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特開2022-80269樹脂組成物、平板状成形体、多層体および成形品の製造方法
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  • 特開-樹脂組成物、平板状成形体、多層体および成形品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022080269
(43)【公開日】2022-05-27
(54)【発明の名称】樹脂組成物、平板状成形体、多層体および成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20220520BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20220520BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220520BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20220520BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K5/521
C08J5/18 CFD
B32B27/36 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021165844
(22)【出願日】2021-10-08
(31)【優先権主張番号】P 2020190665
(32)【優先日】2020-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】山口 円
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 香里
(72)【発明者】
【氏名】冨田 恵介
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA50
4F071AA81
4F071AC15
4F071AE04
4F071AF30
4F071AF57
4F071AH07
4F071AH12
4F071AH19
4F071BA01
4F071BB06
4F071BC01
4F071BC12
4F100AK25B
4F100AK45A
4F100AK45J
4F100AT00
4F100DA20
4F100EH202
4F100EJ393
4F100EJ403
4F100JA05
4F100JK11
4F100JK12
4J002CG001
4J002CG002
4J002EW046
(57)【要約】      (修正有)
【課題】アクリル樹脂層と共に熱曲げ成形をしたときでも、スプリングバックが発生せず、かつ、耐湿熱性に優れた多層体を提供可能なポリカーボネート樹脂フィルムまたはシートを製造するための、樹脂組成物、ならびに、前記樹脂組成物を用いた、平板状成形体、多層体および成形品の製造方法の提供。
【解決手段】下式で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂70~99質量部と、リン酸エステルを1~12質量部と、前記芳香族ポリカーボネート樹脂以外の他の熱可塑性樹脂0~29質量部とを含む、樹脂組成物。式中、Rは、炭素数8~36のアルキル基、または、炭素数8~30のアルケニル基を表す。

【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂70~99質量部と、
リン酸エステルを1~12質量部と、
前記式(1)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂以外の他の熱可塑性樹脂0~29質量部とを含む、樹脂組成物。
【化1】

(式(1)中、Rは、炭素数8~36のアルキル基、または、炭素数8~30のアルケニル基を表す。Rは、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、または、炭素数6~12のアリール基を表す。nは0~4の整数を表す。*は、他の部位との結合部位である。)
【請求項2】
前記他の熱可塑性樹脂が式(2)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【化2】

(式(2)中、Rは、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、または、炭素数6~12のアリール基を表す。t-Buは、t-ブチル基を表す。nは0~4の整数を表す。*は、他の部位との結合部位である。)
【請求項3】
前記樹脂組成物の示差走査熱量測定によるガラス転移温度が120℃以下である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂組成物の示差走査熱量測定によるガラス転移温度が100℃以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記リン酸エステルが、芳香環を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記樹脂組成物を100μmの厚さの平板状成形体に成形し、85℃、相対湿度85%で200時間処理した後のヘイズが20%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記樹脂組成物を85℃、相対湿度85%で200時間処理したとき、処理前後の重量平均分子量(Mw)の差が10,000以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成された平板状成形体。
【請求項9】
厚みが10~5,000μmである、請求項8に記載の平板状成形体。
【請求項10】
請求項8または9に記載の平板状成形体と、アクリル樹脂を含む層とを有する多層体。
【請求項11】
前記多層体の総厚みが10~10,000μmである、請求項10に記載の多層体。
【請求項12】
さらに、ハードコート層を有し、前記ハードコート層は、平板状成形体、アクリル樹脂を含む層、ハードコート層の順に積層している、請求項10または11に記載の多層体。
【請求項13】
請求項10~12のいずれか1項に記載の多層体から形成された成形品であって、曲率半径が50mmR以下の部位を有する、成形品。
【請求項14】
請求項10~12のいずれか1項に記載の多層体を105~117℃で熱曲成形することを含む、成形品の製造方法。
【請求項15】
前記成形品が、曲率半径が50mmR以下の部位を有する、請求項14に記載の成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、平板状成形体、多層体および成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、透明性に優れることに加え、ガラスと比較して加工性、耐衝撃性に優れ、また、他のプラスチック材料に比べて有毒ガスを発生させる心配もないため、様々な分野で広く用いられており、真空成形や圧空成形などの熱成形用材料としても使用されている。
【0003】
一方、ポリカーボネート樹脂は、一般的に表面硬度が低いため、ポリカーボネート樹脂からなる成形品の表面に傷が入り易い傾向にある。そこで、ポリカーボネート樹脂をフィルム状にした場合、表面にアクリル樹脂を含む層やハードコート層(保護層)を形成し、製品表面に傷が入らないようにすることが検討されている。
