(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022079328
(43)【公開日】2022-05-26
(54)【発明の名称】車両用熱管理装置及びこれを用いた制御方法
(51)【国際特許分類】
B60H 1/08 20060101AFI20220519BHJP
F01P 3/18 20060101ALI20220519BHJP
F01P 3/20 20060101ALI20220519BHJP
F25B 1/00 20060101ALI20220519BHJP
B60H 1/03 20060101ALN20220519BHJP
【FI】
B60H1/08 621A
F01P3/18 Q
F01P3/20 H
F01P3/20 B
F25B1/00 399Y
B60H1/03 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020190455
(22)【出願日】2020-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】500309126
【氏名又は名称】株式会社ヴァレオジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】110000545
【氏名又は名称】特許業務法人大貫小竹国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】根本 記明
【テーマコード(参考)】
3L211
【Fターム(参考)】
3L211BA52
3L211DA26
3L211DA28
3L211DA33
3L211DA50
3L211EA50
3L211EA51
3L211FA06
3L211FA23
3L211FA24
3L211FA30
3L211GA26
(57)【要約】
【課題】2つの温水回路に対してリザーブタンクを設ける場合に、構造を簡素化して、生産性を向上させることが可能な車両用熱管理装置を提供する。
【解決手段】冷却水を圧送する第1ポンプ11とこの第1ポンプ11で圧送された冷却水を冷却するラジエータ12を有する第1温水回路W1と、冷却水を圧送する第2ポンプ21とこの第2ポンプ21で圧送された冷却水で車室空気を加熱可能な空気加熱器5とを有する第2温水回路W2と、第1温水回路W1と第2温水回路W2とを分離させた分離状態と、第1温水回路W1と第2温水回路W2とを連結させて1つの循環回路を形成する連結状態と、を切り替える循環回路切替装置40と、リザーブタンクTと、を備える車両用熱管理装置において、リザーブタンクTを、接続経路25を介して第2温水回路W2に連通させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却水を圧送する第1ポンプ(11)、及びこの第1ポンプ(11)で圧送された冷却水を冷却するラジエータ(12)を有する第1温水回路(W1)と、
冷却水を圧送する第2ポンプ(21)、及びこの第2ポンプ(21)で圧送された冷却水で車室空気を加熱可能な空気加熱器(5)を有する第2温水回路(W2)と、
前記第1温水回路(W1)と前記第2温水回路(W2)とを分離させた分離状態と、前記第1温水回路(W1)と前記第2温水回路(W2)とを連結させて1つの循環回路を形成する連結状態と、を切り替える循環回路切替装置(40)と、
リザーブタンク(T)と、を備え、
前記リザーブタンク(T)は、接続経路(25)を介して前記第2温水回路(W2)と連通されていることを特徴とする車両用熱管理装置。
【請求項2】
冷媒を圧縮する圧縮機(31)、前記圧縮機(31)で圧縮された冷媒を凝縮する熱媒体熱交換器(32)、前記熱媒体熱交換器(32)で凝縮された冷媒を減圧膨張させる膨張装置(33)、及び前記膨張装置(33)で減圧膨張された冷媒によって車室に送風される空気を冷却する空気冷却器(4)を少なくともこの順で接続する冷媒回路(R)を備え、
前記第2温水回路(W2)と前記冷媒回路(R)とは、前記熱媒体熱交換器(32)を介して熱的に結合されている、
ことを特徴とする請求項1記載の車両用熱管理装置。
【請求項3】
前記第2温水回路(W2)を流れる冷却水の物理量を検出する第2温水回路側物理量検出装置(46)を設け、前記第2温水回路側物理量検出装置(46)により検出された冷却水の物理量に応じて前記循環回路切替装置(40)を切り替える第2温水回路側物理量依存切替手段を設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の車両用熱管理装置。
【請求項4】
前記第1温水回路(W1)は発熱機器(E)と熱的に結合され、
前記第1温水回路(W1)を流れる冷却水の物理量を検出する第1温水回路側物理量検出装置(45)を設け、前記第1温水回路側物理量検出装置(45)により検出された冷却水の物理量に応じて前記循環回路切替装置(40)を切り替える第1温水回路側物理量依存切替手段を設けたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の車両用熱管理装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の車両用熱管理装置を用いた制御方法であって、
空調装置の運転が停止されたことを検知する空調運転停止検知ステップと、
前記空調装置の運転停止が検知された場合に、前記循環回路切替装置(40)を前記第1温水回路(W1)と前記第2温水回路(W2)とを連結させる連結状態に設定する停止後連結状態形成ステップと、
を有することを特徴とする車両用熱管理装置の制御方法。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかに記載の車両用熱管理装置を用いた制御方法であって、
空調装置の運転が開始されたことを検知する空調運転開始検知ステップと、
前記空調運転開始検知ステップで前記空調装置の運転が開始されたことを検知した場合に、空調モードを判定する空調モード判定ステップと、
前記空調モードが冷房モードであることが判定された場合に、前記循環回路切替装置(40)を前記第1温水回路(W1)と前記第2温水回路(W2)を連結させる連結状態に設定する冷房モード時連結状態形成ステップと、
