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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022080529
(43)【公開日】2022-05-30
(54)【発明の名称】推定装置、推定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B63B 79/30 20200101AFI20220523BHJP
   B63B 79/10 20200101ALI20220523BHJP
   B63B 79/20 20200101ALI20220523BHJP
【FI】
B63B79/30
B63B79/10
B63B79/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020191656
(22)【出願日】2020-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】518022743
【氏名又は名称】三菱造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】杉村 忠士
(72)【発明者】
【氏名】松本 俊作
(72)【発明者】
【氏名】井上 総一郎
(72)【発明者】
【氏名】寺田 伸
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 智
(57)【要約】      (修正有)
【課題】浮体構造物について、構造的な応答を検出するセンサが設置されていない位置における応答を推定する推定装置を提供する。
【解決手段】推定装置10は、浮体構造物に設置された歪みセンサに基づいて計算された設置位置における歪応答スペクトルと、波スペクトルと、歪みセンサが設置位置と未設置位置の歪応答関数を取得し、歪応答スペクトルと、波スペクトルと、前記歪応答関数の関係を示す所定の関係式に基づいて、補正量を計算し、歪みセンサの未設置位置における歪応答関数および波スペクトルから計算される歪応答スペクトルの理論値に補正量を加算して、未設置位置における前記歪応答スペクトルを計算する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮体構造物に設置された歪みセンサの計測値に基づいて計算された前記歪みセンサの設置位置における歪応答スペクトルを取得する歪応答スペクトル取得部と、
前記浮体構造物が存在する位置における波浪の波スペクトルを取得する波スペクトル取得部と、
前記浮体構造物の構造モデルに基づいて計算された、前記歪みセンサの設置位置における歪応答関数(RAO:Response Amplitude Operator)と、前記歪みセンサの未設置位置における歪応答関数(RAO)と、を取得するRAO取得部と、
前記歪みセンサの設置位置の前記歪応答スペクトルおよび前記歪応答関数(RAO)と、前記波スペクトルと、それらの関係式とに基づいて、前記歪応答関数(RAO)および前記波スペクトルから計算される前記歪みセンサの設置位置における前記歪応答スペクトルの理論値と、前記歪みセンサの設置位置における前記歪応答スペクトルとの差の補正量を計算する補正量計算部と、
前記歪みセンサの未設置位置における前記歪応答関数(RAO)および前記波スペクトルから計算される前記未設置位置における前記歪応答スペクトルの理論値と前記補正量とに基づいて、前記未設置位置における前記歪応答スペクトルを推定する歪応答スペクトル推定部と、
を備える推定装置。
【請求項2】
前記歪みセンサと同一の位置または異なる位置に設置された板厚センサが計測した、当該板厚センサが設置された構造物の板厚の情報を取得する板厚取得部と、
前記板厚センサが計測した板厚および検査時に計測された任意の位置における板厚に基づいて、前記歪みセンサの未設置位置における板厚を推定する板厚推定部と、
前記板厚推定部によって推定された板厚を用いて、前記歪みセンサの未設置位置における前記歪応答関数(RAO)を計算するRAO計算部と、
をさらに備え、
前記RAO取得部は、前記RAO計算部が計算した前記歪応答関数(RAO)を取得し、
前記歪応答スペクトル推定部は、取得された前記歪応答関数(RAO)に基づいて、前記歪応答スペクトルを計算する、
請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記板厚取得部は、前記浮体構造物の上甲板に設置された前記板厚センサが計測した板厚の情報を取得し、
前記板厚推定部は、前記上甲板の板厚の減肉量と前記未設置位置における前記構造物の減肉量との関係性に基づいて、前記未設置位置における板厚を推定する、
請求項2に記載の推定装置。
【請求項4】
前記補正量計算部は、前記歪応答スペクトルの理論値が示す歪応答スペクトルの周波数分布を表す波形と、前記歪みセンサの設置位置における前記歪応答スペクトルが示す歪応答スペクトルの周波数分布を表す波形とのピーク位置の差を補正する補正量と、ピーク値の差を補正する補正量と、分布幅の差を補正する補正量と、を計算する、
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の推定装置。
【請求項5】
前記補正量計算部は、前記浮体構造物における異なる位置ごとに、その位置に応じた前記補正量を算出する、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の推定装置。
【請求項6】
前記補正量計算部は、前記浮体構造物が存在する位置における前記波スペクトルが示す波の条件ごとに前記補正量を算出する、
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の推定装置。
【請求項7】
前記補正量計算部は、前記浮体構造物が有する部材の特性ごとに前記補正量を算出する、請求項1から請求項6の何れか1項に記載の推定装置。
【請求項8】
前記補正量計算部は、前記ピーク位置の差を補正する補正量Lと、前記ピーク値の差を補正する補正量Kと、前記分布幅の差を補正する補正量Sと、前記歪応答関数(RAO)と、前記波スペクトルと、前記歪応答関数(RAO)および前記波スペクトルから計算された前記歪応答スペクトルの理論値を出力する関数と、前記歪応答スペクトルの理論値を前記補正量Lと補正量Kと補正量Sとで補正した補正後の前記歪応答スペクトルと、前記歪みセンサが計測した値に基づいて計算された前記歪応答スペクトルの実測値と、の関係をベイジアンネットワークでモデル化し、前記歪応答スペクトルの実測値に基づく逆解析により、補正量Lと、補正量Kと、補正量Sとを計算する、
請求項4に記載の推定装置。
【請求項9】
歪応答スペクトル推定部が推定した前記歪みセンサの未設置位置における前記歪応答スペクトルと、SN線図と、に基づいて、前記未設置位置の構造物の余寿命を推定する劣化推定部、をさらに備える請求項1から請求項8の何れか1項に記載の推定装置。
【請求項10】
浮体構造物に設置された歪みセンサの計測値に基づいて計算された前記歪みセンサの設置位置における歪応答スペクトルを取得し、
前記浮体構造物が存在する位置における波浪の波スペクトルを取得し、
前記浮体構造物の構造モデルに基づいて計算された、前記歪みセンサの設置位置における歪応答関数(RAO:Response Amplitude Operator)と、前記歪みセンサの未設置位置における歪応答関数(RAO)と、を取得し、
