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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022078898
(43)【公開日】2022-05-25
(54)【発明の名称】車両用自動変速機の油圧制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20220518BHJP
   F16H 59/14 20060101ALI20220518BHJP
   F16H 59/72 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H59/14
F16H59/72
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020189879
(22)【出願日】2020-11-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】三浦 岳
(72)【発明者】
【氏名】今永 雄二
【テーマコード(参考)】
3J552
【Fターム(参考)】
3J552MA02
3J552MA12
3J552NA01
3J552NB01
3J552PA20
3J552PB06
3J552QA26C
3J552QB03
3J552QB08
3J552RA20
3J552RB02
3J552RC03
3J552SA03
3J552SA07
3J552SA10
3J552SA52
3J552SA56
3J552SB05
3J552TB01
3J552TB08
3J552TB09
3J552TB10
3J552VA34W
3J552VA50W
3J552VA62Z
3J552VA76W
3J552VD02Z
(57)【要約】
【課題】リニアソレノイドバルブに異物が詰まるのを抑制しつつ、油圧式係合装置を完全係合状態から解放状態へ切り替える時間を短くする車両用自動変速機の油圧制御装置を提供する。
【解決手段】低温時指示圧制御部110aによって、油温検出部114で検出された油温Toilが所定油温Tj以下のときにリニアソレノイドバルブの出力圧が最大係合油圧よりも低い低係合油圧に制御されるので、第3クラッチC3および第2ブレーキB2を完全係合状態から解放状態へ切り替えるときに、例えばリニアソレノイドバルブの出力圧を最大係合油圧から下げる場合に比べて、第3クラッチC3および第2ブレーキB2を完全係合状態から解放状態へ切り替える時間を短くできる。又、リニアソレノイドバルブの出力圧が低係合油圧に制御されても油温Toilが所定油温Tj以下であるので、リニアソレノイドバルブに異物が詰まることが抑制される。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リニアソレノイドバルブの出力圧を最大係合油圧に制御して油圧式係合装置を完全係合状態とし、前記リニアソレノイドバルブの出力圧を解放油圧に制御して前記油圧式係合装置を解放状態とする車両用自動変速機の油圧制御装置であって、
前記リニアソレノイドバルブに供給される作動油の油温を検出する油温検出部と、
前記油圧式係合装置が解放状態から完全係合状態へ切り替えられ、且つ、前記油温検出部で検出された前記油温が予め定められた所定油温以下である場合には、前記リニアソレノイドバルブの出力圧を前記最大係合油圧よりも低い低係合油圧に制御して、前記油圧式係合装置を完全係合状態に維持する低温時出力圧制御部とを、含む
ことを特徴とする車両用自動変速機の油圧制御装置。
【請求項2】
前記低係合油圧は、前記油圧式係合装置の完全係合状態が維持される範囲で前記最大係合油圧よりも低い油圧である
ことを特徴とする請求項1の車両用自動変速機の油圧制御装置。
【請求項3】
前記低温時出力圧制御部は、前記油温検出部で検出された前記油温が前記所定油温よりも高い場合には、前記リニアソレノイドバルブの出力圧を前記最大係合油圧にすることで前記油圧式係合装置を完全係合する
ことを特徴する請求項1または2の車両用自動変速機の油圧制御装置。
【請求項4】
前記低温時出力圧制御部は、前記リニアソレノイドバルブの出力圧を前記低係合油圧から前記解放油圧へ切り替える場合には、前記リニアソレノイドバルブの出力圧を、前記低係合油圧から前記低係合油圧よりも低い急減圧に急減させた後、予め定められたスイープ率で前記解放油圧へ向って低下させる
ことを特徴とする請求項2の車両用自動変速機の油圧制御装置。
【請求項5】
前記低温時出力圧制御部は、前記リニアソレノイドバルブの出力圧を前記最大係合油圧から前記解放油圧へ切り替える場合には、前記リニアソレノイドバルブの出力圧を、前記最大係合油圧から前記低係合油圧よりも低い急減圧に急減させて、その急減圧で所定時間待機させた後、予め定められたスイープ率で前記解放油圧へ向って低下させる
ことを特徴とする請求項3の車両用自動変速機の油圧制御装置。
【請求項6】
前記最大係合油圧は、前記リニアソレノイドバルブの元圧と同じ大きさの油圧である
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1の車両用自動変速機の油圧制御装置。
【請求項7】
前記リニアソレノイドバルブの元圧は、車両の要求駆動力の増加に応じて増加するように制御される油圧である
ことを特徴とする請求項6の車両用自動変速機の油圧制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リニアソレノイドバルブの出力圧を最大係合油圧に制御して油圧式係合装置を完全係合状態とし、前記リニアソレノイドバルブの出力圧を解放油圧に制御して前記油圧式係合装置を解放状態とする車両用自動変速機の油圧制御装置に関し、前記リニアソレノイドバルブ内に異物が詰まることを抑制しつつ、前記油圧式係合装置が完全係合状態から解放状態へ切り替わる時間を好適に短くする技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リニアソレノイドバルブの出力圧を制御して油圧式係合装置を完全係合状態とし、前記リニアソレノイドバルブの出力圧を解放油圧に制御して前記油圧式係合装置を解放状態とする油圧制御装置がよく知られている。例えば、特許文献1に記載されたトルクコンバータの油圧制御装置がそれである。