(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022079445
(43)【公開日】2022-05-26
(54)【発明の名称】Ni基自溶性合金、Ni基自溶性合金を用いたガラス製造用部材、ガラス製造用部材を用いた金型及びガラス塊搬送用部材
(51)【国際特許分類】
C22C 19/03 20060101AFI20220519BHJP
C03B 9/48 20060101ALI20220519BHJP
C03B 7/14 20060101ALI20220519BHJP
C22C 19/05 20060101ALI20220519BHJP
C22C 1/04 20060101ALN20220519BHJP
C22C 1/05 20060101ALN20220519BHJP
【FI】
C22C19/03 Z
C03B9/48
C03B7/14
C22C19/05 Z
C22C1/04 B
C22C1/05 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021186257
(22)【出願日】2021-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2020190427
(32)【優先日】2020-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000222222
【氏名又は名称】東洋ガラス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土屋 大地
(72)【発明者】
【氏名】川眞田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】東 利房
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA08
4K018AB01
4K018AB02
4K018AB03
4K018AB10
4K018BA04
4K018BA09
4K018BA20
4K018BB04
4K018BC12
4K018DA25
4K018KA18
(57)【要約】
【課題】Ni基自溶性合金、ガラス製造用部材、金型、及びガラス塊搬送用部材においてガラス塊に対する滑り性を向上させる。
【解決手段】 粘度がlogη=3~14.6(=10
3~10
14.6poise)のガラスを搬送又は成形するためのガラス製造用部材に用いるNi基自溶性合金は、0質量%以上0.5質量%以下のBと、0質量%以上5質量%未満の硬質粒子と、Siとを含む。Bが0質量%以上0.03質量%未満であるとよい。Siは1質量%以上7.5質量%未満であるとよく、更に1.5質量%より大きく7.5質量%未満、或いは5質量%以上7.5質量%未満であるとよい。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度がlogη=3~14.6のガラスを搬送又は成形するためのガラス製造用部材に用いるNi基自溶性合金であって、
0質量%以上0.5質量%以下のBと、0質量%以上5質量%未満の硬質粒子と、Siとを含むNi基自溶性合金。
【請求項2】
前記硬質粒子が、0質量%より大きく5質量%未満である請求項1に記載のNi基自溶性合金。
【請求項3】
前記Bが0質量%以上0.03質量%未満である請求項1又は請求項2に記載のNi基自溶性合金。
【請求項4】
前記Siが1質量%以上7.5質量%未満である請求項1~請求項3のいずれか1つの項に記載のNi基自溶性合金。
【請求項5】
前記Siが1.5質量%より大きく7.5質量%未満である請求項4に記載のNi基自溶性合金。
【請求項6】
前記Siが5質量%以上7.5質量%未満である請求項4に記載のNi基自溶性合金。
【請求項7】
前記硬質粒子が炭化物、窒化物、酸化物及びサーメットの少なくとも1つを含む請求項1~請求項6のいずれか1つに記載のNi基自溶性合金。
【請求項8】
前記炭化物が周期表第4、5及び6族元素のいずれか1つの炭化物を含む請求項7に記載のNi基自溶性合金。
【請求項9】
前記サーメットが周期表第4、5及び6族元素のいずれか1つの炭化物を含む請求項7に記載のNi基自溶性合金。
【請求項10】
周期表第4、5及び6族元素から選択された少なくとも1つの金属を0質量%より大きく30質量%以下含む請求項1~請求項9のいずれか1つの項に記載のNi基自溶性合金。
【請求項11】
周期表第4、5及び6族元素から選択された少なくとも1つの前記金属はCrを含む請求項10に記載のNi基自溶性合金。
【請求項12】
