渣の中和を適切に行い得ることを確認した。
【0012】
また、本願の発明者は、更なる鋭意研究により、このようにして中和を行う方法について、特許文献1の方法でササ抽出液を製造する場合に生じるササ抽出残渣に限らず、イネ科タケ亜科の植物の葉由来の抽出残渣等の湿潤体が同様の状態で塩基性水溶液を保持している場合にも、適切に中和を行い得ることを見出した。そして、本願の発明者は、上記の効果を得るために必要な特徴を見出し、本発明に至った。
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明は、イネ科タケ亜科の植物の葉に含まれる非水溶性成分が塩基性水溶液を保持することで湿潤の状態になっている湿潤体である湿潤処理葉を用いて前記植物の葉に由来する製造物である植物葉由来製造物を製造する植物葉由来製造物の製造方法であって、前記湿潤処理葉の少なくとも一部が水に浸かるように加水を行う加水工程と、前記加水工程において加水した水と陽イオン交換樹脂とを接触させることで前記湿潤処理葉が保持している水性成分のpHを中性に近づける中和工程とを備える。
【0014】
このように構成すれば、例えば、湿潤処理葉が保持している水溶液のpHを適切に中性に近づけることができる。また、これにより、例えば、湿潤処理葉をより適切に有効利用することができる。中和工程では、湿潤処理葉が保持している水性成分のpHについて、中性に近づけることで、例えば6~9程度に変化させることが考えられる。中和工程を行った後における湿潤処理葉が保持している水性成分のpHは、好ましくは7.5~8.5程度である。
【0015】
また、この構成において、湿潤処理葉は、例えば、イネ科タケ亜科の植物の葉に由来する水溶性の成分を塩基性水溶液中で抽出する抽出処理で得られる液体成分から分離されることで生じる残渣(抽出残渣)である。この場合、この残渣について、例えば、抽出処理で用いる塩基性水溶液を保持して、湿潤の状態になると考えることができる。このように構成すれば、例えば、抽出処理により、イネ科タケ亜科の植物の葉に含まれる有効成分に由来する成分を含む抽出液を適切に製造することができる。また、この場合、加水工程及び中和工程を行うことで、例えば、抽出の残渣についても、適切かつ有効に利用することが可能になる。また、これにより、例えば、残渣を産業廃棄物として処理する場合等と比べて、環境への負荷を低減することが可能になる。
【0016】
抽出処理としては、例えば、植物の葉が含むクロロフィルに由来するクロロフィリン化合物を含む液体成分を抽出する処理を行うことが考えられる。また、抽出処理を実行する抽出工程については、例えば、植物葉由来製造物の製造方法における一部の工程として行うことが考えられる。このように構成すれば、例えば、植物葉由来製造物と共に、植物葉に由来する抽出液を適切に製造することができる。また、抽出処理については、例えば、植物葉由来製造物の製造方法における工程とは別の工程として行ってもよい。
【0017】
また、この構成において、イネ科タケ亜科の植物の葉としては、例えば、イネ科タケ亜科ササ属の植物の葉を好適に用いることができる。このように構成すれば、例えば、ササ属の葉(ササ葉)に含まれる有効成分に由来する成分を含む植物葉由来製造物を適切に製造することができる。また、この場合、例えば上記の抽出処理を行うことで得られる湿潤処理葉の一例である残渣について、ササ抽出残渣等と考えることができる。
【0018】
中和工程において、陽イオン交換樹脂としては、公知の陽イオン交換樹脂を好適に用いることができる。また、イオン交換膜電気透析法を用いることも考えられる。また、中和工程では、例えば、湿潤処理葉における非水溶性成分と、陽イオン交換樹脂とが直接混じり合うことを防止しつつ、湿潤処理葉における非水溶性成分の外にある水と陽イオン交換樹脂とを接触させることが好ましい。この場合、湿潤処理葉における非水溶性成分と陽イオン交換樹脂とが直接混じり合うことを防止することについては、例えば、接触を実質的に防止すること等と考えることができる。このように構成すれば、例えば、湿潤処理葉における非水溶性成分とイオン交換樹脂とが混じり合うこと等を適切に防ぐことができる。また、これにより、例えば、植物葉由来製造物に陽イオン交換樹脂が混入すること等を適切に防止することができる。また、例えば、陽イオン交換樹脂について、より適切に再生して、再利用することが可能になる。
【0019】
また、より具体的に、中和工程では、例えば、水を通し、かつ、陽イオン交換樹脂が漏出しない収容体に陽イオン交換樹脂を収容して、湿潤処理葉の周囲の水(加水溶液)と収容体とを接触させることが考えられる。このように構成すれば、例えば、湿潤処理葉における非水溶性成分と陽イオン交換樹脂とが直接混じり合うことを防止しつつ、湿潤処理葉の外にある水(加水溶液)と陽イオン交換樹脂とを適切に接触させることができる。また、これにより、例えば、陽イオン交換樹脂を用いて中和の処理を適切に実行することができる。この場合、収容体として、例えば、少なくとも一部が不織布で形成された袋を用いることが考えられる。このように構成すれば、例えば、湿潤処理葉における非水溶性成分と陽イオン交換樹脂とが直接混じり合うことを適切に防止することができる。
【0020】
また、中和工程において、例えば、液体を流す流路の途中に陽イオン交換樹脂を設置し、流路内に湿潤処理葉の非水溶性成分が進入することを防止しつつ、湿潤処理葉の周囲にある水を流路に流すこと等も考えられる。この場合、液体を流す流路について、例えば、加水溶液を流す流路等と考えることができる。また、このような流路としては、例えば、加水溶液を循環させる流路を用いることが考えられる。このように構成した場合も、例えば、湿潤処理葉における非水溶性成分と陽イオン交換樹脂とが直接混じり合うことを防止しつつ、湿潤処理葉の外にある水と陽イオン交換樹脂とを適切に接触させることができる。この場合、例えば、流路の途中に設置したカラム等の中に陽イオン交換樹脂を収容することが考えられる。カラムについては、例えば、両端に穴の空いた筒状の容器の一例等と考えることができる。また、中和工程では、例えば、水が流路を繰り返し流れるように、湿潤処理葉の外にある水を循環させることが考えられる。このように構成した場合も、例えば、中和工程での処理を適切に実行することができる。
【0021】
また、この構成において、加水工程では、例えば、湿潤処理葉の湿重量の0.5~4倍程度の重量の水を加水することが考えられる。この点に関し、例えば、加水工程で加える水が不足する場合、湿潤処理葉の外にある水の量が不十分になり、中和工程において、陽イオン交換樹脂と水とを適切かつ十分に接触させることが難しくなることが考えられる。また、加水工程で加える水が過剰である場合、例えば、中和処理を行った後に、多量の水を処理すること等が必要になる。より具体的に、例えば、中和工程の後に湿潤処理葉を乾燥させる場合、乾燥に要する時間やコストが大きく増大すること等も考えられる。これに対し、上記のように構成すれば、例えば、過剰な加水を行うことなく、中和工程での処理等を適切に実行することができる。加水工程での加水量は、好ましくは、湿潤処理葉の湿重量の1~4倍程度、更に好ましくは、湿潤処理葉の湿重量の2~3倍程度である。
