(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022078849
(43)【公開日】2022-05-25
(54)【発明の名称】環状ホスファチジン酸含有組成物及び美容方法
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20220518BHJP
A61K 8/55 20060101ALI20220518BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20220518BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220518BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220518BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20220518BHJP
A61K 31/665 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
A23L33/10
A61K8/55
A61Q19/00
A61P43/00 105
A61P17/00
A61P17/16
A61K31/665
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020189797
(22)【出願日】2020-11-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和2年3月30日に「〔健康食品原料検索サイトバルバル〕」のウェブサイトにて公開 (2)令和2年7月20日に株式会社マツモト交商フード&ヘルスケア課営業社員に営業資料を配布 (3)令和2年9月14日に「食品開発展2020」のウェブサイトにて公開
(71)【出願人】
【識別番号】500154423
【氏名又は名称】株式会社マツモト交商
(71)【出願人】
【識別番号】508104880
【氏名又は名称】SANSHO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【氏名又は名称】富田 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(72)【発明者】
【氏名】中谷 崇
(72)【発明者】
【氏名】近藤 慶明
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
4B018MD27
4B018MD45
4B018ME14
4C083AD571
4C083BB51
4C083CC02
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA35
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086MA63
4C086NA14
4C086ZA89
(57)【要約】
【課題】有効成分が、単独かつ複数の美容効果を効率的かつ簡便にもたらすことができる組成物を提供すること、また、多くの美容効果を求める消費者のニーズに効率的かつ簡便に対応できる美容方法を提供すること。
【解決手段】単独かつ低濃度であってもコラーゲン産生促進作用、線維芽細胞増殖促進作用、セラミド産生促進作用、及びヒアルロン酸産生促進作用といった広範な4つもの作用を同時に発揮できる環状ホスファチジン酸ナトリウム含有組成物。さらに、シワ改善作用及び乾燥肌改善作用を有する環状ホスファチジン酸ナトリウムを有効成分として配合した食品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コラーゲン産生促進、線維芽細胞増殖促進、セラミド産生促進、及びヒアルロン酸産生促進に使用するための、環状ホスファチジン酸又はその塩を有効成分として含有する組成物。
【請求項2】
セラミド産生促進が、スフィンゴミエリンホスホジエステラーゼ1(Sphingomyelin Phosphodiesterase 1;SMPD1)遺伝子の発現促進に起因するものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ヒアルロン酸産生促進が、ヒアルロン酸合成酵素3(Hyaluronan Synthase 3;HAS3)遺伝子の発現促進に起因するものである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
