IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 和日庵株式会社の特許一覧

特開2022-7914次亜塩素酸水、次亜塩素酸水を調製するための組成物、及び次亜塩素酸水の判定用の試験紙
<>
  • 特開-次亜塩素酸水、次亜塩素酸水を調製するための組成物、及び次亜塩素酸水の判定用の試験紙 図1
  • 特開-次亜塩素酸水、次亜塩素酸水を調製するための組成物、及び次亜塩素酸水の判定用の試験紙 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022007914
(43)【公開日】2022-01-13
(54)【発明の名称】次亜塩素酸水、次亜塩素酸水を調製するための組成物、及び次亜塩素酸水の判定用の試験紙
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/08 20060101AFI20220105BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20220105BHJP
   A61L 9/14 20060101ALI20220105BHJP
   C01B 11/04 20060101ALI20220105BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
A01N59/08 A
A61L9/01 M
A61L9/14
C01B11/04
A01P1/00
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020205074
(22)【出願日】2020-12-10
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2020108243
(32)【優先日】2020-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020143941
(32)【優先日】2020-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和2年9月24日に第75回日本体力医学会大会で発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和2年9月28日にウェブページに掲載
(71)【出願人】
【識別番号】520135954
【氏名又は名称】和日庵株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】久保田 雅美
(72)【発明者】
【氏名】久保田 隆男
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 葵
(72)【発明者】
【氏名】宮田 善之
【テーマコード(参考)】
4C180
4H011
【Fターム(参考)】
4C180AA07
4C180CB01
4C180EA58X
4C180GG06
4H011AA04
4H011BB18
4H011DA13
(57)【要約】
【課題】 住空間滞在性の高い病原ウイルスなどの病原体の有効な除去手段を提供する。
【課題の解決手段】 次亜塩素酸水のpHを5~7.5とし、かつ、遊離塩素分子の濃度を有効塩素量に比して少なくする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH5~7.5であり、遊離塩素分子の濃度が、有効塩素量に比して少ないことを特徴とする、次亜塩素酸水。
【請求項2】
pH5~7.5であり、遊離塩素分子の濃度が10ppm以下であることを特徴とする、請求項1記載の次亜塩素酸水。
【請求項3】
pH5~7.5であり、シリングアルダジン試験紙に接触させたときに2秒以内に定量上限を示す呈色を示さないことを特徴とする、次亜塩素酸水。
【請求項4】
前記定量上限が10ppmであることを特徴とする、請求項3に記載の次亜塩素酸水。
【請求項5】
次亜塩素酸の濃度が50~500ppmであることを特徴とする、請求項1~4の何れか一項に記載の次亜塩素酸水。
【請求項6】
緩衝塩を含むことを特徴とする、請求項1~5の何れか一項に記載の次亜塩素酸水。
【請求項7】
緩衝塩の存在下、トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上の加水分解によって生じた次亜塩素酸を含むことを特徴とする、請求項1~6の何れか一項に記載の次亜塩素酸水。
【請求項8】
1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上と、2)緩衝塩と、を5分以上攪拌混合することで得た組成物を水性媒体で希釈して製造されることを特徴とする、請求項1~7の何れか一項に記載の次亜塩素酸水。
【請求項9】
含まれる次亜塩素酸が、電解型次亜塩素酸又は非電解型次亜塩素酸であることを特徴とする、請求項1~8の何れか一項に記載の次亜塩素酸水。
【請求項10】
遊離塩素分子の濃度が、次亜塩素酸の濃度の0.1倍以下であることを特徴とする、請求項1~9の何れか一項に記載の次亜塩素酸水。
【請求項11】
次亜塩素酸の効果と毒性の判別のための試験紙であって、有効塩素濃度を測定する試験片、pHを測定する試験片及び遊離塩素分子濃度を測定する試験片とを独立に備えた、試験紙。
【請求項12】
請求項1~10の何れか一項に記載の次亜塩素酸水に該当するか否かを判別するために用いられることを特徴とする、請求項11に記載の試験紙。
【請求項13】
前記有効塩素濃度を測定する試験片が、DPD法による有効塩素量測定のための試験片又はSMT法による有効塩素量測定のための試験片であり、遊離塩素分子量を測定する試験片がシリングアルダジン試験片である、請求項11又は12に記載の試験紙。
【請求項14】
における好適範囲が次亜塩素酸の濃度が50~500ppmであり、pHが5~7であり、遊離塩素分子が0~10ppmであることを表示した比較色票が添付されていること特徴とする、請求項11~13の何れか一項に記載の試験紙。
【請求項15】
判別すべき次亜塩素酸が、電解型次亜塩素酸又は非電解型次亜塩素酸であることを特徴とする請求項11~14の何れか一項に記載の試験紙。
【請求項16】
判別すべき次亜塩素酸が、ジクロロイソシアヌル酸塩又はトリクロロイソシアヌル酸を、緩衝塩の存在下、加水分解して得たものである、請求項11~15の何れか一項に記載の試験紙。
【請求項17】
請求項11~16何れか一項に記載の試験紙により、効果があり、安全性が高いと判別された次亜塩素酸水。
【請求項18】
請求項11~16の何れか一項に記載の試験紙により、pHが5~7であり、遊離塩素分子の濃度が0~10ppmであることをもって、効果があり安全性が高いと判別される、請求項17に記載の次亜塩素酸水。
