(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022079933
(43)【公開日】2022-05-27
(54)【発明の名称】室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物および電気・電子機器
(51)【国際特許分類】
C08L 83/06 20060101AFI20220520BHJP
C08L 83/14 20060101ALI20220520BHJP
C08K 5/541 20060101ALI20220520BHJP
C08K 5/56 20060101ALI20220520BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20220520BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20220520BHJP
【FI】
C08L83/06
C08L83/14
C08K5/541
C08K5/56
C09D183/04
C09D7/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020190812
(22)【出願日】2020-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000221111
【氏名又は名称】モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 和久
(72)【発明者】
【氏名】飯田 勲
【テーマコード(参考)】
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
4J002CP032
4J002CP051
4J002CP191
4J002EU178
4J002EV308
4J002EX016
4J002EX036
4J002EX070
4J002EZ007
4J002FD048
4J002FD147
4J002FD208
4J002GH00
4J038DL031
4J038JC38
4J038KA04
4J038KA05
4J038KA12
4J038NA03
4J038PA18
4J038PB09
(57)【要約】 (修正有)
【課題】添加剤の含有量を従来よりも増やすことを可能とし、その添加剤により付与される機能を高めることができるとともに、安定して硬化被膜を形成できる室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を提供する。
【解決手段】(A)所定の両末端がアルコキシシリル基で封鎖されたポリオリガノシロキサン100質量部に対し、(B)(B1)R4
bSi(OR5)4-bで表されるシラン化合物(式中、bは0または1を示す)またはその部分加水分解縮合物、および(B2)R6
2Si(OR7)2で表されるシラン化合物またはその部分加水分解縮合物、を含有するシラン混合物0.1~40質量部と、(C)有機チタン化合物0.1~15質量部と、(D)添加剤0.0001~10質量部と、を含有する室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)次の一般式(1)で表される、両末端がアルコキシシリル基で封鎖されたポリオリガノシロキサン
【化1】
(式中、R
1は、アルキル基、またはアルキル基の水素原子の一部がアルコキシ基で置換されたアルコキシ置換アルキル基、R
2およびR
3は、非置換の一価の炭化水素基、または水素原子の一部がハロゲン原子もしくはシアノアルキル基で置換された一価の炭化水素基、Xは二価の酸素(オキシ基)または二価の炭化水素基である。また、aは0または1であり、nは23℃における粘度が5~10,000mPa・sの範囲となる数である。) 100質量部に対し、
(B)(B1)次の一般式(2)で表されるシラン化合物
R
4
bSi(OR
5)
4-b …(2)
(ただし、式中、R
4は1価の置換または非置換の炭化水素基、R
5は炭素数1~4のアルキル基および炭素数合計1~6のアルコキシアルキル基からなる群より選ばれた1価の基、bは0または1を示す)またはその部分加水分解縮合物、および(B2)次の一般式(3)で表されるシラン化合物
R
6
2Si(OR
7)
2 …(3)
(ただし、式中、R
6は1価の置換または非置換の炭化水素基、R
7は炭素数1~4のアルキル基および炭素数合計1~6のアルコキシアルキル基からなる群より選ばれた1価の基を示す)またはその部分加水分解縮合物、を含有するシラン混合物 0.1~40質量部と、
(C)硬化触媒として有機チタン化合物 0.1~15質量部と、
(D)添加剤 0.0001~10質量部と、
を含有することを特徴とする室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項2】
前記(D)添加剤が、UV発光剤または防錆剤である請求項1に記載の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項3】
前記(B1)成分と前記(B2)成分との配合量は、その質量比が、1:99~80:20の範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項4】
前記(A)成分の23℃における粘度が5~5,000mPa・sである請求項1~3のいずれか1項に記載の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項5】
前記(A)成分は、(A1)23℃における粘度が5~200mPa・sのポリオルガノシロキサンと(A2)23℃における粘度が 500~100,000mPa・sのポリオルガノシロキサンとを含有し、前記(A1)成分を50~100質量%含有することを特徴とする請求項4に記載の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項6】
電気・電子機器の電極および/または配線のコーティング用組成物であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項7】
電極および/または配線の表面に、請求項1乃至6のいずれか1項記載の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物の硬化物からなる被膜を有することを特徴とする電気・電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物と電気・電子機器に係り、特に、所定の特性を付与するための添加剤の溶解性を高め、その含有量を高めることができ、電気・電子機器用コーティング材等として有用な室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物および該室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物の硬化被膜を有する電気・電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、室温で硬化してゴム状等の硬化物を生じる種々の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物が知られている。それらのうちで、電気・電子部品のコーティング材やポッティング材等の用途には、空気中の水分と接触することにより硬化反応を生起するタイプのもので、硬化時に金属類に対する腐食の小さいアルコールやアセトン等を放出するものが、作業性が良好であるうえ、電極や配線の腐食のおそれが少なく、また接着性等にも優れることから、一般に用いられている。
