(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022079156
(43)【公開日】2022-05-26
(54)【発明の名称】運転シミュレーション装置及び運転シミュレーションプログラム
(51)【国際特許分類】
G09B 9/05 20060101AFI20220519BHJP
【FI】
G09B9/05 E
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020190160
(22)【出願日】2020-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】506430325
【氏名又は名称】株式会社フォーラムエイト
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】特許業務法人ナガトアンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ペンクレアシュ ヨアン
(72)【発明者】
【氏名】藤村 航
(57)【要約】
【課題】仮想車両の挙動計算に掛かる計算コストを低減しつつ、仮想車両の挙動計算の高速化を図ることができる運転シミュレーション装置及び運転シミュレーションプログラムを提供する。
【解決手段】記憶部は、仮想車両の旋回動作に関連する、任意の状態変数に応じて設定される、複数の旋回半径又は複数の曲率を含む旋回性能マップを記憶するように構成され、演算部は、情報取得部において取得された状態変数及び旋回性能マップに基づいて、仮想車両の旋回動作時における挙動を計算するように構成される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
仮想車両の模擬走行を実行するための運転シミュレーション装置であって、
情報取得部と、記憶部と、演算部とを具備し、
前記情報取得部は、模擬走行中における前記仮想車両の旋回動作に関連する状態変数を取得するように構成され、
前記記憶部は、前記仮想車両の旋回動作に関連する、任意の状態変数に応じて設定される、複数の旋回半径又は複数の曲率を含む旋回性能マップを記憶するように構成され、
前記演算部は、前記情報取得部において取得された状態変数及び前記旋回性能マップに基づいて、前記仮想車両の旋回動作時における挙動を計算するように構成される、
運転シミュレーション装置。
【請求項2】
前記演算部は、
前記情報取得部において取得された状態変数及び前記旋回性能マップを照合して、前記旋回性能マップの中から前記仮想車両の旋回動作時における旋回半径又は曲率を選択し、
前記選択された旋回半径又は曲率に基づいて、前記仮想車両の旋回動作時における挙動を計算するように構成される、
請求項1に記載の運転シミュレーション装置。
【請求項3】
前記旋回性能マップは、前記任意の状態変数に基づいて予め計算された旋回半径又は曲率を、前記任意の状態変数に対応付けて配列した多次元行列である、請求項1又は請求項2に記載の運転シミュレーション装置。
【請求項4】
前記旋回性能マップは、前記多次元行列に基づいて、前記仮想車両の旋回動作を含む前記仮想車両の模擬走行、及び車両の旋回動作を含む実際の車両の実験走行のうちの少なくとも一つを実行し、前記模擬走行及び前記実験走行のうちの少なくとも一つを実行することにより取得されたデータを用いて前記多次元行列のデータ補間を行い、前記データ補間された多次元行列に基づいて前記旋回半径又は曲率を再度計算した後に、前記再度計算された記旋回半径又は曲率を、前記車両の旋回動作に関連する状態変数に対応付けて配列した補正多次元行列である、請求項3に記載の運転シミュレーション装置。
【請求項5】
前記状態変数は、少なくとも、車両の走行速度及び操舵角を含む、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の運転シミュレーション装置。
【請求項6】
コンピュータを、情報取得部と、記憶部と、演算部とを具備し、仮想車両の模擬走行を実行するための運転シミュレーション装置として機能させる運転シミュレーションプログラムであって、
前記情報取得部は、模擬走行中における前記仮想車両の旋回動作に関連する状態変数を取得するように構成され、
前記記憶部は、前記仮想車両の旋回動作に関連する、任意の状態変数に応じて設定される、複数の旋回半径又は複数の曲率を含む旋回性能マップを記憶するように構成され、
