(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022080505
(43)【公開日】2022-05-30
(54)【発明の名称】フラッシュ装置及びその操業運転停止後の残留物の抜出方法
(51)【国際特許分類】
C22B 23/00 20060101AFI20220523BHJP
C22B 3/08 20060101ALI20220523BHJP
【FI】
C22B23/00 102
C22B3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020191623
(22)【出願日】2020-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】中村 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勝輝
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA19
4K001BA02
4K001DB03
4K001DB24
(57)【要約】 (修正有)
【課題】フラッシュ装置、及びフラッシュタンクの内部に残留する浸出残渣等の残留物を効率よく抜き出す方法を提供する。
【解決手段】金属を含有する鉱石に水を添加して調製した鉱石スラリーに対して高温高圧条件下で硫酸により浸出処理を行なうオートクレーブ4の下流側に位置し、該浸出処理により生成された高温高圧の浸出スラリーを受け入れてフラッシュさせるフラッシュ装置9であって、該フラッシュにより生じた蒸気を気液分離させると共に、該フラッシュ後の低温低圧の浸出スラリーをオーバーフローにより排出させるフラッシュタンク10と、該フラッシュタンク10の底部ドレンノズルに接続するドレン管13に仕切弁21を介して接続する高圧空気及び工業用水の供給配管系20とから構成される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属を含有する鉱石に水を添加して調製した鉱石スラリーに対して高温高圧条件下で硫酸により浸出処理を行なう高圧反応容器の下流側に位置し、該浸出処理により生成された高温高圧の浸出スラリーを受け入れてフラッシュさせるフラッシュ装置であって、
前記フラッシュにより生じた蒸気を気液分離させると共に、該フラッシュ後の低温低圧の浸出スラリーをオーバーフローにより排出させるフラッシュタンクと、該フラッシュタンクの底部ドレンノズルに接続するドレン管に仕切弁を介して接続する高圧空気及び工業用水の供給配管系とから構成されることを特徴とするフラッシュ装置。
【請求項2】
前記鉱石がニッケル酸化鉱石であることを特徴とする、請求項1に記載のフラッシュ装置。
【請求項3】
金属を有する鉱石に水を添加して調製した鉱石スラリーに対して高温高圧条件下で硫酸により浸出処理を行なう高圧反応容器の下流側に位置し、該浸出処理により生成された高温高圧の浸出スラリーを受け入れてフラッシュさせるフラッシュタンクの操業運転停止後の残留物の抜出方法であって、
該高圧反応容器に水を導入することで該高圧反応容器及び該フラッシュタンクをこの順に該水により冷却しながら残留物の置換を行なう工程と、該フラッシュタンクの底部から高圧空気を吹き込んで該置換により生成される該フラッシュタンク内の残留物スラリーを撹拌する工程と、該水の導入停止後に該フラッシュタンクから該残留物スラリーをドレン管を介して抜き出す工程とからなることを特徴とするフラッシュタンク内の残留物の抜出方法。
【請求項4】
前記残留物スラリーの抜き出し後、前記フラッシュタンクの底部から工業用水を導入することで、前記抜き出し後に前記フラッシュタンク内に残留する残留物をスラリー化する工程と、前記フラッシュタンクの底部から高圧空気を吹き込んで該スラリー化した残留物を撹拌する工程と、前記フラッシュタンクから該スラリー化した残留物をドレン管を介して抜き出す工程とを更に有することを特徴とする、請求項3に記載のフラッシュタンク内の残留物の抜出方法。
【請求項5】
前記スラリー化する工程、前記スラリー化した残留物を撹拌する工程、及び前記スラリー化した残留物を抜き出す工程を、前記フラッシュタンク内に残留する残留物のレベルが該フラッシュタンクの胴部のマンホールの最下部レベル以下になるまで繰り返すことを特徴とする、請求項4に記載のフラッシュタンク内の残留物の抜出方法。
