(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022080603
(43)【公開日】2022-05-30
(54)【発明の名称】アスコルビン酸誘導体を含有する化粧料
(51)【国際特許分類】
A61K 8/67 20060101AFI20220523BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20220523BHJP
A61Q 19/02 20060101ALI20220523BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20220523BHJP
【FI】
A61K8/67
A61Q19/00
A61Q19/02
A61K8/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020191762
(22)【出願日】2020-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】516369963
【氏名又は名称】株式会社トゥヴェール
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100158724
【弁理士】
【氏名又は名称】竹井 増美
(72)【発明者】
【氏名】平野 真一
(72)【発明者】
【氏名】石川 優子
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AC122
4C083AC171
4C083AC172
4C083AC532
4C083AD352
4C083AD572
4C083AD641
4C083AD642
4C083AD652
4C083CC02
4C083CC04
4C083DD23
4C083DD27
4C083DD38
4C083EE01
4C083EE10
(57)【要約】
【課題】アスコルビン酸誘導体として、アスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルまたはその塩を含有する化粧料において、安定性に優れ、かつ不快な刺激感が低減されて使用感が良好な化粧料を提供する。
【解決手段】アスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルまたはその塩とシクロヘキシルグリセリンとを含有する、化粧料とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルまたはその塩とシクロヘキシルグリセリンとを含有する、化粧料。
【請求項2】
アスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルまたはその塩の含有量が、0.2重量%~3重量%である、請求項1に記載の化粧料。
【請求項3】
シクロヘキシルグリセリンの含有量が、1重量%~5重量%である、請求項1または2に記載の化粧料。
【請求項4】
アスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルまたはその塩とシクロヘキシルグリセリンとの含有量比(アスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルまたはその塩:シクロヘキシルグリセリン)が重量比にて1:1~5である、請求項1~3のいずれか1項に記載の化粧料。
【請求項5】
皮膚化粧料である、請求項1~4のいずれか1項に記載の化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスコルビン酸誘導体として、アスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルまたはその塩を含有する化粧料であって、安定性かつ使用感の良好な化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
アスコルビン酸は、美白作用、抗酸化作用、コラーゲン合成促進作用等を有し、医薬品や化粧品等の有効成分として利用されており、アスコルビン酸の安定性を向上させた種々の誘導体が知られている。
アスコルビン酸誘導体のうち、2位の水酸基をリン酸エステル化し、かつ6位の水酸基を脂肪酸エステル化した化合物およびその塩は、酸化され難く安定な両親媒性の誘導体として知られている。前記誘導体は、生体への親和性が高く、皮膚等の生体組織への移行が速やかであるが、アスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルまたはその塩を皮膚外用剤として製剤化すると、製剤中で前記エステルの分解が起こり、経時的に黄変や濁り、沈殿が生じ、外観が著しく損なわれてしまうという問題があった。
【0003】
かかる問題を解決する手段として、アスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルの塩と、多価アルコール、好ましくは炭素原子数が5または6の2価アルコールとを共存させる技術が提案されている(特許文献1)。
特許文献1に記載された技術により皮膚外用剤や化粧料を調製した場合、製剤中における経時的な濁りや沈殿の発生を防ぐことができ、製剤安定性を向上させることができるが、皮膚外用剤等の使用に際し、紅斑や浮腫の発生といった皮膚の刺激反応を生じるには至らないものの、不快な刺激感が感じられ、皮膚外用剤や化粧料の使用感を損なうという新たな課題が生じていた。
