(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022007950
(43)【公開日】2022-01-13
(54)【発明の名称】光ラジカル重合性組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 2/50 20060101AFI20220105BHJP
【FI】
C08F2/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021008829
(22)【出願日】2021-01-22
(31)【優先権主張番号】P 2020168135
(32)【優先日】2020-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020032236
(32)【優先日】2020-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020157977
(32)【優先日】2020-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000199795
【氏名又は名称】川崎化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152928
【弁理士】
【氏名又は名称】草部 光司
(72)【発明者】
【氏名】檜森 俊一
(72)【発明者】
【氏名】緒方 裕子
(72)【発明者】
【氏名】井内 啓太
(72)【発明者】
【氏名】宮田 敏彦
【テーマコード(参考)】
4J011
【Fターム(参考)】
4J011QA03
4J011QA13
4J011QA15
4J011QA23
4J011QA24
4J011QA27
4J011QA33
4J011QA34
4J011QA37
4J011QA39
4J011QA45
4J011QA46
4J011QB01
4J011QB02
4J011QB14
4J011QB16
4J011QB19
4J011QB20
4J011QB24
4J011QB25
4J011RA03
4J011RA10
4J011SA01
4J011SA03
4J011SA04
4J011SA05
4J011SA14
4J011SA15
4J011SA20
4J011SA21
4J011SA61
4J011SA63
4J011SA76
4J011SA77
4J011SA78
4J011TA03
4J011TA07
4J011TA08
4J011TA10
4J011UA01
4J011VA01
4J011VA04
4J011VA05
4J011WA02
4J011WA05
4J011WA06
4J011WA07
4J011WA10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ラジカル重合反応時に腐食を誘発するような酸を発生せず、炭素原子、水素原子及び酸素原子のみからなる環境に優しい光ラジカル重合開始剤であり、波長が350nmから420nmまでの範囲の光に対して高いラジカル重合開始能を持つ光ラジカル重合開始剤を提供する。
【解決手段】ラジカル重合性化合物及び光ラジカル重合開始剤を含有する光ラジカル重合性組成物であって、光ラジカル重合開始剤が、下記一般式(1)で表される1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物を含有することを特徴とする、光ラジカル重合性組成物である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合性化合物及び光ラジカル重合開始剤を含有する光ラジカル重合性組成物であって、該光ラジカル重合開始剤が下記一般式(1)で表される1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物からなることを特徴とする、光ラジカル重合性組成物。
【化1】
(一般式(1)において、Rは水素原子、炭素数1から10のアルキル基又は炭素数6から14のアリール基を表し、Xは水素原子、炭素数1から10のアルキル基、炭素数6から14のアリール基、ヒドロキシ基、炭素数1から10のアルコキシ基、又は炭素数6から14のアリールオキシ基を表す。Rで表されるアルキル基、アリール基は、さらにアルコキシ基、ヒドロキシ基、(メタ)アクリル基が置換されていてもよい。)
【請求項2】
ラジカル重合性化合物及び光ラジカル重合開始剤を含有する光ラジカル重合性組成物であって、光ラジカル重合開始剤が下記一般式(1)で表される1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物、及び、オニウム塩以外の光ラジカル重合開始剤(ただし、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物を除く)を含有することを特徴とする、光ラジカル重合性組成物。
【化2】
(一般式(1)において、Rは水素原子、炭素数1から10のアルキル基又は炭素数6から14のアリール基を表し、Xは水素原子、炭素数1から10のアルキル基、炭素数6から14のアリール基、ヒドロキシ基、炭素数1から10のアルコキシ基、又は炭素数6から14のアリールオキシ基を表す。Rで表されるアルキル基、アリール基は、さらにアルコキシ基、ヒドロキシ基、(メタ)アクリル基等が置換されていてもよい。)
【請求項3】
オニウム塩以外の光ラジカル重合開始剤(ただし、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物を除く)が、アルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤、ベンゾフェノン系光ラジカル重合開始剤又はアントラキノン系光ラジカル重合開始剤であることを特徴とする、請求項2に記載の光ラジカル重合性組成物。
【請求項4】
オニウム塩以外の光ラジカル重合開始剤(ただし、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物を除く)が、アシルホスフィンオキサイド系光ラジカル重合開始剤、オキシムエステル系光ラジカル重合開始剤、α-アミノアセトフェノン系光ラジカル重合開始剤又はチオキサントン系光ラジカル重合開始剤であることを特徴とする、請求項2に記載の光ラジカル重合性組成物。
【請求項5】
オニウム塩以外の光ラジカル重合開始剤(ただし、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物を除く)が、ビイミダゾール系光ラジカル重合開始剤であることを特徴とする、請求項2に記載の光ラジカル重合性組成物。
【請求項6】
一般式(1)で表される1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物とオニウム塩以外の光ラジカル重合開始剤(ただし、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物を除く)の配合比が重量比で99:1から1:99の範囲内にあることを特徴とする、請求項2乃至5のいずれか一項に記載の光ラジカル重合性組成物。
【請求項7】
一般式(1)で表される1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物が1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸であることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光ラジカル重合性組成物。
【請求項8】
一般式(1)で表される1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物が1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルであることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光ラジカル重合性組成物。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の光ラジカル重合性組成物にさらに重合性樹脂を含有することを特徴とする、光ラジカル重合性組成物。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の光ラジカル重合性組成物に、波長350nmから420nmの範囲の光を含むエネルギー線を照射することを特徴とする、光ラジカル重合性組成物の光重合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ラジカル重合性組成物に関し、特に、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物を光ラジカル重合開始剤として含有する光ラジカル重合性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー線硬化樹脂は、エネルギー線重合性組成物に例えば紫外線や電子線等のエネルギー線を照射することにより、重合、硬化させることによって得られる。このエネルギー線で硬化させる技術は、例えば木工用塗料、金属等のコーティング材、スクリーン印刷やオフセット印刷用インキ、電子基板に用いられるドライフィルムレジスト、また、ホログラム材料、封止剤、オーバーコート材、光造形用樹脂、接着剤等さまざまな用途に用いられている。
【0003】
そして、このエネルギー線重合性組成物は、主に重合性化合物と、エネルギー照射により重合性化合物の重合を開始させる重合開始剤より構成されている。重合方法としては、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合があり、このうちラジカル重合が古くから最も広く用いられている。ラジカル重合は、熱ラジカル重合と光ラジカル重合があるが、光ラジカル重合の場合、通常ラジカル重合性化合物と共に光ラジカル重合開始剤を用い、主に紫外線等のエネルギー線を照射することにより、該光ラジカル重合開始剤よりラジカルを発生させ、ラジカル重合性化合物の重合を開始させている。
【0004】
光ラジカル重合開始剤は、分子内開裂型と水素引抜き型に分類される。分子内開裂型の光ラジカル重合開始剤は、特定の波長の光を吸収することで、特定の部位の結合が切断され、その切断された部位にラジカルが発生し、それが重合開始種となりラジカル重合性化合物の重合が始まる。一方、水素引き抜き型の場合は、光ラジカル重合開始剤が特定の波長の光を吸収し励起状態になり、その励起種が周囲にある水素供与体から水素引き抜き反応を起こすことにより活性なラジカル種が発生し、それが重合開始種となりラジカル重合性化合物の重合が始まる。
【0005】
分子内開裂型光ラジカル重合開始剤としては、アルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤、アミノアルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤、アシルホスフィンオキサイド系光ラジカル重合開始剤やオキシムエステル系光ラジカル重合開始剤等が知られている。アルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤としては、ベンジルメチルケタール系光ラジカル重合開始剤やα-ヒドロキシアルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤等があり、具体的な化合物としては、例えば、ベンジルメチルケタール系光ラジカル重合開始剤としては、2,2’-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(商品名OMNIRAD651、OMNIRADはIGM Group B.V.の登録商標)等がある。α-ヒドロキシアルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤としては、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(商品名OMNIRAD1173)、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(商品名OMNIRAD184)、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(商品名OMNIRAD2959)、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}-2-メチルプロパン-1-オン(商品名OMNIRAD127)等がある。さらに、アミノアルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤としては、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン(商品名OMNIRAD907)あるいは2-ベンジルメチル2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノン(商品名OMNIRAD369)等がある。さらに、アシルホスフィンオキサイド系光ラジカル重合開始剤としては、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキサイド(商品名OMNIRADTPO)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド(商品名OMNIRAD819)等がある。オキシムエステル系光ラジカル重合開始剤としては、(2E)-2-(ベンゾイルオキシイミノ)-1-[4-(フェニルチオ)フェニル]オクタン-1-オン(商品名イルガキュアOXE-01、イルガキュアはビーエーエスエフソシエタス・ヨーロピアの登録商標)等がある(特許文献1)。
【0006】
一方、水素引き抜き型ラジカル重合開始剤としては、ベンゾフェノン系光ラジカル重合開始剤、チオキサントン系光ラジカル重合開始剤等が知られている(特許文献7)。ベンゾフェノン系光ラジカル重合開始剤としては、o-ベンゾイル安息香酸メチル、ベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、市販品としては、OMNIRAD4PBZ(OMNIRADはIGM Group B.V.の登録商標)、OMNIRADOMBB等がある。チオキサントン系光ラジカル重合開始剤としては、2,4-ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン等がある。
【0007】
これらの光ラジカル重合開始剤の中で、アルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤は、窒素原子やリン原子等の生体に対する活性が高く安全性に懸念を有する原子を含まず、酸素原子、炭素原子、水素原子のみからなる環境にやさしい光ラジカル重合開始剤である。これらの光ラジカル重合開始剤は、エネルギー線の照射源として高圧水銀ランプ(350nmより短い波長域にも発光スペクトルを持つ)が主に用いられてきた。しかし、より長波長の光を含むメタルハライドランプやガリウムドープドランプが用いられるようになり、高圧水銀ランプの照射波長領域では、アルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤は十分な開始能力がないことから、アミノアルキルフェノン系やアシルホスフィンオキサイド系、さらにはオキシムエステル系の光ラジカル重合開始剤が開発されてきた。
【0008】
ベンゾフェノン系光ラジカル重合開始剤も、窒素原子やリン原子等の生体に対する活性が高く安全性に懸念を有する原子を含まず、酸素原子、炭素原子、水素原子のみからなる環境にやさしい光ラジカル重合開始剤である。ベンゾフェノン系光ラジカル重合開始剤は、単独での使用ではラジカル発生効率が低いものの、水素供与体や分子内開裂型の開始剤等を併用することにより表面硬度の高い硬化物を得ることができることから、該開始剤を含有する硬化物はプラスチック基材に対する密着性が高い等の特徴を有している(特許文献8)。しかしながら、ベンゾフェノン系光ラジカル重合開始剤の光吸収領域が最大でも350nm付近程度までしかなく、350nmより長波長の光で重合、硬化させようとすると重合が進行しなかったり、十分でなかったりする場合があり、アルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤と同様に長波長光での硬化には不適であるという課題があった。
【0009】
そして近年、エネルギー線として紫外線を用いた重合反応において、照射源としてLED(発光ダイオード)が用いられるようになってきた。LEDの特徴としては、高圧水銀ランプと異なり、発熱が少なく、かつ長寿命なことから、LEDを用いた紫外線硬化技術の開発が加速している。このLEDの代表的なものとしては、紫外LED、青色LEDが知られている。特に、紫外LEDがUV硬化用照射源として、インクジェット用または半導体関連のレジスト用に開発が先行している。この紫外LEDの中心波長は405nm、395nm、385nm、375nm、365nmのLEDが開発されている。これらの波長に適合する光ラジカル重合開始剤としては、先に挙げた光ラジカル重合開始剤の中でも、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン(商品名OMNIRAD907)あるいは2-ベンジルメチル2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1(商品名OMNIRAD369)、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキサイド(商品名OMNIRADTPO)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド(商品名OMNIRAD819)等が高感度であることが知られている(特許文献2)。
【0010】
しかしながら、これらの光ラジカル重合開始剤は分子構造中の構成元素として、窒素原子、硫黄原子又はリン原子を含んでいるため、生体に対する活性が高く、安全性に懸念が抱かれることが多い。また、窒素原子、硫黄原子を含む光重合開始剤は、作業中や硬化物の臭気が問題になることもある。さらに、経時的な黄変も指摘されている。
【0011】
現在、350nmから420nmの範囲の光を発するLED等でラジカル重合を開始することができる光ラジカル重合開始剤は、アシルホスフィンオキサイド系光ラジカル重合開始剤、一部のオキシムエステル系光ラジカル重合開始剤やチオキサントン系光ラジカル重合開始剤等に限られており、いずれも、窒素原子、硫黄原子又はリン原子を含有させた化合物であり、炭素原子、水素原子及び酸素原子のみからなる化合物で、当該波長範囲で活性な光ラジカル重合開始剤はほとんど知られていない。すなわち、波長範囲が350nmから420nmの光を含むエネルギー線に対して活性が高くするためには窒素原子、硫黄原子又はリン原子を含有させざるを得ないのが現状である。よって、波長範囲が350nmから420nmの光を含むエネルギー線に対して活性が高く、かつ炭素原子、水素原子及び酸素原子のみからなる環境に優しい光ラジカル重合開始剤が求められている。
【0012】
また、アシルホスフィンオキサイド系光ラジカル重合開始剤や一部のオキシムエステル系光ラジカル重合開始剤は、フォトブリーチング性を有することが知られている。フォトブリーチングとは、光退色のことで、励起蛍光分子でまれにみられる光化学的性質である。この反応は、励起状態にある蛍光物質が基底状態に比べて化学的に活性化され不安定になるが、蛍光分子は励起状態になると分解し最終的に低蛍光性の構造になることをいう。光重合開始剤においてもアシルホスフィンオキサイド系光ラジカル重合開始剤や一部のオキシムエステル系光ラジカル重合開始剤はこのフォトブリーチング性を有する。これらの開始剤は、ある紫外線領域において光を吸収し、ラジカルを発生させ、重合開始剤として働く場合において、ラジカル発生後の分子の共役結合が切断された時、その紫外線領域において光を吸収しなくなる。その結果、硬化物が着色しづらくなること、またその紫外線領域における光を内部まで透過させることができるため、厚い膜であっても硬化をスムーズに進ませることができることが知られている。特に、アシルホスフィンオキサイド系光ラジカル重合開始剤である2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキサイド(商品名OMNIRADTPO)が有名である(特許文献9、非特許文献3)。しかし、炭素原子、水素原子及び酸素原子のみからなる環境に優しい光ラジカル重合開始剤で、このフォトブリーチング性を有する実用性のある化合物は知られていない。
【0013】
一方、本出願人はすでに、1,4-ビス(置換オキシ)-2-ナフトエ酸化合物や4位に置換オキシ基を有する1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物が、オニウム塩を光重合開始剤とする光カチオン重合及び光ラジカル重合において、光重合増感剤として作用することを見出している。その中で、4位に置換オキシ基を有する1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物の一例として、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸も光重合増感剤としての作用を有することが開示されている(特許文献3、4)。そしてその中で、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸が、波長が300nmから420nmの範囲の光を含むエネルギー線を照射することによりすみやかに励起され、励起エネルギーを光カチオン重合開始剤であるオニウム塩に伝播し、オニウム塩を活性化させ、光カチオン重合性化合物及びラジカル重合性化合物を重合させることができることを開示している。すなわち、オニウム塩との組合せにおいて、オニウム塩に対する増感剤として1,4-ビス(置換オキシ)-2-ナフトエ酸化合物や4位に置換オキシ基を有する1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物が作用することが開示されている。
【0014】
しかし、4位に置換オキシ基を有する1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物が増感剤として作用することは開示されているが、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物が光ラジカル重合開始剤として作用することは開示されておらず、4位の置換基がヒドロキシ基である1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物が他の4位に置換オキシ基を有する1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物にはない、暗所ではラジカル重合禁止剤として作用するという特異な作用を有することなど特異な物性、効果を有していることは記載されておらず、4位に置換オキシ基を有する1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物が並列に光重合増感剤として用いられることを開示しているものである。
【0015】
更にまた、この特許文献3の発明は、その明細書段落[0060](光重合開始剤)に「光重合開始剤としては、オニウム塩が好ましい。オニウム塩として・・・・・・。」と記載しているように、光重合開始剤はオニウム塩しか例示されておらず、オニウム塩以外の光ラジカル重合開始剤については開示されていない。また、オニウム塩は一般に光カチオン重合の開始剤として用いられるものであるが、光ラジカル重合開始剤としての能力も有する開始剤である。よって、当該発明においても、光カチオン重合と光ラジカル重合の両方において重合開始剤となるオニウム塩に対して、4位に置換オキシ基を有する1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物が増感効果を有することが開示されている。しかし、光ラジカル重合開始剤としてのオニウム塩とその他の光ラジカル重合開始剤とはそのラジカル重合開始種の発生において異なる。すなわち、オニウム塩をラジカル重合開始剤として用いた場合にラジカル種の発生と共にカチオン種である強酸も発生することとなり、発生した酸による腐蝕の問題が発生する。このことは、電子材料用途では深刻である。
