(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022078859
(43)【公開日】2022-05-25
(54)【発明の名称】皮膚外用剤およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/73 20060101AFI20220518BHJP
A61Q 1/02 20060101ALI20220518BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20220518BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220518BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20220518BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20220518BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
A61K8/73
A61Q1/02
A61Q19/00
A61K9/08
A61K9/107
A61K47/38
A61K47/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020189813
(22)【出願日】2020-11-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【弁理士】
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【弁理士】
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】添田 裕人
(72)【発明者】
【氏名】後居 洋介
【テーマコード(参考)】
4C076
4C083
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076AA17
4C076BB31
4C076CC18
4C076DD23
4C076EE31G
4C076EE32G
4C076FF17
4C076FF36
4C083AB331
4C083AB332
4C083AD261
4C083AD262
4C083AD281
4C083AD282
4C083CC02
4C083DD23
4C083DD27
4C083EE01
4C083EE07
4C083FF01
4C083FF05
(57)【要約】
【課題】耐塩性に優れるとともに、肌への使用感に優れた皮膚外用剤を提供する。
【解決手段】実施形態に係る皮膚外用剤は下記の(A)~(D)成分を含有する。
(A)数平均繊維径が2~150nmのセルロース繊維であって、そのセルロース繊維がセルロースI型結晶構造を有しており、カルボキシ基が0.6~3.0mmol/gの割合で導入されているセルロース繊維。
(B)(A)成分の質量に対し5~500質量%のヒドロキシエチルセルロース。
(C)水溶性有機塩および/または水溶性無機塩。
(D)水。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)~(D)成分を含有する皮膚外用剤。
(A)数平均繊維径が2~150nmのセルロース繊維であって、そのセルロース繊維がセルロースI型結晶構造を有しており、カルボキシ基が0.6~3.0mmol/gの割合で導入されているセルロース繊維。
(B)(A)成分の質量に対し5~500質量%のヒドロキシエチルセルロース。
(C)水溶性有機塩および/または水溶性無機塩。
(D)水。
【請求項2】
前記(A)成分の含有量が、皮膚外用剤全量に対し0.1~2質量%の範囲である、請求項1に記載の皮膚外用剤。
【請求項3】
前記(B)成分は、B型粘度計を用いて6rpm、25℃、3分間の条件で測定を行ったときの2質量%水溶液の粘度が10~8000mPa・sである、請求項1または2に記載の皮膚外用剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に皮膚外用剤の製造方法であって、前記(A)成分が前記(D)成分中に分散した分散液を得ること、および、前記分散液に前記(C)成分を添加する前に前記(B)成分を添加すること、を含む皮膚外用剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚外用剤、および、皮膚外用剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧品や医薬品、医薬部外品などの皮膚外用剤における増粘剤として、セルロース繊維をナノサイズに微細化したセルロースナノファイバーを用いることが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、使用感に優れるとともに増粘剤の使用量を抑えても高粘度化を達成することができる粘性水系組成物として、数平均繊維径が2~150nmであってカルボキシル基が0.6~2.0mmol/gの割合で導入されたセルロース繊維と、増粘促進剤と、水と、を含有する粘性水系組成物が開示されている。