(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022079995
(43)【公開日】2022-05-27
(54)【発明の名称】成形体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20220520BHJP
C09K 9/02 20060101ALI20220520BHJP
B44F 1/06 20060101ALI20220520BHJP
【FI】
C08J5/18 CES
C08J5/18 CEY
C08J5/18 CFF
C09K9/02 B
B44F1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020190915
(22)【出願日】2020-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】504300103
【氏名又は名称】三井化学ファイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚田 英孝
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 伸介
(72)【発明者】
【氏名】高口 勝之
【テーマコード(参考)】
4F071
【Fターム(参考)】
4F071AA20
4F071AA21
4F071AA33
4F071AA53
4F071AA86
4F071AC06
4F071AC12
4F071AC19
4F071AE09
4F071AF20Y
4F071AH19
4F071BA01
4F071BB01
4F071BB03
4F071BC03
(57)【要約】
【課題】可逆的に状態を変化させることができ、かつ作製が容易である、模様を出現させることができる成形体を提供すること
【解決手段】ベース樹脂と、フォトクロミック色素と、前記フォトクロミック色素が色調を変化させる波長の光の透過率を低減させる特定波長低減剤と、を含む樹脂成形体。前記樹脂成形体は、前記特定波長低減剤の含有量がより多い第1領域と、前記特定波長低減剤の含有量がより少ない第2領域と、を有し、光の照射により、前記第2領域の形状に応じた模様が発色する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース樹脂と、フォトクロミック色素と、前記フォトクロミック色素が色調を変化させる波長の光の透過率を低減させる特定波長低減剤と、を含む樹脂成形体であって、
前記特定波長低減剤の含有量がより多い第1領域と、
前記特定波長低減剤の含有量がより少ない第2領域と、を有し、
光の照射により、前記第2領域の形状に応じた模様が発色する、
樹脂成形体。
【請求項2】
単層構造、模様を発現する成形体とその表面を被覆する保護層とを有する2層構造、または模様を発現する成形体とその表面の両面を被覆する保護層とを有する3層構造である、請求項1に記載の樹脂成形体。
【請求項3】
前記ベース樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が-10℃以上の樹脂である、請求項1または2に記載の樹脂成形体。
【請求項4】
前記ベース樹脂は、曲げ弾性率が600MPa以上の樹脂である、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
【請求項5】
前記ベース樹脂は、熱可塑性樹脂である、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
【請求項6】
前記特定波長低減剤は、前記樹脂成形体の表面から所定の深さに分布する、請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
【請求項7】
装飾品である、請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
【請求項8】
フォトクロミック色素とベース樹脂とを含む基材成形体を用意する工程と、
前記基材成形体の表面を部分的にマスキングする工程と、
前記部分的にマスキングをされた基材成形体を、前記フォトクロミック色素が色調を変化させる波長の光の透過率を低減させる特定波長低減剤を含む液体と接触させる工程と、
を含む、樹脂成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
所定の条件を満たしたときにある模様が出現する物品が知られている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、所定の温度に加熱すると熱溶融する熱溶融性物質と、上記熱溶融した熱溶融性物質に分散または溶解する色素と、上記熱溶融して色素が分散または溶解した熱溶融性物質を拡散させるインキビヒクルと、を有する籤が記載されている。特許文献1によると、上記籤は、加熱すると熱溶融性物質が熱溶融して上記色素とともに拡散し、当たり外れの表記を発色させる。
【0004】
また、特許文献2には、透明なコップ表面に接着剤により貼り付けると、コップに水を注ぐ前後で、コップの内部側上方から見える絵模様が変化するシートが記載されている。特許文献2によると、上記シートをコップに張り付ける際に、接触剤が塗布された領域と接触剤が塗布されておらず空気層が形成された領域とを形成する。そして、コップに水を注ぐと、この接触剤が塗布されていない領域からの光線は、空気層と水との境界線で屈折し、水面で全反射する角度となるため、コップの内部側上方からは視認できなくなる。このようにして、上記シートは、コップに水を注ぐと視認できなくなる領域を形成することで、コップの表面から視認される模様を変化させる。