【0016】
例えば、特許文献5「オニウムボレート塩系酸発生剤」の背景技術[0003]において、「ところで、これらの明細書に記載されているカチオン重合開始剤(酸発生剤)は、アニオンとして、BF4-、PF6 - 、AsF6 - 、SbF6 - を含有するが、・・・・・またこれらアニオンに共通して、開始剤(酸発生剤)の分解によってHFが副生するため、基材や設備等が腐食されやすいこと等の問題がある。特に電子材料、半導体材料においては電気特性(絶縁信頼性)において重要な問題である。このような用途においても十分な信頼性が得られるカチオン重合開始剤(酸発生剤)が求められている。」と記載されているように、オニウム塩系開始剤を用いたときに腐食の問題があることが記載されている。
【0017】
また、非特許文献1に、「光開始カチオン重合は酸素の阻害なしに重合が可能であり、ビニルエーテルや環状化合物の開環重合が可能である等興味深いが、実用的には用途によっては生成した酸による金属の腐食は大きな問題となる。」との記載がある。さらにまた、非特許文献2に「潜在性開始剤として用いたオニウム塩類は、硬化塗膜中にイオン性不純物として残存し、電気特性や耐湿性の悪化及び金属の腐食を生じることが懸念されている。」と記載されており、いずれの文献においても、光重合開始剤として用いられるオニウム塩が光照射により酸成分を発生し、電子材料等に悪影響を及ぼすことが記載されている。
【0018】
一方、光カチオン重合性組成物用の光感応性酸発生剤に対する光増感剤としてアントラセン誘導体化合物と該アントラセン誘導体化合物と組み合わせて用いるナフタレン誘導体化合物の一例として、ナフタレン環の2位にカルボアルコキシ基を持つ化合物が開示されているが(特許文献6)、当該文献は、ナフタレン環の2位にカルボアルコキシ基を持つ化合物が光感応性酸発生剤であるオニウム塩に対する増感剤として作用することについて開示されているにすぎず、さらに当該文献においては、ナフタレン環の2位にカルボアルコキシ基を持つ化合物はナフタレン環の2位に水素原子やアルキル基等が置換された他のナフタレン化合物と並列的に記載されているだけであり、特に、2位がカルボアルコキシ基であることの特異性に関しては記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開昭63-150303号公報
【特許文献2】特開2000-016910号公報
【特許文献3】特開2017-8008号公報
【特許文献4】特開2017-8269号公報
【特許文献5】特開2014-205624号公報
【特許文献6】国際公開第2006/073021号パンフレット
【特許文献7】特開平7-33809号公報
【特許文献8】特開2013-23549号公報
【特許文献9】特開2020-70444号公報
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】高分子45巻11月号(1996年)p786角岡正弘著(大阪府立大学工学部)「光開始技術の最新動向」
【非特許文献2】東亜合成研究年報 TREND2004 第7号p30佐々木裕著「OX-SC:有機・無機ハイブリッドを形成可能な液状材料」
【非特許文献3】W. Arthur Green、Industrial Photoinitiators: A Technical Guide 、p30、CRC Press、 2010年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の課題は、波長が350nmから420nmまでの範囲の光を含むエネルギー線に感応可能で高いラジカル重合開始能を持つと共に実用性の高い新しい光ラジカル重合開始剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、ナフタレン化合物の構造と光重合特性について鋭意検討した結果、本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物は、炭素原子、水素原子及び酸素原子のみからなる化合物であるという単純な構造であるにもかかわらず、350nmから420nmという長波長の光の照射によって、活性なラジカル種を発生し、光ラジカル重合反応において、特異的に極めて高い光ラジカル重合開始能力を有し、ラジカル重合性化合物を光ラジカル重合させる能力が極めて優れていることを見出した。そして、驚くべきことに、本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物は、光が照射されていない暗所ではラジカル重合禁止剤として働き、意図しないラジカル重合を防止する一方、波長が350nmから420nmまで範囲の光が照射されることにより、ラジカル重合禁止能を失うと共にラジカル種を発生して光ラジカル重合開始剤として働くこと、さらに、波長が350nmから420nmまで範囲の光を吸収し、ラジカルを発生させ、光ラジカル重合開始剤として働くが、ラジカル発生後は分子の共役結合が切断されその紫外線領域において光を吸収しなくなるフォトブリーチング機能を有することが判明した。そしてさらに、該1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物を単独で光ラジカル重合開始剤として用いることもできるが、他の公知の光ラジカル重合開始剤と併用することにより、極めて速やかに重合を開始させることを見出し、本発明を完成させた。
【0023】
即ち、本発明は、以下に記載の骨子を要旨とするものである。まず、第1の発明は、ラジカル重合性化合物及び光ラジカル重合開始剤を含有する光ラジカル重合性組成物であって、光ラジカル重合開始剤が下記一般式(1)で表される1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物からなることを特徴とする、光ラジカル重合性組成物に存する。
【0024】
【0025】
一般式(1)において、Rは水素原子、炭素数1から10のアルキル基又は炭素数6から14のアリール基を表し、Xは水素原子、炭素数1から10のアルキル基、炭素数6から14のアリール基、ヒドロキシ基、炭素数1から10のアルコキシ基、又は炭素数6から14のアリールオキシ基を表す。Rで表されるアルキル基、アリール基は、さらにアルコキシ基、ヒドロキシ基、(メタ)アクリル基が置換されていてもよい。
【0026】
第2の発明は、ラジカル重合性化合物及び光ラジカル重合開始剤を含有する光ラジカル重合性組成物であって、光ラジカル重合開始剤が下記一般式(1)で表される1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物及びオニウム塩以外の光ラジカル重合開始剤(ただし、前記1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物を除く)を含有することを特徴とする、光ラジカル重合性組成物に存する。
【0027】
【0028】
一般式(1)において、Rは水素原子、炭素数1から10のアルキル基又は炭素数6から14のアリール基を表し、Xは水素原子、炭素数1から10のアルキル基、炭素数6から14のアリール基、ヒドロキシ基、炭素数1から10のアルコキシ基、又は炭素数6から14のアリールオキシ基を表す。Rで表されるアルキル基、アリール基は、さらにアルコキシ基、ヒドロキシ基、(メタ)アクリル基等が置換されていてもよい。
【0029】
第3の発明は、オニウム塩以外の光ラジカル重合開始剤(ただし、前記1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物を除く)が、アルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤、ベンゾフェノン系光ラジカル重合開始剤又はアントラキノン系光ラジカル重合開始剤であることを特徴とする、第2の発明に記載の光ラジカル重合性組成物に存する。
【0030】
第4の発明は、オニウム塩以外の光ラジカル重合開始剤(ただし、前記1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物を除く)が、アシルホスフィンオキサイド系光ラジカル重合開始剤、オキシムエステル系光ラジカル重合開始剤、α-アミノアセトフェノン系光ラジカル重合開始剤又はチオキサントン系光ラジカル重合開始剤であることを特徴とする、第2の発明に記載の光ラジカル重合性組成物に存する。
【0031】
第5の発明は、オニウム塩以外の光ラジカル重合開始剤(ただし、前記1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物を除く)が、ビイミダゾール系光ラジカル重合開始剤であることを特徴とする、第2の発明に記載の光ラジカル重合性組成物に存する。
【0032】
第6の発明は、一般式(1)で表される1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物とオニウム塩以外の光ラジカル重合開始剤(1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物を除く)の配合比が重量比で99:1から1:99の範囲内にあることを特徴とする、第2乃至5の発明のいずれかひとつに記載の光ラジカル重合性組成物に存する。
【0033】
第7の発明は、一般式(1)で表される1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物が1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸であることを特徴とする、第1乃至6の発明のいずれかひとつに記載の光ラジカル重合性組成物に存する。
【0034】
第8の発明は、一般式(1)で表される1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物が1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルであることを特徴とする、第1乃至6の発明のいずれかひとつに記載の光ラジカル重合性組成物に存する。
【0035】
第9の発明は、第1乃至8の発明のいずれかひとつに記載の光ラジカル重合性組成物にさらに重合性樹脂を含有することを特徴とする、光ラジカル重合性組成物に存する。
【0036】
第10の発明は、第1乃至9の発明のいずれかひとつに記載の光ラジカル重合性組成物に、波長350nmから420nmの範囲の光を含むエネルギー線を照射することを特徴とする、光ラジカル重合性組成物の光重合方法に存する。
【発明の効果】
【0037】
本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物は、波長が350nmから420nmまで範囲の光を含むエネルギー線照射による光ラジカル重合反応において、光ラジカル重合開始剤として作用し、極めて高速でラジカル重合性化合物を重合させる能力を有する。さらに、該光ラジカル重合開始剤は、暗所ではラジカル重合禁止剤として働き意図しないラジカル重合を防止するが、波長が350nmから420nmまで範囲の光が照射されることにより、ラジカル重合禁止能を失うと共に光ラジカル重合開始剤として働き、さらに、ラジカル発生後は分子の共役結合が切断されその紫外線領域において光を吸収しなくなるフォトブリーチング機能を有するという、極めて特殊な性質を持つ化合物である。また、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物は、炭素原子、水素原子及び酸素原子のみからなる環境に優しい化合物であり、安全性の高い光ラジカル重合開始剤として有用である。
【0038】
本発明の目的、特徴及び利点は、以下の詳細な説明によって、より明白となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルのアセトニトリル中に10ppmの濃度で溶解した場合のUV及び可視光域の吸収曲線。縦軸は吸収強度(Absorbance)であり、横軸は波長(Wavelength)で単位はnmである。
【
図2】1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルを含有する光ラジカル重合性組成物に405nmのUV光を複数回照射したときの各パス毎の吸収スペクトルの変化を示す図。
【
図3】OmniradTPOを含有する光ラジカル重合性組成物に405nmのUV光を複数回照射したときの各パス毎の吸収スペクトルの変化を示す図。
【
図4】Omnirad907を含有する光ラジカル重合性組成物に405nmのUV光を複数回照射したときの各パス毎の吸収スペクトルの変化を示す図。
【
図5】イソプロピルチオキサントンを含有する光ラジカル重合性組成物に405nmのUV光を複数回照射したときの各パス毎の吸収スペクトルの変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明を詳細に記述する。
【0041】
(光ラジカル重合開始剤)
まず、本発明は、ラジカル重合性化合物及び光ラジカル重合開始剤を含有する光ラジカル重合性組成物であって、光ラジカル重合開始剤として下記一般式(1)で表される1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物を含有することを特徴とする。
【0042】
(1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物)
本発明の光ラジカル重合性組成物における光ラジカル重合開始剤である1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物は、下記一般式(1)で表される。
【0043】
【0044】
一般式(1)において、Rは水素原子、炭素数1から10のアルキル基又は炭素数6から14のアリール基を表し、Xは水素原子、炭素数1から10のアルキル基、炭素数6から14のアリール基、ヒドロキシ基、炭素数1から10のアルコキシ基、又は炭素数6から14のアリールオキシ基を表す。Rで表されるアルキル基、アリール基は、さらにアルコキシ基、ヒドロキシ基、(メタ)アクリル基等が置換されていてもよい。
【0045】
一般式(1)中、Rで表される炭素数1から10のアルキル基としてはメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、n-アミル基、i-アミル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、n-デシル基、シクロヘキシル基等の直鎖状、分枝鎖状又は環状のアルキル基等を挙げることができる。炭素数6から14のアリール基としては置換基を有しても良いフェニル基、トリル基、ナフチル基、フルオレン基等が挙げられる。
【0046】
一般式(1)中、Rが水素原子、炭素数1から10のアルキル基の場合の具体例としては、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸メチル、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸エチル、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸プロピル、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸ブチル、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヘキシル、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸シクロヘキシル、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸オクチル、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸2-ヒドロキシエチル、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニル、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸(4-ヒドロキシフェニル)、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸ナフチル等が挙げられる。また、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸とトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の多価アルコールとのエステル化物等が挙げられる。
【0047】
さらに、一般式(1)中、Xが炭素数1から10のアルキル基の場合の具体例としては、1,4-ジヒドロキシ-3-メチル-2-ナフトエ酸、1,4-ジヒドロキシ-3-メチル-2-ナフトエ酸メチル、1,4-ジヒドロキシ-3-メチル-2-ナフトエ酸エチル、1,4-ジヒドロキシ-3-メチル-2-ナフトエ酸プロピル、1,4-ジヒドロキシ-3-メチル-2-ナフトエ酸ブチル、1,4-ジヒドロキシ-3-メチル-2-ナフトエ酸ヘキシル、1,4-ジヒドロキシ-3-メチル-2-ナフトエ酸シクロヘキシル、1,4-ジヒドロキシ-3-メチル-2-ナフトエ酸オクチル、1,4-ジヒドロキシ-3-メチル-2-ナフトエ酸フェニル、1,4-ジヒドロキシ-3-メチル-2-ナフトエ酸(4-ヒドロキシフェニル)、1,4-ジヒドロキシ-3-メチル-2-ナフトエ酸ナフチル等が挙げられる。
【0048】
さらにまた、1,4-ジヒドロキシ-6-メチル-2-ナフトエ酸、1,4-ジヒドロキシ-6-メチル-2-ナフトエ酸メチル、1,4-ジヒドロキシ-6-メチル-2-ナフトエ酸エチル、1,4-ジヒドロキシ-6-メチル-2-ナフトエ酸プロピル、1,4-ジヒドロキシ-6-メチル-2-ナフトエ酸ブチル、1,4-ジヒドロキシ-6-メチル-2-ナフトエ酸ヘキシル、1,4-ジヒドロキシ-6-メチル-2-ナフトエ酸シクロヘキシル、1,4-ジヒドロキシ-6-メチル-2-ナフトエ酸オクチル、1,4-ジヒドロキシ-6-メチル-2-ナフトエ酸フェニル、1,4-ジヒドロキシ-6-メチル-2-ナフトエ酸(4-ヒドロキシフェニル)、1,4-ジヒドロキシ-6-メチル-2-ナフトエ酸ナフチル、1,4-ジヒドロキシ-6-エチル-2-ナフトエ酸、1,4-ジヒドロキシ-6-エチル-2-ナフトエ酸メチル、1,4-ジヒドロキシ-6-エチル-2-ナフトエ酸エチル、1,4-ジヒドロキシ-6-エチル-2-ナフトエ酸プロピル、1,4-ジヒドロキシ-6-エチル-2-ナフトエ酸ブチル、1,4-ジヒドロキシ-6-エチル-2-ナフトエ酸ヘキシル、1,4-ジヒドロキシ-6-エチル-2-ナフトエ酸シクロヘキシル、1,4-ジヒドロキシ-6-エチル-2-ナフトエ酸オクチル、1,4-ジヒドロキシ-6-エチル-2-ナフトエ酸フェニル、1,4-ジヒドロキシ-6-エチル-2-ナフトエ酸(4-ヒドロキシフェニル)、1,4-ジヒドロキシ-6-エチル-2-ナフトエ酸ナフチル、1,4-ジヒドロキシ-6-フェニル-2-ナフトエ酸、1,4-ジヒドロキシ-6-フェニル-2-ナフトエ酸メチル、1,4-ジヒドロキシ-6-フェニル-2-ナフトエ酸エチル、1,4-ジヒドロキシ-6-フェニル-2-ナフトエ酸プロピル、1,4-ジヒドロキシ-6-フェニル-2-ナフトエ酸ブチル、1,4-ジヒドロキシ-6-フェニル-2-ナフトエ酸ヘキシル、1,4-ジヒドロキシ-6-フェニル-2-ナフトエ酸シクロヘキシル、1,4-ジヒドロキシ-6-フェニル-2-ナフトエ酸オクチル、1,4-ジヒドロキシ-6-フェニル-2-ナフトエ酸フェニル、1,4-ジヒドロキシ-6-フェニル-2-ナフトエ酸(4-ヒドロキシフェニル)、1,4-ジヒドロキシ-6-フェニル-2-ナフトエ酸ナフチル等が挙げられる。
【0049】
本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物は、炭素原子、水素原子、酸素原子のみからなる化合物であり、その基本骨格はナフタレン骨格である。その点で従来の光ラジカル重合開始剤と大きく異なる構造を有する。そして、一般的なナフタレン骨格を有する化合物はアントラセン骨格を有する化合物とは異なり、紫外線吸収が350nm以下にしかないことが知られている。しかし、驚くべきことに、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物はナフタレン化合物としては特異的に波長350nmから420nmの波長範囲に紫外線吸収のピークのひとつを持つことが判明した。その理由としては、該1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルのUV吸収スペクトルを
図1に示したが、2位にカルボン酸基を有することにより、π電子系が広がること、及びナフタレン環の電子密度が低下することが考えられる。このことにより、該1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物は、ナフタレン系化合物では予期されない350nmから420nmにおける光で励起され、分解してラジカル種を発生する化合物であることがわかった。その機構については定かではないが、該1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物は、励起状態から、分子内開裂によって、ラジカル種が発生し、そのラジカル種がラジカル重合開始剤となると考えられる。該1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物のような単純で炭素原子、水素原子及び酸素原子のみからなる芳香族カルボン酸化合物が光ラジカル重合開始剤となることは全く知られていない。
【0050】
1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物と類似構造を有する1,4-ジアルコキシ-2-ナフトエ酸化合物等は、波長350nmから420nmの波長範囲に紫外線吸収を持つが、該波長の光を照射しても、ラジカル種を発生することはなく、光ラジカル重合開始剤としての機能は示さない。このことから、350nmから420nmの波長範囲に紫外線吸収を持つためには、ナフタレン骨格の1,4位に酸素原子が、2位にカルボキシ基が置換していることが重要であり、励起状態からラジカル種を発生するためには、1,4位がヒドロキシ基であることが重要である。
【0051】
上記一般式(1)で表される1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物は、対応する1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸を通常の方法でエステル化することにより製造できる。例えば、脱水剤存在下、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸とフェノールとを反応させることにより、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルを合成することができる。1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸は、文献等に記載された一般的な方法で、1,4-ジヒドロキシナフタレンと炭酸ガスの反応で得ることができる。フェノールからサリチル酸を製造する、いわゆるコルベ・シュミッド反応の応用である。例えば、1,4-ジヒドロキシナフタレンを有機溶媒中、微粒子状の無水炭酸カリウムの存在下に炭酸ガスによってカルボキシル化する方法(特開昭57-126443号公報)、1,4-ジヒドロキシナフタレンのアルカリ金属化合物を炭酸ガスによってカルボキシル化する方法(特開昭59-141537号公報、特開平9-132545号公報)等が知られている。プロピオン酸菌の乳清発酵により製造する方法もある。
【0052】
上述のように、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物は、波長350nmから420nmの波長範囲に特異的に紫外線吸収を持ち、該紫外線により励起され、励起種がラジカル種を発生することから、光ラジカル重合開始剤としての特性を有している。さらに、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物は、炭素原子、水素原子及び酸素原子のみからなる化合物であり、環境にやさしい化合物である。