例えば、特許文献1には、芳香族ポリカーボネート(A1)と他の樹脂(A2)とのポリマーアロイからなるポリカーボネート系樹脂組成物(A)を主成分とする基材層の片面に、アクリル系樹脂(B)を主成分とする被覆層を備えた積層シートであって、該ポリカーボネート系樹脂組成物(A)と該アクリル系樹脂(B)とのガラス転移温度の差の絶対値が30℃以内であることを特徴とする成形用樹脂シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-196153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、ポリカーボネート樹脂から形成されたフィルムまたはシートに、アクリル樹脂層、ハードコート層の多層体を形成した場合、一般的にアクリル樹脂はポリカーボネート樹脂に比べてガラス転移温度が低いため、熱成形した時、特に、曲率半径が小さい金型を用いて成形した時に、アクリル樹脂層が伸びすぎて、ハードコートが変形に追従できず、ハードコート層にクラックが発生する場合がある。これを解消するために低温で熱成形し、アクリルの変形量を抑えることが考えられるが、低温で多層体の熱曲げ成形を行うと、熱曲げ後に多層体が元の形に戻る現象(スプリングバック)が発生する。さらに上記多層体の湿熱耐性試験を行った場合に、外観に変化が生じる場合があることが分かった。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、アクリル樹脂層と共に熱曲げ成形をしたときでも、スプリングバックが発生せず、かつ、耐湿熱性に優れた多層体を提供可能なポリカーボネート樹脂フィルムまたはシートを製造するための樹脂組成物、ならびに、前記樹脂組成物を用いた、平板状成形体、多層体および成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、所定の末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂とリン酸エステルを含む樹脂組成物を用いることにより、上記課題を解決しうることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>式(1)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂70~99質量部と、リン酸エステルを1~12質量部と、前記式(1)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂以外の他の熱可塑性樹脂0~29質量部とを含む、樹脂組成物。
【化1】

(式(1)中、Rは、炭素数8~36のアルキル基、または、炭素数8~30のアルケニル基を表す。Rは、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、または、炭素数6~12のアリール基を表す。nは0~4の整数を表す。*は、他の部位との結合部位である。)
<2>前記他の熱可塑性樹脂が式(2)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を含む、<1>に記載の樹脂組成物。
【化2】

(式(2)中、Rは、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、または、炭素数6~12のアリール基を表す。t-Buは、t-ブチル基を表す。nは0~4の整数を表す。*は、他の部位との結合部位である。)
<3>前記樹脂組成物の示差走査熱量測定によるガラス転移温度が120℃以下である、<1>または<2>に記載の樹脂組成物。
<4>前記樹脂組成物の示差走査熱量測定によるガラス転移温度が100℃以上である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<5>前記リン酸エステルが、芳香環を含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<6>前記樹脂組成物を100μmの厚さの平板状成形体に成形し、85℃、相対湿度85%で200時間処理した後のヘイズが20%以下である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<7>前記樹脂組成物を85℃、相対湿度85%で200時間処理したとき、処理前後の重量平均分子量(Mw)の差が10,000以下である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<8><1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された平板状成形体。
<9>厚みが10~5,000μmである、<8>に記載の平板状成形体。
<10><8>または<9>に記載の平板状成形体と、アクリル樹脂を含む層とを有する多層体。
<11>前記多層体の総厚みが10~10,000μmである、<10>に記載の多層体。
<12>さらに、ハードコート層を有し、前記ハードコート層は、平板状成形体、アクリル樹脂を含む層、ハードコート層の順に積層している、<10>または<11>に記載の多層体。
<13><10>~<12>のいずれか1つに記載の多層体から形成された成形品であって、曲率半径が50mmR以下の部位を有する、成形品。
<14><10>~<12>のいずれか1つに記載の多層体を105~117℃で熱曲成形することを含む、成形品の製造方法。
<15>前記成形品が、曲率半径が50mmR以下の部位を有する、<14>に記載の成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、アクリル樹脂層と共に熱曲げ成形をしたときでも、スプリングバックが発生せず、かつ、耐湿熱性に優れた多層体を提供可能なポリカーボネート樹脂フィルムまたはシートを製造するための樹脂組成物、ならびに、前記樹脂組成物を用いた、平板状成形体、多層体および成形品の製造方法を提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の多層体の層構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書における平板状成形体および多層体は、それぞれ、フィルムまたはシートの形状をしているものを含む趣旨である。「フィルム」および「シート」とは、それぞれ、長さと幅に対して、厚さが薄く、概ね、平らな成形体をいう。「フィルム」と「シート」について、明確な区分はないが、一般的には250μm以下の厚みのものを「フィルム」、250μm以上の厚みのものを「シート」と呼ぶ。また、本明細書における「フィルム」および「シート」は、単層であっても多層であってもよい。
なお、本明細書における「質量部」とは成分の相対量を示し、「質量%」とは成分の絶対量を示す。
本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリルおよびメタクリルの双方、または、いずれかを表す。
また、本明細書では、本実施形態の樹脂組成物から形成された平板状成形体を「ポリカ―ボート樹脂フィルム」、「ポリカーボネート樹脂シート」、アクリル樹脂を含む層を「アクリル樹脂層」と称することがある。
本明細書で示す規格が年度によって、測定方法等が異なる場合、特に述べない限り、出願時点における規格に基づくものとする。
【0010】
本実施形態の樹脂組成物は、式(1)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂70~99質量部と、リン酸エステルを1~12質量部と、前記式(1)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂以外の他の熱可塑性樹脂0~29質量部とを含むことを特徴とする。このような構成とすることにより、スプリングバックが発生せず、かつ、耐湿熱性に優れた多層体を提供可能なポリカーボネート樹脂フィルムまたはシートを提供可能になる。さらに、初期ヘイズおよび湿熱試験後のヘイズが低く、また、湿熱試験後の分子量変化が小さい、ポリカーボネート樹脂フィルムまたはシートが得られる。加えて、アクリル樹脂層と前記ポリカーボネート樹脂フィルムまたはシートを多層体としたときに、フローマークの発生および異物の発生を抑制し、熱曲げ後のクラックの発生を抑制することができる。
【化3】

(式(1)中、Rは、炭素数8~36のアルキル基、または、炭素数8~30のアルケニル基を表す。Rは、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、または、炭素数6~12のアリール基を表す。nは0~4の整数を表す。*は、他の部位との結合部位である。)
【0011】
