(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022080096
(43)【公開日】2022-05-27
(54)【発明の名称】表面処理剤、無機フィラー組成物及び樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C09C 3/10 20060101AFI20220520BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20220520BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20220520BHJP
C01B 21/064 20060101ALI20220520BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20220520BHJP
【FI】
C09C3/10
C08K9/04
C08L101/00
C01B21/064 Z
C09D17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020191079
(22)【出願日】2020-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】390028897
【氏名又は名称】阪本薬品工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】515157758
【氏名又は名称】公立大学法人 富山県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】特許業務法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】真田 和昭
(72)【発明者】
【氏名】永田 員也
(72)【発明者】
【氏名】谷畑 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】梶田 舜平
【テーマコード(参考)】
4J002
4J037
【Fターム(参考)】
4J002AA031
4J002CD011
4J002CD021
4J002CD051
4J002CD091
4J002CD101
4J002DA026
4J002DA076
4J002DA086
4J002DA096
4J002DA106
4J002DE076
4J002DE086
4J002DE096
4J002DE106
4J002DE116
4J002DE136
4J002DE146
4J002DE236
4J002DF016
4J002DG046
4J002DJ006
4J002DJ016
4J002DJ036
4J002DK006
4J002FB266
4J037AA04
4J037AA08
4J037CC15
4J037CC16
4J037CC22
4J037CC23
4J037CC24
4J037CC25
4J037CC26
4J037CC28
4J037DD05
(57)【要約】
【課題】 従来のカップリング処理等では充分な表面改質効果が得られなかった表面に露出した水酸基の少ない無機フィラーに対して良好な表面改質を図ることができる表面処理剤を提供する。
【解決手段】 (ポリ)オキシエチレン構造及び/又は(ポリ)グリセリン構造を少なくとも一つ有する化合物であり、更に、水酸基、カルボキシル基、チオール基、アミノ基、ビニル基、イソシアネート基、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基及びアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも一の官能基を有することを特徴とする無機フィラーの表面処理剤。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(ポリ)オキシエチレン構造及び/又は(ポリ)グリセリン構造を少なくとも一つ有する化合物であり、更に、水酸基、カルボキシル基、チオール基、アミノ基、ビニル基、イソシアネート基、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基及びアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも一の官能基を有することを特徴とする無機フィラーの表面処理剤。
【請求項2】
エーテル結合に供される酸素原子が化合物の分子量の10%以上含まれる請求項1に記載の表面処理剤。
【請求項3】
水酸基に供される酸素原子が化合物の分子量の30%以上含まれる請求項1又は2に記載の表面処理剤。
【請求項4】
官能基当量が、30~1000g/molである請求項1~3いずれか1項に記載の表面処理剤。
【請求項5】
前記無機フィラーが、非共有電子対を有する原子を構造中に有する無機フィラーである請求項1~4のいずれか1項に記載の表面処理剤。
【請求項6】
無機フィラーを、請求項1~5のいずれか1項に記載の表面処理剤により処理したことを特徴とする無機フィラー組成物。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の表面処理剤、無機フィラー及び/又は無機フィラー組成物を含有することを特徴とする樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理剤、無機フィラー組成物及び樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂組成物の材料特性を向上させる目的で、無機フィラーをゴムやエラストマーや、プラスチックなどの有機樹脂組成物中に混合することが頻繁に行われている。無機フィラーと有機樹脂の熱膨張率や表面自由エネルギーは大きく異なることから、親和性は低く、単純な混合分散では界面における接着不良を生じ易い。そのため、それぞれの良好な物性を引き出すことができず、必要とする物性が得られなくなる。