特許文献1には、増粘促進剤として、非イオン性の増粘多糖類,アクリル系高分子および重量平均分子量120000以上のセルロース誘導体が記載され、具体的には、タマリンドガム,グルコマンナン,グアーガム,カルボキシビニルポリマー,(メタ)アクリル酸アルキル共重合体,カルボキシメチルセルロース,メチルセルロースおよびヒドロキシエチルセルロースが例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように特許文献1には、セルロース繊維と組み合わせる増粘促進剤として種々挙げられているが、ヒドロキシエチルセルロースを用いることにより耐塩性が向上することは開示されていない。化粧品や医薬品などの皮膚外用剤においては無機塩や有機塩などの塩を含む処方が用いられる場合があり、その場合でもクリーム状やゲル状などの高粘性を維持すること、すなわち耐塩性に優れることが望ましい。
【0006】
本発明の実施形態は、耐塩性に優れるとともに、肌への使用感に優れた皮膚外用剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] 下記の(A)~(D)成分を含有する皮膚外用剤。
(A)数平均繊維径が2~150nmのセルロース繊維であって、そのセルロース繊維がセルロースI型結晶構造を有しており、カルボキシ基が0.6~3.0mmol/gの割合で導入されているセルロース繊維。
(B)(A)成分の質量に対し5~500質量%のヒドロキシエチルセルロース。
(C)水溶性有機塩および/または水溶性無機塩。
(D)水。
[2] 前記(A)成分の含有量が、皮膚外用剤全量に対し0.1~2質量%の範囲である、[1]に記載の皮膚外用剤。
[3] 前記(B)成分は、B型粘度計を用いて6rpm、25℃、3分間の条件で測定を行ったときの2質量%水溶液の粘度が10~8000mPa・sである、[1]または[2]に記載の皮膚外用剤。
[4] [1]~[3]のいずれか1項に皮膚外用剤の製造方法であって、前記(A)成分が前記(D)成分中に分散した分散液を得ること、および、前記分散液に前記(C)成分を添加する前に前記(B)成分を添加すること、を含む皮膚外用剤の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態によれば、耐塩性に優れるとともに、肌への使用感に優れた皮膚外用剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態に係る皮膚外用剤は、(A)成分として特定のセルロース繊維と、(B)成分としてヒドロキシエチルセルロースと、(C)成分として水溶性有機塩および/または水溶性無機塩と、(D)成分として水を含むものである。
【0010】
[(A)セルロース繊維]
セルロース繊維としては、下記(a1)~(a3)を満たすセルロースナノファイバー(CNF)が用いられる。
(a1)数平均繊維径が2~150nmであること。
(a2)セルロースI型結晶構造を有すること。
(a3)カルボキシ基が0.6~3.0mmol/gの割合で導入されていること。
【0011】
上記(a1)に関し、セルロース繊維はその基本単位であるセルロースシングルナノファイバーの繊維径が2nm程度であるため、セルロース繊維の数平均繊維径は2nm以上であることが好ましい。セルロース繊維は、その数平均繊維径の上限が150nm以下であることにより、増粘性と透明性を向上することができる。セルロース繊維の数平均繊維径は、2.5nm以上であることが好ましく、より好ましくは3nm以上である。セルロース繊維の数平均繊維径は、100nm以下であることが好ましく、より好ましくは50nm以下であり、更に好ましくは20nm以下であり、10nm以下でもよい。
【0012】
セルロース繊維の最大繊維径は、特に限定されないが、肌への使用感を向上する観点から、1000nm以下であることが好ましい。
【0013】
セルロース繊維の平均アスペクト比は、特に限定されず、例えば30以上でもよく、50以上でもよく、100以上でもよい。平均アスペクト比は、また、700以下でもよく、500以下でもよい。
【0014】
