(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022080318
(43)【公開日】2022-05-30
(54)【発明の名称】水性光輝性塗料組成物及び光輝性樹脂塗膜
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20220523BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20220523BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20220523BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20220523BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20220523BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/02
C09D7/65
C09D7/61
C09D7/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019057957
(22)【出願日】2019-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000214272
【氏名又は名称】長瀬産業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000354
【氏名又は名称】石原産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】光本 政敬
(72)【発明者】
【氏名】戸塚 健
(72)【発明者】
【氏名】堀江 洋臣
(72)【発明者】
【氏名】植薄 祐介
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038BA022
4J038CB001
4J038CB002
4J038CB051
4J038CB061
4J038CF031
4J038CF051
4J038CG011
4J038DA001
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4J038DB001
4J038DD001
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4J038DG001
4J038DG002
4J038DG011
4J038DG132
4J038DG191
4J038DH002
4J038DL001
4J038DL002
4J038GA15
4J038HA166
4J038JA11
4J038KA08
4J038KA09
4J038KA20
4J038MA10
4J038MA14
4J038MA15
4J038PA06
4J038PA07
4J038PB04
4J038PB05
4J038PB13
4J038PC02
4J038PC06
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】
光輝性が高く、且つ粒子感が低い光輝性塗料組成物及び光輝性樹脂塗膜を提供すること。
【解決手段】
チタン酸薄片、水性樹脂、界面活性剤、レオロジーコントロール剤、及び水を含有する水性光輝性塗料組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸薄片、水性樹脂、界面活性剤、レオロジーコントロール剤、及び水を含有する水性光輝性塗料組成物。
【請求項2】
前記チタン酸薄片の平均粒子径が、2μm以上35μm未満である、請求項1に記載の水性光輝性塗料組成物。
【請求項3】
前記水性樹脂が、エマルジョン型及び/又はディスパージョン型である、請求項1又は2に記載の水性光輝性塗料組成物。
【請求項4】
前記界面活性剤が、非イオン性界面活性剤である、請求項1~3のいずれか一項に記載の水性光輝性塗料組成物。
【請求項5】