【請求項19】
請求項11~16の何れか一項に記載の試験紙により、次亜塩素酸の濃度が50~500ppmであり、pH5~7.5であり、遊離塩素分子の濃度が10ppm以下であると判別される、次亜塩素酸水。
【請求項20】
遊離塩素分子の濃度がシリングアルダジン試薬との接触時間2秒以内の比色で決定されることを特徴とする、請求項18又は19に記載の次亜塩素酸水。
【請求項21】
シリングアルダジン試験紙に接触させたときに2秒以内に定量上限を示す呈色を示さないことを特徴とする、請求項20に記載の次亜塩素酸水。
【請求項22】
ウイルス除染のために用いられることを特徴とする、請求項1~10及び17~21の何れか一項に記載の次亜塩素酸水。
【請求項23】
前記ウイルスがエンベロープウイルスであることを特徴とする、請求項22に記載の次亜塩素酸水。
【請求項24】
前記エンベロープウイルスが、コロナウイルス科のウイルスであることを特徴とする、請求項22に記載の次亜塩素酸水。
【請求項25】
噴霧して用いられることを特徴とする、請求項1~10及び17~24の何れか一項に記載の次亜塩素酸水。
【請求項26】
1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上と、2)緩衝塩を含む、組成物。
【請求項27】
水性媒体によって希釈したとき、請求項1~10及び17~25の何れか一項に記載の次亜塩素酸水を調製できる、組成物。
【請求項28】
水性媒体によって希釈したとき、請求項1~10及び17~25の何れか一項に記載の次亜塩素酸水を調製できる、請求項26に記載の組成物。
【請求項29】
前記希釈が、組成物に対して100~10000質量倍の水性媒体による希釈であることを特徴とする、請求項27又は28に記載の組成物。
【請求項30】
1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上を10質量%以上と、2)緩衝塩を10質量%以上と、を含むことを特徴とする、請求項26~29の何れか一項に記載の組成物。
【請求項31】
1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上と、2)緩衝塩と、を5分以上攪拌混合することで製造される、組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス除染用の次亜塩素酸水及び組成物に関し、更に詳細には、保存安定性にすぐれるウイルス除染用の組成物に関する。本発明は、病原体除去用の組成物である次亜塩素酸の効果と毒性とを的確に判別する試験紙に関し、更に詳細には、該試験紙によって証明された有効且つ安全な次亜塩素酸組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスなどの病原体の除染は病原体による感染症の予後措置及び予防措置上重要な技術であり、これまで消毒用エタノールや、ホルマリン燻蒸、次亜塩素酸塩を主成分とする汎用殺菌剤などで行われてきている。しかしながら、室内全体を安全に殺菌する方法はこれまで知られておらず、わずかに、電解次亜塩素酸を噴霧する方法が知られているが、非電離型次亜塩素酸については、塩化ナトリウム水溶液の電気分解により生じるが、この様に生成した非電離型次亜塩素酸水は、一時的にしか存在せず、すぐに塩素と水に分解することも知られている。この為、塩素による毒性発現が問題となっていた。
【0003】
そのほかには、次亜塩素酸乃至はその塩の毒性があまり発現せず、殺菌作用にすぐれる非電解非電離型次亜塩素酸を使用時に発生させる、トリクロロイソシアヌル酸を利用した錠剤と、それを水に溶かすによって生じる液をドライミスト化し、広域空間の殺菌に用いる方法が開発されている(例えば、特許文献1、特許文献2を参照)。また、トリクロロイソシアヌル酸については、殺菌剤への応用は既に知られている(例えば、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6を参照)。さらに、ジクロロイソシアヌル酸を中心とする塩化イソシアヌル酸類に消臭・殺菌作用があることも知られている(特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10、特許文献11を参照)。
【0004】
新型コロナウイルスに代表される、コロナウイルス科のウイルスは、エアゾール感染を起こし、且つ、壁面などの表面上に長時間生存することがわかっており、この様な住空間滞在性の高い病原ウイルスの有効な除去手段が、新型コロナウイルス感染のアウトブレーク後、求められるようになってきた。特に、安全性を必要とする空間除染においては、この様な素材が強く望まれている。
【0005】
また、非電離型次亜塩素酸については、塩化ナトリウム水溶液の電気分解により生じることが知られているが、この様に生成した非電離型次亜塩素酸水は、一時的にしか存在せず、すぐに塩素と水に分解することも知られている。この為、塩素による毒性発現が問題となっていた。それであっても、NITEの発表では35ppmで、コロナ属のウイルスの抑制に有効とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特願2018-047511号公報
【特許文献2】特願2018-047512号公報
【特許文献3】特開2019-089781号公報
【特許文献4】特開2019-076821号公報
【特許文献5】特開2019-004413号公報
【特許文献6】特開2018-162232号公報
【特許文献7】特開2000-247806号公報
【特許文献8】特開2001-300545号公報
【特許文献9】特開平09-208107号公報
【特許文献10】特開平10-168425号公報
【特許文献11】特開2002-172155号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】赤井仁志ら「空気・衛生工学論文集」122巻、2007、1-6
【非特許文献2】Lin Deng et.al.Environ Sci Pollut Res Int. 2018 Aug;25(23):23227-23235
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような状況下為されたものであり、この様な住空間滞在性の高い病原ウイルスの有効で安全な除去手段を提供することを目的とする。また、本発明は、そのような有効で安全な除去手段を判別する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような状況に鑑みて住空間滞在性の高い病原ウイルスの有効な除去手段を求めて鋭意研究努力を重ねた結果、本発明者らは、トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選択される1種乃至は2種以上を、緩衝塩の存在下、水性担体に溶解せしめて発生させた非電離型次亜塩素酸が、ウイルスを、人の存在下、有効に除去できることを見出した。