【0022】
また、植物葉由来製造物の製造方法においては、上記以外の工程を更に行ってもよい。この場合、例えば、中和工程が行われた後の湿潤処理葉を乾燥する乾燥工程等を更に行うことが考えられる。このように構成すれば、例えば、乾燥した状態の植物葉由来製造物を適切に製造することができる。乾燥工程では、例えば公知の方法で加熱を行うことで、湿潤処理葉を乾燥することが考えられる。また、より具体的に、この場合、例えば、回転するドラムを用いるドラム式で湿潤処理葉を乾燥すること等が考えられる。また、ドラム式で湿潤処理葉を乾燥する場合、ドラムの回転に従って湿潤処理葉が移動する状態になっていることが好ましい。そのため、この場合、加水工程において、例えば、湿潤処理葉がスラリー状になる量の水を加水することが考えられる。このように構成すれば、例えば、ドラム式によって湿潤処理葉を適切に乾燥することができる。
【0023】
また、乾燥工程を実行した後には、例えば、粉砕工程を更に行うこと等も考えられる。この場合、粉砕工程については、例えば、乾燥工程で湿潤処理葉を乾燥することで得られる乾燥物を粉状に粉砕することで植物の葉に由来する粉体を生成する工程等と考えることができる。このように構成すれば、例えば、粉末状の植物葉由来製造物を適切に製造することができる。
【0024】
また、上記のように、陽イオン交換樹脂を用いて中和工程を行う場合、例えば、中和によって余計な塩(例えば、食塩等)が生じること等を適切に防ぐことができる。また、これにより、例えば、余計な塩を含まない植物由来製造物を適切に製造することができる。そのため、植物葉由来製造物については、例えば、食品原料等として好適に用いることができる。
【0025】
また、本発明の特徴について、例えば、上記の方法で製造される製造物の特徴に着目して考えることもできる。この場合、例えば、イネ科タケ亜科の植物の葉に由来する植物葉由来粉末等を考えることができる。また、より具体的に、この場合、例えば、イネ科タケ亜科の植物の葉の塩基性水溶液抽出液に由来して、多糖、リグニン加水分解物、及びクロロフィリン化合物等を含むことを特徴とする植物葉由来粉末等を考えることができる。また、この場合、これらの成分について、例えば、植物葉由来粉末が含む有効成分等と考えることができる。また、塩基性水溶液抽出液を抽出する抽出過程で無機酸鉄塩(無機酸の鉄塩)及び有機酸鉄塩(有機酸の鉄塩)の少なくともいずれかを用いる場合、クロロフィリン化合物として鉄クロロフィリン化合物を含むことが考えられる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、例えば、ササ抽出残渣等の湿潤処理葉を適切かつ有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施形態に係るササ由来中和乾燥粉末の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図2】中和工程S204での中和の行い方の例を示す図である。
図2(a)は、中和工程S204での中和の行い方の一例を示す。
図2(b)は、中和工程S204での中和の行い方の他の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るササ由来中和乾燥粉末を製造する製造方法(ササ由来中和乾燥粉末の製造方法)の一例を示すフローチャートである。本例において、ササ由来中和乾燥粉末は、イネ科タケ亜科の植物の葉に由来する植物葉由来製造物の一例である。また、ササ由来中和乾燥粉末の製造方法は、湿潤処理葉を用いてイネ科タケ亜科の植物の葉に由来する植物葉由来製造物を製造する植物葉由来製造物の製造方法の一例である。この場合、湿潤処理葉については、例えば、イネ科タケ亜科の植物の葉に含まれる非水溶性成分が塩基性水溶液を保持することで湿潤の状態になっている湿潤体等と考えることができる。湿潤体については、例えば、液体成分を含むことで湿潤の状態になっているもの等と考えることができる。また、植物葉由来製造物について、イネ科タケ亜科の植物の葉に由来することについては、例えば、製造される植物葉由来製造物を構成する主な成分がイネ科タケ亜科の植物の葉に含まれていた成分であること等と考えることができる。イネ科タケ亜科の植物の葉に由来することについては、例えば、植物葉由来製造物の主原料がイネ科タケ亜科の植物の葉であること等と考えることもできる。植物葉由来製造物の主原料については、例えば、植物葉由来製造物を構成する物質を最も多くの割合で含んでいた原料等と考えることができる。
【0029】
また、本例において、ササ由来中和乾燥粉末の製造方法は、ササ抽出液製造工程S100及び抽出残渣処理工程S200を備える。ササ抽出液製造工程S100は、イネ科タケ亜科の植物の葉の一例であるササの葉(ササ葉)に由来する成分を抽出した抽出液であるササ抽出液を製造する工程である。ササ抽出液製造工程S100については、例えば、上記に示した特許文献1に開示されている方法と同一又は同様に実行することができる。ササ抽出液製造工程S100において行う動作については、後に更に詳しく説明をする。抽出残渣処理工程S200は、ササ抽出液製造工程S100でのササ抽出液の製造時に得られる副産物であるササ抽出残渣に対して所定の処理を行うことでササ由来中和乾燥粉末を製造する工程である。また、本例において、ササ抽出残渣は、湿潤処理葉の一例である。抽出残渣処理工程S200において行う動作についても、後に更に詳しく説明をする。
【0030】
ここで、上記のように、本例におけるササ由来中和乾燥粉末の製造方法では、ササ由来中和乾燥粉末以外に、ササ抽出液を更に製造する。ササ由来中和乾燥粉末の製造方法の変形例においては、ササ抽出液を製造せずに、ササ由来中和乾燥粉末の製造のみを行ってもよい。この場合、例えば、予め他の工場等でササ抽出液の製造を行い、そこで得られるササ抽出残渣を用いて、ササ由来中和乾燥粉末の製造を行う。また、この場合、例えば、
図1に示すフローチャートにおける抽出残渣処理工程S200での動作について、ササ由来中和乾燥粉末の製造方法の動作と考えることができる。
【0031】
続いて、ササ抽出液製造工程S100及び抽出残渣処理工程S200で行う動作について、更に詳しく説明をする。本例において、ササ抽出液製造工程S100では、まず、塩基性水溶液中でササ葉(例えば、クマザサの葉等)を加熱することで、ササ葉に対する前処理を行う(塩基性水溶液加熱工程S102)。ササ葉としては、生葉及び乾燥葉のいずれを用いもよい。また、葉そのまま用いてもよく、カッティングされた状態で用いてもよい。また、ササ葉は、茎を含んだものであってもよい。また、予め酵素処理や微粉化処理等を行ったものであってもよい。また、ササ葉としては、例えば、口語でササの葉といった場合に通常認識される一般的な葉の部分に加えて、葉鞘を更に用いてもよい。この場合、葉鞘を含めた部分について、ササ葉と考えることもできる。また、本例においては、葉鞘を含めた部分について、単に、ササ葉という。