さらに、シワ改善及び乾燥肌改善に使用するための、請求項1~3に記載の組成物。
【請求項5】
乾燥肌改善が、経表皮水分蒸散量(TEWL)の抑制に起因するものである、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
環状ホスファチジン酸又はその塩が、環状ホスファチジン酸ナトリウムである、請求項1~5に記載の組成物。
【請求項7】
環状ホスファチジン酸又はその塩を有効成分として1.5~50μg/mL含有する、請求項1~6に記載の組成物。
【請求項8】
内服剤又は外用剤である、請求項1~7に記載の組成物。
【請求項9】
内服剤又は外用剤が、食品、化粧品、医薬部外品又は医薬品である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
内服剤が、環状ホスファチジン酸又はその塩を有効成分として1日あたり少なくとも3.6mgを、少なくとも4週間、経口摂取するように用いられる、請求項8又は9に記載の組成物。
【請求項11】
環状ホスファチジン酸又はその塩を有効成分として含有する組成物を対象者に投与することにより、コラーゲン産生促進、線維芽細胞増殖促進、セラミド産生促進、及びヒアルロン酸産生促進をするための非治療的美容方法。
【請求項12】
さらに、シワ改善及び乾燥肌改善をするための、請求項11に記載の非治療的美容方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コラーゲン産生促進、線維芽細胞増殖促進、セラミド産生促進、及びヒアルロン酸産生促進に使用するための、環状ホスファチジン酸又はその塩を有効成分として含有する組成物に関する。また本発明は、環状ホスファチジン酸又はその塩を有効成分として含有する組成物を対象者に投与することにより、コラーゲン産生促進、線維芽細胞増殖促進、セラミド産生促進、及びヒアルロン酸産生促進をするための非治療的美容方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な美容ニーズが高まるに伴い、美容に関連する内服剤や外用剤等には様々な効果が求められるようになっている。消費者は、求める美容効果に応じて内服剤や外用剤等を選択するが、求める美容効果が多岐にわたる場合、いくつもの内服剤や外用剤を買い求め使用しなければならず、手間や費用を多く要するという問題があった。そのため、単独で複数の美容効果を発揮しうる内服剤や外用剤に対する市場ニーズが存在している。
【0003】
単独で複数の美容効果を発揮しうる内服剤や外用剤を開発しようとする場合、訴求する美容効果ごとに対応する有効成分を一つずつ選択し、結果、複数の有効成分を配合することとなるのが通例である。しかし、一つの剤に有効成分を複数配合することは原料調達面や製造面において手間や費用を多く要する上、製剤技術的にも容易でない場合があるという問題があった。具体的には、複数の有効成分を一つの剤に配合する場合、特に液状剤形においてはpHや塩濃度等のバランスが崩れやすくなり、製剤の経時安定性不良の原因となったり、固形剤型においても、複数の有効成分間での不測の相互作用が生じることがあるという問題があった。さらに、内服剤においては食感不良の原因となったり、外用剤においては不快なべたつきやぬるつきといった使用感不良の原因となったり、またそもそも剤の処方に有効成分以外の成分を入れ込む余地が少なくなり、製剤上の自由度が減少するという問題があった。
【0004】
一方、環状ホスファチジン酸(Cyclic Phosphatidic Acid;cPA)は、様々な生物体に普遍的に存在する生理活性脂質として知られている物質である。環状ホスファチジン酸は、リゾホスファチジン酸(Lysophosphatidic Acid;LPA)と構造が類似しているが、グリセロール骨格のsn-2位とsn-3位に環状リン酸基をもつ特徴的な構造を有している(非特許文献1)。この環状リン酸構造が環状ホスファチジン酸の種々の生理活性に不可欠であることが知られており、環状ホスファチジン酸の特異的な生理活性としては、細胞骨格の構築及び再構成、がん細胞の浸潤及び転移の抑制、神経細胞の生存及び分化の促進、呼吸促進、痛みの抑制等が挙げられる(非特許文献2)。
