(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022080203
(43)【公開日】2022-05-27
(54)【発明の名称】バルブ機能を備えた金型及び管材成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 26/041 20110101AFI20220520BHJP
【FI】
B21D26/041
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020191237
(22)【出願日】2020-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000126894
【氏名又は名称】株式会社アミノ
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100081385
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 修治
(72)【発明者】
【氏名】寺内 祐二
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 則幸
(72)【発明者】
【氏名】河島 孝明
(72)【発明者】
【氏名】郡 智基
(72)【発明者】
【氏名】原 豊
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 真梨子
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA26
4E137BB03
4E137CA15
4E137EA09
4E137EA22
4E137EA23
4E137FA02
4E137FA06
4E137FA22
4E137FA24
4E137GA12
4E137GB08
(57)【要約】
【課題】ハイドロフォーミングシステムにおいて成形液の流路をコンパクトに構成できる金型及び該金型を用いた管材成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】金型3は、管材Pに成形液を充填して該成形液の液圧により管材Pを塑性変形させるハイドロフォーミングシステムに用いられる。金型3は、該金型3内に配置され、管材Pから成形液を排出する流路200を開閉可能なバルブ9と、型締めの動きをバルブ9が流路200を閉弁する動きに変換する伝達機構8と、を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
管材に成形液を充填して該成形液の液圧により前記管材を塑性変形させるハイドロフォーミングシステムに用いられる金型であって、
前記金型内に配置され、前記管材から前記成形液を排出する流路を開閉可能なバルブと、
型締めの動きを前記バルブが前記流路を閉弁する動きに変換する伝達機構と、を備えた、
金型。
【請求項2】
前記伝達機構は、前記バルブに固定された被動部材と、型締めに応じて前記被動部材を押圧する駆動部材と、を含み、
前記駆動部材の少なくとも一部は、前記バルブが前記流路を閉弁する向きに幅が変化するくさび状に形成されている、
請求項1に記載の金型。
【請求項3】
管材を固定する金型と、該金型を型締め及び型開きするプレス機械と、前記管材に充填された成形液を増圧する増圧装置と、を用い、成形液の液圧で前記管材を塑性変形させる管材成形品の製造方法であって、
前記プレス機械は、ボルスタと、該ボルスタとの距離をサーボ制御されたスライドモーションで変更可能なスライドと、第1緩衝材及び第2緩衝材の少なくとも一方と、を備え、
前記第1緩衝材は、前記ボルスタと前記金型との間に配置され、前記スライドの移動に応じて第1の厚みから該第1の厚みよりも薄い第2の厚みに圧縮可能であり、前記第2緩衝材は、前記スライドと前記金型との間に配置され、第3の厚みから該第3の厚みよりも薄い第4の厚みに圧縮可能であり、
前記金型は、一対の上型及び下型と、前記下型内に配置され、前記管材から成形液を排出する流路を開閉可能な第1バルブと、前記上型内に配置され、前記管材から成形液を排出する流路を開閉可能な第2バルブと、前記第1バルブ及び前記第2バルブの少なくとも一方を駆動可能な伝達機構と、を備え、
前記方法は、
前記第1バルブを閉弁するステップ、