周期表第4、5及び6族元素から選択された少なくとも1つの前記金属が2.5質量%以上30質量%以下のCrを含む請求項10に記載のNi基自溶性合金。
【請求項13】
表面の温度が620℃に加熱され、水平面に対して70度傾斜した板状の前記Ni基自溶性合金に、1000℃に加熱された溶融ガラス0.3gを滴下したときに、溶融ガラスが前記Ni基自溶性合金に接着せずに滑り落ちる請求項1~請求項12のいずれか1つの項に記載のNi基自溶性合金。
【請求項14】
前記ガラス製造用部材は、400℃以上1400℃以下のガラスを搬送又は成形するための部材である請求項1~請求項13のいずれか1つの項に記載のNi基自溶性合金。
【請求項15】
請求項1~請求項14のいずれか1つの項に記載の前記Ni基自溶性合金を用いて、ガラスの成形加工において溶融ガラスと接触する部位を形成したガラス製造用部材。
【請求項16】
請求項15に記載のガラス製造用部材によって形成したガラスびん成形用の金型。
【請求項17】
請求項15に記載のガラス製造用部材によって形成したガラス塊搬送用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスを搬送又は成形するためのガラス製造用部材に用いるNi(ニッケル)基自溶性合金、Ni基自溶性合金を用いたガラス製造用部材、ガラス製造用部材を用いた金型及びガラス塊搬送用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス製品の成形工程において、ガラス製造用部材と高温状態にあるガラスとが接着しやすいと、成形時に製品形状に精度良く賦形ができない、或はガラス製品の表面に傷がつくといった成形不良が生じる。そのため、例えばガラスびんの成形においては、離型性を確保するために離型剤が頻繁に塗布されている(スワビングと呼ばれる)(例えば、特許文献1)。なお、これ以降本文中において、高温状態にあり成形加工が可能である状態のガラス、すなわち粘度がlogη=3~14.6(=103~1014.6poise)になっているガラス及びその塊のことを「溶融ガラス」又は「溶融ガラス塊」と定義する。ここで、logηは常用対数である。
【0003】
また、耐熱性及び耐摩耗性に優れたガラス製造用部材として、極微量のB(ホウ素)を含む合金が提案されている(例えば、特許文献2)。
【0004】
また、ガラス成形加工以外の分野において、プランジャーやハースロール等の表面の耐摩耗性を向上させるために、溶射によって部材の表面に被膜を形成することが公知である。被膜形成に使用する合金として、急激な熱変化が加わって皮膜が剥離することがなく、かつ溶射によって部材表面に皮膜を被覆した後フュージング処理(再溶融処理)により孔のない均質な皮膜を形成することができる自溶性合金が提案されている。自溶性合金として、質量%でNi:40~70%、Cr(クロム):5~40%、B:1~6%、Si(ケイ素):1~6%、C(炭素):0.1~2.0%、Fe(鉄):1~10%、W(タングステン):1~20%、Cu(銅):0.8~5%を含むものが提案されている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第01/28942号
【特許文献2】特公昭33-4952号公報
【特許文献3】特公昭61-49376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ガラス製品の成形工程において溶融ガラス塊と接触するガラス製造用部材に求められる性質として、溶融ガラス塊と接着しにくいこと、意図して設ける場合を除き部材表面に孔等(ピンホール等)がないこと、耐摩耗性が良く長寿命であることが求められており、従来のガラス製造用部材はこれらの性質を未だ十分に満足させるものではない。
【0007】
本発明は、以上の背景を鑑み、高い耐摩耗性を持ち且つ溶融ガラスに対する接着性が低い、ガラス製造用部材に用いるNi基自溶性合金、Ni基自溶性合金を用いたガラス製造用部材、ガラス製造用部材を用いた金型及びガラス塊搬送用部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様は、粘度がlogη=3~14.6のガラスを搬送又は成形するためのガラス製造用部材に用いるNi基自溶性合金であって、0質量%以上0.5質量%以下のBと、0質量%以上5質量%未満の硬質粒子と、Siとを含む。また、本発明の他の態様は、前記Ni基自溶性合金を用いて、ガラスの成形加工において溶融ガラスと接触する部位を形成したガラス製造用部材を提供する。また、本発明の他の態様は、前記ガラス製造用部材によって形成したガラスびん成形用の金型又はガラス塊搬送用部材を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のNi基自溶性合金は、その表面が高温領域においても溶融ガラスと接着しにくい。従って該合金を、ガラス製造用部材の全部又は一部に適用した場合、溶融ガラスと接触した際の摩擦が抑えられ、結果としてスワビング頻度の低減や製品不良抑制による製品歩留まり向上を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】溶融ガラス塊が金属材料又はガラス製造用部材と衝突した時に起こる現象の模式図