【0010】
このような非電離型次亜塩素酸が、毒性を示さずに、有効な除菌効果を示すのは、除菌効果が非電離型次亜塩素酸そのものにあり、これが分解してできる塩素分子に依存しないためである。非電離型次亜塩素酸は、緩衝塩によって水素イオンが電離しない形に安定化されており、かかる次亜塩素酸における水素原子は酸としての性格よりも、酸素原子とともに水酸基に近い性質を示すことになる。この様な次亜塩素酸については、塩素分子の生成量が少ないと言うことを本発明者らは見出している。
加えて、病原体に対する除染効果も、塩素分子を有効成分とする、次亜塩素酸ナトリウムや電解次亜塩素酸水よりも高いことを本発明者らは見出しているし、生体に対する毒性と、病原体に対する毒性の差が大きいことも見出している。
【0011】
従って、次亜塩素酸類の使用に際しては、この様な非電離型次亜塩素酸が、塩素分子に対してどれだけ多く存在しているかが、安全に効果が高く使えるかの指標になるが、この点について言究した公表資料は存在しない。それ故、非電離型次亜塩素酸量と塩素分子量とを同時に判別する方法は存在しない。次亜塩素酸由来の塩素と、塩素分子に由来する塩素を測定する方法としては、DPD(N,N-ジエチルフェニレンジアミン)法やSBT法が知られている(非特許文献1を参照)。また、シリングアルダジンもこれらの塩素に呈色反応を示すことが知られている(非特許文献2を参照)。シリングアルダジンは、分子状の塩素と非電離状態の次亜塩素酸のような分子に結合した塩素の両方に反応し、且つ、両者との反応性に差があり、まず、分子状の塩素に対して発色し、次いで、結合型の塩素に反応し発色する。具体的には、1~2秒程度で分子状の塩素に対して発色し、次いで3秒以上で結合型の塩素に反応する。言い換えれば、接触後2秒以内の発色により、分子状の塩素濃度を知ることができる。
【0012】
このような状況に鑑みて住空間滞在性の高い病原ウイルスの有効な除去手段を求めて鋭意研究努力を重ねた結果、非電離型次亜塩素酸を主成分とし、塩素分子の含有量が少ない次亜塩素酸水を鑑別し用いることにより、この様な目的が達成されることを見出した。
【0013】
本発明は、上述の本発明者らにより初めて見出された知見に基づき完成されたものである。すなわち、上記課題を解決する本発明は、以下に示すとおりである。
【0014】
<1> pH5~7.5であり、遊離塩素分子の濃度が、有効塩素量に比して少ないことを特徴とする、次亜塩素酸水。
<2>pH5~7.5であり、遊離塩素分子の濃度が10ppm以下であることを特徴とする、<1>に記載の次亜塩素酸水。
<3> pH5~7.5であり、シリングアルダジン試験片に接触させたときに2秒以内に定量上限を示す呈色を示さないことを特徴とする、次亜塩素酸水。
<4> 前記定量上限が10ppmであることを特徴とする、<3>に記載の次亜塩素酸水。
<5> 次亜塩素酸の濃度が50~500ppmであることを特徴とする、<1>~<4>の何れか一項に記載の次亜塩素酸水。
<6> 緩衝塩を含むことを特徴とする、<1>~<5>の何れか一項に記載の次亜塩素酸水。
<7> 緩衝塩の存在下、トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上の加水分解によって生じた次亜塩素酸を含むことを特徴とする、<1>~<6>の何れか一項に記載の次亜塩素酸水。
<8> 1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上と、2)緩衝塩と、を5分以上攪拌混合することで得た組成物を水性媒体で希釈して製造されることを特徴とする、<1>~<7>の何れか一項に記載の次亜塩素酸水。
<9> 含まれる次亜塩素酸が、電解型次亜塩素酸又は非電解型次亜塩素酸であることを特徴とする、<1>~<8>の何れか一項に記載の次亜塩素酸水。
<10> 遊離塩素分子の濃度が、次亜塩素酸の濃度の0.1倍以下であることを特徴とする、<1>~<9>の何れか一項に記載の次亜塩素酸水。
<11> 次亜塩素酸の効果と毒性の判別のための試験紙であって、有効塩素濃度を測定する試験片、pHを測定する試験片及び遊離塩素分子濃度を測定する試験片とを独立に備えた、試験紙。
<12> <1>~<10>の何れか一項に記載の次亜塩素酸水に該当するか否かを判別するために用いられることを特徴とする、<11>に記載の試験紙。
<13> 前記有効塩素濃度を測定する試験片が、DPD法による有効塩素量測定のための試験片又はSMT法による有効塩素量測定のための試験片であり、遊離塩素分子量を測定する試験片がシリングアルダジン試験片である、<11>又は<12>に記載の試験紙。
<14> 試験紙における好適範囲が次亜塩素酸の濃度が50~500ppmであり、pHが5~7であり、遊離塩素分子が0~10ppmであることを表示した比較色票が添付されていること特徴とする、<10~<13>の何れか一項に記載の試験紙。
<15> 判別すべき次亜塩素酸が、電解型次亜塩素酸又は非電解型次亜塩素酸であることを特徴とする<10>~<14>の何れか一項に記載の試験紙。
<16> 判別すべき次亜塩素酸が、ジクロロイソシアヌル酸塩又はトリクロロイソシアヌル酸を、緩衝塩の存在下、加水分解して得たものである、<10>~<15>の何れか一項に記載の試験紙。
<17> <10>~<16>の何れか一項に記載の試験紙により、効果があり、安全性が高いと判別された次亜塩素酸水。
<18> <10>~<16>の何れか一項に記載の試験紙により、pHが5~7であり、遊離塩素分子の濃度が0~10ppmであることをもって、効果があり安全性が高いと判別される、<17>に記載の次亜塩素酸水。
<19> <10>~<16>の何れか一項に記載の試験紙により、次亜塩素酸の濃度が50~500ppmであり、pH5~7.5であり、遊離塩素分子の濃度が10ppm以下であると判別される、次亜塩素酸水。
<20> 遊離塩素分子の濃度がシリングアルダジン試薬との接触時間2秒以内の比色で決定されることを特徴とする、<18>又は<19>に記載の次亜塩素酸水。
<21> シリングアルダジン試験紙に接触させたときに2秒以内に定量上限を示す呈色を示さないことを特徴とする、<20>に記載の次亜塩素酸水。
<22> ウイルス除染のために用いられることを特徴とする、<1>~<10>及び<17>~<21>の何れか一項に記載の次亜塩素酸水。
<23> 前記ウイルスがエンベロープウイルスであることを特徴とする、<22>に記載の次亜塩素酸水。
