(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022079039
(43)【公開日】2022-05-26
(54)【発明の名称】マグロ赤身熟成肉の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 17/00 20160101AFI20220519BHJP
【FI】
A23L17/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020189975
(22)【出願日】2020-11-16
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】520448382
【氏名又は名称】グローバルライン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104802
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 尚人
(72)【発明者】
【氏名】西塚 定
【テーマコード(参考)】
4B042
【Fターム(参考)】
4B042AC06
4B042AD39
4B042AE03
4B042AG30
4B042AH01
4B042AK01
4B042AP07
4B042AP18
4B042AP30
(57)【要約】 (修正有)
【課題】長期の保存及び流通に適する冷凍マグロ赤身肉の塊を原材料として用いつつ、生鮮マグロに劣らぬ品質の赤身熟成肉の製造方法を提供する。
【解決手段】冷凍マグロ赤身肉の塊を脱気包装し、当該脱気包装により得られた包装体を、4℃~6℃の範囲内においてほぼ定温に保たれた冷水中に静置し、マグロ赤身肉の解凍後も冷水中に浸し続ける、マグロ赤身熟成肉の製造方法である。好ましくは、冷水温度がほぼ4℃であり、冷凍マグロ赤身肉の塊を、5時間~24時間の範囲内の時間に渡って冷水中で浸し続ける、該マグロ赤身熟成肉の製造方法であり、さらに好ましくは、脱気包装する前に、冷凍マグロ赤身肉の塊を塩水中に漬け込む工程を含む、該マグロ赤身熟成肉の製造方法である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍マグロ赤身肉の塊を脱気包装し、当該脱気包装により得られた包装体を、4℃~6℃の範囲内においてほぼ定温に保たれた冷水中に静置し、当該マグロ赤身肉の解凍後も当該冷水中に浸し続けることを特徴とする、マグロ赤身熟成肉の製造方法。
【請求項2】
冷水温度がほぼ4℃である、請求項1に記載のマグロ赤身熟成肉の製造方法。
【請求項3】
前記冷凍マグロ赤身肉の塊を、5時間~24時間の範囲内の時間に渡って前記冷水中で浸し続ける、請求項1または2に記載のマグロ赤身熟成肉の製造方法。
【請求項4】
脱気包装する前に、前記冷凍マグロ赤身肉の塊を塩水中に漬け込む工程を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のマグロ赤身熟成肉の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚介肉の熟成技術の分野に属する。本発明は、マグロの冷凍赤身肉を原材料とする熟成肉の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
わが国では多くの魚介類を食用としているが、その中でもマグロは、刺身や鮨種として人気の高い魚である。生食用として流通するマグロ肉には新鮮さが要求されるものの、他の多くの魚介肉と同様、漁獲直後の状態では肉の弾力性が高く、食感もさらっとしており、うま味が少ない。その後、死後硬直および解硬等を経てさらに時間が経過すると、マグロ肉内部で自己消化が起こり、肉質は軟化する。このときのマグロ肉は、ねっとりとした食感を有するようになっており、うま味も増大している。また、マグロ肉特有の風味も感じられるようになる。これは、いわゆる熟成と称される現象である。