【請求項6】
前記フラッシュタンクの底部に吹き込む高圧空気の圧力が、操業運転時の該フラッシュタンクの運転圧力よりも低く、且つ前記冷却しながら置換を行なう工程における前記フラッシュタンク内の圧力よりも高いことを特徴とする、請求項3~5のいずれか1項に記載のフラッシュタンク内の残留物の抜出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル酸化鉱石などの有価金属を含有する鉱石を高温高圧条件下で酸浸出処理する高圧反応容器の下流側に位置し、該酸浸出処理により生成される浸出スラリーを減圧させるフラッシュ装置、及びその操業運転停止後の残留物の抜出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬法として、特許文献1に示すようにニッケル酸化鉱石に水を加えて調製した鉱石スラリーを高圧蒸気と共にオートクレーブと称する高圧反応容器に導入し、更に硫酸を添加して高温高圧下で浸出処理を行なうことで、ニッケルやコバルト等の有価金属を浸出させるHPAL(High Pressure Acid Leaching)法とも称する高圧酸浸出法が知られている。この高圧酸浸出法では、浸出処理で生成された有価金属を含んだ浸出液が浸出残渣と共に高温高圧の浸出スラリーとしてオートクレーブから抜き出されるため、次工程において該浸出残渣の分離除去が行なわれる。
【0003】
上記浸出残渣の分離除去は、一般的には重力沈降により固液分離を行なうシックナーが用いられるため、上記の高温高圧の浸出スラリーは、該シックナーで固液分離される前にフラッシュタンクに導入され、ここでフラッシュによりほぼ常圧まで減圧される。このフラッシュにより発生した蒸気は、一般的には上記オートクレーブの前段の鉱石スラリーの予備加熱器の熱源に再利用される。一方、上記フラッシュ後の低温低圧の浸出スラリーはフラッシュタンクの底部に一時的に滞留した後、オーバーフローにより排出されて後段のシックナーに移送される。
【0004】
上記のように、フラッシュタンクは、硫酸を含んだ高温高圧の浸出スラリーが勢いよく流れ込んで内部でフラッシュする苛酷な条件に曝されるので、レンガによってフラッシュタンクを内張することで耐食性及び耐摩耗性を高めている。しかしながら、長期間に亘って操業しているうちに、物理的な衝撃や熱応力、硫酸による腐食等によりレンガに損耗や劣化が生じることがあり、定期的に湿式製錬設備の操業を停止して内部の開放点検を行ない、適宜レンガを補修することが必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、フラッシュタンクにはオートクレーブから排出される高温高圧の浸出スラリーが導入されるため、操業停止後にフラッシュタンクの開放点検を行なうには、先ずオートクレーブ及びフラッシュタンクを冷却すると共に、これら機器の内部に残留する浸出残渣等の残留物を除去することが必要になる。そのため、一般的にはオートクレーブへの鉱石スラリー原料及び硫酸の導入を停止した後は、オートクレーブに水を導入して冷却しながら内部に残留する鉱石や浸出残渣等の残留物を水で置換する停止運転が行なわれる。このオートクレーブに導入された水は、上記の鉱石等の残留物を伴ってオートクレーブから排出された後、下流側のフラッシュタンクに導入され、ここで同様に冷却しながら内部に残留する浸出残渣等の残留物を置換していく。フラッシュタンクに導入された水は、この残留物を伴ってオーバーフローノズルから排出される。
【0007】
この水による冷却と残留物の置換をある程度継続した後、オートクレーブが所定の温度に到達したのを確認した時点でオートクレーブへの水の導入を停止する。これにより、フラッシュタンクも同様に冷却することができるが、浸出残渣等の固形物は水より比重が高いため、上記オーバーフローノズルより下方に滞留する固形物はフラッシュタンクから排出されにくく、水に希釈された状態でフラッシュタンク内に残留する。
【0008】
そこで、上記の水の導入停止後は、一般的にフラッシュタンクの底部のドレン弁を開けることによって上記フラッシュタンク内に残留する浸出残渣等の固形物を水と共にドレン管から抜き出す作業が行なわれる。しかしながら、浸出残渣等の固形物はフラッシュタンクの底部に堆積しやすいうえ、圧密状態になってドレン管を閉塞させやすく、この堆積物を崩したり、閉塞させている固形物を取り除いたりする作業に時間と労力を要していた。その結果、湿式製錬設備の操業停止期間が長びき、稼働率が低下する問題が生ずることがあった。