【0003】
工業的に広く用いられる無機フィラーのほとんどは、フィラー表面に多くの水酸基が存在する。表面の水酸基は、フィラーの凝集および分散不良の原因となる。よって、親水性表面を疎水化して、有機樹脂に対するぬれを改良し、分散性を向上することがしばしば行われている。表面改質の手法としては、カップリング処理が一般的である(例えば、特許文献1)。しかし、カップリング剤は、水素結合や静電相互作用を利用するため、表面に露出した水酸基が少ない無機フィラーに対しては、充分な表面改質効果を図ることができない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来のカップリング処理等では充分な表面改質効果が得られなかった、表面に露出した水酸基の少ない無機フィラーに対して良好な表面改質を図ることができる表面処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
(ポリ)オキシエチレン構造及び/又は(ポリ)グリセリン構造を少なくとも一つ有する化合物であり、更に、水酸基、カルボキシル基、チオール基、アミノ基、ビニル基、イソシアネート基、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基及びアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも一の官能基を有することを特徴とする無機フィラーの表面処理剤である。
【0007】
本発明の表面処理剤は、エーテル結合に供される酸素原子が化合物の分子量の10%以上及び/又は水酸基に供される酸素原子が化合物の分子量の30%以上含まれることが好ましい。また、本発明の表面処理剤は、官能基当量が、30~1000g/molであることが好ましい。
【0008】
上記無機フィラーは、非共有電子対を有する原子を構造中に有する無機フィラーであることが好ましい。
【0009】
本発明は、上記無機フィラーを、上述したいずれかに記載の表面処理剤により処理した無機フィラー組成物でもある。また、本発明は、上述した表面処理剤、無機フィラー及び/又は無機フィラー組成物を含有する樹脂組成物でもある。
【発明の効果】
【0010】
本発明の表面処理剤を使用することで、表面水酸基が少ない無機フィラーと樹脂との親和性を高めることができ、これによって、無機フィラーと樹脂との馴染みがよくなり、優れた性能を有する樹脂組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例24~26と比較例6の硬化物の熱伝導率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の表面処理剤は、(ポリ)オキシエチレン構造及び/又は(ポリ)グリセリン構造を少なくとも一つ有し、更に、水酸基、カルボキシル基、チオール基、アミノ基、ビニル基、イソシアネート基、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基及びアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも1の官能基を有することを特徴とする無機フィラーの表面処理剤である。
【0013】
無機フィラーは、一般的に、表面自由エネルギーが高い状態である。これによって、樹脂とも親和性が低く、フィラーとしての性能を充分に発揮できる樹脂組成物を得ることが困難であった。
本発明者らは、表面エネルギーが高い無機フィラーの表面処理を行うことで、樹脂との親和性を高めることができる化合物を見出した。すなわち、(ポリ)オキシエチレン又は(ポリ)グリセリンの繰り返し構造を少なくとも1以上有する化合物であり、さらに特定の官能基を有する化合物が、上記目的を達成するうえで優れた効果を有することを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、(ポリ)オキシエチレン又は(ポリ)グリセリンの繰り返し構造が、無機フィラーとの親和性が高い化学構造であることを見出すことにより、本発明を完成したものである。更に、上記化学構造に加えて、上述した官能基を有する構造とすることによって、官能基が樹脂と優れた親和性を有するものとなり、無機フィラーの表面処理剤として優れた性能を有するものとなる。
【0015】
本発明の表面処理剤は、(ポリ)オキシエチレン構造及び/又は(ポリ)グリセリン構造を基本構成とする骨格を有するものである。すなわち、このような基本骨格を有する化合物が無機フィラーへの吸着性能に優れることを見出すことによって、本発明を完成したものである。
【0016】
なお、本明細書において、(ポリ)オキシエチレンは、オキシエチレン及び/又はポリオキシエチレンを指し、(ポリ)グリセリンは、グリセリン及び/又はポリグリセリンを指す。
【0017】
本発明の表面処理剤は、上記構造を有する分子であれば特に限定されるものではないが、分子中にオキシエチレン単位及びグリセリン単位を、合計で1~250個有するものであることが好ましい。また、(ポリ)オキシエチレン単位及び/又は(ポリ)グリセリン単位のみからなる構造であっても差し支えない。