【0003】
特に、電気・電子部品やそれらを搭載した回路基板の表面を使用環境から保護するために施されるコンフォーマルコーティング剤としては、低粘度の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物からなるコーティング材(例えば、特許文献1、2参照。)や、シリコーンレジンを溶剤に溶解させたタイプのコーティング材が使用されている。
【0004】
ところで、このような低粘度の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物からなるコーティング材として、シリコーンレジンを含む溶剤タイプのコーティング材においては、硬化時に加熱による溶剤の除去を必要とし、溶剤の揮発により、作業環境の悪化や、電気・電子部品およびそれらを搭載した回路基板の腐食や劣化を引き起こすおそれがあった。さらに、作業環境を改善するために、溶剤を大気中に放出せずに回収しようとすると、高額の投資を必要とした。
【0005】
このような問題を解決するために、低粘度、無溶剤で塗布性が良好な硬化被膜を形成する室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物も知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
さらに、このような室温硬化性ポリシロキサン組成物において、防錆性や耐紫外線性等の付加的な機能を付与するために、各種添加剤を含有させることも行われている。
しかしながら、このような添加剤は、多量に配合すると、組成物中で均一に混合できずに、固体の添加剤においては析出や結晶化、液体の添加剤においては2相化するなど、その含有量を増やすことが難しい場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7-173435号公報
【特許文献2】特開平7-238259号公報
【特許文献3】国際公開第2014/017397号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記のような問題を解決するためになされたもので、添加剤の含有量を従来よりも増やすことを可能とし、その添加剤により付与される機能を高めることができるとともに、安定して硬化被膜を形成できる室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、(A)次の一般式(1)で表される、両末端がアルコキシシリル基で封鎖されたポリオリガノシロキサン
【0010】
【化1】
(式中、R
1は、アルキル基、またはアルキル基の水素原子の一部がアルコキシ基で置換されたアルコキシ置換アルキル基、R
2およびR
3は、非置換の一価の炭化水素基、もしくは水素原子の一部がハロゲン原子またはシアノアルキル基で置換された一価の炭化水素基、Xは二価の酸素(オキシ基)または二価の炭化水素基である。また、aは0または1であり、nは23℃における粘度が5~10,000mPa・sの範囲となる数である。) 100質量部に対し、(B)(B1)次の一般式(2)で表されるシラン化合物
R
4
bSi(OR
5)
4-b …(2)
(ただし、式中、R
4は1価の置換または非置換の炭化水素基、R
5は炭素数1~4のアルキル基および炭素数合計1~6のアルコキシアルキル基からなる群より選ばれた1価の基、bは0または1を示す)またはその部分加水分解縮合物、および(B2)次の一般式(3)で表されるシラン化合物
R
6
2Si(OR
7)
2 …(3)
(ただし、式中、R
6は1価の置換または非置換の炭化水素基、R
7は炭素数1~4のアルキル基および炭素数合計1~6のアルコキシアルキル基からなる群より選ばれた1価の基を示す)またはその部分加水分解縮合物、を含有するシラン混合物 合計0.1~40質量部と、(C)硬化触媒として有機チタン化合物 0.1~15質量部と、(D)添加剤 0.0001~10質量部と、を含有することを特徴とする。
【0011】
本発明の電気・電子機器は、電極および/または配線の表面に、上記本発明の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物の硬化物からなる被膜を有することを特徴とする。
【0012】
なお、本明細書において、「アルコキシシリル基」は、ケイ素原子に少なくとも1個のアルコキシ基が結合された基をいう。また、本明細書において、「ジアルコキシシリル基」を、2官能性基あるいは2官能のシリル基ともいう。同様に、「トリアルコキシシリル基」を、3官能性基あるいは3官能のシリル基ともいう。
【発明の効果】
【0013】
本発明の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、添加剤の含有量を従来よりも増やすことを可能とし、その添加剤により付与される機能を高めることができるとともに、安定して硬化被膜を形成できる。また、この室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物によれば、好ましくは、しわ等の形成を抑制し、硬化被膜の表面を平滑なものとすることもできる。
したがって、この室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、電気・電子機器のコーティング材、ポッティング材等の用途に有用であり、特に、コンフォーマルコーティング剤のような、電気・電子部品をコーティングする用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の電気・電子機器の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態である、室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物および電気・電子機器について説明する。
本実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、次の一般式(1)で表される、両末端がアルコキシシリル基で封鎖されたポリオリガノシロキサン
【0016】
【化2】
(式中、R
1は、アルキル基、またはアルキル基の水素原子の一部がアルコキシ基で置換されたアルコキシ置換アルキル基、R
2およびR
3は、非置換の一価の炭化水素基、または水素原子の一部がハロゲン原子もしくはシアノアルキル基で置換された一価の炭化水素基、Xは二価の酸素(オキシ基)または二価の炭化水素基である。また、aは0または1であり、nは23℃における粘度が5~10,000mPa・sの範囲となる数である。) 100質量部に対し、(B)(B1)次の一般式(2)で表されるシラン化合物
R
4
bSi(OR
5)
4-b …(2)
(ただし、式中、R
4は1価の置換または非置換の炭化水素基、R
