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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022079478
(43)【公開日】2022-05-26
(54)【発明の名称】電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/00 20060101AFI20220519BHJP
   F04C 29/00 20060101ALI20220519BHJP
   H02K 5/22 20060101ALI20220519BHJP
   H02K 5/10 20060101ALI20220519BHJP
【FI】
F04B39/00 106A
F04B39/00 106B
F04B39/00 104Z
F04C29/00 T
H02K5/22
H02K5/10 Z
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032696
(22)【出願日】2022-03-03
(62)【分割の表示】P 2018185519の分割
【原出願日】2018-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2018070073
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】大橋 寛之
(72)【発明者】
【氏名】小林 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】安谷屋 拓
(72)【発明者】
【氏名】柳 恵史
(57)【要約】
【課題】接続端子とハウジングとの絶縁性を向上できる電動圧縮機を提供する。
【解決手段】電動圧縮機は、電動モータから引き出されたモータ配線27とモータ駆動回路と電気的に接続された導電部材とを電気的に接続する接続端子50と、接続端子50を内部に収容する絶縁性のクラスタブロック60と、電動モータとクラスタブロック60とを収容するモータ収容室を形成するハウジングとを備える。クラスタブロック60は、接続端子50を収容する端子収容室S5と、モータ配線27が挿通されるモータ配線挿通孔82と、モータ配線27を覆うとともにモータ配線挿通孔82に挿嵌される絶縁性のチューブ部材30を備える。端子収容室S5は、チューブ部材30の内周面30aとモータ配線27との間隙Rを介してモータ収容室と連通している。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮する圧縮部と、
前記圧縮部を駆動する電動モータと、
前記電動モータを駆動するモータ駆動回路と、
前記モータ駆動回路と電気的に接続された導電部材と、
前記電動モータから引き出されたモータ配線と、
前記モータ配線と前記導電部材とを電気的に接続する接続端子と、
前記接続端子を内部に収容する絶縁性のクラスタブロックと、
前記電動モータと前記クラスタブロックとを収容するモータ収容室を形成するハウジングと、
を備えた電動圧縮機において、
前記モータ配線は、導線と、前記導線を被覆する絶縁被膜とを有し、
前記クラスタブロックは、前記接続端子を収容する端子収容室と、前記モータ配線が挿通されるモータ配線挿通孔とを有し、
前記モータ配線を覆うとともに前記モータ配線挿通孔に挿嵌される絶縁性のチューブ部材を備え、
前記端子収容室は、前記チューブ部材の内側と前記モータ配線の外側との間隙を介して前記モータ収容室と連通し、
前記クラスタブロックは、前記接続端子を収容する端子収容孔を有するケース部材と、前記端子収容孔に対して嵌合しつつ前記端子収容室を区画形成する蓋部材を備え、
前記端子収容孔の開口部側の内周面には、前記チューブ部材の外周面に沿う形状の溝が形成され、
前記モータ配線挿通孔は、前記溝と前記蓋部材の外周面との間に形成され、
前記チューブ部材は、
少なくとも一部が前記蓋部材の外周面によって押圧されつつ前記溝の底面に当接するとともに、前記端子収容室の内周面にも当接するよう変形しつつ前記端子収容室の内部に収容され、
前記モータ配線挿通孔に挿嵌された部分において潰れるように変形している潰し部を有し、
前記接続端子によってかしめられ、
前記チューブ部材の前記潰し部の中心は、前記チューブ部材における前記接続端子によってかしめられた部分の中心に対してオフセットしている電動圧縮機。
【請求項2】
前記端子収容孔の開口部の内周面と前記チューブ部材の外周面との間に充填された樹脂を備える請求項1に記載の電動圧縮機。
【請求項3】
前記端子収容孔の開口部の内周面は、前記開口部に対する正面視において弧状である湾曲面を有し、
前記湾曲面が描く弧は、一端から他端に向かうにつれて、前記湾曲面と前記チューブ部材との距離が、常に等しい又は短くなるよう形成されている請求項1又は請求項2に記載の電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示の電動圧縮機は、冷媒を圧縮する圧縮部と、圧縮部を駆動する電動モータと、電動モータを駆動するモータ駆動回路と、モータ駆動回路と電気的に接続された導電部材と、電動モータから引き出されたモータ配線とを備える。また、電動圧縮機は、モータ配線と導電部材とを電気的に接続する接続端子と、接続端子を内部に収容する絶縁性のクラスタブロックと、電動モータ及びクラスタブロックを収容するモータ収容室を形成するハウジングとを備える。クラスタブロックは、接続端子を収容する端子収容室と、モータ配線が挿通されるモータ配線挿通孔とを有する。クラスタブロックは、接続端子を収容する端子収容孔を有するケース部材と、端子収容孔の開口部を閉塞しつつ端子収容室を形成する蓋部材とを有する。特許文献1では、モータ配線挿通孔は、蓋部材を貫通する貫通孔である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-148037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、モータ収容室内を流れる冷媒には、電動圧縮機内の摺動部位(例えば圧縮部)の潤滑を良好とするための潤滑油が含まれている。潤滑油を含んだ冷媒は、モータ配線挿通孔の内側とモータ配線との間隙を介して端子収容室内に侵入することがある。潤滑油は、接続端子とハウジングとを導通させる導体となり得る。よって、接続端子とハウジングとの間の絶縁を確保できない虞がある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、接続端子とハウジングとの絶縁性を向上できる電動圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するための電動圧縮機は、冷媒を圧縮する圧縮部と、前記圧縮部を駆動する電動モータと、前記電動モータを駆動するモータ駆動回路と、前記モータ駆動回路と電気的に接続された導電部材と、前記電動モータから引き出されたモータ配線と、前記モータ配線と前記導電部材とを電気的に接続する接続端子と、前記接続端子を内部に収容する絶縁性のクラスタブロックと、前記電動モータと前記クラスタブロックとを収容するモータ収容室を形成するハウジングと、備えた電動圧縮機において、前記クラスタブロックは、前記接続端子を収容する端子収容室と、前記モータ配線が挿通されるモータ配線挿通孔とを有し、前記モータ配線を覆うとともに前記モータ配線挿通孔に挿嵌される絶縁性のチューブ部材を備え、前記端子収容室は、前記チューブ部材の内側と前記モータ配線との間隙を介して前記モータ収容室と連通し、前記クラスタブロックは、前記接続端子を収容する端子収容孔を有するケース部材と、前記端子収容孔に対して嵌合しつつ前記端子収容室を区画形成する蓋部材を備え、前記モータ配線挿通孔は、前記端子収容孔の内周面と前記蓋部材の外周面との間に形成されることを要旨とする。
