(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022079921
(43)【公開日】2022-05-27
(54)【発明の名称】コンクリート用混和剤、および膨張コンクリート
(51)【国際特許分類】
C04B 22/06 20060101AFI20220520BHJP
C04B 24/00 20060101ALI20220520BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20220520BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20220520BHJP
C04B 111/34 20060101ALN20220520BHJP
C04B 111/20 20060101ALN20220520BHJP
【FI】
C04B22/06 Z
C04B24/00
C04B22/08 B
C04B28/02
C04B111:34
C04B111:20
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020190795
(22)【出願日】2020-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141966
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 範彦
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(72)【発明者】
【氏名】長塩 靖祐
(72)【発明者】
【氏名】丸田 浩
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PB03
4G112PB07
4G112PB14
4G112PC09
(57)【要約】
【課題】本発明は、膨張コンクリートの凍結融解抵抗性が向上するコンクリート用混和剤等を提供する。
【解決手段】本発明は、下記の粒度分布を有する膨張材、パラフィン、および亜硝酸塩を少なくとも含む、コンクリート用混和剤である。
膨張材:粒径が10μm以下の粒子が40~80質量%、10μmを超え100μm以下の粒子が20~60質量%、および100μmを超え150μm以下の粒子が0~6質量%である膨張材
また、本発明は、前記膨張材、パラフィン、および亜硝酸塩の割合が、膨張材:パラフィン:亜硝酸塩=15~35:0.65~4.5:0.5~3.6(質量比)である、コンクリート用混和剤等である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の粒度分布を有する膨張材、パラフィン、および亜硝酸塩を少なくとも含む、コンクリート用混和剤。
膨張材:粒径が10μm以下の粒子が40~80質量%、10μmを超え100μm以下の粒子が20~60質量%、および100μmを超え150μm以下の粒子が0~6質量%である膨張材
【請求項2】
前記膨張材、パラフィン、および亜硝酸塩の割合が、膨張材:パラフィン:亜硝酸塩=15~35:0.65~4.5:0.5~3.6(質量比)である、請求項1に記載のコンクリート用混和剤。
【請求項3】
請求項1に記載の膨張材、パラフィン、および亜硝酸塩を少なくとも含み、該膨張材の単位量が15~35kg/m3である、膨張コンクリート。
【請求項4】
前記パラフィンの単位量が0.65~4.5kg/m3である、請求項3に記載の膨張コンクリート。
【請求項5】
前記亜硝酸塩の単位量が0.5~3.6kg/m3である、請求項3または4に記載の膨張コンクリート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膨張材を含むコンクリート(以下「膨張コンクリート」という。)の凍結融解抵抗性が向上するコンクリート用混和剤、および該混和剤を含む膨張コンクリートに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、膨張材は、生石灰系とカルシウムサルホアルミネート系がある。これらの膨張材は、それぞれ、水和により生じた消石灰やエトリンガイトの膨張により、コンクリートの乾燥収縮や自己収縮を低減して、コンクリートのひび割れを抑制する。しかし、膨張コンクリートは、凍結融解抵抗性が低下して、コンクリートの表面にひび割れや剥離等が生じて劣化する現象(スケーリング)が報告されている(非特許文献1、2、および3)。
【0003】
もっとも、膨張材の使用量を減らせば、その分、凍結融解抵抗性の低下は小さいが、それでは、膨張材を使用する本来の目的であるコンクリートのひび割れ抑制の効果は低下する。また、寒冷地などで融雪剤を散布する場合、塩害と凍害の複合劣化が生じて、膨張コンクリートのスケーリングが顕著になる場合がある。