5は炭素数1~4のアルキル基および炭素数合計1~6のアルコキシアルキル基からなる群より選ばれた1価の基、bは0または1を示す)またはその部分加水分解縮合物、および(B2)次の一般式(3)で表されるシラン化合物
R
6
2Si(OR
7)
2 …(3)
(ただし、式中、R
6は1価の置換または非置換の炭化水素基、R
7は炭素数1~4のアルキル基および炭素数合計1~6のアルコキシアルキル基からなる群より選ばれた1価の基を示す)またはその部分加水分解縮合物の合計0.1~40質量部と、(C)硬化触媒として有機チタン化合物 0.1~15質量部と、(D)添加剤 0.0001~10質量部と、を含有することを特徴とする。以下、各成分について説明する。
【0017】
本実施形態において、(A)成分であるポリオルガノシロキサンは、本組成物のベースポリマーとなるものであり、所定の両末端アルコキシシリル基封鎖ポリオリガノシロキサンである。
【0018】
この(A)成分である両末端アルコキシシリル基封鎖ポリオリガノシロキサンは、例えば、次の一般式(1)で表される実質的に直鎖状のポリオルガノシロキサンである。
【0019】
【0020】
式(1)中、R1は、アルキル基、またはアルキル基の水素原子の一部がアルコキシ基で置換されたアルコキシ置換アルキル基である。複数のR1は、互いに同一であっても異なっていてもよい。上記R1のアルキル基として具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が例示され、アルコキシ置換アルキル基として具体的には、2-メトキシエチル基、2-エトキシエチル基、3-メトキシプロピル基等が例示される。R1は好ましくはメチル基である。
【0021】
R2は、非置換の一価の炭化水素基、または水素原子の一部がハロゲン原子もしくはシアノアルキル基で置換された一価の炭化水素基である。複数のR2は、互いに同一であっても異なっていてもよい。R3も、非置換の一価の炭化水素基、または水素原子の一部がハロゲン原子もしくはシアノアルキル基で置換された一価の炭化水素基である。複数のR3は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0022】
上記R2およびR3の非置換の一価の炭化水素基として具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基のようなアルケニル基、フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;ベンジル基、2-フェニルエチル基、2-フェニルプロピル基等のアラルキル基等が挙げられる。
【0023】
上記R2およびR3の置換された一価の炭化水素基としては、上記一価の炭化水素基の水素原子の一部がハロゲン原子で置換された、例えばクロロメチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基のようなハロゲン化アルキル基や、上記一価の炭化水素基の水素原子の一部がシアノアルキル基で置換された、例えば3-シアノプロピル基等が例示される。合成が容易で、分子量の割に低い粘度を有し、かつ硬化物(硬化被膜)に良好な物理的性質を与えることから、R2およびR3はメチル基であることが好ましい。ただし、硬化被膜に耐熱性や耐寒性を付与する必要がある場合には、R2および/またはR3の一部を、フェニル基のようなアリール基とすることが好ましい。
【0024】
また、Xは、二価の酸素(オキシ基)または二価の炭化水素基である。2個のXは同一であっても異なっていてもよい。二価炭化水素としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基等のアルキレン基、フェニレン基等のアリーレン基が例示される。合成の容易さから、二価の酸素原子(オキシ基)またはエチレン基が好ましく、特にオキシ基が好ましい。
【0025】
式(1)中、aは0または1であり、nは23℃における粘度が5~10,000mPa・sの範囲となる数であり、例えば、1≦n≦200の整数が挙げられる。nの値が200以上であると、組成物中において(A)成分が分離してしまうおそれがある。より好ましいnの値は1~100の整数であり、粘度は5~5,000mPaである。
【0026】
(A)成分である両末端アルコキシシリル基封鎖ポリオリガノシロキサンは、例えば、オクタメチルシロキサンのような環状ジオルガノシロキサン低量体を、水の存在下に酸性触媒またはアルカリ性触媒によって開環重合または開環共重合させることにより得られる両末端水酸基含有ジオリガノポリシロキサンに、メチルトリメトキシシラン等を反応させ、両末端水酸基をメトキシ基等で封鎖することにより得ることができる。
【0027】
この(A)成分の23℃における粘度は、5~10,000mPa・sが好ましく、5~5,000mPaがより好ましい。(A)成分として、2種以上のポリオルガノシロキサンを混合する場合には、混合した後の粘度が上記範囲を満たすようにすることが好ましい。なお、本明細書において、特に説明がない限り、粘度は、23℃において、JIS K6249に拠って測定した値で、例えば、回転粘度計(芝浦セムテック株式会社製、製品名:ビスメトロンVDA-2)を使用し、回転速度30rpmおよび60rpm、回転子No.2で測定した粘度を意味する。
【0028】
上記一般式(1)について、2種以上のポリオルガノシロキサンを混合する場合、例えば、(A1)23℃における粘度が5~200mPa・sのポリオルガノシロキサンと(A2)23℃における粘度が500~100,000mPa・sのポリオルガノシロキサンとを混合するものが好ましい場合として例示でき、このとき、(A)成分中に、(A1)23℃における粘度が5~200mPa・sのポリオルガノシロキサンを50~100質量%含有することが好ましく、60~100質量%含有することがより好ましく、70~100質量%含有することがさらに好ましい。
【0029】
この(A)成分に対し、作業性、流動性を鑑みて低粘度の非反応性シロキサン、例えば、末端トリアルキルシリル基ポリシロキサン、等を、必要に応じて配合しても構わない。
【0030】
本実施形態において、(B)成分は、(A)成分のポリオルガノシロキサンを架橋する作用を有する架橋剤成分である。この(B)成分としては、後述する(B1)成分と(B2)成分を併用するシラン混合物である点に特徴を有する。
【0031】
本実施形態において、(B1)成分は、次の一般式(2)で表されるシラン化合物、またはその部分加水分解縮合物である。
R4
bSi(OR5)4-b ……(2)
式(2)中、R4は非置換の一価の炭化水素基、または水素原子の一部がハロゲン原子もしくはシアノアルキル基で置換された一価の炭化水素基であり、上記した(A)成分のR2と同様の基が例示され、メチル基であることが好ましい。また、R5は、アルキル基またはアルコキシ置換アルキル基であり、上記した(A)成分のR1と同様の基が例示され、メチル基であることが好ましい。
さらに、bは0または1であり、bの平均値は0~1.0である。bの平均値は、好ましくは0.5~1.0である。
【0032】
なお、bの値は、式(2)で表されるシラン化合物において、ケイ素原子に結合したR4の数(整数)を表す。そして、この数bの平均値が0~1.0であるとは、R4の結合数であるbの値が0または1である1種または2種以上のシラン化合物が、各シラン化合物のモル比が調整されることで、bの値の平均値が0~1.0となるように配合されていることを意味する。