前記第2バルブを閉弁するステップ、
前記第1バルブ及び前記第2バルブのいずれか一方が閉弁し、いずれか他方が開弁した状態において、前記管材に成形液を充填して前記管材から空気を排出するステップ、並びに、
前記第1バルブ及び前記第2バルブの双方が閉弁した状態において、前記管材に充填された成形液を加圧して該成形液の液圧により前記管材を塑性変形させるステップ、
をすべて含み、
前記第1緩衝材が前記第2の厚みに圧縮されるまで前記金型を閉じる動きを前記伝達機構により前記第1バルブを閉弁する動きに変換するステップ、及び、
前記第2緩衝材が前記第4の厚みに圧縮されるまで前記金型を閉じる動きを前記伝達機構により前記第2バルブを閉弁する動きに変換するステップ
の少なくとも一方を更に含む、
管材成形品の製造方法。
【請求項4】
前記スライドモーションは、一工程中に複数回の停止を含む多段モーションである、
請求項3に記載の管材成形品の製造方法。
【請求項5】
前記管材成形品は、モータを構成するロータであり、
前記管材は、ロータシャフトであり、ロータコアに挿通された状態で前記金型に固定され、前記塑性変形によって前記ロータコアと締結される、
請求項3又は4に記載の管材成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブ機能を備えた金型及び該金型を用いた管材成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
管材の内部に成形液を充填し、液圧で管材を塑性変形させるハイドロフォーミングシステムが知られている。例えば、特許文献1には、上下金型により形成されたキャビティ内に素材を挿入し、素材内部に内圧供給機構から高圧圧液を供給して素材をキャビティの形状に沿って加工するバルジ加工装置が開示されている。特許文献2には、同様の装置において、上型と下型とを密着状態に保持する型締め力を増減変動可能に形成したハイドロフォーミング装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-84624号公報
【特許文献2】特開2002-172433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来機では加工が困難な形状に対応できるようにするため、液圧を超高圧にすることが考えられる。しかしながら、液圧を超高圧にすると成形液の流路が複雑になって装置が大型化する傾向にある。そこで、本発明は、ハイドロフォーミングシステムにおいて成形液の流路をコンパクトに構成できる金型及び該金型を用いた管材成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る金型は、管材に成形液を充填して該成形液の液圧により管材を塑性変形させるハイドロフォーミングシステムに用いられる。金型は、該金型内に配置され、管材から成形液を排出する流路を開閉可能なバルブと、型締めの動きをバルブが流路を閉弁する動きに変換する伝達機構と、を備えている。
【0006】
この態様によれば、バルブを金型内に配置することにより流路を短縮してコンパクトにまとめることができる。プレス機械から入力される多段モーションなどのスライドモーションを伝達機構によりバルブの動きに変換してバルブを徐々に開閉させることができるため、金型内におけるウォーターハンマー現象やキャビテーション、衝撃波の発生を抑えることができる。
【0007】
上記態様において、伝達機構は、バルブに固定された被動部材と、型締めに応じて被動部材を押圧する駆動部材と、を含み、駆動部材の少なくとも一部は、バルブが流路を閉弁する向きに幅が変化するくさび状に形成されていてもよい。
【0008】
この態様によれば、部品点数が少ない伝達機構を構成できるため、プレス機械内に省スペースで伝達機構を配置できる。プレス機械から入力される多段モーションなどのフリーモーションをバルブの開閉に滑らかに変換できるため、金型内におけるウォーターハンマー現象やキャビテーション、衝撃波の発生を抑えることができる。
【0009】