前記空調モードが前記冷房モードでないことが判定された場合に、前記循環回路切替装置(40)を前記第1温水回路(W1)と第2温水回路(W2)を分離させる分離状態に設定する非冷房モード時分離状態形成ステップと、
を具備することを特徴とする車両用熱管理装置の制御方法。
【請求項7】
請求項3に記載の車両用熱管理装置を用いた制御方法であって、
前記第1温水回路(W1)と前記第2温水回路(W2)とが分離状態である場合に、前記第2温水回路側物理量検出装置(46)により検出された冷却水の物理量が第2温水回路側許容値を超えたか否かを判定する第2温水回路側判定ステップと、
前記第2温水回路側判定ステップで前記第2温水回路側物理量検出装置(46)により検出された冷却水の物理量が前記第2温水回路側許容値を超えたと判定された場合に、前記循環回路切替装置(40)を前記第1温水回路(W1)と前記第2温水回路(W2)とを連結させる連結状態に設定する第2温水回路緊急時制御ステップと、
を設けたことを特徴とする車両用熱管理装置の制御方法。
【請求項8】
請求項4に記載の車両用熱管理装置を用いた制御方法であって、
前記第1温水回路(W1)と前記第2温水回路(W2)とが分離状態である場合に、前記第1温水回路側物理量検出装置(45)により検出された冷却水の物理量が第1温水回路側許容値を超えたか否かを判定する第1温水回路側判定ステップと、
前記第1温水回路側判定ステップで前記第1温水回路側物理量検出装置(45)により検出された冷却水の物理量が前記第1温水回路側許容値を超えたと判定された場合に、前記循環回路切替装置(40)を前記第1温水回路(W1)と前記第2温水回路(W2)とを連結させる連結状態に設定する第1温水回路緊急時制御ステップと、
を設けたことを特徴とする車両用熱管理装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却水を循環させる温水回路と、この温水回路に連通されて冷却水の体積変化を吸収するリザーブタンクとを備えた車両用熱管理装置、及び、これを用いた制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来において、冷却水を循環させる温水回路を備えた車両用熱管理装置として、下記する特許文献1及び2に示される構成が知られている。
このうち、特許文献1には、
図18に示されるように、車室に供給する空気を冷却可能とするエバポレータ101に冷媒を循環させる冷凍サイクル100と、
バッテリ201や他の発熱機器202を冷却可能とするために冷却水を循環し、バッテリ201や他の発熱機器202で発生した熱を冷却水で回収し、ラジエータ203で放熱可能とする低温冷却水回路(第1温水回路)200と、
車室に供給する空気を加熱可能とするためにヒータコア301に高温熱媒体を循環させる高温冷却水回路(第2温水回路)300と、を備え、さらに、
冷凍サイクル100の冷媒と低温冷却水回路(第1温水回路)200の冷却水とを熱交換させる低圧側冷媒熱媒体熱交換器102と、
冷凍サイクル100の冷媒と高温冷却水回路(第2温水回路)300の冷却水とを熱交換させる高圧側冷媒熱媒体熱交換器103と、
を設けることで、低温冷却水回路(第1温水回路)200と高温冷却水回路(第2温水回路)300のそれぞれを、冷凍サイクル100に熱的に結合させるようにした構成が開示されている(特許文献1参照)。
このような構成においては、第1温水回路200と第2温水回路300とが間に介在される冷凍サイクル100によって分離されているので、冷却水の熱膨張や熱収縮による体積変化を調整するリザーブタンクは、温水回路毎に設ける必要がある(低圧側リザーブタンク210,高圧側リザーブタンク310)。
【0003】
また、特許文献2には、2つの温水回路を備える場合に、それぞれの温水回路に接続経路を介して共通のリザーブタンクを接続し、それぞれの温水回路を流れる冷却水の熱膨張、熱収縮による体積変化を1つのリザーブタンクで調整可能とする熱管理装置が開示されている(特許文献2参照)。
【0004】
したがって、特許文献1の車両用熱管理装置にリザーブタンクを設ける場合においても、特許文献2の構成を適用し、ラジエータ203を有する第1温水回路200とヒータコア301を有する第2温水回路300とを、それぞれの温水回路に接続する接続経路を介して1つのリザーブタンクに連通させる構成が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-034587号公報
【特許文献2】特開平10-266856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ラジエータが配置される車両の前室(エンジンルームとも呼ばれる)には、多くの機器が配置されており、部品点数の削減が要請されている。また、構造を簡素化して装置の組み立ての容易化も求められている。
この点、リザーブタンクを温水回路毎に設ける場合は、リザーブタンクや接続経路が複数必要となり、上記要請にそぐわない。また、リザーブタンクを共有化する場合においても、温水回路とリザーブタンクとを連通する接続経路を温水回路毎に設ける必要があるため、部品点数の増加や構造の複雑化を招き、熱管理装置の組み立てに時間や労力を要し、生産性の点で改善の余地がある。
【0007】
本発明は、係る事情に鑑みてなされたものであり、2つの温水回路を有する車両用熱管理装置において、リザーブタンクを設ける場合に、構造を簡素化して、部品点数を削減すると共に生産性を向上させることが可能な車両用熱管理装置及びこれを用いた制御方法を提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するために、本発明に係る車両用熱管理装置は、
冷却水を圧送する第1ポンプ11、及びこの第1ポンプ11で圧送された冷却水を冷却するラジエータ12を有する第1温水回路W1と、
冷却水を圧送する第2ポンプ21、及びこの第2ポンプ21で圧送された冷却水で車室空気を加熱可能な空気加熱器5を有する第2温水回路W2と、
前記第1温水回路W1と前記第2温水回路W2とを分離させた分離状態と、前記第1温水回路W1と前記第2温水回路W2とを連結させて1つの循環回路を形成する連結状態と、を切り替える循環回路切替装置40と、