【0032】
塩基性水溶液加熱工程S102において、塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、アンモニア水、アニリン、アルギニン等を使用することができる。また、これらの中でも、加水分解効率、コスト等の点で、水酸化ナトリウムが特に好ましい。また、塩基性水溶液としては、例えば、一価の強塩基性化合物を0.01~1mol/lの濃度で含有する水溶液を使用する。塩基性水溶液加熱工程S102での塩基性水溶液の加熱温度については、水の沸点(100℃)付近の温度にすることが好ましい。
【0033】
塩基性水溶液加熱工程S102で塩基性水溶液加熱を行うことで、例えば、ササ葉に含まれるクロロフィルが鹸化によってクロロフィリン塩となって分子自体の極性が高くなり、次の工程で加えられる極性の高いFeイオンが近づきやすくなると同時に、ササ葉の繊維が軟化し、鉄塩が葉全体のクロロフィル分子に接しやすくなることが考えられる。また、これにより、例えば、クロロフィリン化合物(クロロフィリン類)への水性溶媒中での鉄置換が容易になること等が考えられる。そのため、塩基性水溶液加熱工程S102については、例えば、後の工程での鉄置換反応を生じやすくするための前処理を行う工程等と考えることができる。また、塩基性水溶液加熱工程S102を行うことで、例えば、ササ葉の表面における光沢成分等が除去されること等も考えられる。塩基性水溶液加熱工程S102においては、例えば、塩基性化合物の濃度を変化させることや、塩基性化合物水溶液による処理時間を変化させること等により、後の工程での鉄置換反応での置換率をコントロールすることが可能である。また、本例においては、塩基性水溶液加熱工程S102の次の工程へ進む前に、処理後のササ葉を水洗する。
【0034】
また、塩基性水溶液加熱工程S102を行った後、塩基性水溶液加熱工程S102での加熱処理後の葉(加熱処理葉)を鉄塩の水溶液中で加熱処理することで、加熱処理葉の中に含まれるクロロフィリン化合物の中心に配位したマグネシウムを鉄に置換する(鉄置換反応工程S104)。この場合、鉄塩としては、例えば、無機酸鉄塩及び有機酸鉄塩の少なくともいずれか(無機酸鉄塩及び/又は有機酸鉄塩)を用いることが考えられる。より具体的に、鉄塩としては、例えば、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、第二鉄アセチルアセトナート、ぎ酸第二鉄、硝酸第二鉄、乳酸第一鉄、鉄カルボニル及びこれらの水和物から選ばれる鉄化合物等を用いることができる。また、これらの鉄化合物の使用量は、処理前のササ葉50kgに対してFeとして1~20モル量程度にすることが好ましい。鉄化合物の使用量が少ない場合、例えば、不完全な鉄置換や、中和後の色調の悪化を招くことが考えられる。また、多すぎると、コスト上昇のみならず、水洗によっても鉄イオンが完全に除去されない結果を招くこと等が考えられる。また、鉄塩としては、第一鉄塩を使用することがより好ましい。また、鉄置換反応工程S104において、水溶液のpHが高アルカリ域になると、置換反応が進行しにくくなることが考えられる。そのため、水溶液のpHについては、9以下(好ましくは7以下)にすることが考えられる。また、鉄置換反応工程S104での水溶液のpHについては、3~7程度に調整することが好ましい。この場合、例えば、酸化防止剤や還元剤等を添加した水溶液を用いること等も考えられる。
【0035】
尚、上記及び以下の説明において、pHについては、例えば、室温でのpH等と考えることができる。また、より厳密に考える場合、pHについては、例えば、25℃での水溶液のpH等と考えることができる。また、本例においては、鉄置換反応工程S104の次の工程へ進む前にも、処理後のササ葉を水洗する。
【0036】
また、鉄置換反応工程S104を行った後、塩基性水溶液を用いて、ササ抽出液の抽出を行う(塩基性水溶液抽出工程S106)。塩基性水溶液抽出工程S106において、塩基性水溶液としては、例えば、塩基性水溶液加熱工程S102で用いる塩基性化合物と同一又は同様の塩基性化合物の水溶液を用いることができる。この場合、例えば、抽出処理の対象となるササ葉(被処理葉)の1重量部に対して0.1~10モルの濃度の塩基性化合物水溶液1~20重量部を使用することが考えられる。また、塩基性水溶液のpHについては、10以上(例えば、10~14程度)とすることが好ましい。塩基性水溶液抽出工程S106での塩基性水溶液の加熱温度については、水の沸点(100℃)付近の温度にすることが好ましい。塩基性水溶液抽出工程S106については、例えば、加熱した塩基性水溶液を用いてササ抽出液を抽出する塩基性水溶液熱水抽出の工程等と考えることもできる。また、塩基性水溶液抽出工程S106では、塩基性化合物として、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムを組み合わせて用いること等も考えられる。この場合、例えば、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムのそれぞれの使用割合を変化させることで、工程の条件を調整すること等が考えられる。
【0037】
また、本例においては、上記のように鉄置換反応工程S104を行うことで、ササ葉が含むクロロフィルの中心の配位金属であるマグネシウムを鉄に置換して、水溶性の鉄クロロフィリン化合物を生成する。この場合、塩基性水溶液抽出工程S106について、例えば、塩基性化合物水溶液中での加熱処理によって鉄クロロフィリン化合物含有成分を抽出する工程等と考えることができる。また、鉄クロロフィリン化合物については、例えば、中心の配位元素が鉄に置換されたクロロフィリン化合物等と考えることができる。また、本例において、塩基性水溶液抽出工程S106は、イネ科タケ亜科の植物の葉に由来する水溶性の成分を塩基性水溶液中で抽出する抽出処理を行う抽出工程の一例である。塩基性水溶液抽出工程S106で行う抽出処理については、例えば、イネ科タケ亜科の植物の葉が含むクロロフィルに由来する鉄クロロフィリン化合物を含む液体成分を抽出する処理等と考えることもできる。
【0038】
また、上記のようにして塩基性水溶液抽出工程S106までを終えた時点において、鉄クロロフィリン化合物等を含む水溶液は、ササ葉に含まれていた繊維等の非水溶性成分と混じり合った状態になっている。そのため、本例においては、塩基性水溶液抽出工程S106を行った後に、塩基性水溶液における液体成分と固体成分とを分離する(固液分離工程S108)。より具体的に、本例において、固液分離工程S108では、金属製の網や塩基性水溶液に強い素材でできている布等を用い、例えば吸引や圧搾濾過等の方法により、液体成分と固体成分とを分離する。固液分離工程S108を行うことにより、例えば、ササ葉に含まれていた繊維等と分離して、鉄クロロフィリン化合物を含むササ抽出液を適切に製造することができる。