【0005】
また、環状ホスファチジン酸は皮膚に対する種々の作用を有することも知られていることから、一部で化粧品原料として応用されている(非特許文献2)。しかし、これまでの環状ホスファチジン酸の化粧品への応用例はあまり多いとはいえない上、食品への応用例に関しては知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】生化学, 90(6), 757-765, 2018
【非特許文献2】バイオサイエンスとインダストリー, 69(1), 44-45,2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、単独で複数の美容効果を効率的かつ簡便にもたらすことができる組成物を提供することにある。また、本発明の別の課題は、多くの美容効果を求める消費者のニーズに効率的かつ簡便に対応できる美容方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、驚くべきことに環状ホスファチジン酸ナトリウムが、有効成分として単独かつ低濃度であっても、コラーゲン産生促進作用、線維芽細胞増殖促進作用、セラミド産生促進作用、及びヒアルロン酸産生促進作用といった広範な4つもの作用を同時に発揮できることを見いだした。さらに、環状ホスファチジン酸ナトリウムを有効成分として配合した食品において、シワ改善作用及び乾燥肌改善作用を初めて見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の事項により特定されるとおりのものである。
(1)コラーゲン産生促進、線維芽細胞増殖促進、セラミド産生促進、及びヒアルロン酸産生促進に使用するための、環状ホスファチジン酸又はその塩を有効成分として含有する組成物。
(2)セラミド産生促進が、スフィンゴミエリンホスホジエステラーゼ1(Sphingomyelin Phosphodiesterase 1;SMPD1)遺伝子の発現促進に起因するものである、上記(1)に記載の組成物。
(3)ヒアルロン酸産生促進が、ヒアルロン酸合成酵素3(Hyaluronan Synthase 3;HAS3)遺伝子の発現促進に起因するものである、上記(1)又は(2)に記載の組成物。
(4)さらに、シワ改善及び乾燥肌改善に使用するための、上記(1)~(3)に記載の組成物。
(5)乾燥肌改善が、経表皮水分蒸散量(TEWL)の抑制に起因するものである、上記(4)に記載の組成物。
(6)環状ホスファチジン酸又はその塩が、環状ホスファチジン酸ナトリウムである、上記(1)~(5)に記載の組成物。
(7)環状ホスファチジン酸又はその塩を有効成分として1.5~50μg/mL含有する、上記(1)~(6)に記載の組成物。
(8)内服剤又は外用剤である、上記(1)~(7)に記載の組成物。
(9)内服剤又は外用剤が、食品、化粧品、医薬部外品又は医薬品である、上記(8)に記載の組成物。
(10)内服剤が、環状ホスファチジン酸又はその塩を有効成分として1日あたり少なくとも3.6mgを、少なくとも4週間、経口摂取するように用いられる、上記(8)又は(9)に記載の組成物。
(11)環状ホスファチジン酸又はその塩を有効成分として含有する組成物を対象者に投与することにより、コラーゲン産生促進、線維芽細胞増殖促進、セラミド産生促進、及びヒアルロン酸産生促進をするための非治療的美容方法。
(12)さらに、シワ改善及び乾燥肌改善をするための、上記(11)に記載の非治療的美容方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、内服剤や外用剤としての使用に適した、優れた組成物が提供される。具体的には、環状ホスファチジン酸又はその塩を有効成分として配合することで、有効成分が単独かつ低濃度であっても、コラーゲン産生促進効果、線維芽細胞増殖促進効果、セラミド産生促進効果、及びヒアルロン酸産生促進効果といった広範な4つもの効果を同時に発揮することができ、さらにはシワ改善効果及び乾燥肌改善効果をも同時に発揮することができ、かつ、経時安定性並びに食感及び使用感が良好で、製剤上の自由度も高い組成物を効率的かつ簡便に作製することができる。
