(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022080057
(43)【公開日】2022-05-27
(54)【発明の名称】車両の車体構造
(51)【国際特許分類】
B60R 19/38 20060101AFI20220520BHJP
【FI】
B60R19/38 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020191011
(22)【出願日】2020-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100128428
【弁理士】
【氏名又は名称】田巻 文孝
(72)【発明者】
【氏名】西尾 信哉
(57)【要約】
【課題】バンパの支持剛性と、衝突時における歩行者への衝撃軽減性能とを両立することができる車体前部構造を提供する。
【解決手段】本発明による車両の車体構造は、車両1の車体に設けられ、バンパ18を支持するためのバンパ支持部36(38)と、バンパ18とバンパ支持部36とを連結し、バンパ18を支持する連結部34(32)と、バンパ18に車外側から所定の大きさ以上の車両前後方向の荷重が入力されたとき、バンパ18のバンパ支持部36に対する車両前後方向のスライドを許容するスライド許容部52と、を備え、連結部34はバンパ支持部36の上面36aに設けられ、かつ、スライド許容部52は連結部34によるバンパ18の支持とは独立してバンパ18の車両前後方向のスライドを許容するよう構成されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前面および/または後面に設けられたバンパと、
車両の車体に設けられ、上記バンパを支持するためのバンパ支持部と、
上記バンパと上記バンパ支持部とを連結し、上記バンパを支持する連結部と、
上記バンパに車外側から所定の大きさ以上の車両前後方向の荷重が入力されたとき、上記バンパの上記バンパ支持部に対する車両前後方向のスライドを許容するスライド許容部と、を備え、
上記連結部は上記バンパ支持部の上面に設けられ、かつ、上記スライド許容部は上記連結部による上記バンパの支持とは独立して上記バンパの車両前後方向のスライドを許容するよう構成されている、ことを特徴とする車両の車体構造。
【請求項2】
上記連結部は、上記バンパ支持部に対して車両前後方向にスライド可能であり、
上記スライド許容部は、上記連結部と共に車両前後方向にスライド可能なクリップ部材と、上記クリップ部材に係合するように上記バンパ支持部に固定されたピン部材と、を有し、
上記クリップ部材は、上記バンパに車外側から所定の大きさ以上の車両前後方向の荷重が入力されたとき、上記連結部のスライドに伴って、上記バンパ支持部に固定された上記ピン部材との係合が解除されるように形成されている、請求項1に記載の車両の車体構造。
【請求項3】
上記連結部は、上記バンパ支持部の上面に沿って車両後方または車両後方にスライド可能であり、
上記スライド許容部は、上記連結部に固定された第1のピン部材と、上記バンパ支持部に固定された第2のピン部材と、上記第1のピン部材および上記第2のピン部材に係合するよう形成された所定形状の溝部を有するU字形部材と、を有し、
上記U字形部材は、上記バンパに車外側から所定の大きさ以上の車両前後方向の後方または前方へ向く荷重が入力されたとき、上記連結部のスライドに伴って上記第1のピン部材と上記第2のピン部材との相対距離が大きくなることにより変形し、これにより、上記第2のピン部材との係合が解除されるように形成されている、請求項1に記載の車両の車体構造。
【請求項4】
上記第2のピン部材は、上記第1のピン部材より車両前方側で上記バンパ支持部に固定され、
上記U字形部材の溝部は車両前方側に向けて開口し、
上記U字形部材は、上記バンパに車外側から所定の大きさ以上の車両前後方向の後方へ向く荷重が入力されたとき、上記連結部のスライドに伴って上記第1のピン部材から力を受けて後方にスライドすると共に上記第2のピン部材から力を受けて拡がるように変形するよう構成されている、請求項3に記載の車両の車体構造。
【請求項5】
上記バンパ支持部の上面には、上記連結部の車両前方への移動を規制すると共に車幅方向への移動を規制する規制部が設けられている、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の車両の車体構造。
【請求項6】
上記バンパ支持部の上面には、上記連結部が所定距離だけ車両後方にスライドしたときに当接し、車両後方に向かって斜め上方に突出する傾斜部が設けられている、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の車両の車体構造。
【請求項7】
上記車両は、フロントサイドフレームの先端部に設けられたクラッシュカンと、このクラッシュカンに接続されるバンパレインとを備え、
上記バンパ支持部は、上記クラッシュカンの車両上方に離間した位置に設けられる、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の車両の車体構造。
【請求項8】
上記車両は、上記バンパ支持部を上記バンパレインに固定するブラケットを備え、上記バンパ支持部は、上記ブラケットを介して上記クラッシュカンの車両上方に離間した位置に設けられる、請求項7に記載の車両の車体構造。
【請求項9】
上記バンパ支持部には、上記連結部の車両後方へのスライドをガイドするための車両前後方向に延びるガイド部が形成されている、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の車両の車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車体構造に係り、特に、バンパと、車両の車体に設けられたバンパ支持部と、バンパとバンパ支持部とを連結し、バンパを支持する連結部とを備える車両の車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両前面に設けられるフロントバンパにおいて、歩行者保護を目的として、歩行者へ与える衝撃を軽減する構造が検討されている。
