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  • 特開-発泡性清酒の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022079084
(43)【公開日】2022-05-26
(54)【発明の名称】発泡性清酒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/022 20190101AFI20220519BHJP
【FI】
C12G3/022 119J
C12G3/022 119S
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020190046
(22)【出願日】2020-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】502059674
【氏名又は名称】三和酒造 株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098936
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100098888
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 明子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝昌
【テーマコード(参考)】
4B115
【Fターム(参考)】
4B115CN63
4B115CN88
(57)【要約】
【課題】清酒を入れた瓶内で二次発酵、すなわち自然発酵させることで炭酸ガスを生成させる方法では、泡が微細になり、ガスも抜け難くなるが、瓶毎に製品差が生じ易い。更には、生産効率が良くない。
【解決手段】もろみから懸濁液と清酒を別々に得る工程と、懸濁液と清酒を合わせて発酵タンクに投入する工程と、発酵タンクを密閉して貯蔵し、温度を漸次低下させながら二次発酵させる二次発酵工程を含み、酒質の変化を抑制しながら炭酸ガスを生成して溶け込ませる。懸濁液が2~6質量%となるように、アルコール度数が10~13%の清酒と合わせるのが好ましい。徐々に温度を低下させることで、酵母による発酵力が炭酸ガスの生成に必要かつ十分に向けられ、生成した炭酸ガスを液中に溶け込ませた状態で効率良く溜めていくことができる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
もろみから懸濁液と清酒を別々に得る工程と、
前記懸濁液と前記清酒を合わせて発酵タンクに投入する工程と、
前記発酵タンクを密閉して貯蔵し、温度を漸次低下させながら二次発酵させる二次発酵工程を含み、
酒質の変化を抑制しながら炭酸ガスを生成して溶け込ませることを特徴とする発泡性清酒の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載した発泡性清酒の製造方法において、
懸濁液が2~6質量%となるように、アルコール度数が10~13%の清酒と合わせることを特徴とする製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載した発泡性清酒の製造方法において、
もろみから粗ごしにより懸濁液を得、ヤブタ搾りにより清酒を得ることを特徴とする製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載した発泡性清酒の製造方法において、
二次発酵を、氷点下の過冷却状態まで急速に温度を下げて酵母を凝集沈降させて停止させることを特徴とする製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載した発泡性清酒の製造方法において、
二次発酵工程では、12℃からスタートし、そこから漸次低下させ、0~3℃で所定のガス圧に到達すると、そこから-5℃まで一気に下げて発酵を停止させることを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次発酵で発生する炭酸ガスを含有した発泡性清酒の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
清酒は古くから日本で愛飲されてきたが、最近は嗜好の多様化により、清酒に炭酸ガスを含有させたものが販売されており、泡の味わいを楽しめる発泡性清酒として身近になってきている。
