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特開2022-80039ペン先およびこのペン先を備えるタッチペン
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  • 特開-ペン先およびこのペン先を備えるタッチペン 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022080039
(43)【公開日】2022-05-27
(54)【発明の名称】ペン先およびこのペン先を備えるタッチペン
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/03 20060101AFI20220520BHJP
   B43K 1/12 20060101ALI20220520BHJP
【FI】
G06F3/03 400F
B43K1/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020190982
(22)【出願日】2020-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000103600
【氏名又は名称】オーベクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002778
【氏名又は名称】特許業務法人IPシーガル
(72)【発明者】
【氏名】森 紀博
【テーマコード(参考)】
2C350
【Fターム(参考)】
2C350GA04
2C350HA15
2C350NA03
2C350NC02
2C350NC21
2C350NC30
2C350NC33
(57)【要約】      (修正有)
【課題】優れた筆記感と高い耐久性を有し、特にタッチペン用のペン先として利用する場合には、水に濡れたことによる誤動作が起こらないか又は極めて高い確率で抑制することができるペン先及びこのペン先を備えるタッチペンを提供する。
【解決手段】ペン先1は、長尺棒状のペン先主体2からなるもので、ペン先主体2を、少なくとも対象(紙やタッチパネルなどの筆記等の対象)と接触し得る部分2aの表面が撥水性を有するよう構成したものである。したがって、ペン先1は、ペン先主体2を構成する材料に起因する特性を保持したまま、高い耐久性を有し、水ないし水分の付着による影響がないか又は抑制される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺棒状のペン先主体からなるペン先であって、
前記ペン先主体は、
少なくとも対象と接触し得る部分の表面が撥水性を有するよう構成されていること
を特徴とするペン先。
【請求項2】
前記ペン先主体は、
その内部に、一又は複数の所要の大きさの空隙ないし空洞を有すること
を特徴とする請求項1に記載のペン先。
【請求項3】
前記ペン先主体は、
少なくとも対象と接触し得る部分が、複数の繊維を集束してなる繊維束と、前記繊維束を結着する接着用樹脂とで構成されていること
を特徴とする請求項1に記載のペン先。
【請求項4】
前記繊維は、
ナイロン繊維であること
を特徴とする請求項3に記載のペン先。
【請求項5】
前記接着用樹脂は、
イソシアネート化合物を含む硬化剤を含有するポリウレタン系接着用樹脂、イソシアネート化合物を含む硬化剤を含有する変性エポキシ系接着用樹脂、反応性基としてエポキシ基を有するエポキシ系接着用樹脂から選択されること
を特徴とする請求項3又は4に記載のペン先。
【請求項6】
前記ペン先主体は、
その気孔率が20~80%になるよう構成されていること
を特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のペン先。
【請求項7】
前記ペン先主体は、
対象と接触し得る部分に、500gfの垂直荷重を負荷したときの変形量が、0.01~0.2mmであること
を特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のペン先。
【請求項8】
前記ペン先主体は、
対象と接触し得る部分に、垂直荷重を負荷して0.5mm押し潰したのち荷重を除去したときの弾性復元率が50~100%であること
を特徴とする請求項1~7のいずれかに記載のペン先。
【請求項9】
前記ペン先主体は、
少なくとも対象と接触し得る部分がプラスチック又はエラストマーで構成されていること
を特徴とする請求項1又は2に記載のペン先。
【請求項10】
前記ペン先は、
タッチペン用のペン先であること
を特徴とする請求項1~9のいずれかに記載のペン先。
【請求項11】
前記ペン先主体は、
導電性を有するものであること
を特徴とする請求項1~10のいずれかに記載のペン先。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載のペン先を備えること
を特徴とするタッチペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ペン先と、このペン先を備えるタッチペンに関するものである。
より詳しくは、優れた筆記感と高い耐久性を有し、特にタッチペン用のペン先として利用する場合には、水に濡れたことによる誤動作が起こらないか又は極めて高い確率で抑制することができるペン先と、このペン先を備えるタッチペンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、外部から受けた画像などの情報を液晶ディスプレイに表示する表示装置と、画面に表示された部位にタッチすることで機器を操作する入力装置からなるタッチパネルにおいては、指やペンなどの入力手段によって所定位置を押圧することにより、所定の情報等を入力することが行われている。
【0003】
近年、このようなペンにおいては、紙に筆記するのに近い筆記感(ないし書き味)が要求されてきており、筆記感に優れたペン先についての検討が行われている。
【0004】
例えば、特開2015-079347号公報(特許文献1)においては、従来使用しているペンと書き味が変わらないタッチパネル等に使用できるペン先が提案されている。
【0005】
このペン先は、繊維束からなるペン先本体に導電性物質を被覆することにより、導電化させたものである。
【0006】
さらに、特開2019-185653号公報(特許文献2)においては、電子ペンを噛んだり、咥えたり、舐めたりする癖の動作が繰り返し行われることを防止し、唾液の浸透による電子ペンの誤動作や故障を効果的に防止できる電子ペン用の芯が提案されている。
【0007】
この電子ペン用の芯は、電子ペン用の棒状の芯であって、
電子ペンに装着された場合に、一端が前記電子ペンの先端の開口より突出し、
