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  • 特開-ジオールの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022079249
(43)【公開日】2022-05-26
(54)【発明の名称】ジオールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 27/02 20060101AFI20220519BHJP
   C07C 31/20 20060101ALI20220519BHJP
   C07C 27/28 20060101ALI20220519BHJP
   C07C 29/52 20060101ALN20220519BHJP
【FI】
C07C27/02
C07C31/20 Z
C07C27/28
C07C29/52
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020190329
(22)【出願日】2020-11-16
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-08-11
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 明正
(72)【発明者】
【氏名】山内 晶子
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC41
4H006AD11
4H006BC51
4H006BC52
4H006BE10
4H006FE11
(57)【要約】
【課題】色相が良好で、かつ、不飽和脂肪族炭化水素を低減できる、ジオールの製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
a)メタホウ酸、飽和脂肪族炭化水素および分子状酸素を含有する反応ガスを反応器に供給して、メタホウ酸の存在下で、飽和脂肪族炭化水素を分子状酸素を含有する反応ガスで液相酸化し、酸化物を含有する反応液を得、b)前記酸化物をエステル化してボレート化合物を含有する反応液を得、c)前記ボレート化合物を含有する反応液を蒸留して未反応の飽和脂肪族炭化水素および蒸留残留物に分離し、d)前記蒸留残留物を加水分解してオルトホウ酸と有機層とに分離し、e)前記有機層をアルカリでケン化して、アルカリ水溶液層と粗製アルコール層に分離し、f)前記粗製アルコール層に第1の蒸留を施してモノアルコールの除去後に残った残液を、温度250℃未満かつ滞留時間60分未満である条件で第2の蒸留を施すことを有する、ジオールの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)メタホウ酸、飽和脂肪族炭化水素および分子状酸素を含有する反応ガスを反応器に供給して、メタホウ酸の存在下で、飽和脂肪族炭化水素を分子状酸素を含有する反応ガスで液相酸化し、酸化物を含有する反応液を得、
b)前記酸化物をエステル化してボレート化合物を含有する反応液を得、
c)前記ボレート化合物を含有する反応液を蒸留して未反応の飽和脂肪族炭化水素および蒸留残留物に分離し、
d)前記蒸留残留物を加水分解してオルトホウ酸と有機層とに分離し、
e)前記有機層をアルカリでケン化して、アルカリ水溶液層と粗製アルコール層に分離し、
f)前記粗製アルコール層に第1の蒸留を施してモノアルコールの除去後に残った残液を、温度250℃未満かつ滞留時間60分未満である条件で第2の蒸留を施すことを有する、ジオールの製造方法。
【請求項2】
前記温度が、220℃未満である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記滞留時間が、45分未満である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記第2の蒸留を単蒸留で行い、前記温度が200℃未満であり、前記滞留時間が、45分未満である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記第2の蒸留を分子蒸留で行い、前記温度が220℃未満であり、前記滞留時間が、45分未満である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記条件が、圧力4~15hPaであることを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ジオールの色相が、90未満である、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記ジオールのヨウ素価が、15以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
