(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022080199
(43)【公開日】2022-05-27
(54)【発明の名称】調光シート、および、調光シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1333 20060101AFI20220520BHJP
G02F 1/1343 20060101ALI20220520BHJP
【FI】
G02F1/1333
G02F1/1343
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020191231
(22)【出願日】2020-11-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】安原 寿二
【テーマコード(参考)】
2H092
2H189
【Fターム(参考)】
2H092GA03
2H092GA13
2H092GA17
2H092MA12
2H092NA25
2H092QA15
2H189AA04
2H189AA16
2H189DA72
2H189FA81
2H189HA16
2H189LA02
(57)【要約】
【課題】意匠性を高めることのできる調光シート、および、調光シートの製造方法を提供する。
【解決手段】調光シートにおいて、第1透明電極層41Aは、第1電極要素である駆動電極要素30と第2電極要素である浮遊電極要素31とを含む。駆動電極要素30と浮遊電極要素31とは、第1透明支持層42Aの支持面46Sに沿って並ぶ別々の層状体であり、かつ、支持面46Sに沿った方向に延びる溝32によって相互に電気的に絶縁されている。溝32は、第1透明支持層42Aと第1透明電極層41Aとを深さ方向に貫通し、かつ、第1透明支持層42Aの被保護面46Pに開口部33を有する。開口部33は、被覆層45で覆われている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1透明電極層と、
第2透明電極層と、
前記第1透明電極層と前記第2透明電極層との間に位置する調光層と、
前記第1透明電極層に対して前記調光層とは反対側に位置する第1透明支持層であって、前記第1透明電極層を支持する支持面と、前記支持面とは反対側の面である被保護面とを有した前記第1透明支持層と、
前記第1透明支持層に対して前記第1透明電極層とは反対側に位置する被覆層と、
を備え、
前記第1透明電極層は、第1電極要素と第2電極要素とを含み、
前記第1電極要素と前記第2電極要素とは、前記支持面に沿って並ぶ別々の層状体であり、かつ、前記支持面に沿った方向に延びる溝によって相互に電気的に絶縁され、
前記第1透明電極層の厚さ方向が前記溝の深さ方向であって、前記溝は、前記第1透明支持層と前記第1透明電極層とを前記深さ方向に貫通し、かつ、前記被保護面に開口部を有し、
前記開口部は、前記被覆層で覆われている
調光シート。
【請求項2】
前記溝内は、前記被覆層から連続して延びる充填部によって埋められている
請求項1に記載の調光シート。
【請求項3】
前記被覆層は、前記被保護面に接する絶縁性を有した粘着層と、前記粘着層に対して前記第1透明支持層とは反対側で前記粘着層に接する保護層とを含み、
前記溝内は、前記粘着層から連続して延びる粘着部によって埋められている
請求項1に記載の調光シート。
【請求項4】
前記被覆層に含まれる層の屈折率は、1.4以上1.6以下である
請求項1~3のいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項5】
前記被覆層は、紫外線吸収性を有する層を含む
請求項1~4のいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項6】
前記被覆層は、前記第1透明支持層よりも光透過率の低い層を含む
請求項1~5のいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項7】
前記深さ方向において、前記溝は前記調光層の内部まで延びている
請求項1~6のいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項8】
前記深さ方向において、前記溝は前記調光層および前記第2透明電極層を貫通している
請求項1~7のいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項9】
前記被覆層と対向する位置から見て、前記溝は前記第2電極要素を囲む閉じた枠線状を有する
請求項1~8のいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項10】
前記調光シートを駆動するための電圧信号が印加される端子部を備え、
前記第1電極要素と前記第2電極要素とのうち、前記第1電極要素のみが前記端子部に接続されている
請求項1~9のいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項11】
前記調光シートを駆動するための電圧信号ごとの端子部を備え、
前記第1電極要素と前記第2電極要素とは、互いに異なる端子部に接続されている
請求項1~9のいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項12】
第1透明電極層と、第2透明電極層と、前記第1透明電極層と前記第2透明電極層との間に位置する調光層と、前記第1透明電極層に対して前記調光層とは反対側に位置する第1透明支持層であって前記第1透明電極層を支持する支持面を備えた前記第1透明支持層と、を備える積層体を形成することと、
前記調光層に対して前記第1透明支持層の位置する側から、前記積層体に切り込みを入れることにより、前記支持面に沿った方向に延び、かつ、前記第1透明支持層と前記第1透明電極層とを貫通する溝を形成することで、前記第1透明電極層内に、前記溝によって分離された第1電極要素と第2電極要素とを形成することと、
前記積層体に、前記溝の開口部を覆う被覆層を積層することと、
を含む調光シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過率の可変な調光シート、および、調光シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
調光シートは、液晶組成物を含む調光層と、調光層を挟む一対の透明電極層とを備えている。一対の透明電極層間には、駆動電圧が印加される。透明電極層間の電位差に応じて液晶分子の配向状態が変わることにより、調光シートの光透過率が変わる。例えば、液晶分子の長軸方向が調光層の厚さ方向に沿う状態であるとき、調光シートは無色透明であり、調光シートの光透過率は高い。また、液晶分子の長軸方向が調光層の厚さ方向と交差する状態であるとき、調光層内で光が散乱し、調光シートの光透過率は低い(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