リザーブタンクTと、を備え、
前記リザーブタンクTは、接続経路25を介して前記第2温水回路W2と連通されていることを特徴としている。
【0009】
したがって、第1温水回路W1と第2温水回路W2とを、循環回路切替装置40により、分離状態とするか、連結状態とするかを切り替えることができるようにした上で、リザーブタンクTを接続経路25を介して第2温水回路W2に連通させる構成としたので、リザーブタンクTとの接続経路25が1系統であっても、第1温水回路W1の冷却水が温度変化によって体積膨張または体積収縮する場合、循環回路切替装置40と第2温水回路W2とを経由してリザーブタンクTに余剰冷却水を移動させること、及び、不足する冷却水をリザーブタンクTから供給することが可能となる。よって、リザーブタンクTのみならず接続経路25をそれぞれの温水回路に設ける必要がないので、車両用熱管理装置の構造を簡素化でき、生産性を向上させることが可能となる。
【0010】
上述の構成において、冷媒を圧縮する圧縮機31、前記圧縮機31で圧縮された冷媒を凝縮する熱媒体熱交換器32、前記熱媒体熱交換器32で凝縮された冷媒を減圧膨張させる膨張装置33、及び前記膨張装置33で減圧膨張された冷媒によって車室に送風される空気を冷却する空気冷却器4を少なくともこの順で接続する冷媒回路Rを備え、
前記第2温水回路W2と前記冷媒回路Rとは、前記熱媒体熱交換器32を介して熱的に結合するようにしてもよい。
【0011】
冷媒回路Rを設けたことで、冷媒回路で発生する熱を冷却水に移動させる必要があるところ、冷媒回路Rは第2温水回路W2と熱的に結合されているので、冷媒回路Rの熱を第2温水回路W2の冷却水に移送させることが可能となる。そして、第2温水回路の冷却水は冷媒回路の熱によって温度上昇して体積膨張するが、第2温水回路はリザーブタンクと接続経路を介して連通しているので、余剰冷却水をリザーブタンクに移動することができる。すなわち、余剰冷却水のリザーバタンクへの移動にあたって第2温水回路を第1温水回路と連結状態にする必要が無く、車両用熱管理装置の制御を簡素化すること可能となる。
【0012】
ここで、前記第2温水回路W2を流れる冷却水の物理量を検出する第2温水回路側物理量検出装置46を設け、前記第2温水回路側物理量検出装置46により検出された冷却水の物理量に応じて循環回路切替装置40を切り替える第2温水回路側物理量依存切替手段を設けるようにしてもよい。
【0013】
このような構成においては、第2温水回路側物理量検出装置46によって検出された第2温水回路W2の冷却水の物理量(温度)に応じて循環回路切替装置40が切り替えられるので、第2温水回路W2の冷却水の温度が過度に上昇した場合に、第2温水回路W2を第1温水回路W1と連結状態にすることで、第2温水回路W2の冷却水の熱をラジエータ12から放熱可能とし、第2温水回路W2の冷却水の温度を低下させることが可能となる。
【0014】
また、第1温水回路W1は発熱機器Eと熱的に結合され、第1温水回路W1を流れる冷却水の物理量を検出する第1温水回路側物理量検出装置45を設け、第1温水回路側物理量検出装置45により検出された冷却水の物理量に応じて循環回路切替装置40を切り替える第1温水回路側物理量依存切替手段を設けるようにしてもよい。
【0015】
このような構成においては、第1温水回路W1の冷却水は発熱機器Eを冷却することで加熱されて体積膨張し得るところ、第1温水回路側物理量検出装置45によって第1温水回路W1の冷却水の体積変化を把握することができ、循環回路切替装置40を適切に開閉制御することが可能となる。
【0016】
以上の車両用熱管理装置を用いた制御方法において、空調装置の運転が停止されたことを検知する空調運転停止検知ステップと、空調装置の運転停止が検知された場合に、循環回路切替装置40を第1温水回路W1と第2温水回路W2とを連結させる連結状態に設定する停止後連結状態形成ステップと、を有することが好ましい。
【0017】
このような制御においては、空調運転の停止時に、第1温水回路W1と第2温水回路W2を連結することで、空調運転の停止中に外気温度の変化に応じて第1温水回路W1や第2温水回路W2の冷却水が膨張または収縮しても、1つのサイクルとして体積変化を調整することが可能となる。
【0018】
また、空調装置の運転が開始されたことを検知する空調運転開始検知ステップと、前記空調運転開始検知ステップで空調装置の運転が開始されたことを検知した場合に、空調モードを判定する空調モード判定ステップと、空調モードが冷房モードであることが判定された場合に、循環回路切替装置40を第1温水回路W1と第2温水回路W2を連結させる連結状態に設定する冷房モード時連結状態形成ステップと、空調モードが冷房モードでないことが判定された場合に、循環回路切替装置40を第1温水回路W1と第2温水回路W2を分離させる分離状態に設定する非冷房モード時分離状態形成ステップと、を具備するとよい。
【0019】
このような構成においては、空調モードが冷房モードである場合には、第1温水回路W1と第2温水回路W2との連結状態が維持され、冷房モード以外のモードである場合には、第2温水回路W2の冷却水の温度を上昇させたい要請がある場合であるので、第2温水回路W2を第1温水回路W1と分離して空調装置を稼働させ、冷却水の温度を効率的に上昇させることが可能となる。
【0020】
特に、第2温水回路側物理量検出装置46により検出された冷却水の物理量に応じて循環回路切替装置40を切り替え可能とする構成においては、
第1温水回路W1と第2温水回路W2とが分離状態である場合に、第2温水回路側物理量検出装置46により検出された冷却水の物理量が第2温水回路側許容値を超えたか否かを判定する第2温水回路側判定ステップと、
第2温水回路側判定ステップで第2温水回路側物理量検出装置46により検出された冷却水の物理量が第2温水回路側許容値を超えたと判定された場合に、循環回路切替装置40を第1温水回路W1と第2温水回路W2とを連結させる連結状態に設定する第2温水回路緊急時制御ステップと、
を設けることが好ましい。
【0021】
このような構成においては、第2温水回路W2の冷却水の温度が過度に上昇したことを把握した場合に、第2温水回路W2を第1温水回路W1と連結状態にして第2温水回路W2の冷却水の熱をラジエータ12から放熱可能とし、第2温水回路W2の冷却水の温度を低下することが可能となる。
