(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022080405
(43)【公開日】2022-05-30
(54)【発明の名称】グアニジン誘導体-HF錯体化合物
(51)【国際特許分類】
C07C 279/04 20060101AFI20220523BHJP
C25B 3/28 20210101ALI20220523BHJP
【FI】
C07C279/04
C25B3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020191449
(22)【出願日】2020-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】599016431
【氏名又は名称】学校法人 芝浦工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 稔樹
【テーマコード(参考)】
4H006
4K021
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AB81
4H006BB21
4H006BE01
4K021AC03
4K021BA09
4K021BB01
4K021BB03
4K021DA13
(57)【要約】 (修正有)
【課題】新たなグアニジン誘導体-HF錯体化合物(好ましくは、電解フッ素化用の支持塩、及びフッ素化剤として使用可能なグアニジン誘導体-HF錯体化合物)を提供する。
【解決手段】式(e1)又は式(e1’)で表される化合物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(e1)又は式(e1’)で表される化合物。
【化1】
[式中、
R
e1、R
e2、R
e2’、R
e3、R
e4、及びR
e5は、それぞれ独立に、H、1個以上の置換基で置換されていてもよいヒドロカルビル基、又は1個以上の置換基で置換されていてもよいヘテロヒドロカルビル基であり、但し、R
e1、R
e2、R
e2’、R
e3、R
e4、及びR
e5のうちの少なくとも一つは、1個以上の置換基で置換されていてもよいアルキル基である。]
【請求項2】
Re4は、Hであり、Re5は、Hである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記の1個以上の置換基で置換されていてもよいヒドロカルビル基が、1個以上の置換基で置換されていてもよいアルキル基、又は1個以上の置換基で置換されていてもよいアリール基である、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
式(e1’)で表される化合物であって、
Re1、Re2、Re2′、Re3、Re4、及びRe5は、それぞれ独立して、
C1-6アルキル基、又は
ハロゲン原子、アルキル基、及びアルコキシ基から選択される1個以上の置換基で置換されていてもよいC6-10アリール基
である、
請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物を含有する、電解フッ素化用の支持塩。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物を含有する、フッ素化剤。
【請求項7】
含フッ素有機化合物(A)の製造方法であって、
請求項5に記載の支持塩の存在下で、含水素有機化合物(BH)を電解フッ素化する工程Sを含む、製造方法。
【請求項8】
前記含フッ素有機化合物(A)が、
式(A1):Rc1-(F)n
[式中、Rc1は、有機基を表し、nは、1以上の数を表す。]
で表される化合物であり:及び
前記含水素有機化合物(BH)が、式(BH1):Rc1-(H)n
[式中の記号は前記と同意義を表す。]
で表される化合物である、
請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
含フッ素有機化合物(A)の製造方法であって、
含ハロゲン有機化合物(BX)を、請求項7に記載のフッ素化剤によりフッ素化する工程Tを含む、製造方法。
【請求項10】
前記含フッ素有機化合物(A)が、
式(A1):Rc1-(F)n
[式中、R1は、有機基を表し、nは、1以上の数を表す。]
で表される化合物であり:及び
前記含ハロゲン有機化合物(BX)が、
式(BX1):Rc1-(X)n
[式中、Xは、塩素、臭素、又はヨウ素を表し、その他の記号は前記と同意義を表す。]
で表される化合物である、
請求項9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グアニジン誘導体-HF錯体化合物、及びそれを用いた含フッ素有機化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分子内にフッ素原子を有する有機化合物(含フッ素有機化合物)は、医薬品や農薬の有効成分として有用である。含フッ素有機化合物は天然にほとんど存在しないため、その取得には、フッ素化剤を利用して、有機化合物にフッ素原子を導入する方法が採用されることが一般的である。
【0003】
特許文献1には、フッ化水素と塩基の錯体のアセトニトリル溶液を、フッ素化剤のアセトニトリル溶液として用いることによって、有機化合物にフッ素原子を導入する方法が開示されている。
非特許文献1および2には、特許文献1に記載の方法に基づきフッ化水素とアミンの錯体を合成し、フッ化水素とアミンの錯体を支持塩兼フッ素化剤としてスルフィドの電解フッ素化に適用する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】電気化学会第85回講演要旨集、2018、新規有機塩基-3HF錯体の合成および電解フッ素化への応用、講演番号1I01
【非特許文献2】日本化学会第98春季年会予稿集、2018、新規アミン-3HF錯体の合成とその電解フッ素化への応用、講演番号2A9-08
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、新たなグアニジン誘導体-HF錯体化合物(好ましくは、電解フッ素化用の支持塩、及びフッ素化剤として使用可能なグアニジン誘導体-HF錯体化合物)が求められている。
本発明は、新たなグアニジン誘導体-HF錯体化合物(好ましくは、電解フッ素化用の支持塩、及びフッ素化剤として使用可能なグアニジン誘導体-HF錯体化合物)を提供することを課題とする。本発明はさらに、上記のグアニジン誘導体-HF錯体化合物を用いた含フッ素有機化合物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、新たに合成したグアニジン誘導体-HF錯体化合物が、電解フッ素化用の支持塩として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明によれば以下の発明が提供される。