調光シートは、例えば、建物の窓ガラスやパーティション等の建材や、車両の窓ガラス等に貼り付けられて、空間を仕切る部材の一部として利用される。近年では、調光シートの付加価値を高めるため、調光シートの意匠性が着目されている。調光シートにおける意匠性の向上は、調光シートの適用範囲を大きく拡張させ得ると共に、調光される空間に新たな需要を創出し得る。このため、意匠性を高めた調光シートの開発が期待されている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための調光シートは、第1透明電極層と、第2透明電極層と、前記第1透明電極層と前記第2透明電極層との間に位置する調光層と、前記第1透明電極層に対して前記調光層とは反対側に位置する第1透明支持層であって、前記第1透明電極層を支持する支持面と、前記支持面とは反対側の面である被保護面とを有した前記第1透明支持層と、前記第1透明支持層に対して前記第1透明電極層とは反対側に位置する被覆層と、を備える。前記第1透明電極層は、第1電極要素と第2電極要素とを含み、前記第1電極要素と前記第2電極要素とは、前記支持面に沿って並ぶ別々の層状体であり、かつ、前記支持面に沿った方向に延びる溝によって相互に電気的に絶縁され、前記第1透明電極層の厚さ方向が前記溝の深さ方向であって、前記溝は、前記第1透明支持層と前記第1透明電極層とを前記深さ方向に貫通し、かつ、前記被保護面に開口部を有し、前記開口部は、前記被覆層で覆われている。
【0006】
上記構成によれば、第1電極要素と第2電極要素との一方のみに電圧信号を印加する、あるいは、第1電極要素と第2電極要素とに互いに異なる電圧信号を印加することによって、調光シートにおける第1電極要素が位置する領域と第2電極要素が位置する領域との光透過率を変えることができる。したがって、第1電極要素と第2電極要素との両方に電圧信号を印加せず、これらの電極要素の位置する領域の光透過率に差がない状態と、上述のように各電極要素の位置する領域の光透過率に差がある状態との切替が可能となるため、調光シートの意匠性の向上が可能である。
【0007】
そして、第1電極要素と第2電極要素とを互いに絶縁するための溝が、第1透明支持層と第1透明電極層とを貫通して延びる。こうした構造は、各透明電極層および各透明支持層と調光層との積層後に、積層体の外側から第1透明支持層と第1透明電極層とに切り込みを入れることによって形成できるため、第1電極要素と第2電極要素との分離が容易である。また、第1電極要素と第2電極要素との形状の自由度も高くなり、設計変更への対応も容易に可能である。
【0008】
また、溝の開口部が被覆層で覆われているため、溝に導電性物質が入り込んで第1電極要素と第2電極要素とが導通することが抑えられるとともに、調光シートの表面から見て溝が目立つことが抑えられる。
【0009】
上記構成において、前記溝内は、前記被覆層から連続して延びる充填部によって埋められていてもよい。
上記構成によれば、第1電極要素と第2電極要素との絶縁の信頼性が高められる。
【0010】
上記構成において、前記被覆層は、前記被保護面に接する絶縁性を有した粘着層と、前記粘着層に対して前記第1透明支持層とは反対側で前記粘着層に接する保護層とを含み、前記溝内は、前記粘着層から連続して延びる粘着部によって埋められていてもよい。
【0011】
上記構成によれば、第1電極要素と第2電極要素との絶縁の信頼性が高められる。そして、柔軟性や流動性を有する粘着剤によって溝内が埋められるため、溝の充填が容易に可能である。さらに、粘着層に保護層が積層されていることにより、粘着層へのごみ等の付着が抑えられ、また、調光シートの取り扱いが容易になる。
【0012】
上記構成において、前記被覆層に含まれる層の屈折率は、1.4以上1.6以下であってもよい。
上記構成によれば、被覆層の屈折率が空気よりも大きいことから、第1透明支持層と被覆層との屈折率差が小さくなりやすい。そのため、溝が空気中に露出している場合と比較して、溝付近の界面における屈折率差が小さくなり、光の反射や屈折が抑えられるため、溝が目立ちにくくなる。
【0013】
上記構成において、前記被覆層は、紫外線吸収性を有する層を含んでもよい。
上記構成によれば、調光シートに照射された太陽光等が含む紫外線が被覆層で吸収されるため、調光層に紫外線が入射しにくくなる。そのため、液晶組成物の機能の低下を抑えることができる。
【0014】
上記構成において、前記被覆層は、前記第1透明支持層よりも光透過率の低い層を含んでもよい。
上記構成によれば、調光シートの背後の光源の強さに応じて、調光シートの外観が変化する。例えば、調光シートの背後の光源が弱いとき、調光シートを鏡面や有色に見せることができる。したがって、調光シートによる空間の装飾状態をより多様に変化させることができるため、調光シートの意匠性の更なる向上が可能である。
【0015】
上記構成において、前記深さ方向において、前記溝は前記調光層の内部まで延びていてもよい。
上記構成によれば、第1電極要素と第2電極要素との絶縁の確実性が高められる。
【0016】
上記構成において、前記深さ方向において、前記溝は前記調光層および前記第2透明電極層を貫通していてもよい。
上記構成によれば、第1電極要素と第2電極要素とに対応して第2透明電極層も互いに絶縁された複数の部分に分割される。したがって、第1透明電極層と第2透明電極層との間の電位差を、分割された領域ごとに的確に制御することができる。それゆえ、各電極要素の位置する領域の光透過率を的確に制御することができる。
【0017】
上記構成において、前記被覆層と対向する位置から見て、前記溝は前記第2電極要素を囲む閉じた枠線状を有してもよい。
上記構成によれば、第2電極要素の位置する領域が、文字、数字、記号、図形、絵柄等を構成するように第1電極要素と第2電極要素とを絶縁することが容易であり、第2電極要素の配置や形状の自由度も高められる。したがって、調光シートに現れる像の構成についての自由度が高められる。
【0018】
上記構成において、前記調光シートを駆動するための電圧信号が印加される端子部を備え、前記第1電極要素と前記第2電極要素とのうち、前記第1電極要素のみが前記端子部に接続されていてもよい。
【0019】
上記構成によれば、第1電極要素への電圧信号の印加の有無によって、第1電極要素と第2電極要素との位置する領域の光透過率に差がない状態と、各電極要素の位置する領域の光透過率に差がある状態との切替が可能である。したがって、簡易な構成で、調光シートの意匠性の向上が可能である。
【0020】
上記構成において、前記調光シートを駆動するための電圧信号ごとの端子部を備え、前記第1電極要素と前記第2電極要素とは、互いに異なる端子部に接続されていてもよい。
上記構成によれば、第1電極要素と第2電極要素とに対する電圧信号の印加の制御によって、各電極要素の位置する領域の光透過率の差の有無や差の大きさを変化させることが可能である。したがって、調光シートによる空間の装飾状態をより多様に変化させることができるため、調光シートの意匠性の更なる向上が可能である。
【0021】