ところで、炭酸ガスを含有させる手法としては、清酒に炭酸ガスを直接吹き込む方法が知られているが、この方法ではガスの泡が大きく口当たりが悪い上、ガスが抜け易い。また、清酒に炭酸ガスを添加したことにより、酒税法で規定される「清酒」ではなくなり、消費者が低級的なイメージを持つ恐れもある。
【0003】
別の方法として、特許文献1に記載のように、清酒を入れた瓶内で二次発酵、すなわち自然発酵させることで炭酸ガスを生成させる方法があり、「シャンパン製法」として知られている。この方法では、泡が微細になり滑らかな味わいになる上に、泡が微細になるほど溶け込み易いのでその結果としてガスも抜け難くなっている。また、二次発酵は貯蔵しているときの熟成に相当するので、未だ酒税法で規定される「清酒」として扱われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4422195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、酵母や資化性糖となるグルコースを瓶という小容量空間に常に同じ配合量で含ませるのは難しい。また、瓶を冷蔵庫で保管するので、保管位置によって冷却度合いが微妙に異なる。そのため、瓶毎に製品差が生じ易い。
更には、冷蔵庫に一度に保管できる瓶数は制限されるので、量産には対応できない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記従来の問題点に着目して為されたものであり、タンク内での二次発酵を温度を下げながら行うことを特徴とする。
すなわち、本発明の発泡性清酒の製造方法は、もろみから懸濁液と清酒を別々に得る工程と、前記懸濁液と前記清酒を合わせて発酵タンクに投入する工程と、前記発酵タンクを密閉して貯蔵し、温度を漸次低下させながら二次発酵させる二次発酵工程を含み、酒質の変化を抑制しながら炭酸ガスを生成して溶け込ませることを特徴とする。
【0007】
懸濁液が2~6質量%となるように、アルコール度数が10~13%の清酒と合わせるのが好ましい。
懸濁液はもろみから粗ごしにより得、清酒はヤブタ搾りにより得るのが好ましい。
二次発酵を、氷点下の過冷却状態まで急速に温度を下げて酵母を凝集沈降させて停止させるのが好ましい。
二次発酵工程では、例えば、12℃からスタートし、そこから漸次低下させ、0~3℃で所定のガス圧に到達すると、そこから-5℃まで一気に下げて発酵を停止させる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、製造された発泡性清酒には二次発酵により生成されたもののみが炭酸ガスとして含有されているので、泡が微細になり、ガスも抜け難くなっており、酒税法で規定される「清酒」として扱われる。
また、大容量のタンク内で二次発酵させるので、最終的に瓶詰めしても製品差が生じない。
更には、タンク内発酵なので、量産可能になっている。
加えて、タンク内発酵を前提とすることから、発酵途中でのコントロールが可能になるので、酒質の変化を抑制しつつ炭酸ガスのガス量を増やして、より高品質化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態に係る発泡性清酒の製造方法の工程図である。
図2図1に続く工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の製造方法は、清酒を二次発酵させて生成した炭酸ガスを含有させる方法であり、図1図2の工程図にしたがって説明する。
もろみまでは、常法により製造する。先ず、玄米を精米し、精米後の米を水洗いすると共に水に浸漬し、洗米後の米を蒸して蒸米を造る。その後、蒸米に種麹をふりかけて麹菌を繁殖させ米麹を造る。その後、仕込み水に、酵母、蒸米の他に米麹を加えて酵母を培養し酒母を造る。その後、酒母に、米麹、蒸米及び仕込み水を加える仕込みを複数段にわたって行ってもろみを造る。
【0011】
このもろみを上槽させ濾過液として、懸濁液と清酒を得る。
懸濁液側と清酒側とでは要求される品質が異なるので、それぞれに最適なもろみを別々に造る。
懸濁液側のもろみの酒母を造る際に使用する酵母は、アルコール耐性があり発酵力の強いものとすることが推奨される。
清酒側のもろみの酵母を造る際に使用する酵母は、香り高いものとすることが推奨される。
【0012】