【0053】
さらに、驚くべきことに、本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物は、波長350nmから420nmの波長範囲の光照射下においては、ラジカル種を発生してラジカル重合開始剤として働きラジカル重合性化合物をラジカル重合させるが、350nmから420nmの波長範囲の光が照射されていない暗所では、逆に、ラジカル種を捕捉するラジカル重合禁止剤として働くことが判明した。
【0054】
一般に、アクリル酸メチルやスチレン等のラジカル重合性化合物は、重合開始剤がなくても、酸素や熱等により自然とラジカル種を発生して重合劣化することが知られている。そのため、アクリル酸メチルやスチレン等のラジカル重合性化合物には劣化防止のために、t-ブチルカテコール等の重合防止剤を添加し、発生したラジカル種を捕捉し不活性化している。しかし、この重合防止剤は、重合時には逆に重合を阻害するため、ラジカル重合のリードタイムが長くなったり、重合反応がうまく進行しなかったりすることになる。よって、重合させるときには、この重合防止剤を除くか、重合防止剤を不活性化するに見合う量の重合開始剤を添加する必要がある。
【0055】
本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物を含有するラジカル重合性組成物は、酸素や熱等の影響により、意図しないラジカル種が発生した場合、当該ラジカル種を本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物が捕捉して、ラジカル重合性化合物が重合劣化することを防止することができる。すなわち、ラジカル重合性化合物の保存安定化が成し遂げられる。具体的には、通常、木工用塗料、金属等のコーティング材、スクリーン印刷やオフセット印刷用インキ、電子基板に用いられるドライフィルムレジスト、また、ホログラム材料、封止剤、オーバーコート材、光造形用樹脂、接着剤等に用いられる重合性組成物は、予め、光ラジカル開始剤や熱ラジカル開始剤を加えた、重合性組成物として、調製、輸送、保存されることが多い。含有するこれら、化学的に不安定な、光ラジカル開始剤や熱ラジカル開始剤により、保存安定性が著しく低下し、0℃以下での保冷を要することも多い。本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物を添加することにより、室温等保冷を要さない保存安定性を確保することができる。一方、いざラジカル重合性化合物をラジカル重合させる時には、特定の波長の光(350nm~420nmの波長の範囲の光)を照射することにより、本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物がラジカルに対しての捕捉機能はなくなり無害となるが、ラジカル種を発生して、ラジカル重合を開始することが可能となる。すなわち、本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物は、ある特定の光の照射の有無によって、ラジカル重合の開始と停止をコントロールできるという特殊な性質を有する化合物である。また、光が当たっているところと当たっていないところで重合の開始と禁止をコントロールできるということである。
【0056】
本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物と他の光ラジカル重合開始剤との違いとしては、他の光ラジカル重合開始剤は、特定の光を照射(明条件)することによりラジカル重合を開始する能力を有するが、暗条件(特定の光が照射されていない条件)においては、ラジカルに対して不活性な存在であり、ラジカルを捕捉することができない。一方、本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物は、暗条件(特定の光が照射されていない条件)においては、ラジカルに対して活性であり、発生したラジカルを捕捉する能力を有し、ラジカル重合禁止剤の役割を発揮する。しかし、特定の光を照射することにより、ラジカル重合を捕捉する能力を失い不活性化することにより、ラジカル種を発生して、ラジカル重合を開始する能力を発揮する。すなわち、暗条件で重合せず、明条件で重合を起こすという現象は同じであるが、暗条件での積極的なラジカル重合禁止能を有している点が大きく異なっている。
【0057】
本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物は、ラジカル重合性化合物にあらかじめ添加しておくことにより、ラジカル重合性化合物の保存安定剤として用いることが可能である。また、ラジカル重合を開始するときに、ラジカル重合性化合物に添加して、特定の光の照射による重合部位の制御の目的で用いてもよい。
【0058】
例えば、ラジカル重合性組成物をフィルム状に塗布し、その塗布膜上にパターンを有する光遮蔽膜を被せ、350~420nmの波長範囲の光を照射下にラジカル重合性組成物の重合を開始する場合、光が当たった所だけが重合し、光遮蔽膜を被せられたところは重合せず、重合物のパターンを形成することが可能となる。しかし、一般に用いられている光ラジカル重合開始剤の場合、光が照射されていない遮蔽部の近傍では、発生したラジカル種又は重合末端のラジカルによって、重合化が進行し、光が当たっていない場所も硬化してしまい、明確なパターンを形成できない場合が多い。一方、本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物を含有させることにより、本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物の重合禁止効果により、光が照射されていない遮蔽部では、ラジカル種が捕捉されて重合反応が十分進行せず、光が当たったところと当たらないところを明確に区別できる。これにより、光が照射されたところと、光が当たらないところの境界がシャープなパターンが形成できる。
【0059】
そしてさらに、驚くべきことに、本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物は、波長が350nmから420nmまで範囲の光を吸収し、ラジカルを発生させ、光ラジカル重合開始剤として働くが、ラジカル発生後は分子の共役結合が切断されその紫外線領域において光を吸収しなくなるフォトブリーチング機能を有することが判明した。この効果により、可視光域にかかる光吸収が減少するとともに、蛍光の発色もなくなるため、その結果、硬化物が着色しづらくなること、また照射されている紫外線を吸収しなくなるため、その光を内部まで透過させることができることとなり、紫外線が届いていなかった深部まで光が届くようになり、厚い膜であっても硬化をスムーズに進ませることができる実用性が極めて高い光ラジカル重合開始剤であるといえる。
【0060】
本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物の配合量は、ラジカル重合開始剤としての効果、及び十分なラジカル重合禁止効果並びに経済性との観点から、通常、ラジカル重合性化合物100重量部に対して0.1~10重量部が好ましく、0.2から5重量部がさらに好ましい。
【0061】
(他の光ラジカル重合開始剤(ただし、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物を除く))
上記のラジカル重合禁止効果は、他の光ラジカル重合開始剤が共存する場合も発揮される。明所で他の光ラジカル重合開始剤や1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物により発生したラジカル種や重合末端のラジカルを暗所では本願発明の光ラジカル重合開始剤である1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物が捕捉して、暗所での重合の伝搬を阻止することが可能となる。
【0062】
また、本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物は波長が350nmから420nmまで範囲の光を吸収しラジカルを発生させたのち、その紫外線領域において光を吸収しなくなるフォトブリーチング機能を有するため、他の光ラジカル重合開始剤を共存させた場合、他の光ラジカル重合開始剤が紫外線で励起されることを阻害することなく、他の光ラジカル重合開始剤も十分にその能力を発揮できることとなる。特に、本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物と近い波長に紫外線吸収を持つ光ラジカル重合開始剤に対しても有効である。
【0063】
よって、本発明の光ラジカル重合性組成物には、他の光ラジカル重合開始剤を併用することができる。但し、光カチオン重合開始剤であり、かつ、光ラジカル重合開始剤でもあるオニウム塩は除かれる。オニウム塩をラジカル重合開始剤として用いた場合、ラジカル重合は進行するが、光照射によりオニウム塩から自発的にブレンステッド酸が発生し、当該酸による金属腐食問題が懸念されるためである。
【0064】
本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物と併用できる光ラジカル重合開始剤としては、まず、本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物と同様に炭素原子、水素原子及び酸素原子のみからなる光ラジカル重合開始剤が挙げられる。炭素原子、水素原子及び酸素原子のみからなる光ラジカル重合開始剤としては、アルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤、ベンゾフェノン系ラジカル重合開始剤、アントラキノン系光ラジカル重合開始剤等が挙げられる。炭素原子、水素原子及び酸素原子のみからなる光ラジカル重合開始剤の中でも、相乗効果という点で、(i)アルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤、(ii)ベンゾフェノン系ラジカル重合開始剤が好ましい。
【0065】
((i)アルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤)
本発明に用いられるアルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤は、アルキルフェノン構造を持ち光照射により励起し分解しラジカル種を発生する化合物であれば特に限定されない。その代表的な構造としては下記一般式(2)で表される。
【0066】
【0067】
一般式(2)において、R1は、水素原子、炭素数1から10のアルキル基、又は炭素数5から12のアリール基のいずれかを表し、R2、R3は、互いに同一であっても異なっていてもよく、炭素数1から10のアルキル基、炭素数5から12のアリール基、炭素数1から10のアルコキシ基、又は炭素数5から12のアリールオキシ基のいずれかを表し、R2とR3は、互いに結合して環を形成してもよく、R2とR3を合わせて、=Oであってもよい。R4は、水素原子、炭素数1から10のアルキル基、炭素数5から12のアリール基、炭素数7から15のアラルキル基、炭素数1から10のアルコキシ基、又は炭素数5から12のアリールオキシ基のいずれかを表し、これらのアルキル基、アリール基、アラルキル基は、さらに炭素原子、酸素原子からなる置換基を有していてもよい。
【0068】
一般式(2)中、R1、R2、R3及びR4で表される炭素数1から10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、n-アミル基、i-アミル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、n-デシル基、シクロヘキシル基等の直鎖状、分枝鎖状又は環状のアルキル基等を挙げることができる。炭素数5から12のアリール基としては、置換基を有しても良いフェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられる。炭素数1から10のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等の直鎖状、分枝鎖状又は環状のアルコキシ基等を挙げることができる。炭素数5から12のアリールオキシ基としては、置換基を有しても良いフェニルオキシ基、トリルオキシ基、ナフチルオキシ基等が挙げられる。R2とR3が互いに結合して環を形成する例としては、シクロヘキサン環等が挙げられる。R4で表される炭素数7から15のアラルキル基としては、ベンジル基、ナフチルメチル基、フェネチル基等が挙げられる。
【0069】
アルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤の例としては種々の化合物が知られているが、その中でも、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-1-{[4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}-2-メチルプロパン-1-オン及び2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンが最も好ましい。アルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤の市販品としては、OMNIRAD184(OMNIRADはIGM Group B.V.の登録商標)、OMNIRAD1173、OMNIRAD2959、OMNIRAD127、OMNIRAD651等が挙げられる。アルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤と類似の構造を持つOMNIRADMBF(R2とR3を合わせて、=Oである場合の例)、OMNIRAD754も挙げられる。
【0070】
本発明のアルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤は、炭素原子、水素原子及び酸素原子のみから構成されており、その特徴としては、硬化時の着色が少なく、硬化塗膜の基材への密着性が高いことが知られている。一方、アルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤は、波長350nmから420nmの範囲における光吸収は弱く、当該範囲の光を含むエネルギー線に対しては、光ラジカル重合開始剤としての活性が低い。しかし、アルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤と、本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物を併用することにより、光ラジカル重合開始剤としての活性が向上し、アルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤による重合速度を向上させるだけでなく、表面硬度の向上等の相乗効果が期待できる。
【0071】
本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物は、アルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤等の光ラジカル重合開始剤が存在しない条件でも、波長350nmから420nmの範囲におけるエネルギー線によって、ラジカル重合性化合物の重合を開始する能力を有する。例えば、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルの開始能力は、当該波長範囲で活性が高いといわれている2-イソプロピルチオキサントン(ITX)やα-アミノアセトフェノン系光ラジカル重合開始剤(OMNIRAD907)より高く、炭素原子、水素原子及び酸素原子だけで構成された光ラジカル重合開始剤としては極めて高い光ラジカル重合開始能を有する。そしてさらに、光ラジカル重合開始剤として、本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物とアルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤を併用することにより、光ラジカル重合速度をさらに向上させることができる。また、光重合物(硬化物)の物性、特に重量平均分子量や数平均分子量が増大することにより、引張強度等の機械強度を向上させることができる。さらには重合物の硬度等が改善できる。高分子材料の強度は実用上極めて重要な性質であり、分子量の増大に伴って増大することが知られている(中野詔彦、長谷川澄子、「ポリスチレンの引張強度に及ぼす分子量の影響」、材料33(372), 1206-1212, 1984)。
【0072】
上記の効果は、本発明の光ラジカル重合開始剤である1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物とアルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤を併用することにより、それぞれの光ラジカル重合開始剤の重合開始速度が適度にばらつくため、例えば、光重合性組成物中に重合性樹脂を含有する組成物では、重合して収縮した樹脂の間に未重合の重合性組成物が入り重合していくため、光重合物の硬化収縮を低減することができるとともに、後からの重合が表面で充分に架橋構造を形成するため、重合停止反応が起こりづらくなり、その結果、分子量が大きくなり、光重合物の表面硬度を高くすることができると考えられる。
【0073】
また、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物とアルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤を併用することにより、より広い波長範囲での紫外線吸収が可能となり、多くの波長に吸収をもつ高圧水銀ランプ等の照射による重合速度のさらなる向上が期待できる。
【0074】
((ii)ベンゾフェノン系光ラジカル重合開始剤)
本発明に用いられるベンゾフェノン系光ラジカル重合開始剤は、ベンゾフェノン構造を持ち光照射により励起し水素引き抜き反応を起こしラジカル種を発生する化合物であれば特に限定されない。その代表的な構造としては下記一般式(3)で表される。
【0075】
【0076】
一般式(3)において、R5からR14はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1から10のアルキル基、炭素数1から10のアルコキシ基、炭素数1から10のアシル基、炭素数1から10のアシルオキシ基、炭素数5から12のアリール基、炭素数5から12のアリールオキシ基、水酸基、ビニル基、炭素数1から10のアルキル基を有するアルキルカルボニル基、炭素数6から15のアリール基を有するアリールカルボニル基、炭素数1から10のアルキル基を有するアルキルオキシカルボニル基又は炭素数6から15のアリール基を有するアリールオキシカルボニル基のいずれかを表す。R5からR14は互いに同一であっても異なっていてもよい。また芳香環の炭素原子を介して隣り合う2つの置換基が互いに結合し、該炭素原子と共に環構造を形成してもよい。さらに、R9とR10が互いに直接又は酸素原子を介して結合し、該炭素原子と共に環構造を形成してもよい。
【0077】
一般式(3)中、R5乃至R14で表される炭素数1から10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、n-アミル基、i-アミル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、n-デシル基、シクロヘキシル基等の直鎖状、分枝鎖状又は環状のアルキル基を挙げることができる。炭素数5から12のアリール基としては、置換基を有しても良いフェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられる。炭素数1から10のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等の直鎖状、分枝鎖状又は環状のアルコキシ基を挙げることができる。炭素数5から12のアリールオキシ基としては、置換基を有しても良いフェニルオキシ基、トリルオキシ基、ナフチルオキシ基等が挙げられる。
【0078】
炭素数1から10のアルキル基を有するアルキルカルボニル基としては、アセチル基、プロピオニル基、n-ブタノイル基、iso-ブタノイル基、n-ペンタノイル基、n-ヘキサノイル基、n-ヘプタノイル基、n-オクタノイル基、2-エチルヘキサノイル基、n-ノナノイル基、n-デカノイル基等が挙げられる。また、炭素数6から15のアリール基を有するアリールカルボニル基としては、ベンゾイル基、ナフトイル基等が挙げられる。
【0079】
炭素数1から10のアルキル基を有するアルキルオキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-プロピルオキシカルボニル基、イソプロピルオキシカルボニル基、n-ブトキシカルボニル基、i-ブトキシカルボニル基、sec-ブトキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニル基、n-ペンチルオキシカルボニル基、2,2-ジメチルプロピルオキシカルボニル基、シクロペンチルオキシカルボニル基、n-ヘキシルオキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、n-ヘプチルオキシカルボニル基、2-メチルペンチルオキシカルボニル基、n-オクチルオキシカルボニル基、2-エチルヘキシルオキシカルボニル基、n-ノニルオキシカルボニル基、n-デシルオキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基等の直鎖状、分枝鎖状又は環状のアルキルオキシカルボニル基を挙げることができる。炭素数6から15のアリール基を有するアリールオキシカルボニル基としては、例えば、フェノキシカルボニル基、1-ナフチルオキシカルボニル基、2-ナフチルオキシカルボニル基等を挙げることができる。R2とR3が互いに結合して環を形成する例としては、シクロヘキサン環等が挙げられる。
【0080】
ベンゾフェノン系光ラジカル重合開始剤の例としては種々の化合物が知られているが、その中でも、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、o-ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、4-メトキシベンゾフェノン、4-ヒドロキシベンゾフェノン、4,4’- ジヒドロキシベンゾフェノン、アクリル化ベンゾフェノン、4-メチルベンゾフェノン、4,4’-ジメチルベンゾフェノン、4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン、3,3,4,4’-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、4,4’-ジフェノキシベンゾフェノン及びフルオレノンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。また、上記ベンゾフェノン化合物を主鎖や末端、側鎖に含む鎖状高分子化合物、分岐型高分子化合物又は樹状高分子化合物であってもよい。これらの化合物の中でも、o-ベンゾイル安息香酸メチル、ベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノンが最も好ましい。ベンゾフェノン系光ラジカル重合開始剤の市販品としては、OMNIRAD4PBZ(OMNIRADはIGM Group B.V.の登録商標)、OMNIRADOMBB等が挙げられる。
【0081】
ベンゾフェノン系光ラジカル重合開始剤は、炭素原子、水素原子及び酸素原子のみから構成されているだけでなく、硬化塗膜の密着性が高いことが知られている。
【0082】
