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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022079611
(43)【公開日】2022-05-26
(54)【発明の名称】持続性蚊取線香
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/20 20060101AFI20220519BHJP
   A01N 53/06 20060101ALI20220519BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20220519BHJP
【FI】
A01N25/20 101
A01N53/06 110
A01P7/04
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055778
(22)【出願日】2022-03-30
(62)【分割の表示】P 2021529966の分割
【原出願日】2020-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2019123187
(32)【優先日】2019-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000207584
【氏名又は名称】大日本除蟲菊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100171310
【弁理士】
【氏名又は名称】日東 伸二
(72)【発明者】
【氏名】川崎 倫久
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 誠一
(72)【発明者】
【氏名】中山 幸治
(57)【要約】
【課題】燃焼時の刺激を低減しながら、短時間の燃焼であっても殺虫効果を長時間持続させることが可能な持続性蚊取線香を提供する。
【解決手段】燃焼後においても殺虫効果が持続する持続性蚊取線香であって、メトフルトリン、プロフルトリン、及びトランスフルトリンからなる群から選択される少なくとも一つの殺虫成分と、ヨウ素吸着能が200mg/g以下の炭化物基材とを含有し、燃焼時における殺虫成分の単位時間当たりの揮散量を0.05~15mg/分に設定してあり、燃焼時間を30分以内に設定してある。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼後においても殺虫効果が持続する持続性蚊取線香であって、
メトフルトリン、プロフルトリン、及びトランスフルトリンからなる群から選択される少なくとも一つの殺虫成分を含有し、
燃焼時における前記殺虫成分の単位時間当たりの揮散量を0.1~15mg/分に設定してある持続性蚊取線香。
【請求項2】
燃焼時間を30分以内に設定してある請求項1に記載の持続性蚊取線香。
【請求項3】
前記殺虫成分の配合量をC(mg)とし、完全に燃焼したときの前記殺虫成分の揮散量をV(mg)としたとき、以下の式(1):
(V/C) × 100 ≧ 40 ・・・(1)
を満たすように設定してある請求項1又は2に記載の持続性蚊取線香。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼後においても殺虫効果が持続する持続性蚊取線香に関する。
【背景技術】
【0002】
蚊等の飛翔害虫を駆除する製品として、燻煙により殺虫成分を処理対象の空間に揮散させる蚊取線香が広く用いられている。蚊取線香は、一本の燃焼時間が人間の就寝時間に合わせて7~8時間程に設定され、燃え尽きるまで処理対象の空間に存在する害虫をノックダウン又は致死させ、さらには当該空間から害虫を排除又は忌避するように作用する。
【0003】