色相が90未満であり、かつ、ヨウ素価が15以下である、ジオール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジオールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
第2級アルコール類は合成洗剤、界面活性剤及び可塑剤等の原料として有用である。第2級アルコール類は、メタホウ酸および飽和脂肪族炭化水素の存在下、分子状酸素を含有する反応ガスを導入する酸化反応工程を経た後、ボレート化合物を得、その後、加水分解工程・ケン化工程を経ることにより得ることができる技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
ところで第2級アルコールのジオールは、界面活性剤の添加剤としての用途でも有用であることが知られており、第2級アルコールの製造工程において得られたアルコール混合物から蒸留により得ることができることも知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭56-131531号公報
【特許文献2】特開昭48-34807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし従来の技術で作製されたジオールは色相が悪かったり、不飽和脂肪族炭化水素が多かったりすることが知見された。
【0006】
そこで、色相が良好で、かつ、不飽和脂肪族炭化水素を低減できる、ジオールの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための一実施形態は、a)メタホウ酸、飽和脂肪族炭化水素および分子状酸素を含有する反応ガスを反応器に供給して、メタホウ酸の存在下で、飽和脂肪族炭化水素を分子状酸素を含有する反応ガスで液相酸化し、酸化物を含有する反応液を得、b)前記酸化物をエステル化してボレート化合物を含有する反応液を得、c)前記ボレート化合物を含有する反応液を蒸留して未反応の飽和脂肪族炭化水素および蒸留残留物に分離し、d)前記蒸留残留物を加水分解してオルトホウ酸と有機層とに分離し、e)前記有機層をアルカリでケン化して、アルカリ水溶液層と粗製アルコール層に分離し、f)前記粗製アルコール層に第1の蒸留を施してモノアルコールの除去後に残った残液を、温度250℃未満かつ滞留時間60分未満である条件で第2の蒸留を施すことを有する、ジオールの製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、色相が良好で、かつ、不飽和脂肪族炭化水素を低減できる、ジオールの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の(f)工程における模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)の条件で測定する。
【0011】
本発明における一実施形態は、a)メタホウ酸、飽和脂肪族炭化水素および分子状酸素を含有する反応ガスを反応器に供給して、メタホウ酸の存在下で、飽和脂肪族炭化水素を分子状酸素を含有する反応ガスで液相酸化し、酸化物を含有する反応液を得、b)前記酸化物をエステル化してボレート化合物を含有する反応液を得、c)前記ボレート化合物を含有する反応液を蒸留して未反応の飽和脂肪族炭化水素および蒸留残留物に分離し、d)前記蒸留残留物を加水分解してオルトホウ酸と有機層とに分離し、e)前記有機層をアルカリでケン化して、アルカリ水溶液層と粗製アルコール層に分離し、f)前記粗製アルコール層に第1の蒸留を施してモノアルコールの除去後に残った残液を、温度250℃未満かつ滞留時間60分未満である条件で第2の蒸留を施すことを有する、ジオールの製造方法である。かかる実施形態によれば、色相が良好で、かつ、不飽和脂肪族炭化水素を低減できる、ジオールの製造方法を提供することができる。
【0012】
以下、各工程について仔細に説明する。
【0013】
(工程(a))
((a)工程:酸化反応工程)
(a)工程では、メタホウ酸、飽和脂肪族炭化水素および分子状酸素(本明細書中、単に「酸素」とも称する)を含有する反応ガスを反応器に供給して、メタホウ酸の存在下で、飽和脂肪族炭化水素を分子状酸素を含有する反応ガスで液相酸化し、酸化物を含有する反応液を得る。