上記課題を解決するための調光シートの製造方法は、第1透明電極層と、第2透明電極層と、前記第1透明電極層と前記第2透明電極層との間に位置する調光層と、前記第1透明電極層に対して前記調光層とは反対側に位置する第1透明支持層であって前記第1透明電極層を支持する支持面を備えた前記第1透明支持層と、を備える積層体を形成することと、前記調光層に対して前記第1透明支持層の位置する側から、前記積層体に切り込みを入れることにより、前記支持面に沿った方向に延び、かつ、前記第1透明支持層と前記第1透明電極層とを貫通する溝を形成することで、前記第1透明電極層内に、前記溝によって分離された第1電極要素と第2電極要素とを形成することと、前記積層体に、前記溝の開口部を覆う被覆層を積層することと、を含む。
【0022】
上記製法によれば、意匠性の向上された調光シートが製造できる。そして、第1電極要素と第2電極要素とを互いに絶縁するための溝が、各透明電極層および各透明支持層と調光層との積層後に、積層体の外側から第1透明支持層と第1透明電極層とに切り込みを入れることによって形成されるため、第1電極要素と第2電極要素との分離が容易である。また、第1電極要素と第2電極要素との形状の自由度も高くなり、各電極要素の形状の設計変更への対応も容易に可能である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、調光シートの意匠性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】一実施形態における調光シートの平面構造を示す図。
【
図2】
図1のII-II線における断面構造を示す図。
【
図3】
図1のIII-III線における断面構造の一例を示す図。
【
図4】
図1のIII-III線における断面構造の他の例を示す図。
【
図5】
図1のIII-III線における断面構造の他の例を示す図。
【
図6】一実施形態の調光シートの製造方法に含まれる一工程を説明する模式図。
【
図7】一実施形態の調光シートの製造方法に含まれる一工程を説明する模式図。
【
図8】一実施形態の調光シートの製造方法に含まれる一工程を説明する模式図。
【
図9】一実施形態の調光シートの製造方法に含まれる一工程を説明する模式図。
【
図10】一実施形態における非駆動状態の調光シートの平面構造を示す図。
【
図11】変形例における調光シートの断面構造を示す図。
【
図12】変形例における調光シートの平面構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図面を参照して、調光シート、および、調光シートの製造方法の一実施形態を説明する。
[調光シート]
図1が示すように、調光シート10は、第1面11Fと、第1面11Fとは反対側の面である第2面11Rとを有する。第1面11Fと対向する位置から見て、調光シート10は、駆動領域20と、非駆動領域21と、接続領域24とを有する。
【0026】
駆動領域20は、調光シート10の駆動時に電圧信号が印加される電極要素である駆動電極要素30が位置する領域である。駆動電極要素30への電圧信号の印加状態に応じて、駆動領域20の光透過率は変わる。駆動電極要素30は、第1電極要素の一例である。
【0027】
非駆動領域21は、調光シート10の駆動時に電圧信号が印加されない電極要素である浮遊電極要素31が位置する領域である浮遊領域22と、浮遊領域22を囲む境界領域23とを含む。浮遊電極要素31は、第2電極要素の一例である。境界領域23は、駆動領域20と浮遊領域22との間に位置し、浮遊領域22を囲む閉じた枠線状を有する。境界領域23には、電極要素は位置しない。なお、図面においては、理解を容易にするために境界領域23の幅を誇張して示している。非駆動領域21の光透過率は、調光シート10の駆動時と非駆動時とで変化しない。
【0028】
浮遊領域22は、図柄を構成しており、浮遊領域22の顕在化によって調光シート10に図柄を表示させる。図柄は、例えば、文字、数字、記号、図形、絵柄、および、模様の1つまたはそれらの組み合わせである。調光シート10は、互いに離れた複数の浮遊領域22を有していてもよく、すなわち、互いに離れた複数の非駆動領域21を有していてもよい。
【0029】
接続領域24は、駆動領域20に電圧信号を印加するための配線が接続される領域である。接続領域24は、第1接続領域24Aと第2接続領域24Bとを含む。第1接続領域24Aには第1端子部35Aが設けられ、第2接続領域24Bには第2端子部35Bが設けられている。各接続領域24A,24Bは、駆動領域20に隣接し、例えば、調光シート10の端部に位置する。
【0030】
図2は、
図1におけるII-II線に沿った断面図であり、すなわち、駆動領域20および接続領域24での調光シート10の断面構造を示す。
図2が示すように、調光シート10は、調光層40、第1透明電極層41A、第2透明電極層41B、第1透明支持層42A、第2透明支持層42B、および、被覆層45を有する。調光層40は、第1透明電極層41Aと第2透明電極層41Bとに挟まれ、これらの透明電極層41A,41Bに接している。第1透明支持層42Aは、第1透明電極層41Aに対して調光層40と反対側で第1透明電極層41Aを支持し、第2透明支持層42Bは、第2透明電極層41Bに対して調光層40と反対側で第2透明電極層41Bを支持する。
【0031】
上述した駆動電極要素30および浮遊電極要素31は、第1透明電極層41Aに含まれる。第1透明電極層41Aのなかで、駆動領域20に位置する部分は、駆動電極要素30である。また、第1透明支持層42Aが有する2つの面のうち、第1透明電極層41Aに接して第1透明電極層41Aを支持する面が支持面46Sであり、支持面46Sと反対側の面が被保護面46Pである。
【0032】
被覆層45は、第1透明支持層42Aに対して第1透明電極層41Aと反対側に位置する。被覆層45は、粘着層43と保護層44とを含む。粘着層43は、第1透明支持層42Aの被保護面46Pに接している。保護層44は、粘着層43に対して第1透明支持層42Aとは反対側で粘着層43に接している。
【0033】
調光シート10の第1面11Fは、被覆層45が有する面であり、具体的には、保護層44における粘着層43に接する面とは反対側の面である。調光シート10の第2面11Rは、第2透明支持層42Bにおける第2透明電極層41Bに接する面とは反対側の面である。第2面11Rは、粘着層を介して、ガラスや樹脂等からなる透明板に貼り付けられる。透明板は、例えば、住宅、駅、空港等の各種の建物が備える窓ガラス、オフィスに設置されたパーティション、店舗に設置されたショーウインドウ、車両や航空機等の移動体が備える窓ガラスやウインドシールドである。透明板の表面は、平面であってもよいし、曲面であってもよい。
【0034】
第1接続領域24Aには、駆動領域20から第1透明支持層42Aに支持された第1透明電極層41Aが延びており、第1接続領域24Aにて、第1透明電極層41Aは調光層40から露出している。この露出した第1透明電極層41Aに、第1端子部35Aが接続されている。言い換えれば、駆動領域20から第1接続領域24Aへは、駆動電極要素30が延びており、第1接続領域24Aでは、駆動電極要素30に第1端子部35Aが接続されている。
【0035】
第2接続領域24Bには、駆動領域20から第2透明電極層41Bと第2透明支持層42Bとが延びており、第2接続領域24Bにて、第2透明電極層41Bは調光層40から露出している。この露出した第2透明電極層41Bに、第2端子部35Bが接続されている。