【0007】
従来技術のように、チューブ部材が設けられていない構成では、モータ収容室内を流れる冷媒は、モータ配線挿通孔とモータ配線との間隙を介して端子収容室内に侵入する。一方、チューブ部材が設けられた構成では、モータ収容室内を流れる冷媒は、チューブ部材の内側とモータ配線との間隙を介して端子収容室内に侵入する。チューブ部材を設けることによって、チューブ部材を設けない場合と比較して、接続端子とハウジングとの絶縁距離が長くなる。よって、接続端子とハウジングとの絶縁性を高めることができる。
【0008】
また、潤滑油を含んだ冷媒が端子収容室内に侵入すると、潤滑油は接続端子とハウジングとを導通させる導体となり、接続端子とハウジングとの間の絶縁を確保できない虞がある。これに対し、端子収容孔の一部が蓋部材によって端子収容室として区画形成されているため、潤滑油を含んだ冷媒が端子収容室内に侵入し難くなる。よって、接続端子とハウジングとの間の絶縁が確保される。以上のことから、接続端子とハウジングとの絶縁性を向上できる。
【0009】
また、上記電動圧縮機について、前記端子収容孔の開口部側の内周面には、前記チューブ部材の外周面に沿う形状の溝が形成され、前記モータ配線挿通孔は、前記溝と前記蓋部材の外周面との間に形成されるのが好ましい。
【0010】
これによれば、溝がチューブ部材の外周面に沿うため、モータ配線挿通孔の内側とチューブ部材の外周面との間隙が小さくなる。このため、冷媒は、モータ配線挿通孔の内側とチューブ部材の外周面との間隙を介して端子収容室内に侵入し難くなる。よって、接続端子とハウジングとの絶縁性をより高めることができる。
【0011】
また、上記電動圧縮機について、前記溝は、前記端子収容室の内周面に形成され、前記チューブ部材は、少なくとも一部が前記蓋部材の外周面によって押圧されつつ前記溝の底面に当接するとともに、前記端子収容室の内周面にも当接するよう変形しつつ前記端子収容室の内部に収容されているのが好ましい。
【0012】
一般に、導体の抵抗は、導体の断面積に反比例することが知られている。このため、導体の断面積が小さくなるほど、導体の抵抗は大きくなる。チューブ部材は、少なくとも一部が蓋部材の外周面によって押圧されつつ溝の底面に当接するとともに、端子収容室の内周面にも当接するように変形している。このため、端子収容室の内周面と溝との段差において、チューブ部材の内側とモータ配線との間隙の断面積が小さくなるため、チューブ部材の内側とモータ配線との間隙を流れる潤滑油を含む冷媒の抵抗が大きくなる。よって、接続端子とハウジングとの絶縁性をより高めることができる。
【0013】
また、上記電動圧縮機について、前記チューブ部材は、前記モータ配線挿通孔に挿嵌された部分において潰れるよう変形しているのが好ましい。
これによれば、必須の構成であるモータ配線挿通孔の形状や径を変更するだけで、チューブ部材の内側とモータ配線との間隙の断面積が小さくなるように、チューブ部材を容易に潰すことができる。
【0014】
また、上記電動圧縮機について、前記端子収容孔の開口部の内周面と前記チューブ部材の外周面との間に充填された樹脂を備えるのが好ましい。
これによれば、樹脂によって端子収容室の密閉性が高まるため、絶縁抵抗が高まる。
【0015】
また、上記電動圧縮機について、前記端子収容孔の開口部の内周面は、前記開口部に対する正面視において弧状である湾曲面を有し、前記湾曲面が描く弧は、一端から他端に向かうにつれて、前記湾曲面と前記チューブ部材との距離が、常に等しい又は短くなるよう形成されているのが好ましい。
【0016】
樹脂の充填は、塗布ノズルによって行われるが、開口部の形状やチューブ部材の配置によっては、ケース部材の内周面とチューブ部材の外周面との間に塗布ノズルを位置させることができない空間(ノズル配置不可空間)が生じることがある。ノズル配置不可空間は、例えば、開口部の内周面であってチューブ部材近傍の面と、チューブ部材の外周面との間の空間である。ノズル配置不可空間への樹脂の充填は、塗布ノズルによってノズル配置不可空間の近傍に樹脂を塗布し、塗布された樹脂がノズル配置不可空間に流れ込むことにより行われる。
【0017】
このとき、開口部の内周面であってチューブ部材近傍の面が、開口部に対する正面視において弧状である湾曲面であって、湾曲面が描く弧は、一端から他端に向かうにつれて、湾曲面とチューブ部材との距離が、常に等しい又は短くなるよう形成されている。これによれば、チューブ部材の外周面や湾曲面に樹脂が触れやすく、樹脂に作用する毛細管現象によって、樹脂が好適にノズル配置不可空間に流れ込むようになる。もしくは、少なくとも樹脂に作用する毛細管現象が、樹脂の流れ方向とは逆方向に作用しないため、樹脂の流れが止まってしまうことが抑制される。よって、ノズル配置不可空間全体に樹脂が充填されやすくなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、接続端子とハウジングとの絶縁性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1の実施形態の電動圧縮機の側断面図。
図2】コネクタの分解斜視図。
図3】コネクタの断面図。
図4】コネクタの断面図。
図5】コネクタの断面図。
図6】コネクタの斜視図。
図7】樹脂充填時のコネクタの側面図。
図8】第2の実施形態のコネクタの正面図。
図9】第2の実施形態におけるケース部材の側壁とチューブ部材との距離の関係を示す正面図。
図10】比較例におけるケース部材の側壁とチューブ部材との距離の関係を示す正面図。
図11】ケース部材の側壁とチューブ部材との距離の関係の別例を示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1の実施形態)
以下、電動圧縮機を具体化した第1の実施形態を図1図7にしたがって説明する。
