(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022079962
(43)【公開日】2022-05-27
(54)【発明の名称】水田水位調節装置
(51)【国際特許分類】
A01G 25/00 20060101AFI20220520BHJP
【FI】
A01G25/00 501A
A01G25/00 501F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020190867
(22)【出願日】2020-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】517114311
【氏名又は名称】兼子 健男
(71)【出願人】
【識別番号】517114322
【氏名又は名称】木村 憲行
(71)【出願人】
【識別番号】517114023
【氏名又は名称】坂田 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】兼子 健男
(57)【要約】
【課題】広大な水田に適応でき、シンプル構造を備えてコンパクト化及び低廉化でき、運搬性や設置性、操作性を向上して作業負担を軽減でき、個々の圃場条件に適合した水量調節作業を誰でも簡単且つ正確に行うことができる水田水位調節装置を提供する。
【解決手段】貯水コンテナと、貯水コンテナの一側壁を貫通する吐水パイプと、吐水パイプの吐水口に設けられた水量調節弁体と、を備え、貯水コンテナは、下流側の他側壁に開口形成された入水口と、入水口の開口縁部の近傍に設けられた流量計と、により同他側壁を堰板壁に構成し、水量調節弁体は、吐水パイプの筒軸と同軸上に配設した螺杆に設けられ、吐水口に離間・近接することで吐水口を開閉可能にすると共に水路からの吐水量を調節可能に構成し、水路から圃場への入水量を調節して水田の水管理を行うようにした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水路と圃場との間に設置され、一定量の水を貯溜するための貯水コンテナと、
前記貯水コンテナの上流側の一側壁を貫通すると共に前記貯水コンテナ内に吐水口を配置して設けられ、水路からの水を吐出するための吐水パイプと、
前記吐水パイプの前記吐水口に対向して設けられ、水路からの吐水量を調節するための水量調節弁体と、を備え、
前記貯水コンテナは、
下流側の他側壁に開口形成され、前記貯水コンテナ内の水を圃場へ入水するための入水口と、前記入水口の開口縁部の近傍に設けられ、前記入水口から圃場への入水量を計測するための流量計と、により前記他側壁を堰板壁に構成し、
前記水量調節弁体は、
前記吐水パイプの筒軸と同軸上に配設した螺杆に設けられ、前記吐水口に離間・近接することで前記吐水口を開閉可能にすると共に前記水路からの吐水量を調節可能に構成し、
水路から圃場へ引き入れる入水量を調節して水田の水管理を行うようにしたことを特徴とする水田水位調節装置。
【請求項2】
前記吐水口の上方位置には、前記吐水口よりも下流側に突出して前記吐水口から吐出される水の流勢を減衰する減勢板を付設したことを特徴とする請求項1に記載の水田水位調節装置。
【請求項3】
前記水量調節弁体は、円錐駒体に形成され、円錐の頂点部分を前記吐水口に対向して配置すると共に円錐軸を前記螺杆と同軸上に配置し、円錐のテーパー周側面部で前記吐水口の内縁部に離反当接することにより前記吐水口を開閉可能に構成したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の水田水位調節装置。
【請求項4】
前記螺杆は、前記貯水コンテナの底側壁から立設した杆支持体により前記吐水パイプの筒軸と同軸上に配置すると共に螺進退可能に下方支持され、前記水量調節弁体は、前記螺杆の下流側端部に一体的に固定したことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の水田水位調節装置。
【請求項5】
前記貯水コンテナの内部空間は、仕切板により、前記吐水口からの吐水の流勢を減衰すると共に前記水路からの汚泥や藻などの異物を留置させる上流側の減勢貯水領域と、前記減勢貯水領域からの貯水の波面を鎮静化して略水平面にする下流側の水面静置貯水領域と、に区画すると共に、前記減勢貯水領域と前記水面静置貯水領域とは互いに下部で連通していることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の水田水位調節装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水田水位調節装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、農家では、稲やイグサなどの湛水作物が植栽された水田において、例えば湛水作物の吸水作用や日照・湿度・風などによる蒸発散や水田浸透で減水したり降水により増水したりするなどして日々変化する水田水位を、水路から圃場へ用水を給水又は止水して湛水作物の生育に適した一定の適性水位に維持する水管理を行っている。
【0003】
かかる水管理の水田水位調節装置として、水路から圃場へ用水を引き入れる際の入水口の近傍に設置され、水田水位の水位変動を検知する水位センサと、同水位センサからの信号に応じて水路と圃場とを連絡する入水口を開閉作動する堰板と、により、圃場への給水を自動制御したもの(例えば、特許文献1参照。)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の技術では、圃場面積が比較的広大で且つ均平が悪い水田には適応できない可能性があった。
【0006】
一般的に、自然密圧等の影響を受けて均平度を低くした広大な水田において、入水口近傍の水田水位は適正水位に維持されていても、水路の入水口から離れた圃場の中心部や排水口近傍の水田水位は入水口から排水口に至るまでに前述の蒸発散や水田浸透を受けて実際には所望とする適性水位よりも低くなり、圃場全体の水田水位は不均一となる傾向にある。
【0007】
したがって、圃場の入水口近傍に水位センサを設置した場合には、センサによる検出水位は圃場の入水口近傍部の水田水位となるため、同水位を基準に入水量を調節すると圃場の中心部や排水口近傍の水田水位を適性水位に維持できない問題が生じ得る。
【0008】
これに対応すべく、圃場の中央部や排水口近傍に水位センサを設置した場合には、同センサにより検出された水位変動の信号を入水口に設置した堰板まで確実に伝達するための信号伝達手段が必須となる。
【0009】
すなわち、従来の水田水位調節装置を広大な水田に適応させようとすれば、装置構造を徒に複雑化且つ大型化させるだけでなく、後継者不足で高齢化が加速する農家にとっては操作性を困難なものとしていた。
【0010】
さらには、複雑化且つ大型化した装置の運搬や圃場へ設置などの作業負担だけでなく、センサ等の精密電子部品のメンテナンスを頻繁に行う必要があり、コスト面で不利となる恐れがある。
【0011】
ところで、農家では、農産物の収量や商品価値を不用意に損なわせることのないように、湛水作物に病害虫による病害や害鳥獣による食害が発生してないか等、生育にとって最も重要な灌漑期における湛水作物の成育状況管理をほぼ毎日行っている。
【0012】
すなわち、水田の水管理は、前述の成育状況管理と同時に農家の日常的な圃場見廻りの一環として行われるものであり、寧ろ、農家にとってみれば農作物を大量且つ良好な状態で収穫するために日々成熟変化する湛水作物の生育ステージに合わせて「活着、分げつ、中干し、落水」といった各種管理をこまめに行うことは然程負担となっていないのが実情である。
【0013】
特に、水田の適正水位は湛水作物の生育ステージのみのならず、圃場の広さや均平度、水田水位の不均一性、季節、天候など個々の圃場に特有の各種圃場条件に応じて変化するため、水管理における適性水位への入水調節は、上記従来の装置のように水位センサで画一的に適性水位を決定して簡単にできるものではなく、各種圃場条件に応じて農家の長年の経験則に基づいた感覚的な目分量でなさるものである。
【0014】