例えば、特許文献1には、フロントバンパ上部の車体への取付部に、車両前方側に開口した切欠穴を形成すると共に、その切欠穴に車体側への固定具であるボルト/ナットを通して車体と締結してフロントバンパを車体に固定し、また、その固定具の締結力を超える衝撃が車両前方からフロントバンパに入力されると、フロントバンパ上部の取付部が車両前方へスライドして、フロントバンパを車体から脱落させることで歩行者への衝撃を軽減する構造が提案されている。
【0003】
なお、特許文献2には、フロントグリルにレーダ等の前方検出機器が取り付けられ、そのフロントグリルを支持する前部ブラケットと、車体側に固定される後部ブラケットとが設けられ、各ブラケットはフロントグリルを支持するよう垂直方向に延びる平板状部材であり、一方のブラケットに切欠穴等を形成すると共に他方のブラケットに切欠穴等に嵌合する突部を設けることにより、各ブラケットを互いに固定する構造が開示されている。この特許文献2の構造では、軽微な前部衝突時、すなわち、取付角度等の変化により前方検出機器の検出精度を低下させる程度のフロントグリルの変形を生じさせるような前部衝突時、車両後方へ変位した前部ブラケットの位置を初期位置に戻すことを可能にして、前方検出機器の検出精度を維持するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-151021号公報
【特許文献2】特開2018-131152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の構造によれば、フロントバンパを車両前方にスライドさせて衝撃を吸収するために、ボルト締結力に依存する摩擦力の調整により、スライド荷重(衝突によりスライドし始める荷重/ボルト締結による摩擦力を超えるときの荷重)を調整しているので、大型のSUV車両等においては、フロントバンパの支持剛性と衝撃吸収機能との両立が出来ないという問題がある。
【0006】
すなわち、大型のSUV車両等においてはフロントバンパの重量が大きくなるので、特許文献1の構造を適用すると、フロントバンパの支持剛性を確保するためにボルト締結力を高める必要がある。一方、締結力を高めることにより摩擦力が増大するので、衝突時にフロントバンパをスライドさせることが難しくなる。そこで、スライド荷重を調整/コントロールするために締結力を弱くすると、バンパの支持剛性が低下し、フロントバンパが脱落等する懸念がある。このように、特許文献1の構造では、フロントバンパの支持剛性と衝撃吸収機能との両立が出来ないという問題があるのである。このような問題は、車両後部のリヤバンパに衝撃軽減構造を適用する場合も同様にある。
【0007】
そこで、本発明は、上述した問題を解決するためになされたものであり、バンパの支持剛性と、衝突時における歩行者への衝撃軽減性能とを両立することができる車体前部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明は、車両の前面および/または後面に設けられたバンパと、車両の車体に設けられ、バンパを支持するためのバンパ支持部と、バンパとバンパ支持部とを連結し、バンパを支持する連結部と、バンパに車外側から所定の大きさ以上の車両前後方向の荷重が入力されたとき、バンパのバンパ支持部に対する車両前後方向のスライドを許容するスライド許容部と、を備え、連結部はバンパ支持部の上面に設けられ、かつ、スライド許容部は連結部によるバンパの支持とは独立してバンパの車両前後方向のスライドを許容するよう構成されている、ことを特徴としている。
【0009】
このように構成された本発明によれば、バンパを支持するためのバンパ支持部と、バンパとバンパ支持部とを連結し、バンパを支持する連結部と、バンパに車外側から所定の大きさ以上の車両前後方向の荷重が入力されたとき、バンパのバンパ支持部に対する車両前後方向のスライドを許容するスライド許容部と、を備え、連結部はバンパ支持部の上面に設けられ、かつ、スライド許容部は連結部によるバンパの支持とは独立してバンパの車両前後方向のスライドを許容するよう構成されているので、第1に、バンパをバンパ支持部の上面により支持することにより、バンパの支持剛性を高めることができ、第2に、スライド許容部は連結部によるバンパの支持とは独立してバンパの車両前後方向のスライドを許容することにより、バンパ支持剛性に影響を与えずに、衝突時にバンパを車両前後方向にスライドさせることができる。その結果、本発明によれば、バンパの支持剛性と、衝突時における歩行者への衝撃軽減性能とを両立することができる。
【0010】
また、本発明において、好ましくは、連結部は、バンパ支持部に対して車両前後方向にスライド可能であり、スライド許容部は、連結部と共に車両前後方向にスライド可能なクリップ部材と、クリップ部材に係合するようにバンパ支持部に固定されたピン部材と、を有し、クリップ部材は、バンパに車外側から所定の大きさ以上の車両前後方向の荷重が入力されたとき、連結部のスライドに伴って、バンパ支持部に固定されたピン部材との係合が解除されるように形成されている。
このように構成された本発明によれば、クリップ部材は、バンパに車外側から所定の大きさ以上の車両前後方向の荷重が入力されたとき、連結部のスライドに伴って、バンパ支持部に固定されたピン部材との係合が解除されるように形成されているので、所定の大きさ以上の車両前後方向の荷重が入力されたとき、より確実に、バンパを車両前後方向にスライドさせることができる。
【0011】
また、本発明において、好ましくは、連結部は、バンパ支持部の上面に沿って車両後方または車両後方にスライド可能であり、スライド許容部は、連結部に固定された第1のピン部材と、バンパ支持部に固定された第2のピン部材と、第1のピン部材および第2のピン部材に係合するよう形成された所定形状の溝部を有するU字形部材と、を有し、U字形部材は、バンパに車外側から所定の大きさ以上の車両前後方向の後方または前方へ向く荷重が入力されたとき、連結部のスライドに伴って第1のピン部材と第2のピン部材との相対距離が大きくなることにより変形し、これにより、第2のピン部材との係合が解除されるように形成されている。