【0033】
例えば、bの平均値が0.8~1.0の範囲では、式(2)におけるbが0である化合物:Si(OR5)4と、bが1である化合物:R4Si(OR5)3とが配合されており、この2種のシラン化合物の混合物における、bが1である化合物:R4Si(OR5)3の配合割合(モル比)が、bの平均値に相当する。
【0034】
このように、(B1)成分であるシラン化合物は、一般式(2)におけるbの値が0であるテトラアルコキシシラン、およびbの値が1であるオルガノトリアルコキシシランの1種または2種以上を含み、これらの含有割合(モル比)を調整することで、上記したbの平均値を0.8~1.0の範囲としたものである。
【0035】
このような(B1)成分のうちで、シラン化合物としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラキス(エトキシエトキシ)シラン、メチルトリス(メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリス(メトキシエトキシ)シラン等が例示される。これらのシラン化合物またはその部分加水分解縮合物は、1種を単独で使用してもよく2種以上を混合して使用してもよい。
【0036】
合成が容易で、組成物の保存安定性を損なうことがなく、金属類に対する腐食性が少ないこと、かつ大きな架橋反応速度すなわち硬化速度が得られることから、架橋剤である(B1)成分としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシランを用いることが好ましく、特にメチルトリメトキシシランの使用が好ましい。
【0037】
(B1)成分がシラン化合物の部分加水分解縮合物である場合、例えば、メチルトリメトキシシラン等を水の存在化、酸性触媒またはアルカリ性触媒によって部分加水分解することにより得られる。また、部分加水分解で生じたシラノール基を、メチルトリメトキシシラン等でエンキャップすることにより得られる。
【0038】
(B1)成分のシラン化合物またはその部分加水分解縮合物の1分子中のSi数は、1以上10未満が好ましい。すなわち、(B1)成分であるシラン化合物は、1分子中に1個のSi原子を有し、その部分加水分解縮合物は、1分子中に2~9個のSi原子を有することが好ましい。
【0039】
(B1)成分であるシラン化合物またはその部分加水分解縮合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0040】
本実施形態において、(B2)成分は、次の一般式(3)で表されるシラン化合物、またはその部分加水分解縮合物である。
R6
2Si(OR7)2 ……(3)
式(3)中、R6は非置換の一価の炭化水素基、または水素原子の一部がハロゲン原子もしくはシアノアルキル基で置換された一価の炭化水素基であり、上記した(B1)成分のR4および(A)成分のR2と同様の基が例示され、メチル基、ビニル基等が好ましい。また、R7は、アルキル基またはアルコキシ置換アルキル基であり、上記した(B1)成分のR5および(A)成分のR1と同様の基が例示され、メチル基、エチル基等が好ましい。
【0041】
(B2)成分のシラン化合物またはその部分加水分解縮合物の1分子中のSi数は、1以上10未満が好ましい。すなわち、(B2)成分であるシラン化合物は、1分子中に1個のSi原子を有し、その部分加水分解縮合物は、1分子中に2~9個のSi原子を有することが好ましい。
【0042】
このような(B2)成分のうちで、シラン化合物としては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン等が例示される。これらのシラン化合物またはその部分加水分解縮合物は、1種を単独で使用してもよく2種以上を混合して使用してもよい。
【0043】
合成が容易で、組成物の保存安定性を損なうことがなく、金属類に対する腐食性が少ないこと、かつ大きな架橋反応速度すなわち硬化速度が得られることから、架橋剤である(B2)成分としては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルビニルジメトキシシランを用いることが好ましく、特にジメチルジメトキシシラン、メチルビニルジメトキシシランの使用が好ましい。
【0044】
本実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物のベースポリマーは(A)両末端アルコキシシリル基封鎖ポリオリガノシロキサンを含有し、この(A)成分を(B1)および(B2)のシラン化合物またはその部分加水分解縮合物である(B)成分で架橋する。(A)成分100質量部に対して、(B1)成分と(B2)成分の合計は0.1~40質量部が好ましく、より好ましくは0.5~30質量部である。(B1)成分と(B2)成分の合計量が0.1質量部以上とすることで、架橋を十分に行うことができ、十分な強度の硬化物(硬化被膜)が得られるうえ、組成物の保存安定性が良好となる。反対に、(B1)成分と(B2)成分の合計が40質量部以下であると、硬化の際の収縮率が大きくなりすぎることなく、硬化後の物性を維持できる。また、硬化速度が遅くなりすぎることも抑制し、経済的な不利も生じにくい。
【0045】
なお、(B)成分中において、(B1)成分と(B2)成分との配合割合は、質量比で、1:99~90:10が好ましく、10:90~80:20がより好ましく、20:80以上50:50未満がさらに好ましい。このような配合割合とすることで、後述する(D)成分の含有量を従来よりも高めることができる。
【0046】
本実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物において、(C)成分である有機チタン化合物は、(A)成分のアルコキシ基と(B)成分である架橋剤のアルコキシ基とを、水分の存在下に反応させて架橋構造を形成させるための硬化触媒である。
【0047】
(C)硬化触媒である有機チタン化合物としては、テトラエトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、ジイソプロポキシ-ビス(アセト酢酸エチル)チタン、ジイソプロポキシ-ビス(アセト酢酸メチル)チタン、ジイソプロポキシ-ビス(アセチルアセトン)チタン、ジブトキシ-ビス(アセト酢酸エチル)チタン、ジメトキシ-ビス(アセト酢酸エチル)チタン等を挙げることができる。これらの有機チタン化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。微量の存在で大きな触媒能を持ち、かつ不純物の少ない組成物が得られることから、これらのなかでも特に、ジイソプロポキシ-ビス(アセト酢酸エチル)チタン等のチタンキレート類が好ましい。
【0048】
なお、室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物においては、ベース成分のアルコキシ基同士の反応や、ベース成分のアルコキシ基と架橋剤のアルコキシ基との反応を促進するための硬化触媒として、ジブチルスズジオクトエートやジブチルスズジラウレートのような有機スズ化合物が使用されることがあるが、上記(A)成分および(B)成分とともに硬化触媒として有機スズ化合物を使用した場合には、硬化に時間がかかり過ぎ好ましくない。本実施形態においては、組成物の硬化性(硬化の速さ)から、上記有機チタン化合物が使用される。
