(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022079828
(43)【公開日】2022-05-27
(54)【発明の名称】水処理用触媒、水処理システム、水処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/72 20060101AFI20220520BHJP
B01J 23/889 20060101ALI20220520BHJP
B01J 23/34 20060101ALI20220520BHJP
【FI】
C02F1/72 Z
B01J23/889 M
B01J23/34 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020190645
(22)【出願日】2020-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】596136316
【氏名又は名称】三菱ケミカルアクア・ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】近藤 和史
【テーマコード(参考)】
4D050
4G169
【Fターム(参考)】
4D050AA01
4D050AA02
4D050AA12
4D050AA13
4D050AA15
4D050AB55
4D050BB04
4D050BB06
4D050BB11
4D050CA09
4G169AA03
4G169BA17
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BC62A
4G169BC62B
4G169BC66B
4G169CA05
4G169CA07
4G169CA15
4G169CA17
4G169DA06
4G169EA02Y
4G169EB18X
(57)【要約】
【課題】通水速度を高速化した場合でも溶解性マンガンの接触酸化能力を維持でき、溶解性マンガンを充分に不溶化でき、処理水中のマンガンの残存量を低減できる水処理用触媒;前記水処理用触媒を用いた水処理システム及び水処理方法を提供する。
【解決手段】基材2と、基材2の少なくとも一部の表面に設けられた触媒層3とを有する触媒であって、触媒層3は二酸化マンガンを含み、かつ、触媒の真比重が5.1g/mL以上である水処理用触媒1;水処理用触媒1が充填された反応槽を備える水処理システム;溶解性マンガンを含む被処理水と水処理用触媒1とを接触させる水処理方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の少なくとも一部の表面に設けられた触媒層とを有する触媒であって、
前記触媒層は二酸化マンガンを含み、かつ、前記触媒の真比重が5.1g/mL以上である、水処理用触媒。
【請求項2】
前記基材が金属である、請求項1に記載の水処理用触媒。
【請求項3】
前記水処理用触媒100質量%のうち60質量%未満が目開き149μmのメッシュを通過し、かつ、前記水処理用触媒100質量%のうち85質量%以上が目開き177μmのメッシュを通過する、請求項1または2に記載の水処理用触媒。
【請求項4】
マンガンを含有する被処理水を処理するシステムであって、
請求項1~3のいずれか一項に記載の水処理用触媒が充填された反応槽を備えることを特徴とする、水処理システム。
【請求項5】
マンガンを含有する被処理水を処理する方法であって、
請求項1~3のいずれか一項に記載の水処理用触媒と前記被処理水とを接触させることを特徴とする、水処理方法。
【請求項6】
前記被処理水を上向流として前記水処理用触媒に通水して、前記水処理用触媒と前記被処理水とを接触させる、請求項5に記載の水処理方法。
【請求項7】
下記の条件(A)及び条件(B)の少なくとも一方を満たすように、前記被処理水を前記水処理用触媒に通水して、前記水処理用触媒と前記被処理水とを接触させる、請求項5または6に記載の水処理方法。
条件(A):前記被処理水の通水時の線速度が、240~3600m/日である。
条件(B):前記被処理水の通水時の空間速度が、240~4800/日である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理用触媒、水処理システム、水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地下水、河川水等の原水から溶解性マンガン(Mn