【0011】
また、本発明によれば、多くの美容効果を求める消費者のニーズに効率的かつ簡便に対応できる美容方法を提供することができる。具体的には、環状ホスファチジン酸又はその塩を有効成分として含有する組成物を対象者に投与することのみによって、コラーゲン産生促進効果、線維芽細胞増殖促進効果、セラミド産生促進効果、及びヒアルロン酸産生促進効果といった広範な4つもの効果を同時に得ることができ、さらにはシワ改善効果及び乾燥肌改善効果をも同時に発揮することができる非治療的美容方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1のI.コラーゲン産生促進試験の結果(平均値)を表す図である。図中、「NcPA」は環状ホスファチジン酸ナトリウム含有組成物を表し、「ヒアルロン酸」はヒアルロン酸含有組成物を表し、「プロテオグリカン」はプロテオグリカン含有組成物を表し、「コラーゲン」はコラーゲン含有組成物を表し、「セラミド」はセラミド含有組成物を表す。
【
図2】実施例1のII.線維芽細胞増殖促進試験の結果(平均値)を表す図である。図中、「NcPA」は環状ホスファチジン酸ナトリウム含有組成物を表し、「ヒアルロン酸」はヒアルロン酸含有組成物を表し、「プロテオグリカン」はプロテオグリカン含有組成物を表し、「コラーゲン」はコラーゲン含有組成物を表し、「セラミド」はセラミド含有組成物を表す。
【
図3】実施例1のIII.セラミド合成酵素遺伝子発現促進試験の結果(平均値)を表す図である。図中、「NcPA」は環状ホスファチジン酸ナトリウム含有組成物を表し、「ヒアルロン酸」はヒアルロン酸含有組成物を表し、「プロテオグリカン」はプロテオグリカン含有組成物を表し、「コラーゲン」はコラーゲン含有組成物を表し、「セラミド」はセラミド含有組成物を表す。
【
図4】実施例1のIV.ヒアルロン酸合成酵素遺伝子発現促進試験の結果(平均値)を表す図である。図中、「NcPA」は環状ホスファチジン酸ナトリウム含有組成物を表し、「ヒアルロン酸」はヒアルロン酸含有組成物を表し、「プロテオグリカン」はプロテオグリカン含有組成物を表し、「コラーゲン」はコラーゲン含有組成物を表し、「セラミド」はセラミド含有組成物を表す。
【
図5】実施例1のV.統計解析の結果を表す図である。具体的には、実施例1のI.~IV.の4つの試験系における各被験物質(試験濃度15.625μg/mL)に関する統計解析結果につき、表9~12に表した「1/P」の値をレーダーチャートで表した図である。なお、
図5における軸は対数目盛で表されており、軸の値「20」は、P=0.05の逆数であることから、軸の値「20」の内側は「有意差なし」、外側は「有意差あり」の領域である。図中、「NcPA」は環状ホスファチジン酸ナトリウム含有組成物を表し、「ヒアルロン酸」はヒアルロン酸含有組成物を表し、「プロテオグリカン」はプロテオグリカン含有組成物を表し、「コラーゲン」はコラーゲン含有組成物を表し、「セラミド」はセラミド含有組成物を表す。
【
図6】実施例2のI.シワ改善試験の結果(シワスコア;平均値±SE)を表す図である。
【
図7】実施例2のI.シワ改善試験における被験者Aの結果(シワの減少)を表す図である。
【
図8】実施例2のI.シワ改善試験における被験者Bの結果(シワの減少)を表す図である。
【
図9】実施例2のII.乾燥肌改善試験の結果(TEWL;平均値±SE)を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の組成物は、「コラーゲン産生促進、線維芽細胞増殖促進、セラミド産生促進、及びヒアルロン酸産生促進に使用するため」という用途(使用目的)に利用することができる。
【0014】
本発明における「コラーゲン産生促進」とは、生体内のコラーゲンの産生を促進することを意味する。本発明における「コラーゲン産生促進」は、公知の方法により評価することができ、特に限定されないが、例えば、I型コラーゲン産生量を測定することにより評価することができる。ここで、コラーゲンは主に脊椎動物の真皮、靭帯、骨、軟骨等を構成するタンパク質の1つであり、I~VII型に分類され、それぞれ性質や分布場所等が異なることが知られている。本発明における「コラーゲン」は、I~VII型のいずれであってもよいが、特に、体内に最も多く存在するコラーゲン繊維の主成分であるI型コラーゲンが好ましい。体内のコラーゲンを増加させることは、皮膚の弾力性、ハリ、たるみ、シワ等の改善に効果的であることが知られている。