<24> 前記エンベロープウイルスが、コロナウイルス科のウイルスであることを特徴とする、<23>に記載の次亜塩素酸水。
<25> 噴霧して用いられることを特徴とする、<1>~<10>及び<17>~<24>の何れか一項に記載の次亜塩素酸水。
<26> 1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上と、2)緩衝塩を含む、組成物。
<27> 水性媒体によって希釈したとき、<1>~<10>及び<17>~<25>の何れか一項に記載の次亜塩素酸水を調製できる、組成物。
<28> 水性媒体によって希釈したとき、<1>~<10>及び<17>~<25>の何れか一項に記載の次亜塩素酸水を調製できる、<25>に記載の組成物。
<29> 前記希釈が、組成物に対して100~10000質量倍の水性媒体による希釈であることを特徴とする、<27>又は<28>に記載の組成物。
<30> 1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上を10質量%以上と、2)緩衝塩を10質量%以上と、を含むことを特徴とする<26>~<29>の何れか一項に記載の組成物。
<31> 1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上と、2)緩衝塩と、を5分以上攪拌混合することで製造される、組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明の次亜塩素水及び組成物によれば、安全で、住空間滞在性の高い病原ウイルスなどの病原体の有効な除去手段を提供することができる。また、本発明の試験紙によれば、そのような有効で安全な除去手段を判別する手段を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1の試験紙を表す図である。1はSBT試験片、2はpH試験片、3はシリングアルダジン試験片を表す。
図2】試験紙判別のための色票を示す図である。適正な数値を楕円で囲んである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<次亜塩素酸水>
本発明の次亜塩素酸水はpH5~7.5である。より好ましくはpH6以上、さらに好ましくはpH6.3以上である。また、本発明の次亜塩素酸は、好ましくはpH7.3以下であり、より好ましくはpH7以下である。pHの値は通常市販されているpH測定計またはpH試験紙により測定することができる。
【0018】
本発明の次亜塩素酸の遊離塩素分子の濃度は、有効塩素濃度に比し低く、具体的には20ppm以下であり、好ましくは10ppm以下であり、より好ましくは9ppm以下、さらに好ましくは8ppm以下、さらに好ましくは7ppm以下、さらに好ましくは6ppm以下、さらに好ましくは5ppm以下、さらに好ましくは4ppm以下、さらに好ましくは3ppm以下、さらに好ましくは2ppm以下、さらに好ましくは1ppm以下である。本発明の次亜塩素酸の遊離塩素分子の濃度は0ppmであってもよい。これは従来次亜塩素酸の有効成分が遊離の塩素分子であったところ、本願発明の次亜塩素酸では、非電離型の次亜塩素酸そのものであるためである。
【0019】
遊離の塩素分子の濃度は、シリングアルダジン試薬により測定することができる。シリングアルダジンは、分子状の塩素と非電離状態の次亜塩素酸のような分子に結合した塩素の両方に反応し、且つ、両者との反応性に差があり、まず、分子状の塩素に対して発色し、次いで、結合型の塩素に反応し発色する。具体的には、1~2秒程度で分子状の塩素に対して発色し、次いで3秒以上で結合型の塩素に反応する。言い換えれば、接触後2秒以内の発色により、次亜塩素酸水における分子状の塩素濃度を知ることができる。
【0020】
また、本発明の次亜塩素酸水は、シリングアルダジン試験紙に接触させたときに2秒以内に定量上限を示す呈色を示さない実施の形態としてもよい。上述のとおり、シリングアルダジン試験紙によれば、接触後2秒以内の発色により、分子状の塩素濃度を知ることができる。そして、市販のシリングアルダジン試験紙(日産化学工業株式会社製、「残留塩素試験紙 アクアチェック3」)の呈色による定量限界は10ppmである。したがって、次亜塩素酸水を当該シリングアルダジン試験紙に接触させたときに2秒以内に定量上限を示す呈色を示さない場合、その次亜塩素酸水の遊離塩素濃度は、10ppm以下であるといえる。
【0021】
本発明の好ましい実施形態では、次亜塩素酸の濃度は、好ましくは10ppm以上、より好ましくは20ppm以上、さらに好ましくは50ppm以上、さらに好ましくは100ppm以上、さらに好ましくは150ppm以上である。
また、本発明の好ましい実施形態では、次亜塩素酸の濃度は、好ましくは500ppm以下、より好ましくは200ppm以下、さらに好ましくは300ppm以下、さらに好ましくは500ppm以下である。
【0022】
遊離塩素分子の濃度は、次亜塩素酸の濃度に対して、好ましくは0.1倍以下であり、より好ましくは0.05倍以下であり、より好ましくは0.02倍以下である。
【0023】
次亜塩素酸水に含まれる次亜塩素酸は、電離型次亜塩素酸と非電離型次亜塩素酸の何れでも良い。好ましくは非電離型次亜塩素酸を含む実施の形態とする。より好ましい実施の形態では、非電離型次亜塩素酸の濃度が、上述した次亜塩素酸の好ましい濃度範囲にある。
【0024】
本発明の好ましい実施の形態では、本発明の次亜塩素酸水は緩衝塩を含む。緩衝塩としては、ジクロロイソシアヌル酸、トリクロロイソシアヌル酸が分解して出来るイソシアヌル酸や、炭酸水素ナトリウムや炭酸水素カリウムのような炭酸水素塩、クエン酸、クエン酸ナトリウムのようなクエン酸塩、リン酸水素2ナトリウム、リン酸2水素1ナトリウムのようなリン酸塩、ホウ酸、乳酸、乳酸ナトリウムのような乳酸塩などが好適に例示できる。硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、塩化ナトリウムなどの強酸強塩基の塩も系を安定させるので緩衝塩に分類される。
【0025】
本発明の次亜塩素酸水は、1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上と、2)緩衝塩と、を含む組成物を水性媒体で希釈して製造することができる。
【0026】
上記1)と2)の成分を好ましくは5分以上、より好ましくは6分以上、さらに好ましくは7分以上、さらに好ましくは8分以上、さらに好ましくは9分以上、攪拌混合して得た組成物を水性媒体で希釈して製造された次亜塩素酸水が、好ましい実施の形態として挙げられる。水性媒体としては、水又は水溶液を例示することができ、水溶液としては酸性水溶液を好適に例示することができる。上記攪拌混合は、公知の何れの手段で実施してもよいが、ヘンシェルミキサーによる攪拌混合を好適に例示することができる。