ところで、近年、衛生環境の整備や住宅事情の変化で、特に都市部のマンション等では住居の密閉化が進んでいることもあって、建物外から建物内に蚊等の害虫が侵入する機会が減っている。このため、就寝前に部屋にいる蚊等を駆除すれば、必ずしも従来の蚊取線香のように就寝時間中に連続して殺虫成分を揮散させる必要がなくなってきた。かかる状況から、これまで長時間の連続使用が基本と考えられてきた蚊取線香において、燃焼時間の短縮を図る試みが提案されている。
【0004】
例えば、殺虫成分にメトフルトリン、プロフルトリン、トランスフルトリン等の常温揮散性ピレスロイドを用いた蚊取線香があった(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1の蚊取線香は、燃焼後も殺虫成分が長時間に亘って気中に残存するため、燃焼時間を短縮しても殺虫効果が長時間持続する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-12056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、蚊取線香においては、殺虫成分や香料成分、さらには煙等に起因する臭いや刺激を低減した製品が求められる。しかしながら、特許文献1は、燃焼時間を短縮しながら必要量の殺虫成分を揮散させることを主眼としており、燃焼時の刺激の低減については検討の余地が残されていた。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、燃焼時の刺激を低減しながら、短時間の燃焼であっても殺虫効果を長時間持続させることが可能な持続性蚊取線香を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明に係る持続性蚊取線香の特徴構成は、
燃焼後においても殺虫効果が持続する持続性蚊取線香であって、
メトフルトリン、プロフルトリン、及びトランスフルトリンからなる群から選択される少なくとも一つの殺虫成分と、
ヨウ素吸着能が200mg/g以下の炭化物基材と、
を含有することにある。
【0009】
本構成の持続性蚊取線香によれば、メトフルトリン、プロフルトリン、及びトランスフルトリンからなる群から選択される少なくとも一つの殺虫成分に加えて、ヨウ素吸着能が200mg/g以下の炭化物基材を含有することにより、燃焼後も殺虫成分が長時間に亘って気中に残存し、殺虫効果を長時間持続させることが可能となる。また、ヨウ素吸着能が200mg/g以下の炭化物基材は、殺虫成分が過剰に分解されて殺虫効果が低減することを防ぎながら、燃焼時の煙等に起因する臭いや刺激を低減することができる。
【0010】
本発明に係る持続性蚊取線香において、
燃焼時における前記殺虫成分の単位時間当たりの揮散量を0.05~15mg/分に設定してあることが好ましい。
【0011】
本構成の持続性蚊取線香によれば、殺虫成分の単位時間当たりの揮散量が上記の範囲であることにより、短時間の燃焼であっても十分な量の殺虫成分を気中に揮散させることができる。
【0012】
本発明に係る持続性蚊取線香において、
燃焼時間を30分以内に設定してあることが好ましい。
【0013】
本構成の持続性蚊取線香によれば、燃焼時間を30分以内に設定していることにより、就寝前に燃焼させるだけで蚊類を防除することができ、使い勝手のよい製品となる。
【0014】
本発明に係る持続性蚊取線香において、
燃焼後の殺虫効果の持続時間を8時間以上に設定してあることが好ましい。
【0015】
本構成の持続性蚊取線香によれば、燃焼後の殺虫効果の持続時間を8時間以上に設定していることにより、夜間に使用した場合、人は一晩中蚊類に刺されることなく、快適に睡眠することができる。また、燃焼時間を30分以内、燃焼後の殺虫効果の持続時間を8時間に夫々設定すれば、人が眠りにつく頃に持続性蚊取線香の火が消えるため、火事の心配をすることなく、安心して夜間でも使用することができる。
【0016】
本発明に係る持続性蚊取線香において、
前記殺虫成分の配合量をC(mg)とし、完全に燃焼したときの前記殺虫成分の揮散量をV(mg)としたとき、以下の式(1):
(V/C) × 100 ≧ 40 ・・・(1)