2+)を除去する方法として、酸化マンガンを酸化触媒として用いた接触酸化ろ過法が知られている。酸化触媒としては、例えば、酸化マンガンがろ過砂の表面に付着したマンガン砂が知られている。
接触酸化ろ過法においては、酸化剤の存在下で酸化触媒の表面に原水が通水されると、
図3に示すように、酸化マンガンを用いた酸化触媒51の表面に二酸化マンガン水和物(MnO
2・H
2O)が生成して堆積し、堆積層52が形成される。酸化触媒51はろ材としても機能するため、溶解性マンガンは酸化触媒51の表面で次々と二酸化マンガン水和物として不溶化し、不溶化したマンガンがろ過される。この不溶化反応は、下式(1)、(2)で表すことができる。
Mn
2++MnO
2・H
2O+H
2O→MnO
2・MnO・H
2O+2H
+ ・・・式(1)
MnO
2・MnO・H
2O+2H
2O+Cl
2→2MnO
2・H
2O+2H
++2Cl
- ・・・式(2)
【0003】
接触酸化ろ過法によって、溶解性マンガンを含有する原水を酸化触媒に高線速で通水することが提案されている(特許文献1、2)。
特許文献1では、溶解性マンガンを含む原水に塩素を添加しながら、表面が酸化マンガンである触媒粒子に高線速の上向流として原水を通水することが提案されている。また、特許文献2では、溶解性マンガンを含む原水に酸化剤を添加した後、二酸化マンガンを含む酸化触媒に上向流で通水することが提案されている。
特許文献1、2の方法において用いられる酸化触媒は、前記式(1)、(2)に示す自触媒反応による溶解性マンガンの酸化を促進する。しかし、酸化触媒の表面の吸着サイトの数には限りがあるため、酸化触媒の表面でろ過される溶解性マンガンの量は限定的である。そのため、溶解性マンガンは酸化反応によって単に不溶化し、後段の固液分離によって主に除去される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-103275号公報
【特許文献2】特開2017-18918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の酸化触媒は、被処理水の通水速度を高速化した場合、通水後に重力によって自然に沈降しにくい。加えて、例えば上向流で触媒に通水した後は、酸化触媒が充填されたろ層の膨張率、すなわち、展開率が高くなり、酸化触媒の粒子同士の間隔が広がる。
したがって、従来の酸化触媒においては、通水速度を高速化すると接触酸化能力が低下するため、溶解性マンガンを充分に不溶化できず、処理水中のマンガンの残存量が多くなる恐れがある。
【0006】
本発明は、通水速度を高速化した場合でも溶解性マンガンの接触酸化能力を維持でき、溶解性マンガンを充分に不溶化でき、処理水中のマンガンの残存量を低減できる水処理用触媒;前記水処理用触媒を用いた水処理システム及び水処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、真比重が従来の酸化触媒より高い触媒によれば、通水速度を高速化した場合でも溶解性マンガンの接触酸化能力を維持できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明は下記の態様を有する。
[1] 基材と、前記基材の少なくとも一部の表面に設けられた触媒層とを有する触媒であって、前記触媒層は二酸化マンガンを含み、かつ、前記触媒の真比重が5.1g/mL以上である、水処理用触媒。
[2] 前記基材が金属である、[1]の水処理用触媒。
[3] 前記水処理用触媒100質量%のうち60質量%未満が目開き149μmのメッシュを通過し、かつ、前記水処理用触媒100質量%のうち85質量%以上が目開き177μmのメッシュを通過する、[1]または[2]の水処理用触媒。
[4] マンガンを含有する被処理水を処理するシステムであって、[1]~[3]のいずれかの水処理用触媒が充填された反応槽を備えることを特徴とする、水処理システム。
[5] マンガンを含有する被処理水を処理する方法であって、[1]~[3]のいずれかの水処理用触媒と前記被処理水とを接触させることを特徴とする、水処理方法。