【0004】
そこで、従来、凍結融解抵抗性を高める手段が種々提案されている。例えば、特許文献1では、特定の構造を有するポリカルボン酸系混和剤と、所定のポリアルキレン化合物を含むコンクリート組成物は、微細な空気を安定して連行するため、該組成物の硬化体は、凍結融解抵抗に優れるとしている。しかし、該組成物は、膨張コンクリートに用いた場合でも、有効か否かは記載がなく不明である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】天谷公彦ほか、「膨張材を使用したコンクリートの拘束度と凍結融解抵抗性に関する実験的研究」、土木学会第65回年次学術講演会(平成22年9月)、863~864頁
【非特許文献2】國府勝郎、「膨張コンクリートの凍結融解抵抗性に関する基礎研究」、土木学会論文報告集、第334号、1983年8月、145~154頁
【非特許文献3】高橋幸一、「膨張コンクリートの耐凍害性に及ぼす影響とその機構について」、膨張コンクリートによる構造物の高機能化/高耐久化に関するシンポジウム、2003年9月、79~84頁
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、膨張コンクリートの凍結融解抵抗性が向上するコンクリート用混和剤等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定の粒度分布を有する膨張材、パラフィン、および亜硝酸塩を少なくとも含むコンクリート用混和剤は、前記目的を達成できることを見い出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、以下の構成を有するコンクリート用混和剤等である。
【0009】
[1]下記の粒度分布を有する膨張材、パラフィン、および亜硝酸塩を少なくとも含む、コンクリート用混和剤。
膨張材:粒径が10μm以下の粒子が40~80質量%、10μmを超え100μm以下の粒子が20~60質量%、および100μmを超え150μm以下の粒子が0~6質量%である膨張材
[2]前記膨張材、パラフィン、および亜硝酸塩の割合が、膨張材:パラフィン:亜硝酸塩=15~35:0.65~4.5:0.5~3.6(質量比)である、前記[1]に記載のコンクリート用混和剤。
[3]前記[1]に記載の膨張材、パラフィン、および亜硝酸塩を少なくとも含み、該膨張材の単位量が15~35kg/m3である、膨張コンクリート。
[4]前記パラフィンの単位量が0.65~4.5kg/m3である、前記[3]に記載の膨張コンクリート。
[5]前記亜硝酸塩の単位量が0.5~3.6kg/m3である、前記[3]または[4]に記載の膨張コンクリート。
ここで、前記「単位量」とは、膨張コンクリート1m3当たりの、膨張材等の各成分の含有量(kg)を云う。
【発明の効果】
【0010】
本発明のコンクリート用混和剤を含む膨張コンクリートは、凍結融解抵抗性が向上して、膨張コンクリートのスケーリングとひび割れを抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、前記のとおり、特定の粒度分布を有する膨張材、パラフィン、および亜硝酸塩を少なくとも含むコンクリート用混和剤等である。以下、前記コンクリート用混和剤と、該混和剤を含む膨張コンクリートについて詳細に説明する。
【0012】
1.コンクリート用混和剤
(1)膨張材
本発明で用いる膨張材の粒度分布は、粒径が10μm以下の粒子が40~80質量%、10μmを超え100μm以下の粒子が20~60質量%、および100μmを超え150μm以下の粒子が0~6質量%である膨張材である。
前記粒度分布を有する膨張材は、膨張コンクリートの凍結融解抵抗性が向上する。なお、前記膨張材の粒度分布は、100μmを超え150μm以下の粒子が、好ましくは0~5質量%、より好ましくは0~4質量%である。なお、膨張材の粒度分布は、レーザー回折式粒度分布測定装置等を用いて測定できる。
また、本発明で用いる膨張材は、石灰系膨張材およびカルシウムサルホアルミネート系膨張材から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0013】
(2)パラフィン
本発明で用いるパラフィンは、固形パラフィン、流動パラフィン、および塩素化パラフィンから選ばれる1種以上が挙げられる。コンクリートに用いる場合、パラフィンが水に分散したパラフィン分散液が、膨張コンクリートへの添加や、膨張コンクリート中の分散が容易なため好ましい。パラフィン分散液中のパラフィンの含有率は、好ましくは10~50質量%、より好ましくは20~40質量%である。パラフィンの含有率が10質量%未満では、膨張コンクリート中の水量が増加し、50質量%を超えるとパラフィンが沈降しやすい。