を満たすように設定してあることが好ましい。
【0017】
本構成の持続性蚊取線香によれば、上記の式(1)を満たすことにより、殺虫成分の配合量を抑えながら、十分な量の殺虫成分を気中に揮散させることができる。
【0018】
本発明に係る持続性蚊取線香において、
前記殺虫成分の配合量をC(mg)とし、前記炭化物基材の配合量をC(g)とし、前記炭化物基材のヨウ素吸着能をA(mg/g)としたとき、以下の式(2):
/ (C×A) ≧ 3×10-2 ・・・(2)
を満たすことが好ましい。
【0019】
本構成の持続性蚊取線香によれば、上記の式(2)を満たすことにより、炭化物基材のヨウ素吸着能により殺虫成分が過剰に分解されることを防ぎながら、燃焼後に殺虫効果を長時間持続させることが可能な適切な量の殺虫成分を揮散させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の持続性蚊取線香について説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態に記載される構成に限定されることを意図しない。
【0021】
〔持続性蚊取線香〕
本発明の持続性蚊取線香は、殺虫成分と、炭化物基材とを含有するものであり、例えば、殺虫成分、及び炭化物基材を含有する混合粉に適量の水を加えて混練し、これを押出機、及び打抜機等によって成型後、自然乾燥又は加熱乾燥することにより得られる。混合粉には、その他の基材として、支燃剤、増量剤、及び粘結剤等を配合することができる。なお、殺虫成分は、混合粉に直接配合せず、成型後に殺虫成分等を含む液剤をスプレーあるいは塗布するようにしても構わない。持続性蚊取線香のサイズは、全長100mm以下、厚み7mm以下、重量5g以下に設定されることが好ましく、全長20mm以上90mm以下、厚み2mm以上5mm以下、重量0.2g以上3g以下に設定されることがより好ましい。持続性蚊取線香の形状としては、棒状、渦巻き状、コーン状、プレート状等、使用目的に応じて適宜選択可能であるが、棒状、渦巻き状、プレート状が好ましい。
【0022】
殺虫成分としては、常温揮散性を有するピレスロイド系殺虫成分であるメトフルトリン、プロフルトリン、又はトランスフルトリンを使用する。これらのピレスロイド系殺虫成分の化学構造中に不斉炭素や二重結合に基づく光学異性体又は幾何異性体が存在する場合は、何れの異性体も使用可能である。これらのピレスロイド系殺虫成分は、単独又は二種以上の混合物として使用することができるが、メトフルトリンが含まれていることが好ましい。ここで、常温揮散性を有するとは、30℃における蒸気圧が2×10-4~1×10-2mmHgであることを意味する。メトフルトリン、プロフルトリン、及びトランスフルトリンは、常温揮散性を有することにより、持続性蚊取線香の燃焼後も長時間に亘って気中に残存するため、殺虫効果を長時間持続させることが可能である。また、メトフルトリン、プロフルトリン、及びトランスフルトリンは、揮散後に一部が壁面等に付着することで、壁面等に止まるという習性を有する蚊類が接触することによっても、持続的な殺虫効果を発揮することができる。なお、本明細書において、殺虫効果は、害虫を致死又はノックダウンさせる効果に加えて、害虫を寄せ付けない害虫忌避効果も含むものとする。
【0023】
殺虫成分の含有量は、持続性蚊取線香全体の重量に対して、0.1~5重量%であることが好ましく、0.2~3重量%であることがより好ましい。殺虫成分の含有量が0.1重量%未満である場合、十分な殺虫効果が得られない可能性がある。殺虫成分の含有量が5重量%を超える場合、殺虫成分は直接燃焼に寄与する成分ではないため、持続性蚊取線香の立ち消えが発生する可能性がある。
【0024】