【0009】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、ニッケル酸化鉱石等の鉱石のスラリーを高温高圧条件下で酸浸出処理する高圧反応容器の下流側に位置し、該酸浸出処理により生成される浸出スラリーを該高圧反応容器から受け入れて減圧させるフラッシュタンクにおいて、その内部に残留する浸出残渣等の残留物を操業停止後に効率よく抜き出すことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係るフラッシュ装置は、金属を含有する鉱石に水を添加して調製した鉱石スラリーに対して高温高圧条件下で硫酸により浸出処理を行なう高圧反応容器の下流側に位置し、該浸出処理により生成された高温高圧の浸出スラリーを受け入れてフラッシュさせるフラッシュ装置であって、前記フラッシュにより生じた蒸気を気液分離させると共に、該フラッシュ後の低温低圧の浸出スラリーをオーバーフローにより排出させるフラッシュタンクと、該フラッシュタンクの底部ドレンノズルに接続するドレン管に仕切弁を介して接続する高圧空気及び工業用水の供給配管系とから構成されることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るフラッシュタンク内の残留物の抜出方法は、金属を有する鉱石に水を添加して調製した鉱石スラリーに対して高温高圧条件下で硫酸により浸出処理を行なう高圧反応容器の下流側に位置し、該浸出処理により生成された高温高圧の浸出スラリーを受け入れてフラッシュさせるフラッシュタンクの操業運転停止後の残留物の抜出方法であって、該高圧反応容器に水を導入することで該高圧反応容器及び該フラッシュタンクをこの順に該水により冷却しながら残留物の置換を行なう工程と、該フラッシュタンクの底部から高圧空気を吹き込んで該置換により生成される該フラッシュタンク内の残留物スラリーを撹拌する工程と、該水の導入停止後に該フラッシュタンクから該残留物スラリーをドレン管を介して抜き出す工程とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、操業停止後にフラッシュタンク内に残留する浸出残渣等の残留物を効率的に抜き出すことができるので、操業停止期間を短縮することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のフラッシュ装置を備えた湿式製錬設備を用いて行なわれる湿式製錬法の一具体例のブロックフロー図である。
【
図2】本発明のフラッシュ設備の一具体例を、その上流側の予備加熱器及びオートクレーブと共に示す模式的なプロセスフロー図である。
【
図3】
図2に示すフラッシュ設備の操業時の運転状態を示すフロー図である。
【
図4】
図2に示すフラッシュ設備において、オートクレーブの冷却に用いた水により冷却及び残留物の置換を行なっている様子を示すフロー図である。
【
図5】
図2に示すフラッシュ設備において、水によりスラリー化された残留物スラリーを底部から導入した高圧空気で撹拌している様子を示すフロー図である。
【
図6】
図2に示すフラッシュ設備において、水によりスラリー化され且つ均一に撹拌された残留物スラリーを底部のドレン弁を開けてドレン管から抜き出している様子を示すフロー図である。
【
図7】
図2に示すフラッシュ設備において、底部のドレン管から工業用水を導入することで内部に残留する残留物をスラリー化している様子を示すフロー図である。
【
図8】
図2に示すフラッシュ設備において、水によりスラリー化された状態で内部に残留する残留物スラリーを底部から導入した高圧空気で撹拌している様子を示すフロー図である。
【
図9】
図2に示すフラッシュ設備において、ドレン管から抜き出した後に残留する残留物のレベルが胴部のマンホールの最下部よりも低くなっている状態を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
先ず、本発明のフラッシュ設備を備えた湿式製錬設備を用いて行なわれるニッケル酸化鉱石の湿式製錬法の一具体例について
図1を参照しながら説明する。この