【0005】
また、特許文献3には、紫外線の照射により状態が変化するフォトクロミック化合物を含有する変色部を備えるカーテンが記載されている。特許文献3によれば、上記カーテンは、フォトクロミック化合物が上記状態変化に基づいて変色することにより、照射されている紫外線の強さに応じて変色部が変色する。上記模様部は、染色、接着および紡糸段階での配合などの方法によりフォトクロミック化合物を担持させた糸を編み込むか織り込む方法、ならびに、フォトクロミック化合物を含む塗料の塗布もしくは印刷または染色により生地に変色部を形成する方法により、作製することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-153203号公報
【特許文献2】特開2002-127697号公報
【特許文献3】特開2019-030589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~特許文献3のように、所定の条件を満たしたときにある模様が出現する物品が知られている。
【0008】
しかし、特許文献1に記載のインクを用いて形成した模様は、一度加熱すると元の無色の状態には戻らず、繰り返し使用することはできない。また、特許文献2に記載のシートも、一度コップに貼り付けるとはがして他のコップに貼り付けることは通常困難である。また、これらの技術は、上記インクにより模様を形成できる紙媒体や透明なコップなどに用途が限定されており、他の用途への展開が困難である。
【0009】
これに対し、特許文献3に記載のフォトクロミック化合物は、光の照射によって可逆的に状態が変化するため、繰り返しの使用が可能である。しかし、フォトクロミック化合物を糸に担持させる方法は、作製工程が容易ではなく、かつカーテンなどの編物または織物の他の用途への展開が困難である。
【0010】
上記問題に鑑み、本発明は、可逆的に状態を変化させることができ、かつ作製が容易である、模様を出現させることができる成形体、およびその製造方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するための本発明の一態様に関する樹脂成形体は、ベース樹脂と、フォトクロミック色素と、前記フォトクロミック色素が色調を変化させる波長の光の透過率を低減させる特定波長低減剤と、を含む樹脂成形体である。前記樹脂成形体は、前記特定波長低減剤の含有量がより多い第1領域と、前記特定波長低減剤の含有量がより少ない第2領域と、を有し、光の照射により、前記第2領域の形状に応じた模様が発色する。
【0012】
上記の課題を解決するための本発明の他の態様に関する樹脂成形体の製造方法は、フォトクロミック色素とベース樹脂とを含む基材成形体を用意する工程と、前記基材成形体の表面を部分的にマスキングする工程と、前記部分的にマスキングをされた基材成形体を、前記フォトクロミック色素が色調を変化させる波長の光の透過率を低減させる特定波長低減剤を含む液体と接触させる工程と、を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、可逆的に状態を変化させることができ、かつ作製が容易である、模様を出現させることができる成形体、およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1Aは、本発明の一実施形態に関する、模様が出現する前の樹脂成形体を示す模式斜視図であり、
図1Bは、模様が出現した後の樹脂成形体を示す模式斜視図である。
【
図2】
図2Aは、本発明の一実施形態に関する樹脂成形体を、
図1Aに示す一点鎖線2-2で切断した模式断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の別の実施形態に関する、樹脂成形体100の製造方法のフローチャートである。
【
図4】
図4Aは、樹脂成形体の製造方法における、基材成形体を用意する工程の様子を示す模式斜視図であり、
図4Bは、樹脂成形体の製造方法における、基材成形体の表面を部分的にマスキングする工程の様子を示す模式斜視図であり、
図4Cは、樹脂成形体の製造方法における、部分的にマスキングした基材成形体を特定波長低減剤を含む液体と接触させる工程の様子を示す模式斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[樹脂成形体]
本発明の一実施形態は、光の照射により模様が出現する樹脂成形体に関する。
【0016】
図1Aおよび
図1Bは、本発明の一実施形態に関する樹脂成形体を示す模式斜視図である。
図1Aは、模様が出現する前の樹脂成形体100を示す模式斜視図であり、
図1Bは、模様が出現した後の樹脂成形体100を示す模式斜視図である。
【0017】
樹脂成形体100は、背景部となる第1領域110と、光の照射により模様が発色する第2領域120と、を有し、光を照射すると、第2領域120の形状に応じた模様が発色して出現する(
図1B)。
【0018】