【0008】
<1> 式(e1)又は式(e1’)で表される化合物。
【化1】
[式中、
R
e1、R
e2、R
e2’、R
e3、R
e4、及びR
e5は、それぞれ独立に、H、1個以上の置換基で置換されていてもよいヒドロカルビル基、又は1個以上の置換基で置換されていてもよいヘテロヒドロカルビル基であり、但し、R
e1、R
e2、R
e2’、R
e3、R
e4、及びR
e5のうちの少なくとも一つは、1個以上の置換基で置換されていてもよいアルキル基である。]
<2> R
e4は、Hであり、R
e5は、Hである、<1>に記載の化合物。
<3> 前記の1個以上の置換基で置換されていてもよいヒドロカルビル基が、1個以上の置換基で置換されていてもよいアルキル基、又は1個以上の置換基で置換されていてもよいアリール基である、<1>又は<2>に記載の化合物。
<4> 式(e1’)で表される化合物であって、
R
e1、R
e2、R
e2′、R
e3、R
e4、及びR
e5は、それぞれ独立して、
C1-6アルキル基、又は
ハロゲン原子、アルキル基、及びアルコキシ基から選択される1個以上の置換基で置換されていてもよいC6-10アリール基
である、
<1>に記載の化合物。
<5> <1>~<4>のいずれか一に記載の化合物を含有する、電解フッ素化用の支持塩。
<6> <1>~<4>のいずれか一に記載の化合物を含有する、フッ素化剤。
<7> 含フッ素有機化合物(A)の製造方法であって、
<5>に記載の支持塩の存在下で、含水素有機化合物(B
H)を電解フッ素化する工程Sを含む、製造方法。
<8> 前記含フッ素有機化合物(A)が、
式(A1):R
c1-(F)
n
[式中、R
c1は、有機基を表し、nは、1以上の数を表す。]
で表される化合物であり:及び
前記含水素有機化合物(B
H)が、式(B
H1):R
c1-(H)
n
[式中の記号は前記と同意義を表す。]
で表される化合物である、
<7>に記載の製造方法。
<9> 含フッ素有機化合物(A)の製造方法であって、
含ハロゲン有機化合物(B
X)を、<7>に記載のフッ素化剤によりフッ素化する工程Tを含む、製造方法。
<10> 前記含フッ素有機化合物(A)が、
式(A1):R
c1-(F)
n
[式中、R
1は、有機基を表し、nは、1以上の数を表す。]
で表される化合物であり:及び
前記含ハロゲン有機化合物(B
X)が、
式(B
X1):R
c1-(X)
n
[式中、Xは、塩素、臭素、又はヨウ素を表し、その他の記号は前記と同意義を表す。]
で表される化合物である、
<9>に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、新たなグアニジン誘導体-HF錯体化合物、特に電解フッ素化用の支持塩、及びフッ素化剤として使用可能なグアニジン誘導体-HF錯体化合物等が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の製造方法等の詳細、及び形態を説明するが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、その詳細、及び形態の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。以下の実施形態の構成要素の組み合わせ、及び代替が可能なことは、技術常識に照らして、当業者によって理解され得る。
【0011】
用語
本明細書中の記号及び略号は、特に限定のない限り、本明細書の文脈に沿い、本発明が属する技術分野において通常用いられる意味に理解できる。
本明細書中、語句「含有する」の意味は、語句「から本質的になる」、及び語句「からなる」を包含し得る。
本明細書中、室温は、10~40℃の範囲内の温度を意味することができる。
本明細書中、表記「Cn~Cm」(ここで、n、及びmは、それぞれ、数である。)は、当業者が通常理解する通り、炭素数がn以上、且つm以下であることを表す。
【0012】
本明細書中、特に限定の無い限り、「ハロ(基)」の例は、フルオロ(基)、クロロ(基)、ブロモ(基)、及びヨード(基)を包含できる。
本明細書中、特に限定の無い限り、「ハロゲン(原子)」の例は、フッ素(原子)、塩素(原子)、臭素(原子)、及びヨウ素(原子)を包含できる。
【0013】
本明細書中、特に限定の無い限り、「ヘテロ原子」は、水素及び炭素以外の原子を意味し得る。
本明細書中、特に限定の無い限り、「ヘテロ原子」の例は、窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子を包含する。
【0014】
本明細書中、特に限定のない限り、「有機基」は、その構成原子として1個以上の炭素原子を含有する基を意味する。
本明細書中、特に限定のない限り、「有機基」の例は、
(1)炭化水素基(これは、1個以上の置換基を有していてもよい。)、
(2)炭化水素基(これは、1個以上の置換基を有していてもよい。)
に1個以上のヘテロ原子が挿入された基[本明細書中、当該「(2)炭化水素基1個以上のヘテロ原子が挿入された基」を「ヘテロヒドロカルビル基」と称する場合がある。)]、
を包含する。
当該置換基の例は、ハロ、ニトロ、シアノ、オキソ、チオキソ、スルホ、スルファモイル、スルフィナモイル、及びスルフェナモイルを包含する。
【0015】
本明細書中、特に限定のない限り、「炭化水素基」は、その構成原子として、1個以上の炭素原子、及び1個以上の水素原子を含有する基を意味する。
本明細書中、炭化水素基をヒドロカルビル基と称する場合がある。
【0016】
前記「(1)炭化水素基」の例は、1個以上の芳香族炭化水素基で置換されていてもよい脂肪族炭化水素基(例:ベンジル基)、及び1個以上の脂肪族炭化水素基で置換されていてもよい芳香族炭化水素基(アリール基)を包含する。
【0017】
前記「(2)炭化水素基に1個以上のヘテロ原子が挿入された基」(ヘテロヒドロカルビル基)の例は、5~6員ヘテロアリール基、及び当該5~6員ヘテロアリール基にベンゼン環が縮合している基、アルコキシ基、エステル基、エーテル基、及び複素環基を包含する。
【0018】
ヒドロカルビル基、ヘテロヒドロカルビル基、アルキル基、及びアリール基は、置換基で置換されていてもよいが、当該置換基の例は、アルキル、アリール、アルコキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、オキソ、チオキソ、スルホ、スルファモイル、スルフィナモイル、及びスルフェナモイルを包含する。
【0019】
本明細書中、特に限定のない限り、「脂肪族炭化水素基」は、直鎖状、分岐状、環状、又はそれらの組み合わせであることができる。
本明細書中、特に限定のない限り、「脂肪族炭化水素基」は、飽和又は不飽和であることができる。