また、ベンゾフェノン系光ラジカル重合開始剤は、アルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤と同様に、波長350nmから420nmの範囲における光吸収は弱く、当該範囲の光を含むエネルギー線に対して光ラジカル重合開始剤としての活性が低い。しかし、ベンゾフェノン系光ラジカル重合開始剤と、本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物を併用することにより、ラジカル重合開始剤としての活性がさらに向上し、ベンゾフェノン系光ラジカル重合開始剤による重合速度を向上させるだけでなく、硬化塗膜の密着性の向上等の相乗効果が期待できる。
【0083】
また、本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物とベンゾフェノン系光ラジカル重合開始剤を併用することにより、より広い波長範囲での紫外線吸収が可能となり、多波長の例えば、高圧水銀ランプ等の照射源による重合速度のさらなる向上が期待できる。
【0084】
用途によっては、ヘテロ原子またはハロゲン原子を有するベンゾフェノン系光ラジカル重合開始剤も用いることができる。ヘテロ原子またはハロゲン原子を有するベンゾフェノン系光ラジカル重合開始剤としては、2,4-ジクロロベンゾフェノン、2,4’-ジクロロベンゾフェノン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルスルフィド、4,4’-モルホリノベンゾフェノン等が挙げられる。
【0085】
一方、用途によっては、窒素原子、硫黄原子やリン原子等環境問題が懸念される原子を含む光ラジカル重合開始剤を併用することが可能である。例えば、本発明で併用できる光ラジカル重合開始剤としては、アシルホスフィンオキサイド系光ラジカル重合開始剤、オキシムエステル系光ラジカル重合開始剤、α-アミノアセトフェノン系光ラジカル重合開始剤、トリアジン系光ラジカル重合開始剤、チオキサントン系光ラジカル重合開始剤、ビイミダゾール系光ラジカル重合開始剤又はアクリジン系光ラジカル重合開始剤等が挙げられる。中でも、併用による高感度が期待できることから、(iv)アシルホスフィンオキサイド系光ラジカル重合開始剤、(v)オキシムエステル系光ラジカル重合開始剤が好ましい。また、(vi)ビイミダゾール系光ラジカル重合開始剤は、併用による硬化速度の上昇だけでなく、ロイコクリスタルバイオレット等の還元剤を併用することなく、硬化速度を上げることができる等の相乗効果が期待できることから特に好ましい。また、以上列記した光ラジカル重合開始剤は窒素原子、硫黄原子やリン原子等環境問題が懸念される原子を含む化合物であるが、本発明の光ラジカル重合開始剤である1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物を併用することにより、その使用量を減らすことが可能であり、環境への負荷を低減できる。
【0086】
ここに挙げた光ラジカル重合開始剤は、窒素原子、硫黄原子やリン原子を有することにより、350nm~420nmに紫外線吸収を持つものが多く、これらの波長範囲の光に対して活性が高いものが多いが、本発明の光ラジカル重合開始剤である1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物を併用したときは、その光吸収を取り合うことにより、活性が十分に発揮できない恐れが危惧されるが、本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物は波長が350nmから420nmまで範囲の光を吸収しラジカルを発生させたのち、その紫外線領域において光を吸収しなくなるフォトブリーチング機能を有するため、他の光ラジカル重合開始剤が共存させた場合においても他の光ラジカル重合開始剤が紫外線で励起されることを阻害することなく、他の光ラジカル重合開始剤も十分にその能力を発揮できることとなる。さらに、光ラジカル重合の初期は本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物が光ラジカル重合開始剤として作用するが、その後フォトブリーチングし該波長の光を吸収しなくなるので、後半は他の光ラジカル重合開始剤が光ラジカル重合開始剤として作用することを利用して、厚み方向に傾斜的な材料を合成することも可能である。
【0087】
((iv)アシルホスフィンオキサイド系光ラジカル重合開始剤)
本発明に用いられるアシルホスフィンオキサイド系光ラジカル重合開始剤は、フェニルビスアシルホスフィンオキサイド構造を持ち、光照射により励起し分解しラジカル種を発生する化合物であれば特に限定されない。その代表的な構造としては下記一般式(4)で表される。
【0088】
【0089】
一般式(4)において、R15からR24はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1から10のアルキル基、炭素数1から10のアルコキシ基、炭素数5から12のアリール基、炭素数5から12のアリールオキシ基、炭素数1から10のアルキル基を有するアルキルカルボニル基、炭素数6から15のアリール基を有するアリールカルボニル基、炭素数1から10のアルキル基を有するアルキルオキシカルボニル基又は炭素数6から15のアリール基を有するアリールオキシカルボニル基のいずれかを表す。R25は置換基を有してもよい炭素数1から10のアルキル基、炭素数1から10のアルコキシ基、炭素数1から10のアシル基、炭素数5から12のアリール基、炭素数5から12のアリールオキシ基、炭素数1から10のアルキル基を有するアルキルカルボニル基、炭素数6から15のアリール基を有するアリールカルボニル基、炭素数1から10のアルキル基を有するアルキルオキシカルボニル基又は炭素数6から15のアリール基を有するアリールオキシカルボニル基のいずれかを表す。
【0090】
一般式(4)中、R15からR24で表される炭素数1から10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、n-アミル基、i-アミル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、n-デシル基、シクロヘキシル基等の直鎖状、分枝鎖状又は環状のアルキル基を挙げることができる。炭素数5から12のアリール基としては、置換基を有しても良いフェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられる。炭素数1から10のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等の直鎖状、分枝鎖状又は環状のアルコキシ基を挙げることができる。炭素数5から12のアリールオキシ基としては、置換基を有しても良いフェニルオキシ基、トリルオキシ基、ナフチルオキシ基等が挙げられる。
【0091】
炭素数1から10のアルキル基を有するアルキルカルボニル基としては、アセチル基、プロピオニル基、n-ブタノイル基、iso-ブタノイル基、n-ペンタノイル基、n-ヘキサノイル基、n-ヘプタノイル基、n-オクタノイル基、2-エチルヘキサノイル基、n-ノナノイル基、n-デカノイル基等が挙げられる。また、炭素数6から15のアリール基を有するアリールカルボニル基としては、置換基を有しても良いベンゾイル基、ナフトイル基等が挙げられる。
【0092】
炭素数1から10のアルキル基を有するアルキルオキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-プロピルオキシカルボニル基、イソプロピルオキシカルボニル基、n-ブトキシカルボニル基、i-ブトキシカルボニル基、sec-ブトキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニル基、n-ペンチルオキシカルボニル基、2,2-ジメチルプロピルオキシカルボニル基、シクロペンチルオキシカルボニル基、n-ヘキシルオキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、n-ヘプチルオキシカルボニル基、2-メチルペンチルオキシカルボニル基、n-オクチルオキシカルボニル基、2-エチルヘキシルオキシカルボニル基、n-ノニルオキシカルボニル基、n-デシルオキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基等の直鎖状、分枝鎖状又は環状のアルキルオキシカルボニル基を挙げることができる。炭素数6から15のアリール基を有するアリールオキシカルボニル基としては、例えば、フェノキシカルボニル基、1-ナフチルオキシカルボニル基、2-ナフチルオキシカルボニル基等を挙げることができる。
【0093】
アシルホスフィンオキサイド系光ラジカル重合開始剤としては種々の化合物が知られているが、その中でも、ベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキサイド、3,4-ジメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-フェニルエトキシホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメチルベンゾイル)-エチルホスフィンオキサイドからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。アシルホスフィンオキサイド系光ラジカル重合開始剤の市販品としては、OMNIRADTPO、OMNIRADTPO-L、OMNIRAD819等が挙げられる。
【0094】
((v)オキシムエステル系光ラジカル重合開始剤)
本発明に用いられるオキシムエステル系光ラジカル重合開始剤は、オキシムエステル構造を持ち、光照射により励起し分解しラジカル種を発生する化合物であれば特に限定されない。その代表的な構造としては下記一般式(5)で表される。
【0095】
【0096】
一般式(5)において、R30、R31、R32はそれぞれ独立に、炭素数1から10のアルキル基、又は炭素数6から20のアリール基を表す。該アリール基は、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等を含む複素環であってもよく、さらに該アリール基が、置換基を有してもよいアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールビニル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基で置換されていてもよく、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基によって置換されていてもよい。nは0又は1の整数である。
【0097】
一般式(5)中、R30、R31、R32で表される炭素数1から10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、n-アミル基、i-アミル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、n-デシル基、シクロヘキシル基等の直鎖状、分枝鎖状又は環状のアルキル基を挙げることができる。炭素数6から20のアリール基としては、置換基を有しても良いフェニル基、トリル基、ビフェニル基、フェノキシフェニル基、フェニルチオフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フルオレニル基、ベンゾフラニル基、ジベンゾチオフェニル基、カルバゾール基、ベンゾカルバゾール基等が挙げられる。
【0098】
オキシムエステル系光ラジカル重合開始剤としては種々の化合物が知られているが、その中でも、N-ベンゾイルオキシ-1-(4-フェニルスルファニルフェニル)オクタン-1-オン-2-イミン、N-アセチルオキシ-1-(4-フェニルスルファニルフェニル)-3-シクロヘキシルプロパン-1-オン-2-イミン、N-アセトキシ-1-[9-エチル-6-{2-メチル-4-(3,3-ジメチル-2,4-ジオキサシクロペンタニルメチルオキシ)ベンゾイル}-9H-カルバゾール-3-イル]エタン-1-イミン及び1-[7-(2-メチルベンゾイル)-9,9-ジプロピル-9H-フルオレン-2-イル]エタノンO-アセチルオキシムからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。オキシムエステル系光ラジカル重合開始剤の市販品としては、イルガキュアOXE01、イルガキュアOXE02、イルガキュアOXE03等が挙げられる。
【0099】
アシルホスフィンオキサイド系光ラジカル重合開始剤、オキシムエステル系光ラジカル重合開始剤は、350nmから420nmの範囲の光を吸収し励起し開裂して、効率的にラジカル種を発生する開始剤である。一方、アシルホスフィンオキサイド系光ラジカル重合開始剤、及び/又はオキシムエステル系光ラジカル重合開始剤と、本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物を併用することにより、ラジカル重合性化合物の重合速度をさらに向上させたり、重合が開始するまでの時間、即ち誘導期間を短縮したりすることができる。アシルホスフィンオキサイド系光ラジカル重合開始剤は光分解に伴い、350nmから420nmの範囲の光に対して、吸収がないか、あるいは弱い物質に変化するため、併用することにより、深部の硬化も促進される。オキシムエステル系光ラジカル重合開始剤は、光分解に伴い、脱炭酸して、分子量が小さい、すなわち易動度の大きく、重合開始活性の大きい、メチルラジカルやフェニルラジカルを生成するため、組成物の粘度の高い系や、顔料を含有する系の硬化性向上や、深部硬化が期待できる。
【0100】
アシルホスフィンオキサイド系光ラジカル重合開始剤、オキシムエステル系光ラジカル重合開始剤の一部はフォトブリーチング効果を示す光ラジカル重合開始剤として知られているが、本発明の光ラジカル重合開始剤である1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物もフォトブリーチング効果を示すことから、この両者を光ラジカル重合開始剤として用いることにより、更に厚膜に対する深部硬化性が促進されるとともに、重合硬化した膜の着色を防ぐことが期待される。
【0101】
((vi)ビイミダゾール系光ラジカル重合開始剤)
本発明に用いられるビイミダゾール系光ラジカル重合開始剤は、ビイミダゾール構造を持ち光照射により励起し分解しラジカル種を発生する化合物であれば特に限定されない。その代表的な構造としては下記一般式(6)で表される。
【0102】
【0103】
一般式(6)中、R40からR47は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1から10のアルキル基、炭素数6から10のアリール基、炭素数1から10のアルコキシ基、炭素数6から12のアリールオキシ基、シアノ基又はハロゲン原子を表す。
【0104】
一般式(6)中、R40からR47で表される炭素数1から10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、n-アミル基、i-アミル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、n-デシル基、シクロヘキシル基等の直鎖状、分枝鎖状又は環状のアルキル基を挙げることができる。炭素数6から12のアリール基としては、置換基を有しても良いフェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられる。炭素数1から10のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等の直鎖状、分枝鎖状又は環状のアルコキシ基を挙げることができる。炭素数6から12のアリールオキシ基としては、置換基を有しても良いフェニルオキシ基、トリルオキシ基、ナフチルオキシ基等が挙げられる。
【0105】
ビイミダゾール系光ラジカル重合開始剤としては、2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジ(メトキシフェニル)イミダゾール二量体、2-(o-フルオロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(o-メトキシフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(p-メトキシフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体等の2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体等が挙げられる。
【0106】
ビイミダゾール系光ラジカル重合開始剤は、紫外線照射により、二つのイミダゾール環を結ぶC―N結合が均等に開裂し、イミダゾリルラジカル2分子を生成する。このイミダゾリルラジカルが、他の化合物から水素を引き抜き、水素を引き抜かれた化合物が開始ラジカルとなって、重合が開始する。よって、このビイミダゾール系光ラジカル重合開始剤を用いるときは、一般的に水素供与体(還元剤)が添加される。水素供与体(還元剤)としては、例えば、ビス[4-(ジメチルアミノ)フェニル]メタン、ビス[4-(ジエチルアミノ)フェニル]メタン、N-フェニルグリシン、ロイコクリスタルバイオレット等が用いられるが、これらは保存安定性に問題があり、例えば、ビイミダゾール系光ラジカル重合開始剤とロイコクリスタルバイオレットを含有するラジカル重合性組成物は、褐色瓶中でも1週間で硬化してしまう現象が見られる。しかし、本発明の光ラジカル重合開始剤である1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物とビイミダゾール系光ラジカル重合開始剤を併用することにより、ロイコクリスタルバイオレット等の水素供与体(還元剤)を共存させることなく、高速でラジカル重合を開始できる。その機構については定かではないが、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物のヒドロキノン構造が持つ還元性に起因しているものと思われる。
【0107】
上述した光ラジカル重合開始剤以外の重合開始剤においても、本発明の光ラジカル重合開始剤である1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物を併用することにより、350nmから420nmの波長範囲の光照射による活性が向上したり、その使用量を減らすことが可能となったり、パターン形成能力が向上したり、ラジカル重合性組成物の保存安定性が向上する等の効果を期待できる。
【0108】
本発明で用いることができるアントラキノン系光ラジカル重合開始剤としては、2-エチルアントラキノン、2-t-ブチルアントラキノン、2-フェノキシアントラキノン、2-(フェニルチオ)アントラキノン、2-(ヒドロキシエチルチオ)アントラキノン等が挙げられる。
【0109】
α-アミノアセトフェノン系光ラジカル重合開始剤としては、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン(商品名OMNIRAD907)、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-4’-モルフォリノブチロフェノン(商品名OMNIRAD369)、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチルベンジル)-1-(4-モルフォリノ-4-イル-フェニル)ブタン-1-オン(商品名OMNIRAD379)等が挙げられる
【0110】
トリアジン系光ラジカル重合開始剤としては2-(3,4-メチレンジオキシフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-(4-メトキシフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン等が挙げられる。
【0111】
チオキサントン系重合開始剤としては、2,4-ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン等が挙げられる。
【0112】
アクリジン系光ラジカル重合開始剤としては、アクリジン、1,7-ビス(9,9’-アクリジニル)ヘプタン、9-フェニルアクリジン、1,6-ビス(9-アクリジニル)ヘキサン、1,7-ビス(9-アクリジニル)ヘプタン、1,8-ビス(9-アクリジニル)オクタン、1,9-ビス(9-アクリジニル)ノナン、1,10-ビス(9-アクリジニル)デカン、1,11-ビス(9-アクリジニル)ウンデカン、1,12-ビス(9-アクリジニル)ドデカン等が挙げられる。
【0113】
以上述べたように、本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物のみでも光ラジカル重合開始剤として優れた活性を有しているが、他の光ラジカル重合開始剤(ただし、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物を除く)を併用することにより、光ラジカル重合開始剤の相乗効果によって、さらに高速でラジカル重合性化合物を重合させることができるとともに、高粘度系、顔料添加系への適用、さらに表面物性、深部硬化等種々の物性を改良することができる。
【0114】
本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物と他の光ラジカル重合開始剤(1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物を除く)の添加割合は、特に限定されないが、暗所におけるラジカル重合禁止効果を呈する添加割合としては、本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物に対する光ラジカル重合開始剤(ただし、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物を除く)の配合比は重量比で99:1から1:99の範囲内にあることが好ましい。また、この効果は1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物の添加量が少量でも発揮されるので、経済的な効果も含め、配合比は重量比で50:50から1:99の範囲内であってもよく、10:90から1:99の範囲内であってもよい。また、窒素原子、硫黄原子やリン原子等が含まれている光ラジカル重合開始剤の場合、その添加量を減らす目的でも本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物を併用することが好ましいが、その場合は、配合比は重量比で50:50から99:1の範囲内であってもよい。
【0115】
(ラジカル重合性化合物)
本発明の光ラジカル重合性組成物に用いるラジカル重合性化合物としては、ラジカル重合性を有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、スチレン、p-ヒドロキシスチレン、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等及び/又はこれらのオリゴマーが挙げられる。
【0116】
アクリル酸エステルとしては、アクリレート基がひとつである単官能アクリレートや、アクリレート基が複数ある二官能アクリレートあるいは多官能アクリレート等が挙げられる。単官能アクリレートとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸-n-ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、2-アクリロイルオキシエチルサクシネート、イソステアリルアクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、ステアリルアクリレート、イソボルニルアクリレート(IBOA)、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ラウリルアクリレート、2-フェノキシエチルアクリレート、イソデシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、トリデシルアクリレート、カプロラクトンアクリレート、エトキシ化ノニルフェニルアクリレート、イソボニルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2-メトキシエチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、2-エトキシエチルアクリレート、ベンジルアクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキシルアクリレート(TMCHA)、ジシクロペンテニルアクリレート(DCPA)等が挙げられる。二官能アクリレートとして、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、1,10-デカンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、エトキシ化(3)ビスフェノールAジアクリレート、アルコキシ化ネオペンチルグリコールジアクリレート等が挙げられる。