図1に示すように、電動圧縮機10のハウジング11は、一端(図1の左端)に開口12aが形成された有底筒状をなすモータハウジング12と、モータハウジング12の一端に連結された有底筒状をなす吐出ハウジング13と、を有している。モータハウジング12の底壁121には、有底筒状のインバータカバー14が取り付けられている。モータハウジング12と吐出ハウジング13との間には吐出室S1が区画されている。吐出ハウジング13の底壁には吐出ポート15が形成されており、吐出ポート15には図示しない外部冷媒回路が接続されている。モータハウジング12の周壁122には図示しない吸入ポートが形成されており、吸入ポートには外部冷媒回路が接続されている。
【0021】
モータハウジング12内には、回転軸16と、冷媒を圧縮する圧縮部17と、圧縮部17を駆動する電動モータ18とが収容されている。よって、モータハウジング12は、電動モータ18を収容するモータ収容室S3を形成している。電動モータ18は、回転軸16を駆動させる。圧縮部17は、回転軸16が回転することにより駆動する。電動モータ18は、圧縮部17よりもモータハウジング12の底壁121(図1の右側)寄りに配置されている。
【0022】
モータ収容室S3内において、圧縮部17と電動モータ18との間には軸支部材19が設けられている。軸支部材19の中央部には、回転軸16の一端部が挿通される挿通孔19aが形成されている。挿通孔19aと回転軸16の一端部との間にはラジアルベアリング16aが設けられている。回転軸16の一端部は、ラジアルベアリング16aを介して軸支部材19に回転可能に支持されている。
【0023】
モータハウジング12の底壁121には、軸受部121aが凹設されている。軸受部121aの内側には回転軸16の他端部が挿入されている。軸受部121aと回転軸16の他端部との間にはラジアルベアリング16bが設けられている。回転軸16の他端部は、ラジアルベアリング16bを介して軸受部121aに回転可能に支持されている。
【0024】
また、モータハウジング12の底壁121とインバータカバー14とによって収容空間S2が区画されている。収容空間S2内において、底壁121におけるインバータカバー14側の外面にはモータ駆動回路20(図1において二点鎖線で示す)が取り付けられている。よって、本実施形態では、圧縮部17、電動モータ18、及びモータ駆動回路20がこの順序で回転軸16の軸線Lの延びる方向(軸方向)に沿って並んで配置されている。
【0025】
圧縮部17は、モータ収容室S3内に固定された固定スクロール17aと、固定スクロール17aに対向配置された可動スクロール17bとを備える。固定スクロール17aと可動スクロール17bとの間には容積変更可能な圧縮室S4が区画形成されている。圧縮室S4の容積変更により圧縮された冷媒は、吐出室S1に吐出される。モータ収容室S3、圧縮室S4、及び吐出室S1を流れる冷媒中には、電動圧縮機10内の摺動部位の潤滑(本実施形態では、例えば、固定スクロール17aと可動スクロール17bとの潤滑)を良好とするための潤滑油が含まれている。
【0026】
電動モータ18は、回転軸16と一体的に回転するロータ21(回転子)と、ロータ21を取り囲むようにモータハウジング12の内周面に固定されたステータ22(固定子)とから構成されている。
【0027】
ロータ21は、円筒形状をなすロータコア23を有するとともに、ロータコア23は回転軸16に止着されている。ロータコア23内には複数の永久磁石24が埋設されているとともに、各永久磁石24は、ロータコア23の周方向に等ピッチに設けられている。ステータ22は、モータハウジング12の内周面に固定された環状のステータコア25と、ステータコア25に設けられるU相、V相、W相のコイル26とを有している。
【0028】
ステータコア25の一端面251からは各相の第1コイルエンド261が突出している。ステータコア25の他端面252からは各相の第2コイルエンド262が突出している。第1コイルエンド261は、圧縮部17側(回転軸16の軸方向一端側)に位置するとともに、第2コイルエンド262は、モータ駆動回路20側(回転軸16の軸方向他端側)に位置している。
【0029】
各相の第1コイルエンド261からは、モータ配線27と相線28とが2本ずつ引き出されている。U相、V相、W相のコイル26は、低電圧化を図るために、2本の導線が巻回されて形成された二重線構造になっている。なお、図1では、例えば、U相の2本のモータ配線27及びU相の2本の相線28のみを図示している。各モータ配線27及び各相線28は、第1コイルエンド261から引き出されたコイル26の導線が絶縁被膜によって被覆された状態で第1コイルエンド261から引き出されている。
【0030】
図2に示すように、U相、V相、W相のコイル26に対応する各相線28は、相線束29として束ねられている。各相線28の先端部では、絶縁被覆が除去された導線が露出している。相線束29は、各相線28の先端部が互いに電気的に接続された相線接続部29a(中性点)を有する。
【0031】
図1に示すように、モータハウジング12の底壁121には貫通孔121bが形成されている。貫通孔121bには気密端子31が配設されている。気密端子31は、U相、V相、W相のコイル26に対応して3つの導電部材32(図1では1つのみ図示)を有している。各導電部材32は、直線状に延びる円柱状の金属端子である。各導電部材32は、貫通孔121bに挿通されるとともに一端がケーブル20aを介してモータ駆動回路20に電気的に接続されている。各導電部材32の他端は、収容空間S2から貫通孔121bを介してモータ収容室S3内に突出している。また、気密端子31は、各導電部材32を底壁121に対し絶縁しつつ固定するガラス製の3つの絶縁部材33(図1では1つのみ図示)を有している。
【0032】
モータ収容室S3には、コネクタ40が収容されている。コネクタ40は、モータ配線27と導電部材32とを接続する。コネクタ40は、回転軸16の径方向においてステータコア25及び第2コイルエンド262の外周側に配置されている。
【0033】
図2に示すように、コネクタ40は、U相、V相、W相のコイル26に対応する3つの接続端子50と、3つの接続端子50を収容する絶縁性のクラスタブロック60と、を備えている。
【0034】
各接続端子50はそれぞれ、モータ配線27と電気的に接続される第1接続部51を長手方向の一端側に有し、導電部材32と電気的に接続される第2接続部52を長手方向の他端側に有している。第1接続部51は、直線状に延びている。第1接続部51には、モータ配線27の先端部が接続されている。各相の2本のモータ配線27において、第1接続部51側の部分は、円筒状の絶縁性のチューブ部材30に挿通され、チューブ部材30によって覆われている。また、各モータ配線27の先端部では、チューブ部材30によって覆われず、かつ絶縁被膜が除去された導線が露出している。図3に示すように、チューブ部材30の内径は、モータ配線27の2本分の径よりも大きい。よって、チューブ部材30の内周面30aとモータ配線27との間には、間隙Rが形成されている。なお、図3は、後記する図4及び図5における3-3線断面図である。
【0035】