本明細書中、特に限定のない限り、「脂肪族炭化水素基」の例は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、及びシクロアルキル基を包含する。
【0020】
本明細書中、特に限定のない限り、「アルキル基」の例は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、及びヘキシル等の、直鎖状又は分岐状の、炭素数1~10のアルキル基を包含する。
【0021】
本明細書中、特に限定のない限り、「アルケニル基」の例は、直鎖状又は分岐状の、炭素数1~10のアルケニル基(例:ビニル、1-プロペニル、イソプロペニル、2-メチル-1-プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、2-エチル-1-ブテニル、1-ペンテニル、2-ペンテニル、3-ペンテニル、4-ペンテニル、4-メチル-3-ペンテニル、1-ヘキセニル、2-ヘキセニル、3-ヘキセニル、4-ヘキセニル、及び5-ヘキセニル等)を包含する。
【0022】
本明細書中、特に限定のない限り、「アルキニル基」の例は、直鎖状又は分岐状の炭素数2~6のアルキニル基(例:エチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-ブチニル、2-ブチニル、3-ブチニル、1-ペンチニル、2-ペンチニル、3-ペンチニル、4-ペンチニル、1-ヘキシニル、2-ヘキシニル、3-ヘキシニル、4-ヘキシニル、及び5-ヘキシニル)を包含する。
【0023】
本明細書中、特に限定のない限り、「シクロアルキル基」の例、炭素数3~8のシクロアルキル基(例:シクロペンチル基、シクロヘキシル基、及びシクロヘプチル)を包含する。
【0024】
本明細書中、特に限定のない限り、「芳香族炭化水素基(アリール基)」としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、フェナンスリル基、アンスリル基、及びピレニル基が例示される。
【0025】
本明細書中、特に限定のない限り、「芳香族炭化水素」としては、例えば、ベンゼン、トルエン、スチレン、ナフタレン、及びアントラセンが例示される。
【0026】
本明細書中、特に限定のない限り、「アルコキシ基」は、例えば、RO-(当該式中、Rはアルキル基である。)で表される基である。
【0027】
本明細書中、特に限定のない限り、「エステル基」は、エステル結合(すなわち、-C(=O)-O-、または-O-C(=O)-)を有する有機基を意味する。
その例は、
式:RCO2-(当該式中、Rはアルキル基である。)で表される基、及び
式:Ra-CO2-Rb-(当該式中、Raはアルキル基であり、及びRbはアルキレン基である。)で表される基
を包含する。
【0028】
本明細書中、特に限定のない限り、「エーテル基」は、エーテル結合(-O-)を有する基を意味する。
「エーテル基」の例は、ポリエーテル基を包含する。
ポリエーテル基の例は、式:Ra-(O-Rb)n-(当該式中、Raはアルキル基であり、Rbは各出現において同一又は異なって、アルキレン基であり、及びnは1以上の整数である。)で表される基を包含する。
アルキレン基は前記アルキル基から水素原子を1個除去して形成される2価の基である。
「エーテル基」の例は、また、ヒドロカルビルエーテル基を包含する。
ヒドロカルビルエーテル基は、1個以上のエーテル結合を有するヒドロカルビル基を意味する。「1個以上のエーテル結合を有するヒドロカルビル基」は、1個以上のエーテル結合が挿入されているヒドロカルビル基であることができる。その例は、ベンジルオキシ基を包含する。
「1個以上のエーテル結合を有するヒドロカルビル基」の例は、1個以上のエーテル結合を有するアルキル基を包含する。
「1個以上のエーテル結合を有するアルキル基」は、1個以上のエーテル結合が挿入されているアルキル基であることができる。本明細書中、このような基をアルキルエーテル基と称する場合がある。
【0029】
本明細書中、特に限定のない限り、「アシル基」は、アルカノイル基を包含する。本明細書中、特に限定のない限り、「アルカノイル基」は、例えば、RCO-(当該式中、Rはアルキル基である。)で表される基である。
【0030】
本明細書中、「5員ヘテロアリール基」の例は、
環構成原子として、酸素、硫黄、及び窒素からなる群より選択される1個以上(例:1個、2個、又は3個)のヘテロ原子を有する5員ヘテロアリール基[例:ピロリル(例:1-ピロリル、2-ピロリル、3-ピロリル)、フリル(例:2-フリル、3-フリル)、チエニル(例:2-チエニル、3-チエニル)、ピラゾリル(例:1-ピラゾリル、3-ピラゾリル、4-ピラゾリル)、イミダゾリル(例:1-イミダゾリル、2-イミダゾリル、4-イミダゾリル)、イソキサゾリル(例:3-イソキサゾリル、4-イソキサゾリル、5-イソキサゾリル)、オキサゾリル(例:2-オキサゾリル、4-オキサゾリル、5-オキサゾリル)、イソチアゾリル(例:3-イソチアゾリル、4-イソチアゾリル、5-イソチアゾリル)、チアゾリル(例:2-チアゾリル、4-チアゾリル、5-チアゾリル)、トリアゾリル(例:1,2,3-トリアゾール-4-イル、1,2,4-トリアゾール-3-イル)、オキサジアゾリル(例:1,2,4-オキサジアゾール-3-イル、1,2,4-オキサジアゾール-5-イル)、チアジアゾリル(例:1,2,4-チアジアゾール-3-イル、1,2,4-チアジアゾール-5-イル)]
を包含する。
【0031】
[1]グアニジン誘導体-HF錯体化合物[化合物(e1)又は(e1’)]
本発明の一態様は、式(e1)又は式(e1’)で表される化合物である。
【化2】
[式中、
R
e1、R
e2、R
e2’、R
e3、R
e4、及びR
e5は、それぞれ独立に、H、1個以上の置換基で置換されていてもよいヒドロカルビル基、又は1個以上の置換基で置換されていてもよいヘテロヒドロカルビル基であり、但し、R
e1、R
e2、R
e2’、R
e3、R
e4、及びR
e5のうちの少なくとも一つは、1個以上の置換基で置換されていてもよいアルキル基である。]
【0032】
好ましくは、Re1は、H、1個以上の置換基で置換されていてもよいアルキル基、又は1個以上の置換基で置換されていてもよいアリール基であり、及び
より好ましくは、Re1は、C1-6アルキル基、又は1個以上の置換基で置換されていてもよいC6-10アリール基である。
【0033】
好ましくは、Re2は、H、1個以上の置換基で置換されていてもよいアルキル基、又は1個以上の置換基で置換されていてもよいアリール基である。
より好ましくは、Re2は、C1-6アルキル基、又は1個以上の置換基で置換されていてもよいC6-10アリール基である。
【0034】
好ましくは、Re2’は、H、1個以上の置換基で置換されていてもよいアルキル基、又は1個以上の置換基で置換されていてもよいアリール基である。
