(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022080238
(43)【公開日】2022-05-27
(54)【発明の名称】アルミニウム合金の溶湯の性状を判定する方法
(51)【国際特許分類】
B22D 21/04 20060101AFI20220520BHJP
B22D 2/00 20060101ALI20220520BHJP
B22D 46/00 20060101ALI20220520BHJP
G01N 33/20 20190101ALI20220520BHJP
【FI】
B22D21/04 A
B22D2/00
B22D46/00
G01N33/20 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2020202282
(22)【出願日】2020-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】519342873
【氏名又は名称】株式会社MRDC
(72)【発明者】
【氏名】森中 真行
(72)【発明者】
【氏名】森中 寿真
【テーマコード(参考)】
2G055
【Fターム(参考)】
2G055AA05
2G055AA12
2G055BA14
2G055CA02
(57)【要約】
【課題】 アルミニウム合金の溶湯の性状を炉前で判定できる方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 アルミニウム合金の溶湯を異なる圧力下で凝固させ、それらの鋳塊の比重を測定して単位圧力あたりの比重差によって判定することにより解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金の溶湯を異なる圧力下で凝固させて得られた鋳塊の比重を測定し、単位圧力あたりの比重差によって性状を判定することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記圧力のひとつを大気圧とすることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記大気圧における比重を化学成分から算出した理論比重とする請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルミニウム合金の溶湯の性状を判定する方法、より詳細に述べると、アルミニウム合金の溶湯を鋳造する以前に、炉前でアルミニウム合金の溶湯の性状を判定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金の溶湯の良し悪しは、化学成分を測定しただけでは、その性質を判定することができない。すなわち、アルミニウム合金には酸化しやすいマグネシウムが含有されているために、形成される酸化マグネシウムやスピネルなどの酸化物量によってその性質が異なるからである。また、アルミニウム合金の溶湯には水素ガスが溶解しやすいことから、溶解した水素の量によってその性質が異なるからである。アルミニウム合金の溶湯の良し悪しは、これらのアルミニウム合金の溶湯中の酸化物量と水素量をあわせた溶湯性状により判定することができる。
【0003】
従来、このような溶湯性状を知るためには、溶湯の凝固後に顕微鏡を用いて測定する以外には適当な手段がなかった。しかし、前記方法は、アルミニウム合金の溶湯を鋳型に注入した後の測定検査によって行われるものであって、注入前に鋳造後のアルミニウム合金の性状を予知する的確な方法はなかったのである。
【0004】
一方、溶湯の注入前にJIS規格のKモールド試験を行うことが一般に行われるが、これは専らこれから製造しようとする鋳物の酸化物量だけを確認するためであって、単に溶湯の性状の一部を知るにすぎないものである。また、溶湯の注入時に水素センサー試験を行うことがあるが、これは専らこれから製造しようとする溶湯の水素量だけを確認するためであって、単に溶湯の性状の一部を知るにすぎないものである。
【0005】
そこで、発明者たちは、凝固させる際の圧力を変化させたアルミニウム合金の鋳塊の圧力と比重の関係から、溶湯の性状を判定することに意を用いたのである。ところで、公知技術として、凝固の際に圧力を利用するものとしては、減圧凝固法と呼ばれる方法がある。しかし、これも専らこれから製造しようとする溶湯の水素量だけを確認するためであって、単に溶湯の性状の一部を知るにすぎないものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