流動パラフィン以外のパラフィンの粒径は、凍結融解抵抗性が向上するため、好ましくは2.0μm以下、より好ましくは0.1~1.0μmである。
【0014】
(3)亜硝酸塩
本発明で用いる亜硝酸塩は、亜硝酸カルシウム、亜硝酸リチウム、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸マグネシウム、亜硝酸バリウム、亜硝酸ベリリウム、亜硝酸亜鉛、および亜硝酸ストロンチウムから選ばれる1種以上が挙げられ、これらの中でも、入手の容易さやコストの点から、好ましくは、亜硝酸カルシウム、または亜硝酸リチウムであり、より好ましくは亜硝酸カルシウムである。本発明において亜硝酸塩は、膨張コンクリートへの添加の利便性から、好ましくは水に溶解して用いる。亜硝酸塩水溶液中の亜硝酸塩の含有率は、好ましくは10~50質量%、より好ましくは20~40質量%である。亜硝酸塩の含有率が10質量%未満では、膨張コンクリート中の水量が増加し、50質量%を超えると亜硝酸塩が析出する場合がある。
(4)コンクリート用混和剤の各成分の割合
本発明のコンクリート用混和剤は、好ましくは、前記膨張材、パラフィン、および亜硝酸塩の割合が、膨張材:パラフィン:亜硝酸塩=15~35:0.65~4.5:0.5~3.6(質量比)である。各成分の割合が前記範囲にあれば、膨張コンクリートの凍結融解抵抗性は向上する。なお、前記コンクリート用混和剤の各成分の割合は、より好ましくは、膨張材:パラフィン:亜硝酸塩=20~30:0.9~4.2:0.8~2.5(質量比)であり、さらに好ましくは、膨張材:パラフィン:亜硝酸塩=20~30:1.2~3.0:1.0~2.3(質量比)である。
【0015】
2.膨張コンクリート
(1)膨張コンクリート中の混和剤の各成分の単位量
膨張コンクリート中の膨張材の単位量は、好ましくは15~35kg/m3、より好ましくは20~30kg/m3である。該単位量が15kg/m3未満では、膨張量が少ないため膨張コンクリートの収縮が大きくなるおそれがあり、35kg/m3を超えると膨張コンクリートの凍結融解抵抗性が低下するおそれがある。
また、膨張コンクリート中のパラフィンの単位量は、好ましくは0.65~4.5kg/m3、より好ましくは0.9~4.2kg/m3、さらに好ましくは1.2~3.0kg/m3である。パラフィンの単位量が0.65kg/m3未満では、膨張コンクリートの凍結融解抵抗性の向上効果は不十分であり、4.5kg/m3を超えると該効果は飽和する傾向にある。
また、膨張コンクリート中の亜硝酸塩の単位量は、好ましくは0.5~3.6kg/m3、より好ましくは0.8~2.5kg/m3、さらに好ましくは1.0~2.3 kg/m3である。亜硝酸塩の単位量が0.5kg/m3未満では、膨張コンクリートの凍結融解抵抗性の向上効果は不十分であり、3.6kg/m3を超えると該効果は飽和する傾向にある。
(2)膨張コンクリート中のその他の構成材料
本発明の膨張コンクリートに用いるセメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、エコセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント、および、前記各種セメントに、高炉スラグ粉末、フライアッシュ、珪石粉末、シリカフューム、または石灰石粉末等を混合してなる混合セメントから選ばれる1種以上が挙げられる。
また、該コンクリートに用いる骨材は、通常のコンクリートに用いる骨材が使用でき、例えば、川砂、海砂、砕砂、人工細骨材、スラグ細骨材、再生骨材、珪砂、川砂利、陸砂利、砕石、人工粗骨材、スラグ粗骨材、および再生粗骨材から選ばれる1種以上が挙げられる。
また、該コンクリートに用いる減水剤は、リグニン系減水剤、ナフタレンスルホン酸系減水剤、メラミン系減水剤、ポリカルボン酸系減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、および高性能AE減水剤から選ばれる1種以上が挙げられる。
さらに、該コンクリートに用いる水は、水道水等が使用できる。
なお、これらの材料以外にも、膨張コンクリートの用途に応じて、AE剤、収縮低減剤、凝結遅延剤、硬化促進剤、再乳化粉末樹脂、発泡剤、起泡剤、防水剤、防錆剤、増粘剤、保水剤、顔料、繊維、撥水剤、および白華防止剤等を使用できる。
【0016】
(2)膨張コンクリートの配合
本発明の膨張コンクリートの配合において、