【0004】
それゆえ、アスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルまたはその塩を含有する化粧料において、安定性に優れ、かつ不快な刺激感が低減されて使用感が良好な化粧料が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、アスコルビン酸誘導体として、アスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルまたはその塩を含有する化粧料において、安定性に優れ、かつ不快な刺激感が低減されて使用感が良好な化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、アスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルまたはその塩と、シクロヘキシルグリセリンとを含有する化粧料とすることにより、アスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルまたはその塩の分解が抑制されて、化粧料中において安定に保持されるとともに、不快な刺激感が低減されて、使用感も良好となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1]アスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルまたはその塩とシクロヘキシルグリセリンとを含有する、化粧料。
[2]アスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルまたはその塩の含有量が、0.2重量%~3重量%である、[1]に記載の化粧料。
[3]シクロヘキシルグリセリンの含有量が、1重量%~5重量%である、[1]または[2]に記載の化粧料。
[4]アスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルまたはその塩とシクロヘキシルグリセリンとの含有量比(アスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルまたはその塩:シクロヘキシルグリセリン)が重量比にて1:1~5である、[1]~[3]のいずれかに記載の化粧料。
[5]皮膚化粧料である、[1]~[4]のいずれかに記載の化粧料。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、アスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルまたはその塩を安定に含有し、製剤安定性に優れ、かつ不快な刺激感が低減されて使用感も良好な化粧料を提供することができる。
従って、本発明により、安定した美白作用、抗酸化作用、コラーゲン合成促進作用等を発揮し得るとともに、使用感が良好な化粧料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、アスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルまたはその塩と、シクロヘキシルグリセリンとを含有する化粧料(以下、本明細書において「本発明の化粧料」ともいう)を提供する。
【0011】
本発明の化粧料に含有されるアスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルは、アスコルビン酸の2位の水酸基がリン酸エステル化され、さらに6位の水酸基が脂肪酸によりエステル化されてなるアスコルビン酸誘導体である。
アスコルビン酸-2-リン酸エステルの6位の水酸基とエステルを形成する脂肪酸としては、炭素数が8~20程度の飽和または不飽和脂肪酸が挙げられ、酸化安定性等の観点から、炭素数が10~20の飽和脂肪酸が好ましく、炭素数12~18の飽和脂肪酸がより好ましい。
上記脂肪酸としては、直鎖脂肪酸、分岐鎖脂肪酸のいずれでもよく、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、2-ヘキシルデカン酸、イソステアリン酸等が好ましい脂肪酸として例示される。
【0012】
本発明の化粧料に含有されるアスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルの塩としては、好ましくは、アスコルビン酸の2位の水酸基に結合したリン酸残基と塩基とにより形成された塩であり、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;亜鉛塩等の遷移金属塩等が挙げられ、ナトリウム塩が好ましく用いられる。
【0013】
本発明の化粧料には、アスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルまたはその塩として、上記したようなアスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルおよびその塩からなる群より1種を選択して単独で、または2種以上を選択して組み合わせて用いることができる。