本発明の他の一態様に係る管材成形品の製造方法は、管材を固定する金型と、該金型を型締め及び型開きするプレス機械と、管材に充填された成形液を増圧する増圧装置と、を用い、成形液の液圧で管材を塑性変形させる管材成形品の製造方法である。プレス機械は、ボルスタと、該ボルスタとの距離をサーボ制御されたスライドモーションで変更可能なスライドと、第1緩衝材及び第2緩衝材の少なくとも一方と、を備えている。第1緩衝材は、ボルスタと金型との間に配置され、スライドの移動に応じて第1の厚みから該第1の厚みよりも薄い第2の厚みに圧縮可能であり、第2緩衝材は、スライドと金型との間に配置され、第3の厚みから該第3の厚みよりも薄い第4の厚みに圧縮可能である。金型は、一対の上型及び下型と、下型内に配置され、管材から成形液を排出する流路を開閉可能な第1バルブと、上型内に配置され、管材から成形液を排出する流路を開閉可能な第2バルブと、第1バルブ及び第2バルブの少なくとも一方を駆動可能な伝達機構と、を備えている。管材成形品の製造方法は、第1バルブを閉弁するステップ、第2バルブを閉弁するステップ、第1バルブ及び第2バルブのいずれか一方が閉弁し、いずれか他方が開弁した状態において、管材に成形液を充填して管材から空気を排出するステップ、並びに、第1バルブ及び第2バルブの双方が閉弁した状態において、管材に充填された成形液を加圧して該成形液の液圧により管材を塑性変形させるステップ、をすべて含んでいる。第1緩衝材が第2の厚みに圧縮されるまで金型を閉じる動きを伝達機構により第1バルブを閉弁する動きに変換するステップ、及び、第2緩衝材が第4の厚みに圧縮されるまで金型を閉じる動きを伝達機構により第2バルブを閉弁する動きに変換するステップの少なくとも一方を更に含んでいる。
【0010】
この態様によれば、プレス機械から入力される多段モーションなどのフリーモーションを伝達機構によりバルブの動きに変換してバルブを徐々に開閉させることができるため、金型内におけるウォーターハンマー現象やキャビテーション、衝撃波の発生を抑えることができる。
【0011】
上記態様において、スライドモーションは、一工程中に複数回の停止を含む多段モーションであってもよい。
【0012】
この態様によれば、管材を管材成形品に加工する一工程中に複数回スライドを停止するため、例えば、スライドを停止させている間に管材の内部に成形液を充填して確実にエア抜きすることができる。
【0013】
上記態様において、管材成形品は、モータを構成するロータであり、管材は、ロータシャフトであり、ロータコアに挿通された状態で金型に固定され、塑性変形によってロータコアと締結されてもよい。
【0014】
この態様によれば、モータのロータを好適に製造できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ハイドロフォーミングシステムにおいて成形液の流路をコンパクトに構成できる金型及び該金型を用いた管材成形品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るハイドロフォーミングシステムの構成を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、
図1に示されたプレス機械及び金型の一例を示す断面図である。
【
図3】
図3は、
図2に示されたバルブの一例を拡大して示す断面図である。
【
図4】
図4は、成形サイクルにおけるスライドの位置と当該位置に応じたバルブの開閉とを説明する図である。
【
図5】
図5は、
図4に示された第2の位置のスライドを示す断面図である。
【
図6】
図6は、
図4に示された第3の位置のスライドを示す断面図である。
【
図7】
図7は、本発明の一実施形態に係る製造方法の一例を説明する流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。本発明の一実施形態の金型3は、ハイドロフォーミングに用いられ、管材Pから成形液を排出する流路200を開閉可能なバルブ9が、金型3内に配置されていることが特徴の一つである。以下、図面を参照して本発明について詳しく説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態のハイドロフォーミングシステム1の構成を模式的に示す図である。ハイドロフォーミングシステム1は、管材Pの内部に成形液を充填して該成形液の液圧により管材Pを塑性変形させて管材Pの成形品を製造する製造装置である。
【0019】