【0036】
第1端子部35Aからは第1配線部50Aが延び、第2端子部35Bからは第2配線部50Bが延びている。これらの配線部50A,50Bは、制御部51に接続されている。制御部51は、第1配線部50Aおよび第1端子部35Aを通じて、第1透明電極層41Aの駆動電極要素30に電圧信号を印加し、第2配線部50Bおよび第2端子部35Bを通じて、第2透明電極層41Bに電圧信号を印加する。これにより、制御部51は、駆動領域20における第1透明電極層41Aと第2透明電極層41Bとの間の電位差を制御する。第2透明電極層41Bは、例えば、グランド電位に制御される。調光シート10と制御部51とから、調光装置が構成される。
【0037】
調光層40は、透明高分子層と液晶組成物とを備えている。透明高分子層は、空隙を有しており、当該空隙に液晶組成物が充填されている。液晶組成物は液晶分子を含む。液晶分子としては、公知の材料を用いることができる。液晶分子の一例は、シッフ塩基系、アゾ系、アゾキシ系、ビフェニル系、ターフェニル系、安息香酸エステル系、トラン系、ピリミジン系、シクロヘキサンカルボン酸エステル系、フェニルシクロヘキサン系、ジオキサン系の液晶分子である。
【0038】
調光層40における液晶組成物の保持型式は、高分子ネットワーク型、高分子分散型、および、カプセル型のいずれかである。高分子ネットワーク型の調光層40は、3次元の網目状を有した透明な高分子ネットワークを備え、相互に連通した網目状の空隙のなかに液晶組成物を保持する。高分子ネットワークは、透明高分子層の一例である。高分子分散型の調光層40は、孤立した多数の空隙を透明高分子層のなかに備え、高分子層に分散した空隙のなかに液晶組成物を保持する。カプセル型の調光層40は、カプセル状を有した液晶組成物を透明高分子層のなかに保持する。なお、液晶組成物は、上述した液晶分子以外に、透明高分子層を形成するためのモノマーや二色性色素等を含んでもよい。
【0039】
第1透明電極層41A、および、第2透明電極層41Bの各々は、導電性を有し、可視領域の光に対して透明である。透明電極層41A、41Bの材料には、公知の材料を用いることができる。透明電極層41A、41Bの材料は、例えば、酸化インジウムスズ、フッ素ドープ酸化スズ、酸化スズ、酸化亜鉛、カーボンナノチューブ、ポリ(3,4‐エチレンジオキシチオフェン)等である。
【0040】
第1透明支持層42A、および、第2透明支持層42Bの各々は、可視領域の光に対して透明な基材である。透明支持層42A,42Bの材料には、公知の材料を用いることができる。透明支持層42A,42Bの材料は、合成樹脂、または、無機化合物であってよい。合成樹脂は、例えば、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリオレフィン等である。ポリエステルは、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等である。ポリアクリレートは、例えば、ポリメチルメタクリレート等である。無機化合物は、例えば、二酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、窒化ケイ素等である。
【0041】
粘着層43は、可視領域の光に対して透明な層であり、粘着性および絶縁性を有する樹脂からなる。粘着層43の材料には、公知の材料を用いることができる。例えば、粘着層43は、光学用透明粘着剤(OCA : Optical Clear Adhesive)からなる。
【0042】
保護層44は、可視領域の光に対して透明な層である。保護層44の材料には、公知の材料を用いることができる。保護層44の材料は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリオレフィン、トリアセチルセルロース等の合成樹脂である。保護層44は、反射防止機能を有していてもよい。
【0043】
第1端子部35A、および、第2端子部35Bの各々は、例えば、導電性接着層と、配線基板とを備える。導電性接着層は、例えば、異方性導電フィルム(ACF : Anisotropic Conductive Film)、異方性導電ペースト(ACP : Anisotropic Conductive Paste)、等方性導電フィルム(ICF : Isotropic Conductive Film)、等方性導電ペースト(ICP : Isotropic Conductive Paste)等から形成される。配線基板は、例えば、フレキシブルプリント基板(FPC : Flexible Printed Circuits)である。
あるいは、第1端子部35A、および、第2端子部35Bの各々は、導電性テープ等の導電性材料と導線とがはんだ付けによって接合された構造を有していてもよい。
【0044】
駆動領域20において、調光層40は、2つの透明電極層41A、41Bの間において生じる電圧の変化を受けて、液晶分子の配向を変える。液晶分子における配向の変化は、調光層40に入る可視光の散乱度合い、吸収度合い、および、透過度合いを変える。
【0045】
具体的には、透明電極層41A、41Bに電圧信号が印加されていないとき、液晶分子の長軸方向の向きは不規則である。そのため、調光層40に入射した光の散乱度合いは大きくなり、駆動領域20は濁って見える。すなわち、調光層40に駆動電圧が印加されていないとき、駆動領域20は不透明である。一方、透明電極層41A、41Bに電圧信号が印加され、第1透明電極層41Aと第2透明電極層41Bとの間に所定値以上の電位差が生じると、液晶分子が配向され、液晶分子の長軸方向が透明電極層41A,41B間の電界方向に沿った向きとなる。その結果、調光層40を光が透過しやすくなり、駆動領域20は透明となる。
【0046】
図3は、
図1におけるIII-III線に沿った断面図であり、すなわち、境界領域23と、境界領域23を挟む駆動領域20および浮遊領域22での調光シート10の断面構造を示す。
【0047】
図3が示すように、第1透明電極層41Aにおいて、駆動領域20には、駆動電極要素30が位置し、浮遊領域22には、浮遊電極要素31が位置する。言い換えれば、駆動電極要素30と浮遊電極要素31とは、支持面46Sに沿って並ぶ別々の層状体である。
【0048】
駆動電極要素30と浮遊電極要素31とは、溝32によって分離されている。溝32の深さ方向は、第1透明電極層41Aの厚さ方向であり、溝32は、第1透明支持層42Aと第1透明電極層41Aとを深さ方向に貫通している。溝32で分離されることによって、駆動電極要素30と浮遊電極要素31とは互いに絶縁されている。
【0049】
調光シート10の第1面11Fと対向する位置から見て、溝32の位置する領域が、境界領域23である。上述したように、境界領域23は、浮遊領域22を囲む閉じた枠線状を有しており、すなわち、溝32は、支持面46Sに沿った方向に延び、第1面11Fと対向する位置から見て、浮遊電極要素31の全周を囲む閉じた枠線状を有する。浮遊電極要素31には、電圧信号の印加のための配線は接続されていないため、浮遊電極要素31は電気的に浮遊状態となる。
【0050】