【0039】
本例によれば、例えば、ササ葉に由来する有効成分を含むササ抽出液を適切に製造することができる。また、本例において、ササ抽出液は、イネ科タケ亜科の植物の葉に含まれる有効成分に由来する成分を含む抽出液の一例である。固液分離工程S108で得られるササ抽出液に対しては、例えば、ササ抽出液の公知の製造方法等と同様にして、ササ抽出液に対して求められる品質等に応じて、各種の後処理を行うことが考えられる。また、このような後処理としては、例えば、中和の処理等を行うことが考えられる。この場合、例えば、液体に対して行う公知の中和の処理により、ササ抽出液を中和することが考えられる。
【0040】
また、本例においては、固液分離工程S108でササ抽出液を分離した後に残る残渣であるササ抽出残渣に対し、抽出残渣処理工程S200での処理を行うことで、ササ由来中和乾燥粉末を製造する。この場合、ササ抽出残渣については、例えば、塩基性水溶液抽出工程S106での抽出処理で得られる液体成分から分離される固形成分によって生じる残渣等と考えることができる。また、塩基性水溶液抽出工程S106での抽出処理で得られる液体成分については、例えば、固液分離工程S108で分離される液体成分等と考えることができる。また、上記においても説明をしたように、ササ抽出残渣は、湿潤処理葉の一例である。そして、本例において、ササ抽出残渣は、塩基性水溶液抽出工程S106で使用された塩基性水溶液を保持することで、湿潤の状態になっている(例えば、後に説明をする実施例1の場合、ササ抽出残渣は、重量比で75%程度の塩基性水溶液を含む)。この場合、ササ抽出残渣について、例えば、ササ葉に含まれる非水溶性成分が塩基性水溶液を保持することで湿潤の状態になっていると考えることができる。この非水溶性成分は、例えば、ササ葉における非水溶性の繊維等である。
【0041】
尚、ササ抽出残渣が湿潤の状態になっていることについては、例えば、ササ葉の固形成分が水分を吸収して湿っている状態等と考えることができる。湿潤の状態については、例えば、水が垂れない状態で水分を含んでいる状態等と考えることもできる。水が垂れない状態については、例えば、金属製の網等の水が抜ける穴がある物体の上に置いた場合に連続的に水が滴り落ちない状態等と考えることができる。また、より具体的に、本例において、ササ抽出残渣が湿潤の状態になっていることについては、例えば、固液分離工程S108で液体成分を分離した後の固体成分での湿った状態等と考えることができる。
【0042】
また、ササ抽出残渣が塩基性水溶液を保持していることについては、例えば、ササ抽出残渣が含んでいる水分が塩基性になっていること等と考えることができる。ササ抽出残渣が含んでいる水分が塩基性になっていることについては、例えば、強い圧力を加えること等によってササ抽出残渣から水分を絞り出した場合にその水分が塩基性になっていること等と考えることができる。このような水分のpHについては、公知の方法で測定することが考えられる。また、本例において、固液分離工程S108を行った直後においてササ抽出残渣が含んでいる水分のpHについては、塩基性水溶液抽出工程S106で使用された塩基性水溶液のpHを反映して、塩基性になっている。この場合、ササ抽出残渣が含んでいる水分のpHは、例えば、10程度又はそれ以上(例えば、10~14程度)である。
【0043】
また、本例において、抽出残渣処理工程S200では、ササ抽出残渣が含んでいる水分のpHを中性に近づける処理を行う。より具体的に、本例の抽出残渣処理工程S200では、固液分離工程S108で得られるササ抽出残渣に対し、ササ抽出残渣の少なくとも一部が水に浸かるように、加水を行う(加水工程S202)。この場合、ササ抽出残渣の全体が水に浸かるように、加水を行うことが好ましい。加水工程S202を行うことにより、例えば、ササ抽出残渣の周囲に水が存在する状態になる。そして、本例においては、この水を利用して、ササ抽出残渣の中和の処理を行う(中和工程S204)。この場合、ササ抽出残渣の中和については、例えば、ササ抽出残渣が含んでいる塩基性化合物水溶液を中和すること等と考えることができる。塩基性水溶液を中和することについては、例えば、水性成分のpHを中性に近づけること等と考えることができる。
【0044】
また、より具体的に、本例の中和工程S204では、陽イオン交換樹脂を用いて、ササ抽出残渣の中和を行う。この場合、中和工程S204の動作について、例えば、加水工程S202において加水した水と陽イオン交換樹脂とを接触させることでササ抽出残渣が保持している水性成分のpHを中性に近づける動作等と考えることができる。また、この場合、ササ抽出残渣が保持している水性成分のpHについて、中性に近づけることで、例えば6~9程度に変化させる。中和工程S204を行った後におけるササ抽出残渣が保持している水性成分のpHは、好ましくは7.5~8.5程度である。中和工程S204を行った後におけるササ抽出残渣が保持している水性成分のpHについては、例えば、中性~弱アルカリ性になっていると考えることもできる。
【0045】
中和工程S204においては、例えば、水酸化ナトリウム等の強塩基性化合物による塩基性水溶液の中和に用いる公知の陽イオン交換樹脂を好適に用いることができる。より具体的に、陽イオン交換樹脂としては、公知の強酸性の陽イオン交換樹脂や、公知の弱酸性の陽イオン交換樹脂等を用いることが考えられる。また、本例においては、陽イオン交換樹脂を用いることで、例えば、余計な塩(例えば、食塩等)が発生することやササ葉に由来する有効成分が流失すること等を防ぎつつ、ササ抽出残渣の中和を行う。中和工程S204でのササ抽出残渣の中和の行い方等については、後に更に詳しく説明をする。
【0046】
また、本例において、中和工程S204でササ抽出残渣を中和した後には、例えば公知の方法で加熱を行うことで、中和後のササ抽出残渣を乾燥する(乾燥工程S206)。より具体的に、この場合、例えば、回転するドラムを用いるドラム式でササ抽出残渣を乾燥することが考えられる。また、乾燥工程S206では、加水工程S202で加水された水を残した状態(加水がされたままの状態)のササ抽出残渣をそのまま乾燥することが考えられる。このように構成すれば、例えば、ササ葉の有効成分をより適切に残すことができる。より具体的に、この場合、例えば、鉄クロロフィリン化合物等の有効成分を適切に残した状態でササ抽出残渣を乾燥することが可能になる。また、乾燥工程S206では、例えば、ドラム式以外の方法でササ抽出残渣を乾燥してもよい。
【0047】
また、乾燥工程S206でササ抽出残渣を乾燥した後には、例えば公知の方法により、乾燥したササ抽出残渣を粉砕する(粉砕工程S208)。粉砕工程S208の動作については、例えば、乾燥工程S206でササ抽出残渣を乾燥することで得られる乾燥物を粉状に粉砕することでササ葉に由来する粉体を生成する工程等と考えることができる。
【0048】