前記一端から軸心方向に気孔または空隙が設けられており、
少なくとも前記一端の側には、苦味物質が毛細管現象により浸み込まされているものである。
【0008】
さらにまた、特開2014-102788号公報(特許文献3)においては、適度な摺動性や筆記抵抗(引っ掛かり感)があって、使用感が良好なタッチパネル用ペン先が提案されている。
【0009】
このタッチパネル用ペン先は、横断面視において中心部から外方向に向かって放射状に延びるリブを有し、かつエラストマからなる芯部材の外周部を、樹脂素材からなる外皮で被覆して軸部材を構成したもので、
前記軸部材の先端部の外皮を除去し、前記芯部材の先端部を顕出させてタッチ部としたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2015-079347号公報(特許請求の範囲,図1~4)
【特許文献2】特開2019-185653号公報(特許請求の範囲,図2及び3)
【特許文献3】特開2014-102788号公報(特許請求の範囲,図1~3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来のペン先において、筆記感において改善されたものは、その内部に連通するよう形成された空隙や気孔を有するため、不注意によって水が付着した場合や、多湿環境などの所定の環境下に置かれることにより生じる結露などによって水分が付着した場合に、この空隙や気孔を通じて内部に水ないし水分が浸透しやすいものである。
したがって、ペン先の内部への水ないし水分の浸透によって、ペン先が少なからず膨潤し、ペン先の寸法が増大する、という問題があった。
さらに、ペン先の寸法の増大によって、ペン先とこのペン先が嵌め込まれているタッチペン本体との嵌合がきつくなることによりペン先の動きが悪くなる、或いはペン先の全長が伸びることによりペン先の出寸法が長くなるなど、タッチペンとしての動作がスムーズに行われなくなる、という問題もあった。
さらにまた、タッチパネル用のペン先として利用する場合においては、水に濡れ、又は水分が付着して内部に浸透することによって、タッチペン本体内部の電子回路が誤動作するなどの不具合が生じるおそれもあった。
よって、前記特許文献1及び3に開示されているペン先は、その内部に水ないし水分が浸透しない点において、さらなる改善が求められる。
【0012】
前記特許文献2に開示されている電子ペン用の芯では、この芯が突出している部分を、繰り返し、噛んだり、咥えたり、舐めたりすることは防止されるものの、内部への水ないし水分の浸透の問題そのものを解決するものではなく、また筆記感において、さらなる改善が求められるものである。
【0013】
この発明はかかる現状に鑑み、優れた筆記感と高い耐久性を有し、特にタッチペン(タッチパネル)用のペン先として利用する場合には、水に濡れて内部に水が浸透することによる誤動作が起こらないか又は極めて高い確率で抑制することができるペン先、特にタッチペン用のペン先およびこのペン先を備えるタッチペンを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、この発明にかかる請求項1に記載の発明は、
長尺棒状のペン先主体からなるペン先であって、
前記ペン先主体は、
少なくとも対象と接触し得る部分の表面が撥水性を有するよう構成されていること
を特徴とするペン先である。
【0015】
この発明の請求項2に記載の発明は、
請求項1に記載のペン先において、
前記ペン先主体は、
その内部に、一又は複数の所要の大きさの空隙ないし空洞を有すること
を特徴とするものである。
【0016】
この発明の請求項3に記載の発明は、
請求項1に記載のペン先において、
前記ペン先主体は、
少なくとも対象と接触し得る部分が、複数の繊維を集束してなる繊維束と、前記繊維束を結着する接着用樹脂とで構成されていること
を特徴とするものである。
【0017】
この発明の請求項4に記載の発明は、
請求項3に記載のペン先において、
前記繊維は、
ナイロン繊維であること
を特徴とするものである。
【0018】
この発明の請求項5に記載の発明は、
請求項3又は4に記載のペン先において、
前記接着用樹脂は、
イソシアネート化合物を含む硬化剤を含有するポリウレタン系接着用樹脂、イソシアネート化合物を含む硬化剤を含有する変性エポキシ系接着用樹脂、反応性基としてエポキシ基を有するエポキシ系接着用樹脂から選択されること
を特徴とするものである。
【0019】
この発明の請求項6に記載の発明は、
請求項1~5のいずれかに記載のペン先において、
前記ペン先主体は、
その気孔率が20~80%になるよう構成されていること
を特徴とするものである。
【0020】
この発明の請求項7に記載の発明は、
請求項1~6のいずれかに記載のペン先において、
前記ペン先主体は、
対象と接触し得る部分に、500gfの垂直荷重を負荷したときの変形量が、0.01~0.2mmであること
を特徴とするものである。
【0021】
この発明の請求項8に記載の発明は、
請求項1~7のいずれかに記載のペン先において、
前記ペン先主体は、
対象と接触し得る部分に、垂直荷重を負荷して0.5mm押し潰したのち荷重を除去したときの弾性復元率が50~100%であること
を特徴とするものである。
【0022】
この発明の請求項9に記載の発明は、
請求項1又は2に記載のペン先において、
前記ペン先主体は、
少なくとも対象と接触し得る部分がプラスチック又はエラストマーで構成されていること
を特徴とするものである。
【0023】
この発明の請求項10に記載の発明は、
請求項1~9のいずれかに記載のペン先において、
前記ペン先は、
タッチペン用のペン先であること
を特徴とするものである。
【0024】
この発明の請求項11に記載の発明は、
請求項1~10のいずれかに記載のペン先において、
前記ペン先主体は、
導電性を有するものであること
を特徴とするものである。
【0025】
この発明の請求項12に記載の発明は、
請求項1~11のいずれかに記載のペン先を備えること
を特徴とするタッチペンである。
【発明の効果】
【0026】
この発明のペン先は、長尺棒状のペン先主体からなるもので、前記ペン先主体は、少なくとも対象(紙やタッチパネルなどの筆記、描画等(以下、「筆記等」という。)の対象)と接触し得る部分、特に先端(先端部)の表面が撥水性を有するよう構成されている。
したがって、前記ペン先は、前記ペン先主体を構成する材料に起因する特性を保持したまま、高い耐久性を有し、水ないし水分の付着による影響がないか又は抑制される。
さらに、前記ペン先を、タッチパネル用のペン先として使用する場合には、水に濡れて内部に水が浸透することによる誤動作が起こらないか又は極めて高い確率で抑制される。