換言すれば、実際の現場レベルでは、自己の長年の経験により得られた各種圃場条件に適合する適性水位への感覚的入水量を客観的に視覚数値化して入水基準量とし、同入水基準量を基準にして年度ごとに微妙に異なる圃場条件に適合した適性水位とする実際の入水量を目視で確認しながら入水量の微調節が簡単に行える水田水位調節装置が望まれていたのである。
【0015】
これに対し、市販されている三角堰や四角堰などの規格化された堰(以下、単に規格堰と称する。)を利用して水路からの越流量を計測することにより、水路から圃場への入水基準量の算出基準化、及び実際の入水量の確認が行えるとも思える。
【0016】
しかしながら、規格堰は、日本産業規格(JIS B8302)により寸法が厳密に定められており、同規格化された寸法でなければ規格流量式(JIS K0094)を使用できず越流量を算出できないように設計され、さらには上流側から下流側へかけて流圧を静圧して流水面を鎮静化して略水平面状態にするための十分な長い距離を確保する必要があり必然的に大型化する。
【0017】
翻って、農家では、湛水作物が植栽された作付面積を不用意に減じることなくコンパクト化され、持ち運びでき、低コストで簡単に設置できる水田水位調節装置であることも望まれており、したがって、前述の規格堰は現場レベルの要望を踏襲したものでなく水田水位調節作業に転用できるものではなかった。
【0018】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであって、広大な水田に適応でき、シンプル構造を備えてコンパクト化及び低廉化でき、運搬性や設置性、操作性を向上して作業負担を軽減でき、個々の圃場条件に適合した水量調節作業を誰でも簡単且つ正確に行うことができる水田水位調節装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記従来の課題を解決するために、本発明に係る水田水位調節装置は、(1)水路と圃場との間に設置され、一定量の水を貯溜するための貯水コンテナと、前記貯水コンテナの上流側の一側壁を貫通すると共に前記貯水コンテナ内に吐水口を配置して設けられ、水路からの水を吐出するための吐水パイプと、前記吐水パイプの前記吐水口に対向して設けられ、水路からの吐水量を調節するための水量調節弁体と、を備え、前記貯水コンテナは、下流側の他側壁に開口形成され、前記貯水コンテナ内の水を圃場へ入水するための入水口と、前記入水口の開口縁部の近傍に設けられ、前記入水口から圃場への入水量を計測するための流量計と、により前記他側壁を堰板壁に構成し、前記水量調節弁体は、前記吐水パイプの筒軸と同軸上に配設した螺杆に設けられ、前記吐水口に離間・近接することで前記吐水口を開閉可能にすると共に前記水路からの吐水量を調節可能に構成し、水路から圃場へ引き入れる入水量を調節して水田の水管理を行うようにしたことに特徴を有する。
【0020】
また、本発明に係る水田水位調節装置は、以下(2)~(4)の点で特徴を有する。
(2)前記吐水口の上方位置には、前記吐水口よりも下流側に突出して前記吐水口から吐出される水の流勢を減衰する減勢板を付設したこと。
(3)前記水量調節弁体は、円錐駒体に形成され、円錐の頂点部分を前記吐水口に対向して配置すると共に円錐軸を前記螺杆と同軸上に配置し、円錐のテーパー周側面部で前記吐水口の内縁部に離反当接することにより前記吐水口を開閉可能に構成したこと。
(4)前記螺杆は、前記貯水コンテナの底側壁から立設した杆支持体により前記吐水パイプの筒軸と同軸上に配置すると共に螺進退可能に下方支持され、前記水量調節弁体は、前記螺杆の下流側端部に一体的に固定したこと。
(5)前記貯水コンテナの内部空間は、仕切板により、前記吐水口からの吐水の流勢を減衰すると共に前記水路からの汚泥や藻などの異物を留置させる上流側の減勢貯水領域と、前記減勢貯水領域からの貯水の波面を鎮静化して略水平面にする下流側の水面静置貯水領域と、に区画すると共に、前記減勢貯水領域と前記水面静置貯水領域とは互いに下部で連通していること。
【発明の効果】
【0021】
請求項1の発明によれば、水路と圃場との間に設置され、一定量の水を貯溜するための貯水コンテナと、前記貯水コンテナの上流側の一側壁を貫通すると共に前記貯水コンテナ内に吐水口を配置して設けられ、水路からの水を吐出するための吐水パイプと、前記吐水パイプの前記吐水口に対向して設けられ、水路からの吐水量を調節するための水量調節弁体と、を備え、前記貯水コンテナは、下流側の他側壁に開口形成され、前記貯水コンテナ内の水を圃場へ入水するための入水口と、前記入水口の開口縁部の近傍に設けられ、前記入水口から圃場への入水量を計測するための流量計と、により前記他側壁を堰板壁に構成したため、シンプル構造でコンパクト化且つ軽量化でき、圃場の作付面積を不用意に奪うことなく水路と圃場との間に簡単に設置でき、装置に要する費用を低減化することができ、個々の圃場条件に適合した水量調節作業を誰でも簡単且つ正確に行って水田水位を適正水位に維持できる効果がある。
【0022】
すなわち、湛水作物の生育ステージにおいて、圃場湛水が必要な灌漑時期には圃場へ運搬して水路と圃場の間に容易に介設する運搬設置作業を誰でも簡単に行うことができると共に設置後は入水調節操作を容易にして水管理の作業負担を軽減することができ、圃場湛水が不要な時期には取り外し回収して納屋等に収納して保管することができる効果がある。
【0023】
また、前記水量調節弁体は、前記吐水パイプの筒軸と同軸上に配設した螺杆に設けられ、前記吐水口に離間・近接することで前記吐水口を開閉可能にすると共に前記水路からの吐水量を調節可能に構成したため、吐水口から噴射吐出される吐水の流勢を流量調節弁に突き当て可及的減衰し、コンテナ内の貯水面を波面状態から略水平面状態に可及的速やかに鎮静化することができ、コンテナ容積を小さくして装置をコンパクト化することができる。
【0024】
すなわち、水量調節弁体を螺杆を介して吐水口に離反移動又は近接移動させて吐水口と水量調節弁体との間の隙間を広げたり搾ったりすることにより、吐水口の開口度を微調節して、水路からコンテナ内への吐水量を微調整することができる。
【0025】
すなわち、貯水コンテナ内の貯水が堰板壁の入水口からオーバーフローする際の単位時間あたりの越流量を流量計により計測して、これまで自己の感覚的な目分量で行ってきた農家個々の圃場条件に適合した適性水位を維持する入水量を入水基準量として算出し、予め記録しておいた同入水基準量を目安に実際の入水量を目視で確認しながら圃場条件に適合した入止水の微調整を行うことができる。したがって、個々の圃場の適正水位を保持する圃場への入水量を維持することが容易となり、比較的広大な水田であっても湛水作物に適した水生育環境をコントロールできる効果がある。
【0026】
また、請求項2に係る発明によれば、前記吐水口の上方位置には、前記吐水口よりも下流側に突出して前記吐水口から吐出される水の流勢を減衰する減勢板を付設したため、吐水口からの吐水流入に伴って水量調節弁体に突き当たった水流が貯水コンテナ外へ不用意に飛散することを防止すると共に貯水を可及的速やかに鎮静化することができる。
【0027】
したがって、流量計による入水量の計測精度を向上させることができ、さらに貯水コンテナを減容化して装置をよりコンパクト化することができる効果がある。
【0028】
また、請求項3に係る発明によれば、前記水量調節弁体は、円錐駒体に形成され、円錐の頂点部分を前記吐水口に対向して配置すると共に円錐軸を前記螺杆と同軸上に配置し、円錐のテーパー周側面部で前記吐水口の内縁部に離反当接することにより前記吐水口を開閉可能に構成したため、吐水口からの吐水方向を水量調節弁体によりテーパー周側面に沿うように一定方向に吐出噴射させる吐出方向コントロールを行うことができる。
【0029】
したがって、貯水コンテナ内の貯水中において、吐水を水量調節弁体の円錐軸を中心に下流側へ放射状に均一分散させて吐水の流勢の減衰を容易に行うことができる。
【0030】
具体的には、水量調節弁体は円錐の頂点部分を吐水口に対向して配置しているため、吐水パイプ内を流れてきた吐水は水量調節弁体の円錐頂部に最初に突き当たることとなる。
【0031】
水量調節弁体の円錐頂部に突き当たった吐水は、水量調節弁体のテーパー周面部と吐水口の内縁部との間の隙間部分でベンチュリー効果により最小圧(負圧)にすると共に流速を速め、コアンダ効果により強制的にテーパー周側面に沿って放射拡開方向へ誘導されて流水方向を整然化する。