前記歪みセンサの設置位置の前記歪応答スペクトルおよび前記歪応答関数(RAO)と、前記波スペクトルと、それらの関係式とに基づいて、前記歪応答関数(RAO)および前記波スペクトルから計算される前記歪みセンサの設置位置における前記歪応答スペクトルの理論値と、前記歪みセンサの設置位置における前記歪応答スペクトルとの差の補正量を計算し、
前記歪みセンサの未設置位置における前記歪応答関数(RAO)および前記波スペクトルから計算される前記未設置位置における前記歪応答スペクトルの理論値と前記補正量とに基づいて、前記未設置位置における前記歪応答スペクトルを計算する、
推定方法。
【請求項11】
コンピュータに、
浮体構造物に設置された歪みセンサの計測値に基づいて計算された前記歪みセンサの設置位置における歪応答スペクトルを取得し、
前記浮体構造物が存在する位置における波浪の波スペクトルを取得し、
前記浮体構造物の構造モデルに基づいて計算された、前記歪みセンサの設置位置における歪応答関数(RAO:Response Amplitude Operator)と、前記歪みセンサの未設置位置における歪応答関数(RAO)と、を取得し、
前記歪みセンサの設置位置の前記歪応答スペクトルおよび前記歪応答関数(RAO)と、前記波スペクトルと、それらの関係式とに基づいて、前記歪応答関数(RAO)および前記波スペクトルから計算される前記歪みセンサの設置位置における前記歪応答スペクトルの理論値と、前記歪みセンサの設置位置における前記歪応答スペクトルとの差の補正量を計算し、
前記歪みセンサの未設置位置における前記歪応答関数(RAO)および前記波スペクトルから計算される前記未設置位置における前記歪応答スペクトルの理論値と前記補正量とに基づいて、前記未設置位置における前記歪応答スペクトルを計算する処理、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、未計測点における構造物の応答を推定する推定装置、推定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
FPSO(Floating Production, Storage and Offloading system)を用いた海洋石油・ガスの生産や洋上風車の拡大など、浮体式設備を使用した産業が増加している。これらの浮体構造物は、設置海域に長期にわたって固定され稼働する必要がある為、船舶のように定期的に入渠し点検や補修を行うことができない。現状では、5年に一度程度、海中からの外周点検と一部の槽内点検が行われている。このときの点検は、目視点検と代表点の板厚計測を行うものであり、その時点での状態を評価しているにすぎず、その後の長期にわたる稼働期間の余寿命を定量的に把握するものでは無い。構造モデルを用い、統計データによって作用荷重を推定し、構造応答を求め、その結果を用いて疲労被害度を計算することは可能であるが、現在の浮体構造物の状態を考慮しない初期状態に基づく推定でしかなく、実稼働状態や経年劣化を考慮した余寿命については定量的に把握できていない。
【0003】
浮体構造物の実稼働状態のモニタリングは、浮体構造物に取り付けたセンサが計測した値を監視することにより行われるが、センサは上甲板等の浮体構造物の外面やドライ区画にしか設置できない為、一般にクリティカルエリアとなる内部構造やタンク内面の部材を直接的にセンシングすることができない。クリティカルエリアの状態を監視するためには、浮体構造物の仮想的なレプリカであるデジタルツインを活用して構造的な応答を計算することが必要であるが、十分な精度を得るためには現状の手法では不十分である。
【0004】
特許文献1には、海洋構造物の物理的変化を光学センサによってモニタリングするシステムが開示されている。非特許文献1には、船体に発生する応力を推定する方法、船体構造物の疲労損傷度の推定方法が開示されている。非特許文献2には、船体に取り付けたセンサで計測した値に基づいて波浪スペクトルを推定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-166001号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】岡田哲男,川村恭己,加藤淳,安藤英幸,米澤挙志,木村文陽,豊田昌信,山内暁彦,有馬俊朗,岡正義,松本俊之,硴崎裕晃:14,000TEU大型コンテナ船における船体構造ヘルスモニタリングに関する研究開発の概要,日本船舶海洋工学会講演会論文集,24号,2017.05,P31-35
【非特許文献2】吉平悠紀,岡田哲男,川村恭己,寺田優紀:14,000TEU大型コンテナ船の船体応答実船計測に基づく波浪スぺクトル推定について,日本船舶海洋工学会講演会論文集,24号,2017.05,P37-42
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
FPSOなどの浮体構造物について、構造的な応答を計測するセンサが設置できない位置における応答を推定する方法が求められている。
【0008】
本開示は、上記課題を解決することができる推定装置、推定方法及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の監視装置は、浮体構造物に設置された歪みセンサの計測値に基づいて計算された前記歪みセンサの設置位置における歪応答スペクトルを取得する歪応答スペクトル取得部と、前記浮体構造物が存在する位置における波浪の波スペクトルを取得する波スペクトル取得部と、前記浮体構造物の構造モデルに基づいて計算された、前記歪みセンサの設置位置における歪応答関数(RAO:Response Amplitude Operator)と、前記歪みセンサの未設置位置における歪応答関数(RAO)と、を取得するRAO取得部と、前記歪みセンサの設置位置の前記歪応答スペクトルおよび前記歪応答関数(RAO)と、前記波スペクトルと、それらの関係式と、に基づいて、前記歪応答関数(RAO)および前記波スペクトルから計算される前記歪みセンサの設置位置における前記歪応答スペクトルの理論値と、前記歪みセンサの設置位置における前記歪応答スペクトルとの差の補正量を計算する補正量計算部と、前記歪みセンサの未設置位置における前記歪応答関数(RAO)および前記波スペクトルから計算される前記未設置位置における前記歪応答スペクトルの理論値と前記補正量とに基づいて、前記未設置位置における前記歪応答スペクトルを計算する歪応答スペクトル推定部と、を備える。
【0010】
本開示の推定方法は、浮体構造物に設置された歪みセンサの計測値に基づいて計算された前記歪みセンサの設置位置における歪応答スペクトルを取得するステップと、前記浮体構造物が存在する位置における波浪の波スペクトルを取得するステップと、前記浮体構造物の構造モデルに基づいて計算された、前記歪みセンサの設置位置における歪応答関数と、前記歪みセンサの未設置位置における歪応答関数(RAO)と、を取得するステップと、前記歪みセンサの設置位置の前記歪応答スペクトルおよび前記歪応答関数(RAO)と、前記波スペクトルと、それらの関係式とに基づいて、前記歪応答関数(RAO)および前記波スペクトルから計算される前記歪みセンサの設置位置における前記歪応答スペクトルの理論値と、前記歪みセンサの設置位置における前記歪応答スペクトルとの差の補正量を計算するステップと、前記歪みセンサの未設置位置における前記歪応答関数(RAO)および前記波スペクトルから計算される前記未設置位置における前記歪応答スペクトルの理論値と前記補正量とに基づいて、前記未設置位置における前記歪応答スペクトルを計算するステップと、を有する。
【0011】