【0018】
本発明の表面処理剤は、水酸基、カルボキシル基、チオール基、アミノ基、ビニル基、イソシアネート基、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基及びアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも1の官能基を有する化合物である。これらの反応性を有する官能基を有することで、表面処理剤と樹脂との親和性が高くなり、表面処理剤としての優れた効果を奏するものとなる。
【0019】
本発明の表面処理剤は、上述した官能基を有することで、樹脂表面との高い親和性を有することとなる。上述した(ポリ)オキシエチレン及び/又は(ポリ)グリセリンの基本骨格に対して、このような官能基を付与することで、上述した効果を好適に得ることができる。
【0020】
本発明の表面処理剤は、上述した官能基を有するものであれば特に限定されず、その化学構造は任意の構造とすることができる。更に、上述した官能基の2以上を有する化合物であってもよい。
【0021】
本発明の表面処理剤は、官能基当量が、30~1000g/molであることが好ましい。このような官能基当量を有することで、表面処理された無機フィラーの樹脂組成物への配合が容易となり、上述した本発明の効果を好適に得ることができる。
【0022】
上記官能基を有する化合物の製造は特に限定されるものではない。以下にその一例を詳述する。なお、以下に記載する製造方法は、本発明の表面処理剤の製造方法の一例を示すものであり、当該製造方法によって得られたものに限定されるわけではない。
【0023】
本発明の表面処理剤として使用することができる化合物の一例として、(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)グリセリン、(ポリ)エチレングリコール及び(ポリ)グリセリンの共重合体等を挙げることができる。このような化合物は、上述した官能基として水酸基を有するものとなる。このような化合物としては特に限定されず、市販の一般的なもの、公知の種々の構造を有する化合物を使用することができる。
【0024】
上記(ポリ)エチレングリコールは、繰り返し単位が1~200の範囲内であることが好ましい。上記(ポリ)グリセリンは、繰り返し単位が1~50の範囲内であることが好ましい。ポリグリセリンは、直鎖状であってもよいし、分岐構造を有するものであってもよい。(ポリ)エチレングリコール及び(ポリ)グリセリンの共重合体は、(ポリ)グリセリンの水酸基に対してエチレンオキサイドを付加した化合物である。具体例としては、ポリオキシエチレン(20)グリセリルエーテル、ポリオキシエチレン(40)グリセリルエーテル、ポリオキシエチレン(60)グリセリルエーテル、ポリオキシエチレン(20)ジグリセリルエーテル、ポリオキシエチレン(30)ジグリセリルエーテル、ポリオキシエチレン(40)ジグリセリルエーテル、ポリオキシエチレン(60)ジグリセリルエーテル、ポリオキシエチレン(80)ジグリセリルエーテル、ポリオキシエチレン(100)ジグリセリルエーテル、ポリオキシエチレン(120)ジグリセリルエーテル、ポリオキシエチレン(20)トリグリセリルエーテル、ポリオキシエチレン(60)トリグリセリルエーテル、ポリオキシエチレン(120)トリグリセリルエーテル、ポリオキシエチレン(40)テトラグリセリルエーテル、ポリオキシエチレン(60)テトラグリセリルエーテル、ポリオキシエチレン(120)テトラグリセリルエーテル、ポリオキシエチレン(20)ヘキサグリセリルエーテル、ポリオキシエチレン(60)ヘキサグリセリルエーテル、ポリオキシエチレン(120)ヘキサグリセリルエーテル、ポリオキシエチレン(60)デカグリセリルエーテル、ポリオキシエチレン(120)デカグリセリルエーテルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらは単独で用いても2種以上を併用しても良い。
【0025】
本発明において、水酸基を有する表面処理剤は、(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)グリセリン、(ポリ)エチレングリコール及び(ポリ)グリセリンの共重合体以外の構成単位を一部に有するものであっても差し支えない。
【0026】
((ポリ)エチレングリコール、(ポリ)グリセリン、(ポリ)エチレングリコール及び(ポリ)グリセリンの共重合体を変性した化合物)
上述したように、本発明の表面処理剤は、水酸基、チオール基、アミノ基、ビニル基、イソシアネート基、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基及びアルコキシシリル基からなる群より選ばれる官能基を有する化合物である。
このような化合物としては、上述した(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)グリセリン、(ポリ)エチレングリコール及び(ポリ)グリセリンの共重合体を変性することによって、所定の官能基を有するものとした化合物であってもよい。
【0027】
このような化合物としては、その化学構造を特に限定されるものではなく、(ポリ)オキシエチレン構造及び/又は(ポリ)グリセリン構造を少なくとも一つ有し、かつ、上述した官能基を有する化合物であれば特に限定されるものではない。このような化合物としては、公知の市販された化合物を使用することもできるし、合成された新規な化合物であってもよい。
【0028】