特許文献1では、前記リニアソレノイドバルブ内に堆積する異物を除去するためにスプール弁子を最大ストロークで往復移動させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5-180332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1のようなトルクコンバータの油圧制御装置を、リニアソレノイドバルブの出力圧を最大係合油圧に制御して油圧式係合装置を完全係合状態とし、前記リニアソレノイドバルブの出力圧を解放油圧に制御して前記油圧式係合装置を解放状態とする車両用自動変速機の油圧制御装置に適用させることが考えられる。しかしながら、上記のような車両用自動変速機の油圧制御装置では、前記リニアソレノイドバルブの出力圧が前記最大係合油圧であるときに、例えばシフト操作により前記油圧式係合装置を完全係合状態から解放状態へ切り替える場合には、前記リニアソレノイドバルブの出力圧を前記最大係合油圧から解放油圧へ下げることになるので、前記油圧式係合装置を完全係合状態から解放状態へ切り替える時間が長くなってシフト操作の応答性が低下してしまうという問題があった。これに対して、前記リニアソレノイドバルブの出力圧を前記最大係合油圧よりも低い油圧に制御して前記油圧式係合装置を完全係合状態に維持することが考えられるが、前記リニアソレノイドバルブの出力圧を前記最大係合油圧よりも低くすることによって、前記リニアソレノイドバルブに異物が詰まり易くなってしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、リニアソレノイドバルブに異物が詰まるのを抑制しつつ、油圧式係合装置を完全係合状態から解放状態へ切り替える時間を短くする車両用自動変速機の油圧制御装置を提供することにある。
【0006】
本発明者は種々の検討を重ねた結果、以下に示す事実に到達した。すなわち、リニアソレノイドバルブに供給される作動油の油温が予め定められた所定温度以下であると、前記リニアソレノイドバルブの出力圧を最大係合油圧よりも低い油圧にしても前記リニアソレノイドバルブに異物が詰まり難いということを見い出した。つまり、前記リニアソレノイドバルブに供給される作動油の油温が前記所定温度以下である場合には、油圧式係合装置を完全係合状態から解放状態へ切り替える時間を短くするために前記リニアソレノイドバルブの出力圧を最大係合油圧よりも低い油圧にしても、前記リニアソレノイドバルブに異物が詰まり難いということを着想した。本発明はこのような知見に基づいてためされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明の要旨とするところは、(a)リニアソレノイドバルブの出力圧を最大係合油圧に制御して油圧式係合装置を完全係合状態とし、前記リニアソレノイドバルブの出力圧を解放油圧に制御して前記油圧式係合装置を解放状態とする車両用自動変速機の油圧制御装置であって、(b)前記リニアソレノイドバルブに供給される作動油の油温を検出する油温検出部と、(c)前記油圧式係合装置が解放状態から完全係合状態へ切り替えられ、且つ、前記油温検出部で検出された前記油温が予め定められた所定油温以下である場合には、前記リニアソレノイドバルブの出力圧を前記最大係合油圧よりも低い低係合油圧に制御して、前記油圧式係合装置を完全係合状態に維持する低温時出力圧制御部とを、含むことにある。
【0008】
また、第2発明の要旨とするところは、前記第1発明において、前記低係合油圧は、前記油圧式係合装置の完全係合状態が維持される範囲で前記最大係合油圧よりも低い油圧である。
【0009】
また、第3発明の要旨とするところは、前記第1発明または前記第2発明において、前記低温時出力圧制御部は、前記油温検出部で検出された前記油温が前記所定油温よりも高い場合には、前記リニアソレノイドバルブの出力圧を前記最大係合油圧にすることで前記油圧式係合装置を完全係合することにある。
【0010】
また、第4発明の要旨とするところは、前記第2発明において、前記低温時出力圧制御部は、前記リニアソレノイドバルブの出力圧を前記低係合油圧から前記解放油圧へ切り替える場合には、前記リニアソレノイドバルブの出力圧を、前記低係合油圧から前記低係合油圧よりも低い急減圧に急減させた後、予め定められたスイープ率で前記解放油圧へ向って低下させることにある。
【0011】
また、第5発明の要旨とするところは、前記第3発明において、前記低温時出力圧制御部は、前記リニアソレノイドバルブの出力圧を前記最大係合油圧から前記解放油圧へ切り替える場合には、前記リニアソレノイドバルブの出力圧を、前記最大係合油圧から前記低係合油圧よりも低い急減圧に急減させて、その急減圧で所定時間待機させた後、予め定められたスイープ率で前記解放油圧へ向って低下させることにある。
【0012】
また、第6発明の要旨とするところは、前記第1発明から前記第5発明のいずれか1において、前記最大係合油圧は、前記リニアソレノイドバルブの元圧と同じ大きさの油圧である。
【0013】
また、第7発明の要旨とするところは、前記第6発明において、前記リニアソレノイドバルブの元圧は、車両の要求駆動力の増加に応じて増加するように制御される油圧である。
【発明の効果】
【0014】
第1発明の車両用自動変速機の油圧制御装置によれば、(b)前記リニアソレノイドバルブに供給される作動油の油温を検出する油温検出部と、(c)前記油圧式係合装置が解放状態から完全係合状態へ切り替えられ、且つ、前記油温検出部で検出された前記油温が予め定められた所定油温以下である場合には、前記リニアソレノイドバルブの出力圧を前記最大係合油圧よりも低い低係合油圧に制御して、前記油圧式係合装置を完全係合状態に維持する低温時出力圧制御部とを、含む。このため、前記低温時出力圧制御部によって、前記油温検出部で検出された油温が前記所定油温以下のときに前記リニアソレノイドバルブの出力圧が前記低係合油圧に制御されるので、前記油圧式係合装置を完全係合状態から解放状態へ切り替えるときに、例えば前記リニアソレノイドバルブの出力圧を前記最大係合油圧から下げる場合に比べて、前記油圧式係合装置を完全係合状態から解放状態へ切り替える時間を短くすることができる。また、前記リニアソレノイドバルブの出力圧が前記最大係合油圧よりも低い低係合油圧に制御されても、前記油温が前記所定油温以下であるので、前記リニアソレノイドバルブに異物が詰まることが抑制される。
【0015】
第2発明の車両用自動変速機の油圧制御装置によれば、前記低係合油圧は、前記油圧式係合装置の完全係合状態が維持される範囲で前記最大係合油圧よりも低い油圧である。このため、前記油圧式係合装置を完全係合状態から解放状態へ切り替える時間を好適に短くすることができる。
