(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022080079
(43)【公開日】2022-05-27
(54)【発明の名称】COVID-19の治療剤又は予防剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/196 20060101AFI20220520BHJP
A61K 31/245 20060101ALI20220520BHJP
A61K 31/47 20060101ALI20220520BHJP
A61K 31/403 20060101ALI20220520BHJP
A61K 31/357 20060101ALI20220520BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20220520BHJP
A61K 31/216 20060101ALI20220520BHJP
A61K 31/538 20060101ALI20220520BHJP
A61K 31/235 20060101ALI20220520BHJP
A61K 31/341 20060101ALI20220520BHJP
A61K 31/405 20060101ALI20220520BHJP
A61K 31/192 20060101ALI20220520BHJP
A61K 31/27 20060101ALI20220520BHJP
A61K 31/455 20060101ALI20220520BHJP
A61K 31/4709 20060101ALI20220520BHJP
A61K 31/498 20060101ALI20220520BHJP
A61K 31/4439 20060101ALI20220520BHJP
A61K 31/404 20060101ALI20220520BHJP
A61K 31/4035 20060101ALI20220520BHJP
A61K 31/36 20060101ALI20220520BHJP
A61K 31/472 20060101ALI20220520BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220520BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20220520BHJP
C12N 9/99 20060101ALI20220520BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20220520BHJP
【FI】
A61K31/196
A61K31/245 ZNA
A61K31/47
A61K31/403
A61K31/357
A61K31/198
A61K31/216
A61K31/538
A61K31/235
A61K31/341
A61K31/405
A61K31/192
A61K31/27
A61K31/455
A61K31/4709
A61K31/498
A61K31/4439
A61K31/404
A61K31/4035
A61K31/36
A61K31/472
A61P43/00 105
A61P31/14
C12N9/99
C12N15/113 100Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】36
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020191046
(22)【出願日】2020-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(71)【出願人】
【識別番号】592068200
【氏名又は名称】学校法人東京薬科大学
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100123858
【弁理士】
【氏名又は名称】磯田 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】230115864
【弁護士】
【氏名又は名称】永島 孝明
(72)【発明者】
【氏名】浅野 知一郎
(72)【発明者】
【氏名】坂口 剛正
(72)【発明者】
【氏名】山本屋 武
(72)【発明者】
【氏名】中津 祐介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 久央
(72)【発明者】
【氏名】岡部 隆義
(72)【発明者】
【氏名】エンシナス ジェフリー
【テーマコード(参考)】
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA03
4C086BA13
4C086BA15
4C086BC11
4C086BC12
4C086BC13
4C086BC14
4C086BC17
4C086BC29
4C086BC30
4C086BC52
4C086BC74
4C086GA02
4C086GA07
4C086GA08
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB33
4C086ZC20
4C086ZC41
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA19
4C206DA21
4C206DA22
4C206DB15
4C206DB17
4C206DB18
4C206DB21
4C206DB24
4C206DB53
4C206GA07
4C206GA08
4C206GA09
4C206GA13
4C206GA19
4C206GA31
4C206GA32
4C206GA33
4C206GA37
4C206HA22
4C206HA23
4C206HA30
4C206JA13
4C206KA01
4C206KA04
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZB33
4C206ZC20
4C206ZC41
(57)【要約】
【課題】コロナウィルス感染症のようなウィルス性疾患に対する新規の治療薬を開発することを目的とする。
【解決手段】Pin1の機能を阻害する活性を有する化合物、又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、ウィルス性疾患の治療剤又は予防剤である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pin1を阻害する機能を有する化合物、又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、COVID-19の治療剤又は予防剤。
【請求項2】
前記化合物は、次の式(I-I)で表される化合物である、請求項1に記載の治療剤又は予防剤。
【化1】
(式中、R
11及びR
12の少なくとも一方は、置換基を有していてもよい多環式のアリール基、置換基を有していてもよい多環式の複素環基、又は次の式(I-II)で表される基であり、
【化2】
(式中、環A及び環Bは、それぞれ、置換基を有していてもよい単環式又は多環式のアリール基を示し、R
14は、置換基を有していてもよい炭素数1~3のアルキレン基、置換基を有していてもよい炭素数2~3のアルケニレン基、又は2価のオキシ基を示す。)
R
11及びR
12のいずれかが、前記基のいずれでもない場合には、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、又は置換基を有していてもよい単環式の複素環基であり、
R
13は、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、又は置換基を有していてもよい複素環基であり、
X
1は、単結合、-CO-基、-CO-O-CH
2-基、-CO-CH
2-O-基、-SO
2-基、-CH
2-CO-NH-基、-CH
2-CO-基、-CH
2-基、又は-CO-CH
2-基である。)
【請求項3】
前記R11及びR12の少なくとも一方が、置換基を有していてもよい多環式のアリール基である、請求項2に記載の治療剤又は予防剤。
【請求項4】
前記R11及びR12の少なくとも一方が、置換基を有していてもよいナフチル基である、請求項3に記載の治療剤又は予防剤。
【請求項5】
前記R11が、置換基を有していてもよいナフチル基である、請求項4に記載の治療剤又は予防剤。
【請求項6】
前記R13が、水素原子又はメチル基である、請求項2~5のいずれか1項に記載の治療剤又は予防剤。
【請求項7】
前記X1が、-CO-基である、請求項2~6のいずれか1項に記載の治療剤又は予防剤。
【請求項8】
前記化合物は、次の式(II-I)で表される化合物である、請求項1に記載の治療剤又は予防剤。
【化3】
(式中、mは0~2の整数を示し、nは0~1の整数を示し、0≦m+n≦2であり、
R
21は、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよい複素環基、又は置換基を有していてもよいアミノ基であり、
R
22は、置換基を有していてもよい3以上の環の縮合環を含むアリール基、置換基を有するナフチル基、又は、次の式(II-II)、(II-III)、(II-IV)、若しくは(II-V)で表される基であり、
【化4】
(式中、環Aは、置換基を有していてもよい単環式の複素環基を示し、環B及び環Cは、それぞれ、置換基を有していてもよい単環式又は多環式のアリール基又は複素環基を示し、環A、環B及び環Cは縮合環を形成する。)
【化5】
(式中、環D及び環Eは、それぞれ、置換基を有していてもよい単環式又は多環式のアリール基又は複素環基を示し、R
24は、2価のオキシ基、又はカルボニル基を示す。)
【化6】
(式中、環D及び環Eは、それぞれ、置換基を有していてもよい単環式又は多環式のアリール基又は複素環基を示す。)
【化7】
(式中、R
25は、ナフチル基に連結した、同一又はそれぞれ異なる0~7個の置換基を示し、Y
2は、-NH-基、又は炭素数1若しくは2のアルキレン基を示す。)
R
23は、ナフチル基に連結した、同一又はそれぞれ異なる0~7個の置換基であり、
X
2は、単結合、-CH
2-基、又は-NH-基である。)
【請求項9】
前記R
22が、次の式(II-II)で表される基である、請求項8に記載の治療剤又は予防剤。
【化8】
(式中、環Aは、置換基を有していてもよい単環式の複素環基を示し、環B及び環Cは、それぞれ、置換基を有していてもよい単環式又は多環式のアリール基又は複素環基を示し、環A、環B及び環Cは縮合環を形成する。)
【請求項10】
前記mが1であり、前記nが0である、請求項8又は9に記載の治療剤又は予防剤。
【請求項11】
前記R21が、水素原子である、請求項8~10のいずれか1項に記載の治療剤又は予防剤。
【請求項12】
前記X2が単結合である、請求項8~11のいずれか1項に記載の治療剤又は予防剤。
【請求項13】
前記化合物は、次の式(III-I)で表される化合物である、請求項1に記載の治療剤又は予防剤。
【化9】
(式中、mは0~2の整数を示し、nは0~2の整数を示し、0≦m+n≦3であり、
環Aは、置換基を有していてもよい単環式の芳香環又は複素環であり、
X
3は、単結合、-NH-基、-NH-CO-基、-O-CO-基、-CH
2-S-CH
2-基、-CH
2-S-(CH
2)
2-S-基、又は-NH-R
34-基(R
34は、炭素数1~5のアルキレン基、又は炭素数2~5のアルケニレン基を示す。)であり、
Y
3は、単結合、-NH-基、-CO-基、-SO
2-基、-O-CO-基、-CO-NR
35-基(R
35は、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1~5のアルキル基を示す。)、-O-R
36-基(R
36は、置換基を有していてもよい炭素数1~5のアルキレン基、又は置換基を有していてもよい炭素数2~5アルケニレン基を示す。)、-NR
35-R
36-基、-S-R
36-基、-CO-R
36-基、-SO
2-R
36-基、-NR
35-CO-R
36-基、-R
36-NR
35-CO-基、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキレン基、又は置換基を有していてもよい炭素数2~6のアルケニレン基であり、
Z
3は、水素原子、置換基を有していてもよいアミノ基、又は置換基を有していてもよいアミンであり、
前記Z
3が置換基を有していてもよいアミンである場合には、前記X
3と前記Z
3は環を形成し、
R
31は、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよい複素環基、又は置換基を有していてもよいアミノ基であり、
R
32は、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、又は次の式(III-II)
【化10】
(式中、環B及び環Cは、それぞれ、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、又は置換基を有していてもよいシクロアルキル基を示し、R
37は、単結合、-O-基、-CO-基、-NH-基、-SO
2-基、-CO-NH-基、置換基を有していてもよい炭素数1~3のアルキレン基、置換基を有していてもよい炭素数2~3のアルケニレン基、-S-R
38-基(R
38は、置換基を有していてもよい炭素数1~2のアルキレン基を示す。)、-CO-R
38-基、-O-R
38-基、-SO
2-R
38-基を示し、環B、環C又はR
37のいずれかの部位でY
3と連結する。)
で表される基であり、
R
33は、同一又はそれぞれ異なる0~4個の置換基である。)
【請求項14】
前記mが1であり、前記nが0である、請求項13に記載の治療剤又は予防剤。
【請求項15】
前記X3が、-NH-CO-基、又は-O-CO-基である、請求項13又は14に記載の治療剤又は予防剤。
【請求項16】
前記環Aが、ベンゼン環である、請求項13~15のいずれか1項に記載の治療剤又は予防剤。
【請求項17】
前記R32が、置換基を有していてもよい多環式のアリール基、又は置換基を有していてもよい多環式の複素環基である、請求項13~16のいずれか1項に記載の治療剤又は予防剤。
【請求項18】
前記Z3が、水素原子である、請求項13~17のいずれか1項に記載の治療剤又は予防剤。
【請求項19】
前記Y3が、単結合、-CH2-基、又は-CH2-O-基である、請求項13~18のいずれか1項に記載の治療剤又は予防剤。
【請求項20】
前記R31が、水素原子である、請求項13~19のいずれか1項に記載の治療剤又は予防剤。
【請求項21】
前記化合物は、次の式(IV-I)で表される化合物である、請求項1に記載の治療剤又は予防剤。
【化11】
(式中、環Aは、置換基を有していてもよい単環式又は多環式の芳香環又は複素環を示し、
R
41は、置換基を有していてもよい多環式の芳香環又は次の式(IV-II)~(IV-V)のいずれかで表される基を示し、
【化12】
(式中、環Bは、置換基を有していてもよい単環式の複素環を示し、環C及び環Dは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい単環式又は多環式の芳香環、複素環又は環式炭化水素を示し、環B、環C及び環Dは縮合環を形成する。)
【化13】
(式中、環Eは、置換基を有していてもよい単環式の複素環を示し、環Fは、置換基を有していてもよい単環式又は多環式の芳香環、複素環又は環式炭化水素を示し、環E及び環Fは縮合環を形成する。)
【化14】
(式中、環G及び環Hは、それぞれ、置換基を有していてもよい単環式又は多環式の芳香環又は複素環を示す。)
【化15】
(式中、環Iは、置換基を有していてもよい単環式の芳香環又は複素環を示し、環Jは、置換基を有していてもよい単環式又は多環式の芳香環、複素環又は環式炭化水素を示し、環I及び環Jは縮合環を形成しており、R
46は、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基又は置換基を有していてもよい複素環基を示す。)
R
42は、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよい複素環基又は置換基を有していてもよいアミノ基を示し、
R
43は、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基又は置換基を有していてもよい複素環基を示し、
R
44は、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基又は置換基を有していてもよい複素環基を示し、
R
45は、ベンゼン環に連結する同一又は異なる0~3個の置換基を示し、 X
4は、単結合、炭素数1若しくは2のアルキレン基、-O-基、-CH
2-O-基、-CH
2-NH-CO-基又は-CH
2-NH-CO-O-CH
2-基を示し、
Y
4は、単結合又は炭素数1若しくは2のアルキレン基を示す。)
【請求項22】
前記環Aが、置換基を有していてもよい多環式の芳香環又は複素環である、請求項21に記載の治療剤又は予防剤。
【請求項23】
前記環Aが、次の式(IV-VI)で表される環である、請求項22に記載の治療剤又は予防剤。
【化16】
(式中、A
1、A
2及びA
3は、それぞれ独立して、炭素原子又は窒素原子を示し、環Kは、置換基を有していてもよい単環式又は多環式の芳香環、複素環又は環式炭化水素を示す。)
【請求項24】
前記A1、A2及びA3が、いずれも炭素原子である、請求項23に記載の治療剤又は予防剤。
【請求項25】
前記R
41が、次の式(IV-II)で表される基である、請求項21~24のいずれか1項に記載の治療剤又は予防剤。
【化17】
(式中、環Bは、置換基を有していてもよい単環式の複素環を示し、環C及び環Dは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい単環式又は多環式の芳香環、複素環又は環式炭化水素を示し、環B、環C及び環Dは縮合環を形成する。)
【請求項26】
前記R42が水素原子である、請求項21~25のいずれか1項に記載の治療剤又は予防剤。
【請求項27】
前記R43が水素原子である、請求項21~26のいずれか1項に記載の治療剤又は予防剤。
【請求項28】
前記R44が水素原子である、請求項21~27のいずれか1項に記載の治療剤又は予防剤。
【請求項29】
前記X4が単結合である、請求項21~28のいずれか1項に記載の治療剤又は予防剤。
【請求項30】
前記Y4が単結合である、請求項21~29のいずれか1項に記載の治療剤又は予防剤。
【請求項31】
A 基質ペプチドに含まれるリン酸化セリン/スレオニン-プロリンのモチーフのシスからトランスへの変換を測定する無細胞アッセイを使用して、Pin1の機能を阻害する活性を測定してPin1阻害剤のライブラリを取得するステップと、
B 前記ステップAにおいてPin1阻害剤として同定された化合物を、ウィルス成分の増加を測定する細胞ベースのアッセイを使用して、SARS-CoV-2ウィルスの増殖を阻害する能力について測定するステップと、
を含む、COVID-19の治療剤又は予防剤スクリーニング方法。
【請求項32】
請求項31に記載のスクリーニング方法によって同定されたPin1阻害剤又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、COVID-19の治療剤又は予防剤。
【請求項33】
コロナウィルス感染症の治療剤又は予防剤に分類される他の薬剤から選択される少なくとも1種以上の薬剤の有効成分をさらに含む、請求項1~30及び32のいずれか1項に記載の治療剤又は予防剤。
【請求項34】
コロナウィルス感染症の治療剤又は予防剤に分類される他の薬剤から選択される少なくとも1種以上の薬剤と併用してコロナウィルス感染症を治療又は予防するための、請求項1~30及び32~33のいずれか1項に記載の治療剤又は予防剤。
【請求項35】
コロナウィルス感染症を治療又は予防するための医薬の製造のための、請求項1~30及び32~33のいずれか1項に記載の治療剤又は予防剤の使用。
【請求項36】
請求項1~30及び32~33のいずれか1項に記載の治療剤又は予防剤の治療有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、COVID-19の治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Pin1の機能を阻害する化合物を有効成分として含有するヒトに感染するウィルス性疾患、例えば、コロナウィルス感染症、特にβコロナウィルスを原因とするコロナウィルス感染症、中でもSARSコロナウィルス2(SARS-CoV-2)を原因とするコロナウィルス感染症(COVID-19)の治療剤又は予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コロナウィルスは、ヒトだけではなく動物にも感染し、様々な疾患を引き起こすウィルスである。イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ニワトリ、ウマ、アルパカ、ラクダなどの家畜に加え、シロイルカ、キリン、フェレット、スンクス、コウモリ、スズメからも、それぞれの動物に固有のコロナウィルス(動物コロナウィルス)が検出されている。コロナウィルスの種特異性は高く、種の壁を越えて他の動物に感染することは殆どない。ヒトに感染するコロナウィルスは、日常的に感染する4種類のコロナウィルス(Human Coronavirus:HCoV)として、HCoV-229E、HCoV-OC43、HCoV-NL63、HCoV-HKU1と、動物から感染する2種類の重症肺炎ウィルスとして、重症急性呼吸器症候群コロナウィルス(SARS-CoV)と、中東呼吸器症候群コロナウィルス(MERS-CoV)とが知られていた。
【0003】
2019年12月頃、新型コロナウィルスとして、SARSコロナウィルス2(SARS-CoV-2:Severe Acute Respiratory Syndrome CoronaVirus 2)の感染が確認され、瞬く間に世界中に拡大し、世界的大流行となっており、未だ終息の兆しが見えない。SARSコロナウィルス2により引き起こされる感染症(COVID-19)は、主に、感染者のせきやくしゃみで飛散した空気中の飛沫を介したヒトーヒト感染によって広がる。COVID-19は、発熱、呼吸器症状、頭痛、倦怠感などがみられ、嗅覚障害や味覚障害を引き起こすこともある。特に、高齢者、基礎疾患(心血管疾患、糖尿病、慢性呼吸器疾患、慢性腎臓病、高血圧、肥満)のある患者でCOVID-19の致死率が高くなっている。かかる状況下において、COVID-19に有効な治療薬及び予防薬が強く望まれている。
コロナウィルスは、遺伝情報としてRNAをもつRNAウィルスの一種(一本鎖RNAウィルス)であり、粒子の一番外側に「エンベロープ」という脂質からできた二重の膜を持っている。また、直径約100nmの球形で、表面には突起が見られ、形態が王冠に似ている。コロナウィルスは、自分自身で増えることはできないが、ヒトの粘膜などの細胞に付着して入り込んで増殖する。ウィルス学的には、ニドウィルス目・コロナウィルス亜科・コロナウィルス科に分類され、遺伝学的特徴からα、β、γ、δの4グループに分類される。HCoV-229EとHCoV-NL63はαコロナウィルスに、MERS-CoV、SARS-CoV、SARS-CoV-2、HCoV-OC43、HCoV-HKU1はβコロナウィルスに分類されている。