【0022】
また、第1温水回路側物理量検出装置45により検出された冷却水の物理量に応じて循環回路切替装置40を切り替え可能とする構成においては、
第1温水回路W1と第2温水回路W2とが分離状態である場合に、第1温水回路側物理量検出装置45により検出された冷却水の物理量が第1温水回路側許容値を超えたか否かを判定する第1温水回路側判定ステップと、
第1温水回路側判定ステップで第1温水回路側物理量検出装置45により検出された冷却水の物理量が第1温水回路側許容値を超えたと判定された場合に、循環回路切替装置40を第1温水回路W1と第2温水回路W2とを連結させる連結状態に設定する第1温水回路緊急時制御ステップと、を設けるようにしてもよい。
このような構成においては、第1温水回路W1の冷却水の体積変化を把握して、許容値を超える緊急時に循環回路切替装置40を適切に制御することが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
以上述べたように、本発明によれば、ラジエータを有する第1温水回路と、空気加熱器を有する第2温水回路と、第1温水回路と第2温水回路とを分離させた分離状態と、連結させて1つの循環回路を形成する連結状態と、を切り替える循環回路切替装置と、を有する車両用熱管理装置において、リザーブタンクを接続経路を介して第2温水回路と連通されるようにしたので、リザーブタンクとの接続経路が1系統であっても、循環回路切替装置を適宜切り替えることで、循環回路切替装置と第2温水回路を経由してリザーブタンクとの間で冷却水を流入又は流出させることが可能となる(余剰冷却水をリザーブタンクに移動すること、及び、不足する冷却水をリザーブタンクから供給することが可能となる)。したがって、リザーブタンクやリザーブタンクに通じる接続経路をそれぞれの温水回路に設ける必要がないので、車両用熱管理装置の構造を簡素化して、部品点数を削減すると共に生産性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明に係る車両用熱管理装置の構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、
図1の車両用熱管理装置を用いた暖房運転モード時の各運転状態を示した図である。
【
図3】
図3は、車両用熱管理装置の停止状態を示す図である。
【
図4】
図4は、
図2の暖房運転モード時の起動状態を示す図である。
【
図5】
図5は、
図2の暖房運転モード時の起動状態から安定状態に至るまでの遷移状態を示す図である。
【
図6】
図6は、
図2の暖房運転モード時の安定状態を示す図である。
【
図7】
図7は、暖房運転モード時の安定状態において、第1温水回路の冷却水の圧力が過度に高くなった場合、又は、第2温水回路の冷却水の温度が過度に高くなった場合の非常時の状態を示す図である。
【
図8】
図8は、
図1の車両用熱管理装置を用いた除湿暖房運転モード時の各運転状態を示した図である。
【
図9】
図9は、
図8の除湿暖房運転モード時の起動状態を示す図である。
【
図10】
図10は、
図8の除湿暖房運転モード時の起動状態から安定状態に至るまでの遷移状態を示す図である。
【
図12】
図12は、除湿暖房運転モード時の安定状態において、第1温水回路の冷却水の圧力が過度に高くなった場合、又は、第2温水回路の冷却水の温度が過度に高くなった場合の非常時の状態を示す図である。
【
図13】
図13は、
図1の車両用熱管理装置を用いた冷房運転モード時の各運転状態を示した図である。
【
図15】
図15は、
図13の冷房運転モード時の起動状態から安定状態に至るまでの遷移状態を示す図である。
【
図17】
図17は、車両用空調装置の運転モードと冷却水の物理量に応じた循環回路切替装置の動作例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る車両用熱管理装置の実施形態を図面により説明する。
図1において、車両用熱管理装置1は、例えば自家用車やバス、建設用車両などの車両に搭載されるもので、電子部品を制御するインバータ、モータジェネレータ等の発熱機器(ePT)Eを冷却する熱媒体(冷却水)を循環させる第1温水回路W1と、空調ユニット2内に配設された空気加熱器(ヒータコア)5に供給する熱媒体(冷却水)を循環させる第2温水回路W2と、空調ユニット2内に配設された空気冷却器(エバポレータ)4に供給する熱媒体(冷媒)を循環させる冷媒回路Rと、を備えている。
【0026】
空調ユニット2は、空調ケース3内に車室へ供給する空気を冷却可能とする空気冷却器4と、車室へ供給する空気を加熱可能とする空気加熱器5と、を有している。空調ユニット2の最上流側には内外気切換装置6が設けられ、内気導入口6aと外気導入口6bとがインテークドア7によって選択的に開口されるようになっている。この空調ユニット2に選択的に導入される内気または外気は、送風機8の回転により吸引され、空気冷却器4および空気加熱器5へ送られ、ここで熱交換された後に、図示しない周知の複数の吹き出し口から適宜車室に供給されるようになっている。
【0027】
空気加熱器5は、空気冷却器4よりも空調ユニット2内の空気流れ方向下流側に配置されており、この空気加熱器5の空気流れ方向上流側かつ空気冷却器4の空気流れ方向下流側には、ダンパ9が設けられている。ダンパ9は、空気加熱器5の通過風量が最大となる位置(暖房位置:開度100%)から最小となる位置(冷房位置:開度0%)まで可変できるようになっており、開度を調整することにより、空気加熱器5を通過する空気とバイパスする空気との割合を調整できるようになっている。
なお、ダンパ9は、エアミックスドアとも呼ばれる。また、空調ユニット2内の空気加熱器5の下流側には、図示しないが、PTCヒータ等の電気発熱式の加熱装置を配置するようにしてもよい。
【0028】
空気冷却器4の冷媒流出側4bは、圧縮機31の吸入側βに接続され、圧縮機31の吐出側αは、冷媒回路Rの冷媒と第2温水回路W2の熱媒体とを熱交換する熱媒体熱交換器32に導かれ、この熱媒体熱交換器32を介して膨張装置33の流入側33aに接続されている。膨張装置33の流出側33bは、空気冷却器4の冷媒流入側4aに接続されている。したがって、圧縮機31、熱媒体熱交換器32、膨張装置33、空気冷却器4の順でループ状に接続された冷凍サイクル(冷媒回路R)が形成されている。