【0014】
飽和脂肪族炭化水素は、炭素数8~30の飽和脂肪族炭化水素(ノルマルパラフィン)の混合物である。好ましくは、飽和脂肪族炭化水素は、炭素数10~15飽和脂肪族炭化水素(n-デカン、n-ウンデカン、n-ドデカン、n-トリデカン、n-テトラデカン及びn-ペンタデカン)を主成分として含む混合物であり、より好ましくは、炭素数12~14の飽和脂肪族炭化水素(n-ドデカン、n-トリデカン及びn-テトラデカン)を主成分として含む混合物である。ここで、「飽和脂肪族炭化水素を主成分として含む」とは、所定の炭素数の飽和脂肪族炭化水素を全飽和脂肪族炭化水素に対して90質量%超(好ましくは95質量%超)(上限:100質量%)の割合で含むことを意味する。また、飽和脂肪族炭化水素の平均分子量は、114以上422以下であり、好ましくは142以上212以下であり、より好ましくは170以上198以下である。飽和脂肪族炭化水素は、合成してもまたは市販品であってもよい。同様にして、メタホウ酸も、合成してもまたは市販品であってもよい。
【0015】
上記工程(a)において、分子状酸素含有ガスは、分子状酸素(酸素)に加えて、窒素ガスを含む。好ましくは、分子状酸素含有ガスは、分子状酸素(酸素)及び窒素ガスから構成される。また、分子状酸素含有ガス中の分子状酸素(酸素)の濃度は、1体積%(vol%)以上10体積%(vol%)以下、好ましくは3体積%(vol%)以上5体積%(vol%)以下等であるが、これに制限されない。分子状酸素含有ガスの供給量は、飽和脂肪族炭化水素1000g当り、100~1000リットル/時間、好ましくは350~600リットル/時間等であるが、これに制限されない。
【0016】
上記工程(a)において、メタホウ酸と飽和脂肪族炭化水素との反応混合比は特に制限されないが、メタホウ酸が、飽和脂肪族炭化水素に対して、好ましくは1質量%以上5質量%以下、より好ましくは2質量%以上4質量%以下等であるが、これに制限されない。
【0017】
液相酸化反応条件は、特に制限されず、従来と同様の条件が同様にして適用できる。例えば、液相酸化反応温度は、100~250℃、好ましくは140~200℃等であるが、これに制限されない。また、液相酸化反応時間は、例えば、0.5~5時間であり、好ましくは1~3時間等であるが、これに制限されない。このような条件であれば、飽和脂肪族炭化水素を分子状酸素含有ガスで適切な範囲(例えば、飽和脂肪族炭化水素の転化率=5~30%)で液相酸化できる。上記液相酸化反応は、大気圧(常圧)下、加圧下または減圧下で行ってもよいが、通常、大気圧(常圧)~30kg/cmG下で行う。また、上記液相酸化反応は、攪拌しながら行ってもよい(反応器が撹拌機を備えていてもよい)。
【0018】
上記工程(a)において、液相酸化反応は、1基の反応器にて行われてもまたは2基以上の複数の反応器にて連続して行われてもよい。また、反応器は、例えば、撹拌槽式または気泡塔式であってもよい。
【0019】
((b)工程:エステル化工程)
(b)工程では、前記酸化物(酸化反応生成物)をエステル化してボレート化合物を含有する反応液を得る。
【0020】
(b)工程では、ボレート化合物が生成するが、それ以外にも未反応の脂肪族炭化水素、遊離のアルコール及びメタホウ酸が存在する。遊離のアルコールは、未反応の飽和脂肪族炭化水素と沸点が近いため、両者の分離が困難である。このため、エステル化工程(b)にて、このアルコールをオルトホウ酸エステル化してボレート化合物に変換する。
【0021】
すなわち、上記工程(b)では、上記工程(a)で得られた酸化反応生成物に含まれる遊離のアルコールをエステル化(オルトホウ酸エステル化)してボレート化合物を得る。当該工程では、工程(a)で得られる酸化反応生成物中に存在する遊離アルコールをメタホウ酸と反応させてボレート化合物に変換するが、通常、酸化反応生成物中に余剰のメタホウ酸が存在するので、ここで新たにメタホウ酸を加える必要はないが、新しくメタホウ酸を加える場合もある。ボレート化合物への変換の方法にも特に制限されないが、(a)工程で得られた酸化物を含有する反応液に対して減圧処理を施すことが好ましい。そうすることで、遊離のアルコールと、過剰に添加されていたメタホウ酸(あるいは新たに添加されたメタホウ酸)とでエステル化してボレート化合物を得ることができる。このエステル化の条件に特に制限はない。本発明の一実施形態において、本発明の一実施形態において、(b)工程における圧力は、例えば、50~200hPa、好ましくは90~170hPa等である。