【0117】
多官能アクリレートとしては、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート等が挙げられる。さらには、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリブタジエンアクリレート、ポリオールアクリレート、ポリエーテルアクリレート、シリコーン樹脂アクリレート、イミドアクリレート等も使用可能である。
【0118】
同様に、メタクリレート化合物としては、単官能メタクリレート、二官能メタクリレート又は多官能メタクリレート等が挙げられる。単官能メタクリレートとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸-n-ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル、フェノキシエチレングリコールメタクリレート、ステアリルメタクリレート、2-メタクリロイルオキシエチルサクシネート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、2-フェノキシエチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、トリデシルメタクリレート等が挙げられる。二官能メタクリレートとしては、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9-ノナンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、1,3-ブチレンジオールジメタクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート等が挙げられる。多官能メタクリレートとしては、トリメチロールプロパントリメタクリレート等が挙げられる。
【0119】
これらのラジカル重合性化合物は、単独で用いても、二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0120】
(重合性樹脂)
また、本発明の光ラジカル重合性組成物には、重合性樹脂をさらに含有してもよい。重合性樹脂としては、光重合性プレポリマー、アクリル樹脂、スチレン樹脂、エポキシ樹脂等のバインダーポリマー、アルカリ可溶性樹脂が挙げられる。
【0121】
光重合性プレポリマーとしては、特に限定されず、例えば、ポリエステルアクリレート、ポリエステルメタクリレート、エポキシアクリレート、エポキシメタクリレート、ポリウレタンアクリレート、ポリウレタンメタクリレート等が挙げられる。これらの光重合性プレポリマーは、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。これらの光重合性プレポリマーの中で、好ましくは、ポリウレタンアクリレート及びポリウレタンメタクリレートである。
【0122】
アルカリ可溶性樹脂としては、水酸基及び/又はカルボキシル基とエチレン性不飽和結合基とを有する化合物を好ましく用いることができる。エポキシ化合物のように反応中に水酸基を発生する基とチレン性不飽和結合基とを有する化合物でもよい。
【0123】
水酸基とエチレン性不飽和結合基とを有する化合物としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、2-アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、ジヒドロキシアクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。さらに、2-ヒドロキシ3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、イソシアヌル酸EO変性ジアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。反応によって水酸基を生じるグリシジル(メタ)アクリレート等も挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0124】
カルボキシル基とエチレン性不飽和結合基とを有する化合物としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、2-アクリロイルオキシエチルサクシネート、クロトン酸、イソクロトン酸、チグリン酸、3-メチルクロトン酸、2-メチル-2-ペンテン酸、α-ヒドロキシアクリル酸、α-クロロアクリル酸、桂皮酸等が挙げられる。さらに、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸等が挙げられる。また、コハク酸モノ(2-アクリロイルオキシエチル)、コハク酸モノ(2-メタクリロイルオキシエチル)、フタル酸モノ(2-アクリロイルオキシエチル)、フタル酸モノ(2-メタクリロイルオキシエチル)等が挙げられる。さらには、例えば、ω-カルボキシポリカプロラクトンモノアクリレート、ω-カルボキシポリカプロラクトンモノメタクリレート等も挙げられる。
【0125】
アルカリ可溶性樹脂として、単量体だけではなく、オリゴマー化したアルカリ可溶性樹脂でもよい。オリゴマー化したアルカリ可溶性樹脂としては、ネガ型レジストに一般的に用いられるものを用いることができ、アルカリ水溶液に可溶性を有するものであればよく、特に限定されない。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、スチレン、γ-メチルスチレン、N-ビニル-2-ピロリドン、グリシジル(メタ)アクリレート等の中から選ばれる1種以上と、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、ビニル酢酸、これらの無水物の中から選ばれる1種以上とからなるコポリマーを例示することができ、上記のコポリマーにグリシジル基又は水酸基を有するエチレン性不飽和化合物を付加させたポリマー等も例示できる。また、例えば、(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸と、スチレン、α-メチルスチレン、低級アルキル(メタ)アクリレート、イソブチレン等の不飽和基含有化合物との共重合により得られるカルボキシル基含有樹脂、脂肪族ジイソシアネート、分岐脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネート等のジイソシアネートと、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸等のカルボキシル基含有ジアルコール化合物及びポリカーボネート系ポリオール、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリオレフィン系ポリオール、アクリル系ポリオール、ビスフェノールA系アルキレンオキシド付加体ジオール、フェノール性ヒドロキシル基及びアルコール性ヒドロキシル基を有する化合物等のジオール化合物の重付加反応によるカルボキシル基含有ウレタン樹脂、脂肪族ジイソシアネート、分岐脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネート等のジイソシアネート化合物と、ポリカーボネート系ポリオール、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリオレフィン系ポリオール、アクリル系ポリオール、ビスフェノールA系アルキレンオキシド付加体ジオール、フェノール性ヒドロキシル基及びアルコール性ヒドロキシル基を有する化合物等のジオール化合物の重付加反応によるウレタン樹脂の末端に酸無水物を反応させてなる末端カルボキシル基含有ウレタン樹脂、ジイソシアネートと、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビキシレノール型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂等の2官能エポキシ樹脂の(メタ)アクリレートもしくはその部分酸無水物変性物、カルボキシル基含有ジアルコール化合物及びジオール化合物の重付加反応によるカルボキシル基含有ウレタン樹脂、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等の分子中に1つの水酸基と1つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物を加え、末端(メタ)アクリル化したカルボキシル基含有ウレタン樹脂等も挙げられる。アルカリ可溶性樹脂の市販品としては、ダイヤナールNRシリーズ(三菱レイヨン社製)、ビスコートR-264、KSレジスト106(大阪有機化学工業社製)、Ebecryl3800(ダイセル・オルネクス社製)、アクリキュアーRD-F8(日本触媒社製)、フォレットZAH-110(綜研化学社製)等が挙げられる。
【0126】
また、本発明の光ラジカル重合性組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、ラジカル重合を促進する意味で、水素供与体を添加してもよい。水素供与体としては、例えば、アルコール系水素供与体のメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,6-ヘキサントリオール、1,2,3-ヘプタントリオール、2,6-ジメチル-1,2,6-ヘキサントリオール、1,2,3-ヘキサントリオール、1,2,3-ブタントリオール、3-メチル-1,3,5-ペンタントリオール、3,7,11,15-テトラメチル-1,2,3-ヘキサデカントリオール、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、1,4-ヘキサンジオール、1,4-ヘキサンジメタノール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ヒドロキシアセトン、グリコール酸、アセトイン、バレロイン、グリコール酸メチル、乳酸ブチル、3-ヒドロキシ酪酸等、メルカプタン系水素供与体の2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾオキサゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾール、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール及び2-メルカプト-2,5-ジメチルアミノピリジン等を挙げることができる。また、アミン系水素供与体の4、4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4、4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4-ジエチルアミノアセトフェノン、4-ジメチルアミノプロピオフェノン、エチル-4-ジメチルアミノベンゾエート、4-ジメチルアミノ安息香酸、4-ジメチルアミノベンゾニトリル等を挙げることができる。さらに、ビス[4-(ジメチルアミノ)フェニル]メタン、ビス[4-(ジエチルアミノ)フェニル]メタン、ロイコクリスタルバイオレット等が挙げられる。これらの水素供与体は単独で用いても2種類以上併用しても良い。
さらにまた、本発明の光ラジカル重合性組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、上記以外に、顔料及び/又は染料、希釈剤、分散剤、有機又は無機の充填剤、レベリング剤、界面活性剤、消泡剤、増粘剤、難燃剤、表面改質剤、浸透促進剤、保湿剤、定着剤、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、キレート剤、pH調整剤、安定剤、滑剤、可塑剤等の各種樹脂添加剤を配合してもよい。用途によっては、溶剤を含んでもよい。
【0127】
[顔料]
本発明に用いられる顔料としては、下記のものが挙げられる(いずれもカラーインデックスナンバーにて示す。)。C.I.Pigment Yellow12、13、14、17、20、24、55、83、86、93、109、110、117、125、137、139、147、148、153、154、166、168、C.I.Pigment Orange36、43、51、55、59、61、C.I.Pigment Red9、97、122、123、149、168、177、180、192、215、216、217、220、223、224、226、227、228、240、C.I.Pigment Violet19、23、29、30、37、40、50、C.I.Pigment Blue15、15:1、15:4、15:6、22、60、64、C.I.Pigment Green7、36、C.I.Pigment Brown23、25、26等が例示できる。
【0128】
また、黒色顔料としては、カーボンブラック、チタンブラック等が挙げられ、カーボンブラックの具体例としては、デグサ社製 Special Black 4、Special Black 100、Special Black 250、Special Black 350、Special Black 550;コロンビヤンカーボン社製 Raven 1040、Raven 1060、Raven 1080、Raven 1255;三菱化学社製 MA7、MA8、MA11、MA100、MA220、MA230等が挙げられる。
【0129】
[溶剤]
本発明の光重合性組成物は、塗布適性を付与するために、溶剤を用いて粘度を調整してもよい。溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、トルエン、シクロヘキサン、イソホロン、セロソルブアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、キシレン、エチルベンゼン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジエチルエーテルアセテート、酢酸イソアミル、乳酸エチル、メチルエチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。これらは、単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0130】
(光重合方法)
本発明の光ラジカル重合性組成物に光を照射して重合することにより重合物を得ることができる。光ラジカル重合性組成物に光を照射し重合させ硬化させる場合、当該光ラジカル重合性組成物をフィルム状に成形して光重合させることもできるし、塊状に成形して光重合させることもできる。フィルム状に成形して光重合させる場合は、液状の当該光ラジカル重合性組成物を例えばポリエステルフィルム等の基材にバーコーター等を用いて膜厚5μmから300μmになるように塗布する。
【0131】
用いられる基材としてはフィルム、紙、アルミ箔、金属、木質、プラスチック基材等が主に用いられるが特に限定されない。基材としてのフィルムに用いられる素材としてはポリ塩化ビニル(塩ビ)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリウレタン(PU)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が用いられる。エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンビニルアルコール共重合体、エチレンメタクリル酸共重合体、ナイロン、ポリ乳酸、ポリカーボネート等のフィルム又はシート、セロファン、アルミニウムフォイル、もしくはこれらの複合材料も挙げることが出来る。上質紙、コート紙、アート紙、模造紙、薄紙、厚紙等の紙、各種合成紙等に各種フィルムをラミネートしたものでも有用である。特に、PEやPP等のプラスチックフィルムが好ましい。
【0132】
基材フィルムに本発明の光ラジカル重合性組成物を塗布する方法としては、特に制限されないが、例えば、バーコーター、ロールコーター、グラビアコーター、フレキソコーター、エアドクターコーター、ブレードコーター、エアナイフコーター、スクイズコーター、含浸コーター、トランスファロールコーター、キスコーター、カーテンコーター、キャストコーター、スプレイコーター、ダイコーター、スピンコーター、オフセット印刷機、スクリーン印刷機等を適宜採用することができる。インクジェット機により、基材上に液滴として噴出塗布する方法もとることができる。本発明の光ラジカル重合性組成物は十分な速度で硬化することができるため、塗布と同時に硬化させることができ、複雑な装置、工程を経ずに硬化膜を形成することができる。また、硬化後に加熱処理等をすることも可能である。
【0133】
このようにして調製した光ラジカル重合性組成物からなる塗膜に、エネルギー線を1から1000mW/cm2程度の強さで光照射することにより、光重合物を得ることができる。用いる光源としては、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ガリウムドープドランプ、ブラックライト、中心波長が365nm、375nm、385nm、395nm又は405nmの紫外線LED、青色LED、白色LED、ヘレウス社製のDバルブ、Vバルブ等が挙げられる。また、太陽光等の自然光を使用することもできる。本発明の光ラジカル重合開始剤は350nmから420nmに紫外吸収を持ち、該波長域の光によってラジカル種を発生する能力を有するため、特に、350nmから420nmの波長範囲の光を照射する照射源が好ましく、その意味で中心波長が365nm、375nm、385nm、395nm又は405nmの紫外線LED、半導体レーザーが好ましい。
【0134】
(光Rheometer)
本実施例において、光硬化性の評価は、光Rheometer測定により下記のようにして行った。UV照射器として、浜松ホトニクス社製LIGHTNINGCUREを装着した、アントンパール社製の光Rheometer MCR102を用いて、光ラジカル重合性組成物の複素粘度の推移を測定し、該粘度上昇速度から硬化速度を測定した。
【0135】
Photo-Rheometer装置:Anton Paar社製Modular Compact Rheometer MCR102
測定冶具:パラレルプレート(φ10mm)
厚み:10μm
振り角:5.0%一定
周波数:10Hz一定
温度:30℃一定
測定雰囲気:窒素雰囲気
UV照射器:浜松ホトニクス社製LIGHTNINGCURE(高圧水銀-キセノンランプ)405nmバンドパスフィルター
照射強度:50 mW/cm2
照射開始時間:30秒後
照射時間:300秒
【0136】
硬化時間:光照射開始から複素粘度を測定し時間を横軸としグラフ化し、6000Pasに達した時間(秒)を硬化時間とした。
【0137】
数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)はゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、標準ポリスチレン換算とした。
GPC:以下の装置構成、条件で測定した。
日本分光社製、2000シリーズ
Intelligent RI Detector RI-2031Plus(JASCO)
Intelligent HPLC Pump PU-2080 Plus(JASCO)
Intelligent Sampler AS-2055 Plus(JASCO)
Intelligent Column Oven CO-2065
GPCカラム GPCKF-806L(Shodex)2本直列
流量:1ml/min
オーブン温度:40℃
キャリア:テトラヒドロフラン(THF)
【0138】
光硬化性(Photo-DSC)
本実施例において、光硬化性の評価は、他にもPhoto-DSCにより総発熱量を測定することにより行った。具体的には、Photo-DSC測定では、試料1.00mg当たりの光照射開始から5分間の総発熱量を求めた。なお、Photo-DSCの測定条件は下記の通りである。
Photo-DSC装置:HITACHI製示差熱分析装置 X-DSC700
UV照射器:Altec社405nm LEDライティングボックス(LLBK1)
照射強度:50mW/cm2
照射時間:300秒間
測定雰囲気:空気気流中100ml/分
サンプル量:1mg
試料厚み:300μm程度
【実施例0139】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、例示を目的として提示をしたものである。すなわち、以下の実施例は、網羅的であったり、記載した形態そのままに本発明を制限したりすることを意図したものではない。よって、本発明は、その趣旨を超えない限り、以下の記載例に限定されるものではない。また、特記しない限り、すべての部及び百分率は重量基準である。
【0140】
[光ラジカル重合硬化速度]
(実施例1)
ラジカル重合性化合物として、トリメチロールプロパントリアクリレート100部に対し、光ラジカル重合開始剤として、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニル1部を加え撹拌し溶解させることにより、光ラジカル重合性組成物の液状物が得られた。当該光ラジカル重合性組成物をUV照射器(浜松ホトニクス社製LIGHTNINGCURE)を装着した、アントンパール社製の光Rheometer MCR102に、膜厚が10μmになるようにパラレルプレート間に施し、紫外線を405nmバンドパスフィルターを通して、50mW/cm2の照度で、測定開始30秒後から、300秒光照射、光ラジカル重合性組成物の複素粘度の変化を測定し、光照射後、複素粘度が6000Pasに達した時間(秒)を硬化時間とし、その結果を表1に記載した。
【0141】
(実施例2)
光ラジカル重合開始剤として、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルを0.5部用いた以外は実施例1と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調整し、同様の方法で紫外線を照射し、光ラジカル重合性組成物の複素粘度の変化をPhoto-Rheometerにより測定し、複素粘度が6000Pasに達した時間(秒)を硬化時間とし、その結果を表1に記載した。
【0142】
(実施例3)
光ラジカル重合開始剤として、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルを0.2部用いた以外は実施例1と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調整し、同様の方法で紫外線を照射し、光ラジカル重合性組成物の複素粘度の変化をPhoto-Rheometerにより測定し、複素粘度が6000Pasに達した時間(秒)を硬化時間とし、その結果を表1に記載した。
【0143】
(実施例4)
光ラジカル重合開始剤として、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルの代わりに1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸を用いた以外は実施例1と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調整し、同様の方法で紫外線を照射し、光ラジカル重合性組成物の複素粘度の変化をPhoto-Rheometerにより測定し、複素粘度が6000Pasに達した時間(秒)を硬化時間とし、その結果を表1に記載した。
【0144】
(比較例1)