本発明において、アスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルおよびその塩は、自体公知の製造方法、たとえば特開平10-298174号公報に記載された方法等により製造して用いることもできるが、昭和電工株式会社等により製造販売されている市販の製品を利用することもできる。
【0014】
本発明の化粧料におけるアスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルまたはその塩の含有量は、通常0.01重量%~10重量%であり、好ましくは0.1重量%~5重量%であり、より好ましくは0.2重量%~3重量%である。
【0015】
本発明の化粧料に含有されるシクロヘキシルグリセリン(3-(シクロヘキシルオキシ)-1,2-プロパンジオール)は、グリセリンの1個の水酸基がシクロヘキシルオキシ基に置換された構造を有する二価アルコールである。
本発明の化粧料におけるシクロヘキシルグリセリンの含有量は、通常0.5重量%~10重量%であり、好ましくは0.7重量%~7.5重量%であり、より好ましくは1重量%~5重量%である。
また、本発明の化粧料において、シクロヘキシルグリセリンは、アスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルまたはその塩に対する含有量比(アスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルまたはその塩:シクロヘキシルグリセリン)が重量比にて1:0.5~10となるように含有されることが好ましく、1:1~5となるように含有されることがより好ましい。
【0016】
本発明の化粧料は、水、低級アルコール(エタノール、イソプロパノール等)、多価アルコール(プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等)等の親水性溶剤、ゼラチン、ポリエチレングリコール等の親水性基剤に、アスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルまたはその塩、およびシクロヘキシルグリセリンを添加し、本発明の特徴を損なわない範囲で、必要に応じて一般的な化粧料用の添加剤を加えて、化粧水、乳液、美容液、ゲル、水中油型または油中水型クリーム、パック等の皮膚化粧料;化粧下地、乳液状ファンデーション、クリーム状ファンデーション等のメイクアップ化粧料;ボディローション、ボディクリーム等の身体用化粧料等として提供することができ、好ましくは皮膚化粧料として提供することができる。
【0017】
上記化粧料用の添加剤としては、油脂性基剤、懸濁化剤、界面活性剤、乳化剤、粘稠剤、保湿剤、収斂剤、抗炎症剤、美白剤、安定化剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、保存剤、pH調整剤、色素、顔料、香料等が挙げられる。
【0018】
油脂性基剤としては、オリーブ油、ダイズ油、ツバキ油、ゴマ油、落花生油、カカオ脂、牛脂、豚脂等の動植物性油脂;カルナウバロウ、ミツロウ、ホホバ油等のロウ;オクチルドデカノール、セタノール、ステアリルアルコール等の脂肪族アルコール;オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の脂肪酸;スクワラン、白色ワセリン、流動パラフィン、セレシン、マイクロクリスタリンワックス等の炭化水素等が挙げられる。
懸濁化剤としては、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、大豆レシチン、ポビドン等が挙げられる。
界面活性剤または乳化剤としては、レシチン、水素添加レシチン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーエル(ポリオキシエチレンオレイルエーテル等)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート等)、脂肪酸グリセリル(モノステアリン酸グリセリル等)、脂肪酸ポリグリセリル(ジステアリン酸ジグリセリル、イソステアリン酸デカグリセリル等)、ショ糖脂肪酸エステル、N-アシルアミノ酸エステル(N-ミリストイルメチルアミノプロピオン酸ヘキシルデシル等)等が挙げられる。
粘稠剤としては、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、キサンタンガム等が挙げられる。
保湿剤としては、1,3-ブタンジオール、グリセリン、ポリグリセリン(トリグリセリン、デカグリセリン等)、DL-ピロリドンカルボン酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム等が挙げられる。
収斂剤としては、アルニカエキス、ハマメリスエキス、ローズマリーエキス等が挙げられる。
抗炎症剤としては、グリチルリチン酸ジカリウム、カミツレエキス、セージエキス等が挙げられる。
美白剤としては、アルブチン、コウジ酸、カミツレエキス等が挙げられる。
安定化剤としては、エデト酸ナトリウム、ソルビトール、チモール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、メトキシ桂皮酸2-エチルヘキシル、パラジメチルアミノ安息香酸2-エチルヘキシル、t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン等が挙げられる。