第1領域110および第2領域120はいずれも、ベース樹脂と、フォトクロミック色素と、を含む。そして、第1領域110は、上記フォトクロミック色素が色調を変化させる波長の光の透過率を低減させる化合物である特定波長低減剤の含有量が第2領域120よりも多く、第2領域120は、特定波長低減剤の含有量が第1領域110よりも少ない。
【0019】
図2は、樹脂成形体100を、
図1Aに示す一点鎖線2-2で切断した模式断面図である。
図2において、特定波長低減剤の濃度が周囲よりも高い部分を、濃色で示す。
図2に示すように、第1領域110において、特定波長低減剤(濃色部分)は、樹脂成形体の一の表面から所定の深さに分布する。つまり、第1領域110は、深さ方向の全体にわたって特定波長低減剤の含有率が高まっている必要はなく、上記表面から所定の深さまで、特定波長低減剤の含有率が高まっていればよい。
【0020】
上記フォトクロミック色素は、特定の波長の光を照射されたときに、構造の変化などにより、呈する色調を変化させる色素である。一方で、上記特定波長低減剤は、上記フォトクロミック色素が色調を変化させる波長の光を吸収等して、上記樹脂組成物中のフォトクロミック色素への上記波長の光の到達量を低減させる。そのため、特定波長低減剤の含有量がより多い第1領域110では、フォトクロミック色素に到達する上記波長の光の光量がより少なく、フォトクロミック色素の変色がより生じにくい。一方で、特定波長低減剤の含有量がより少ない第2領域120では、フォトクロミック色素に到達する上記波長の光の光量がより多く、フォトクロミック色素の変色がより生じやすい。そのため、光の照射時に、第2領域120では第1領域110よりも顕著な色調の変化が生じ、第2領域120の形状に応じた模様が発現する。
【0021】
一方で、上記フォトクロミック色素は、上記波長の光の到達を遮断したり、他の波長の光や熱などによる刺激を付与したりすると、呈する色調をもとの色調に変化させる。そのため、たとえば上記波長の光の照射を中断すると、第2領域120はもとの色調に戻り、上記発現した模様は消滅する。その後また上記波長の光を照射すると、第2領域120の形状に応じた模様は再び発現する。このように、樹脂成形体100は、第2領域120の形状に応じた模様を可逆的に発現可能である。
【0022】
なお、上記模様の発現とは、それ以前の状態と比べて模様が明瞭になるように外観が変化することを意味し、上記模様の消失とは、それ以前の状態比べて模様が不明瞭になるように外観が変化することを意味する。この限りにおいて、たとえば、上記波長の光を照射していないときに、第2領域120の形状に応じた模様がうっすらと視認できてもよいし、上記波長の光を照射したときに、第1領域110の変色が生じてもよい。
【0023】
上記模様の形状は特に限定されず、文字、キャラクターや風景などの絵柄、ならびに、線分、円および多角形などの幾何学的模様またはこれらの組み合わせなどとすることができる。模様が出現することによる嗜好性を高める観点からは、上記模様の形状は、文字、絵柄、および幾何学的模様の組み合わせであることが好ましい。これらの模様は、模様の外郭線の端部が樹脂成形体100の表面の端部に及んでいてもよいし、模様の外郭線の端部が樹脂成形体100の表面の端部から離れていて、樹脂成形体100の表面の内部で閉じた形状の模様であってもよい。
【0024】
(形状)
典型的には、樹脂成形体100は、単一部材の成形体である。言い換えると、樹脂成形体100は、変色量が少ない第1領域110を構成する成形体と、変色量が多い第2領域120を構成する成形体と、を互いにはめ合わせたものではなく、第1領域110と第2領域120との境界では、両者にまたがって同一の樹脂が延在している。
【0025】
また、樹脂成形体100は、単層構造、または模様を発現する成形体とその表面を被覆する保護層との2層構造、または上記被覆層を両面に有する3層構造であることが好ましく、単層構造であることがより好ましい。これらの層のみからなる単純な構成とすることで、模様の視認性を高めることができる。
【0026】
また、樹脂成形体100は、屈折率が1.70以下であることが好ましく、1.67以下であることがより好ましく、1.60以下であることがさらに好ましい。屈折率の下限値は特に限定されないが、1以上とすることができる。屈折率をより小さくすることで、模様の視認性を高めることができる。
【0027】
(ベース樹脂)
上記ベース樹脂は、樹脂成形体100の主成分となる樹脂であり、たとえば樹脂成形体100に含まれる樹脂成分のうち、50質量%以上を占める樹脂である。
【0028】
ベース樹脂の種類は特に限定されず、熱可塑性樹脂であっても熱硬化性樹脂であってもよい。また、ベース樹脂は、結晶性樹脂であっても非結晶性樹脂であってもよい。また、樹脂成形体100の樹脂成分は、ベース樹脂に加えて、他の樹脂を含有していてもよい。
【0029】