【0016】
第3発明の車両用自動変速機の油圧制御装置によれば、前記低温時出力圧制御部は、前記油温検出部で検出された前記油温が前記所定油温よりも高い場合には、前記リニアソレノイドバルブの出力圧を前記最大係合油圧にすることで前記油圧式係合装置を完全係合する。このため、前記油温検出部で検出された前記油温が前記所定油温よりも高く、前記リニアソレノイドバルブに異物が詰まり易い場合には、前記低温時出力圧制御部によって前記リニアソレノイドバルブの出力圧を前記最大係合油圧にして前記油圧式係合装置を完全係合にするので、前記リニアソレノイドバルブに異物が詰まることが好適に抑制される。
【0017】
第4発明の車両用自動変速機の油圧制御装置によれば、前記低温時出力圧制御部は、前記リニアソレノイドバルブの出力圧を前記低係合油圧から前記解放油圧へ切り替える場合には、前記リニアソレノイドバルブの出力圧を、前記低係合油圧から前記低係合油圧よりも低い急減圧に急減させた後、予め定められたスイープ率で前記解放油圧へ向って低下させる。このため、前記油圧式係合装置を完全係合状態から解放状態へ切り替える時間を好適に短くすることができる。
【0018】
第5発明の車両用自動変速機の油圧制御装置によれば、前記低温時出力圧制御部は、前記リニアソレノイドバルブの出力圧を前記最大係合油圧から前記解放油圧へ切り替える場合には、前記リニアソレノイドバルブの出力圧を、前記最大係合油圧から前記低係合油圧よりも低い急減圧に急減させて、その急減圧で所定時間待機させた後、予め定められたスイープ率で前記解放油圧へ向って低下させる。このため、前記油圧式係合装置を完全係合状態から解放状態へ切り替えるときのショックを好適に抑制することができる。
【0019】
第6発明の車両用自動変速機の油圧制御装置によれば、前記最大係合油圧は、前記リニアソレノイドバルブの元圧と同じ大きさの油圧である。このため、前記リニアソレノイドバルブの出力圧を前記最大係合油圧にすることで、前記リニアソレノイドバルブに異物が詰まることが好適に抑制することができる。
【0020】
第7発明の車両用自動変速機の油圧制御装置によれば、前記リニアソレノイドバルブの元圧は、車両の要求駆動力の増加に応じて増加するように制御される油圧である。このため、前記リニアソレノイドバルブの出力圧を前記最大係合油圧よりも低い低係合油圧に制御しても、好適に前記油圧式係合装置を完全係合状態に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明が適用された自動変速機の骨子図である。
図2図1の自動変速機において複数の変速段を成立させるときの油圧式係合装置の作動状態を説明する係合作動表である。
図3図1の自動変速機において変速段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図である。
図4】油圧制御回路のうちリニアソレノイドバルブに関する部分を示す回路図である。
図5図4のリニアソレノイドバルブの一例を示す断面図である。
図6図1の自動変速機に設けられた電子制御装置が備えている機能を説明するブロック線図である。
図7】電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートであり、ガレージシフト操作による自動変速機の変速制御の制御作動の一例を説明するフローチャートである。
図8図7のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例0023】
図1は、本発明が適用された自動変速機(車両用自動変速機)10の骨子図である。図2は、自動変速機10において複数の変速段を成立させるときの油圧式係合装置CBの作動状態を説明する係合作動表である。自動変速機10は、車両の前後方向(縦置き)に搭載するFR車両に好適に用いられるものであり、自動変速機10は、図1に示すように、第1変速部12と、第2変速部14と、を同軸線上に有し、入力軸16の回転を変速して出力軸18から出力する。なお、第1変速部12は、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置20を主体として構成されており、第2変速部14は、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置22およびダブルピニオン型の第3遊星歯車装置24を主体として構成されている。又、入力軸16は入力部材に相当するもので、本実施例では走行用の動力源であるエンジン26によって回転駆動されるトルクコンバータ28のタービン軸である。又、出力軸18は出力部材に相当するもので、出力軸18は図示しないプロペラシャフトや差動歯車装置を介して左右の駆動輪を回転駆動する。
【0024】
図1に示すように、第1遊星歯車装置20は、サンギヤS1、キャリアCA1、およびリングギヤR1の3つの回転要素を備えている。サンギヤS1はトランスミッションケース(以下、単にケースという)30に回転不能に固定されており、キャリアCA1は入力軸16に一体的に連結されている。第1遊星歯車装置20では、キャリアCA1が回転駆動されることにより、減速出力部材として機能するリングギヤR1が入力軸16に対して減速回転させられて出力する。又、図1に示すように、第2遊星歯車装置22および第3遊星歯車装置24では、一部が互いに連結されることによって4つの回転要素RM1~RM4が構成されている。なお、第1回転要素RM1は、第2遊星歯車装置22のサンギヤS2によって構成されている。又、第2回転要素RM2は、第2遊星歯車装置22のキャリアCA2および第3遊星歯車装置24のキャリアCA3が互いに連結されることによって構成されている。又、第3回転要素RM3は、第2遊星歯車装置22のリングギヤR2および第3遊星歯車装置24のリングギヤR3が互いに連結されることによって構成されている。又、第4回転要素RM4は、第3遊星歯車装置24のサンギヤS3によって構成されている。なお、第2回転要素RM2とケース30との間には、第2回転要素RM2の正回転(入力軸16と同じ回転方向)を許容しつつ逆回転を阻止する一方向クラッチF1が第2ブレーキB2と並列に設けられている。
【0025】