その他、上記組成物の詳細については後述する。
【0027】
本発明の次亜塩素酸水は、ウイルス除染のために用いられることが好ましい。特にエンベロープウイルス、より具体的には、コロナウイルス科のウイルスの除染のために用いられることが好ましい。
【0028】
本発明の次亜塩素酸水は、噴霧して用いる形態とすることが好ましい。噴霧手段は特に限定されない。ポンプスプレーによる噴霧であってもよいし、超音波噴霧器によるドライミスト状での噴霧であってもよい。噴霧形態にて提供される次亜塩素酸水によれば、空間消毒が可能となる。
【0029】
<組成物>
本発明は次亜塩素酸水を調製することができる組成物にも関する。
本発明の一つの実施形態は、1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上と、2)緩衝塩を含む、組成物である。
【0030】
また、本発明の一つの実施形態では、水性媒体によって希釈したときに、上述した本発明の次亜塩素酸水を調製できる組成物である。具体的には、本発明は、1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上と、2)緩衝塩を含む組成物であって、3)水性媒体で希釈したときのpHが5~7.5であり、4)遊離の塩素濃度が10ppm以下である、組成物にも関する。
【0031】
上記水性媒体としては、水又は水溶液を例示することができ、水溶液としては酸性水溶液を好適に例示することができる。また、水性媒体による希釈率は、好ましくは100質量倍以上、より好ましくは200質量倍以上、さらに好ましくは500質量倍以上とすることができる。また、水性媒体による希釈率は、好ましくは10000倍以下、より好ましくは8000倍以下、さらに好ましくは6000質量倍以下、さらに好ましくは4000質量倍以下、さらに好ましくは2000質量倍以下、さらに好ましくは1000質量倍以下とすることができる。
【0032】
一つの実施形態として、1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上と、2)緩衝塩を含む組成物であって、3)500質量倍の水を加えたときのpHが6~7.5であり、4)遊離の塩素濃度が10ppm以下である、ウイルス除染用の組成物が挙げられる。
【0033】
本発明の主旨は、前述のごとく、安定で、使用しやすく、安全性の高い抗ウイルス所専用の組成物を提供することにある。この実現方法として、トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩の1種乃至は2種以上を、緩衝塩とともに製剤化し、必要に応じて、用時に水で溶解し、非電離型次亜塩素酸を発生せしめることが好ましい。
【0034】
このように発生せしめた次亜塩素酸は非電離型の水溶液として、ウイルス除染に適用される。このような水溶液の持つべき要件は、以下の(i)及び(ii)の2点である。
【0035】
(i)pH5~7.5である。
好ましくはpH6以上、さらに好ましくはpH6.3以上である。また、好ましくはpH7.3以下であり、より好ましくはpH7以下である。
【0036】
(ii)遊離の塩素分子の濃度が20ppm以下の域であれば、10ppm以下である。
遊離の塩素分子の濃度は、好ましくは9ppm以下、より好ましくは8ppm以下、さらに好ましくは7ppm以下、さらに好ましくは6ppm以下、さらに好ましくは5ppm以下、さらに好ましくは4ppm以下、さらに好ましくは3ppm以下、さらに好ましくは2ppm以下、さらに好ましくは1ppm以下である。また、遊離塩素分子の濃度は0ppmであってもよい。
また、有効塩素濃度との関係においては、有効塩素濃度に対して10%以下が好ましく、5%以下が更に好ましい。
後述の本発明の製造法によれば、遊離の塩素は0.1乃至は0.5ppm程度に抑えることができる。
【0037】
さらには、以下の(iii)の要件を満たすことが好ましい。
(iii)有効塩素量が10ppm以上である。
有効塩素量は、好ましくは20ppm以上、さらに好ましくは50ppm以上、さらに好ましくは100ppm以上、さらに好ましくは150ppm以上である。また、有効塩素量は、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは500ppm以下、さらに好ましくは200ppm以下、さらに好ましくは300ppm以下、さらに好ましくは500ppm以下である。
【0038】
このような数値範囲に本発明の組成物を収めることにより、水素イオンと、次亜塩素酸イオンに電離しない、非電離型次亜塩素酸を形成せしめ、ウイルス除去効果と、安全性を高めることが出来る。このような効果をもたらす理由は、ウイルスに対して、塩素分子が作用するのではなく、次亜塩素酸が直接作用するためと考えられる。
【0039】
このような組成物は、水溶液の形態も取ることができるし、粉末組成物或いは錠剤のような固形製剤組成物とし、用時に水性担体に溶解させて使用することもできる。例えば、固形製剤を仮定した場合であって、1Lの水性担体に溶解させて使用する使用形態を考えれば、200ppm程度の次亜塩素酸を生成せしめるには、200~300mgのトリクロロイソシアヌル酸、乃至は、300~500mgのジクロロイソシアヌル酸ナトリウムが必要となる。
【0040】
組成物におけるジクロロイソシアヌル酸、トリクロロイソシアヌル酸及びこれらの塩の含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上である。
また、組成物におけるジクロロイソシアヌル酸、トリクロロイソシアヌル酸及びこれらの塩の含有量は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは65質量%以下である。
上記含有量の数値は、好ましくは組成物に含まれる水以外の成分の総量に対する含有量である。
【0041】
ジクロロイソシアヌル酸、トリクロロイソシアヌル酸及びこれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上を用いて、この様な非電離型次亜塩素酸を生成するためには、これらに対して0.1~5当量の緩衝塩を用いることが好ましい。緩衝塩としては、分解して出来るイソシアヌル酸、炭酸水素ナトリウムや炭酸水素カリウムのような炭酸水素塩、クエン酸、クエン酸ナトリウムのようなクエン酸塩、リン酸水素2ナトリウム、リン酸2水素1ナトリウムのようなリン酸塩、ホウ酸、乳酸、乳酸ナトリウムのような乳酸塩などが好適に例示できる。硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、塩化ナトリウムなどの強酸強塩基の塩も系を安定させるので緩衝塩に分類される。かかる成分は、常法に従い処理し、粉末、顆粒、錠剤に加工される。本発明の固形組成物としては、これらのいずれもが利用できる。