(i)水/(セメント+膨張材)の質量比は、好ましくは0.3~0.6、より好ましくは0.4~0.55である。ただし、本発明では、水/(セメント+膨張材)における水の量とは、混練水と、パラフィン分散液および亜硝酸塩水溶液に含まれる水の合計の量である。
(ii)単位セメント量は、好ましくは200~500kg/m3、より好ましくは300~450kg/m3である。
(iii)細骨材率は、好ましくは30~60%、より好ましくは40~50%である。
(iv)空気量は、好ましくは1~6%、より好ましくは2~5%である。
(v)減水剤の添加率は、セメントと膨張材の合計の質量に対して、好ましくは0.1~2.0%、より好ましくは0.5~1.5%である。
(vi)AE剤の添加率は、セメントと膨張材の合計の質量に対して、好ましくは0.0005~0.05%、より好ましくは0.001~0.02%である。
前記配合からなる膨張コンクリートは、凍結融解抵抗性の向上効果がより高い。
【実施例0017】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.使用材料
(1)膨張材(略号:EX)
表1に示す粒度分布を有する石灰系膨張材(試製品)である。なお、前記膨張材の粒度分布、および下記パラフィンの粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(Sympatec Gmbh社製)を用いて測定した。
(2)パラフィン(略号:PA)
粒径0.25~0.85μmのパラフィン粒子が水に分散したパラフィン分散液で、パラフィンの濃度は30質量%である。
(3)亜硝酸塩(略号:NA)
濃度が30質量%の亜硝酸カルシウム水溶液である。
(4)セメント(略号:C)
普通ポルトランドセメントで、太平洋セメント社製である。
(5)細骨材(略号:S)
山砂で、静岡県掛川産である。
(6)粗骨材(略号:G)
砕石で、茨城県桜川産である。
(7)減水剤(略号:SP)
商品名は「マスターポリヒード15S」で、BASFジャパン社製である。
(8)AE剤(略号:AE)
商品名は「マスターエア202」で、BASFジャパン社製である。
(9)水(略号:W)
上水道水である。
【0018】
【0019】
2.膨張コンクリートの作製
20℃、相対湿度が80%の恒温室内において、容量が0.055m3のパン型ミキサを用いて、前記使用材料を、表2に示す配合に従い混練して膨張コンクリートを作製した。
具体的には、普通ポルトランドセメント、細骨材、粗骨材、および膨張材を前記ミキサに投入して、30秒間空練りした後、さらに、水、パラフィン、亜硝酸塩、減水剤、およびAE剤を投入して、120秒間混練して膨張コンクリートを作製した。
【0020】
【0021】
3.凍結融解抵抗性試験、スケーリング抵抗性試験、拘束膨張試験、および圧縮強度試験
前記作製した膨張コンクリートを用いて、下記(1)~(4)に従い、相対動弾性係数、スケーリング量、拘束収縮ひずみ、および圧縮強度を測定した。
(1)凍結融解性試験は、JIS A 1148「コンクリートの凍結融解試験方法」に準拠して行い、300サイクル後の相対動弾性係数を測定した。
(2)スケーリング抵抗性試験は、ASTM C 672に準拠して行い、50サイクル後のスケーリング量を測定した。
(3)拘束膨張試験は、JIS A 6202「コンクリート用膨張材」に準拠して行い、材齢7日における拘束収縮ひずみを測定した。
(4)圧縮強度試験は、JIS A 1108「コンクリートの圧縮強度試験方法」に準拠して行い、材齢28日における圧縮強度を測定した。
これらの結果を表3に示す。
【0022】
【0023】
4.試験結果の評価
表3に示す試験結果から、以下のことが云える。
(a)相対動弾性係数
300サイクル後の相対動弾性係数は、比較例1、3、7、および8では、80%以下と小さいのに対し、実施例1~12では、80%以上と高く凍結融解抵抗性は良好である。
(b)スケーリング量
50サイクル後のスケーリング量は、比較例1~4、7、および8では、1.5kg/m3以上と多いのに対し、実施例1~12では、1.5kg/m3未満と少ない。
(c)材齢7日の拘束膨張ひずみ
材齢7日の拘束膨張ひずみは、比較例1、3、7、および8では、250×10-6を超え、また比較例5および6では、150×10-6未満であるのに対し、実施例1~12では、150~250×10-6と適正な範囲にある。
(d)材齢28日の圧縮強度
材齢28日の圧縮強度は、比較例1、2、4、7、および8では、40.0N/mm2未満と低いのに対し、実施例1~12では、42.5~44.9と高い。
以上述べたように、本発明の膨張コンクリートは、相対動弾性係数は80%以上、スケーリング量が1.5kg/m3未満と、耐凍害性に優れ、材齢7日の膨張ひずみが150~250×10-6と適正な範囲にあり、圧縮強度発現性も良好である。