各接続端子50は、チューブ部材30における第1接続部51側の端部と、2本のモータ配線27とをかしめるかしめ部53を有している。かしめ部53は、第1接続部51におけるチューブ部材30側の一端部からチューブ部材30を囲むように延設されている。モータ配線27は、チューブ部材30に挿通された状態でかしめ部53によってかしめられることにより、各接続端子50に機械的に接続されている。第2接続部52は、第1接続部51の他端部に連続する略長四角筒状である。導電部材32の他端は、第2接続部52の内側に挿入される。第2接続部52の軸心方向は第1接続部51の長手方向に一致する。よって、接続端子50の第2接続部52に対する導電部材32の挿入方向は、第1接続部51の長手方向と一致する。
【0036】
図2及び図3に示すように、クラスタブロック60は、ケース部材61と、ケース部材61に組み付けられる蓋部材71と、を備えている。
図2に示すように、ケース部材61は、底壁62と、底壁62の縁部から立設する側壁63とによって形成された扁平四角箱状である。ケース部材61は、端子収容孔64を有している。図3に示すように、端子収容孔64には、各接続端子50と、各チューブ部材30における第1接続部51側の一部と、各相の2本のモータ配線27における第1接続部51側の一部とが収容されている。端子収容孔64は、3つの挿入孔64aと、3つの挿入孔64aと連なる開口部64bとを有している。開口部64bは、側壁63における底壁62側とは反対側に開口している。各挿入孔64aは、ケース部材61内に形成された区画壁65によって他の挿入孔64aと区画されている。各挿入孔64aは、軸心が底壁62からの側壁63の立設方向に沿って延びる細長孔状である。各挿入孔64aの軸心方向は、接続端子50の第1接続部51の長手方向と一致する。
【0037】
図2及び図4に示すように、3つの挿入孔64aは、ケース部材61を開口部64b側から見た正面視で、ケース部材61の長辺が延びる方向に並べて配置されている。よって、端子収容孔64に収容される各接続端子50の第2接続部52もケース部材61の長辺が延びる方向に並んでいる。ケース部材61の正面視で、各挿入孔64aは略四角形状である。各挿入孔64aの長手方向は各第2接続部52の長手方向と一致し、各挿入孔64aの短手方向は各第2接続部52の短手方向と一致している。また、各挿入孔64aの長手方向は、ケース部材61の長辺に対して傾斜している。
【0038】
図3に示すように、ケース部材61の底壁62には、各挿入孔64aに連通する円孔状の貫通孔62aが形成されている。各貫通孔62aは、各貫通孔62aの軸心方向から見たときに、各第2接続部52の内側に位置している。また、図2及び図3に示すように、ケース部材61の底壁62の外面には、円筒状のガイド部62bが3つ突設されている。各ガイド部62bの内側は各貫通孔62aに連通している。各ガイド部62bの軸心と各貫通孔62aの軸心とは一致している。そして、各導電部材32の他端は、各ガイド部62bの内側、及び各貫通孔62aを介して各接続端子50の第2接続部52の内側に挿嵌されている。これにより、各導電部材32と各接続端子50とが電気的に接続されている。したがって、各ガイド部62bの内側及び各貫通孔62aは、各導電部材32が挿通される導電部材挿通孔66を構成している。よって、ケース部材61は、導電部材挿通孔66を有している。
【0039】
図4に示すように、ケース部材61は、内部に有底円筒状の相線収容室67を有している。相線収容室67には、相線束29の相線接続部29aが収容されている。相線収容室67は、軸心が底壁62からの側壁63の立設方向に沿って延びる細長孔状である。相線収容室67の軸心方向は、挿入孔64aの軸心方向と一致している。相線収容室67は、区画壁65によって各挿入孔64aと区画されている。相線収容室67は、並んで配置されている3つの挿入孔64aのうち、中央に位置する挿入孔64aの内周面における長手方向の一方に位置する部分、及び一端側に位置する挿入孔64aの内周面における短手方向の一方に位置する部分のそれぞれと区画壁65を介して隣り合っている。相線収容室67は、端子収容孔64の開口部64bと連なっている。
【0040】
図2図3、及び図5に示すように、ケース部材61は、各挿入孔64aの内周面に溝68を有している。各溝68は、各挿入孔64aにおける開口部64b側に位置している。各溝68は、開口部64bに連なっている。各溝68は、挿入孔64aの内周面における長手方向の一方に位置する部分に形成されている。各溝68は、チューブ部材30の外周面30cに沿う形状であり、本実施形態の各溝68は、円弧状である。各挿入孔64aの内周面と各溝68とによって段差が形成されている。
【0041】
図3に示すように、各接続端子50は、第2接続部52が第1接続部51よりも導電部材挿通孔66側に位置するように開口部64bを介して各挿入孔64aにそれぞれ収容されている。また、相線束29は、相線接続部29aが導電部材挿通孔66側に位置するように開口部64bを介して相線収容室67に収容されている。
【0042】
図2に示すように、ケース部材61の4つの側壁のうち1つの側壁63の外面は、ケース部材61の内部に向けて凹状に湾曲する曲面63bである。曲面63bは、ステータコア25の外周面に沿って延びる面である。本実施形態のコネクタ40は、曲面63bがステータコア25の外周面に沿うようにモータ収容室S3内に配置される。
【0043】
蓋部材71は、板状の蓋部72を有している。蓋部72の外周面72aは、開口部64bを形成する側壁63の内周面に沿って延びている。図3に示すように、蓋部材71は、蓋部72がケース部材61の端子収容孔64の一部である開口部64bに嵌合されることにより、端子収容室S5を区画形成している。したがって、蓋部材71は、端子収容孔64に対して嵌合しつつ端子収容室S5を区画形成する。蓋部72の外周面72aは、開口部64bを形成する側壁63の内周面と対向している。また、蓋部72における端子収容孔64の各挿入孔64aに面する第1端面72bは、区画壁65における開口部64b側の端面65aと対向している。蓋部72の厚みは、区画壁65における開口部64b側の端面65aと側壁63における開口部64b側の端面63cとの距離よりも短い。よって、蓋部72において端子収容孔64の各挿入孔64aとは反対側の第2端面72cは、側壁63の端面63cよりも挿入孔64a側に位置している。図2に示すように、蓋部72は、蓋部72の外周面72aに凹設された3つのモータ配線挿通溝73と、相線束挿入凹部74とを有している。各モータ配線挿通溝73の底面は円弧状である。
【0044】
図3に示すように、各モータ配線挿通溝73と溝68とは、2本のモータ配線27が挿通されたチューブ部材30が挿嵌される環状のモータ配線挿通孔82を構成している。図5に示すように、モータ配線挿通孔82は、ケース部材61の正面視で、ケース部材61の短手方向において曲面63b寄りに位置している。本実施形態のモータ配線挿通孔82は、楕円形状である。モータ配線挿通孔82には、チューブ部材30が貫通している。チューブ部材30における第1接続部51側の端部は、端子収容室S5内に位置し、反対側の端部は、モータ収容室S3内に位置している。