【0049】
(C)成分である有機チタン化合物の配合量は、上記(A)成分の100質量部に対して0.1~15質量部、好ましくは0.1~10質量部である。0.1質量部以上とすることで、硬化触媒として十分に機能でき、硬化に長い時間がかかることを抑制し、特に空気との接触面から遠い深部における硬化も十分となる。また、15質量部以下とすることで、その配合量に見合う効果を得ることができ、経済的にも有利である。また、保存安定性も良好に維持できる。
【0050】
本実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物において、(D)成分である添加剤は、上記(A)~(C)成分を含有するポリオルガノシロキサン組成物において、その硬化物に所定の特性を付与するために配合される成分である。
【0051】
この(D)成分の添加剤としては、この種の組成物に所定の特性を付与するために配合されるものであればよく、例えば、生産ライン上組成物の塗布が確認できるような顔料、染料、紫外線により発光等視認性を可能せしめるものや大気中に浮遊する腐食性物質、例えば硫黄化合物、窒素化合物や塩水等による基板配線の腐食を引き起こす物質に対応するためのものが挙げられる。
【0052】
このような添加剤としては、例えば、電極や配線等の腐食を防止するための腐食防止剤、紫外線やその他電子線により発光、呈色する発光剤、発色剤等が挙げられる。近年このような特殊機能の要求が高まり、かつその要求性能も高くなってきている。たとえば、紫外線発光剤(UV発光材)などは、ライン製造のスピード化および省人力化(自動検出化)の流れから、より発光の度合いが強く求められる。また、腐食防止剤などは、使用環境の劣悪化やその寿命の観点からより、長期間維持することが求められ、従来以上の特性、高寿命が望まれている。そのため、従来のような添加量ではその要求を満たせない。よって、これらの要求に耐えうる新規材料の開発もさることながら、従来材料の増量添加が必要となってきている。
【0053】
腐食防止剤や紫外線発光剤(UV発光材)としては、ベンゾトリアゾール類、ベンゾオキサゾール類、やそれらの誘導体等が挙げられ、特に、ベンゾトリアゾール類が好ましい。
ベンゾトリアゾール類としては、具体的には、1,2,3-ベンゾトリアゾール、メチル-1H-ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、ナトリウムベンゾトリアゾール、ナトリウムトリルトリアゾール、ベンゾトリアゾールブチルエステル、ナフトトリアゾール(1H-ナフト[2,3-d]トリアゾール)、クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-アミノフェニル)ベンゾトリアゾール、6-(2-ベンゾトリアゾリル)-4-tert-オクチル-6’-tert-ブチル-4’-メチル-2,2’-メチレンビスフェノール、5-カルボキシベンゾトリアゾール、4-メチル-2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール等が例示できる。これらは1種を単独で使用してもよく2種以上を混合して使用してもよい。なかでも、1,2,3-ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、メチル-1H-ベンゾトリアゾールが好ましい。
【0054】
ベンゾオキサゾール類としては、具体的には、ベンゾオキサゾール、5-アミノ-2-(m-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、2-メチルベンゾオキサゾール、2-メルカプトベンゾオキサゾール、2,2’-p-フェニルビス(5-アミノベンゾオキサゾール)、2,6-(4,4’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:4,5-d’]ビスオキサゾール等が例示できる。これらは1種を単独で使用してもよく2種以上を混合して使用してもよい。なかでも、ベンゾオキサゾールが好ましい。
【0055】
UV発光剤(蛍光増白剤)としては、具体的には、ベンゾオキザゾリルチオフェン誘導体(2,5-チオフェンジイルビス(5-tert-ブチル-1,3-ベンゾオキサゾール(商品名:Tinopal OB; 粉状))、ジスチリル・ビフェニル誘導体(4,4’-ビス(2-スルホスチリル)ビフェニル 2ナトリウム塩(商品名:Tinopal NFW;液状)、ビス(トリアジニルアミノ)スチルベンジスルホン酸誘導体(商品名:Tinopal AMS-GX;顆粒)、ジスチリルビフェニル誘導体(商品名:Tinopal CBS-X;顆粒、Tinopal CBS-CL、CBS-SP Slurry33;液状)、ビス(トリアジニルアミノ)スチルベンジスルホン酸誘導体(商品名:Tinopal DMA-X、DMA-X Conc.;顆粒)、クマリン誘導体(商品名:Tinopal SWN Conc.;非粉剤)(以上、BASF社製の市販品)等が挙げられる。
【0056】
その中でも、比較的分子量が小さく、溶解性に優れる2,5-チオフェンジイルビス(5-tert-ブチル-1,3-ベンゾオキサゾール(商品名:Tinopal OB; 粉状))、ジスチリルビフェニル誘導体であるTinopal CBS-CL、CBS-SP Slurry33;液状)が好ましく、(A)成分との相溶性および発光性能の観点から、2,5-チオフェンジイルビス(5-tert-ブチル-1,3-ベンゾオキサゾールが好ましい。
【0057】
この(D)成分の添加剤は、固形状でも液状でも用いることができるが、比較的固体のものが一般的であり、このような固形状の場合、粉砕、すりつぶす等により微細化することで溶解を促進でき、好ましい。また、その溶解性向上および(A)成分との相溶性のためにも、本願(B)の配合が必要である。
【0058】
この(D)添加剤の配合量は、(A)成分100質量部に対して 0.0001~10質量部が好ましく、0.001~5質量部がより好ましい。従来、溶解、分散が困難であった配合量であっても、本実施形態によれば、均一に溶解、分散を行ことができる。
【0059】
この配合量について、さらに詳細に言えば、(D)添加剤が固体状である場合、(A)成分100質量部に対して 0.001~5質量部が好ましく、0.01~2質量部がより好ましい。(D)添加剤が液体状である場合、(A)成分100質量部に対して0.001~10質量部が好ましく、0.01~5質量部がより好ましい。
【0060】
本実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、上記した(A)~(D)成分を必須成分とするが、本発明の効果を阻害しない範囲で、その他の成分を含有させることもできる。
【0061】