【0027】
前記ペン先においては、前記ペン先主体を、その内部に、一又は複数の所要の大きさの空隙ないし空洞が形成されるよう構成することができる。
このような構成によって、前記ペン先は、筆記等の際に所定の筆圧が加わったときには前記空隙ないし空洞が変形して、クッションと同様の役割を果たすので、適度な柔軟性及び弾力と防滑性とを併せ持った筆記感を有するものとなる。
なお、この作用効果は、前記ペン先主体を多孔質の材料で構成した場合に、顕著である。
【0028】
さらに、前記ペン先においては、前記ペン先主体、特にその少なくとも対象と接触し得る部分を、複数の繊維を集束してなる繊維束と、前記繊維束を結着する接着用樹脂とで構成することができる。
このような構成によって、前記ペン先では、紙やタッチパネルなどの対象に対して筆記等をするに際しては、優れた筆記感が得られる。
さらに、このペン先においては、長期に亘って繰り返し折り曲げ、使用される場合であってもバラケることがないか抑えられ、高い耐久性が得られるので、筆記感と耐久性の両特性を、長期に亘って同時かつ十分に発揮できる。
【0029】
前記ペン先においては、前記繊維として、ナイロン繊維を選択することができ、前記接着用樹脂として、イソシアネート化合物を含む硬化剤を含有するポリウレタン系接着用樹脂、イソシアネート化合物を含む硬化剤を含有する変性エポキシ系接着用樹脂、反応性基としてエポキシ基を有するエポキシ系接着用樹脂から選択することができる。
このような構成によれば、ナイロン繊維は、高い極性表面を有し、接着用樹脂と強固に接着するので、長期に亘って繰り返し折り曲げ、使用される場合であってもバラケることがないか抑えられるので、ペン先において高い耐久性が得られ、長期に亘って柔軟性と弾力性と防滑性とを兼ね備えた筆記感が実現される。
特に、イソシアネート基を有する化合物を含む接着用樹脂を選択した場合には、イソシアネート基がナイロンの極性表面と強固に接着するため、この作用効果は顕著である。
【0030】
さらに、前記ペン先においては、前記ペン先主体を、その気孔率が20~80%になるよう構成することができる。
このような構成によって、前記ペン先は、適度な柔軟性及び弾力と防滑性とを併せ持った筆記感を有するものとなる。
【0031】
さらに、前記ペン先においては、前記ペン先主体を、対象と接触し得る部分、特に先端に、500gfの垂直荷重を負荷したときの変形量が、0.01~0.2mmとなるよう構成することができる。
このような構成によって、使用者から筆圧がかけられたとしてもペン先は潰れにくいものとなるので、長期の使用に際しても耐久性が高いペン先を得ることができる。
【0032】
特に、前記ペン先においては、前記ペン先主体が、少なくとも対象と接触し得る部分において、複数の繊維を集束してなる繊維束と、前記繊維束を結着する接着用樹脂とで構成されている場合に、使用者の筆圧等によって接着剤(接着用樹脂)がはがれて繊維がバラケることがないか抑えられるという作用効果が得られる。
前記ペン先をタッチパネル用のペン先(タッチペン)として使用する場合には、タッチパネルを叩くように使用することもある。
したがって、前記ペン先が前記繊維束を接着用樹脂で結着して得られるペン先主体で構成されているときには、使用者の筆圧等によって接着剤がはがれて繊維がバラケることがある。
しかしながら、上記構成によれば、ペン先及びこれを構成するペン先主体が筆圧等で変形しにくくなるため、接着剤がはがれにくくなり、その結果、ペン先主体を構成する繊維がバラケにくくなる。
なお、この作用効果は、前記繊維として、高い極性表面を有するナイロン繊維を選択し、前記接着用樹脂として、イソシアネート基を有する化合物を含む接着用樹脂を選択した場合に、顕著である。
【0033】
さらに、前記ペン先においては、前記ペン先主体を、対象と接触し得る部分、特に先端に、垂直荷重を負荷して0.5mm押し潰したのち荷重を除去したときの弾性復元率が50~100%となる(前記部分の寸法が0.25~0.5mm程度まで戻る)よう構成することができる。
より好ましくは前記ペン先主体を、前記弾性回復率が75~99%となる(前記部分の寸法が0.375~0.495mm寸法が戻る)よう構成する。
このような構成によって、前記ペン先は、軟質でフレキシブルな筆記感と適度な弾性感とを兼ね備えたものとなる。
【0034】
なお、前記ペン先をタッチパネル用のペン先(タッチペン)として使用する場合には、太い筆記線を描くためにペン先に強い筆圧をかけることがある。
したがって、前記ペン先が前記繊維束を接着用樹脂で結着して得られるペン先主体で構成されているときには、使用者の強い筆圧等によって接着剤(接着用樹脂)が破断又は繊維からはがれ、ペン先が変形し、潰れたままになり、さらに繰り返し使用されたときにはペン先主体を構成する繊維がバラケるという問題が生じるおそれがある。
しかしながら、上記構成によれば、ペン先ないしこれを構成するペン先主体は、優れた柔軟性を有するものとなり、筆圧等によって一時的に変形しても、接着剤が破断等を起こさずに繊維からはがれにくいものとなり、軟質でフレキシブルな筆記感と適度な弾性感とを兼ね備えるばかりでなく、耐久性にも富んだものとなる。
なお、この作用効果は、前記繊維として、高い極性表面を有するナイロン繊維を選択し、前記接着用樹脂として、イソシアネート基を有する化合物を含む接着用樹脂、より好ましくはポリウレタン系接着用樹脂、特に軟質のポリウレタン系接着用樹脂を選択した場合に、顕著である。
【0035】
さらにまた、前記ペン先においては、前記ペン先主体、特にその少なくとも対象と接触し得る部分を、プラスチック又はエラストマーで構成することができる。
このような構成によって、前記ペン先は、強度や、耐久性、耐摩耗性などにおいて優れたものとなり、前記構成材料としてプラスチックを選択した場合には、比較的硬い筆記感を有し、前記構成材料としてエラストマーを選択した場合には、比較的柔らかく弾力性のある筆記感を有する。
【0036】
前記ペン先は、特に、タッチパネル(タッチペン)用のペン先に適用することができるものである。
特に、前記ペン先主体について、これが導電性を有するように構成したときには、ペン先は、静電容量方式のタッチパネルの場合においては、タッチパネルの画面との接触に際して、前記導電性によって、静電容量変化に伴う電気量変化を十分に発生させるものとなり、電磁誘導方式のタッチパネルの場合においては、電磁エネルギーや電波を発するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】この発明にかかるペン先の一例を示す概略説明図である。
図2】この発明にかかるペン先の水の浸透性を示すグラフ図である。