セルロース繊維の数平均繊維径は、原子間力顕微鏡(AFM)による画像観察において無作為に選択した50本のセルロース繊維についての繊維径を相加平均することにより算出される。平均アスペクト比は、当該50本のセルロース繊維についての繊維長を相加平均することにより数平均繊維長を算出し、数平均繊維径に対する数平均繊維長比(数平均繊維長/数平均繊維径)として算出される。最大繊維径は、上記数平均繊維径を測定する際の原子間力顕微鏡による画像において最も大きい繊維径を持つセルロース繊維の当該繊維径である。
【0015】
上記(a2)に関し、セルロースI型結晶構造は天然セルロースの結晶形のことである。セルロースI型結晶構造を有することは、広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2θ=14°~17°付近と、2θ=22°~23°付近の2つの位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
【0016】
上記(a3)に関し、本実施形態に係るセルロース繊維は、セルロース分子が化学的に修飾され、セルロース分子の構成単位であるグルコースユニットがカルボキシ基を有するカルボキシ基変性セルロース繊維である。
【0017】
カルボキシ基は、セルロース分子を構成するすべてのグルコースユニットに一つ又は一つ以上結合していてもよく、あるいは、セルロース分子を構成する一部のグルコースユニットに一つ又は一つ以上結合していてもよい。
【0018】
カルボキシ基は、グルコースユニットに直接結合してもよく、間接的に結合してもよい。間接的に結合する場合、グルコースユニットとカルボキシ基との間には、例えば、炭素数1~4のアルキレン基が存在してもよい。
【0019】
本明細書において、カルボキシ基は、酸型(-COOH)だけでなく、塩型、即ちカルボン酸塩基(-COOX、ここでXはカルボン酸と塩を形成する陽イオン)も含む概念であり、酸型と塩型が混在してもよい。塩としては、特に限定されず、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩等のオニウム塩、1級アミン、2級アミン、3級アミン等のアミン塩等が挙げられる。
【0020】
セルロース繊維におけるカルボキシ基の含有量(カルボキシ基量)は、セルロース繊維の乾燥質量当たり0.6~3.0mmol/gである。カルボキシ基量が0.6mmol/g以上であることにより、セルロース繊維がシングルナノファイバー単位まで分散でき、平均繊維径が2~150nmのセルロース繊維を得ることができる。カルボキシ基量が3.0mmol/g以下であることにより、セルロース繊維が水溶化することなく、セルロースI型の結晶構造を保持することができる。カルボキシ基量は、1.0mmol/g以上であることが好ましく、また2.5mmol/g以下であることが好ましい。なお、本明細書において「乾燥質量」とは、一分間当たりの質量変化率が0.05%以下になるまで140℃で乾燥させた後の質量のことである。
【0021】
カルボキシ基を有するセルロース繊維としては、例えば、セルロース分子中のグルコースユニットの水酸基を酸化してなる酸化セルロース繊維や、セルロース分子中のグルコースユニットの水酸基をカルボキシメチル化してなるカルボキシメチル化セルロース繊維が挙げられる。
【0022】
酸化セルロース繊維としては、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてカルボキシ基に変性されたものが挙げられる。酸化セルロース繊維は、木材パルプなどの天然セルロースをN-オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化させ、微細化処理することにより得られる。N-オキシル化合物としては、一般に酸化触媒として用いられるニトロキシラジカルを有する化合物が用いられ、例えばピペリジンニトロキシオキシラジカルであり、特に2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシラジカル(TEMPO)または4-アセトアミド-TEMPOが好ましい。なお、酸化セルロース繊維は、カルボキシ基とともに、アルデヒド基又はケトン基を有していてもよい。
【0023】
上記(a1)の数平均繊維径とするための微細化処理は、例えば、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波分散処理機、ビーター、ディスク型リファイナー、コニカル型リファイナー、ダブルディスク型リファイナー、グラインダー等を用いて、セルロース繊維の水分散液を処理することにより行うことができ、微細繊維状セルロース繊維の水分散体を得ることができる。
【0024】
本実施形態に係る皮膚外用剤において、(A)成分のセルロース繊維の含有量は、特に限定されず、皮膚外用剤全量に対して、例えば0.01~10質量%でもよく、0.05~5質量%でもよいが、好ましくは0.1~2質量%である。セルロース繊維の含有量が0.1質量%以上であることにより、耐塩性の向上効果を高めることができる。セルロース繊維の含有量が2質量%以下であることにより、肌への使用感をより向上することができる。