前記演算部は、前記情報取得部において取得された状態変数及び前記旋回性能マップに基づいて、前記仮想車両の旋回動作時における挙動を計算するように構成される、
運転シミュレーションプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転シミュレーション装置及び運転シミュレーションプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、下記特許文献1に示すように、仮想車両の模擬走行を実行するための運転シミュレーション装置が一般に知られている。当該運転シミュレーション装置は、ユーザによる所定の入力操作(例えば、ステアリングハンドルの操作、又はアクセルペダル若しくはブレーキペダルの押し込み)に起因して、仮想車両の挙動(例えば、仮想車両の旋回半径や仮想車両の加速度)を計算し、さらに、計算された挙動に基づく仮想車両の映像を生成して、運転シミュレーション装置のユーザに向けて当該映像を表示している。また、近年、上記技術の応用として、仮想車両の自動運転を運転シミュレーション装置上で模擬的に実行することも行われており、例えば、仮想空間において設定された目的地に向かって、仮想車両の自動運転を実行することが行われている。
【0003】
一方で、当該運転シミュレーション装置における仮想車両の挙動計算は、仮想車両の挙動に関連する複数のパラメータ(状態変数)を考慮しなければならず、複雑化する傾向にある。このため、当該運転シミュレーション装置における仮想車両の挙動計算には、多くの計算コストが掛かるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような事情を考慮してなされたものであり、その目的とするところは、仮想車両の挙動計算に掛かる計算コストを低減しつつ、仮想車両の挙動計算の高速化を図ることができる運転シミュレーション装置及び運転シミュレーションプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は前述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様として実現することができる。
【0007】
本態様に係る運転シミュレーション装置は、仮想車両の模擬走行を実行するための運転シミュレーション装置であって、情報取得部と、記憶部と、演算部とを具備し、前記情報取得部は、模擬走行中における前記仮想車両の旋回動作に関連する状態変数を取得するように構成され、前記記憶部は、前記仮想車両の旋回動作に関連する、任意の状態変数に応じて設定される、複数の旋回半径又は複数の曲率を含む旋回性能マップを記憶するように構成され、前記演算部は、前記情報取得部において取得された状態変数及び前記旋回性能マップに基づいて、前記仮想車両の旋回動作時における挙動を計算するように構成される。
【0008】
本態様に係る運転シミュレーションプログラムは、コンピュータを、情報取得部と、記憶部と、演算部とを具備し、仮想車両の模擬走行を実行するための運転シミュレーション装置として機能させる運転シミュレーションプログラムであって、前記情報取得部は、模擬走行中における前記仮想車両の旋回動作に関連する状態変数を取得するように構成され、前記記憶部は、前記仮想車両の旋回動作に関連する、任意の状態変数に応じて設定される、複数の旋回半径又は複数の曲率を含む旋回性能マップを記憶するように構成され、前記演算部は、前記情報取得部において取得された状態変数及び前記旋回性能マップに基づいて、前記仮想車両の旋回動作時における挙動を計算するように構成される。
【発明の効果】
【0009】
本態様に係る運転シミュレーション装置及び運転シミュレーションプログラムは、仮想車両の挙動計算に掛かる計算コストを低減しつつ、仮想車両の挙動計算の高速化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本発明の実施形態又は従来の技術における技術的解決手段をより明確に説明するために、以下に実施形態において使用される図面を簡単に説明する。ここで、以下の説明における図面は、単に本発明の一実施形態を示すものに過ぎず、当業者であれば、この図面に基づいて創造的な労働を必要としないも、他の図面を想至することが可能であることに留意されたい。
【0011】
【
図1】本実施形態に係る運転シミュレーション装置の外観図である。