解決しようとする問題点は、炉前でアルミニウム合金の溶湯の酸化物量と水素量を合わせた溶湯性状を判定できない点である。そこで、アルミニウム合金の溶湯の酸化物量と水素量を合わせた溶湯性状を、炉前で判定する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するために、この発明はアルミニウム合金の溶湯を第一の試料採取容器に溶湯を注入して、その圧力を測定しながら凝固させて比重を測定することと、第二の試料採取容器に溶湯を注入した後に、前期圧力よりも低い圧力下において圧力を測定しながら凝固させて比重を測定することと、それらの測定された比重と圧力の関係から前記アルミニウム合金の溶湯の性状を判定することを特徴とするものである。
【0008】
第一の試料採取容器の圧力は大気圧であっても構わない。
【0009】
あるいは、前記大気圧で凝固させた鋳塊の比重の代用値として、供試アルミニウム合金溶湯の化学成分の値から算出した理論比重を用いても構わない。
【0010】
ところで、この発明は多くの実験の結果、鋳造しようとするアルミニウム合金溶湯の性状は、鋳塊の単位圧力あたりの比重差によって決定するものであることを確認したことによって完成したものである。すなわち、高い圧力で凝固させた第一の鋳塊と、低い圧力で凝固させた第二の鋳塊の比重を測定して、それらが凝固した圧力差から求めた単位圧力あたりの鋳塊の比重差を調べた結果から、比重差が小さい場合には生成する巣は小さく、それに反して比重差が大きい場合には生成する巣が大きいことを確認したことによって裏付けられるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるアルミニウム合金の溶湯の性状を判定する方法は、炉前で鋳塊の比重差を計測することから、迅速に判定できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】 本発明の第一の試料採取容器と第二の試料採取容器と減圧装置の態様を示した図である。
【
図2】 本発明の溶湯性状を示すm値と溶湯中の酸化物量の関係を示す図である。
【
図3】 本発明の溶湯性状を示すm値と溶湯中の水素量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
アルミニウム合金の溶湯の性状を炉前で判定できる方法を提供するという目的を、アルミニウム合金の溶湯を異なる圧力下で凝固させ、それらの鋳塊の比重を測定して単位圧力あたりの比重差によって判定することにより実現した。
【実施例0014】
この発明の方法を実行するために、
図1に示すように第一の試料採取容器1と第二の試料採取容器2と従来周知の減圧装置3を用意した。
【0015】
次に、供試溶湯を第一の試料採取容器1と第二の試料採取容器2に注入した。
第一の試料採取容器1の溶湯は大気圧(101kPa)で凝固させ、第二の試料採取容器2の溶湯は5kPaで凝固させた。また、第一の試料採取容器1で凝固させた鋳塊の比重R1と第二の試料採取容器2で凝固させた鋳塊の比重R2を測定し、その差を算出した。これらの測定結果より、本供試溶湯の溶湯性状を示すm値は(R1-R2)/(101kPa-5kPa)で示すことができる。
【0016】
これらの2種の試料採取容器1、2に注入するアルミニウム合金の溶湯として、JIS規格のADC12合金の溶湯を溶製した。また、それらの溶湯を保持することにより、生成する酸化物量を変化させるとともに水素量を変化させた。
【0017】
これらの各種の溶湯について、この発明の方法によって測定した溶湯性状を示すm値と共に、Kモールド法によるK値と、水素センサーによる水素量を測定して関係を調べた。その結果、酸化物量を示すK値と本発明により溶湯性状を示すm値の関係を作図すると
図2に示す通りであって、両者間には相関関係があることが判る。次に、水素量と本発明による溶湯性状を示すm値の関係を作図すると
図3に示す通りであって、両者間には相関関係があることが判る。
【0018】
本発明により溶湯性状を示すm値が1以下の鋳塊を切断して断面の観察を行ったところ、巣はほとんど見られなかった。よって、m値が1以下と小さな溶湯の性状は良いと言える。一方、本発明により溶湯性状を示すm値が4以上の鋳塊を切断して断面の観察を行ったところ、巣が多く形成されていた。よって、m値が4以上と大きな溶湯の性状は悪いと言える。
【0019】
以上に述べた通り、この発明によれば、アルミニウム合金の溶湯を鋳型に注入する以前に、その溶湯によってアルミニウム合金の性状を判定することができる。
本発明に係るアルミニウム合金溶湯の性状を判定する方法は、炉前で鋳塊の比重差を計測することから迅速に判定できるという利点がある。このため、産業上の利用の可能性を有する。