【0004】
ところで、Pin1は、タンパク質におけるプロリンのシス/トランス立体構造変化を触媒するペプチジルプロリル シス-トランス異性化酵素(peptidyl-prolyl cis-trans isomerase: PPIase)の一種であり、リン酸化したセリン又はスレオニンの次に位置するプロリンに特異的に作用して立体構造を変化させるという特徴を有する。したがって、Pin1は、タンパク質のリン酸化を、タンパク質の構造変化に結びつける分子であり、細胞内のシグナル伝達に重要な役割を果たすと考えられる。肥満マウスや糖尿病マウスの肝臓、筋肉、脂肪組織、腎臓などのいくつかの組織において、Pin1発現レベルが著しく増加することが報告されている(非特許文献1~3)。また、Pin1は、サイトメガロウィルス、エプスタイン・バール・ウィルス、B型肝炎ウィルス、C型肝炎ウィルス、ヒト免疫不全ウィルス、ネココロナウィルスなどのいくつかのウィルスの増殖を促進することも報告されている(非特許文献4~10)。ただし、ウィルス増殖によるPin1誘導促進の基礎となる分子メカニズムは、これらのウィルス間において異なっていると推察される。
【0005】
Pin1を阻害する化合物としては、フェニルアラニノールリン酸エステル誘導体、インドール又はベンズイミダゾールアラニン誘導体、フレデリカマイシンA化合物、フェニルイミダゾール誘導体、ナフチル置換アミノ酸誘導体、グルタミン酸又はアスパラギン酸誘導体等が報告されている(特許文献1~4並びに非特許文献11~14)。さらに、特定の構造を有するPin1阻害剤が、脂肪性肝疾患の治療剤又は予防剤、肥満症の治療剤又は予防剤、炎症性疾患の治療剤及び癌の治療剤として使用できることも知られている(特許文献5~7並びに非特許文献15)。また、Pin1阻害剤であるジペンタメチレンチウラムモノスルフィドによってネココロナウィルス(FCoV)の複製を阻害したことの報告もある(非特許文献10)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2004/087720号公報
【特許文献2】国際公開第2006/040646号公報
【特許文献3】国際公開第2005/007123号公報
【特許文献4】国際公開第2002/060436号公報
【特許文献5】国際公開第2019/031471号公報
【特許文献6】国際公開第2019/031472号公報
【特許文献7】国際公開第2019/031470号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Yusuke Nakatsu外10名著、International Journal of Molecular Sciences、2016年9月7日、Vol. 17(9)、E1495
【非特許文献2】Yusuke Nakatsu外20名著、Journal of Biological Chemistry、2012年12月、Vol. 287(53)、p. 44526-35
【非特許文献3】Yusuke Nakatsu外22名著、Journal of Biological Chemistry、2011年6月、Vol. 286(23)、p. 20812-22
【非特許文献4】Martin Schutz外9名著、Virus Research、2020年8月、Vol. 285、198023
【非特許文献5】Yohei Narita外7名著、Journal of Virology、2013年2月、Vol. 87、No. 4、p. 2120-2127
【非特許文献6】Mayuko Nishi外9名著、Frontiers in Cell and Developmental Biology、2020年1月、Vol. 8、Article 26
【非特許文献7】Yun-Sook Lim外4名著、JOURNAL OF VIROLOGY、2011年9月、Vol. 85、No. 17、p. 8777-8788
【非特許文献8】Hai Hou外3名著、Gene、2015年6月、Vol. 565、Issue 1、p. 9-14
【非特許文献9】Shogo Misumi外6名著、Journal of Biological Chemistry、2010年8月13日、Vol. 285、No. 33、p. 25185-25195
【非特許文献10】Yoshikazu Tanaka外4名著、Antiviral Research誌,、2016年2月発行、 Vol.126、pp.1~7
【非特許文献11】Andrew Potter外16名著、Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters誌(Bioorg. Med. Chem. Lett.)、2010年11月15日発行(2010年9月17日オンライン版発行)、Vol.20、No.22、pp.6483~6488
【非特許文献12】Andrew Potter外14名著、Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters誌(Bioorg. Med. Chem. Lett.)、2010年1月15日発行(2009年11月22日オンライン版発行)、Vol.20、No.2、pp.586~590
【非特許文献13】Liming Dong外11名著、Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters誌(Bioorg. Med. Chem. Lett.)、2010年4月1日発行(2010年2月14日オンライン版発行)、Vol.20、No.7、pp.2210~2214
【非特許文献14】Hidehiko Nakagawa外6名著、Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters誌(Bioorg. Med. Chem. Lett.)、2015年12月1日発行(2015年10月22日オンライン版発行)、Vol.25、pp.5619~5624
【非特許文献15】浅野知一郎著、「Pin1阻害薬による炎症性腸疾患の新規治療」、大阪商工会議所主催DSANJ疾患別商談会(消化器疾患領域)資料、2015年1月30日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来の状況に鑑み、ヒトに感染するコロナウィルス感染症、特にβコロナウィルスを原因とするコロナウィルス感染症、中でもSARSコロナウィルス2(SARS-CoV-2)を原因とするコロナウィルス感染症(COVID-19)に対する新規の治療薬又は予防薬を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行った結果、COVID-19においては、肥満の患者の致死率が高く、脂肪肝のヒト被験者の肝臓でPin1発現レベルが著しく増加していること等から、SARS-CoV-2増殖に対するPin1の効果を調査し、Pin1阻害剤を用いることにより、SARS-CoV-2増殖を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、Pin1を阻害する機能を有する化合物、又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、ヒトに感染するウィルス性疾患の治療剤又は予防剤であり、例えば、コロナウィルス感染症の治療剤又は予防剤であり、特に、βコロナウィルスを原因とするコロナウィルス感染症、その中でも、SARS-CoV-2を原因とするコロナウィルス感染症の治療剤又は予防剤である。Pin1を阻害する機能を有する化合物としては、Pin1酵素のPPIase活性を阻害する化合物でもよいし、Pin1酵素と標的タンパク質との結合を阻害する化合物でもよいし、Pin1酵素の分解を促進する化合物でもよい。
【0011】
前記化合物は、次の式(I-I)で表される化合物(以下「アントラニル酸系化合物」という)であってもよい。
【化1】
(式中、R
11及びR
12の少なくとも一方は、置換基を有していてもよい多環式のアリール基、置換基を有していてもよい多環式の複素環基、又は次の式(I-II)で表される基であり、
【化2】
(式中、環A及び環Bは、それぞれ、置換基を有していてもよい単環式又は多環式のアリール基を示し、R
14は、置換基を有していてもよい炭素数1~3のアルキレン基、置換基を有していてもよい炭素数2~3のアルケニレン基、又は2価のオキシ基を示す。)
R
11及びR
12のいずれかが、前記基のいずれでもない場合には、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、又は置換基を有していてもよい単環式の複素環基であり、
R
13は、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、又は置換基を有していてもよい複素環基であり、
X
1は、単結合、-CO-基、-CO-O-CH
2-基、-CO-CH
2-O-基、-SO
2-基、-CH
2-CO-NH-基、-CH
2-CO-基、-CH
2-基、又は-CO-CH
2-基である。)
【0012】
上記アントラニル酸系化合物又はその塩においては、R11及びR12の少なくとも一方が、置換基を有していてもよい多環式のアリール基であることが好ましい。
この場合には、R11及びR12の少なくとも一方が、置換基を有していてもよいナフチル基であることが、より好ましい。
さらに好ましくは、R11が、置換基を有していてもよいナフチル基であるのがよい。
上記アントラニル酸系化合物又はその塩においては、R13が、水素原子又はメチル基であることが好ましい。
上記アントラニル酸系化合物又はその塩においては、X1が、-CO-基であることが好ましい。
【0013】
また、前記化合物は、次の式(II-I)で表される化合物(以下「アミド系化合物」という)であってもよい。
【化3】
(式中、mは0~2の整数を示し、nは0~1の整数を示し、0≦m+n≦2であり、
R
21は、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよい複素環基、又は置換基を有していてもよいアミノ基であり、
R
22は、置換基を有していてもよい3以上の環の縮合環を含むアリール基、置換基を有するナフチル基、又は、次の式(II-II)、(II-III)、(II-IV)、若しくは(II-V)で表される基であり、
【化4】
(式中、環Aは、置換基を有していてもよい単環式の複素環基を示し、環B及び環Cは、それぞれ、置換基を有していてもよい単環式又は多環式のアリール基又は複素環基を示し、環A、環B及び環Cは縮合環を形成する。)
【化5】
(式中、環D及び環Eは、それぞれ、置換基を有していてもよい単環式又は多環式のアリール基又は複素環基を示し、R
24は、2価のオキシ基、又はカルボニル基を示す。)
【化6】
(式中、環D及び環Eは、それぞれ、置換基を有していてもよい単環式又は多環式のアリール基又は複素環基を示す。)
【化7】
(式中、R
25は、ナフチル基に連結した、同一又はそれぞれ異なる0~7個の置換基を示し、Y
2は、-NH-基、又は炭素数1若しくは2のアルキレン基を示す。)
R
23は、ナフチル基に連結した、同一又はそれぞれ異なる0~7個の置換基であり、
X
2は、単結合、-CH
2-基、又は-NH-基である。)
【0014】
上記アミド系化合物又はその塩においては、前記R
22が、次の式(II-II)で表される基であることが好ましい。
【化8】
(式中、環Aは、置換基を有していてもよい単環式の複素環基を示し、環B及び環Cは、それぞれ、置換基を有していてもよい単環式又は多環式のアリール基又は複素環基を示し、環A、環B及び環Cは縮合環を形成する。)
上記アミド系化合物又はその塩においては、前記mが1であり、前記nが0であることが好ましい。
上記アミド系化合物又はその塩においては、前記R
21が、水素原子であることが好ましい。
上記アミド系化合物又はその塩においては、前記X
2が単結合であることが好ましい。
【0015】
前記化合物は、次の式(III-I)で表される化合物(以下「カルボン酸誘導体系化合物」という)であってもよい。
【化9】
(式中、mは0~2の整数を示し、nは0~2の整数を示し、0≦m+n≦3であり、
環Aは、置換基を有していてもよい単環式の芳香環又は複素環であり、
X
3は、単結合、-NH-基、-NH-CO-基、-O-CO-基、-CH
2-S-CH
2-基、-CH
2-S-(CH
2)
2-S-基、又は-NH-R
34-基(R
34は、炭素数1~5のアルキレン基、又は炭素数2~5のアルケニレン基を示す。)であり、
Y
3は、単結合、-NH-基、-CO-基、-SO
2-基、-O-CO-基、-CO-NR
35-基(R
35は、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1~5のアルキル基を示す。)、-O-R
36-基(R
36は、置換基を有していてもよい炭素数1~5のアルキレン基、又は置換基を有していてもよい炭素数2~5アルケニレン基を示す。)、-NR
35-R
36-基、-S-R
36-基、-CO-R
36-基、-SO
2-R
36-基、-NR
35-CO-R
36-基、-R
36-NR
35-CO-基、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキレン基、又は置換基を有していてもよい炭素数2~6のアルケニレン基であり、
Z
3は、水素原子、置換基を有していてもよいアミノ基、又は置換基を有していてもよいアミンであり、
前記Z
3が置換基を有していてもよいアミンである場合には、前記X
3と前記Z
3は環を形成し、
R
31は、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよい複素環基、又は置換基を有していてもよいアミノ基であり、
R
32は、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、又は次の式(III-II)
【化10】
(式中、環B及び環Cは、それぞれ、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、又は置換基を有していてもよいシクロアルキル基を示し、R
37は、単結合、-O-基、-CO-基、-NH-基、-SO
2-基、-CO-NH-基、置換基を有していてもよい炭素数1~3のアルキレン基、置換基を有していてもよい炭素数2~3のアルケニレン基、-S-R
38-基(R
38は、置換基を有していてもよい炭素数1~2のアルキレン基を示す。)、-CO-R
38-基、-O-R
38-基、-SO
2-R
38-基を示し、環B、環C又はR
37のいずれかの部位でY
3と連結する。)
で表される基であり、
R
33は、同一又はそれぞれ異なる0~4個の置換基である。)
【0016】
上記カルボン酸誘導体系化合物又はその塩においては、前記mが1であり、前記nが0であることが好ましい。
上記カルボン酸誘導体系化合物又はその塩においては、前記X3が、-NH-CO-基、又は-O-CO-基であることが好ましい。
上記カルボン酸誘導体系化合物又はその塩においては、前記環Aが、ベンゼン環であることが好ましい。
上記カルボン酸誘導体系化合物又はその塩においては、前記R32が、置換基を有していてもよい多環式のアリール基、又は置換基を有していてもよい多環式の複素環基であることが好ましい。
上記カルボン酸誘導体系化合物又はその塩においては、前記Z3が、水素原子であることが好ましい。
上記カルボン酸誘導体系化合物又はその塩においては、前記Y3が、単結合、-CH2-基、又は-CH2-O-基であることが好ましい。
上記カルボン酸誘導体系化合物又はその塩においては、前記R31が、水素原子であることが好ましい。
【0017】
前記化合物は、次の式(IV-I)で表される化合物(以下「3,5-ジアミノ安息香酸系化合物」という)であってもよい。
【化11】
(式中、環Aは、置換基を有していてもよい単環式又は多環式の芳香環又は複素環を示し、
R
41は、置換基を有していてもよい多環式の芳香環又は次の式(IV-II)~(IV-V)のいずれかで表される基を示し、
【化12】
(式中、環Bは、置換基を有していてもよい単環式の複素環を示し、環C及び環Dは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい単環式又は多環式の芳香環、複素環又は環式炭化水素を示し、環B、環C及び環Dは縮合環を形成する。)
【化13】
(式中、環Eは、置換基を有していてもよい単環式の複素環を示し、環Fは、置換基を有していてもよい単環式又は多環式の芳香環、複素環又は環式炭化水素を示し、環E及び環Fは縮合環を形成する。)
【化14】
(式中、環G及び環Hは、それぞれ、置換基を有していてもよい単環式又は多環式の芳香環又は複素環を示す。)
【化15】
(式中、環Iは、置換基を有していてもよい単環式の芳香環又は複素環を示し、環Jは、置換基を有していてもよい単環式又は多環式の芳香環、複素環又は環式炭化水素を示し、環I及び環Jは縮合環を形成しており、R
46は、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基又は置換基を有していてもよい複素環基を示す。)
R
42は、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよい複素環基又は置換基を有していてもよいアミノ基を示し、
R
43は、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基又は置換基を有していてもよい複素環基を示し、
R
44は、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基又は置換基を有していてもよい複素環基を示し、
R
45は、ベンゼン環に連結する同一又は異なる0~3個の置換基を示し、 X
4は、単結合、炭素数1若しくは2のアルキレン基、-O-基、-CH
2-O-基、-CH
2-NH-CO-基又は-CH
2-NH-CO-O-CH
2-基を示し、
Y
4は、単結合又は炭素数1若しくは2のアルキレン基を示す。)
【0018】
上記3,5-ジアミノ安息香酸系化合物又はその塩においては、前記環Aが、置換基を有していてもよい多環式の芳香環又は複素環であることが好ましい。
この場合には、前記環Aが、次の式(IV-VI)で表される環であることが好ましい。
【化16】
(式中、A
1、A
2及びA
3は、それぞれ独立して、炭素原子又は窒素原子を示し、環Kは、置換基を有していてもよい単環式又は多環式の芳香環、複素環又は環式炭化水素を示す。)
前記式(IV-VI)においては、前記A
1、A
2及びA
3が、いずれも炭素原子であることが好ましい。
上記3,5-ジアミノ安息香酸系化合物又はその塩においては、前記R
41が、次の式(IV-II)で表される基であることが好ましい。
【化17】
(式中、環Bは、置換基を有していてもよい単環式の複素環を示し、環C及び環Dは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい単環式又は多環式の芳香環、複素環又は環式炭化水素を示し、環B、環C及び環Dは縮合環を形成する。)
上記3,5-ジアミノ安息香酸系化合物又はその塩においては、前記R
42が水素原子であることが好ましい。
上記3,5-ジアミノ安息香酸系化合物又はその塩においては、前記R
43が水素原子であることが好ましい。
上記3,5-ジアミノ安息香酸系化合物又はその塩においては、前記R
44が水素原子であることが好ましい。
上記3,5-ジアミノ安息香酸系化合物又はその塩においては、前記X
4が単結合であることが好ましい。
上記3,5-ジアミノ安息香酸系化合物又はその塩においては、前記Y
4が単結合であることが好ましい。
【0019】
また、本発明は、
A 基質ペプチドに含まれるリン酸化セリン/スレオニン-プロリンのモチーフのシスからトランスへの変換を測定する無細胞アッセイを使用して、Pin1の機能を阻害する活性を測定してPin1阻害剤のライブラリを取得するステップと、
B 前記ステップAにおいてPin1阻害剤として同定された化合物を、ウィルス成分の増加を測定する細胞ベースのアッセイを使用して、SARS-CoV-2ウィルスの増殖を阻害する能力について測定するステップと、
を含む、COVID-19の治療剤又は予防剤スクリーニング方法を提供するものでもある。
本発明は、上記のスクリーニング方法によって同定されたPin1阻害剤又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、COVID-19の治療剤又は予防剤を提供するものでもある。
前記いずれかのコロナウィルス感染症の治療剤又は予防剤は、他のコロナウィルス感染症の治療剤又は予防剤に分類される薬剤から選択される少なくとも1種以上の薬剤の有効成分をさらに含むことができる。
また、前記いずれかのコロナウィルス感染症の治療剤又は予防剤は、他のコロナウィルス感染症の治療剤又は予防剤に分類される薬剤から選択される少なくとも1種以上の薬剤と併用することができる。
【0020】
また、本発明は、コロナウィルス感染症の治療薬又は予防薬としての使用のための、上記いずれかの化合物又はその薬学的に許容される塩を提供するものでもある。
本発明は、コロナウィルス感染症を治療又は予防するための医薬の製造のための、上記いずれかの化合物又はその薬学的に許容される塩の使用を提供するものでもある。
また、本発明は、上記いずれかの化合物又はその薬学的に許容される塩の治療有効量を患者に投与することにより、コロナウィルス感染症を治療又は予防する方法を提供するものでもある。
【発明の効果】
【0021】
本発明のウィルス性疾患の治療剤又は予防剤は、ウィルスの増殖を抑制するため、ウィルス性疾患を治療し、又はウィルス性疾患となることを予防する効果を奏する。特に、コロナウィルス、中でもβコロナウィルス、特に有用なのはSERS-CoV2を原因とするコロナウィルス感染症を治療又は予防することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】(A)は2種類のPin1 siRNA又はコントロールsiRNAを添加した場合の細胞内SARS-CoV-2ヌクレオカプシド、Pin1及びアクチンのWestern blottingの結果であり、(B)はコントロールsiRNAにおけるSARS-CoV-2ヌクレオカプシドの検出強度で正規化したSARS-CoV-2ヌクレオカプシドの相対強度を示す。
【
図2】(A)はPin1阻害剤であるH-77を終濃度10μMで添加した場合の細胞内SARS-CoV-2ヌクレオカプシド、Pin1及びアクチンのWestern blottingの結果であり、(B)はH-77の終濃度を0, 2, 5, 7.5, 10μMとなるように添加した場合のSARS-CoV-2 RNA量をreal-time PCRにより定量した定量結果である。
【
図3】VeroE6/TMPRSS2細胞にSARS-CoV-2を感染させて20時間後の細胞の状態を撮影したものであり、(A)はH-77を添加した場合、(B)は対照としてDMSOを添加した場合である。
【
図4】式(I-I)に含まれるPin1阻害剤を終濃度5又は10μMで添加した場合の細胞内SARS-CoV-2ヌクレオカプシド及びアクチンのWestern blottingの結果。