本開示のプログラムは、コンピュータに、浮体構造物に設置された歪みセンサの計測値に基づいて計算された前記歪みセンサの設置位置における歪応答スペクトルを取得し、前記浮体構造物が存在する位置における波浪の波スペクトルを取得し、前記浮体構造物の構造モデルに基づいて計算された、前記歪みセンサの設置位置における歪応答関数と、前記歪みセンサの未設置位置における歪応答関数(RAO)と、を取得し、前記歪みセンサの設置位置の前記歪応答スペクトルおよび前記歪応答関数(RAO)と、前記波スペクトルと、それらの関係式とに基づいて、前記歪応答関数(RAO)および前記波スペクトルから計算される前記歪みセンサの設置位置における前記歪応答スペクトルの理論値と、前記歪みセンサの設置位置における前記歪応答スペクトルとの差の補正量を計算し、前記歪みセンサの未設置位置における前記歪応答関数(RAO)および前記波スペクトルから計算される前記未設置位置における前記歪応答スペクトルの理論値と前記補正量とに基づいて、前記未設置位置における前記歪応答スペクトルを計算する処理を実行させる。
【発明の効果】
【0012】
上述の推定装置、推定方法及びプログラムによれば、構造的な応答を検出するセンサが設置されていない位置における応答を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る監視装置の一例を示すブロック図である。
図2】実施形態に係る浮体構造物の一例を示す図である。
図3】実施形態に係る浮体構造物の構造モデルの一例を示す図である。
図4A】実施形態に係る補正量について説明する図である。
図4B】実施形態に係る補正量Sについて説明する図である。
図5】実施形態に係る未計測位置における歪応答スペクトルの推定処理の一例を示すフローチャートである。
図6】実施形態に係る未計測位置における歪応答スペクトル推定処理の全体をモデル化したベイジアンネットワークモデルの一例を示す図である。
図7】実施形態に係る監視装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<実施形態>
以下、本開示の監視装置について、図1図7を参照して説明する。
(構成)
図1は、実施形態に係る監視装置の一例を示すブロック図である。
監視装置10は、海上の浮体構造物の状態を監視する。浮体構造物とは、例えば、FPSO、洋上風車などである。監視装置10は、浮体構造物に取り付けられた各種センサが計測した計測値を取得し、それらの計測値に必要な演算等を行って監視用パラメータを計算し、監視用パラメータを出力するモニタリング装置10Aと、浮体構造物の3次元構造モデルなどに基づいて、浮体構造物の動作や内部状態等を模擬するシミュレータ(デジタルツイン)10Bとを含む。監視装置10は、データ取得部11と、歪応答スペクトル計算部12と、RAO計算部13と、記憶部14と、出力部15と、推定部16と、評価条件取得部17と、を備える。例えば、データ取得部11と、歪応答スペクトル計算部12は、モニタリング装置10Aが有する機能である。RAO計算部13と推定部16は、シミュレータ10Bが有する機能である。
【0015】
データ取得部11は、歪みセンサによって計測された歪み、加速度センサによって計測された加速度、波浪レーダによって出力された波スペクトル、板厚センサにより計測された板厚の計測値などを取得する。図2に浮体構造物の一例を示す。浮体構造物には、波浪レーダ21、加速度センサ22、歪みセンサ23~25、板厚センサ26が取り付けられている。これらのセンサと監視装置10は、通信可能に接続されている。各センサは、所定の制御周期で計測対象の計測を行い、計測結果を監視装置10へ送信する。データ取得部11は、波浪レーダ21が出力する波スペクトル、加速度センサ22および歪みセンサ23~25、板厚センサ26が計測したセンサデータを取得し、計測時刻と共に各センサデータを記憶部14に書き込んで保存する。波スペクトルでは、周波数と波向きごとの波のパワーが示される。また、板厚センサ26によって、浮体構造物に存在する構造物(例えば、浮体構造物の上甲板)の板厚が計測され、計測結果が監視装置10に入力される。更にデータ取得部11は、定期的な点検時において計測されたタンク内面などの内部構造の板厚を取得し、計測年月日と共に記憶部14に書き込んで保存する。また、同じく点検時にき裂が発見された場合は、位置とき裂長さを計測年月日と共に記憶部14に書き込んで保存する。図2に示す位置30は、タンク内面構造の部材などの歪みセンサを取り付けることができない評価対象位置の一例である。
【0016】
歪応答スペクトル計算部12は、歪みセンサ23~25が計測した歪みの時刻歴データを記憶部14から読み出して歪みセンサ23~25が設置された位置における歪応答スペクトルを演算する。歪応答スペクトルの計算方法は公知であるため、本明細書では説明しない。歪応答スペクトルでは、周波数ごとの歪(または応力)スペクトルが示される。歪応答スペクトル計算部12は、計算した歪応答スペクトルを記憶部14に書き込んで保存する。なお、歪と応力は材料定数を用いて容易に変換できる値であり、同様の意味で扱うことができる。計測では歪、計算では応力を用いることが多い。本明細書では、歪を例に、例えば、歪応答スペクトル、歪応答関数を用いて説明を行うが、それぞれ応力応答スペクトル、応力応答関数に置き換えることができる。
【0017】
RAO計算部13は、浮体構造物の構造モデルを用いたFEM(Finite Element Method:有限要素法)解析もしくはそれに類する構造解析によって、歪応答関数(RAO:Response Amplitude Operator)を計算する。図3に3次元構造モデルの一例を示す。構造モデル20Dは、浮体構造物20の構造応答を模擬する3次元モデルである。RAO計算部13は、構造モデル20Dを用いて、浮体構造物が規則波を受けたときの準静的なFEM解析を実施し、歪みセンサ23~25が取り付けられた位置に対応する位置23D~25Dや、評価対象位置30に対応する位置30Dにおける歪応答関数(RAO)を計算する。RAO計算部13は、FEM解析の際に、記憶部14が記憶する最新の板厚の情報を用いる。歪応答関数(RAO)は、船体長さと波の波長との比に対する歪の応答倍率の波向きごとのセットである。換言すれば、歪応答関数(RAO)は、波向きごと波の周波数ごとの歪の応答倍率のセットである。例えば、歪応答関数(RAO)では、構造物の固有振動数と合致する周波数の波については、歪みの応答倍率が大となる。歪応答関数(RAO)の計算方法は公知であるため、本明細書では説明しない。RAO計算部13は、予め、様々な方向からの様々な周波数の規則波に対する歪応答関数(RAO)を計算し、記憶部14に書き込んで保存しておく。以下、歪みセンサ23~25が取り付けられた位置のことを、位置23~25、計測点23~25のように記載する場合がある。同様に板厚センサ26が取り付けられた位置のことを、位置26、計測点26のように記載する場合がある。
なお、板厚センサ26が計測した最新の板厚の情報が得られれば、板厚推定部167によって、腐食による減肉を考慮した位置23~25、30の板厚が推定され、RAO計算部13は、位置23~25、30の板厚推定値を用いて、位置23~25、30の歪応答関数(RAO)の再計算を行い、板厚減少による応力上昇を考慮する。
【0018】
記憶部14は、データ取得部11が取得したセンサデータ、デジタルツインの構造モデル20D、計算結果の歪応答スペクトルや歪応答関数(RAO)等を記憶する。
出力部15は、歪みセンサが設置されていない位置における歪応答スペクトルなどをモニタや電子ファイルへ出力する。
【0019】