【0045】
モータ配線挿通孔82の径は、チューブ部材30の外径よりも小さい。本実施形態では、モータ配線挿通孔82の長軸は、チューブ部材30の外径と同じであり、モータ配線挿通孔82の短軸は、チューブ部材30の外径よりも短い。よって、チューブ部材30は、モータ配線挿通孔82に挿嵌された部分に潰し部30bを有している。潰し部30bは、モータ配線挿通溝73と溝68によって押し潰されて形成されている。チューブ部材30は、モータ配線挿通溝73に押圧されつつ溝68の底面に当接するとともに、開口部64bの内周面にも当接するよう変形している。チューブ部材30の潰し部30bの中心は、チューブ部材30におけるかしめ部53によってかしめられた部分の中心に対してオフセットしている。潰し部30bにおいても、チューブ部材30の内周面30aと2本のモータ配線27との間には間隙Rが設けられている。潰し部30b及び潰し部30bの周辺(各挿入孔64aの内周面と各溝68とによって形成された段差と接する部分も含む)におけるチューブ部材30の内周面30aと2本のモータ配線27との間隙Rの断面積は、押し潰されていない他の部分におけるチューブ部材30の内周面30aと2本のモータ配線27との間隙Rの断面積よりも小さい。
【0046】
図3に示すように、端子収容室S5は、チューブ部材30の内周面30aと2本のモータ配線27との間に設けられた間隙Rを介してモータ収容室S3と連通している。なお、チューブ部材30はモータ配線挿通孔82に挿嵌されているため、端子収容室S5とモータ収容室S3とは、モータ配線挿通孔82の内側とチューブ部材30の外周面30cとの隙間を介した連通はしていない。また、図5に示すように、相線束挿入凹部74及び開口部64bを形成する側壁63の内周面は、相線束29が挿通される相線束挿通部83を構成している。
【0047】
図2に示すように、蓋部材71は、蓋部72の第1端面72bから延出する3つの延出部75を有している。図3に示すように、各延出部75は、蓋部72とは反対側の端部が蓋部72側の端部よりも導電部材挿通孔66側に位置するように開口部64bを介して各挿入孔64aにそれぞれ収容されている。各延出部75における蓋部72とは反対側の端部は、各接続端子50の第2接続部52における導電部材挿通孔66側とは反対側の端部と対向している。延出部75は、接続端子50の開口部64b側への移動を規制している。
【0048】
図2に示すように、蓋部材71は、蓋部72の第2端面72cから突出する突出部76を有している。突出部76は、各導電部材32を各接続端子50の第2接続部52の内側に挿入する際に、各接続端子50から荷重を受けた蓋部材71が移動しないように、図示しない治具によって支持される部分である。突出部76の外周面76aは、蓋部72の外周面72aよりも一回り内側に位置している。よって、ケース部材61の開口部64bを形成する側壁63の内周面と蓋部72の突出部76の外周面76aとの間には間隙が形成されている。
【0049】
図3図5、及び図6に示すように、開口部64bを形成する側壁63の内周面と突出部76の外周面76aとの間には、樹脂90が充填されている。樹脂90は、例えば、接着剤である。そして、樹脂90によって、開口部64bを形成する側壁63の内周面と突出部76の外周面76aとの間が封止されるとともに、開口部64bを形成する側壁63の内周面と突出部76の外周面76aとが樹脂90を介して接着されている。また、樹脂90は、相線束29と相線束挿通部83の内周面との間を介して相線収容室67内にも流れ込む。これにより、相線束挿通部83が封止されるとともに、相線束29とクラスタブロック60とが樹脂90を介して接着されている。樹脂90は、開口部64bの内周面とチューブ部材30の外周面30cとの間に充填されている。したがって、電動圧縮機10は、端子収容孔64の開口部64bの内周面とチューブ部材30の外周面30cとの間に充填された樹脂90を備えている。
【0050】
図7に示すように、樹脂90の充填は、塗布ノズルNによって行われる。樹脂90を充填する際、ケース部材61は、チューブ部材30が重力方向の上側に位置し、ガイド部62bが重力方向の下側に位置するように、図示しない保持部材によって保持される。塗布ノズルNは、曲面63bとは反対側に配置される。塗布ノズルNは、開口部64b内の複数箇所に移動し、各箇所にて開口部64b内に樹脂90を塗布する。つまり、樹脂90の塗布は複数回に分けて行われる。各箇所に塗布された樹脂90は、自重により広がる。その後、充填された樹脂90を熱硬化させる。
【0051】
このとき、塗布される樹脂90の粘度が高すぎると広がり難くなるため、塗布箇所を増やす必要がある。一方、塗布される樹脂90の粘度が低すぎると、樹脂90は、開口部64bを形成する側壁63の内周面と、蓋部72の外周面72aとの隙間を介して、端子収容室S5内に侵入し、接続端子50に付着してしまう。接続端子50に付着した樹脂90が硬化すると、各導電部材32を各接続端子50の第2接続部52の内側に挿入し難くなる。よって、塗布される樹脂90の粘度は、端子収容室S5内に侵入し難く、かつ広がりやすい粘度に設定されている。また、開口部64b内の複数箇所への樹脂90の塗布は、部材同士の間隔が狭く、樹脂90が充填され難い箇所から順に行われるのが好ましい。
【0052】
上記構成の電動圧縮機10では、モータ駆動回路20から各ケーブル20a、各導電部材32、各接続端子50、及び各モータ配線27を介して電動モータ18に電力が供給されると、電動モータ18が駆動し、電動モータ18の駆動に伴う回転軸16の回転によって、圧縮部17が駆動して冷媒が圧縮部17により圧縮される。
【0053】
第1の実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)モータ収容室S3内を流れる冷媒は、モータ配線挿通孔82を介して端子収容室S5内に侵入することがあり、冷媒に含まれる潤滑油は、接続端子50とモータハウジング12とを導通させる導体となり得る。一般に、導体の抵抗は、導体の長さに比例することが知られている。このため、導体の長さが長くなるほど、導体の抵抗は大きくなる。すなわち、潤滑油を介して接続端子50とモータハウジング12とが導通する距離(接続端子50とモータハウジング12との絶縁距離)を長くするほど、接続端子50とモータハウジング12との絶縁性を高めることができる。
【0054】
チューブ部材30が設けられていない構成では、モータ収容室S3内を流れる冷媒は、モータ配線挿通孔82と2本のモータ配線27との間隙を介して端子収容室S5内に侵入する。一方、チューブ部材30が設けられた構成では、冷媒は、チューブ部材30の内側と2本のモータ配線27との間隙Rを介して端子収容室S5内に侵入する。チューブ部材30を設けることによって、チューブ部材30を設けない場合と比較して、接続端子50とモータハウジング12との絶縁距離が長くなる。よって、接続端子50とモータハウジング12との絶縁性を高めることができる。
