(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022078855
(43)【公開日】2022-05-25
(54)【発明の名称】酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂、当該樹脂を含む酸素吸収用組成物、酸素吸収用接着剤、酸素吸収用組成物を用いた酸素吸収用積層体、及び酸素吸収用フィルム
(51)【国際特許分類】
C08G 63/553 20060101AFI20220518BHJP
C08L 67/06 20060101ALI20220518BHJP
C09J 167/06 20060101ALI20220518BHJP
C09J 7/30 20180101ALI20220518BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20220518BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
C08G63/553
C08L67/06
C09J167/06
C09J7/30
B32B27/36 101
B32B27/36
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020189805
(22)【出願日】2020-11-13
(71)【出願人】
【識別番号】000162113
【氏名又は名称】共同印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100145089
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 恭子
(72)【発明者】
【氏名】太田 奈月
(72)【発明者】
【氏名】山村 彩乃
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
4J002
4J004
4J029
4J040
【Fターム(参考)】
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4J029HB01
4J040ED121
4J040MA10
4J040NA06
(57)【要約】
【課題】新たな構造を有する、酸素吸収性を有する酸素吸収用樹脂、当該樹脂を含む酸素吸収用組成物、酸素吸収用接着剤、酸素吸収用組成物を用いた酸素吸収用積層体、及び酸素吸収用フィルムを提供する。
【解決手段】エチレン性不飽和結合により酸素吸収性能を発現する不飽和ジカルボン酸と、脂環式ジオールとを縮合させることで、酸素吸収性を良好に示す不飽和ポリエステルを得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和ジカルボン酸と脂環式ジオールとが縮合した構成単位を含む、酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂。
【請求項2】
更に、飽和カルボン酸と脂環式ジオールとが縮合した構成単位を含む、請求項1に記載の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂を含む酸素吸収用フィルム。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂を含む、酸素吸収用組成物。
【請求項5】
触媒を含む、請求項4に記載の酸素吸収用組成物。
【請求項6】
硬化剤を含む、請求項4又は5に記載の酸素吸収用組成物。
【請求項7】
飽和ポリエステルを含む、請求項4~6のいずれか1項に記載の酸素吸収用組成物。
【請求項8】
請求項4~7のいずれか1項に記載の酸素吸収用組成物を含む酸素吸収用フィルム。
【請求項9】
請求項4~7のいずれか1項に記載の酸素吸収用組成物からなる酸素吸収用接着剤。
【請求項10】
請求項9に記載の酸素吸収用接着剤を含む酸素吸収用接着剤フィルム。
【請求項11】
請求項4~7のいずれか1項に記載の酸素吸収用組成物からなる酸素吸収用組成物層を備える、酸素吸収用積層体。
【請求項12】
請求項9に記載の酸素吸収用接着剤からなる酸素吸収用接着剤層を備える、酸素吸収用積層体。
【請求項13】
酸素バリア層と、前記酸素吸収用組成物層と、ヒートシール層とが、この順で積層された、請求項11に記載の酸素吸収用積層体。
【請求項14】
酸素バリア層と、前記酸素吸収用接着剤層と、ヒートシール層とが、この順で積層された、請求項12に記載の酸素吸収用積層体。
【請求項15】
請求項3又は8に記載の酸素吸収用フィルム、請求項10に記載の酸素吸収用接着剤フィルム、及び請求項11~14に記載の酸素吸収用積層体からなる群より選ばれるいずれかを備える包装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂、当該樹脂を含む酸素吸収用組成物、酸素吸収用接着剤、酸素吸収用組成物を用いた酸素吸収用積層体、及び酸素吸収用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品等の内容物の品質劣化を抑制する目的で、酸素吸収性能を有する包材が広く使用されている。
【0003】
特許文献1には、炭素-炭素不飽和結合及び反応性官能基を有する酸素吸収性樹脂成分と、架橋剤とが含まれる酸素吸収性塗膜層を有し、酸素バリア層、酸素吸収性塗膜層、及びヒートシール層が、この順に積層された酸素吸収用積層体が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、接着性及び酸素吸収性に優れた酸素吸収性樹脂組成物として、テトラヒドロフタル酸若しくはその誘導体、又はテトラヒドロ無水フタル酸若しくはその誘導体を原料として用いた酸素吸収性ポリエステル系樹脂を含む樹脂組成物が提案されている。
【0005】
特許文献2に記載された酸素吸収性組成物からなる酸素吸収用接着剤層を有する酸素吸収性フィルムは、原料となるテトラヒドロフタル酸やテトラヒドロ無水フタル酸等が、酸素との非常に高い反応性を有するため、優れた酸素吸収性能を発現する。
【0006】
また、不飽和脂環構造と酸素との反応においては、樹脂の自動酸化反応による副生成物である、低分子量の分解成分の発生を抑制することができる。このため、食品包装等の分野において問題となる、匂い等の発生を抑制できるとともに、酸素吸収前後にわたって強いラミネート強度を維持することができるとされている。