しかし、生のマグロ肉は足が早く、その熟成肉を流通に乗せることは難しいため、生鮮マグロに関しては、漁獲後にいち早く仕入れた専門業者や鮨職人等が各自で熟成させ、直ちに消費者に提供することが一般的である。
そこで、特許文献1には、生マグロのブロックを難酸素透過性樹脂フィルムで真空包装した包装体を、空気雰囲気下で冷蔵保存(3~8℃)する熟成方法が開示されている。当該文献によれば、当該熟成方法を用いることにより、包装後7日から14日、またはそれ以上の比較的長期の間、生マグロを流通に乗せることができ、熟成した状態のマグロ肉を消費者に提供し得るとされている。
【0003】
一方、上述の通り、生鮮マグロは足が早いことから、漁獲後直ちにエラ、内臓、およびヒレの除去、ならびに血抜きおよび水洗いが行われた上で急速冷凍処理が施され、その後、冷凍状態のまま、マグロ肉が流通に置かれることも多い。このような冷凍処理によれば、マグロ肉は、長期に渡る保存および流通に耐え得る。特に、近年遠洋延縄漁業での漁獲量が増加しており、現在では、生鮮マグロの流通量を冷凍マグロの流通量が大きく上回る状況となっている。
しかし、マグロ肉をはじめとする魚介肉は、他の食肉と比べて水分量が多く、解凍およびその後の処理の方法により品質が大きく変化しやすい。例えば、ドリップ流出やタンパク質変性等により、味の劣化等の肉質変化が起こりやすい。
そこで、特許文献2には、冷凍マグロ肉ブロックを、防水袋に収納した状態で常温水中に漬けて解凍し、その後、蓋付きトレー等に収納して0℃程度の低温で保管する、マグロ肉の解凍保存方法が開示されている。当該文献によれば、マグロ肉を、発色の良い状態で10時間から3~4日程度保存することができ、良好な味を保つことができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-18275号公報
【特許文献2】特開2002-209512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の熟成方法は、生鮮マグロを対象とする方法であるため、冷凍マグロに対して適用することはできない。
特許文献2に記載の解凍保存方法は、解凍温度が常温であるため凍結時との温度差が大きく、常温環境下に長時間置きすぎるとマグロ肉からドリップが流出しやすくなるおそれがある。また、その後の保存環境は、それまでの解凍環境と大きく異なるため、肉質変化が起こりやすくなるおそれがある。そして、解凍工程および保存工程を通してマグロ肉が空気に触れ得るため、赤身肉に含まれる色素タンパクであるミオグロビンが、その内部に有するヘム鉄の自動酸化によりメトミオグロビンへと不可逆変化(メト化)し、魚肉の色彩を暗褐色に変化させてしまうおそれがある。
【0006】
本発明は、長期の保存および流通に適する冷凍マグロ赤身肉の塊を原材料として用いつつ、生鮮マグロに劣らぬ品質の赤身熟成肉を製造し提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、解凍工程と熟成工程とを、別工程ではなく、一体的・連続的なものとしてシームレスな一工程と捉え、冷凍マグロ肉を脱気包装状態で冷水中に浸し、解凍後もさらに継続して浸し続けることにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
本発明としては、例えば、下記のものを挙げることができる。
[1]冷凍マグロ赤身肉の塊を脱気包装し、当該脱気包装により得られた包装体を、4℃~6℃の範囲内においてほぼ定温に保たれた冷水中に静置し、当該マグロ赤身肉の解凍後も当該冷水中に浸し続けることを特徴とする、マグロ赤身熟成肉の製造方法。
[2]冷水温度がほぼ4℃である、上記[1]に記載のマグロ赤身熟成肉の製造方法。
[3]前記冷凍マグロ赤身肉の塊を、5時間~24時間の範囲内の時間に渡って前記冷水中で浸し続ける、上記[1]または[2]に記載のマグロ赤身熟成肉の製造方法。