したがって、浮遊領域22においては、調光層40に入射した光の散乱度合いが常に大きい。また、境界領域23には、第1透明電極層41Aにて電極要素が位置しないため、境界領域23でも、調光層40に入射した光の散乱度合いは常に大きい。それゆえ、非駆動領域21は、常に濁って見える。
【0051】
溝32は、第1透明支持層42Aの被保護面46Pに開口部33を有している。そして、開口部33は被覆層45の粘着層43で覆われている。さらに、溝32の内部には、粘着層43から連続する粘着部47が延びており、溝32内は粘着部47によって埋められている。粘着部47は、粘着層43と同一の材料からなる。粘着部47は、充填部の一例である。
【0052】
溝32内が絶縁性を有する粘着部47で充填されていることにより、駆動電極要素30と浮遊電極要素31との絶縁の信頼性が高められる。また、粘着層43および粘着部47を構成する粘着剤は、製造時の流動性や柔軟性を確保しやすい材料であるため、溝32内を的確に埋めることができる。さらに、粘着層43に保護層44が積層されているため、粘着層43が露出している場合と比較して、調光シート10の第1面11Fへのごみの付着が抑えられ、また、調光シート10の取り扱いが容易になる。
【0053】
また、溝32内が粘着部47で充填されていることにより、調光シート10の第1面11Fと対向する位置から見て、溝32が目立つこと、すなわち、境界領域23が目立つことが抑えられる。さらに、溝32の開口部33が粘着層43および保護層44で覆われることにより、溝32が目立つことが一層抑えられる。
【0054】
溝32が目立つことをより好適に抑えるためには、第1透明電極層41A、第1透明支持層42A、粘着層43および粘着部47、および、保護層44の屈折率が互いに近いことが好ましい。これらの屈折率差が小さいほど、溝32の付近での光の反射や屈折が抑えられるため、溝32が視認されにくくなる。
【0055】
例えば、第1透明電極層41Aとして広く用いられる酸化インジウムスズの屈折率は、2.1~2.2程度であり、第1透明支持層42Aとして広く用いられるポリエチレンテレフタレートやアクリル系樹脂の屈折率は、1.4~1.5程度である。したがって、粘着層43および粘着部47を構成する粘着剤の屈折率は、1.4以上1.5以下であることが好ましく、保護層44の屈折率は1.4以上1.6以下であることが好ましい。
【0056】
なお、溝32は、深さ方向において、調光層40の内部まで延びていてもよい。例えば、
図4が示すように、溝32は、調光層40を貫通していてもよいし、あるいは、溝32の底部は、調光層40の内部に位置していてもよい。また例えば、
図5が示すように、溝32は、調光層40および第2透明電極層41Bを貫通していてもよい。
【0057】
溝32が調光層40の内部まで延びる形態であれば、駆動電極要素30と浮遊電極要素31との絶縁の確実性を高めることができる。
また、溝32が第2透明電極層41Bを貫通している形態では、第2透明電極層41Bにおける浮遊領域22に位置する部分は周囲から絶縁され、この部分には電圧信号が印加されない。そのため、駆動領域20での第2透明電極層41Bの電位に関わらず、浮遊領域22にて、第1透明電極層41Aと第2透明電極層41Bとの間に電位差が形成されることが抑えられる。言い換えれば、駆動領域20の第2透明電極層41Bに印加される電圧信号の大きさやその変動の状況に関わらず、浮遊領域22での調光層40の液晶分子の配向状態は変化しない。したがって、駆動領域20での第2透明電極層41Bの電位の制御についての自由度が高められる。
【0058】
なお、深さ方向において、溝32の幅は一定であってもよいし、一定でなくてもよい。例えば、溝32の幅は、溝の底部に向けて小さくなってもよい。言い換えれば、溝32は、断面V字状を有していてもよい。溝32が断面V字状を有する形態であれば、溝32内に粘着剤を流入させて溝32内を充填することが容易である。
【0059】
調光シート10の第1面11Fと対向する位置から見て、溝32が目立つことを抑えるためには、開口部33における溝32の幅は1mm以下であることが好ましく、0.5mm以下であることがより好ましい。
【0060】
[調光シートの製造方法]
図6~
図9を参照して、調光シート10の製造方法を説明する。
図6が示すように、まず、第1透明支持層42Aに支持された第1透明電極層41Aと第2透明支持層42Bに支持された第2透明電極層41Bとの間に調光層40を形成することにより、調光層40、透明電極層41A,41B、透明支持層42A,42Bからなる積層体60を形成する。この時点においては、第1透明電極層41Aは、駆動電極要素30と浮遊電極要素31とに分割されていない一様な層である。
【0061】
続いて、
図7が示すように、積層体60の外側から、積層体60に対して溝32を形成する。詳細には、調光層40に対して第1透明支持層42Aの位置する側から、積層体60に切り込みを入れることにより、溝32が形成される。溝32の形成には、例えばカッティングプロッターやレーザーカッター等のカッティング装置が用いられる。
【0062】
続いて、
図8が示すように、積層体60における第1透明支持層42A上に粘着剤が配置されることによって粘着層43および粘着部47が形成される。粘着部47の形成によって溝32内は埋められる。そして、
図9が示すように、粘着層43に保護層44が貼り付けられる。
【0063】
粘着層43および粘着部47は、OCAフィルム等のフィルム状の粘着剤が積層体60に貼り付けられることによって形成されてもよいし、流動性を有する粘着剤が積層体60に塗布されることによって形成されてもよい。粘着剤がフィルム状の場合であっても、この粘着剤からなるフィルムは柔軟性を有しているため、粘着剤による溝32の充填は可能である。また、粘着層43および粘着部47の形成や、保護層44の積層に際して、加熱や加圧が行われてもよい。
【0064】
また、積層体60に対する粘着剤の配置に代えて、保護層44の表面に粘着剤が配置されることにより粘着層43が形成され、保護層44と粘着層43とが積層体60に貼り合わせられてもよい。
【0065】
接続領域24は、積層体60からその構成層の一部を切り取ることにより形成される。接続領域24の形成は、溝32の形成と同一の工程にて行われてもよいし、積層体60への粘着層43および保護層44の積層後に行われてもよい。接続領域24の形成が溝32の形成と同一の工程で行われれば、調光シート10の製造に要する工程数や時間の削減が可能である。
【0066】
なお、調光層40に比べて第1透明電極層41Aは非常に薄いため、溝32が第1透明電極層41Aを貫通しかつ調光層40内に入り込まないように溝32を形成することと比較して、溝32の底部が調光層40内に位置するように溝32を形成する方が、溝32の深さの制御に要する負担が小さい。したがって、溝32の底部が調光層40内に位置する形態であれば、製造に要する負荷の増大を抑えつつ駆動電極要素30と浮遊電極要素31との絶縁の確実性を高めることができる。
【0067】