この理由は、所定の末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を用い、かつ、リン酸エステルを配合することにより、樹脂組成物のガラス転移温度を低くしつつ、他の性能に影響を与えにくくすることができると推測された。そして、その結果、樹脂組成物の湿熱試験後の熱劣化を抑制できた。さらに、ポリカーボネート樹脂フィルムまたはシートとアクリル樹脂層の多層体としたときに、ポリカーボネート樹脂フィルムまたはシートとアクリル樹脂層のガラス転移温度の差が小さくなるため、熱曲げ特性に優れた多層体となると推測された。
樹脂に添加剤を配合すると、ガラス転移温度は低くなるが、通常、他の性能に悪影響を及ぼしてしまう。例えば、亜リン酸エステルは、樹脂中の過酸化物と反応しやすい。本実施形態では、添加剤として種々検討し、リン酸エステルが適していることを見出したものである。
【0012】
<芳香族ポリカーボネート樹脂>
本実施形態の樹脂組成物は、式(1)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を含む。式(1)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を用いることにより、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度を低くすることができる。
【化4】

(式(1)中、Rは、炭素数8~36のアルキル基、または、炭素数8~30のアルケニル基を表す。Rは、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、または、炭素数6~12のアリール基を表す。nは0~4の整数を表す。*は、他の部位との結合部位である。)
【0013】
は、炭素数8~36のアルキル基、または、炭素数8~30のアルケニル基を表し、炭素数10以上のアルキル基またはアルケニル基であることが好ましく、12以上のアルキル基またはアルケニル基であることがより好ましく、さらに14以上のアルキル基またはアルケニル基であることが好ましい。これにより樹脂のガラス転移温度を低くし、多層体の熱曲げ性が向上する。また、Rは、炭素数22以下のアルキル基またはアルケニル基であることが好ましく、18以下のアルキル基またはアルケニル基であることがより好ましい。これにより、他の樹脂との相溶性が向上する。Rは、アルキル基であることが好ましい。アルキル基およびアルケニル基は、直鎖または分岐のアルキル基またはアルケニル基であることが好ましく、直鎖のアルキル基またはアルケニル基であることがより好ましい。
本実施形態では、Rは、特に、ヘキサデシル基であることが好ましい。
また、Rは、メタ位、パラ位、オルト位のいずれに位置していてもよいが、メタ位またはパラ位に位置していることが好ましく、パラ位に位置していることがより好ましい。
【0014】
は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、または、炭素数6~12のアリール基を表し、フッ素原子、塩素原子、メチル基、エチル基、または、フェニル基であることが好ましく、フッ素原子、塩素原子またはメチル基であることがより好ましい。
nは0~4の整数を表し、0~2の整数であることが好ましく、0または1であることがより好ましく、0であることがさらに好ましい。
【0015】
式(1)で表される末端構造は、パラヒドロキシ安息香酸ヘキサデシルエステル等の末端封止剤を用いることによって、ポリカーボネート樹脂に付加することができる。これらの詳細は、特開2019-002023号公報の段落0022~0030の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
本実施形態における式(1)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂は、式(1)で表される末端構造が1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0016】
本実施形態では、式(1)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂は、ビスフェノール型ポリカーボネート樹脂であることが好ましく、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂であることがより好ましい。また、ビスフェノール型ポリカーボネート樹脂の50モル%以上が式(1)で表される末端構造を少なくとも1つ有することが好ましい。
【0017】
ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂は、また、ビスフェノールAおよびその誘導体由来のカーボネート構成単位以外の他の構成単位を有していてもよい。このような他の構成単位を構成するジヒドロキシ化合物としては、例えば、特開2018-154819号公報の段落0014に記載の芳香族ジヒドロキシ化合物を挙げることができ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
本実施形態におけるビスフェノール型ポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールAおよびその誘導体由来のカーボネート構成単位が、末端構造を除く全構成単位の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましく、97質量%以上を占めることがさらに好ましい。
【0018】
ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。
【0019】
式(1)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量は、特に、定めるものではないが、10,000以上であることが好ましく、20,000以上であることがより好ましく、30,000以上であることがさらに好ましく、40,000以上であることが一層好ましく、50,000以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、多層体の耐衝撃性や成形時のフローマークの抑制がより向上する傾向にある。また、式(1)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量は、200,000以下であることが好ましく、150,000以下であることがより好ましく、100,000以下であることがさらに好ましく、80,000以下であることが一層好ましく、60,000以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、多層体の成形性が向上する傾向にある。
【0020】
本実施形態で用いる式(1)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、145℃以下であることが好ましく、140℃以下であることがより好ましく、135℃以下であることがさらに好ましく、130℃以下であることが一層好ましく、125℃以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、多層体の熱曲げ成形性がより向上する傾向にある。また、本実施形態で用いる式(1)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、121℃以上であることが好ましく、122℃以上であることがより好ましく、123℃以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、湿熱試験、高温試験などの耐環境試験の耐久性がより向上する傾向にある。
【0021】
<他の熱可塑性樹脂>
本実施形態の樹脂組成物は、式(1)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂以外の他の熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。他の熱可塑性樹脂を含むことにより、樹脂のガラス転移温度を調整しつつ、湿熱試験、高温試験などの耐環境試験の耐久性が向上する傾向にある。