炭化物基材としては、ヨウ素吸着能が200mg/g以下である炭化物基材を使用する。炭化物基材としては、具体的には、木炭、竹炭、植物質の活性炭、ヤシ殻炭、及びコーヒー粕炭等の植物由来の炭化物基材、並びに、カーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック、石炭質の活性炭、及び石油質の活性炭等の非植物質由来の炭化物基材が挙げられ、特に植物質由来の炭化物基材が好ましい。詳細については後述の実施例において説明するが、持続性蚊取線香にヨウ素吸着能が200mg/g以下である炭化物基材を配合すると、炭化物基材のヨウ素吸着能による殺虫成分の過剰な分解を防ぎながら、持続性蚊取線香の燃焼時の煙等に起因する臭いや刺激を効果的に低減又は緩和することができる。炭化物基材のヨウ素吸着能が200mg/gを超える場合、殺虫成分が過剰に分解され、十分な殺虫効果が得られない虞がある。また、本発明の持続性蚊取線香には、ヨウ素吸着能が異なる複数種類の炭化物基材をヨウ素吸着能が200mg/g以下となるように、混合して使用することも可能である。なお、ヨウ素吸着能は、JIS K 1474に規定の活性炭試験方法に準拠して測定される。
【0025】
炭化物基材の含有量は、持続性蚊取線香全体の重量に対して20~80重量%であることが好ましい。炭化物基材の含有量が20重量%未満である場合、燃焼時の煙等に起因する臭いや刺激を十分に緩和できない虞がある。炭化物基材の含有量が80重量%を超える場合、持続性蚊取線香の成型性や強度を確保できない虞がある。
【0026】
支燃剤は、持続性蚊取線香を安定燃焼させるために配合される。増量剤は、持続性蚊取線香の成形性を高めるために配合される。粘結剤は、原料を結合して固めるバインダーとして配合される。支燃剤、増量剤、及び粘結剤は、持続性蚊取線香の基材となるものである。好適な支燃剤を例示すると、木粉、除虫菊抽出粕粉、柑橘類表皮粉、茶粉末、ココナッツシェル粉末等が挙げられる。これらの支燃剤は、単独又は二種以上の混合物として使用することができる。好適な増量剤を例示すると、珪藻土、タルク、クレー、カオリン等が挙げられる。これらの増量剤は、単独又は二種以上の混合物として使用することができる。好適な粘結剤を例示すると、タブ粉、澱粉(α澱粉、タピオカ粉等)、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。これらの粘結剤は、単独又は二種以上の混合物として使用することができる。炭化物基材、支燃剤、増量剤、及び粘結剤は、持続性蚊取線香の基材であり、基材の含有量は、持続性蚊取線香全体の重量に対して90重量%以上であることが好ましい。
【0027】
蚊取線香は、通常、線香に相応しい香りが付けられているが、最近では、アロマ効果やリラックス効果を得ることを目的として、揮散性を有する様々な香料成分が加えられることがある。本発明の持続性蚊取線香は、香料成分の添加の有無によらず、燃焼時の煙等に起因する臭いや刺激を抑えて、殺虫効果を長時間持続させることが可能であるが、本発明の持続性蚊取線香においても、アロマ効果やリラックス効果を得ることを目的として、様々な香料成分を添加することができる。香料成分を例示すると、ガラクソリド、ムスクケトン、ヘキシルシンナミックアルデヒド、イソイースーパー、メチルジヒドロジャスモネート、エチレンブラシレート、ゲラニオール、メチルアトラレート、ヘキシルサリシレート、トリシクロデセニルアセテート、オレンジャークリスタル、アンブロキサン、トナリド(6-アセチル-1,1,2,4,4,7-ヘキサメチルテトラリン)、γ-ウンデカラクトン、キャシュメラン、カロン、ヘリオトロピン、ジヒドロインデニル-2,4-ジオキサン、α-イソメチルイオノン、インドール、メチルセドリルケトン、メチルβ-ナフチルケトン、ローズフェノン、クマリン、バニリン、スチラックスレジノイド、ベンジルベンゾエート、ウンデカナール、ベンジルサリチレート、イオノン、α-イオノン、β-イオノン、リリーアルデヒド、3,5-ジニトロ-2,6-ジメチル-4-t-ブチルアセトフェノン、アセチルセドレン、2-シクロヘキシリデン-2-フェニルアセトアルデヒド、イソロンギホラノン、及びシス-3-ヘキセノール等が挙げられる。これらの香料成分は、単独又は二種以上の混合物として使用することができる。香料成分の含有量は、持続性蚊取線香全体の重量に対して、0.001~5重量%であることが好ましく、0.01~1重量%であることがより好ましい。香料成分の含有量が0.001重量%未満である場合、十分に芳香を醸し出すことができない可能性がある。香料成分の含有量が5重量%を超える場合、臭いや刺激が強くなり過ぎる虞がある。