【0042】
組成物における緩衝塩の含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上である。
また、組成物における緩衝塩の含有量は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下である。
上記含有量の数値は、好ましくは組成物に含まれる水以外の成分の総量に対する含有量である。
【0043】
本発明の抗ウイルス用の組成物では、上記成分以外に、崩壊性の調整や、造粒性の向上、付着性の抑制などの目的で、通常製剤化に使用される任意成分を含有することが出来る。このような成分としては、例えば、ポリエチレングリコールのような多価アルコール、ラウロマクロゴールのような界面活性剤、ヒプロメロースのようなセルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウムのような滑択剤などが好適に例示できる。
【0044】
これらの成分は、常法にしたがって処理することにより、顆粒、錠剤などの固形製剤、希釈して用いる濃縮タイプの液剤などに加工することができる。
本発明の好ましい実施の形態では、1)ジクロロイソシアヌル酸、トリクロロイソシアヌル酸及びこれらの塩と、2)緩衝塩を含む処方成分を好ましくは5分以上、より好ましくは6分以上、さらに好ましくは7分以上、さらに好ましくは8分以上、さらに好ましくは9分以上、攪拌混合することで組成物を調製することができる。好ましくは、当該攪拌混合の工程においては、水を添加しない。また、当該攪拌混合は、公知の何れの手段で実施してもよいが、ヘンシェルミキサーによる攪拌混合を好適に例示することができる。
上記の時間範囲にて攪拌混合を行うことによって、組成物を水性媒体に溶解したときに生じる遊離の塩素分子の濃度を低減することができる。
【0045】
このようにして製剤化された本発明の組成物を、水性媒体で溶解或いは希釈することにより発生する非電離型次亜塩素酸は、次亜塩素酸塩と異なり、滅菌性は維持するものの、生体に対する毒性は大きく軽減し、錠剤そのもののLD50値はマウスに対して1g/匹(推定100g/Kg)を越える。次亜塩素酸ソーダのような電解型では1g/Kgであること(http://www.jsia.gr.jp/data/naclo.pdf)に比べて、格段に低いことがわかる。また、液性は中性(pH6~7)であるため、アルカリによる腐食性も存しない。
【0046】
かかる技術について、以下に説明を加える。トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸、それらの塩は、定められた水分量に対し、最終の発生する非電離型次亜塩素酸の濃度が100~500ppm、より好ましくは、150~300ppmに設定することが好ましい。このような形態にするためには、水1Lに溶かす想定であれば、50~500mgが好ましく、100~300mgがより好ましい。
【0047】
前記、トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸を水に溶かしたときに、電離型ではなく非電離型の次亜塩素酸にとどめる作用は、前記緩衝塩による。
【0048】
<試験紙>
本発明は、次亜塩素酸の効果と毒性の判別のための試験紙であって、有効塩素濃度を測定する試験片、pHを測定する試験片及び遊離塩素分子濃度を測定する試験片とを独立に備えた、試験紙にも関する。
【0049】
ここで「試験片」とは少なくとも呈色部を含む試験紙及びその一部を意味する。有効塩素濃度を測定する試験紙の呈色部と、pHを測定する試験紙の呈色部と、遊離塩素分子濃度を測定する試験紙の呈色部が、同一の試験紙上に設けられた試験紙(図1参照)も、本発明の範囲に含まれる。また、上記3つの試験紙を互いに独立して備える試験紙のセットも本発明の範囲に含まれる。
【0050】
本発明の主旨は、前述のごとく、安定で、使用しやすく、安全性の高い抗ウイルス除染用の組成物を提供することにある。そのため、安全性が高く、効果の高い次亜塩素酸を確実に判別し、除染に用いることができることを確認し、除染に用いることを目的とする。
【0051】
この実現方法として、電解次亜塩素酸水、トリクロロイソシアヌル酸を緩衝塩、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩の1種乃至は2種以上を、緩衝塩とともに製剤化し、水溶液とした非電解型次亜塩素酸水について、安全性と、除染効果を判別することが好ましい。このよう次亜塩素酸水は、ウイルス除染や病原体除染に適用される。
【0052】
このような安全性が高く、効果が高い次亜塩素酸水の持つべき要件は以下の(i)~(iii)の3点である。
【0053】
(i)pH5~7.5である。
好ましくはpH6以上、さらに好ましくはpH6.3以上である。また、好ましくはpH7.3以下であり、より好ましくはpH7以下である。
【0054】
(ii)遊離の塩素分子の濃度が20ppm以下の域であれば、10ppm以下である。
遊離の塩素分子の濃度は、好ましくは9ppm以下、より好ましくは8ppm以下、さらに好ましくは7ppm以下、さらに好ましくは6ppm以下、さらに好ましくは5ppm以下、さらに好ましくは4ppm以下、さらに好ましくは3ppm以下、さらに好ましくは2ppm以下、さらに好ましくは1ppm以下である。また、遊離塩素分子の濃度は0ppmであってもよい。
【0055】
(iii)有効塩素量が10ppm以上である。
有効塩素量は、好ましくは20ppm以上、さらに好ましくは50ppm以上、さらに好ましくは100ppm以上、さらに好ましくは150ppm以上である。また、有効塩素量は、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは500ppm以下、さらに好ましくは200ppm以下、さらに好ましくは300ppm以下、さらに好ましくは500ppm以下である。
【0056】
上述の(i)~(iii)の3点を同時に確認、判別することが好ましい。このためには、これらの数値域で、的確な呈色反応を示す物質をコートした試験紙を合わせて一枚の試験紙に加工することが好ましい。
【0057】
(i)pHを測定する手段については、通常市販されているpH試験紙を用いることもできるし、チモールブルーなどの試薬をアルコールなどに溶解し、紙上に噴霧コートし調製した試験紙を用いることもできる。
【0058】