このような化合物としては、(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)グリセリン、(ポリ)エチレングリコール及び(ポリ)グリセリンの共重合体の水酸基に対する反応を行うことで、得られたものを挙げることができる。更に、(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)グリセリン、(ポリ)エチレングリコール及び(ポリ)グリセリンの共重合体に対して、上記官能基を有する化合物とする反応を行い、このようにして得られた化合物に対して更に、上記官能基を導入する反応を行うことで得られたものであってもよい。
【0029】
より具体的には、例えば、(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)グリセリン、(ポリ)エチレングリコール及び(ポリ)グリセリンの共重合体の水酸基に対して、エピクロロヒドリン等のエピハロヒドリンを反応させることによってグリシジル化した化合物;(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)グリセリン、(ポリ)エチレングリコール及び(ポリ)グリセリンの共重合体の水酸基に対して、(メタ)アクリル酸又はその誘導体(例えば、酸無水物、酸ハロゲン化合物等)を反応することで(メタ)アクリロイル化した化合物;(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)グリセリン、(ポリ)エチレングリコール及び(ポリ)グリセリンの共重合体の水酸基に対して、アルコキシシラン化合物を反応することで、アルコキシシリル化した化合物等を挙げることができる。
【0030】
上述した反応は、周知の一般的な方法で行うことができ、市販の化合物を使用することもできる。
【0031】
本発明の表面処理剤は、エーテル結合に供される酸素原子が化合物の分子量の10%以上含まれることが好ましい。さらに、エーテル結合に供される酸素原子が化合物の分子量の30%以上含まれることがより好ましい。本発明の表面処理剤は、(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)グリセリン、(ポリ)エチレングリコール及び(ポリ)グリセリンの共重合体が有するエーテル結合が上述した効果の発現において重要であると推測される。このため、上記範囲でエーテル結合が存在することで、より好適に効果を得ることができる点で好ましい。
【0032】
本発明の表面処理剤が水酸基を有する場合、水酸基に供される酸素原子が化合物の分子量の30%以上含まれることが好ましい。水酸基もまた、上述した効果の発現において重要であると推測されるためである。
【0033】
本発明の表面処理剤は、上述の官能基当量が30~1000g/molであることが好ましい。当該範囲内であることによって、表面処理無機フィラーの樹脂組成物への配合が容易になる点で好ましい。なお、官能基当量は、上述した水酸基、カルボキシル基、チオール基、アミノ基、ビニル基、イソシアネート基、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基、及びアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも一の官能基の当量の合計を意味する。各官能基の量を公知の方法によって算出することによって得ることができる。
【0034】
本発明の表面処理剤は、平均分子量が10,000以下であることが好ましい。分子量が大きすぎると、固体状となりやすく、無機フィラーの表面に溶剤の使用や加温などの工程を加える必要がある場合がある。なお、平均分子量は、NMR、GC、GPCなどの化学分析手段によって存在する成分の化学構造を明らかとすることで測定した値である。
【0035】
本発明の表面処理剤は、エーテル結合に供される酸素原子が分子全体の酸素原子のうち30%以上含まれることが好ましい。表面処理剤のエーテル結合の含有率が多いことで、無機フィラーと樹脂の親和性を高めることができる。
【0036】
本発明の表面処理剤は、粘度が10~10,000mPa・sであることが好ましく、100~2,000mPa・sであることがより好ましい。当該範囲より粘度が低い場合、無機フィラーと表面処理剤が分離し、表面処理の効果が得られない傾向にある。粘度が高すぎると、無機フィラーを均一に表面処理することが困難になる傾向にある。また、当該範囲より粘度が高い場合、溶剤を併用し、適切な粘度まで低下させたものを使用してもよい。
【0037】
本発明の表面処理剤は、無機フィラーを添加しながら混合を繰り返し、均一なまとまりのある組成物の形状を維持できる最大の無機フィラー量を本発明の表面処理剤の性能の指標とすることができる。本発明の表面処理剤は、このような最大無機フィラー添加量が、無機フィラー組成物全量に対して、30体積%以上となるような化合物であることが好ましい。このような化合物であると、樹脂組成物への無機フィラーの配合量を高めることができ、高い熱伝導性能を有する樹脂組成物を得ることができるものである。
【0038】
本発明の表面処理剤は、無機フィラーの表面処理剤として使用するものであってもよいし、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂などの熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂、並びに、無機フィラーを含有する樹脂組成物の成分として使用するものであってもよい。樹脂組成物に使用する場合、表面処理剤と無機フィラーとを混合し、無機フィラー組成物とした後で、樹脂と混合するものであってもよいし、表面処理剤と樹脂を混合した後で、無機フィラーを混合してもよいし、表面処理剤、樹脂、並びに、無機フィラーを同時に混合するものであってもよい。