【0055】
また、潤滑油を含んだ冷媒が端子収容室S5内に侵入すると、潤滑油は、接続端子50とモータハウジング12とを導通させる導体となり得る。よって、接続端子50及びモータ配線27と、モータハウジング12との間の絶縁を確保できない虞がある。これに対し、端子収容孔64の一部が蓋部材71によって端子収容室S5として区画形成されているため、潤滑油を含んだ冷媒が端子収容室S5内に侵入し難くなる。よって、接続端子50とモータハウジング12との間の絶縁が確保される。以上のことから、接続端子50とモータハウジング12との絶縁性を向上できる。
【0056】
(2)各挿入孔64aの内周面には、チューブ部材30の外周面30cに沿う形状の溝68が形成されている。各溝68は、各挿入孔64aの開口部64b側の内周面に形成されている。このため、端子収容室S5内での接続端子50の位置は変更されない。すなわち、導電部材挿通孔66に対する接続端子50の第2接続部52の軸心の位置は変更されない。よって、接続端子50の第2接続部52に対して導電部材32をスムーズに接続できる。
【0057】
(3)一般に、導体の抵抗は、導体の断面積に反比例することが知られている。このため、導体の断面積が小さくなるほど、導体の抵抗は大きくなる。チューブ部材30は、少なくとも一部が蓋部72のモータ配線挿通溝73によって押圧されて溝68の底面に当接するとともに、開口部64bの内周面にも当接するように変形している。このため、開口部64bの内周面と溝68との段差において、チューブ部材30の内周面30aとモータ配線27との間隙Rの断面積が小さくなるため、間隙Rを流れる潤滑油を含む冷媒の抵抗を大きくできる。よって、接続端子50とモータハウジング12との絶縁性をより高めることができる。
【0058】
(4)モータ配線挿通孔82の径をチューブ部材30の内径より小さくし、モータ配線挿通孔82にチューブ部材30を挿通することで、チューブ部材30におけるモータ配線挿通孔82に挿嵌された部分に潰し部30bが形成される。クラスタブロック60において必須の構成であるモータ配線挿通孔82の径を変更するだけで、チューブ部材30の内周面30aとモータ配線27との間隙Rの断面積が小さくなるように、チューブ部材30に潰し部30bを容易に形成できる。
【0059】
(5)電動圧縮機10は、端子収容孔64の開口部64bの内周面とチューブ部材30の外周面30cとの間に充填された樹脂90を備えている。これによれば、樹脂90によって端子収容室S5の密閉性が高まるため、絶縁抵抗が高まる。
【0060】
(6)モータ配線挿通孔82は、ケース部材61と蓋部材71とを組み付けることで形成される。このため、例えば、蓋部72を貫通する貫通孔をモータ配線挿通孔82とする場合と比較して、モータ配線挿通孔82を容易に形成できるとともに、モータ配線挿通孔82に対してチューブ部材30を挿通しやすい。
【0061】
(第2の実施形態)
以下、電動圧縮機を具体化した第2の実施形態を図8及び図9を用いて説明する。なお、開口部64bを形成する側壁63の内周面の形状以外については、第1の実施形態と同様の構成であるため、説明を省略する。
【0062】
図8に示すように、開口部64bを形成する側壁63の内周面は、ケース部材61の正面視で、ケース部材61の短手方向に向かい合う第1長側内面631と第2長側内面632とを有する。第1長側内面631は、側壁63の曲面63bに沿う面であり、第2長側内面632は、ケース部材61の長辺が延びる方向に沿う平坦面である。開口部64bを形成する側壁63の内周面は、ケース部材61の正面視で、ケース部材61の長手方向の両側にそれぞれ位置する第1短側内面633と第2短側内面634とを有する。第1短側内面633及び第2短側内面634はそれぞれ、ケース部材61の短辺が延びる方向に沿う平坦面である。開口部64bを形成する側壁63の内周面は、第1長側内面631の一端部と第1短側内面633の一端部とを接続する湾曲面としての第1接続面635と、第2長側内面632の一端部と第2短側内面634の一端部とを接続する第2接続面636とを有する。第1接続面635は、開口部64bに対する正面視において弧状である。また、第2接続面636は、弧状に湾曲する曲面である。開口部64bを形成する側壁63の内周面は、ケース部材61の正面視で、第1短側内面633の他端部と第2長側内面632の他端部とを接続する第3接続面637と、第1長側内面631の他端部と第2短側内面634の他端部とを接続する第4接続面638とを有する。第3接続面637及び第4接続面638はそれぞれ、平坦面である。3本のチューブ部材30のうち、第1短側内面633寄りに位置するチューブ部材30を端側チューブ部材301とする。
【0063】
図9に示すように、第1長側内面631と端側チューブ部材301の外周面30cとの距離を第1距離Xとし、第1短側内面633と端側チューブ部材301の外周面30cとの距離を第2距離Yとする。第1距離Xは、第1長側内面631上の任意の点と、その点から最も近い外周面30c上の点との間の距離である。第2距離Yは、第1短側内面633上の任意の点と、その点から最も近い外周面30c上の点との間の距離である。第1距離Xの最短距離X0は、第2距離Yの最短距離Y0よりも長い。また、第1接続面635と端側チューブ部材301の外周面30cとの距離を第3距離Zとする。第3距離Zは、第1接続面635上の任意の点と、その点から最も近い外周面30c上の点との間の距離である。本実施形態の第3距離Zは、第2距離Yの最短距離Y0より長く、かつ第1距離Xの最短距離X0と同じである。また、第3距離Zは、第1接続面635における第1長側内面631側の一端部から、第1短側内面633側の他端部までの間で一定である。したがって、第1接続面635が描く弧は、一端から他端に向かうにつれて、第1接続面635と端側チューブ部材301の外周面30cとの距離である第3距離Zが、常に等しくなるように形成されている。
【0064】
ところで、開口部64bに対する塗布ノズルNの移動範囲は、開口部64b内でのチューブ部材30の配置によって制限されることがある。本実施形態では、第1長側内面631、第1短側内面633、及び第1接続面635と、端側チューブ部材301の外周面30cとによって挟まれる部分は、塗布ノズルNを位置させることができないノズル配置不可空間A(図8及び図9にドットで示す)である。したがって、ノズル配置不可空間Aは、開口部64bの内周面であって端側チューブ部材301近傍の面と、端側チューブ部材301の外周面30cとの間の空間である。よって、ノズル配置不可空間Aには、塗布ノズルNによって樹脂90を直接塗布することができない。このため、ノズル配置不可空間Aへの樹脂90の充填は、塗布ノズルNによってノズル配置不可空間Aの近傍に樹脂90を塗布し、塗布された樹脂90がノズル配置不可空間Aに流れ込むことにより行われる。