なお、本明細書中、エステル化工程における圧力は、気相部の圧力を測定するために反応器の上部に設置された圧力計で測定される圧力の値を意味する。本明細書中、全て同様の定義が適用される。本発明の一実施形態において、(b)工程における温度は、例えば、100~220℃、好ましくは160~180℃等である。なお、本明細書中、エステル化工程における温度は、反応器における液の中に挿入された温度計で測定される温度の値を意味する。本明細書中、全て同様の定義が適用される。本発明の一実施形態において、(b)工程における処理時間は、例えば、5~80分、好ましくは20~60分等である。本明細書中、反応における処理時間は、反応器中の滞留時間を意味する。ここで、滞留時間とは、一般的には、ある有限の空間に流入する物質がその空間内にとどまっている時間を意味する。空間の容積をV(m)、流入物質の体積流量をθ(m/hr)とすると、滞留時間(τ)は次式で表される。
【0022】
【数1】
【0023】
なお、上記(a)工程~(b)工程において、以下の反応の発生が含まれる。
【0024】
【化1】
【0025】
(工程(c):未反応の飽和脂肪族炭化水素の回収工程)
(c)工程では、上記工程(b)で得られたボレート化合物を含有する反応液を蒸留して未反応の飽和脂肪族炭化水素(留出液)および蒸留残留物(塔底残留液)に分離して、未反応の飽和脂肪族炭化水素を回収する(未反応飽和脂肪族炭化水素回収工程)。留出液と塔底残留液とは沸点差が大きいため、蒸留により、容易に分離できる。
【0026】
本工程において、ボレート化合物を蒸留方法としては、単蒸留(例えば、フラッシュ蒸留)、分子蒸留などの公知の方法が使用できるが、これに特に制限されない。かかる蒸留は、1段階で行っても、2段階以上で行ってもよい。
【0027】
本発明の一実施形態において、(c)工程における圧力は、例えば、1~50hPa、あるいは3~25hPaである。本明細書中、蒸留の圧力は、気相部の圧力を測定するために塔頂に設置された圧力計で測定される圧力の値を意味する。本明細書中、全て同様の定義が適用される。本発明の一実施形態において、(c)工程における温度は、例えば、130~250℃、あるいは150~205℃である。本明細書中、蒸留の温度は、塔底における液の中に挿入された温度計で測定される温度の値を意味する。本発明の一実施形態において、(c)工程における滞留時間は、例えば、1~205分、あるいは25~120分である。ここで、本明細書中、蒸留の滞留時間は、塔底の液に関しては一定の体積となるように予め設定された蒸留塔内の液保有量(液の体積)(m)を、当該蒸留塔の塔底からの抜出液量(m/分)で除することによって算出された値を意味する。本明細書中、全て同様の定義が適用される。
【0028】
本工程で回収された未反応飽和脂肪族炭化水素は、上記酸化反応工程(a)に再利用(循環)してもよい。この場合には、例えば、留出液の飽和脂肪族炭化水素を除去した後そのまま上記酸化反応工程(a)に再利用しても;本工程で回収した飽和脂肪族炭化水素に含まれるカルボニル化合物及びオレフイン類を水素添加した後、酸化反応工程(a)に再利用しても;または、例えば、特開昭56-131531号公報に記載されるように、本工程で回収した飽和脂肪族炭化水素を、例えば、アルカリ水溶液と接触させて脂肪酸及び脂肪酸エステルを含む有機層と水層とに分離し、必要であれば有機層を熱水で洗浄し(アルカリ処理工程)、有機層に含まれる未反応飽和脂肪族炭化水素を水素処理した(水素処理工程)後、未反応飽和脂肪族炭化水素に含まれるアルコール成分をオルトホウ酸エステル化した(エステル化工程)後、酸化反応工程(a)に再利用してもよいが、上記に制限されない。
【0029】
(工程(d):加水分解工程)
(d)工程では、上記工程(c)で分離された蒸留残留物を加水分解してオルトホウ酸と有機層とに分離する。
【0030】
具体的には、蒸留残留物に熱水を添加して加水分解して、オルトホウ酸を含む水層と有機層とに分離する。ここで、熱水の温度(液温)は、70~150℃、好ましくは90~100℃等であるが、これに制限されない。また、熱水の添加量は、蒸留残留物に対して、1~20質量倍、好ましくは2~10質量倍等であるが、これに制限されない。加水分解時間は、5~60分間、好ましくは20~30分間等であるが、これに制限されない。このような条件であれば、蒸留残留物を十分加水分解して、オルトホウ酸を含む水層と有機層とをより効率よく分離できる。
【0031】
(工程(e):ケン化工程)