より好ましくは、Re2’は、C1-6アルキル基、又は1個以上の置換基で置換されていてもよいC6-10アリール基である。
【0035】
好ましくは、Re3は、H、1個以上の置換基で置換されていてもよいアルキル基、又は1個以上の置換基で置換されていてもよいアリール基である。
より好ましくは、Re3は、C1-6アルキル基、又は1個以上の置換基で置換されていてもよいC6-10アリール基である。
【0036】
好ましくは、Re4は、H、C1-6アルキル基、又は1個以上の置換基で置換されていてもよいC6-10アリール基である。
より好ましくは、Re4は、Hである。
【0037】
好ましくは、Re5は、H、C1-6アルキル基、又は1個以上の置換基で置換されていてもよいC6-10アリール基である。
より好ましくは、Re5は、Hである。
【0038】
好ましくは、Re4は、Hであり、かつRe5は、Hである。
【0039】
本発明の化合物の好適な一態様は、式(e1)の化合物であって、
好ましくは、
Re1は、H、1個以上の置換基で置換されていてもよいアルキル基、又は1個以上の置換基で置換されていてもよいアリール基であり、
Re2は、H、1個以上の置換基で置換されていてもよいアルキル基、又は1個以上の置換基で置換されていてもよいアリール基であり、
Re3は、H、1個以上の置換基で置換されていてもよいアルキル基、又は1個以上の置換基で置換されていてもよいアリール基であり、
Re4は、Hであり、及び
Re5は、Hである。
【0040】
本発明の化合物の好適な別の態様は、式(e1)の化合物であって、
Re1は、C1-6アルキル基、又は
1個以上の置換基で置換されていてもよいC6-10アリール基であり、
Re2は、C1-6アルキル基、又は1個以上の置換基で置換されていてもよいC6-10アリール基であり、
Re3は、C1-6アルキル基、又は1個以上の置換基で置換されていてもよいC6-10アリール基であり、
Re4は、C1-6アルキル基、又は1個以上の置換基で置換されていてもよいC6-10アリール基であり、及び
Re5は、C1-6アルキル基、又は1個以上の置換基で置換されていてもよいC6-10アリール基である。
【0041】
本発明の化合物の好適な別の一態様は、式(e1’)の化合物であって、
好ましくは、
Re1は、H、1個以上の置換基で置換されていてもよいアルキル基、又は1個以上の置換基で置換されていてもよいアリール基であり、
Re2は、H、1個以上の置換基で置換されていてもよいアルキル基、又は1個以上の置換基で置換されていてもよいアリール基であり、
Re2’は、H、1個以上の置換基で置換されていてもよいアルキル基、又は1個以上の置換基で置換されていてもよいアリール基であり、
Re3は、H、1個以上の置換基で置換されていてもよいアルキル基、又は1個以上の置換基で置換されていてもよいアリール基であり、
Re4は、Hであり、及び
Re5は、Hである。
【0042】
本発明の化合物の好適なさらに別の一態様は、式(e1’)の化合物であって、
Re1、Re2、Re2′、Re3、Re4、及びRe5は、それぞれ独立して、
C1-6アルキル基、又は
ハロゲン原子、アルキル基、及びアルコキシ基から選択される1個以上の置換基で置換されていてもよいC6-10アリール基
である。
【0043】
本発明においては、Re1、Re2、Re2’、Re3、Re4、及びRe5のうちの少なくとも一つ(即ち、Re1、Re2、Re2’、Re3、Re4、及びRe5のうちの一個、二個、三個、四個、五個、又は六個)は、1個以上の置換基で置換されていてもよいアルキル基である。
【0044】
[2]化合物(e1)又は(e1’)の製造方法
化合物(e1)又は(e1’)は、例えば、
(1)フッ化水素を含有する有機溶媒(以下、フッ化水素含有有機溶媒と称する場合がある。)を用意する段階、及び
(2)前記フッ化水素含有有機溶媒、及び式(e0):
【化3】
又は式(e0’):
【化4】
[式中の各記号は、前記式(e1)又は(e1)中の記号と同意義をあらわす。]
で表される化合物(これらを本明細書中、それぞれ、化合物(e0)及び(e0’)と称する場合がある。)を、混合することにより、製造できる。混合は、例えば撹拌により実施すればよい。反応時間は、例えば、1分以上であればよく、上限は特に限定されない。
【0045】
当該フッ化水素含有溶媒は、フッ素化剤含有有機溶媒(又は、フッ素化剤の有機溶媒溶液)として作用し、前記化合物(e0)又は化合物(e0’)から化合物(e1)又は(e1’)を与える。
フッ化水素の量は、例えば、例えば、化合物(e0)又は(e0’)の1モルに対して、2.5モル以上~3.4モル未満であることができる。
フッ化水素含有有機溶媒の濃度は、例えば、0.1~1.0mol/Lであることができる。
当該混合は、例えば、室温で実施すればよい。
前記フッ化水素含有有機溶媒の用意は、例えば、前記特許文献1に記載の方法によって、実施すればよい。当該有機溶媒の例は、後記する工程Sについて例示する溶媒を包含する。なかでも、好適な例は、アセトニトリルを包含する。当該有機溶媒は、含水溶媒又は無水溶媒であることができる。
【0046】
[3]支持塩
前記した本発明の化合物(e1)又は(e1’)或いはこれらの組み合わせは、電解フッ素化のための支持塩(支持電解質)として好適に使用され得る。
本発明の一態様である支持塩は、前記した本発明の化合物を含有する。
当該支持塩は、本発明の化合物以外の物質を含有してもよい。
【0047】
[4]フッ素化剤
前記した本発明の化合物(e1)又は(e1’)は、フッ素化剤として好適に使用され得る。
本発明の一態様であるフッ素化剤は、前記化合物(e1)又は(e1’)を含有する。
当該フッ素化剤は、本発明の化合物以外の物質を更に含有してもよい。
【0048】
前記した本発明の化合物(e1)又は(e1’)は、電解フッ素化において、支持塩及びフッ素化剤として好適に使用され得る。
【0049】
[5]含フッ素有機化合物(A)の製造方法
以下に、本発明の、含フッ素有機化合物(A)の製造方法(1)及び(2)を説明する。 これらは、組み合わせて実施されてもよい。
含フッ素有機化合物(A)の製造方法(1)
本発明の一態様である含フッ素有機化合物(A)の製造方法(1)は、前記した本発明の支持塩の存在下で、含水素有機化合物(BH)を電解フッ素化する工程Sを含む。
本発明の支持塩は、フッ素源を兼ねることができるので、当該製造方法(1)においては別のフッ素源の添加をしないことが可能である。
【0050】
電解フッ素化は、技術常識に基づき、例えば、電解槽及び電極を用いて実施できる。
電解フッ素化において使用する電解槽としては、例えば、無隔膜式又は隔膜式の電解槽を使用し得るが、無隔膜式の電解槽が好適に使用できる。
電解方式としては、例えば、定電流電解又は定電位電解が採用され得るが、定電流電解が好適に使用できる。