他の熱可塑性樹脂は、式(1)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂と溶融ブレンドできる熱可塑性樹脂であれば、特に定めるものではなく、公知の熱可塑性樹脂を採用できる。
他の熱可塑性樹脂は、式(1)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂以外の他のポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂(好ましくは芳香族ポリエステル樹脂)、アクリル樹脂(好ましくは芳香族アクリル樹脂)が例示され、式(1)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂以外の他のポリカーボネート樹脂が好ましい。
前記他のポリカーボネート樹脂としては、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましく、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂がより好ましい。
前記他のポリカーボネート樹脂は、また、式(2)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂であることが好ましい。このような芳香族ポリカーボネート樹脂を用いることにより、上記の効果に加え平板状成形体の透明性がより向上する傾向にある。
【化5】

(式(2)中、Rは、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、または、炭素数6~12のアリール基を表す。t-Buは、t-ブチル基を表す。nは0~4の整数を表す。*は、他の部位との結合部位である。)
【0022】
式(2)中、Rおよびnは、それぞれ、式(1)におけるRおよびnと同義であり、好ましい範囲も同様である。
本実施形態における式(2)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂は、式(2)で表される末端構造が1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0023】
本実施形態では、式(2)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂であることが好ましい。また、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂の50モル%以上が式(2)で表される末端構造を少なくとも1つ有することが好ましい。
【0024】
ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂は、また、ビスフェノールAおよびその誘導体由来のカーボネート構成単位以外の他の構成単位を有していてもよい。このような他の構成単位を構成するジヒドロキシ化合物としては、例えば、特開2018-154819号公報の段落0014に記載の芳香族ジヒドロキシ化合物を挙げることができ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
本実施形態におけるビスフェノール型ポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールAおよびその誘導体由来のカーボネート構成単位が、末端構造を除く全構成単位の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましく、97質量%以上を占めることがさらに好ましい。
【0025】
他の熱可塑性樹脂(好ましくは式(2)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂)の重量平均分子量は、特に、定めるものではないが、10,000以上であることが好ましく、20,000以上であることがより好ましく、30,000以上であることがさらに好ましく、40,000以上であることが一層好ましく、50,000以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、多層体の耐衝撃性や成形時のフローマークの抑制がより向上する傾向にある。また、他の熱可塑性樹脂(好ましくは、式(2)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂)の重量平均分子量は、200,000以下であることが好ましく、150,000以下であることがより好ましく、100,000以下であることがさらに好ましく、80,000以下であることが一層好ましく、60,000以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、式(1)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂との相溶性が向上し、成形品の透明性がより向上する傾向にある。
【0026】
本実施形態で用いる他の熱可塑性樹脂(好ましくは式(2)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂)のガラス転移温度は、155℃以下であることが好ましく、154℃以下であることがより好ましく、153℃以下であることがさらに好ましく、152℃以下であることが一層好ましく、151℃以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、多層体の熱曲げ成形性がより向上する傾向にある。また、本実施形態で用いる他の熱可塑性樹脂(好ましくは式(2)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂)のガラス転移温度は、145℃以上であることが好ましい。前記下限値以上とすることにより、湿熱試験、高温試験などの耐環境試験の耐久性がより向上する傾向にある。
【0027】
<リン酸エステル>
本実施形態の樹脂組成物は、リン酸エステルを含む。リン酸エステルを含むことにより、得られるポリカーボネート樹脂フィルムまたはシートのガラス転移温度を低くすることができると共に、他の性能への影響を抑制することができる。
リン酸エステルは、その種類等特に定めるものではなく公知の化合物を広く用いることができる。
リン酸エステルは、芳香環を含むことが好ましく、芳香環を2つ以上含むことがより好ましく、芳香環を2~10つ含むことがさらに好ましい。芳香環を含むことにより、(芳香族樹脂化合物との相溶性が向上し、成形品の透明性が向上する。また、リン酸エステルは、縮合リン酸エステルおよびそれらの誘導体化合物や、それらの縮合物であることが好ましい。縮合リン酸エステルおよびそれらの誘導体化合物や、それらの縮合物を用いると、通常のリン酸エステルよりも揮発性が低く、成形加工時のガスが発生しにくい。また通常のリン酸エステルよりも分子量が大きく、樹脂全体の機械物性の低下を防ぐことができる。さらに、本実施形態では、リン酸エステルは、芳香族縮合リン酸エステル、およびそれらの誘導体化合物や、それらの縮合物であることが好ましく、芳香族縮合リン酸エステルであることがさらに好ましい。
リン酸エステルは、さらに、ハロゲン原子を含んでいてもよいが、ハロゲン原子を含まないことが好ましい。
リン酸エステルの分子量は、500~1500であることが、樹脂成分との相溶性・分散性の観点から好ましい。
【0028】
本実施形態で用いることができるリン酸エステルとしては、以下のものが例示される。
・モノエチルホスフェート、モノブチルホスフェート、メチルアッシドホスフェート、エチルアッシドホスフェート、ブチルアッシドホスフェート、ジブチルホスフェート、トリメチルフォスフェート(TMP)、トリエチルフォスフェート(TEP)、トリフェニルフォスフェート(TPP)、トリクレジルホスフェート(TCP)、トリキシレニルホスフェート(TXP)、クレジルジフェニルホスフェート(CDP)、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェート(EHDP)等の芳香族リン酸エステル、およびそれらの誘導体化合物や、それらの縮合物。