なお、図示しないが、冷媒回路Rは、余剰冷媒を貯留する冷媒貯留器を有していてもよい。
【0029】
第1温水回路W1には、冷却水を圧送する電動式の第1ポンプ11と、この第1ポンプ11で圧送された冷却水を冷却するラジエータ12と、発熱機器(ePT)Eと、が配置されている。ラジエータ12の近傍には冷却ファン13が配置されている。ラジエータ12は、冷却ファン13により形成された空気流、あるいは車両が走行することに伴い車両前面から取り込んだ空気流が通過可能とされ、この空気流に第1温水回路W1の冷却水の熱を放熱する。発熱機器Eは、
図1に示されるように、冷却水の流れ方向においてラジエータ12の下流側に配置されることが好ましい。ラジエータ12で冷却された冷却水によって、発熱機器Eを効率的に冷却することができる。
【0030】
したがって、第1温水回路W1は、この回路を閉ループとして冷却水を循環させることで、発熱機器Eから発せられた熱を、冷却水で回収し、ラジエータ12を介して外気へ放出(放熱)することで、発熱機器Eを冷却可能としている。
なお、第1ポンプ11は、図示しないが、ラジエータ12の下流側に配置されて、ラジエータ12の内部の冷却水を吸引するとともに、吸引した冷却水を発熱機器Eに圧送するようにしてもよい。
【0031】
第2の温水回路W2には、冷却水を圧送する第2ポンプ21と、前記熱媒体熱交換器32と、冷却水を加熱する電気ヒータ(eHTR)22と、前記空気加熱器5と、が配置されている。
【0032】
熱媒体熱交換器32は、冷媒回路Rの冷媒が通流する第1流路32aと第2温水回路W2の冷却水が通流する第2流路32bとを備え、第1流路32a内を流れる冷媒と第2流路32b内を流れる冷却水とを混合させずに熱交換可能となっている。第1流路32a内を流れる冷媒の流れ方向と第2流路32b内を流れる冷却水の流れ方向とは、反対となっていることが好ましい。第1流路32a内を流れる冷媒の流れ方向と第2流路32b内を流れる冷却水の流れ方向とは、カウンターフローの関係として、熱交換の効率を向上できる。
【0033】
熱媒体熱交換器32は、
図1に示されるように、冷却水の流れ方向において電気ヒータ22の上流側に配置されることが好ましい。電気ヒータ22により加熱された冷却水が熱媒体熱交換器32を通過することがなく、冷媒回路Rの冷媒の熱を効率的に第2温水回路の冷却水に移動することができる。
【0034】
したがって、第2温水回路W2は、この回路を閉ループとして冷却水を循環させることで、熱媒体熱交換器32によって冷媒回路Rの冷媒から回収した熱を、空気加熱器5で放出可能としている
なお、第2ポンプ21は、図示しないが、熱媒体熱交換器32(第2流路32b)の下流側に配置されて、熱媒体熱交換器32の内部の冷却水を吸引するとともに、吸引した冷却水を空気加熱器5に圧送するようにしてもよい。
【0035】
第1温水回路W1と第2温水回路W2との間には、第1温水回路W1と第2温水回路W2とを分離させた分離状態と、第1温水回路W1と第2温水回路W2とを連結させて1つの循環回路を形成する連結状態と、を切り替える循環回路切替装置40が設けられている。この例では、循環回路切替装置40を、第1温水回路W1と第2温水回路W2との間に設けられた四方弁41によって構成している。
【0036】
この四方弁41は、弁体42の外面に第1開口42a、第2開口42b、第3開口42c、及び、第4開口42dの4つの開口を有すると共に、弁体42の内部に回転体43を有して構成され、第1開口42aが第1ポンプ11の流入口に接続され、第2開口42bが発熱機器Eに接続され、第3開口42cが第2ポンプ21の流出口に接続され、第4開口42dが熱媒体熱交換器32の第2流路32bに接続されている。回転体43は、第1開口42aと第2開口42bとを連通し、第3開口42cと第4開口42dとを連通する状態と、第1開口42aと第3開口42cとを連通し、第2開口42bと第4開口42dとを連通する状態とを、回転させることによって切り換え可能としている。
【0037】
従って、回転体43により、第1開口42aと第2開口42bとを連通させ、第3開口42cと第4開口42dとを連通させた状態においては、第1温水回路(W1)と第2温水回路W2とを分離させた分離状態が形成され、それぞれの温水回路で冷却水が個別に循環することになる。また、回転体43により、第1開口42aと第3開口42cとを連通させ、第2開口42bと第4開口42dとを連通させた状態においては、冷却水が第1温水回路W1と第2温水回路W2との両方を循環する1つの大きな循環経路が形成される。
【0038】
そして、以上の構成において、第2温水回路W2には、接続経路25を介してリザーブタンクTが連通されている。リザーブタンクTは、温水回路を循環する冷却水の熱膨張や熱収縮による体積変化を調整するそれ自体周知のもので、冷却水の体積膨張によって温水回路で余剰となった冷却水を一時的に貯蔵し、冷却水の体積収縮によって温水回路で不足する冷却水を温水回路へ引き戻す機能を有する。温水回路上でこのリザーブタンクTを接続経路25を介して第2温水回路W2に接続する位置は、第2温水回路上であればどこでもいいが、この例では、第2ポンプ21と四方弁41との間の管路上に接続されている。
【0039】
また、第1温水回路W1のラジエータ12と発熱機器Eとの間には、第1温水回路W1を流れる冷却水の物理量(例えば、温度又は圧力)を検出する第1検出センサ(第1温水回路側物理量検出装置)45を設け、第2ポンプ21と四方弁41との間には、第2温水回路W2を流れる冷却水の物理量(例えば、温度)を検出する第2検出センサ(第2温水回路側物理量検出装置)46が設けられている。
これら検出センサからの検出信号は、他の空調制御に必要なセンサからの検出信号と共に制御ユニット50に入力され、所定のプログラムに従って、送風機8やダンパ9を制御すると共に、圧縮機31、第1ポンプ11及び第2ポンプ21の稼働停止や、四方弁41の切り替え制御等が行われる。
【0040】
以上の構成において、車両用熱管理装置1のリザーブタンクTの機能(温水回路とリザーブタンクTとの間の冷却水の移動)について運転モード毎に説明する。