前記レオロジーコントロール剤が、アルカリ膨潤型レオロジーコントロール剤、ポリカルボン酸系レオロジーコントロール剤及び/又はウレタン変性ポリエーテル型レオロジーコントロール剤を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の水性光輝性塗料組成物。
【請求項6】
前記レオロジーコントロール剤の固形分換算の含有量が、前記水性樹脂の固形分100質量部に対して、0.01~10質量部である、請求項1~5のいずれか一項に記載の水性光輝性塗料組成物。
【請求項7】
前記レオロジーコントロール剤が、アルカリ膨潤型レオロジーコントロール剤又はポリカルボン酸系レオロジーコントロール剤、及びウレタン変性ポリエーテル型レオロジーコントロール剤を含み、固形分換算の質量比が、アルカリ膨潤型レオロジーコントロール剤又はポリカルボン酸系レオロジーコントロール剤:ウレタン変性ポリエーテル型レオロジーコントロール剤=20~80:80~20である、請求項1~6のいずれか一項に記載の水性光輝性塗料組成物。
【請求項8】
前記水性樹脂の固形分に対する前記チタン酸薄片の質量比が0.2~2.5である、請求項1~7のいずれか一項に記載の水性光輝性塗料組成物。
【請求項9】
チタン酸薄片、水性樹脂、界面活性剤、レオロジーコントロール剤、及び水を含有する水性光輝性塗料組成物を基材に塗布及び乾燥することにより得られる光輝性樹脂塗膜。
【請求項10】
フリップフロップ値が4以上である、請求項9に記載の光輝性樹脂塗膜。
【請求項11】
粒子感の値が2.1以下である、請求項9又は10に記載の光輝性樹脂塗膜。
【請求項12】
フリップフロップ値が4~7であり、粒子感の値が2.1以下であり、且つL*
-15°の値が100以上である、光輝性樹脂塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性光輝性塗料組成物及び光輝性樹脂塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の外装等に用いられる塗膜として、高級感のある、光輝性顔料を含む光輝性樹脂塗膜が種々検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、最表層がSi、Ti、Zr、Zn、Fe、Alから選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物を含む層である顔料の表面をシランカップリング剤で被覆処理して得られる光輝性顔料を含む光輝性塗膜が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の光輝性塗膜は、光輝性が高く、且つ粒子感が強いものが一般的であり、光輝性が高く、且つ粒子感が低い光輝性塗膜はこれまで実用化されていない。このため、意匠の多様性の観点から、光輝性が高く、且つ粒子感が低い光輝性塗膜が求められている。
【0006】
そこで、本発明は、光輝性が高く、且つ粒子感が低い光輝性塗料組成物及び光輝性樹脂塗膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、下記の[1]~[12]を提供する。
[1] チタン酸薄片、水性樹脂、界面活性剤、レオロジーコントロール剤、及び水を含有する水性光輝性塗料組成物。
[2] チタン酸薄片の平均粒子径が、2μm以上35μm未満である、[1]に記載の水性光輝性塗料組成物。
[3] 水性樹脂が、エマルジョン型及び/又はディスパージョン型である、[1]又は[2]に記載の水性光輝性塗料組成物。
[4] 界面活性剤が、非イオン性界面活性剤である、[1]~[3]のいずれかに記載の水性光輝性塗料組成物。
[5] レオロジーコントロール剤が、アルカリ膨潤型レオロジーコントロール剤、ポリカルボン酸系レオロジーコントロール剤及び/又はウレタン変性ポリエーテル型レオロジーコントロール剤を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の水性光輝性塗料組成物。
[6] レオロジーコントロール剤の固形分換算の含有量が、水性樹脂の固形分100質量部に対して、0.01~10質量部である、[1]~[5]のいずれかに記載の水性光輝性塗料組成物。