【
図4】実施例1~5及び比較例1~4についてサンプル表面温度に対する溶融ガラス塊の接着率を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、Ni基自溶性合金において、Bの配合量を0質量%以上0.5質量%以下にすることによって、高温領域においても溶融ガラスと接着し難くなることを見出したことが最大の特徴である。本発明によれば、Ni基自溶性合金表面における溶融ガラス塊の滑り性を向上させることができる。
【0012】
この現象が発現する機構について以下の様に推察している。本発明に係るNi基自溶性合金は、母材の表面に酸化被膜を形成する。Ni基自溶性合金の表面の断面を電子顕微鏡で観察したところ、母材と酸化被膜との間に隙間が形成されていることが確認された。このことから次のようなことが考えられる。
図1に模式的に示すように、本発明のNi基自溶性合金からなる金属材料14の表面に生成する金属酸化皮膜15は溶融ガラス塊16と共に母材(金属材料14)から剥離し易いと考えられる。また、明確な理由は明らかではないが、本発明のNi基自溶性合金の酸化皮膜は、周期表第4、5及び6族の金属を含有することによって更に剥離し易くなると推察している。周期表第4、5及び6族の金属の酸化皮膜は、Ni基自溶性合金に対して異なる熱膨張率を有するため、温度が上昇した際にNi基自溶性合金に対して剥離し易くなると考えられる。そのため、
図1(B)及び(C)に示すように、周期表第4、5及び6族の金属酸化皮膜15は、高温の溶融ガラス塊16と接触した際に溶融ガラス塊16に吸着してNi基自溶性合金からなる金属材料14(母材)から剥離する。これにより、Ni基自溶性合金のガラス塊に対する滑り性を向上させることができると考えられる。また、酸化皮膜が剥離した後、速やかに酸化皮膜が再生する、すなわち
図1(C)に示す状態から
図1(A)に示す状態に速やかに戻ることで、Ni基自溶性合金は溶融ガラス塊に対する高い滑り性を長期的に発現するものと考えられる。
【0013】
また、一般的にNiは他の金属材料に比較して、ガラスとの接着性が低いことが知られている。一方で、Bを添加したNi合金は、溶融ガラス塊との接着性が高くなる、すなわち溶融ガラス塊の金属材料表面における滑り性が悪くなることがある。この現象の理由としては、明確な理由は明らかではないが、Ni合金中のB、又は高温環境下でNi合金表面に生成するB2O3が、Ni合金酸化物の母材金属との密着性を向上させる、又はBとNi合金の混合酸化物が母材金属から剥離しにくいことで、上述の酸化皮膜の剥離現象が抑制され、結果としてNi合金表面と強固に接着し滑り性が悪くなる等が考えられる。
【0014】
本実施形態に係る、粘度がlogη=3~14.6(=103~1014.6poise)のガラスを成形するためのガラス製造用部材に用いるNi基自溶性合金は、0質量%以上0.5質量%以下のBと、0質量%以上5質量%未満の硬質粒子と、Siとを含む。ガラス製造用部材は、ガラス成形用部材とガラス搬送用部材とを含む。ここで、logηは常用対数である。本実施形態に係るNi基自溶性合金に含まれる成分の配合量は以下の範囲が好ましい。ガラスは、例えばソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、鉛ガラス等であってよい。また、ガラス製造用部材は、400℃以上1400℃以下のガラスを搬送又は成形するための部材であるといえる。
【0015】
本実施形態に係るNi基自溶性合金において、B(ホウ素)は0質量%以上0.5質量%以下である。Bは、0質量%以上0.03質量%未満であるとよい。なお、他の実施形態ではNi基自溶性合金がBを含まなくてもよい。また、本実施形態に係るNi基自溶性合金において、硬質粒子は0質量%より大きく5質量%未満である。
【0016】
本実施形態に係るNi基自溶性合金は、Si(ケイ素)を1.0質量%以上7.5質量%未満含む。また、Ni基自溶性合金は、Siを1.5質量より大きく7.5質量%未満含むとよい。また、Ni基自溶性合金は、Siを5質量%以上7.5質量%未満含むとよい。また、Ni基自溶性合金は、Siを5質量%以上7.5質量%未満含んでもよい。