【0007】
特許文献3には、新たな構造を有する酸素吸収性物質として、シクロヘキセン環を含むポリマーによる酸素スカベンジャー、及び当該酸素スカベンジャーを用いた容器等が提案されている。
【0008】
特許文献3に記載されたシクロヘキセン環を含む酸素スカベンジャーは、酸化後に環が断片化あるいは分裂する傾向が小さい環状アリル構造を有することから、匂い又は味に悪影響を与える酸化副生物の発生を抑制することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003-268310号公報
【特許文献2】特開2014-136421号公報
【特許文献3】特表2003-521552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
酸素吸収性を有する物質については、今後も様々なニーズに対応する必要があり、更なる種類の樹脂等が要請されている。
【0011】
本発明は、上記の背景に鑑みてなされたものであり、引用文献1~3には記載されていない構造を有する、酸素吸収性を有する酸素吸収用樹脂、当該樹脂を含む酸素吸収用組成物、酸素吸収用接着剤、酸素吸収用組成物を用いた酸素吸収用積層体、及び酸素吸収用フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、酸素吸収性を有する物質について鋭意研究し、エチレン性不飽和結合による酸素吸収性能を発現する不飽和ジカルボン酸と、脂環式ジオールとを縮合させることで、酸素吸収性を良好に示す不飽和ポリエステルが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0013】
《態様1》
不飽和ジカルボン酸と脂環式ジオールとが縮合した構成単位を含む、酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂。
《態様2》
更に、飽和カルボン酸と脂環式ジオールとが縮合した構成単位を含む、態様1に記載の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂。
《態様3》
態様1又は2に記載の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂を含む酸素吸収用フィルム。
《態様4》
態様1又は2に記載の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂を含む、酸素吸収用組成物。
《態様5》
触媒を含む、態様4に記載の酸素吸収用組成物。
《態様6》
硬化剤を含む、態様4又は5に記載の酸素吸収用組成物。
《態様7》
飽和ポリエステルを含む、態様4~6のいずれか一態様に記載の酸素吸収用組成物。
《態様8》
態様4~7のいずれか一態様に記載の酸素吸収用組成物を含む酸素吸収用フィルム。
《態様9》
態様4~7のいずれか一態様に記載の酸素吸収用組成物からなる酸素吸収用接着剤。
《態様10》
態様9に記載の酸素吸収用接着剤を含む酸素吸収用接着剤フィルム。
《態様11》
態様4~7のいずれか一態様に記載の酸素吸収用組成物からなる酸素吸収用組成物層を備える、酸素吸収用積層体。
《態様12》
態様9に記載の酸素吸収用接着剤からなる酸素吸収用接着剤層を備える、酸素吸収用積層体。
《態様13》
酸素バリア層と、前記酸素吸収用組成物層と、ヒートシール層とが、この順で積層された、態様11に記載の酸素吸収用積層体。
《態様14》
酸素バリア層と、前記酸素吸収用接着剤層と、ヒートシール層とが、この順で積層された、態様12に記載の酸素吸収用積層体。
《態様15》
態様3又は8に記載の酸素吸収用フィルム、態様10に記載の酸素吸収用接着剤フィルム、及び態様11~14に記載の酸素吸収用積層体からなる群より選ばれるいずれかを備える包装材。
【発明の効果】
【0014】
本発明の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂は、酸素吸収性能を有するエチレン性の炭素-炭素不飽和結合を有するとともに、脂環式ジオールに由来する脂環式構造を有する。このため、不飽和結合の酸素吸収性能を、脂環式構造により補助することができ、より高度な酸素吸収性能を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
《酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂》
本発明の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂は、不飽和ジカルボン酸と脂環式ジオールとが縮合した構成単位を含む。
【0016】
エチレン性不飽和結合である炭素-炭素不飽和結合を有する物質は、不飽和結合と酸素とが反応することで、酸素吸収性能を発現することが知られている。本発明の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂は、酸素吸収性能を発現するエチレン性の炭素-炭素不飽和結合を有する不飽和ジカルボン酸を原料として用いるため、不飽和ジカルボン酸に由来するエチレン性の炭素-炭素不飽和結合を有することとなる。このため、本発明の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂は、酸素吸収性能を有する。
【0017】
更に、本発明の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂は、エステル結合を作製するためのジオールとして、脂環式ジオールを用いるため、脂環式ジオールに由来する脂環式構造を有することとなる。脂環式構造は、不飽和結合の酸素吸収性能を補助することができるため、本発明の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂は、より高度な酸素吸収性能を実現することができる。
【0018】
理論に拘束されるものではないが、脂環式ジオールを用いることで、より高度な酸素吸収性能を実現できる理由は、脂環式ジオール由来の脂環式構造による立体障害により分子間に空間ができ、当該空間を通して樹脂の内部まで酸素が入り込み易くなり、その結果、酸素と炭素-炭素不飽和結合との接触機会が向上するためと考えられる。
【0019】