図1に示すように、ハイドロフォーミングシステム1は、サーボ制御により一工程中にスライドモーションを加減速できるプレス機械2と、該プレス機械2に組み付けられた金型3と、該金型3に固定された管材Pの内部に成形液を充填して該成形液の液圧を昇圧可能な増圧装置4と、管材Pから成形液を排出する流路100を開閉可能なバルブ9と、を備えている。
【0020】
一工程中にスライドモーションを加減速するフリーモーションは、例えば、一工程中に複数回スライド26を停止する多段モーションである。そのようなスライドモーションを可能なプレス機械2の一例は、サーボモータの動力をクランクなどの回転式機構やボールねじなどの直動式機構によってスライド26に伝達する機械サーボプレスである。なお、プレス機械2は、機械サーボプレスのみに限定されず、多段モーションなどのフリーモーションを可能であれば、サーボシステムによって制御された液圧で駆動する液圧サーボプレスであってもよいし、他種のプレス機械であってもよい。
【0021】
プレス機械2は、ボルスタ21と、該ボルスタ21との距離を多段モーションなどのフリーモーションで変更可能なスライド26と、ウレタンスプリングやガスシリンダなどの緩衝材23,24と、を備えている。下側の緩衝材23は、ボルスタ21に固定されている。上側の緩衝材24は、スライド26に固定されている。緩衝材23,24のいずれか一方を省略してもよいし、後述するコモンプレート22,25を更に備えていてもよい。図示した例では、スライド26が上下に往復可能に構成されている。スライド26を左右に往復可能に構成してもよい。
【0022】
金型3は、固定側のプレートと、該固定側のプレートに対向する可動側のプレートと、で構成されている。図示した例では、金型3が、上下一対の下型31及び上型32で構成されている。下型31は、緩衝材23を介してボルスタ21に固定されている。上型32は、緩衝材24を介してスライド26に固定されている。以下の説明において、下側の緩衝材23を第1緩衝材23と呼び、上側の緩衝材24を第2緩衝材24と呼ぶことがある。
【0023】
下型31と上型32との間に管材Pを固定できる。金型3内には、固定された管材Pに成形液を充填する流路100や、管材Pから成形液を排出する流路200などが形成されている。成形液は、水であってもよいし、油であってもよい。流路100,200は、配管110,210などを通じて成形液を貯留可能なタンク5に接続されている。タンク5は、プレス機械2の外部に配置してもよい。
【0024】
増圧装置4は、流路100とタンク5との間に接続されている。増圧装置4は、例えば、空気圧で駆動されて該空気圧を増幅した液圧に変換するエアハイドロブースタであり、プレス機械2内に配置されている。図示した例では、増圧装置4が、下型31に固定された第1増圧装置41と、上型32固定された第2増圧装置42と、を含んでいる。
【0025】
第1及び第2増圧装置41,42のいずれか一方を省略してもよい。第1及び第2増圧装置41,42は、同じ種類のブースタであってもよいし、異なる種類のブースタであってもよい。異なる種類のブースタを組み合わせる場合、第1及び第2増圧装置41,42のいずれか一方を主ブースタとして構成し、いずれか他方を補助ブースタとして構成してもよい。
【0026】
管材Pを塑性変形させる所定の液圧まで昇圧する主ブースタ(例えば、第1増圧装置41)と、所定の液圧よりも低圧の圧力域において主ブースタよりも高速で昇圧する補助ブースタ(例えば、第2増圧装置42)とを切り替えることにより昇圧時間を短縮できる。
【0027】
バルブ(リリーフバルブ)9は、流路200とタンク5との間に設けられている。バルブ9は、金型3内に配置され、プレス機械2の多段モーションをバルブ9が流路100を閉弁する動きに変換可能な伝達機構8に接続されている。図示した例では、下型31及び上型32の各々にバルブ9及び当該バルブに付設された伝達機構8が配置されている。
【0028】
以下の説明において、下型31内に配置されたバルブ9及び当該バルブに付設された伝達機構8の各々を第1バルブ91及び第1伝達機構81と呼び、上型32内に配置されたバルブ9及び当該バルブに付設された伝達機構8の各々を第2バルブ92及び第2伝達機構82と呼ぶことがある。
【0029】
図2は、