【0025】
[(B)ヒドロキシエチルセルロース]
ヒドロキシエチルセルロース(HEC)は、セルロースにエチレンオキシドを付加させてなる水溶性高分子である。上記(A)成分のセルロース繊維とともにヒドロキシエチルセルロースを併用することにより、皮膚外用剤において耐塩性を向上することができるとともに、肌への使用感を向上することができる。
【0026】
ヒドロキシエチルセルロースの含有量は、(A)成分であるセルロース繊維の質量に対して、5~500質量%であることが好ましい。この(A)成分に対する含有量が5質量%以上であることにより、耐塩性を向上することができ、また500質量%以下であることにより、肌への使用感を向上することができる。(A)成分の質量に対するヒドロキシエチルセルロースの含有量は、10質量%以上であることが好ましく、より好ましくは50質量%以上であり、また、300質量%以下であることが好ましく、より好ましくは200質量%以下である。
【0027】
ヒドロキシエチルセルロースとしては、B型粘度計を用いて6rpm、25℃、3分間の条件で測定を行ったときの2質量%水溶液の粘度が10~8000mPa・sであるものが好ましい。該粘度が10mPa・s以上であることにより、耐塩性および高粘性の効果を高めることができる。該粘度が8000mPa・s以下であることにより、肌への使用感および耐塩性の効果を高めることができる。該粘度は、20mPa・s以上であることが好ましく、また6000mPa・s以下であることが好ましい。該粘度は、ヒドロキシエチルセルロースの重合度(即ち、平均分子量)やエチレンオキシドの平均付加モル数等により調整することができる。該粘度が異なる種々のヒドロキシエチルセルロースが市販されており、それらの中から選択して用いてもよく、あるいはまた、公知の方法に基づき調製してもよい。
【0028】
[(C)水溶性有機塩および/または水溶性無機塩]
本実施形態に係る皮膚外用剤は水溶性有機塩および水溶性無機塩のいずれか一方または双方を含む。このように水溶性有機塩および/または水溶性無機塩を含むものでありながら、(A)成分と(B)成分との併用により耐塩性に優れることから、これらによる増粘効果を維持することができる。なお、これら水溶性有機塩および水溶性無機塩の水への溶解度は、皮膚外用剤に配合される濃度において水に溶解可能であればよい。
【0029】
水溶性有機塩としては、特に限定されず、皮膚外用剤に配合される各種水溶性有機塩を用いることができ、例えば、有機酸(好ましくは炭素数10以下の有機酸)のアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(マグネシウム塩、カルシウム塩など)、アンモニウム塩などが挙げられる。一実施形態において、水溶性有機塩の具体例としては、クエン酸ナトリウムなどのクエン酸塩、リン酸-L-アスコルビン酸ナトリウムなどのリン酸-L-アスコルビン酸塩、アスコルビン酸カルシウムなどのアスコルビン酸塩、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムなどのエチレンジアミン四酢酸塩、デヒドロ酢酸ナトリウムなどのデヒドロ酢酸塩等が挙げられる。これらはいずれか1種用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0030】
水溶性無機塩としては、特に限定されず、皮膚外用剤に配合される各種水溶性無機塩が挙げられ、例えば、NaCl、KCl、CaCl2、MgCl2などの塩化物、(NH4)2SO4などの硫酸塩、Na2CO3、K2CO3などの炭酸塩、KNO3などの硝酸塩が挙げられる。これらはいずれか1種用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0031】
水溶性有機塩および/または水溶性無機塩の含有量は、特に限定されず、皮膚外用剤全量に対して、例えば、0.01質量%以上でもよく、1.0質量%以上でもよく、また、10.0質量%以下でもよく、5.0質量%以下でもよい。
【0032】
[(D)水]
本実施形態に係る皮膚外用剤において、水の含有量は特に限定されず、皮膚外用剤全量に対して、例えば、30質量%以上でもよく、50質量%以上でもよく、80質量%以上でもよく、90質量%以上でもよく、また、99質量%以下でもよく、98質量%以下でもよい。
【0033】
[皮膚外用剤]