<不飽和ジカルボン酸>
本発明の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂を構成する不飽和ジカルボン酸は、少なくとも1個のエチレン性不飽和結合である炭素-炭素不飽和結合を有するとともに、2個のカルボキシル基をするカルボン酸である。
【0020】
炭素-炭素不飽和結合は、不飽和ジカルボン酸の主鎖に存在していても、側鎖に存在していても、また、両者に存在していてもよい。また、炭素-炭素不飽和結合は、環を形成している隣接する炭素の間に存在し、不飽和脂環構造を形成してもよい。
【0021】
また、2個のカルボキシル基は、脱水縮合して酸無水物を形成していてもよい。
【0022】
更に、不飽和ジカルボン酸は、脂肪族環を有する構造を有していてもよい。
【0023】
不飽和ジカルボン酸としては、例えば、不飽和脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。不飽和脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、テトラヒドロフタル酸、これらの酸の無水物、未水添ダイマー酸、シクロヘキセンジカルボン酸、テルペン-マレイン酸付加体等が挙げられる。
【0024】
なお、不飽和ジカルボン酸は、1種のみならず、2種以上を用いてもよい。不飽和ジカルボン酸が異性体を有する場合には、シス、トランスのいずれであってもよく、これらの混合物であってもよい。
【0025】
本発明においては、入手の容易性等の観点から、不飽和ジカルボン酸は、フマル酸、又はマレイン酸であることが好ましい。
【0026】
不飽和ジカルボン酸の含有量は、特に限定されるものではないが、本発明の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂の構成成分となるカルボン酸成分中、例えば、20モル%以上、40モル%以上、50モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、又は98モル%以上であってもよい。
【0027】
<脂環式ジオール>
本発明の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂を構成する脂環式ジオールは、少なくとも1個の芳香族性を有しない炭素環を有する脂環式構造を有するとともに、2個の水酸基が2個の異なる炭素に結合している構造を有する脂環式化合物である。
【0028】
本発明の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂は、不飽和ジカルボン酸と脂環式ジオールとが縮合した構成単位を含むことにより、より高度な酸素吸収性能を実現することができる。
【0029】
脂環式ジオールに由来する脂環式構造は、本発明の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂において、不飽和ジカルボン酸由来の不飽和結合による酸素吸収性能を補助する。脂環式構造による立体障害により分子間に空間ができ、当該空間を通して樹脂の内部まで酸素が入り込み易くなり、その結果、酸素と炭素-炭素不飽和結合との接触機会を向上させると考えられる。
【0030】
脂環式ジオールは、少なくとも1個の芳香族性を有しない炭素環を有する脂環式構造を有していればよく、脂環式構造は、飽和炭化水素であっても、炭素-炭素二重結合を環内に1個含む不飽和環状炭化水素であってもよい。環内に炭素-炭素二重結合を有する場合には、当該二重結合は、酸素と反応して酸素吸収性能を発揮することが可能となる。
【0031】
また、脂環式ジオールは、単環であっても縮合環であってもよい。縮合環の場合には、少なくとも1個の芳香族性を有しない炭素環を備えていればよく、芳香族性を有する環が縮合していてもよい。
【0032】
脂環式ジオールとしては、特に限定されるものではないが、例えば、1,2-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジエタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、5-ノルボルネン-2,3-ジメチロール等が挙げられる。
【0033】
なお、脂環式ジオールは、1種のみならず、2種以上を用いてもよい。脂環式ジオールが異性体を有する場合には、シス、トランスのいずれであってもよく、これらの混合物であってもよい。
【0034】
本発明においては、立体障害の大きい構造を有する脂環式ジオールが、より酸素を入り込み易くすることから、例えば、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール等の縮合環を有する脂環式ジオールによれば、より高い効果を享受することが可能となる。
【0035】
脂環式ジオールの含有量は、特に限定されるものではないが、本発明の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂の構成成分となるジオール成分中、例えば、20モル%以上、40モル%以上、50モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、又は98モル%以上であってもよい。
【0036】
<不飽和ジカルボン酸と脂環式ジオールとが縮合した構成単位>
本発明の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂において、不飽和ジカルボン酸と脂環式ジオールとが縮合した構成単位の含有量は、特に限定されるものではないが、本発明の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂が有する構成単位全体に対して、例えば、20モル%以上、40モル%以上、50モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、又は98モル%以上であってもよい。
【0037】
<その他の構成単位>
本発明の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂は、不飽和ジカルボン酸と脂環式ジオールとが縮合した構成単位以外に、その他の構成単位を含んでいてもよい。
【0038】