図3】この発明にかかるペン先の水の浸透性を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、この発明にかかるペン先の実施の形態を、添付の図面に基づいて具体的に説明する。
なお、この発明のペン先は、図示の実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を変更しない範囲内で改良を加えることができるものである。
【0039】
この発明にかかるペン先1(以下、「ペン先1」という。)は、図1に示されるように、長尺棒状のペン先主体2で構成されたものである。
前記ペン先主体2は、少なくとも、紙やタッチパネルなどの対象と接触し得る部分の表面が撥水性を有するよう構成されている。
このような構成によって、前記ペン先1は、前記ペン先主体2を構成する材料に起因する特性を保持したまま、高い耐久性を有し、水ないし水分の付着による影響がないか又は抑制される。
特に、前記ペン先を、タッチペン(タッチパネル用のペン)のペン先として使用する場合には、水ないし水分が付着して、内部に浸透し、タッチペン本体の電子回路に達することによる誤動作が起こらないか又は抑制される。
さらに、多孔質であること及び/又は空隙ないし空洞を有することによる毛管上昇現象によって吸水性が高く、吸水による寸法変化が大きい材料(例えばナイロン繊維)などのタッチペンのペン先の材料として敬遠されてきたものであっても使用することが可能となるので、選択できる材料の幅が広くなることが期待できる。
【0040】
なお、この発明において、「多孔質」とは、緻密でもなく、中空でもない状態をいう。
【0041】
図1において、ペン先主体2は、前記対象と接触し得る部分を含め、その全体が撥水性を有するよう構成されている。
したがって、前記ペン先主体2は、その全体が撥水性を有するよう構成されているので、水ないし水分がペン先の先端以外から付着した場合であっても、その影響がないか又は抑制される。
【0042】
この発明において、「撥水性を有する」とは、前記表面における水との接触角が角度90°以上、好ましくは95°以上であることをいう。
なお、前記接触角は、液滴法によって測定することができる。
【0043】
この発明において、前記ペン先主体2については、このペン先主体2を構成する材料が撥水性を有していてもよいし、前記ペン先主体2を構成する材料を基材とし、この基材に、撥水性を有するものになるよう撥水処理が施されていてもよい。
その際、前記撥水処理のために使用される各種撥水処理剤の組み合わせを適宜調整することによって、或いは、前記ペン先主体2を構成する各種材料と各種撥水処理剤の組み合せを適宜調整することによって、撥水・撥油性能の度合いを制御することが可能であり、或いは撥水性と撥油性を同時に発現させることが可能である。
【0044】
ペン先主体2を構成する材料が撥水性を有するものである場合には、基材に対して撥水処理を行う工程を省略することができるので、生産性に優れ、コストパフォーマンスの点においても優れる。
また、ペン先主体を所定の形状になるよう形成した後に撥水処理(撥水加工)をする必要がないので、撥水処理に際しては、軸部などの細い部分や強度の弱い部分が折れたり、曲がったり、部分的に潰れるなどの形状の損傷が生じるおそれがない。
【0045】
前記ペン先主体2を構成する材料として、撥水性を有する材料を選択する場合において、前記撥水性を有する材料として使用又は添加可能なものは、例えば、フッ素系化合物や、シリコーン系化合物、長い炭素鎖を含む疎水性高分子(好ましくは炭素数6以上の炭素鎖を含む疎水性高分子)、パラフィン系化合物、脂肪族アマイド系化合物、アルキルエチレン尿素化合物、油脂、各種オイルなどである。
これらの材料は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて、使用することができる。
【0046】
この発明において、前記フッ素系化合物については、分子中にフッ素原子を有する高分子であればよく、特段の制限はない。
前記フッ素系化合物としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフルオロアルキルメタアクリレート、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体、ヘキサフルオロエチレン-プロピレン共重合体などが挙げられる。
なお、これらの化合物を化学修飾した高分子材料を用いてもよい。
【0047】
また、この発明において、シリコーン系化合物については、分子中にシロキサン結合による主骨格を持つ化合物(特に高分子化合物)であればよく、特段の制限はない。
前記シリコーン系化合物としては、ジメチルポリシロキサンを代表とするポリシロキサンおよびこれらの変性体の他、シラン類や、有機ケイ素化合物体などが挙げられる。
なお、これらの化合物は、液状やエマルジョンなどの分散体の形態のものであってもよい。
【0048】
前記撥水性を有する材料として、前記フッ素系化合物と前記シリコーン系化合物を組み合わせたものや、パーフルオロアルキルシランなどのフッ素変性シラン、ポリオール樹脂にフッ素系分子やシロキサン骨格を共重合させた重合体を使用してもよい。
【0049】
前記ペン先主体2を構成する材料を基材とし、この基材に撥水性を有するよう撥水処理を施す場合においては、前記ペン先主体2を構成する材料は、撥水性を有しない材料であってもよい。
したがって、この場合には、前記ペン先主体2を構成する材料としては、特段の制限はなく、例えば、樹脂素材、ポリエステル繊維やアクリル繊維、ナイロン繊維などの繊維素材などの各種素材を、用途などに応じて適宜選択することができる。
【0050】
前記樹脂素材としては、例えば、プラスチックやエラストマーなどを挙げることができる。
例えば、前記ペン先主体2を、前記樹脂素材を、射出成型や押出成形などの公知の成形方法によって成形することにより製造することができる。
【0051】
前記プラスチックとしては、例えば、ポリアセタール、ポリエステル系樹脂、ナイロン、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどのポリイミド系樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、及びポリエーテルサルフォン(PES)などが選択される。
前記素材として、プラスチックを選択した場合には、ペン先は、比較的硬い筆記感を有するものとなり、強度や、耐久性、耐摩耗性などにおいて優れたものとなる。
【0052】
前記エラストマーとしては、例えば、ポリエステルエラストマー、ナイロンエラストマー、ウレタンエラストマーなどが選択される。
前記素材として、エラストマーを選択した場合には、ペン先は、その素材に起因する柔軟性及び弾力性と防滑性とを兼ね備えた筆記感を有するものとなる。