【0032】
しかも、水量調節弁体は円錐軸を螺杆と同軸上、すなわち吐水パイプの筒軸と同軸上に配置しているために、水量調節弁体の周廻りにおける吐水の流水量は均一化される。
【0033】
このように吐出方向がコントロールされ周廻りで流量を均一化された吐水が水量調節弁体のテーパー周側面でコンテナ内の貯水中に一気に拡散解放されることにより、コンテナ内の貯水が吐水に対する抵抗力を均一化した状態で吐水を受け止めて吐水と一体化して貯水面が荒波立つことを可及的防止することができる。
【0034】
その結果、吐水パイプの直径を縮径して装置をさらにコンパクト化することができ、また、堰板壁において流量計による入水口からの越流量計測をより精密に行うことができ、水路から圃場への入水量をより正確に把握しつつ微調節可能な水田水位調節を行うことができる効果がある。
【0035】
また、灌漑期に水路に発生する藻や汚泥などの異物が水路から吐水パイプに侵入しても、同異物を吐水口や流量調節弁に係合させることなく上述のベンチュリー効果によりコンテナ内へスムーズに排出することができ、吐水口を不用意に閉塞することを防止することができる効果がある。
【0036】
また、前記螺杆は、前記貯水コンテナの底側壁から立設した杆支持体により前記吐水パイプの筒軸と同軸上に配置すると共に螺進退可能に下方支持され、前記水量調節弁体は、前記螺杆の下流側端部に一体的に固定したため、螺杆が水量調節弁体と一体的に螺進退移動して吐水口に離間・近接することとなり、螺杆が吐水口からの流水を妨害することなく水路から流水と共に不用意に流入してくる藻や汚泥などの異物を引掛けて堆積させ、同堆積異物で吐水パイプを不用意に閉塞してしまうことを防止できる。
【0037】
また、請求項5に係る発明によれば、前記貯水コンテナの内部空間は、仕切板により、前記吐水口からの吐水の流勢を減衰すると共に前記水路からの汚泥や藻などの異物を留置させる上流側の減勢貯水領域と、前記減勢貯水領域からの貯水の波面を鎮静化して略水平面にする下流側の水面静置貯水領域と、に区画したため、吐水パイプからの吐水の流勢を減勢貯水領域と水面静置貯水領域とにより段階的に減衰させると共に異物による堰板壁の入水口の目詰まりを防止でき、より正確な堰板壁による越流量計測を行うことができる。
【0038】
すなわち、減勢貯水領域によりコンテナ内に吐出される吐水の激流を受け止めて流勢を減衰させる共に同吐水を貯水し、水面静置貯水領域により減勢貯水領域流勢で減衰された貯水を受け取って水面を鎮静化することができる。
【0039】
また、水路からの異物が吐出パイプを介してコンテナ内部に侵入しても、同異物を水面静置貯水領域に移行させることなく減勢貯水領域内に留置させて、入水口の不用意な閉塞を防止することができる。
【0040】
さらに、前記減勢貯水領域と前記水面静置貯水領域とは互いに下部で連通しているため、減勢貯水領域の貯水を連通部分を介して下部から湧き出すように水面静置貯水領域へ給水移行させることができ、貯水面を可及的鎮静化された水平面に保持した状態で、水位を徐々に上昇させて水平静置貯水部に貯水することができる。
【0041】
その結果、堰板壁において流量計による入水口からの越流量計測を精密に行うと共に水路から圃場への入水量をより正確に把握しつつ微調節可能な水田水位調節を行うことができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】実施例1に係る水田水位調節装置の構成を示す前方斜視図である。
【
図2】実施例1に係る水田水位調節装置の設置状態を示す模式図である。
【
図3】実施例1に係る水田水位調節装置の構成を示す後方斜視図である。
【
図4】実施例1に係る水田水位調節装置の構成を示す模式的側断面図である。
【
図5】実施例2に係る水田水位調節装置の構成を示す前方斜視図である。
【
図6】実施例2に係る水田水位調節装置の構成を示す後方斜視図である。
【
図7】実施例2に係る水田水位調節装置の構成を示す模式的側断面図である。
【
図8】本発明に係る水田水位計及び排水量計の構成を示す斜視図である。
【
図9】実施例1に係る水田水位調節装置の水位流量関係表である。
【
図10】実施例1に係る水田水位調節装置の水位流量関係表である。
【
図11】実施例2に係る水田水位調節装置の水位流量関係表である。
【
図12】実施例2に係る水田水位調節装置の水位流量関係表である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明の要旨は、水路と圃場との間に設置され、一定量の水を貯溜するための貯水コンテナと、前記貯水コンテナの上流側の一側壁を貫通すると共に前記貯水コンテナ内に吐水口を配置して設けられ、水路からの水を吐出するための吐水パイプと、前記吐水パイプの前記吐水口に対向して設けられ、水路からの吐水量を調節するための水量調節弁体と、を備え、前記貯水コンテナは、下流側の他側壁に開口形成され、前記貯水コンテナ内の水を圃場へ入水するための入水口と、前記入水口の開口縁部の近傍に設けられ、前記入水口から圃場への入水量を計測するための流量計と、により前記他側壁を堰板壁に構成し、前記水量調節弁体は、前記吐水パイプの筒軸と同軸上に配設した螺杆に設けられ、前記吐水口に離間・近接することで前記吐水口を開閉可能にすると共に前記水路からの吐水量を調節可能に構成し、水路から圃場へ引き入れる入水量を調節して水田の水管理を行うようにしたことを特徴とする水田水位調節装置を提供することにある。
【0044】
また、前記吐水口の上方位置には、前記吐水口よりも下流側に突出して前記吐水口から吐出される水の流勢を減衰する減勢板を付設したことに特徴を有する。
【0045】
また、前記水量調節弁体は、円錐駒体に形成され、円錐の頂点部分を前記吐水口に対向して配置すると共に円錐軸を前記螺杆と同軸上に配置し、円錐のテーパー周側面部で前記吐水口の内縁部に離反当接することにより前記吐水口を開閉可能に構成したことに特徴を有する。
【0046】
また、前記螺杆は、前記貯水コンテナの底側壁から立設した杆支持体により前記吐水パイプの筒軸と同軸上に配置すると共に螺進退可能に下方支持され、前記水量調節弁体は、前記螺杆の下流側端部に一体的に固定したことに特徴を有する。
【0047】
また、前記貯水コンテナの内部空間は、仕切板により、前記吐水口からの吐水の流勢を減衰すると共に前記水路からの汚泥や藻などの異物を留置させる上流側の減勢貯水領域と、前記減勢貯水領域からの貯水の波面を鎮静化して略水平面にする下流側の水面静置貯水領域と、に区画すると共に、前記減勢貯水領域と前記水面静置貯水領域とは互いに下部で連通していることに特徴を有する。
【0048】
以下、本発明に係る水田水位調節装置について、図面を参照をしながら具体的に説明する。
図1は本装置の構成を示す前方斜視図、
図2は本装置の水田への設置状態を示す模式図、
図3は本装置の構成を示す後方斜視図、
図4は本装置の構成を示す模式的側断面図、
図8は本装置の水田水位計及び排水量計の構成を示す斜視図である。なお、以下の説明において、水路と圃場との間を基準に、水路側を「上流側」「後側」と称し、圃場側を「下流側」「前側」と称する。
【0049】
[1.水田水位調節装置の概要]
本発明に係る水田水位調節装置A1は、
図1に示すように概略的には、一定量の水を貯溜するための貯水コンテナ10と、貯水コンテナ10の上流側の一側壁12を貫通すると共に貯水コンテナ内に吐水口21を配置して設けられ、水路からの水を吐出するための吐水パイプ20と、吐水パイプ20の吐水口21に設けられ、水路からの吐水量を調節するための水量調節弁体30と、を備えて調節装置本体A10を構成している。
【0050】
特に調節装置本体A10において、貯水コンテナ10は、
図1及び
図3に示すように、下流側の他側壁(前側壁11)に開口形成され、貯水コンテナ10内の水を圃場へ入水するための入水口51と、入水口51の開口縁部の近傍に設けられ、入水口51から圃場への入水量を計測するための流量計52と、により、下流側の他側壁を堰板壁50に構成している。
【0051】
かかる構成の本装置A1(調節装置本体A10)は、