図3は、第1変速部12および第2変速部14の各回転要素の回転速度を直線で表すことができる共線図であり、下の横線が回転速度「0」で、上の横線が回転速度「1.0」すなわち入力軸16と同じ回転速度である。又、第1変速部12の3本の縦線は、左側から順番にサンギヤS1、リングギヤR1、キャリアCA1を表しており、それ等の間隔は第1遊星歯車装置20のギヤ比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)ρ1に応じて定められている。第2変速部14の4本の縦線は、左端から右端へ向かって順番に第1回転要素RM1(サンギヤS2)、第2回転要素RM2(キャリアCA2、CA3)、第3回転要素RM3(リングギヤR2、R3)、第4回転要素RM4(サンギヤS3)を表しており、それ等の間隔は第2遊星歯車装置22のギヤ比ρ2および第3遊星歯車装置24のギヤ比ρ3に応じて定められる。
【0026】
図2の係合作動表は、図3で示された各変速段とクラッチC1~C4、ブレーキB1、B2の作動状態との関係をまとめたもので、「○」は係合、「(○)」はエンジンブレーキ時のみ係合を表している。第1変速段「1st」を成立させるブレーキB2には並列に一方向クラッチF1が設けられているため、発進時(加速時)には必ずしもブレーキB2を係合させる必要は無い。
【0027】
クラッチC1~C4、およびブレーキB1、B2は、多板式のクラッチやブレーキなど油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置である。なお、本実施例では、特に区別しない場合には、これら複数の油圧式摩擦係合装置を単に油圧式係合装置CBと称す。油圧式係合装置CBは、例えば図4に示すように、油圧制御回路40のリニアソレノイドバルブSL1~SL6の励磁、非励磁や電流制御により、係合状態と解放状態とが切り換えられるとともに係合、解放時の過渡油圧などが制御される。図4は、油圧制御回路40のうちリニアソレノイドバルブSL1~SL6に関する部分を示す回路図である。図4に示すように、クラッチC1~C4、およびブレーキB1、B2の各油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)42、44、46、48、50、52には、油圧供給装置54から出力されたライン油圧PLがそれぞれリニアソレノイドバルブSL1~SL6により調圧されて供給されるようになっている。なお、油圧供給装置54は、エンジン26によって回転駆動される機械式のオイルポンプ56(図1参照)や、ライン油圧PLを調圧するレギュレータバルブ等を備えており、油圧供給装置54は、例えば車両の要求駆動力の増加に応じてライン油圧PLを増加するように制御している。
【0028】
リニアソレノイドバルブSL1~SL6は、基本的には何れも同じ構成で、本実施例ではノーマリクローズ型のものが用いられている。図5に示すように、リニアソレノイドバルブSL1~SL6は、それぞれ、励磁電流に応じて電磁力を発生するソレノイド60と、スプール弁子62と、スプリング64と、ライン油圧PLが供給される入力ポート66と、調圧した油圧を出力する出力ポート68と、ドレーンポート70と、出力ポート68から出力された油圧が供給されるフィードバック室72と、を備えている。リニアソレノイドバルブSL1~SL6では、フィードバック室72にフィードバック圧としても供給される出力圧Pout、その受圧面積Af、スプリング64の荷重Fs、ソレノイド60による電磁力Fが、式(1)を満足するように、その電磁力Fに応じて出力圧Poutが調圧制御されて油圧アクチュエータ42~52へ供給される。
F=Pout×Af+Fs ・・・(1)
【0029】
なお、第1クラッチC1は、油圧制御回路40に設けられたリニアソレノイドバルブSL1が電子制御装置(油圧制御装置)100から出力される第1クラッチ指示圧Sc1(図6参照)に従って電気的に制御されることによって、第1クラッチC1で係合状態と解放状態とが選択的に切り替えられるようになっている。又、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第4クラッチC4、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2は、油圧制御回路40に設けられたリニアソレノイドバルブSL2~SL6が電子制御装置100から出力される第2クラッチ指示圧Sc2、第3クラッチ指示圧Sc3、第4クラッチ指示圧Sc4、第1ブレーキ指示圧Sb1、第2ブレーキ指示圧Sb2(図6参照)に従って電気的に制御されることによって、係合状態と解放状態とが選択的に切り替えられるようになっている。
【0030】
図6に示すように、電子制御装置100は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両の各種制御を実行する。電子制御装置100は、車両に設けられた各センサにより検出された各種入力信号が供給されるようになっている。例えば、アクセル開度センサ102から検出されるアクセル開度θacc[%]を表す信号と、車速センサ104から検出される車速V[km/h]を表す信号と、シフトポジションセンサ106から検出されるシフトレバー74の操作ポジションPOSshを表す信号と、油温センサ108から検出される油圧制御回路40内の作動油の油温Toil[℃]、すなわち油温センサ108から検出されるリニアソレノイドバルブSL1~SL6の入力ポート66に供給される作動油の油温Toilを表す信号と、が電子制御装置100に入力される。
【0031】
又、図6に示すように、電子制御装置100からは、例えば、第1クラッチ指示圧Sc1、第2クラッチ指示圧Sc2、第3クラッチ指示圧Sc3、第4クラッチ指示圧Sc4、第1ブレーキ指示圧Sb1、および第2ブレーキ指示圧Sb2等が出力される。なお、第1クラッチ指示圧Sc1は、第1クラッチC1の係合圧を調圧するリニアソレノイドバルブSL1を駆動するための油圧指令信号である。又、第2クラッチ指示圧Sc2は、第2クラッチC2の係合圧を調圧するリニアソレノイドバルブSL2を駆動するための油圧指令信号である。又、第3クラッチ指示圧Sc3は、第3クラッチC3の係合圧を調圧するリニアソレノイドバルブSL3を駆動するための油圧指令信号である。又、第4クラッチ指示圧Sc4は、第4クラッチC4の係合圧を調圧するリニアソレノイドバルブSL4を駆動するための油圧指令信号である。又、第1ブレーキ指示圧Sb1は、第1ブレーキB1の係合圧を調圧するリニアソレノイドバルブSL5を駆動するための油圧指令信号である。又、第2ブレーキ指示圧Sb2は、第2ブレーキB2の係合圧を調圧するリニアソレノイドバルブSL6を駆動するための油圧指令信号である。
【0032】