(e)工程では、上記工程(d)で分離された有機層をアルカリでケン化処理して、アルカリ水溶液層と粗製アルコール層とに分離する(ケン化工程)。これにより、有機酸や有機酸エステルが除去できる。
【0032】
ここで、アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどが使用できるが、これに制限されない。また、上記アルカリによるケン化処理後に必要であれば、水洗してもよい。ケン化条件は、特に制限されず、従来と同様の条件が同様にして適用できる。例えば、ケン化温度は、120~160℃であり、好ましくは135~145℃等であるが、これに制限されない。ケン化時間は、30~120分間、好ましくは50~90分間等であるが、これに制限されない。このような条件であれば、ケン化処理がより効率よく進行できる。鹸化処理後、有機層を有機酸や有機酸エステルを除去するために水洗してもよい。
【0033】
(工程(f):アルコール精製工程)
(f)工程では、前記粗製アルコール層に第1の蒸留を施してモノアルコールの除去後に残った残液を、250℃未満かつ滞留時間60分未満である条件で第2の蒸留を施すことを有する。これにより、第2級アルコール、および、色相が良好で、かつ、不飽和脂肪族炭化水素を低減したジオールが得られる。
【0034】
図1は、本発明の(f)工程における模式図を示す。図1に示されるように、上記(e)工程において、アルカリ水溶液層を除去した後に残った粗製アルコール層(有機層)2を第1の蒸留器11に導入する。その後、第1の蒸留を行う。本発明の一実施形態において、第1の蒸留の圧力は、例えば、1~45hPa、例えば、2~30hPa、あるいは、例えば、4~12hPaである。
【0035】
このような条件であれば、沸点範囲によって適切に(例えば、沸点範囲95℃以上120℃未満の留分および沸点範囲120~150℃の留分に)分離でき、それらは塔頂3より留出する。この際、第一留分(沸点範囲95℃以上120℃未満留分)は、少量の飽和脂肪族炭化水素、カルボニル化合物および1価第一級アルコール(モノアルコール)の混合物である。また、第二留分(沸点範囲120~150℃留分)は、微量のカルボニル化合物および第2級アルコール(モノアルコール)の混合物である。
【0036】
次いで、第1の蒸留にてモノアルコールを精留により除去した残分の塔底4における液を第2の蒸留器12に導入する。それを原料液として第2の蒸留を施す。なお、本発明の一実施形態において、前記原料液は、粗ジオールが、70~98質量%、80~97質量%、あるいは85~95質量%含まれる。本発明の一実施形態において、前記原料液は、アルカリ分が、0.1~10質量%、0.5~7質量%、あるいは1~5質量%含まれる。かかる実施形態のように、アルカリ分が一定程度含まれたとしても、ジオールの品質への悪影響がないため不都合がない。換言すれば、蒸留前に水洗のような工程は必要なく、アルカリは存在していても構わない。よって、本発明の一実施形態は、第1の蒸留と、第2の蒸留との間に、アルカリを低減または除去するための水洗工程を含まない。かかる実施形態であることによって生産性の向上が期待できる。本発明の一実施形態において、前記原料液は、重質分が、1~20質量%、2~18質量%、2.5~13質量%、あるいは4~10質量%含まれる。本発明の一実施形態において、粗ジオールと、アルカリ分と、重質分との合計は、100質量%である。重質分としては、例えば、トリオール、テトラオール、有機酸塩が挙げられる。
【0037】
本発明の一実施形態において、第2の蒸留の温度は、240℃以下、230℃以下、220℃以下、220℃未満、210℃以下、205℃以下、205℃未満、200℃以下、190℃以下、180℃以下、175℃以下、170℃以下、あるいは、165℃以下である。本発明の一実施形態において、第2の蒸留の温度は、150℃以上、160℃以上、170℃以上、180℃以上、190℃以上、200℃以上、あるいは、210℃以上である。
【0038】
本発明の一実施形態において、第2の蒸留(例えば、単蒸留器を用いる蒸留)の滞留時間は、50分以下、45分以下、45分未満、40分以下、35分以下、30分以下、30分未満、25分以下、あるいは、20分以下である。本発明の一実施形態において、第2の蒸留(例えば、単蒸留器を用いる蒸留)の滞留時間は、10分以上、20分以上、25分以上、30分以上、あるいは、45分以上である。
【0039】