【0015】
本発明における「線維芽細胞増殖促進」とは、生体内の線維芽細胞の増殖を促進させることを意味する。本発明における「線維芽細胞増殖促進」は、公知の方法により評価することができ、特に限定されないが、例えば、MTTアッセイにより評価することができる。ここで、線維芽細胞は、全身の結合組織に散在している中胚葉由来の細胞であり、皮膚では真皮に存在し、真皮や基底膜中の細胞外マトリックスの合成及び分解という代謝を行う。この細胞外マトリックスは皮膚の弾力性、ハリ、みずみずしさ、新陳代謝等に直接的に関わることが知られている。
【0016】
本発明における「セラミド産生促進」とは、生体内のセラミドの産生を促進することを意味する。本発明における「セラミド産生促進」は、公知の方法により評価することができ、特に限定されないが、例えば、セラミド産生量を測定することや、セラミド産生に関与する遺伝子の発現量を測定することにより評価することができる。ここで、セラミド産生に関与する遺伝子としては、例えば、セラミド合成酵素遺伝子の一つであるスフィンゴミエリンホスホジエステラーゼ1(Sphingomyelin Phosphodiesterase 1;SMPD1)遺伝子が挙げられる。SMPD1は、生体内でスフィンゴミエリンからのセラミド合成に関与する酵素であり、本発明における「セラミド産生促進」は、SMPD1遺伝子の発現促進に起因するものであってよい。セラミドは、皮膚の最外層である角層において、皮膚の保湿機能やバリア機能に重要な役割を果たすスフィンゴ脂質の一種である。セラミドは、表皮細胞中で産生及び分泌された後に、角層中の細胞間ラメラ構造を構築することで皮膚の保湿効果を発揮し、皮膚の保護作用や肌荒れ防止の効果を有することが知られている。
【0017】
本発明における「ヒアルロン酸産生促進」とは、生体内のヒアルロン酸の産生を促進することを意味する。本発明における「ヒアルロン酸産生促進」は、公知の方法により評価することができ、特に限定されないが、例えば、ヒアルロン酸産生量を測定することや、ヒアルロン酸産生に関与する遺伝子の発現量を測定することにより評価することができる。ここで、ヒアルロン酸産生に関与する遺伝子としては、例えば、ヒアルロン酸合成酵素遺伝子の一つであるヒアルロン酸合成酵素3(Hyaluronan Synthase 3;HAS3)遺伝子が挙げられる。HAS3は、哺乳動物に存在するヒアルロン酸合成酵素の3種類のアイソフォーム(HAS1、HAS2、HAS3)の一つで、主に表皮におけるヒアルロン酸合成に関与する酵素であり、本発明における「ヒアルロン酸産生促進」は、HAS3遺伝子の発現促進に起因するものであってよい。ヒアルロン酸は、生体内に存在するムコ多糖類の一種であり、高い保水力を有するため、皮膚の保湿機能の改善、シワやたるみの予防、皮膚や関節軟骨機能の維持等に重要な役割を果たすことが知られている。
【0018】
本発明の組成物は、さらに、「シワ改善及び乾燥肌改善に使用するため」という用途(使用目的)に利用することができる。
【0019】
本発明における「シワ改善」とは、皮膚の一定面積内に占めるシワの面積及び/又は数が減少することを意味する。本発明における「シワ改善」は、公知の方法により評価することができ、特に限定されないが、例えば、皮膚の目視や画像解析等により評価することができる。ここで、シワとは、皮膚表面に生じる溝状の筋目であるが、本発明における「シワ」は、例えば、形成要因別には、乾燥による肌表面のカサつきから生じる乾燥ジワ、紫外線による肌ダメージにより生じる紫外線ジワ、笑った時の目尻のシワのように表情の変化による「肌の折りたたみ跡」から生じる表情ジワ等、形成箇所及び形状別には、目尻や眉間等に生じる線状ジワ、頬や首等で比較的深い溝が互いに交差してひし形や三角形に見える図形ジワ、大腿、腹部等の弛緩した皮膚にできる細かなひだ状の縮緬(ちりめん)ジワ等のいずれであってもよい。シワの形成には、遺伝や加齢による皮膚を構成する個々の細胞の機能低下や全身的なホルモンレベルの変化といった内的な要因と、紫外線暴露、乾燥の影響等の外的要因が深く絡みあっていることが知られている。特に紫外線曝露は、細胞の損傷、細胞のアポトーシス、線維芽細胞の増殖活性低下、コラーゲン線維やエラスチン線維の変性や崩壊、血管系の減少による老廃物の蓄積、栄養供給の低下等を引き起こし、その結果として皮膚の弾力が低下し、シワの形成につながると考えられている。