これらの各工程を行うことで、本例の抽出残渣処理工程S200では、乾燥した粉末状のササ由来中和乾燥粉末を製造する。また、この場合、中和工程S204においてササ抽出残渣を中和することで、例えば、様々な用途に利用可能なササ由来中和乾燥粉末を製造することができる。例えば、本例の方法で製造するササ由来中和乾燥粉末について、食品原料等として用いること等が考えられる。この場合、食品については、例えば、人間が口から胃へ取り入れるもの等と考えることができる。より具体的に、ササ由来中和乾燥粉末については、例えば、サプリメント等の健康食品の原料として用いることが考えられる。また、ササ由来中和乾燥粉末について、例えば、医薬部外品、又は医薬品等の原料として用いること等も考えられる。また、ササ由来中和乾燥粉末について、例えば、一般食品に添加するための原料として用いること等も考えられる。この場合、例えば焼き菓子等に添加する食品原料として用いること等が考えられる。本例によれば、例えば、ササ由来の有効成分を含む食品原料等として使用可能なササ由来中和乾燥粉末を適切に製造することができる。また、この場合、上記のように陽イオン交換樹脂を用いて中和工程S204を行うことで、例えば、余計な塩を含まない食品原料等を適切に製造することができる。
【0049】
続いて、中和工程S204でのササ抽出残渣の中和の行い方等について、更に詳しく説明をする。上記においても説明をしたように、本例の中和工程では、陽イオン交換樹脂を用いて、ササ抽出残渣の中和を行う。また、この点に関し、上記においても説明をしたように、ササ抽出残渣は、水分を取り込んで保持している状態になっている。そして、この場合、例えば単に陽イオン交換樹脂とササ抽出残渣とを接触させたとしても、ササ抽出残渣の中和は進行しない。これに対し、本願の発明者は、鋭意研究により、ササ抽出残渣に対して加水を行い、ササ抽出残渣の周囲の水と陽イオン交換樹脂とを接触させることで、ササ抽出残渣の中和を行うことを考えた。また、実際に様々な実験等を行うことで、このような方法でササ抽出残渣の中和を適切に行い得ることを見出した。この場合、例えば、ササ抽出残渣の周囲の水と陽イオン交換樹脂とを接触させつつ、ササ抽出残渣が保持している塩基性の水が中性付近の水に変わるのを待つことで、ササ抽出残渣の中和を適切に行うことができる。また、例えば、ササ抽出残渣の周囲の水を移動させつつ陽イオン交換樹脂に接触させることで、ササ抽出残渣の中和をより適切に進行させることができる。
【0050】
また、ササ抽出残渣に対して加水を行った場合、ササ抽出残渣を構成する固形成分の少なくとも一部が水中で分散することが考えられる。そして、このような状態でそのまま陽イオン交換樹脂を直接投入して中和を行うと、陽イオン交換樹脂とササ抽出残渣とが混ざり合って、分離が困難になることが考えられる。また、その結果、陽イオン交換樹脂が不純物としてササ由来中和乾燥粉末に混入することや、ササ抽出残渣の混入により陽イオン交換樹脂の再生が難しくなること等が考えられる。
【0051】
そのため、中和工程S204では、ササ抽出残渣における非水溶性成分と、陽イオン交換樹脂とが直接混じり合うことを防止しつつ、ササ抽出残渣における非水溶性成分の外にある水と陽イオン交換樹脂とを接触させることが好ましい。このように構成すれば、例えば、ササ抽出残渣における非水溶性成分とイオン交換樹脂とが混じり合うこと等を適切に防ぎつつ、ササ抽出残渣の外にある水と陽イオン交換樹脂とを適切に接触させることができる。また、これにより、例えば、ササ由来中和乾燥粉末に陽イオン交換樹脂が混入すること等を適切に防止することができる。また、例えば、陽イオン交換樹脂について、より適切に再生して、再利用することが可能になる。
【0052】
ササ抽出残渣における非水溶性成分と陽イオン交換樹脂とが直接混じり合うことを防止することについては、例えば、接触を実質的に防止すること等と考えることができる。また、接触を実質的に防止することについては、例えば、ササ抽出残渣と陽イオン交換樹脂との接触による上記の問題を防止できる程度に接触を防止すること等と考えることができる。また、実用上、接触を実質的に防止することについては、例えば、所定のサイズ以上の非水溶性成分と陽イオン交換樹脂との接触を避けること等と考えることもできる。この場合、例えば1mm以上(好ましくは、0.5mm以上)のサイズの非水溶性成分と陽イオン交換樹脂との接触を避けることが好ましい。非水溶性成分のサイズについては、例えば、最も長い部分(幅が大きな部分)の長さ等と考えることができる。
【0053】
また、より具体的に、中和工程S204については、例えば、
図2に示す方法で行うことが考えられる。
図2は、中和工程S204での中和の行い方の例を示す図である。
図2(a)は、中和工程S204での中和の行い方の一例を示す。
図2(a)に示す方法でササ抽出残渣202の中和を行う場合、不織布の袋302の中に陽イオン交換樹脂212を収容することで、ササ抽出残渣202(ササ抽出残渣202における非水溶性成分)と陽イオン交換樹脂212との接触を防止する。袋302は、水204を通し、かつ、陽イオン交換樹脂が漏出しない収容体の一例である。また、袋302について、例えば、水204を通し、かつ、ササ抽出残渣202における非水溶性成分を通さない収容体等と考えることもできる。
【0054】
この場合、加水工程S202(
図1参照)では、例えば、水槽100内において、ササ抽出残渣202に対する加水を行う。また、これにより、水槽100内において、ササ抽出残渣202の周囲に水204が存在する状態になる。ササ抽出残渣202の周囲の水204については、例えば、ササ抽出残渣202と共に水槽100に入れられている水204等と考えることができる。また、この場合、陽イオン交換樹脂212については、水槽100内の水204にそのまま入れるのではなく、袋302に入れた状態で、水槽100内の水204に浸漬する。このように構成すれば、例えば、ササ抽出残渣202の非水溶性成分と陽イオン交換樹脂212とが直接混じり合うことを防止しつつ、ササ抽出残渣202の周囲にある水204(ササ抽出残渣202の外にある水204)と陽イオン交換樹脂212とを適切に接触させることができる。また、これにより、例えば、陽イオン交換樹脂212を用いて中和の処理を適切に実行することができる。
【0055】
袋302としては、例えば、全体が不織布で形成された袋を好適に用いることができる。また、袋302として、一部が不織布で形成された袋を用いてもよい。また、袋302に代えて、例えば、不織布以外の素材で形成された収容体を用いること等も考えられる。この場合も、水204を通し、かつ、陽イオン交換樹脂が漏出しない収容体を用いることで、例えば、ササ抽出残渣202における非水溶性成分と陽イオン交換樹脂とが直接混じり合うことを適切に防止することができる。
【0056】
また、この場合、例えば水槽100内の水204を攪拌することで、水槽100内で袋302を移動させつつ、袋302内の陽イオン交換樹脂212と水槽100内の水204とを接触させることが好ましい。この場合、例えば図中に矢印で示すように、水槽100内の水をかき混ぜて、袋302に収容された陽イオン交換樹脂を移動させることが考えられる。このように構成すれば、例えば、水槽100内の各位置における水204と袋302内の陽イオン交換樹脂212とを接触させて、ササ抽出残渣202の中和をより適切に進行させることができる。
