(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022079842
(43)【公開日】2022-05-27
(54)【発明の名称】圧電体薄膜、圧電体薄膜の製造装置、圧電体薄膜の製造方法、および、疲労推定システム
(51)【国際特許分類】
C23C 14/06 20060101AFI20220520BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20220520BHJP
H01L 41/187 20060101ALI20220520BHJP
H01L 41/316 20130101ALI20220520BHJP
H01L 41/113 20060101ALI20220520BHJP
【FI】
C23C14/06 L
C23C14/06 A
C23C14/34 A
H01L41/187
H01L41/316
H01L41/113
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020190670
(22)【出願日】2020-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】517177729
【氏名又は名称】仙台スマートマシーンズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】桑野 博喜
(72)【発明者】
【氏名】加藤 忠
(72)【発明者】
【氏名】レ バン ミン
(72)【発明者】
【氏名】グエン ホアン フン
(72)【発明者】
【氏名】今野 理洋
(72)【発明者】
【氏名】高山 洋佑
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029BA58
4K029CA05
4K029DC15
4K029DC39
(57)【要約】
【課題】より優れたFoMおよび圧電歪定数を有する圧電体薄膜、その圧電体薄膜を製造することができる圧電体薄膜の製造装置および圧電体薄膜の製造方法、ならびに、その圧電体薄膜を利用可能な疲労推定システムを提供する。
【解決手段】圧電体薄膜は、AlNのAlサイトにMgとHfとを共ドープした(MgHf)
xAl
1-xNの薄膜から成り、xは0.3以上0.49以下であり、性能指数(FoM)が45GPa以上、圧電歪定数(d
33)が18pm/V以上である。AlNから成るターゲットの表面に、Mgから成る複数の第1の個片と、Hfから成る複数の第2の個片とを、ターゲットの表面積に対して、第1の個片の1個当たりが占める平均表面積が、第2の個片の1個当たりが占める平均表面積の0.9倍以上1.1倍以下になるよう配置し、マグネトロンスパッタ法により、基板上に圧電体薄膜を成長させる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
AlNのAlサイトにMgとHfとを共ドープした(MgHf)xAl1-xNの薄膜から成り、xは0.3以上0.49以下であり、性能指数(FoM)が45GPa以上、圧電歪定数(d33)が18pm/V以上であることを特徴とする圧電体薄膜。
【請求項2】
xが0.45以上0.49以下であり、性能指数(FoM)が65GPa以上、圧電歪定数(d33)が23pm/V以上であることを特徴とする請求項1記載の圧電体薄膜。
【請求項3】
マグネトロンスパッタ法を利用して、AlNのAlサイトにMgとHfとを共ドープした圧電体薄膜を製造するための圧電体薄膜の製造装置であって、
AlNから成るターゲットと、
前記ターゲットの表面に配置されたMgから成る複数の第1の個片と、
前記ターゲットの表面に配置されたHfから成る複数の第2の個片とを有し、
前記ターゲットの表面積に対して、前記複数の第1の個片の1個当たりが占める平均表面積が、前記複数の第2の個片の1個当たりが占める平均表面積の0.9倍以上1.1倍以下であることを
特徴とする圧電体薄膜の製造装置。
【請求項4】
AlNから成るターゲットの表面に、Mgから成る複数の第1の個片と、Hfから成る複数の第2の個片とを、前記ターゲットの表面積に対して、前記複数の第1の個片の1個当たりが占める平均表面積が、前記複数の第2の個片の1個当たりが占める平均表面積の0.9倍以上1.1倍以下になるよう配置し、
マグネトロンスパッタ法により、基板上に、AlNのAlサイトにMgとHfとを共ドープした圧電体薄膜を成長させることを
特徴とする圧電体薄膜の製造方法。
【請求項5】
MgとHfとを合わせた原子数と、Alの原子数との比が、30:70乃至49:51になるよう、前記圧電体薄膜を成長させることを特徴とする請求項4記載の圧電体薄膜の製造方法。
【請求項6】
被測定物の累積疲労を推定するための疲労推定システムであって、
圧電体を有し、疲労により被測定物に生じたひずみにより前記圧電体に力が加わり、前記圧電体に電荷が発生するよう設けられたセンサ部と、
前記センサ部の前記圧電体に発生した電荷を蓄電する蓄電手段と、
