(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022079794
(43)【公開日】2022-05-27
(54)【発明の名称】燃料液滴噴射装置
(51)【国際特許分類】
F02M 61/18 20060101AFI20220520BHJP
【FI】
F02M61/18 340Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020190586
(22)【出願日】2020-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】517110553
【氏名又は名称】斎藤 文修
(71)【出願人】
【識別番号】519007743
【氏名又は名称】池田 時広
(74)【代理人】
【識別番号】100097629
【弁理士】
【氏名又は名称】竹村 壽
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 文修
(72)【発明者】
【氏名】池田 時広
【テーマコード(参考)】
3G066
【Fターム(参考)】
3G066AA02
3G066AB02
3G066BA26
3G066CC37
3G066CE22
(57)【要約】
【課題】 燃焼室における燃料液滴を有効に分散して燃焼機関の熱効率を高めると共に非燃焼炭化水素の排出を低減する燃料液滴噴射装置を提供する。
【解決手段】 噴射口5と、前記噴射口の噴射方向前方に設置した1対もしくは複数の電極6(A~F)とを備え、前記電極の電位を順次変化させ、電場によって帯電した燃料液滴10の進行方向を順次変えて前記燃料液滴を内燃機関の燃焼室内に広く分散させることによって、前記燃焼室における前記燃料液滴を有効に分散して前記内燃機関の熱効率を高くすると共に非燃焼炭化水素の排出を低減させる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴射口と、前記噴射口の噴射方向前方に設置した1対もしくは複数の電極とを備え、前記電極の電位を順次変化させ、電場によって帯電した燃料液滴の進行方向を順次変えて前記燃料液滴を燃焼機関の燃焼室内に広く分散させることによって、前記燃焼室における前記燃料液滴を有効に分散して前記燃焼機関の熱効率を高くすると共に非燃焼炭化水素の排出を低減させることを特徴とする燃料液滴噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼室における燃料液滴を分散して内燃機関の熱効率を高めるとともに非燃焼炭化水素(Unburned Hydro-Carbon,UHC)の排出を低減した燃料液滴噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体を微小液滴の状態で被噴射体に噴射する噴射装置として、例えば、燃料の燃焼の最適化により内燃機関(エンジン)の熱効率の向上を図る技術がある。液体が噴射装置あるいは気化器を通過すると流動帯電が起き、噴射装置あるいは気化器と液体は、それぞれ正と負(物質の組み合わせによって、負と正の場合もある)に帯電し、液滴と噴射装置等との間にクーロン引力が働く。液滴の径が小さくなるほど液滴の噴出には大きな圧力が必要になる主たる原因は、この流動帯電によるクーロン引力と考えられる。内燃機関においては、クーロン引力によって生じる燃料液滴の放出の遅れと気化の遅れによる燃料の燃焼割合の低下を克服する必要があり、高い熱効率および大きな出力とトルクを実現するとともに、燃焼割合を向上させることによって排気ガス中の炭化水素の含有割合を低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-110746号公報
【特許文献2】特開2020-112153号公報
【特許文献3】特開2004-301099号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Bardi,M.,Pilla,G. and Gautot,X.,International Journal of Engine Research, Vol.20, No.1 (2019), pp.128-140
【非特許文献2】Schuck,C.,Samenfink,W., Schunemann,E.,Tafel,S.,Towae,O.,and Koch,T.,International Journal of Engine Research, Vol.19, No.1 (2019), pp.78-85
【非特許文献3】Koci,C. P.,Fitzgerald,R. P.,Ikonomou,V., and Sun,K.,International Journal of Engine Research, Vol. 20, No.1 (2018), pp.105-127.
【非特許文献4】J.N. イスラエルアチェビリ、分子間力と表面力第2版 1996年 朝倉書店
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
内燃機関においては、燃料噴射装置から噴射された燃料液滴を燃焼室内に分散し、燃料液滴の表面積あるいは燃焼室内壁との接触表面積を広くすることによって、液体燃料を燃焼させて動力・推力を得る機関の熱効率の向上と、非燃焼炭化水素(UHC)の排出を抑制する。
ガソリン車の排気ガス中の非燃焼炭化水素(Unburned Hydro-Carbon)の研究において、 燃料噴射口周辺、吸気弁と排気弁およびピストン面に生ずる燃料の濡れがUHC発生の重要な原因であると指摘されている(非特許文献1-3参照)。 内燃機関の燃焼行程における到達温度は~800℃と高温のため循環する冷却水によって冷却されても燃焼室内壁の温度は燃料液体の気化温度よりは十分に高くなり、直噴式燃料噴射器によって燃焼室に噴射されたガソリン、軽油などの液滴はすぐに気化するように思われる。
【0006】