本発明の一実施形態において、第2の蒸留(例えば、分子蒸留器を用いる蒸留)の滞留時間は、50分以下、45分以下、45分未満、40分以下、35分以下、30分以下、30分未満、25分以下、20分以下、15分以下、15分未満、10分以下、8分以下、6分以下、あるいは、4分以下である。本発明の一実施形態において、第2の蒸留(例えば、分子蒸留器を用いる蒸留)の滞留時間は、0.5分以上、1分以上、2分以上、5分以上、10分以上、20分以上、25分以上、30分以上、あるいは、45分以上である。
【0040】
本発明の一実施形態において、第2の蒸留の圧力は、4~20hPa、5~18hPa、5~14hPa、5~12hPa、5~10hPa、あるいは、6~8hPaである。
【0041】
本発明の一実施形態において、前記第2の蒸留を単蒸留で行い、前記温度が200℃未満であり、前記滞留時間が、45分未満である。
【0042】
本発明の一実施形態において、前記第2の蒸留を分子蒸留で行い、前記温度が220℃未満であり、前記滞留時間が、45分未満である。かかる実施形態において、前記温度が、205℃未満である。かかる実施形態において、前記滞留時間が、30分未満である。かかる実施形態において、前記滞留時間が、15分未満である。
【0043】
本発明の一実施形態によれば、a)メタホウ酸、飽和脂肪族炭化水素および分子状酸素を含有する反応ガスを反応器に供給して、メタホウ酸の存在下で、飽和脂肪族炭化水素を分子状酸素を含有する反応ガスで液相酸化し、酸化物を含有する反応液を得、b)前記酸化物をエステル化してボレート化合物を含有する反応液を得、c)前記ボレート化合物を含有する反応液を蒸留して未反応の飽和脂肪族炭化水素および蒸留残留物に分離し、d)前記蒸留残留物を加水分解してオルトホウ酸と有機層とに分離し、e)前記有機層をアルカリでケン化して、アルカリ水溶液層と粗製アルコール層に分離し、f)前記粗製アルコール層に第1の蒸留を施してモノアルコールの除去後に残った残液を、所定の熱負荷パラメータの値以下である条件で第2の蒸留を施すことを有する、ジオールの製造方法も提供される。ここで、所定の熱負荷パラメータとは、蒸留における温度(℃)と、滞留時間(分)との積によって算出することができる。
【0044】
本発明の一実施形態において、第2の蒸留を、単蒸留器を用いて行う場合は、熱負荷パラメータは9000以下、8000以下、7000以下、6000以下、5000以下、あるいは、4000以下である。本発明の一実施形態において、第2の蒸留を、単蒸留器を用いて行う場合は、熱負荷パラメータは、1000以上、2000以上、2500以上、あるいは、3000以上である。
【0045】
本発明の一実施形態において、第2の蒸留を、分子蒸留器を用いて行う場合は、熱負荷パラメータは9000以下、8000以下、7000以下、6000以下、5000以下、4000以下、3000以下、2000以下、1000以下、900以下、800以下、あるいは、700以下である。本発明の一実施形態において、第2の蒸留を、分子蒸留器を用いて行う場合は、熱負荷パラメータは、100以上、200以上、300以上、400以上、500以上、600以上、800以上、2000以上、2500以上、あるいは、3000以上である。
【0046】
本発明の一実施形態において、工程(f)において、第1の蒸留および第2の蒸留の方法としては、それぞれ独立して、単蒸留(例えば、フラッシュ蒸留)、分子蒸留などの公知の方法が使用できるが、これに特に制限されない。
【0047】
本発明の一実施形態において、単蒸留装置は、蒸発缶、凝縮器、留出液受器、送液ポンプ等とから構成される。
【0048】
本発明の一実施形態において、工程(f)において、第1の蒸留は、単蒸留(例えば、フラッシュ蒸留)で行い、かつ、第2の蒸留も、単蒸留(例えば、フラッシュ蒸留)で行う。かかる実施形態によって、本発明の所期の効果を効率的に奏する。
【0049】
本発明の一実施形態において、工程(f)において、第1の蒸留は、単蒸留(例えば、フラッシュ蒸留)で行い、第2の蒸留は、分子蒸留で行う。かかる実施形態によって、本発明の所期の効果をよりさらに効率的に奏する。
【0050】
本発明の一実施形態において、目的物たるジオール(第2級アルコールのジオール)の色相は、100未満、90以下、80以下、70以下、あるいは、60以下であることが好ましい。本発明の一実施形態において、目的物たるジオール(第2級アルコールのジオール)の色相は、例えば、40以上、あるいは、45以上である。ここで、本明細書中、色相の値は、APHA標準液との色相比較し、具体的には、JIS K 0071:2017に準拠した方法で算出する。実施例でもこの方法を使用して算出されている。