【0041】
先ず、車室内を暖房する要請があり、車両用熱管理装置1が停止状態から暖房運転モードで稼働する場合は、
図2に示されるように運転状態が遷移する。
なお、
図2において太い実線で示されている部分は熱媒体(冷却水または冷媒)が循環または通流している様子を、細い実線で示されている部分は熱媒体が滞留している様子を示す。また、
図3乃至
図16における太い実線、および細い実線も、同様の意味を有する。
【0042】
車両用熱管理装置1が停止状態である場合には、冷媒回路Rの圧縮機31、第1温水回路W1の第1ポンプ11、第2温水回路W2の第2ポンプ21は停止状態にある。
図3にも示されるように、第1温水回路W1と第2温水回路W2とを連結させて1つの循環回路を形成する連結状態としておく。これにより、第1温水回路W1と第2温水回路W2の冷却水はほぼ同じ温度と圧力で均衡する。
運転停止中に外気温度が変化すると、第2温水回路W2の冷却水の体積変化は、接続経路25を介して接続されたリザーバタンクTにより調整される。また、第1温水回路W1の冷却水の体積変化は、循環回路切替装置40、第2温水回路W2、および接続経路25を介してリザーバタンクTにより調整される。
【0043】
この停止状態から暖房運転モードで起動する場合には、
図4にも示されるように、第1ポンプ11の停止を維持し、第1温水回路W1を停止状態とする。また、第2ポンプ21を稼働し、四方弁41を分離状態とし、電気ヒータ22を稼働して発熱させ、ダンパ9をフルホット位置(空気加熱器5にのみ空気を通過させる開度100%の状態)として、第2温水回路W2を稼働する。また、圧縮機31の停止状態に維持し、冷媒回路Rを停止状態とする。
【0044】
この状態においては、第2温水回路W2内の冷却水は徐々に温度が高くなるため、熱膨張により第2温水回路内の冷却水の体積は増大するが、リザーブタンクTは、接続経路25を介して第2温水回路W2に接続されているので、第2温水回路内の余剰の冷却水はリザーブタンクTへ移動し貯留される。
【0045】
その後、発熱機器Eの発熱量が多くなり、発熱機器Eを冷却する要請が出てくると、
図5にも示されるように、第1ポンプ11を稼働すると共に冷却ファン13を稼働し、第1温水回路W1に冷却水を循環させる。四方弁41は、分離状態を維持する。これにより第1温水回路W1の冷却水は、発熱機器Eを冷却し、発熱機器Eから吸収した熱をラジエータ12にて空気流に放熱する。第1温水回路W1の冷却水は、発熱機器Eからラジエータ12までの経路で温度が上昇し、体積膨張するが、ラジエータ12によって十分に冷却されるため、冷却水の過度な体積膨張は直ちには発生しない。
一方、第2温水回路W2では、空気加熱器5においてここを通過する空気に放熱しているものの、冷却水が電気ヒータ22で温められており、空気加熱器5で加熱された空気が設定温度に達するまで、第2温水回路W2内の冷却水の温度は徐々に高められる(遷移状態)。したがって、この遷移状態においても、第2温水回路内の冷却水の温度上昇により冷却水の体積は増大するが、リザーブタンクTは接続経路25を介して第2温水回路W2に接続されているので、第2温水回路内の余剰の冷却水はリザーブタンクTへ移動し貯留される。
【0046】
その後、空気加熱器5で加熱された空気が設定温度に達すると、第2温水回路内の冷却水の温度は所定の温度で一定となる定常状態に至る。この状態においては、第2温水回路W2の冷却水は体積変化が殆どなくなるため、
図6にも示されるように、第2温水回路W2とリザーブタンクTとの間の冷却水の移動は殆どなくなる。第2温水回路W2とリザーブタンクTとの間の冷却水の移動は殆どないことは、
図6にて、接続経路25の近傍に点線の矢印として示されている。
【0047】
この定常状態に至った後に、第1温水回路W1において、発熱機器Eの発熱量が想定以上に多くなり、第1温水回路W1の冷却水がラジエータ12による放熱のみでは冷却し切れずに熱膨張する場合には、第1温水回路W1の冷却水の圧力上昇が許容値を超える虞がある。また、第2温水回路W2において、第2温水回路W2の冷却水の温度が空気加熱器5の放熱にも拘わらず、さらに温度が上昇して許容値を超える場合にも、冷却水を空気加熱器5での放熱以外の方法で放熱する必要がある。
【0048】
そこで、定常時において、このような状態に至った場合には、
図7にも示されるように、四方弁41を操作して、第1温水回路W1と第2温水回路W2とを連結させて1つの循環回路を形成する連結状態とする緊急時の運転状態とする。これにより、第1温水回路W1の冷却水の圧力が許容値を超えて高められた場合には、第1温水回路W1の圧力を第2温水回路W2へ開放し、連結状態としたことによる冷却水の体積膨張分をリザーブタンクTへ移動させる。また、第2温水回路W2の冷却水の温度が許容値を超えて高められた場合には、第2温水回路W2を流れていた冷却水の熱を空気加熱器5で放熱すると共にラジエータ12でも放熱することで、過度な温度上昇を抑える。
【0049】
その後、異常状態が抑えられた場合には(第1温水回路W1の冷却水の圧力が許容範囲内となり、且つ、第2温水回路W2の冷却水の温度が許容範囲内となった場合には)、四方弁41を操作し、再び第1温水回路W1と第2温水回路W2とを分離状態として
図6に示す定常状態の運転に戻す。以後、第1温水回路W1の冷媒圧力と第2温水回路W2の冷媒温度の検出結果に応じて、
図6の定常状態と
図7の非常時状態との間で運転状態が切り替えられる。
【0050】
次に、車室内の除湿暖房の要請があり、車両用熱管理装置1が停止状態から除湿暖房運転モードで稼働する場合は、
図8に示されるように運転状態が遷移する。
車両用熱管理装置1が停止状態である場合には、前述した
図3と同様、第1温水回路W1と第2温水回路W2とを連結させて1つの循環回路を形成する連結状態とし、車両用熱管理装置1の停止中に外気温度の変化に応じて第1温水回路W1や第2温水回路W2の冷却水が膨張または収縮しても、第2温水回路W2に接続経路25を介して接続されたリザーブタンクTにより、1つのサイクルとして体積変化を調整できるようにする。
【0051】
この停止状態から除湿暖房運転モードで起動する場合には、