【0020】
本発明における「乾燥肌改善」とは、皮膚の保湿機能の低下が抑制され、又は皮膚の保湿機能が向上することを意味する。本発明における「乾燥肌改善」は、公知の方法により評価することができ、特に限定されないが、例えば、皮膚の角層水分量や経表皮水分蒸散量(TEWL)を測定することで評価することができる。ここで、TEWLとは、体内から無自覚のうちに表皮の角層を通じて揮散する水分量のことで、皮膚の重要な機能の一つであるバリア機能を反映する指標として用いられており、本発明における「乾燥肌改善」は、TEWLの抑制に起因するものであってよい。また、本発明における「乾燥肌」とは、保湿機能が低下して乾燥した皮膚を意味する。正常な皮膚には水分を保つ機能(保湿機能)が備わっており、この保湿機能によって、皮膚は柔軟性を保ち、またバリア機能を維持して良好な状態を保つことができる。一方、皮膚保湿機能が低下して皮膚が乾燥すると、皮膚の状態が悪化し、キメが乱れ、柔軟性が低下し、肌荒れが生じやすくなる。
【0021】
本発明の組成物は、環状ホスファチジン酸又はその塩を有効成分として含有する。
【0022】
本発明における「環状ホスファチジン酸」とは、環状リン酸基構造を有する脂質であれば特に限定されない。環状ホスファチジン酸は、具体的には、グリセロール骨格のsn-2位とsn-3位に環状リン酸基を有する。なお、「環状ホスファチジン酸」は、「環状リゾホスファチジン酸」といわれることもある。
【0023】
本発明における「環状ホスファチジン酸の塩」としては、生理学的に許容される塩基等との塩であればよく、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;亜鉛塩等の重金属塩;アンモニウム塩;塩基性アミノ酸、塩基性ペプチドとの塩等を挙げることができるが、特にナトリウム塩である環状ホスファチジン酸ナトリウムが好ましい。環状ホスファチジン酸ナトリウムの製造方法としては、特に限定されないが、例えば、特開2016-183167に開示された製造方法が挙げられる。
【0024】
本発明における組成物中の有効成分である環状ホスファチジン酸又はその塩の含有量は、コラーゲン産生促進作用、線維芽細胞増殖促進作用、セラミド産生促進作用、及びヒアルロン酸産生促進作用、さらにはシワ改善作用及び乾燥肌改善作用を発揮できる量であればよいが、例えば、0.5μg/mL以上、1.0μg/mL以上、1.5μg/mL以上、3.0μg/mL以上、5.0μg/mL以上、6.0μg/mL以上、10.0μg/mL以上、12.5μg/mL以上、25.0μg/mL以上、50.0μg/mL以上であり、例えば、150.0μg/mL以下、125.0μg/mL以下、100.0μg/mL以下、75.0μg/mL以下、50.0μg/mL以下、25.0μg/mL以下、12.5μg/mL以下、10.0μg/mL以下、6.0μg/mL以下、5.0μg/mL以下、3.0μg/mL、1.5μg/mL以下である。
すなわち、例えば、有効成分として環状ホスファチジン酸又はその塩を10%含有する組成物であれば、例えば、5μg/mL以上、10μg/mL以上、15μg/mL以上、30μg/mL以上、50μg/mL以上、60μg/mL以上、100μg/mL以上、125μg/mL以上、250μg/mL以上、500μg/mL以上であり、例えば、1500μg/mL以下、1250μg/mL以下、1000μg/mL以下、750μg/mL以下、500μg/mL以下、250μg/mL以下、125μg/mL以下、100μg/mL以下、60μg/mL以下、50μg/mL以下、30μg/mL、15μg/mL以下である。
【0025】
本発明の組成物は、内服剤又は外用剤として利用することができる。
【0026】
内服剤又は外用剤の投与対象は、ヒトを含む動物であれば特に限定されず、通常はヒトであるが、ヒト以外の動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ブタ、サル等の哺乳類)であってもよい。
【0027】