光ラジカル重合開始剤として、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルの代わりに1,4-ジメトキシ-2-ナフトエ酸メチルを用いた以外は実施例1と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調整し、同様の方法で紫外線を照射し、光ラジカル重合性組成物の複素粘度の変化をPhoto-Rheometerにより測定し、複素粘度が6000Pasに達した時間(秒)を硬化時間とし、その結果を表1に記載した。
【0145】
(比較例2)
光ラジカル重合開始剤として、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルの代わりに1,4-ジメトキシ-2-ナフトエ酸を用いた以外は実施例1と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調整し、同様の方法で紫外線を照射し、光ラジカル重合性組成物の複素粘度の変化をPhoto-Rheometerにより測定し、複素粘度が6000Pasに達した時間(秒)を硬化時間とし、その結果を表1に記載した。
【0146】
(比較例3)
光ラジカル重合開始剤として、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルの代わりに1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを用いた以外は実施例1と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調整し、同様の方法で紫外線を照射し、光ラジカル重合性組成物の複素粘度の変化をPhoto-Rheometerにより測定し、複素粘度が6000Pasに達した時間(秒)を硬化時間とし、その結果を表1に記載した。
【0147】
(比較例4)
光ラジカル重合開始剤として、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルの代わりに2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オンを用いた以外は実施例1と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調整し、同様の方法で紫外線を照射し、光ラジカル重合性組成物の複素粘度の変化をPhoto-Rheometerにより測定し、複素粘度が6000Pasに達した時間(秒)を硬化時間とし、その結果を表1に記載した。
【0148】
(比較例5)
光ラジカル重合開始剤として、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルの代わりに2-イソプロピルチオキサントンを用いた以外は実施例1と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調整し、同様の方法で紫外線を照射し、光ラジカル重合性組成物の複素粘度の変化をPhoto-Rheometerにより測定し、複素粘度が6000Pasに達した時間(秒)を硬化時間とし、その結果を表1に記載した。
【0149】
実施例1から4及び比較例1から5の結果を表1に示す。
【0150】
【0151】
ラジカル重合性化合物(トリメチロールプロパントリアクリレート)の405nmの波長の光照射による光ラジカル重合反応において、実施例1から4と比較例1、2を比較して明らかなように、本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物が30秒以内に重合硬化しているのに対して、類似の構造を有する1,4-ジメトキシ-2-ナフトエ酸化合物が200秒を超えても硬化しないことがわかる。すなわち、光ラジカル重合開始剤としての機能を発現するためには、1,4-ジヒドロキシ構造が重要であることがわかる。
【0152】
さらに、光ラジカル重合開始剤として1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルを用いた実施例1の場合、その複素粘度が6000Pasに達した時間である硬化時間が5.5秒であり、極めて短時間に硬化していることがわかる。この硬化時間5.5秒という値は、当該波長における光ラジカル重合開始剤として活性が高いものとして市販されている2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン(OMNIRAD907)の硬化時間(比較例4、10.3秒)や2-イソプロピルチオキサントン(ITX)の硬化時間(比較例5、7.8秒)よりも速く、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルが光ラジカル重合開始剤として極めて優れていることがわかる。そして、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルは、OMNIRAD907やITXとは異なり、硫黄や窒素原子を含んでおらず炭素原子と酸素原子と水素原子のみから構成されており、極めて環境にやさしい化合物である。
【0153】
(実施例5)
ラジカル重合性化合物として、トリメチロールプロパントリアクリレート100部に対し、光ラジカル重合開始剤として、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニル0.02mmolになるように(0.2~0.3部相当)加え、界面活性剤・表面改質剤としてメガファックF-556(DIC社製)を数滴加え、撹拌し溶解させることにより、光ラジカル重合性組成物の液状物が得られた。当該光ラジカル重合性組成物をUV照射器(Altec社405nm LEDライティングボックス(LLBK1))を装着した、Thermofisher社製FT-IR Nicolet iS50に、膜厚が4μmになるようにアルミ板上にローラーバー(松尾産業社製Select-Roller L60 OSP-04)を用いて塗布し、試料チャンバー内を窒素置換し、50mW/cm2の照度で、測定開始15秒後から、105秒光照射し測定を行った。光ラジカル重合性組成物の810cm-1付近における(メタ)アクリル酸エステルC=C結合の振動のピークの吸収強度をもとに、光を照射する前の吸収強度を硬化率0%、当該吸収強度が0となるときの硬化率を100%として硬化率を算出した。光照射後、モノマー硬化率が20%に達した時間(秒)を硬化時間とし、その結果を表2に記載した。
【0154】
(実施例6)
1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルを1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸とした以外は実施例5と同様にして光ラジカル重合性組成物を調製し、同様の条件で光照射を行い、モノマー硬化率が20%に達した時間(秒)を測定し、その結果を表2に記載した。
【0155】
(実施例7)
1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルを1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸メチルとした以外は実施例5と同様にして光ラジカル重合性組成物を調製し、同様の条件で光照射を行い、モノマー硬化率が20%に達した時間(秒)を測定し、その結果を表2に記載した。
【0156】
(実施例8)
1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルを1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸エチルとした以外は実施例5と同様にして光ラジカル重合性組成物を調製し、同様の条件で光照射を行い、モノマー硬化率が20%に達した時間(秒)を測定し、その結果を表2に記載した。
【0157】
(比較例6)
1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルを添加しないこと以外は実施例5と同様にして光ラジカル重合性組成物を調製し、同様の条件で光照射を行い、モノマー硬化率が20%に達した時間(秒)を測定し、その結果を表2に記載した。
【0158】
【0159】
実施例5から8と比較例6を比較することによっても、種々の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸および種々のエステル構造を持つ1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物がラジカル重合を開始する能力が高いことがわかる。そして、その効果は、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルが最も高いことがわかる。
【0160】
[ラジカル重合禁止能]
(実施例10)
トリメチロールプロパントリアクリレート100部に対し、熱ラジカル開始剤としてラウロイルペルオキシドを0.5部と、光ラジカル重合開始剤として1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニル2部を混合し、ラジカル重合性組成物を得た。該ラジカル重合性組成物をアントンパール社製の光Rheometer MCR102に、膜厚が10μmになるようにパラレルプレート間に施し、光照射せず、窒素下60℃で保持し、複素粘度が100Pasに達した時間(秒)を誘導時間(IP)とし、5000秒後のラジカル重合性組成物の状態を観察し、その結果を表3に記載した。
【0161】
(実施例11)
光ラジカル重合開始剤として、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルの代わりに1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸を用いた以外は実施例10と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調整し、同様の方法複素粘度が100Pasに達した時間(秒)を誘導時間(IP)とし、5000秒後のラジカル重合性組成物の状態を観察し、その結果を表3に記載した。
【0162】
(比較例32)
トリメチロールプロパントリアクリレート100部に対し、熱ラジカル開始剤としてラウロイルペルオキシドを0.5部混合し、ラジカル重合性組成物を得た。該ラジカル重合性組成物をUアントンパール社製の光Rheometer MCR102に、膜厚が10μmになるようにパラレルプレート間に施し、光照射せず、窒素下60℃で保持し、複素粘度が100Pasに達した時間(秒)を誘導時間(IP)とし、5000秒後のラジカル重合性組成物の状態を観察し、その結果を表3に記載した。
【0163】
(比較例7)
光ラジカル重合開始剤として、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルの代わりに1-ヒドロキシ-4-エトキシ-2-ナフトエ酸を用いた以外は実施例10と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調整し、同様の方法複素粘度が100Pasに達した時間(秒)を誘導時間(IP)とし、5000秒後のラジカル重合性組成物の状態を観察し、その結果を表3に記載した。
【0164】
(比較例29)
光ラジカル重合開始剤として、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルの代わりに1,4-ジメトキシ-2-ナフトエ酸を用いた以外は実施例10と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調整し、同様の方法複素粘度が100Pasに達した時間(秒)を誘導時間(IP)とし、5000秒後のラジカル重合性組成物の状態を観察し、その結果を表3に記載した。
【0165】
(比較例30)
光ラジカル重合開始剤として、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルの代わりに1,4-ジメトキシ-2-ナフトエ酸メチルを用いた以外は実施例10と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調整し、同様の方法複素粘度が100Pasに達した時間(秒)を誘導時間(IP)とし、5000秒後のラジカル重合性組成物の状態を観察し、その結果を表3に記載した。
【0166】
(比較例8)
光ラジカル重合開始剤として、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルの代わりにOMNIRADTPO(2,4,6-trimethylbenzoyl―diphenyl phosphine oxide)を用いた以外は実施例10と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調整し、同様の方法複素粘度が100Pasに達した時間(秒)を誘導時間(IP)とし、5000秒後のラジカル重合性組成物の状態を観察し、その結果を表3に記載した。
【0167】
(比較例31)
光ラジカル重合開始剤として、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルの代わりにOMNIRAD184(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を用いた以外は実施例10と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調整し、同様の方法複素粘度が100Pasに達した時間(秒)を誘導時間(IP)とし、5000秒後のラジカル重合性組成物の状態を観察し、その結果を表3に記載した。
【0168】
【0169】
実施例10、11と比較例29~32、7、8は、光を照射しない条件、すなわち暗条件で、60℃に加熱し、熱重合を試みた実施例である。比較例32より、明らかなように、トリメチロールプロパントリアクリレートは、60℃の加熱条件で、熱ラジカル重合開始剤であるラウロイルパーオキサイドによって重合し硬化し固体となるが、実施例10、11では、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物を共存させることにより重合性せずに液状であることから、熱ラジカル重合開始剤による重合を阻害していることがわかる。この重合阻害は、熱ラジカル重合開始剤によって発生したラジカル種を1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物が捕捉し、ラジカル重合を阻害することによるものであり、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物は、光照射のない条件、すなわち暗条件でラジカルを捕捉する能力があることがわかる。
【0170】
一方、比較例7、29、30より明らかなように、本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物と類似の構造を有する1-ヒドロキシ-4-エトキシ-2-ナフトエ酸や1,4-ジメトキシ-2-ナフトエ酸や1,4-ジメトキシ-2-ナフトエ酸メチルでは5000秒後に硬化していることから、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物に見られるようなラジカル禁止効果はないといえる。更に、比較例8、比較例31より明らかなように、公知の光ラジカル重合開始剤であるOMNIRADTPOや184では5000秒後に硬化していることから、これらの開始剤にはラジカル捕捉能はなく、熱ラジカル重合開始剤による重合が起こっていることがわかる。この結果から、本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物は、暗条件では、発生したラジカルを捕捉する能力があり、この能力は1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物特有のものであり、類似の構造を有する1-ヒドロキシ-4-エトキシ-2-ナフトエ酸、1,4-ジメトキシ-2-ナフトエ酸化合物には認められず、ラジカル禁止能を発現するのに、1,4-ジヒドロキシ構造が重要な役割を果たしていることがわかる。また、公知の光ラジカル重合開始剤であるOMNIRADTPOや184にはこのラジカル禁止能は認められないことから、本発明の光ラジカル重合開始剤である1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物特有の効果であるといえる。
【0171】
[ラジカル重合禁止能解除]
(実施例13)
トリメチルプロパントリアクリレート100部に対し、熱ラジカル開始剤としてラウロイルペルオキシドを0.5部、光ラジカル重合開始剤として1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルを2部混合し、ラジカル重合性組成物を得た。該ラジカル重合性組成物をUV照射器(浜松ホトニクス社製LIGHTNINGCURE)を装着した、アントンパール社製の光Rheometer MCR102に、膜厚が10μmになるようにパラレルプレート間に施し、窒素下60℃で紫外線を405nmバンドパスフィルターを通して、10mW/cm2の照度で照射し、照射開始から複素粘度が100Pasに達した時間(秒)を誘導時間(IP)とし、5000秒後のラジカル重合性組成物の状態を観察し、その結果を表4に記載した。
【0172】
(実施例14)
光ラジカル重合開始剤として1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルの代わりに1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸を用いた以外は実施例13と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調整し、同様の方法複素粘度が100Pasに達した時間(秒)を誘導時間(IP)とし、5000秒後のラジカル重合性組成物の状態を観察し、その結果を表4に記載した。
【0173】
(比較例33)
トリメチルプロパントリアクリレート100部に対し、熱ラジカル開始剤としてラウロイルペルオキシドを0.5部混合し、ラジカル重合性組成物を得た。該ラジカル重合性組成物をUV照射器(浜松ホトニクス社製LIGHTNINGCURE)を装着した、アントンパール社製の光Rheometer MCR102に、膜厚が10μmになるようにパラレルプレート間に施し、窒素下60℃で紫外線を405nmバンドパスフィルターを通して、10mW/cm2の照度で照射し、照射開始から複素粘度が100Pasに達した時間(秒)を誘導時間(IP)とし、5000秒後のラジカル重合性組成物の状態を観察し、その結果を表4に記載した。
【0174】
【0175】
実施例13、14、比較例33は、405nmの光を照射しながら60℃に加熱する条件、すなわち明条件で熱ラジカル重合開始剤による重合を試みた実施例である。比較例33より、明らかなように、トリメチロールプロパントリアクリレートは、明条件でも60℃の加熱条件で、熱ラジカル重合開始剤であるラウロイルパーオキサイドによって重合し硬化し固体となる。一方、実施例10、11と実施例13、14を比較することで明らかなように、暗条件では熱ラジカル重合開始剤が分解してラジカル種を発生しても重合が進行せず、液体のままであったラジカル重合組成物が、405nmの光照射条件、すなわち明条件では、即座に重合が開始され硬化し固体となることがわかる。このことから、本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物は、暗条件では、発生したラジカルを捕捉する能力があり、重合を阻止するが、明条件では、ラジカルを捕捉する能力を失うと共にラジカル重合を促進する効果が発生することがわかる。
【0176】
[他の光ラジカル重合開始剤との併用]
(実施例15)
ラジカル重合性化合物としてトリメチロールプロパントリアクリレート100部に対し、光ラジカル重合開始剤として、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを3部、及び1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニル0.2部を加え撹拌し溶解させることにより、光ラジカル重合性組成物の液状物が得られた。当該光ラジカル重合性組成物に浜松ホトニクス社製LIGHTNINGCURE(高圧水銀-キセノンランプ)の紫外線を405nmバンドパスフィルターを介して照射し、50mW/cm2の照度で光照射、光ラジカル重合性組成物の複素粘度の変化をPhoto-Rheometerにより測定し、複素粘度が6000Pasに達した時間(秒)を硬化時間とし、その結果を表5、7に記載した。
【0177】
(実施例16)
光ラジカル重合開始剤として1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルの代わりに1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸を用いた以外は実施例15と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調整し、同様の方法で紫外線を照射し、光ラジカル重合性組成物の複素粘度の変化をPhoto-Rheometerにより測定し、複素粘度が6000Pasに達した時間(秒)を硬化時間とし、その結果を表5に記載した。
【0178】
(比較例9)
光ラジカル重合開始剤として1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルを添加しないこととした以外は実施例15と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調整し、同様の方法で紫外線を照射し、光ラジカル重合性組成物の複素粘度の変化をPhoto-Rheometerにより測定し、複素粘度が6000Pasに達した時間(秒)を硬化時間とし、その結果を表5に記載した。
【0179】
【0180】
実施例15と16は、光ラジカル重合開始剤として1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物と汎用的な光ラジカル重合開始剤である1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを併用した場合の結果である。1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを単独で用いた場合(比較例9)に比べ明らかに硬化時間が短くなっている。また、表1の実施例3と表5の実施例15を比較すると明らかなように、実施例3の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルを単独で光ラジカル重合開始剤として0.2部使用の場合の硬化時間が17.3秒であるのに比べ、実施例15では、当該波長域ではほとんど活性のない1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを3部添加することにより、硬化時間が12.0秒と約3分の2に短縮されることがわかる。すなわち、実施例15より、光ラジカル重合開始剤として1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルと、汎用的な光ラジカル重合開始剤である1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを併用した場合に、その相乗効果により硬化時間を飛躍的に短縮できるという優れた効果を発揮していることがわかる。
【0181】
(実施例17)
ラジカル重合性化合物として単官能アクリレートであるイソボルニルアクリレート100部を用い、光ラジカル重合開始剤として、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニル0.2部を加え撹拌し溶解させることにより、光ラジカル重合性組成物の液状物が得られた。当該光ラジカル重合性組成物をUV照射器(浜松ホトニクス社製LIGHTNINGCURE)を装着した、アントンパール社製の光Rheometer MCR102に、膜厚が1mmになるようにパラレルプレート間に施し、紫外線を405nmバンドパスフィルターを通して、50mW/cm2の照度で、25分光照射し、得られた硬化物をさらに暗所で30分間放置した後、THFに溶解させ、GPCで重合物の数平均分子量と重量平均分子量を測定した。さらに、暗所放置硬化物をメタノールに24時間浸漬させ、抽出液をHPLCで測定し、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルの残存率を見積もった。その結果を表6に記載した。