[4]脱気包装する前に、前記冷凍マグロ赤身肉の塊を塩水中に漬け込む工程を含む、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載のマグロ赤身熟成肉の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、冷凍マグロ肉を原材料としながらも、ねっとりとした舌触りと豊富なうま味を有する、生鮮マグロに劣らぬ風味の赤身熟成肉を得ることができる。また、本発明によれば、生鮮マグロに劣らぬ色味の赤身熟成肉を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例において、原材料として用いた冷凍マグロ赤身肉を示す写真である。
【
図2】
図1に示した冷凍マグロ赤身肉を原材料として、本発明に係るマグロ赤身熟成肉の製造方法により製造されたマグロ赤身熟成肉を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳述する。
1 本発明に係る製造方法について
本発明に係るマグロ赤身熟成肉の製造方法(以下、「本発明製造方法」という。)は、原材料である冷凍マグロ赤身肉の塊を脱気包装し(脱気包装工程)、当該脱気包装により得られた包装体を、4℃~6℃の範囲内においてほぼ定温に保たれた冷水中に静置し、当該マグロ赤身肉の解凍後も当該冷水中に浸し続ける工程(冷水浸漬工程)を含むことを特徴とする。また、本発明製造方法は、脱気包装工程または後述の塩水浸漬工程の前に、冷凍マグロ赤身肉の塊を洗浄する工程(洗浄工程)を含んでいてもよい。さらに、本発明製造方法は、洗浄工程後、脱気包装工程前に、冷凍マグロ赤身肉の塊を塩水中に漬け込む工程(塩水浸漬工程)を含んでいてもよい。
【0012】
1.1 原材料
本発明製造方法においては、原材料として冷凍マグロ赤身肉の塊を用いる。
【0013】
当該冷凍マグロ赤身肉におけるマグロの種類には、特に制限はない。具体的には、例えば、クロマグロ、キハダ、メバチ、ビンナガ、ミナミマグロ、コシナガ、タイセイヨウマグロを挙げることができる。この中でも、クロマグロ、キハダ、メバチが好ましく、クロマグロ、キハダ、メバチがより好ましい。
【0014】
ここで、「赤身肉」あるいは「赤身」とは、脂身(トロ)以外の普通肉および血合肉を指す。赤身肉中の脂質含有量に特に制限はないが、15重量%以下の範囲内であることが適当である。この中でも、脂質含有量が10重量%以下であることが好ましく、7重量%以下であることがより好ましい。
【0015】
上記塊の部位に特に制限はないが、赤身肉の塊であることから、マグロの背肉(雄節)に当たる部分、すなわち、背カミ(脊節カミ)、背ナカ(脊節ナカ)、または背シモ(脊節シモ)であることが適当である。ただし、脂質含有量が上記範囲内であれば、腹肉(雌節)部分、例えば、腹カミ(腹節カミ)、腹ナカ(腹節ナカ)、腹シモ(腹節シモ)であってもよい。
【0016】
これらの部位をさらに細分化する場合には、テンミ(テンパ)、血合、血合ぎし、皮ぎし、分かれ身に相当する部位であることが好ましく、テンミ(テンパ)に相当する部位であることがより好ましい。
【0017】
また、上記塊の加工形状としては、ロイン以下のサイズであることが適当である。具体的には、例えば、ロイン、ブロック、チャンク、コロ、サクを挙げることができる。これらの中、ブロック、チャンク、コロが好ましく、ブロックがより好ましい。
【0018】
ここで、「ロイン」とは、一尾丸ごとのマグロからエラ、内臓、頭、および尾を取り除き、三枚におろして背骨をはずした状態のマグロ肉(フィレ)を、さらに背肉(雄節)と腹肉(雌節)に切り分けた状態のものをいう。当該ロインは、皮をむいた状態の場合を含む。本発明製造方法においては、ロインは皮をむいた状態で用いることが好ましい。
【0019】