推定部16は、データ取得部11が取得した波スペクトルと、歪応答スペクトル計算部12が計算した歪みセンサ設置位置(位置23~25)における歪応答スペクトルと、RAO計算部13が計算した歪みセンサ設置位置の歪応答関数(RAO)および未設置位置の歪応答関数(RAO)とに基づいて、歪みセンサ未設置位置(位置30)の歪応答スペクトルを推定する。このとき、推定部16は、板厚推定部167によって推定された板厚センサ未計測位置(位置23~25、30)の腐食による減肉を考慮した板厚の推定値を用いて、RAO計算部13によって再計算された歪応答関数(RAO)に基づいて、前記の歪応答スペクトルを逐次修正していく。また、推定部16は、歪みセンサ未設置位置における疲労度・余寿命を推定する。これにより、歪みセンサを取り付けることができない位置における歪応答スペクトルや疲労度・余寿命を把握することができるようになる。歪応答スペクトルからの疲労度・余寿命の推定方法は公知のため説明は省略する。
【0020】
推定部16は、歪応答スペクトル取得部161と、波スペクトル取得部162と、RAO取得部163と、補正量計算部164と、歪応答スペクトル推定部165と、板厚取得部166と、板厚推定部167と、劣化推定部168とを備える。
歪応答スペクトル取得部161は、図2の位置23~25における歪応答スペクトルを記憶部14から読み出して取得する。歪応答スペクトル取得部161は、歪応答スペクトルを補正量計算部164へ出力する。
波スペクトル取得部162は、波スペクトルを記憶部14から読み出して取得する。波スペクトル取得部162は、波スペクトルを補正量計算部164と歪応答スペクトル推定部165へ出力する。
RAO取得部163は、図3の位置23D~25D,30Dにおける歪応答関数(RAO)について、RAO計算部13が計算した情報を保管した記憶部14から波スペクトル計測結果の波向きと同じ波向きのRAO情報(周波数ごとの歪の応答倍率)を読み出して取得する。RAO取得部163は、RAO情報を補正量計算部164と歪応答スペクトル推定部165へ出力する。
【0021】
補正量計算部164は、位置30Dにおける歪応答スペクトルの補正量を計算する。一般に、歪応答スペクトルと、歪応答関数(RAO)と、波スペクトルとの間には、以下の式(1)の関係が成り立つことが知られている。
歪応答スペクトル = (歪応答関数(RAO))× 波スペクトル・・・(1)
補正量計算部164は、位置23~25の計測値に基づく歪応答スペクトルと、位置23D~25Dについて計算された歪応答関数(RAO)と、波スペクトルと、式(1)の関係から、式(1)の左辺と右辺の差を補正する補正量を計算する。ここで、図4Aを参照する。
【0022】
図4Aは、実施形態に係る補正量について説明する図である。
図4Aのグラフの縦軸は歪応答スペクトル、横軸は周波数を示す。曲線C1は、位置23~25の何れかにおける計測値に基づく歪応答スペクトルを示す。つまり、曲線C1は、位置23~25の何れかにおける式(1)の左辺に相当する。曲線C2は、位置23D~25Dのうち曲線C1に対応する位置について計算された歪応答関数(RAO)の2乗に波スペクトルを乗じて得られる波形である。つまり、曲線C2は、式(1)の右辺に相当する。歪みの計測点23~25については、歪応答スペクトルと歪応答関数(RAO)と波スペクトルは計測や解析によって既知であるので、式(1)の右辺と左辺を比較して、その差を歪応答関数(RAO)の誤差として定義する。つまり、式(1)の右辺と左辺の誤差を、構造モデル20Dと現在の浮体構造物20の誤差と考える。このように誤差を定義すると、誤差を補正する補正量を求めることにより、設計条件下で構築された構造モデル20Dが計算する浮体構造物の構造的な応答と、現在の浮体構造物20の応答との差を埋めることが可能になる。また、構造の応答を検出するセンサが設置されていない位置について、本実施形態の手法で計算した応答の値と補正量を用いることによって、センサが設置されていない位置における応答を高精度に推定することができる。具体的には、歪みセンサの未設置位置30における歪応答スペクトルの推定が可能になる。
【0023】
誤差の定義の一例を、図4AのL、K、Sに示す。上述の式(1)の右辺と左辺は一致しない可能性がある。分布の比較となるため、その差は、図4Aのグラフに示すようにピーク位置の誤差L、ピーク量の誤差Kおよび曲線C1と曲線C2分布幅に関する誤差Sの3種類が考えられる。誤差Kは、曲線C1の歪応答スペクトルの最大値と曲線C2の歪応答スペクトルの最大値との差である。誤差Lは、曲線C1にて歪応答スペクトルが最大値となる横軸上の位置と曲線C2にて歪応答スペクトルが最大値となる横軸上の位置との差である。誤差Sについては、まず、図4Bに示す歪応答スペクトルf(ω)の周波数領域の積分値mを考える。mは以下の式(2)で定義される。次に所定のα(図4Bではα=5%)に対して、mの両側100×(1-α)%区間の下限値を式(3)のω、上限値を式(4)のωで定義する。
【0024】
【数1】
【0025】
【数2】
【0026】
【数3】
【0027】
次に両側100×(1-α)%区間の長さを上限値ωと下限値ωの差分、S=ω-ωによって定義する。すると、分布幅に関する誤差Sは両側区間の長さSを用いて次のように定義される。具体的には、図4Aの例における誤差Sは、曲線C1の歪応答スペクトルの周波数領域の積分値の両側95%区間(α=5%;95%は一例であって、例えば、99%(α=1%)や90%(α=10%)でもよい。)の長さをS1とし、曲線C2の歪応答スペクトルの周波数領域の積分値の両側95%区間の長さをS2としたときに、S1/S2で算出される値である。補正量計算部164は、誤差L、誤差K、誤差Sを計算し、これらを補正量とする。以下、誤差Lを補正する補正量を補正量L、誤差Kを補正する補正量を補正量K、誤差Sを補正する補正量を補正量Sと記載する場合がある。未計測位置の応答を、不確実性を考慮して推定するための補正量の算出方法については、後に図6を用いて説明するが、非常に単純な方法として、補正量計算部164は、位置23~25それぞれについて、式(1)により、誤差L、誤差K、誤差Sを計算し、それぞれの平均値を補正量としてもよい。あるいは、補正量計算部164は、評価対象位置30との位置関係に応じて、最も近い位置について計算された補正量を用いてもよい。また、例えば、評価対象位置30が、位置24と位置25の中間に位置する場合には、補正量計算部164は、位置24,25について計算した誤差L、誤差K、誤差Sの平均値を評価対象位置30用の補正量L、補正量K、補正量Sとしてもよい。
【0028】
なお、後述するように、補正量計算部164は、位置ごと、波条件ごとに補正量L、補正量K、補正量Sを計算してもよいし、位置と波条件に加えて、その位置の部材の特性に応じた補正量L、補正量K、補正量Sを算出してもよい。
【0029】
歪応答スペクトル推定部165は、式(1)の右辺を用いて評価対象位置30における歪応答スペクトルの理論値を計算し、その理論値を補正量計算部164が計算した補正量(補正量L、補正量K、補正量S)によって補正して、歪応答スペクトルの推定値を計算する。具体的には、歪応答スペクトル推定部165は、波スペクトル取得部162が取得した波スペクトルと、RAO取得部163が取得した位置30Dにおける歪応答関数(RAO)の2乗を乗じる。そして、その結果の分布曲線(図4Aの曲線C2)について、歪応答スペクトルの最大値の位置に補正量Lを加減算してピーク値の位置を補正し、最大値に補正量Kを加減算してピーク値を補正し、95%信頼区間の幅に補正量Sを乗じる等して分布幅を補正する。歪応答スペクトル推定部165は、推定した歪応答スペクトルを劣化推定部168へ出力する。
【0030】
板厚取得部166は、浮体構造物20にて板厚センサ26によって計測された板厚の情報を記憶部14から読み出して取得する。板厚センサ26は、浮体構造物20の上甲板などの設置しやすい位置に取り付けられており、板厚センサ26は、常時、上甲板の板厚を計測して、最新の計測結果を監視装置10へ送信する。