このように構成された本発明によれば、連結部は、バンパ支持部の上面に沿って車両後方または車両後方にスライド可能であり、スライド許容部は、連結部に固定された第1のピン部材と、バンパ支持部に固定された第2のピン部材と、第1のピン部材および第2のピン部材に係合するよう形成された所定形状の溝部を有するU字形部材と、を有し、U字形部材は、バンパに車外側から所定の大きさ以上の車両前後方向の後方または前方へ向く荷重が入力されたとき、連結部のスライドに伴って第1のピン部材と第2のピン部材との相対距離が大きくなることにより変形し、これにより、第2のピン部材との係合が解除されるように形成されているので、U字形部材の変形によってバンパ支持部に固定された第2のピン部材との係合を解除するようにして、より確実に、衝突軽減性能を確保することができる。
【0012】
また、本発明において、好ましくは、第2のピン部材は、第1のピン部材より車両前方側でバンパ支持部に固定され、U字形部材の溝部は車両前方側に向けて開口し、U字形部材は、バンパに車外側から所定の大きさ以上の車両前後方向の後方へ向く荷重が入力されたとき、連結部のスライドに伴って第1のピン部材から力を受けて後方にスライドすると共に第2のピン部材から力を受けて拡がるように変形するよう構成されている。
このように構成された本発明によれば、より効果的に、U字形部材を変形させて第2のピン部材との係合を解除することができる。
【0013】
また、本発明において、好ましくは、バンパ支持部の上面には、連結部の車両前方への移動を規制すると共に車幅方向への移動を規制する規制部が設けられている。
このように構成された本発明によれば、規制部により、通常時(衝突時以外)には、バンパが車両前方側および車幅方向にずれることを防止して、バンパの支持剛性をより確実に確保し、一方、衝突時には、バンパが車両後方以外の方向に移動することを防止することができる。
【0014】
また、本発明において、好ましくは、バンパ支持部の上面には、連結部が所定距離だけ車両後方にスライドしたときに当接し、車両後方に向かって斜め上方に突出する傾斜部が設けられている。
このように構成された本発明によれば、衝突時、連結部がバンパ支持部の上面に沿って所定距離スライドした後、連結部を斜め上方にスライドさせることができ、これにより、連結部と規制部との接触を防止して連結部のスライド量を確保して、より確実に、衝突荷重を低減することができる。
【0015】
また、本発明において、好ましくは、車両は、フロントサイドフレームの先端部に設けられたクラッシュカンと、このクラッシュカンに接続されるバンパレインとを備え、バンパ支持部は、クラッシュカンの車両上方に離間した位置に設けられる。
このように構成された本発明によれば、バンパ支持部は、クラッシュカンの車両上方に離間した位置に設けられるので、衝突時のクラッシュカンの変形を妨げることなく、バンパの支持剛性を確保することができる。また、フロントバンパに設けたグリルからの空気導入を妨げることなく、バンパの支持剛性を確保することができる。
【0016】
また、本発明において、好ましくは、車両は、バンパ支持部をバンパレインに固定するブラケットを備え、バンパ支持部は、ブラケットを介してクラッシュカンの車両上方に離間した位置に設けられる。
【0017】
本発明において、好ましくは、バンパ支持部には、連結部の車両後方へのスライドをガイドするための車両前後方向に延びるガイド部が形成されている。
このように構成された本発明によれば、バンパ支持部には、連結部の車両後方へのスライドをガイドするための車両前後方向に延びるガイド部が形成されているので、より確実に、衝突時にバンパを車両後方へ移動させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の車両の車体構造によれば、バンパの支持剛性と、衝突時における歩行者への衝撃軽減性能とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態による車両の車体構造が適用された車両の前部を示す、車両左側の斜め上方から見た斜視図である。
【
図2】本実施形態によるバンパ支持構造を車両の左側から見た一部断面側面図である。
【
図3】
図2においてバンパ支持構造の車幅方向中央垂直面で切り取った断面図である。
【
図4】本実施形態による車両の車体構造の車両前部におけるバンパ支持構造を示す、車両の左後方側かつ上方側から見た一部拡大斜視図である。
【
図5】本実施形態によるバンパ支持構造を車両の上方側から見た平面図である。
【
図6】本実施形態によるバンパ支持構造における連結部材、バンパ支持部材およびスライド許容機構を示す斜視図である。
【
図7】本実施形態によるバンパ支持構造における連結部材およびスライド許容機構を示す斜視図である。
【
図8】本実施形態によるバンパ支持構造におけるバンパ支持部材を示す斜視図である。
【
図9】
図5のIX-IX線に沿って見た断面図であり、バンパ支持構造における連結部材のバンパ支持部材への固定構造およびスライド許容機構の構造を示す図である。
【
図10】本実施形態によるスライド許容機構の平板状クリップ部材とピン部材の位置および寸法の関係を主に説明するための平面図である。
【
図11】本実施形態によるスライド許容機構の係合解除時の平板状クリップ部材の変形状態を示す図である。
【
図12A】本実施形態によるバンパ支持構造における連結部材がバンパ支持部材に固定される通常状態を示す車両の左側から見た側面図である。
【
図12B】本実施形態によるバンパ支持構造における連結部材がバンパ支持部材に対して所定距離スライドした衝突時の状態を示す車両の左側から見た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による車両の車体構造を説明する。
【0021】
まず、
図1により、本発明の実施形態による車両の車体構造の概略構成を説明する。
図1は、本発明の実施形態による車両の車体構造が適用された車両の前部を示す車両左側斜め上方から見た斜視図である。
【0022】
まず、
図1に示すように、本発明の実施形態による車両の車体構造が適用された車両1の前部には、図示しないエンジンユニットやトランスミッション等を配設するためのエンジンルーム2が形成されている。なお、本発明の実施形態において、車両の車体構造は、基本的に、車両の車幅方向に左右対称に形成されている。