【0028】
本発明の持続性蚊取線香には、その他の成分として、防黴剤、防腐剤、安定剤、効力増強剤、消臭剤等を含有させることも可能である。防黴剤又は防腐剤を例示すると、デヒドロ酢酸塩、ソルビン酸塩、p-ヒドロキシ安息香酸塩等が挙げられる。安定剤を例示すると、2,6-ジ-ターシャリーブチル-4-メチルフェノール(BHT)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-ターシャリーブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-ターシャリーブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-ターシャリーブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-ターシャリーブチルフェノール)、2-ターシャリーブチル-6-(3-ターシャリーブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニル アクリレート、2,4-ジ-ターシャリーブチルフェニル 3,5-ジ-ターシャリーブチル-4-ヒドロキシベンゾエート等が挙げられる。このような安定剤を添加することにより、保存時における殺虫成分の経時的な安定性のみならず、燻煙時の安定性も著しく増強させ、さらに揮散後の有効成分の効力持続性の向上にも寄与しえる。安定剤の添加量としては、殺虫成分に対し、0.01~0.5倍量を配合することが好ましい。効力増強剤を例示すると、ピペロニルブトキサイド、N-(2-エチルヘキシル)-ビシクロ[2,2,1]ヘプタ-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド等が挙げられる。また、持続性蚊取線香には、マラカイトグリーン、食品添加物(食用青色1号、食用黄色4号、食用赤色106号など)等の着色剤を含有させることも可能である。
【0029】
〔燃焼時間〕
従来の蚊取線香は、燃焼中の燻煙により殺虫成分を揮散させることで蚊等を防除していたが、就寝時等の使用では煙の発生が忌避されることもある。本発明の持続性蚊取線香は、燃焼後も殺虫成分が長時間に亘って気中に残存し、殺虫効果を持続させることができるため、燃焼時間を適切な範囲に設定することで、使い勝手を向上させることができる。本発明の持続性蚊取線香は、着火から燃え尽きるまでの燃焼時間が30分以内であることが好ましい。燃焼時間を30分以内に設定していることにより、就寝中に長時間に亘って蚊類を防除可能でありながら、就寝前や就寝直後の短時間のうちに持続性蚊取線香の燃焼を終えて、煙等を気にすることなく就寝することができる。なお、持続性蚊取線香の燃焼後、殺虫効果の持続時間(蚊類を防除可能な時間)は8時間以上であることが好ましく、10時間以上がより好ましく、12時間以上が最も好ましい。燃焼後の殺虫効果の持続時間を8時間以上に設定していることにより、例えば、夜間に使用した場合、人は一晩中蚊類に刺されることなく、快適に睡眠することができる。また、燃焼時間を30分以内、燃焼後の殺虫効果の持続時間を8時間に夫々設定すれば、人が眠りにつく頃に持続性蚊取線香の火が消えるため、火事の心配をすることなく、安心して夜間でも使用することができる。このように、本発明の持続性蚊取線香は、燃焼時間が短時間でありながら、殺虫効果が長時間に亘って持続するため、屋内での使用に適しており、特に密閉性の高い空間での使用に適したものである。ただし、本発明の持続性蚊取線香は、屋外で使用することも勿論可能である。
【0030】
〔殺虫成分の単位時間当たりの揮散量〕