本発明における「内服剤」としては、特に限定されず、例えば、錠剤(舌下錠、口腔内崩壊錠を含む)、カプセル剤(ソフトカプセル、ハードカプセル、マイクロカプセルを含む)、顆粒剤、散剤、タブレット剤、チュアブル剤、トローチ剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等が挙げられる。なお、本発明における「内服剤」は「経口剤」ということもできる。
【0028】
本発明における「外用剤」としては、特に限定されず、例えば、液剤(ローション剤、懸濁液剤、乳液剤、エアゾール剤)、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤(ジェル剤)、貼付剤等が挙げられる。
【0029】
本発明における内服剤又は外用剤は、食品、化粧品、医薬部外品又は医薬品として利用することができる。具体的には、本発明における内服剤は通常、食品、医薬部外品又は医薬品として利用することができ、本発明における外用剤は通常、化粧品、医薬部外品又は医薬品として利用することができる。
【0030】
本発明における「食品」としては、投与対象が摂取可能であり、かつ食用に適した形状であれば特に限定されず、例えば、固形状、液状、半液体状、顆粒状、粒状、粉末状、カプセル状、クリーム状、ペースト状等が挙げられる。本発明における「食品」には、飲料が含まれる。
【0031】
また、本発明における「食品」としては、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、病者用食品が含まれる。健康食品等は、通常の食品の形状であってもよいが、サプリメントの形態(錠剤、顆粒剤、細粒剤、タブレット、チュアブル錠、カプセル(ソフトカプセル、ハードカプセル)、ミニボトルドリンク、ペットボトルドリンク等)であることが好ましい。
【0032】
本発明の「食品」には、有効成分を単独で配合してもよいが、通常は、各食品の形態に応じた他の成分とともに配合する。ここで、他の成分としては、本発明の効果を損なわない範囲のものであれば特に限定されず、例えば、各種タンパク質、糖類、脂肪、微量元素、ビタミン類、クエン酸や酢酸等の有機酸塩等が挙げられる。また、本発明の食品は、その種類に応じて食品において許容され、通常使用される添加剤、例えば、アスパルテーム、ステビア等の甘味料、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等の酸味料、デキストリン、澱粉等の賦形剤のほか、着色料、香料、苦味料、緩衝剤、増粘安定剤、ゲル化剤、安定剤、ガムベース、結合剤、希釈剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、酸化防止剤、保存料、防腐剤、防かび剤、発色剤、漂白剤、光沢剤、酵素、調味料、香辛料抽出物等を適宜添加してもよい。
【0033】
本発明における「食品」の具体例としては、特に限定されず、例えば、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳飲料等の飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調整用粉末を含む);飯類、麺類、パン類、及びパスタ類等の炭水化物含有飲食;クッキーやケーキ等の洋菓子類、饅頭や羊羹等の和菓子類、キャンディー類、ガム類、ヨーグルト、プリン、ゼリー等の冷菓や氷菓等の各種菓子類;かまぼこ、ちくわ、ハンバーグ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;加工乳、発酵乳、ヨーグルト、バター、チーズ等の乳製品;マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品;ソース、たれ等の調味料等が挙げられる。
【0034】
本発明における「化粧品」としては、特に限定されず、例えば、化粧水、乳液、クリーム、美容液、養毛剤、育毛剤、パック、口紅、リップクリーム、メイクアップベースローション、メイクアップベースクリーム、ファンデーション、アイカラー、チークカラー、シャンプー、リンス、ヘアーリキッド、ヘアートニック、パーマネントウェーブ剤、ヘアカラー、トリートメント、浴用剤、ハンドクリーム、レッグクリーム、ネッククリーム、ボディローション等が挙げられる。