[7] レオロジーコントロール剤が、アルカリ膨潤型レオロジーコントロール剤又はポリカルボン酸系レオロジーコントロール剤、及びウレタン変性ポリエーテル型レオロジーコントロール剤を含み、固形分換算の質量比が、アルカリ膨潤型レオロジーコントロール剤又はポリカルボン酸系レオロジーコントロール剤:ウレタン変性ポリエーテル型レオロジーコントロール剤=20~80:80~20である、[1]~[6]のいずれかに記載の水性光輝性塗料組成物。
[8] 水性樹脂の固形分に対するチタン酸薄片の質量比が0.2~2.5である、[1]~[7]のいずれかに記載の水性光輝性塗料組成物。
[9] チタン酸薄片、水性樹脂、界面活性剤、レオロジーコントロール剤、及び水を含有する水性光輝性塗料組成物を基材に塗布及び乾燥することにより得られる光輝性樹脂塗膜。
[10] フリップフロップ値が4以上である、[9]に記載の光輝性樹脂塗膜。
[11] 粒子感の値が2.1以下である、[9]又は[10]に記載の光輝性樹脂塗膜。
[12] フリップフロップ値が4~7であり、粒子感の値が2.1以下であり、且つL*
-15の値が100以上である、光輝性樹脂塗膜。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光輝性が高く、且つ粒子感が低い光輝性塗料組成物及び光輝性樹脂塗膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0010】
<水性光輝性塗料組成物>
本実施形態の水性光輝性塗料組成物(以下、単に「塗料組成物」ともいう)は、チタン酸薄片、水性樹脂、界面活性剤、レオロジーコントロール剤、及び水を含有する。以下、各成分について説明する。
【0011】
(チタン酸薄片)
チタン酸薄片としては、従来公知のもの、例えば、特開2013-184883号公報を参考にして作製可能であるものを用いることができる。なお、「薄片」とは、板状、シート状、フレーク状及び鱗片状の形状を含む概念である。
【0012】
チタン酸としては種々の結晶構造を持つものが知られているが、層状の結晶構造を有するチタン酸(以下、「層状チタン酸」ともいう)を好適に用いることができる。
【0013】
層状チタン酸にも、種々の結晶構造を持つものが確認される。その結晶形は結晶学的にA型(アナタース型)やR型(ルチル型)の酸化チタンとは異なるものである。層状チタン酸としては例えば、TiO6八面体が稜共有してa軸およびc軸方向に2次元的に広がったシートを作り、その間にカチオンを含んで積層した構造の、レピドクロサイト構造に類似した結晶構造を有する層状チタン酸を用いることができる。このような層状チタン酸は、粉末X線回折(Cukα)により、2θ=9.7~10.0°,19.4~19.7°,29.2~29.6°に層状構造に起因するピークが観察される。
【0014】
チタン酸薄片の平均厚みは、0.01~0.5μmとすると、塗膜としたときに、特に光輝性が高く且つ粒子感が低くなるので好ましい。0.05~0.4μmとするとより好ましい。平均厚みは、チタン酸薄片を含む塗膜を作製し、その塗膜をミクロトームで切断し、その断面を電子顕微鏡により観察し、無作為に選択した50個以上の粒子の厚みを測定し、測定値を平均して求めることができる。
【0015】
チタン酸薄片の平均粒子径は、2μm以上35μm未満とすると、塗膜としたときに、特に光輝性が高く且つ粒子感が低くなるので好ましい。5μm以上30μm未満であるとより好ましい。平均粒子径は、レーザー回折・散乱式 粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、マイクロトラックMT3000II)を用い、溶媒水の屈折率1.333、粒子の屈折率2.62を入力し、累積50%(D50)の値を3回測定した際の、3回の測定値の平均として求めることができる。
【0016】
チタン酸薄片に代えて、チタン酸薄片を焼成することにより得られる酸化チタン薄片を用いてもよい。
【0017】
(水性樹脂)
本実施形態の塗料組成物は、水性樹脂を含有する。水性樹脂は、チタン酸薄片の馴染みがよい。これによりチタン酸薄片の光輝性が、塗料組成物中で発揮されやすくなり、塗膜の光輝性が向上する。
【0018】