図2に示すように、灌漑期等、水路から圃場へ入水すべき時期に必要に応じて農作業者により納屋等の収納から取り出して圃場まで運びだされ、水路Wから水田の圃場Fに用水を引き入れる用水パイプ100に吐水パイプ20を介して連通接続して水路と圃場との間に設置され、水路から圃場への入水量を計測しながら入水調節するように使用する。
【0052】
すなわち、農作業者は、まず、貯水コンテナ10内の貯水が堰板壁50の入水口51からオーバーフローする際の単位時間あたりの越流量を流量計により計測して、これまで自己の感覚的な目分量で行ってきた農家個々の圃場条件に適合した適性水位を実現する入水量を入水基準量として算出し、同入水基準量を視覚数値化する。
【0053】
そして、視覚数値化した入水基準量を目安に、実際の入水量を目視で確認しながら圃場条件に適合した入止水の微調整を行う。
【0054】
すなわち、農作業者は、「活着、分げつ、中干し、落水」の各灌漑時期のそれぞれについて、自己の各種圃場条件に適合する適性水位を実現する入水基準量を予め記録しておき、同記録された入水基準量を目安に水管理における各種灌漑時期の適正水位に適合する実際の圃場への入水量を確認しながら入止水の微調整をし、水田を適正水位に保持せんとするものである。
【0055】
本装置A1が設置可能な水田は、約30a~40a(3反~4反程度)で区画された標準的圃場は勿論、約10a~20a(1反~2反程度)で区画された比較的面積の狭い圃場や、約50a~1ha(5反~10反程度)以上で区画された比較的広い面積の圃場であってもよい。
【0056】
特に、本装置A1は、軽量化且つコンパクト化されているにも関わらず、水田水位を個々の圃場条件を加味した適性水位に適合した入水量調節ができる点で、圃場面積が比較的大きい広大な水田に適応できるものである。
【0057】
また、本装置A1は、前述の調節装置本体A10とそれぞれ別体に構成され、水田水位を計測するための水田水位計70と、圃場からの排出量を計測するための排水量計80とを備えている。
【0058】
水田水位計70は水路と排水路との間の圃場に設置し、排水量計80は圃場と排水路との間に設置している。すなわち、それまで農作業者の経験則に依存して行われてきた各種灌漑時期における水管理において、
図2に示すように、水田水位計70により水田の適正水位を、また、排水量計80により圃場から排水路への単位時間あたりの排水量を、それぞれ視覚数値化して的確に把握することができる。
【0059】
したがって、視覚数値化された適性水位と排水量と実際の入水量とを相対的に比較することで、より精度の高い入水基準量を算出すると共に実際の圃場への入水量の微調節を精密に行うことができる。
【0060】
なお、本装置A1が適応される水田において、圃場面積が広域である場合や複数入水口や排水口がある場合には、それぞれの場所に対応する調節装置本体A10や水田水位計70、排水量計80を複数設置することができるのは勿論である。
【0061】
また、本装置A1における排水量計80は調節装置本体A10で構成することもできる。すなわち、圃場と水路とを連通する排水パイプの排出口に調節装置本体A10を接続することにより、貯水コンテナ10内に圃場からの排水を貯溜し、同貯溜水の入水口51からの越流量を排水量として換算することができる。
【0062】
ここで、一般的に、稲などの湛水作物の収量は、圃場条件として乾田と湿田とで大きく変化することが知られている。
【0063】
湿田とは、圃場が常時湛水に満たされた状態にある水田のことである。湿田は、酸素供給が少ない、稲の根の発育を悪化させて根の分岐が少ない、有害物質が流されない、積み肥の分解性が悪く有機物が蓄積する傾向にある、稲の収量は600~300kg/10aと特別な水管理をせず放置していてもある程度の収穫が保証される、などの特徴がある。
【0064】
一方、乾田とは、排水性がよく、灌漑をやめれば畑になる水田のことである。乾田は、地力消耗的な傾向をもっているが、深耕し、十分積み肥を入れて合理的な栽培を行えば、湿田に比べて驚くほど収量を増加させる。乾田における稲の収量は1050~225kg/10aと幅広く、水管理が収量を決定する重要な要素であることが特徴である。
【0065】
この乾田における水管理は、水田圃場の「減水深」を把握することでなされる。「減水深」とは、個々の圃場条件における蒸発散量と水田浸透量の和を水深単位で表したものである。通常、1日あたりの減水深である「日減水深」としてmm/dを用い、水稲の収量が高まる理想的な減水深は20~25mm/dであり、水稲栽培でこの数値に近づける技術が期待されているが、現在農家において各水田の減水深が数値的にどの程度か確認できず、排水性が良いか悪いかの判断しかできない。
【0066】
減水深が確認できれば、すなわち過剰に入水する必要のない適性な入水量を測定でき、同適性入水量を圃場に維持できれば圃場水田水位を一定の適正水位に維持できる。
【0067】
適性入水量を実現する入水量を「入水基準量」とし、同「入水基準量」を生育ステージ毎の値として記録しておいて水路の水位が変動した場合には即座に設定し直すことができ、次の年の入水作業時に当該「入水基準量」を利用して適性水位を実現する水管理が容易となる。
【0068】
本発明に係る水田水位調節装置では、堰板壁の流量計で読み取った入水量値から、用水が水田内で一定水深にあって排水口からの排水がない状態で個々の圃場における一日の減水深が計算でき、農作業者はその値が水稲の高収量が確保できる値に近いか外れているかが確認できれば水稲栽培時の減水深を増やすべきか減らすべきかが判断できる。
【0069】
特に本発明では、減水深、すなわち適性水位を実現する「入水基準量」を以下(1)~(3)のように容易に算出することができる。
(1)本装置A1の水量調節弁体30を全開放した状態で、水路から圃場へ入水される単位時間(例えば、毎分)あたりの全給水量WSを堰板壁50により計測する。この全給水量WSは、水路の水位に変化が少ないことから、水路から圃場へ直接的に入水される一定の入水能として規定できる。
(2)このような全給水量WS状態を保持して、圃場から排水路へ排水される単位時間あたりの排水量DRを計測する。
(3)全給水量WSから排水量DRを差し引いた値が単位時間あたりの入水基準量NS、となり、入水基準量NSとなるように水量調節弁体30により入水量を調節する。その結果、排水量DRはゼロとなる。
【0070】
すなわち、水路から圃場へは一定流量で入水されるため、単位時間あたりの全給水量WS及び単位時間あたりの排水量DRに1日の時間を掛け合わせその差分をとれば、1日分の圃場での水の消費量、すなわち入水基準量が計算できる。この入水基準量を水田面積で除した値が減水深となる。すなわち、その圃場の適性水位を保つことができる。
【0071】
水位が高すぎる場合には、入水量や排水量を調節して最適な減水深を実現する適性水位に近づける。この排水量の調節は、本発明者が開発して特許出願をした「暗渠パイプの水閘構造」(特許6592555号)を排水口に適応させることで容易に行うことができる。一方で、水位が低すぎる場合には、自作前に土壌を転圧して透水性を減じる操作等を行うか否かの判断ができる。
【0072】
これまで減水深を測定する方法は、現状、N型減水深測定装置か用水量を流量計で測定するかの方法しかなく、また容易に入水量を測定できる流量計はなかった。すなわち、本発明に係る本装置A1は、減水深における入水基準量を精密に算出することができ、適性水位の維持が簡単に行え、無駄な排水を行わない水管理ができ、我田引水の語源となった水路の上流部の農家が不必要な水量まで取り入れてしまうことを防ぎ、水路末端まで均等に水管理を行うことができ、農家全体の経営の安定化を図ることができる、これまでにない画期的な発明である。
【0073】
[2.実施例1]
以下、実施例1に係る水田水位調節装置A1について詳細に説明する。調節装置本体A10において、貯水コンテナ10は、
図1及び
図2に示すように、耐水樹脂製の上方開口の小型の有底直方箱であって、平面視長方形状の底側壁13と、同底側壁13の四方周縁でそれぞれ立設する、左右一対の長尺帯状の左右側壁14、15と、前後一対の短尺帯状の前後側壁11、12と、により構成し、その直方内部空間を一定容積の貯水空間Sに形成している。
【0074】