以上のように、本実施形態では、駆動電極要素30と浮遊電極要素31とを絶縁するための溝32が、透明電極層41A,41Bおよび透明支持層42A,42Bと調光層40との積層後に、これらの層からなる積層体60に外側から切り込みを入れることによって形成される。したがって、積層体60の形成前にエッチング等を利用して電極要素を分割することと比較して、駆動電極要素30と浮遊電極要素31との分離に要する工程数および時間の削減や装置の簡素化が可能である。また、駆動電極要素30と浮遊電極要素31との形状の自由度も高くなり、さらに、駆動電極要素30と浮遊電極要素31との形状の設計変更への対応も容易に可能である。
【0068】
[作用]
図10は、調光シート10の非駆動時、すなわち、透明電極層41A、41Bに電圧信号が印加されていないときの調光シート10の透明度合いを模式的に示す。
【0069】
図10が示すように、調光シート10の非駆動時において、駆動領域20と浮遊領域22とは、いずれも不透明である。それゆえ、調光シートの10の全面が、例えば白っぽく、濁って見え、浮遊領域22が構成する文字や絵柄等の像は視認されない。
【0070】
これに対し、調光シート10の駆動時、すなわち、透明電極層41A、41Bに電圧信号が印加されているときには、駆動領域20が透明になる一方、浮遊領域22は不透明である。それゆえ、先の
図1に示したように、浮遊領域22のみが、例えば白っぽく、濁って見え、浮遊領域22が構成する文字や絵柄等の像が視認可能となる。
【0071】
このように、本実施形態の調光シート10によれば、調光シート10の面内に、光透過率の互いに異なる領域が形成され、かつ、これらの領域の光透過率の差は、調光シート10の駆動時にのみ現れる。したがって、調光シート10の駆動時には、浮遊領域22が構成する文字や絵柄等の像が視認されることで、調光シート10が配設されている空間の装飾が可能であり、さらに、調光シート10の駆動と非駆動との切り換えによって、上記像の出現の有無を切り換えることができるため、空間の装飾状態を動的に変化させることができる。それゆえ、調光シート10の意匠性の向上が可能である。
【0072】
なお、境界領域23に調光層40が存在する場合、境界領域23は常に不透明である。それゆえ、調光シート10の非駆動時には、駆動領域20および非駆動領域21はいずれも不透明に見え、調光シート10の駆動時には、非駆動領域21が一体となって不透明に見える。一方、駆動電極要素30と浮遊電極要素31との分離のための溝32が調光層40を貫通し、境界領域23に調光層40が存在しない場合、境界領域23は常に透明である。それゆえ、調光シート10の非駆動時には、駆動領域20および浮遊領域22が不透明である一方で、境界領域23は透明となるが、境界領域23は細線状であるため目立ちにくく、浮遊領域22が構成する文字や絵柄等の像は視認されにくい。調光シート10の駆動時には、境界領域23は駆動領域20と一体となって透明に見える。
【0073】
調光シート10の非駆動時に境界領域23が目立つことを抑えるためには、溝32が調光層40を貫通せず、境界領域23に、厚さ方向において調光層40の少なくとも一部が存在することが好ましい。あるいは、調光シート10の意匠の一環として、調光シート10の非駆動時に枠線状の境界領域23が視認されるよう、境界領域23を目立たせてもよい。この場合、境界領域23に調光層40は存在しなくてよいし、境界領域23の幅が大きくされてもよい。
【0074】
以上のように、本実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)駆動電極要素30と浮遊電極要素31とへの電圧信号の印加の制御によって、駆動領域20と浮遊領域22との光透過率の差の有無を変えることが可能であり、これによって、浮遊領域22からなる像の視認性を変えることができる。したがって、調光シート10による空間の装飾状態を動的に変化させることが可能であり、調光シート10の意匠性の向上が可能である。
【0075】
(2)駆動電極要素30と浮遊電極要素31とを絶縁するための溝32が、第1透明支持層42Aと第1透明電極層41Aとを貫通して延びる。こうした構造は、透明電極層41A,41Bおよび透明支持層42A,42Bと調光層40との積層後に、第1透明支持層42Aの表面から第1透明支持層42Aと第1透明電極層41Aとに切り込みを入れることによって形成できる。したがって、駆動電極要素30と浮遊電極要素31との分離が容易である。また、駆動電極要素30と浮遊電極要素31との形状の自由度も高くなり、さらに、駆動電極要素30と浮遊電極要素31との形状の設計変更への対応も容易に可能である。
【0076】
(3)溝32の開口部33が被覆層45で覆われているため、溝32に導電性物質が入り込んで駆動電極要素30と浮遊電極要素31とが導通することが抑えられる。また、調光シート10の第1面11Fから見て溝32が目立つことが抑えられる。
【0077】
(4)溝32内が、被覆層45から連続して延びる充填部によって埋められているため、駆動電極要素30と浮遊電極要素31との絶縁の信頼性が高められる。さらに、被覆層45が、粘着層43と保護層44とを含み、充填部が粘着層43から延びる粘着部47である。すなわち、柔軟性や流動性を有する粘着剤によって溝32内が埋められるため、溝32の充填が容易に可能である。そして、粘着層43に保護層44が積層されていることにより、粘着層43へのごみ等の付着が抑えられ、また、調光シート10の取り扱いが容易になる。
【0078】
(5)被覆層45に含まれる層の屈折率が1.4以上1.6以下であると、被覆層45の屈折率が空気よりも大きいことから、第1透明支持層42Aと被覆層45との屈折率差が小さくなりやすい。そのため、溝32が空気中に露出している場合と比較して、溝32付近の界面における屈折率差が小さくなり、光の反射や屈折が抑えられるため、溝32が目立ちにくくなる。
【0079】
(6)溝32の深さ方向において、溝32が調光層40の内部まで延びている形態であれば、駆動電極要素30と浮遊電極要素31との絶縁の確実性が高められる。
(7)溝32の深さ方向において、溝32が調光層40および第2透明電極層41Bを貫通している形態では、駆動電極要素30と浮遊電極要素31とに対応して第2透明電極層41Bも互いに絶縁された複数の部分に分割される。したがって、第1透明電極層41Aと第2透明電極層41Bとの間の電位差を、分割された領域ごとに的確に制御することができる。それゆえ、各電極要素30,31の位置する領域の光透過率を的確に制御することができる。
【0080】
(8)第1面11Fと対向する位置から見て、溝32は、浮遊電極要素31を囲む閉じた枠線状を有する。これにより、浮遊領域22が、文字、数字、記号、図形、絵柄等を構成するように駆動電極要素30と浮遊電極要素31とを絶縁することが容易であり、浮遊電極要素31の配置や形状の自由度も高められる。したがって、調光シート10に現れる像の構成についての自由度が高められる。
【0081】
(9)駆動電極要素30と浮遊電極要素31とのうち、駆動電極要素30のみが端子部35A,35Bに接続されている。これにより、駆動電極要素30への電圧信号の印加の有無によって、駆動領域20と浮遊領域22との光透過率に差がない状態と、駆動領域20と浮遊領域22との光透過率に差がある状態との切替が可能である。したがって、簡易な構成で、調光シートの意匠性の向上が可能である。