【0017】
B及びSiは、フラックス成分であり、含有量が多いほどNi基自溶性合金の自溶性が向上する。B及びSiはNi基自溶性合金の表面にB2O3及びSiO2酸化皮膜を形成する。上述の通りB2O3は溶融ガラスとの接着性を高める要因となり得るので、本実施形態に係るNi基自溶性合金ではBの含有量が少ない方が好ましい。
【0018】
本実施形態に係るNi基自溶性合金において、硬質粒子は耐摩耗性を向上させるために添加される。硬質粒子としては、炭化物・窒化物・酸化物及びそれらと金属材料を複合した、所謂サーメット材料が含まれる。本実施形態に係るNi基自溶性合金は、硬質粒子として炭化物、窒化物、酸化物及びサーメットの少なくとも1つを含む。硬質粒子の含有量は、0質量%より大きく5質量%未満であるとよい。硬質粒子の含有量が増加すると耐摩耗性が向上するが、多すぎると部材を製作する時の切削加工等が難しくなる。また、硬質粒子の含有量が多くなると、Ni基自溶性合金は溶融ガラス塊に対して接着し易くなる。そのため、Ni基自溶性合金の溶融ガラス塊に対する接着性を低下させることを優先する場合、硬質粒子の含有量は低いほど好ましく、0であってもよい。
【0019】
硬質粒子としての炭化物は、周期表第4、5及び6族元素のいずれか1つの炭化物を含み、例えば、TiC(炭化チタン)、ZrC(炭化ジルコニウム)、HfC(炭化ハフニウム)、VC又はV2C(炭化バナジウム)、NbC(炭化ニオブ)、TaC(炭化タンタル)、Cr3C2、Cr7C3又はCr23C6(炭化クロム)、Mo2C(炭化モリブデン)、WC又はW2C(炭化タングステン)等を含む。
【0020】
また、硬質粒子としての炭化物は、炭化ケイ素であってもよい。
【0021】
硬質粒子としての酸化物は、ランタノイドから選択された少なくとも1つの金属の酸化物を含むとよい。ランタノイドから選択された少なくとも1つの金属の酸化物は酸化セリウムであるとよい。
【0022】
サーメットは、周期表第4、5及び6族元素のいずれか1つの炭化物を含むとよい。上記炭化物と金属材料を複合したサーメット粒子としては、バインダーとして12質量%のCo(コバルト)を含むWC(WC-12%Co)であることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0023】
以上の硬質粒子は、母材のNi基自溶性合金中に分散し、該合金の耐摩耗性を向上させ、ガラス製造用部材として使用した場合に長期耐久性を発現する。
【0024】
Ni基自溶性合金は、周期表第15族元素から選択された少なくとも1つの元素を含むとよい。前記周期表第15族元素から選択された少なくとも1つの元素を0質量%以上15質量%以下含むとよい。周期表第15族元素から選択された少なくとも1つの元素は、Pを含むとよい。
【0025】
本実施形態に係るNi基自溶性合金は、P(リン)を含むとよい。Pは、0質量%以上5質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上4質量%以下である。
【0026】
本実施形態に係るNi基自溶性合金は、周期表第4、5及び6族元素から選択された少なくとも1つの金属を含むとよい。金属は、0質量%以上30質量%以下であり、2.5質量%以上30質量%以下であることが好ましい。また、金属はCr(クロム)であることが好ましく、Crは2.5質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0027】
本実施形態に係るNi基自溶性合金は、上記成分の残渣として3.5質量%以上97.5質量%以下のNiを含み、製造工程において不可避な不純物を微少量含んでもよい。
【0028】
本実施形態に係るNi基自溶性合金中の硬質粒子を除いた金属成分は、所定の組成を持つならばどのように用意しても良い。Ni基自溶性合金は、例えば構成元素を含む金属及び無機化合物を溶融混合した後に凝固させて合金化させても良いし、構成元素を含む金属及び無機化合物の微粒子同士を混合させるだけでも良い。
【0029】
本発明のNi基自溶性合金を用いたガラス製造用部材の作製方法として、焼結又は鋳造が考えられるがこれに限定されるものではない。
【0030】
溶融ガラスと接触する部位のみに該合金を適用する方法として、鉄等の金属によって形成された金型及び溶融ガラス塊搬送用部材の溶融ガラス塊との接触面に、溶射、鍍金、クラッド、積層造形、溶接等でNi基自溶性合金から成る皮膜を被覆して形成してもよい。また、皮膜を形成した後に、フュージング処理(再溶融処理)を行うことによって、皮膜に生じた孔を閉じることができる共に、母材と皮膜との密着性を向上させることができる。