【
図5】式(II-I)に含まれるPin1阻害剤を終濃度5又は10μMで添加した場合の細胞内SARS-CoV-2ヌクレオカプシド及びアクチンのWestern blottingの結果。
【
図6】式(III-I)に含まれるPin1阻害剤を終濃度5又は10μMで添加した場合の細胞内SARS-CoV-2ヌクレオカプシド及びアクチンのWestern blottingの結果。
【
図7】式(IV-I)に含まれるPin1阻害剤を終濃度5又は10μMで添加した場合の細胞内SARS-CoV-2ヌクレオカプシド及びアクチンのWestern blottingの結果。
【
図8】(A)はPin1阻害剤であるATRAを終濃度0, 0.5, 1, 5, 10, 20, 30μMとなるように添加した場合の細胞内SARS-CoV-2ヌクレオカプシド、Pin1及びアクチンのWestern blottingの結果であり、(B)はSARS-CoV-2 RNA量をreal-time PCRにより定量した定量結果である。
【
図9】(A)はPin1阻害剤であるH-77を、1.感染2時間前、2.感染と同時、3.感染2時間後、4.感染6時間後に添加し、又は、5.添加なしとした場合の細胞内SARS-CoV-2ヌクレオカプシド及びアクチンのWestern blottingの結果であり、(B)はSARS-CoV-2 RNA量をreal-time PCRにより定量した定量結果である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
ウィルス性疾患の治療剤又は予防剤
本発明において有効成分となる化合物は、Pin1の機能を阻害する活性を有する化合物であり、例えば、以下の1-1~1-5に記載された化学構造を有する化合物又はその塩を含む。
【0024】
1. 有効成分の化学構造
1-1. アントラニル酸系化合物
本発明のコロナウィルス性疾患の治療剤又は予防剤において有効成分となる化合物の一つは、次の式(I-I)で表される化学構造を有し、Pin1の機能を阻害する活性を有する化合物である。
【0025】
【0026】
式(I-I)中、R11及びR12の少なくとも一方は、置換基を有していてもよい多環式のアリール基、置換基を有していてもよい多環式の複素環基、又は次の式(I-II)で表される基である。
【0027】
【化19】
(式中、環A及び環Bは、それぞれ、置換基を有していてもよい単環式又は多環式のアリール基を示し、R
14は、置換基を有していてもよい炭素数1~3のアルキレン基、置換基を有していてもよい炭素数2~3のアルケニレン基、又は2価のオキシ基を示す。)
【0028】
R11及びR12のいずれかが、前記基のいずれでもない場合、すなわち、置換基を有していてもよい多環式のアリール基、置換基を有していてもよい多環式の複素環基、及び前記式(I-II)で表される基のいずれでもない場合には、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基(置換基を有していてもよい多環式のアリール基を除く)、又は置換基を有していてもよい単環式の複素環基とする。
【0029】
式(I-I)において、「R11及びR12の少なくとも一方は」とは、R11、R12、又はR11及びR12の両方を意味する。
したがって、R11が、置換基を有していてもよい多環式のアリール基、置換基を有していてもよい多環式の複素環基、又は前記式(I-II)で表される基である場合には、R12は、前記基のいずれでもない基とすることができ、また、前記基のいずれかの基とすることもできる。すなわち、この場合には、R12は、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基(置換基を有していてもよい多環式のアリール基を除く)、若しくは置換基を有していてもよい単環式の複素環基とすることができ、また、置換基を有していてもよい多環式のアリール基、置換基を有していてもよい多環式の複素環基、又は前記式(I-II)で表される基とすることもできる。
同様に、R12が、置換基を有していてもよい多環式のアリール基、置換基を有していてもよい多環式の複素環基、又は前記式(I-II)で表される基である場合には、R11は、前記基のいずれでもない基とすることができ、また、前記基のいずれかの基とすることもできる。すなわち、この場合には、R11は、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基(置換基を有していてもよい多環式のアリール基を除く)、若しくは置換基を有していてもよい単環式の複素環基とすることができ、また、置換基を有していてもよい多環式のアリール基、置換基を有していてもよい多環式の複素環基、又は前記式(I-II)で表される基とすることもできる。
【0030】
前記式(I-I)において、R11及びR12の少なくとも一方は、置換基を有していてもよい多環式のアリール基、置換基を有していてもよい多環式の複素環基、又は前記式(I-II)で表される基とするが、Pin1の機能を阻害する活性を高めるためには、置換基を有していてもよい多環式のアリール基、又は置換基を有していてもよい多環式の複素環基とすることが好ましい。より好ましくは、R11及びR12のいずれか一方を、置換基を有していてもよい多環式のアリール基とするのがよく、さらに好ましくは、多環式のアリール基とするのがよい。
【0031】
前記式(I-I)において、R11及びR12の少なくとも一方は、置換基を有していてもよい多環式のアリール基とすることができるが、本発明のアントラニル酸系化合物において、「多環式のアリール基」とは、炭素のみからなる2つ以上の環の縮合環を含む芳香族化合物の基をいう。
ここで、「多環式のアリール基」としては、2環ないし4環式のアリール基を用いるのが好ましい。
本発明のアントラニル酸系化合物における「多環式のアリール基」としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、インデニル基、ナフチル基、フルオレニル基、アンスリル基、ビフェニレニル基、フェナントレニル基、as-インダセニル基、s-インダセニル基、アセナフチレニル基、フェナレニル基、フルオランセニル基、ピレニル基、ナフタセニル基、ヘキサセニル基等とすることができる。
【0032】
本発明のアントラニル酸系化合物における「置換基を有していてもよい多環式のアリール基」の具体的な化学構造を例示すると、これらに限定されるわけではないが、次のような基とすることができる。
【0033】
【0034】
本発明のアントラニル酸系化合物において、「置換基を有していてもよい多環式のアリール基」としては、置換基を有していてもよいナフチル基とすることが好ましい。ここで、置換基を有していてもよいナフチル基は、ナフチル基の1位の箇所において式(I-I)で示される化合物の母体に連結していてもよく、また、ナフチル基の2位の箇所において化合物の母体に連結していてもよい。
このような「置換式を有していてもよいナフチル基」は、次の式(I-III)で表すことができる。
【0035】
【化21】
式(I-III)中、R
15は、ナフチル基に連結した同一又はそれぞれ異なる0~7個の置換基を示す。R
15は、ナフチル基の1~8位のいずれの箇所に設けてもよいが、ナフチル基が化合物の母体と連結する箇所については、R
15を設けることはできない。また、R
15は、ナフチル基に設けなくともよく、置換基を有さないナフチル基とすることもできる。R
15をナフチル基に設ける場合には、1~7個設けることができるが、それぞれ異なる置換基としてもよく、また、全部又は一部が同一の置換基としてもよい。R
15は、原子の数が1~10の置換基とすることが好ましい。
【0036】
前記式(I-I)において、R11及びR12の少なくとも一方は、置換基を有していてもよい多環式の複素環基とすることができるが、本発明のアントラニル酸系化合物において、「多環式の複素環基」とは、2つ以上の環の縮合環を含み炭素原子と炭素以外の原子からなる基をいう。
「多環式の複素環基」としては、芳香族の複素環基を用いることが好ましい。
本発明のアントラニル酸系化合物における「多環式の複素環基」としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、炭素原子以外に窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選ばれた1種又は2種を1ないし4個ヘテロ原子として含む、5ないし14員環で、2環式ないし5環式の複素環基とすることができる。具体例としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、インドリル基、ベンゾフリル基、ベンゾチアゾリル基、ベンズオキサゾリル基、キサンセニル基、ベンズイミダゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、フタラジニル基、キナゾリニル基、キノキサリニル基、インドリジニル基、キノリジニル基、1,8-ナフチリジニル基、ジベンゾフラニル基、カルバゾリル基、アクリジニル基、フェナントリジニル基、ペリミジニル基、フェナジニル基、クロマニル基、フェノチアジニル基、フェノキサジニル基、7H-ピラジノ[2,3―c]カルバゾリル基、等の炭素原子以外に酸素原子、硫黄原子および窒素原子から選ばれたヘテロ原子を1ないし4個含む2環式ないし4環式縮合環基とすることができる。
【0037】
本発明のアントラニル酸系化合物における「置換基を有していてもよい多環式の複素環基」の具体的な化学構造を例示すると、これらに限定されるわけではないが、次のような基とすることができる。
【0038】
【0039】
前記式(I-I)において、R11及びR12の少なくとも一方は、次の式(I-II)で表される基とすることができる。
【0040】
【化23】
(式中、環A及び環は、それぞれ、置換基を有していてもよい単環式又は多環式のアリール基を示し、R
14は、置換基を有していてもよい炭素数1~3のアルキレン基、置換基を有していてもよい炭素数2~3のアルケニレン基、又は2価のオキシ基を示す。)
【0041】
本発明のアントラニル酸系化合物において、「単環式又は多環式のアリール基」としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、フェニル基、インデニル基、ナフチル基、フルオレニル基、アンスリル基、ビフェニレニル基、フェナントレニル基、as-インダセニル基、s-インダセニル基、アセナフチレニル基、フェナレニル基、フルオランセニル基、ピレニル基、ナフタセニル基、ヘキサセニル基等とすることができる。
本発明のアントラニル酸系化合物において、「炭素数1~3のアルキレン基」としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基等とすることができる。
また、本発明のアントラニル酸系化合物において、「炭素数2~3のアルケニレン基」としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、ビニレン基、1-プロペニレン基、2-プロペニレン基等とすることができる。
【0042】
前記式(I-II)において、R14は2価のオキシ基とすることができ、この場合には、前記式(I-II)は、次の式(I-IV)で表すことができる。
【0043】
【化24】
(式中、環A及び環Bは、それぞれ、置換基を有していてもよい単環式又は多環式のアリール基を示す。)
【0044】
前記式(I-I)において、R41及びR42のいずれかが、置換基を有していてもよい多環式のアリール基、置換基を有していてもよい多環式の複素環基、及び式(I-II)で表される基のいずれでもない場合には、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基(置換基を有していてもよい多環式のアリール基を除く)、又は置換基を有していてもよい単環式の複素環基とし、好ましくは、水素原子、又は置換基を有していてもよいフェニル基とする。
【0045】
本発明のアントラニル酸系化合物において「炭化水素基」とは、炭素原子と水素原子でできた化合物の基を意味し、これらに限定されるわけではないが、例えば、脂肪族炭化水素基、単環式飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基とすることができ、炭素数1ないし16個のものが好ましい。具体例としては、これらに限定されるわけではないが、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基等が挙げられる。
ここで、「アルキル基」としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。「アルケニル基」としては、例えば、ビニル基、1-プロペニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基等が挙げられる。「アルキニル基」としては、例えば、エチニル基、プロパルギル基、1-プロピニル基等が挙げられる。「シクロアルキル基」としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。「アリール基」としては、例えば、フェニル基、インデニル基、ナフチル基、フルオレニル基、アンスリル基、ビフェニレニル基、フェナントレニル基、as-インダセニル基、s-インダセニル基、アセナフチレニル基、フェナレニル基、フルオランセニル基、ピレニル基、ナフタセニル基、ヘキサセニル基等が挙げられる。
【0046】
本発明のアントラニル酸系化合物において、「単環式の複素環基」としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、2-又は3-チエニル基、2-又は3-フリル基、1-、2-又は3-ピロリル基、1-、2-又は3-ピロリジニル基、2-、4-又は5-オキサゾリル基、3-、4-又は5-イソオキサゾリル基、2-、4-又は5-チアゾリル基、3-、4-又は5-イソチアゾリル基、3-、4-又は5-ピラゾリル基、2-、3-又は4-ピラゾリジニル基、2-、4-又は5-イミダゾリル基、1,2,3-トリアゾリル基、1,2,4-トリアゾリル基、1H-又は2H-テトラゾリル基等の炭素原子以外に酸素原子、硫黄原子および窒素原子から選ばれたヘテロ原子を1ないし4個含む5員環の複素環基とすることができる。また、例えば、2-、3-又は4-ピリジル基、N-オキシド-2-、3-又は4-ピリジル基、2-、4-又は5-ピリミジニル基、N-オキシド-2-、4-又は5-ピリミジニル基、チオモルホリニル基、モルホリニル基、ピペリジノ基、2-、3-又は4-ピペリジル基、チオピラニル基、1,4-オキサジニル基、1,4-チアジニル基、1,3-チアジニル基、ピペラジニル基、トリアジニル基、3-又は4-ピリダジニル基、ピラジニル基、N-オキシド-3-又は4-ピリダジニル基等の炭素原子以外に酸素原子、硫黄原子および窒素原子から選ばれたヘテロ原子を1ないし4個含む6員環基とすることができる。
【0047】
前記式(I-I)において、R13は、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、又は置換基を有していてもよい複素環基とする。R13は、水素原子又はメチル基とすることが好ましく、より好ましくは水素原子とするのがよい。
本発明のアントラニル酸系化合物においては、R13が水素原子であり化合物がカルボキシル基を有する場合に活性が高いが、R13が水素原子ではなくエステル体となっている場合でも、加水分解により容易にカルボキシル基となることができ、高い活性を有する化合物となることができる。したがって、R13が、置換基を有していてもよい炭化水素基、又は置換基を有していてもよい複素環基である場合には、本発明のアントラニル酸系化合物をプロドラッグとして使用することもできる。
【0048】
本発明のアントラニル酸系化合物において、「複素環基」とは、炭素原子と炭素以外の原子からなる環式化合物の基をいう。「複素環基」としては、芳香族の複素環基を用いることが好ましい。
本発明のアントラニル酸系化合物において、「複素環基」としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、炭素原子以外に窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選ばれた1種又は2種を1ないし4個ヘテロ原子として含む、5ないし14員環で、単環式ないし5環式の複素環基とすることができる。具体例としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、2-又は3-チエニル基、2-又は3-フリル基、1-、2-又は3-ピロリル基、1-、2-又は3-ピロリジニル基、2-、4-又は5-オキサゾリル基、3-、4-又は5-イソオキサゾリル基、2-、4-又は5-チアゾリル基、3-、4-又は5-イソチアゾリル基、3-、4-又は5-ピラゾリル基、2-、3-又は4-ピラゾリジニル基、2-、4-又は5-イミダゾリル基、1,2,3-トリアゾリル基、1,2,4-トリアゾリル基、1H-又は2H-テトラゾリル基等の炭素原子以外に酸素原子、硫黄原子および窒素原子から選ばれたヘテロ原子を1ないし4個含む5員環基とすることができる。また、例えば、2-、3-又は4-ピリジル基、N-オキシド-2-、3-又は4-ピリジル基、2-、4-又は5-ピリミジニル基、N-オキシド-2-、4-又は5-ピリミジニル基、チオモルホリニル基、モルホリニル基、ピペリジノ基、2-、3-又は4-ピペリジル基、チオピラニル基、1,4-オキサジニル基、1,4-チアジニル基、1,3-チアジニル基、ピペラジニル基、トリアジニル基、3-又は4-ピリダジニル基、ピラジニル基、N-オキシド-3-又は4-ピリダジニル基等の炭素原子以外に酸素原子、硫黄原子および窒素原子から選ばれたヘテロ原子を1ないし4個含む6員環基とすることができる。また、例えば、インドリル基、ベンゾフリル基、ベンゾチアゾリル基、ベンズオキサゾリル基、キサンセニル基、ベンズイミダゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、フタラジニル基、キナゾリニル基、キノキサリニル基、インドリジニル基、キノリジニル基、1,8-ナフチリジニル基、ジベンゾフラニル基、カルバゾリル基、アクリジニル基、フェナントリジニル基、ペリミジニル基、フェナジニル基、クロマニル基、フェノチアジニル基、フェノキサジニル基、7H-ピラジノ[2,3―c]カルバゾリル基、等の炭素原子以外に酸素原子、硫黄原子および窒素原子から選ばれたヘテロ原子を1ないし4個含む2環式ないし4環式縮合環基とすることができる。
【0049】
前記式(I-I)において、X1は、単結合、-CO-基、-CO-O-CH2-基、-CO-CH2-O-基、-SO2-基、-CH2-CO-NH-基、-CH2-CO-基、-CH2-基、又は-CO-CH2-基である。
X1は、単結合又は-CO-基(カルボニル基)とすることが好ましい。
X1が単結合である場合には、前記式(I-I)は、次の式(I-V)で表すことができる。
【0050】
【化25】
(式中、R
11、R
12及びR
13は、前記したものと同じ。)
【0051】
本発明のアントラニル酸系化合物において使用される「置換基」とは、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等)、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などのC1-6アルキル基)、シクロアルキル基(例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のC3-6シクロアルキル基)、アルキニル基(例えば、エチニル基、1-プロピニル基、プロパルギル基等のC2-6アルキニル基)、アルケニル基(例えば、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基などのC2-6アルケニル基)、アラルキル基(例えば、ベンジル基、α-メチルベンジル基、フェネチル基等のC7-11アラルキル基)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基などのC6-10アリール基等、好ましくはフェニル基)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ等のC1-6アルコキシ基)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ等のC6-10アリールオキシ基)、アルカノイル基(例えば、ホルミル基や、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基等のC1-6アルキル-カルボニル基)、アリールカルボニル基(例えば、ベンゾイル基、ナフトイル基等のC6-10アリール-カルボニル基)、アルカノイルオキシ基(例えば、ホルミルオキシ基や、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、イソブチリルオキシ基等のC1-6アルキル-カルボニルオキシ基)、アリールカルボニルオキシ基(例えば、ベンゾイルオキシ基、ナフトイルオキシ基等のC6-10アリール-カルボニルオキシ基)、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニル等のC1-6アルコキシ-カルボニル基)、アラルキルオキシカルボニル基(例えば、ベンジルオキシカルボニル基等のC7-11アラルキルオキシカルボニル基)、カルバモイル基、ハロゲノアルキル基(例えば、クロロメチル基、ジクロロメチル基、トリフルオロメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基等のモノ-、ジ-またはトリ-ハロゲノ-C1-4アルキル基)、オキソ基、アミジノ基、イミノ基、アミノ基、アルキルアミノ基(例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基等のモノ-C1-4アルキルアミノ基)、ジアルキルアミノ基(例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、メチルエチルアミノ基等のジ-C1-4アルキルアミノ基)、アルコキシカルボニルアミノ基(例えば、メトキシカルボニルアミノ基、イソプロキシカルボニルアミノ基、tert-ブトキシカルボニルアミノ基等のC1-6アルコキシカルボニルアミノ基)、環状アミノ基(炭素原子と1個の窒素原子以外に酸素原子、硫黄原子および窒素原子から選ばれたヘテロ原子を1ないし3個含んでいてもよい3ないし6員の環状アミノ基であり、例えば、アジリジニル基、アゼチジニル基、ピロリジニル基、ピロリニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、イミダゾリジニル基、ピペリジル基、モルホリニル基、ジヒドロピリジル基、ピリジル基、N-メチルピペラジニル基、N-エチルピペラジニル基等)、アルキレンジオキシ基(例えば、メチレンジオキシ基、エチレンジオキシ基等のC1-3アルキレンジオキシ基)、ヒドロキシ基、シアノ基、メルカプト基、スルホ基、スルフィノ基、ホスホノ基、スルファモイル基、モノアルキルスルファモイル基(例えば、N-メチルスルファモイル、N-エチルスルファモイル、N-プロピルスルファモイル、N-イソプロピルスルファモイル、N-ブチルスルファモイル等のモノ-C1-6アルキルスルファモイル基)、ジアルキルスルファモイル基(例えば、N,N-ジメチルスルファモイル基、N,N-ジエチルスルファモイル基、N,N-ジプロピルスルファモイル基、N,N-ジブチルスルファモイル基等のジ-C1-6アルキルスルファモイル基)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、ブチルチオ基、sec-ブチルチオ基、tert-ブチルチオ基等のC1-6アルキルチオ基)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等のC6-10アリールチオ基)、アルキルスルフィニル基(例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、プロピルスルフィニル基、ブチルスルフィニル基等のC1-6アルキルスルフィニル基)、アルキルスルホニル基(例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、プロピルスルホニル基、ブチルスルホニル基等のC1-6アルキルスルホニル基)、又はアリールスルホニル基(例えば、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基等のC6-10アリールスルホニル基)である。