上記熱可塑性樹脂の例には、ポリエチレン(PE)系樹脂、ポリプロピレン(PP)系樹脂およびポリメチルペンテン系樹脂などを含むポリオレフィン(PO)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリブチレンテレフタレート(PBT)などを含むポリエステル(PEs)樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、熱可塑性ポリイミド(PI)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリフェニレンオキシド(PPO)樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、ポリフェニレンスルファイド(PPS)樹脂、ポリアセタール(POM)樹脂、アクリル系樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリスルホン(PSU)樹脂、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、ポリエーテルニトリル(PEN)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)樹脂、ならびに、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)およびポリフッ化ビニリデン(PVDF)などを含むフッ素樹脂などが含まれる。
【0030】
上記熱硬化性樹脂の例には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、チオウレタン樹脂、フラン樹脂、ケトン樹脂、キシレン樹脂、熱硬化性アクリル樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂およびジアリルテレフタレート樹脂などが含まれる。
【0031】
これらのうち、ベース樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が-10℃以上の樹脂であることが好ましい。上述した作用による模様の発現を生じやすくする観点からは、特定波長低減剤が第1領域110のみに留まり、第2領域120への特定波長低減剤の移動が生じにくいことが好ましい。そして、Tgがより高いほど、ベース樹脂の分子鎖が自由に運動しにくく、特定波長低減剤が移動する隙間が生じにくいため、第2領域120への特定波長低減剤の移動が生じにくいと考えられる。また、Tgがより高いほど、製造時に加温した液体と接触したときなどに樹脂が変性することによる着色が生じにくく、第2領域120における模様の発現がより明瞭に視認されやすいと考えられる。上記観点から、ベース樹脂のTgは、-10℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましく、30℃以上であることがさらに好ましく、40℃以上であることがさらに好ましく、50℃以上であることが特に好ましい。
【0032】
なお、Tgの上限は特に限定されないものの、分子鎖の運動によりフォトクロミック色素が構造変化できる隙間を生じやすくして、フォトクロミック色素の変色による模様の発現を生じやすくする観点、および製造時に樹脂成形体100の内部へ特定波長低減剤を染み込みやすくする観点からは、300℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましく、100℃以下であることがさらに好ましい。
【0033】
上記Tgは、固体動的粘弾性測定(Dynamic Mechanical Analysis;DMA)により測定された値である。具体的には、ベース樹脂を一辺0.5~3mmの立方体状の試験片に成形し、2℃/分の加熱速度で、-100℃から0℃まで試験片を加熱しつつ、初期荷重1000mN、振幅10μm、周波数1.0Hzの条件で圧縮にて変形させて温度-損失正接(tanδ)曲線を得る。そして、得られたtanδ曲線に現われるピークの頂点温度を、ベース樹脂のガラス転移温度(Tg)とする。なお、複数のピークが現れる場合は、最もピークの最大値の大きなピークの頂点温度をTgとする。
【0034】
また、ベース樹脂は、曲げ弾性率が600MPa以上の樹脂であることが好ましい。曲げ弾性率がより高いほど、ベース樹脂の分子鎖が自由に運動しにくく、特定波長低減剤が移動する隙間が生じにくいため、第2領域120への特定波長低減剤の移動が生じにくいと考えられる。また、曲げ弾性率がより高いほど、製造時に加温した液体と接触したときなどに樹脂が変性することによる着色が生じにくく、第2領域120における模様の発現がより明瞭に視認されやすいと考えられる。上記観点から、ベース樹脂の曲げ弾性率は、1000MPa以上であることが好ましく、1300MPa以上であることがより好ましく、1550MPa以上であることがさらに好ましく、1700MPa以上であることが特に好ましい。
【0035】
なお、曲げ弾性率の上限は特に限定されないものの、分子鎖の運動によりフォトクロミック色素が構造変化できる隙間を生じやすくして、フォトクロミック色素の変色による模様の発現を生じやすくする観点、および製造時に樹脂成形体100の内部へ特定波長低減剤を染み込みやすくする観点からは、4000MPa以下であることが好ましく、3000MPa以下であることがより好ましく、2500MPa以下であることがさらに好ましい。
【0036】
上記曲げ弾性率は、ASTM D790に準拠して23℃で測定される値とすることができる。
【0037】
また、ベース樹脂は、熱可塑性樹脂であることが好ましい。上述した作用による模様の発現を生じやすくする観点からは、フォトクロミック色素がベース樹脂中で構造変化しやすいことが望ましい。そして、三次元架橋構造により硬化しているため分子鎖が自由に運動しにくい熱硬化性樹脂よりも、熱可塑性樹脂のほうが、分子鎖の運動によりフォトクロミック色素が構造変化できる隙間を生じさせやすいと考えられる。
【0038】
(フォトクロミック色素)
上記フォトクロミック色素は、光の照射により呈する色調を変化させる色素であればよい。