図1に示す湿式製錬法は、原料のニッケル酸化鉱石に水を加えて調製した鉱石スラリーに対して、高温高圧条件下で硫酸により浸出処理を施すことで有価金属としてのニッケル及びコバルトを浸出させる浸出工程S1と、該浸出処理により生成した浸出スラリーをフラッシュタンクで減圧減温させた後、連続する複数のシックナーに該浸出スラリーと洗浄水とを互いに向流に流すことにより上記有価金属を含む浸出液を浸出残渣から分離する向流多段洗浄工程S2と、該浸出液に中和剤を添加して該浸出液に含まれる主に鉄からなる不純物元素を中和澱物として分離除去して中和終液を得る中和工程S3と、該中和終液に微加圧状態で硫化水素等の硫化剤を添加して不純物としての亜鉛を除去してニッケル回収母液を得る浄液工程S4と、該ニッケル回収母液に加圧状態で硫化水素等の硫化剤を添加することによりニッケル及びコバルトを混合硫化物の形態で回収するニッケル回収工程S5とから一般的に構成される。
【0015】
上記の一連の湿式工程のうち、浸出工程S1及び向流多段洗浄工程S2の前段では、
図2に示すような予備加熱器1、オートクレーブ4、及びフラッシュ装置9から主として構成される浸出処理設備が用いられる。予備加熱器1では、ニッケル酸化鉱石に水を加えて調製した鉱石スラリーを一時的に貯留する図示しない鉱石スラリータンクから送液される鉱石スラリーを受け入れると共に、後述するフラッシュ設備9で回収した蒸気を熱源として再利用することで、この受け入れた鉱石スラリーが加熱される。なお、上記の原料のニッケル酸化鉱石には、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱が用いられる。ラテライト鉱は通常はニッケル含有量が0.8~2.5質量%であり、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物の形態で含まれている。また、
図2には1基のタンクからなる予備加熱器1が示されているが、直列する2基以上のタンクで予備加熱器1を構成してもよい。
【0016】
予備加熱器1で加熱された鉱石スラリーは、スラリーポンプ2で昇圧された後、鉱石スラリー供給ライン3を介してオートクレーブ4に導入される。オートクレーブ4は、略円筒形の圧力容器を横向きにした形状を有しており、その内部が堰4aによって1列に並ぶ複数の貯留部(
図2では4つの貯留部が例示されている)に仕切られている。これら複数の貯留部のうち、最も上流側に位置する紙面左端の貯留部に、上記オートクレーブ4から浸出スラリーが導入されると共に、図示しない硫酸供給源から硫酸供給ライン5を介して硫酸が導入される。このオートクレーブ4には、更に蒸気供給ライン6を介して高圧蒸気が導入される。
【0017】
オートクレーブ4内に導入された鉱石スラリーは、各貯留部に設けられている図示しない撹拌機によって撹拌されながら堰4aをオーバーフローして順次下流側に隣接する貯留部に移送され、その間にスラリー温度200~270℃程度、雰囲気圧力1.8~5.8MPaG程度の高温高圧条件下で酸浸出処理が施される。これにより、有価金属のニッケル及びコバルトが鉱石から浸出される。
【0018】
上記の浸出により生成される有価金属を含んだ浸出液は、ヘマタイトを主成分とする鉄品位55~60質量%程度の浸出残渣を伴って浸出スラリーとしてオートクレーブ4の紙面右端の最下流側の貯留部から抜出ライン7によって圧力差により抜き出される。この浸出スラリーの抜き出しでは、上記の最下流側の貯留部の液レベルが、抜出ライン7に設けられているレベル制御弁8の開度により制御される。
【0019】
上記のオートクレーブ4から抜き出された高温高圧の浸出スラリーは、連続する複数のシックナー群において向流多段洗浄が行なわれる前に、フラッシュ装置9に導入され、ここでほぼ大気圧まで減圧される。なお、
図2には、1基のフラッシュタンクからなるフラッシュ装置9が示されているが、直列する2基以上のフラッシュタンクでフラッシュ装置9を構成してもよく、この場合は、該高温高圧の浸出スラリーは、これら複数基のフラッシュタンクにより段階的に減圧される。
【0020】
上記のフラッシュ装置9は、胴部にオーバーフローノズルを備えた縦型円筒形状のフラッシュタンク10と、該フラッシュタンク10の底部から導入される高圧空気及び工業用水の供給配管系20とから構成される。
図2及び