前記蓄電手段に所定の電荷量が蓄電される度に、前記電荷量に関する電荷情報を無線で送信する送信手段と、
前記送信手段からの前記電荷情報を受信する度に、その受信時刻を記録すると共に、記録した前記受信時刻の回数に基づいて、前記被測定物の累積疲労を推定可能に設けられた疲労推定手段とを、
有することを特徴とする疲労推定システム。
【請求項7】
前記被測定物は、構造物または部材であることを特徴とする請求項6記載の疲労推定システム。
【請求項8】
前記圧電体は、請求項1または2記載の圧電体薄膜から成ることを特徴とする請求項6または7記載の疲労推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電体薄膜、圧電体薄膜の製造装置、圧電体薄膜の製造方法、および、疲労推定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、センサやアクチュエータ等で利用される圧電材料として、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)が広く使用されているが、有毒物質である鉛(Pb)を大量に含んでいることから、近年では、PZTに代わる圧電材料の開発が進められている。PZTに代わる圧電材料の一つとして、AlN(窒化アルミニウム)が知られているが、性能指数(FoM=e31
2/ε・εγ;ここで、e31は圧電応力定数、εは誘電率、εγは比誘電率)をより高めるために、Alサイトに、MgとHfとを共ドープしたものが開発されている(例えば、非特許文献1乃至4参照)。
【0003】
特に、AlサイトにMgとHfとを共ドープした、(MgHf)xAl1-xN薄膜において、xの増加に従ってFoMが増大し、x=0.12のとき、AlNの3倍のFoMが得られることが、本発明者等により確認されている(例えば、非特許文献5参照)。また、xの値をさらに大きくした圧電体薄膜も、本発明者等により開発されており、xが0.15以上0.5以下のとき、さらに優れたFoMが得られることが確認されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Nguyen H H, Oguchi H, Minh L V and Kuwano H, “ High-Throughput Investigation of a Lead-Free AlN-Based Piezoelectric Material, (Mg,Hf)xAl1-xN”, ACS Comb. Sci., 2017, 19, p.365-369
【非特許文献2】Nguyen H H, Oguchi H and Kuwano H, “Combinatorial approach to MgHf co-doped AlN thin films for Vibrational Energy Harvesters”, J. Phys.: Conf. Ser., 2016, 773 012075
【非特許文献3】Y. Iwazaki, T. Yokoyama, T. Nishihara, and M. Ueda, “Highly enhanced piezoelectric property of co-doped AlN”, Appl. Phys. Express, 2015, 8, 061501
【非特許文献4】小形曜一郎、横山剛、岩崎誉志紀、西原時弘、「Mg/Hf同時ドープAlNの置換サイト解析」、立命館大学 総合科学技術研究機構、[平成30年3月8日検索]、インターネット〈URL: http://www.ritsumei.ac.jp/acd/re/src/report/platform/R1515.pdf〉
【非特許文献5】H. H. Nguyen, L. Van Minh, H. Oguchi and H. Kuwano, “High figure of merit (MgHf)xAl1-xN thin films for miniaturizing vibrational energy harvesters”, Proceedings of PowerMEMS 2017, 2017, W3A.1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の圧電体薄膜は、反応性イオンビームスパッタにより、MgHfターゲットおよびAlNターゲットの2つのターゲットと、各ターゲットに対応する2つのスパッタガンとを用いて、基板上に成長させて製造されており、x=0.44のとき、FoMの最大値31.5GPa、圧電歪定数(d33)の最大値13.68pm/Vが得られているが、さらに優れたFoMや圧電歪定数を有する圧電体薄膜の開発が常に求められている。