[6] 前記被処理水を上向流として前記水処理用触媒に通水して、前記水処理用触媒と前記被処理水とを接触させる、[5]の水処理方法。
[7] 下記の条件(A)及び条件(B)の少なくとも一方を満たすように、前記被処理水を前記水処理用触媒に通水して、前記水処理用触媒と前記被処理水とを接触させる、[5]または[6]の水処理方法。
条件(A):前記被処理水の通水時の線速度が、240~3600m/日である。
条件(B):前記被処理水の通水時の空間速度が、240~4800/日である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、通水速度を高速化した場合でも溶解性マンガンの接触酸化能力を維持でき、溶解性マンガンを充分に不溶化でき、処理水中のマンガンの残存量を低減できる水処理用触媒;前記水処理用触媒を用いた水処理システム及び水処理方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】水処理システムの一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<水処理用触媒>
本発明の水処理用触媒は、その真比重が5.1g/mL以上である。これに対し、従来の酸化触媒に用いられる二酸化マンガンの真比重は、約4.0~5.0g/mL程度と低い。よって、本発明の水処理用触媒の真比重は、従来の酸化触媒より高いことから、重力によって自然に沈降しやすく、水処理用触媒を充填したろ層の展開率も低く抑えられる。その結果、通水速度を高速化しても溶解性マンガンの接触酸化能力が高く維持され、溶解性マンガンを充分に不溶化でき、処理水中のマンガンの残存量を低減できる。
水処理用触媒の真比重は、重力分離がさらに容易となり、ろ層の展開率もさらに低く抑えられる点から、5.5g/mL以上が好ましく、6.0g/mL以上がより好ましく、7.2g/mL以上がさらに好ましい。
水処理用触媒の真比重の上限は特に限定されないが、入手困難性及び作業性等の点から、21g/mL以下が好ましく、12g/mL以下がより好ましい。
【0012】
以下、図面を参照して一実施形態例に係る水処理用触媒について説明する。
図1に示す水処理用触媒1は、基材2と、基材2の少なくとも一部の表面に設けられた二酸化マンガンを含む触媒層3とを有する。触媒層3の有無については、例えば、XPS分析法(X-ray Photoelectron Spectroscopy)を用いて確認できる。
水処理用触媒1の真比重は、例えば、細孔、内部空隙がなくなるように水処理用触媒1をよく粉砕し、ゲーリュサック型比重瓶(ピクノメータ)法を用いて測定できる。触媒層3の厚さが薄い場合(例えば、約10nm以下の場合)、触媒層3の質量は水処理用触媒1全体に対して小さいため、基材2の真比重を水処理用触媒1の真比重とすることができる。
【0013】
基材2の材質は、水処理用触媒1の真比重を5.1g/mL以上とすることができれば特に限定されない。基材2としては、例えば、種々の金属、鉱物、樹脂等の様々な材質の物質を用いることができる。基材2は、全体の真比重が5.1g/mL以上となる範囲内であれば、真比重が5.1g/mL未満の物質を含んでもよい。
表1に種々の物質の真比重を示す。ただし、基材2の材質は以下の例示に限定されない。
【0014】
【0015】
表1には真比重が5.1g/mL未満の材質も例示されている。真比重が5.1g/mL未満の物質を基材2に配合する場合、水処理用触媒1の真比重が5.1g/mL以上となるように、真比重が5.1g/mLより高い物質を基材2に配合する。他にも、真比重を5.1g/mL以上とするために、例えば、真比重が7.0g/mLの金属と、真比重が5.0g/mL以下の金属とを配合した合金を基材2としてもよい。
【0016】
これらの中でも、水処理用触媒1の真比重を高くしやすいことから、金属が好ましく、内部細孔を有さない体心立方構造の金属合金粒子及び純金属微粒子がより好ましい。具体的材質としては、金属マンガン、フェロマンガン、銅、ニッケル、鋼鉄、白金、金、鉛、銀、四三酸化鉛、真鍮、錫、鋳鉄、亜鉛等が挙げられる。