【
図2】
図1に示す運転シミュレーション装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】本実施形態における旋回性能マップの一例を示す模式図である。
【
図4】本実施形態に係る運転シミュレーション装置による、仮想車両の旋回動作の検出から当該旋回動作に基づく映像の表示までの流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係る運転シミュレーション装置及び運転シミュレーションプログラムについて、図面を参照して説明する。なお、本実施形態は以下に説明する内容に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において任意に変更して実施することが可能である。また、実施形態の説明に用いる図面は、いずれも構成部材を模式的に示すものであって、理解を深めるべく部分的な強調、拡大、縮小、または省略などを行っており、構成部材の縮尺や形状等を正確に表すものとはなっていない場合がある。
【0013】
図1は、本実施形態に係る運転シミュレーション装置1の外観図である。
図2は、
図1に示す運転シミュレーション装置1の構成を示すブロック図である。本実施形態に係る運転シミュレーション装置1は、仮想空間における、仮想車両の模擬走行を実行するための装置である。例えば、本実施形態に係る運転シミュレーション装置1は、上記仮想車両の模擬走行として、ユーザによる所定の入力操作に基づく仮想車両の模擬走行及び上記仮想車両の自動運転を実行可能である。ここで、本実施形態に係る運転シミュレーション装置1は、一般に知られている、レベル1(運転支援)からレベル5(完全自動運転)までの全ての自動運転を模擬的に実行可能である。本実施形態に係る運転シミュレーション装置1は、例えば、
図1及び
図2に示すように、座席2、表示部3、入力部4、記憶部5及び制御部6を備える。
【0014】
座席2は、当該運転シミュレーション装置1を使用するユーザが座るためのものである。本実施形態における座席2は、床に直接設置してもよい。また、座席2は、床からある程度の高さに浮かせた状態に保持したステージ上に設置してもよい。また、座席2は、床やステージ上に完全に固定してもよい。また、座席2は、スライド機構やリンク機構等によって上記ユーザの体格や好みに合わせて前後や上下に位置を調節できる装置を設けてもよい。さらに、実際の運転中に運転者が体感する加速度を再現し、ユーザにさらなる現実感を与えるために、ステージを動かすアクチュエータ(図示せず)を1基以上設け、座席2にさまざまな方向の動揺を与えることができるようにしてもよい。
【0015】
表示部3は、制御部6による制御に従い、種々のデータを表示する。例えば、表示部3は、当該運転シミュレーション装置1を使用するユーザに向けて、模擬走行中における仮想車両の映像を表示するように構成される。例えば、表示部3は、上記ユーザから見た視界映像及び上記仮想車両を俯瞰で見た俯瞰映像を表示する。表示部3は、表示インタフェース回路及び表示回路を有する。表示インタフェース回路は、表示対象を表すデータをビデオ信号に変換する。表示信号は、表示回路に供給される。表示回路は、表示対象を表すビデオ信号を表示する。表示回路としては、例えば、CRTディスプレイ(Cathode Ray Tube Display)、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)、有機ELディスプレイ(OELD:Organic Electro Luminescence Display)、プラズマディスプレイ又は当該技術分野で知られている他の任意のディスプレイが適宜利用可能である。
【0016】
また、表示部3は、プロジェクタ等、動画像を表示可能なものであれば任意のものを用いてもよい。また、本実施形態に係る運転シミュレーション装置1は、
図1に示すように、表示部3として、複数の画面を並べて配置するマルチディスプレイを採用して、映像を分割表示してもよい。また、表示部3は、座席2を床面に対して動揺させる場合、床に直接固定してもよい。また、表示部3は、ステージに固定してもよい。
【0017】