本発明の持続性蚊取線香は、燃焼時における殺虫成分の単位時間当たりの揮散量を適切な範囲に設定することで、短時間の燃焼であっても十分な量の殺虫成分を気中に揮散させることができる。ここで、持続性蚊取線香が完全に燃焼したときの殺虫成分の揮散量は、シリカゲルを詰めたガラス管に連結した排気鐘の中で持続性蚊取線香を完全に燃焼させ、排気鐘内の空気をポンプで吸引することで燃焼により揮散した殺虫成分をトラップし、トラップした殺虫成分をガスクロマトグラフィーで分析することによって算出する。このように算出される殺虫成分の揮散量を燃焼時間で除した単位時間当たりの揮散量は、0.05~15mg/分であることが好ましく、0.1~10mg/分であることがより好ましい。殺虫成分の単位時間当たりの揮散量が上記の範囲にあれば、30分以下の短時間の燃焼であっても適切な量の殺虫成分を気中に揮散させることができる。また、殺虫成分の単位時間当たりの揮散量が上記の範囲にあれば、燃焼時の煙等に起因する臭いや刺激を、炭化物基材のヨウ素吸着能が200mg/g以下であっても低減することができる。殺虫成分の単位時間当たりの揮散量が0.05mg/分未満である場合、30分以下の短時間の燃焼では十分な量の殺虫成分を気中に揮散させることができず、殺虫効果が持続しない虞がある。殺虫成分の単位時間当たりの揮散量が15mg/分を超える場合、燃焼時の煙等に起因する煙の臭いや刺激を十分に緩和できない虞がある。さらに、殺虫成分は直接燃焼に寄与する成分ではないため、持続性蚊取線香の立ち消えが発生する可能性がある。
【0031】
〔殺虫成分維持率〕
本発明の持続性蚊取線香においては、殺虫成分の配合量をC(mg)とし、完全に燃焼したときの殺虫成分の揮散量をV(mg)としたとき、殺虫成分の揮散量Vと殺虫成分の配合量Cとの比率である殺虫成分維持率は、以下の式(1):
殺虫成分維持率 = (V/C) × 100 ≧ 40 ・・・(1)
を満たすことが好ましい。式(1)の条件を満たすことにより、持続性蚊取線香の保存中及び燃焼中に殺虫成分が過剰に分解されることがないため、製造時の殺虫成分の配合量を抑えながら、燃焼時に十分な量の殺虫成分を気中に揮散させることができる。殺虫成分維持率が40%未満である場合、持続性蚊取線香の製造時に必要な殺虫成分の配合量が大きくなり、経済的に不利となる恐れがある。また、殺虫成分は直接燃焼に寄与する成分ではないため、殺虫成分の配合量を増やすことで、持続性蚊取線香の立ち消えが発生する可能性がある。
【0032】
〔殺虫成分/吸着能比〕
蚊取線香において、殺虫成分の配合量をC(mg)とし、炭化物基材の配合量をC(g)とし、炭化物基材のヨウ素吸着能をA(mg/g)としたとき、炭化物基材の配合量Cと炭化物基材のヨウ素吸着能Aとの積は、持続性蚊取線香全体のヨウ素吸着性の総量を示す。ここで、炭化物基材の配合量Cと炭化物基材のヨウ素吸着能Aとの積に対する殺虫成分の配合量Cの比率である殺虫成分/吸着能比は、殺虫成分の揮散量に影響を与える。本発明の持続性蚊取線香においては、殺虫成分/吸着能比が、以下の式(2):
殺虫成分/吸着能比 = C / (C×A) ≧ 3×10-2 ・・・(2)
を満たすことが好ましい。式(2)を満たすことにより、製造時の殺虫成分の配合量に対して、持続性蚊取線香の保存中及び燃焼中に炭化物基材のヨウ素吸着能により分解される殺虫成分の割合が十分に小さなものとなる。そのため、持続性蚊取線香の保存中及び燃焼中に一部の殺虫成分が分解されても、燃焼後に殺虫効果を長時間持続させることが可能な適切な量の殺虫成分を揮散させることができる。殺虫成分/吸着能比が3×10-2未満である場合、製造時の殺虫成分の配合量に対して、持続性蚊取線香の保存中及び燃焼中に炭化物基材のヨウ素吸着能により分解される殺虫成分の割合が大きくなり、燃焼時に揮散する殺虫成分が不足する虞がある。
【0033】
〔防除対象害虫〕