シフトレバー74は、自動変速機10における複数種類のシフトポジションを人為的操作により選択する為の操作装置である。シフトレバー74は、自動変速機10のシフトポジションに対応した操作ポジションPOSshへ運転者により操作される。操作ポジションPOSshは、例えばP、R、N、D操作ポジションを含んでいる。なお、P操作ポジションは、自動変速機10がニュートラル状態とされ且つ出力軸18の回転が機械的に阻止された、自動変速機10のパーキングポジションを選択するパーキング操作ポジションである。又、R操作ポジションは、車両の後進走行を可能とする自動変速機10の後進走行ポジションを選択する後進走行操作ポジションである。又、N操作ポジションは、自動変速機10がニュートラル状態とされた自動変速機10のニュートラルポジションを選択するニュートラル操作ポジションである。又、D操作ポジションは、車両の前進走行を可能とする自動変速機10の前進走行ポジションを選択する前進走行操作ポジションである。
【0033】
電子制御装置100は、図6に示すように、変速制御手段すなわち変速制御部110と、ガレージシフト操作判定手段すなわちガレージシフト操作判定部112と、油温検出手段すなわち油温検出部114と、を備えている。
【0034】
変速制御部110は、操作ポジションPOSshに基づいて自動変速機10のシフトポジションを切り替えるように油圧式係合装置CBの作動状態を切り替える為の油圧指令信号Sc1、Sc2、Sc3、Sc4、Sb1、およびSb2のいずれかを油圧制御回路40のリニアソレノイドバルブSL1~SL6のいずれかへ出力する。例えば、変速制御部110は、操作ポジションPOSshがD操作ポジションである場合には、予め定められた関係である例えば変速マップを用いて自動変速機10の変速段の切替えが必要であるか否かを判断し、その変速段の切替えが必要であるとの変速判断をした場合には、自動変速機10の変速段を切り替えるように油圧式係合装置CBの作動状態を切り替える為の油圧指令信号Sc1、Sc2、Sc3、Sc4、Sb1、およびSb2のいずれかを油圧制御回路40のリニアソレノイドバルブSL1~SL6のいずれかへ出力する。又、変速制御部110は、操作ポジションPOSshがR操作ポジションである場合には、自動変速機10で第1後進変速段「Rev1」又は第2後進変速段「Rev2」が成立するように油圧式係合装置CBの作動状態を切り替える為の油圧指令信号Sc1、Sc2、Sc3、Sc4、Sb1、およびSb2のいずれかを油圧制御回路40のリニアソレノイドバルブSL1~SL6のいずれかへ出力する。又、変速制御部110は、操作ポジションPOSshがP操作ポジション又はN操作ポジションである場合には、全ての油圧式係合装置CBを解放する為の油圧指令信号Sc1、Sc2、Sc3、Sc4、Sb1、およびSb2のいずれも油圧制御回路40のリニアソレノイドバルブSL1~SL6へ出力しない。
【0035】
ガレージシフト操作判定部112は、ガレージシフト操作が行われたか否かを判定する。例えば、ガレージシフト操作判定部112は、シフトレバー74が非走行操作ポジションであるN操作ポジション又はP操作ポジションから走行操作ポジションであるR操作ポジション又はD操作ポジションへ操作されると、或いは、シフトレバー74が前記走行操作ポジションから前記非走行操作ポジションへ操作されると、ガレージシフト操作が行われたと判定する。なお、ガレージシフト操作判定部112には、N-R操作判定手段すなわちN-R操作判定部112aと、R-N操作判定手段すなわちR-N操作判定部112bと、が備えられている。
【0036】
N-R操作判定部112aは、シフトレバー74がN操作ポジションからR操作ポジションへ操作されたか否かを判定する。つまり、N-R操作判定部112aは、シフトレバー74がN操作ポジションからR操作ポジションへ操作されたか否かを判定することによって、自動変速機10で後進変速段例えば第1後進変速段「Rev1」を成立させるために係合される第3クラッチC3および第2ブレーキB2が、解放状態から完全係合状態へ切り替えられたか否かを判定する。
【0037】
R-N操作判定部112bは、シフトレバー74がR操作ポジションからN操作ポジションへ操作されたか否かを判定する。つまり、R-N操作判定部112bは、シフトレバー74がR操作ポジションからN操作ポジションへ操作されたか否かを判定することによって、自動変速機10を例えば第1後進変速段「Rev1」からニュートラル状態にするために解放される第3クラッチC3および第2ブレーキB2が、完全係合状態から解放状態へ切り替えられたか否かを判定する。
【0038】
油温検出部114は、油温センサ108によってリニアソレノイドバルブSL1~SL6に供給される作動油の油温Toilを検出する。
【0039】
図6に示すように、変速制御部110には、低温時指示圧制御手段すなわち低温時指示圧制御部110aが備えられており、低温時指示圧制御部110aには、第1条件成立判定手段すなわち第1条件成立判定部110bが備えられている。第1条件成立判定部110bは、N-R操作判定部112aでシフトレバー74がN操作ポジションからR操作ポジションへ操作されたと判定されると、予め定められた第1条件CD1が成立しているか否かを判定する。例えば、第1条件成立判定部110bは、N-R操作判定部112aでシフトレバー74がN操作ポジションからR操作ポジションへ操作されたと判定されたときに油温検出部114で検出された油温Toilが予め定められた所定油温Tj[℃]以下であると、第1条件CD1が成立していると判定する。なお、所定油温Tjは、リニアソレノイドバルブSL1~SL6の入力ポート66に供給される作動油に混入した異物がリニアソレノイドバルブSL1~SL6内に詰まるのが抑制される低油温領域の上限値であり、例えば所定油温Tjは20℃である。つまり、第1条件成立判定部110bは、リニアソレノイドバルブSL1~SL6内に異物が詰まることを考慮する必要が不要であるか否かを判定する判定部として機能する。
【0040】