【0182】
(実施例18)
アルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤として、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを3部、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニル0.2部とした以外は実施例17と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調整し、同様の方法で紫外線を、25分光照射し、さらに暗所で30分間放置した後、THFに溶解させ、GPCで重合物の数平均分子量と重量平均分子量を測定した。さらに、暗所放置硬化物を約100重量倍のメタノールの24時間室温で浸漬させ、抽出液をHPLCで測定し、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルの残存率を見積もった。その結果を表6に記載した。
【0183】
【0184】
実施例17と18を比較すると、ラジカル重合性化合物として単官能アクリレートであるイソボニルアクリレートを用いた場合も、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルはラジカル重合を開始する能力を有していることがわかる。そして、表6より、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルを単独で用いた場合と比して、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを併用した場合は、数平均分子量(Mn)において約3倍、重量平均分子量(Mw)においては約4倍となっていることがわかる。このことから、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを併用することにより、重合末端の停止反応が抑えられ、より高分子化が達成されていることがわかる。
【0185】
また、表6より、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルを単独で用いた場合と比して、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを併用した場合は1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルが残存していないことが判明した。1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルが光ラジカル重合開始剤として作用するときは光励起状態から分解してラジカル種を発生すると考えられるが、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを併用することにより、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルからのラジカル種の発生が効果的に行われているものと推測される。そしてさらに、硬化後に硬化物に残存する開始剤や増感剤のマイグレーションの問題が実用上発生しているが、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを併用することにより1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルが残存しないことから、その問題も解決でき、残存することによって生じる可視光吸収による着色も軽減できる。さらに、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルが光分解しながら、開始、増感することによるフォトブリーチング効果により、深部硬化も可能になる。
【0186】
(実施例19)
アルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤として、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの代わりに2-ヒドロキシ-1-{[4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}-2-メチルプロパン-1-オンを用いた以外は実施例15と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調整し、同様の方法で紫外線を照射し、光ラジカル重合性組成物の複素粘度の変化をPhoto-Rheometerにより測定し、複素粘度が6000Pasに達した時間(秒)を硬化時間とし、その結果を表7に記載した。
【0187】
(実施例20)
アルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤として、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの代わりに2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オンを用いた以外は実施例15と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調整し、同様の方法で紫外線を照射し、光ラジカル重合性組成物の複素粘度の変化をPhoto-Rheometerにより測定し、複素粘度が6000Pasに達した時間(秒)を硬化時間とし、その結果を表7に記載した。
【0188】
(実施例21)
アルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤として、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの代わりに2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オンを用いた以外は実施例15と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調整し、同様の方法で紫外線を照射し、光ラジカル重合性組成物の複素粘度の変化をPhoto-Rheometerにより測定し、複素粘度が6000Pasに達した時間(秒)を硬化時間とし、その結果を表7に記載した。
【0189】
(比較例11)
光ラジカル重合開始剤として1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルを添加しないこととした以外は実施例19と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調整し、同様の方法で紫外線を照射し、光ラジカル重合性組成物の複素粘度の変化をPhoto-Rheometerにより測定し、複素粘度が6000Pasに達した時間(秒)を硬化時間とし、その結果を表7に記載した。
【0190】
(比較例12)
光ラジカル重合開始剤として1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルを添加しないこととした以外は実施例20と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調整し、同様の方法で紫外線を照射し、光ラジカル重合性組成物の複素粘度の変化をPhoto-Rheometerにより測定し、複素粘度が6000Pasに達した時間(秒)を硬化時間とし、その結果を表7に記載した。
【0191】
(比較例13)
光ラジカル重合開始剤として1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルを添加しないこととした以外は実施例21と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調整し、同様の方法で紫外線を照射し、光ラジカル重合性組成物の複素粘度の変化をPhoto-Rheometerにより測定し、複素粘度が6000Pasに達した時間(秒)を硬化時間とし、その結果を表7に記載した
【0192】
実施例15、19から21及び比較例9と11から13の結果を表7に示す。
【0193】
【0194】
実施例19から21は、実施例15におけるアルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤である1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを他のアルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤に代えて実施したものである。比較例9、11から13は、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルを含まずアルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤のみで同様に行った例である。この表7から明らかなように、種々のアルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤との組合せにおいても、硬化時間を飛躍的に短縮できる効果を有していることがわかる。
【0195】
(実施例22)
ラジカル重合性化合物としてトリメチロールプロパントリアクリレート(東京化成工業社製)100部に対し、光ラジカル重合開始剤としてメチル-2-ベンゾイルベンゾエート(o-ベンゾイル安息香酸メチル 商品名「OMNIRADOMBB」)5部、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニル0.05部を加え撹拌し溶解させることにより、光ラジカル重合性組成物の液状物が得られた。当該光ラジカル重合性組成物について空気気流中でPhoto-DSC測定を行い、総発熱量および発熱ピークに至る時間を求めた。光照射開始から5分間の総発熱量は90mJ/mg、発熱ピークに至る時間は0.860秒であった。結果を表8に記載した。
【0196】
(実施例23)
1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルを0.2部用いた以外は実施例22と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調整し、当該光ラジカル重合性組成物について空気気流中でPhoto-DSC測定を行い、総発熱量および発熱ピークに至る時間を求めた。光照射開始から5分間の総発熱量は254mJ/mg、発熱ピークに至る時間は0.735秒であった。結果を表8に記載した。
【0197】
(実施例24)
光ラジカル重合開始剤としてメチル-2-ベンゾイルベンゾエートの代わりにベンゾフェノンを用いた以外は実施例22と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調整し、当該光ラジカル重合性組成物について空気気流中でPhoto-DSC測定を行い、総発熱量および発熱ピークに至る時間を求めた。光照射開始から5分間の総発熱量は75.5mJ/mg、熱ピークに至る時間は0.875秒であった。結果を表8に記載した。
【0198】
(実施例25)
1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルを0.2部用いた以外は実施例24と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調整し、当該光ラジカル重合性組成物について空気気流中でPhoto-DSC測定を行い、総発熱量および発熱ピークに至る時間を求めた。光照射開始から5分間の総発熱量は248mJ/mg、発熱ピークに至る時間は0.726秒であった。結果を表8に記載した。
【0199】
(実施例26)
光ラジカル重合開始剤としてメチル-2-ベンゾイルベンゾエートの代わりに4-フェニルベンゾフェノン(商品名「OMNIRAD4PBZ」)を用いた以外は実施例22と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調整し、当該光ラジカル重合性組成物について空気気流中でPhoto-DSC測定を行い、総発熱量および発熱ピークに至る時間を求めた。光照射開始から5分間の総発熱量は101mJ/mg、熱ピークに至る時間は0.895秒であった。結果を表8に記載した。
【0200】
(実施例27)
1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルを0.2部用いた以外は実施例26と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調整し、当該光ラジカル重合性組成物について空気気流中でPhoto-DSC測定を行い、総発熱量および発熱ピークに至る時間を求めた。光照射開始から5分間の総発熱量は241mJ/mg、発熱ピークに至る時間は0.753秒であった。結果を表8に記載した。
【0201】
(実施例28)
光ラジカル開始剤として1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルの代わりに1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸を用いた以外は実施例22と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調整し、当該光ラジカル重合性組成物について空気気流中でPhoto-DSC測定を行い、総発熱量および発熱ピークに至る時間を求めた。光照射開始から5分間の総発熱量は61.8mJ/mg、熱ピークに至る時間は0.985秒であった。結果を表8に記載した。
【0202】
(比較例14)
光ラジカル開始剤として1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルの代わりに1,4-ジメトキシ-2-ナフトエ酸を用いた以外は実施例22と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調整し、当該光ラジカル重合性組成物について空気気流中でPhoto-DSC測定を行い、総発熱量および発熱ピークに至る時間を求めた。光照射開始から5分間の総発熱量は1.1mJ/mgであった。発熱のピークは認められなかった。結果を表8に記載した。
【0203】
(比較例15)
1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルを用いなかったこと以外は実施例22と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調整し、当該光ラジカル重合性組成物について空気気流中でPhoto-DSC測定を行い、総発熱量を求めた。光照射開始から5分間の総発熱量は0mJ/mgであった。発熱のピークは認められなかった。結果を表8に記載した。
【0204】
(比較例16)
1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルを用いなかったこと以外は実施例24と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調整し、当該光ラジカル重合性組成物について空気気流中でPhoto-DSC測定を行い、総発熱量を求めた。光照射開始から5分間の総発熱量は1.1mJ/mgであった。発熱のピークは認められなかった。結果を表8に記載した。
【0205】
(比較例17)
1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルを用いなかったこと以外は実施例26と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調整し、当該光ラジカル重合性組成物について空気気流中でPhoto-DSC測定を行い、総発熱量および発熱ピークに至る時間を求めた。光照射開始から5分間の総発熱量は69mJ/mg、発熱ピークに至る時間は1.73秒であった。結果を表8に記載した。
【0206】
(比較例18)
メチル-2-ベンゾイルベンゾエートを用いなかったこと以外は実施例22と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調整し、当該光ラジカル重合性組成物について空気気流中でPhoto-DSC測定を行い、総発熱量および発熱ピークに至る時間を求めた。光照射開始から5分間の総発熱量は49.5mJ/mg、発熱ピークに至る時間は1.105秒であった。結果を表8に記載した。
【0207】
(比較例19)
メチル-2-ベンゾイルベンゾエートを用いなかったこと以外は実施例23と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調整し、当該光ラジカル重合性組成物について空気気流中でPhoto-DSC測定を行い、総発熱量および発熱ピークに至る時間を求めた。光照射開始から5分間の総発熱量は209mJ/mg、発熱ピークに至る時間は0.785秒であった。結果を表8に記載した。
【0208】
【0209】
実施例22と23は、光ラジカル重合開始剤として1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルと、汎用的な光ラジカル重合開始剤であるメチル-2-ベンゾイルベンゾエート(o-ベンゾイル安息香酸メチル 商品名「OMNIRADOMBB」)を併用した場合の結果である。実施例28は、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸を用いた例である。実施例24と25は、光ラジカル重合開始剤として1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルと、汎用的な光ラジカル重合開始剤であるベンゾフェノンを併用した場合の結果であり、実施例26と27は、光ラジカル重合開始剤として1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルと、汎用的な光ラジカル重合開始剤である4―フェニルベンゾフェノンを併用した場合の結果である。比較例15から17との比較より明らかなように、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物を併用した場合に発熱量が増加し、発熱ピークに至る時間が短縮していることがわかる。比較例15と16からわかるように、ベンゾフェノン系光ラジカル重合開始剤であるメチル-2-ベンゾイルベンゾエート及びベンゾフェノンは、405nmという波長では重合開始剤としてほとんど働かないことがわかる。一方、ベンゾフェノン系光ラジカル重合開始剤と1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニル、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸を併用することにより、ラジカル重合が促進していることがわかる。
【0210】
一方、比較例14より明らかなように、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルや1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸と類似の構造を有する1,4-ジメトキシ-2-ナフトエ酸ではほぼ発熱が認められず硬化していないことがわかる。この結果より、ベンゾフェノン系光ラジカル重合開始剤と併用することにより相乗効果をもたらすには、1,4-ジヒドロキシ構造が重要であることがわかる。
【0211】
(実施例29)
ラジカル重合性化合物としてトリメチロールプロパントリアクリレート(東京化成工業社製)100部に対し、光ラジカル重合開始剤としてOMNIRADTPO(2,4,6―trimethylbenzoyl―diphenylphosphineoxide)を3部、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニル0.5部を加え、ラジカル重合性組成物を調製した。該ラジカル重合性組成物1mgを測定用アルミパンの中に精秤し、DSC測定部に収めた後、光DSCユニットを装着した。該サンプルを、空気雰囲気下で405nm(UV-LED)の光を5分間照射し、転化率を測定し、結果を表9に記載した。
【0212】
光DSC測定は下記のようにして行った。DSC測定装置は日立ハイテク社製XDSC-7000を用い、それに光DSC測定用ユニットを装着し光を照射しながらDSC測定ができるよう設えた。
【0213】
重合反応における光照射用の光源は、Altec社製405nm LEDライティングボックス(LLBK1)を用いた。光の照度は50mW/cm2になるように調節した。光源の光はグラスファイバーを用いてサンプル上部まで導けるようにし、DSC測定開始30秒後に光照射されるようにした。
【0214】
光DSCの測定は、サンプルを1mg程度測定用アルミ製パンの中に精秤し、DSC測定部に収めた後に光DSCユニットを装着した。DSCの測定部は空気を100mL/分の速度で流通し、測定は空気雰囲気下で行った。一回目の測定後、サンプルはそのままの状態で、再度同条件で測定を行い、一回目の測定結果から二回目の測定結果を差し引いた値を該サンプルの測定結果とした。結果は特に断らない限りサンプル1mgあたりの総発熱量で比較した。重合反応の進行に伴い発熱するので、総発熱量を測定することにより、重合反応の進行度合いを調べることができる。
【0215】
また転化率は、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)(東京化成社製)をアルミ製密閉パンに封入し、DSCで30℃から300℃まで5℃/分速度で昇温する条件で熱分析測定を実施し、得られた発熱ピークの総発熱量を100%として算出した。
【0216】
(実施例30)
1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルの代わりに1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸を用いた以外は、実施例29と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調製し、同様の方法で、光照射し、硬化率を測定し、結果を表9に記載した。
【0217】
(比較例20)
1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルを用いないこと以外は、実施例29と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調製し、同様の方法で、光照射し、硬化率を測定し、結果を表9に記載した。
【0218】
(実施例31)
OMNIRADTPOの代わりにOMNIRAD819(Bis(2,4,6―trimethylbenzoyl)phenylphosphine oxide)を用いた以外は、実施例29と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調製し、同様の方法で、光照射し、硬化率を測定し、結果を表9に記載した。
【0219】
(実施例32)
OMNIRADTPOの代わりにOMNIRAD819を用いた以外は、実施例30と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調製し、同様の方法で、光照射し、硬化率を測定し、結果を表9に記載した。
【0220】
(比較例21)
OMNIRADTPOの代わりにOMNIRAD819を用いた以外は、比較例20と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調製し、同様の方法で、光照射し、硬化率を測定し、結果を表9に記載した。
【0221】
(実施例33)