その他の構成単位としては、特に限定されるものではなく、例えば、上記した不飽和ジカルボン酸と、上記した脂環式ジオール以外のジオールとが縮合した構成単位、上記した不飽和ジカルボン酸以外のジカルボン酸と、上記した脂環式ジオールとが縮合した構成単位、あるいは、上記した不飽和ジカルボン酸以外のジカルボン酸と、上記した脂環式ジオール以外のジオールとが縮合した構成単位であってよい。また、ジカルボン酸及びジオール以外の共重合成分に由来する構成単位であってもよい。
【0039】
中では、飽和カルボン酸と脂環式ジオールとが縮合した構成単位を含むことが好ましい。本発明の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂において、脂環式ジオールに由来する脂環式構造は、より高度な酸素吸収性能を実現するために重要な役割を果たす。したがって、その他の構成単位が、脂環式ジオールに由来する脂環構造を含む単位であれば、より高いレベルの酸素吸収性能の実現に寄与することができる。
【0040】
上記した不飽和ジカルボン酸以外のジカルボン酸としては、特に限定されるものではなく、従来、ポリエステルを製造する際に用いられている公知のジカルボン酸であってよい。
【0041】
例えば、不飽和結合を有さないジカルボン酸であってよく、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、トリデカンニ酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸、ジメチルマロン酸、メチルコハク酸、2,2-ジメチルコハク酸、2,3-ジメチルコハク酸、テトラメチルコハク酸等が挙げられる。
【0042】
また、2個のカルボキシル基は、脱水縮合して酸無水物を形成していてもよい。
【0043】
上記した脂環式ジオール以外のジオールとしては、特に限定されるものではなく、従来、ポリエステルを製造する際に用いられている公知のジオールであってよい。例えば、脂肪族ジオール、芳香族ジオール等が挙げられる。
【0044】
脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等が挙げられる。
【0045】
芳香族ジオールとしては、例えば、キシリレングリコール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4’-β-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-β-ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン酸等が挙げられる。芳香族ジオールは、更にアルキレンオキシドが付加された、エチレンオキシド付加物又はプロピレンオキシド付加物等となっていてもよい。
【0046】
また、ジカルボン酸及びジオール以外の共重合成分としても、特に限定されるものではなく、本発明の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂を製造する際に、ジカルボン酸又はジオールと共重合可能な原料モノマーであればよい。
【0047】
例えば、グリコール酸、p-ヒドロキシ安息香酸、p-β-ヒドロキシエトキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸やアルコキシカルボン酸、及び、ステアリルアルコール、ヘネイコサノール、オクタコサノール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、ベヘン酸、安息香酸、t-ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸等の単官能成分、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ナフタレンテトラカルボン酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、シュガーエステル等の三官能以上の多官能成分等が挙げられる。
【0048】
<酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂の製造方法>
本発明の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知のポリエステル樹脂の製造方法と適用することができる。
【0049】
例えば、不飽和ジカルボン酸を含むジカルボン酸成分と、脂環式ジオールを含むジオール成分とからスラリーを調製し、必要に応じて触媒、助剤、溶媒等を添加した後、エステル化反応を進行させる。なお、エステル化反応は無触媒でも進行するため、無触媒にて実施してもよい。
【0050】
ジカルボン酸成分とジオール成分の供給量は、特に限定されるものではないが、通常、ジオール成分を過剰にして反応させ、余剰のジオール成分はエステル化反応の進行と共に系外に留去することが好ましい。
【0051】
ジカルボン酸成分に対するジオール成分のモル比は、例えば、1.0~2.0の範囲であってよく、下限は、1.05以上、又は1.1以上であってよく、上限は、1.7以下、又は1.6以下であってよい。
【0052】
《酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂を含む酸素吸収用フィルム》
本発明の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂を含む酸素吸収用フィルムは、上記の本発明の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂を原料として含むフィルムである。酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂を含む酸素吸収用フィルムは、本発明の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂に、必要に応じて、機能性等を付与するための添加剤等の他の成分が配合されていてもよい。
【0053】
酸素吸収用フィルムにおける本発明の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂の配合量は、酸素吸収用フィルムの構成材料全体に対して、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上であってよい。