【0065】
次に、第2の実施形態の作用について、比較例とともに説明する。
例えば、図10に示す比較例では、第1距離Xは、第1距離Xが最短距離X0となる部分から第1接続面635に向かうにつれて長くなる。同様に、第2距離Yは、第2距離Yが最短距離Y0となる部分から第1接続面635に向かうにつれて長くなる。このため、第3距離Zは、第1距離Xの最短距離X0よりも長く、かつ第2距離Yの最短距離Y0よりも長い。よって、ノズル配置不可空間Aは、第1距離Xが最短となる部分から第1接続面635側に離間するにつれて広くなっていく。また、ノズル配置不可空間Aは、第2距離Yが最短となる部分から第1接続面635側に離間するにつれて広くなっていく。このように開口部64bを形成する側壁63の内周面の形状や、開口部64b内でのチューブ部材30の配置によっては、塗布ノズルNによってノズル配置不可空間Aの近傍に樹脂90を塗布しても、ノズル配置不可空間Aにおいて樹脂90が充填されない部分が生じることがある。
【0066】
塗布ノズルNによってノズル配置不可空間Aの近傍に塗布された樹脂90は、例えば、ノズル配置不可空間Aにおける第1距離Xが最短となる部分を介して第1接続面635と端側チューブ部材301の外周面30cとの間に向かって流れ込む。このとき、比較例のノズル配置不可空間Aは、第1距離Xが最短となる部分から第1接続面635側に離間するにつれて広くなっている。よって、ノズル配置不可空間Aは、樹脂90の流れ方向(進行方向)に対して広がっている。したがって、樹脂90は、ノズル配置不可空間Aにおける第1距離Xが最短となる部分近傍を形成する端側チューブ部材301の外周面30cや第1長側内面631に触れやすく、樹脂90に作用する毛細管現象が、ノズル配置不可空間Aにおける第1距離Xが最短となる部分近傍に向かう方向(図10に示す矢印M11の方向)に作用する。つまり、樹脂90に作用する毛細管現象が、樹脂90の流れ方向とは逆方向に作用するため、樹脂90の流れが止まってしまうことがある。
【0067】
また、塗布ノズルNによってノズル配置不可空間Aの近傍に塗布された樹脂90は、例えば、ノズル配置不可空間Aにおける第2距離Yが最短となる部分を介して第1接続面635と端側チューブ部材301の外周面30cとの間に向かって流れ込む。このとき、比較例のノズル配置不可空間Aは、第2距離Yが最短となる部分から第1接続面635側に離間するにつれて広くなっている。よって、ノズル配置不可空間Aは、樹脂90の流れ方向(進行方向)に対して広がっている。したがって、樹脂90は、ノズル配置不可空間Aにおける第2距離Yが最短となる部分近傍を形成する端側チューブ部材301の外周面30cや第1短側内面633に触れやすく、樹脂90に作用する毛細管現象が、ノズル配置不可空間Aにおける第2距離Yが最短となる部分近傍に向かう方向(図10に示す矢印M12の方向)に作用する。つまり、樹脂90に作用する毛細管現象が、樹脂90の流れ方向とは逆方向に作用するため、樹脂90の流れが止まってしまうことがある。したがって、ノズル配置不可空間Aに樹脂90が充填されない部分が生じてしまう虞がある。
【0068】
これに対し、第2の実施形態では、第3距離Zは、第1距離Xの最短距離X0と同じであり、かつ第1長側内面631から第1短側内面633までの間で一定である。このため、ノズル配置不可空間Aが、第1距離Xが最短となる部分から第1接続面635側に離間するにつれて広くなることが無い。したがって、塗布ノズルNによってノズル配置不可空間Aの近傍に塗布された樹脂90が、例えば、ノズル配置不可空間Aにおける第1距離Xが最短となる部分を介して第1接続面635と端側チューブ部材301の外周面30cとの間に向かって流れ込んだ際に、端側チューブ部材301の外周面30cや第1接続面635に触れやすい。その結果、樹脂90に作用する毛細管現象が、樹脂90の流れ方向と同じ方向に作用するため、樹脂90の流れが止まってしまうことが毛細管現象により抑制される。もしくは、少なくとも樹脂90に作用する毛細管現象が、樹脂90の流れ方向とは逆方向に作用しないため、樹脂90の流れが止まってしまうことが抑制される。よって、ノズル配置不可空間A全体に樹脂90が充填されやすくなる。
【0069】
第2の実施形態では、第1の実施形態の効果(1)~(6)に加えて、以下の効果を得ることができる。
(7)第1接続面635が描く弧は、一端から他端に向かうにつれて、第1接続面635と端側チューブ部材301の外周面30cとの距離である第3距離Zが、常に等しくなるように形成されている。これによれば、端側チューブ部材301の外周面30cや第1接続面635に樹脂が触れやすく、樹脂90に作用する毛細管現象によって、樹脂90が好適にノズル配置不可空間Aに流れ込むようになる。もしくは、少なくとも樹脂90に作用する毛細管現象が、樹脂90の流れ方向とは逆方向に作用しないため、樹脂90の流れが止まってしまうことが抑制される。よって、ノズル配置不可空間A全体に樹脂90が充填されやすくなる。
【0070】
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
○ ケース部材61は、区画壁65を省略した構成であってもよい。この場合、3つの挿入孔64a及び開口部64bは一体化され、端子収容孔64は、3つの接続端子50が収容される1つの空間となる。
【0071】
○ 導電部材挿通孔66は、ケース部材61の側壁63に設けられてもよい。この場合、第2接続部52の軸心方向は、第1接続部51の長手方向と直交する。すなわち、接続端子50の第2接続部52に対する導電部材32の挿入方向は、第1接続部51の長手方向と直交する。
【0072】
○ クラスタブロック60のケース部材61内における各挿入孔64a及び相線収容室67の配置態様は適宜変更してよい。例えば、各挿入孔64a及び相線収容室67は、一直線上に並んで配置されてもよい。
【0073】
○ ケース部材61は、各溝68を省略した構成であってもよい。この場合、各モータ配線挿通孔82は、開口部64bの内周面と蓋部72の外周面72aとの間に形成される。
【0074】
○ 蓋部材71は、延出部75を省略した構成であってもよい。
○ 蓋部材71において、突出部76の形状は適宜変更してよい。また、蓋部材71は、突出部76を省略した構成であってもよい。
【0075】
○ 相線束挿通部83の構成は、適宜変更してもよい。相線束挿通部83は、例えば、蓋部72を貫通する貫通孔であってもよい。
○ チューブ部材30の形状は、適宜変更してもよい。チューブ部材30は、例えば、四角筒や三角筒であってもよい。また、モータ配線挿通孔82を形成する溝68及びモータ配線挿通溝73の形状は、楕円形状に限定されず、チューブ部材30の形状に応じて適宜変更してよい。
【0076】
○ チューブ部材30は、潰し部30bを有していなくてもよい。