抗酸化剤としては、エリソルビン酸ナトリウム、酢酸トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。
保存剤としては、ソルビン酸、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、フェノキシエタノール等が挙げられる。
pH調整剤としては、塩酸、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸、酢酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、リン酸水素ナトリウム等が挙げられる。
色素としては、タール色素(赤色2号、青色1号、黄色4号等)、天然色素(サフロールイエロー、リボフラビン、ウコン色素等)等が挙げられる。
顔料としては、体質顔料(タルク、炭酸カルシウム等)、白色顔料(酸化亜鉛、酸化チタン等)、着色顔料(ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄等)、真珠顔料(雲母チタン等)等が挙げられる。
香料としては、天然香料(ラベンダー油、オレンジ油、ローズ油等)、合成香料(ゲラニオール、l-メントール、バニリン等)等が挙げられる。
【0019】
本発明の化粧料は、製剤の分野で周知の製剤化手段、たとえば第十七改正日本薬局方製剤総則[3]製剤各条「11.皮膚などに適用する製剤」に記載された方法等に準じて、製造することができる。
たとえば、本発明の化粧料を化粧水や美容液として提供する場合は、アスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルまたはその塩およびシクロヘキシルグリセリンを、適宜必要な添加剤とともに、精製水等の親水性溶剤に添加して、均一に混合することにより製造することができる。
また、本発明の化粧料を水中油型の乳液やクリームとして提供する場合は、油脂性基剤に親油性の添加剤を溶解して油相成分を調製し、一方、アスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルまたはその塩およびシクロヘキシルグリセリンを、界面活性剤および他の添加剤とともに精製水等の親水性溶剤に溶解して水相成分を調製し、それぞれ75℃~85℃に加熱して、水相成分に油相成分を攪拌しながら徐々に添加して乳化することにより、調製することができる。
本発明の化粧料を油中水型のクリームとして調製する場合は、アスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルまたはその塩およびシクロヘキシルグリセリンを、必要に応じて他の添加剤とともに精製水等の親水性溶剤に溶解して水相成分を調製し、一方、油脂性基剤に界面活性剤および親油性の添加剤を溶解して油相成分を調製し、それぞれ75℃~85℃に加熱して、油相成分に水相成分を攪拌しながら徐々に添加して乳化することにより調製することができる。
本発明の化粧料をパックとして提供する場合は、アスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルまたはその塩およびシクロヘキシルグリセリンを、保湿剤、皮膜形成剤、増粘剤等の添加剤とともに適宜加熱して精製水、低級アルコール等の親水性溶剤に溶解し、均一とすることにより調製することができる。
【0020】
本発明の化粧料においては、アスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルまたはその塩の安定性が向上し、エステル結合の分解が抑制されて、濁りや沈殿の発生が抑制される。
また、本発明の化粧料を使用した際には、不快な刺激感も低減され、良好な使用感を呈する。
【実施例0021】
以下、実施例および試験例により、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0022】
[試験例1]アスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルの塩に対するシクロヘキシルグリセリンの安定化効果の検討
(1)試料の調製
アスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルの塩として、アスコルビン酸-2-リン酸-6-パルミチン酸三ナトリウム(以下「APPS」と略記する)を1重量%、クエン酸ナトリウムを0.2重量%、クエン酸を0.1重量%精製水に溶解した。前記溶液に、ヘキサンジオール、ペンタンジオールおよびシクロヘキシルグリセリンのそれぞれを、表1に示す濃度となるように添加して溶解し、水酸化ナトリウムでpHを7.0(25℃)に調整し、各試料とした。
【0023】
(2)APPSの安定性の評価
(i)APPSの残存量の測定
(1)で調製した各試料を、5℃および40℃にて1か月間保存し、40℃で1か月間保存した後のAPPSの残存量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により定量して求め、各試料について添加量に対する残存率(%)にて示した。
HPLCによる測定は、各試料を下記に示す移動相として用いた溶液に超音波処理により分散し、該溶液により容積を一定とした後、0.45μmのメンブランフィルターでろ過して、下記に示す条件下にて測定した。