このような他の成分として、例えば、(E)接着性付与剤として、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノアルキルアルコキシシラン類、3-トリメトキシシリル-N-(1,3-ジメチルブチリデン)-1-プロパンアミンの部分加水分解物、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチルブチリデン)-1-プロパンアミンの部分加水分解物等のケチミノアルキルアルコキシシラン類、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルジメトキシシラン等のメルカプトアルキルアルコキシシラン類、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシアルキルアルコキシシラン類、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリメキシシラン等のイソシアネートアルキルアルコキシシラン類、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のウレイドアルキルアルコキシシラン類、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等の(メタ)アクリロキシアルキルアルコキシシラン類が挙げられる。また、トリス(N-トリアルコキシシリルプロピル)イソシアヌレートのようなイソシアヌレート化合物を使用することもできる。イソシアヌレート化合物としては、例えば、1,3,5-トリス(N-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート等が挙げられる。
また、これらの中でも、ケチミノアルキルアルコキシシラン類、エポキシアルキルアルコキシシラン類、メルカプトアルキルアルコキシシラン類、ウレイドアルキルアルコキシシラン類、(メタ)アクリロキシアルコキシシラン類、1,3,5-トリス(N-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートから選択されるものであることが好ましい。
【0062】
組成物への相溶性の観点から、(E)成分である接着性付与剤の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.01~5質量部とすることが好ましい。0.01質量部未満では接着性を向上させる効果が少なく、またその発現が遅い。5質量部を超えて配合すると、保存中の分離や硬化物の収縮が生じるばかりでなく、保存安定性と作業性が悪くなり、また黄変現象が生じるおそれがある。この配合量は、0.1~2質量部の範囲がより好ましい。
【0063】
また、本実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物には、この種の組成物に通常配合されている無機充填剤、顔料、チクソトロピー性付与剤、押出作業性を改良するための粘度調整剤、紫外線吸収剤、防かび剤、耐熱性向上剤、難燃剤等の各種添加剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて配合することができる。無機充填剤の例としては、煙霧質シリカ、焼成シリカ、沈澱シリカ、煙霧質チタンおよびこれらの表面をオルガノクロロシラン類、ポリオルガノシロキサン類、ヘキサメチルジシラザン等で疎水化したもの等が挙げられる。その他、炭酸カルシウム、有機酸表面処理炭酸カルシウム、けいそう土、粉砕シリカ、アルミノケイ酸塩、マグネシア、アルミナ等も使用可能である。無機充填剤の配合量は、(A)成分100質量部に対して1~100質量部が好ましく、3~50質量部がより好ましい。
【0064】
本実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、上記(A)~(D)成分および必要に応じて配合される各種成分を、湿気を遮断した状態で混合することにより得られる。そして、このような室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、密閉容器中でそのまま保存し、使用時に空気中の水分に曝すことによってはじめて硬化する、いわゆる1包装型室温硬化性組成物として使用することができる。また、本実施形態の組成物を、例えば架橋剤と硬化触媒を別に分けて調製し、適宜2~3個の別々の容器に分けて保存し、使用時にこれらを混合する、いわゆる多包装型室温硬化性組成物として使用することもできる。なお、各成分の混合の順序は特に限定されるものではない。
【0065】
また、本実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、23℃で5~1,000mPa・sの粘度を有することが好ましく、この粘度は5~500mPa・sが好ましく、5~100mPa・sがより好ましい。23℃で5~1,000mPa・sの粘度を有することで、塗布性が良好であり、通常のコーティング方法により(D)成分の添加剤を均一に分散、溶解した塗布膜を得ることができる。塗布膜は、空気中の水分と接触することにより室温で速やかに硬化する。硬化被膜中の(D)添加剤も均一に分散しているため、特性の安定した硬化被膜が得られる。
【0066】
また、この室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を硬化させて得られる硬化被膜は、その表面にしわがなく、均一なものが好ましい。表面にしわなどを生じて硬化皮膜が均一でないと皮膜自体の耐久性および塗布対象部材への保護効果が損なわれる懸念がある。しわが生じる要因のひとつとして、ミクロ的に表面とその内部の硬化性の違い、硬度の差が考えらえる。(B1)成分に加えて(B2)成分を配合することにより、表面の硬化性の調整が可能であり、硬化途上における表面の硬度を抑える効果があることを本発明者らは見出した。使用上、必要に応じて表面の硬化性のバランスを鑑みて、(B1)、(B2)の配合量と比率を調整することが可能である。
【0067】
また、塗布対象部材の視認性のためにはその硬化物の透明性が高いものが好ましい。このような透明性を高めるために、(B1)、(B2)成分と(A)成分との相溶性を良好にするための一つとして屈折率をより近いものに合わせることが好ましい。屈折率がかけ離れると白濁(白色)したりして透明性が損なわれるおそれがある。
【0068】
例えば、透明性の高いものとしては、(A)成分のR3がアルキル基、一般的にはメチル基であるポリジメチルシロキサンの場合には、(B1),(B2)成分のR4、R6はアルキル基、例えばメチル基、が好ましく、(A)成分のR3の一部がフェニル基のようなアリール基の場合には、(A)成分の屈折率が高くなることより、(B1)および(B2)成分にもフェニル基のようなアリール基を含み同じような屈折率のものを用いることが好ましい。また、(A)成分が低屈折率であるR3がフルオロアルキル基を含有するような場合も同様に(B1)、(B2)成分としてフルオロアルキル基を含む屈折率が近いものを用いることが好ましい。この場合の屈折率とは、ナトリウムD線に対するものであり、測定には、一般的なアッベ屈折計が用いられるが、限定されるものではなく、同一条件であれば目安として用いることが可能である。たとえば、株式会社アタゴ製:NAR-1T LIQUIDなどで測定可能である。
【0069】
このとき、(A)成分、(B1)成分および(B2)成分の各成分の屈折率の差を、それぞれ0.10以下とすることが好ましく、この屈折率差は0.08以下がより好ましく、0.06以下がさらに好ましく、0.04以下が特に好ましい。
【0070】