・オキシ塩化リンと二価のフェノール系化合物、およびフェノール(またはアルキルフェノール)との反応生成物。例えば、レゾルシノールビス-ジフェニルホスフェート、レゾルシノールポリ(ジ-2,6-キシリル)ホスフェート、ビスフェノールAポリクレジルホスフェート等の芳香族縮合リン酸エステル、およびそれらの誘導体化合物や、それらの縮合物。
【0029】
・トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(クロロプロピル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、ビス(2,3-ジブロモプロピル)-2,3-ジクロロプロピルホスフェート、ビス(クロロプロピル)オクチルホスフェート等、およびそれらの誘導体化合物や、それらの縮合物。
【0030】
市販品としては、例えば、城北化学(株)製の「JAMP-2」、「JAMP-4P」、「JP-501」、「JP-502」、「JP-504」、「DBP」、大八化学工業(株)製の、「TMP」、「TEP」、「TPP」、「TCP」、「TXP」、「CDP」、「PX-110」、「#41」、「CR-733S」、「CR-741」、「PX-200」、「DAIGUARD-400/540/580/610」、「TMCPP」、「CRP」、「CR-900」、「CR-504L」、「CR-570」、「DAIGUARD-540」等が挙げられる。
【0031】
本実施形態の樹脂組成物におけるリン酸エステルの含有量は、樹脂組成物中、1~12質量%であることが好ましい。1質量%以上とすることにより、スプリングバックを効果的に抑制することができ、12質量%以下とすることにより、熱成形後の多層体の反りを効果的に抑制できる。前記リン酸エステルの含有量の上限値は、8質量%以下であることが好ましく、6質量%以下であることがより好ましい。また下限値は1.5%以上が好ましく、2%以上がより好ましい。
【0032】
<各成分のブレンド>
本実施形態の樹脂組成物における式(1)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂と、リン酸エステルと、前記他の熱可塑性樹脂のブレンド比は、70~99質量部:1~12質量部:0~29質量部であり、74~99質量部:1~8質量部:0~25質量部であることがより好ましい。このような比率とすることにより、熱曲げ特性等にバランスよく優れた樹脂組成物が得られる。
本実施形態の樹脂組成物が他の熱可塑性樹脂を含まない場合、式(1)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂とリン酸エステルのブレンド比率が、90~99質量部:10~1質量部であることが好ましく、93~98質量部:7~2質量部であることがより好ましく、94~98質量部:6~2質量部であることがさらに好ましい。
本実施形態の樹脂組成物が他の熱可塑性樹脂を含む場合、式(1)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂とリン酸エステルと他の熱可塑性樹脂のブレンド比は、70~94質量部:1~12質量部:5~35質量部であることが好ましく、70~80質量部:2~7質量部:10~30質量部であることがより好ましい。なお、前記他の熱可塑性樹脂は、上述のとおり、好ましくは芳香族ポリカーボネート樹脂であり、より好ましくは式(2)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂ある。
本実施形態の樹脂組成物は、式(1)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂と、リン酸エステルと、前記他の熱可塑性樹脂の合計量が、樹脂組成物の95質量%以上を占めることが好ましく、98質量%以上を占めることが好ましく、99質量%以上であってもよい。また、前記合計量の上限は100質量%以下である。
本実施形態の樹脂組成物は、式(1)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂、リン酸エステル、および、必要に応じ配合される前記他の熱可塑性樹脂を、それぞれ1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含まれる場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0033】
<その他の成分>
本実施形態の樹脂組成物は、上記の他、離型剤、熱安定剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、衝撃改良剤、摺動改良剤、色相改良剤、酸トラップ剤等を含んでいてもよい。これらの成分は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記他の成分の合計量は、含有する場合、樹脂組成物の0.001~5質量%であることが好ましく、0.001~2質量%であることがより好ましく、0.01~1質量%であることがさらに好ましい。アンチブロッキングとは、フィルム同士の密着を抑制する効果のことをいい、アンチブロッキング剤を添加すること等によって達成できる。
【0034】
<<離型剤>>
本実施形態の樹脂組成物は、離型剤を含むことが好ましい。離型剤を含むことにより、離型性により優れたポリカーボネート樹脂フィルムまたはシートが得られる。
離型剤としては、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200~15,000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルの群から選ばれる少なくとも1種の化合物を挙げることができ、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルが好ましい。
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例として、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等を挙げることができる。
その他、離型剤としては、特開2017-226848号公報の段落0032、特開2018-199745号公報の段落0056に記載の離型剤を用いることができ、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0035】
樹脂組成物中の離型剤の含有量は、含有する場合、樹脂成分100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.005質量部以上であり、また、好ましくは2質量部以下、より好ましくは1質量部以下、さらに好ましくは0.5質量部以下である。
離型剤は、1種のみ用いてもよいし、2種以上用いてもよい。2種以上用いる場合は、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0036】
<樹脂組成物の物性>
本実施形態の樹脂組成物は、示差走査熱量測定によるガラス転移温度が120℃以下であることが好ましく、119℃以下であることがより好ましく、118℃以下であることがさらに好ましく、117℃以下であることが一層好ましく、116℃以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、熱曲げ時におけるスプリングバックの抑制効果がより向上する傾向にある。また、本実施形態の樹脂組成物は、示差走査熱量測定によるガラス転移温度が100℃以上であることが好ましく、102℃以上であることがより好ましく、105℃以上であることがさらに好ましく、107℃以上であることが一層好ましく、110℃以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、湿熱試験、高温試験などの耐環境試験の耐久性がより向上する傾向にある。
ガラス転移温度は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