【0053】
前記繊維素材としては、例えば、ポリエステル繊維や、アクリル繊維、ナイロン繊維などの熱可塑性樹脂繊維が選択される。
前記素材として、繊維素材を選択した場合には、紙やタッチパネルなどの対象に対して筆記等をするに際しては、優れた筆記感が得られ、高い耐久性を有するものとなる。
【0054】
前記素材として、長手方向に引き揃えた所望の繊維の束(繊維束)を、接着用樹脂を用いて接着固定したものを使用することができる。
その際、前記繊維としては、前記繊維素材と同様のものを選択することができ、好ましくはナイロン繊維が選択される。
ナイロン繊維は、高い極性表面を有するので、接着用樹脂と強固に接着する。
したがって、長期に亘って繰り返し折り曲げ、使用される場合であってもバラケることがないか抑えられるので、ペン先において高い耐久性が得られ、長期に亘って柔軟性と弾力性と防滑性とを兼ね備えた筆記感が実現される。
さらに、ペン先として、小さく、かつ形状に精密さが要求されるものであっても、容易に製造することができる。
【0055】
前記接着用樹脂としては、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素ホルマリン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などを選択することができる。
好ましくはイソシアネート化合物を含む硬化剤を含有するポリウレタン系接着用樹脂、イソシアネート化合物を含む硬化剤を含有する変性エポキシ系接着用樹脂(例えば、エポキシ系接着剤の主剤であるエポキシ樹脂に対して水酸基などの反応性基を導入したものに、イソシアネート化合物を硬化剤として硬化反応させて得られる変性エポキシ系接着用樹脂)、反応性基としてエポキシ基を有するエポキシ樹脂から選択される。
これらの接着用樹脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて、使用することができる。
【0056】
なお、前記繊維としてナイロン繊維が選択される場合には、前記接着用樹脂として、より好ましくはイソシアネート基を有する化合物を含む接着用樹脂、さらに好ましくはイソシアネート化合物を含む硬化剤を含有するポリウレタン系接着用樹脂が選択される。
ナイロン繊維は、その分子構造にアミド基を有するため、イソシアネート化合物が有するイソシアネート基と強固に結着する。
したがって、ペン先において、より高い耐久性が得られ、より長期に亘って柔軟性と弾力性と防滑性とを兼ね備えた筆記感が実現される。
【0057】
さらに、前記接着用樹脂として、ポリウレタン系接着用樹脂を選択する場合には、主剤として含まれているポリウレタン樹脂の硬度を適宜調整することで、用途に合わせたペン先主体を製造することができる。
例えば、前記ポリウレタン系接着用樹脂としては、軟質のポリウレタン系接着用樹脂を使用することができる。
ナイロン繊維は適度な柔軟性を有するものであるが、これを、軟質のポリウレタン樹脂を主剤として含む接着用樹脂と併用した場合には、ペン先主体において、軟質でフレキシブルな筆記感が実現され、筆記に際してはスティックスリップ現象が生じやすいので適度な防滑性が得られる。
したがって、このようにして得られたペン先主体で構成されるペン先によれば、使用者に対して、比較的重い使用感を与えることが可能となり、平滑なタッチパネル上であっても、紙に書いたときに近い筆記感を与えることができる。
一方、硬く耐久性のあるペン先にしたい場合には、前記ポリウレタン系接着用樹脂として、硬質のポリウレタン樹脂を主剤として含む接着用樹脂を選択すればよい。
【0058】
前記繊維束を、接着用樹脂を用いて接着固定するに際しては、前記繊維が前記ペン先主体の軸方向に配向するよう構成することが好ましい。
【0059】
なお、前記繊維素材又は繊維で構成されたペン先主体については、用途に応じて、所定の長さに形成することができる。
また、撥水処理を施す前に、前記ペン先主体、例えばその先端側に、予め切削加工や打ち抜き加工などの所望の加工処理を施して、所定の形状にすることもできる。
【0060】
さらに、公知の又は将来開発され得るペン先や塗布体などについては、前記ペン先主体として利用可能なものであれば、この発明を適用することができる。
例えば、特開2014-102788号公報に開示されているタッチパネル用ペン先を、前記ペン先主体として使用する場合には、このタッチパネル用ペン先が有する、摺動性に優れ、弾性感とのバランスも良好で、コシ、ねばり感がよく、適度な筆圧で入力が可能となる、といった特性を保持しつつ、高い耐久性を有するペン先が得られる。
【0061】
前記ペン先主体については、導電性を有するように構成することができる。
例えば、前記ペン先主体を構成する材料に、適当な量の導電性素材を配合することや、ペン先主体に導電性素材を塗布することによって、ペン先に導電性を付与することができる。
このような構成によって、前記ペン先は、静電容量方式のタッチパネルの場合においては、タッチパネルの画面との接触に際して、前記導電性によって、静電容量変化に伴う電気量変化を十分に発生させるものとなり、電磁誘導方式のタッチパネルの場合においては、電磁エネルギーや電波を発するものとなる。
【0062】
前記導電性素材としては、例えば、導電性カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、金属もしくは金属酸化物、導電性セラミックス、導電性有機材料(例えば、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリピロール系導電性高分子、炭素繊維)などが挙げられる。
さらに、適当な金属粉末や樹脂粉末、無機粉末に低抵抗率の金属をメッキしたものを使用してもよい。
【0063】
前記撥水処理(ないし撥水加工)については、公知の方法によって行うことができる。
例えば、前記基材(被処理物)の表面に、撥水性物質を含む撥水剤を、公知のコーティング方法(例えばスピンコート法、ディップコート法、蒸着法、CVD法等)や、浸漬塗布、スプレー塗布、泡塗布などの塗布方法によって、コーティングや塗布、浸漬、導入し、必要に応じて乾燥することができる。
その際、撥水性物質又は撥水剤については、その形態や粘度、塗布後の撥水性能などに応じて、有機溶媒又は水に分散し、所定の濃度(例えば、0.1~99%の範囲)に希釈してもよい。
また、前記基材(被処理物)の表面に撥水性物質又は撥水剤をコーティング等する方法以外に、前記基材を構成する材料に、撥水性物質を添加する方法も利用可能である。
【0064】