本実施形態に係る皮膚外用剤は水系組成物であり、(A)成分のセルロース繊維が(D)成分の水中に分散している。(C)成分の水溶性有機塩および/または水溶性無機塩は(D)成分の水に溶解しており、従って、(A)成分を分散質として当該分散質が分散している分散媒は水溶性有機塩および/または水溶性無機塩の水溶液である。(B)成分のヒドロキシエチルセルロースは水溶性であるため、(D)成分の水に溶解している。好ましくは、(B)成分は(A)成分であるセルロース繊維の表面に吸着している。これにより、(C)成分による(A)成分の凝集を防いで、耐塩性の向上効果を高めることができると考えられる。
【0034】
本実施形態に係る皮膚外用剤には、上記の(A)~(D)成分とともに、他の成分が配合されてもよい。他の成分としては、特に限定されず、例えば、皮膚外用剤の用途に応じた有効成分、油性原料、界面活性剤、保湿剤、有機微粒子、無機微粒子、酸化防止剤、防腐剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、消臭剤、香料、有機溶媒などの添加剤を適宜配合することができる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いてもよい。
【0035】
油性原料を含む場合、皮膚外用剤は、油性原料が水中に乳化してなる水中油滴型(O/W型)乳化組成物でもよい。油性原料としては、水と分離する種々の液体が挙げられ、例えば、メチルポリシロキサン、シクロペンタシロキサンなどのシリコーンオイル;アボカド油、オリーブ油などの植物油脂;魚油、牛脂などの動物油脂;カルナウバロウ、ラノリンなどのロウ類;スクワラン、ミネラルオイルなどの炭化水素;オレイン酸、リノール酸などの高級脂肪酸;イソステアリルアルコール、オレイルアルコールなどの高級アルコール;脂肪酸エステル、トリグリセリドなどのエステル油;ベンジルアルコール、フェネチルアルコールなどの芳香族アルコール等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0036】
皮膚外用剤の粘度は、濃度や用途等により異なるため特に限定されないが、液温25℃での粘度が2mPa・s以上であることが好ましく、より好ましくは500mPa・s以上であり、更に好ましくは1000mPa・s以上であり、3000mPa・s以上でもよい。皮膚外用剤の粘度の上限は特に限定されないが、例えば300000mPa・s以下でもよく、100000mPa・s以下でもよい。ここで、粘度は、B型粘度計を用いて6rpm、25℃、3分間の条件で測定した値である。
【0037】
本実施形態に係る皮膚外用剤は、(A)成分を(D)成分中に分散させた後、(C)成分を添加する前に(B)成分を添加して調製することが好ましい。
【0038】
すなわち、一実施形態に係る製造方法においては、まず、(A)成分のセルロース繊維を(D)成分の水中に分散させたセルロース繊維の水分散液を調製する。次いで、得られた水分散液に(B)成分のヒドロキシエチルセルロースを添加し、溶解させる。その後、(B)成分を溶解させた上記水分散液に(C)成分の水溶性有機塩および/または水溶性無機塩を添加し、溶解させる。このように(C)成分を添加する前に(B)成分を添加することにより、(B)成分が(A)成分のセルロース繊維表面に吸着しやすくなり、耐塩性の向上効果を高めることができる。なお、その他の成分の添加時機については特に限定されず、例えば、(C)成分とともに、または(C)成分を添加した後に添加してもよい。
【0039】
本実施形態に係る皮膚外用剤の用途としては、特に限定されず、例えば、クリーム状やゲル状などの剤型を有する化粧品、外用医薬品、医薬部外品などが挙げられる。具体的には、コールドクリーム、バニシングクリーム、マッサージクリーム、エモリエントクリーム、クレンジングクリーム、パック、ファンデーション、サンスクリーン化粧料、サンタン化粧料、モイスチャークリーム、ハンドクリーム等の皮膚用化粧料、シャンプー、リンス、ヘアコンディショナー、リンスインシャンプー、ヘアスタイリング剤(ヘアフォーム,ジェル状整髪料等)、ヘアトリートメント剤(ヘアクリーム,トリートメントローション等)、染毛剤や育毛剤、養毛剤等の毛髪用化粧料、さらにはハンドクリーナーのような洗浄剤、軟膏、貼布剤等の用途に用いることができる。
【実施例0040】
以下に実施例について比較例とともに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、例中、「%」とあるのは、特に限定のない限り質量基準を意味する。
【0041】
[セルロース繊維A1の調製]