低温時指示圧制御部110aは、第1条件成立判定部110bで第1条件CD1が成立したと判定されると、例えば図8に示すように、第3クラッチ指示圧Sc3および第2ブレーキ指示圧Sb2をそれぞれ上昇させて、第3クラッチ指示圧Sc3および第2ブレーキ指示圧Sb2がそれぞれ予め定められた最大係合油圧Pmax[Pa]よりも低い低係合油圧Plow[Pa]で維持されるように、第3クラッチ指示圧Sc3および第2ブレーキ指示圧Sb2をそれぞれ制御する。つまり、低温時指示圧制御部110aは、第1条件成立判定部110bで第1条件CD1が成立したと判定されると、リニアソレノイドバルブSL3、SL6の出力圧Poutを上昇させて、リニアソレノイドバルブSL3、SL6の出力圧Poutが最大係合油圧Poutmax[Pa]よりも低い低係合油圧Poutlow[Pa]で維持されるように、リニアソレノイドバルブSL3、SL6の出力圧Poutを制御する低温時出力圧制御部として機能する。これによって、第3クラッチC3および第2ブレーキB2がそれぞれ完全係合状態に維持される。なお、最大係合油圧Pmaxは、例えばリニアソレノイドバルブSL3、SL6を全開するように予め定められた指示圧Sc3、Sb2であるので、最大係合油圧Poutmaxは、例えばリニアソレノイドバルブSL3、SL6の元圧すなわちライン油圧PLと同じ大きさの油圧となる。又、ライン油圧PLは、油圧供給装置54によって車両の要求駆動力の増加に応じて増加するように制御される油圧である。又、低係合油圧Plowは、例えば第3クラッチC3および第2ブレーキB2の完全係合状態が維持される範囲で最大係合油圧Pmaxよりも低くなるように予め定められた指示圧Sc3、Sb2であるので、低係合油圧Poutlowは、例えば第3クラッチC3および第2ブレーキB2の完全係合状態が維持される範囲で最大係合油圧Poutmaxよりも低い油圧となる。
【0041】
又、低温時指示圧制御部110aは、第1条件成立判定部110bで第1条件CD1が成立していないと判定されると、すなわち、油温Toilが所定油温Tjよりも高いと、例えば図8に示すように、第3クラッチ指示圧Sc3および第2ブレーキ指示圧Sb2をそれぞれ上昇させて、第3クラッチ指示圧Sc3および第2ブレーキ指示圧Sb2がそれぞれ最大係合油圧Pmaxで維持されるように、第3クラッチ指示圧Sc3および第2ブレーキ指示圧Sb2をそれぞれ制御する。つまり、低温時指示圧制御部110aは、第1条件成立判定部110bで第1条件CD1が成立していないと判定されると、リニアソレノイドバルブSL3、SL6の出力圧Poutを上昇させて、リニアソレノイドバルブSL3、SL6の出力圧Poutが最大係合油圧Poutmaxで維持されるように、リニアソレノイドバルブSL3、SL6の出力圧Poutを制御する低温時出力圧制御部として機能する。これによって、第3クラッチC3および第2ブレーキB2がそれぞれ完全係合する。
【0042】
図6に示すように、低温時指示圧制御部110aには、第2条件成立判定手段すなわち第2条件成立判定部110cが備えられている。第2条件成立判定部110cは、R-N操作判定部112bでシフトレバー74がR操作ポジションからN操作ポジションへ操作されたと判定されると、予め定められた第2条件CD2が成立したか否かを判定する。例えば、第2条件成立判定部110cは、R-N操作判定部112bでシフトレバー74がR操作ポジションからN操作ポジションへ操作されたと判定されたときに第3クラッチ指示圧Sc3および第2ブレーキ指示圧Sb2が低係合油圧Plowであると、すなわちR-N操作判定部112bでシフトレバー74がR操作ポジションからN操作ポジションへ操作されたと判定されたときにリニアソレノイドバルブSL3、SL6の出力圧Poutが低係合油圧Poutlowであると、第2条件CD2が成立したと判定する。
【0043】
低温時指示圧制御部110aは、第2条件成立判定部110cで第2条件CD2が成立したと判定されると、例えば図8に示すように、第3クラッチ指示圧Sc3および第2ブレーキ指示圧Sb2をそれぞれ低係合油圧Plowから予め定められた急減圧指示値Pg[Pa]に急減させた後、予め定められた一定のスイープ率Dsで解放油圧(大気圧)へ向かって低下させるように、第3クラッチ指示圧Sc3および第2ブレーキ指示圧Sb2をそれぞれ制御する。つまり、低温時指示圧制御部110aは、第2条件成立判定部110cで第2条件CD2が成立したと判定されリニアソレノイドバルブSL3、SL6の出力圧Poutを低係合油圧Poutlowから解放油圧へ切り替える場合には、リニアソレノイドバルブSL3、SL6の出力圧Poutを低係合油圧Poutlowから予め定められた急減圧Poutg[Pa]に急減させた後、予め定められた一定のスイープ率Dfsで解放油圧へ向かって低下させるように、リニアソレノイドバルブSL3、SL6の出力圧Poutを制御する低温時出力圧制御部として機能する。これによって、第3クラッチC3および第2ブレーキB2がそれぞれ完全係合状態から解放状態へ切り替えられる。なお、急減圧指示値Pgは、低係合油圧Plowよりも低い指示圧Sc3、Sb2であり、急減圧Poutgは、低係合油圧Plowよりも低いリニアソレノイドバルブSL3、SL6の出力圧Poutである。又、スイープ率Dsは、単位時間当たりに指示圧Sc3、Sb2が低下する低下率であり、スイープ率Dfsは、単位時間当たりにリニアソレノイドバルブSL3、SL6の出力圧Poutが低下する低下率である。又、急減圧指示値Pgおよびスイープ率Dsは、第3クラッチC3および第2ブレーキB2を完全係合状態から解放状態に切り替えるときのショックを好適に抑制し、且つ、第3クラッチC3および第2ブレーキB2が完全係合状態から解放状態へ切り替わる時間を好適に短くするために予め定められた値である。
【0044】
又、低温時指示圧制御部110aは、第2条件成立判定部110cで第2条件CD2が成立していないと判定されると、例えば図8に示すように、第3クラッチ指示圧Sc3および第2ブレーキ指示圧Sb2をそれぞれ最大係合油圧Pmaxから急減圧指示値Pgに急減させて、その急減圧指示値Pgで所定時間ts[sec]待機させた後、一定のスイープ率Dsで解放油圧(大気圧)へ向かって低下させるように、第3クラッチ指示圧Sc3および第2ブレーキ指示圧Sb2をそれぞれ制御する。つまり、低温時指示圧制御部110aは、第2条件成立判定部110cで第2条件CD2が成立していないと判定されリニアソレノイドバルブSL3、SL6の出力圧Poutを最大係合油圧Poutmaxから解放油圧へ切り替える場合には、リニアソレノイドバルブSL3、SL6の出力圧Poutを最大係合油圧Poutmaxから急減圧Poutgに急減させて、その急減圧Poutgで所定時間ts待機させた後、一定のスイープ率Dfsで解放油圧へ向かって低下させるように、リニアソレノイドバルブSL3、SL6の出力圧Poutを制御する低温時出力圧制御部として機能する。これによって、第3クラッチC3および第2ブレーキB2がそれぞれ完全係合状態から解放状態へ切り替えられる。なお、所定時間tsは、例えば第3クラッチ指示圧Sc3および第2ブレーキ指示圧Sb2を最大係合油圧Pmaxから急減圧指示値Pgに急減させたときに第3クラッチC3および第2ブレーキB2の係合圧が安定するまでの時間、すなわち第3クラッチ指示圧Sc3および第2ブレーキ指示圧Sb2を最大係合油圧Pmaxから急減圧指示値Pgに急減させたときに第3クラッチC3および第2ブレーキB2の実際の係合圧が指示圧Sc3、Sb2に追従するまでの時間である。