【0039】
フォトクロミック色素の種類は特に限定されず、ナフトピラン、クロメン、スピロピラン、スピロオキサジンおよびチオスピロピラン、ベンゾピラン、スチルベン、アゾベンゼン、チオインジゴ、ビスイミダゾール、スピロジヒドロインドリジン、キニーネ、ペリミジンスピロシクロヘキサジエノン、ビオロゲン、フルギド、フルギミド、ジアリールエテン、ヒドラジン、アニリン、アリールジスルフィド、アリールチオスルホネート、スピロペリミジン、ならびにトリアリールメタンなどの化合物、ならびに、これらの化合物から誘導される誘導体などのいずれであってもよい。また、フォトクロミック色素は、これらの化合物または誘導体が抱合されるカプセル系色素であってもよい。フォトクロミック色素の種類は、第2領域120に発現すべき模様の色調に応じて選択すればよい。また、これらのフォトクロミック色素は、2種類以上を併用してもよい。
【0040】
フォトクロミック色素の種類は、第1領域110と第2領域120との間で異なっていてもよいが、後述する方法により容易に製造できるようにする観点からは、第1領域110および第2領域120の双方に同じ種類のフォトクロミック色素が含まれることが好ましく、第1領域110におけるフォトクロミック色素の主成分と第2領域120におけるフォトクロミック色素の主成分とは同一の色素であることが好ましい。なお、フォトクロミック色素の主成分とは、当該領域に含まれるフォトクロミック色素のうち、含有量(質量基準)が最も多いフォトクロミック色素を意味する。
【0041】
フォトクロミック色素の含有量は特に限定されないものの、樹脂成形体100の全質量に対して40ppm以上20000ppmとすることができ、100ppm以上15000ppm以下であることが好ましく、200ppm以上10000ppm以下であることがより好ましい。
【0042】
フォトクロミック色素の含有量は、第1領域110と第2領域120との間で異なっていてもよいが、後述する方法により容易に製造できるようにする観点からは、第1領域110と第2領域120との間で略同一であることが好ましい。略同一であるとは、第1領域110の全質量に対するフォトクロミック色素の含有量(質量基準)と、第2領域120の全質量に対するフォトクロミック色素の含有量(質量基準)と、の差が0ppm以上20ppm以下であることを意味する。
【0043】
フォトクロミック色素は、特定の波長の光を照射されたときに、呈する色調を変化させる。上記光の波長は特に限定されず、紫外領域(200nm以上400nm以下)、可視光領域(400nmより大きく750nm未満)および赤外領域(750nm以上1000μm未満)のいずれの領域に含まれる波長でもよいが、紫外領域または赤外領域に含まれる波長であることが好ましく、紫外領域に含まれる波長であることがより好ましく、近紫外領域(315nm以上400nm以下)に含まれる波長であることがさらに好ましい。
【0044】
(透過率調整剤)
上記透過率調整剤は、フォトクロミック色素が色調を変化させる波長の光を吸収または反射させることにより、当該波長の光の透過率を低減させる化合物である。透過率調整剤は、1種類のみを用いてもよし、透過率を低減させる波長が異なる2種類以上の透過率調整剤を併用してもよい。
【0045】
透過率調整剤が透過率を低減させる波長は、フォトクロミック色素に応じて選択すればよいが、樹脂組成物の外観を透明にする観点からは、紫外領域または赤外領域に含まれる波長であることが好ましく、紫外領域に含まれる波長であることがより好ましく、近紫外領域に含まれる波長であることがさらに好ましい。より具体的には、透過率調整剤は、極大吸収波長を紫外領域、可視光領域および赤外領域のいずれの領域に有してもよいが、紫外領域または赤外領域に有することが好ましく、紫外領域に有することがより好ましく、近紫外領域に有することがさらに好ましい。
【0046】
透過率調整剤の種類は、目的とする波長の光を吸収または反射する化合物であれば特に限定されない。たとえば、紫外領域に含まれる波長の光の透過率を低減させる透過率調整剤は、公知の紫外線吸収剤であればよい。
【0047】
紫外線吸収剤の例には、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、環状イミノエステル系紫外線吸収剤、およびシアノアクリレート系紫外線吸収剤などが含まれる。
【0048】
透過率調整剤の含有量は、第1領域110と第2領域120との間で異なる。たとえば、第1領域110の全質量に対する透過率調整剤の含有量(質量基準)と、第2領域120の全質量に対する透過率調整剤の含有量(質量基準)と、の差は、40ppm以上4000ppm以下であることが好ましく、100ppm以上4000ppm以下であることがより好ましく、1000ppm以上4000ppm以下であることがさらに好ましい。
【0049】
樹脂組成物における紫外線吸収剤の含有量は特に限定されないものの、樹脂成形体100の全質量に対して40ppm以上4000ppmとすることができ、100ppm以上3000ppm以下であることが好ましく、200ppm以上2000ppm以下であることがより好ましい。
【0050】
(その他の成分)
樹脂成形体100は、これら以外の成分を含んでいてもよい。
【0051】
たとえば、樹脂成形体100は、可塑剤、ブロッキング防止剤、耐熱安定剤、耐光安定剤、酸化防止剤、離型剤、触媒、顔料、フォトクロミック色素以外の染料、滑剤、フィラー、帯電防止剤、および加水分解防止剤などを含んでいてもよい。