【0082】
[変形例]
上記各実施形態は、以下のように変更して実施することが可能である。また、以下の変形例を互いに組み合わせて実施してもよい。
【0083】
・
図11が示すように、調光シート10は、第1配向層48A、および、第2配向層48Bを備えていてもよい。第1配向層48Aは、調光層40と第1透明電極層41Aとの間に位置し、これらの層と接する。第2配向層48Bは、調光層40と第2透明電極層41Bとの間に位置し、これらの層と接する。
【0084】
第1配向層48A、および、第2配向層48Bの各々は、例えば、垂直配向膜である。垂直配向膜は、調光層40の厚さ方向に沿って、液晶分子の長軸方向を配向させる。第1配向層48A、および、第2配向層48Bの各々の材料は、有機化合物、無機化合物、および、これらの混合物である。有機化合物は、例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリビニルアルコール、シアン化化合物等である。無機化合物は、例えば、シリコン酸化物、酸化ジルコニウム等である。配向層48A,48Bの材料は、シリコーンであってもよい。シリコーンは、無機性の部分と有機性の部分とを有する化合物である。
【0085】
調光シート10が配向層48A,48Bを備える場合、駆動領域20において、透明電極層41A、41Bに電圧信号が印加されていないとき、液晶分子の長軸方向の向きは調光層40の厚さ方向に沿った向きとなる。したがって、駆動領域20は透明である。一方、駆動領域20において、透明電極層41A、41Bに電圧信号が印加されているとき、液晶分子の長軸方向の向きは調光層40の厚さ方向と交差する向きとなる。したがって、駆動領域20は濁って見え、不透明となる。
【0086】
調光シート10が配向層48A,48Bを備える場合、浮遊領域22では、液晶分子の長軸方向の向きが常に調光層40の厚さ方向に沿った向きとなるため、浮遊領域22は、常に透明である。
【0087】
それゆえ、調光シート10の非駆動時において、駆動領域20と浮遊領域22とは、いずれも透明であり、浮遊領域22が構成する文字や絵柄等の像は視認されない。一方、調光シート10の駆動時には、駆動領域20が不透明になる一方、浮遊領域22は、透明であるため、浮遊領域22が構成する文字や絵柄等の像が視認可能となる。
【0088】
駆動電極要素30と浮遊電極要素31との分離のための溝32は、上記実施形態と同様、少なくとも第1透明支持層42Aおよび第1透明電極層41Aを貫通していればよい。溝32は、さらに、第1配向層48A、調光層40、第2配向層48B、および、第2透明電極層41Bの一部または全部を貫通していてもよい。
【0089】
溝32が第1配向層48Aを貫通していない場合、あるいは、溝32が調光層40を貫通している場合、境界領域23は、常に透明であり、浮遊領域22と一体となって見える。それゆえ、調光シート10の非駆動時に境界領域23が目立つことを抑えるためには、溝32が、第1配向層48Aを貫通しない、もしくは、調光層40を貫通する位置まで延びていることが好ましい。
【0090】
以上のように、調光シート10が配向層48A,48Bを備える場合であっても、調光シート10の面内に、調光シート10の駆動時にのみ光透過率の差が現れる領域である駆動領域20と浮遊領域22とが存在する。したがって、調光シート10の意匠性の向上が可能である。
【0091】
・保護層44は、第1透明支持層42Aよりも光透過率の低い層であってもよい。例えば、保護層44は、ハーフミラーフィルム、あるいは、スモークフィルム等の有色のフィルムであってもよい。保護層44の光透過率が第1透明支持層42Aよりも低い場合、調光シート10の背後の光源の強さに応じて、調光シート10の外観が変化する。例えば、保護層44がハーフミラーフィルムである場合、調光シート10の背後の光源が弱いとき、調光シート10の第1面11Fが鏡面のように見える。また、保護層44がスモークフィルムである場合、調光シート10の背後の光源が弱いとき、調光シート10は黒色等の暗色に見える。したがって、調光シート10による空間の装飾状態をより多様に変化させることができるため、調光シート10の意匠性の更なる向上が可能である。
【0092】
・被覆層45が含む層の数や材料は特に限定されない。被覆層45は、粘着層43と保護層44とのうちの一方のみを備えていてもよいし、粘着層43および保護層44とは異なる層を備えていてもよい。被覆層45が、溝32の開口部33を覆っていれば、溝32に導電性物質が入り込むことを抑える効果は得られる。
【0093】
また、溝32を埋める充填部は、粘着剤とは異なる材料から構成されていてもよい。例えば、ハードコート材として利用される熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂が、溝32が形成された第1透明支持層42A上に塗布され、塗布された樹脂が熱や光によって硬化されることにより、充填部と被覆層45とが形成されてもよい。この場合、充填部と被覆層45とは、硬化性樹脂から構成され、充填部は被覆層45から連続して溝32内に延びる。
【0094】
充填部および被覆層45の材料が上記実施形態と異なる場合であっても、溝32が目立つことを抑えるためには、充填部および被覆層45が含む層の屈折率は、1.4以上1.6以下であることが好ましい。
なお、溝32の開口部33が被覆層45で覆われていれば、溝32内の一部あるいは全部が充填部で埋まっていなくてもよい。
【0095】
・被覆層45が、紫外線吸収性を有する層を含んで入れもよい。例えば、粘着層43および保護層44の少なくとも一方が紫外線吸収性を有していてもよい。こうした構成によれば、調光シート10に照射された太陽光等に含まれる紫外線が被覆層45にて吸収されて調光層40に到達し難くなる。したがって、液晶組成物の機能の低下が抑えられる。
【0096】
・境界領域23に位置する溝32は、第1透明支持層42Aの支持面46Sに沿う方向に延びていれば、浮遊電極要素31を囲む閉じた枠線状を有していなくてもよい。例えば、
図12が示すように、第1面11Fと対向する位置から見て、境界領域23および溝32は、調光シート10の端部100に位置する始点から、浮遊領域22および浮遊電極要素31の外周を通り、調光シート10の端部100に位置する終点まで延びていてもよい。この場合、浮遊領域22および浮遊電極要素31の端部は、調光シート10の端部100に位置する。なお、
図12では矩形状の調光シート10のうち
図12中下側の辺を端部100としているが、境界領域23および溝32の始点および終点が位置する端部100は、上側の辺、左辺、および、右辺のいずれであってもよく、これらの辺のうちの複数であってもよい。
【0097】
・上記実施形態では、第1電極要素である駆動電極要素30に電圧信号が印加され、第2電極要素である浮遊電極要素31には電圧信号が印加されない。これに代えて、第1電極要素と第2電極要素とに別々に電圧信号が印加されてもよい。第2電極要素の端部には、第2電極要素に電圧信号を印加するための配線が端子部を通じて接続される。第1電極要素に接続される端子部と、第2電極要素に接続される端子部とは、電圧信号ごとの別々の端子部である。上述のように、第2電極要素が調光シート10の端部に位置する形態であれば、第2電極要素への配線の接続が容易である。