【0054】
酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂を含む酸素吸収用フィルムは、例えば、本発明の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂、及び必要に応じて配合された添加剤等の他の成分を含む組成物を、フィルム状に溶融押出し、冷却ドラムにより急冷することで得られる、未延伸フィルムであってもよい。
【0055】
あるいは、次いで、未延伸フィルムを予熱して、一軸延伸、逐次二軸延伸、又は同時二軸延伸を実施することで得られる、一軸又は二軸延伸フィルムであってもよい。
【0056】
《酸素吸収用組成物》
本発明の酸素吸収用組成物は、上記した本発明の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂を含む組成物である。本発明の酸素吸収用組成物は、本発明の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂を含むことで、酸素吸収性能を有する。
【0057】
なお、本発明の酸素吸収用組成物は、酸素吸収用組成物を構成するポリエステル成分の合計100質量%に対して、本発明の不飽和ポリエステルの配合量が、60質量%以上、より好ましくは80質量%以上であれば、高いレベルの酸素吸収能を発揮させることができる。
【0058】
<酸素吸収用組成物の構成成分>
本発明の酸素吸収用組成物は、上記した本発明の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂以外に、任意の成分や溶媒等が配合されていてもよい。
【0059】
(触媒)
本発明の酸素吸収用組成物は、上記した本発明の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂以外に、任意の成分として、触媒を含んでいてもよい。触媒を存在させることで、酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂の酸素吸収性能を高めることができる。
【0060】
触媒としては、特に限定されるものではなく、例えば、遷移金属又は第12族元素と、有機酸とからなる金属塩が挙げられる。遷移金属としては、例えば、鉄、コバルト等が挙げられ、第12族元素としては、例えば亜鉛が挙げられる。また、有機酸としては、例えばステアリン酸、クエン酸、フマル酸、グルコン酸、ラウリン酸、エチレンジアミン-N,N,N’,N’-四酢酸、2,4-ペンタンジオン酸等が挙げられる。
【0061】
したがって、本発明の酸素吸収用組成物に配合される触媒としては、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸コバルト、ステアリン酸鉄等が挙げられ、いずれによっても、本発明の酸素吸収用組成物の酸素吸収性能を高めることができる。
【0062】
本発明の酸素吸収用組成物が触媒を含む場合には、その配合量は、酸素吸収用組成物の全固形分質量に対する遷移金属又は第12族元素の質量換算で、例えば、10~500ppmであってよい。
【0063】
触媒の配合量は、酸素吸収用組成物の全固形分質量に対する遷移金属又は第12族元素の質量換算で、20ppm以上、40ppm以上、60ppm以上、80ppm以上、100ppm以上、150ppm以上、又は200ppm以上であってよく、450ppm以下、400ppm以下、350ppm以下、300ppm以下、250ppm以下、又は200ppm以下であってよい。
【0064】
(硬化剤)
本発明の酸素吸収用組成物は、上記した本発明の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂以外に、任意の成分として、硬化剤を含んでいてもよい。硬化剤を存在させることで、不飽和ポリエステルを三次元架橋させることができ、不溶不融の硬化物を形成することができる。また、硬化スピードを調整することができ、用途に応じてコントロールすることが可能となる。
【0065】
硬化剤としては、特に限定されるものではなく、ポリエステル系樹脂の分野において用いられている、公知の硬化剤を用いることができる。例えば、イソシアネート系硬化剤や過酸化物等を挙げることができる。
【0066】
イソシアネート系硬化剤としては、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2'-ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3'-ジメチル-4,4'-ビフェニレンジイソシアネート、3,3'-ジメトキシ-4,4'-ビフェニレンジイソシアネート、3,3'-ジクロロ-4,4'-ビフェニレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、1,5-テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,3-シクロヘキシレンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4'-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、又は、3,3'-ジメチル-4,4'-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
【0067】
なお、イソシアネート系硬化剤は、分子量が増大されたポリイソシアネート化合物であってもよい。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、アダクトやイソシアヌレート、ビュレット体等が挙げられる。また、イソシアネート系硬化剤は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
過酸化物としては、例えば、ケトンパーオキサイド類、パーオキシジカーボネート類、ハイドロパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシエステル類等が挙げられる。
【0069】
本発明の酸素吸収用組成物が硬化剤を含む場合には、その配合量は、成形サイクルや用途に応じて、適宜設定することができる。例えば、酸素吸収用組成物を構成する不飽和ポリエステルと飽和ポリエステルの合計固形分質量100質量部に対して、0.1~100質量部であってよい。