【0052】
これらの成分の含有量は、フォトクロミック色素への光の照射による、当該フォトクロミック色素の変色を阻害しない程度、言い換えると、樹脂成形体100の内部への透過の透過を過剰に阻害しない程度であればよい。
【0053】
(用途)
樹脂成形体100の用途は特に限定されないが、各種装飾品または遊具として好適に使用することができる。
【0054】
たとえば、樹脂成形体100は、指輪、ブレスレット、ネックレス、イヤリング、髪飾り、ボタン、ブローチ、鞄用持ち手、カフス、バングル、アンクレット、アームレット、つけ爪、サングラス、メガネフレーム、玩具、サンバイザー、ヘルメット、マスク、フェイスガード、靴、およびシューズソールなどに好適に使用することができる。
【0055】
[樹脂成形体100の製造方法]
図3は、本発明の別の実施形態に関する、樹脂成形体100の製造方法のフローチャートである。
図4A~
図4Cは、樹脂成形体の製造方法における各工程の様子を示す模式斜視図である。
【0056】
樹脂成形体100は、(1)フォトクロミック色素とベース樹脂とを含む基材成形体を用意する工程(工程S110)と、(2)基材成形体の表面を部分的にマスキングする工程(工程S120)と、(3)上記部分的にマスキングをされた基材成形体を、上記フォトクロミック色素が色調を変化させる波長の光の透過率を低減させる特定波長低減剤を含む液体と接触させる工程(工程S130)と、を有する方法により製造することができる。以下、各工程について詳細に説明する。
【0057】
(1)基材成形体の用意(工程S110)
本工程では、樹脂成形体100の基材となる成形体(以下、単に「基材成形体」ともいう。)を用意する(
図4A)。
【0058】
基材成形体400は、ベース樹脂、フォトクロミック色素、および任意に添加される他の成分を含む樹脂組成物を、公知の方法で樹脂成形体100の形状に成型する方法で、作製することができる。
【0059】
上記成型方法は特に限定されず、ベース樹脂が熱可塑性樹脂であるときは、射出成型、押出成形、プレス成型、ブロー成型、インフレーション成形、インサート成形、真空成型、圧空成形、カレンダー成形、および付加造形などの方法で成形すればよい。また、ベース樹脂が熱硬化性樹脂であるときは、圧縮成形、トランスファー成形、インサート成形、および付加造形などの方法で成形すればよい。
【0060】
このようにして得られた基材成形体400は、得ようとする樹脂成形体100と略同一の形状を有し、ただし第1領域110と第2領域120の区別がされていない。言い換えると、基材成形体400は、そのすべてが第2領域120であり、光の照射によりその全体が変色する。
【0061】
なお、基材成形体400はこれらの方法で成形したものを用意してもよいし、予め成形されたものを購入等してもよい。
【0062】
(2)部分的マスキング(工程S120)
次に、前工程で用意した基材成形体400の表面を、部分的にマスキングする(
図4B)。
【0063】
本工程でマスキングされていない領域は、次工程で基材成形体400の内部に特定波長低減剤が染み込むことにより、特定波長低減剤の含有量がより多い第1領域110となる。一方で、本工程でマスキングされた領域は、次工程で基材成形体400の内部に特定波長低減剤がさほど染み込まないため、特定波長低減剤の含有量がより少ない第2領域120となる。
【0064】
マスキングの方法は特に限定されない。インクジェット法などの印刷方法により樹脂製の皮膜を形成してもよいが、水の透過性が低い公知のマスキングテープや離型紙などを両面テープまたは接着剤などで基材成形体400の表面に貼り付けてもよい。
図4Bでは、基材成形体400の表面にマスキングテープ410を張り付けて、基材成形体400をマスキングしている。
【0065】
マスキングの形状は、第2領域120の形状にあわせた形状とする。
【0066】
(3)特定波長低減剤を含む液体との接触(工程S130)
次に、前工程で部分的にマスキングした基材成形体400を、特定波長低減剤を含む液体と接触させる(
図4C)。
【0067】
本発明において、上記液体から特定波長低減剤が基材成形体400の内部に染み込む。このとき、マスキングをした領域では特定波長低減剤の染み込みがマスキングにより阻害されるため、特定波長低減剤は主に、マスキングをしていない領域から基材成形体400の内部に染み込んでいく。これにより、特定波長低減剤の含有量がより多い第1領域110と、特定波長低減剤の含有量がより少ない第2領域120と、が形成される。
【0068】
上記液体と基材成形体400との接触方法は特に限定されない。たとえば、上記液体を貯留する液槽に基材成形体400を所定時間浸漬してもよいし、上記液体を連続的に吹きかけてもよい。
図4Cでは、マスキングテープ410によりマスキングされた基材成形体400を、クレーン420で保持して、液槽430に貯留された特定波長低減剤を含む液体440に浸漬させている。
【0069】
上記液体の液体成分は、特定波長低減剤を溶解または十分に分散させることができ、かつ基材成形体400を溶解または浸食しないものであれば特に限定されないが、水であることが好ましい。
【0070】
上記接触時の上記液体の液温は、特に限定されないものの、60℃以上110℃以下であることが好ましく、70℃以上90℃以下であることがより好ましい。液温を上位範囲にすると、基材成形体400の内部への特定波長低減剤の染み込みを促進することができる。