OMNIRADTPOの代わりにOMNIRADTPO-L(Ethyl (2,4,6―trimethylbenzoyl)phenylphosphinate)を用いた以外は、実施例29と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調製し、同様の方法で、光照射し、硬化率を測定し、結果を表9に記載した。
【0222】
(実施例34)
OMNIRADTPOの代わりにOMNIRADTPO-Lを用いた以外は、実施例30と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調製し、同様の方法で、光照射し、硬化率を測定し、結果を表9に記載した。
【0223】
(比較例22)
OMNIRADTPOの代わりにOMNIRADTPO-Lを用いた以外は、比較例20と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調製し、同様の方法で、光照射し、硬化率を測定し、結果を表9に記載した。
【0224】
(実施例35)
ラジカル重合性化合物としてトリメチロールプロパントリアクリレート(東京化成工業社製)100部に対し、光ラジカル重合開始剤としてイルガキュアOXE01(1,2-Octanedione, 1-{4-(phenylthio) phenyl}―, 2-(o-benzoyloxime))を3部、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニル0.5部を加え、ラジカル重合性組成物を調製した。該ラジカル重合性組成物1mgを測定用アルミパンの中に精秤し、DSC測定部に収めた後、光DSCユニットを装着した。該サンプルを、空気雰囲気下で405nm(UV-LED)の光を5分間照射し、転化率を測定し、結果を表9に記載した。
【0225】
(実施例36)
1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルの代わりに1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸を用いた以外は、実施例35と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調製し、同様の方法で、光照射し、硬化率を測定し、結果を表9に記載した。
【0226】
(比較例23)
1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルを用いないこと以外は、実施例35と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調製し、同様の方法で、光照射し、硬化率を測定し、結果を表9に記載した。
【0227】
【0228】
比較例20から22から明らかなように、アシルホスフィンオキサイド系光ラジカル重合開始剤であるOMNIRADTPO、819、TPO-Lは405nmの波長の光に活性であり、高い転化率を示している。しかし、本発明の光ラジカル重合開始剤である1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物を添加すると転化率がさらに上昇していることがわかる。特に、OMNIRADTPO-Lに1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物を併用した場合は顕著である。また、OMNIRAD819と1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルの組み合わせでも顕著である。
【0229】
また、実施例35、36と比較例23を比較することにより明らかなように、オキシムエステル系光ラジカル重合開始剤であるイルガキュアOXE01においても本発明の光ラジカル重合開始剤である1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物を添加すると転化率がさらに上昇していることがわかる。特に、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルを用いた場合は顕著である。以上の結果から、本発明の光ラジカル重合開始剤である1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物は、405nmという波長の光照射において、該波長において活性なアシルホスフィンオキサイド系光ラジカル重合開始剤、オキシムエステル系光ラジカル重合開始剤と併用することにより、さらに光ラジカル重合性組成物の転化率を挙げることができる。
【0230】
(実施例43)
ラジカル重合性化合物としてトリメチロールプロパントリアクリレート100部に対し、光ラジカル重合開始剤として、イルガキュアOXE02を3部、及び1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニル0.5部を加え撹拌し溶解させることにより、光ラジカル重合性組成物の液状物が得られた。当該光ラジカル重合性組成物をパラレルプレート上に厚み30μmで塗布し、空気雰囲気下において、U-TECHNOLOGY社製405nm UV-LEDの紫外線を照射し、50mW/cm2の照度で光照射、光ラジカル重合性組成物の複素粘度の変化をPhoto-Rheometerにより測定し、複素粘度が10000Pasに達した時間(秒)を誘導期間とし、その結果を表10に記載した。
【0231】
(実施例44)
光ラジカル重合性組成物の厚みを50μmにした以外は、実施例43と同様にし、光照射し、複素粘度が10000Pasに達した時間(秒)を測定し、その結果を表10に記載した。
【0232】
(実施例45)
光ラジカル重合性組成物の厚みを100μmにした以外は、実施例43と同様にし、光照射し、複素粘度が10000Pasに達した時間(秒)を測定し、その結果を表10に記載した。
【0233】
(比較例26)
ラジカル重合性化合物としてトリメチロールプロパントリアクリレート100部に対し、光ラジカル重合開始剤として、イルガキュアOXE02を3部を加え撹拌し溶解させることにより、光ラジカル重合性組成物の液状物が得られた。当該光ラジカル重合性組成物をパラレルプレート上に厚み30μmで塗布し、空気雰囲気下において、U-TECHNOLOGY社製405nm UV-LEDの紫外線を照射し、50mW/cm2の照度で光照射、光ラジカル重合性組成物の複素粘度の変化をPhoto-Rheometerにより測定し、複素粘度が10000Pasに達した時間(秒)を誘導期間とし、その結果を表10に記載した。
【0234】
(比較例27)
光ラジカル重合性組成物の厚みを50μmにした以外は、比較例26と同様にし、光照射し、複素粘度が10000Pasに達した時間(秒)を測定し、その結果を表10に記載した。
【0235】
(比較例28)
光ラジカル重合性組成物の厚みを100μmにした以外は、比較例26と同様にし、光照射し、複素粘度が10000Pasに達した時間(秒)を測定し、その結果を表10に記載した。
【0236】
【0237】
実施例43から45と比較例26から28を比較することにより明らかなように、オキシムエステル系光ラジカル重合開始剤であるイルガキュアOXE02に対して、本発明の光ラジカル重合開始剤である1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルを添加する事により、30μm、50μm、100μmのいずれの膜厚においても、重合を開始するまでの誘導期間が半分あるいはそれ以下に短縮されていることがわかる。
【0238】
(実施例37)
ラジカル重合性化合物としてフェノキシエチルメタクリレート(日立化成社製 FA-310M)50部、EO変性ビスフェノールAジメタアクリレート(日立化成社製 FA-321M)50部に対し、光ラジカル重合開始剤として、2,2’-ビス(4-クロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラキスフェニ)-1,2’-ビイミダゾール(HABI)を2部、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニル0.2部を加え撹拌し溶解させることにより、光ラジカル重合性組成物の液状物が得られた。当該光ラジカル重合性組成物をLED-UV照射器(アイテック社製LED)を装着した、アントンパール社製の光Rheometer MCR102に、膜厚が10μmになるようにパラレルプレート間に施し、紫外線を405nm、200mW/cm2の照度で、測定開始30秒後から、300秒光照射、光ラジカル重合性組成物の複素粘度の変化を測定し、光照射後、複素粘度が10000Pasに達した時間(秒)を硬化時間とし、その結果を表11に記載した。
【0239】
(実施例38)
1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルの代わりに1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸を用いた以外は、実施例37と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調製し、同様の方法で、光照射し、硬化率を測定し、結果を表11に記載した。
【0240】
(比較例24)
1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルを用いないこと以外は、実施例37と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調製し、同様の方法で、光照射し、硬化率を測定し、結果を表11に記載した。
【0241】
(実施例39)
ラジカル重合性化合物としてフェノキシエチルメタクリレート(日立化成社製 FA-310M)50部、EO変性ビスフェノールAジメタアクリレート(日立化成社製 FA-321M)50部に対し、光ラジカル重合開始剤として、2,2’-ビス(4-クロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラキスフェニ)-1,2’-ビイミダゾール(HABI)を2部、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニル0.2部、還元剤としてロイコクリスタルバイオレット(LCV)0.2部を加え撹拌し溶解させることにより、光ラジカル重合性組成物の液状物が得られた。当該光ラジカル重合性組成物をUV照射器(浜松ホトニクス社製LIGHTNINGCURE)を装着した、アントンパール社製の光Rheometer MCR102に、膜厚が10μmになるようにパラレルプレート間に施し、紫外線を405nmバンドパスフィルターを通して、200mW/cm2の照度で、測定開始30秒後から、300秒光照射、光ラジカル重合性組成物の複素粘度の変化を測定し、光照射後、複素粘度が10000Pasに達した時間(秒)を硬化時間とし、その結果を表11に記載した。
【0242】
(実施例40)
1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルの代わりに1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸を用いた以外は、実施例39と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調製し、同様の方法で、光照射し、硬化率を測定し、結果を表11に記載した。
【0243】
(比較例25)
1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルを用いないこと以外は、実施例39と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調製し、同様の方法で、光照射し、硬化率を測定し、結果を表11に記載した。
【0244】
(実施例41)
ラジカル重合性化合物としてフェノキシエチルメタクリレート(日立化成社製 FA-310M)50部、EO変性ビスフェノールAジメタアクリレート(日立化成社製 FA-321M)50部に対し、光ラジカル重合開始剤として、2,2’-ビス(4-クロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラキスフェニ)-1,2’-ビイミダゾール(HABI)を2部、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニル0.2部、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸0.2部を加え撹拌し溶解させることにより、光ラジカル重合性組成物の液状物が得られた。当該光ラジカル重合性組成物をUV照射器(浜松ホトニクス社製LIGHTNINGCURE)を装着した、アントンパール社製の光Rheometer MCR102に、膜厚が10μmになるようにパラレルプレート間に施し、紫外線を405nmバンドパスフィルターを通して、200mW/cm2の照度で、測定開始30秒後から、300秒光照射、光ラジカル重合性組成物の複素粘度の変化を測定し、光照射後、複素粘度が10000Pasに達した時間(秒)を硬化時間とし、その結果を表11に記載した。
【0245】
(実施例42)
1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニル0.2部、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸0.2部の代わりに1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸0.4部を用いた以外は、実施例41と同様の方法で光ラジカル重合性組成物を調製し、同様の方法で、光照射し、硬化率を測定し、結果を表11に記載した。
【0246】
【0247】
実施例37、38と比較例24を比較することにより明らかなように、光ラジカル重合開始剤であるHABIに本発明の光ラジカル重合開始剤である1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物を添加する事により、著しく硬化時間が短縮されていることがわかる。還元剤であるロイコクリスタルバイオレット(LCV)を添加した系である実施例39、40と比較例25を比較しても、この硬化時間の短縮効果が確認できる。さらに、実施例39と実施例41を比較すると明らかなように、ロイコクリスタルバイオレット(LCV)に代えて1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸を添加した例では、ロイコクリスタルバイオレットを用いた組成物より、さらに硬化時間が短縮されることがわかる。このことから、光ラジカル重合開始剤であるHABIに対して、本発明の光ラジカル重合開始剤である1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物は硬化時間を著しく短縮する効果があるうえ、通常添加される還元剤であるロイコクリスタルバイオレットを用いなくても、用いたとき以上の硬化時間短縮効果があることがわかる。
【0248】
(比較例29)
ラジカル重合性化合物としてフェノキシエチルメタクリレート(日立化成社製 FA-310M)50部、EO変性ビスフェノールAジメタアクリレート(日立化成社製 FA-321M)50部に対し、光ラジカル重合開始剤として、2,2’-ビス(4-クロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラキスフェニ)-1,2’-ビイミダゾール(HABI)を2部、ロイコクリスタルバイオレット0.2部を加え撹拌し溶解させることにより、光ラジカル重合性組成物の液状物が得られた。該光ラジカル重合性組成物を透明瓶に保存し、該光ラジカル重合性組成物の粘度を17時間後、137時間後、233時間後に観察することによりその保存安定性をテストした。その結果を表12に記載した。
【0249】
(比較例30)
該光ラジカル重合性組成物を透明瓶ではなく、褐色瓶に保存した以外は比較例29と同様にして、保存安定性をテストした。その結果を表12に記載した。
【0250】
(実施例46)
ラジカル重合性化合物としてフェノキシエチルメタクリレート(日立化成社製 FA-310M)50部、EO変性ビスフェノールAジメタアクリレート(日立化成社製 FA-321M)50部に対し、光ラジカル重合開始剤として、2,2’-ビス(4-クロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラキスフェニ)-1,2’-ビイミダゾール(HABI)を2部、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸0.2部を加え撹拌し溶解させることにより、光ラジカル重合性組成物の液状物が得られた。該光ラジカル重合性組成物を透明瓶に保存し、該光ラジカル重合性組成物の粘度を17時間後、137時間後、233時間後に観察することによりその保存安定性をテストした。その結果を表12に記載した。
【0251】
(実施例47)
該光ラジカル重合性組成物を透明瓶ではなく褐色瓶に保存した以外は実施例46と同様にして、保存安定性をテストした。その結果を表12に記載した。
【0252】
(実施例48)
1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸を1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルに代えた以外は実施例46と同様にして、保存安定性をテストした。その結果を表12に記載した。
【0253】
(実施例49)
該光ラジカル重合性組成物を透明瓶ではなく褐色瓶に保存した以外は実施例48と同様にして、保存安定性をテストした。その結果を表12に記載した。
【0254】
【0255】
実施例46から49と比較例29、30とを比較することにより明らかなように、光ラジカル重合性組成物中に光ラジカル重合開始剤であるHABIを含有し、且つ還元剤であるロイコクリスタルバイオレットを含有する場合、その保存安定性は悪く、褐色瓶中でも137時間後には硬化してしまう。一方、ロイコクリスタルバイオレットの代わりに同様の働きをすることが確認されている本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物を添加する事により、保存安定性が飛躍的に改善され、透明瓶中においても233時間後でも保存安定性が保たれていることがわかる。
【0256】
(フォトブリーチング効果の確認実験)
(実施例50)
ラジカル重合性化合物としてトリメチロールプロパントリアクリレート100部に対し、光ラジカル重合開始剤として1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニル2部、界面活性剤メガファック477を1部、加え撹拌し溶解させることにより、光ラジカル重合性組成物の液状物が得られた。当該光ラジカル重合性組成物を25mmの円形カバーグラスに滴下しスピンコーターで8μmに成膜した。該試料を、405nmのUVLEDを備えたベルトコンベアー照射機に載せ、1m/minの搬送速度で搬送しながら、80mW/cm
2の照射強度で紫外線を照射した。この操作を所定回数繰り返し、各パス毎の吸収スペクトルを島津製作所(株)製紫外可視吸収スペクトロメーターUV―2600を用いて測定し、
図2に示した。
【0257】
(比較例31)
1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニル2部に代えてOMNIRADTPOを2部用いた以外は実施例50と同様に光ラジカル重合性組成物を調製し、実施例50と同様の操作をし、吸収スペクトルを測定し、
図3に示した。
図3のグラフの縦軸である吸光度は
図2など他の図に比較して、一桁小さいスケールになっている。
【0258】
(比較例32)
1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニル2部に代えてOMNIRAD907を2部用いた以外は実施例50と同様に光ラジカル重合性組成物を調製し、実施例50と同様の操作をし、吸収スペクトルを測定し、
図4に示した。
【0259】
(比較例33)
1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニル2部に代えてITXを2部用いた以外は実施例50と同様に光ラジカル重合性組成物を調製し、実施例50と同様の操作をし、吸収スペクトルを測定し、
図5に示した。
【0260】
図2より明らかなように、405nmの光の照射を繰り返すたび、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルの長波長側の紫外線吸収が弱くなっていることがわかる。この現象は、顕著なフォトブリーチング効果で知られている2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキサイド(商品名OMNIRADTPO)のブリーチング効果を示す
図3と比較しても同様のブリーチング効果かそれ以上の顕著なブリーチング効果を示していることがわかる。このようなブリーチング効果は、既存の著名な光ラジカル重合増感剤であるOMNIRAD907やチオキサントン系光ラジカル重合開始剤であるITXでは、全く観測されないか、ごくわずかに観測されるにとどまっていることが、
図4,5からわかる。このことから、本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物は、フォトブリーチング効果を示す極めて特異で実用性の高い光ラジカル重合開始剤であることがわかる。
【0261】
(保存安定性試験)
(実施例51)
ラジカル重合性化合物としてブチルアクレート(東京化成)100部、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニル0.2部、更に、試験加速化のため、熱ラジカル重合開始剤としてラウロイルペルオキシド2.0部を加え撹拌し溶解させることにより、ラジカル重合性組成物の液状物が得られた。ラジカル重合性組成物を大気下でガラス瓶に入れ密栓をして、室温下、暗所に保持した。保存安定性を見るために、該ラジカル重合性組成物の外観、粘性を経過観察した。75日後、ラジカル重合性組成物の色相、粘度に変化は見られなかった。
【0262】
(実施例52)
1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルの代わりに1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸を用いた以外は実施例51と同様の方法でラジカル重合性組成物を調製し、同様の方法で保存安定性をみた。75日後、ラジカル重合性組成物の色相、粘度に変化は見られなかった。
【0263】
(比較例34)
1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルを加えなかった以外は実施例51と同様の方法でラジカル重合性組成物を調製し、同様の方法で保存安定性をみた。75日後、ラジカル重合性組成物は固化していた。
【0264】
実施例51、52と比較例34より明らかなように、本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物がラジカル重合性組成物中に発生したラジカルを捕捉することにより、ラジカル重合性組成物の固化を防いでおり、75日間という長期にわたり、ラジカル重合性組成物の劣化を防いでおり、暗所ではラジカル重合禁止剤としての作用を有していることがわかる。
本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物は、波長が350nmから420nmまで範囲の光を含むエネルギー線照射による光ラジカル重合反応において光ラジカル重合開始剤として作用し極めて高速でラジカル重合性化合物を重合させる能力を有するだけではなく、該光ラジカル重合開始剤は、暗所ではラジカル重合禁止剤として働き意図しないラジカル重合を防止するが、波長が350nmから420nmまで範囲の光が照射されることにより、ラジカル重合禁止能を失うと共に光ラジカル重合開始剤として働き、フォトブリーチング効果も有するという、極めて特殊な性質を持ち、且つ実用的な化合物である。また、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物は、炭素原子、水素原子及び酸素原子のみからなる環境に優しい化合物であり、安全性の高い光ラジカル重合開始剤として産業上非常に有用である。