針葉樹クラフトパルプ2.0gに水150mL、臭化ナトリウム0.25g、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)0.025gを加え、十分撹拌した後、13%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、上記パルプ1.0gに対して次亜塩素酸ナトリウム量が12mmol/gとなるように加え、反応を開始した。さらに反応中のpHを10~11に保持するように0.5N水酸化ナトリウム水溶液を滴下しながら、120分間反応させた。反応後、0.1N塩酸を加えてpH=2.0とし、吸引濾過により固液分離をした後、固形分に純水を加え、固形分濃度2.0%のスラリーを調製した。その後、10%水酸化ナトリウム水溶液によりpHを10に調整し、水素化ホウ素ナトリウムをセルロース繊維に対して0.2mmol/g加え、2時間反応させることで還元処理した。反応後、0.1N塩酸を添加して中和し、ろ過と水洗を繰り返して精製した。得られた精製物に純水を加え、固形分濃度2.0%のスラリーを調製した後、10%水酸化ナトリウム水溶液でpHを7に調整した。その後、微細化処理工程としてマイクロフルイダイザーによる処理(150MPa、1パス)を行うことでセルロース繊維A1の水分散体を得た。
【0042】
[セルロース繊維A2の調製]
次亜塩素酸ナトリウム水溶液の添加量を、上記パルプ1.0gに対して6mmol/gとした以外は、セルロース繊維A1の調製法に準じてセルロース繊維A2の水分散体を得た。
【0043】
[セルロース繊維A3の調製]
微細化処理工程におけるマイクロフルイダイザーによる処理回数を10パスとした以外は、セルロース繊維A1の調製法に準じてセルロース繊維A3の水分散体を得た。
【0044】
[セルロース繊維B1(比較例用)の調製]
原料を針葉樹クラフトパルプから再生セルロースに変更し、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の添加量を、再生セルロース1.0gに対して27.0mmol/gに変更した以外は、セルロース繊維A1の調製法に準じてセルロース繊維B1の水分散体を得た。
【0045】
[セルロース繊維の評価]
上記セルロース繊維A1~A3,B1を用いて、下記評価方法に従い、数平均繊維径、カルボキシ基量、結晶構造を測定した。測定方法は以下のとおりである。結果を下記表1に示す。
【0046】
(1)数平均繊維径
原子間力顕微鏡(AFM)による画像観察において、1μm四方の画像からセルロース繊維を十数本無作為に選択して繊維径を測定し、撮影位置を変えた複数の画像から合計50本のセルロース繊維についての繊維径を相加平均して、数平均繊維径(nm)を算出した。
【0047】
(2)結晶構造
広角X線回折像測定により回折プロファイルを取得し、2θ=14°~17°付近と2θ=22°~23°付近の2つの位置にピークを持つものをI型結晶構造と同定し、2θ=10~14°付近と2θ=20~22°にピークを持つものをII型結晶構造と同定した。
【0048】
(3)カルボキシ基量
セルロース繊維0.25gを水に分散させたセルロース水分散体60mLを調製し、0.1N塩酸によってpHを約2.5とした後、0.05N水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、電気伝導度測定を行った。測定はpHが11になるまで続けた。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において、消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下記式に従いカルボキシ基量を求めた。
カルボキシ基量(mmol/g)=V(mL)×[0.05/セルロース繊維質量(g)]
【0049】
【0050】
セルロース繊維A1~A3については、数平均繊維径を測定する際の原子間力顕微鏡による画像において最も大きい繊維径(即ち、最大繊維径)がいずれも1000nm以下であることを確認した。
【0051】
[皮膚外用剤の調製]
上記調製法により得られたセルロース繊維A1~A3,B1の水分散体を用いて皮膚外用剤としての混合液を調製した。
【0052】
[実施例1]
セルロース繊維A1の水分散体25gを量り取り、純水75gを加え、ホモミキサーMARKII2.5型(PRIMIX社製)を用いて8000rpm×10分間撹拌し、セルロース繊維濃度0.5%の希釈液を調製した。該希釈液にヒドロキシエチルセルロースH1の粉末を0.05g加え、ホモミキサーMARKII2.5型(PRIMIX社製)を用いて8000rpm×5分間撹拌した。さらに、塩化ナトリウムの粉末を2g添加し、ホモディスパー2.5型(PRIMIX社製)を用いて3000rpm×5分間撹拌して混合液を得た。ヒドロキシエチルセルロースH1は、B型粘度計を用いて6rpm、25℃、3分間の条件で2%水溶液の粘度を測定した場合の粘度が5200mPa・sであり、住友精化株式会社製「AW-15F」を用いた。
【0053】
[比較例1]
セルロース繊維A1の水分散体25gを量り取り、純水75gを加え、ホモミキサーMARKII2.5型(PRIMIX社製)を用いて8000rpm×10分間撹拌して、セルロース繊維濃度0.5%の希釈液としたのち、該希釈液に塩化ナトリウムの粉末を2g添加し、ホモディスパー2.5型(PRIMIX社製)を用いて3000rpm×5分間撹拌して混合液を得た。