貯水コンテナ10は、圃場Fに設置した際に不用意に作付面積を奪うことのないコンパクトな寸法で形成されており、例えば、左右側壁14、15の長さを約30~40cm、前後側壁11、12の長さを約20~30cm、各側壁の高さ、すなわち貯水空間Sの深さを約13~15cmとしている。換言すれば、貯水コンテナ10は、方形状の貯水空間Sの内容積を7800cm3~18000cm3にして小型化している。
【0075】
堰板壁50は、いわゆる三角堰板壁であって、前側壁11の板面の略上半部を幅方向中央で逆三角形窓状に切欠することにより逆三角形状の入水口51を開口形成している。
【0076】
このような入水口51の開口形状は、コンテナから圃場への入水量を流量計52により計測できれば特に限定されることはない。例えば、前側壁11上半部を幅方向中央で四角形窓状に切欠して前側壁11を四角堰板壁に構成してもよい。
【0077】
入水口51は、前側壁11において、底側壁13から5.0~5.5cmの高さ位置に開口底縁が位置するように、開口高さ70mm~80mm・開口幅180mm~200mmの寸法で開口形成している。特に実施例の入水口51は、開口面積約60cm2逆~80cm2の逆二等辺三角形状に形成している。
【0078】
流量計52は、
図3に示すように、所定間隔で越流量を計測するための複数の目盛を表示した帯板状のメジャーであり、入水口51の左右両側の前側壁11の内面に、入水口51の開口部分の最低位置(本実施例では、逆三角形の谷部位置)に流量計52のゼロ目盛を合わせて縦方向に2つ配設している。なお、流量計52は、目盛単位はセンチメートルに限らず、インチ、フィート等の単位で表示することにより日本国外の圃場でも測定できる。
【0079】
また、流量計52は、予め算出記録された適性水位を実現する入水基準量の越流位置を農作業者が視認可能とする基準量表示手段53を備えている。基準量表示手段53は、農作業者が入水基準量を視認できるものであれば特に限定されることはないが、本実施例では、流量計52を磁性金属製とし、同流量計52に吸着するマグネット53aで構成している。
【0080】
これにより、入水基準量となる越流高さ位置に相当する流量計52の目盛位置にマグネット53aを吸着させて、同マグネット53aにより表示された入水基準量位置(越流基準線)と実際の入水口51から圃場への入水量位置(越流高さ)とを比較した水量調節を行うができる。
【0081】
また、貯水コンテナ10の上流側の一側壁、すなわち後側壁12は、
図1、
図3~
図4(b)に示すように、略中央部に吐水パイプ20を挿通するためのパイプ貫通孔を貫通形成しており、同パイプ貫通孔を介して吐水パイプ20を挿通支持している。
【0082】
吐水パイプ20は、直線状に伸延する所定長さの塩ビ管であって、
図4(a)及び
図4(b)に示すように、基端側開口を用水パイプ100からの用水をパイプ内に引き入れるための給水口24に形成すると共に、先端側開口をコンテナ内へ用水を吐出するための吐水口21に形成し、基端部で用水パイプ100に連通可能に構成している。
【0083】
吐水パイプ20は、本実施例では例えば、全長約20~30cm、外寸約60mm、内寸約50mm、寸法のいわゆる50φVP(塩ビ肉厚管)を採用しているが、水路からの流圧や静圧を加味して適宜選択することができる。
【0084】
また、吐水パイプ20は、
図4(a)及び
図4(b)に示すように、後側壁12を境に、その大部分をコンテナ内側へ水平状に突出させた長尺の先端側突出部22と、コンテナ外側へ水平状に突出させた短尺の基端側接続部23と、を有して貯水コンテナ10に設けられている。
【0085】
具体的には、吐水パイプ20は、後側壁12からの先端側突出部22のコンテナ内への突出長さをコンテナ全長(奥行長さ)の略1/2~2/3程度とし、後側壁からの基端側接続部23のコンテナ外への突出長さを先端側突出部22の突出長さの略1/4~1/2程度にして貯水コンテナ10の後側壁12を貫通している。
【0086】
基端側接続部23は、給水口24を有し、用水パイプ100の吐水口に接合して、吐水パイプ20と用水パイプ100とを水密状に接続可能に構成している。具体的には、吐水パイプ20は、基端側接続部23の外径を用水パイプ100の内径と略同じにして、基端側接続部23を用水パイプ100の吐水口内方へ挿嵌可能に構成している。
【0087】
図3及び
図4(a)中、符号27a、27bは、吐水パイプ20をコンテナ内外側から後側壁12に固定するための内外側固定用ソケットであり、それぞれ吐水パイプ20の後側壁12との接続基部に後側壁12に内外側から基端面を当接した状態で外嵌固定することにより、後側壁12を内外側方から挟み込み吐水パイプ20を後側壁12に一体的に固定して吐水パイプ20の突出状態を保持する。
【0088】
なお、基端側接続部23の基端に外嵌固定された外側固定用ソケット27aは、吐水パイプ20に嵌合する用水パイプ100の開口前端面に当接対応する段部を形成すると共に後側壁12の外側面に当接して吐水パイプ20を後側壁12に固定している。
【0089】
先端側突出部22は、吐水口21を有し、同吐水口21を前側壁11に対向して配置すると共に平面視で貯水コンテナ10の中心位置(底側壁13の中心位置)に配置し形成しており、コンテナの底側壁13から立設したパイプ支持体25により吐水パイプ20の筒軸方向を水平方向にして下方支持されている。
【0090】
パイプ支持体25は、
図1、
図3~
図4(b)に示すように底側壁13の所定位置に敷設した方形板状のベースプレート25aと、ベースプレート25aの前後方向に一定間隔を隔てて起立する2つの前後側パイプ固定枠25b、25cと、で構成している。
【0091】
前後側パイプ固定枠25b、25cは、それぞれ同形同大の方形板状であって、起立状態において後側壁12に貫設したパイプ貫通孔と同じ高さ位置に相当する板面の略中央部に、それぞれ吐水パイプ20の先端側突出部22を挿嵌固定するためのパイプ貫通孔を形成している。
【0092】
すなわち、パイプ支持体25は、前側パイプ固定枠25bを吐水口21近傍の吐水パイプ20外周部に、後側パイプ固定枠25cを後側壁12近傍の吐水パイプ20外周部に、それぞれパイプ貫通孔を介して外嵌対応し、後側壁12から水平突出した吐水パイプ20をコンテナ内で一定高さに支持している。
【0093】
換言すれば、吐水パイプ20は、貯水コンテナ10の後側壁12と、貯水コンテナ10内の底側壁13から起立するパイプ支持体25の前後側パイプ固定枠25b、25cとにより、3つの各パイプ貫通孔に挿嵌固定されて一定高さ位置に水平状態で支持される。
【0094】
なお、前後側パイプ固定枠25b、25cは、それぞれの四方隅部に貫設固定した所定長さのスペーサロッド26を介して連結しており、前後方向に一定間隔を隔てた状態を安定保持している。また、これら前後側パイプ固定枠25b、25cは、L字ステーを介してベースプレート25aに立設固定している。
【0095】
具体的には、
図4(a)に示すように吐水パイプ20の先端側突出部22の所定位置に短尺のスペーサソケット27cを外嵌固定し、同スペーサソケット27cを前後側パイプ固定枠25b、25cでスペーサロッド26を介して両側から挟持固定することにより、貯水コンテナ10における吐水パイプ20の内方突出状態を下方支持している。
【0096】
水量調節弁体30は、
図1、
図3~
図4(b)に示すように吐水パイプ20の吐水口21前方の近傍位置で吐水パイプ20の筒軸Cと同軸上に配設した螺杆40に進退可能に設けられ、吐水パイプ20の吐水口21に外側から離間・近接することにより吐水口21を開閉可能に構成している。
【0097】
すなわち、螺杆40は、貯水コンテナ10の底側壁13から立設した杆支持体42により吐水パイプ20の筒軸と同軸上に配置固定されると共に下方支持された固定体とし、水量調節弁体30は、螺杆40に螺進退可能に螺合され、螺進退動作に伴い吐水口21に離間・近接する吐水口21の開閉移動体に構成している。
【0098】
水量調節弁体30は、
図4(a)及び
図4(b)に示すように断面視コ字状のキャップ状の蓋体であって、コ字解放側を吐水パイプ20の吐水口21に対向させて螺杆40に螺進退可能に設けている。
【0099】
具体的には、水量調節弁体30は、吐水口21の前端縁部に対向当接して吐水口21を覆う円盤状の閉塞板部31と、閉塞板部31の周縁から立ち上がり吐水パイプ20の前端外周部に外嵌される短筒状の筒部32と、より構成している。
【0100】