図9にも示されるように、第1ポンプ11の停止を維持し、第1温水回路W1を停止状態とする。また、第2ポンプ21を稼働し、四方弁41を分離状態とし、電気ヒータ22を稼働して発熱させ、ダンパ9をエアミックス位置(空気加熱器5を通過する空気流と、空気加熱器5を迂回する空気流を形成する状態)として、第2温水回路W2を稼働する。また、圧縮機31を稼働し、冷媒回路Rを稼働状態とする。
【0052】
すると、圧縮機31で圧縮された高温高圧の冷媒は、熱媒体熱交換器32の第1流路32aに導かれ、第2流路32bを流れる冷却水と熱交換してこの冷却水に放熱する(第2温水回路W2の冷却水で冷却される)。その後、膨張装置33によって減圧膨張された後に空気冷却器4に導かれ、車室に供給される空気と熱交換してこの空気の熱を吸収する(空気を除湿する)。そして圧縮機31に吸引され、再び圧縮される。
【0053】
この状態においては、第2温水回路W2の冷却水は、熱媒体熱交換器32によって冷媒回路Rの冷媒から放出された熱と電気ヒータ22から放出された熱によって徐々に温度が高くなるため、熱膨張により第2温水回路内の冷却水の体積は増大するが、リザーブタンクTは接続経路25を介して第2温水回路W2に接続されているので、第2温水回路内の余剰の冷却水はリザーブタンクTへ移動し貯留される。
【0054】
その後、発熱機器Eの発熱量が多くなり、発熱機器Eを冷却する要請が出てくると、
図10にも示されるように、第1ポンプ11を稼働すると共に冷却ファン13を稼働し、第1温水回路W1に冷却水を循環させる。四方弁41は、分離状態を維持する。これにより第1温水回路W1の冷却水は、発熱機器Eを冷却し、発熱機器Eから吸収した熱をラジエータ12にて空気流に放熱する。第1温水回路W1の冷却水は、発熱機器Eからラジエータ12までの経路で温度が上昇し、体積膨張するが、ラジエータ12によって十分に冷却されるため、冷却水の過度な体積膨張は直ちには発生しない。
一方、第2温水回路W2では、空気加熱器5においてここを通過する空気に放熱しているものの、冷却水が熱媒体熱交換器32と電気ヒータ22とで温められており、空気加熱器5で加熱された空気が設定温度に達するまで、第2温水回路W2内の冷却水の温度は徐々に高められる(遷移状態)。したがって、この遷移状態においても、第2温水回路内の冷却水の温度上昇により冷却水の体積は増大するが、リザーブタンクTは接続経路25を介して第2温水回路W2に接続されているので、第2温水回路内の余剰の冷却水はリザーブタンクTへ移動し貯留される。
【0055】
その後、空気加熱器5で加熱された空気が設定温度に達すると、第2温水回路内の冷却水の温度は所定の温度で一定となる定常状態に至る。この状態においては、第2温水回路W2の冷却水は体積変化が殆どなくなるため、
図11にも示されるように、第2温水回路W2とリザーブタンクTとの間の冷却水の移動は殆どなくなる。第2温水回路W2とリザーブタンクTとの間の冷却水の移動は殆どないことは、
図11にて、接続経路25の近傍に点線の矢印として示されている。
【0056】
この定常状態に至った後に、第1温水回路W1において、発熱機器Eの発熱量が想定以上に多くなり、第1温水回路W1の冷却水がラジエータ12による放熱のみでは冷却し切れずに熱膨張する場合には、第1温水回路W1の冷却水の圧力上昇が許容値を超える虞がある。また、第2温水回路W2において、第2温水回路W2の冷却水の温度が空気加熱器5の放熱にも拘わらず、さらに温度が上昇して許容値を超える場合にも、冷却水を空気加熱器5での放熱以外の方法で放熱する必要がある。
【0057】
そこで、定常時において、このような状態に至った場合には、
図12にも示されるように、四方弁41を操作して、第1温水回路W1と第2温水回路W2とを連結させて1つの循環回路を形成する連結状態とする緊急時の運転状態とする。これにより、第1温水回路W1の冷却水の圧力が許容値を超えて高められた場合には、第1温水回路W1の圧力を第2温水回路W2へ開放し、連結状態としたことによる冷却水の体積膨張分をリザーブタンクTへ移動させる。また、第2温水回路W2の冷却水の温度が許容値を超えて高められた場合には、第2温水回路W2を流れていた冷却水の熱を空気加熱器5で放熱すると共にラジエータ12でも放熱することで、過度な温度上昇を抑える。
【0058】
その後、異常状態が抑えられた場合には(第1温水回路W1の冷却水の圧力が許容範囲内となり、且つ、第2温水回路W2の冷却水の温度が許容範囲内となった場合には)、四方弁41を操作し、再び第1温水回路W1と第2温水回路W2とを分離状態として
図11に示す定常状態の運転に戻す。以後、第1温水回路W1の冷媒圧力と第2温水回路W2の冷媒温度の検出結果に応じて、
図11の定常状態と
図12の非常時状態との間で運転状態が切り替えられる。
【0059】
次に、車室内の冷房の要請があり、車両用熱管理装置1が停止状態から冷房運転モードで稼働する場合は、
図13に示されるように運転状態が遷移する。
車両用熱管理装置1が停止状態である場合には、前述した
図3と同様、第1温水回路W1と第2温水回路W2とを連結させて1つの循環回路を形成する連結状態とし、車両用熱管理装置1の停止中に外気温度の変化に応じて第1温水回路W1や第2温水回路W2の冷却水が膨張または収縮しても、第2温水回路に接続経路25を介して接続されたリザーブタンクTにより、1つのサイクルとして体積変化を調整できるようにする。
【0060】
この停止状態から冷房運転モードで起動する場合には、
図14にも示されるように、第1ポンプ11を稼働し、第1温水回路W1を稼働状態とする。また、第2ポンプ21を稼働し、四方弁41を連結状態とし、電気ヒータ22の停止を維持し、ダンパ9をフルクール位置(空気加熱器5に空気を通過させない開度0%の位置)として、第2温水回路W2を稼働する。また、圧縮機31を稼働し、冷媒回路Rを稼働状態とする。
【0061】
すると、圧縮機31で圧縮された高温高圧の冷媒は、熱媒体熱交換器32の第1流路32aに導かれ、第2流路32bを流れる冷却水と熱交換してこの冷却水に放熱する(第2温水回路W2の冷却水で冷却される)。その後、膨張装置33によって減圧膨張された後に空気冷却器4に導かれ、車室に供給される空気と熱交換してこの空気の熱を吸収する(空気を冷却する)。そして圧縮機31に吸引され、再び圧縮される。