【0070】
また、硬化剤の配合量は、酸素吸収用組成物の全固形分100質量%に対して、0.2質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、7質量%以上、又は10質量%以上であってよく、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、10質量%以下、8質量%以下、又は6質量%以下であってよい。
【0071】
(飽和ポリエステル)
本発明の酸素吸収用組成物は、上記した本発明の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂以外に、任意の成分として、飽和ポリエステルを含んでいてもよい。飽和ポリエステルを存在させることで、得られる組成物に接着性を付与し、ラミネート強度をより向上させることができる。
【0072】
すなわち、本発明の酸素吸収用組成物が、本発明の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂以外に、飽和ポリエステルを含んでいる態様であれば、本発明の酸素吸収用組成物は、少なくとも接着剤として機能させることができる。本発明の酸素吸収用組成物が、接着剤として機能する場合には、接着層として2層の間に挟み込むことで、酸素吸収性能を有する積層体を形成することができる。
【0073】
その結果、例えば、従来、ヒートシール層を有する積層体を形成するために必要とされていた、ヒートシール剤を塗工したり、ヒートシール性フィルムをラミネートしたりする等の工程、又はヒートシール性フィルムを貼り付けるために接着層を予め形成する工程等が必要なくなり、当該工程に起因する酸素吸収性能の低下を回避することができる。
【0074】
飽和ポリエステルとしては、特に限定されるものではなく、反応性の不飽和結合を有さないポリエステルから適宜選択して用いることができる。例えば、脂肪族ポリエステルであっても、芳香族ポリエステルであっても、脂環式ポリエステルであってもよく、これらの2種以上を、同時に適用してもよい。
【0075】
本発明の酸素吸収用組成物が飽和ポリエステルを含む場合には、その配合量は、組成物の用途に応じて適宜設定することができる。例えば、酸素吸収用組成物を構成する不飽和ポリエステルと飽和ポリエステルとの合計100質量%に対して、1~99質量%であってよい。
【0076】
飽和ポリエステルの配合量は、酸素吸収用組成物を構成する不飽和ポリエステルと飽和ポリエステルとの合計100質量%に対して、5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、60質量%以上、又は80質量%以上であってよく、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、35質量%以下、又は30質量%以下であってよい。
【0077】
(溶媒)
本発明の酸素吸収用組成物は、任意の成分として、溶媒を含んでいてもよい。溶媒は、本発明の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂及び任意の成分を溶解して、取り扱い等を向上させることができる。
【0078】
本発明の酸素吸収用組成物に用いられる溶媒は、特に限定されるものではなく、ポリエステル系組成物の溶媒として用いられている公知の溶媒を適用することができる。
【0079】
溶媒の配合量についても特に限定されるものではなく、組成物の用途や成形サイクル等に応じて、適宜選択することができる。
【0080】
<酸素吸収用組成物の製造方法>
本発明の酸素吸収用組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、ポリエステル系組成物の製造方法として公知の方法を適用することができる。
【0081】
《酸素吸収用組成物を含む酸素吸収用フィルム》
本発明の酸素吸収用組成物を含む酸素吸収用フィルムは、上記の本発明の酸素吸収用組成物を原料として含むフィルムである。
【0082】
酸素吸収用フィルムにおける本発明の酸素吸収用組成物の配合量は、酸素吸収用フィルムの構成材料全体に対して、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上であってよい。
【0083】
酸素吸収用組成物を含む酸素吸収用フィルムは、例えば、本発明の酸素吸収用組成物を溶媒に溶解した後に、得られた溶液を離型紙等の対象物の上に塗布し、溶媒を除去して硬化等させて得られる、未延伸フィルムであってもよい。
【0084】
あるいは、本発明の酸素吸収用組成物を溶融し、フィルム形状に押し出して得られる未延伸フィルムであってもよいし、次いで、未延伸フィルムを予熱して、一軸延伸、逐次二軸延伸、又は同時二軸延伸を実施して得られる、一軸又は二軸延伸フィルムであってもよい。
【0085】
《酸素吸収用接着剤》
本発明の酸素吸収用接着剤は、上記した本発明の酸素吸収用組成物を含む接着剤である。本発明の酸素吸収用接着剤は、本発明の酸素吸収用組成物を含むため、酸素吸収性能を有する。同時に、接着性を有する。
【0086】
このため、本発明の酸素吸収用接着剤を接着層として2層の間に挟み込むことで、酸素吸収性能を有する積層体を形成することができ、例えば、従来、ヒートシール層を有する積層体を形成するために必要とされていた、ヒートシール剤を塗工したり、ヒートシール性フィルムをラミネートしたりする等の工程、又はヒートシール性フィルムを貼り付けるために接着層を予め形成する工程等が必要なくなり、当該工程に起因する酸素吸収性能の低下を回避することができる。
【0087】
<酸素吸収用接着剤の構成成分>
本発明の酸素吸収用接着剤は、上記した本発明の酸素吸収用組成物以外に、接着性を付与するための任意の成分、機能性を付与するための任意の成分、又は溶媒等を配合することができる。なお、上記した本発明の酸素吸収用組成物が飽和ポリエステルを含む態様であり、酸素吸収用組成物自体が接着性を有し、接着剤として機能する場合には、接着性を付与するための任意の成分は、添加してもしなくてもよい。
【0088】
《酸素吸収用接着剤フィルム》
本発明の酸素吸収用接着剤フィルムは、上記の本発明の酸素吸収用接着剤を原料として含むフィルムである。
【0089】