【0057】
また、中和工程S204では、例えば
図2(b)に示すように、上記と異なる方法で陽イオン交換樹脂212を用いてもよい。
図2(b)は、中和工程S204での中和の行い方の他の例を示す。
図2(b)に示す場合において、中和工程S204では、両端に穴の空いた筒状の容器の一例であるカラム406内に陽イオン交換樹脂212を収容して、カラム406に水204を流すことで、ササ抽出残渣202の周囲の水204と陽イオン交換樹脂212とを接触させる。
【0058】
より具体的に、この場合、例えば図中に示すように、液体流路402、フィルタ404、ポンプ408、及びカラム406を有する循環流路312を用いて、水槽100内の水204を循環させる。この場合、液体流路402は、フィルタ404、ポンプ408、及びカラム406をつなぐ流路であり、少なくとも吸い込み口となる側の端(吸い込み口となる側の端又は両端)が水槽100における水204の中に入るように設置されることで、水槽100内の水204を一端側から吸い上げ、フィルタ404、ポンプ408、及びカラム406を通して、他端側から水槽100へ戻す。また、これにより、循環流路312は、水槽100内の水を循環させる。
【0059】
フィルタ404は、カラム406内に不純物が入り込むことを防止するためのフィルタであり、液体流路402が水204を流す流路においてカラム406よりも上流側に配設されることで、ササ抽出残渣202における非水溶性成分がカラム406の位置へ流れ込むことを防止する。カラム406は、陽イオン交換樹脂212を内部に収容して液体流路402の途中に配設されることで、液体流路402に流れる水204が陽イオン交換樹脂212に触れるように、陽イオン交換樹脂212を保持する。また、カラム406は、液体を流す流路の途中に陽イオン交換樹脂212を設置するための部材の一例である。ポンプ408は、液体流路402においてフィルタ404及びカラム406と直列に接続されることで、フィルタ404及びカラム406に水204が通るように、液体流路402に水204を流す。
【0060】
このように構成すれば、例えば、ササ抽出残渣202における非水溶性成分がカラム406内に進入することを適切に防止しつつ、ササ抽出残渣202の周囲にある水を循環流路312に適切に流すことができる。また、水204が循環流路312を繰り返し流れるように水204を循環させることで、例えば、水204と陽イオン交換樹脂212とを適切かつ十分に接触させることができる。そのため、このように構成した場合も、例えば、ササ抽出残渣202における非水溶性成分と陽イオン交換樹脂212とが直接混じり合うことを防止しつつ、ササ抽出残渣202の外にある水204と陽イオン交換樹脂212とを適切に接触させて、ササ抽出残渣202の中和を適切に行うことができる。また、この場合も、
図2(a)に示す場合と同様に、攪拌によって中和の効率を高めることができる。
【0061】
ここで、上記においても説明したように、本例においては、中和工程S204でササ抽出残渣202の中和を行うために、加水工程S202で加水を行う。そして、この場合、加水工程S202での加水量が多いと、例えば、乾燥工程S206での乾燥に要する時間やコストが大きく増大すること等が考えられる。そのため、加水工程S202での加水量については、過剰にならないように留意する必要がある。しかし、加水工程S202での加水量が過小であると、ササ抽出残渣202の周囲の水の量が不足して、中和工程S204において、陽イオン交換樹脂212と水とを適切かつ十分に接触させることが難しくなる場合がある。より具体的に、例えば
図2(a)に示す方法で中和工程S204を行う場合、水の量が不足すると、水槽100内の水を適切に攪拌すること等が難しくなる。また、例えば
図2(b)に示す方法で中和工程S204を行う場合、水の量が不足すると、水を適切に循環させることが難しくなる。また、これらの結果、例えば、陽イオン交換樹脂212を用いての中和の処理を適切に行えなくなること等が考えられる。そのため、加水工程S202では、中和工程S204での中和の処理が適切に行い得る量の加水を行う必要がある。
【0062】
そして、これらの点を考えた場合、加水工程S202では、例えば、ササ抽出残渣202の湿重量の0.5~4倍程度の重量の水を加水することが好ましい。この場合、ササ抽出残渣202の湿重量については、例えば、塩基性水溶液を含んで湿潤になっている状態でのササ抽出残渣202の重量等と考えることができる。また、例えば後に説明をする実施例1の場合、ササ抽出残渣202の湿重量については、75%前後の塩基性水溶液を含んだ状態でのササ抽出残渣202の重量等と考えることができる。また、ササ抽出残渣202の湿重量については、例えば、固液分離工程S108を行った直後における湿潤の状態でのササ抽出残渣202の重量等と考えることもできる。このように構成すれば、例えば、加水量が過剰になることを防止しつつ、ササ抽出残渣202の周囲の水と陽イオン交換樹脂212とを適切に接触させることができる。また、これにより、例えば、中和工程S204での中和の処理等を適切に実行することができる。加水工程S202での加水量は、好ましくは、ササ抽出残渣202の湿重量の1~4倍程度、更に好ましくは、ササ抽出残渣202の湿重量の2~3倍程度である。
【0063】
また、加水工程S202での加水量については、上記のように、乾燥工程S206でササ抽出残渣202を乾燥すること等にも関連していると考えることができる。また、この場合、例えば、乾燥工程S206でのササ抽出残渣202の乾燥の仕方等を更に考慮して、加水工程S202での加水量を決定してもよい。より具体的に、上記においても説明をしたように、乾燥工程S206では、例えば、ドラム式でササ抽出残渣202を乾燥する。そして、この場合、ササ抽出残渣202について、例えば、ドラムの回転に従ってササ抽出残渣202が移動する状態になっていることが好ましい。そのため、この場合、加水工程S202において、例えば、ドラム式での乾燥を開始する時点でのササ抽出残渣202がスラリー状になる量の水を加水することが考えられる。このように構成すれば、例えば、ドラム式によってササ抽出残渣202を適切に乾燥することができる。より具体的に、この場合、加水工程S202において、例えば、ササ抽出残渣202の湿重量の1.5~3倍程度の水を加水することが好ましい。
【0064】
また、上記においても説明をしたように、乾燥工程S206では、ドラム式以外の方法でササ抽出残渣202を乾燥すること等も考えられる。そして、この場合、より少量の水を加水工程S202で加水すること等も考えられる。このように構成すれば、例えば、加水工程S202での加水量を適切に低減することができる。
【0065】
また、