これらの金属の中でも、基材2の材質としては、金属マンガンが特に好ましい。金属マンガンの粒子の表面を酸化すると、当該表面で二酸化マンガンが生成する。そのため、基材の表面に二酸化マンガンの触媒層を容易に設けることができ、水処理用触媒を製造しやすい。加えて、金属マンガンの表面を酸化して得られる水処理用触媒においては、真比重が約7.4g/mL程度となる。これは、二酸化マンガンを含む従来の酸化触媒の真比重の約2倍の値である。したがって、通水速度を高速化しても重力によって良好に沈降し、ろ層の展開率も低く抑えられる。
金属マンガンの他にも、フェロマンガン等の真比重が5.1g/mL以上である金属合金の表面を酸化することで、表面に二酸化マンガンの触媒層を設けることができ、上述した内容と同様の効果が得られる。
【0017】
触媒層3は二酸化マンガンを含む。触媒層3としては、二酸化マンガンからなる層が好ましいが、本発明の効果が得られる範囲内であれば二酸化マンガン以外の他の成分をさらに含んでもよい。
触媒層3において、次亜塩素酸ソーダ等の酸化剤の存在下で二酸化マンガンは被処理水の通水時に二酸化マンガン水和物を生成し、自触媒として機能できる。具体的には、下式(1)、(2)に示す反応により被処理水中の溶解性マンガンを不溶化することができる。
Mn2++MnO2・H2O+H2O→MnO2・MnO・H2O+2H+ ・・・式(1)
MnO2・MnO・H2O+2H2O+Cl2→2MnO2・H2O+2H++2Cl- ・・・式(2)
【0018】
水処理用触媒1においては、触媒層3は基材2の表面全体に設けられているが、本発明の水処理用触媒はこの形態例に限定されない。触媒層3は通水時に二酸化マンガンによって溶解性マンガンを不溶化させることができればよい。そのため、水処理用触媒は、基材の少なくとも一部の表面に触媒層が設けられている形態でもよい。
例えば、基材としてフェロマンガン等のマンガンを含む合金を用いる場合、基材の粒子の表面を酸化すると、基材の合金の表面のうちマンガンが存在する部分に二酸化マンガンを含む触媒層が部分的に設けられる。
【0019】
水処理用触媒の粒径分布については、水処理用触媒100質量%のうち60質量%未満が目開き149μmのメッシュ(100mesh)を通過し、かつ、水処理用触媒100質量%のうち85質量%以上が目開き177μmのメッシュ(80mesh)を通過するものが挙げられる。より好ましい粒径分布を有する水処理用触媒として、水処理用触媒100質量%のうち50質量%未満が目開き149μmのメッシュ(100mesh)を通過し、かつ、水処理用触媒100質量%のうち90質量%以上が目開き177μmのメッシュ(80mesh)を通過するものが挙げられる。水処理用触媒がこれらの粒径分布を満たすと、水処理用触媒が化学的安定性に優れ、取扱いが容易であり、水処理用触媒を水処理用途にさらに適用しやすい。
水処理用触媒の粒径分布は、乾式篩法(JIS Z 8815のふるい分け試験方法通則)により測定できる。
【0020】
本発明では、水処理用触媒1の真比重が5.1g/mL以上となる材質を基材として用いることで、ろ層の展開率を低く抑えられる。そのため本発明においては、特許文献1、2に記載された水処理用触媒粒子より微細な粒子を用いることが可能である。そして、水処理用触媒が上述の粒径分布を満たすと、水処理用触媒の展開層当たりの触媒表面積が大きくなるため、マンガンの自触媒反応の効率が高くなる。
具体的に、水処理用触媒の粒径が小さくなると、同じ体積の反応槽に収容される触媒粒子の数が多くなり、比表面積が大きくなる。例えば、水処理用触媒の平均粒径が0.5mmから0.1mmになると、同じ体積の反応槽で収容される水処理用触媒の粒子の合計表面積が約5倍になり、自触媒反応が起こる反応サイトの数も増え、反応性が向上する。その結果、高濃度のマンガンを含有する原水や被処理水を処理する場合であっても(例えば、後述の実施例1、2で示すような溶解性マンガンの濃度が1mg/L程度の高濃度であっても)、飲料水基準を満たす処理水を製造することが充分に可能である。
また、溶解性マンガン濃度が0.1mg/L程度の低濃度のマンガンを含有する原水や被処理水を処理する際においても、粒径の小さい水処理用触媒を用いることから反応槽を小型化することができる。
【0021】
図1に示す水処理用触媒1は球形の粒子であるが、水処理用触媒1の形状は特に限定されない。水処理用触媒の形状は球形の他にも、回転楕円体でもよく、幾何学的形状でもよく、不規則形状でもよく、これらの例示に限定されない。
【0022】