懸濁液は、酵母の効率的な分別回収を目的として、もろみを粗ごしすることにより得ており、酵母が豊富に含まれている。もろみを造る仕込みでは、一次発酵が行われているが、この一次発酵は20~30日間にわたって続くが、5日経過した頃に酵母の増殖がピークを迎え、元気が良い。従って、この時点で粗ごしすることで、酵母数を少なくしつつ必要な発酵力を確保することができる。本発明の製造方法では、酵母は最終的には滓となって取り除かれるものなのでその量を減らせば減らすほど、最終的に得られる清酒の透明度を高めることができる。従って、この元気な時点、すなわち活性の高い状態での粗ごしが推奨される。
【0013】
清酒は、原酒としてだけでなく、酵母の資化性糖となるグルコースを効率的に含ませることを目的として、もろみをヤブタ搾りすることにより得ている。もろみを造る仕込みでは、一次発酵が行われており、通常の清酒を造る場合にはアルコール度数が15~16%になるまで発酵を続けているが、アルコール度数が増大することはグルコースの量が減少することを意味する。
そのため、本発明の製造方法では、二次発酵のスムーズな進行を確保するために、アルコール度数が10~13%、好ましくは12%前後になった時点でのヤブタ搾りが推奨される。アルコール度数を低めにすることで、二次発酵に必要なグルコースの量が確保され易くなるからである。なお、グルコースの量は、もろみ造りの際に仕込まれる麹歩合により増やすことも可能である。
【0014】
なお、清酒は、貯蔵タンクに一旦は貯蔵して数日間寝かせることで上槽の際に取り除かれなかった小さなデンプン粒やタンパク質を沈降させてこの段階で取り除く。この際には、生酒状態のまま貯蔵する場合と、火入れをした上で貯蔵する場合があり、前者はフレッシュで瑞々しい味わいになり、後者はしっとりと落ち着いた味わいになり、どちらもそれぞれ好まれている。
但し、火入れは、清酒を65℃で達温加熱する処理なので、糖化酵素を失活させてグルコースの増産を阻止する特徴もある。本発明では、生酒でも火入れ酒でもどちらも使用可能であるが、グルコースの量が一定になれば、発酵状況をコントロールし易くなる利点がある。
【0015】
二次発酵を、懸濁液が2~6質量%、好ましくは3~5質量%となるように、懸濁液と清酒を合わせて、発酵タンクに入れる。タンク内では自然対流により混合されるが、発酵タンクが撹拌機能を備えている場合にはそれを利用して強制的に混合することも可能である。
このバランスで配合すれば、酒質の変化を抑制しながら炭酸ガスを所定のガス圧まで生成させることが容易となる。
【0016】
本発明の製造方法では、ビールの醸造用に使用されている密閉可能な耐圧タンクを二次発酵用の発酵タンクとして使用する。この種のタンクは、広く出回っており入手し易い。耐圧能力には限界があるので、上側にはエア抜きが設けられている。また、上側に1つのバルブがあり、下側に2つのバルブがある。タンク内では、上澄みと滓とに分離するので、上側のバルブから上澄みを取り出し、下側のバルブから滓を取り出せるようになっている。更に、タンク内の液温とガス圧が監視可能になっている。更に、所望の温度まで冷却させる冷却機能が備えられている。
【0017】
12℃、0MPaで二次発酵をスタートし、炭酸ガスが生成され溜まって、ガス圧が0.2MPaになると圧力平衡状態になるので、エア抜きを利用してガスを抜いて0MPaに戻すと共に、液温を10℃に下げる。更に、二次発酵が進行して、再び炭酸ガスが生成され溜まって、ガス圧が0.2MPaになると、エア抜きを利用して再びガスを抜いて0MPaに戻すと共に、液温を8℃に下げる。
このようにガス圧をコントロールしながら、液温を低下させ最終的には、0~3℃程度まで液温を低下させる。
【0018】
初めから低温下におくと、酵母の元気が無くなるが、このように段階的に、すなわち徐々に温度を低下させることで、その温度に対応した酵母の発酵力が生きて炭酸ガスの生成に必要かつ十分に向けられ、酒質の変化を抑制しながら、すなわち酒質を落とさずに、炭酸ガスを生成させ続ける。その一方で、液温が低くなるほど泡の溶け込み可能な量は増大する。エア抜きをすることで、タンクの耐圧性能限界である0.2MPaを上回らずに、液体側にはそれ以上の炭酸ガスを溶け込ませることが可能となる。
なお、現在の容器の耐圧能力を考慮してエア抜きが行われているが、将来耐圧能力が高くなればこのエア抜きは不要となる。
【0019】
予め8℃で所望のガス圧に到達するように発酵タンクへの投入量を調整しておき、0~3℃で所定のガス圧に到達すると、その時点で二次発酵を停止させる。
【0020】
二次発酵を、氷点下の過冷却状態まで急速に温度を下げて酵母を凝集沈降させて停止させる。具体的には、-5℃まで一気に下げて発酵を停止させる。この温度では清酒が凍結することはない。