水性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、スチレン・アクリル樹脂、アクリルポリオール樹脂、メラミン樹脂、イソシアネート樹脂、エチレン・酢酸ビニル・アクリル酸共重合樹脂、ポリオレフィン樹脂、シリコン樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの水性樹脂は、例えば、ウレタン変性アクリル樹脂、シリコーン変性アクリル樹脂のように変性されたものであってもよい。
【0019】
水性樹脂の形態は特に限定されないが、エマルジョン型及び/又はディスパージョン型であることが好ましい。
【0020】
水性樹脂の固形分に対するチタン酸薄片の質量比(チタン酸薄片の質量/水性樹脂の固形分の質量)は、光輝感がより向上し且つ粒子感がより低下する観点から、0.2~2.5であると好ましく、0.25~2.0であるとより好ましく、0.5~2.0であると更に好ましい。
【0021】
(界面活性剤)
本実施形態の塗料組成物は、界面活性剤を含有する。界面活性剤により塗料組成物にレベリング(均一塗布性)等が付与される。界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤又はイオン性界面活性剤のいずれを用いてもよいが、非イオン性界面活性剤が好ましい。非イオン性界面活性剤としては、例えば、フッ素系、シリコーン系又は炭化水素系の非イオン性界面活性剤が挙げられ、シリコーン系非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0022】
塗料組成物における界面活性剤の含有量は、塗料組成物の全量100質量部に対して、0.1~5質量部であると好ましく、0.2~3質量部であるとより好ましく、0.3~1質量部であると更に好ましい。
【0023】
(レオロジーコントロール剤)
本実施形態の塗料組成物は、レオロジーコントロール剤を含有する。レオロジーコントロール剤を含有することにより、塗料組成物を塗布した際のチタン酸薄片の配向性が向上し、これにより光輝性が更に向上する。レオロジーコントロール剤としては、従来公知のものを用いることができ、例えば、アルカリ膨潤型、ポリカルボン酸系、ウレタン変性ポリエーテル型、ポリウレタン系、ポリアマイド系、セルロース系、ウレア系、ポリオレフィン系、ベントナイト系等のレオロジーコントロール剤が挙げられる。これらの中で、アルカリ膨潤型、ポリカルボン酸系又はウレタン変性ポリエーテル型のレオロジーコントロール剤が好ましく、アルカリ膨潤型又はポリカルボン酸系のレオロジーコントロール剤とウレタン変性ポリエーテル型のレオロジーコントロール剤とを併用することがより好ましい。
【0024】
アルカリ膨潤型又はポリカルボン酸系のレオロジーコントロール剤とウレタン変性ポリエーテル型のレオロジーコントロール剤とを併用する場合のその質量比は、固形分換算で、アルカリ膨潤型レオロジーコントロール剤又はポリカルボン酸系レオロジーコントロール剤:ウレタン変性ポリエーテル型レオロジーコントロール剤=20~80:80~20であると好ましく、30~70:70~30であるとより好ましい。
【0025】
塗料組成物におけるレオロジーコントロール剤の固形分換算の含有量は、水性樹脂の固形分100質量部に対して、0.01~10質量部であると好ましい。
【0026】
(溶媒)
本実施形態の塗料組成物は、溶媒として水を含有する。水は、チタン酸薄片の馴染みがよい。これによりチタン酸薄片の光輝性が、塗料組成物中で発揮されやすくなり、塗膜の光輝性が向上する。
【0027】
塗料組成物における水の含有量は、塗料組成物の全量100質量部に対して、10~90質量部であると好ましく、20~80質量部であるとより好ましい。
【0028】
本実施形態の塗料組成物は、溶媒として、水の他に有機溶剤を含有してもよい。有機溶剤としては、例えば、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の一価のアルコール;ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、2-エチルヘキサノール、ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル、2,2,4-トリメチルペンタン-1,3-ジオールモノイソブチラート、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールイソブチラート等のグリコールエーテル等が挙げられる。