【0023】
車両1の前部には、エンジンルーム2の左右両側で車両前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレーム4と、これらのフロントサイドフレーム4の先端部にそれぞれ接続された左右一対のクラッシュカン/衝撃吸収部材6と、これらのクラッシュカン6に接続された車幅方向に延びるバンパーレインフォースメント8とが設けられている。バンパーレインフォースメント8は、平面視で、その車幅方向両側の端部が車幅方向中央部よりも車両後方に位置するようにアーチ状に湾曲している。
【0024】
左右のフロントサイドフレーム4にはサスペンションタワー10が接続されている。車両1の前部には、エンジンルーム2の上方の左右両側で車両前後方向に延びる左右一対のエプロンメンバ12が設けられており、これらのエプロンメンバ12には、各サスペンションタワー10の上部が接続されている。各エプロンメンバ12は、平面視で、その車両前方側の先端部が車幅方向内方に湾曲しており、それらの先端部がシュラウドアッパメンバ14により互いに接続されている。また、シュラウドアッパメンバ14の両端部には、シュラウドアッパメンバ14およびエプロンメンバ12と、その下方のフロントサイドフレーム4とを上下方向に接続するシュラウドメンバ16がそれぞれ設けられている。シュラウドアッパメンバ14および左右のシュラウドメンバ16で囲まれた空間には、後述するフロントグリル24から導入された空気によりエンジン(図示せず)を冷却するためのラジエータ(図示せず)等が設けられる。
【0025】
車両1の前面には、バンパフェイス(バンパ)18が設けられている。バンパ18は、バンパフェイス本体部20と、バンパフェイス上部22とを有している。バンパフェイス本体部20とバンパフェイス上部22との間には、フロントグリル24が設けられている。
【0026】
バンパフェイス上部22は、車幅方向の左右一対の上方バンパ支持部材26により、車体側のシュラウドアッパメンバ14に固定支持されるようになっている。これらの上方バンパ支持部材26は、バンパ18の位置を規定するようにバンパ18を支持する役割を主に有する部材である。
一方、バンパフェイス本体部20は、その車幅方向の左右両側の部分で、後述するバンパ支持構造体30により、車体側のバンパーレインフォースメント8にスライド可能に固定支持されるようになっている(
図3参照)。
【0027】
次に、
図2乃至
図9により、本発明の実施形態による車両の車体構造のバンパ支持構造の概略構成を説明する。
図2は、本実施形態によるバンパ支持構造を車両の左側から見た一部断面側面図であり、
図3は、
図2においてバンパ支持構造の車幅方向中央垂直面で切り取った断面図であり、
図4は、本実施形態による車両の車体構造の車両前部におけるバンパ支持構造を示す車両の左後方側かつ上方側から見た一部拡大斜視図であり、
図5は、本実施形態によるバンパ支持構造を車両の上方側から見た平面図であり、
図6は、本実施形態によるバンパ支持構造における連結部材、バンパ支持部材およびスライド許容機構を示す斜視図であり、
図7は、本実施形態によるバンパ支持構造における連結部材およびスライド許容機構を示す斜視図であり、
図8は、本実施形態によるバンパ支持構造におけるバンパ支持部材を示す斜視図であり、
図9は、
図5のIX-IX線に沿って見た断面図であり、バンパ支持構造における連結部材のバンパ支持部材への固定構造およびスライド許容機構の構造を示す図である。
【0028】
まず、
図2および
図3に示すように、バンパフェイス本体部20の車幅方向左側部分20aが、バンパ支持構造体30によって、バンパーレインフォースメント8に固定支持されている。この固定支持の位置は、車幅方向左側のクラッシュカン6aの接続部分近傍の位置である。なお、図中、符号28は、クラッシュカン6aとバンパーレインフォースメント8の車幅方向左側部分との取付部材であり、符号20bは、バンパフェイス本体部20の車幅方向右側部分である。
【0029】
ここで、
図2乃至
図5においては、車幅方向左側におけるバンパ支持構造体30を示すが、車幅方向右側においても、同様のバンパ支持構造体(30)によって、バンパフェイス本体部20bがバンパーレインフォースメント8に固定支持されている。本発明の実施形態において、車幅方向左右両側のそれぞれのバンパ支持構造体30は左右対称に同じ構成であるので、以下では、車両前部の左前方側に設けられたバンパ支持構造体30について説明し、右前方側に設けられたバンパ支持構造体(30)については説明を省略する。
また、詳細には説明を省略するが、車両1の後面に設けられたバンパ(図示せず)に後方から障害物が衝突した場合の衝撃軽減のために、そのリヤバンパを、本実施形態によるバンパ支持構造体30と同様の構造で固定支持するようにしてもよい。この場合、リヤバンパは、車両後部に設けたリヤバンパーレインフォースメント(図示せず)に固定支持される。
【0030】
次に、
図2乃至
図4に示すように、バンパ支持構造体30は、バンパ18とバンパーレインフォースメント8との間に設けられ、バンパ18側から順に、バンパ固定部材32、連結部材34、バンパ支持部材36、バンパ支持ブラケット38を備える。
【0031】
バンパ固定部材32は、
図2乃至
図4に示すように、断面矩形のコーン状に形成され、それ自体の剛性を高めた部材である。このバンパ固定部材32は、固定部材(ボルト)40により、バンパフェイス本体部20に固定されている。一方、バンパ固定部材32の後方端部は、固定部材(クリップ部材)42(
図9参照)により、連結部材34に固定されている。なお、変形例として、バンパ固定部材32と連結部材34とを一体的に形成して、本発明の連結部としてもよい。
【0032】
次に、
図2、
図4乃至
図7に示すように、連結部材34は、バンパ固定部材32が固定され、側面視で三角形状の補強部を含む荷重受け部34aと、バンパ支持部材36の上面に沿って延びるスライド平面部34bとを有している。荷重受け部34aのバンパ固定部材32の固定面は、車両上下方向に延びている。
【0033】
図4、
図6乃至