二次発酵の終了近くになっても、酵母は動いて内部を循環している。従って、急冷することでその動きを止めている。2~3日静置すると、上澄みの透明度が増していき、酵母は凝集沈降して、タンクの底面に白い塊となって張り付く。タンク内で上澄みと滓とに綺麗に分離するので、上側のバルブから出来立ての発泡性清酒を透明度の高い上澄みとして取り出せる。
滓の沈殿が完了したか否かは、試しに取り出した上澄みの透明度を目視確認するのが簡単であるが、タンクに透明度を検知するセンサーが備え付けられていればその機能を利用して電気的に確認してもよい。
【0021】
取り出された上澄みの発泡性清酒を、販売用容器である瓶に充填させる。充填する際は、通常の充填機では炭酸ガスが発生してしまいうまく充填することができない。そのため、ビール会社などで一般的に利用されているカウンタープレッシャ式の充填機を用い、充填する瓶をタンク内と同圧状態として充填する必要がある。発泡性生酒として完成する場合には、そのまま適宜な温度で保管する。また、発泡性火入れ酒として完成する場合には、販売用容器毎に湯煎殺菌した後に、適宜な温度で保管する。湯煎の条件は、65℃で達温加熱処理を行う。
上記の0~3℃でタンクの耐圧性能限界である0.2MPaに到達できる所定のガス圧は、後述のガスボリューム換算では4.54GV以上になるように設定されている。充填時に0.5GV程度が抜けてしまうことを考慮して最終的には4.0GVとなる。
【0022】
ところで、awa酒協会と呼ばれる、awa酒(登録商標:AWASAKE)を醸す日本各地の蔵元で構成された一般社団法人があり、このawa酒協会では積極的に輸出促進を行っており、海外のコンペのスポンサー(Kuramaster(登録商標))も行っている。
awa酒協会は、awa酒の認定基準を独自に定めており、Kuramasterでは、スパークリングの部でその認定基準をクリアしたawa酒が1位となるなどフランスなどの欧州ソムリエにも高く評価されている。
従って、市場を海外に拡大したい酒造会社にとっては、awa酒として販売できる商品、すなわちawa酒の認定基準をクリアできる発泡性清酒を開発することが、急務の課題になっている。
【0023】
この認定基準では、ガス圧が20℃で0.35MPa以上であることになっており、温度に依存しないガスボリューム(GV)で表現すると、3.911GV以上となる。
本発明の製造方法で製造される発泡性清酒は、上記したように、ガスボリュームは最終的には4.0GVとなっており、この認定基準をクリアできる。
すなわち、瓶に充填された発泡性清酒は、泡が微細になり、ガスも抜け難くなっている。更に、awa酒協会がその他の外観に関する認定基準としている外観についても、視覚的に透明であり、抜栓後容器に注いだ時に一筋泡を生じるものとなっており、その認定基準も満足している。
【0024】
また、二次発酵は貯蔵しているときの熟成に相当するので、未だ酒税法で規定される「清酒」として扱われる。
更に、本発明の製造方法では、大容量のタンクを二次発酵に利用しているので、発泡性清酒の量産性に優れている。
【実施例0025】
上記の実施の形態にしたがって、もろみから粗ごしにより懸濁液を、別のもろみからヤブタ搾りによりアルコール度数が約12%の清酒をそれぞれ造った。清酒については火入れはしなかった。
清酒は貯蔵タンクで寝かせてでんぷん等を取り除いた後に、発酵タンクに懸濁液が約4質量%となる配合比で合わせて投入して混合した。
【0026】
その後は、12℃、0MPaで二次発酵をスタートし、炭酸ガスが生成され溜まって、ガス圧が0.2MPaになると、エア抜きを利用してガスを抜いて0MPaに戻すと共に、液温を10℃に下げ、再び炭酸ガスが生成され溜まって、ガス圧が0.2MPaになると、エア抜きを利用してガスを抜いて0MPaに戻すと共に、液温を0~3℃に下げた。
そして、0~3℃で所定のガス圧に到達すると、-5℃まで一気に下げた。2日静置した後、上澄み液を取り出し、販売用瓶に詰めてサンプル品とした。
【0027】
このサンプル品の日本酒度、アルコール度、酸度、アミノ酸度及び炭酸ガスボリュームは以下の通りであった。
日本酒度: -27
酸度: 2.0
アミノ酸度: 1.3
アルコール度(%): 12.2
炭酸ガスボリューム(GV): 4.1
【0028】
目視観察では、透明度が高く、泡が微細で、抜栓後容器に注いだ時に一筋泡が生じたのを確認した。また、ガスも抜け難かった。更に、味わいも良いとの官能評価も得た。
すなわち、瓶内で二次発酵させた発泡性清酒の上出来だったものを常に安定的に再現できていた。
図1
図2