板厚推定部167は、板厚取得部166が取得した板厚の情報と板厚の検査結果から、理論解もしくは実測により推定された推定式等を用いて、歪みセンサ設置位置および歪みセンサ未設置位置の板厚を推定する。例えば、板厚推定部167は、板厚センサ26の設置位置(例えば、上甲板)の減肉量と、板厚の推定対象位置における減肉量との対応関係を示すテーブル(理論解)や関数(実測経験式)を記憶している。このテーブルや関数には、例えば、上甲板で1mmの減肉があったときには、位置25では0.5mmの減肉が生じ、位置30では0.3mmの減肉が生じるといった関係性が規定されている。このテーブル等は、予め実船での計測結果や実験や机上計算などにより作成されたものである。板厚推定部167は、板厚センサ26が計測した最新の上甲板等の板厚と、上記の対応関係を示すテーブル等とに基づいて、推定対象位置の減肉量を推定し、減肉量の推定値に基づいて、推定対象位置の板厚を推定する。また、定期的な検査等において、例えば、位置23~25の板厚が計測されれば、上記のテーブル等によって推定される板厚推定値と実際の板厚との誤差を算出することができる。板厚推定部167は、このようにして算出された誤差を補正量として記憶し、上記のテーブル等に基づいて推定した板厚の推定値に検査結果に基づく補正量を加算して、推定対象位置における板厚を推定してもよい。あるいは、板厚推定部167は、板厚センサ26の計測結果や定期検査等において計測された板厚の計測結果に基づいて、ベイズ法により、推定対象位置における板厚を推定してもよい。板厚推定部167は、センサ設置位置およびセンサ未設置位置の板厚の推定値を、RAO計算部13に出力するとともに、劣化推定部168へ出力する。RAO計算部13は、最新の板厚計測値に基づいて推定された歪みセンサ設置位置(位置23D~25D)における最新の歪応答関数(RAO)と、歪センサ未設置位置(位置30D)における最新の歪応答関数(RAO)を計算する。補正量計算部164は、これら最新の歪応答関数(RAO)を用いて補正量K、S、Lを計算する。歪応答スペクトル推定部165は、最新の歪応答関数(RAO)を用いて、歪応答スペクトルを推定する。
板厚が変化すれば、構造物の歪応答スペクトルも変化する。本実施形態では、最新の板厚推定値に基づいて歪応答関数(RAO)および補正量を更新することにより、歪センサ未設置位置における歪応答スペクトルを高精度に推定することができる。
【0031】
劣化推定部168は、SN線図(疲労線図)を用いた公知の方法によって、浮体構造物の疲労度・余寿命を推定する。劣化推定部168は、歪みセンサ未設置位置の板厚の推定値や歪みセンサ未設置位置の構造物の継手形式などに基づいて、板厚を含む継手分類によるSN線図もしくは板厚をパラメータとするホットスポット応力基準によるSN線図を選択する。更には、腐食環境下を考慮したSN線図を選択することで、高精度な寿命推定を可能とする。劣化推定部168は、選択したSN線図と求めた歪応答スペクトルを基に短期間における現在の浮体構造物の疲労度を推定する。また、劣化推定部168は、選択したSN線図と長期間における応力の発生回数分布とに基づいて、将来の浮体構造物の疲労度を推定する。また、定期的な点検でき裂が発見された場合は、同じく劣化推定部168にて、そのき裂の今後の成長を公知の方法で推定し、危険な長さになる期間を推定することも可能である。
【0032】
評価条件取得部17は、歪応答スペクトル推定の評価対象データと評価条件を取得する。評価条件とは、例えば、評価対象位置の場所、波の条件(周波数、波向き)等である。
【0033】
(動作)
次に、非計測点における歪応答スペクトルの推定処理について説明する。
図5は、実施形態に係る未計測位置における歪応答スペクトルの推定処理の一例を示すフローチャートである。ステップS1~S4の処理で位置や波条件ごとの補正量を出力する関数を作成し、ステップS5~S8の処理によって、センサ未設置位置における歪応答スペクトル、余寿命を計算する。
【0034】
(補正量を出力する関数の作成)
まず、データ取得部11が、所定期間に計測されたセンサデータを取得する(ステップS1)。データ取得部11は、所定期間に計測された波スペクトル、歪み、加速度、板厚を取得する。
【0035】
次に、歪応答スペクトル計算部12は、一定期間の間に歪みセンサが計測した計測値に基づいて、公知の方法により、歪応答スペクトルを計算する(ステップS2)。
次に、RAO計算部13は、構造モデル20Dを用いて、センサの設置位置である計測点の歪応答関数(RAO)と非計測点の歪応答関数(RAO)を計算する(ステップS3)。その際、任意の波条件(周波数、波向き)の規則波荷重条件にて算出する。また、歪応答関数(RAO)については、板厚推定部167が推定した現状の最新の板厚の情報を基に算出されるものとする。
【0036】
次に補正量計算部164は、図4A図4Bを用いて説明した考え方に基づいて、位置ごと、波条件ごとの補正量L、補正量K、補正量Sを計算する関数を作成する(ステップS4)。波条件とは、例えば、波の周波数と波向きである。例えば、補正量計算部164は、位置23の位置情報と波条件を入力すると、その波条件に合った位置23における補正量L、補正量K、補正量Sを出力するような関数を作成する。位置ごと、波の条件ごとの補正量を計算する関数の作成方法については、後に図6を用いて説明する。補正量計算部164は、補正量Lを出力する関数、補正量Sを出力する関数、補正量Kを出力する関数をそれぞれ作成し、記憶部14に書き込んで保存する。また、補正量計算部164は、一般的な板構造や、骨構造、骨と骨の交差部など部材の特性ごとに補正量を計算する関数を作成してもよい。例えば、位置23の部材の特性が特性A、位置24の部材の特性が特性B、位置25の部材の特性が特性Aの場合、補正量計算部164は、位置23と位置25について特性Aに応じた関数を作成し、位置24について特性Bに応じた関数を作成する。
【0037】
(センサ未設置位置の応答や余寿命の推定)
次に評価条件取得部17は、評価対象データと評価条件とを取得する(ステップS5)。例えば、評価条件取得部17は、評価対象データとして、評価対象位置30Dの歪応答関数(RAO)とある期間に計測された波スペクトルを取得する。評価条件取得部17は、評価条件として、評価対象位置30、評価対象データの波スペクトルに対応する波条件(波向、周波数)を取得する。評価対象データは、ステップS1で取得したものであってもよいし、新たに取得してもよい。また、なんらかの理由により、波スペクトルの計測ができなかった場合、異なる方法で入手した対象海域の有義波高、波向き、波周期などを用いて、既存の算式を用いて波スペクトルを推定しても良い。
【0038】
次に、補正量計算部164が、評価条件に応じた補正量を計算する(ステップS6)。
補正量計算部164は、評価条件で指定された評価対象位置と波条件を補正量Kの関数に入力し、評価条件に応じた補正量Kを取得する。同様にして、補正量計算部164は、評価条件を補正量Sの関数に入力し補正量Sを取得し、評価条件を補正量Lの関数に入力し補正量Lを取得する。また、例えば、位置30の部材特性が特性Bの場合、補正量計算部164は、特性Bについて作成した補正量K、S、Lの各関数に評価条件を入力して、特性B、位置、波条件に応じた補正量K、S、Lを取得する。
【0039】
次に、歪応答スペクトル推定部165は、非計測点の歪応答スペクトルを推定する(ステップS7)。歪応答スペクトル推定部165は、評価対象位置30Dについて計算された歪応答関数(RAO)の2乗に評価対象データの波スペクトルを乗じた値を、ステップS6で計算した補正量で補正して、評価対象位置30の歪応答スペクトルを計算する。