また、水量調節弁体30は、螺杆40との螺合部分を増して螺杆40に沿う螺進退動作を安定させるための円柱状の移動補助用ボス33を閉塞板部31の円中心に一体的に備えている。移動補助用ボス33は、円柱軸芯に螺杆40の螺旋軌道に螺合対応する螺線内周面を形成した螺合孔を有している。
【0101】
螺杆40は、外周長手方向に所定ピッチで伸延する螺旋軌道41を有した所定長さの台形ネジであって、吐水パイプ20の吐水口21よりも前方位置且つ吐水口21の近傍位置で貯水コンテナ10の底側壁13から立設した杆支持体42により下方支持されている。
【0102】
具体的には、螺杆40は、先端部(後端部)を吐水パイプ20の吐水口21内方に臨ませると共に基端側半部(前半部)を杆支持体42に固定ナット42aを介して固定して吐水パイプ20の筒軸Cと同一高さ位置に水平状に支持し、同杆支持体42から吐水口21に向って突出した先端側半部(後半部)を水量調節弁体30が螺旋軌道に沿って回転しながら前後水平移動するための弁体移動部43に構成している。
【0103】
また、水量調節弁体30は、吐水パイプ20の筒軸Cと交差する吐水口21との対向面中央部、すなわち閉塞板部31の円中心部に、螺杆40を挿通螺合するための螺合孔を貫設しており、螺杆40の弁体移動部43の螺旋軌道に沿って回転しながら軸前後方向へ水平移動可能に構成している。
【0104】
これにより、水量調節弁体30を螺杆40の螺旋軌道に沿って上流側方向へ回転させるに伴い、水量調節弁体30が吐水口21へ接近して隙間が狭くなり、結果、吐水口21の開口度が小さくなることで水路からコンテナ内への吐水量を少量に制御できる。
【0105】
一方で、水量調節弁体30を螺杆40の螺旋軌道に沿って下流側方向へ回転させるに伴い、水量調節弁体30が吐水口21から離れて隙間が広くなり、結果、吐水口21の開口度が大きくなることで水路からコンテナ内への吐水量を多量に制御できる。
【0106】
特に、水量調節弁体30と螺杆40とにより螺旋軌道に沿う回転前後移動をする構成としているため、螺旋軌道のピッチに沿う前後移動距離の微調整がしやすく、したがって吐水口21の開口度調節を容易にして吐出量制御を厳密に行うことを可能としている。
【0107】
なお、本実施例では、螺杆40を杆支持体42と一体の固定不動体とし、水量調節弁体30を螺杆40に沿って回転しながら前後移動する吐水口21の開閉移動体に構成しているが、水量調節弁体30が吐水口21に離間・近接する構成であればこれに限定されない。
【0108】
また、吐水口21の上方位置には、
図1、
図3~
図4(b)に示すように吐水口21よりも下流側に突出して吐水口21から吐出される水の流勢を減衰する減勢板60を付設している。本実施例の減勢板60は、方形薄板状であって、吐水パイプ20の吐水口21よりも後方位置で吐水パイプの周面上部に設けたヒンジ61を中心に、前後方向へ倒伏可能に構成している。
【0109】
具体的には、減勢板60は、
図3に示すように吐水口21よりも後方位置にあるパイプ支持体25の前側パイプ固定枠25bの天端面の左右端に設けた2つのヒンジ61に一端で接続して前後方向に倒伏可能に設けられ、
図3及び
図4(b)に示すように前方倒伏姿勢では板面を水平状にして吐水口21よりも前方突出して吐水口21と水量調節弁体30との間の開口隙間部分をその上方位置で覆う一方、
図1及び
図4(a)に示すように後方倒伏姿勢では吐水口21よりも後方側へ倒伏して開口隙間部分をその上方位置で解放するように構成している。
【0110】
減勢板60の寸法は、前方倒伏姿勢で吐水口21よりも前方突出して吐水口21と水量調節弁体30との間の開口隙間部分をその上方位置で覆うことができる寸法であれば特に限定されることない。また、減勢板60は、素材を透明樹脂板とすれば、前方倒伏姿勢で吐水口21と水量調節弁体30との間の開口隙間から吐出する吐水状態を視認できる。
【0111】
かかる構成の本装置A1は、前述のように調節装置本体A10と水田水位計70と排水量計80とを組合せ相互併用することにより精度の高い入水基準量算出と適性水位とする実際の圃場への精密な入水量調節を行うことを可能としている。
【0112】
水田水位計70は、
図2に示すように、所定長さを有する下端尖鋭状の角棒であって、一側面に水位メジャー体73を有し、圃場面に直立して水田水位を計測可能に構成している。
【0113】
具体的には、水田水位計70は、
図8(a)に示すように、圃場に埋設される逆四角錐状のアンカー部71と、アンカー部71の角錐底部から延設され、圃場面及び水面から露出する角棒状の水位計測部72と、アンカー部71と水位計測部72の連続する一側に長手方向に沿って貼着され、複数の目盛を表示した水位計測用の細長帯板状の水位メジャー体73と、により構成している。
【0114】
また、排水量計80は、前述の堰板壁50と略同じ構成であって、
図8(b)に示すように上半部を幅方向中央で逆三角形窓状に切欠することにより逆三角形状の排水口81を開口形成すると共に、同排水口81の開口縁部の近傍位置に設けた流量計82とで、三角堰板に構成している。なお、
図8(b)中、符号83は、排水の越流高さを示すマグネットである。
【0115】
かかる排水量計80は、
図2に示すように圃場と排水路との間で鉛直状に埋設された圃場と排水路とを連通させる排水舛110の圃場側の上端側面に当接して立設することにより、排水口81から排水舛110に流れ込む排水の越流高さを流量計82により計測して排水量を視認することができる。
【0116】
そして本装置A1は、以下のようにして水田圃場との間に設置して使用する。本装置A1は、
図3に示すように貯水コンテナ10で外側に突出した吐水パイプ20の基端側接続部23で、水路と圃場の間で伸延する用水パイプ100の先端と連通接続する。
【0117】
農作業者が、閉塞状態にある吐水口21から水量調節弁体30を螺杆40に沿って回転しながら離間させるに伴い、
図4(a)及び
図4(b)に示すように、吐水パイプ20の吐水口21が開口して吐水を始め貯水コンテナ10内の貯水空間に貯水されると、堰板壁50の入水口51から貯水が越流して圃場へ流れ出す。
【0118】
この際、農作業者は、堰板壁50の流量計52に予めセットした基準量表示手段53により示された入水基準量位置に、実際の入水における越流高さを位置合わせするように水量調節弁体30を介して吐水口21の開口度を調節する。すなわち、吐水パイプ20からの吐水状態において、吐水口21の上方位置で減勢板60をヒンジ61を介して前方倒伏姿勢にして減衰機能させる。
【0119】
具体的には、
図3及び
図4(b)に示すように減勢板60の前方倒伏姿勢状態にして吐水口21よりも前方突出させ、吐水口21と水量調節弁体30との間の開口隙間部分をその上方位置で水平状態で覆い吐水の流勢を減衰して貯水を静圧鎮静化し、貯水面を略水平状にして入水口51から越流させる。
【0120】
特に、水量調節弁体30が、吐水パイプ20により吐出された吐水方向に直交する位置に配設されているため、吐水の流勢の静圧減衰作用が助長され、コンテナ内の貯水面が可及的速やかに水平面となるように鎮静化が効果的になされる。
【0121】
このような減勢板60による減衰機能状態で、入水口51の最底部から越流面までの越流高さを入水口51の左右側に設けた流量計52により実際の入水量として読み取り、同実際の入水量が予め流量計52に吸着した基準量表示手段53により示された入水基準量位置に適合するかを確認する。
【0122】
入水口51から圃場へ流れ込む実際の入水量が基準量表示手段53により示された入水基準量NS位置に適合しない場合には、吐水口21の上方位置にある減勢板60をヒンジ61を介して後方倒伏姿勢にして、吐水口21と水量調節弁体30との間の開口隙間部分をその上方位置で解放状態にして吐水量調節を行う。
【0123】
具体的には、入水口51から実際の入水量が基準量表示手段53に示された入水基準量NSよりも少ない場合には、水量調節弁体30を直接手指で回しながら吐水口21の解放方向へ移動して吐水口21の開口度を広くする。このような水量調節弁体30による吐水口21の解放操作により貯水コンテナ10へ流れ込む吐水量を増大させる。
【0124】