【0037】
本実施形態の樹脂組成物は、耐湿熱試験後の透明性に優れていることが好ましい。
具体的には、本実施形態の樹脂組成物は、100μmの厚さの平板状成形体に成形し、85℃、相対湿度85%で200時間処理した後のヘイズが20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましく、2%以下であることが一層好ましく、1%以下であることがより一層好ましい。前記ヘイズの下限値は、0%が理想であるが、0.01%以上が実際的である。
本実施形態の樹脂組成物は、また、85℃、相対湿度85%で200時間処理したとき、処理前後の重量平均分子量(Mw)の差が10,000以下であることが好ましく、8,000以下であることがより好ましく、6,000以下であることがさらに好ましい。前記差の下限値は0が理想であるが、100以上が実際的である。
【0038】
<平板状成形体>
本実施形態の樹脂組成物は、平板状成形体に加工して用いることが好ましい。すなわち、本実施形態の平板状成形体は、本実施形態の樹脂組成物から形成される。本実施形態の平板状成形体は、耐湿熱性に優れる。
平板状成形体としては、プレート、フィルム、シート等が例示される。また、平板状成形体は、詳細を後述するとおり、他の基材等に積層された多層体に含まれていてもよい。また、本実施形態の平板状成形体は、多層体の一部に組み込まれた後に、曲げ加工などが施されていてもよい。
平板状成形体の厚さは、下限値が10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、50μm以上であることがさらに好ましく、100μm以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、成形がより容易となるとともに、硬度が向上する傾向にある。また、平板状成形体の厚さの上限に特に制限は無いが、5,000μm以下であることが実際的である。
本実施形態の平板状成形体は、射出成形やTダイによる押出成形などにより成形される。
【0039】
<多層体>
本実施形態の平板状成形体は、多層体として用いることができる。本実施形態の多層体は、本実施形態の平板状成形体と、アクリル樹脂を含む層(アクリル樹脂層)とを有する。
多層体の厚さ(総厚み)に特に制限はないが、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましい。また、多層体の厚さは、10,000μm以下であることが好ましく、5,000μm以下であることがより好ましく、2,000μm以下であってもよい。
本実施形態の多層体は、さらに、ハードコート層を含むことが好ましい。ハードコート層を設けることにより、多層体の表面硬度がより向上する傾向にある。前記ハードコート層は、平板状成形体、アクリル樹脂を含む層、ハードコート層の順に積層していることが好ましい。
図1は、本実施形態の多層体の一例を示す模式図であって、上述のとおり、1は多層体を、2は平板状成形体(ポリカーボネート樹脂フィルムまたはシート)を、3はアクリル樹脂層を、4はハードコート層を示している。平板状成形体2、アクリル樹脂層3およびハードコート層4は、前記順に積層していれば、本実施形態の趣旨を逸脱しない範囲で、他の層を有していてもよいが、他の層を有していない、すなわち、互いに隣接していることが好ましい。
【0040】
次に、アクリル樹脂層について説明する。本実施形態の多層体に含まれるアクリル樹脂層は、アクリル樹脂を含む層(好ましくは層の80質量%以上が、より好ましくは層の90質量%以上がアクリル樹脂である層)である。本実施形態の多層体がこのようなアクリル樹脂層を含むことにより、多層体の硬度(特に、鉛筆硬度)がより向上する傾向にある。
アクリル樹脂層の厚さは、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、40μm以上であることがさらに好ましく、60μm以上であることが一層好ましく、80μm以上であることがより一層好ましい。またアクリル樹脂層の厚さの上限は、300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、180μm以下であることがさらに好ましく、150μm以下であることが一層好ましく、120μm以下であることがより一層好ましい。このような層厚みとすることにより、十分な耐擦傷性や耐衝撃性が得られる。
【0041】
本実施形態で用いるアクリル樹脂は、(メタ)アクリレートの重合体または(メタ)アクリレートと(メタ)アクリレート以外の他のモノマーの重合体であり、その種類には特に制限はない。(メタ)アクリレートと(メタ)アクリレート以外の他のモノマーの重合体は、(メタ)アクリレートの割合が50モル%以上であることが好ましく、60モル%以上であることがより好ましい。
(メタ)アクリレートは、脂肪族(メタ)アクリレートであっても、芳香族(メタ)アクリレートであってもよく、脂肪族(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。脂肪族(メタ)アクリレートを主成分(例えば、90質量%以上)とする重合体を用いることにより、得られる多層体の異物の発生を効果的に抑制することができる。
また、(メタ)アクリレート以外の他のモノマーとしては、スチレン等のスチレンモノマー、無水マレイン酸、N-フェニルマレイミド等のマレイミドモノマー、グルタル酸、グルタルイミドが例示される。また、ラクトン環単位を形成するようなモノマーも好ましく用いられる。
【0042】
本実施形態においては、アクリル樹脂は、脂肪族(メタ)アクリレートとして、例えば、メチルメタクリレート、メチルアクリレートおよびエチルアクリレートの少なくとも1種の重合体を挙げることができる。中でも、主成分(例えば、85質量%以上)がメチルメタクリル酸より重合されるメチルメタクリル樹脂(PMMA:ポリメチル(メタ)アクリレートともいう)が好ましい。
【0043】
アクリル樹脂の重量平均分子量は、特に、定めるものではないが、10,000以上であることが好ましく、30,000以上であることがより好ましく、50,000以上であることがさらに好ましく、60,000以上であることが一層好ましく、70,000以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、熱曲げ時のクラック発生を効果的に抑制できる傾向にある。また、アクリル樹脂の重量平均分子量は、250,000以下であることが好ましく、200,000以下であることがより好ましく、150,000以下であることがさらに好ましく、100,000以下であることが一層好ましく、90,000以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、多層体成形時のフローマーク発生の抑制効果がより向上する傾向にある。
【0044】
本実施形態で用いるアクリル樹脂層のガラス転移温度は、113℃以上であることが好ましく、114℃以上であることがより好ましく、115℃以上であることがさらに好ましく、117℃以上であることが一層好ましく、120℃以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、多層体の熱曲げ成形時における成形品のクラック発生防止効果がより向上する傾向にある。上限値は特に定めるものではないが、例えば、200℃以下が実際的である。
【0045】
アクリル樹脂層は、アクリル樹脂を含む組成物(アクリル樹脂層形成用組成物)から形成されることが好ましい。アクリル樹脂を含む組成物は、アクリル樹脂に加え、本実施形態の趣旨を逸脱しない範囲で、他の成分を含んでいてもよい。他の成分は、具体的には、他の熱可塑性樹脂、熱安定剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、衝撃改良剤、摺動改良剤、色相改良剤、酸トラップ剤等が挙げられる。これらの成分は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