(ii)遊離の塩素濃度を測定する手段としては、シリングアルダジンを呈色薬に用いることが好ましく、シリングアルダジンを呈色試薬としてコートした試験紙を用いることもできる。試験紙は、シリングアルダジンを溶剤に溶解し、紙上に噴霧し試験紙を調製することもできる。
【0059】
シリングアルダジンは低濃度の有効塩素濃度を測定する呈色であるが、次亜塩素酸由来の塩素に対する呈色反応の速度と、遊離の塩素分子に対する呈色反応の速度が異なり、接触後3秒以内に比色すると遊離の塩素分子の濃度が測定できる。市販の試験紙(日産化学工業株式会社製、「残留塩素試験紙 アクアチェック3」)においては、上限は10ppmである。これを越えると黒み帯びた色になり、濃度の上昇に応じた変化を示さない。
【0060】
(iii)有効塩素量を測定する手段については、DPDあるいはSBTといった試薬が知られている。これらを試験紙に加工した製品も販売されており、これを用いることもできるし、これらの試薬をアルコールに溶解し、紙媒体にコートすることもできる。
【0061】
これらの試験紙を、市販品であれば、呈色部を2~6mm×2~6mmの小片に切り出し、2~10mm×30~100mmの紙小片に順次両面テープなどで貼付することにより鑑別試験紙が製造できる。試験紙については、呈色程度とこれらの数値を照らし合わせる基準色票を添付することが好ましい(図2)。
【0062】
本発明の試験紙による判別の対象となる次亜塩素酸水は、塩化ナトリウムを加水分解して得たものでもよいし、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムを炭酸水素ナトリウムまたは炭酸ナトリウムで加水分解したものでもよい。特に好ましくは、遊離の塩素分子、言い換えれば、分子状の塩素の存在が少ない、ジクロロイソシアヌル酸及び/またはそのアルカリ金属塩乃至はトリクロロイソシアヌル酸を炭酸塩、有機酸塩、ホウ酸塩などの緩衝塩の存在下加水分解して発生させたものが好ましい。
【0063】
上述した(i)~(iii)に示したような数値範囲に次亜塩素酸水を収めることにより、水素イオンと、次亜塩素酸イオンに電離しない、非電離型次亜塩素酸を形成せしめ、ウイルス除去効果と、安全性を高めることが出来る。このような効果をもたらす理由は、ウイルスに対して、塩素分子が作用するのではなく、次亜塩素酸が直接作用するためと考えられる。
【0064】
本発明は、上記試験紙によって、効果があり、安全性が高いと判別された次亜塩素酸水にも関する。具体的には、本発明は、上記試験紙によって、上記(i)及び(ii)の条件、より好ましくは上記(i)~(iii)の全てに当てはまることが判別された次亜塩素酸水にも関する。
【0065】
このような次亜塩素酸水をジクロロイソシアヌル酸ナトリウム及び/又はトリクロロイソシアヌル酸を加水分解して次亜塩素酸を調製する場合、200ppm程度の次亜塩素酸を生成せしめるには、200~300mgのトリクロロイソシアヌル酸、乃至は、300~500mgのジクロロイソシアヌル酸ナトリウムが必要となる。
【0066】
ジクロロイソシアヌル酸、トリクロロイソシアヌル酸及びこれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上を用いて、この様な非電離型次亜塩素酸を生成するためには、これらに対して0.1~5当量の緩衝塩を用いることが好ましい。緩衝塩としては、分解して出来るイソシアヌル酸、炭酸水素ナトリウムや炭酸水素カリウムのような炭酸水素塩、クエン酸、クエン酸ナトリウムのようなクエン酸塩、リン酸水素2ナトリウム、リン酸2水素1ナトリウムのようなリン酸塩、ホウ酸、乳酸、乳酸ナトリウムのような乳酸塩などが好適に例示できる。硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、塩化ナトリウムなどの強酸強塩基の塩も系を安定させるので緩衝塩に分類される。かかる成分は、常法に従い処理し、粉末、顆粒、錠剤に加工される。本発明の固形組成物としては、これらのいずれもが利用できる。
【0067】
本発明の試験紙により効果があり、安全性が高いと判別された次亜塩素酸水の一つの実施形態は、上記試験紙を用いて呈色反応をさせた場合、標準色票との比較において、(i)pHが6~7、更に好ましくは、6.55~7であること、(ii)遊離の塩素が20ppm以下、域であれば0~20ppmであること、より好ましくは10ppm以下、域であれば0~10ppmであること、更に好ましくは8ppm以下、域であれば0~8ppmであること、(iii)有効塩素量が10~1000ppm、より好ましくは50~500ppmであること、の3点を充足する。
【0068】
以下、実施例を示して、本発明について更に詳細に説明を加える。
【実施例0069】
<試験紙の作成>
6mm×50mmの紙片に、市販のSBT法の有効塩素試験片6mm×6mm、市販の万能試験片6mm×6mm、シリングアルダジン1mgを1mlのジメチルホルムアミドに溶解し、これを10mlのメタノールで希釈した液をA4の画用紙に均一に噴霧し、溶剤を揮散させ、試験紙を作成し、これから6mm×6mmの紙片を切り出し、これらを順次両面テープで貼付し、本発明の試験紙を作成した。
【実施例0070】
<トリクロロイソシアヌル酸錠の作成>
以下に示す処方に従って、即ち、処方成分をヘンシェルミキサーで10分間、混合した後、1gを秤量し、打錠機で打錠して錠剤を得た。この錠剤を水道水5lで溶かしたところ、直ちに溶解し、溶液について、実施例1の試験紙で判別を行ったところ、pHは6.5で次亜塩素酸の濃度は100ppmで、溶解直後の遊離塩素分子濃度は0.2ppmあった。このものは異臭がほとんどなかった。
【0071】
【表1】
【実施例0072】
実施例2の錠剤調整において、混合時間を3分とし、それ以外は実施例2と同様に操作し、溶液について実施例1の試験紙で測定したところ、pHは7.5で有効塩素濃度は100ppm、遊離の塩素分子は10ppmを越えてスケールオーバーしていた。希釈してスケール内に比色をおさめ測定したところ、20ppmであり、このものは刺激臭が強かった。
【実施例0073】
実施例2と同様に、表2の成分を処理し、粉末製剤の組成物を得た。このもの1.3gを秤量し、これに水2Lを加え、実使用液を調整した。この液に実施例1の試験紙を接触させて、標準と比色したところ。pHは6であり、有効塩素濃度は200ppmであり、遊離の塩素分子の濃度は10ppmであった。このものは多少の異臭はするものの、刺激を感じるには至らなかった。
【0074】
【表2】
【実施例0075】
実施例2と同様に表3にしたがって、粉末を作成し、このもの1.17gを秤量し、0.13mgのクエン酸を溶かした2Lの水に溶かした。このものに実施例1の試験紙を接触させ、標準色票と比色したところ、pH6.0であり、有効塩素濃度は200ppmであり、遊離の塩素分子濃度は5ppmであった。異臭は極めて軽度であった。刺激はほとんど感じなかった。これより、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムを用いる場合には、酸性の水性媒体に溶解せしめて実用液を製造することが好ましいことがわかる。