一方で、入水口51から実際の入水量が基準量表示手段53に示された入水基準量NSよりも多い場合には、水量調節弁体30を直接手指で回しながら吐水口21の閉塞方向へ移動して吐水口21の開口度を狭くする。このような水量調節弁体30による吐水口21の閉塞操作により貯水コンテナ10へ流れ込む吐水量を減少させる。
【0125】
以上のようにして、本装置A1は、減勢板60を前方倒伏姿勢にして減衰機能させ、入水口51から圃場への入水量を、適正水位を実現する入水基準量に適合させるように水量調節弁体30を介して吐水口21の解放閉塞操作をすることにより吐水量を微調節し、適正水位を実現する一定の入水量を保持した個々の圃場条件に適合する水管理を行うことができる。
【0126】
[3.実施例2]
次に、実施例2に係る水田水位調節装置A2について説明する。
図5は、本実施例に係る水田水位調節装置の構成を示す前方斜視図、
図6は本実施例に係る水田水位調節装置の構成を示す後方斜視図、
図7は本実施例に係る水田水位調節装置の構成を示す模式的側断面図である。なお、以下の説明において、実施例1と同様の構成については、同じ符号を付して説明を省略する。
【0127】
本実施例に係る水田水位調節装置A2では、調節装置本体A20において、
図5~
図7(b)に示すように水量調節弁体300と螺杆400とを一体にして、貯水コンテナ10の底側壁13で立設固定した杆支持体420を中心に軸廻りに回転しながら軸方向に沿って吐水口210に離間・近接移動する吐水口210の開閉移動体に構成している。
【0128】
すなわち、螺杆400は、貯水コンテナ10の底側壁13から立設した杆支持体420により吐水パイプ200の筒軸Cと同軸上に配置すると共に螺進退可能に下方支持されている。換言すれば、杆支持体420は、螺杆400が軸廻りに回転しながら前後方向に螺進退移動するための螺軸受けとして機能する。
【0129】
また、水量調節弁体300は、
図5、
図7(a)及び
図7(b)に示すように、螺杆400の下流側端部に一体的に固定され、螺杆400の螺進退動作に伴い吐水口210に離間・近接するように構成している。
【0130】
また、螺杆400の基端部(前端部)には、螺杆400を軸廻りに回転させて螺進退操作するための回転操作ハンドル430を一体的に設けている。
【0131】
なお、この回転操作ハンドル430は、農作業者が螺杆40を回転して螺進退操作できるものであれば限定されることはないが、外形を可及的小さくしたものが好ましく、例えば蛇口であってもよい。これにより回転操作ハンドル430による吐水口210の解放操作時に同ハンドルが近接しても入水口51からの越流に流体干渉することなく安定した越流面を保持できる。
【0132】
このように、螺杆400基端の回転操作ハンドル430による回転操作に伴い、
図7(a)及び
図7(b)に示すように、螺杆400が杆支持体420上で螺進退移動し、螺杆400先端の水量調節弁体300が螺杆400と一体的に前後移動して吐水口210に離間・近接することができる。
【0133】
これにより、吐水口210の解放状態において、螺杆400が吐水口210からの流水を妨害することなく水路Wから流水と共に不用意に流入してくる藻や汚泥などの異物を引掛けて堆積させ、同堆積異物で吐水パイプを不用意に閉塞してしまうことを防止できる。
【0134】
また、水量調節弁体300は、円錐駒体に形成され、円錐の頂点部320を吐水口210に対向して配置すると共に円錐軸を螺杆400と同軸上に配置し、円錐のテーパー周側面310部分で吐水口210の内縁部に離反当接して吐水口210を開閉可能に構成している。
【0135】
水量調節弁体300は、全体として円錐駒体であって円錐における最大外経を少なくとも吐水口210の内径よりも大きく形成されていればよく、吐水口210に対向するテーパー周側面310を有していれば後方側を開口させ内部を空洞状にした円錐傘形状に形成されていれもよい。
【0136】
また、吐水パイプ200は、パイプ先端部201をパイプ胴部202より縮径することにより、吐水口210近傍でベンチュリー効果を可及的向上させて吐水の流速を可及的速めるように形成している。
【0137】
すなわち、吐水パイプ200は、後側壁12から水平状に突出する先端側突出部220において、
図7(a)及び
図7(b)に示すように、その大部分に相当するパイプ胴部202と、パイプ胴部202の先端でパイプ胴部202より縮径したパイプ先端部201と、を有し、吐水口210の開口経を胴部内径よりも縮径形成している。
【0138】
具体的には、パイプ胴部202は例えば50φVPの塩ビ管とし、その先端で延設したパイプ先端部201は例えば30φVPの塩ビ管とし、それぞれの筒軸Cを同一軸上に配置して連通することによい吐水パイプ200を形成している。
【0139】
これにより、吐水口210からの吐水方向を円錐駒体の水量調節弁体300の頂点部320からテーパー周側面310で拡径方向に沿うように以下のようにして一定方向に吐出噴射させる吐出方向コントロールを行うことができる。
【0140】
すなわち、水量調節弁体300は円錐の頂点部320を吐水口210に対向して配置しているため、吐水パイプ200内を流れてきた吐水は最初に水量調節弁体300の頂点部320に突き当たることとなる。
【0141】
頂点部320に突き当たった吐水は、水量調節弁体300のテーパー周側面310と吐水口210の内縁部との間の隙間部分でベンチュリー効果により最小圧(負圧)にすると共に流速を速め、コアンダ効果により強制的にテーパー周側面310に沿う放射拡開方向へ誘導されて流水方向を整然化する。
【0142】
しかも、水量調節弁体300は円錐軸を螺杆400と同軸上、すなわち吐水パイプ200の筒軸Cと同軸上に配置しているために、水量調節弁体300のテーパー周側面310周廻りにおける流水量は均一化される。
【0143】
このように吐出方向がコントロールされ周廻りで流量を均一化された吐水が水量調節弁体300のテーパー周側面310からコンテナ内へ一気に拡散解放されることにより、コンテナ内の貯水が吐水に対する抵抗力を均一化した状態で吐水を受け止めて吐水と一体化して貯水面が荒波立つことを可及的防止することができる。
【0144】
また、吐水パイプ200は、平面視において、吐水口210位置を貯水コンテナ10の貯水空間Sの前後方向において後側壁12から前方約1/3位置よりもやや前方に配置している。
【0145】
換言すれば、吐水パイプ200は、後側壁12から内方へ水平突出する先端側突出部22の長さを貯水空間Sの前後方向長さの約1/3となるように形成し、縮径したパイプ先端部201を後側壁12から前方約1/3位置より前方側に突出配置している。
【0146】
このような吐水パイプ200は、パイプ胴部202とパイプ先端部201とを、それぞれ後側パイプ固定枠250cと前側パイプ固定枠250bに挿通して、パイプ支持体250により下方支持されている。パイプ支持体250の前側パイプ固定枠250bは、後側壁12から前方約1/3位置に配置してベースプレート25a上に立設している。
【0147】
また、貯水コンテナ10は、内部空間を底部略中央位置で立設した仕切板90により、吐水口210からの吐水の流勢を減衰すると共に水路Wからの汚泥や藻などの異物を留置させる上流側の減勢貯水領域S1と、減勢貯水領域S1からの貯水の波面を鎮静化して略水平面にする下流側の水面静置貯水領域S2と、に区画形成している。
【0148】
仕切板90は、貯水コンテナ10の前後側壁11、12と略同じ寸法の方形板体であって、貯水コンテナ10の貯水空間Sの前後方向において後側壁12から前方約2/3位置の底側部から前後側壁11、12に面対向して垂直に立設することにより、貯水空間Sの約2/3部分に相当する仕切板90よりも後方側空間部を減勢貯水領域S1に形成すると共に、貯水空間Sの約1/3部分に相当する仕切板90よりも前方側空間部を水面静置貯水領域S2に形成している。
【0149】
すなわち、減勢貯水領域S1は、左右側壁14、15及び底側壁13の約2/3部分と後側壁12と仕切板90とにより囲まれた空間部であって、吐水口210からの吐水の流勢を減衰するための吐水パイプ200と水量調節弁体300と減勢板600とを配置している。
【0150】
さらに、減勢貯水領域S1は、平面視で前後方向の略中央位置に前述の吐水口21を配置してなり、同吐水口210を境に、後方側に吐水パイプ200の先端側突出部22を、前方側に水量調節弁体300を、それぞれ配置している。