本発明の持続性蚊取線香が防除対象とする害虫は特に限定されないが、例えば、アカイエカ、コガタアカイエカ、ネッタイイエカ、チカイエカ等のイエカ類、ネッタイシマカ、ヒトスジシマカ等のヤブカ類、ユスリカ類、イエバエ類、チョウバエ類、ノミバエ類、ハチ類、アブ類、ブユ類、ヌカカ類、イガ類等の飛翔害虫、並びに、チャバネゴキブリ、ワモンゴキブリ、クロゴキブリ等のゴキブリ類、ダニ類、アリ類、ナンキンムシ、チャタテムシ、シバンムシ、コクゾウムシ等の匍匐害虫が挙げられ、これらの害虫のうち、特に、イエカ類、ヤブカ類に対して有効性が高い。
【実施例0034】
〔実施例1〕
炭化物基材として、ヨウ素吸着能が25mg/gである木炭粉A(50重量部)、殺虫成分として、メトフルトリン(1.5重量部)、香料成分として、ガラクソリド、及びムスクケトン等を含む混合香料(0.8重量部)、支燃剤・増量剤として、植物性粉末である除虫菊抽出粕粉(17重量部)、木粉(10.7重量部)、及び珪藻土(3重量部)、並びに粘結剤として、α澱粉(14重量部)、及びカルボキシメチルセルロース(CMC)(3重量部)を混合し、これに水(90重量部)を添加して十分に混練した。混練物を押出機にかけて棒状に成型し、その後、水分含有量が7~10重量%程度となるまで乾燥させ、実施例1の持続性蚊取線香を作製した。実施例1の持続性蚊取線香は、殺虫成分/吸着能比が1.2であり、前述の式(2)の条件を満たすものであった。
【0035】
実施例1の持続性蚊取線香を10畳の部屋(面積16.7m、高さ2.5m、容積41.7m)で使用したところ、約23分で燃え尽きたが、燃焼後12時間に亘って蚊類等の種々の害虫が寄り付くことはなかった。このことから、実施例1の持続性蚊取線香の燃焼後も、12時間に亘って室内に殺虫成分が十分残存したと考えられる。また、実施例1の持続性蚊取線香は、燃焼中に発生する煙の量が少なく、刺激臭は感じられず、ほのかなフローラルな香りが生じた。この香りは、リラックス感をもたらし、寝室での使用に好適であった。
【0036】
〔実施例2~12〕
炭化物基材として、ヨウ素吸着能が25mg/gである木炭粉A、及びヨウ素吸着能が838mg/gである木炭粉Bを用い、表1に示す配合にて、実施例1に準じて本発明の特徴構成を有する持続性蚊取線香(実施例2~12)を作製した。実施例2~12の持続性蚊取線香は、殺虫成分/吸着能比が3.1×10-2~2.2であり、何れも前述の式(2)の条件を満たすものであった。
【0037】
〔比較例1~3〕
炭化物基材として、ヨウ素吸着能が25mg/gである木炭粉A、及び/又はヨウ素吸着能が838mg/gである木炭粉Bを用い、表2に示す配合にて、実施例1に準じて本発明の特徴構成を有しない持続性蚊取線香(比較例1~3)を作製した。比較例1~3の持続性蚊取線香は、本発明の規定よりも炭化物基材のヨウ素吸着能が大きい例であり、殺虫成分/吸着能比についても、7.2×10-3~2.2×10-2であり、何れも前述の式(2)の条件を満たさないものであった。
【0038】
〔参考例〕
ヨウ素吸着能を有する炭化物基材を使用せず、表2に示す配合にて、実施例1に準じて持続性蚊取線香(参考例)を作製した。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
実施例1~12、比較例1~3、及び参考例の持続性蚊取線香を用いて、下記(1)~(4)に示す各試験を行った。
【0042】
(1)経時安定性
50℃に1ヵ月保存した後の持続性蚊取線香に含まれる殺虫成分をガスクロマトグラフィーによって分析し、1ヵ月保存後の殺虫成分の含有量と、製造時の殺虫成分の配合量とから殺虫成分の回収率を算出した。下記の基準に従って経時安定性を判定した。
A:殺虫成分の回収率95%以上
B:殺虫成分の回収率90%以上、95%未満
C:殺虫成分の回収率90%未満
【0043】
(2)殺虫成分維持率
シリカゲルを詰めたガラス管に連結した排気鐘の中で持続性蚊取線香を完全に燃焼させ、排気鐘内の空気をポンプで吸引することで燃焼により揮散した殺虫成分をトラップし、トラップした殺虫成分をガスクロマトグラフィーで分析することによって、持続性蚊取線香が完全に燃焼したときの殺虫成分の揮散量を算出した。そして、算出した揮散量と製造時の殺虫成分の配合量とから、上述した式(1)に基づき殺虫成分維持率を算出した。