したがって、本実施形態の組成物は、電気・電子機器のコーティング材、ポッティング材等の用途に有用であり、特にコンフォーマルコーティング剤のような、電気・電子部品やこれらを搭載した回路基板の表面を保護する用途に好適する。具体的には、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂等からなる基板やアルミナ等のセラミックからなる基板上に、ITO、銅、アルミニウム、銀、金等からなる電極および配線を形成した配線基板上に、IC等の半導体装置、抵抗体、コンデンサ等の電子部品を搭載した電気・電子機器において、電極や配線等のコーティング材として好適に使用される。
【0071】
本実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を配線基板の電極や配線のコーティング材として使用する場合、塗布方法としては、ディップ法、刷毛塗り法、スプレー法、ディスペンス法等を用いることができ、塗布層の厚さは、通常0.01~3mm、好ましくは0.05~2mmである。
【0072】
次に、本実施形態の電気・電子機器について図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る電気・電子機器(装置)の一例を示す断面図である。
【0073】
本実施形態の電気・電子機器1は、ガラスエポキシ基板のような絶縁基板2aの上に、銅箔のような導電体からなる配線2bが形成された配線基板2を備えている。そして、このような配線基板2の一方の主面の所定の位置に、ICパッケージ3やコンデンサ4のような電気・電子部品が搭載され、上記配線2bと電気的に接続されている。なお、ICパッケージ3やコンデンサ4と配線2bとの接続は、これらの部品のリード端子3a、4aが配線基板2の部品孔(図示を省略する。)に挿入され、はんだ等を介して接合されることで行われている。
【0074】
また、配線基板2の部品搭載面には、上記した本実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物の硬化物からなる硬化被膜5が、ICパッケージ3およびコンデンサ4の上面を覆うように形成されている。
【0075】
このような実施形態の電気・電子機器1においては、配線基板2およびその主面に搭載された電気・電子部品が、添加剤が均一に混合、分散された硬化被膜5で覆われているので、安定性、信頼性が高い。また、添加剤の含有量を従来より増やしても混合、分散を安定して行うことができ、付与する機能を高めることができる。
【実施例0076】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらの実施例は発明の範囲を限定するものではない。なお、実施例中、「部」とあるのはいずれも「質量部」を表し、粘度は全て23℃、相対湿度50%での値を示す。
【0077】
(実施例1)
(A1)分子鎖両末端がトリメトキシシリル基で封鎖されたポリジメチルシロキサン(粘度590mPa・s) 22.5部、(A2)分子鎖両末端がトリメトキシシリル基で封鎖されたポリジメチルシロキサン(粘度80mPa・s) 52.5部、(A’1)ポリジメチルシロキサン(粘度20mPa・s) 11.0部に、(B1-1)トリメチルトリメトキシシラン 7.5部、(B2-1)ジメチルジメトキシシラン 4.0部、(C1)ジイソプロポキシ-ビス(アセト酢酸エチル)チタン 2.25部、(D1)2,5-チオフェンジイルビス(5-t-ブチル-1,3-ベンゾオキサゾール) 0.01部、(D2)1,2,3-ベンゾトリアゾール 0.2部、および(E1)1,3,5-トリス(N-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート 0.15部をそれぞれ配合し、湿気遮断下で均一に混合してポリオルガノシロキサン組成物1を得た。
【0078】
(実施例2)
(B2-1)ジメチルジメトキシシランの代わりに、(B2-3)メチルビニルジメトキシシランを用いた以外は、実施例1と同様の操作で、ポリオルガノシロキサン組成物2を得た。
【0079】
(実施例3)
(A1)分子鎖両末端がトリメトキシシリル基で封鎖されたポリジメチルシロキサン(粘度590mPa・s)の配合量を18.5部、(A3)ポリジメチルシロキサンの配合量を15.0部、(D2)1,2,3-ベンゾトリアゾールの配合量を0.3部、とした以外は、実施例1と同様の操作で、ポリオルガノシロキサン組成物3を得た。
【0080】
(実施例4)
(A1)分子鎖両末端がトリメトキシシリル基で封鎖されたポリジメチルシロキサン(粘度590mPa・s)の配合量を11.0部、(B2-1)ジメチルジメトキシシランの配合量を11.5部とした以外は、実施例3と同様の操作で、ポリオルガノシロキサン組成物4を得た。
【0081】
(実施例5)
(B2-1)ジメチルジメトキシシランの代わりに、(B2-3)メチルビニルジメトキシシランを用いた以外は、実施例4と同様の操作で、ポリオルガノシロキサン組成物5を得た。
【0082】
(実施例6)
(B2-1)ジメチルジメトキシシランの代わりに、(B2-4)ジフェニルジメトキシシランを用いた以外は、実施例4と同様の操作で、ポリオルガノシロキサン組成物6を得た。
【0083】
(実施例7)
(B2-1)ジメチルジメトキシシランの代わりに、(B2-5)メチルフェニルジメトキシシランを用いた以外は、実施例4と同様の操作で、ポリオルガノシロキサン組成物7を得た。
【0084】
(実施例8)
(B2-1)ジメチルジメトキシシランの代わりに、(B2-2)ジメチルジエトキシシランを用いた以外は、実施例4と同様の操作で、ポリオルガノシロキサン組成物8を得た。
【0085】
(実施例9)
(B1-1)ジメチルジメトキシシランの配合量を5.5に、(B2-3)メチルビニルジメトキシシランの配合量を6.0にした以外は、実施例2と同様の操作で、ポリオルガノシロキサン組成物9を得た。
【0086】
(実施例10)
(B1-1)ジメチルジメトキシシランの配合量を4.0に、(B2-3)メチルビニルジメトキシシランの配合量を7.5にした以外は、実施例2と同様の操作で、ポリオルガノシロキサン組成物10を得た。
【0087】
(実施例11)
(B1-1)ジメチルジメトキシシランの配合量を5.5に、(B2-1)ジメチルジメトキシシランの配合量を6.0にした以外は、実施例3と同様の操作で、ポリオルガノシロキサン組成物11を得た。
【0088】
(実施例12)
(B2-1)ジメチルジメトキシシランの代わりに、(B2-3)メチルビニルジメトキシシランを用いた以外は、実施例11と同様の操作で、ポリオルガノシロキサン組成物12を得た。
【0089】
(実施例13)
(B2-3)メチルビニルジメトキシシランの配合量を7.5とした以外は、実施例12と同様の操作で、ポリオルガノシロキサン組成物13を得た。
【0090】
(比較例1)
(A1)分子鎖両末端がトリメトキシシリル基で封鎖されたポリジメチルシロキサン(粘度590mPa・s) 22.5部、(A2)分子鎖両末端がトリメトキシシリル基で封鎖されたポリジメチルシロキサン(粘度80mPa・s) 52.5部、(A3)ポリジメチルシロキサン(粘度20mPa・s) 15.0部に、(B1)トリメチルトリメトキシシラン 7.5部、(C1)ジイソプロポキシ-ビス(アセト酢酸エチル)チタン 2.25部、(D1)2,5-チオフェンジイルビス(5-t-ブチル-1,3-ベンゾオキサゾール) 0.01部、(D2)1,2,3-ベンゾトリアゾール 0.1部、および(E1)1,3,5-トリス(N-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート 0.15部をそれぞれ配合し、湿気遮断下で均一に混合してポリオルガノシロキサン組成物C1を得た。