入力部4は、当該運転シミュレーション装置1を使用するユーザからの所定の入力操作を受け付けるように構成される。ここで、本実施形態における入力部4は、例えば、上記仮想車両を操作するためのステアリングハンドル41、サイドブレーキ42、アクセルペダル(図示せず)及びブレーキペダル(図示せず)を含む。また、本実施形態における入力部4は、仮想空間における仮想車両の行き先(目的地)及び当該仮想車両の自動運転の開始/終了等を指示するための所定の入力操作並びに当該目的地までの経路情報、当該目的地までの経路における天候情報及び渋滞情報等を入力するために、スイッチボタン及び表示画面と操作面へ触れることで入力操作を行うタッチパッドとが一体化されたタッチパネルディスプレイのうちの少なくとも一つを含んでいてもよい。
【0018】
記憶部5は、ハードウェア資源として、所定のメモリを有する。記憶部5は、運転シミュレーション装置1に関する種々のプログラム及びデータを記憶する。本実施形態における記憶部5は、例えば、コンピュータを、当該運転シミュレーション装置1として機能させるための運転シミュレーションプログラム51を記憶するように構成される。また、記憶部5は、仮想車両の旋回動作に関連する、任意の状態変数に応じて設定される、複数の旋回半径又は複数の曲率を含む旋回性能マップ52を記憶するように構成される。また、本実施形態における記憶部5は、上記運転シミュレーションプログラム51及び旋回性能マップ52を格納する、非一時的コンピュータ可読記憶媒体として提供してもよい。
【0019】
制御部6は、ハードウェア資源として、所定のプロセッサを有する。制御部6は、接続された機器とのデータのやり取り及び上記仮想車両の模擬走行に関する演算処理を実行する。本実施形態における制御部6は、例えば、情報取得部61及び演算部62を備える。
【0020】
情報取得部61は、模擬走行中における上記仮想車両の挙動に関連する状態変数を取得するように構成される。特に、情報取得部61は、模擬走行中における上記仮想車両の旋回動作に関連する状態変数を取得するように構成される。例えば、情報取得部61は、仮想車両の旋回動作時における上記仮想車両の走行速度及び操舵角を速度計(図示せず)及びステアリングハンドル41の操舵角検出部(図示せず)から取得する。
【0021】
演算部62は、入力部4に対するユーザからの所定の入力操作に基づいて、仮想車両の旋回動作時における挙動を計算する。また、演算部62は、上記仮想車両の自動運転の実行中等において、上記情報取得部61において取得された状態変数及び上記旋回性能マップ52に基づいて、上記仮想車両の旋回動作時における挙動を計算する。具体的には、演算部62は、情報取得部61において取得された状態変数及び上記旋回性能マップ52を照合して、上記旋回性能マップ52の中から上記仮想車両の旋回動作時における旋回半径又は曲率を選択する。さらに、演算部62は、選択された旋回半径又は曲率に基づいて、上記仮想車両の旋回動作時における挙動を計算する。最後に、演算部62は、計算された挙動に基づく仮想車両の映像の信号を生成し、表示部3へ出力する。すなわち、表示部3は、演算部62から出力された信号に基づく映像を表示する。
【0022】
ここで、
図1及び
図2には図示しないが、本実施形態に係る運転シミュレーション装置1は、音声を再生可能なスピーカー等の音響装置を設けて、演算部62に音声信号を生成させるようにしてもよい。さらに、本実施形態に係る運転シミュレーション装置1は、上記速度計等、実際の車両にあるような各種計器類を備える計器盤を設けてもよい。
【0023】
(旋回性能マップの構築)
上述の通り、本実施形態に係る運転シミュレーション装置1の演算部62は、上記情報取得部61において取得された状態変数及び上記旋回性能マップ52を照合して、上記旋回性能マップ52の中から仮想車両の旋回動作時における旋回半径又は曲率を選択し、選択された旋回半径又は曲率に基づいて、上記仮想車両の旋回動作時における挙動を計算し、計算された挙動に基づく仮想車両の映像の信号を生成し、当該信号を表示部3へ出力している。本項では、本実施形態における上記旋回性能マップ52について、詳しく説明する。
【0024】
まず、上記旋回性能マップ52は、仮想車両の旋回性能を示すものであり、仮想車両の旋回動作に関連する、任意の状態変数に応じて予め計算された旋回半径又は曲率を、上記任意の状態変数に対応付けて配列した多次元行列である。本実施形態において、当該旋回半径の逆数が曲率である。ここで、本実施形態における状態変数は、少なくとも、車両の走行速度及び操舵角を含む。
【0025】
図3は、本実施形態における旋回性能マップ52の一例を示す模式図である。