「ブロック」とは、ロインを、背骨に対して垂直な方向に一定の厚みでカットしたものをいう。当該ブロックの厚みに特に制限はないが、本発明製造方法に用いる場合には、8cm~32cmの範囲内であることが適当である。
【0020】
「チャンク」あるいは「コロ」とは、ロインまたはブロックを、輪切りや塊状に切断する等一定のサイズにカットしたものをいう。当該チャンクあるいはコロの重量に特に制限はない。
【0021】
「サク」とは、ブロックまたはチャンクを、テンミ(テンパ)、血合、血合ぎし、皮ぎし、および分かれ身の各部位ごとに切り分け、さらに短冊状に切った状態(サクとりした状態)のものをいう。サクとり部位に特に制限はなく、上記いずれの部位をサクとりしたものであってもよいが、その中でも、テンミ(テンパ)をサクとりしたものであることが好ましい。
【0022】
マグロ赤身肉の塊を凍結して上記冷凍マグロ赤身肉とするための凍結温度は、マグロ赤身肉の内部まで十分に凍結できる温度であれば特に制限はないが、-90℃~-30℃の範囲内であることが適当である。中でも、-80℃~-40℃の範囲内であることが好ましく、-70℃~-50℃の範囲内であることがより好ましい。
【0023】
また、上記冷凍マグロ赤身肉の貯蔵温度あるいは保冷温度は、当該冷凍マグロ赤身肉の凍結を保持することができる温度であれば特に制限はないが、-90℃~-20℃の範囲内であることが適当である。中でも、-70℃~-35℃の範囲内であることが好ましく、-50℃~-40℃の範囲内であることがより好ましい。
【0024】
1.2 洗浄工程
本発明製造方法においては、下記にて詳述する塩水浸漬工程または脱気包装工程の前に、原材料として用いる冷凍マグロ赤身肉の塊を水で洗浄する工程を含むことができる。
【0025】
当該洗浄に用いられる水に特に制限はない。例えば、精製水や蒸留水、鉱泉水、水道水を挙げることができる。ミネラル分を含む水であってもよく、水質は硬水であってもよいし、軟水であってもよい。
【0026】
当該洗浄工程で用いる水の温度は、例えば、常温あるいは15℃~30℃の範囲内であることが適当である。その中でも、18℃~25℃の範囲内であることが好ましい。なお、水の温度が30℃を超える場合には、洗浄によりマグロ肉がふやけてしまうおそれがある。
【0027】
1.3 塩水浸漬工程
本発明製造方法においては、塩水洗浄工程後、下記にて詳述する脱気包装工程の前に、原材料として用いる冷凍マグロ赤身肉の塊を、塩水中に漬け込む工程を含むことができる。当該塩水浸漬工程を経ることにより、後の冷水浸漬工程におけるドリップ流出をより低減することができ、また、得られる熟成肉の発色をより良くすることができる。
【0028】
ここで、「塩水」とは、水に塩を溶解させた溶液を意味する。
【0029】
当該塩水の溶媒として用いられる水に特に制限はない。例えば、精製水や蒸留水、鉱泉水、水道水を挙げることができる。ミネラル分を含む水であってもよく、水質は硬水であってもよいし、軟水であってもよい。
【0030】
また、当該塩水の溶質として用いられる塩としては、例えば、食塩が挙げられる。当該食塩は塩化ナトリウムから主としてなるものであれば特に制限はなく、塩化ナトリウムのみからなるものであってもよいし、適量のニガリ成分(塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム等)を含んでいてもよい。
【0031】
当該塩水浸漬工程において用いる塩水の塩濃度は、例えば、3重量%~5重量%の範囲内であることが適当である。
【0032】
当該塩水浸漬工程において用いる塩水の温度は、例えば、常温あるいは20℃~30℃の範囲内であることが適当である。その中でも、22.5℃~27.5℃の範囲内であることが好ましい。なお、塩水の温度が30℃を超える場合には、浸漬によりマグロ肉がふやけてしまうおそれがある。
【0033】
当該塩水浸漬工程において、冷凍マグロ赤身肉の塊を塩水中に浸漬する時間としては、例えば、2分間~5分間の範囲内が適当である。