図1に示されたプレス機械2及び金型3の一例を示す断面図である。図示した例では、プレス機械2が、上下のコモンプレート22,25を更に備えている。下側のコモンプレート22は、ボルスタ21に着脱可能に構成されている。前述した下側の緩衝材23や下型31は、コモンプレート22を介してボルスタ21に固定されている。上側のコモンプレート25は、スライド26に着脱可能に構成されている。前述した上側の緩衝材24や上型32は、コモンプレート25を介してスライド26に固定されている。
【0030】
前述したように、増圧装置4は、プレス機械2内に配置されている。図示した例では、第1及び第2増圧装置41,42が、上下のコモンプレート22,25の間に配置されている。プレス装置2は、万が一、高圧がかかる部品や管材Pが壊れても破片が飛散しないように作業者を保護するカバー27を備えていてもよい。図示した例では、第1及び第2バルブ91,92に対向する位置においてカバー27が配置されている。
【0031】
図3は、
図2に示されたバルブ9及び当該バルブに付設された伝達機構8の一例を拡大して示す断面図である。なお、第1及び第2バルブ91,92は、略同一の形状及び機能を有している。そのため、代表して第2バルブ92を詳しく説明し、第1バルブ91については重複する説明を省略する。同様に、第1及び第2伝達機構81,82は、略同一の形状及び機能を有している。そのため、代表して第2伝達機構82を詳しく説明し、第1伝達機構81については重複する説明を省略する。
【0032】
図示した例では、バルブ9(第2バルブ92)がニードルバルブとして構成され、細長い円錐形の弁体93と、該弁体93が当接する弁座面94が形成された隔壁ブロック94と、を備えている。バルブ9の構成は、図示した例に限定されず、公知の構成を適宜選択できる。弁体93の先端部が弁座面に当接すると、流路200が閉弁される。弁体93の先端部が弁座面から離間すると、流路200が開弁される。
【0033】
バルブ9がニードルバルブであれば、弁体93と弁座面との隙間に応じて成形液の流量を滑らかに調整できる。後述するプレス機械2の多段モーションによってニードルバルブを徐々に開弁すれば、金型3内におけるウォーターハンマー現象やキャビテーション、衝撃波の発生を抑えることができ、ハイドロフォーミングシステム1や管材Pのダメージを最小限に抑えることができる。
【0034】
図示した例では、伝達機構8(第2伝達機構82)が、くさび機構として構成されている。伝達機構8は、少なくとも一部がくさび状に形成され、スライドモーションに対して傾斜したくさび面83Aを有する駆動部材83と、該駆動部材83のくさび面83Aに摺接するくさび面84Bを有し、該くさび面84Bを押圧されて移動する被動部材84と、を備えている。駆動部材83は、他の部材に着脱可能に構成してもよいし、他の部材と一体構造物として構成してもよい。被動部材84は、バルブ9の弁体93に固定されている。
【0035】
なお、伝達機構8の構成は、図示した例に限定されず、カム機構であってもよいし、てこ機構であってもよいし、リンク機構であってもよい。プレス機械2が金型3を型締めする動きを金型3内のバルブ9を閉弁する動作に変換できるものであれば、公知の構成を適宜選択できる。
【0036】
駆動部材83は、プレス機械2による金型3の型締めに応じて、被動部材84を押圧する向きに移動する。例えば、スライド26側に配置された伝達機構8の場合、駆動部材83がスライド26からボルスタ21への向きに下降する。ボルスタ21側に配置された伝達機構8の場合、駆動部材83がボルスタ21からスライド26への向きに上昇する。換言すると、下型31及び上型32のいずれか一方に配置された駆動部材8は、下型31及び上型32の一方から他方へ向かって移動する。
【0037】
駆動部材83は、バルブ9が流路200を閉弁する左右の向きに幅が変化するくさび状に形成されている。そのため、駆動部材83が型締めの向き(例えば、下向き)へ移動すると、バルブ9が流路200を閉弁する向き(例えば、左向き)へ被動部材84が押圧される。
【0038】
ばねなどの付勢部材を付設してバルブ9が開弁する向きに弁体93を付勢してもよい。この態様によれば、駆動部材83が被動部材84を押圧するとき、付勢力に抗して被動部材84が移動してバルブ9が閉弁する。駆動部材83が被動部材84を押圧していないとき、付勢力によって被動部材84が移動してバルブ9が開弁する。
【0039】
図4は、ハイドロフォーミングシステム1を用いる成形サイクルにおいて、スライド26の位置と当該位置に応じたバルブ9の開閉とを説明する図である。本実施形態に係るプレス機械2は、