図3には、縦軸が操舵角(単位:度)、横軸が車両の走行速度(単位:キロメートル毎時)であり、各操舵角及び車両の走行速度に応じて計算された旋回半径(単位:メートル)を、各操舵角及び車両の走行速度に対応付けて配列した旋回性能マップ52が示されている。なお、本実施形態における旋回性能マップ52には、車両が安定的に旋回している状態の旋回半径が保持されている。例えば、
図3に示す破線は、車両が安定的に旋回できる境界を示している。すなわち、操舵角が大きく、車両の走行速度が速くなるほど、車両が安定的に旋回できないことを意味する。ここで、「車両が安定的に旋回している状態」とは、一定時間内において、上記状態変数の変化量が予め設定した所定の閾値より低い状態(すなわち、状態変数の変化量Δx/時間Δt<所定の閾値)を意味する。本実施形態において旋回性能マップ52を生成する場合、現在時刻から過去時刻までのΔt秒の間、走行中の状態変数の変化を計測し、Δtの間の各状態変数の平均また旋回半径の平均値を保持するようにしてもよい。
【0026】
さらに、本実施形態では、多次元行列である上記旋回性能マップ52に基づいて、仮想車両の旋回動作を含む仮想車両の模擬走行及び車両の旋回動作を含む実際の車両の実験走行のうちの少なくとも一つを実行し、当該模擬走行及び実験走行のうちの少なくとも一つを実行することにより取得されたデータを用いて、上記旋回性能マップ52のデータ補間を行う。これにより、本実施形態における旋回性能マップ52を構築してもよい。ここで、データ補間を伴う本実施形態における旋回性能マップ52の構築について説明する。
【0027】
まず、上記多次元行列を初期マップと定義する。次に、上記初期マップに基づいて、仮想車両の旋回動作を含む仮想車両の模擬走行及び車両の旋回動作を含む実際の車両の実験走行のうちの少なくとも一つを実行する。次に、上記模擬走行及び実験走行のうちの少なくとも一つを実行することにより取得されたデータを用いて初期マップのデータ補間を行う。次に、データ補間された初期マップに基づいて旋回半径又は曲率を再度計算する。最後に、再度計算された旋回半径又は曲率を、仮想車両の旋回動作に関連する状態変数に対応付けて配列する。すなわち、本実施形態における旋回性能マップ52は、データ補間された多次元行列に基づいて計算された旋回半径又は曲率を、仮想車両の旋回動作に関連する状態変数に対応付けて配列した補正多次元行列であってもよい。なお、実施形態における旋回性能マップ52は、上記模擬走行及び実験走行のうちの少なくとも一つを繰り返し実行することにより取得されたデータを用いて、繰り返しデータ補間を行うことで、精度を向上させることができる。
【0028】
ここで、多次元行列のデータ補間は、例えば、逆距離加重法(IDW:Inverse Distance Weighted)等のデータ補間手法を用いて行う。例えば、初期マップの情報(状態変数)をkd木(k-dimensional tree)に保持する。次に、逆距離加重法の点と上記kd木とを利用して、一定以内存在するデータを検索する。次に、逆距離加重法によって検索した各データの重みを計算する。検索したデータから重みが所定の閾値より低いデータを考慮しない。最後に、検索したデータから重みが上記所定の閾値以上のデータを利用してデータ補間を行う。上記手法によって生成されたデータの解像度に合わせたデータ補間が可能になる。上記手法によって、不規則的な間隔で生成されたマップデータの処理が可能になる。
【0029】
なお、上記旋回性能マップ52の構築は、上記演算部62の他に、運転シミュレーション装置1に接続される外部の演算装置及び実際の車両に搭載される演算装置において行ってもよい。また、本実施形態において、上記状態変数には、上記車両の走行速度及び操舵角の他に、ホイールベース(前後タイヤ幅)、トレッド(左右タイヤ幅)、ヨーレート、車両の重量、タイヤの状態、路面摩擦係数及び路面勾配等が含まれていてもよい。
【0030】
(仮想車両の自動運転における、仮想車両の旋回動作に基づく映像の表示)
ここで、本実施形態に係る運転シミュレーション装置1による、仮想車両の旋回動作の検出から当該旋回動作に基づく映像の表示までの流れについて、
図4を参照して説明する。
図4は、本実施形態に係る運転シミュレーション装置1による、仮想車両の旋回動作の検出から当該旋回動作に基づく映像の表示までの流れを示すフローチャートである。なお、本項では、仮想車両の自動運転における、仮想車両の旋回動作に基づく映像の表示について記載する。