図9に示すように、連結部材34の底面34d(
図7、
図9参照)がバンパ支持部材36の上面36a(
図8、
図9参照)に当接し、これにより、バンパ18がバンパ支持部材36の上面36aで支持されるようになっている。
また、連結部材34の底面34dは、連結部材34がバンパ支持部材36に対してスライド可能なように、バンパ支持部材36の上面36aに当接している。
【0034】
ここで、バンパ固定部材32および連結部材34は、バンパ18をバンパ支持部材36の上面36aによって支持するための連結部であると共に、バンパ18を車体側にスライド可能に連結固定するための連結部でもある。
【0035】
次に、
図2乃至
図5に示すように、バンパ支持部材36は、バンパ支持ブラケット38により、バンパーレインフォースメント8に固定されている。バンパ支持ブラケット38は、断面L字状に形成された平板部材であり、そのL字状の一方の平板部分が、バンパ支持部材36の底面に固定され、他方の平板部分が、断面H字状に形成されたバンパーレインフォースメント8のフランジ部分にボルト締めにて固定されている(
図2、
図4参照)。
図2乃至
図4に示すように、バンパ支持部材36は、このようなバンパ支持ブラケット38により、クラッシュカン6の車両上方に離間した位置に設けられる。なお、変形例として、バンパ支持部の上面36aがクラッシュカン6の車両上方に離間した位置に設けられるように、バンパ支持部材36とバンパ支持ブラケット38とを一体的に形成して、本発明のバンパ支持部としてもよい。バンパ支持部材36は、
図3および
図9に示すように、固定部材(クリップ部材)44により、バンパ支持ブラケット38に固定されている。
【0036】
次に、
図4乃至
図8に示すように、連結部材34およびバンパ支持部材36には、連結部材34がバンパ支持部材36に対して車両前方方向および車幅方向に移動しないように規制する複数の規制部48、50が形成されている。
【0037】
まず、第1の規制部48は、バンパ支持部材36に形成された左右一対の規制部材36bが、連結部材34の各側部34eに当接して、連結部材34が車幅方向に移動しないよう規制する。また、第1の規制部48は、連結部材34に形成された左右のリブ34fが、各規制部材36bに当接して、連結部材34が車両前方方向に移動しないよう規制する。各規制部材36bは、バンパ支持部材36の側方縁部から上方に立ち上がると共に車幅方向内方に折れ曲がり、全体としてL字状に延びるよう形成されている。
【0038】
次に、第2の規制部50は、バンパ支持部材36に形成された左右一対の規制部材36cが、連結部材34の補強部(荷重受け部)34aから連続して延びるリブ34gに車幅方向に当接して、連結部材34が車幅方向に移動しないよう規制する。また、第2の規制部50は、リブ34gの車幅方向に延びる部分が、各規制部材36cに当接して、連結部材34が車両前方方向に移動しないよう規制する。各規制部材36cは、バンパ支持部材36の後方縁部から上方に立ち上がると共に車両後方に折れ曲がり、全体としてL字状に延びるよう形成されている。
【0039】
次に、
図4乃至
図6に示すように、上述したバンパ支持部材36の規制部材36b、36cは、バンパ18を支持する支持部材36b、36cとしての機能も有する。
まず、支持部材36bは、上述したように、車幅方向内方に折れ曲がって全体としてL字状に延びるよう形成されているが、この車幅方向に折れ曲がって水平方向に延びる部分が、連結部材34の上面34cの一部に当接/係合して、連結部材34の上方への移動を規制するように形成されている。また、支持部材36bは、上述したように、車両後方に折れ曲がって全体としてL字状に延びるよう形成されているが、この車両後方に折れ曲がって水平方向に延びる部分が、連結部材34の上面34cの一部に当接/係合して、連結部材34の上方への移動を規制するように形成されている。
【0040】
次に、バンパ支持部材36によるバンパ18の支持機能を説明する。
まず第1に、連結部材34には、バンパ18の重量に起因する車両上下方向の下方に向く荷重が加わるが、この荷重をバンパ支持部材36の上面36aで受け止めることにより、バンパ18が支持される。すなわち、このバンパ支持部材36の上面36aがバンパ18の第1の支持機能を有する。
【0041】
第2に、連結部材34には、バンパ18の重量、および、バンパ18(バンパ取付部40)から連結部材34までの水平方向の相対距離に起因するモーメント力が加わり、このモーメント力を受けた連結部材34は上方に回転移動しようとする。バンパ支持部材36に形成された支持部材36b、36cは、このような連結部材34の上方への移動を規制することにより、バンパ18を支持する。すなわち、支持部材36b、36cが、バンパ18の第2の支持機能を有する。
【0042】
第3に、バンパ18は、上述したように、左右一対の上方バンパ支持部材26によっても支持されている(
図1参照)。
【0043】
次に、主に、
図4乃至
図10により、バンパ支持構造体30が有するスライド許容機構52の構成を説明する。
図10は、本実施形態によるスライド許容機構の平板状クリップ部材とピン部材の位置および寸法の関係を主に説明するための平面図である。この
図10では、後述するピン部材54、56は、U字形クリップ部材58の上面と同じ高さ位置での断面(54a、56a)で示す。
主に、
図4および
図5に示すように、バンパ支持構造体30は、衝突時、バンパ18に車両前方から所定の大きさ以上の車両前後方向の荷重が入力されると、連結部材34をバンパ支持部材36に対して車両後方に向けてスライドさせて衝撃を軽減するためのスライド許容機構52を備える。
【0044】
ここで、本実施形態では、上述した所定の大きさの車両前後方向の衝突荷重は、バンパ18全体の形状、強度および剛性と、上方バンパ支持部材26およびバンパ支持構造体30による支持強度などに基づいて、歩行者を保護可能に衝撃を吸収する値が適宜設定される。この設定荷重に基づいて、構造上、各バンパ支持構造体30に伝達/入力される荷重が計算され、この計算された荷重に基づいて、後述するスライド許容機構52における、スライド許容荷重が設定される。詳細には、このスライド許容荷重は、U字形クリップ部材58の前方側ピン部材54への係合が解除される荷重(荷重しきい値)であり、この荷重しきい値は、後述するようにU字形クリップ部材58の強度などを調整することにより設定される。