図4に示すように、多段モーションを可能であり、第2の位置Bで中間停止したり、他の位置で中間停止したり、自在に加速、減速、停止することができる。図示した例では、第1の位置Aから第2の位置Bに型締めするとき、第2の位置Bの手前で減速し、スライド26の急停止を避けてショックを抑えている。
【0040】
第2の位置Bにおいてスライド26を中間停止させることにより、後述するように緩衝材23,24のいずれか一方を圧縮して第1及び第2バルブ91,92のいずれか一方を閉弁し、いずれか他方を開弁したまま保持し、管材Pの内部に成形液を充填してエア抜きしている。第2の位置Bから第3の位置Cに型締めし、下死点である第3の位置Cで再びスライド26を停止して加圧保持して管材Pを塑性変形させている。
【0041】
第3の位置Cから第4の位置Bに微速でスライド26を上昇させることにより、徐々にバルブ9を開弁して金型3内におけるウォーターハンマー現象やキャビテーション、衝撃波の発生を抑えている。第2の位置Bで再び一時停止し、管材成形品の内部の成形液を排出する。再び第1の位置Aまで型開きし、管材成形品を取り出して次の工程に備えている。
【0042】
図1及び
図2に示された緩衝材23,24は、スライド26の移動に応じて圧縮可能に構成されている。ボルスタ21と下型31との間に配置された下側の緩衝材23は、スライド26の移動に応じて第1の厚みt1から該第1の厚みt1よりも薄い第2の厚みt2に圧縮可能である。スライド26と上型32との間に配置された緩衝材24は、第3の厚みt3から該第3の厚みt3よりも薄い第4の厚みt4に圧縮可能である。
【0043】
図5及び
図6は、下側の緩衝材23が上側の緩衝材24よりも弾性力が小さい場合のスライド26の位置と緩衝材23,24の厚みとを示している。さきほど説明した
図2は、
図4に示された第1の位置Aのスライド26を示す断面図である。
図5は、
図4に示された第2の位置Bのスライド26を示す断面図であり、
図6は、
図4に示された第3の位置Cのスライド26を示す断面図である。
【0044】
スライド26が第1の位置Aに位置しているとき、
図2が参照されるように、下側の緩衝材23の厚みはt1であり、上側の緩衝材24の厚みはt3である。スライド26が移動すると、下側の緩衝材23は、弾性力が大きい上側の緩衝材24よりも先に圧縮されるスライド26が第2の位置Bに位置しているとき、
図5が参照されるように、下側の緩衝材23は第2の厚みt2に圧縮されている。
【0045】
スライド26が位置Bから位置Cに移動すると、下側の緩衝材23に加えて、上側の緩衝材24も圧縮される。スライド26が第3の位置Cに位置しているとき、
図6が参照されるように、上側の緩衝材24は第4の厚みt4に圧縮されている。
【0046】
図2に示された第2伝達機構82は、第2緩衝材24が第3の厚みt3から第4の厚みt4に圧縮されるまで金型3を閉じる動きを第2バルブ92が流路200を閉弁する動きに変換する。同様に、第1伝達機構81は、第1緩衝材23が第1の厚みt1から第2の厚みt2に圧縮されるまで金型3を閉じる動きを第1バルブ91が流路200を閉弁する動きに変換する。
【0047】
図7は、ハイドロフォーミングシステム1を用いたロータの製造方法の一例を説明する流れ図である。
図7に示すように、ハイドロフォーミングシステム1を用いた管材成形品の製造方法は、ステップS1,S3,S4,S6,S7をすべて含み、かつステップS2,S5の少なくとも一方を含んでいることが特徴の一つである。後述するように、多軸サーボプレスを用いてステップS2,S5のいずれか一方を省略することもできる。
【0048】
ステップS1では、管材Pの一例であるロータシャフトをロータコアRの貫通孔に挿通された状態で金型3にセットする。ステップS2では、第1緩衝材23が第1の厚みt1から第2の厚みt2に圧縮されるまで金型3を閉じる動きを第1伝達機構81により第1バルブ91を閉弁する動きに変換する。ステップS3では、第1バルブ91を閉弁する。
【0049】
ステップS4では、第1及び第2バルブ91,92のいずれか一方(例えば、第1バルブ91)が閉弁し、いずれか他方(例えば、第2バルブ92)が開弁した状態において、管材Pに成形液を充填して管材Pから空気を排出する。