【0031】
まず、ユーザは、本実施形態に係る運転シミュレーション装置1の入力部4に対して、仮想車両の自動運転に関連する所定の入力操作を行う。入力部4は、ユーザからの所定の入力操作を受信する(ステップS1)。例えば、ユーザは、上記入力部4に対して、仮想空間における仮想車両の行き先(目的地)及び当該仮想車両の自動運転の開始を指示するための所定の入力操作を行う。入力部4は、ユーザからの、仮想空間における仮想車両の行き先(目的地)及び当該仮想車両の自動運転の開始を指示するための所定の入力操作を受信する。ここで、本実施形態に係る運転シミュレーション装置1は、上記入力部4における所定の入力操作の受信に起因して、当該仮想車両の自動運転を開始する。
【0032】
ステップS1の終了後、演算部62は、当該仮想車両の自動運転中において、当該仮想車両の旋回動作を検出したか否かを判定する(ステップS2)。例えば、演算部62は、上記速度計及びステアリングハンドル41の操舵角検出部(図示せず)における数値変動等から、当該仮想車両の旋回動作を検出する。ここで、演算部62は、当該仮想車両の旋回動作を検出するまで上記ステップS2を繰り返す。
【0033】
当該仮想車両の旋回動作を検出した場合(ステップS2のYes)、演算部62は、上記仮想車両の旋回動作に関連する状態変数を取得する(ステップS3)。例えば、演算部62は、車両の旋回動作時における上記車両の走行速度及び操舵角を上記速度計及びステアリングハンドル41の操舵角検出部(図示せず)から取得する。
【0034】
ステップS3の終了後、演算部62は、上記受信した状態変数及び上記旋回性能マップ52を照合して、上記旋回性能マップ52に含まれる複数の旋回半径又は複数の曲率の中から旋回半径又は曲率を一つ選択する(ステップS4)。例えば、演算部62は、上記受信した車両の走行速度及び操舵角に応じて、
図3に示す上記旋回性能マップ52に含まれる複数の旋回半径の中から、一つの旋回半径を選択する。具体的には、演算部62は、上記車両の走行速度が40キロメートル毎時であり、かつ上記操舵角が90度である場合、旋回半径として、5メートルを選択する。
【0035】
ステップS4の終了後、演算部62は、上記選択された一つの旋回半径又は曲率に基づいて、上記仮想車両の旋回動作時における挙動を計算する。さらに、演算部62は、計算された挙動に基づく仮想車両の映像の信号を生成し、当該信号を表示部3へ出力する(ステップS5)。ステップS5の終了後、信号に基づく映像を表示する(ステップS6)。これにより、本実施形態に係る運転シミュレーション装置1は、選択された旋回半径又は曲率に基づく、仮想車両の旋回動作時における映像を表示部3に表示することができる。
【0036】
ステップS6の終了後、演算部62は、仮想車両の旋回動作が終了したか否かを判定する(ステップS7)。仮想車両の旋回動作が終了していない場合(ステップS7のNo)、ステップS3に戻り、上記動作を繰り返す。仮想車両の旋回動作が終了した場合(ステップS7のYes)、本実施形態に係る運転シミュレーション装置1は、一連の処理を終了する。
【0037】
ここで、本実施形態に係る運転シミュレーション装置1は、
図4において実行される上記仮想車両の自動運転により取得されたデータを用いて、さらに、旋回性能マップ52のデータ補間を行ってもよい。これにより、本実施形態に係る運転シミュレーション装置1は、上記旋回性能マップ52の精度をさらに向上させることができる。
【0038】
(総括)
上述の通り、本実施形態に係る運転シミュレーション装置1は、仮想車両の模擬走行を実行するための運転シミュレーション装置であって、情報取得部61、記憶部5及び演算部62を備える。情報取得部61は、模擬走行中における上記仮想車両の旋回動作に関連する状態変数を取得するように構成される。記憶部5は、仮想車両の旋回動作に関連する、任意の状態変数に応じて設定される、複数の旋回半径又は複数の曲率を含む旋回性能マップ52を記憶するように構成される。演算部62は、情報取得部61において取得された状態変数及び上記旋回性能マップ52に基づいて、仮想車両の旋回動作時における挙動を計算するように構成される。具体的には、演算部62は、情報取得部61において取得された状態変数及び旋回性能マップ52を照合して、旋回性能マップ52の中から仮想車両の旋回動作時における旋回半径又は曲率を選択し、選択された旋回半径又は曲率に基づいて、仮想車両の旋回動作時における挙動を計算するように構成される。