【0076】
【表3】
【実施例0077】
実施例2の100ppmの実使用液について、豚コロナウイルスに対する作用を調べた。ベロ細胞に豚コロナウイルスを感染させ、予め計測した実使用液のTCIDの検出限界値で10分処理した場合としなかった場合でのウイルス減少率を算出した。接種後 10 分で<10 0.5 TCID50 / mL(検出限界未満)であり、ウイルスの減少率は99.999%を上回ることがわかった。これより、本発明の組成物はコロナウイルスの除染に用いることができることがわかる。また、遊離の塩素分子濃度が低いことから活性本体は次亜塩素酸そのものであることもわかる。NITEによれば次亜塩素酸のコロナ属のウイルスに対する有効濃度は有効塩素量として35ppmであり、この製剤はその数値を遙かにしのぐものである。このように非電離型次亜塩素酸と、通常の電離可能な次亜塩素酸において差異があることは、これを的確に鑑別できる技術が必要であり、本発明の試験紙はその必要性を充足するものであることがわかる。故に、本発明の試験紙で効果と安全性が確認された次亜塩素酸水はいままで全く概念として存在せず、その効果と安全性は著しく、従来知られている次亜塩素酸水とは全く異なるものである。
【0078】
<実施例のまとめ>
実施例2~5についてまとめると、表4のようになる。すなわち、次亜塩素酸の発生源は、トリクロロイソシアヌル酸(TCCA)でも、ジクロロイソシアヌル酸あるいはその塩(DCCN)でも良く、同じ処方であっても製法により遊離の塩素分子の質量は変わり、それにより刺激の強さも変わる。遊離の塩素量は20ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましい。これは、本発明の試験紙のシリングアルダジンの呈色反応により知ることが出来る。
【0079】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明はコロナウイルスなどのウイルスや病原体の除染に適用できる。
【符号の説明】
【0081】
1 SBT試験片
2 pH試験片
3 シリングアルダジン試験片


図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2021-02-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体によって希釈したとき、pH5~7.5であり、遊離塩素分子の濃度が、有効塩素濃度に比して少ない次亜塩素酸水を調製できる組成物であって、
1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上と、2)緩衝塩を含む、組成物(但し、前記水性媒体と前記組成物の何れにもアルカリ金属又はアルカリ土類金属の亜塩素酸塩が含まれない。)。
【請求項2】
前記遊離塩素分子の濃度が20ppm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記遊離塩素分子の濃度が10ppm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記次亜塩素酸水が、pH5~7.5であり、次亜塩素酸の濃度が50~500ppmであり、遊離塩素分子の濃度が10ppm以下であることを特徴とする、請求項1~3の何れか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記遊離塩素分子の濃度がシリングアルダジン試薬との接触時間2秒以内の比色で決定されるものであることを特徴とする、請求項1~4の何れか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記有効塩素濃度が、DPD法による試験片またはSMT法による試験片で定量されるものであることを特徴とする、請求項1~5の何れか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記次亜塩素酸水における遊離塩素分子の濃度が、次亜塩素酸の濃度の0.1倍以下であることを特徴とする、請求項1~の何れか一項に記載の組成物
【請求項8】
水性媒体によって希釈して次亜塩素酸水を調製するための組成物であって、
1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上と、2)緩衝塩を含む、組成物(但し、前記水性媒体と前記組成物の何れにもアルカリ金属又はアルカリ土類金属の亜塩素酸塩が含まれない。)。
【請求項9】
前記次亜塩素酸水が、コロナウイルス科に属するコロナウイルス除染のために用いられることを特徴とする、請求項1~8の何れか一項に記載の組成物。
【手続補正書】
【提出日】2021-03-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体によって希釈したとき、pH5~7.5であり、次亜塩素酸の濃度が50~500ppmであり、遊離塩素分子の濃度が有効塩素濃度に比して少な前記遊離塩素分子の濃度が20ppm以下であり、有効成分が非電離型次亜塩素酸である、次亜塩素酸水を調製できる組成物であって、
1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上と、2)緩衝塩を含む、組成物(但し、前記水性媒体と前記組成物の何れにもアルカリ金属又はアルカリ土類金属の亜塩素酸塩が含まれない。)。
【請求項2】
前記遊離塩素分子の濃度が10ppm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記遊離塩素分子の濃度は、前記次亜塩素酸の濃度に対して、0.1倍以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記遊離塩素分子の濃度がシリングアルダジン試薬との接触時間2秒以内の比色で決定されるものであることを特徴とする、請求項1~3の何れか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記有効塩素濃度が、DPD法による試験法またはSMT法による試験片で定量されるものであることを特徴とする、請求項1~4の何れか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記次亜塩素酸水が、コロナウイルス科に属するコロナウイルス除染のために用いられることを特徴とする、請求項1~5の何れか一項に記載の組成物。