次に、劣化推定部168が、非計測点の疲労度・余寿命を推定する(ステップS8)。劣化推定部168は、歪応答スペクトル推定部165が推定した歪応答スペクトルと、最新の板厚を含めた継手分類によるSN線図もしくは板厚をパラメータとするホットスポット応力基準によるSN線図とに基づいて、非計測点の構造物の疲労度・余寿命を推定する。次に出力部15が、評価対象位置30の歪応答スペクトル、評価対象位置30の構造物の疲労度・余寿命をディスプレイや電子ファイルに出力する(ステップS9)。これにより、センサの非設置位置における歪応答スペクトル、疲労度・余寿命を把握することができる。
【0040】
(補正量の計算の詳細)
次に補正量の計算方法の一例について図6を参照して説明する。
図6に、実施形態に係る未計測位置における歪応答スペクトルの推定処理の全体をベイジアンネットワークによりモデル化した推定モデルの一例を示す。
補正量計算部164は、図6に例示する推定モデルを作成する。
図6の推定モデルにおいて、補正量Kは、μ1、σ1、λ1をパラメータとするガウス過程回帰モデルで表されている。K、μ1、σ1、λ1はそれぞれ図6の変数312、303、304、305である。同様に、補正量Sは、μ2、σ2、λ2をパラメータとするガウス過程回帰モデルで表され、補正量Lは、μ3、σ3、λ3をパラメータとするガウス過程回帰モデルで表されている。S、μ2、σ2、λ2はそれぞれ図6の変数313、306、307、308であり、L、μ3、σ3、λ3はそれぞれ図6の変数314、309、310、311である。また、補正量K、S、Lのガウス過程回帰モデルは、位置と波条件の関数である。例えば、補正量Kのガウス過程回帰モデルによって示される関数fに位置と波条件を入力すると、ガウス過程回帰モデルは、位置と波条件に応じた補正量Kを算出する。補正量S,Lについても同様である。
【0041】
図6のモデルにおいて矢印の先のオブジェクトは、矢印の元のオブジェクトに依存していることを示している。例えば、補正量Kであれば、パラメータμ1,σ1,λ1に依存している。補正量計算部164は、図6のモデルに基づいて、歪応答スペクトルの理論値をμ1,σ1,λ1で表した補正量Kと、μ2,σ2,λ2で表した補正量Sと、μ3,σ3,λ3で表した補正量Lで補正した値と、歪みセンサの計測値に基づく歪応答スペクトルの関係をガウス過程回帰などの手法により回帰分析し、パラメータμ1~3,σ1~3,λ1~3の値を調整することにより、精度の良い補正量K、S、Lを算出する補正量Kの関数f、補正量Sの関数f、補正量Lの関数fを求める。ガウス過程回帰を用いると、入力変数間(位置や波条件)の相関を考慮した推定手法とすることで、入力が類似していると出力も類似するという傾向を評価することができる。
【0042】
関数301は、位置と波条件に応じた歪応答関数(RAO)を出力し、関数302は波条件に応じた波スペクトルを出力する。関数315は、関数301が出力する歪応答関数(RAO)と関数302が出力する波スペクトルから位置iおよび波条件jにおける歪応答スペクトルの理論値(式(1)の右辺)を計算し、出力する。同様に、関数316は、位置mおよび波条件nにおける歪応答スペクトルの理論値を計算し、関数317は、位置kおよび波条件lにおける歪応答スペクトルの理論値を計算する。位置iと位置mは歪みセンサが設置された位置であり、位置lは非設置位置である。変数318は、関数315が出力した歪応答スペクトルの理論値を補正量K、S、Lで補正した値である。同様に、変数319は、位置mおよび波条件nにおける補正後の歪応答スペクトルである。変数320は、位置kおよび波条件lにおける補正後の歪応答スペクトルである。一方、関数322は、歪応答スペクトルの真値を出力する関数である。関数322が、歪応答スペクトルの真値である変数323を出力し、位置iおよび波条件jで実際に観測された値が観測値324、位置kおよび波条件lで実際に観測された値が観測値325である。観測値324、325は、歪みセンサの計測値から歪応答スペクトル計算部12によって計算された値に相当する。観測値324、325は、計測誤差を含んだ値である。図示するように、観測値324は変数318と変数323に依存し、観測値325は変数319と変数323に依存する。また、位置iにおける補正後の歪応答スペクトル(変数318)に基づいて、位置iにおける余寿命(変数326)が推定される。位置mにおける余寿命(変数327)、位置kにおける余寿命(変数321)についても同様である。補正量計算部164は、図6に例示する推定モデルに基づいて、変数318と観測値324の誤差が小さくなり、変数319と観測値325の誤差が小さくなるように、パラメータμ1~3,σ1~3,λ1~3を計算する。例えば、補正量計算部164は、位置i~m、波条件j~nで計測された計測値に基づく歪応答スペクトル、波スペクトル、歪応答関数(RAO)のセットを多数取得し、ガウス過程回帰などの回帰分析により、計測値に基づく歪応答スペクトル(観測値324、325)と補正後の歪応答スペクトル(変数318、319)の差が小さくなるようなパラメータμ1~3,σ1~3,λ1~3を算出する。パラメータμ1~3,σ1~3,λ1~3が算出されると、μ1、σ1、λ1をパラメータとする補正量Kの関数f、μ2、σ2、λ2をパラメータとする補正量Sの関数f、μ3、σ3、λ3をパラメータとする補正量Lの関数fが得られる。また、これらの関数f、f、f、は、位置と波条件の関数である。これにより、精度の良い補正量K、S、Lの関数を算出することができる。
【0043】
図6の例では、補正量計算部164は、位置および波条件に基づいて補正量K、S、Lを出力する関数を算出することとしたが、補正量計算部164は、各センサの設置位置の部材の特性ごとにベイジアンネットワークモデルを作成し、部材特性ごとに、位置および波条件に応じた補正量K、S、Lを出力する関数を算出してもよい。
また、補正量K、S、Lは、ガウス過程回帰に限らず、多項式回帰、多項式カオス展開、ニューラルネット回帰など他の回帰分析手法であってもよい。それらの回帰分析手法の回帰パラメータを算出することで、歪みセンサ未設置位置における歪応答スペクトルを高精度に推定することができる。
【0044】
また、図6に例示する推定モデルを作成し、回帰分析により、補正量K、S、Lの関数を作成する手法では、実測データを蓄積し、都度、再計算により、補正量K、S、Lを更新することが可能である。モニタリングデータを用いたデータ更新により、より不確実性を減じた高精度な応力推定が可能になる。
【0045】
本手法で補正量K、S,Lの関数(位置と波条件の関数)を作成する場合の処理を、図5のフローチャートに沿って説明すると、ステップS4にて、補正量計算部164は、補正量K、S,Lの各関数を作成する。また、ステップS6にて、補正量K、S,Lの各関数にステップS5で設定された位置と波条件を入力し、位置と波条件に適した補正量K、S,Lを計算し、それらの補正量を歪応答スペクトル推定部165へ出力する。他のステップについては、既に説明した処理と同様である。
【0046】
近年、ハルモニタリングへのデジタルツインの活用が進んでいるが、実際に計測された値とデジタルツインによるシミュレーション結果の有機的な連携には改善の余地がある。本実施形態によれば、モニタリング結果とシミュレーション結果でデータ同化を行い、歪みセンサによる計測を行っていない箇所についても高精度に物理量(歪応答スペクトル、歪応答スペクトルに基づく余寿命)を推定することができる。特に、点検や補修に制限があるFPSO等の浮体構造物では、歪みの計測が難しく、腐食リスクが高いタンク内の部材について疲労度、腐食量、余寿命等を把握することが重要であるが、本実施形態によれば、このような箇所の歪応答スペクトルを高精度に推定することができるので、現状の疲労度や腐食量を高精度に推定できるほか、腐食を考慮した余寿命の将来予測が可能になり、検査計画の立案に役立てることができる。