【0034】
特に、原材料のマグロ肉の塊がロインである場合は、塩水浸漬時間は、4分間~5分間の範囲内であることが好ましい。
【0035】
特に、原材料のマグロ肉の塊がブロックである場合は、塩水浸漬時間は、3分間~4分間の範囲内であることが好ましい。
【0036】
特に、原材料のマグロ肉の塊がサクである場合は、塩水浸漬時間は、2分間~3分間の範囲内であることが好ましい。
【0037】
1.4 脱気包装工程
本発明製造方法は、原材料である冷凍マグロ赤身肉の塊を脱気包装する工程を含む。
【0038】
当該包装状態を実現する方法としては、例えば、冷凍マグロ赤身肉の塊を防水袋等に収納し、当該袋等の内部を脱気して密封包装体とする方法が挙げられる。
【0039】
当該脱気を行う方法に特に制限はない。例えば、冷凍マグロ赤身肉が収納された袋内の空気をノズル等を用いて吸引し、その直後に当該袋の開口部をシールする方法であってもよいし、また例えば、冷凍マグロ赤身肉が収納された袋をチャンバー内に入れた上で、当該チャンバー内を脱気状態にしながら当該袋にシールを施す方法であってもよい。
【0040】
上記脱気包装工程において、冷凍マグロ赤身肉の塊の収納に用いる防水袋等としては、例えば、ポリエチレン製袋、ポリプロピレン製袋、ポリアミド製袋等の樹脂フィルム製袋を挙げることができる。
【0041】
また、冷凍マグロ赤身肉の塊を上記防水袋等に収納する際には、当該冷凍マグロ赤身肉の表面を吸水体で包装してもよい。吸水体で包装することにより、肉の変色をさらに効果的に防止することができる。
【0042】
上記吸水体としては、例えば、紙を挙げることができる。紙で包装することにより、マグロ肉からのドリップの流出をより低減し、より鮮度を保つことができる。
【0043】
当該紙の中でも、パーチメント紙もしくは硫酸紙、または湿潤紙力増強剤を含有する樹脂加工紙もしくは耐水紙を用いることが好ましい。これらの紙は、表面が滑面化されたものであることがより好ましく、当該滑面紙を用いることにより、熟成後のマグロ肉の表面に紙がくっつかず、より状態の良い熟成肉を得ることができる。
【0044】
上記湿潤紙力増強剤としては、例えば、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂、エポキシ化ポリアミドポリアミン系樹脂、ジアルデヒドデンプン、メラミン系樹脂、尿素系樹脂を挙げることができる。当該湿潤紙力増強剤は、一種の使用であっても二種以上の併用であってもよい。
【0045】
上記紙中における湿潤紙力増強剤の含有量は、例えば、0.01重量%~3重量%の範囲内であることが適当である。その中でも、0.1重量%~2.5重量%の範囲内であることが好ましく、1.8重量%~2.2重量%の範囲内であることがより好ましい。
【0046】
1.5 冷水浸漬工程
本発明製造方法は、上記脱気包装工程により得られた包装体を、4℃~6℃の範囲内においてほぼ定温に保たれた冷水中に静置し、当該包装体の内容物(マグロ赤身肉)の解凍後も当該冷水中に浸し続ける工程を含む。解凍が完了したか否かで工程を区切らず、解凍後も当該包装体を同一の環境下に置き続けることにより、高品質の熟成肉を得ることができる。
【0047】
ここで、「ほぼ定温」とは、温度制御誤差の範囲内で定温であることをいう。定量的には、当該冷水浸漬工程を通しての温度変動が、プラスマイナス2℃の範囲内であることを意味する。当該工程においては、上記温度範囲(4℃~6℃)の中、冷水温度がほぼ4℃であることが好ましい。
【0048】
また、「静置」とは、静止した状態で平穏環境下に置いておくことをいい、振動、音波、バブリング等の外部からの人為的な物理的攪乱または刺激を与えないことを意味する。
【0049】
当該冷水浸漬工程において用いることができる水に特に制限はない。例えば、精製水や蒸留水、鉱泉水、水道水を挙げることができる。ミネラル分を含む水であってもよく、水質は硬水であってもよいし、軟水であってもよい。