【0039】
上記構成によれば、本実施形態に係る運転シミュレーション装置1は、情報取得部61において取得される状態変数に応じて、上記旋回性能マップ52の中から、仮想車両の旋回動作時における旋回半径又は曲率を選択している。さらに、本実施形態に係る運転シミュレーション装置1は、選択された旋回半径又は曲率に基づく仮想車両の旋回動作時における挙動を計算している。換言すれば、本実施形態に係る運転シミュレーション装置1は、特段の挙動計算を実行することなく、情報取得部61において取得される状態変数に応じて、瞬時に仮想車両の旋回動作時における旋回半径又は曲率を選択して、選択された旋回半径又は曲率に基づく仮想車両の旋回動作時における挙動を計算することができる。
【0040】
かくして、本実施形態に係る運転シミュレーション装置1は、仮想車両の挙動計算に掛かる計算コストを低減しつつ、仮想車両の挙動計算の高速化を図ることができる。また、本実施形態に係る運転シミュレーション装置1は、上記旋回性能マップ52の導入により、仮想車両の挙動計算に掛かる計算コストを低減しつつ、仮想車両の挙動計算の高速化を図っているため、仮想車両の自動運転等、瞬時に車両挙動を予測することが求められるシステムにも適用することができる。
【0041】
また、本実施形態に係る運転シミュレーション装置1は、上記模擬走行及び実験走行のうちの少なくとも一つにより取得されたデータを用いて、旋回性能マップ52のデータ補間を行う。これにより、本実施形態に係る運転シミュレーション装置1は、車種又は個体の性能を考慮することができる。さらに、本実施形態に係る運転シミュレーション装置1は、車種又は個体の性能を考慮することにより、高い精度での挙動計算を実行することができる。
【0042】
また、本実施形態に係る運転シミュレーション装置1は、車両制御について複数の制御パターンの挙動計算を高速に行うことができるため、各制御パターンの比較を容易に行うことができる。
【0043】
ここで、上記説明において用いた「所定のプロセッサ」という文言は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等の専用若しくは汎用のプロセッサ、又は特定用途向け集積回路(ASIC:Application Specific Integrated Circuit)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(SPLD:Simple Programmable Logic Device)、複合プログラマブル論理デバイス(CPLD:Complex Programmable Logic Device))、若しくはフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA:Field Programmable Gate Array)等を意味する。また、本実施形態の各構成要素(各演算部)は、単一のプロセッサに限らず、複数のプロセッサによって実現するようにしてもよい。さらに、複数の構成要素(複数の演算部)を、単一のプロセッサによって実現するようにしてもよい。
【0044】
また、上記説明において用いた「所定のメモリ」という文言は、上記「所定のプロセッサ」のレジスタ或いはキャッシュメモリ、ROM(Read Only Memory)、主記憶装置(RAM(Random Access Memory))又はHDD(Hard Disc Drive)或いはSSD(Solid State Drive)等の補助記憶装置等、上記運転シミュレーション装置1に必要な各種記憶媒体を意味する。
【0045】
なお、本実施形態における記憶部5は、上記HDD又はSSD等の機器以外にも、光磁気ディスク、CD(Compact Disc)又はDVD(Digital Versatile Disc)等の光ディスク、メモリカード等の記憶媒体(図示せず)を利用してもよい。また、記憶部5の保存領域は、ネットワーク等を介して接続された外部記憶装置(図示せず)内にあってもよい。
【0046】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0047】
1 運転シミュレーション装置
3 表示部
4 入力部
5 記憶部
6 制御部
61 情報取得部
62 演算部