【0051】
本発明の一実施形態において、目的物たるジオール(第2級アルコールのジオール)のヨウ素価は、17未満、16以下、15以下、13以下、あるいは12以下であることが好ましい。本発明の一実施形態において、目的物たるジオール(第2級アルコールのジオール)のヨウ素価は、例えば、8以上、あるいは、10以上である。ここで、ヨウ素価は、ウィイス法(JIS K 0070 1992年)によって測定される。実施例でもこの方法を使用して測定されている。このヨウ素価が高いと、不飽和脂肪族炭化水素が多いと判定できる。不飽和脂肪族炭化水素は不純物であり、また色相にも悪影響を及ぼしていると考えられるため品質の低下につながる。
【0052】
なお、上記工程(e)と本工程(f)との間に、従来公知の方法に従って、重質分離工程、アルカリ処理工程(特に水酸化カリウム処理工程)および軽質分離工程から選択される少なくとも一工程を行ってもよい。
【実施例0053】
以下、実施例および比較例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例および比較例に限定して解釈されるものではなく、各実施例に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施例も本発明の範囲に含まれる。
【0054】
(実施例1~9、比較例1)
炭素数12~14の飽和脂肪族炭化水素の混合物1000gと、メタホウ酸25gとを容量3Lの円筒形反応器に入れ、酸素濃度3.5vol%、窒素濃度96.5vol%の混合ガスを1時間当たり430Lの割合で吹き込み、常圧下170℃で2時間酸化反応を行い、酸化反応混合液(酸化物)を得た(酸化反応工程)。なお、この飽和脂肪族炭化水素の混合物は、平均分子量が184であり、炭素数12~14の飽和脂肪族炭化水素(n-ドデカン、n-トリデカン及びn-テトラデカン)を混合物の全質量に対して95質量%を超える割合で含む。
【0055】
酸化反応後、酸化物を含有する反応液を減圧することで、アルコールと、過剰に添加されていたホウ酸とでエステル化してボレート化合物を得た。このエステル化は105hPa、165℃、60分で行った(エステル化工程)。
【0056】
次に、このボレート化合物(ホウ酸エステル混合物)を200℃、7hPaでフラッシュ蒸留を行うことで未反応飽和脂肪族炭化水素を除去した(未反応飽和脂肪族炭化水素回収工程)。
【0057】
次いで、残留液を多量(残留液に対して2質量倍量)の95℃の熱水で25分間加水分解し、オルトホウ酸を含む水層および有機層とに分離した(加水分解工程)。
【0058】
得られた有機層を水酸化ナトリウムを用いて140℃で80分間ケン化処理および水洗を行い、有機酸および有機酸エステル(アルカリ水溶液層)を除去した(ケン化工程)。
【0059】
図1に示されるように、ケン化工程でアルカリ水溶液層を除去した後に残った粗製アルコール層(有機層)2を、第1の蒸留器(単蒸留器)11に導入し、7hPaで分留し、第一留分として沸点範囲95℃以上120℃未満留分および第二留分として沸点範囲120~150℃留分を塔頂3より得た。ここで、第一留分(95℃以上120℃未満留分)は、少量の飽和脂肪族炭化水素、カルボニル化合物および1価第1級アルコール(モノアルコール)の混合物であった。第二留分(沸点範囲120~150℃留分)は、微量のカルボニル化合物および第2級アルコール(モノアルコール)の混合物であり、この際、第2級アルコールの大部分は1価第2級アルコールであった。このようにして第1の蒸留を行った。
【0060】
次いで、第1の蒸留にてモノアルコールを精留により除去した残分の塔底4における液を第2の蒸留器(単蒸留器)12に導入し、それを原料液として、下記の表1に記載の温度、圧力、滞留時間で、第2の蒸留を施した。なお、前記原料液は、粗ジオールが90質量%、アルカリ分が2質量%、重質分(トリオール、テトラオール、有機酸塩)が8質量%で構成されていた。
【0061】
【表1】
【0062】
(実施例10~15、比較例2)
第2の蒸留器(単蒸留器)を第2の蒸留器(分子蒸留器)に変更し、下記の表2に記載の温度、圧力、滞留時間で、第2の蒸留を施した以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0063】
【表2】
【0064】
表1、2に示されるように実施例の方法は、色相が良好で、かつ、不飽和脂肪族炭化水素を低減できる、ジオールの製造方法であることが示唆される。
【符号の説明】
【0065】
1 蒸留器、
11 第1の蒸留器、