【0050】
冷水中に浸漬する際の態様に特に制限はなく、例えば、冷水を張った状態の適当な容積の水槽中に上記包装体を水没させて静置すればよい。この場合の水槽中の冷水の体積は、当該包装体を水没させることができる量であれば特に制限はないが、当該包装体の体積の5倍~10倍の範囲内であることが適当である。
【0051】
冷水浸漬工程において水槽を用いる場合には、当該水槽を、温度制御可能な冷蔵庫または冷蔵室の中に設置して用いることができる。水温のみならず、その周囲の気温を含めてほぼ定温にしておくことで、より品質の良い熟成肉を得ることができる。
【0052】
冷水中に浸漬する時間(冷水浸漬時間)としては、原料として用いるマグロ肉塊のサイズによって適宜選択する必要があるが、例えば、5時間~24時間の範囲内が適当である。中でも、6時間~18時間の範囲内が好ましい。
【0053】
また、マグロ肉塊の解凍に要する時間(解凍時間)を基準とすると、当該冷水浸漬時間は、例えば、解凍時間の1.1倍~2.0倍の範囲内であることが適当である。中でも、1.2倍~1.8倍の範囲内であることが好ましく、1.3倍~1.5倍の範囲内であることがより好ましい。
【0054】
特に、原材料のマグロ肉の塊がロインである場合は、冷水浸漬時間は、13時間~24時間の範囲内が好ましい。この場合、マグロ肉の解凍に要する時間は概ね12時間以上である。
【0055】
特に、原材料のマグロ肉の塊がブロックである場合はその大きさによるが、冷水浸漬時間は、8時間~20時間の範囲内が好ましい。この場合、マグロ肉の解凍に要する時間は概ね6~13時間である。
【0056】
特に、原材料のマグロ肉の塊がサクである場合は、冷水浸漬時間は、5時間~6時間の範囲内が好ましい。この場合、マグロ肉の解凍に要する時間は概ね4時間である。
【実施例0057】
以下に、実施例を掲げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、下記実施例により何ら限定されるものではない。
【0058】
[実施例1]本発明製造方法によるマグロ赤身熟成肉の製造
マグロ赤身熟成肉を、以下の手順で製造した。
まず、原材料として、
図1に示すようなキハダマグロ(インド産)の背ナカ部の冷凍赤身肉ブロック3.0kg(-45℃にて保冷)を用意した。当該ブロックを、20℃の水で洗浄し、25℃の4重量%食塩水中に3分間浸漬した。
【0059】
浸漬後、食塩水からブロックを引き上げて表面の水気を布で拭きとり、湿潤紙力増強剤を2重量%含有する耐水紙で当該ブロック全体を包んだ。当該耐水紙に包まれた状態のブロックをポリアミド製袋に収納し、吸引機を用いて袋内を脱気し、開口部をシールして密封した。
【0060】
得られた包装体を、ほぼ4℃に保たれた水道水を張ったステンレス製水槽(容積100L)内に沈めて静置した。その後、包装体を手に持った際の撓み具合の感触から、13時間経過時点でマグロ肉が解凍していることを確認したが、そのまま冷水中にさらに5時間浸漬させ、マグロ赤身熟成肉を得た。得られた熟成肉を
図2に示す。なお、上記水槽は、4℃に設定された冷蔵室内に設置して用いた。
【0061】
本発明製造方法により得られたマグロ赤身熟成肉(
図2)は、劣化の無いしっかりとした形状を保っており、ドリップが滲み出る様子もなく、生鮮マグロに劣らない鮮やかな色であることが確認された。また、試食により官能試験を行ったところ、ねっとりとした食感および豊富なうま味を有していることも確認された。
本発明製造方法によれば、長期の保存および流通に適する冷凍マグロ赤身肉の塊を原材料として用いつつ、生鮮マグロに劣らない品質のマグロ赤身熟成肉を製造し提供することができる。マグロ肉を冷凍状態で流通に乗せ、卸売または小売の段階で本発明製造方法を用いることにより、品質の良い生食用マグロ赤身熟成肉を多くの消費者に提供することができるため、水産食品産業において有用である。