【0047】
図7は、実施形態に係る監視装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
コンピュータ900は、CPU901、主記憶装置902、補助記憶装置903、入出力インタフェース904、通信インタフェース905を備え、センサ800と接続されている。
上述の監視装置10は、コンピュータ900に実装される。そして、上述した各機能は、プログラムの形式で補助記憶装置903に記憶されている。CPU901は、プログラムを補助記憶装置903から読み出して主記憶装置902に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPU901は、プログラムに従って、記憶領域を主記憶装置902に確保する。また、CPU901は、プログラムに従って、処理中のデータを記憶する記憶領域を補助記憶装置903に確保する。センサ800が計測した計測値は、入出力インタフェース904又は通信インタフェース905を通じて、コンピュータ900へ入力され、CPU901の処理によって補助記憶装置903に保存される。
【0048】
なお、監視装置10の全部または一部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各機能部による処理を行ってもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、CD、DVD、USB等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ900に配信される場合、配信を受けたコンピュータ900が当該プログラムを主記憶装置902に展開し、上記処理を実行しても良い。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0049】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
例えば、歪みセンサは応力センサであってもよい。また、上記実施例の歪応答スペクトルおよび歪応答関数(RAO)の代わりに、応力応答スペクトルおよび応力応答関数(RAO)を用いてもよい。この場合、例えば、上記の式(1)は、以下の式(1´)となる。
応力応答スペクトル = (応力応答関数(RAO))× 波スペクトル・・(1´)
【0050】
<付記>
実施形態に記載の推定装置、推定方法及びプログラムは、例えば以下のように把握される。
【0051】
(1)第1の態様に係る推定装置(監視装置10)は、浮体構造物(浮体構造物20)に設置された歪みセンサ(センサ23~25)の計測値に基づいて計算された前記歪みセンサの設置位置における歪応答スペクトルを取得する歪応答スペクトル取得部161と、前記浮体構造物が存在する位置における波浪の波スペクトルを取得する波スペクトル取得部162と、前記浮体構造物の構造モデルに基づいて計算された、前記歪みセンサの設置位置における歪応答関数(RAO:Response Amplitude Operator)と、前記歪みセンサの未設置位置における歪応答関数(RAO)と、を取得するRAO取得部163と、前記歪みセンサの設置位置の前記歪応答スペクトルおよび前記歪応答関数(RAO)と、前記波スペクトルと、それらの関係式(式(1))とに基づいて、前記歪応答関数(RAO)および前記波スペクトルから計算される前記歪みセンサの設置位置における前記歪応答スペクトルの理論値と、前記歪みセンサの設置位置における前記歪応答スペクトルとの差の補正量(L,K,S)を計算する補正量計算部164と、前記歪みセンサの未設置位置における前記歪応答関数(RAO)および前記波スペクトルから計算される前記未設置位置における前記歪応答スペクトルの理論値と前記補正量とに基づいて、前記未設置位置における前記歪応答スペクトルを計算する歪応答スペクトル推定部165と、を備える。
これにより、歪みセンサを取り付けることが難しい位置の歪応答スペクトルを推定することができる。構造モデルによって計算した歪みセンサの未設置位置における歪応答スペクトルを、モニタリング結果とシミュレーション結果でデータ同化を行って計算した補正量で補正することにより、精度よく、歪みセンサの未設置位置における歪応答スペクトルを推定することができる。
【0052】
また、上述の通り、歪と応力は変換可能であるから、上記の第一の態様は次の記載と同義である。即ち、「推定装置(監視装置10)は、浮体構造物(浮体構造物20)に設置された歪みセンサ(歪みセンサ23~25)の計測値に基づいて計算された前記歪みセンサの設置位置における応力応答スペクトルを取得する歪応答スペクトル取得部161と、前記浮体構造物が存在する位置における波浪の波スペクトルを取得する波スペクトル取得部162と、前記浮体構造物の構造モデルに基づいて計算された、前記歪みセンサの設置位置における応力応答関数(RAO:Response Amplitude Operator)と、前記歪みセンサの未設置位置における応力応答関数(RAO)と、を取得するRAO取得部163と、前記歪みセンサの設置位置の前記応力応答スペクトルおよび前記応力応答関数(RAO)と、前記波スペクトルと、それらの関係式(式(1))とに基づいて、前記応力応答関数(RAO)および前記波スペクトルから計算される前記歪みセンサの設置位置における前記応力応答スペクトルの理論値と、前記歪みセンサの設置位置における前記応力応答スペクトルとの差の補正量(L,K,S)を計算する補正量計算部164と、前記歪みセンサの未設置位置における前記応力応答関数(RAO)および前記波スペクトルから計算される前記未設置位置における前記応力応答スペクトルの理論値と前記補正量とに基づいて、前記未設置位置における前記応力応答スペクトルを計算する歪応答スペクトル推定部165と、を備える。」
このことは、以下の第2の態様~第11の態様についても同様である。
【0053】
(2)第2の態様に係る推定装置(監視装置10)は、(1)の推定装置であって、前記歪みセンサと同一の位置または異なる位置に設置された板厚センサが計測した、当該板厚センサが設置された構造物の板厚の情報を取得する板厚取得部166と、前記板厚センサが計測した板厚および検査時に計測された任意の位置における板厚に基づいて、前記歪みセンサの未設置位置における板厚を推定する板厚推定部167と、前記板厚推定部によって推定された板厚を用いて、前記歪みセンサの未設置位置における歪応答関数(RAO)を計算するRAO計算部13と、をさらに備え、前記RAO取得部163は、前記RAO計算部13が計算した前記歪応答関数(RAO)を取得し、前記歪応答スペクトル推定部165は、取得された前記歪応答関数(RAO)に基づいて、前記歪応答スペクトルを計算する。
板厚推定部167が、歪みセンサの未設置位置における腐食減肉を考慮した板厚を推定し、その板厚推定値に基づいてRAO計算部13が歪応答関数(RAO)を再計算することで、歪応答スペクトル推定部165が推定する歪応答スペクトルの精度向上が期待できる。また、板厚センサ26によって計測された最新の板厚を用いて歪応答関数(RAO)の再計算、歪応答スペクトルの再計算を行うことにより、歪みセンサ未設置位置における現在の歪応答スペクトルを精度よく推定することができる。また、板厚センサが計測した最新の計測値が得られるたびに、板厚推定部167が歪みセンサの未設置位置における板厚を推定し、その結果を用いた歪応答スペクトルの推定を行うことで、歪みセンサ未設置位置における歪応答スペクトルの推移を把握することができる。