【0054】
[実施例2、3および比較例2]
ヒドロキシエチルセルロースH1の粉末の添加量(セルロース繊維に対する質量%(表2中で「対CNF質量%」と表記。))を下記表2,4に示すように調整した以外は、実施例1と同様の調製法で混合液を得た。
【0055】
[実施例4、5]
ヒドロキシエチルセルロースH1に代えてヒドロキシエチルセルロースH2を用い、表2に示すような添加量で配合した以外は、実施例1と同様の調製法で混合液を得た。ヒドロキシエチルセルロースH2は、B型粘度計を用いて6rpm、25℃、3分間の条件で2%水溶液の粘度を測定した場合の粘度が30mPa・sであり、住友精化株式会社製「AL-15F」を用いた。
【0056】
[実施例6、7]
セルロース繊維濃度とヒドロキシエチルセルロースH1の添加量を表2に示すように調整した以外は、実施例1と同様の調製法で混合液を得た。
【0057】
[実施例8、9]
セルロース繊維の種類とヒドロキシエチルセルロースH1の添加量を表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様の調製法で混合液を得た。
【0058】
[実施例10]
添加する塩を塩化ナトリウムからリン酸-L-アスコルビン酸ナトリウムに変更し、ヒドロキシエチルセルロースH1の添加量を表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様の調製法で混合液を得た。
【0059】
[実施例11]
添加する塩を塩化ナトリウムからクエン酸ナトリウムに変更し、ヒドロキシエチルセルロースH1の添加量を表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様の調製法で混合液を得た。
【0060】
[比較例3]
ヒドロキシエチルセルロースH1に代えてヒドロキシプロピルセルロースH3を用い、表4に示すような添加量で配合した以外は、実施例1と同様の調製法で混合液を得た。ヒドロキシプロピルセルロースH3は、B型粘度計を用いて6rpm、25℃、3分間の条件で2%水溶液の粘度を測定した場合の粘度が4500mPa・sであり、東京化成工業株式会社製「ヒドロキシプロピルセルロース」を用いた。
【0061】
[比較例4]
ヒドロキシエチルセルロースH1に代えてヒドロキシプロピルメチルセルロースH4を用い、表4に示すような添加量で配合した以外は、実施例1と同様の調製法で混合液を得た。ヒドロキシプロピルメチルセルロースH4は、B型粘度計を用いて6rpm、25℃、3分間の条件で2%水溶液の粘度を測定した場合の粘度が4200mPa・sであり、信越化学工業株式会社製「メトローズ」を用いた。
【0062】
[比較例5]
ヒドロキシエチルセルロースH1に代えてカルボキシメチルセルロースC1(第一工業製薬株式会社製「セロゲン」)を用い、表4に示すような添加量で配合した以外は、実施例1と同様の調製法で混合液を得た。
【0063】
[比較例6]
ヒドロキシエチルセルロースH1に代えてメチルセルロースC2(信越化学工業株式会社製「メトローズ」)を用い、表4に示すような添加量で配合した以外は、実施例1と同様の調製法で混合液を得た。
【0064】
[比較例7]
ヒドロキシエチルセルロースH1に代えてキサンタンガムC3(CPケルコ社製「KELTROL」)を用い、表5に示すような添加量で配合した以外は、実施例1と同様の調製法で混合液を得た。
【0065】
[比較例8]
ヒドロキシエチルセルロースH1に代えてペクチンC4(CPケルコ社製「PHRESH」)を用い、表5に示すような添加量で配合した以外は、実施例1と同様の調製法で混合液を得た。
【0066】
[比較例9]
ヒドロキシエチルセルロースH1に代えてカルボキシビニルポリマーP1(Lubrizol社製「カーボポール」)を用い、表5に示すような添加量で配合した以外は、実施例1と同様の調製法で混合液を得た。
【0067】
[比較例10]
ヒドロキシエチルセルロースH1に代えてポリビニルアルコールP2(株式会社クラレ製「ポバール」)を用い、表5に示すような添加量で配合した以外は、実施例1と同様の調製法で混合液を得た。
【0068】
[比較例11]
セルロース繊維の種類をセルロース繊維B1に変更し、ヒドロキシエチルセルロースH1の添加量を表5に示すように変更した以外は、実施例1と同様の調製法で混合液を得た。
【0069】
[皮膚外用剤の評価]
実施例1~11及び比較例1~11について、粘度、耐塩性、TI値、感触を評価した。評価方法は以下のとおりである。
【0070】
(1)粘度