【0029】
本実施形態の塗料組成物が有機溶剤を含む場合のその含有量は、有機溶剤と水の合計量に対して30質量%以下であると好ましく、0.01~30質量%であるとより好ましく、0.5~25質量%であると更に好ましい。
【0030】
(その他の添加剤)
また、本実施形態の塗料組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の添加剤を含有してもよい。その他の添加剤としては、艶消し剤、耐摩耗材、沈降防止剤、増粘剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、レベリング剤、表面調整剤、垂れ止め剤、分散剤、消泡剤、活剤等の一般的な塗料用添加剤が挙げられる。その他の添加剤の合計配合量は、塗料組成物全量に対して、通常5質量%以下、好ましくは3質量%以下である。
【0031】
本実施形態の塗料組成物は、光輝性が高く、且つ粒子感が低いため、意匠性の観点から優れている。
【0032】
<光輝性樹脂塗膜>
本実施形態の光輝性樹脂塗膜(以下、単に「樹脂塗膜」ともいう。)は、本実施形態の塗料組成物を基材に塗布及び乾燥することにより形成することができる。樹脂塗膜の厚さは、特に限定されないが、例えば1~100μmとすることができ、5~40μmであると好ましい。
【0033】
塗料組成物の塗布方法としては、従来公知の方法を適用することができ、その具体例としては、スプレー塗装、ドクターブレード塗装等が挙げられる。特に、塗布時にシェアがかかり、塗布後にはシェアがかからないスプレー塗装を適用すると、樹脂塗膜中のチタン酸薄片の配向を制御しやすくなるので好ましい。
【0034】
塗料組成物の乾燥条件も特に限定されないが、例えば上記基材がプラスチック基材である場合、60~80℃で10~40分間程度、上記基材が金属基材である場合、60~80℃で1~5分間程度プレ乾燥した後に、140~150℃で10~40分間程度乾燥する条件を適用することができる。
【0035】
本実施形態の樹脂塗膜は、フリップフロップ値が4以上であると好ましく、4.5以上であるとより好ましく、5以上であると更に好ましい。フリップフロップ値は、光輝感を示す指標であり、フリップフロップ値が高いほど、光輝感が高いことを意味する。なお、フリップフロップ値の上限は特に限定されないが、例えば8以下又は7以下とすることができる。
【0036】
なお、本明細書中、フリップフロップ値(Flop Index)とは、樹脂塗膜の面の垂直方向に対して45°の角度で入射した光の正反射光に対して15°、45°、110°で受光した分光反射率(L
*
15°、L
*
45°及びL
*
110°)を測定し、以下の計算式により算出されるものをいう。フリップフロップ値は、例えば、ポータブル多角度分光測色計(x-rite社製MA-T6、BYK社BYK-mac i、コニカミノルタ社製CM-M6等)を用いて、測定・算出することができる。
【数1】
【0037】
本実施形態の樹脂塗膜は、L*
-15°の値が100以上であることが好ましい。L*
-15°の値が100以上であると、よりクリアな白色が得られる。L*
-15°の値の上限は特に限定されないが、例えば200以下とすることができる。
【0038】
なお、本明細書中、L*
-15°の値は、上記フリップフロップ値の測定と同様の条件で、-15°で受光した分光反射率を測定することにより求めることができる。
【0039】
本実施形態の樹脂塗膜は、粒子感の値が2.1以下であると好ましく、2.0以下であるとより好ましく、1.9以下であると更に好ましい。粒子感は、樹脂塗膜中の粒子のエッジの反射等に由来する粒子形状の視認性を示す指標であり、粒子感の値が低いほど、粒子が視認しづらく、樹脂塗膜がシルキー調となる。なお、粒子感の下限は特に限定されないが、例えば、0.1以上又は0.2以上とすることができる。
【0040】
なお、粒子感の値は、拡散昼光下で、ポータブル多角度分光測色計(x-rite社製MA-T6)を用いて、RGBカメラで画像処理を行うことにより測定される、Coarseness値を意味する。
【0041】
本実施形態の樹脂塗膜はまた、フリップフロップ値が4~7であり、粒子感の値が2.1以下であり、且つL*