【0035】
本発明における「化粧品」には、有効成分を単独で配合してもよいが、通常は、各化粧品の形態に応じた他の成分とともに配合する。ここで、他の成分としては、本発明の効果を損なわない範囲のものであれば特に限定されず、例えば、一般的に化粧料の製剤に用いられる、水(精製水、温泉水、深層水等)、アルコール類、油剤、界面活性剤、金属セッケン、ゲル化剤、粉体、水溶性高分子、皮膜形成剤、樹脂、紫外線防御剤、包接化合物、抗菌剤、香料、消臭剤、塩類、pH調整剤、清涼剤、動物・微生物由来抽出物、植物抽出物、血行促進剤、収斂剤、抗脂漏剤、抗炎症剤、細胞賦活剤、保湿剤、キレート剤、角質溶解剤、酵素、ホルモン類、ビタミン類等が挙げられる。
【0036】
本発明における「医薬部外品」及び「医薬品」としては、特に限定されず、例えば、錠剤(糖衣錠を含む)、カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、内用水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、軟膏剤、ゲル剤、外用散剤、スプレー剤、吸入散剤、注射剤(溶液、懸濁液、乳濁液、用時溶解用固形剤等)、点滴剤、坐剤等が挙げられる。
【0037】
本発明における「医薬部外品」及び「医薬品」には、有効成分を単独で配合してもよいが、通常は、医薬上許容され、かつ各医薬品の形態に応じた他の成分とともに配合する。ここで、他の成分としては、本発明の効果を損なわない範囲のものであれば特に限定されず、例えば、例えば担体、賦形剤、希釈剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤又は崩壊補助剤、可溶化剤、安定化剤、保存剤、防腐剤、増量剤、増粘剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、緩衝剤等が挙げられる。
【0038】
本発明における内服剤は、シワ改善作用及び乾燥肌改善作用を発揮できる用法及び容量で摂取されればよいが、環状ホスファチジン酸又はその塩を有効成分として、成人において1日あたり、少なくとも3.6mgを、少なくとも4週間、経口摂取するように用いられることが好ましい。また、一日あたりの摂取回数については、特に限定されず、例えば、一日あたり少なくとも3.6mgの有効成分を1回で摂取すること、一日あたり少なくとも3.6mgの有効成分を2回に分けて摂取すること、一日あたり少なくとも3.6mgの有効成分を3回以上に分けて摂取すること等が挙げられる。
【0039】
本発明はまた、環状ホスファチジン酸又はその塩を有効成分として含有する組成物を対象者に投与することによる、非治療的美容方法を提供する。本発明の組成物は、「コラーゲン産生促進、線維芽細胞増殖促進、セラミド産生促進、及びヒアルロン酸産生促進をするため」及び、さらに、「シワ改善及び乾燥肌改善をするため」という用途(使用目的)に利用することができる。
【0040】
ここで、「組成物」は、内服剤又は外用剤であり、内服剤又は外用剤は、食品、化粧品、医薬部外品又は医薬品であってよい。ここで「対象者」は特に限定されないが、コラーゲン産生促進、線維芽細胞増殖促進、セラミド産生促進、及びヒアルロン酸産生促進や、さらにはシワ改善及び乾燥肌改善を希望する対象が好ましい。ここで、「投与」は、組成物が内服剤であれば経口投与が好ましく、特に、環状ホスファチジン酸又はその塩を有効成分として成人において1日あたり、少なくとも3.6mgを、少なくとも4週間、経口投与することが好ましい。組成物が外用剤であれば皮膚表面への適用が好ましい。ここで、適用する皮膚表面としては、特に限定されず、例えば、額、目元、目尻、頬、顎、鼻及びその周辺、唇や口元等の顔面;首及びその周り;手指、手の甲、手のひら等の手や手首;足指、足の甲、足の裏やかかと、足首;肘、腕、脚、胸、胸元、腹部、背中等を挙げることができる。好ましくは、顔面、首及びその周り、手指や手甲等の手であり、より好ましくは顔面である。
【0041】
また、本発明における「非治療的美容方法」とは、美容方法であって、治療方法ではないことを意味する。
【実施例0042】
以下、実施例等により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらにより制限されない。