電極としては、白金電極、炭素電極、BDD(ホウ素ドープダイヤモンド)電極、又はグラッシーカーボン電極等が使用され得るが、白金電極が好適に採用され得る。
【0051】
工程Sの電解フッ素化は、有機溶媒の存在下、又は不存在下で実施され得る。また、基質が有機溶媒を兼ねてもよい。
当該有機溶媒の例は、
(1)アルコール溶媒[例:メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、ヘキサントリオール];
(2)非芳香族炭化水素溶媒[例:ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、n-デカン、イソドデカン、トリデカン];
(3)芳香族炭化水素溶媒[例:ベンゼン、トルエン、キシレン、テトラリン、ベラトロール、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、メチルナフタレン、アニソール、フェネトールニトロベンゼン、o-ニトロトルエン、メシチレン、インデン、ジフェニルスルフィド、アニソール、プロピオフェノン];
(4)ケトン溶媒[例:アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、ヘプタノン、ジイソブチルケトン、アセトニルアセトン、メチルヘキサノン、アセトフェノン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、プロピオフェノン、イソホロン];
(5)ハロゲン化炭化水素溶媒[例:ジクロロメタン、1,4-ジクロロブタン、クロロホルム、クロロベンゼン];
(6)エーテル溶媒[例:ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジイソプロピルエーテル、メチル-t-ブチルエーテル(MTBE)、ジオキサン、ジメトキシエタン、ジグライム、アニソール、フェネトール、1,1-ジメトキシシクロヘキサン、ジイソアミルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)];
(7)エステル溶媒[例:酢酸エチル、酢酸イソプロピル、マロン酸ジエチル、3-メトキシ-3-メチルブチルアセテート、γ-ブチロラクトン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、炭酸ジメチル、α-アセチル-γ-ブチロラクトン];
(8)ニトリル溶媒[例:アセトニトリル、ベンゾニトリル];
(9)スルホキシド系溶媒[例:ジメチルスルホキシド、スルホラン];及び
(10)アミド溶媒[例:N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン(NMP)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアセトアセトアミド(DMA)、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジエチルアセトアミド]
を包含する。
溶媒としては、なかでも、非プロトン性溶媒等の不活性溶媒が好ましい。その例としては、カーボネート溶媒(例:プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート)、エーテル溶媒(ジメトキシエタン)、その他の溶媒(アセトニトリル、スルホラン)が例示される。
これらの溶媒は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられ得る。
【0052】
工程Sの電解フッ素化の温度の下限は、好ましくは-30℃であり、より好ましくは-10℃であり、更に好ましくは0℃である。当該温度の上限は、好ましくは150℃であり、より好ましくは100℃であり、更に好ましくは50℃である。当該温度は、好ましくは-30~150℃の範囲内であり、より好ましくは-10~100℃の範囲内であり、更に好ましくは0~50℃の範囲内である。
【0053】
工程Sの電解フッ素化の電流密度の下限は、好ましくは0.1mAであり、より好ましくは1mAであり、更に好ましくは5mAである。当該電流密度の上限は、好ましくは10000mAであり、より好ましくは5000mAであり、更に好ましくは1000mAである。当該電流密度は、好ましくは0.1~10000mAの範囲内であり、より好ましくは1~5000mAの範囲内であり、更に好ましくは5~1000mAの範囲内である。
【0054】
工程Sの電解フッ素化の通電量の下限は、好ましくは0.0001F/molであり、より好ましくは0.001F/molであり、更に好ましくは0.1F/molであり、
より更に好ましくは1F/molである。当該通電量の上限は、好ましくは20F/molであり、より好ましくは10F/molであり、更に好ましくは5F/molであり、より更に好ましくは3F/molである。当該通電量は、好ましくは0.0001~20F/molの範囲内であり、より好ましくは0.001~10F/molの範囲内であり、更に好ましくは0.1~5F/molの範囲内であり、より更に好ましくは1F/mol~3F/molの範囲内である。
【0055】
本発明の含フッ素有機化合物(A)の製造方法(1)において、反応基質である前記含水素有機化合物(B)としては、例えば、それぞれ1個以上の水素原子を含有する、
(1)ケトン類[例:ジケトン、β-ケトカルボン酸、β-ケトエステル)、シッフ塩基、イミン類(例:ヒドラゾン)]、
(2)スルフィド類、
(3)芳香族化合物(例:芳香族炭化水素、フェニルヒドラジン誘導体、フェノール誘導体、2-ナフトール誘導体、アニリン誘導体)、
(4)チオカルボニル化合物
が挙げられる。
なお、本発明における、有機化合物のフッ素化は、水素原子がフッ素原子に置換されることに加えて、後記の各丸括弧内に示すように、以下の原子、又は基などがフッ素原子に置換されること(置き換えられること)も意味する:水素原子(CH→CF)、ヒドラジノ基(C-NHNH2→C-F;C=N-NH2→CF2)。
以下に、本発明の製造方法におけるフッ素化を例示する。これにより、本発明の製造方法によって得られる含フッ素有機化合物(1)もまた例示される。
【0056】
当該製造方法においては、例えば、以下の反応が実施される。
本発明において、置換基を有してもよいとは、置換基を有する場合(すなわち、置換)と置換基を有していない場合(すなわち、無置換)を意味する。例えば、置換基を有してもよいアルキル基とは、アルキル基(すなわち、無置換のアルキル基)と置換基を有するアルキル基(すなわち、置換アルキル基)とを意味する。
【0057】
(1)ケトン類(ジケトン、β-ケトカルボン酸、β-ケトエステルを含む)、シッフ塩基、及びヒドラゾン等のイミン類、又はフッ素化