-15の値が100以上であるものであってもよい。
【0042】
本実施形態の樹脂塗膜は、単独で塗膜として用いられてもよいが、積層塗膜中の一層として適用されてもよい。
【0043】
積層塗膜としては、例えば、被塗装物上に積層されたカラーベース層とクリア層とを少なくとも備える積層塗膜であって、カラーベース層とクリア層との間に本実施形態の樹脂塗膜が配置されているものが挙げられる。積層塗膜を車両外装に適用する場合、鋼板などの被塗装物上に電着層、中塗り層、カラーベース層、本実施形態の樹脂塗膜及びクリア層がこの順で積層されることが好ましい。
【0044】
電着層(電着塗膜)は、特に制限されず、例えば、鋼板などの被塗装物表面に下塗り塗料としてカチオン電着塗料を用いて塗装することにより得られる。ここで、カチオン電着塗料としては、カチオン性高分子化合物の塩の水溶液若しくは水分散液に、必要に応じて架橋剤、顔料や各種添加剤を配合してなるそれ自体既知のものを好適に使用することができる。カチオン性高分子化合物としては、例えば、架橋性官能基を有するアクリル樹脂又はエポキシ樹脂にアミノ基などのカチオン性基を導入したものが挙げられ、これは有機酸又は無機酸などで中和することによって水溶化若しくは水分散化することができる。これらの高分子化合物を硬化するための架橋剤としては、ブロックポリイソシアネート化合物、脂環式エポキシ樹脂などを用いることができる。電着層の膜厚(焼き付け後の膜厚)は特に制限されないが、通常、10~40μm程度が好ましい。
【0045】
また、中塗り層(中塗り塗膜)を形成する中塗り塗料も特に制限されず、例えば、基本的に、基体樹脂と架橋剤とからなる熱硬化性樹脂組成物が好適に用いられる。かかる基体樹脂としては、例えば、水酸基、エポキシ基、イソシアネート基、カルボキシル基のような架橋性官能基を1分子中に2個以上有するアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂などが挙げられ、また、架橋剤としては、例えば、メラミン樹脂、尿素樹脂などのようなアミノ樹脂、ブロックされていてもよいポリイソシアネート化合物、カルボキシル基含有化合物などが挙げられる。中塗り層の膜厚も特に制限されないが、通常、10~30μm程度が好ましい。
【0046】
さらに、カラーベース層(カラーベース塗膜)を形成するカラーベース塗料も特に制限されず、例えば、既知の溶剤系着色カラーベース塗料や水性着色カラーベース塗料が好適に用いられる。かかる水性着色カラーベース塗料としては、例えば、顔料と、水に溶解又は分散可能な樹脂と、必要に応じて架橋剤と、溶媒である水とを含有するものが挙げられる。水に溶解又は分散可能な樹脂としては、例えば、1分子中にカルボキシル基などの親水基と水酸基などの架橋性官能基とを含有する樹脂であって、具体的には、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂などが挙げられる。また、架橋剤としては、例えば、疎水性又は親水性のアルキルエーテルメラミン樹脂、ブロックイソシアネート化合物などが挙げられる。一方、溶剤系着色ベース塗料としては、例えば、顔料と、上記同様の樹脂と、必要に応じて架橋剤と、溶剤とを含有するものが挙げられる。ベース層の膜厚も特に制限されないが、通常、5~20μm程度が好ましい。また高いフリップフロップ感を得るためには、白色カラーベース層の上に塗るのが好ましい。
【0047】
また、クリア層(クリア塗膜)を形成するクリア塗料も特に制限されず、例えば、透明な塗膜を形成可能な、熱硬化性樹脂と有機溶剤と、必要に応じて紫外線吸収剤等が含有されているものが挙げられる。上記熱硬化性樹脂としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、シラノール基、エポキシ基などの架橋性官能基を有するアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂、シリコン含有樹脂などの樹脂と、これらの架橋性官能基に反応し得るメラミン樹脂、尿素樹脂、(ブロック)ポリイソシアネート化合物、エポキシ樹脂化合物又は樹脂、カルボキシル基含有化合物又は樹脂、酸無水物、アルコキシシラン基含有化合物又は樹脂などの架橋剤とからなるものが挙げられる。クリア層の膜厚も特に制限されないが、通常、20~50μm程度が好ましい。