【0031】
ガラス製造用部材の一例を示す。
図3に示すようにガラス製造用部材は、溶融ガラスからガラスびんを成形するためのガラスびん成形用の金型42や、溶融ガラス槽43から供給される溶融ガラス塊(ゴブ)を金型42に搬送するためのガラス塊搬送用部材44を含む。金型42は、溶融ガラス塊からパリソンを成形するための粗型、バッフル、口型、プランジャー及びパリソンからガラスびんを成形するための仕上型を含む。ガラス塊搬送用部材44は、ゴブを粗型に搬送するためのシューターや樋等を含む。ガラス塊搬送用部材44は、スクープ44A、トラフ44B、デフレクタ44Cを含む。金型42及びガラス塊搬送用部材44は、その全体がNi基自溶性合金によって形成されてもよく、ガラス塊と接触する表面のみが皮膜としてNi基自溶性合金によって形成されてもよい。
【0032】
上記の態様において、620℃に加熱され、水平面に対して70度傾斜した板状の前記Ni基自溶性合金に、1000℃に加熱された溶融ガラス0.3gを滴下したときに、溶融ガラスがNi基自溶性合金に接着せずに滑り落ちる特性を有する。
【0033】
これらの態様によれば、溶融ガラス塊に対して高温領域においても接着しないNi基自溶性合金を提供することができ、さらには該合金を各種ガラス成形部材に適用することにより、溶融ガラス塊や板ガラスと接着せず良好な滑り性を有する各種ガラス製造用部材を提供することができる。ガラス製造用部材は、例えばプレス成形金型、成形ロール、搬送ロール、及び搬送モールドやガラスと接触する治具等を含む。
【実施例0034】
(溶融ガラス接着性評価試験装置)
溶融ガラスと金属との接着性を評価するための試験装置21について説明する。
図2に示すように、試験装置21はガラス棒22を支持するガラス棒ホルダ23と、ガラス棒22の下端を加熱するガラス棒加熱装置24と、ガラス棒加熱装置24の下方においてサンプル20を所定の角度で支持するサンプルホルダ26と、サンプル20を加熱するサンプル加熱装置27とを有する。
【0035】
サンプル20は、水平面に対して70度に傾斜し、その中央部がフレーム28の中心点Aの下方に100mm離れて配置されている。また、サンプル加熱装置27は、温度調節器32に繋がれたヒータ30及び熱電対31を備えた金属板である。
【0036】
ガラス棒加熱装置24は、四角形枠形のフレーム28と、フレーム28に支持された4本のバーナ29とを有する。各バーナ29は、噴射孔がフレーム28の内側を向き、かつそれぞれの噴射軸線がフレーム28の中心点Aで交わるようにフレーム28に支持されている。各バーナ29は、それぞれから噴射される火炎の先端がフレーム28の中心点Aで交わるように調節されている。
【0037】
(ガラス棒)
ガラス棒22の組成は、SiO2が69質量%、Al2O3が1.7質量%、Fe2O3が0.06質量%、Na2Oが8.5質量%、K2Oが4.9質量%、MgOが2.2質量%、CaOが4.0質量%、SrOが6.0質量%、BaOが3.2質量%、Sb2O3が0.3質量%、P2O5が0.2質量%、TiO2が0.03質量%、Clが0.03質量%、SO3が0.03質量%、ZrO2が0.1質量%である。ガラス棒の直径は4mmである。
【0038】
(実験方法)
サンプル20の表面温度を温度センサ(安立計器株式会社製静止表面用温度センサ A形シリーズ)で測定することにより所定の温度であることを確認した後、ガラス棒22の下端をフレーム28の中心点Aに配置し、各バーナ29から噴射される火炎によって加熱した。加熱されたガラス棒下端は球状となり、自然に落下してサンプル20と衝突する。衝突した瞬間のガラス塊温度をサーモグラフィ(シナノケンシ製プレクスロガーPL3)により測定する。
【0039】
(接着率測定方法)
サンプル20と衝突したガラス塊はサンプル20に接着(付着)するか或は接着せずに下方に落下する。サンプル20と衝突した瞬間のガラス塊の温度が1000(±20)℃の範囲内であった時、サンプル20表面に接着して留まったものを「接着有り」、サンプル20表面に接着せず下方に落下したものを「接着なし」と判定した。この試験を、あるサンプル20表面温度において10回実施し、10回中の「接着有り」の割合を接着率(%)とした。なお、溶融ガラスの温度範囲が上述の範囲から外れた時は評価の対象としなかった。
【0040】
実施例1~5及び比較例1~4に係るサンプルを以下に示す方法によって作製し、評価を行った。表1は、実施例1~5、及び比較例1~4の混合割合、作製方法、評価結果を示す。
【0041】
【0042】
(実施例1)