12 第2の蒸留器、
2 (e)工程でアルカリ水溶液層を除去した後に残った粗製アルコール層(有機層)、
3 第1の蒸留器の塔頂、
4 第1の蒸留器の塔底、
5 第2の蒸留器の塔頂、
6 第2の蒸留器の塔底。
図1
【手続補正書】
【提出日】2021-05-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)メタホウ酸、飽和脂肪族炭化水素および分子状酸素を含有する反応ガスを反応器に供給して、メタホウ酸の存在下で、飽和脂肪族炭化水素を分子状酸素を含有する反応ガスで液相酸化し、酸化物を含有する反応液を得、
b)前記酸化物をエステル化してボレート化合物を含有する反応液を得、
c)前記ボレート化合物を含有する反応液を蒸留して未反応の飽和脂肪族炭化水素および蒸留残留物に分離し、
d)前記蒸留残留物を加水分解してオルトホウ酸と有機層とに分離し、
e)前記有機層をアルカリでケン化して、アルカリ水溶液層と粗製アルコール層に分離し、
f)前記粗製アルコール層に第1の蒸留を施してモノアルコールの除去後に残った残液を、温度250℃未満かつ滞留時間60分未満である条件で第2の蒸留を施し、この際、前記第2の蒸留を単蒸留または分子蒸留で行い、単蒸留で行う場合の蒸留における温度(℃)と、滞留時間(分)との積によって算出される熱負荷パラメータが5850以下であり、分子蒸留で行う場合の蒸留における温度(℃)と、滞留時間(分)との積によって算出される熱負荷パラメータが615以下である、ジオールの製造方法。
【請求項2】
前記温度が、220℃未満である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記滞留時間が、45分未満である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記第2の蒸留を単蒸留で行い、前記温度が195℃以下であり、前記滞留時間が、30分以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記第2の蒸留を分子蒸留で行い、前記温度が205℃以下であり、前記滞留時間が、3分以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記条件が、圧力4~15hPaであることを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ジオールの色相が、70以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記ジオールのヨウ素価が、14以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0054
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0054】
参考例1、2、実施例1~、比較例1)
炭素数12~14の飽和脂肪族炭化水素の混合物1000gと、メタホウ酸25gとを容量3Lの円筒形反応器に入れ、酸素濃度3.5vol%、窒素濃度96.5vol%の混合ガスを1時間当たり430Lの割合で吹き込み、常圧下170℃で2時間酸化反応を行い、酸化反応混合液(酸化物)を得た(酸化反応工程)。なお、この飽和脂肪族炭化水素の混合物は、平均分子量が184であり、炭素数12~14の飽和脂肪族炭化水素(n-ドデカン、n-トリデカン及びn-テトラデカン)を混合物の全質量に対して95質量%を超える割合で含む。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0061
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0061】
【表1】
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0062
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0062】
参考例3、実施例12、比較例2)
第2の蒸留器(単蒸留器)を第2の蒸留器(分子蒸留器)に変更し、下記の表2に記載の温度、圧力、滞留時間で、第2の蒸留を施した以外は、参考例1と同様の操作を行った。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0063
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0063】
【表2】