酸素吸収用接着剤フィルムにおける本発明の酸素吸収用接着剤の配合量は、酸素吸収用接着剤フィルムの構成材料全体に対して、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上であってよい。
【0090】
酸素吸収用接着剤フィルムは、例えば、本発明の酸素吸収用接着剤を溶媒に溶解した後に、得られた溶液を離型紙等の対象物の上に塗布し、溶媒を除去して硬化等させて得られる、未延伸フィルムであってもよい。
【0091】
《酸素吸収用積層体》
本発明の酸素吸収用積層体は、上記した本発明の酸素吸収用組成物からなる酸素吸収用組成物層を備える積層体である。
【0092】
本発明の酸素吸収用積層体は、本発明の酸素吸収用組成物からなる酸素吸収用組成物層を備えていれば、その他の層は特に限定されるものではない。その他の層としては、例えば、積層体に機能を付与するための酸素バリア層、ヒートシール層等、あるいは、各層を接着するための接着層等が挙げられる。
【0093】
本発明の酸素吸収用積層体は、例えば、酸素バリア層と、本発明の酸素吸収用組成物からなる酸素吸収用組成物層と、ヒートシール層とが、この順で積層された構成であってもよい。
【0094】
本発明の酸素吸収用積層体が、酸素バリア層と、酸素吸収用組成物層と、ヒートシール層とが、この順で積層された構成となっている場合には、ヒートシール層を熱溶着させることで各種の包装体を形成することができる。包装体に充填された内容物が接する面は、ヒートシール層となり、包装体の外部である大気等に含まれる酸素が接触する面は、酸素バリア層となる。
【0095】
したがって、酸素吸収用積層体が、酸素バリア層と、酸素吸収用組成物層と、ヒートシール層とが、この順で積層された構成となっていれば、外部からの酸素透過を防ぎつつ、包装体内部の酸素を吸収することができる。その結果、より高度なレベルで、包装体内部に存在する酸素を排除することができ、内容物の酸化劣化を回避することができる。
【0096】
また、本発明の酸素吸収用積層体を構成する酸素吸収用組成物層が、接着性を有する酸素吸収用接着剤を含む層である場合には、酸素吸収用組成物層を形成するための組成物を、接着したい2層の間に挟み込んで酸素吸収用接着剤層とすることで、当該2層を接着するとともに、自身により酸素吸収性能を発揮する積層体を実現できる。
【0097】
したがって、酸素吸収性能を備える層を形成するために、接着層を設ける工程を別に必要とせず、酸素吸収用積層体を形成することができる。そして、別に設ける必要のあった工程に起因する、酸素吸収性能の低下を回避することができる。
【0098】
<その他の層>
(酸素バリア層)
酸素バリア層は、酸素を遮断する機能を発現し、酸素吸収用積層体に酸素バリア性を付与するための層となる。
【0099】
酸素バリア層としては、特に限定されるものではなく、包装材料の分野にて公知の材料から作製することができる。例えば、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ナイロン(NY)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、又はポリアクリロニトリル(PAN)等からなる層や、シリカ、アルミナ、又はアルミ等が蒸着されたPETフィルムやナイロンフィルム、更には、アルミ箔や、PETとアルミ箔との積層体、ナイロンとアルミ箔との積層体等が挙げられる。
【0100】
本発明の酸素吸収用積層体においては、酸素バリア層の厚み等については特に限定されるものではなく、積層体の用途に応じて、適宜設定することができる。
【0101】
(ヒートシール層)
ヒートシール層は、例えば包装体等の構造体を形成する際に、熱溶着される層となる。このため、ヒートシール層は、積層体の最内層となるように配置される。
【0102】
ヒートシール層を構成する材料としては、熱接着が可能であり、成形された構造体に十分なシール強度を付与できるものであれば、特に限定されるものではない。公知の材料を適用することができ、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-プロピレン共重合体(EP)、エチレン-アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)、アイオノマー樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等が挙げられる。
【0103】
なお、ヒートシール層を構成する樹脂等は、1種のみならず、2種以上がブレンドされていてもよく、必要に応じて、機能性等を付与するための添加剤等が配合されていてもよい。
【0104】
<酸素吸収用積層体の製造方法>
本発明の酸素吸収用積層体の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を適用することができる。例えば、ドライラミネーション法、ホットメルトラミネーション法、エクストルージョンラミネーション法、及びサンドイッチラミネーション方法等が挙げられる。
【0105】
《用途》
本発明の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂を含む酸素吸収用フィルム、本発明の酸素吸収用組成物を含む酸素吸収用フィルム、本発明の酸素吸収用接着剤を含む酸素吸収用接着剤フィルム、及び本発明の酸素吸収用積層体は、包装材として好適に用いることができる。
【0106】
本発明の酸素吸収用不飽和ポリエステル樹脂を含む酸素吸収用フィルム、本発明の酸素吸収用組成物を含む酸素吸収用フィルム、本発明の酸素吸収用接着剤を含む酸素吸収用接着剤フィルム、及び本発明の酸素吸収用積層体から成る群より選ばれるいずれかを備える包装材は、酸素吸収性能を発揮することができるため、例えば、内容物と酸素との接触を遮断したい、医薬品、医薬部外品、化粧品、洗剤、食品、塗料等の包装材として、好適に用いることができる。
【0107】
以下、実施例及び比較例等により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0108】
《製造例1~5》
<不飽和ポリエステル樹脂の製造>
表1に示される不飽和ジカルボン酸と飽和ジカルボン酸とを、製造例1~2においては4:6のモル比となるように、製造例3~5においては9:1のモル比となるように準備し、表1に示されるジオールと反応させることで、不飽和ポリエステル樹脂を合成した。