図3参照しながら具体的に説明すると、オートクレーブ4から抜き出された高温高圧の浸出スラリーは、オートクレーブ4よりも低い運転圧力が維持されているフラッシュタンク10内にその頂部から導入されてフラッシュする。
【0021】
上記のフラッシュにより発生した蒸気は、フラッシュタンク10内において浸出スラリーから気液分離して頂部ノズルから排出され、この頂部ノズルに接続する蒸気回収ライン11を介して予備加熱器1に移送され、ここで前述したように鉱石スラリーの加熱用の熱源として再利用される。一方、上記のフラッシュにより発生した蒸気によって蒸発潜熱が奪われて減温した浸出スラリーは、フラッシュタンク10内の下部に一時的に滞留した後、該フラッシュタンク10の胴部のオーバーフローノズル10aからオーバーフローにより抜き出され、該オーバーフローノズル10aに接続するオーバーフローライン12を介して後段のシックナー群へ移送される。
【0022】
上記のフラッシュタンク10の底部ドレンノズルにはドレン管13が接続しており、操業運転時はいずれも閉状態のドレン弁14及び副ドレン弁15がこのドレン管13に設けられている。これらドレン弁14及び副ドレン弁15は、操業運転停止後の点検設備等の際に必要に応じて開けられ、これにより該フラッシュタンク10の内部に残留する浸出残渣などの残留物をこのドレン管13を介して抜き出すことができる。なお、上記の底部ドレンノズルの入口にはストレーナー11bが設けられており、フラッシュタンク10の内壁部から脱落したレンガ片やオートクレーブ4の接液部から剥離したスケールなどのドレン管13を詰まらせるおそれのある過大な固形物がドレン管13に流れ込まないようになっている。
【0023】
上記のドレン管13は、ドレン弁14と副ドレン弁15との間に、仕切弁21を介して高圧空気及び工業用水の供給用の供給配管系20が接続している。この供給配管系20は、例えばコンプレッサーなどの図示しない高圧空気供給源から供給される高圧空気をフラッシュタンク10内に導入する高圧空気供給配管22及びその仕切弁21側の端部に設けられた高圧空気供給弁23と、例えば工業用水タンク及び工業用水供給ポンプなどの図示しない工業用水供給源から供給される工業用水をフラッシュタンク10内に導入する工業用水供給配管24及びその仕切弁21側の端部に設けられた工業用水供給弁25とから構成される。
【0024】
次に、上記のフラッシュ装置9において、その操業運転停止後に内部に残留する残留物を抜き出す本発明の実施形態の抜出方法について
図4~9を参照しながら説明する。なお、
図4~9において、白色で描かれている弁は閉状態にあることを示しており、黒色で描かれている弁は開状態にあることを示している。先ず、
図2に示す予備加熱器1への原料の鉱石スラリーの供給と、オートクレーブ4への硫酸の供給とを停止し、更にオートクレーブ4への高圧蒸気の供給量を徐々に減らすことで操業運転を停止する。この状態で、冷却置換工程として、好ましくは予備加熱器1から工業用水を導入して予備加熱器1、オートクレーブ4、及びフラッシュタンク10の順に該工業用水を流す。これにより、これら機器が工業用水で冷却されると共に、これら機器の内部に残留している鉱石スラリーや浸出スラリーなどの残留物が工業用水で置換される。
【0025】
上記の冷却置換工程では、
図4に示すように、フラッシュタンク10には、置換された浸出残渣などの残留物を伴って上流側のオートクレーブ4から排出される工業用水が導入される。これにより、フラッシュタンク10の底部に残留している浸出残渣などの残留物が、この工業用水で徐々に置換され、フラッシュタンク10の側部のオーバーフローノズル10aからはこの置換された残留物が工業用水と共に排出される。この冷却置換工程では、
図4に示すように、ドレン弁14、副ドレン弁15、仕切弁21、高圧空気供給弁23、及び工業用水供給弁25は、操業運転時と同様に全て閉状態にする。
【0026】
上記の冷却置換工程をある程度継続させて、フラッシュタンク10からオーバーフローにより排出される工業用水に固形分がほとんど含まれなくなるか、あるいは固形物の含有量が減少するのを確認した時点で、
図5に示すように、空気吹込工程として、供給配管系20の高圧空気供給弁23及び仕切弁21を開けると共に、ドレン弁14を開けて、フラッシュタンク10の底部から高圧空気を吹き込む。これにより、フラッシュタンク10の内部に残留している主として浸出残渣から構成される固形分と、オートクレーブ4から移送される工業用水とが撹拌されるので、フラッシュタンク10のオーバーフローノズルから再び残留物を排出させることが可能になる。