【0045】
スライド許容機構52は、前方側ピン部材(第2のピン部材)54と、後方側ピン部材(第1のピン部材/ピン部材)56と、これらのピン部材54、56に係合するU字形のクリップ部材(クリップ部材、U字形部材)58と、を有する。
【0046】
まず、前方側ピン部材54は、U字形クリップ部材58を変形させるための強度を有する部材である。すなわち、前方側ピン部材54は、そのピン部材自体はほぼ変形しない前提であり、たとえば鋼やステンレス、強度の高い樹脂素材で形成される。
図9に示すように、前方側ピン部材54は、本体部54aと、ヘッド部54bと、クリップ部54cとを有する。前方側ピン部材54は、クリップ部54cによって、バンパ支持部材36の固定部36d(
図8参照)に固定される。
図10に示すように、前方側ピン部材54の本体部54aに、U字形クリップ部材58(凹部58b)が係合する。
【0047】
次に、後方側ピン部材56は、連結部材34が衝突荷重を受けたとき、その荷重をU字形クリップ部材58に伝達可能な強度を有する部材である。すなわち、後方側ピン部材56は、そのピン部材自体はほぼ変形しない前提であり、たとえば鋼やステンレス、強度の高い樹脂素材で形成される。
図9に示すように、後方側ピン部材56は、U字形クリップ部材58が係合する本体部56aと、ヘッド部56bと、クリップ部56cとを有する。後方側ピン部材56は、クリップ部56cにより、連結部材34の固定部34hに固定される。
【0048】
本発明の実施形態では、
図9に示すように、前方側ピン部材54は、そのヘッド部54bとU字形クリップ部材58との間に隙間が形成されるように、バンパ支持部材36に固定される。また、後方側ピン部材56は、そのヘッド部56bとU字形クリップ部材58との間に隙間が形成されるように、連結部材34に固定される。本実施形態では、このような隙間により、スライド許容機構52が、上述したようなバンパ支持機能を有さないようにしている。すなわち、スライド許容機構52は、バンパ支持部材36によるバンパ18の支持機能(第1の支持機能)とは独立して、個別に、別部位として、スライド機能を有するものであり、このスライド機能により、連結部材34をバンパ支持部材36に対して車両後方にスライドさせて、バンパ18の車両後方への移動を許容するようにしている。
【0049】
次に、U字形クリップ部材58は、鋼やステンレス製の所定厚さを有する平板状部材であり、連結部材34の上面34c上に配置される。
図10に示すように、U字形クリップ部材58には、前方側ピン部材54の本体部54aと係合する前方側凹部58aと、後方側ピン部材56の本体部56aと係合する後方側凹部58bと、それらを接続するように形成された中間溝部58cと、前方側凹部58aの前方側に形成され、U字形クリップ部材58の前方端縁で開口した開口溝部58dとが形成されている。このように、U字形クリップ部材58には、その後方端部58eから前方端部58fまでの間に、後方側凹部58a、中間溝部58c、前方側凹部58b、開口溝部58dの順に連続した空間であるU字溝部が形成されている。U字形クリップ部材58は、
図10に示すように、平面視で、その中央軸線(図示せず)に対して面対称に形成されている。
【0050】
本発明の実施形態では、上述したように、所定荷重以上の衝突時、スライド許容機構52によって、連結部材34をバンパ支持部材36に対して車両後方に向けてスライドさせて衝撃を軽減するようにしている。
図5、
図6および
図8に示すように、バンパ支持部材36の上面36aには、このようなスライド時、連結部材34の車両後方へのスライドをガイドするためのガイドリブ(ガイド部)36eが形成されている。
【0051】
また、本発明の実施形態では、連結部材34がバンパ支持部材36に対して所定距離だけ車両後方にスライドした後、上述した規制部48、50/支持部材36b、36cによる連結部材34の上面34cへの当接/係合が外れるようにしている。すなわち、
図4乃至
図7に示すように、支持部材36b、36cがそれぞれ当接/係合する上面34cの部分の車両前方側にはリブなどを形成せずに、平板状に形成して、連結部材34の後方へのスライドを規制しないようにしている。
【0052】
また、
図4乃至
図6、
図8に示すように、バンパ支持部材36の上面36aには、連結部材34が所定距離だけ車両後方にスライドしたときに当接する傾斜ガイド部(傾斜部)36fが形成されている。本実施形態では、スライド時に、連結部材34とバンパ支持部材36との接触,より詳細には、連結部材34と規制部材/支持部材36b、36cとの接触を防止して、連結部材34のスライド量を確保するよう、連結部材34が、傾斜ガイド部36fに当接して側面視で斜め上方にスライドするようにしている(
図12B参照)。
【0053】
次に、
図10、
図11、
図12Aおよび
図12Bにより、スライド許容機構52におけるU字形クリップ部材58の寸法と強度、通常時(非衝突時)におけるU字形クリップ部材58と前方側ピン部材54および後方側ピン部材56との係合、および、衝突時のU字形クリップ部材58の変形およびそれに伴う係合解除について説明する。
図10は、本実施形態によるスライド許容機構の平板状クリップ部材とピン部材の位置および寸法の関係を主に説明するための平面図であり、
図11は、本実施形態によるスライド許容機構の係合解除時の平板状クリップ部材の変形状態を示す図であり、
図12Aは、本実施形態によるバンパ支持構造における連結部材がバンパ支持部材に固定される通常状態を示す車両の左側から見た側面図であり、
図12Bは、本実施形態によるバンパ支持構造における連結部材がバンパ支持部材に対して所定距離スライドした衝突時の状態を示す車両の左側から見た側面図である。
【0054】
本発明の実施形態では、衝突時、バンパ18に車両前方から所定の大きさ以上の車両後方へ向く荷重が入力されたとき、連結部材34と共に後方にスライド移動する後方側ピン部材56が、バンパ支持部材36に固定された後方側ピン部材56から離れて、各ピン部材54、56の相対距離が拡がるようにしている。これにより、U字形クリップ部材58が変形して、U字形クリップ部材58と前方側ピン部材54との係合が解除される(