【0091】
(比較例2)
(D2)1,2,3-ベンゾトリアゾールの配合量を0.2部とした以外は、比較例1と同様の操作で、ポリオルガノシロキサン組成物C2を得た。
【0092】
(比較例3)
(D2)1,2,3-ベンゾトリアゾールの配合量を0.3部とした以外は、比較例1と同様の操作で、ポリオルガノシロキサン組成物C3を得た。
【0093】
(比較例4)
(A3)ポリジメチルシロキサン(粘度20mPa・s)の配合量を11.0部、(B1)トリメチルトリメトキシシランの配合量を11.5部とした以外は、比較例2と同様の操作で、ポリオルガノシロキサン組成物C4を得た。
【0094】
(比較例5)
(D2)1,2,3-ベンゾトリアゾールの配合量を0.3部とした以外は、比較例4と同様の操作で、ポリオルガノシロキサン組成物C5を得た。
【0095】
(比較例6)
(A2)分子鎖両末端がトリメトキシシリル基で封鎖されたポリジメチルシロキサン(粘度80mPa・s)の配合量を18.5部、(B1)メチルトリメトキシシランの配合量を11.5部、とした以外は、比較例3と同様の操作で、ポリオルガノシロキサン組成物C6を得た。
【0096】
(比較例7)
(B1)トリメチルトリメトキシシランの配合量を11.5部とした以外は、比較例2と同様の操作で、ポリオルガノシロキサン組成物C7を得た。
【0097】
(比較例8)
(D2)1,2,3-ベンゾトリアゾールの配合量を0.3部とした以外は、比較例7と同様の操作で、ポリオルガノシロキサン組成物C8を得た。
【0098】
なお、上記実施例、比較例で用いた(A)成分と(B)成分の材料の屈折率は、それぞれ、(A1)成分:1.402、(A2)成分:1.399であり、(B1)成分:1.37、(B2-1)成分:1.37、(B2-2)成分:1.38、(B2-3)成分:1.40、(B2-4)成分:1.55、(B2-5)成分:1.48であった。(A)成分に対して、(B1)成分や(B2-1)~(B2-3)成分は、その差が0.3以内と近いものである一方、(B2-4)成分と(B2-5)成分は、屈折率差が比較的大きい関係となっていた。ここで、屈折率は、ナトリウムD線に対し、アッベ屈折計(株式会社アタゴ製、商品名:NAR-1T LIQUID)を用いて測定した。
【0099】
実施例1~13および比較例1~8で得られたポリオルガノシロキサン組成物について、下記に示す方法で各種特性を測定し評価した。これらの結果を組成とともに、実施例1~13については表1~2に、比較例1~8については表3にそれぞれ示す。
【0100】
[外観]
上記ポリオルガノシロキサン組成物の外観を、調製してから、(1)直後に室温で、(2)5℃で3日冷却後、(3)5℃で3日冷却し、室温で3日放置後、において目視で観察し、組成物中に成分が均一に混合されているかどうかを以下の基準で評価した。
<評価基準>
OK:組成物中に、(D)添加剤が均一に分散、溶解していた(若干の半透明も含む)。
半透明:組成物中に、(D)添加剤が不均一に分散、溶解または屈折率の差が大きいため、半透明となっていた。
沈殿:沈殿物が確認できた。
NG:未溶解物の存在、再析出物が確認できた。
【0101】
[粘度]
上記ポリオルガノシロキサン組成物の粘度を、JIS K6249に拠って次のように測定した。回転粘度計(芝浦セムテック株式会社製、製品名:ビスメトロンVDA-2)を使用し、回転速度30rpmおよび60rpm、回転子No.2で粘度の測定を行った。
【0102】
[硬化表面]
ポリオルガノシロキサン組成物を厚さ1mmおよび2mmのシート状に成形した後、23℃、50%RHで3日間放置して硬化させ、その硬化表面を目視で観察し、以下に示す基準により評価した。
<評価基準>
平滑:硬化表面の全体が平滑であった。
波状:しわではないが、厚みが不均一。
わずかにしわ状:硬化表面の一部にしわが確認できた。
しわ状:硬化表面の全体にしわが確認できた。
ひどくしわ状:硬化表面の全体にしわが確認でき、さらに、うねりが大きかった。
なお、実施例6,7では、(A)成分と(B)成分との屈折率差が比較的大きく白濁が見られたが、それ以外の例では透明で内部視認性が良好であった。
【0103】
[タックフリータイム]
上記ポリオルガノシロキサン組成物のタックフリータイムを、JIS K6249に拠って次のように測定した。試料を、泡が入らないようにアルミシャーレに平らに入れた(試料の厚みは3mm)後、エチルアルコールで洗浄した指先で表面に軽く触れ、試料が指先に付着しなくなる時間を測定し、タックフリータイムとした。
さらに、硬化性の安定性評価のため、上記ポリオルガノシロキサン組成物を湿気を遮断できる密閉容器に封入後、70℃で5日処理後、上記と同様にタックフリータイムを測定した。
【0104】
[硬度]
上記ポリオルガノシロキサン組成物の硬度を、JIS K6249に拠り、以下に示すようにして測定した。ポリオルガノシロキサン組成物を厚さ2mmのシート状に成形した後、23℃、50%RHで3日間放置して硬化させた。次いで、得られた硬化シートを3枚重ね、デュロメータ(Type A)により硬度を測定した。
【0105】
[腐食性試験]
上記ポリオルガノシロキサン組成物を実装基板に100μm厚みで塗布、23℃、50%RHにて3日間で硬化を行い、腐食性ガスに硫化水素(H2S)50ppm濃度、85℃、85%RH雰囲気下の条件に1000時間および2000時間放置したのちに、基板上の銅部分の変色度合いおよび腐食部分の成長を確認し、以下に示す基準により評価した。
(腐食度合い評価)
〇:ほとんど腐食が見られない
△~〇:銅箔上には変色は見受けられないが、銅箔端部に腐食成長物が微量見られる
△:銅箔上に軽微な変色が見られる
×:銅箔上に顕著な変色が見られる
なお、(D2)1,2,3-ベンゾトリアゾールを配合していないものは、1000時間にて顕著な変色を確認できた。
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
表1~2から、実施例1~13で得られたポリオルガノシロキサン組成物は、均一で薄膜塗布に適した粘度を有しているうえに、添加剤を均一に溶解、分散でき、硬化表面が平滑な硬化被膜を形成しやすいことがわかった。また、添加剤として腐食防止剤を安定して多量に配合でき、それにより優れた耐腐食性を有する硬化被膜が得られた。
【0110】
それに対して、表3からわかるように、(B2)成分を含有しない場合、例2、例3、例5、例6、例8のように添加剤の配合量が少し増えただけで沈殿等が生じてしまい、これに対応して例4や例7のように(B1)成分の架橋剤の配合量を増やすと、外観は改善するものの硬化被膜の表面にしわが形成されやすくなってしまうことがわかった。
本発明の室温硬化性ポリオルガノシロキサンは、電気・電子機器のコーティング材、ポッティング材等の用途に有用であり、特に、基板上に電子部品等が搭載された電気・電子機器におけるコンフォーマルコーティング剤として好適する。