【0052】
本発明のアントラニル酸系化合物において、R15で使用される「原子の数が1~10の置換基」とは、前記の置換基のうち原子の数が1~10個のものであり、これらに限定されるわけではないが、例えば、ハロゲン原子、メチル基、エチル基、ビニル基、メトキシ基、エトキシ基、アセチル基、カルボキシル基、メトキシカルボニル基、クロロメチル基、アミノ基、メチルアミノ基、ヒドロキシ基、スルホ基、メチルチオ基等を用いることができる。
【0053】
本発明のアントラニル酸系化合物において、「置換基を有していてもよい」とは、前記のような置換基を有するか、又は有さないことを意味する。置換基を有する場合には、2以上の置換基を有することができ、それらは同一又は異なる置換基であってよい。本発明のアントラニル酸系化合物の化合物において、「置換基を有していてもよい」場合には、置換基の数を0~3個とするのが好ましい。
【0054】
上記アントラニル酸系化合物は、これらに限定されるわけではないが、例えば、国際公開第2019/031472号公報に記載された製造方法を利用して合成することができる。
【0055】
1-2. アミド系化合物
本発明のコロナウィルス感染症の治療剤又は予防剤において有効成分となる化合物の他の一つは、次の式(II-I)で表される化学構造を有し、Pin1の機能を阻害する活性を有する化合物である。
【0056】
【0057】
式(II-I)中、mが0~2の整数を示し、nは0~1の整数を示すが、mとnは0≦m+n≦2の関係を満たす整数である。すなわち、(m,n)の組み合わせは、(0,0)、(0,1)、(1,0)、(1,1)、(2,0)の5種類である。
本発明のアミド系化合物は、ナフチル基の部分と、それと連結した鎖状部分からなる。鎖状部分はナフチル基の任意の箇所に連結した構造をとることができるが、それらの構造は、ナフチル基の1位の箇所に連結した構造と、ナフチル基の2位の箇所に連結した構造の2つに分けられる。
本発明のアミド系化合物は、鎖状部分がナフチル基の2位の箇所に連結した場合には、(m,n)の5種類の組み合わせに基づき、次の式(II-VI)~(II-X)に表される5種類の化学構造を有することができる。
【0058】
【0059】
式(II-VI)は、式(II-I)において、m=0かつn=0である場合の式を表す。
式(II-VII)は、式(II-I)において、m=0かつn=1である場合の式を表す。
式(II-VIII)は、式(II-I)において、m=1かつn=0である場合の式を表す。
式(II-IX)は、式(II-I)において、m=1かつn=1である場合の式を表す。
式(II-X)は、式(II-I)において、m=2かつn=0である場合の式を表す。
本発明のアミド系化合物としては、鎖状部分がナフチル基の2位の箇所に連結した前記式(II-VI)~(II-X)で表される化合物とすることが好ましく、特に、m=1かつn=0である式(II-VIII)で表される化合物とすることが好ましい。
【0060】
本発明のアミド系化合物は、鎖状部分がナフチル基の1位の箇所に連結した場合には、(m,n)の5種類の組み合わせに基づき同様に、次の式(II-XI)~(II-XV)に表される5種類の化学構造とすることができる。
【0061】
【0062】
本発明のアミド系化合物を表す式(II-I)において、R21は、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよい複素環基、又は置換基を有していてもよいアミノ基である。
本発明のアミド系化合物は、R21が水素原子でありカルボキシル基となる場合に、Pin1の機能を阻害する活性を有する。したがって、R21は、水素原子であることが好ましい。
しかしながら、R21が、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよい複素環基、又は置換基を有していてもよいアミノ基である場合には、式(II-I)で示される化合物はR21の部分でエステル結合を形成することになることから、加水分解してカルボキシル基に変化することができる。したがって、R21が、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよい複素環基、又は置換基を有していてもよいアミノ基であっても、本発明のアミド系化合物をプロドラッグとして使用することができる。
【0063】
本発明のアミド系化合物において、式(II-I)のR21等で使用される「炭化水素基」とは、炭素原子と水素原子でできた化合物の基を意味し、これらに限定されるわけではないが、例えば、脂肪族炭化水素基、単環式飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基とすることができ、炭素数1ないし16個のものが好ましい。具体例としては、これらに限定されるわけではないが、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。
ここで、「アルキル基」としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。「アルケニル基」としては、例えば、ビニル基、1-プロペニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基等が挙げられる。「アルキニル基」としては、例えば、エチニル基、プロパルギル基、1-プロピニル基等が挙げられる。「シクロアルキル基」としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。「アリール基」としては、例えば、フェニル基、インデニル基、ナフチル基、フルオレニル基、アンスリル基、ビフェニレニル基、フェナントレニル基、as-インダセニル基、s-インダセニル基、アセナフチレニル基、フェナレニル基、フルオランセニル基、ピレニル基、ナフタセニル基、ヘキサセニル基等が挙げられる。「アラルキル基」としては、例えば、ベンジル基、スチリル基、フェネチル基等が挙げられる。
【0064】
本発明のアミド系化合物において、式(II-I)のR21等で使用される「複素環基」とは、炭素原子と炭素以外の原子からなる環式化合物の基をいう。「複素環基」としては、芳香族の複素環基を用いることが好ましい。
本発明のアミド系化合物において、「複素環基」としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、炭素原子以外に窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選ばれた1種又は2種を1ないし4個ヘテロ原子として含む、5ないし14員環で、単環式ないし5環式の複素環基とすることができる。具体例としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、2-又は3-チエニル基、2-又は3-フリル基、1-、2-又は3-ピロリル基、1-、2-又は3-ピロリジニル基、2-、4-又は5-オキサゾリル基、3-、4-又は5-イソオキサゾリル基、2-、4-又は5-チアゾリル基、3-、4-又は5-イソチアゾリル基、3-、4-又は5-ピラゾリル基、2-、3-又は4-ピラゾリジニル基、2-、4-又は5-イミダゾリル基、1,2,3-トリアゾリル基、1,2,4-トリアゾリル基、1H-又は2H-テトラゾリル基等の炭素原子以外に酸素原子、硫黄原子および窒素原子から選ばれたヘテロ原子を1ないし4個含む5員環基とすることができる。また、例えば、2-、3-又は4-ピリジル基、N-オキシド-2-、3-又は4-ピリジル基、2-、4-又は5-ピリミジニル基、N-オキシド-2-、4-又は5-ピリミジニル基、チオモルホリニル基、モルホリニル基、ピペリジノ基、2-、3-又は4-ピペリジル基、チオピラニル基、1,4-オキサジニル基、1,4-チアジニル基、1,3-チアジニル基、ピペラジニル基、トリアジニル基、3-又は4-ピリダジニル基、ピラジニル基、N-オキシド-3-又は4-ピリダジニル基等の炭素原子以外に酸素原子、硫黄原子および窒素原子から選ばれたヘテロ原子を1ないし4個含む6員環基とすることができる。また、例えば、インドリル基、ベンゾフリル基、ベンゾチアゾリル基、ベンズオキサゾリル基、キサンセニル基、ベンズイミダゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、フタラジニル基、キナゾリニル基、キノキサリニル基、インドリジニル基、キノリジニル基、1,8-ナフチリジニル基、ジベンゾフラニル基、カルバゾリル基、アクリジニル基、フェナントリジニル基、ペリミジニル基、フェナジニル基、クロマニル基、フェノチアジニル基、フェノキサジニル基、7H-ピラジノ[2,3―c]カルバゾリル基、等の炭素原子以外に酸素原子、硫黄原子および窒素原子から選ばれたヘテロ原子を1ないし4個含む2環式ないし4環式縮合環基とすることができる。
【0065】
本発明のアミド系化合物において、式(II-I)のR21等で使用される「置換基を有していてもよいアミノ基」とは、第1級アミノ基、第2級アミノ基、又は第3級アミノ基である。第1級アミノ基とは、-NH2基である。第2級アミノ基とは、置換基を1つ有するアミノ基であり、これらに限定されるわけではないが、例えば、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基等とすることができる。また、第3級アミノ基とは、同一又は異なる置換基を2つ有するアミノ基であり、これらに限定されるわけではないが、例えば、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基等とすることができる。
【0066】
本発明のアミド系化合物の化合物を表す式(II-I)において、R22は、置換基を有していてもよい3以上の環の縮合環を含むアリール基、置換基を有するナフチル基、又は(II)、(III)、(IV)、若しくは(V)で表される基である。
本発明のアミド系化合物については、特に、ナフチル基の部分と、カルボン酸の部分と、R22の部分とが、Pin1の機能を阻害する活性に関与するものと考えられる。R22の部分については、芳香環又は複素環を有するバリエーションの広い化学構造とすることができる。
【0067】
本発明のアミド系化合物において、「3以上の環の縮合環を含むアリール基」とは、炭素のみからなる3つ以上の環の縮合環を含む芳香族化合物の基をいう。
「3以上の環の縮合環を含むアリール基」としては、3環式のアリール基とすることが好ましい。
本発明のアミド系化合物における「3以上の環の縮合環を含むアリール基」としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、フルオレニル基、アンスリル基、ビフェニレニル基、インダセニル基、フェナントレニル基、as-インダセニル基、s-インダセニル基、アセナフチレニル基、フェナレニル基、フルオランセニル基、ピレニル基、ナフタセニル基、ヘキサセニル基等とすることができる。
【0068】
本発明のアミド系化合物における「置換基を有していてもよい3以上の環の縮合環を含むアリール基」の具体的な化学構造を例示すると、これらに限定されるわけではないが、次のような基とすることができる。
【0069】
【0070】
式(II-I)におけるR22は、置換基を有するナフチル基とすることができるが、例えば、これらに限定するわけではないが、6-メトキシカルボニル-2-ナフチル基、5-メチル-1-ナフチル基等とすることができる。
【0071】
式(II-I)におけるR22は、式(II-II)で表される基とすることができるが、式(II-II)の構造は次のとおりである。
【0072】
【化30】
(式中、環Aは、置換基を有していてもよい単環式の複素環基を示し、環B及び環Cは、それぞれ、置換基を有していてもよい単環式又は多環式のアリール基又は複素環基を示し、環A、環B及び環Cは縮合環を形成する。)
【0073】
式(II-II)において、環B及び環Cは、ベンゼン環とすることが好ましい。
式(II-II)で表される基の具体的な化学構造を例示すると、これらに限定されるわけではないが、次のような基とすることができる。
【0074】
【0075】
式(II-I)におけるR22は、式(II-III)で表される基とすることができるが、式(II-III)の構造は次のとおりである。
【0076】
【化32】
(式中、環D及び環Eは、それぞれ、置換基を有していてもよい単環式又は多環式のアリール基又は複素環基を示し、R
24は、2価のオキシ基、又はカルボニル基を示す。)
【0077】
式(II-III)で表される基の具体的な化学構造を例示すると、これらに限定されるわけではないが、次のような基とすることができる。
【0078】
【0079】
式(II-I)におけるR24は、式(II-IV)で表される基とすることができるが、式(II-IV)の構造は次のとおりである。
【0080】
【化34】
(式中、環D及び環Eは、それぞれ、置換基を有していてもよい単環式又は多環式のアリール基又は複素環基を示す。)
【0081】
式(II-IV)で表される基の具体的な化学構造を例示すると、これらに限定されるわけではないが、次のような基とすることができる。
【0082】
【0083】
式(II-I)におけるR22は、式(II-V)で表される基とすることができるが、式(II-V)の構造は次のとおりである。
【0084】
【化36】
(式中、R
25は、ナフチル基に連結した、同一又はそれぞれ異なる0~7個の置換基を示し、Y
2は、-NH-基、又は炭素数1若しくは2のアルキレン基を示す。)
【0085】
式(II-V)で表される基の具体的な化学構造を例示すると、これらに限定されるわけではないが、次のような基とすることができる。
【0086】
【0087】
本発明のアミド系化合物を表す式(II-I)におけるR22としては、前記式(II-II)、前記式(II-III)、又は前記式(II-IV)で表される基とすることが好ましい。さらに好ましくは、R22を、前記式(II-II)で表される基とするのがよい。
【0088】
本発明のアミド系化合物を表す式(II-I)において、R23は、ナフチル基に連結した、同一又はそれぞれ異なる0~7個の置換基である。
R23は、ナフチル基の1~8位のいずれの箇所に設けてもよいが、本発明のアミド系化合物の鎖状部分がナフチル基に連結する箇所については、R23を設けることはできない。また、R23は、ナフチル基に設けなくともよく、置換基を有さないナフチル基とすることもできる。R23をナフチル基に設ける場合には、1~7個設けることができるが、それぞれ異なる置換基としてもよく、また、全部又は一部が同一の置換基としてもよい。R23は、原子の数が1~10の置換基とすることが好ましい。
【0089】
本発明のアミド系化合物を表す式(II-I)において、X2は、単結合、-CH2-基、又は-NH-基である。
X2は、単結合とすることが好ましい。X2が単結合である場合には、前記式(II-I)は、次の式(II-XVI)で表すことができる。
【0090】
【化38】
(式中、m、n、R
21、R
22、及びR
23は、前記したものと同一。)
【0091】
本発明のアミド系化合物において使用される「置換基」とは、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等)、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などのC1-6アルキル基)、シクロアルキル基(例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のC3-6シクロアルキル基)、アルキニル基(例えば、エチニル基、1-プロピニル基、プロパルギル基等のC2-6アルキニル基)、アルケニル基(例えば、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基などのC2-6アルケニル基)、アラルキル基(例えば、ベンジル基、α-メチルベンジル基、フェネチル基等のC7-11アラルキル基)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基などのC6-10アリール基等、好ましくはフェニル基)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ等のC1-6アルコキシ基)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ等のC6-10アリールオキシ基)、アルカノイル基(例えば、ホルミル基や、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基等のC1-6アルキル-カルボニル基)、アリールカルボニル基(例えば、ベンゾイル基、ナフトイル基等のC6-10アリール-カルボニル基)、アルカノイルオキシ基(例えば、ホルミルオキシ基や、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、イソブチリルオキシ基等のC1-6アルキル-カルボニルオキシ基)、アリールカルボニルオキシ基(例えば、ベンゾイルオキシ基、ナフトイルオキシ基等のC6-10アリール-カルボニルオキシ基)、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニル等のC1-6アルコキシ-カルボニル基)、アラルキルオキシカルボニル基(例えば、ベンジルオキシカルボニル基等のC7-11アラルキルオキシカルボニル基)、カルバモイル基、ハロゲノアルキル基(例えば、クロロメチル基、ジクロロメチル基、トリフルオロメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基等のモノ-、ジ-またはトリ-ハロゲノ-C1-4アルキル基)、オキソ基、アミジノ基、イミノ基、アミノ基、アルキルアミノ基(例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基等のモノ-C1-4アルキルアミノ基)、ジアルキルアミノ基(例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、メチルエチルアミノ基等のジ-C1-4アルキルアミノ基)、アルコキシカルボニルアミノ基(例えば、メトキシカルボニルアミノ基、イソプロキシカルボニルアミノ基、tert-ブトキシカルボニルアミノ基等のC1-6アルコキシカルボニルアミノ基)、環状アミノ基(炭素原子と1個の窒素原子以外に酸素原子、硫黄原子および窒素原子から選ばれたヘテロ原子を1ないし3個含んでいてもよい3ないし6員の環状アミノ基であり、例えば、アジリジニル基、アゼチジニル基、ピロリジニル基、ピロリニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、イミダゾリジニル基、ピペリジル基、モルホリニル基、ジヒドロピリジル基、ピリジル基、N-メチルピペラジニル基、N-エチルピペラジニル基等)、アルキレンジオキシ基(例えば、メチレンジオキシ基、エチレンジオキシ基等のC1-3アルキレンジオキシ基)、ヒドロキシ基、シアノ基、メルカプト基、スルホ基、スルフィノ基、ホスホノ基、スルファモイル基、モノアルキルスルファモイル基(例えば、N-メチルスルファモイル、N-エチルスルファモイル、N-プロピルスルファモイル、N-イソプロピルスルファモイル、N-ブチルスルファモイル等のモノ-C1-6アルキルスルファモイル基)、ジアルキルスルファモイル基(例えば、N,N-ジメチルスルファモイル基、N,N-ジエチルスルファモイル基、N,N-ジプロピルスルファモイル基、N,N-ジブチルスルファモイル基等のジ-C1-6アルキルスルファモイル基)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、ブチルチオ基、sec-ブチルチオ基、tert-ブチルチオ基等のC1-6アルキルチオ基)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等のC6-10アリールチオ基)、アルキルスルフィニル基(例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、プロピルスルフィニル基、ブチルスルフィニル基等のC1-6アルキルスルフィニル基)、アルキルスルホニル基(例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、プロピルスルホニル基、ブチルスルホニル基等のC1-6アルキルスルホニル基)、又はアリールスルホニル基(例えば、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基等のC6-10アリールスルホニル基)である。
【0092】
本発明のアミド系化合物において、「置換基」を原子の数が1~10の置換基とする場合には、前記の置換基のうち原子の数が1~10個のものとするが、例えば、これらに限定されるわけではないが、ハロゲン原子、メチル基、エチル基、ビニル基、メトキシ基、エトキシ基、アセチル基、カルボキシル基、メトキシカルボニル基、クロロメチル基、第1級アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ヒドロキシ基、スルホ基、メチルチオ基等を用いることができる。
【0093】
本発明のアミド系化合物において、「置換基を有していてもよい」とは、前記のような置換基を有するか、又は有さないことを意味する。置換基を有する場合には、2以上の置換基を有することができ、それらは同一又は異なる置換基であってよい。本発明のアミド系化合物において、「置換基を有していてもよい」場合には、置換基の数を0~3個とするのが好ましい。
【0094】
上記アミド系化合物は、これらに限定されるわけではないが、例えば、国際公開第2019/031470号公報に記載された製造方法を利用して合成することができる。
【0095】
1-3. カルボン酸誘導体系化合物