【0071】
上記接触を続ける時間は、特に限定されないものの、10分以上120分以下であることが好ましく、20分以上60分以下であることがより好ましい。特に、接触時間を20分以上とすると、基材成形体400の内部へ特定波長低減剤を十分に染み込ませることができる。接触を60分以下とすると、基材成形体400の内部への特定波長低減剤が過剰に染み込むことによる、第1領域110の変色不足を抑制することができる。
【0072】
その後、基材成形体400の表面に付着した液体を、拭き取りや乾燥などの方法で除去することにより、特定波長低減剤が十分に染み込んだ第1領域110と、特定波長低減剤の染み込みが抑制された第2領域120と、を有する樹脂成形体100を得ることができる。この樹脂成形体100は、光の照射により、マスキングと略同一形状である第2領域120の形状に応じた模様が発色する。
【0073】
[その他の実施形態]
なお、上述の各実施形態はそれぞれ本発明の一例を示すものであり、本発明は上述の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の思想の範囲内において、他の種々多様な各実施形態も可能であることは言うまでもない。
【実施例0074】
以下、実施例を参照して本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は実施例の記載に限定されない。
【0075】
なお、以下の実施例で用いたフォトクロミック色素はいずれも、近紫外領域の波長の光を照射されることにより呈する色調を変化させるものであり、特定波長低減剤はいずれも、近紫外領域の波長の光の透過を遮断するものである。
なお、以下の実験でベース樹脂として用いた樹脂のガラス転移温度(Tg)および曲げ弾性率は、以下の通りである。
【0076】
【0077】
上記Tgは、固体動的粘弾性測定(DMA)により測定された値である。具体的には、ベース樹脂を一辺0.5~3mmの立方体状の試験片に成形し、2℃/分の加熱速度で、-100℃から0℃まで試験片を加熱しつつ、初期荷重1000mN、振幅10μm、周波数1.0Hzの条件で圧縮にて変形させて温度-損失正接(tanδ)曲線を得た。そして、得られたtanδ曲線に現われるピークの頂点温度を、ベース樹脂のガラス転移温度(Tg)とした。なお、複数のピークが現れる場合は、最もピークの最大値の大きなピークの頂点温度をTgとした。
【0078】
上記曲げ弾性率は、ASTM D790に準拠して23℃で測定された値である。
【0079】
(実験1)
100.0gのポリプロピレン(三井化学株式会社製、製品名:J-6083HP)および0.040gのフォトクロミック色素(三井化学株式会社製、製品名:SunSensors new Green dye)を2軸の混練機により220~240℃で混練した。次いで、鉄製の200mm×200mm×2mmの型枠中に上記混合物を流し込み、熱プレス機によりプレスした後に室温まで冷却し、板状の基材成形体を得た。
【0080】
この板状の基材成形体を所定の大きさに切断し、所定の形にカットしたマスキングシール(リンテック株式会社製、製品名:PET 50(A)PAT1 8LK)を貼付した。マスキングした基材成形体を、特定波長低減剤(BPI社製、製品名:UV ONLY 400nm XL)を水で2倍に希釈した溶液1Lに80℃で30分間含浸した。浸漬後の基材成形体をよく水洗したのちマスキングをはがして、樹脂成形体1を得た。樹脂成形体1には目立った凹凸は認められず、紫外線を照射するとマスキング部分の模様が浮き上がり、紫外線照射をやめると数分で元の白色に戻った。
【0081】
樹脂成形体1のマスキングした面を研磨しながら紫外線を照射したところ、厚み方向に0.4mm研磨したところで、紫外線照射により樹脂成形体の全面が着色するようになった。この結果から、厚み方向に0.4mmの地点まで、特定波長低減剤が染み込んでいることがわかった。
【0082】
(実験2)
樹脂成形体1の作製に用いたフォトクロミック色素を0.10gのフォトクロミック色素(三井化学株式会社製、製品名:SunSensors new Green dye)に変更した以外は同様にして、樹脂成形体2を得た。樹脂成形体2には目立った凹凸は認められず、紫外線を照射するとマスキング部分の模様が浮き上がり、紫外線照射をやめると数分で元の白色に戻った。
【0083】
(実験3)
樹脂成形体1の作製に用いたフォトクロミック色素を0.10gのフォトクロミック色素(山田化学工業株式会社製、製品名:フォトピア青)に変更した以外は同様にして、樹脂成形体3を得た。樹脂成形体3には目立った凹凸は認められず、紫外線を照射するとマスキング部分の模様が浮き上がり、紫外線照射をやめると数分で元の白色に戻った。
【0084】
(実験4)
樹脂成形体1の作製に用いたフォトクロミック色素を0.10gのフォトクロミック色素(山田化学工業株式会社製、製品名:フォトピア紫)に変更した以外は同様にして、樹脂成形体4を得た。樹脂成形体4には目立った凹凸は認められず、紫外線を照射するとマスキング部分の模様が浮き上がり、紫外線照射をやめると数分で元の白色に戻った。
【0085】
(実験5)
樹脂成形体1の作製に用いたポリプロピレンを100.0gのポリメチルペンテン(三井化学株式会社製、製品名:TPX MX002)に変更した以外は同様にして、樹脂成形体5を得た。樹脂成形体5には目立った凹凸は認められず、紫外線を照射するとマスキング部分の模様が浮き上がり、紫外線照射をやめると数分で元の白色に戻った。