当該フッ素化では、例えば、以下の反応が行われる。
【化5】
【0058】
[式中、
XはO又はNR’(R’は、水素原子、1個以上の置換基を有してもよいアルキル基、1個以上の置換基を有してもよいアラルキル基、1個以上の置換基を有してもよいアリール基、1個以上の置換基を有してもよいアルケニル基、1個以上の置換基を有してもよいシクロアルキル基、1個以上の置換基を有してもよいヘテロシクロアルキル基、1個以上の置換基を有してもよい複素環基、1個以上の置換基を有してもよいアルコキシ基、1個以上の置換基を有してもよいアリールオキシ基、アミノ基、1個以上の置換基を有してもよいモノアルキルアミノ基、1個以上の置換基を有してもよいジアルキルアミノ基、アシル基、アシルアミノ基を示す。)を示す。
R2、R2aおよびR2cは、同一又は異なって水素原子、1個以上の置換基を有してもよいアルキル基、1個以上の置換基を有してもよいアラルキル基、1個以上の置換基を有してもよいアリール基、1個以上の置換基を有してもよいアルケニル基、1個以上の置換基を有してもよいシクロアルキル基、1個以上の置換基を有してもよいヘテロシクロアルキル基、1個以上の置換基を有してもよい複素環基、1個以上の置換基を有してもよいアルコキシ基、1個以上の置換基を有してもよいアリールオキシ基、1個以上の置換基を有してもよいモノアルキルアミノ基、1個以上の置換基を有してもよいジアルキルアミノ基、アシル基、又はアシルアミノ基を示す。
R2とR2aは互いに結合して環状構造を形成してもよい。]
【0059】
反応式(a-1)の好適な一例は、以下の反応を含む。
R2’-C(=O)-CH2-C(=O)-R2a’
→ R2’-C(=O)-CHF-C(=O)-R2a’
→ R2’-C(=O)-CF2-C(=O)-R2a’
[式中、 R2’ 及びR2a’は、同一又は異なって、1個以上の置換基を有してもよいアルキル基、1個以上の置換基を有してもよいアラルキル基、又は1個以上の置換基を有してもよいアリール基を示す。〕
環状構造としては、1個以上の置換基を有してもよい脂肪族4~7員環などが挙げられる。
【0060】
ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、アセト酢酸、アセト酢酸エステル、シクロヘキサノン、アセトフェノン、ベンゾフェノン、プロピオフェノン、4-ピペリドン、1-オキソ-1,2-ジヒドロナフタレン、ベンジリデンアセトフェノン(カルコン)、及びデオキソベンゾイン、並びにこれらのケタールなどが挙げられる。
【0061】
シッフ塩基、及びヒドラゾン等のイミン類としては、ケトン又はアルデヒドと適当な第一級アミンやヒドラジンとの縮合物が挙げられる。
【0062】
(2)スルフィド類(ジチオアセタール、ジチオケタールを含む)のフッ素化
当該フッ素化では、例えば、S原子の隣のメチレンの水素原子の1個又は2個をフッ素原子に置換する又はS原子をフッ素で置換する反応が行われる。
【化6】
【0063】
[式中、
R3a、R3a’、及びR3a’’は、同一又は異なって、1個以上の置換基を有してもよいアルキル基、1個以上の置換基を有してもよいアラルキル基、1個以上の置換基を有してもよいアリール基、1個以上の置換基を有してもよいアルケニル基、1個以上の置換基を有してもよいシクロアルキル基、1個以上の置換基を有してもよいヘテロシクロアルキル基、又は1個以上の置換基を有してもよい複素環基を示すか、或いはR3aとR3a’が一緒になって、1個以上の置換基を有してもよい脂肪族4~7員環を示す。
R3、及びR3bは、同一又は異なって、1個以上の置換基を有してもよいアルキル基、1個以上の置換基を有してもよいアラルキル基、1個以上の置換基を有してもよいアリール基、1個以上の置換基を有してもよいアルケニル基、1個以上の置換基を有してもよいシクロアルキル基、1個以上の置換基を有してもよいヘテロシクロアルキル基、1個以上の置換基を有してもよい複素環基、1個以上の置換基を有してもよいアルコキシ基、1個以上の置換基を有してもよいアリールオキシ基、アミノ基、1個以上の置換基を有してもよいモノアルキルアミノ基、1個以上の置換基を有してもよいジアルキルアミノ基、アシル基、アシルアミノ基、シアノ基、1個以上の置換基を有してもよいアルキルスルフィニル基、1個以上の置換基を有してもよいアラルキルスルフィニル基、1個以上の置換基を有してもよいアリールスルフィニル基、1個以上の置換基を有してもよいシクロアルキルスルフィニル基、1個以上の置換基を有してもよいヘテロシクロアルキルスルフィニル基、1個以上の置換基を有してもよい複素環基の結合したスルフィニル基、1個以上の置換基を有してもよいアルキルスルホニル基、1個以上の置換基を有してもよいアラルキルスルホニル基、1個以上の置換基を有してもよいアリールスルホニル基、1個以上の置換基を有してもよいシクロアルキルスルホニル基、1個以上の置換基を有してもよいヘテロシクロアルキルスルホニル基、又は1個以上の置換基を有してもよい複素環基の結合したスルホニル基を示すか、或いはR3及びR3bは、これらが結合する炭素原子と共に、ヘテロ原子を介し、又は介することなく互いに結合して4~8員環を形成してもよい(該環は、ハロゲン原子、オキソ基、1個以上の置換基を有してもよいアルキル基、1個以上の置換基を有してもよいアラルキル基、1個以上の置換基を有してもよいアリール基、1個以上の置換基を有してもよいアルケニル基、シアノ基、及びアミノ基からなる群より選択される1個以上の置換基で置換されていてもよい。)。
R3c、及びR3dは、同一又は異なって、水素原子、1個以上の置換基を有してもよいアルキル基、1個以上の置換基を有してもよいアラルキル基、1個以上の置換基を有してもよいアリール基、1個以上の置換基を有してもよいアルケニル基、1個以上の置換基を有してもよいシクロアルキル基、1個以上の置換基を有してもよいヘテロシクロアルキル基、1個以上の置換基を有してもよい複素環基、1個以上の置換基を有してもよいアルコキシ基、1個以上の置換基を有してもよいアリールオキシ基、1個以上の置換基を有してもよいモノアルキルアミノ基、1個以上の置換基を有してもよいジアルキルアミノ基、アシル基、又はアシルアミノ基を示すか、或いはR3cとR3dは、これらが隣接する炭素原子と共に、互いに結合して、飽和又は不飽和の1個以上の置換基を有する脂肪族4~7員環を形成していてもよい(該環は、ハロゲン原子、オキソ基、1個以上の置換基を有してもよいアルキル基、1個以上の置換基を有してもよいアラルキル基、1個以上の置換基を有してもよいアリール基、1個以上の置換基を有してもよいアルケニル基、シアノ基、及びアミノ基からなる群より選択される1個以上の置換基で置換されていてもよい。)。]
【0064】