本発明のコロナウィルス感染症の治療剤又は予防剤において有効成分となる化合物の他の一つは、次の式(III-I)で表される化学構造を有し、Pin1の機能を阻害する活性を有する化合物である。
【0096】
【0097】
式(III-I)中、mは0~2の整数を示し、nは0~2の整数を示すが、mとnは0≦m+n≦3の関係を満たす整数である。すなわち、(m,n)の組み合わせは、(0,0)、(0,1)、(0,2)、(1,0)、(1,1)、(1,2)、(2,0)、(2,1)の8種類である。
本発明のカルボン酸誘導体系化合物において有効成分となる化合物は、(m,n)の8種類の組み合わせに基づき、8種類の化学構造を有することができる。
本発明のカルボン酸誘導体系化合物において有効成分となる化合物は、m=1かつn=0であることが好ましい。
【0098】
前記式(III-I)において、環Aは、置換基を有していてもよい単環式の芳香環又は置換基を有していてもよい単環式の複素環とする。
本発明のカルボン酸誘導体系化合物において「単環式の芳香環」とは、炭素と水素からなる不飽和有機化合物が1つの環となったものであり、これらに限定されるわけではないが、例えば、ベンゼン環、シクロペンタジエン環等とすることができる。
また、本発明のカルボン酸誘導体系化合物において「単環式の複素環」とは、炭素と水素とそれ以外の原子とからなる不飽和有機化合物が1つの環となったものであり、これらに限定されるわけではないが、ピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラン環、チオフェン環、イソチアゾール環、イソキサゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラン環、ピロリン環等とすることができる。
【0099】
前記環Aは、隣接するベンゼン環と縮合環を形成して、2環式の縮合環を含む基を形成する。このような2環式の縮合環を含む基としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、それぞれ置換基を有していてもよい、ナフチル基、インデニル基、インドリル基、ベンズイミダゾリル基、イソインドリル基、3H-インドリル基、1H-インダゾリル基、イソベンゾフラニル基、キノリル基、イソキノリル基、フタラジニル基、キノキサリニル基、キナゾリニル基、シノリニル基、クロメニル基等とすることができる。
2環式の縮合環を含む基としては、前記の基のうち、置換基を有していてもよいナフチル基、置換基を有していてもよいインドリル基、又は置換基を有していてもよいベンズイミダゾリル基とすることが好ましい。より好ましくは、置換基を有するナフチル基とするのがよく、この場合には、環Aはベンゼン環である。
【0100】
本発明のカルボン酸誘導体系化合物において有効成分となる化合物の構造は、大きく2つに分けると、ベンゼン環と環Aを含む2環式の縮合環を含む基からなる環状部分と、それと連結する鎖状部分とからなる。
2環式の縮合環を含む基(環状部分)を、置換基を有していてもよいナフチル基とする場合には、ナフチル基の1位又は2位の箇所で鎖状部分と連結させることができる。好ましくは、ナフチル基の2位の箇所で鎖状部分と連結させるのがよい。
2環式の縮合環を含む基(環状部分)を、置換基を有していてもよいインドリル基とする場合には、インドリル基の1位、2位又は3位の箇所で鎖状部分と連結させることができる。好ましくは、インドリル基の2位又は3位の箇所で鎖状部分と連結させるのがよい。
2環式の縮合環を含む基(環状部分)を、置換基を有していてもよいベンズイミダゾリル基とする場合には、ベンズイミダゾリル基の1位、又は2位の箇所で鎖状部分と連結させることができる。好ましくは、ベンズインドリル基の2位の箇所で鎖状部分と連結させるのがよい。
【0101】
2環式の縮合環を含む基(環状部分)の具体的な化学構造を例示すると、これらに限定されるわけではないが、次のような基とすることができる。
【0102】
【0103】
前記式(III-I)において、X3は、単結合、-NH-基、-NH-CO-基、-O-CO-基、-CH2-S-CH2-基、-CH2-S-(CH2)2-S-基、又は-NH-R34-基(R34は、炭素数1~5のアルキレン基、又は炭素数2~5のアルケニレン基を示す。)である。
これらはいずれも2価の基であるが、いずれの側がY3と連結していてもよい。例えば、X3が-NH-CO-である場合には、CO-の側でY3と連結していてもよく、また、-NHの側でY3と連結していてもよい。
【0104】
ここで、本発明のカルボン酸誘導体系化合物における「炭素数1~5のアルキレン基」とは、これらに限定されるわけではないが、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、2-メチルトリメチレン基、ペンタメチレン基等の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基が挙げられる。
また、本発明のカルボン酸誘導体系化合物における「炭素数2~5のアルケニレン基」としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、ビニレン基、1-プロペニレン基、1-メチル-1-プロペニレン基、2-メチル-1-プロペニレン基、2-ブテニレン基、2-ペンテニレン基、1、3-ブタジエニレン基、3-ジメチル-1-プロペニレン基等の二重結合を1~3個有する炭素数2~5の直鎖状又は分岐鎖状のアルケニレン基が挙げられる。
【0105】
前記式(III-I)において、Y3は、単結合、-NH-基、-CO-基、-SO2-基、-O-CO-基、-CO-NR35-基(R35は、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1~5のアルキル基を示す。)、-O-R36-基(R36は、置換基を有していてもよい炭素数1~5のアルキレン基、又は置換基を有していてもよい炭素数2~5アルケニレン基を示す。)、-NR35-R36-基、-S-R36-基、-CO-R36-基、-SO2-R36-基、-NR35-CO-R36-基、-R36-NR35-CO-基、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキレン基、又は置換基を有していてもよい炭素数2~6のアルケニレン基である。
これらはいずれも2価の基であるが、いずれの側がR32と連結していてもよい。例えば、Y3が-O-CO-基である場合には、CO-の側でR32と連結していてもよく、また、-Oの側でR32と連結していてもよい。
【0106】
本発明のカルボン酸誘導体系化合物における「炭素数1~6のアルキレン基」とは、これらに限定されるわけではないが、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、2-メチルトリメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、3-メチルペンタメチレン基等の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基が挙げられる。
また、本発明のカルボン酸誘導体系化合物における「炭素数2~6のアルケニレン基」としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、ビニレン基、1-プロペニレン基、1-メチル-1-プロペニレン基、2-メチル-1-プロペニレン基、2-ブテニレン基、2-ペンテニレン基、1、3-ブタジエニレン基、3-ジメチル-1-プロペニレン基、1、4-ヘキサジエニレン基、4-メチル-3-ペンテニレン基等の二重結合を1~3個有する炭素数2~6の直鎖状又は分岐鎖状のアルケニレン基が挙げられる。
【0107】
前記式(III-I)において、R31は、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよい複素環基、又は置換基を有していてもよいアミノ基である。
本発明のカルボン酸誘導体系化合物において有効成分となる化合物は、R31が水素原子でありカルボキシル基となる場合に、Pin1の機能を阻害する活性を有する。したがって、R31は、水素原子であることが好ましい。
しかしながら、R31が、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよい複素環基、又は置換基を有していてもよいアミノ基である場合には、式(III-I)で示される化合物はR31の部分でエステル結合を形成することになることから、加水分解してカルボキシル基に変化することができる。したがって、R31が、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよい複素環基、又は置換基を有していてもよいアミノ基であっても、本発明のカルボン酸誘導体系化合物において有効成分となる化合物をプロドラッグとして使用することができる。
【0108】
本発明のカルボン酸誘導体系化合物において、式(III-I)のR31等で使用される「炭化水素基」とは、炭素原子と水素原子でできた化合物の基を意味し、これらに限定されるわけではないが、例えば、脂肪族炭化水素基、単環式飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基とすることができ、炭素数1ないし16個のものが好ましい。具体例としては、これらに限定されるわけではないが、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。
ここで、「アルキル基」としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。「アルケニル基」としては、例えば、ビニル基、1-プロペニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基等が挙げられる。「アルキニル基」としては、例えば、エチニル基、プロパルギル基、1-プロピニル基等が挙げられる。「シクロアルキル基」としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。「アリール基」としては、例えば、フェニル基、インデニル基、ナフチル基、フルオレニル基、アンスリル基、ビフェニレニル基、フェナントレニル基、as-インダセニル基、s-インダセニル基、アセナフチレニル基、フェナレニル基、フルオランセニル基、ピレニル基、ナフタセニル基、ヘキサセニル基等が挙げられる。「アラルキル基」としては、例えば、ベンジル基、スチリル基、フェネチル基等が挙げられる。
【0109】
本発明のカルボン酸誘導体系化合物において、式(III-I)のR31等で使用される「複素環基」とは、炭素原子と炭素以外の原子からなる環式化合物の基をいう。「複素環基」としては、芳香族の複素環基を用いることが好ましい。
本発明のカルボン酸誘導体系化合物における「複素環基」としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、炭素原子以外に窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選ばれた1種又は2種を1ないし4個ヘテロ原子として含む、5ないし14員環で、単環式ないし5環式の複素環基とすることができる。具体例としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、2-又は3-チエニル基、2-又は3-フリル基、1-、2-又は3-ピロリル基、1-、2-又は3-ピロリジニル基、2-、4-又は5-オキサゾリル基、3-、4-又は5-イソオキサゾリル基、2-、4-又は5-チアゾリル基、3-、4-又は5-イソチアゾリル基、3-、4-又は5-ピラゾリル基、2-、3-又は4-ピラゾリジニル基、2-、4-又は5-イミダゾリル基、1,2,3-トリアゾリル基、1,2,4-トリアゾリル基、1H-又は2H-テトラゾリル基等の炭素原子以外に酸素原子、硫黄原子および窒素原子から選ばれたヘテロ原子を1ないし4個含む5員環基とすることができる。また、例えば、2-、3-又は4-ピリジル基、N-オキシド-2-、3-又は4-ピリジル基、2-、4-又は5-ピリミジニル基、N-オキシド-2-、4-又は5-ピリミジニル基、チオモルホリニル基、モルホリニル基、ピペリジノ基、2-、3-又は4-ピペリジル基、チオピラニル基、1,4-オキサジニル基、1,4-チアジニル基、1,3-チアジニル基、ピペラジニル基、トリアジニル基、3-又は4-ピリダジニル基、ピラジニル基、N-オキシド-3-又は4-ピリダジニル基等の炭素原子以外に酸素原子、硫黄原子および窒素原子から選ばれたヘテロ原子を1ないし4個含む6員環基とすることができる。また、例えば、インドリル基、ベンゾフリル基、ベンゾチアゾリル基、ベンズオキサゾリル基、キサンセニル基、ベンズイミダゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、フタラジニル基、キナゾリニル基、キノキサリニル基、インドリジニル基、キノリジニル基、1,8-ナフチリジニル基、ジベンゾフラニル基、カルバゾリル基、アクリジニル基、フェナントリジニル基、ペリミジニル基、フェナジニル基、クロマニル基、フェノチアジニル基、フェノキサジニル基、7H-ピラジノ[2,3―c]カルバゾリル基、等の炭素原子以外に酸素原子、硫黄原子および窒素原子から選ばれたヘテロ原子を1ないし4個含む2環式ないし4環式縮合環基とすることができる。
【0110】
前記式(III-I)において、R32は、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、又は式(III-II)で表される基である。
ここで、本発明のカルボン酸誘導体系化合物における「アリール基」としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、フェニル基、インデニル基、ナフチル基、フルオレニル基、アンスリル基、ビフェニレニル基、フェナントレニル基、as-インダセニル基、s-インダセニル基、アセナフチレニル基、フェナレニル基、フルオランセニル基、ピレニル基、ナフタセニル基、ヘキサセニル基等とすることができる。
また、本発明のカルボン酸誘導体系化合物における「シクロアルキル基」としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等とすることができる。
【0111】
前記式(III-I)におけるR32は、式(III-II)で表される基とすることができるが、式(III-II)の構造は次のとおりである。
【0112】
【0113】
式(III-II)中、環B及び環Cは、それぞれ、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、又は置換基を有していてもよいシクロアルキル基を示し、R37は、単結合、-O-基、-CO-基、-NH-基、-SO2-基、-CO-NH-基、置換基を有していてもよい炭素数1~3のアルキレン基、置換基を有していてもよい炭素数2~3のアルケニレン基、-S-R38-基(R38は、置換基を有していてもよい炭素数1~2のアルキレン基を示す。)、-CO-R38-基、-O-R38-基、-SO2-R38-基を示す。
ここで、「炭素数1~2のアルキレン基」とは、メチレン基又はエチレン基であり、「炭素数1~3のアルキレン基」とは、前記のアルキレン基に加えて、例えば、トリメチレン基等を挙げることができる。
また、「炭素数2~3のアルケニレン基」とは、例えば、ビニレン基、1-プロペニレン基等である。
【0114】
前記式(III-I)においてR32が式(III-II)で表される基である場合には、環B、環C又はR37のいずれかの部位でY3と連結する。
Y3が環Bと連結する場合の構造を次の式(III-III)に示し、Y3が環Cと連結する場合の構造を次の式(III-IV)に示し、Y3がR37と連結する場合の構造を次の式(III-V)に示す。
【0115】
【0116】
前記式(III-I)におけるR32は、活性の高い化合物とするためには、置換基を有していてもよい多環式のアリール基、又は置換基を有していてもよい多環式の複素環基とすることが好ましい。
【0117】
前記式(III-I)において、R32は、同一又はそれぞれ異なる置換基である。
本発明のカルボン酸誘導体系化合物における「置換基」とは、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等)、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などのC1-6アルキル基)、シクロアルキル基(例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のC3-6シクロアルキル基)、アルキニル基(例えば、エチニル基、1-プロピニル基、プロパルギル基等のC2-6アルキニル基)、アルケニル基(例えば、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基などのC2-6アルケニル基)、アラルキル基(例えば、ベンジル基、α-メチルベンジル基、フェネチル基等のC7-11アラルキル基)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基などのC6-10アリール基等、好ましくはフェニル基)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ等のC1-6アルコキシ基)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ等のC6-10アリールオキシ基)、アルカノイル基(例えば、ホルミル基や、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基等のC1-6アルキル-カルボニル基)、アリールカルボニル基(例えば、ベンゾイル基、ナフトイル基等のC6-10アリール-カルボニル基)、アルカノイルオキシ基(例えば、ホルミルオキシ基や、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、イソブチリルオキシ基等のC1-6アルキル-カルボニルオキシ基)、アリールカルボニルオキシ基(例えば、ベンゾイルオキシ基、ナフトイルオキシ基等のC6-10アリール-カルボニルオキシ基)、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニル等のC1-6アルコキシ-カルボニル基)、アラルキルオキシカルボニル基(例えば、ベンジルオキシカルボニル基等のC7-11アラルキルオキシカルボニル基)、カルバモイル基、ハロゲノアルキル基(例えば、クロロメチル基、ジクロロメチル基、トリフルオロメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基等のモノ-、ジ-またはトリ-ハロゲノ-C1-4アルキル基)、オキソ基、アミジノ基、イミノ基、アミノ基、アルキルアミノ基(例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基等のモノ-C1-4アルキルアミノ基)、ジアルキルアミノ基(例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、メチルエチルアミノ基等のジ-C1-4アルキルアミノ基)、アルコキシカルボニルアミノ基(例えば、メトキシカルボニルアミノ基、イソプロキシカルボニルアミノ基、tert-ブトキシカルボニルアミノ基等のC1-6アルコキシカルボニルアミノ基)、環状アミノ基(炭素原子と1個の窒素原子以外に酸素原子、硫黄原子および窒素原子から選ばれたヘテロ原子を1ないし3個含んでいてもよい3ないし6員の環状アミノ基であり、例えば、アジリジニル基、アゼチジニル基、ピロリジニル基、ピロリニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、イミダゾリジニル基、ピペリジル基、モルホリニル基、ジヒドロピリジル基、ピリジル基、N-メチルピペラジニル基、N-エチルピペラジニル基等)、アルキレンジオキシ基(例えば、メチレンジオキシ基、エチレンジオキシ基等のC1-3アルキレンジオキシ基)、ヒドロキシ基、シアノ基、メルカプト基、スルホ基、スルフィノ基、ホスホノ基、スルファモイル基、モノアルキルスルファモイル基(例えば、N-メチルスルファモイル、N-エチルスルファモイル、N-プロピルスルファモイル、N-イソプロピルスルファモイル、N-ブチルスルファモイル等のモノ-C1-6アルキルスルファモイル基)、ジアルキルスルファモイル基(例えば、N,N-ジメチルスルファモイル基、N,N-ジエチルスルファモイル基、N,N-ジプロピルスルファモイル基、N,N-ジブチルスルファモイル基等のジ-C1-6アルキルスルファモイル基)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、ブチルチオ基、sec-ブチルチオ基、tert-ブチルチオ基等のC1-6アルキルチオ基)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等のC6-10アリールチオ基)、アルキルスルフィニル基(例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、プロピルスルフィニル基、ブチルスルフィニル基等のC1-6アルキルスルフィニル基)、アルキルスルホニル基(例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、プロピルスルホニル基、ブチルスルホニル基等のC1-6アルキルスルホニル基)、又はアリールスルホニル基(例えば、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基等のC6-10アリールスルホニル基)である。
【0118】
置換基としては、前記の置換基のうち、原子の数が1~10の低分子の置換基とすることが好ましく、そのような置換基としては、例えば、これらに限定されるわけではないが、ハロゲン原子、メチル基、エチル基、ビニル基、メトキシ基、エトキシ基、アセチル基、カルボキシル基、メトキシカルボニル基、クロロメチル基、アミノ基、メチルアミノ基、ヒドロキシ基、スルホ基、メチルチオ基等を用いることができる。
本発明のカルボン酸誘導体系化合物において、「置換基を有していてもよい」とは、前記のような置換基を有するか、又は有さないことを意味する。置換基を有する場合には、2以上の置換基を有することができ、それらは同一又は異なる置換基であってよい。本発明のカルボン酸誘導体系化合物において、「置換基を有していてもよい」場合には、置換基の数を0~3個とするのが好ましい。
【0119】
前記式(III-I)において、Z3は、水素原子、置換基を有していてもよいアミノ基、又は置換基を有していてもよいアミンである。
ここで、本発明のカルボン酸誘導体系化合物における「置換基を有していてもよいアミノ基」とは、第1級アミノ基、第2級アミノ基、又は第3級アミノ基である。第1級アミノ基とは、-NH2基である。第2級アミノ基とは、置換基を1つ有するアミノ基であり、これらに限定されるわけではないが、例えば、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基等とすることができる。また、第3級アミノ基とは、同一又は異なる置換基を2つ有するアミノ基であり、これらに限定されるわけではないが、例えば、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基等とすることができる。