【0039】
本発明の表面処理剤は、このような樹脂組成物中の成分として使用することで、樹脂組成物とした際に、樹脂中に多量のフィラーを混合した場合でも、均一なまとまりのある組成物とすることができ、これによって、高い熱伝導性能、高絶縁性を得ることができるものである。
【0040】
無機フィラーを含有する樹脂組成物の場合、硬化剤及び硬化促進剤、溶剤を併用することが好ましい。硬化剤、硬化促進剤、溶剤としては特に限定されず、公知の任意のものを使用することができる。
【0041】
本発明の樹脂組成物の製造方法は特に限定されるものではなく、公知の任意の方法によることができる。具体的には、容器回転型のVブレンダー、ダブルコーン型ブレンダー、混合羽根を有するリボンブレンダー、スクリュー型ブレンダーなどの一般的な粉体混合装置、ロール、ニーダー、バンバリーミキサー、プラネタリーミキサーなどの一般的な混練装置、真空脱泡撹拌機などを使用することができる。
【0042】
本発明において使用することができる無機フィラーとしては特に限定されず、例えば、銀、銅、鉛、ニッケル、アルミニウム、タングステンなどの金属フィラー、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化セリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化スズ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウムなどの酸化物フィラー、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの窒化物フィラー、および水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、フェライト、ゼオライト、モンモリロナイト、黒鉛などの無機フィラーを挙げることができる。これらのうち1種類を用いてもよいし、2種以上を併用するものであってもよい。
【0043】
上記無機フィラーは、非共有電子対を有する原子を構造中に有する無機フィラーであることが好ましい。非共有電子対を有する原子を構造中に有する無機フィラーとしては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化セリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化スズ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウムなどの酸化物フィラー、窒化ホウ素及び窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの窒化物フィラー、および水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム等を挙げることができる。
【0044】
発明の表面処理剤は、表面水酸基の少ない無機フィラーを樹脂中に分散させるという点において、特に優れた効果を有するものである。このため、上記無機フィラーの中でも、従来、樹脂中への分散が特に困難であるとされていた窒化物フィラーにおいて従来にない優れた効果を発揮するものである。
【0045】
上記無機フィラーの中でも、特に、窒化ホウ素、窒化アルミニウムは、熱伝導性が高いことで知られる化合物であり、放熱材料において使用することができるものである。また、これらは、樹脂との親和性を得ることが困難とされてきた化合物である。
【0046】
上記無機フィラーは、粉状であることが好ましく、その粒子径は特に限定されるものではないが、0.1μmから200μmであることが好ましい。なお、上記粒子径は、レーザー回
折散乱法や光子相関法など、公知の方法により測定された値である。
【0047】
本発明の樹脂としては、特に限定されず、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂を目的に応じて選択することができるが、熱硬化性樹脂が好ましい。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアネート樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などが挙げられ、単独または二種以上を混合して使用することができる。特に、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂が好ましい。
­­­
【0048】
上記エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールA-アルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールF-アルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールA型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ε-カプロラクトン変性 3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル等を使用することができる。
【0049】