なお、前記ペン先主体を、繊維束を接着用樹脂で接着固定したもので構成する場合には、前記繊維束又はこれを構成する繊維素材に撥水処理を施してもよいし、前記接着用樹脂に撥水性物質を添加してもよいし、これらの両方を行ってもよい。
【0065】
前記撥水処理を施す際に使用される撥水性物質としては、前記撥水性を有する材料と同様のものを選択することができる。
【0066】
前記撥水処理を施すに際して使用される撥水性物質若しくは撥水剤の使用量又は添加量については、ペン先の使用目的などに応じて適宜選択すればよく、特段の制限はない。
前記ペン先主体(基材)を構成する材料に撥水性物質を添加する場合には、その添加量は、好ましくは0.1~50%程度の範囲である。
前記添加量が0.1%未満の場合には、撥水性の効果が得られにくい傾向にあり、50%を超える場合には、前記ペン先主体を構成する材料の強度が弱くなる傾向にあり、撥水性物質が前記ペン先主体を構成する材料から溶出するおそれがある。
なお、前記撥水性物質として、フッ素系化合物やシリコーン系化合物を重合し、化学修飾したものを選択する場合には、50%を超える添加量を選択してもよい。
【0067】
図1において、前記ペン先主体2は、その内部に一又は複数の所要の大きさの空隙ないし空洞を有する。
このような構成によって、筆記等の際に所定の筆圧が加わったときには前記空隙ないし空洞が変形して、クッションと同様の役割を果たすので、ペン先1を、適度な柔軟性及び弾力と防滑性とを併せ持った筆記感を有するように構成することが可能となる。
この効果は、前記ペン先主体2を多孔質の材料で構成した場合に、顕著である。
なお、前記空隙ないし空洞は、好ましくは外部空間と連通するよう形成され、より好ましくは外部空間と連通するよう先端側に形成される。
【0068】
また、前記ペン先主体2は、特に多孔質になるよう構成される場合において、好ましくは、その気孔率ないし空隙率が20%~80%程度の範囲になるよう構成される。
前記空隙率が20%を下回ると、硬く、弾力がなくなる傾向にあり、80%を上回ると強度が弱くなりすぎる傾向にある。
この作用効果は、前記ペン先主体2が、繊維素材又は繊維束を接着用樹脂で結着ないし接着固定させたもので構成されている等、その構造が多孔質なものである場合において、特に顕著である。
なお、前記ペン先主体2が、射出成型や押出成形などの方法を利用して、その内部に一又は複数の所要の大きさの空隙(空孔)ないし空洞を有するように構成されている場合には、その対象と接触し得る部分、特に先端部分の気孔率ないし空隙率が、5~80%程度となるように構成してもよい。
【0069】
前記ペン先主体2は、少なくともその先端に、500gfの垂直荷重を負荷したときの変形量が、0.01~0.2mm程度となるよう構成することが好ましい。
前記変形量は、より好ましくは0.01~0.08mm程度であり、更に好ましくは0.01~0.06mm程度である。
このような構成によって、使用者から筆圧がかけられたとしてもペン先は潰れにくいものとなるので、長期の使用に際しても耐久性が高いペン先を得ることができる。
【0070】
さらに、前記ペン先主体2については、少なくとも対象と接触し得る部分、特に先端に、垂直荷重を負荷して0.5mm押し潰したのち荷重を除去したときの弾性復元率が、好ましくは50~100%となる(前記部分の寸法が0.25~0.5mm程度まで戻る)、より好ましくは58~99%となる(前記部分の寸法が0.29~0.495mm程度まで戻る)、更に好ましくは75~99%となる(前記部分の寸法が0.375~0.495mm程度まで戻る)よう構成することができる。
このような構成によって、ペン先は、軟質でフレキシブルな筆記感と適度な弾性感とを兼ね備えたものとなる。
【0071】
なお、前記ペン先主体2を、繊維素材又は繊維束を接着用樹脂で結着ないし接着固定させたもので構成するとともに、前記繊維としてナイロン繊維を選択し、前記接着用樹脂としてイソシアネート基を有する化合物を硬化剤として含む接着用樹脂を選択する場合には、前記接着用樹脂の硬度を適当に調整することができる。
その際、前記ペン先主体2の、少なくとも対象と接触し得る部分、特に先端に、500gfの垂直荷重を負荷したときの変形量が、0.01~0.2mmとなり、かつ、垂直荷重をかけて0.5mm押し潰したのち荷重を除去したときの弾性回復率が50~100%となる(前記部分の寸法が0.25~0.5mmまで戻る)よう構成することができる。
【0072】
かかる構成のペン先は、紙やタッチパネル等の対象と接触するもので、筆記や描画などを行うためのペン、特にタッチペン(タッチパネル用のペン)のペン先として利用可能なものである。
【0073】
前記ペン先は、その後端部がプラスチックや金属で構成される軸部と組み合わされて、或いは前記ペン先を構成するペン先主体の先端部の表面が撥水性を有するよう構成されている場合には、その後端部を軸部としてプラスチックや金属で構成して、ペンに装着され使用することができる。
また、前記ペン先に導電性を付与したい場合には、前記軸部を金属や導電性プラスチックなどで構成することもできる。
【実施例0074】
以下に、実施例を挙げてこの発明を詳細に説明するが、この発明はこれら実施例により制限されることはない。
【0075】
<実施例1>
下記製造方法により、ペン先を製造した。
【0076】
<製造方法>
(1)繊維太さ1デシテックスのナイロン繊維を長手方向にひき揃えて、繊維束を形成 した。
(2)(1)で得られた繊維束を、φ3mmの円形の空孔を有するダイに充填し、加熱 圧縮して、外径φ3mmの円柱状のナイロン繊維束体を得た。
(3)(2)で得られたナイロン繊維束体を、軟質ウレタン樹脂溶液に含侵させ、加熱 により乾燥および接着固定して、外径がφ3mmで、内部の気孔率が71%である 棒状のペン先基体を得た。
(4)(3)で得られたペン先基体を、所定の長さになるようカットし、先端をグライ ンダーで略半円形状に加工して、筆記部を形成した。
(5)(4)で得られたペン先基体を、シリコーン系化合物が2%分散された液体に含 侵させ、次いで加熱により乾燥および固定して、目的とするペン先を得た。
【0077】
<結 果>
上記得られたペン先において、その表面における水の接触角は、120°であった。
また、このペン先を装着したタッチペンをタッチパネル上で使用すると、柔軟で弾性のある筆記感が得られ、ペン先の先端が変形しても繊維がバラケる等の問題は発生しなかった。
以上のことから、この発明のペン先は、筆記感に優れ、高い耐久性を有するものであることは、明らかである。
【0078】
<実施例2>
下記製造方法により、ペン先を製造した。
【0079】
<製造方法>
(1)繊維太さ1デシテックスのナイロン繊維を長手方向にひき揃えて、繊維束を形成 した。
(2)(1)で得られた繊維束を、φ3mmの円形の空孔を有するダイに充填し、加熱 圧縮して、外径φ3mmの円柱状のナイロン繊維束体を得た。