水処理用触媒の製造方法は、特に限定されない。例えば、二酸化マンガンを含む触媒層を基材の表面の少なくとも一部に設けることで製造できる。触媒層の形成方法は特に限定されない。種々の方法を適用することができる。
【0023】
(作用効果)
以上説明した本実施形態の水処理用触媒1は真比重が従来の酸化触媒より高いため、通水時の線速度、空間速度を高速化しても重力によって容易に沈降する。また、被処理水を上向流として通水した後でも、水処理用触媒が充填されたろ層の展開率が低く抑えられ、粒子同士の間隔が広がりにくい。
したがって、水処理用触媒1によれば、溶解性マンガンの接触酸化能力が高く維持され、溶解性マンガンを充分に不溶化でき、処理水中のマンガンの残存量を低減できる。加えて、従来の触媒を用いる場合と比較して通水時の線速度、空間速度を高速化することができる。そのため、大量の被処理水を処理するに際して大型の水槽を設ける必要がなくなり、ろ層が充填される反応槽を小型化できる。
【0024】
<水処理システム>
本実施形態に係る水処理システムは、マンガンを含有する被処理水を処理する。被処理水は、マンガン、特に溶解性マンガン(Mn
2+)を含むものであればよい。処理対象の原水としては、例えば、井戸水、表流水、下水、排水、工業廃水等が挙げられるが、これらの例示に限定されない。
本実施形態に係る水処理システムは、上述の水処理用触媒が充填された反応槽を備えることを特徴とする。
以下、
図2を参照して本実施形態に係る水処理システムについて説明する。
【0025】
図2に示す水処理システム4は、井戸5と原水ライン6を介して接続された反応槽7と;反応槽7と中間処理水ライン8を介して接続された膜ろ過装置9と;膜ろ過装置9と透過水ライン10を介して接続された処理水槽11を備える。
【0026】
原水ライン6には図示略の酸化剤添加装置が設けられている。原水ライン6は、原水、すなわち井戸水に酸化剤を添加して井戸水を被処理水W1とし、反応槽7に供給する。酸化剤添加装置は、井戸水に酸化剤を添加できる形態であれば、特に限定されない。また、酸化剤も特に限定されない。例えば、次亜塩素酸ナトリウム、さらし粉、塩素系酸化剤等が挙げられる。
【0027】
反応槽7の底部は、原水ライン6を介して井戸5と接続されている。反応槽7の内部には、上述の水処理用触媒1が充填されたろ層12が収容されている。
ろ層12は、上述の水処理用触媒1を含む。反応槽7内に充填されたろ層12の高さ、すなわち、ろ層の高さは特に限定されない。ろ層の高さは、所望の接触酸化能力、マンガンの除去能力に応じて設定できる。
【0028】
反応槽7の頂部付近は、中間処理水ライン8を介して膜ろ過装置9の分離槽13と接続されている。反応槽7は、被処理水W1を底部から頂部に向かう上向流としてろ層12に通水することで、被処理水W1とろ層12の水処理用触媒1を接触させる。このようにして反応槽7は、被処理水W1中の溶解性マンガンを不溶化させ、不溶化したマンガンの一部をろ層12でろ過し、中間処理水W2を生成する。
【0029】
膜ろ過装置9は、中間処理水W2が貯留される分離槽13と、分離槽13内に浸漬された分離膜モジュール14と、分離膜モジュール14と接続された透過水ライン10と、透過水ライン10に設けられたポンプP1と、分離槽13の底部と接続された排出ライン16と、排出ライン16に設けられたポンプP2を有する。
分離膜モジュール14は、分離槽13内の中間処理水W2に浸漬された浸漬膜15を有する。浸漬膜15は特に限定されない。例えば、中空糸膜、平膜、管状膜等が挙げられる。なかでも中空糸膜が好ましい。
【0030】
膜ろ過装置9は、浸漬膜15の二次側で透過水ライン10と接続されている。膜ろ過装置9は、ポンプP1によって浸漬膜15の二次側から分離槽13内を吸引し、中間処理水W2を浸漬膜15で固液分離し、膜ろ過水として膜ろ過水W3を得る。膜ろ過装置9は固液分離の際に、中間処理水W2に残存した不溶化マンガンやその他の濁質等の固形物を中間処理水W2から除去できる。
一方、膜ろ過装置9は、分離槽13で分離された不溶化マンガン等を含む固形物をポンプP2によって排出できる。
処理水槽11は、処理水W4を貯留する。ポンプP1と処理水槽11の間の透過水ライン10にはpH調整剤添加装置等が設けられてもよい。
【0031】