【0048】
本実施形態の樹脂塗膜及びこれを含む積層塗膜は、チタン酸薄片が白色顔料として機能するため、白色塗装として好適に用いることができる。また、その他の顔料と組み合わせて用いることにより、他の色の樹脂塗膜又は積層塗膜とすることができる。その他の顔料を用いる場合には、ベース層又は本実施形態の樹脂塗膜に含有させることが好ましい。
【0049】
本実施形態の樹脂塗膜及び積層塗膜は、例えば、車輌用塗膜(特に自動車用塗膜)、建材用塗膜、プラスチック用塗膜、包装紙用塗膜、ポスター用塗膜等に好適に適用することができる。
【実施例0050】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、表中の原料に関する数値は質量基準の配合比率である。また、表中、"P/B"は"(顔料の質量)/(樹脂の不揮発分の質量)"を示す。
【0051】
[塗料の製造]
表1~3に示す原料を用いて、実施例及び比較例の塗料を製造した。なお、表中に記載の原料の詳細を以下に示す。
<顔料>
・チタン酸薄片: 石原産業社製、平均粒子径28μm、平均厚み0.1μm
・酸化チタン(CR-95): 石原産業社製、平均粒子径≦1μm
・パール顔料(Xirallic T61-10): メルク社製人工アルミナ系パール顔料、平均粒子径≦20μm
・パール顔料(Mearlite SSQ): BASF社製ビスマス系パール顔料、不揮発分62質量%、平均粒子径11-15μm
・パール顔料(MagnaPearl 3000): BASF社製マイカ系パール顔料、平均粒子径2-10μm
・パール顔料(Fine Blue 6303V): BASF社製マイカ系青色パール顔料、平均粒子径4-32μm
<水性樹脂>
・ボンロンPS001: 三井化学社製(スチレン)アクリル系水性エマルジョン、不揮発分50質量%
・ポリゾールAP-1272: 昭和電工社製水系アクリルエマルジョン、不揮発分50質量%
・ポリゾールAP-6761: 昭和電工社製スチレン・アクリル系水系エマルジョン、不揮発分48質量%
・アクロナールYJ2730D ap: BASF社製水性アクリルエマルジョン、不揮発分46.2質量%
・POLYDUREX B3100S: 旭化成社製シリコーン変性アクリルエマルジョン、不揮発分45.5質量%
・バーノックWE-304: DIC社製アクリルポリオールエマルジョン、不揮発分45質量%
・ウォーターゾールACD-2001: DIC社製アクリルディスパージョン、不揮発分40質量%
・ウォーターゾールS-695: DIC社製メラミン、不揮発分66質量%
・バーノックDNW-5000: DIC社製イソシアネート、不揮発分80質量%
<溶剤樹脂>
・アクリディックWXU880-BA: DIC社製イソシアネート硬化型アクリル樹脂、不揮発分50質量%
・アクリディックBL616-BA: DIC社製イソシアネート硬化用アクリル樹脂、不揮発分45質量%
<粉体樹脂>
・CAB-381-20: イーストマン社製セルロースアセテートブチレート、不揮発分100質量%
<分散剤>
・Disperbyk-180: BYK社製湿潤分散剤
<消泡剤>
・BYK-024: BYK社製シリコーン系消泡剤
<レオロジーコントロール剤>
・ACRYSOL ASE-60: DOW製アルカリ膨潤型レオロジーコントロール剤
・チクゾール K-130B:共栄社化学製ポリカルボン酸型レオロジーコントロール剤
・ACRYSOL RM-12W: DOW社製ウレタン変性ポリエーテル系レオロジーコントロール剤
<界面活性剤>
・BYK-347: BYK社製シリコーン系非イオン性界面活性剤
【0052】
なお、上記の樹脂における不揮発分の割合(NV)は以下に示す方法で算出した。
・アルミホイルの重量(a)を測定した。
・アルミホイル上に約1gの樹脂を置き、合計重量(b)を測定した。
・これを110℃で3時間乾燥し、その後重量(c)を測定した。
・以下の計算式に基づいて、不揮発分の割合(NV)を算出した。
NV=(c-a)/(b-a)*100 (%)
【0053】
また、顔料における粒子径は、マイクロトラックMT3000IIを使用して、レーザー回折方式で求めた。
【0054】