図11参照)。U字形クリップ部材58、前方側ピン部材54および後方側ピン部材56は、このような機能を発揮するよう、以下のように形成される。
【0055】
まず、U字形クリップ部材58に作用する力と変形の関係について説明する。
U字形クリップ部材58は、衝突初期、後方に移動し始めた後方側ピン部材56の本体部56aが、U字形クリップ部材58の後方側凹部58bを介して、U字形クリップ部材58を後方側に押す。このとき、この後方側ピン部材56が接触する後方側凹部58bの後面が、U字形クリップ部材58が変形する際の支点であり力点と考えることができる。また、このようなU字形クリップ部材58の支点/力点に対し、U字形クリップ部材58を左右方向(車幅方向)に拡げるようなモーメント力の作用点は、前方側ピン部材54の本体部54aが係合する前方側凹部58aと考えることができる。
【0056】
次に、
図10に示す各寸法A~Eの設定の主な判断基準を説明する。
U字形クリップ部材58の前方側ピン部材54と後方側ピン部材56との相対距離Dは、大きく設定するほど、上述した支点と作用点との距離が大きくなるので、上述したモーメント力も大きくなる。したがって、相対距離Dを大きく設定するほど、U字形クリップ部材58が変形しやすくなり、これにより、U字形クリップ部材58と前方側ピン部材54との係合が解除されやすくなる(
図11参照)。一方、相対距離Dを大きく設定しすぎると、U字形クリップ部材58が厚み方向(車両上下方向)にこじれるように変形しやすくなり、連結部材34のスライド荷重(衝突によりスライドする荷重/係合が解除される荷重)が安定しなくなる。たとえば、相対距離Dは40mm以下が好ましいが、この数値に限定されず、スライド許容機構52を適用する車両に応じて適宜設定される。
【0057】
U字形クリップ部材58の板厚は、大きいほど部材が変形しにくく、小さいと厚み方向にこじれるように変形しやすくなるので、スライド荷重を安定させるために、たとえば、0.8mm~2.0mmが好ましいが、この数値に限定されず、スライド許容機構52を適用する車両に応じて適宜設定される。
【0058】
スライド荷重は、主に、上述した相対距離Dの寸法を設定した上で、U字形クリップ部材58に形成された開口溝部58dの幅Bの寸法と、前方側ピン部材54の直径E1の寸法をそれぞれ調整することで、目標のスライド荷重が得られるようにすることができる。また、U字形クリップ部材58において、後方側ピン部材56の直径E2や、後方側凹部58bの後面と後方端部58eとの距離Cや、開口溝部58dと前方側凹部58aとの間のコーナ部の曲率Aも、U字形クリップ部材58の変形のしやすさを左右するので、適宜、設定される。たとえば、直径E2は直径E1と同一であり、距離Cは、5mm~9mmが好ましく、曲率Aは、R1mm~R3mmが好ましいが、これらの数値に限定されず、スライド許容機構52を適用する車両に応じて適宜設定される。
【0059】
上述した各寸法A~Eの好ましい数値は、U字形クリップ部材58を鋼やステンレスで形成した場合の数値である。また、鋼やステンレスであれば、U字形クリップ部材58を安定して変形させやすくなるので、目標とするスライド荷重を安定して得ることができる。
【0060】
次に、スライド許容機構52の作用を説明する。
本発明の実施形態では、衝突時、バンパ18に車両前方から所定の大きさ以上の車両後方へ向く荷重が入力され、バンパ18、バンパ固定部材32を介して、連結部材34に所定の値のスライド荷重(衝突によりスライドする荷重/係合が解除される荷重)が伝達されると、まず、連結部材34は、そのスライド荷重を受けて、
図11および
図12Bの矢印Fで示す車両後方の方向にスライドしようとする。なお、所望のスライド荷重未満のときは、U字形クリップ部材58と、前方側ピン部材54および後方側ピン部材56との係合により、連結部材34はスライドしない。
【0061】
その後、連結部材34のスライド量が増えると共に、後方側ピン部材56も車両後方の方向に移動し、後方側ピン部材56から力を受けたU字形クリップ部材58も車両後方に移動する。一方、前方側ピン部材54は移動しないので、
図11に示すようにU字形クリップ部材58が変形して、前方側ピン部材54との係合が解除される。
【0062】
連結部材34は、衝突時、その初期位置から所定距離だけスライドするまでの間、
図12Aに示すように、バンパ支持部材36の上面36aをスライドする。
その後、
図12Bに示すように、連結部材34は、所定距離だけ車両後方にスライドすると、上述したバンパ支持部材36の傾斜部36fに当接して上面36aから離れる。また、
図12Bに示すように、この所定距離の位置では、バンパ支持部材36の規制部材/支持部材36b、36cと、連結部材34の上面部分34cとの当接/係合が外れる。これらにより、連結部材34と規制部材/支持部材35b、36cとの接触を防止して、連結部材34のスライド量を確保するようにしている。その後は、バンパ18から荷重を受けたバンパーレインフォースメント8を介して、クラッシュカン6で衝撃が吸収される。
【0063】
なお、変形例として、たとえば、スライド許容機構52を、前方側ピン部材(54)がバンパ支持部材(36)に固定され、後方側ピン部材(56)が連結部材(34)に固定され、U字形クリップ部材(58)が車両後方に開口するよう配置され、前方衝突時、U字形クリップ部材(58)はスライドせず、後方側ピン部材(56)が連結部材(34)と共に後方に移動してU字形クリップ部材(58)を変形させ、U字形クリップ部材(58)と後方側ピン部材(56)との係合が解除されるように構成してもよい。
【0064】
次に、本発明の実施形態による車両の車体構造の作用効果を説明する。