スルフィド類としては、メチルエチルスルフィド、メチルベンジルスルフィド、2-フェニルチオ酢酸エステル、2-フェニルチオアセトフェノン、2-(メチルチオ)アセトフェノン、ビス(メチルチオ)メチルベンゼン、2-オクチル-1,3-ジチアン、2-フェニル-2-トリフルオロメチル-1,3-ジチオラン、トリス(エチルチオ)ヘキサン、及び4-トリス(メチルチオ)トルエンなどが挙げられる。
【0065】
(3)芳香族化合物のフッ素化
当該フッ素化では、例えば、以下の反応により、芳香環にフッ素置換基が導入される。フェノール誘導体又はアニリン誘導体の芳香環へのフッ素化は、フッ素化後、亜鉛末等の還元剤で還元することにより行うことができ、目的とするフッ素化物を得ることができる。
【0066】
(3-1)フェニルヒドラジン誘導体のフッ素化
1個以上の置換基を有してもよいフェニルヒドラジン残基をフッ素原子に置換することができる。
【化7】
【0067】
[式中、R5a、R5b、R5c、R5d、及びR5eは、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子、アルカノイル基、アリールカルボニル基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アルカノイルアミノ基、アリールカルボニルアミノ基、アルキルチオ基を示す。]
【0068】
(3-2)フェノール誘導体のフッ素化
フェノール誘導体は、下記に示すジフルオロ化したキノノイド構造となり、次いで還元することにより、オルト位又はパラ位にフッ素が導入されたフェノール誘導体が生成する。
【化8】
【0069】
[式中、R5a、R5b、R5c、及びR5dは、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子、アルカノイル基、アリールカルボニル基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アルカノイルアミノ基、アリールカルボニルアミノ基、又はアルキルチオ基を示す。]
【0070】
オルト及びパラ位の全てが置換された出発原料では、オルト又はパラ位にフッ素原子が導入され、フルオロ化したキノノイド構造の化合物が生成する。
【0071】
上記の例では、フェノール誘導体として1個以上の置換基を有してもよいフェノールを用いたが、水酸基又はアルコキシ基などの電子供与性基を有し、及び更に置換されていてもよいベンゼン系芳香族化合物又は縮合多環炭化水素にも同様にフッ素原子を導入することができる。
【0072】
(3-3)2-ナフトール誘導体のフッ素化
ナフトールの1位をモノ-又はジ-フッ素化することができる。
【化9】
【0073】
〔式中、R5a、R5b、R5c、R5d、R5e、R5f、及びR5gは、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子、アルカノイル基、アリールカルボニル基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アルカノイルアミノ基、アリールカルボニルアミノ基、又はアルキルチオ基を示す。〕
【0074】
(3-4)アニリン誘導体のフッ素化
アニリン誘導体もまたフェノール誘導体と同様に、下記に示すジフルオロ化したキノノイド構造となり、次いで還元することにより、オルト位又はパラ位にフッ素が導入されたアニリン誘導体が生成する。
【化10】
【0075】
〔式中、R5a、R5b、R5c、及びR5dは、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子、アルカノイル基、アリールカルボニル基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アルカノイルアミノ基、アリールカルボニルアミノ基、アルキルチオ基を示す。〕
【0076】
アニリン誘導体として1個以上の置換基を有してもよいアニリン、及び1個以上の置換基を有してもよいナフチルアミンでも同様に芳香環にフッ素原子を導入することができる。
【0077】
(4)チオカルボニル化合物(チオケトン、チオエステル、チオ炭酸エステル、チオアミド、ジチオカルボン酸エステル、ジチオカルバメートを含む)のフッ素化
以下の反応を行う:
【化11】
【0078】
〔式中、R6およびR6aは、同一又は異なって、水素原子、1個以上の置換基を有してもよいアルキル基、1個以上の置換基を有してもよいアラルキル基、1個以上の置換基を有してもよいアリール基、1個以上の置換基を有してもよいアルケニル基、1個以上の置換基を有してもよいシクロアルキル基、1個以上の置換基を有してもよいヘテロシクロアルキル基、1個以上の置換基を有してもよい複素環基、1個以上の置換基を有してもよいアルコキシ基、1個以上の置換基を有してもよいアリールオキシ基、1個以上の置換基を有してもよいモノアルキルアミノ基、1個以上の置換基を有してもよいジアルキルアミノ基、アシル基、アシルアミノ基を示す。R6とR6aは互いに結合して環状構造を形成してもよい。R6bは、1個以上の置換基を有してもよいアルキル基、1個以上の置換基を有してもよいアラルキル基、1個以上の置換基を有してもよいアリール基、1個以上の置換基を有してもよいアルケニル基、1個以上の置換基を有してもよいシクロアルキル基、1個以上の置換基を有してもよいヘテロシクロアルキル基、1個以上の置換基を有してもよい複素環基を示す。〕
【0079】
チオカルボニル化合物としては、ジチオ炭酸O-(4-イソプロピルフェニル)S-メチル、ジチオ炭酸O-(4-ブロモフェニル)S-メチル、4-(((メチルチオ)カルボノチオイル)オキシ)安息香酸エチル、ジチオ炭酸O-デシルS-メチル、ジチオ炭酸O-(3-フェニルプロピル)S-メチル、シクロヘキサンカルボチオ酸O-メチル、1-ピペリジンカルボチオ酸O-プロピル、ジチオ安息香酸メチル、チオベンゾフェノン、チオ安息香酸O-フェニル、N,N-ジメチルフェニルチオアミド、3-キノリンジチオカルボン酸エチル、トリフルオロメタンカルボチオイルナフタレン、N-メチル-N-フェニルトリフルオロメタンチオアミド、N-ベンジル-N-フェニルヘプタフルオロプロパンチオアミド、ジチオ炭酸O-(4’-ペンチル-[1,1’-ビ(シクロヘキサン)]-4-イル)S-メチル、
【化12】
などが挙げられる。
【0080】
(5)不飽和炭素化合物のフッ素化
当該フッ素化では、炭素-炭素二重結合、又は炭素-炭素三重結合に、フッ素及びヨウ素が付加する。
(a) R8aR8a’C=CR8bR8b’ → FR8aC-CR8bI
(b) R8aC≡CR8b → FR8aC=CR8bI
〔式中、R8a、R8a’、R8b、及びR8b’は、同一又は異なって、水素原子、又は1個以上の置換基を有してもよいアルキル基、1個以上の置換基を有してもよいアリール基、1個以上の置換基を有してもよいアラルキル基、1個以上の置換基を有してもよいアルケニル基、アシル基、1個以上の置換基を有してもよいシクロアルキル基、1個以上の置換基を有してもよいヘテロシクロアルキル基、エステル基又はハロゲン原子を示す。R8a、R8a’、R8b、及びR8b’のうちの2個以上は、互いに結合して環状構造を形成してもよい。〕