【0120】
Z3が置換基を有していてもよいアミンである場合には、X3とZ3は環を形成する。環を形成するとは、Z3が、-NH-、-N=、又は-NR-(Rは置換基を示す。)であり、X3内のいずれかの原子と連結して環を形成することをいう。
X3とZ3が形成する環は、例えば、これらに限定されるわけではないが、X3が-CH2-S-CH2-基又は-CH2-S-(CH2)2-S-基であり、Z3が-N=であって、Z3がX3内の炭素原子と二重結合により連結して形成する、ジヒドロチアゾール環とすることができる。また、X3がテトラメチレン基であり、Z3が-NH-であってX3内の炭素原子と連結して形成するピペリジン環とすることができる。
【0121】
前記式(III-I)において、X3が-CH2-S-CH2-基であり、Z3が-N=であり、X3とZ3がジヒドロチアゾール環を形成する場合には、次の式(III-VI)で表すことができる。
【0122】
【化43】
(式中、m、n、A、Y
3、R
31、R
32、及びR
33は、前記したものと同一である。)
【0123】
前記式(III-VI)で表される化合物は、特許文献2(国際公開第2006/040646号公報)において多数合成されており、それらの化合物はPin1を阻害する活性を有することが確認されている。それらの化合物の一部について具体的な化学構造を例示すると、次のとおりである。
【0124】
【0125】
これらの化合物は、式(III-VI)におけるY3が、いずれも-O-CH2-基(-O-R36-基)である化合物である。
【0126】
前記式(III-I)において、X3が-CH2-S-(CH2)2-S-基であり、Z3が-N=基であり、X3とZ3がジヒドロチアゾール環を形成する場合には、次の式(III-VII)で表すことができる。
【0127】
【化45】
(式中、m、n、A、Y
3、R
31、R
32、及びR
33は、前記したものと同一である。)
【0128】
前記式(III-VII)で表される化合物は、特許文献2(国際公開第2006/040646号公報)において多数合成されており、それらの化合物はPin1を阻害する活性を有することが確認されている。それらの化合物の一部について具体的な化学構造を例示すると、次のとおりである。
【0129】
【0130】
これらの化合物は、式(III-VII)におけるY3が、それぞれ、単結合、-CH2-CH2-基(アルキレン基)、-CH2-CO-NH-基(-NR35-CO-R36-基)である。
【0131】
前記式(III-I)で表される化合物において、X3は、-NH-CO-基とすることができる。この場合には、m=1かつn=0とし、さらにZ3を水素原子とすれば、合成の原料となるアミノ酸の誘導体等が豊富に存在するため好ましい。
この場合に、前記式(III-I)は、次の式(III-VIII)で表すことができる。
【0132】
【化47】
(式中、A、Y
3、R
31、R
32、及びR
33は、前記したものと同一である。また、*は不斉炭素原子の位置を示す。)
【0133】
前記式(III-VIII)で表される化合物は、特許文献2(国際公開第2006/040646号公報)において多数合成されており、それらの化合物は、Pin1を阻害する活性を有することが確認されている。それらの化合物の一部について具体的な化学構造を例示すると、次のとおりである。
【0134】
【0135】
【0136】
【0137】
これらの化合物は、式(III-VIII)におけるY3が、上段の化合物についてはそれぞれ左から、-CH=CH-基(アルケニレン基)、-CH2-CH2-CO-基(-CO-R36-基)、-CH(CH3)-基(置換基を有するアルキレン基)である。
また、中段の化合物について、Y3は、左からそれぞれ、-CH2-基(アルキレン基)、-CH2-SO2-基(-SO2-R36-基)、-CH2-S-基(-S-R36-基)である。
そして、下段の化合物について、Y3は、それぞれ、-CH(CH2CH(CH3)2)-NH-CO-基(-R36-NR35-CO-基)、-CH(CH3)-O-基(-O-R36-基)、-CH2-CH2-CO-N(CH3)-基(-NR35-CO-R36-基)である。
【0138】
前記式(III-VIII)で表される化合物は、非特許文献3(Bioorg. Med. Chem. Lett.、2010、Vol.20、No.2、pp.586~590)においても多数合成されており、それらの化合物は、Pin1を阻害する活性を有することが確認されている。それらの化合物の一部について具体的な化学構造を例示すると、次のとおりである。
【0139】
【0140】
これらの化合物は、式(III-VIII)におけるY3が、いずれも単結合である化合物である。これらの3つの化合物のうち中央の化合物は、(R)-2-(5-(4-methoxyphenyl)-2-methylfuran-3-carboxamido)-3-(naphthalene-6-yl)propanoic acidと命名される化合物であるが、以下「C1」という。
【0141】
前記式(III-VIII)で表される化合物においては、R31が水素原子でありカルボキシル基を有する化合物が、Pin1の機能を阻害する活性を有する。しかしながら、R31がメチル基又はベンジル基である化合物であっても、加水分解により容易にカルボン酸に変化して、Pin1の機能を阻害する活性を有する化合物となることができる。
例えば、特許文献5(国際公開第2019/031471号公報)の実施例1で合成した化合物は、式(III-VIII)におけるY3が、単結合、-CH2-基(アルキレン基)、又は-NH-基である。
【0142】
前記式(III-VIII)で表される化合物は、これらに限定されるわけではないが、例えば、アミノ酸の誘導体を原料として、次の反応式で示されるスキームにより合成することができる。
【0143】
【化52】
(式中、R
31、R
32、R
33、及びY
3は、前記したものと同一のものを示し、Zは、水酸基又は塩素原子を示す。)
【0144】
上記スキームにおいて、(1)の反応は、R31を有するアルコールを、アミノ酸誘導体のカルボキシル基と反応させて脱水縮合することにより、アミノ酸誘導体にエステル結合を介してR31を連結する反応である。そして、(2)の反応は、R32及びY3を有するカルボン酸又は酸塩化物と、(1)の反応により生じた化合物のアミノ基とを反応させて脱水縮合することにより、アミド結合を介してY3及びR32を連結する反応である。
上記スキームにおいて、R31がHである化合物を合成する場合には、(1)及び(2)の反応を行った後に加水分解等によりR31を脱離することで、R31がHである化合物を得ることができ、また、R31が水素原子であるアミノ酸誘導体に、直接R32及びY3を有するカルボン酸を反応させて、脱水縮合することにより、(1)の反応を行わずに、R31がHである化合物を得ることもできる。
【0145】
前記式(III-I)で表される化合物において、X3は、-O-CO-基とすることができる。この場合には、m=1かつn=0とし、さらにZ3を水素原子とすれば、合成の原料となるアミノ酸の誘導体等が豊富に存在するため好ましい。
この場合に、前記式(III-I)は、次の式(III-IX)で表すことができる。
【0146】
【化53】
(式中、A、Y
3、R
31、R
32、及びR
33は、前記したものと同一である。また、*は不斉炭素原子の位置を示す。)
【0147】
前記式(III-IX)で表される化合物は、エステル結合を有するため分解されやすく、副作用の少ない治療剤又は予防剤とすることが可能である。
【0148】
前記式(III-IX)で表される化合物においては、R31が水素原子でありカルボキシル基を有する化合物が、Pin1の機能を阻害する活性を有する。しかしながら、R31がベンジル基である化合物であっても、加水分解により容易にカルボン酸に変化して、Pin1の機能を阻害する活性を有する化合物となることができる。
例えば、特許文献5(国際公開第2019/031471号公報)の実施例1で合成した化合物は、式(III-IX)におけるY3が、単結合、-CH2-基(アルキレン基)、-CH2-O-基(-O-R36-基)、又は-CH(NHBoc)-CH2-基(置換基を有するアルキレン基)である。
【0149】
前記式(III-IX)で表される化合物は、これらに限定されるわけではないが、例えば、アミノ酸の誘導体を原料として、次の反応式で示されるスキームにより合成することができる。
【0150】
【化54】
(式中、A、Y
3、R
31、R
32、及びR
33は、前記したものと同一のものを示す。)
【0151】
上記スキームにおいて、(1)の反応は、アミノ酸誘導体を原料として用い、そのアミノ基を、置換反応にて、水酸基とする反応である。また、(2)の反応は、R31を有するアルコールを、ヒドロキシカルボン酸誘導体のカルボン酸と反応させて脱水縮合することにより、ヒドロキシカルボン酸誘導体にエステル結合を介してR31を連結する反応である。そして、(3)の反応は、R32及びY3を有するカルボン酸と、(1)の反応により生じた水酸基と反応させて脱水縮合することにより、エステル結合を介してY3及びR32を連結する反応である。
上記スキームにおいて、R31がHである化合物を合成する場合には、(1)~(3)の反応を行った後に加水分解等によりR31を脱離することで、R31がHである化合物を得ることができるし、また、ヒドロキシカルボン酸誘導体を直接R32及びY3を有するカルボン酸と脱水縮合することにより、(2)の反応を行わずに、R31がHである化合物を得ることもできる。
【0152】
前記式(III-I)で表される化合物において、X3は、-NH-基とすることができる。前記式(III-I)においてX3が-NH-基である化合物は、特許文献2(国際公開第2006/040646号公報)において多数合成されており、それらの化合物はPin1を阻害する活性を有することが確認されている。それらの化合物の一部について具体的な化学構造を例示すると、次のとおりである。
【0153】
【0154】
これらの化合物は、式(III-I)におけるY3が、それぞれ左から、単結合、-CH2-基(アルキレン基)、-CH2-CH2-基(アルキレン基)である化合物である。
【0155】
前記式(III-I)で表される化合物において、X3は、-NH-R34-基(R34は、炭素数1~5のアルキレン基、又は炭素数2~5のアルケニレン基を示す。)とすることができる。
前記式(III-I)においてX3が-NH-R34-基である化合物は、特許文献2(国際公開第2006/040646号公報)において多数合成されており、それらの化合物はPin1を阻害する活性を有することが確認されている。それらの化合物の一部について具体的な化学構造を例示すると、次のとおりである。
【0156】
【0157】
【0158】
これらの化合物は、式(III-I)におけるX3及びY3が、上段左の化合物は、X3が-NH-CH2-基(-NH-R34-基)であり、Y3が-CO-N(CH3)-C(CH3)2-CH2-基(-R36-NR35-CO-基)である化合物である。上段中央の化合物は、X3が-NH-(CH2)4-基(-NH-R34-基)であり、Y3が-O-CH2-基(-O-R36-基)である化合物である。上段右の化合物は、X3が-NH-(CH2)2-基であり、Y3が-O-CO-基である化合物である。
下段左の化合物は、X3が-NH-CH2-基(-NH-R34-基)であり、Y3が-CO-NH-CH2-基(-R36-NR35-CO-基)である化合物である。下段中央の化合物は、X3が-NH-(CH2)2-基(-NH-R34-基)であり、Y3が-CO-NH-基(-CO-NR35-基)である化合物である。下段右の化合物は、X3が-NH-CH2-基(-NH-R34-基)であり、Y3が-CO-NH-(CH2)2-基(-R36-NR35-CO-基)である化合物である。
【0159】
前記式(III-I)で表される化合物において、X3とY3は、両方とも単結合とすることができる。
前記式(III-I)においてX3とY3がどちらも単結合である化合物は、特許文献2(国際公開第2006/040646号公報)において多数合成されており、それらの化合物はPin1を阻害する活性を有することが確認されている。それらの化合物の一部について具体的な化学構造を例示すると、次のとおりである。
【0160】
【0161】
前記式(III-I)におけるR32は、式(III-II)で表される基とすることができるが、式(III-II)の構造は次のとおりである。
【0162】
【0163】
式(III-II)中、環B及び環Cは、それぞれ、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、又は置換基を有していてもよいシクロアルキル基を示し、R37は、単結合、-O-基、-CO-基、-NH-基、-SO2-基、-CO-NH-基、置換基を有していてもよい炭素数1~3のアルキレン基、置換基を有していてもよい炭素数2~3のアルケニレン基、-S-R38-基(R38は、置換基を有していてもよい炭素数1~2のアルキレン基を示す。)、-CO-R38-基、-O-R38-基、-SO2-R38-基を示す。
【0164】
前記式(III-I)においてR32が式(III-II)で表される基である化合物は、特許文献2(国際公開第2006/040646号公報)において多数合成されており、それらの化合物はPin1を阻害する活性を有することが確認されている。それらの化合物の一部について具体的な化学構造を例示すると、次のとおりである。
【0165】
【0166】
【0167】
【0168】
これらの化合物においては、式(III-II)の2つの環を連結するR37が、上段の化合物については、それぞれ左から、単結合、-CO-基、-CO-NH-基である。
また、中段の化合物については、R37は、左からそれぞれ、-CH2-基(アルキレン基)、-C=C-基(アルケニレン基)、-CH2-S-基(-S-R38-基)である。
そして、下段の化合物については、R37は、左からそれぞれ、-O-CH2-基(-O-R38-基)、-CH2-SO2-基(-SO2-R38-基)である。
【0169】
前記式(III-I)においてR32が式(III-II)で表される基である化合物は、例えば、R37が、-O-基、-CO-基、又は-NH-基である化合物を用いることもできる。 前記式(III-I)においてR32が式(III-II)で表される基である化合物は、例えば、R37が、単結合、-O-基、-CH2-基(アルキレン基)、又は-CH(OH)-基(置換基を有するアルキレン基)である化合物を用いることもできる。
【0170】
上記カルボン酸誘導体系化合物は、これらに限定されるわけではないが、例えば、国際公開第2019/031471号公報に記載された製造方法を利用して合成することができる。
【0171】
1-4. 3,5-ジアミノ安息香酸系化合物
1-4-1. 化合物の一般式
本発明のコロナウィルス性疾患の治療剤又は予防剤において有効成分となる化合物の他の一つは、次の式(IV-I)で表される化学構造を有し、Pin1の機能を阻害する活性を有する化合物である。
【0172】
【0173】
1-4-2. 環Aについて
式(IV-I)中、環Aは、置換基を有していてもよい単環式又は多環式の芳香環又は複素環を示す。
環Aは、単環式又は多環式の芳香環又は複素環の何れかの原子(炭素原子又は窒素原子であることが好ましい)を介してX4と連結する。X4が単結合である場合は、環Aは、カルボニル基(-CO-)に直接連結することになる。
【0174】
本発明の3,5-ジアミノ安息香酸系化合物において、「芳香環」とは、炭素と水素からなる不飽和炭素有機化合物が環となったものである。単環式の芳香環としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、ベンゼン環、シクロペンタジエン環等が挙げられる。また、多環式の芳香環としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、ナフタレン環、インデン環、アズレン環、フルオレン環、フェナントレン環、アントラセン環、テトラセン環、ペンタセン環、ベンゾピレン環、クリセン環、ピレン環、トリフェニレン環等が挙げられる。
【0175】
本発明の3,5-ジアミノ安息香酸系化合物において、「複素環」とは、炭素と水素とそれ以外の原子とからなる有機化合物が1つの環となったものである。単環式の複素環としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、ピロール環、イミダゾール環、ピロリジン環、フラン環、テトラヒドロフラン環、1,3-ジオキソラン環、チオフェン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピペラジン環、ピラン環、1,4-ジオキサン環等が挙げられる。また、多環式の芳香環としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、インドール環、キノリン環、キノキサリン環、キナゾリン環、プリン環、イソベンゾフラン環、クロマン環、ベンゾジオキサン環、ベンゾジオキソール環、カルバゾール環、アクリジン環、フェノキサジン環、4H-ピリド[2,3-c]カルバゾール環等が挙げられる。
【0176】
本発明の3,5-ジアミノ安息香酸系化合物において、「環式炭化水素」とは、炭素と水素からなる飽和炭素有機化合物が環となったものである。単環式の環式炭化水素としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等が挙げられる。また、多環式の環式炭化水素としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、トリシクロヘプタン、トリシクロドデカン、ペルヒドロ-1,4-エタノアントラセン等が挙げられる。
【0177】
本発明の3,5-ジアミノ安息香酸系化合物において、「置換基」とは、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等)、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などのC1-6アルキル基)、シクロアルキル基(例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のC3-6シクロアルキル基)、アルキニル基(例えば、エチニル基、1-プロピニル基、プロパルギル基等のC2-6アルキニル基)、アルケニル基(例えば、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基などのC2-6アルケニル基)、アラルキル基(例えば、ベンジル基、α-メチルベンジル基、フェネチル基等のC7-11アラルキル基)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基などのC6-10アリール基等、好ましくはフェニル基)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ等のC1-6アルコキシ基)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ等のC6-10アリールオキシ基)、アルカノイル基(例えば、ホルミル基や、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基等のC1-6アルキル-カルボニル基)、アリールカルボニル基(例えば、ベンゾイル基、ナフトイル基等のC6-10アリール-カルボニル基)、アルカノイルオキシ基(例えば、ホルミルオキシ基や、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、イソブチリルオキシ基等のC1-6アルキル-カルボニルオキシ基)、アリールカルボニルオキシ基(例えば、ベンゾイルオキシ基、ナフトイルオキシ基等のC6-10アリール-カルボニルオキシ基)、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニル等のC1-6アルコキシ-カルボニル基)、アラルキルオキシカルボニル基(例えば、ベンジルオキシカルボニル基等のC7-11アラルキルオキシカルボニル基)、カルバモイル基、ハロゲノアルキル基(例えば、クロロメチル基、ジクロロメチル基、トリフルオロメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基等のモノ-、ジ-またはトリ-ハロゲノ-C1-4アルキル基)、オキソ基、アミジノ基、イミノ基、アミノ基、アルキルアミノ基(例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基等のモノ-C1-4アルキルアミノ基)、ジアルキルアミノ基(例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、メチルエチルアミノ基等のジ-C1-4アルキルアミノ基)、アルコキシカルボニルアミノ基(例えば、メトキシカルボニルアミノ基、イソプロキシカルボニルアミノ基、tert-ブトキシカルボニルアミノ基等のC1-6アルコキシカルボニルアミノ基)、環状アミノ基(炭素原子と1個の窒素原子以外に酸素原子、硫黄原子および窒素原子から選ばれたヘテロ原子を1ないし3個含んでいてもよい3ないし6員の環状アミノ基であり、例えば、アジリジニル基、アゼチジニル基、ピロリジニル基、ピロリニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、イミダゾリジニル基、ピペリジル基、モルホリニル基、ジヒドロピリジル基、ピリジル基、N-メチルピペラジニル基、N-エチルピペラジニル基等)、アルキレンジオキシ基(例えば、メチレンジオキシ基、エチレンジオキシ基等のC1-3アルキレンジオキシ基)、ヒドロキシ基、シアノ基、メルカプト基、スルホ基、スルフィノ基、ホスホノ基、スルファモイル基、モノアルキルスルファモイル基(例えば、N-メチルスルファモイル、N-エチルスルファモイル、N-プロピルスルファモイル、N-イソプロピルスルファモイル、N-ブチルスルファモイル等のモノ-C1-6アルキルスルファモイル基)、ジアルキルスルファモイル基(例えば、N,N-ジメチルスルファモイル基、N,N-ジエチルスルファモイル基、N,N-ジプロピルスルファモイル基、N,N-ジブチルスルファモイル基等のジ-C1-6アルキルスルファモイル基)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、ブチルチオ基、sec-ブチルチオ基、tert-ブチルチオ基等のC1-6アルキルチオ基)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等のC6-10アリールチオ基)、アルキルスルフィニル基(例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、プロピルスルフィニル基、ブチルスルフィニル基等のC1-6アルキルスルフィニル基)、アルキルスルホニル基(例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、プロピルスルホニル基、ブチルスルホニル基等のC1-6アルキルスルホニル基)、又はアリールスルホニル基(例えば、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基等のC6-10アリールスルホニル基)である。