まず、本発明の実施形態によれば、車両1の車体に設けられ、バンパ18を支持するためのバンパ支持部36(38)と、バンパ18とバンパ支持部36とを連結し、バンパ18を支持する連結部34(32)と、バンパ18に車外側から所定の大きさ以上の車両前後方向の荷重が入力されたとき、バンパ18のバンパ支持部36に対する車両前後方向のスライドを許容するスライド許容部52と、を備え、連結部34はバンパ支持部36の上面36aに設けられ、かつ、スライド許容部52は連結部34によるバンパ18の支持とは独立してバンパ18の車両前後方向のスライドを許容するよう構成されているので、第1に、バンパ18をバンパ支持部36の上面36aにより支持することにより、バンパの支持剛性を高めることができ、第2に、スライド許容部52は連結部34によるバンパ18の支持とは独立してバンパ18の車両前後方向のスライドを許容することにより、バンパの支持剛性を確保した上で、そのバンパ支持剛性に影響を与えずに、衝突時にバンパ18を車両前後方向にスライドさせることができる。その結果、本発明の実施形態によれば、バンパ18の支持剛性と、衝突時における歩行者への衝撃軽減性能とを両立することができる。
【0065】
また、本実施形態によれば、スライド許容部52は、連結部34と共に車両前後方向にスライド可能なクリップ部材58と、クリップ部材58に係合するようにバンパ支持部36に固定されたピン部材54と、を有し、クリップ部材58は、バンパ18に車外側から所定の大きさ以上の車両前後方向の荷重が入力されたとき、連結部34のスライドに伴って、バンパ支持部36に固定されたピン部材54との係合が解除されるように形成されているので、所定の大きさ以上の車両前後方向の荷重が入力されたとき、より確実に、バンパ18を車両前後方向にスライドさせることができる。
【0066】
また、本実施形態によれば、連結部34は、バンパ支持部36の上面36aに沿って車両後方または車両後方にスライド可能であり、スライド許容部52は、連結部34に固定された第1のピン部材56と、バンパ支持部に固定された第2のピン部材54と、第1のピン部材56および第2のピン部材54に係合するよう形成された所定形状の溝部58a~58eを有するU字形部材58と、を有し、U字形部材58は、バンパ18に車外側から所定の大きさ以上の車両前後方向の後方へ向く荷重が入力されたとき、連結部34のスライドに伴って第1のピン部材56と第2のピン部材54との相対距離が大きくなることにより変形し、これにより、第2のピン部材54との係合が解除されるように形成されている。したがって、本実施形態によれば、所定の大きさ以上の車両後方へ向く荷重が入力されたとき、U字形部材58の変形によってバンパ支持部36に固定された第2のピン部材54との係合を解除するようにしているので、より確実に、衝突軽減性能を確保することができる。
【0067】
また、本実施形態によれば、第2のピン部材54は、第1のピン部材56より車両前方側でバンパ支持部36に固定され、U字形部材58の溝部58eは車両前方側に向けて開口し、U字形部材58は、バンパ18に車外側から所定の大きさ以上の車両前後方向の後方へ向く荷重が入力されたとき、連結部34のスライドに伴って第1のピン部材56から力を受けて後方にスライドすると共に第2のピン部材54から力を受けて拡がるように変形するよう構成されているので、より効果的に、U字形部材58を変形させて、第2のピン部材54との係合を解除することができる。
【0068】
また、本実施形態によれば、バンパ支持部36の上面36aには、連結部34の車両前方への移動を規制すると共に、車幅方向への移動を規制する規制部36b、26cが設けられているので、通常時(衝突時以外)には、バンパ18が車両前方側や車幅方向へずれることを防止して、バンパ18の支持剛性をより確実に確保し、一方、衝突時には、バンパ18が車両後方以外の方向に移動することを防止することができる。
【0069】
また、本実施形態によれば、バンパ支持部36の上面36aには、連結部34が所定距離だけ車両後方側にスライドしたときに当接し、車両後方に向かって斜め上方に突出する傾斜部36fが設けられているので、衝突時、連結部34がバンパ支持部36の上面36aに沿って所定距離スライドした後、連結部34を斜め上方にスライドさせることにより、連結部34と規制部36b、36cとの接触を防止し、これにより、連結部34のスライド量を確保して、より確実に、衝突荷重を低減することができる。
【0070】
また、本実施形態によれば、バンパ支持部36は、クラッシュカン6の車両上方に離間した位置に設けられるので、衝突時のクラッシュカンの変形を妨げることなく、バンパの支持剛性を確保することができる。また、フロントバンパ18に設けたフロントグリル24からの空気導入を妨げることなく、バンパ18の支持剛性を確保することができる。また、本実施形態によれば、バンパ支持部36をバンパレイン8に固定するブラケット38を備え、バンパ支持部36は、ブラケット38を介してクラッシュカン6の車両上方に離間した位置に設けられる。
【0071】
本実施形態によれば、バンパ支持部36には、連結部34の車両後方へのスライドをガイドするための車両前後方向に延びるガイド部36eが形成されているので、より確実に、衝突時にバンパを車両後方へ移動させることができる。
【符号の説明】
【0072】
1 車両
6 クラッシュカン
8 バンパーレインフォースメント、バンパレイン
18 バンパ、バンパフェイス
20 バンパフェイス本体
22 バンパフェイス上部
24 フロントグリル
26 上方バンパ支持部材
30 バンパ支持構造体
32 バンパ固定部材(連結部)
34 連結部材(連結部)
34a 補強部を含む荷重受け部
34b スライド平面部
34c 上面、上面の一部分
34d 底面
34e 側部
34f、34g リブ
34h 後方側ピン部材の固定部
36 バンパ支持部材(バンパ支持部)
36a 上面
36b 規制部材/支持部材
36c 規制部材/支持部材
36e ガイドリブ(ガイド部)
36d 前方側ピン部材の固定部
36f 傾斜ガイド部(傾斜部)
38 バンパ支持ブラケット(バンパ支持部)
48 規制部
50 規制部
52 スライド許容機構
54 前方側ピン部材(第2のピン部材)
54a 本体部
56 後方側ピン部材(第1のピン部材/ピン部材)
56a 本体部
58 U字形クリップ部材(クリップ部材、U字形部材)
58a 前方側凹部
58b 後方側凹部
58d 開口溝部
58e 後方端部
58a~58d U字溝部
A~D、E1、E2 U字溝部の各寸法
F 連結部材のスライド方向(車両後方に向く方向)