【0045】
図7は、電子制御装置100の制御作動の要部を説明するフローチャートであり、ガレージシフト操作による自動変速機10の変速段切替制御の制御作動の一例を説明するフローチャートである。又、図8は、図7のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例を示す図である。なお、図8のタイムチャートは、自動変速機10の変速段切替制御時における操作ポジションPOSshや第3クラッチ指示圧Sc3[Pa]の時間t[sec]の変化を示している。図8において、t1は、シフトレバー74がN操作ポジションからR操作ポジションへ操作された時点である。又、t2は、第3クラッチ指示圧Sc3および第2ブレーキ指示圧Sb2が低係合油圧Plow又は最大係合油圧Pmaxに到達した時点である。又、t3は、シフトレバー74がR操作ポジションからN操作ポジションへ操作された時点である。又、t4は、第3クラッチ指示圧Sc3が低係合油圧Plowから下げられて解放油圧に到達した時点である。又、t5は、第3クラッチ指示圧Sc3が最大係合油圧Pmaxから下げられて解放油圧に到達した時点である。なお、図8において、実線L1は、油温Toilが所定油温Tj以下であるときの第3クラッチ指示圧Sc3の変化を示す線であり、一線鎖線L2は、油温Toilが所定油温Tjよりも高いときの第3クラッチ指示圧Sc3の変化を示す線である。又、図7のフローチャートは、シフトレバー74がN操作ポジションからR操作ポジションへ操作されたとき(図8のt1時点)をスタートとしている。
【0046】
先ず、第1条件成立判定部110bの機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、第1条件CD1が成立したか否か、すなわちリニアソレノイドバルブSL1~SL6に供給される作動油の油温Toilが所定油温Tj以下であるか否かが判定される。S10の判定が肯定される場合(油温Toilが所定油温Tj以下である場合)には、低温時指示圧制御部110aの機能に対応するS20が実行される。S10の判定が否定される場合(油温Toilが所定油温Tjよりも高い場合)には、低温時指示圧制御部110aの機能に対応するS30が実行される。S20では、リニアソレノイドバルブSL3、SL6の出力圧Poutが低係合油圧Poutlowに制御される。S30では、リニアソレノイドバルブSL3、SL6の出力圧Poutが最大係合油圧Poutmaxに制御される。
【0047】
次に、R-N操作判定部112bの機能に対応するS40において、シフトレバー74がR操作ポジションからN操作ポジションへ操作されたか否かが判定される。S40の判定が否定される場合には、再度S10が実行される。S40の判定が肯定される場合(図8のt3時点)には、第2条件成立判定部110cの機能に対応するS50が実行される。S50では、第2条件CD2が成立したか否か、すなわちリニアソレノイドバルブSL3、SL6の出力圧Poutが低係合油圧Poutlowであるか否かが判定される。S50の判定が肯定される場合(出力圧Poutが低係合油圧Poutlowである場合)には、低温時指示圧制御部110aの機能に対応するS60が実行される。S50の判定が否定される場合(出力圧Poutが最大係合油圧Poutmaxである場合)には、低温時指示圧制御部110aの機能に対応するS70が実行される。S60では、リニアソレノイドバルブSL3、SL6の出力圧Poutが低係合油圧Poutlowから急減圧Poutgに急減させた後、一定のスイープ率Dfsで低下させられる。S70では、リニアソレノイドバルブSL3、SL6の出力圧Poutが最大係合油圧Poutmaxから急減圧Poutgに急減させられて、その急減圧Poutgで所定時間ts待機させられた後、一定のスイープ率Dfsで低下させられる。
【0048】
上述のように、本実施例の自動変速機10の電子制御装置100によれば、リニアソレノイドバルブSL1~SL6に供給される作動油の油温Toilを検出する油温検出部114と、第3クラッチC3および第2ブレーキB2が解放状態から完全係合状態へ切り替えられ、且つ、油温検出部114で検出された油温Toilが予め定められた所定油温Tj以下である場合には、リニアソレノイドバルブSL3、SL6の出力圧Poutを最大係合油圧Poutmaxよりも低い低係合油圧Poutlowに制御して、第3クラッチC3および第2ブレーキB2を完全係合状態に維持する低温時指示圧制御部110aとを、含む。このため、低温時指示圧制御部110aによって、油温検出部114で検出された油温Toilが所定油温Tj以下のときにリニアソレノイドバルブSL3、SL6の出力圧Poutが低係合油圧Poutlowに制御されるので、第3クラッチC3および第2ブレーキB2を完全係合状態から解放状態へ切り替えるときに、例えばリニアソレノイドバルブSL3、SL6の出力圧Poutを最大係合油圧Poutmaxから下げる場合に比べて、第3クラッチC3および第2ブレーキB2を完全係合状態から解放状態へ切り替える時間を短くすることができる。また、リニアソレノイドバルブSL3、SL6の出力圧Poutが最大係合油圧Poutmaxよりも低い低係合油圧Poutlowに制御されても、油温Toilが所定油温Tj以下であるので、リニアソレノイドバルブSL3、SL6に異物が詰まることが抑制される。
【0049】
また、本実施例の自動変速機10の電子制御装置100によれば、低係合油圧Poutlowは、第3クラッチC3および第2ブレーキB2の完全係合状態が維持される範囲で最大係合油圧Poutmaxよりも低い油圧である。このため、第3クラッチC3および第2ブレーキB2を完全係合状態から解放状態へ切り替える時間を好適に短くすることができる。
【0050】
また、本実施例の自動変速機10の電子制御装置100によれば、低温時指示圧制御部110aは、油温検出部114で検出された油温Toilが所定油温Tjよりも高い場合には、リニアソレノイドバルブSL3、SL6の出力圧Poutを最大係合油圧Poutmaxにすることで第3クラッチC3および第2ブレーキB2を完全係合する。このため、油温検出部114で検出された油温Toilが所定油温Tjよりも高く、リニアソレノイドバルブSL3、SL6に異物が詰まり易い場合には、低温時指示圧制御部110aによってリニアソレノイドバルブSL3、SL6の出力圧Poutを最大係合油圧Poutmaxにして第3クラッチC3および第2ブレーキB2を完全係合にするので、リニアソレノイドバルブSL3、SL6に異物が詰まることが好適に抑制される。