【0054】
(3)第3の態様に係る推定装置(監視装置10)は、(2)の推定装置であって、前記板厚取得部166は、前記浮体構造物の上甲板に設置された前記板厚センサが計測した板厚の情報を取得し、前記板厚推定部167は、前記上甲板の減肉量と前記未設置位置における前記構造物の減肉量との関係性に基づいて、前記未設置位置における板厚を推定する。
板厚センサを設置しやすい上甲板に板厚センサを設置し、その板厚センサが計測する上甲板の減肉量と、推定対象位置(例えば、歪みセンサ未設置位置)の減肉量との関係性(対応関係)に基づいて、推定対象位置の板厚を推定することで、板厚センサから上甲板の板厚の情報を取得することができれば、板厚センサを取り付けることができない推定対象位置の板厚であっても推定することができる。
【0055】
(4)第4の態様に係る推定装置(監視装置10)は、(1)~(3)の推定装置であって、前記補正量計算部は、前記歪応答スペクトルの理論値が示す歪応答スペクトルの周波数分布を表す波形と、前記歪みセンサの設置位置における前記歪応答スペクトルが示す歪応答スペクトルの周波数分布を表す波形とのピーク位置の差(L)を補正する補正量と、ピーク値の差(K)を補正する補正量と、分布幅の差(S)を補正する補正量と、を計算する。
これにより、応力の周波数分布を示す歪応答スペクトルについて補正量を計算することができる。
【0056】
(5)第5の態様に係る推定装置(監視装置10)は、(1)~(4)の推定装置であって、前記補正量計算部は、前記浮体構造物における異なる位置ごとに、その位置に応じた前記補正量を算出する。
例えば、船体の前、後、中央では、歪応答スペクトルの理論値と計測値の差が異なる。位置ごとに補正量を計算することで精度よく、歪応答スペクトルを推定することができる。
【0057】
(6)第6の態様に係る推定装置(監視装置10)は、(1)~(5)の推定装置であって、前記補正量計算部は、前記浮体構造物が存在する位置における前記波スペクトルが示す波の条件ごとに前記補正量を算出する。
例えば、浮体構造物が受ける波の条件(波向き、周波数)が変化すると、同じ位置であっても、歪応答スペクトルの理論値と計測値の差が変化する。波の条件(波スペクトル)ごとに補正量を計算することで精度よく、歪応答スペクトルを推定することができる。
【0058】
(7)第7の態様に係る推定装置(監視装置10)は、(1)~(6)の推定装置であって、前記補正量計算部は、前記浮体構造物が有する部材の特性ごとに前記補正量を算出する。
近い位置であっても部材の特性(板構造、骨構造、骨と骨の交差部等)が異なると、歪応答スペクトルの理論値と計測値の差が異なる。部材の特性に応じた補正量を計算することで精度よく、歪応答スペクトルを推定することができる。
【0059】
(8)第8の態様に係る推定装置(監視装置10)は、(4)の推定装置であって、前記補正量計算部は、前記ピーク位置の差を補正する補正量Lと、前記ピーク値の差を補正する補正量Kと、前記分布幅の差を補正する補正量Sと、前記歪応答関数(RAO)(301)と、前記波スペクトル(302)と、前記歪応答関数(RAO)および前記波スペクトルから計算された前記歪応答スペクトルの理論値を出力する関数(315~317)と、前記歪応答スペクトルの理論値を前記補正量Lと補正量Kと補正量Sとで補正した補正後の前記歪応答スペクトル(318~320)と、前記歪みセンサが計測した値に基づいて計算された前記歪応答スペクトルの実測値(324~325)と、の関係をベイジアンネットワークでモデル化し、前記歪応答スペクトルの実測値に基づく逆解析により、補正量Lと、補正量Kと、補正量Sとを計算する。
歪応答スペクトルの実測値を多数用意して、補正量Lと、補正量Kと、補正量Sとを計算することにより、高精度な補正量を算出することができる。
【0060】
(9)第9の態様に係る推定装置(監視装置10)は、(1)~(8)の推定装置であって、歪応答スペクトル推定部が推定した前記歪みセンサの未設置位置における前記歪応答スペクトルと、SN線図と、に基づいて、前記未設置位置の構造物の余寿命を推定する劣化推定部168、をさらに備える。
歪応答スペクトル推定部165が推定した歪みセンサの未設置位置における歪応答スペクトルを用いることで、歪みセンサの未設置位置の構造の余寿命を高精度に推定することができる。
【0061】
(10)第10の態様に係る推定方法では、浮体構造物に設置された歪みセンサの計測値に基づいて計算された前記歪みセンサの設置位置における歪応答スペクトルを取得し、前記浮体構造物が存在する位置における波浪の波スペクトルを取得し、前記浮体構造物の構造モデルに基づいて計算された、前記歪みセンサの設置位置における歪応答関数(RAO:Response Amplitude Operator)と、前記歪みセンサの未設置位置における歪応答関数(RAO)と、を取得し、前記歪みセンサの設置位置の前記歪応答スペクトルおよび前記歪応答関数(RAO)と、前記波スペクトルと、それらの関係式とに基づいて、前記歪応答関数(RAO)および前記波スペクトルから計算される前記歪みセンサの設置位置における前記歪応答スペクトルの理論値と、前記歪みセンサの設置位置における前記歪応答スペクトルとの差の補正量を計算し、前記歪みセンサの未設置位置における前記歪応答関数(RAO)および前記波スペクトルから計算される前記未設置位置における前記歪応答スペクトルの理論値と前記補正量とに基づいて、前記未設置位置における前記歪応答スペクトルを計算する。
【0062】
(11)第11の態様に係るプログラムは、コンピュータ900に、浮体構造物に設置された歪みセンサの計測値に基づいて計算された前記歪みセンサの設置位置における歪応答スペクトルを取得し、前記浮体構造物が存在する位置における波浪の波スペクトルを取得し、前記浮体構造物の構造モデルに基づいて計算された、前記歪みセンサの設置位置における歪応答関数(RAO:Response Amplitude Operator)と、前記歪みセンサの未設置位置における歪応答関数(RAO)と、を取得し、前記歪みセンサの設置位置の前記歪応答スペクトルおよび前記歪応答関数(RAO)と、前記波スペクトルと、それらの関係式とに基づいて、前記歪応答関数(RAO)および前記波スペクトルから計算される前記歪みセンサの設置位置における前記歪応答スペクトルの理論値と、前記歪みセンサの設置位置における前記歪応答スペクトルとの差の補正量を計算し、前記歪みセンサの未設置位置における前記歪応答関数(RAO)および前記波スペクトルから計算される前記未設置位置における前記歪応答スペクトルの理論値と前記補正量とに基づいて、前記未設置位置における前記歪応答スペクトルを計算する処理を実行させる。
【符号の説明】
【0063】
10・・・監視装置
11・・・データ取得部
12・・・歪応答スペクトル計算部
13・・・RAO計算部
14・・・記憶部
15・・・出力部
16・・・推定部
161・・・歪応答スペクトル取得部
162・・・波スペクトル取得部
163・・・RAO取得部
164・・・補正量計算部
165・・・歪応答スペクトル推定部
166・・・板厚取得部
167・・・板厚推定部
168・・・劣化推定部
900・・・コンピュータ
901・・・CPU
902・・・主記憶装置
903・・・補助記憶装置
904・・・入出力インタフェース
905・・・通信インタフェース
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7