実施例1~11及び比較例1~11で得られた混合液を100mLのサンプル瓶に移し、室温下で一晩静置した後、B型粘度計(6rpm、25℃、3分間)を用いて粘度を測定した。
【0071】
(2)耐塩性
実施例1~11及び比較例1~11で得られた混合液について、塩を添加しない以外は同様の操作を行い、塩を含まない混合液を調製した。それぞれの混合液を調製後1日静置したのち、ツインドライブレオメータMCR302(Anton Paar社製)により粘度を測定した。せん断速度100sec-1の時の粘度を測定値とし、下記式を用いて塩添加前後における粘度保持率を算出した。粘度保持率が高いほど、耐塩性に優れる。
粘度保持率[%]=(塩を含む混合液の粘度)/(塩を含まない混合液の粘度)×100
【0072】
(3)TI値
実施例1~11及び比較例1~11で得られた混合液の粘度を、せん断速度を変数としてツインドライブレオメータMCR302(AntonPaar社製)により測定した。得られた測定結果から、下記式を用いてチキソトロピックインデックス(TI値)を算出した。
TI値=(0.01sec-1時の粘度)/(0.1sec-1時の粘度)
【0073】
(4)感触(使用感)
実施例1~11及び比較例1~11で得られた混合液を上腕部に塗布し乾燥させた際の感触を以下の基準で官能評価した。感触の結果は、社内のモニター5名の点数を合計し、合計点に応じて以下の基準で判定した。
4点:べたつかない
2点:すこしべたつく
0点:とてもべたつく
合計点が0~4点:×、5~9点:△、10~14点:○、15~20点:◎
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
結果は表2~5に示すとおりである。実施例1~3と比較例1を比較すると、ヒドロキシエチルセルロースH1を添加することで耐塩性が向上し、ヒドロキシエチルセルロースの添加量が多いほど耐塩性に優れる結果となった。これはヒドロキシエチルセルロースがセルロースナノファイバーの表面に吸着し、無機塩による凝集を防いでいることが要因であると考えられる。この点、実施例1~3の混合液を乾燥してセルロース繊維の繊維径を原子間力顕微鏡(AFM)により画像観察したところ、元のセルロース繊維A1に比べて数nm程度太くなっていることを確認しており、セルロース繊維表面にヒドロキシエチルセルロースが吸着していると考えられる。
【0079】
また、実施例1~3と比較例1との対比より、ヒドロキシエチルセルロースの添加は混合液のTI値に大きな影響を与えないことも明らかとなった。すなわち、ヒドロキシエチルセルロースの添加の有無によらず、混合液の粘度特性はセルロースナノファイバーが支配していると考えられる。さらに、ヒドロキシエチルセルロースの種類が異なる実施例4、5、セルロース繊維濃度が異なる実施例6、7、セルロース繊維の種類が異なる実施例8、9、有機塩を含む実施例10、11のすべてで同様の傾向が見られた。
【0080】
一方で、比較例2を参照すると、ヒドロキシエチルセルロースH1を多量に添加した場合、耐塩性には優れるが、増粘多糖類特有のべたつきが強くなり、感触が損なわれることがわかる。
【0081】
また、実施例2と比較例3~10を参照すると、種々の水溶性高分子の中でもヒドロキシエチルセルロースを用いた場合に、混合液の耐塩性と感触の両方に優れることが示唆される。比較例3~8において、他の水溶性セルロースや増粘多糖類を用いた場合、混合液の耐塩性を向上させる効果が認められるものも一部に存在するが、それらはべたつきが強く、肌に塗布したときの感触に劣っていた。一定粘度以下のヒドロキシエチルセルロースは、これら他の水溶性セルロースや増粘性多糖類に比べ増粘性が低く、べたつきが抑えられるため、感触に優れていると考えられる。比較例9において、カルボキシビニルポリマー(カルボマー)は混合液の粘度を向上させ、良好な感触を得られるが、耐塩性は大きく低下する結果となった。これはカルボマーがアニオン性官能基を有しており、塩濃度が高くなると分子鎖が収縮し、セルロースナノファイバーとカルボマーの両方が凝集することに起因すると考えられる。比較例10において、ポリビニルアルコールは耐塩性を大きく向上させることはできず、感触もややべたつく結果となった。
【0082】
比較例11においては、再生セルロースでは粘度のある混合液を調製できず耐塩性の評価を行うことは不可能であった。
【0083】
以上のように、実施形態に係る皮膚外用剤であると、耐塩性に優れることから、有機塩や無機塩などの塩を含んでいるにもかかわらず粘度低下を抑えてクリーム状やゲル状などの高粘性を維持することができるとともに、肌に塗布したときの使用感に優れる。また安全性にも優れることから、これらの性能が求められる化粧品、医薬品、医薬部外品などの分野に好適に用いることができる。
【0084】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。