(3)(2)で得られたナイロン繊維束体を、シリコーン系化合物を20%含有する軟 質ウレタン樹脂溶液に含侵させ、加熱により乾燥および接着固定して、外径がφ3 mmで、内部の気孔率が71%である棒状のペン先基体を得た。
(4)(3)で得られたペン先基体を、所定の長さになるようカットし、先端をグライ ンダーで略半円形状に加工して、筆記部を形成し、目的とするペン先を得た。
【0080】
<結 果>
上記得られたペン先において、その表面における水の接触角は、116°であった。
また、このペン先を装着したタッチペンをタッチパネル上で使用すると、柔軟で弾性のある筆記感が得られ、ペン先の先端が変形しても繊維がバラケる等の問題は発生しなかった。
以上のことから、この発明のペン先は、筆記感に優れ、高い耐久性を有するものであることは、明らかである。
【0081】
<比較例1>
撥水処理(上記工程(5))を行わないこと以外は、実施例1と同様の方法により、ペン先を製造した。
【0082】
<結 果>
上記得られたペン先において、その表面における水の接触角は、72°であり、このペン先は、親水性を有するものであった。
なお、このペン先を装着したタッチペンをタッチパネル上で使用すると、柔軟で弾性のある筆記感が得られ、ペン先の先端が変形しても繊維がバラケる等の問題は発生しなかった。
【0083】
[試験例1]水の浸透性の評価
上記実施例1及び2、並びに比較例1において得られたペン先について、下記測定方法に基づき、ペン先を水に濡らして静置したときの経時的な寸法変化(寸法変化量)を測定することによって、水の浸透性(水の浸透しやすさ)の評価を行った。
なお、初期寸法(水に濡らす前のものの寸法)との差を、寸法変化量とし、その測定を、ペン先の外径と全長(軸方向長さ)の両方について行った。
その結果を、表1及び2、並びに図2及び3に示す。
【0084】
<測定方法>
各種ペン先の外径と全長を測定した後、ペン先に水をかけ、5分間静置した。
その後、ペン先の表面に付着している水を拭い取り、ペン先の外径と全長を測定し、寸法変化量を算出した。
さらに静置して、30秒、60秒、180秒、600秒経過後のペン先の外径と全長を測定し、寸法変化量を算出した。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
<結 果>
表1及び2、並びに図2及び3から、実施例1及び2、並びに比較例1において得られたペン先は、いずれも吸水性が高いナイロン繊維を使用しているため、水に濡れた直後は膨潤し、外径と全長の両方が大きくなった。
実施例1及び2において得られたペン先では、水に濡れた直後においてはペン先が膨潤し、その寸法が変化するが、表面の水を拭き取れば内部まで水が浸透しないため、水が乾燥するにつれて2~8分程度で元の寸法に戻ることがわかる。
これに対して、比較例1において得られたペン先では、内部まで水が浸透し、10分以上経過しても、寸法が、水に濡れる前のものよりも増大したままであった。
以上のことから、この発明にかかるペン先では、水が付着した場合であっても、内部に浸透しないため、タッチペンのペン先として利用した場合には、タッチペン本体内部の電子回路に達することによる誤動作が起こらないか又は抑制されることは、明らかである。
さらに、この発明にかかるペン先では、水が付着したことにより膨潤した場合であっても、やがて元の寸法に戻るので、寸法変化による影響が軽減できることも、明らかである。
【0088】
<実施例3>
下記製造方法により、ペン先を製造した。
【0089】
<製造方法>
(1)繊維太さ2デシテックスのナイロン繊維を長手方向にひき揃えて、繊維束を形成 した。
(2)(1)で得られた繊維束を、φ2mmの円形の空孔を有するダイに充填し、加熱 圧縮して、外径φ2mmの円柱状のナイロン繊維束体を得た。
(3)(2)で得られたナイロン繊維束体を、軟質ウレタン樹脂溶液に含侵させ、加熱 により乾燥および接着固定して、外径がφ2mmで、内部の気孔率が71%である 棒状のペン先基体を得た。
(4)(3)で得られた ペン先基体を、所定の長さになるようカットし、先端をグラ インダーで略半円形状に加工して、筆記部を形成した。
(5)(4)で得られたペン先基体を、シリコーン系化合物が2%分散された液体に含 侵させ、次いで加熱により乾燥および固定して、目的とするペン先を得た。
【0090】
<結 果>
上記得られたペン先を装着したタッチペンをタッチパネル上で使用すると、柔軟で弾性のある筆記感が得られた。
さらに、ペン先に筆圧をかけて、その先端を変形させた場合であっても、筆圧を解除すると先端の形状が元に戻り、繊維がバラケる等の問題は発生しなかった。
以上のことから、この発明のペン先は、筆記感に優れ、高い復元性と耐久性を有するものであることは、明らかである。
【0091】
<実施例4>
下記製造方法により、ペン先を製造した。
【0092】
<製造方法>
(1)繊維太さ2デシテックスのナイロン繊維を長手方向にひき揃えて、繊維束を形成 した。
(2)(1)で得られた繊維束を、φ2mmの円形の空孔を有するダイに充填し、加熱 圧縮して、外径φ2mmの円柱状のナイロン繊維束体を得た。
(3)(2)で得られたナイロン繊維束体を、軟質ウレタン樹脂溶液に含侵させ、加熱 により乾燥および接着固定して、外径がφ2mmで、内部の気孔率が49%である 棒状のペン先基体を得た。
(4)(3)で得られた ペン先基体を、所定の長さになるようカットし、先端をグラ インダーで略半円形状に加工して、筆記部を形成した。
(5)(4)で得られたペン先基体を、シリコーン系化合物が2%分散された液体に含 侵させ、次いで加熱により乾燥および固定して、目的とするペン先を得た。
【0093】
<結 果>
上記得られたペン先を装着したタッチペンをタッチパネル上で使用すると、柔軟で弾性のある筆記感が得られた。
さらに、ペン先に筆圧をかけて、その先端を変形させた場合であっても、筆圧を解除すると先端の形状が元に戻り、繊維がバラケる等の問題は発生しなかった。
以上のことから、この発明のペン先は、筆記感に優れ、高い復元性と耐久性を有するものであることは、明らかである。
【0094】
<実施例5>
下記製造方法により、ペン先を製造した。
【0095】
<製造方法>
(1)繊維太さ2デシテックスのナイロン繊維を長手方向にひき揃えて、繊維束を形成 した。
(2)(1)で得られた繊維束を、φ2mmの円形の空孔を有するダイに充填し、加熱 圧縮して、外径φ2mmの円柱状のナイロン繊維束体を得た。
(3)(2)で得られたナイロン繊維束体を、硬質ウレタン樹脂溶液に含侵させ、加熱 により乾燥および接着固定して、外径がφ2mmで、内部の気孔率が43%である 棒状のペン先基体を得た。