アクリル樹脂層形成用組成物における上記他の成分の合計量は、含有する場合、組成物の0.001~5質量%であることが好ましく、0.001~2質量%であることがより好ましく、0.01~1質量%であることがさらに好ましい。
【0046】
次に、ハードコート層の詳細について説明する。本実施形態の多層体に含まれていてもよいハードコート層は、ポリカーボネート樹脂フィルムまたはシートよりも、表面硬度が高い層である。このようなハードコート層を含むことにより、多層体ないし成形品の表面硬度を高めることができる。
ハードコート層の厚さは、0.5μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、2μm以上であることがさらに好ましく、4μm以上であることが一層好ましく、5μm以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、ハードコート層による多層体全体の鉛筆硬度がより向上する傾向にある。ハードコート層の厚さの上限は、20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましく、12μm以下であることがさらに好ましく、10μm以下であることが一層好ましく、8μm以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、熱曲げ時の加工性がより向上する傾向にある。
【0047】
ハードコート層は、熱硬化または活性エネルギー線による硬化が可能なハードコート材料を塗布後、硬化させて得られるものが好ましい。
活性エネルギー線を用いて硬化させる塗料の一例としては、1官能あるいは多官能(好ましくは2~10官能)の(メタ)アクリレートモノマーあるいはオリゴマーなどの単独あるいは複数からなる樹脂組成物が挙げられ、好ましくは、1官能あるいは多官能(好ましくは2~10官能)ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを含む樹脂組成物等が挙げられる。これらの樹脂組成物には、硬化触媒として光重合開始剤が加えられることが好ましい。
また、熱硬化型樹脂塗料としてはポリオルガノシロキサン系、架橋型アクリル系などのものが挙げられる。この様な樹脂組成物は、アクリル樹脂またはポリカーボネート樹脂フィルムまたはシート用ハードコート剤として市販されているものもあり、塗装ラインとの適正を加味し、適宜選択すればよい。
ハードコート層としては、特開2013-020130号公報の段落0045~0055の記載、特開2018-103518号公報の段落0073~0076の記載、特開2017-213771号公報の段落0062~0082の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0048】
本実施形態の多層体には、上記の他、他の層を有していてもよい。具体的には、接着層、粘着層、防汚層等が例示される。
【0049】
また、多層体は、少なくとも一方の面上に、耐指紋処理、防眩処理、耐候性処理、帯電防止処理、防汚染処理およびアンチブロッキング処理のいずれか一つ以上が施されていてもよい。このときの多層体の最表面の一例として、ハードコート層が挙げられる。また、アンチブロッキング処理とは、フィルム同士が密着しても容易に剥離できるようにする処理をいい、アンチブロッキング剤を添加すること、多層体の表面に凹凸を設けることなどが例示される。
本実施形態の多層体は、本実施形態の樹脂組成物を押出するメイン押出機と、アクリル樹脂層形成用組成物を押出するサブ押出機とを用い、各々用いる樹脂の条件にて樹脂を溶融し押し出しダイに導き、ダイ内部で積層しシート状に成形する、もしくはシート状に成形した後に積層することで多層体を形成することができる。
【0050】
<成形品および成形品の製造方法>
次に、本実施形態の多層体を用いた成形品および成形品の製造方法について説明する。
本実施形態の成形品は、本実施形態の多層体から形成された成形品である。
本実施形態の多層体は、また、熱曲げ耐性に優れているため、屈曲部を有する用途にも適している。例えば、曲率半径が50mmR以下(好ましくは曲率半径が40~50mmR)の部位を有する成形品にも好ましく用いられる。
本実施形態の成形品は、例えば、本実施形態の多層体を105~117℃で熱曲成形することにより得られる。本実施形態の多層体は、熱曲げ耐性に優れているため、曲率半径が50mmR以下の部位を有する成形品としたときに、特に有益である。ただし、スプリングバックやクラックの発生の観点から110℃以上であり、また、115℃以下で熱曲成形することが一層好ましい。
【0051】
<用途>
本実施形態の平板状成形体、多層体および成形品は、光学部品や意匠製品、反射防止成形体などに好適に用いることができる。
本実施形態の平板状成形体、多層体および成形品は、表示装置、電気電子機器、OA機器、携帯情報末端、機械部品、家電製品、車輌部品、各種容器、照明機器等の部品等に好適に用いられる。これらの中でも、特に、各種ディスプレイ、電気電子機器、OA機器、携帯情報末端および家電製品の筐体、照明機器および車輌部品(特に、車輌内装部品)、スマートフォンやタッチパネル等の表層フィルム、光学材料、光学ディスクに好適に用いられる。特に、本実施形態の成形体は、タッチパネルのセンサー用フィルムや各種ディスプレイの反射防止成形体として好ましく用いられる。
本実施形態の多層体は、また、熱曲げ耐性に優れているため、屈曲部を有する用途にも適している。例えば、曲率半径が50mmR以下(好ましくは曲率半径が40~50mmR)の部位を有する多層体および成形品にも好ましく用いられる。
【実施例0052】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0053】
1.原料
<ポリカーボネート樹脂>
T-1380:パラヒドロキシ安息香酸ヘキサデシルエステルを末端封止剤に用いたビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂、三菱ガス化学株式会社製、重量平均分子量:55,000、Tg:124℃
E-2000:末端構造がp-t-ブチルフェニル基であるビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、E-2000F、重量平均分子量:53,000、Tg:149℃
【0054】
<リン酸エステル>
PX-200:レゾルシノールポリ(ジ-2,6-キシリル)ホスフェート、大八化学工業株式会社製
CR-741:ビスフェノールAビスジフェニルホスフェート、大八化学工業株式会社製
【0055】
<亜リン酸エステル(比較用)>
HP-10:ADEKA社製
S-9228PC:DOVER Chemical Corporation製
【0056】
<離型剤>
S-100A:グリセリンモノステアレート、理研ビタミン株式会社製、リケマールS-100A
【0057】
<アクリル樹脂層>
HT121:アルケマ株式会社製、アクリル樹脂(PMMA)、ALTUGLAS(登録商標)HT121 Tg:115℃、重量平均分子量:75,800
TN001:三菱ケミカル株式会社製、アクリル樹脂(PMMA)、TN001 Tg:118℃、重量平均分子量:82,600
hw55:ダイセル・エボニック株式会社製、アクリル樹脂(スチレン:無水マレイン酸:MMAの質量比=15質量%:9質量%:76質量%)、PLEXIGLAS hw55、Tg:120℃、重量平均分子量:109,000
PM120N:旭化成ケミカルズ株式会社製、アクリル樹脂(スチレン:N-フェニルマレイミド:MMAの質量比=4質量%:15質量%:81質量%)、デルペットPM120N、Tg:124℃、重量平均分子量:121,000
【0058】
2.実施例1~7、比較例1~7
<ポリカーボネート樹脂ペレット(樹脂組成物)の製造>
表1~4に記載した各成分を、表1~4に記載の添加量(表1~4における添加量質量部で示している)となるように計量した。その後、タンブラーにて15分間混合した後、スクリュー径32mmのベント付二軸押出機(日本製鋼所社製「TEX30α」)により、シリンダー温度280℃で溶融混練し、ストランドカットによりポリカーボネート樹脂ペレット(樹脂組成物)を得た。
【0059】