【0178】
本発明の3,5-ジアミノ安息香酸系化合物において、「置換基を有していてもよい」とは、前記の置換基を有するか、又は有さないことを意味する。置換基を有する場合には、2以上の置換基を有することができ、それらは同一又は異なる置換基であってよい。本発明の3,5-ジアミノ安息香酸系化合物において、「置換基を有していてもよい」場合には、置換基の数を0~3個とするのが好ましく、より好ましくは、置換基の数を0とするのがよい。
「置換基」としては、炭素数が0~12の置換基が好ましく、より好ましくは、炭素数が0~6の置換基がよい。 また、「置換基」としては、原子の数が1~10個の置換が好ましく、このような置換基としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、ハロゲン原子、メチル基、エチル基、ビニル基、メトキシ基、エトキシ基、アセチル基、カルボキシル基、メトキシカルボニル基、クロロメチル基、アミノ基、メチルアミノ基、ヒドロキシ基、スルホ基、メチルチオ基等が挙げられる。
【0179】
前記式(IV-I)中における環Aは、前記のとおり、置換基を有していてもよい単環式又は多環式の芳香環又は複素環であるが、置換基を有していてもよい多環式の芳香環又は複素環とすることが好ましい。
より好ましくは、環Aは、次の式(IV-VI)で表される基とするのがよい。
【0180】
【0181】
式(IV-VI)中、A1、A2及びA3は、それぞれ独立して、炭素原子又は窒素原子を示し、環Kは、置換基を有していてもよい単環式又は多環式の芳香環、複素環又は環式炭化水素を示す。
【0182】
式(IV-VI)で表される基としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、次の構造を有する基が挙げられる。
【0183】
【0184】
式(IV-VI)で表される基としては、A1、A2及びA3がいずれも炭素原子である基が好ましい。また、式(IV-VI)で表される基としては、環Kが、置換基を有していてもよい単環式又は多環式の芳香環である基が好ましい。
より好ましくは、式(IV-VI)で表される基として、ナフチル基を用いるのがよい。
【0185】
1-4-3. R41について
前記式(IV-I)中、R41は、置換基を有していてもよい多環式の芳香環又は式(IV-II)~(IV-V)のいずれかで表される基を示す。
式(IV-II)で表される基は、次の構造を有する基である。
【0186】
【0187】
式(IV-II)中、環Bは、置換基を有していてもよい単環式の複素環を示し、環C及び環Dは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい単環式又は多環式の芳香環、複素環又は環式炭化水素を示す。そして、環B、環C及び環Dは縮合環を形成している。
環B中のNは窒素原子を示しており、環Bは、窒素原子を介してY4と連結する。Y4が単結合である場合は、環Bは、窒素原子を介してカルボニル基(-CO-)に連結することになる。
【0188】
式(IV-II)で表される基としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、次の構造を有する基が挙げられる。
【0189】
【0190】
環C及び環Dは、置換基を有していてもよい単環式の芳香環又は複素環であることが好ましく、より好ましくは、いずれも置換基を有していてもよい単環式の芳香環であるのがよい。これらの場合には、式(IV-II)で表される基は、3つの環を有する複素環となる。
また、式(IV-II)で表される基としては、置換基を有していてもよいカルバゾリル基とするのが好ましい。
【0191】
式(IV-III)で表される基は、次の構造を有する基である。
【0192】
【0193】
式(IV-III)中、環Eは、置換基を有していてもよい単環式の複素環を示し、環Fは、置換基を有していてもよい単環式又は多環式の芳香環、複素環又は環式炭化水素を示す。そして、環E及び環Fは縮合環を形成している。
環E中のNは窒素原子を示しており、環Eは、窒素原子を介してY4と連結する。Y4が単結合である場合は、環Eは、窒素原子を介してカルボニル基(-CO-)に連結することになる。
【0194】
式(IV-III)で表される基としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、次の構造を有する基が挙げられる。
【0195】
【0196】
環Fは、置換基を有していてもよい単環式の芳香環又は複素環であることが好ましく、より好ましくは、置換基を有していてもよい単環式の芳香環であるのがよい。これらの場合には、式(IV-III)で表される基は、2つの環を有する複素環となる。
【0197】
式(IV-IV)で表される基は、次の構造を有する基である。
【0198】
【0199】
式(IV-IV)中、環G及び環Hは、それぞれ、置換基を有していてもよい単環式又は多環式の芳香環又は複素環を示す。
【0200】
式(IV-IV)で表される基としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、次の構造を有する基が挙げられる。
【0201】
【0202】
式(IV-IV)中、環G及び環Hは、置換基を有していてもよい単環式の芳香環又は複素環であることが好ましい。式(IV-IV)で表される基として、好ましいのは、置換基を有していてもよいジフェニルアミノ基である。
【0203】
式(IV-V)で表される基は、次の構造を有する基である。
【0204】
【0205】
式(IV-V)中、環Iは、置換基を有していてもよい単環式の芳香環又は複素環を示し、環Jは、置換基を有していてもよい単環式又は多環式の芳香環、複素環又は環式炭化水素を示す。そして、環I及び環Jは縮合環を形成している。 式(IV-V)中、R46は、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基又は置換基を有していてもよい複素環基を示す。
【0206】
本発明の3,5-ジアミノ安息香酸系化合物において、「炭化水素基」とは、炭素原子と水素原子でできた化合物の基を意味し、これらに限定されるわけではないが、例えば、脂肪族炭化水素基、単環式飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基とすることができ、炭素数1ないし16個のものが好ましい。具体例としては、これらに限定されるわけではないが、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基等が挙げられる。
ここで、「アルキル基」としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。「アルケニル基」としては、例えば、ビニル基、1-プロペニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基等が挙げられる。「アルキニル基」としては、例えば、エチニル基、プロパルギル基、1-プロピニル基等が挙げられる。「シクロアルキル基」としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。「アリール基」としては、例えば、フェニル基、インデニル基、ナフチル基、フルオレニル基、アンスリル基、ビフェニレニル基、フェナントレニル基、as-インダセニル基、s-インダセニル基、アセナフチレニル基、フェナレニル基、フルオランセニル基、ピレニル基、ナフタセニル基、ヘキサセニル基等が挙げられる。
【0207】
また、本発明の3,5-ジアミノ安息香酸系化合物において、「複素環基」とは、炭素原子と炭素以外の原子からなる環式化合物の基をいう。「複素環基」としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、炭素原子以外に窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選ばれた1種又は2種を1ないし4個ヘテロ原子として含む、5ないし14員環で、単環式ないし5環式の複素環基とすることができる。具体例としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、炭素原子以外に酸素原子、硫黄原子および窒素原子から選ばれたヘテロ原子を1ないし4個含む5員環基として、2-又は3-チエニル基、2-又は3-フリル基、1-、2-又は3-ピロリル基、1-、2-又は3-ピロリジニル基、2-、4-又は5-オキサゾリル基、3-、4-又は5-イソオキサゾリル基、2-、4-又は5-チアゾリル基、3-、4-又は5-イソチアゾリル基、3-、4-又は5-ピラゾリル基、2-、3-又は4-ピラゾリジニル基、2-、4-又は5-イミダゾリル基、1,2,3-トリアゾリル基、1,2,4-トリアゾリル基、1H-又は2H-テトラゾリル基等を挙げることができる。また、炭素原子以外に酸素原子、硫黄原子および窒素原子から選ばれたヘテロ原子を1ないし4個含む6員環基として、これらに限定されるわけではないが、例えば、2-、3-又は4-ピリジル基、N-オキシド-2-、3-又は4-ピリジル基、2-、4-又は5-ピリミジニル基、N-オキシド-2-、4-又は5-ピリミジニル基、チオモルホリニル基、モルホリニル基、ピペリジノ基、2-、3-又は4-ピペリジル基、チオピラニル基、1,4-オキサジニル基、1,4-チアジニル基、1,3-チアジニル基、ピペラジニル基、トリアジニル基、3-又は4-ピリダジニル基、ピラジニル基、N-オキシド-3-又は4-ピリダジニル基等を挙げることができる。また、炭素原子以外に酸素原子、硫黄原子および窒素原子から選ばれたヘテロ原子を1ないし4個含む2環式ないし4環式縮合環基として、これらに限定されるわけではないが、例えば、インドリル基、ベンゾフリル基、ベンゾチアゾリル基、ベンズオキサゾリル基、キサンセニル基、ベンズイミダゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、フタラジニル基、キナゾリニル基、キノキサリニル基、インドリジニル基、キノリジニル基、1,8-ナフチリジニル基、ジベンゾフラニル基、カルバゾリル基、アクリジニル基、フェナントリジニル基、ペリミジニル基、フェナジニル基、クロマニル基、フェノチアジニル基、フェノキサジニル基、7H-ピラジノ[2,3―c]カルバゾリル基等を挙げることができる。
【0208】
式(IV-V)で表される基としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、次の構造を有する基を挙げることができる。
【0209】
【0210】
式(IV-V)中、環Jは、置換基を有していてもよい単環式の芳香環又は複素環であることが好ましい。また、R46は、水素原子であることが好ましい。
【0211】
前記式(IV-II)~(IV-V)で表される基は、いずれも2以上の環を有し、窒素原子を介してY4と連結することを特徴とする基となっている。
本発明の3,5-ジアミノ安息香酸系化合物においては、化合物の活性の観点からは、式(IV-II)~(IV-V)で表される基のうち、式(IV-II)又は式(IV-IV)で表される基を有する化合物を用いるのが好ましく、より好ましくは、式(IV-II)で表される基を有する化合物を用いるのがよい。
【0212】
1-4-4. R42~R45について、
前記式(IV-I)中、R42は、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよい複素環基又は置換基を有していてもよいアミノ基を示す。 本発明の3,5-ジアミノ安息香酸系化合物において、「置換基を有していてもよいアミノ基」とは、第1級アミノ基、第2級アミノ基、又は第3級アミノ基である。第2級アミノ基としては、置換基を1つ有するアミノ基とすることができ、これらに限定されるわけではないが、例えば、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基等とすることができる。また、第3級アミノ基としては、同一又は異なる置換基を2つ有するアミノ基とすることができ、これらに限定されるわけではないが、例えば、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基等とすることができる。
【0213】
本発明の3,5-ジアミノ安息香酸系化合物においては、化合物の活性の観点からは、R42が水素原子又はメチル基である化合物を用いるのが好ましく、特に、R42が水素原子であり、-CO2R42基がカルボキシル基(-CO2H)となっている化合物を用いることが好ましい。しかしながら、R42が置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよい複素環基又は置換基を有していてもよいアミノ基であり、活性が低い場合でも、加水分解により容易に水素原子に置換してカルボキシル基となり、活性が高まることがある。したがって、そのような化合物は、プロドラッグとして使用することも可能となる。
【0214】
前記式(IV-I)中、R43は、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基又は置換基を有していてもよい複素環基を示す。
また、R44は、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基又は置換基を有していてもよい複素環基を示す。
本発明の3,5-ジアミノ安息香酸系化合物においては、化合物の活性の観点からは、R43及びR44が水素原子である化合物を用いることが好ましい。このような化合物は、次の一般式(IV-VII)で表すことができる。
【0215】
【0216】
式(IV-VII)中、環A、R41、R42、R45、X4及びY4は、前記式(IV-I)中のものと同じものを示す。
【0217】
前記式(IV-I)中、R45は、ベンゼン環に連結する同一又は異なる0~3個の置換基を示す。ここで「異なる」とは、3つの置換基のうち1つのみが異なっていることも含む。本発明の3,5-ジアミノ安息香酸系化合物においては、R45が0個である化合物、すなわち、ベンゼン環の2位、4位及び6位に水素原子を有する化合物を用いることが好ましい。
【0218】
1-4-5. X4及びY4について
前記式(IV-I)中、X4は、単結合、炭素数1若しくは2のアルキレン基、-O-基、-CH2-O-基、-CH2-NH-CO-基又は-CH2-NH-CO-O-CH2-基を示す。 本発明の3,5-ジアミノ安息香酸系化合物においては、化合物の活性の観点からは、X4が、単結合、-CH2-O-基又は-CH2-NH-CO-基である化合物を用いることが好ましく、より好ましくは、X4が単結合である化合物を用いるのがよい。
【0219】
前記式(IV-I)中、Y4は、単結合又は炭素数1若しくは2のアルキレン基を示す。
本発明の3,5-ジアミノ安息香酸系化合物においては、化合物の活性の観点からは、Y4が、単結合又は炭素数1のアルキレン基(メチレン基)である化合物を用いることが好ましく、より好ましくは、Y4が単結合である化合物を用いるのがよい。
ここで、「単結合」とは、X4(又はY4)の両隣の基が、連結基を介せず、直接連結している状態を示す。
【0220】
本発明の3,5-ジアミノ安息香酸系化合物においては、化合物の活性の観点からは、式(IV-I)で表される化合物において、R43及びR44が水素原子であることが好ましく、さらに、X4及びY4が単結合であることがより好ましい。このような化合物は、次の一般式(IV-VIII)で表すことができる。
【0221】
【0222】
式(IV-VIII)中、環A、R41、R42、及びR45は、前記式(IV-I)中のものと同じものを示す。
【0223】
1-4-6. 3,5-ジアミノ安息香酸系化合物の製造方法
上記3,5-ジアミノ安息香酸系化合物は、これらに限定されるわけではないが、例えば、ジアミノ安息香酸エステルを原料として用い、次の反応式(A)で示されるスキームにより合成することができる。
【0224】
【0225】
反応式(A)において、環A、R41~R45、X4及びY4は、前記式(IV-I)中のものと同じものを示す。また、W及びZは、それぞれ独立に、ハロゲン原子又は水酸基を示す。 反応式(A)において、(1)の反応は、ジアミノ安息香酸エステルの一方のアミンに、(Boc)2O(二炭酸ジ-tert-ブチル)を塩基の存在下に反応させて、アミンのBoc化を行う反応である。次に、(2)の反応は、ジアミノ安息香酸エステルの未反応のもう一方のアミンに、R41及びY4を有するアシルハロゲン化物又はカルボン酸を反応させて、アミド結合によりR41及びY4を有する基を連結する反応である。(3)の反応は、酸性条件下にBoc基を脱離させて、脱保護を行う反応である。そして、(4)の反応は、脱保護されたアミンに、環A及びX4を有するアシルハロゲン化物又はカルボン酸を反応させて、アミド結合により環A及びX4を有する基を連結する反応である。
【0226】
反応式(A)により得られる化合物は、式(IV-I)で表される化合物であるが、R42が水素原子でない場合には、さらに、塩基性条件下にR42を脱離させて、R42の部分が水素原子に置換されたカルボン酸とすることもできる。 また、R42が水素原子でない場合、(3)の反応の後にR42を脱離させてから、(4)の反応を行って、カルボン酸の化合物を得てもよい。
【0227】
ジアミノ安息香酸エステルを原料として用いて本発明の3,5-ジアミノ安息香酸系化合物を合成する方法としては、次の反応式(B)で示されるスキームにより合成することも可能である。
【0228】
【0229】
反応式(B)において、環A、R41~R45、X4及びY4は、前記式(IV-I)中のものと同じものを示す。また、W及びZは、それぞれ独立に、ハロゲン原子又は水酸基を示す。
反応式(B)において、(1)の反応は、前記反応式(A)中の(1)の反応と同一であり、ジアミノ安息香酸エステルの一方のアミンに、(Boc)2O(二炭酸ジ-tert-ブチル)を塩基の存在下に反応させて、アミンのBoc化を行う反応である。次に、(5)の反応は、ジアミノ安息香酸エステルの未反応のもう一方のアミンに、環A及びX4を有するアシルハロゲン化物又はカルボン酸を反応させて、アミド結合により環A及びX4を有する基を連結する反応である。(6)の反応は、酸性条件下にBoc基を脱離させて、脱保護を行う反応である。そして、(7)の反応は、脱保護されたアミンに、R41及びY4を有するアシルハロゲン化物又はカルボン酸を反応させて、アミド結合によりR41及びY4を有する基を連結する反応である。
反応(A)がR41及びY4を有する基を先に連結させる一方、反応(B)は環A及びX4を有する基を先に連結させる点で、両反応は異なっている。
【0230】
反応式(B)により得られる化合物は、式(IV-I)で表される化合物であるが、R42が水素原子でない場合には、さらに、塩基性条件下にR42を脱離させて、R42の部分が水素原子に置換されたカルボン酸の化合物とすることもできる。
また、R42が水素原子でない場合、(6)の反応の後にR42を脱離させてから、(7)の反応を行って、カルボン酸の化合物を得てもよい。
【0231】
前記反応式(A)及び(B)は、Boc基による保護及び脱保護を伴う反応であるが、Boc基による保護を行わず反応を行うことも可能である。例えば、次の反応式(C)で示されるスキームにより合成することができる。
【0232】
【0233】
反応式(C)において、環A、R41~R45、X4及びY4は、前記式(IV-I)中のものと同じものを示す。また、W及びZは、それぞれ独立に、ハロゲン原子又は水酸基を示す。
反応式(C)において、(8)の反応は、ジアミノ安息香酸エステルの一方のアミンに、R41及びY4を有するアシルハロゲン化物又はカルボン酸を反応させて、アミド結合によりR41及びY4を有する基を連結する反応である。(9)の反応は、ジアミノ安息香酸エステルの未反応のもう一方のアミンに、環A及びX4を有するアシルハロゲン化物又はカルボン酸を反応させて、アミド結合により環A及びX4を有する基を連結する反応である。
【0234】
反応式(C)は、前記反応式(A)と同じくR41及びY4を有する基を先に連結させる合成方法である。Boc基による保護を行わないことにより純度が低くなるものの、反応条件を検討することにより十分に高い純度で合成することが可能である。
【0235】
反応式(C)により得られる化合物は、式(IV-I)で表される化合物であるが、R42が水素原子でない場合には、さらに、塩基性条件下にR42を脱離させて、R42の部分が水素原子に置換されたカルボン酸とすることもできる。
また、R42が水素原子でない場合、(8)の反応の後にR42を脱離させてから、(9)の反応を行って、カルボン酸の化合物を得てもよい。
【0236】
1-5. その他のPin1阻害剤
また、本発明のコロナウィルス性疾患の治療剤又は予防剤において有効成分となる化合物として、以下の表に示す化合物又はその塩を使用することもできる。
【0237】
【0238】
2. Pin1の機能を阻害する活性
本発明において有効成分となる化合物は、Pin1の機能を阻害する活性を有する化合物であり、例えば、前記式(I-I)、(II-I)、(III-I)、 (IV-I) 又は表1で表される化学構造を有する化合物又はその塩を用いることができる。
本発明において、「Pin1の機能を阻害する」とは、Pin1の異性化酵素活性(イソメラーゼ活性)を阻害すること、及び/又は、Pin1がIRS-1等の他のタンパク質と結合若しくは相互作用する活性を阻害すること、及び/又は、Pin1酵素の分解を促進することを意味する。
【0239】
有効成分となる化合物が、Pin1の機能を阻害する活性を有するかどうかを試験するためには、これらに限定されるわけではないが、例えば、AMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ)のリン酸化を指標とすることで(Yusuke Nakatsu et al., Journal of Biological Chemistry, 2015, Vol.290, No.40, pp.24255-24266を参照)、本発明のPin1阻害剤によるPin1の機能を阻害する活性を測定することができる。また、ペプチドを基質としたPin1によるイソメラーゼ活性を、吸光度の変化により検出することで(Hailong Zhao et al., Bioorganic & Medicinal Chemistry, 2016, Vol.24, pp.5911-5920参照)、本発明のPin1阻害剤によるPin1の機能を阻害する活性を測定することもできる。あるいは、基質となるペプチドと競合するPin1への結合を検出することで(Shuo Wei et al., Nature Medicine, Vol.21, No.5, pp.457-466, online methods参照)、本発明のPin1阻害剤によるPin1の機能を阻害する活性を測定することもできる。
【0240】
3. 薬学的に許容できる塩