【0007】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、より優れたFoMおよび圧電歪定数を有する圧電体薄膜、その圧電体薄膜を製造することができる圧電体薄膜の製造装置および圧電体薄膜の製造方法、ならびに、その圧電体薄膜を利用可能な疲労推定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る圧電体薄膜は、AlNのAlサイトにMgとHfとを共ドープした(MgHf)xAl1-xNの薄膜から成り、xは0.3以上0.49以下であり、性能指数(FoM)が45GPa以上、圧電歪定数(d33)が18pm/V以上であることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る圧電体薄膜の製造装置は、マグネトロンスパッタ法を利用して、AlNのAlサイトにMgとHfとを共ドープした圧電体薄膜を製造するための圧電体薄膜の製造装置であって、AlNから成るターゲットと、前記ターゲットの表面に配置されたMgから成る複数の第1の個片と、前記ターゲットの表面に配置されたHfから成る複数の第2の個片とを有し、前記ターゲットの表面積に対して、前記複数の第1の個片の1個当たりが占める平均表面積が、前記複数の第2の個片の1個当たりが占める平均表面積の0.9倍以上1.1倍以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る圧電体薄膜の製造方法は、AlNから成るターゲットの表面に、Mgから成る複数の第1の個片と、Hfから成る複数の第2の個片とを、前記ターゲットの表面積に対して、前記複数の第1の個片の1個当たりが占める平均表面積が、前記複数の第2の個片の1個当たりが占める平均表面積の0.9倍以上1.1倍以下になるよう配置し、マグネトロンスパッタ法により、基板上に、AlNのAlサイトにMgとHfとを共ドープした圧電体薄膜を成長させることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る圧電体薄膜は、本発明に係る圧電体薄膜の製造装置および/または本発明に係る圧電体薄膜の製造方法により好適に製造することができる。また、本発明に係る圧電体薄膜の製造装置は、本発明に係る圧電体薄膜の製造方法を好適に実施することができる。本発明に係る圧電体薄膜の製造装置および圧電体薄膜の製造方法は、AlNから成るターゲットの表面に、Mgから成る複数の第1の個片と、Hfから成る複数の第2の個片とを配置したものに対して、1つのスパッタガンを使用してスパッタリングを行うため、2つのターゲットと2つのスパッタガンとを用いる従来の方法と比べて精度良く、(MgHf)xAl1-xNの圧電体薄膜を得ることができる。
【0012】
また、本発明に係る圧電体薄膜の製造装置および圧電体薄膜の製造方法は、ターゲットの表面積に対する、第1の個片の1個当たりが占める平均表面積と、第2の個片の1個当たりが占める平均表面積との比を制御することにより、MgとHfとの添加割合を容易に制御することができる。特に、第1の個片の1個当たりが占める平均表面積が、第2の個片の1個当たりが占める平均表面積の0.9倍以上1.1倍以下になるよう制御することにより、優れたFoMおよび圧電歪定数を有する、(MgHf)xAl1-xNの圧電体薄膜を得ることができる。また、本発明に係る圧電体薄膜の製造方法で、MgとHfとを合わせた原子数と、Alの原子数との比が、30:70乃至49:51になるよう、圧電体薄膜を成長させることにより、より優れたFoMおよび圧電歪定数を有する本発明に係る圧電体薄膜を得ることができる。
【0013】
本発明に係る圧電体薄膜の製造方法で、MgとHfとを合わせた原子数と、Alの原子数との比が、45:55乃至49:51になるよう、圧電体薄膜を成長させることが特に好ましい。この場合、xが0.45以上0.49以下で、性能指数(FoM)が65GPa以上、圧電歪定数(d33)が23pm/V以上の圧電体薄膜を得ることができる。
【0014】
本発明に係る疲労推定システムは、被測定物の累積疲労を推定するための疲労推定システムであって、圧電体を有し、疲労により被測定物に生じたひずみにより前記圧電体に力が加わり、前記圧電体に電荷が発生するよう設けられたセンサ部と、前記センサ部の前記圧電体に発生した電荷を蓄電する蓄電手段と、前記蓄電手段に所定の電荷量が蓄電される度に、前記電荷量に関する電荷情報を無線で送信する送信手段と、前記送信手段からの前記電荷情報を受信する度に、その受信時刻を記録すると共に、記録した前記受信時刻の回数に基づいて、前記被測定物の累積疲労を推定可能に設けられた疲労推定手段とを、有することを特徴とする。
【0015】
本発明に係る疲労推定システムは、疲労により被測定物に生じたひずみを、圧電体で検出することができるため、検出にかかる電力を抑制することができる。また、蓄電手段に所定の電荷量が蓄電されたときにのみ電荷情報を送信するため、送信にかかる電力を抑制することができる。本発明に係る疲労推定システムは、電荷情報を受信した受信時刻の回数により、被測定物に生じたひずみの累積量を把握することができ、被測定物の累積疲労を容易に推定することができる。また、電荷情報の受信時刻から、疲労の経時的な蓄積状況を把握することもできる。