<ポリカーボネート樹脂フィルム(平板状成形体)の製造>
得られたポリカーボネート樹脂ペレット(実施例1~7、比較例1~7)を用いて、以下の方法でポリカーボネート樹脂フィルムを製造した。
上記で得られたポリカーボネート樹脂ペレットを、バレル直径32mm、スクリューのL/D=31.5のベント付き二軸押出機(日本製鋼所社製、「TEX30α」)からなるTダイ溶融押出機を用いて、吐出量10Kg/h、スクリュー回転数63rpmの条件で、溶融状に押し出し、第一ロールと第二ロールの間に通し、第一ロールと第二ロールで圧着せず、第二ロールのみで冷却固化し、ポリカーボネート樹脂フィルムを作製した。シリンダー・ダイヘッド温度は280℃で行った。
最終的に得られるフィルム厚みの調整は、100μmとなるように、第二ロールのロール速度を変更して行った。
【0060】
用いた第二ロールの詳細は以下の通りである。
・第二ロール:JSW社製、金属剛体ロール(表面:ハードクロム処理)
芯金径:外径250mm×幅600mm
ロール温度:130℃
【0061】
<ガラス転移温度(Tig)の測定>
各種樹脂および樹脂組成物のガラス転移温度(Tig)は、下記の示差走査熱量測定(DSC測定)条件のとおりに、昇温、降温を2サイクル行い、2サイクル目の昇温時のガラス転移温度(℃)を測定した。
低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、変曲点の接線の交点を開始ガラス転移温度とし、高温側のベースラインを低温側に延長した直線と、変曲点の接線の交点を終了ガラス転移温度とし、開始ガラス転移温度と終了ガラス転移温度の中間地点を中間ガラス転移温度とした場合、本発明においては開始ガラス転移温度をガラス転移温度(Tig)として採用した。測定開始温度:30℃、昇温速度:10℃/分、到達温度:250℃、降温速度:20℃/分とした。
測定装置は、示差走査熱量計(DSC、日立ハイテクサイエンス社製、「DSC7020」)を使用した。
【0062】
<フィルム湿熱試験>
上記で得られたポリカーボネート樹脂フィルムの中央付近から縦50mm、横50mmのフィルム片を切り出した。次にポリカーボネート樹脂フィルム片を温度85℃、相対湿度(RH)85%に設定した環境試験機の中に投入し、その状態で200時間保持した。さらに温度23℃、相対湿度50%に設定した環境試験機の中にホルダーごと移動し、その状態で4時間保持した。
【0063】
<ヘイズの測定>
ヘイズメーターを用いて、D65光源10°視野の条件にて、上記で得られたポリカーボネート樹脂フィルム(湿熱試験前)のヘイズ(%)を測定した。
また、上記湿熱試験後のポリカーボネート樹脂フィルムのヘイズを同様に測定した。
ヘイズメーターは、村上色彩技術研究所社製「HM-150」を用いた。
【0064】
<重量平均分子量の測定方法>
上記で得られたポリカーボネート樹脂(湿熱試験前)フィルムおよび上記湿熱試験後のポリカーボネート樹脂フィルムの重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定した。
具体的には、ゲル浸透クロマトグラフィー装置には、LC-20AD system(島津製作所社製)を用い、カラムとして、LF-804(Shodex社製)を接続して用いた。カラム温度は40℃とした。検出器はRID-10A(島津製作所社製)のRI検出器を用いた。溶離液として、クロロホルムを用い、検量線は、東ソー社製の標準ポリスチレンを使用して作成した。
上記ゲル浸透クロマトグラフィー装置、カラム、検出器が入手困難な場合、同等の性能を有する他の装置等を用いて測定することができる。
【0065】
<ポリカーボネート樹脂シート・アクリル樹脂層の多層体(多層シート)の製造>
軸径32mmの単軸押出機と、軸径65mmの単軸押出機と、全押出機に連結されたフィードブロックと、フィードブロックに連結された650mm幅のTダイとを有する多層押出機に各押出機と連結したマルチマニホールドダイとを有する多層押出装置を用いて多層体を成形した。軸径32mmの単軸押出機に、表1~4に示したアクリル樹脂層形成用ペレットを導入し、シリンダー温度250℃、吐出量を3.6kg/hの条件で押し出した。また、軸径65mmの単軸押出機に、表1~4に示した樹脂組成物(ポリカーボネート樹脂ペレット)を連続的に導入し、シリンダー温度280℃、吐出量を32.4kg/hで押し出した。全押出機に連結されたフィードブロックは2種2層の分配ピンを備え、温度270℃にして、表1~4に示したアクリル樹脂層形成用ペレットと表1~4に示したポリカーボネート樹脂ペレットを導入し積層した。その先に連結された温度270℃のTダイでシート状に押し出し、上流側から温度130℃、140℃、180℃とした3本の鏡面仕上げロールで鏡面を転写しながら冷却し、アクリル樹脂層とポリカーボネート樹脂シートの多層体を得た。得られた多層体の中央部の全体厚みは1000μm、アクリル樹脂層の厚みは100μmであった。
【0066】
<フローマーク外観>
ポリカーボネート樹脂シート・アクリル樹脂層の多層体を成形する際に目視でフローマークの有無を確認した。評価は、5人の専門家が行い、多数決で判断した。
【0067】
<異物>
上記<ポリカーボネート樹脂シート・アクリル樹脂層の多層体(多層シート)の製造>における押出条件において、2時間連続運転後に得られた多層体を目視観察してゲル状異物欠点の数を数えて評価した。ゲル状異物欠点とは、透明性を呈した樹脂組成物の高分子量体であり、多層体の界面層を乱すことで欠点としてカウントされる。評価は、5人の専門家が行い、多数決で判断した。
A:2mの面積内において、欠点数が平均3個未満
B:2mの面積内において、欠点数が平均3個以上
【0068】
<ハードコート層の塗工>
6官能ウレタンアクリレートオリゴマー(製品名:U6HA、新中村化学工業株式会社製)60質量部、PEG200#ジアクリレート(製品名:4EG-A、共栄社化学株式会社製)35質量部、および含フッ素基・親水性基・親油性基・UV反応性基含有オリゴマー(製品名:RS-90、DIC株式会社製)5質量部の合計100質量部に対して、光重合開始剤(製品名:I-184〔化合物名:1-ヒドロキシ-シクロヘキシルフェニルケトン〕BASF株式会社製)を1質量%加えた塗料を、上記で作製した多層体のアクリル樹脂層の表面にバーコーターにて塗布し、メタルハライドランプ(20mW/cm)を5秒間当ててハードコートを硬化させた。形成されたハードコート層の厚さは6μmであった。
【0069】
<熱プレス成形加工性>
上記で得られたハードコート層付多層体について、曲率半径が50mmRとなる凸型(オス型)と凹型(メス型)の金型を作製した。成形前に90℃で1分間予備加熱し、ハートコート層側が凸になるように、金型に配置し、金型温度115℃で3分間プレスを行い、自然冷却することにより、熱プレス成形体を作製した。
【0070】
<<曲げ部分のクラック>>
上記熱プレス成形体の曲げ部分のクラックを目視で評価した。下記の基準で曲げ部分のクラックについて、以下の通り評価した。評価は、5人の専門家が行い、多数決で判断した。
A:熱プレス成形体の曲げ部分にクラックが見えない
B:熱プレス成形体の曲げ部分にクラックが見える
【0071】
<<スプリングバック>>
上記熱プレス成形体を50mmRの円筒に沿わせて、下記の基準でスプリングバックについて、以下の通り評価した。評価は、5人の専門家が行い、多数決で判断した。
A:円筒に沿う。(スプリングバック無し)
B:円筒に沿わない。(スプリングバック有り)
【0072】
<熱プレス成形後湿熱試験>
熱プレス成形後の多層体を温度85℃、相対湿度85%に設定した環境試験機の中に投入し、その状態で200時間保持した。その後シート外観について、以下の通り評価した。評価は、5人の専門家が行い、多数決で判断した。
A:外観変化なし
B:何かしらの変化が認められた、例えば、シートが白化した、熱プレス成形の形状を保持していなかった等
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
【表4】
【符号の説明】
【0077】
1 多層体
2 平板状成形体(ポリカーボネート樹脂フィルムまたはシート)
3 アクリル樹脂層
4 ハードコート層
図1