【0081】
環状構造としては、1個以上の置換基を有してもよい脂肪族4~12員環などが挙げられる。
不飽和炭素化合物としては、デセン、シクロドデセン、ドデシンなどのC2~C20不飽和炭素化合物などが挙げられる。
【0082】
当該一態様の好適な一例においては、
式(1):R1-(F)n
[式中、R1は、有機基を表し、nは、1以上の数を表す。]
で表される含フッ素有機化合物であり、及び
式(2):R1-(H)n
[式中の記号は前記と同意義を表す。]
で表される有機化合物である。
【0083】
R1で表される有機基は、その内部に、1個以上のフルオロ基を含有していてもよい。
【0084】
前記有機基は、好ましくは、1個以上の置換基を有していてもよい(ヘテロ)ヒドロカルビル基である。
【0085】
本発明の製造方法では、基質に1個以上のFが導入され、好ましくは、2個以上のFが導入される。
言い換えれば、nは、好ましくは、2以上の数である。
本発明の製造方法では、例えば、1個のFが導入された目的物、及び2個のFが導入された目的物の両方が得られ得る。
【0086】
本発明の製造方法(1)によれば、原料転化率は、好ましくは10%以上、より好ましくは30%以上、及び更に好ましくは50%以上であることができる。
本発明の製造方法(1)によれば、1個以上のFが導入された目的物について、目的化合物の選択率は、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上、及びより更に好ましくは90%以上であることができる。
本発明の製造方法(1)によれば、1個以上のFが導入された目的物について、目的化合物の収率は、好ましくは50%以上、及びより好ましくは70%以上であることができる。
【0087】
本発明の製造方法(1)によれば、2個以上のFが導入された目的物について、目的化合物の選択率は、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上、及びより更に好ましくは90%であることができる。
本発明の製造方法(1)によれば、2個以上のFが導入された目的物について、目的化合物の収率は、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、更に好ましくは20%以上、より更に好ましくは25%以上であることができる。
【0088】
含フッ素有機化合物(A)の製造方法(2)
本発明の別の一態様である含フッ素有機化合物(A)の製造方法(2)は、含ハロゲン有機化合物(BX)を、前記した本発明のフッ素化剤によりフッ素化する工程Tを含む。
当該フッ素化は、例えば、フッ素化される対象である化合物に、前記した本発明のフッ素化剤を作用させることによって、実施できる。
【0089】
好ましくは、前記含フッ素有機化合物(A)が、
式(A1):Rc1-(F)n
[式中、Rc1は、有機基を表し、nは、1以上の数を表す。]
で表される化合物であり:及び
前記含ハロゲン有機化合物(BX)が、
式(BX1):Rc1-(X)n
[式中、Xは、塩素、臭素、又はヨウ素を表し、その他の記号は前記と同意義を表す。]
で表される化合物である。
nは、例えば、1、2、又は3である。
【0090】
当該反応は、有機溶媒の存在下、又は不存在下で実施され得る。
当該有機溶媒の例としては、前記製造方法(1)の前記工程Sについて述べたものと同じものが挙げられる。
当該工程(T)において、基質は有機溶媒を兼ねてもよい。
【0091】
前記フッ素化剤の使用量の下限は、含塩素有機化合物(B)の1モルに対して、好ましくは0.1モル、より好ましくは0.5モル、及び更に好ましくは1モルである。
前記フッ素化剤の使用量の上限は、含塩素有機化合物(B)の1モルに対して、好ましくは10モル、より好ましくは5モル、及び更に好ましくは2モルである。
前記フッ素化剤の使用量は、含塩素有機化合物(B)の1モルに対して、好ましくは0.1~10モルの範囲内、より好ましくは0.5~5モルの範囲内、及び更に好ましくは1~2モルの範囲内である。
【0092】
工程Tの反応条件としては、電解フッ素化を行わなくてよいことを除き、前記製造方法(1)の電解フッ素化の工程Sの反応条件と同様の条件を採用し得る。
工程Tの反応時間は、例えば1~72時間の範囲内であることができる。
【0093】
以下の実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例0094】
<実施例1>1.1,1,3,3-テトラメチルグアニジン-3HF (TMG-3HF)の合成例
PFA製のバイアルに 10mLのアセトニトリル(MeCN)とAmberlyst 15Dry(スルホ基20mmol相当)を入れ、4 時間静置した。その後、10 mmolのフッ化カリウム(KF)を加えて30 分間撹拌した。反応溶液の上澄み液を取り出すことで、生成したフッ化水素(HF)を回収した。バイアルに残った残渣に対して10mLのMeCNを加えて2分間撹拌し、さらに上澄み液を取り出す操作を7回繰り返した。最後に、残渣をろ過により分離するとともにろ液を回収した。回収した上澄み液とろ液を合わせて10mmolのHFを含むMeCN溶液とした。この10mmolのHFを含むMeCN溶液に対し、3.3mmolの1,1,3,3-テトラメチルグアニジン(TMG)を加えて10分間撹拌した。その後、溶媒をエバポレーターで留去することで、3.3 mmolの1,1,3,3-テトラメチルグアニジン-3HF(TMG-3HF)を定量的に得た。
【0095】
1,1,3,3-Tetramethylguanidine-3HF(TMG-3HF)
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ10.11(brs,2H),8.10(brs,2H),2.98(s,12H);
19F NMR(376MHz,CDCl3)δ -79.5(s).
【0096】
<実施例2>TMG-3HFを用いたトリフェニルメタンの電解フッ素化
1mmolの1,1,3,3-テトラメチルグアニジン-3HF(TMG-3HF)を10mLのアセトニトリル(MeCN)に溶解させ、基質として0.5mmolのトリフェニルメタンを加えたものを電解液とした。電解液を無隔膜セルに入れ、陽極および陰極としてPt電極(2×2cm
2)を配した。電解フッ素化は定電流電解(10mA cm
-2)で行い、トリフェニルメタンに対して4.5Faraday mol
-1の通電を行った。電解終了後、シリカゲルショートカラムで脱塩を行った後に
19F NMR測定を行ったところ、フルオロトリフェニルメタンが86%の収率で得られた。
【化13】