【0151】
また、水面静置貯水領域S2は、左右側壁14、15及び底側壁13の約2/3部分と前側壁11としての堰板壁50と仕切板90とにより囲まれた空間部であって、螺杆400の基端に設けた回転操作ハンドル430を配置している。すなわち、螺杆400は、中途部で仕切板90を貫通している。
【0152】
換言すれば、仕切板90は、少なくとも吐水口210から最大離間した状態の水量調節弁体300よりも下流側位置(前方側位置)の底側壁13から立設しており、減衰機能を果たすための減勢貯水領域S1を区画形成すると共に貯水面の水平化機能を果たすための水面静置貯水領域S2に区画形成する。
【0153】
また、減勢貯水領域S1と水面静置貯水領域S2とは、互いに下部で連通している。すなわち、仕切板90の左右下部には、減勢貯水領域S1と水面静置貯水領域S2とを連通させる連通口91、92を2つ形成している。
【0154】
具体的には、仕切板90は、貯水コンテナ10の前後方向に伸延するパイプ支持体25のベースプレート25a上に立設すると共に螺杆400を回転可能に貫通させて左右下部の下方隙間を連通口91、92に形成している。なお、連通口91、92は、仕切板90の下方角部を切欠して形成することもできる。
【0155】
また、減勢板600は、吐水口210よりも下流側に水平突出した前方倒伏姿勢で、吐水口210と水量調節弁体300とを配置した貯水空間部分の上方開口全域を上方位置で完全に覆って閉塞するように形成している。
【0156】
すなわち、減勢板600は、平面視で貯水コンテナ10の開口面積の略1/3面積の長方形状に形成され、前方倒伏水平姿勢において、自由先端面610を仕切板90の下流側板面に対向して略当接すると共に左右側端面620、620を貯水コンテナ10の左右側壁14、15の内側面に対向して略当接するように構成している。
【0157】
より具体的には、減勢板600は、幅員を貯水コンテナ10の底側壁13の幅員と略同じにすると共に前後長さを貯水コンテナ10の底側壁13の前後長さの略1/3長さに形成した平面視長方形の板体であって、後側壁12から前方約1/3位置の底側壁13で立設した前側パイプ固定枠250bの上端面に、ヒンジ61を介して前後倒伏可能に設けられている。
【0158】
これにより、吐水パイプ200からの吐水が仕切板90や左右側壁14、15、減勢板600に突き当たり流勢を減衰させる機会を増加させて、貯水面を可及的速やかに水平面にした入水量の測定ができる。
【0159】
すなわち、減勢貯水領域S1によりコンテナ内に吐出される吐水の激流を受け止めて流勢を減衰させる共に同吐水を貯水し、水面静置貯水領域S2により減勢貯水領域流勢で減衰された貯水を受け取って水面を鎮静化する。
【0160】
また、水路からの異物が吐出パイプを介してコンテナ内部に侵入しても、同異物を水面静置貯水領域S2に移行させることなく減勢貯水領域S1内に留置させて、入水口51の不用意な閉塞を防止することができる。
【0161】
さらに、減勢貯水領域S1と水面静置貯水領域S2とは互いに下部で連通しているため、減勢貯水領域S1の貯水を連通部分を介して下部から湧き出すように水面静置貯水領域S2へ給水移行させ、貯水面を可及的鎮静化された水平面に保持した状態で、水位を徐々に上昇させて水面静置貯水領域S2に貯水することができる。
【0162】
特に減勢貯水領域S1において、前方倒伏姿勢の減勢板600が、吐水口210と水量調節弁体300とを配置した貯水空間部分の上方開口全域を上方位置で完全に覆って閉塞しているため、吐水パイプ200からの吐水は、
図7(b)に示すように貯水と可及的速やかに一体化される。
【0163】
かかる減勢貯水領域S1における貯水は、流水方向を側面視S字状をなぞるように減勢板600の下面側から上面側を流れて仕切板90の上端を穏やかに越流して水面静置貯水領域S2に流入する側面視略S字状の迂回流路と、仕切板90に突き当たり水圧で静圧されつつその下部の左右側の連通口91、92から水面静置貯水領域S2に流入する側面視略L字状の迂回流路と、に分かれる。
【0164】
すなわち、これら2つの迂回流路から水面静置貯水領域S2へ流入する貯水の流勢は、減勢貯水領域S1において仕切板90やコンテナの左右側壁14、15、減勢板600、さらには減勢貯水領域S1での貯水圧により十分に静圧化されており、したがって、水面静置貯水領域S2における貯水は貯水面を可及的鎮静化された水平面にして最下流位置の堰板壁50の入水口51から圃場へ流れだす。
【0165】
その結果、堰板壁50において流量計52による入水口51からの越流量計測を精密に行うと共に水路から圃場への入水量をより正確に把握しつつ微調節可能な水田水位調節を行うことができる効果がある。
【0166】
[4.水田水位調節装置の入水量と圃場の減水深との関係]
次に、水田水位調節装置による圃場への入水量と圃場の減水深との関係について説明する。上述してきたように、本発明に係る水田水位調節装置は、コンパクト化された貯水コンテナ10の下流側の他側壁(前側壁11)を堰板壁50に構成しており、同堰板壁50の入水口51から越流する水位を流量計52で計測することにより、単位時間あたりの入水量を視認することができる。
【0167】
本装置は、前述のように、一般的な規格堰の規格流量式を利用せずに、堰板壁50からの越流の水位と圃場への入水量を規定して独自の水位流量関係表を作成し、同水位流量関係表を参照しながら入水調節ができるようにしている。
【0168】
水位流量関係表の作成手順の一例として、実施例1及び実施例2の水田水位調節装置を用いた場合は以下の通りである。なお、各実施例に係る水田水位調節装置において、貯水コンテナ10は左右側壁14、15の長さ(内寸)36cm×前後側壁の長さ(奥行)24cm×高さ13.5cm、内容積約11650cm3とし、入水口51は前側壁11において底側壁13から5.0cmの高さ位置に開口谷部先端を位置づけて開口高さ8cm・最大開口幅17cm、開口面積約70cm2の逆三角形状に開口形成したものとする。
【0169】
また、吐水パイプは、前述の通り、実施例1の水田水位調節装置で50φVP、実施例2の水田水位調節装置で上流側に配設される50φVPと下流側に配置する30φVPとを連結したものを使用した。
【0170】
かかる各実施例に係る水田水位調節装置の吐水パイプと用水パイプとの間には水量メータを設置し、同水量メータで吐水パイプへ100L、50L、20L、10L、5Lとなる各流量時間を測定しつつ、入水口51からの入水量をバケツ等の一次貯水槽に貯水して正味の1分あたりの入水量(m3/min)「実測値」として測定した。また、入水口51からの越流水位(三角開口の最谷部から越流水面までの距離)を「三角堰水位」(cm)として流量計52により測定した。
【0171】
すなわち、水位流量関係表は、「三角堰水位」の各レベルに応じて、水量メータによる単位時間当たりの入水量を「水位計算値流量」として算出し、「実測値」ともに規定化した。さらに、「三角堰水位」の各レベルに応じて水田面積別の減水深に換算し、入水量と圃場の減水深との関係表として規定化して作成した。その結果として、「実施例1に係る水田水位調節装置の水位流量関係表」を
図9及び
図10に、「実施例2に係る水田水位調節装置の水位流量関係表」を
図11及び
図12に示す。
【0172】
これらの水位流量関係表を活用することにより、農作業者は、所望とする減水深を実現する入水量に対応した「三角堰水位」レベルに越流高さを合わせるように、水量調節弁体を操作して入水調節を行うことができ、個々の有する実際の圃場条件に適した入水量へ微調整して水田圃場を適正水位にすることができる。
【0173】
以上、説明してきたように、本発明によれば、シンプル構造でコンパクト化且つ軽量化でき、圃場の作付面積を不用意に奪うことなく水路と圃場との間に簡単に設置でき、装置に要する費用を低減化することができ、個々の圃場条件に適合した水量調節作業を誰でも簡単且つ正確に行って水田水位を適正水位に維持できる効果がある。
【0174】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0175】
A1 水田水位調節装置
A10 調節装置本体
10 貯水コンテナ
20 吐水パイプ
30 水量調節弁体
40 螺杆
50 堰板壁