【0016】
本発明に係る疲労推定システムは、被測定物側の消費電力をさらに抑制するために、蓄電手段に蓄電された電荷を、送信手段等を稼働するための電力として利用してもよい。また、電荷情報は、所定の電荷量が蓄電されたことがわかる情報であれば、例えば電荷量を示す情報など、いかなるものであってもよい。
【0017】
本発明に係る疲労推定システムで、前記被測定物は、構造物または部材であることが好ましい。この場合、構造物や部材の累積疲労を推定することができ、構造物や部材の疲労蓄積による破壊を防ぐことができる。本発明に係る疲労推定システムで、前記圧電体は、本発明に係る圧電体薄膜から成ることが好ましい。この場合、累積疲労を高精度で推定することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、より優れたFoMおよび圧電歪定数を有する圧電体薄膜、その圧電体薄膜を製造することができる圧電体薄膜の製造装置および圧電体薄膜の製造方法、ならびに、その圧電体薄膜を利用可能な疲労推定システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施の形態の圧電体薄膜の、圧電歪定数d
33を求めるための装置を示す側面図である。
【
図2】本発明の実施の形態の圧電体薄膜の、MgHfの濃度(Total concentration)と圧電歪定数d
33との関係を示すグラフである。
【
図3】本発明の実施の形態の圧電体薄膜である(MgHf)
xAl
1-xN薄膜を有する片持ち梁状の測定試料の、x=0.2のときの(a)印加電圧(Applied voltage)と変位(Displacement)との関係、(b)印加電圧と圧電歪定数d
31との関係を示すグラフである。
【
図4】本発明の実施の形態の圧電体薄膜である(MgHf)
xAl
1-xN薄膜を有する片持ち梁状の測定試料の、x=0.2のときの印加電圧の周波数と静電容量(Capacitance)との関係を示すグラフである。
【
図5】本発明の実施の形態の圧電体薄膜の、MgHfの濃度(Total concentration)と性能指数(FoM)との関係を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施の形態の疲労推定システムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施例等に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の実施の形態の圧電体薄膜は、AlNのAlサイトにMgとHfとを共ドープした(MgHf)xAl1-xNの薄膜から成り、xは0.3以上0.49以下である。
【0021】
本発明の実施の形態の圧電体薄膜は、本発明の実施の形態の圧電体薄膜の製造装置および圧電体薄膜の製造方法により製造することができる。すなわち、本発明の実施の形態の圧電体薄膜の製造装置は、AlNから成るターゲットと、ターゲットの表面に配置されたMgから成る複数の第1の個片と、ターゲットの表面に配置されたHfから成る複数の第2の個片とを有している。各第1の個片および各第2の個片は、ターゲットの表面積に対して、第1の個片の1個当たりが占める平均表面積が、第2の個片の1個当たりが占める平均表面積の0.9倍以上1.1倍以下になるよう配置されている。
【0022】
本発明の実施の形態の圧電体薄膜の製造方法では、第1の個片と第2の個片とが配置されたターゲットの表面に対し、マグネトロンスパッタ法により、スパッタガンからイオン化したArガスを衝突させてスパッタリングを行い、基板上に、AlNのAlサイトにMgとHfとを共ドープした圧電体薄膜を成長させる。こうして、(MgHf)xAl1-xNの薄膜から成る、本発明の実施の形態の圧電体薄膜を得ることができる。
【0023】
このように、本発明の実施の形態の圧電体薄膜の製造装置および圧電体薄膜の製造方法は、AlNから成るターゲットの表面に、Mgから成る複数の第1の個片と、Hfから成る複数の第2の個片とを配置したものに対して、1つのスパッタガンを使用してスパッタリングを行うため、2つのターゲットと2つのスパッタガンとを用いる従来の方法と比べて精度良く、(MgHf)xAl1-xNの圧電体薄膜を得ることができる。
【0024】
また、本発明の実施の形態の圧電体薄膜の製造装置および圧電体薄膜の製造方法は、ターゲットの表面積に対する、第1の個片の1個当たりが占める平均表面積と、第2の個片の1個当たりが占める平均表面積との比を制御することにより、MgとHfとの添加割合を容易に制御することができる。特に、第1の個片の1個当たりが占める平均表面積が、第2の個片の1個当たりが占める平均表面積の0.9倍以上1.1倍以下になるよう制御することにより、優れたFoMおよび圧電歪定数を有する、(MgHf)xAl1-xNの圧電体薄膜を得ることができる。また、本発明の実施の形態の圧電体薄膜の製造方法で、MgとHfとを合わせた原子数と、Alの原子数との比が、30:70乃至49:51になるよう、圧電体薄膜を成長させることにより、より優れたFoMおよび圧電歪定数を有する本発明に係る圧電体薄膜を得ることができる。