以上説明した本実施形態に係る水処理システム4は、水処理用触媒1が充填された反応槽7を備えるため、被処理水W1の通水時の線速度LV、空間速度SVを高速化した場合でも反応槽7における溶解性マンガンの接触酸化能力を高く維持できる。また、溶解性マンガンを充分に不溶化させることができ、膜ろ過水W3、処理水W4のマンガンの残存量を低減できる。
このように水処理システム4においては、優れたマンガンの除去性能を維持しながらも水処理用触媒1への通水時の線速度LV、空間速度SVを高速化できるため、大量の被処理水を処理するに際して大型の水槽を設ける必要がなく、反応槽7を小型化できる。したがって、処理水W4の生産性を高くしながらシステム全体の小型化を図ることもできる。
【0032】
<水処理方法>
本実施形態に係る水処理方法は、上述の水処理用触媒と被処理水とを接触させることを特徴とする。被処理水については、水処理システムの項で説明した内容と同様である。
以下、本実施形態に係る水処理方法について
図2を参照しながら説明する。
【0033】
まず、井戸5からの井戸水(原水)に図示略の酸化剤添加装置から酸化剤を添加して被処理水W1とし、酸化剤を添加しながら、被処理水W1を原水ライン6から反応槽7の底部に供給する。このように本実施形態では、被処理水W1中との溶解性マンガンを酸化するための酸化剤を用いる。酸化剤は、水処理用触媒1に被処理水W1を通水しながら被処理水W1と混合してもよく、水処理用触媒1に被処理水W1を通水する前にあらかじめ原水と酸化剤とを混合して被処理水W1としてもよい。
【0034】
反応槽7では、反応槽7の底部から頂部に向かう上向流として被処理水W1をろ層12に通水して、ろ層12において水処理用触媒1と被処理水W1とを接触させる。
ろ層12における被処理水W1の通水時の条件としては、下記の条件(A)及び条件(B)の少なくとも一方を満たすことが好ましく、条件(A)及び条件(B)の両方を満たすことがより好ましい。
条件(A):被処理水W1の通水時の線速度LVが、240~3600m/日である。
条件(B):被処理水W1の通水時の空間速度SVが、240~4800/日である。
【0035】
条件(A)について、線速度LVは、480~2400m/日がより好ましく、720~1920m/日がさらに好ましい。また、条件(B)について、空間速度SVは、480~3600/日がより好ましく、1680~2880/日がさらに好ましい。線速度LV、空間速度SVが前記下限値以上であると、処理水W4の生産性をさらに高め、反応槽7をさらに小型化できる。線速度LV、空間速度SVが前記上限値以下であると、水処理用触媒1の重力分離が充分に容易であり、また、展開率を低く抑えることも容易である。
【0036】
水処理用触媒1と被処理水W1との接触により、被処理水W1中の溶解性マンガンが酸化されて不溶化する。不溶化したマンガンの一部はろ層12で除去され、残部は中間処理水W2とともに膜ろ過装置9に移送される。中間処理水W2は、膜ろ過装置9において固液分離され、不溶化したマンガンの残部やその他の濁質等の固形物が除去される。そして、分離膜モジュール13の透過水である膜ろ過水W3が透過水ライン10を流れ、必要に応じてpH調整等の処理を必要に応じて受け、処理水槽11で処理水W4として貯留される。
【0037】
以上説明した本実施形態に係る水処理システム方法では、水処理用触媒1と被処理水W1とを接触させることを特徴とするため、被処理水W1の通水時の線速度LV、空間速度SVを高速化した場合でも溶解性マンガンの接触酸化能力を高く維持できる。また、溶解性マンガンを充分に不溶化させることができ、膜ろ過水W3、処理水W4のマンガンの残存量を低減できる。
このように被処理水W1の通水時の線速度LV、空間速度SVを高速化することができるため、水処理効率が高く、優れた生産性で処理水W4を得ることができる。加えて、処理システムの小型化を図ることもできる。
【0038】
<他の実施形態>
以上いくつかの実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施できる。
例えば、上述の実施形態においては、原水に酸化剤を添加しながら被処理水W1として反応槽7に供給する形態例について説明したが、他の実施形態においては、原水を貯留する受水槽を設け、受水槽内の原水にあらかじめ酸化剤を添加して被処理水W1を調製した後、被処理水W1を反応槽7に供給してもよい。