合金原料として、Niを残渣成分として、粒径105μm以下のSi、粒径150μm以下のNi2P、粒径63μm以下のCr、粒径2~3μmのNi、及び粒径約1.5μm以下のMo粉末(いずれも株式会社高純度化学研究所)を表1に示す割合で混合し、パルス通電焼結法により金属板を作製した後、追加工により幅3cm奥行4cm厚さ3mmで、表面粗さ(算術平均粗さRa)が約1μm以下の板を作製した。この板をサンプル20として用い溶融ガラス接着性評価試験を行った。
【0043】
(実施例2)
合金原料として、平均粒径10μm以下のW(タングステン)(株式会社高純度化学研究所)を混合し、表1の実施例2の混合割合とすること以外は実施例1と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0044】
(実施例3)
合金原料として、実施例1の組成に加え、硬質粒子としての粒径15-45μmのWC-12%Co(ユテクジャパン株式会社)を表1の実施例3に示す割合で混合し、鋳造により金属板を作製した後、追加工により幅3cm奥行4cm厚さ3mmで、表面粗さ(算術平均粗さRa)が約1μm以下の板を作製した。この板をサンプル20として用い溶融ガラス接着性評価試験を行った。
【0045】
(実施例4)
合金原料として、表1の実施例4の混合割合とすること以外は実施例3と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0046】
(実施例5)
合金原料として、さらに粒径45μm以下のB(株式会社高純度化学研究所)を0.03質量%混合すること以外は実施例4と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0047】
(比較例1)
合金原料として、表1の比較例1の混合割合とすること以外は実施例3と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0048】
(比較例2)
合金原料として、表1の比較例2の混合割合とすること以外は実施例1と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0049】
(比較例3及び4)
合金原料として、表1の比較例3及び4に示す割合で混合すること以外は実施例1と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0050】
(B、Siの影響)
図4は、実施例1~5と比較例1~4の溶融ガラス塊に対する接着性評価試験の結果である。各サンプル表面温度において、接着率が低いほど溶融ガラス塊に対する滑り性が高いことを示している。評価の判定基準として、サンプル表面温度が480℃、560℃及び620℃のときの接着率が10%未満の時を○(マル)、10%以上の時を×(バツ)とした。
図4からわかるように、Bの含有量が低下するほど接着率は低下することがわかる。Bの含有量が0質量%以上0.5質量%以下であり、かつ硬質粒子としてのWC-12%Coが0質量%より大きく5質量%未満である実施例1及び2は、480℃、560℃、及び620℃のいずれにおいても判定基準を満たす。Bの含有量が0質量%であるが、WC-12%Coの含有量が5質量%以上である比較例1及び2では、480℃及び560℃において判定基準を満たすが、620℃において判定基準を満たさない。更に、比較例2~4の結果から、Bの含有量が増加するほど接着率が増加することが判る。また、実施例2は、W(タングステン)を比較例2~4のWC-12%Coと同じ値の15.7質量%含むが、480℃、560℃、及び620℃のいずれにおいても判定基準を満たす。これにより、WはWC-12%Coほど接着率を増加させないことが判る。
【0051】
以上の実施形態に係るNi基自溶性合金によれば、溶融ガラス塊に対する滑り性を向上させることができる。また、該合金は、B及びSiの少なくとも一方のフラックス成分を含むことによって、フュージング処理を可能にしている。
【0052】
本発明のNi基自溶性合金は、その表面が620℃に加熱され、水平面に対して70度傾斜した板状の該合金に、1000(±20℃)℃に加熱された溶融ガラス0.3gを滴下した時に、溶融ガラスが該合金に接着せずに滑落する特性を有しており、この特性より該合金を実際のガラス成形加工に適用した際は溶融ガラス塊に対する摩擦が小さく良好な成形性を示す。
【0053】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。
本発明のNi基自溶性合金を用いたガラス製造用部材としては、金型、プランジャー、ローラー等の金属部材の他、溶融ガラス塊を搬送するために製びん工程において使用されるシューター等の搬送部材にも適用することができる。