【0051】
また、本実施例の自動変速機10の電子制御装置100によれば、低温時指示圧制御部110aは、リニアソレノイドバルブSL3、SL6の出力圧Poutを低係合油圧Poutlowから解放油圧へ切り替える場合には、リニアソレノイドバルブSL3、SL6の出力圧Poutを、低係合油圧Poutlowから低係合油圧Poutlowよりも低い急減圧Poutgに急減させた後、予め定められたスイープ率Dfsで解放油圧へ向って低下させる。このため、第3クラッチC3および第2ブレーキB2を完全係合状態から解放状態へ切り替える時間を好適に短くすることができる。
【0052】
また、本実施例の自動変速機10の電子制御装置100によれば、低温時指示圧制御部110aは、リニアソレノイドバルブSL3、SL6の出力圧Poutを最大係合油圧Poutmaxから解放油圧へ切り替える場合には、リニアソレノイドバルブSL3、SL6の出力圧Poutを、最大係合油圧Poutmaxから低係合油圧Poutlowよりも低い急減圧Poutgに急減させて、その急減圧Poutgで所定時間ts待機させた後、予め定められたスイープ率Dfsで解放油圧へ向って低下させる。このため、第3クラッチC3および第2ブレーキB2を完全係合状態から解放状態へ切り替えるときのショックを好適に抑制することができる。
【0053】
また、本実施例の自動変速機10の電子制御装置100によれば、最大係合油圧Poutmaxは、リニアソレノイドバルブSL1~SL6の入力ポート66に供給されるライン油圧PLと同じ大きさの油圧である。このため、リニアソレノイドバルブSL3、SL6の出力圧Poutを最大係合油圧Poutmaxにすることで、リニアソレノイドバルブSL3、SL6に異物が詰まることが好適に抑制することができる。
【0054】
また、本実施例の自動変速機10の電子制御装置100によれば、リニアソレノイドバルブSL1~SL6の入力ポート66に供給されるライン油圧PLは、車両の要求駆動力の増加に応じて増加するように制御される油圧である。このため、リニアソレノイドバルブSL3、SL6の出力圧Poutを最大係合油圧Poutmaxよりも低い低係合油圧Poutlowに制御しても、好適に第3クラッチC3および第2ブレーキB2を完全係合状態に維持することができる。
【0055】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0056】
例えば、前述の実施例1では、N-R操作判定部112aでシフトレバー74がN操作ポジションからR操作ポジションへ切り替えられたと判定されると、第1条件成立判定部110bで第1条件CD1が成立したか否かを、すなわち油温Toilが所定油温Tj以下であるか否かを判定していた。例えば、シフトレバー74がP操作ポジションからR操作ポジションへ切り替えられた場合でも、第1条件成立判定部110bで第1条件CD1が成立したか否かを判定しても良い。又、前述の実施例1では、R-N操作判定部112bでシフトレバー74がR操作ポジションからN操作ポジションへ切り替えられたと判定されると、第2条件成立判定部110cで第2条件CD2が成立したか否かを判定していた。しかし、例えば、シフトレバー74がR操作ポジションからP操作ポジションへ切り替えられた場合でも、第2条件成立判定部110cで第2条件CD2が成立したか否かを判定しても良い。
【0057】
また、前述の実施例1では、シフトレバー74がN操作ポジションからR操作ポジションに切り替えられて第1後進変速段「Rev1」を成立させる第3クラッチC3および第2ブレーキB2が解放状態から完全係合状態に切り替えられ、且つ、油温検出部114で検出された油温Toilが所定油温Tj以下である場合には、リニアソレノイドバルブSL3、SL6の出力圧Poutを最大係合油圧Poutmaxよりも低い低係合油圧Poutlowに制御していた。しかし、例えば、シフトレバー74がN操作ポジションからD操作ポジションに切り替えられて第1変速段「1st」を成立させる第1クラッチC1および第2ブレーキB2が解放状態から完全係合状態に切り替えられ、且つ、油温検出部114で検出された油温Toilが所定油温Tj以下である場合には、リニアソレノイドバルブSL1、SL6の出力圧Poutを最大係合油圧Poutmaxよりも低い低係合油圧Poutlowに制御しても良い。これによって、シフトレバー74がD操作ポジションからN操作ポジションに切り替えられて第1クラッチC1および第2ブレーキB2を完全係合状態から解放状態へ切り替える時間を短くすることができると共に、リニアソレノイドバルブSL1、SL6に異物が詰まることが抑制される。さらに、例えば、自動変速機10の変速段が例えば第1変速段「1st」から第2変速段「2nd」に切り替えられて第2変速段「2nd」を成立させる第1ブレーキB1が解放状態から完全係合状態に切り替えられ、且つ、油温検出部114で検出された油温Toilが所定油温Tj以下である場合には、リニアソレノイドバルブSL5の出力圧Poutを最大係合油圧Poutmaxよりも低い低係合油圧Poutlowに制御しても良い。これによって、自動変速機10の変速段が例えば第2変速段「2nd」から第1変速段「1st」に切り替えられて第1ブレーキB1を完全係合状態から解放状態へ切り替える時間を短くすることができると共に、リニアソレノイドバルブSL5に異物が詰まることが抑制される。
【0058】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0059】
10:自動変速機(車両用自動変速機)
100:電子制御装置(油圧制御装置)
110a:低温時指示圧制御部(低温時出力圧制御部)
114:油温検出部
B2、CB:第2ブレーキ(油圧式係合装置)
C3、CB:第3クラッチ(油圧式係合装置)
Dfs:スイープ率
Pout:出力圧
Poutg:急減圧
Poutlow:低係合油圧
Poutmax:最大係合油圧
PL:ライン油圧(元圧)
SL3、SL6:リニアソレノイドバルブ
Tj:所定油温
ts:所定時間
Toil:油温
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8