このように本明細書に開示の実施形態は、その他の様々な形態で実施可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置換、変更が可能である。
【実施例0039】
以下、本発明を実施例によってより具体的に説明する。本発明は、以下の記載によって限定されない。
【0040】
<測定方法>
真比重(g/mL)は、ゲーリュサック型比重瓶を用いて、比重瓶法(JIS K 0061:2001「化学製品の密度及び比重測定方法」)に準拠して測定した。
粒度分布は、乾式篩法(JIS Z 8815「ふるい分け試験方法通則」)に準拠して測定した。
【0041】
<被処理水の調製>
溶解性マンガンの濃度が1mg/Lとなり、遊離残留塩素濃度が2mg/Lとなるように、水道水に塩化マンガン水溶液を添加し、被処理水を調製した。
【0042】
<実施例1>
真比重が7.4g/mLである金属マンガン粒子を基材とした。金属マンガン粒子の粒度分布について、全体のうち97質量%が目開き177μmのメッシュ(80mesh)を通過し、41質量%が目開き149μmのメッシュ(100mesh)を通過した。また、金属マンガン粒子の展開率は115%であった。展開率(%)は、下式(3)により算出した。
展開率(%)=(h1―h0)/(h0)×100 ・・・式(3)
式(3)中、h0は、内径Φ26mmのカラムに充填された通水前のろ層の高さであり、h1は、線速度LV:960m/日、空間速度SV:2400/日で通水した時のろ層の高さである。
【0043】
水道水を脱塩素処理した後、有効塩素濃度を1000mg/Lに調整した水溶液に金属マンガン粒子を24時間浸漬し、金属マンガン粒子の表面を酸化し、二酸化マンガンを生成させた。その後、残存する塩素を水道水で除去し、実施例1の水処理用触媒を得た。
実施例1の水処理用触媒を内径Φ26mmのカラムに充填し、被処理水を線速度LV:960m/日、空間速度SV:2400/日の条件で通水した。通水を1週間継続しながら、0.45μmのメンブレンフィルターで不溶化したマンガンをろ過し、処理水を得た。処理水のマンガン含有量を分析した結果、処理水のマンガン含有量は、通水を行った1週間のうち全日において0.005mg/L未満であった。
【0044】
<実施例2>
真比重が7.3g/mLであるフェロマンガン粒子を基材として用いた。フェロマンガン粒子の粒度分布について、全体のうち92質量%が目開き177μmのメッシュ(80mesh)を通過し、45質量%が目開き149μmのメッシュ(100mesh)を通過した。実施例1と同様の条件で算出したフェロマンガン粒子の展開率は120%であった。
実施例1と同様にして、フェロマンガン粒子の表面を酸化して実施例2の水処理用触媒を得た。その後、実施例1と同様の条件で被処理水を実施例2の水処理用触媒に1週間通水し、処理水のマンガン含有量を分析した。その結果、処理水のマンガン含有量は、通水を行った1週間のうち全日において0.01mg/L未満であった。
【0045】
<比較例1>
真比重が5.0g/mLであるβ型二酸化マンガン粒子を基材とした。β型二酸化マンガン粒子の粒度分布について、全体のうち80質量%が目開き177μmのメッシュ(80mesh)を通過し、20質量%が目開き149μmのメッシュ(100mesh)を通過した。実施例1と同様の条件で算出したβ型二酸化マンガン粒子の展開率は140%であった。
水道水を脱塩素処理した後、有効塩素濃度を1000mg/Lに調整した水溶液にβ型二酸化マンガン粒子を24時間浸漬し、その後、残存する塩素を水道水で除去し、比較例1の酸化触媒とした。その後、実施例1と同様の条件で原水を比較例1の水処理用触媒に1週間通水し、処理水のマンガン含有量を分析した。その結果、処理水のマンガン含有量は、通水を行った1週間のうち全日において水質基準値の0.05mg/L超であった。
【0046】
以上説明した実施例の結果から、通水速度を高速化した場合でも溶解性マンガンの接触酸化能力を維持でき、溶解性マンガンを充分に不溶化でき、処理水中のマンガンの残存量を低減できることを確認した。
1…水処理用触媒、2…基材、3…触媒層、4…水処理システム、5…井戸、6…原水ライン、7…反応槽、8…中間処理水ライン、9…膜ろ過装置、10…透過水ライン、11…処理水槽、12…ろ層、13…分離槽、14…分離膜モジュール、15…浸漬膜、16…排出ライン、P1,P2…ポンプ。