(実施例1)
顔料としてのチタン酸薄片、溶剤としてのジエチレングリコールモノブチルエーテル、水、分散剤としてのDisperbyk-180、及び消泡剤としてのBYK-024を表1に示す配合比率(ただし、BYK-024は半量)で、トータル量が125gになるように、250mlポリ瓶に仕込んだ。さらに、粒径1.4-2mmのガラスビーズを125g仕込んだ後に、ペイントシェーカーで30分分散した。
100メッシュのフィルターを使ってガラスビーズと分離した後に、水性樹脂としてのボンロンPS001、消泡剤としてのBYK-024、レオロジーコントロール剤としてのACRYSOL ASE-60及びACRYSOL RM-12W、並びに界面活性剤としてのBYK-347を表1に示す配合比率(ただし、BYK-024は残りの半量)で、攪拌しながら添加して、塗料を得た。
【0055】
(実施例2~5、比較例1)
各成分及びその配合比率を表1に示すように変更した他は、実施例1と同様にして、塗料を得た。
【0056】
(比較例2)
水性樹脂としてのボンロンPS001を容器に仕込んだ。さらに、水、溶剤としてのジエチレングリコールモノブチルエーテル、分散剤としてのDisperbyk-180、消泡剤としてのBYK-024、顔料としての酸化チタン(CR-95)、レオロジーコントロール剤としてのACRYSOL ASE-60及びACRYSOL RM-12W、並びに界面活性剤としてのBYK-347をこの順で、表1に示す配合比率で、攪拌しながら添加して、塗料を得た。
【0057】
(比較例3及び5)
各成分及びその配合比率を表1に示すように変更した他は、比較例2と同様にして、塗料を得た。
【0058】
(比較例4)
溶剤樹脂としてのアクリディックWXU880-BA及び溶剤としての酢酸ブチルを、表1に示す配合比率で、容器に仕込んだ。さらに粉体樹脂CAB-381-20、顔料としてのパール顔料(Mearlite SSQ)を、表1に示す配合比率で、攪拌しながら添加して、塗料を得た。
【0059】
(実施例6~11)
各成分及びその配合比率を表2に示すように変更した他は、実施例1と同様にして、塗料を得た。
【0060】
(実施例12~17)
各成分及びその配合比率を表3に示すように変更した他は、実施例1と同様にして、塗料を得た。
【0061】
(比較例6及び7)
各成分及びその配合比率を表3に示すように変更した他は、比較例4と同様にして、塗料を得た。
【0062】
(比較例8)
各成分及びその配合比率を表3に示すように変更した他は、比較例2と同様にして、塗料を得た。
【0063】
[塗料の評価]
(フリップフロップ値)
実施例及び比較例で得られた塗料を用いて形成された塗膜に関して、ポータブル多角度分光測色計(x-rite社製MA-T6)を用いて、フリップフロップ値を算出した。
具体的には、塗膜の面の垂直方向に対して45°の角度で入射した光の正反射光に対して15°、45°、110°で受光した分光反射率(L
*
15°、L
*
45°及びL
*
110°)を測定し、以下の計算式によりフリップフロップ値(Flop Index)を算出した。その結果を表1~3に示す。なお、フリップフロップ値が高いほど光輝感が高いことを意味し、4以上であるものを合格とした。
また、同様の条件で、-15°で受光した分光反射率(L
*
-15°)を測定した。その結果を表1~3に示す。
なお、塗膜に関して、実施例1~17及び比較例2~7の塗料については、比較例1の塗料をABS白板にスプレーガンにて塗装した後、実施例1~17及び比較例2~7の塗料を塗装し、更にクリヤコートを塗装したものを用いた。また、比較例1の塗料については、ABS白板に直接スプレーガンにて塗装した後、更にクリヤコートを塗装したものを塗膜として用い、比較例8の塗料については、ABS黒板に直接スプレーガンにて塗装した後、更にクリヤコートを塗装したものを塗膜として用いた。
【数2】
【0064】
(粒子感)
実施例及び比較例で得られた塗料を用いて形成された塗膜に対して、拡散昼光下で、x-rite社製MA-T6を用いて、RGBカメラで画像処理を行うことにより、粒子感の値(Coarseness値)を測定した。なお、粒子感の値が大きいほど粒子感が強いことを意味し、粒子感が2.1以下であるものを合格とした。
【表1】
【表2】
【表3】