【0027】
上記のフラッシュタンク10に導入する高圧空気の圧力は、上記冷却置換工程においてオートクレーブ4から移送される工業用水を受け入れる時のフラッシュタンク10内の圧力よりも高く、且つ操業運転時のフラッシュタンク10の運転圧力よりも低いことが望ましい。例えば、直列に接続される2段のフラッシュタンクでフラッシュ設備9が構成される場合は、オートクレーブ4から移送される工業用水を受け入れる時の1段目のフラッシュタンク内の圧力は500kPaG程度、通常操業時の運転圧力は1800kPaG程度なので、上記の高圧空気の圧力は500~1800kPaGの範囲内が好ましい。
【0028】
上記のフラッシュタンク10に導入する高圧空気の圧力が、オートクレーブ4から移送される工業用水を受け入れる時のフラッシュタンク10内の圧力以下の場合、高圧空気をフラッシュタンク10内に吹き込むことができなくなる。逆に、この高圧空気の圧力が、操業運転時のフラッシュタンク10の運転圧力以上の場合、フラッシュタンクに設置されている緊急減圧用の破裂板(ラプチャーディスク)が破裂するリスクが高くなる。
【0029】
上記の高圧空気の吹き込みは、予備加熱器1、オートクレーブ4、及びフラッシュタンク10の内部の残留物が、上記の予備加熱器1に供給した工業用水によって十分に置換されるまで継続することが好ましい。上記の工業用水によって十分に置換されていることは、フラッシュタンク10のオーバーフローノズル10aから排出される工業用水に固形分がほとんど含まれなくなっていることで判断することができる。あるいは、過去の運転データ等に基づいてオートクレーブ4が所定の温度まで減温されたことで十分に置換されたと判断してもよい。
【0030】
上記の工業用水による十分な置換が完了した時点で、上記の予備加熱器1への工業用水の供給を停止すると共に、高圧空気供給弁23及び仕切弁21を閉じてフラッシュタンク10内への高圧空気の吹き込みを停止する。このとき、ドレン弁14は開けたままでもよい。次に
図6に示すように、抜出工程として、前工程でドレン弁14を閉めた場合はこれを開けた後に副ドレン弁15を開けて、フラッシュタンク10内に残留するスラリー状の残留物をドレン管13を介して抜き出す。ドレン管13の出口からスラリー状の残留物が排出されないことを確認した後、副ドレン弁15を閉めることで上記のドレン管13を介した抜出工程を終了する。このとき、ドレン弁14は開けたままでもよい。
【0031】
次に、上記の抜出工程では排出されずにフラッシュタンク10内に残留する浸出残渣等の固形物をスラリー化して流動性を高めるため、
図7に示すように、スラリー化工程として、前工程でドレン弁14を閉めた場合はこれを開けた後に供給配管系20の工業用水供給弁25及び仕切弁21を開けてフラッシュタンク10の底部に工業用水を導入する。このスラリー化工程の際、工業用水はオーバーフローノズル10aから排出されない程度に導入するのが好ましく、具体的には工業用水を流量300m
3/hで約10分間かけて導入するのが好ましい。
【0032】
上記の所定量の工業用水が導入された時点で工業用水供給弁25を閉じ、代わりに
図8に示すように、空気再吹込工程として、高圧空気供給弁23を開けて好ましくは圧力500~1800kPaG程度の高圧空気を約10分間吹き込む。これにより、前工程のスラリー化工程で得た残留物スラリーが撹拌されるので、該残留物スラリーの流動性を高めることができる。この約10分の経過後、高圧空気供給弁23及び仕切弁21を閉じて高圧空気の吹き込みを停止し、再抜出工程として、前述した
図6の場合と同様に、副ドレン弁15を開けて上記の残留物スラリーをドレン管13を介して再度抜き出す。
【0033】
この再抜出工程の完了後、フラッシュタンク10の頂部ノズル又は頂部マンホールを開放し、確認工程として、検尺棒を用いてドレン管13から排出されずに残留する固形物のレベルを確認する。この確認の結果、
図9に示すように、フラッシュタンク10内に残留する固形物のレベルが胴部のマンホール10cの最下部レベルL以下まで下がっている場合は、本発明の実施形態の抜出方法が終了したと判断できる。一方、フラッシュタンク10内に残留する固形物のレベルが、該マンホール10cの最下部レベルLよりも高い場合は、この固形物のレベルが該最下部レベルL以下になるまで、上記のスラリー化工程、空気再吹込工程、再抜出工程、及び確認工程を繰り返す。