【実施例0025】
本発明の実施の形態の圧電体薄膜の製造装置および圧電体薄膜の製造方法を用いて、本発明の実施の形態の圧電体薄膜を製造した。マグネトロンスパッタ法は、20%Ar-80%N2雰囲気中で行い、Pt(100nm)/Ti(6nm)/SOIから成る基板(Substrate)のPt側の表面に、薄膜を成長させた。また、各第1の個片および各第2の個片を、ターゲットの表面積に対して、第1の個片の1個当たりが占める平均表面積と、第2の個片の1個当たりが占める平均表面積とがほぼ等しくなるよう配置した。
【0026】
スパッタでは、スパッタガンから、イオン化したArガスをターゲットに衝突させた。このとき、各ガス圧力を1.5mTorrとし、基板の温度を600℃とした。また、スパッタリングチャンバーのベース圧力を、1×10-7Torr未満とし、ターゲットに、140Wの高周波電力を印加した。また、スパッタガンから放出されたガスに、高周波イオンソース(RF-Neutralizer)から電子(e-)を供給した。
【0027】
スパッタでは、(MgHf)xAl1-xN薄膜の堆積速度を300nm/hとし、基板の一方から他方に向かって、xの値が増えるように薄膜を成長させた。こうして形成された(MgHf)xAl1-xN薄膜は、厚みが約700nmで、xの値が0~0.45であった。なお、(MgHf)xAl1-xN薄膜のxの値は、X線光電子分光法(XPS)や二次イオン質量分析法(SIMS)により求めることができる。また、製造中に、不可避不純物が混入してもよい。
【0028】
製造された(MgHf)
xAl
1-xN薄膜に対して、
図1に示す装置を用いて、さまざまなxの値でのd
33(圧電歪定数)を求めた。
図1に示すように、測定では、サンプルホルダー(Sample holder)1の上に、(MgHf)
xAl
1-xN薄膜から成る圧電体薄膜10を上にして基板2を置き、圧電体薄膜10の表面にカンチレバー(Cantilever)3の先端を近接させて配置した。この状態で、圧電体薄膜10とカンチレバー3との間に正弦波形の電圧を印加し、圧電体薄膜10の表面とカンチレバー3の先端との間の変位を、レーザードップラー振動計(小野測器社製「LV-1710」)4で測定した。カンチレバー3としては、表面にPtがコーティングされているものを用いた。また、印加電圧を0~±20V
ppとし、その周波数を1~10kHzとした。
【0029】
さまざまなxの値でのd
33の値を、
図2に示す。
図2の横軸は、xの値を原子百分率(at.%)で表したMgHfの濃度(Total concentration)である。
図2に示すように、d
33の値は、xの増加と共に大きくなっていき、x=0.3(30at.%)のとき約18pm/V以上、x=0.45(45at.%)のとき約23pm/V以上であり、x=0.5付近で飽和する様子が確認された。
様々なxの値について、3種類の測定試料の片持ち梁を振動させて、それぞれの共振周波数を求め、各共振周波数のズレの量からヤング率(Young’s modulus)を求め、その平均値を求めた。片持ち梁の振動には、振動制御装置(旭製作所社製「G-Master APD-200FCG」)を用い、片持ち梁の振動の測定には、レーザードップラー振動計(小野測器社製「LV-1710」)を用いた。その結果、例えば、(MgHf)xAl1-xN薄膜のx=0.45のとき、Device S, M, Lの測定試料の共振周波数はそれぞれ、13884 Hz, 6148 Hz, 3487 Hzであり、ヤング率はそれぞれ、253 GPa, 245 GPa, 249 GPaであった。また、ヤング率の平均値は、249±10 GPaであった。
疲労推定手段24は、コンピュータから成り、受信手段31と解析制御部32と記憶手段33とを有している。受信手段31は、送信手段23から送信された電荷情報を、無線で受信可能に構成されている。解析制御部32は、受信手段31と記憶手段33とに接続されている。解析制御部32は、受信手段31で電荷情報を受信する度に、その電荷情報と共に、その受信時刻をタイムスタンプとして記憶手段33に送るよう構成されている。また、解析制御部32は、その受信時刻の回数に基づいて、被測定物の累積疲労を推定可能に構成されている。また、解析制御部32は、その受信時刻から、疲労の経時的な蓄積状況を把握可能に構成されている。記憶手段33は、メモリから成り、解析制御部32から送られてきた電荷情報および受信時刻を記憶するよう構成されている。
なお、疲労推定システム20は、被測定物側の消費電力をさらに抑制するために、蓄電手段22に蓄電された電荷を、送信手段23等を稼働するための電力として利用してもよい。また、センサ部21には、本発明の実施の形態の圧電体薄膜10を利用しているが、他の圧電体を使用することもできる。