【0050】
ステップS5では、第2緩衝材24が第3の厚みt3から第4の厚みt4に圧縮されるまで金型3を閉じる動きを第2伝達機構82により第2バルブ92を閉弁する動きに変換する。ステップS6では、第2バルブ92を閉弁する。なお、各々のステップの順番は、ステップS3が、ステップS6よりも先であってもよいし、ステップS6よりも後であってもよい。
【0051】
ステップS7では、第1及び第2バルブ91,92の双方が閉弁した状態において、管材Pに充填された成形液を加圧して該成形液の液圧により管材Pの一例であるロータシャフトを塑性変形させる。膨張したロータシャフト(管材P)が電磁鋼板などを積層したロータコアRに食い込んで両者が締結され、管材成形品の一例であるモータのロータが製造される。
【0052】
以上のように構成された本実施形態の金型3及び該金型3を用いた管材成形品の製造方法によれば、バルブ9を金型3内に配置することにより流路200を短縮してコンパクトにまとめることができる。プレス機械2から入力される多段モーションなどのスライドモーションを伝達機構8によりバルブ9の動きに変換してバルブ9を徐々に開閉させることができるため、金型内におけるウォーターハンマー現象やキャビテーション、衝撃波の発生を抑えることができる。伝達機構8がくさび機構であるため、プレス機械2内に省スペースで伝達機構8を配置できる。プレス機械2から入力される多段モーションなどのフリーモーションをバルブ9の開閉に滑らかに変換できる。
【0053】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、異なる実施形態で示した構成同士を部分的に置換し又は組み合わせることが可能である。
【0054】
例えば、スライド26を動かすマスタ軸に加えて該マスタ軸から独立して制御できるスレーブ軸を有した多軸のサーボプレスをプレス機械2として用い、第1及び第2伝達機構81,82のいずれか一方を省略し、省略された伝達機構8に対応するバルブ9をスレーブ軸で開閉するように構成してもよい。
【0055】
この態様によれば、何らかのトラブルでプレス機械2が緊急停止してしまったとき、スライド26を動かすマスタ軸を動かせなくなっても、スレーブ軸を操作してバルブ9を開弁できるようになる。管材Pの内部や流路100,200が超高圧の状態でプレス機械2が停止してもバルブ9を開弁して安全に降圧させることができる。
【0056】
また、本発明で成形できる管材Pは円筒形に限定されない。管材Pの形状は、例えば、軸方向に垂直な断面が多角形の角筒状であってもよいし、円弧と弦とで構成された弓形の筒状であってもよいし、断面積が軸方向において徐々に変化する円錐台や角錐台であってもよいし、他の形状であってもよい。また、本発明の金型構造を適用できる管材成形品はロータに限定されない。例えば、卵型のカムに中空のシャフトを挿通する組み立てカムシャフトや拡径部と縮径部とを有した多段の中空シャフトを製造する場合のハイドロフォーミングにおいて、本発明の金型3の構造を適用してもよい。また、本発明を構成する増圧装置4はエアハイドロブースタに限定されない。例えば、電動機付きポンプであってもよいし、他種のポンプであってもよい。これらの態様であっても、先に説明した実施形態と同様に、ハイドロフォーミングシステム1において成形液の流路200をコンパクトに構成できる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、ハイドロフォーミングシステムにおいて成形液の流路をコンパクトに構成できる金型及び該金型を用いた管材成形品の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0058】
1…ハイドロフォーミングシステム、2…プレス機械、3…金型、4…増圧装置、5…タンク、8…伝達機構、9…バルブ、21…ボルスタ、22,25…コモンプレート、23,24…緩衝材、26…スライド、カバー27、31…下型、32…上型、41…第1増圧装置、42…第2増圧装置、81…第1伝達機構、82…第2伝達機構、83…駆動部材、84…被動部材、91…第1バルブ、92…第2バルブ、100,200…流路、110,210…配管、A,B,C…スライドの位置、P…管材、R…ロータコア、S1~S7…管材成形品の製造方法、t1,t2,t3,t4…緩衝材の厚み。