【0086】
(実験6)
100.0gのアクリル樹脂モノマー(三井化学株式会社製、製品名:SSS-50HPMモノマー)に0.0745gのフォトクロミック色素(三井化学株式会社製、製品名:SSS-New-Blue)および0.0610gのフォトクロミック色素(三井化学株式会社製、製品名:SSS-New-Green)を添加し、溶解した。この溶液に0.15gの触媒(アルケマ吉富株式会社製、製品名:ルぺロックス826)および0.55gの触媒(アルケマ吉富株式会社製、製品名:ルぺロックス10M70)を添加し、混合した。この混合液を、真空ポンプを用いて133~400Paの減圧度で30分間減圧脱気した後に、1μmのメンブランフィルターでろ過し、さらに攪拌しながら、泡が消えるまで0.5時間真空ポンプで減圧脱気操作を実施した。その後、この混合液を2枚のガラス板とシール材で構成される成形型に注入し、オーブンにて室温から100度まで14時間かけて昇温し、重合硬化を行ったのち脱型することで、厚さ2mm、直径70mmの円盤状の基材成形体を得た。
【0087】
この円盤状の基材成形体を所定の大きさに切断して削り、所定の形にカットしたマスキングシール(リンテック株式会社製、製品名PET 50A PLシン 11BL)を貼付した。マスキングした基材成形体を、特定波長低減剤(BPI社製、製品名:UV ONLY XL)を水で2倍に希釈した溶液1Lに80℃で30分間含浸した。浸漬後の基材成形体をよく水洗したのちマスキングをはがして、樹脂成形体6を得た。樹脂成形体6には目立った凹凸は認められず、紫外線を照射するとマスキング部分の模様が浮き上がり、紫外線照射をやめると数分で元の透明に戻った。
【0088】
(実験7)
樹脂成形体6の作製に用いたマスキングシール(リンテック株式会社製、製品名RE5054)に変更した以外は同様にして、樹脂成形体7を得た。樹脂成形体7には目立った凹凸は認められず、紫外線を照射するとマスキング部分の模様が浮き上がり、紫外線照射をやめると数分で元の透明に戻った
【0089】
(実験8)
樹脂成形体6の作製に用いたフォトクロミック色素を0.10gのフォトクロミック色素(山田化学工業株式会社製、製品名:フォトピア青)に変更した以外は同様にして、樹脂成形体8を得た。樹脂成形体8には目立った凹凸は認められず、紫外線を照射するとマスキング部分の模様が浮き上がり、紫外線照射をやめると数分で元の透明に戻った
【0090】
(実験9)
樹脂成形体6の作製に用いたフォトクロミック色素を0.10gのフォトクロミック色素(山田化学工業株式会社製、製品名:フォトピア紫)に変更した以外は同様にして、樹脂成形体9を得た。樹脂成形体9には目立った凹凸は認められず、紫外線を照射するとマスキング部分の模様が浮き上がり、紫外線照射をやめると数分で元の透明に戻った
【0091】
(実験10)
23.19gのノルボルネンジイソシアネート組成物(三井化学株式会社製)に0.00106gのフォトクロミック色素(三井化学株式会社製、製品名:SunSensors new Green dye)を添加し、さらに0.10gの離型剤(城北化学工業株式会社製、製品名:JP506H)を添加し、室温で攪拌し溶解した。この溶液に、1.0gのブロックコポリマー(BASF社製、製品名:プルロニックPE4300)を添加し、室温で一時間攪拌した。さらにこの溶液に10.55gのペンタエリスリトールテトラキス3-メルカプトプロピオネート(三井化学株式会社製)を添加し、30分間攪拌した。
【0092】
溶液が均一となった後に、0.027gの触媒(シグマアルドリッチ社製、二塩化ジブチルスズ)を溶解した11.26gの4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン(三井化学株式会社製)を加えて1時間攪拌した。この混合液を、真空ポンプを用いて133~400Paの減圧度で30分間減圧脱気した後に1μmのメンブランフィルターでろ過し、さらに攪拌しながら、泡が消えるまで2時間真空ポンプで減圧脱気操作を実施した。その後、この混合液を2枚のガラス板とシール材で構成される成形型に注入し、オーブンにて室温から120度まで14時間かけて昇温し、重合硬化を行ったのち脱型することで、厚さ2mm、直径70mmの円盤状の基材成形体を得た。
【0093】
この円盤状の基材成形体を所定の大きさに切断して削り、マスキングシール(リンテック株式会社製、製品名PET 50(A)PAT1 8LK)を貼付した。マスキングした基材成形体を、特定波長低減剤(BPI社製、製品名:UV ONLY XL)を水で2倍に希釈した溶液1Lに80℃で30分間含浸した。浸漬後の基材成形体をよく水洗したのちマスキングをはがして、樹脂成形体10を得た。樹脂成形体10には目立った凹凸は認められず、紫外線を照射するとマスキング部分の模様が浮き上がり、紫外線照射をやめると数分で元の透明に戻った
【0094】
(実験11:比較例)
樹脂成形体1の作製に用いたポリプロピレンを100.0gの熱可塑性ポリウレタン(三井化学社製、製品名:フォルティモ XET-T1085)に変更した以外は同様にして、樹脂成形体11を得た。樹脂成形体11は、特定波長低減剤(BPI社製、製品名:UV ONLY XL)を希釈した溶液への含浸後に樹脂の全体が黄変しており、紫外線を照射してもマスキング部分の変色は見られなかった。