また、温水回路W1,W2を流れる冷却水は、熱媒体熱交換器32で冷媒回路Rの冷媒と熱交換して冷媒の熱を回収した後に、電気ヒータ22で加熱されず、また、ダンパ9がフルクール位置に設定されることから空気加熱器5で熱交換されることもなく高温のままラジエータ12に至り、ラジエータ12においてここを通過する空気に放熱する。
【0062】
この起動初期の状態においては、冷媒から回収される熱によって冷却水の温度が徐々に高められるため、冷却水の体積は増大するが、リザーブタンクTは接続経路25を介して連結状態の温水回路に接続されているので、温水回路内の余剰の冷却水はリザーブタンクTへ移動し貯留される。
第1温水回路W1と第2温水回路W2とを連結する状態は、発熱機器Eの発熱量が多くなり、冷媒から回収される熱と発熱機器Eから回収される熱によって連結状態の温水回路の冷却水の温度が徐々に高くなる遷移状態(
図15参照)においても継続される。したがって、この遷移状態においても、第2温水回路内の冷却水の温度上昇により冷却水の体積は増大するが、リザーブタンクTは接続経路25を介して連結状態にある温水回路(第2温水回路W2)に接続されているので、温水回路内の余剰の冷却水はリザーブタンクTへ移動し貯留される。
【0063】
その後、発熱機器Eの発熱量と冷媒回路Rの放熱量(第1流路32aを流れる冷媒から回収した熱量)の合計が、ラジエータ12の放熱量と釣り合う
図16で示す定常状態に至る。この状態においては、温水回路W1,W2の冷却水は体積変化が殆どなくなるため、第2温水回路W2とリザーブタンクTとの間の冷却水の移動は殆どなくなる。第2温水回路W2とリザーブタンクTとの間の冷却水の移動は殆どないことは、
図16にて、接続経路25の近傍に点線の矢印として示されている。
【0064】
なお、冷房運転モードにおいては、第1温水回路W1と第2温水回路W2は、起動初期から連結状態となっているので、温水回路の冷却水の圧力(体積変化)はリザーブタンクTにより調整可能であり、また、冷却水の温度はラジエータ12による放熱能力の調整により調整可能であり、冷却水の圧力や温度が過度に上昇することがないため、非常時のモードは不要である。
【0065】
したがって、第2温水回路W2に接続経路25を介してリザーブタンクTを連結させたことで、いずれの運転モードにおいても、第1温水回路W1と第2温水回路W2を流れる冷却水の熱膨張や熱収縮による体積変化に対応することが可能となる。よって、それぞれの温水回路にリザーブタンクを設けたり、接続経路をそれぞれの温水回路に接続したりする必要がなくなるので、車両用熱管理装置1の部品点数の増加や構造の複雑化を回避して構造を簡素化でき、熱管理装置の組み立てに要する時間や労力を低減して生産性を向上させることが可能となる。
【0066】
図17において、上述した車両用熱管理装置1の各運転モードでの制御ユニット50による四方弁41の動作例を説明する。
【0067】
まず、空調ユニット2が駆動しているか否かを、送風機8が駆動(ON)しているか否かによって判定する(ステップ50)。
送風機8が駆動していない(空調ユニット2が停止している)と判定された場合には、第1温水回路W1と第2温水回路W2とを連結して1つの循環回路を形成する連結状態を形成する(ステップ54)。また、送風機8が駆動している(空調ユニット2が稼働している)と判定された場合には、運転モードがフルクールモード(冷房モード)であるか否かを判定する(ステップ52)。
【0068】
フルクールモード(冷房モード)であると判定された場合には、第1温水回路W1と第2温水回路W2とを連結して1つの循環回路を形成する連結状態を維持する(ステップ54)。
これに対して、フルクールモード(冷房モード)でないと判定された場合(暖房モードや除湿暖房モードであると判定された場合)には、四方弁41を操作して、第1温水回路W1と第2温水回路W2とを分離させる分離状態とする(ステップ56)。
【0069】
第1温水回路W1と第2温水回路W2とを分離させる分離状態で車両用熱管理装置1が可動している状態においても、第2検出センサ46によって検出された第2温水回路W2の冷却水の物理量(温度)が許容値を超過した場合(例えば、第2温水回路W2の冷却水の温度が許容値を超えて過度に上昇した場合)には、四方弁41を操作して、第1温水回路W1と第2温水回路W2とを連結する連結状態を形成する(ステップ58,62)。また、第2温水回路W2の冷却水の物理量(温度)が許容値内であっても、第1検出センサ45によって検出された第1温水回路W1の冷却水の物理量(温度又は圧力)が許容値を超過した場合(例えば、第1温水回路W1の冷却水の温度や圧力から把握される第1温水回路W1の冷却水の体積が許容値を超えて過度に膨張した場合)には、四方弁41を操作して、第1温水回路W1と第2温水回路W2とを連結する連結状態を形成する(ステップ60,62)。
【0070】
なお、1温水回路W1と第2温水回路W2とを分離させる分離状態において、第1温水回路W1の冷却水の物理量や第2温水回路W2の冷却水の物理量が共に許容値以内であれば、分離状態を維持する(ステップ58,60,56)。
【0071】
また、ステップ62の連結状態が形成された後においても、第2の温水回路W2の冷却水の物理量と第1の温水回路W1の冷却水の物理量がそれぞれ許容値の範囲内になったか否かが判定され(ステップ58,60)、許容値の範囲内であると判定された場合には、四方弁41を操作して、第1温水回路W1と第2温水回路W2を分離させた分離状態とする(ステップ58,60,56)。
【0072】
なお、以上の構成においては、循環回路切替装置40として四方弁41を用いた場合について説明したが、四方弁41に代えて三方弁や開閉弁を用いて第1温水回路W1と第2温水回路W2の分離状態と連結状態を切り替えるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 車両用熱管理装置
2 空調ユニット
4 空気冷却器
5 空気加熱器
11 第1ポンプ
12 ラジエータ
21 第2ポンプ
25 接続経路
31 圧縮機
32 熱媒体熱交換器
33 膨張装置
40 循環回路切替装置
41 四方弁
45 第1検出センサ(第1温水回路物理量検出装置)
46 第2検出センサ(第2温水回路物理量検出装置)
T リザーブタンク
E 発熱機器