図2(a)、(b)に示す方法で中和工程S204を行う場合、陽イオン交換樹脂の再生については、メーカー推奨の方法で実施することが考えられる。また、中和工程S204においては、
図2(a)、(b)に示した方法以外の方法でササ抽出残渣を中和してもよい。この場合も、ササ抽出残渣における非水溶性成分と陽イオン交換樹脂とが直接混じり合うことを防止しつつ、ササ抽出残渣の周囲の水と陽イオン交換樹脂とを接触させることが好ましい。また、この場合も、イオン交換膜電気透析法を用いてもよい。
【0066】
続いて、ササ由来中和乾燥粉末の製造方法について、実施例等を用いて、更に具体的に説明をする。
(実施例1)
(塩基性水溶液加熱工程):ステンレス製槽を使用し、6Lの水に24.5%NaOH水溶液82mlを加えて加熱沸騰させ、300gのササ葉を浸漬して20分間煮沸処理した。その後、ササ葉を取り出してよく水洗した。
(鉄置換反応工程):別に、6Lの水を沸騰させ、塩化第一鉄・水和物3.6gを加えた後、前記の水洗したササ葉を浸漬し、60分間煮沸を継続した。その後、ササ葉を取り出してよく水洗した。
(塩基性水溶液抽出工程):蒸留水1.5Lに24.5%NaOH水溶液150mlを加えて加熱沸騰させ、置換反応工程から得られたササ葉を浸漬し、攪拌しながら70分煮沸を継続した。
(固液分離工程):塩基性水溶液抽出工程での煮沸処理液に対し、繊維製の濾過布を用いて吸引濾過を行い、鉄クロロフィリン化合物、リグニン分解物、及び多糖等を含有するササ抽出液となる液体成分と、それ以外の残渣(ササ抽出残渣)である固体成分とを分離した。この時点でのササ抽出残渣は、重量比で75%程度の塩基性水溶液を含んでいた。
(加水工程):固液分離工程で得られたササ抽出残渣に対し、その湿重量の2倍の量の水を加水した。
(中和工程):公知の陽イオン交換樹脂を不織布の袋に収容して、
図2(a)を用いて説明をした方法により、ササ抽出残渣の中和の処理を行った。
(乾燥工程):中和工程で中和の処理を行った後のササ抽出残渣について、加水工程で加水した水を残したまま、ドラム式での乾燥を行った。
(粉砕工程):乾燥工程で乾燥したササ抽出残渣を公知の粉砕機で粉状に粉砕することで、実施例1に係るササ由来中和乾燥粉末を製造した。
【0067】
(実施例2)
加水工程での加水量をササ抽出残渣の1.5倍にした以外は実施例1と同様にして、実施例2に係るササ由来中和乾燥粉末を製造した。
【0068】
(実施例3)
加水工程での加水量をササ抽出残渣の3倍にした以外は実施例1と同様にして、実施例3に係るササ由来中和乾燥粉末を製造した。
(実施例4)
加水工程での加水量をササ抽出残渣の1倍にした以外は実施例1と同様にして、実施例4に係るササ由来中和乾燥粉末を製造した。
【0069】
(実施例5)
図2(b)を用いて説明をした方法で中和工程の処理を行ったこと以外は実施例1と同様にして、実施例5に係るササ由来中和乾燥粉末を製造した。より具体的に、実施例5では、ササ葉としてクマザサの葉を用いて、実施例1と同様に固液分離工程までを行うことで、ササ抽出残渣(クマザサ抽出残渣)を得た。そして、加水工程において、100gのササ抽出残渣に水200mLを添加して、撹拌し、スラリーとした。また、中和工程では、先端に約0.5mm目のろ布より構成されるフィルタを設置したチューブを挿入し、そのチューブを通して、ポンプを使って上記のスラリー中の液体成分のみを吸い出し、これを酸型の弱酸性イオン交換樹脂(陽イオン交換樹脂)30mLを充填したカラムに導入した。そして、このカラム通過後の液は撹拌中のスラリーに戻すようにして、循環系を確立した。この構成により、ポンプの吐出量を1分当り20mL程度に調節してこの循環系を運転した結果、スラリーのpHは、当初12.5程度であったものが、約40分には9.0程度まで変化した。このことから、
図2(b)の方法で中和工程の処理を行うことで、中和を短時間で効率的に実施することが確認できた。
【0070】
(実施例6~8)
加水工程での加水量を実施例2~4のそれぞれと同様にした以外は実施例5と同様にして、実施例6~8に係るササ由来中和乾燥粉末を製造した。
【0071】
(比較例1)
中和工程において、陽イオン交換樹脂を用いずに、酸性溶液(塩酸)を用いてササ抽出残渣の中和を行ったこと以外は実施例1と同様にして、比較例1に係るササ由来中和乾燥粉末を製造した。
【0072】
(比較例2)
加水工程及び中和工程を行うことに代えて、多量の水(ササ抽出残渣の湿重量の10倍以上の重量の水)でササ抽出残渣を洗浄することでササ抽出残渣のpHを中性にしたこと以外は実施例1と同様にして、比較例2に係るササ由来中和乾燥粉末を製造した。
【0073】
(評価)
実施例1~8のいずれにおいても、中和工程での中和の処理で余計な塩等を発生させることなく、適切に中和がされたササ由来中和乾燥粉末を製造することができた。また、ササ抽出残渣に残存するササ抽出液(ササ抽出残渣が含んでいたササ抽出液)の有効成分に由来する鉄クロロフィリン化合物を含む葉緑素の色を反映することで緑色になっている見栄えのよいササ由来中和乾燥粉末を製造することができた。これに対し、比較例1においては、酸性溶液を用いて中和工程を行うことで余計な塩(食塩)が発生した。また、その結果、製造されたササ由来中和乾燥粉末は、食品原料等の用途には不適当な状態になっていた。また、比較例2においては、多量の水で洗浄を行ったことで、ササ抽出残渣に残存するササ抽出液に由来する有効成分が失われ、緑色ではなく、茶色がかったササ由来中和乾燥粉末が製造された。更に、原因は不明であるが、比較例2においては、乾燥工程及び粉砕工程を行った後の状態が不均一になり、見栄えが低下した。
【0074】
続いて、上記において説明をした各構成に関する補足説明を行う。また、以下においては、説明の便宜上、上記において説明をした変形例等を含めて、本例という。上記のように、本例においては、塩基性水溶液を用いてササ抽出液を抽出する場合に副産物として生成されるササ抽出残渣に対し、加水工程及び中和工程の処理等を行うことで、ササ抽出残渣の中和を行っている。
【0075】
この点に関し、ササ葉のようなイネ科タケ亜科の植物の葉は、葉質が堅牢であり、その抽出残渣は、水分を抱え込む性質がある。そのため、従来、ササ抽出残渣のような抽出残渣に対し、陽イオン交換樹脂を用いての中和を行うことは、困難であると考えられていた。これに対し、本願の発明者は、実際に実験等を行い、上記のように加水工程及び中和工程を行うことで、ササ抽出残渣を適切に中和できることを見出した。また、例えばイネ科タケ亜科の植物の葉以外の一般的な葉の場合、葉が柔らかいため、通常、塩基性水溶液を用いなくても、葉の有効成分を抽出することができる場合が多い。そして、この場合、本例における加水工程及び中和工程に対応する工程の処理を行うことも不要になる。そのため、本例においては、イネ科タケ亜科の植物の葉に特有の特徴に関連して、加水工程及び中和工程等を行っていると考えることができる。
【0076】