○ チューブ部材30を押し潰して潰し部30bを形成するための構成は、適宜変更してもよい。例えば、蓋部72を貫通する円孔をモータ配線挿通孔82とし、円孔の径をチューブ部材30の外径よりも小さくしてもよい。また、例えば、ケース部材61は、各挿入孔64aの内周面から突出する突起を備えていてもよい。この場合、チューブ部材30における突起と接触する部分が折れ曲がることで潰し部30bが形成される。
【0077】
○ チューブ部材30におけるクラスタブロック60の外部に位置する部分がねじられることにより潰し部30bが形成されていてもよい。この場合も、チューブ部材30の内周面30aと2本のモータ配線27との間隙Rの断面積が小さくなるため、潤滑油を含む冷媒の抵抗を大きくできる。
【0078】
○ 樹脂90を省略してもよい。このとき、各挿入孔64aの内周面にチューブ部材30の外周面30cに沿う形状の溝68が形成されていると、溝68はチューブ部材30の外周面30cに沿うため、モータ配線挿通孔82の内側とチューブ部材30の外周面30cとの間隙が小さくなる。このため、冷媒は、モータ配線挿通孔82の内側とチューブ部材30の外周面30cとの間隙を介して端子収容室S5内に侵入し難くなる。よって、接続端子50とモータハウジング12との絶縁性をより高めることができる。
【0079】
○ コイル26の相数を変更してよい。
○ コイル26を形成する導線の本数は、1本でもよいし、3本以上でもよい。
○ 1本のチューブ部材30に挿通されるモータ配線27の本数は、コイル26を形成する導線の本数に応じて変更してよい。ただし、チューブ部材30の内径、及びチューブ部材30に挿通されるモータ配線27の外径は、チューブ部材30の内周面30aとモータ配線27との間に間隙Rが設けられるような径とする。
【0080】
○ ケース部材61の端子収容孔64の挿入孔64aの数は、コイル26の相数に応じて適宜変更してよい。
○ ケース部材61の導電部材挿通孔66の数は、コイル26の相数に応じて変更してよい。
【0081】
○ クラスタブロック60のモータ配線挿通孔82の数は、コイル26の相数に応じて適宜変更してよい。
○ 第2の実施形態において、開口部64bを形成する側壁63の内周面の形状は、図11のように変更してもよい。
【0082】
図11では、側壁63の内周面は、第3距離Zが、第1距離Xの最短距離X0より短く、かつ第2距離Yの最短距離Y0より長くなるように形成されるとともに、第1長側内面631から第1短側内面633に向かうにつれて短くなるように形成される。よって、第1接続面635が描く弧は、一端から他端に向かうにつれて、第1接続面635と端側チューブ部材301の外周面30cとの距離である第3距離Zが、短くなるように形成されている。この場合、ノズル配置不可空間Aが、第1距離Xが最短となる部分から第1接続面635側に離間するにつれて広くなることが無い。したがって、塗布ノズルNによってノズル配置不可空間Aの近傍に塗布された樹脂90が、例えば、ノズル配置不可空間Aにおける第1距離Xが最短となる部分を介して第1接続面635と端側チューブ部材301の外周面30cとの間に向かって流れ込んだ際に、端側チューブ部材301の外周面30cや第1接続面635に触れやすい。その結果、樹脂90に作用する毛細管現象が、樹脂90の流れ方向と同じ方向に作用するため、樹脂90の流れが止まってしまうことが毛細管現象により抑制される。よって、ノズル配置不可空間A全体に樹脂90が充填されやすくなる。
【0083】
○ 第2の実施形態において、側壁63の内周面は、第3距離Zが、第1距離Xの最短距離X0より短く、かつ第1長側内面631から第1短側内面633までの間で一定となるように形成されていてもよい。
【0084】
○ 第2の実施形態において、側壁63の内周面は、第3距離Zが、第2距離Yの最短距離Y0以下であり、かつ第1短側内面633から第1長側内面631までの間で一定となるように形成されていてもよい。
【0085】
この場合、ノズル配置不可空間Aが、第2距離Yが最短となる部分から第1接続面635側に離間するにつれて広くなることが無い。したがって、塗布ノズルNによってノズル配置不可空間Aの近傍に塗布された樹脂90が、例えば、ノズル配置不可空間Aにおける第2距離Yが最短となる部分を介して第1接続面635と端側チューブ部材301の外周面30cとの間に向かって流れ込んだ際に、端側チューブ部材301の外周面30cや第1接続面635に触れやすい。その結果、樹脂90に作用する毛細管現象が、樹脂90の流れ方向と同じ方向に作用するため、樹脂90の流れが止まってしまうことが毛細管現象により抑制される。よって、ノズル配置不可空間A全体に樹脂90が充填されやすくなる。
【0086】
○ 第2の実施形態において、側壁63の内周面は、第3距離Zが、第2距離Yの最短距離Y0より短く、かつ第1距離Xの最短距離X0より長くなるとともに、第1短側内面633から第1長側内面631に向かうにつれて短くなるように形成されていてもよい。
【0087】
この場合、ノズル配置不可空間Aが、第2距離Yが最短となる部分から第1接続面635側に離間するにつれて広くなることが無い。したがって、塗布ノズルNによってノズル配置不可空間Aの近傍に塗布された樹脂90が、例えば、ノズル配置不可空間Aにおける第2距離Yが最短となる部分を介して第1接続面635と端側チューブ部材301の外周面30cとの間に向かって流れ込んだ際に、端側チューブ部材301の外周面30cや第1接続面635に触れやすい。その結果、樹脂90に作用する毛細管現象が、樹脂90の流れ方向と同じ方向に作用するため、樹脂90の流れが止まってしまうことが毛細管現象により抑制される。よって、ノズル配置不可空間A全体に樹脂90が充填されやすくなる。
【0088】
○ 第2の実施形態において、モータ配線挿通孔82の位置は、ケース部材61の正面視で、ケース部材61の短手方向において曲面63b寄りの位置に限定されない。モータ配線挿通孔82は、ケース部材61の正面視で、ケース部材61の短手方向において曲面63bとは反対側の面寄りに位置していてもよい。この場合、湾曲面は、第2接続面636となり、端側チューブ部材301は、第2短側内面634寄りのチューブ部材30となる。
【0089】
○ 第2の実施形態において、第1長側内面631は平坦面であってもよい。
○ 第2の実施形態において、第1短側内面633は曲面であってもよい。
○ 圧縮部17は、固定スクロール17aと可動スクロール17bとで構成されるタイプに限らず、例えば、ピストンタイプやベーンタイプなどに変更してもよい。
【符号の説明】
【0090】
10…電動圧縮機、11…ハウジング、17…圧縮部、18…電動モータ、20…モータ駆動回路、27…モータ配線、30…チューブ部材、30c…外周面、32…導電部材、50…接続端子、60…クラスタブロック、61…ケース部材、635…湾曲面としての第1接続面、64…端子収容孔、64b…開口部、68…溝、71…蓋部材、82…モータ配線挿通孔、90…樹脂、R…間隙、S3…モータ収容室、S5…端子収容室。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11