(4)(3)で得られた ペン先基体を、所定の長さになるようカットし、先端をグラ インダーで略半円形状に加工して、筆記部を形成した。
(5)(4)で得られたペン先基体を、シリコーン系化合物が2%分散された液体に含 侵させ、次いで加熱により乾燥および固定して、目的とするペン先を得た。
【0096】
<結 果>
上記得られたペン先を装着したタッチペンをタッチパネル上で使用すると、硬筆で耐久性のある筆記感が得られた。
さらに、ペン先に筆圧をかけた場合であっても、その先端は変形しにくく、繊維がバラケる等の問題は発生しなかった。
以上のことから、この発明のペン先は、筆記感に優れ、高い耐久性を有するものであることは、明らかである。
【0097】
<実施例6>
下記製造方法により、ペン先を製造した。
【0098】
<製造方法>
(1)繊維太さ3デシテックスのポリエステル繊維を長手方向にひき揃えて、繊維束を 形成した。
(2)(1)で得られた繊維束を、φ2mmの円形の空孔を有するダイに充填し、加熱 圧縮して、外径φ2mmの円柱状のポリエステル繊維束体を得た。
(3)(2)で得られたポリエステル繊維束体を、硬質ウレタン樹脂溶液に含侵させ、 加熱により乾燥および接着固定して、外径がφ2mmで、内部の気孔率が44%で ある棒状のペン先基体を得た。
(4)(3)で得られた ペン先基体を、所定の長さになるようカットし、先端をグラ インダーで略半円形状に加工して、筆記部を形成した。
(5)(4)で得られたペン先基体を、シリコーン系化合物が2%分散された液体に含 侵させ、次いで加熱により乾燥および固定して、目的とするペン先を得た。
【0099】
<結 果>
上記得られたペン先を装着したタッチペンをタッチパネル上で使用すると、硬筆で耐久性のある筆記感が得られた。
さらに、ペン先に筆圧をかけた場合であっても、その先端は変形しにくく、繊維がバラケる等の問題は発生しなかった。
以上のことから、この発明のペン先は、筆記感に優れ、高い耐久性を有するものであることは、明らかである。
【0100】
<実施例7>
下記製造方法により、ペン先を製造した。
【0101】
<製造方法>
(1)繊維太さ3デシテックスのポリエステル繊維を長手方向にひき揃えて、繊維束を 形成した。
(2)(1)で得られた繊維束を、φ2mmの円形の空孔を有するダイに充填し、加熱 圧縮して、外径φ2mmの円柱状のポリエステル繊維束体を得た。
(3)(2)で得られたポリエステル繊維束体を、硬質ウレタン樹脂溶液に含侵させ、 加熱により乾燥および接着固定して、外径がφ2mmで、内部の気孔率が68%で ある棒状のペン先基体を得た。
(4)(3)で得られた ペン先基体を、所定の長さになるようカットし、先端をグラ インダーで略半円形状に加工して、筆記部を形成した。
(5)(4)で得られたペン先基体を、シリコーン系化合物が2%分散された液体に含 侵させ、次いで加熱により乾燥および固定して、目的とするペン先を得た。
【0102】
<結 果>
上記得られたペン先を装着したタッチペンをタッチパネル上で使用すると、弾性はないが柔軟な筆記感が得られた。
以上のことから、この発明のペン先は、筆記感に優れたものであることは、明らかである。
【0103】
[試験例2]先端強度および弾性復元率の評価
上記実施例3~7において得られたペン先について、下記測定方法に基づき、ペン先の先端に荷重を負荷したときの変形量と、荷重を除去してペン先の寸法が元に戻る量(復元量)を測定することによって、ペン先の先端強度と弾性復元率の評価を行った。
さらに、上記実施例3~7において得られたペン先について、通常の使用時にバラケが発生するか否かを目視により確認し、下記の評価基準に従って、バラケ具合の評価を行った。
これらの結果を、表3に示す。
【0104】
<測定方法>
各種ペン先を垂直に立て、ペン先の先端に上から平板状の測定子をあて、10mm/分の速度で測定子を下降させ、500gfの垂直荷重を負荷したときの変形量(mm)を測定した。
次いで、そのまま測定子を更に下降させて垂直荷重を負荷し、ペン先の先端を0.5mm押し潰した。
その後、測定子を10mm/分の速度で上昇させることで荷重を除去し、ペン先の寸法が元に戻る際に測定子にかかる反発力(gf)を測定した。
反発力が0gfになった地点がペン先と測定子が離れる地点であることから、0.5mm押しつぶした状態から反発力が0gfになったときの距離を測定することで、荷重を除去してペン先の寸法が元に戻る量(復元量)(mm)を求めた。
これらの測定値(復元量)より弾性復元率を下記の式(1)より算出することにより評価を行った。

弾性復元率(%)=復元量(mm)/0.5(mm)×100 (1)
【0105】
<評価基準>
〇:通常の使用時にバラケが発生しない
×:通常の使用時にバラケが発生する
【0106】
【表3】
【0107】
<結 果>
表3から、実施例3~5において得られたペン先は、いずれも高い弾性復元率を有していた。
高い弾性復元率を有するということは、繊維素材を結着ないし接着している接着用樹脂が繊維(繊維素材)から剥がれにくいということを示すものである。
したがって、実施例3~5において得られたペン先では、長期に亘って使用された場合であっても、ペン先の先端がバラケることがないか抑えられることがわかる。
さらに、実施例5及び6において得られたペン先では、いずれも変形量が少なかった。
したがって、実施例5及び6において得られたペン先では、使用時のペン先の変形が抑えられているので、長期間の使用に際しても、耐久性が高く、バラケにくいことがわかる。
以上のことから、この発明にかかるペン先は、繊維素材を使用しているにもかかわらず、高い耐久性を有するものであることは、明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0108】
この発明のペン先は、長尺棒状のペン先主体からなるもので、前記ペン先主体において、少なくとも、紙やタッチパネルなどの対象と接触し得る部分の表面が撥水性を有するものである。
したがって、このペン先は、前記ペン先主体を構成する材料に起因する特性を保持したまま、高い耐久性を有し、水ないし水分の付着による影響がないか又は抑制され、タッチペン(タッチパネル用のペン)のペン先として使用する場合には、水ないし水分が付着して、内部に浸透し、タッチペン本体の電子回路に達することによる誤動作が起こらないか又は抑制される。
よって、このペン先は、筆記や描画などを目的とするペンやタッチペン(タッチパネル用のペン)などのペン先として、さらにインクを通さずに描画することが可能となる描画玩具や絵画玩具などのペン先として使用可能なもので、広い用途での使用が可能なものである。
【符号の説明】
【0109】
1 ペン先
2 ペン先主体
2a 対象と接触し得る部分(先端部)
2b 軸部
図1
図2
図3