【0044】
(3)嗜好性
直径20cm、高さ40cmのガラスシリンダー内で持続性蚊取線香を燃焼させ、10人のパネラーが、刺激緩和性、及び香りの嗜好性について最高点を10、最低点を1として評価した。官能試験による嗜好性の試験結果として、10人のパネラーによる評点の平均値を算出した。
【0045】
(4)実地殺虫効力試験
閉め切った25mの部屋の中央で持続性蚊取線香を燃焼させた。燃焼から8時間後に、アカイエカ雌成虫50匹を放ち2時間曝露させた後、全ての供試蚊を回収した。その間、時間経過に伴い落下仰転したアカイエカ雌成虫をカウントし、25匹のアカイエカ雌成虫が落下仰転した時点をKT50値(小数点以下四捨五入)とした。
【0046】
【表3】
【0047】
殺虫成分として、メトフルトリン、プロフルトリン、又はトランスフルトリンを含有し、ヨウ素吸着能が200mg/g以下の炭化物基材を含有する実施例1~12の持続性蚊取線香は、経時安定性に優れ、何れも殺虫成分維持率が40%以上であり、30分以内の短時間の燃焼でも燃焼から12時間後のKT50値が30分以下となり優れた殺虫効果が持続的に得られることが確認された。実施例1~12の持続性蚊取線香は、ヨウ素吸着能を有する炭化物基材を配合しない参考例と同程度以上の経時安定性、及び燃焼から12時間後の殺虫効果が得られることから、炭化物基材のヨウ素吸着能が200mg/g以下に抑えられていることで、炭化物基材による過剰な殺虫成分の分解が生じていないものと考えられる。
【0048】
また、参考例の持続性蚊取線香は、煙臭さや煙量の多さが気になるものであったのに対して、実施例1~12の持続性蚊取線香は、何れも燃焼後に嗜好性の高い芳香が漂い、煙も充満しすぎることなく、刺激緩和性、及び香りの嗜好性に優れた実使用で使いやすいものであった。このことから、実施例1~12の持続性蚊取線香は、炭化物基材のヨウ素吸着能が200mg/g以下であっても、燃焼時の煙等に起因する臭いや刺激を低減する効果が十分に得られると考えられる。
【0049】
なお、実施例1~12の持続性蚊取線香のうち、殺虫成分の単位時間当たりの揮散量が比較的低いもの(実施例4~6,8)は、効力がやや低下する傾向が見られた。また、単位時間当たりの揮散量が10.2mg/分と格別に大きい実施例3では、持続性蚊取線香の燃焼が最後まで持続しない場合があった。そのため、殺虫成分の単位時間当たりの揮散量は、0.05~15mg/分であることが好ましく、0.1~10mg/分であることがより好ましい。
【0050】
実施例9は、実施例1と比較すると、殺虫成分、及び炭化物基材の配合量が同一で、香料成分の種類のみが相違するが、殺虫成分維持率、及び燃焼から12時間後のKT50値に大きな違いはなかった。実施例10は、実施例1と比較すると、殺虫成分、及び炭化物基材の配合量が同一で、香料成分を配合していない点で相違するが、殺虫成分維持率、及び燃焼から12時間後のKT50値に大きな違いはなかった。このことから、香料成分の種類や配合量は、炭化物基材のヨウ素吸着能による殺虫成分の分解に大きな影響を及ぼさないと考えられる。
【0051】
これに対し、比較例1~3のように殺虫成分としてメトフルトリンを含有するが、ヨウ素吸着能が200mg/gを超える炭化物基材を含有する場合、殺虫成分の経時安定性は不十分であり、殺虫成分維持率が40%を下回り、燃焼から12時間後のKT50値も120分以上となり十分な殺虫効果は得られなかった。これは、炭化物基材のヨウ素吸着能が200mg/gを超えることにより、炭化物基材による過剰な殺虫成分の分解が生じたためと考えられる。また、比較例1~3の持続性蚊取線香では、香料成分による芳香性についても感じ取りにくく、香調の変質が感じられる結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の持続性蚊取線香は、家庭用又は業務用の蚊取線香として害虫を防除する用途に利用可能であり、特に、アカイエカ、チカイエカ、ヒトスジシマカ等の蚊類に対して好適に利用可能である。