【0098】
例えば、第1電極要素の位置する第1領域は、第1電極要素への電圧信号の印加状態の切り換えによって、透明と不透明とに切り替えられる。そして、第2電極要素の位置する第2領域は、第2電極要素への電圧信号の印加状態の切り換えによって、第1領域とは独立して、透明と不透明とに切り替えられる。こうした構成によれば、第1領域と第2領域とが共に不透明な状態、第1領域が不透明で第2領域が透明な状態、第1領域が透明で第2領域が不透明な状態、第1領域と第2領域とが共に不透明な状態、の4つの状態の切り替えが可能である。したがって、調光シート10による空間の装飾状態をより多様に変化させることができるため、調光シート10の意匠性の更なる向上が可能である。
【0099】
また例えば、第1領域と第2領域との少なくとも一方の光透過率が、透明と不透明との間に対応する光透過率に制御されてもよい。液晶組成物を含む調光層40を備える調光シート10においては、透明電極層41A、41B間の電位差が所定の範囲内である場合に、電位差の変化に伴って調光シート10の光透過率が徐々に変化する。そのため、第1領域あるいは第2領域において、透明電極層41A、41B間の電位差を、当該領域が透明となる電位差と当該領域が不透明となる電位差との間の値に制御することによって、当該領域を透明と不透明との間の光透過率を有する半透明に制御することができる。
【0100】
具体的には、例えば、第1領域は、第1電極要素への電圧信号の印加状態の切り換えによって、透明と不透明とに切り替えられ、第2領域は、第2電極要素への電圧信号の印加状態の切り換えによって、半透明と不透明とに切り替えられる。第1領域が透明であるときには、第2領域は半透明に制御される。こうした構成によれば、第1領域と第2領域とが共に不透明な状態と、第1領域が不透明で第2領域が半透明な状態との切り替えが可能である。これによっても、調光シート10の意匠性の向上が可能である。
なお、上記実施形態では、駆動領域20が第1領域であり、浮遊領域22が第2領域である。
【符号の説明】
【0101】
10…調光シート
11F…第1面
11R…第2面
20…駆動領域
21…非駆動領域
22…浮遊領域
25A,25B…端子部
30…駆動電極要素
31…浮遊電極要素
32…溝
33…開口部
35A,35B…端子部
40…調光層
41A,41B…透明電極層
42A,42B…透明支持層
43…粘着層
44…保護層
45…被覆層
46P…被保護面
46S…支持面
47…粘着部
48A,48B…配向層
60…積層体
【手続補正書】
【提出日】2021-10-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1透明電極層と、
第2透明電極層と、
前記第1透明電極層と前記第2透明電極層との間に位置する調光層と、
前記第1透明電極層に対して前記調光層とは反対側に位置する第1透明支持層であって、前記第1透明電極層を支持する支持面と、前記支持面とは反対側の面である被保護面とを有した前記第1透明支持層と、
前記第2透明電極層に対して前記調光層とは反対側に位置して前記第2透明電極層を支持する第2透明支持層と、
前記第1透明支持層に対して前記第1透明電極層とは反対側に位置する被覆層と、
を備え、
前記第1透明電極層は、第1電極要素と第2電極要素とを含み、
前記第1電極要素と前記第2電極要素とは、前記支持面に沿って並ぶ別々の層状体であり、かつ、前記支持面に沿った方向に延びる溝によって相互に電気的に絶縁され、
前記第1透明電極層の厚さ方向が前記溝の深さ方向であって、前記溝は、前記第1透明支持層と前記第1透明電極層とを前記深さ方向に貫通し、かつ、前記被保護面に開口部を有し、
前記開口部は、前記被覆層で覆われており、
前記開口部における前記溝の幅は、1mm以下であり、
前記深さ方向において前記溝の下方に位置する部分で前記第2透明支持層は連続している
調光シート。
【請求項2】
前記溝内は、前記被覆層から連続して延びる充填部によって埋められている
請求項1に記載の調光シート。
【請求項3】
前記被覆層は、前記被保護面に接する絶縁性を有した粘着層と、前記粘着層に対して前記第1透明支持層とは反対側で前記粘着層に接する保護層とを含み、
前記溝内は、前記粘着層から連続して延びる粘着部によって埋められている
請求項1に記載の調光シート。
【請求項4】
前記被覆層に含まれる層の屈折率は、1.4以上1.6以下である
請求項1~3のいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項5】
前記被覆層は、紫外線吸収性を有する層を含む
請求項1~4のいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項6】
前記被覆層は、前記第1透明支持層よりも光透過率の低い層を含む
請求項1~5のいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項7】
前記深さ方向において、前記溝は前記調光層の内部まで延びている
請求項1~6のいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項8】
前記深さ方向において、前記溝は前記調光層および前記第2透明電極層を貫通している
請求項1~7のいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項9】
前記被覆層と対向する位置から見て、前記溝は前記第2電極要素を囲む閉じた枠線状を有する
請求項1~8のいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項10】
前記調光シートを駆動するための電圧信号が印加される端子部を備え、
前記第1電極要素と前記第2電極要素とのうち、前記第1電極要素のみが前記端子部に接続されている
請求項1~9のいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項11】
前記調光シートを駆動するための電圧信号ごとの端子部を備え、
前記第1電極要素と前記第2電極要素とは、互いに異なる端子部に接続されている
請求項1~9のいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項12】
第1透明電極層と、第2透明電極層と、前記第1透明電極層と前記第2透明電極層との間に位置する調光層と、前記第1透明電極層に対して前記調光層とは反対側に位置する第1透明支持層であって前記第1透明電極層を支持する支持面を備えた前記第1透明支持層と、を備える積層体を形成することと、
前記調光層に対して前記第1透明支持層の位置する側から、前記積層体に切り込みを入れることにより、前記支持面に沿った方向に延び、かつ、前記第1透明支持層と前記第1透明電極層とを貫通する溝を形成することで、前記第1透明電極層内に、前記溝によって分離された第1電極要素と第2電極要素とを形成することと、
前記積層体に、前記溝の開口部を覆う被覆層を積層することと、
を含む調光シートの製造方法。