本発明のウィルス性疾患の治療剤又は予防剤は、Pin1の機能を阻害する化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する。Pin1の機能を阻害する化合物は、例えば、前記式(I-I)、(II-I)、(III-I)、 (IV-I) 又は表1で表される化学構造を有する化合物を含む。
ここで、「薬学的に許容される塩」とは、例えば、これらに限定されるわけではないが、化合物内に酸性の官能基を有する場合には、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等とすることができる。また、化合物内に塩基性の官能基を有する場合には、塩酸、リン酸、酢酸、フタル酸、フマル酸、シュウ酸等との塩とすることができる。
【0241】
4. 適用疾患
本発明の治療剤又は予防剤の適用疾患である「ウィルス性疾患」とは、ウィルスによって引き起こされる疾患であり、例えば、コロナウィルスを原因とするコロナウィルス感染症を含む。
ヒトに感染するコロナウィルスは、αコロナウィルス(HCoV-229E、HCoV-NL63)及びβコロナウィルス(MERS-CoV、SARS-CoV、SARS-CoV-2、HCoV-OC43、HCoV-HKU1)である。HCoV-229E、HCoV-OC43、HCoV-NL63、HCoV-HKU1は、一般の風邪の原因であり、多くは軽症であるが、高熱を引き起こすこともある。SARS-CoVは、コウモリのコロナウィルスがヒトに感染して重症肺炎を引き起こすようになったと考えられており、MERS-CoVは、ヒトコブラクダに風邪症状を引き起こすウィルスであるが、種の壁を超えてヒトに感染すると重症肺炎を引き起こすと考えられている。SARS-CoV-2により引き起こされる感染症(COVID-19)は、主に、感染者のせきやくしゃみで飛散した空気中の飛沫を介したヒトーヒト感染によって広がる。COVID-19は、発熱、呼吸器症状、頭痛、倦怠感などがみられ、嗅覚障害や味覚障害を引き起こすこともある。本発明の治療剤又は予防剤は、特に、βコロナウィルスを原因とするコロナウィルス感染症に適用することが好ましく、中でも、SARS-CoV-2を原因とするコロナウィルス感染症(COVID-19)に適用することが好ましい。
【0242】
本発明において有効成分となる化合物は、Pin1の機能を阻害することを作用機序とし、ウィルスの増殖を抑制することができるため、ウィルス性疾患の治療剤又は予防剤として用いることができる。本発明のウィルス性疾患の治療剤又は予防剤は、ウィルス性疾患であると診断された患者のみならず、ウィルス性疾患である可能性がある患者や、ウィルス性疾患を発症する恐れのある患者に対しても、治療剤又は予防剤として投与することができる。また、本発明のウィルス性疾患の治療剤又は予防剤は、SARS-CoV-2ウィルスの増殖を抑制するため、特に、SARS-CoV-2を原因とするコロナウィルス感染症の治療又は予防に好適に用いることができる。すなわち、本発明では、ウィルス性疾患の治療剤又は予防剤として機能するPin1阻害剤(実施例6のスクリーニング方法で同定されたものを含む)又はその薬学的に許容される塩の治療有効量を、それを必要とする対象、例えばCOVID-19患者に投与することを含む、COVID-19の治療方法を提供できる。
【0243】
5. 剤型
本発明のウィルス性疾患の治療剤又は予防剤は、有効成分となる化合物又はその薬学的に許容される塩と、薬学的に許容される担体とを混合することにより医薬組成物とすることができ、例えば、これらに限定されるわけではないが、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、散剤、液剤、注射剤、坐剤、貼付剤、点眼剤、吸入剤とすることができる。好適な剤型としては、例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、散剤、液剤等として経口投与することができる。
【0244】
本発明のウィルス性疾患の治療剤又は予防剤で使用できる、薬学的に許容される担体としては、各種無機又は有機担体物質を用いることができる。医薬組成物を、錠剤、顆粒剤等の固形剤とする場合には、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤等を用いることができ、液剤、注射剤等の液状製剤とする場合には、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、緩衝剤等を用いることができる。また、必要に応じて、抗酸化剤、防腐剤、着色剤等の添加物を用いることもできる。
【0245】
これらに限定されるわけではないが、賦形剤としては、例えば、乳糖、D-マンニトール、デンプン等を用いることができ、滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク等を用いることができ、結合剤としては、例えば、結晶セルロース、ゼラチン等を用いることができ、崩壊剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロースなどを用いることができる。また、溶剤としては、例えば、蒸留水、アルコール、プロピレングリコール等を用いることができ、溶解補助剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、エタノール等を用いることができ、懸濁化剤としては、例えば、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができ、緩衝剤としては、例えば、リン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。
【0246】
本発明のウィルス性疾患の治療剤又は予防剤は、例えば、1日に患者の体重1kgあたり、その有効成分に換算して、好ましくは0.01~100mg投与し、より好ましくは、0.1~10mg投与するのがよい。
【0247】
本発明のコロナウィルス性疾患の治療剤又は予防剤は、本発明の化合物又はその薬学的に許容される塩の他に、コロナウィルス性疾患の治療剤又は予防剤に分類される薬剤から選択される少なくとも1種以上の薬剤の有効成分を含有していてもよい。このような有効成分としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、レムデシビル、ファビピラビル、クロロキン、ヒドロキシクロロキン、ナファモスタット、インターフェロン等を用いることができる。また、本発明のウィルス性疾患の治療剤又は予防剤は、他のウィルス性疾患の治療剤又は予防剤と併用することができる。
【0248】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例0249】
6. 実施例
6-1. 実施例1 SARS-CoV-2増殖に対するPin1の影響
本実施例では、SARS-CoV-2増殖に対するPin1の影響を調査するため、Pin1を標的としたsiRNAを導入したVeroE6/TMPRSS2細胞におけるSARS-CoV-2増殖を観察した。リバーストランスフェクション法によりTMPRSS2を過剰発現したVeroE6細胞(以下「VeroE6/TMPRSS2細胞」という)(Shutoku Matsuyama外17名著、PNAS、2020年3月31日、Vol.117、p.7001-7003)に対し、以下の2種類のPin1 siRNA(配列番号1、配列番号2)又はコントロールsiRNAを終濃度20nMで導入した。
配列番号1:cggcaacagc agcaguggug gcaaa
配列番号2:gcccuggagc ugaucaacgg cuaca
3日後にSARS-CoV-2を0.01の感染多重度(MOI)で感染させ、24時間後に細胞溶解物(cell lysate)を回収し、Western blottingにて細胞内SARS-CoV-2ヌクレオカプシド、Pin1及び内部標準タンパク質としてアクチンを検出した。細胞内SARS-CoV-2ヌクレオカプシドの発現量によりSARS-CoV-2増殖を評価した。
図1(A)は、Western blottingの結果であり、(B)はコントロールsiRNAにおけるSARS-CoV-2ヌクレオカプシドの検出強度で正規化したSARS-CoV-2ヌクレオカプシドの相対強度である。
図1に示すように、2種類のPin1 siRNAは、いずれもPin1タンパク質の発現レベルを大幅に低下させている。さらに、2種類のPin1 siRNAを導入した細胞では、SARS-CoV-2ヌクレオカプシドの検出強度が対照(コントロールsiRNA)に比べて大幅に減少している。このように、Pin1の発現を阻害することにより、SARS-CoV-2の増殖を抑制できることが確認された。
【0250】
6-2-1. 実施例2-1 Pin1阻害剤(H-77)の製造
本実施例では、アントラニル酸系化合物を製造した。まず、本発明の化合物を合成するために用いる中間体(H-122及びH-64)を製造した。次の構造式で示される公知の化合物(H-122)について、J. Org. Chem., 2001, vol.66, pp.2784-2788に記載された方法に従い、アントラニル酸を原料として2工程で合成した。
【0251】
【0252】
次の構造式で示される公知の化合物(H-64)について、J. Org. Chem., 2001, vol.66, pp.2784-2788に記載された方法に従い、アントラニル酸を原料として4工程で合成した。
【0253】
【0254】
H-64(400 mg, 1.56 mmol)と2-ナフトイルクロリド(327 mg, 1.72 mmol)のジクロロメタン(5 mL)溶液に、室温でトリエチルアミン(316 mg, 0.44 mL, 3.12 mmol)を加え、同温で13時間撹拌した。混合物に水を加え酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後ろ過して減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(クロロホルム:酢酸エチル,15:1)、H-68を白色結晶として得た(531 mg, 1.29 mmol, 83%)。
H-68についてのNMR測定スペクトルとHR-ESI-MSによる質量分析の結果は以下のとおりである。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 3.99 (3H, s), 5.11 (2H, s), 7.28 (1H, dd, J = 9.2, 3.2 Hz), 7.32-7.48 (5H, m), 7.54-7.62 (2H, m), 7.70 (1H, d, J = 3.2 Hz), 7.88-7.93 (1H, m), 7.97 (1H, d, J = 8.8 Hz), 8.01-8.05 (1H, m), 8.09 (1H, dd, J = 8.7, 1.8 Hz), 8.57 (1H, bs), 8.92 (1H, d, J = 9.2 Hz), 12.0 (1H, bs); HRESIMS calcd for C26H22NO4 [M+H]+412.1549, found 412.1550.
確認されたH-68の化学構造は次のとおりである。
【0255】
【0256】
H-68(300 mg, 0.73 mmol)のTHF(8 mL)溶液に、水酸化リチウム水溶液(1 M, 2.2 mL, 2.2 mmol)を室温で加え、同温で4時間撹拌した。混合物に1 M塩酸を加えて中和し、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後ろ過して減圧下濃縮し、H-77を白色結晶として得た(280 mg, 0.705 mmol, 97%)。
H-77についてのNMR測定スペクトルとHR-ESI-MSによる質量分析の結果は以下のとおりである。
1H NMR (400 MHz, DMSOd6) δ 5.16 (2H, s), 7.31-7.43 (4H, m), 7.45-7.49 (2H, m), 7.60-7.69 (3H, m), 7.99 (1H, dd, J = 8.7, 1.8 Hz), 8.00-8.05 (1H, m), 8.06-8.12 (2H, m), 8.55 (1H, bs), 8.61 (1H, d, J = 9.1 Hz), 12.0 (1H, bs); HRESIMS calcd for C25H19NO4Na [M+Na]+ 420.1212, found 420.1218.
確認されたH-77の化学構造は次のとおりである。
【0257】
【0258】
6-2-2. 実施例2-2 他のPin1阻害剤の製造
実施例3で使用した他のアントラニル酸系化合物は、国際公開第2019/031472号公報に記載された製造方法及び公知の方法を利用して合成した。また、実施例3で使用したアミド系化合物は、国際公開第2019/031470号公報に記載された製造方法及び公知の方法を利用して合成した。また、実施例3で使用したカルボン酸誘導体系化合物は、国際公開第2019/031471号公報に記載された製造方法及び公知の方法を利用して合成した。
【0259】
6-3-1. 実施例3-1 Pin1阻害剤によるSARS-CoV-2増殖の抑制
本実施例では、Pin1阻害剤であるH-77によるSARS-CoV-2増殖の抑制効果を確認した。まず、VeroE6/TMPRSS2細胞に実施例2-1で製造したH-77を終濃度10μMで添加し、2時間後にSARS-CoV-2を10の感染多重度(MOI)で感染させ、感染8時間後に細胞溶解物(cell lysate)を回収し、Western blottingにて細胞内SARS-CoV-2ヌクレオカプシド、Pin1及び内部標準タンパク質としてアクチンを検出した。
図2(A)は、Western blottingの結果である。
【0260】
また、VeroE6/TMPRSS2細胞にH-77の終濃度を0,2,5,7.5,10μMとなるように添加し、2時間後にSARS-CoV-2を0.01の感染多重度(MOI)で感染させ、感染24時間後に培養上清を回収し、上清中のSARS-CoV-2 RNA量をreal-time PCRにより定量した。
図2(B)は、定量結果であり、H-77を5μM以上添加することにより、SARS-CoV-2の増殖を抑制することができ、特に7.5μM以上添加することにより、SARS-CoV-2の増殖をほぼ抑えることができた。
【0261】
図3(A)及び(B)は、SARS-CoV-2感染細胞の状態を撮影したものであり、
図3(A)は、VeroE6/TMPRSS2細胞にH-77を終濃度10μMで添加し、2時間後にSARS-CoV-2を0.01~0.02の感染多重度(MOI)で感染させ、感染から20時間後の細胞の状態を撮影したものであり、
図3(B)は対照としてH-77ではなくDMSOを添加し、同様に感染させた細胞の状態を撮影したものである。
【0262】
6-3-2. 実施例3-2~3-108
表2は、様々なPin1阻害剤について、SARS-CoV-2増殖の抑制効果の確認試験の結果である。確認試験は、Pin1阻害剤を終濃度20μMでVeroE6/TMPRSS2細胞に添加し、2時間後にSARS-CoV-2を10の感染多重度(MOI)で感染させ、感染8時間後に細胞溶解物(cell lysate)を回収し、Western blottingにて細胞内SARS-CoV-2ヌクレオカプシド、Pin1及び内部標準タンパク質としてアクチンを検出した。同一系で実験したPin1阻害剤を添加しなかった場合のバンド面積を阻害率0%として、Pin1阻害剤を添加した時のバンド面積の比で阻害率を算出した。バンド面積が0の場合(バンドが観察されなかった場合)は阻害率100%となる。表2において、クラスは、Pin1阻害剤の系統であり、実施例3-2~3-16は、アントラニル酸系化合物(前記式(I-I))のPin1阻害剤であり、実施例3-17~3-23は、アミド系化合物(前記式(II-I))のPin1阻害剤であり、且つ、カルボン酸誘導体系化合物(前記式(III-I))のPin1阻害剤でもある。実施例3-24~3-56は、カルボン酸誘導体系化合物(前記式(III-I))のPin1阻害剤である。実施例3-57~3-75は、3,5-ジアミノ安息香酸系化合物(前記式(IV-I))のPin1阻害剤である。実施例3-76~108は、これらの式に含まれないPin1阻害剤である。
【0263】
【0264】
さらに、表2において阻害率が高いPin1阻害剤について、添加量を5μMと10μMとしたときのSARS-CoV-2増殖の抑制効果を確認した。1×10
5細胞/ウェルのVeroE6/TMPRSS2細胞に、終濃度が5又は10μMとなるようにPin1阻害剤を添加し、2時間後にSARS-CoV-2を10の感染多重度(MOI)で感染させ、感染8時間後に細胞溶解物(cell lysate)を回収し、Western blottingにて細胞内SARS-CoV-2ヌクレオカプシド及び内部標準タンパク質としてアクチンを検出した。
図4は、式(I-I)のPin1阻害剤(H-77(実施例3-2)、H-362(実施例3-5)、H-363(実施例3-6)、H-370(実施例3-7)、H-371(実施例3-8)、H-537(実施例3-11)、H-787(実施例3-12)、H-835(実施例3-14))を添加した結果である。
図5は、式(II-I)のPin1阻害剤(H-509(実施例3-20)、H-853(実施例3-22))を添加した結果である。
図6は、式(III-I)のPin1阻害剤(H-33(実施例3-25)、H-130(実施例3-29)、H-175(実施例3-35)、H-614(実施例3-53))を添加した結果である。
図7は、式(IV-I)のPin1阻害剤(H-596(実施例3-54)、H-688(実施例3-58)、H-859(実施例3-66)、H-870(実施例3-67))を添加した結果である。
図4~
図7から、H-77、H-537及びH-688が5μMの添加量でも阻害率が高く、低濃度の投与で治療及び予防できる効果が期待できる。
【0265】
6-4. 実施例4
本実施例では、Pin1阻害活性を有することが知られている前骨髄性白血病の治療薬ATRAによるSARS-CoV-2増殖の抑制効果を確認した。VeroE6/TMPRSS2細胞にATRAを終濃度0,0.5,1,5,10,20,30μMとなるように添加し、2時間後にSARS-CoV-2を0.01の感染多重度(MOI)で感染させ、24時間後に細胞溶解物(cell lysate)を回収し、Western blottingにて細胞内SARS-CoV-2ヌクレオカプシド、Pin1及び内部標準タンパク質としてアクチンを検出した。細胞内SARS-CoV-2ヌクレオカプシドの発現量によりSARS-CoV-2増殖を評価した。
図8(A)は、Western blottingの結果である。また、
図8(B)は、上記実験における感染24時間後の培養上清中のSARS-CoV-2 RNA量をreal-time PCRにて評価した結果である。
図8から、ATRAを5μM以上添加することにより、SARS-CoV-2の増殖を抑制することができ、特に10μM以上添加することにより、SARS-CoV-2の増殖をほぼ抑えることができた。
【0266】
6-5. 実施例5
本実施例では、SARS-CoV-2に感染した後でも、Pin1阻害剤であるH-77の添加により抑制効果があることを確認した。VeroE6/TMPRSS2細胞にSARS-CoV-2を0.01~0.02の感染多重度(MOI)で感染させ、1.感染2時間前、2.感染と同時、3.感染2時間後、4.感染6時間後にH-77の終濃度を10μMとなるように添加し、又は、5.添加なしとして、感染24時間後に細胞溶解物(cell lysate)を回収し、Western blottingにて細胞内SARS-CoV-2ヌクレオカプシド及び内部標準タンパク質としてアクチンを検出した。細胞内SARS-CoV-2ヌクレオカプシドの発現量によりSARS-CoV-2増殖を評価した。
図9(A)は、Western blottingの結果である。また、
図9(B)は、上記実験における感染24時間後の培養上清中のSARS-CoV-2 RNA量をreal-time PCRにて評価した結果である。
図9から、SARS-CoV-2感染前にH-77を添加した場合(1)も、感染と同時に添加した場合(2)も、感染後に添加した場合(3、4)もSARS-CoV-2の増殖を抑制することができたことが確認された。つまり、本発明の化合物は、予防剤としても、治療剤としても機能することが確認された。ただし、6時間後に添加した場合はSARS-CoV-2が僅かに検出されたことから、感染後、できるだけ早期に投与することが好ましい。
【0267】
6-6. 実施例6 スクリーニング方法
本実施例では、無細胞アッセイを使用したPin1阻害剤のライブラリ取得ステップと、細胞ベースのアッセイを使用したSARS-CoV-2ウィルスの増殖を阻害する能力を測定するステップとを含むスクリーニング方法によって、SARS-CoV-2を原因とするコロナウィルス感染症の治療剤又は予防剤を同定した。まず、基質ペプチドに含まれるリン酸化セリン/スレオニン-プロリンのモチーフのシスからトランスへの変換を測定する無細胞アッセイを使用して、Pin1の機能を阻害する活性を測定してPin1阻害剤のライブラリを取得した(Bernhard Janowski外3名著、Analytical Biochemistry、1997年10月15日、Vol.252(2)、p.299-307参照)。基質ペプチドとして、Succ-AEPF-pNA(スクシニル-アラニン-グルタミン酸-プロリン-フェニルアラニン-p-ニトロアニリド)を使用し、基質をLiCl/トリフルオロエタノール中で約60%のシスコンフォメーションに保持し、Pin1酵素のみ又はPin1酵素と2μM又は20μMの被験化合物とを添加し、Pin1のシス/トランスイソメラーゼ活性の動態をUV/Vis分光光度計を使用して1000秒間測定した。データを一次反応速度式に当てはめることによって反応の酵素速度定数を決定し、被験化合物のPin1の機能を阻害する活性を測定した。被験化合物は、例えば、式(I-I)、(II-I)、(III-I)、 (IV-I) 又は表1で表される化学構造を有する化合物又はその塩を用いることができる。測定した結果、Pin1の機能を阻害する割合(1-被験化合物の酵素速度定数/Pin1酵素のみの酵素速度定数)が、所定の数値以上、例えば、Pin1酵素のみの場合の10%以上、好ましくは50%以上の化合物を集めてPin1阻害剤ライブラリを生成した。次に、上記測定の結果Pin1阻害剤として同定された化合物を、ウィルス成分の増加を測定する細胞ベースのアッセイを使用して、SARS-CoV-2ウィルスの増殖を阻害する能力について測定した。例えば、実施例3-1に記載の方法によって、SARS-CoV-2増殖の抑制効果を確認した。その結果、SARS-CoV-2増殖の抑制効果が認められた被験化合物をSARS-CoV-2を原因とするコロナウィルス感染症の治療剤又は予防剤として同定する。このような無細胞アッセイを使用したPin1阻害剤のライブラリ取得ステップと、細胞ベースのアッセイを使用したSARS-CoV-2ウィルスの増殖を阻害する能力を測定するステップとを含むスクリーニング方法によって、テスト化合物の群、例えば、式(I-I)、(II-I)、(III-I)、 (IV-I) 又は表1で表される化学構造を有する化合物又はその塩からSARS-CoV-2を原因とするコロナウィルス感染症の治療剤又は予防剤を同定することができる。