しかし、燃焼行程の時間が10ms程度と短く、燃料が燃焼室内壁の特定の個所に100MPa~200MPa の高圧で吹き付けられた場合には、内壁部材の比熱が小さいために温度の低下が起きて他の個所からの熱の伝導が間に合わなくなると燃焼室内壁に濡れが生ずると考えられる。発明者らは、噴射装置から噴射される際に送液管や噴射管との摩擦によって、燃料液体が帯電(流動帯電)することを発見した(特許文献1参照)。 帯電した燃料液体では、電荷と誘電分極した分子の間に働くクーロン引力のために帯電していない状態に比較して凝集力が大きくなる(非特許文献4参照)と考えられ、帯電した燃料液体では気化熱が大きくなっている可能性がある。
本発明は、このような事情によりなされたものであり、燃焼室における燃料液滴を有効に分散して内燃機関の熱効率を高めると共に非燃焼炭化水素(Unburned Hydro-Carbon,UHC)の排出を低減する燃料液滴噴射装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の燃料液滴噴射装置の一態様は、噴射口と、前記噴射口の噴射方向前方に設置した1対もしくは複数の電極とを備え、前記電極の電位を順次変化させ、電場によって帯電した燃料液滴の進行方向を順次変えて前記燃料液滴を燃焼室内に広く分散させることによって、前記燃焼室における前記燃料液滴の気化を促進して前記燃焼機関の熱効率を高くすると共に非燃焼炭化水素(UHC)の排出を低減させることを特徴とする。
電極によって帯電した燃料液滴の進路を変えられることは特許文献2に記載された実験結果によって発明者が明らかにしたところである。
【発明の効果】
【0008】
燃焼室における燃料液滴を有効に分散して燃焼機関の熱効率を上げると共に非燃焼炭化水素(UHC)の排出を低減することができる。
燃焼は、燃料と気体(酸素)の界面近傍の燃料気体と反応気体(酸素)の混合状態で起きる化学反応である。したがって、液体燃料を燃焼させて動力・推力を得る場合には燃焼行程の時間が短いため、特に燃料液滴を効率的に気化させる必要がある。燃料液体の気化に必要な熱の大部分は、燃焼室内壁からの伝導熱と考えられる。噴射された燃料液滴を分散させて燃焼室内壁に吸着させた場合には、吸着した個所周辺の熱によって液滴は気化してしまうので濡れは発生しない。しかし、多数の液滴あるいは噴射燃料の大部分が燃料室内壁に集中して吸着した場合には、燃焼室内壁の部材の比熱が小さいために当該箇所の温度が低下するので、十分な気化熱が得られない。このため気化が遅れ、燃焼室内壁に濡れが生ずると考えられる。気体分子との衝突および燃焼室内壁からの輻射熱による気化を考えても、燃料液滴を集中させるよりも分散させて表面積を広げた方が効率的なことは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1を説明する噴射口前方に配置した電極及び噴射口の平面図である。
【
図2】実施例1を説明する噴射口前方に配置した電極及び噴射口の側面図である。
【
図3】実施例1に係る噴射口前方に配置した電極の電位を示す平面図である。
【
図4】実施例1に係る噴射口前方に配置した電極の電位と液滴の放出方向を示す側面図である。
【
図5】実施例1を説明する噴射口前方に配置した電極の電位のダイアグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施例を参照して発明の実施の形態を説明する。
【実施例0011】
この実施例の燃料液滴噴射装置は、燃料液滴を噴射する噴射口5と噴射口5の噴射方向前方に設置した1対もしくは複数の電極6(A~F)とを備えている。電極6(A~F)の電位を順次変化させ、電場によって帯電した燃料液滴10の進行方向を順次変えて燃料液滴10を燃焼室内に広く分散させる。燃料液滴10を広く分散させることによって、前記燃焼室の壁面から伝導熱を効率よく得ることができるので燃料液滴10の気化が促進され、燃料の燃焼割合が高くなり燃焼機関の熱効率を高くすることができ、それと共に非燃焼炭化水素(UHC)の排出を低減することが可能になる。
【0012】
このように、液体燃料噴射口の噴射口前方に複数の電極を設置して電場を発生させ、噴射によって負に帯電した燃料液滴の進行方向を変える。時間とともに燃料液滴の進行方向を変化させ、燃料液滴を燃焼室内に偏りなく広く分散させる。噴射燃料の進行方向を一軸方向に時間変化させることは、1個の電極でも電圧を変化させることによって可能となる。しかし、燃料液滴を燃焼室内に偏りなく広く分散させるためには、電極の数は2対以上が望ましい。
【0013】
噴射された燃料液滴を燃焼室内に広く分散させる一例を
図1~4に示す。
図1は、円状に配置された6個の平板電極6(A~F)からなる装置の平面図であり、
図2はそれを側面から見た図である。電位を
図3のように設定した時、負に帯電した燃料液滴は、
図4のように高電位の電極Aの方向に引力を受け、低電位の電極Dからは斥力を受け、その進行方向をD→A方向に曲げられる。したがって、電極の電位を
図5のように時間変化させると、燃料液滴を燃焼室内に分散させることが可能である。この実施例では、電極の数は6個であるが、電極の数を増やすことによって進行方向を細かく変化させることができる。この場合には、電極の電位を順番に変えるのではなく、電圧を加えた電極対から最も離れた位置の電極対を選択して電位変化させることも可能であり、こうすることによって、燃焼室内壁の温度の高い箇所に対し選択的に燃料液滴を吹き付けることができる。
電位を
図3のように設定した時、負に帯電した燃料液滴は、
図4のように高電位の電極Aと低電位の電極Dの作る電場によって、その進行方向をD→A方向に曲げられる。したがって、電極の電位を
図5のように時間変化させると、燃料液滴を燃焼室内の3軸方向に分散させることが可能である。この実施例では、3対の平行電極であるが、電極の数を増やすことによって、燃料液滴の進行方向をさらに細かく変化させることができる。
【0014】
燃料液滴の進行方向の角度変化は、電極に加える電圧および電極の幅(燃料の進行方向の長さ)によって調整することができる。燃料液滴の進行方向は進行方向を軸として放射状に変化するのみならず、軸方向にも変化する。噴射とともに燃料に加わる圧力が低下して燃料液滴の速度が小さくなるので、電場による燃料液滴の進行方向の角度変化が時間とともに大きくなるからである。