【0034】
このようにして、フラッシュタンク10内に残留する固形物のレベルを該マンホール10cの最下部レベルL以下まで下げることで、該マンホール10cを特に問題なく開放することが可能になる。これにより、該マンホール10cを開けたときに残留物が飛散する等の問題を生じさせることなくフラッシュタンク10の内部に入ることができるので、必要に応じてフラッシュタンク10内に残留している固形物を、バキュームなどを利用して抜き出した後、内部のレンガを点検したり補修したりする作業に早期に取り掛かることが可能になる。
【実施例0035】
(実施例)
図1に示すブロックフローに沿って原料としてのニッケル酸化鉱石の湿式製錬を行ってニッケルコバルト混合硫化物の製造を行なった後、該湿式製錬プラントの稼働を停止して内部の定期点検を行なった。その際、
図2に示す予備加熱器1、オートクレーブ4、及びフラッシュタンク10からなる浸出処理設備においては、先ず1時間当たりオートクレーブ4の容積の約1/3倍の量の工業用水を予備加熱器1から導入することで、この浸出処理設備の冷却及び系内の鉱石スラリーや浸出スラリーなどの残留物の抜き出しを行なった(冷却置換工程)。このとき、フラッシュタンク10では、
図4に示すように置換された浸出残渣などの残留物を含む工業用水をオーバーフローにより排出した。
【0036】
上記工業用水の導入開始から3時間経過した時点で、
図5に示すように、フラッシュタンク10(容量195m
3)の底部から供給配管系20を介して圧力700~800kPaGの高圧空気を1400Nm
3/hの流量で吹き込んだ(空気吹込工程)。上記工業用水の導入開始から7時間経過した時点で、オートクレーブ4の温度が所定の温度まで低下したので、工業用水の導入を停止すると共に高圧空気の吹き込みを停止した。
【0037】
次に、
図6に示すように、工業用水で希釈されたフラッシュタンク10内の残留物をドレン管13から抜き出した(抜出工程)。この抜出工程では排出されずにフラッシュタンク10内に残留した固形物に対して、
図7に示すように、フラッシュタンク10の底部から供給配管系20を介して圧力550~650kPaGの工業用水を流量300m
3/hで約10分間導入してスラリー化した(スラリー化工程)。
【0038】
このスラリー化された固形物を撹拌するため、
図8に示すように、供給配管系20において工業用水の導入から高圧空気の導入に切り替えてフラッシュタンク10の底部から高圧空気を10分間吹き込んだ(空気再吹込工程)。この高圧空気の再吹き込みを10分間継続した後、スラリー化した固形物をドレン管13から抜き出した(再抜出工程)。その後、フラッシュタンク10の頂部のノズルを開放し、検尺棒を用いてフラッシュタンク10内に残留する残留物のレベルが胴部のマンホール10cの最下部レベルL以下になっているか否か確認した(確認工程)。
【0039】
上記のスラリー化工程、空気再吹込工程、再抜出工程、及び確認工程からなる抜出作業を合計3回繰り返すことで、フラッシュタンク10内の残留物のレベルをマンホール10cの最下部レベルL以下にすることができた。これにより、工業用水の導入停止から約16時間後にフラッシュタンク10の胴部のマンホール10cを問題なく開放することができた。
【0040】
(比較例)
比較のため、実施例と同様の予備加熱器1、オートクレーブ4、及びフラッシュタンク10からなる浸出処理設備において、フラッシュタンク10の底部から高圧空気の吹き込みを行なわない以外は実施例と同様にしてフラッシュタンク内に残留する浸出残渣等の残留物を操業停止後に抜き出した。その結果、浸出残渣に加えて系内の接液部から剥離したと思われるスケールや脱落したレンガ片がフラッシュタンク10の底部ストレーナー11bの表面部に堆積した。
【0041】
そのため、胴部のマンホール10cを問題なく開けるためにフラッシュタンク10の内部の浸出残渣等の残留物を該マンホール10cの最下部レベルL以下に下げるまで、工業用水の導入停止から約72時間を要した。このように、比較例では、マンホールを開けるまでの作業時間として実施例の約16時間に対して約72時間を要したため、湿式製錬プラントの運転再開が大幅に遅れ、稼働率が低下した。