このようなエポキシ樹脂と併用して使用する場合、上記表面処理剤は、エポキシ基と反応する上述した官能基を有するものであることが好ましい。具体的には、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル、ポリオキシエチレンポリグリセリルエーテルポリグリシジルエーテル等であることが好ましい。
【0050】
上記シリコーン樹脂としては、非反応性シリコーン樹脂、硬化性シリコーン樹脂が挙げられる。硬化性シリコーン樹脂としては、付加反応型、縮合反応型、有機過酸化物型などがある。付加反応型液状シリコーン樹脂として、アルケニル基を有するオルガノシロキサンと架橋剤であるSi-H基を有するオルガノシロキサンと硬化剤の存在下で反応させることによりシリコーン樹脂が得られる。ポリオルガノシロキサンとしては、ビニル基、アリル基、プロぺニル基、ヘキセニル基などを有するものがある。硬化剤としては、白金金属系の触媒やヒドロキシシリル基を有するポリオルガノシロキサンを使用することができる。
【0051】
このようなシリコーン樹脂と併用して使用する場合、上記表面処理剤は、ビニル基やシラノール基と反応する上述した官能基を有するものであることが好ましい。具体的には、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアルコキシシラン、グリセリンポリアクリレート、グリセリンポリメタクリレート、グリセリンポリアルコキシシラン、ポリグリセリンポリアクリレート、ポリグリセリンポリメタクリレート、ポリグリセリンポリアルコキシシラン、ポリオキシエチレンポリグリセリルエーテルポリアクリレート、ポリオキシエチレンポリグリセリルエーテルポリメタクリレート、ポリオキシエチレンポリグリセリルエーテルポリアルコキシシラン等であることが好ましい。
【0052】
上記表面処理剤は、樹脂組成物中の樹脂全量に対して、30重量%以下の割合で含まれることが好ましい。上記割合とすることで、良好な樹脂組成物を得ることができる。
【0053】
上記無機フィラーは、樹脂組成物中の樹脂全量に対して、1体積%~80体積%の割合で含まれることが好ましい。
【実施例0054】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。実施例中における、部、%との記載は、重量部、重量%を意味する。
(実施例1~20、及び比較例1~5)
表1,2に記載した各表面処理剤及び無機フィラーの組み合わせに対して、無機フィラー1体積%、表面処理剤99体積%の割合で各成分を混合し、無機フィラー含有スラリーを得た。混合の際には、自転公転ミキサー(THINKY製、ARV-310)を使用し、2000rpm、30kPaの条件で5分間撹拌した。更に、得られたスラリーの粒子沈降速度をタービスキャン(Formulaction製、MA2000)にて測定した。得られた結果を表1,2に示した。粒子沈降速度は0.50mm/h以下であることが好ましく、0.25mm/h以下であることがより好ましい。
【0055】
(最大充填量)
表面改質剤に対して、均一なまとまりのある無機フィラー組成物の形態を維持できる、最大の無機フィラー充填量を測定した。表面処理剤に対し無機フィラーを一定量ずつ加え、混合を行った後、組成物を目視にて確認し、均一な組成物でなくなった添加量を最大の無機フィラー充填量とした。結果を表1,2に示す。充填可能なフィラー量は無機フィラー組成物全量に対して、30体積%以上であることが好ましい。
【0056】
【0057】
【0058】
表1,2の結果から、本発明の表面処理剤は、優れた無機フィラーの分散効果を有することが明らかである。
【0059】
(実施例21)
エポキシ樹脂として、三菱化学製、JER-828を90重量部、表3に示した表面処理剤を10重量部、硬化剤として日立化学製、HN-2200Rを80重量部、硬化助剤として三菱化学製、IBMI12を2重量部混合し、エポキシ樹脂組成物を得た。
上記エポキシ樹脂組成物に、樹脂組成物全量に対して30体積%の割合となるように窒化ホウ素粉体を配合し、混合して樹脂組成物を得た。
硬化物の作成はホットプレス機(アズワン製、AH-IT)を用い、60℃で5分間加熱後、3分間プレスを行った。得られた樹脂成形物を、電気炉にて100℃で2時間加熱した後、さらに150℃にて4時間加熱し、硬化物を作成した。得られた硬化物を以下の測定方法に基づいて熱伝導率を測定した。結果を表3に示す。
【0060】
(熱伝導率の測定方法)
熱伝導率の測定は定常法を用いて実施した。英弘精機製HC-110を用い、硬化物を二枚のプレートで挟み、一定の圧力を加え、熱流束が一定となるまで保持することで熱伝導率を測定した。
【0061】
(実施例22,23、比較例6)
エポキシ樹脂と表面処理剤との配合量を表3に示したものとした以外は、実施例21と同様に硬化物を作成し、熱伝導率を測定した。結果を表3に示す。
【0062】
【0063】
表3から、本発明の表面処理剤を使用することで、熱伝導率が改善されることが明らかである。
【0064】
(実施例24~26)
樹脂/表4に示した各表面処理剤=80:20(重量比)で混合し、硬化剤を44重量%、硬化促進剤を1重量%の割合で添加した組成物を使用した。ここに、無機フィラーとして、窒化ホウ素粉体を無機フィラー/樹脂組成物の全量(体積比)=30/100となるように混合して、樹脂組成物を得た。
得られた樹脂組成物について実施例21と同様の方法で硬化物を作成し、熱伝導率を測定した。結果を表4に示す。
【0065】
【0066】
これらの結果を
図1にも示した。表4及び
図1から、本発明の各表面処理剤を使用することで、熱伝導率が改善されることが明らかである。