【0109】
すなわち、製造例1~2では、不飽和ジカルボン酸と脂環式ジオールとが縮合した構成単位を含む不飽和ポリエステル樹脂を合成し、製造例3~5では、不飽和ジカルボン酸と脂肪族ジオールとが縮合した構成単位を含む不飽和ポリエステル樹脂を合成した。
【0110】
そして、製造例1~5で得られたいずれの不飽和ポリエステル樹脂においても、不飽和ジカルボン酸とジオールとが縮合した構成単位と、飽和カルボン酸とジオールとが縮合した構成単位とを含む。
【0111】
<溶剤への溶解性評価>
製造例1~5で得られた不飽和ポリエステルについて、常温における溶剤への溶解性について評価した。
【0112】
溶剤として、メチルエチルケトン、トルエン、酢酸エチル、メタノール、エタノール、及びイソプロピルアルコールを準備し、常温にて、これらのいずれかに溶解したものを○、いずれにも溶解しなかったものを×とした。結果を表1に示す。
【0113】
【0114】
<考察>
不飽和ジカルボン酸として、cis体である無水マレイン酸を使用した製造例3で得られた不飽和ポリエステルCは、trans体であるフマル酸を使用した製造例4で得られた不飽和ポリエステルDと異なり、溶剤に溶解した。これは、trans体であるフマル酸由来の構成単位を含む不飽和ポリエステルは、分子鎖が密になりすぎるため、溶媒への溶解性がなかったものと考えられる。
【0115】
また、不飽和ジカルボン酸として、3or4-メチル-1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸を使用した製造例5で得られた不飽和ポリエステルEは、ジカルボン酸由来の構成単位が環を有することから、分子鎖が密にならず、このため溶媒への溶解性を示したと考えられる。
【0116】
更に、不飽和ジカルボン酸として、trans体であるフマル酸を使用した製造例1及び2で得られた不飽和ポリエステルA及びBは、ジカルボン酸由来の構成単位を有していても、脂環式ジオールであるトリシクロデカンジメタノール由来の構成単位を有することから、分子鎖が密にならず、このため溶媒への溶解性を示したと考えられる。
【0117】
《実施例1~20、比較例1~3》
<組成物の作製>
製造例1、2、3、及び5で得られた、不飽和ポリエステルA、B、C、及びEを用いて、これらを含む組成物を作製した。
【0118】
(組成物の成分)
組成物に配合した各種成分を以下に示す。
【0119】
1.不飽和ポリエステル
・製造例1で得られた不飽和ポリエステルA
・製造例2で得られた不飽和ポリエステルB
・製造例3で得られた不飽和ポリエステルC
・製造例5で得られた不飽和ポリエステルE
【0120】
2.飽和ポリエステル
・ポリエステル系ポリオール(タケラック(登録商標)A-525S、三井化学株式会社)
【0121】
3.硬化剤
・イソシアネート化合物(タケネート(登録商標)A-50、三井化学株式会社)
【0122】
4.触媒
・ステアリン酸コバルト(II)
・ステアリン酸亜鉛(II)
・ステアリン酸鉄(III)
【0123】
(操作)
表2に示される、不飽和ポリエステル、及び飽和ポリエステルを、表2に示される固形分質量比となるように準備した。続いて、不飽和ポリエステルと飽和ポリエステルの合計固形分質量100質量部に対して、7質量部の硬化剤を混合した。
【0124】
更に、表1に示される触媒を、組成物の全固形分質量に対する、コバルト、鉄、又は亜鉛の質量換算で80ppm添加し、続いて、酢酸エチルを添加して、固形分33質量%となる酢酸エチル溶液である組成物を調製した。
【0125】
<積層体の作製>
実施例1~20、及び比較例1~3で得られた酢酸エチル溶液である組成物を、厚み12μmのシリカ蒸着PETフィルム(テックバリア(登録商標)L、三菱ケミカル株式会社)に、塗布量が5g/m2となるように塗工し、厚み30μmのLLDPEフィルム(SE620N、タマポリ株式会社)と貼り合わせることで、積層体を作製した。
【0126】
<酸素吸収量の測定>
得られた積層体を10cm×10cm(100cm2)にカットし、43mLの密閉容器に空気とともに封入し、23℃で7日間保管した。7日後の容器内の酸素濃度を、非破壊酸素濃度計(Fibox3、PreSens社)を用いて測定し、得られた酸素濃度と大気中の酸素濃度とから、積層体の面積当りの酸素吸収量(mL/m2)を算出した。結果を表2及び表3に示す。
【0127】
【0128】
【0129】
<考察>
比較例1より、不飽和ポリエステル樹脂を含まない接着剤は、酸素吸収性能を有していないことが判る。
【0130】
また、比較例2及び3より、脂環式ジオール由来の構成単位を含まない、製造例3で得られた不飽和ポリエステルC、及び製造例5で得られた不飽和ポリエステルEは、酸素吸収性能が低いことが判る。
【0131】
一方で、脂環式ジオール由来の構成単位を含む、製造例1で得られた不飽和ポリエステルA、及び製造例2で得られた不飽和ポリエステルBは、比較例2及び3と比較して、高い酸素吸収性能を示した。これは、脂環式ジオール由来の構造による立体障害により分子間に空間ができ、当該空間を通して酸素が入り込みやすいためだと考えられる。
【0132】
<剥離強度の測定>
実施例1、3~6、14~17、及び比較例1で作製した組成物の接着性を評価するため、組成物を用いて作製した積層体について、シリカ蒸着PETフィルム層とLLDPEフィルム層との間の剥離強度の測定を行った。
【0133】
測定にあたっては、JIS K 6854-3に従って、T型剥離試験を実施した。各積層体から、幅15mm、長さ200mm(非接着部50mmを含む)の試験片を切り出し、ストログラフVGS05-E(東洋精機(株)製)を用いて、23℃50%RHの雰囲気下にて、剥離速度300mm/minにて剥離強度を測定した。結果を表4に示す。なお、剥離ができたものを「剥離」、測定中に試料が破壊したものを、「破壊」と表示する。
【0134】
【0135】
<考察>
実施例1と実施例3~6との比較より、不飽和ポリエステルに飽和ポリエステルが配合された組成物である実施例3~6は、ポリエステル成分が不飽和ポリエステルのみで構成される実施例1と比較して、接着強度が向上していることが判る。
【0136】
実施例14と実施例15~17との比較より、ポリエステル成分が不飽和ポリエステルのみで構成される場合であっても、硬化剤の配合量を増加させることで、接着強度が向上していることが判る。