また、本例においては、加水工程で加水がされた状態のササ抽出残渣を乾燥することで、例えば、ササ抽出残渣に残存するササ抽出液に由来する有効成分を適切に残しつつ、ササ抽出残渣を乾燥することができる。また、これにより、例えば、ササ抽出残渣に残存するササ抽出液に由来する有効成分を含むササ由来中和乾燥粉末等を適切に製造することができる。この場合、ササ由来中和乾燥粉末について、例えば、鉄、マグネシウム、及びセルロース等を豊富に含んでいると考えることができる。
【0077】
より具体的に、上記においても説明をしたように、本例において製造するササ抽出液は、鉄クロロフィリン化合物、リグニン分解物、及び多糖等を豊富に含んでいる。この場合、例えば、ササ抽出液から分離された時点で湿潤の状態になっているササ抽出残渣が保持している水性成分についても、鉄クロロフィリン化合物、リグニン分解物、及び多糖等を豊富に含んでいると考えることができる。そして、この鉄クロロフィリン化合物や多糖等については、その後の工程で失われることなく、中和後のササ抽出残渣やササ由来中和乾燥粉末に残ると考えられる。また、この場合、ササ由来中和乾燥粉末等について、例えば、ササ抽出液と同様に、鉄、鉄クロロフィリン化合物、リグニン分解物、及び多糖等を豊富に含んでいると考えることができる。また、この場合、ササ由来中和乾燥粉末等が鉄、鉄クロロフィリン化合物、リグニン分解物、及び多糖等を豊富に含んでいることについては、例えば、乾燥したササ葉を単に粉砕した粉末等と比べて大きく異なる特徴と考えることもできる。また、このようなササ由来中和乾燥粉末については、例えば、イネ科タケ亜科の植物の葉に由来するクロロフィリン化合物等を含む植物葉由来粉末の一例等と考えることができる。
【0078】
尚、上記において説明をした構成に関し、ササ由来中和乾燥粉末等が含む鉄クロロフィリン化合物については、例えば、ササ抽出液を製造するための抽出過程で無機酸鉄塩及び有機酸鉄塩の少なくともいずれかを用いる場合に含まれるクロロフィル部分分解物及びクロロフィリン化合物等と考えることができる。これに対し、ササ抽出液については、例えば、無機酸鉄塩や有機酸鉄塩を用いずに抽出過程を行って製造することも考えられる。そして、この場合、製造されるササ抽出液について、鉄クロロフィリン化合物を含まずに、鉄クロロフィリン化合物以外のクロロフィリン化合物を含むようになることが考えられる。また、その結果、ササ抽出残渣やササ由来中和乾燥粉末等についても、鉄クロロフィリン化合物を含まずに、鉄クロロフィリン化合物以外のクロロフィリン化合物を含むようになることが考えられる。また、この場合も、ササ由来中和乾燥粉末等は、塩基性水溶液抽出液であるササ抽出液に由来して、例えば、多糖やリグニン加水分解物等を更に含むことになる。また、この場合、上記において説明をした塩基性水溶液抽出工程について、例えば、イネ科タケ亜科の植物の葉が含むクロロフィルに由来するクロロフィリン化合物を含む液体成分を抽出する抽出処理を行う工程の例等と考えることができる。
【0079】
また、マグネシウムについては、例えば、鉄置換反応工程でクロロフィリン化合物の中心に配位したマグネシウムが鉄に置き換えられる(配位される)ことで遊離したマグネシウムや、非水溶性のままで残ったクロロフィル、及び非水溶性のままで残ったクロロフィリン化合物等により、ササ抽出残渣に含まれると考えられる。そのため、ササ由来中和乾燥粉末等について、例えば、ササ抽出液と比べて豊富にマグネシウムを含むと考えることができる。また、この点に関し、クロロフィルは、テトラピロールにフィトールがエステル結合した化合物であり、そして、この場合、上記において説明をした塩基性水溶液加熱工程S102、鉄置換反応工程S104、及び塩基性水溶液抽出工程S106等での処理を行う間に、フィトールが加水分解されて遊離型又はそのNa塩となり、水溶性が増加すると考えられる。また、セルロースは、ササ葉における非水溶性成分である。そして、上記の説明等から理解できるように、ササ由来中和乾燥粉末等は、セルロースについても、ササ抽出液と比べて豊富に含むことになる。また、セルロースについては、例えば、食物繊維と考えることもできる。そのため、ササ由来中和乾燥粉末等については、食物繊維を豊富に含んでいると考えることもできる。
【0080】
また、上記においても説明をしたように、本例の方法で製造するササ由来中和乾燥粉末については、例えば、食品原料等として用いることが考えられる。また、ササ由来中和乾燥粉末について、食品原料以外の用途に用いることも考えられる。この場合、例えば、ペット用飼料原料、紙製品原料、肥料、土壌改良剤、又は化粧品原料等として用いることが考えられる。また、肥料や土壌改良剤等として用いる場合にも、微生物を利用してササ抽出残渣を分解する前処理等を行うことなく、ササ抽出残渣を適切に利用することが可能になる。また、本例においては、上記のような様々な用途にササ抽出残渣を利用することが可能になることで、例えば、ササ抽出残渣を産業廃棄物として処分する場合等と比べ、環境への負荷を低減することができる。また、この場合、ササ抽出液の製造について、余計な産業廃棄物を発生させないゼロ・エミッションの方法で行うことが可能になるともいえる。
【0081】
また、上記においても説明をしたように、本例において、ササ由来中和乾燥粉末は、植物葉由来製造物の一例である。これに対し、植物葉由来製造物としては、ササ由来中和乾燥粉末以外の製造物を製造することも考えられる。この場合、例えば、乾燥工程を行う前のササ抽出残渣や、粉砕工程を行う前のササ抽出残渣について、植物葉由来製造物の一例と考えることもできる。また、この場合、植物葉由来製造物として製造する乾燥前や粉砕前のササ抽出残渣に対し、例えば、他の工場等で乾燥工程や粉砕工程を行うこと等も考えられる。また、乾燥工程や粉砕工程について、専門の業者へ依頼(外注)をして実行すること等も考えられる。これらの場合も、中和工程でササ抽出残渣を中和しておくことで、例えば、低コストで容易かつ適切に工程の実行を依頼することができる。
【0082】
また、上記においては、主に、イネ科タケ亜科の植物の葉としてササ葉を用いる場合に関し、説明を行った。これに対し、上記の説明等から理解できるように、イネ科タケ亜科の植物の葉としては、ササ葉以外の葉を用いてもよい。この場合、例えば、タケ葉を用いることが考えられる。また、イネ科タケ亜科の植物の葉として、ササ葉及びタケ葉以外の葉を用いることも考えられる。これらの場合も、上記と同様にして抽出残渣への加水や中和等を行うことで、抽出残渣を適切かつ有効に利用することができる。また、これにより、例えば、イネ科タケ亜科の植物の葉に由来する成分を含む植物葉由来製造物を適切に製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、例えば、植物葉由来製造物の製造方法に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0084】
100・・・水槽、202・・・ササ抽出残渣、204・・・水、212・・・陽イオン交換樹脂、302・・・袋、312・・・循環流路、402・・・液体流路、404・・・フィルタ、406・・・カラム、408・・・ポンプ