<HPLC測定条件>
使用機器;「液体クロマトグラフLC-10Aシリーズ」(株式会社島津製作所)
ポンプ;「LC-10ADvp」(株式会社島津製作所)
オートサンプラー;「SIL-10ADvp」(株式会社島津製作所)
カラムオーブン;「CTO-10Avp」(株式会社島津製作所)
検出器;「SPD-M10Avp」(株式会社島津製作所)
カラム;オクタデシルシリル化シリカゲル(平均粒子径=5μm)カラム(内径=4.6mm、長さ=15cm)
移動相;アセトニトリル/0.03Mリン酸二水素カリウム水溶液の混合液(体積比=3:2)
流量;1.0mL/分
測定波長;265nm
スペクトル測定範囲;200nm~400nm
カラム温度;約40℃
試料注入量;5μL
【0024】
(ii)外観の変化の観察
5℃および40℃のそれぞれにて1か月間保存した後の外観の変化(沈殿物の有無、色調の変化)を目視にて観察した。沈殿物の有無については、下記の評価基準に従って評価した。
<評価基準>
+;沈殿物がわずかに認められる
++;沈殿物が明らかに認められる
+++;沈殿物が相当量認められる
++++;沈殿物が顕著に認められる
【0025】
(3)評価結果
APPSの安定性の評価結果は、表1にまとめて示した。
【0026】
【0027】
表1に示されるように、多価アルコールを添加しない水溶液では、40℃で1か月保存後のAPPSの残存率は87%であり、沈殿物の生成が顕著に見られた。
ヘキサンジオールの添加により、40℃で1か月保存後のAPPSの残存率は向上し、APPS1重量%に対し、1.0重量%~5.0重量%の添加により、沈殿物の生成が抑制され、水溶液は透明な外観を呈した。しかし、ヘキサンジオール10.0重量%の添加により、5℃および40℃で1か月保存後に水溶液の黄変が認められた。
ペンタンジオールによるAPPSの安定化効果は、ヘキサンジオールに比べて劣り、ペンタンジオールを2.0重量%添加した場合でも、40℃で1か月保存後に沈殿物の生成が確認された。しかし、ペンタンジオールを10.0重量%添加した場合において、ヘキサンジオールを添加した場合のような黄変は認められなかった。
シクロヘキシルグリセリンを添加した場合には、ヘキサンジオールを添加した場合とほぼ同程度のAPPS安定化効果が認められ、APPS1重量%に対し、1.0重量%~5.0重量%のシクロヘキシルグリセリンの添加により、APPSの分解による残存率の低下や水溶液の外観の変化が良好に抑制されることが認められた。
【0028】
[試験例2]アスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルの塩を含有する化粧水の刺激感の評価
表2に示す多価アルコールおよびAPPSを精製水に添加して溶解し、実施例1および比較例1、2の化粧水を調製した。前記化粧水のpHは20℃にて7.8であった。
実施例および比較例の各化粧水を、敏感肌のパネラー5名に顔面に使用させ、その際に感じられる不快な刺激感について、下記評価基準に従って評価させ、点数化させた。
<評価基準>
刺激を感じない:1点
ほとんど刺激を感じない:2点
やや刺激を感じる:3点
明確に刺激を感じる:4点
強い刺激を感じる:5点
評価結果は、各評価点を付したパネラー数にて、表3に示した。
【0029】
【0030】
【0031】
表3に示されるように、APPSと1,2-ヘキサンジオールを含有する比較例1の化粧水については、5名中4名のパネラーが、やや刺激を感じる、または明確に刺激を感じると評価した。APPSと1,2-ペンタンジオールを含有する比較例2の化粧水については、刺激を感じないと評価したパネラーは2名であり、1名はやや刺激を感じると評価した。
一方、APPSとシクロヘキシルグリセリンを含有する実施例1の化粧水については、5名中4名のパネラーが刺激を感じないと評価し、残る1名のパネラーも、ほとんど刺激を感じないと評価した。
【0032】
上記試験例1、2の結果から、アスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルの塩とシクロヘキシルグリセリンを含有する本発明の化粧料では、アスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルの塩は、1,2-ペンタンジオールや1,2-ヘキサンジオール等の炭素数が5または6の多価アルコールを添加した場合と同程度に安定化され、さらに、炭素数が5または6の多価アルコールに起因する不快な刺激感が低減されることが示唆された。
【0033】
[実施例2]美容液
表4に示す(1)~(9)の成分を(10)に順次添加して攪拌し、均一に溶解して、実施例2の美容液を調製した。なお、(2)のシクロヘキシルグリセリンの代わりに1,2-ヘキサンジオールを添加し、同様に調製して、比較例3の美容液とした。実施例2および比較例3の各美容液のpHは20℃にて7.5であった。
実施例2および比較例3の美容液を40℃で1か月間保存し、試験例1の場合と同様にAPPSの残存率を測定したところ、いずれの美容液においても、残存率は80%であった。
dl-α-トコフェリルリン酸ナトリウムは、化粧料製剤中にてAPPSの分解を促進することが知られているが、本発明の実施例2の美容液では、比較例3の美容液と同じAPPS残存率が認められた。
上記の結果から、dl-α-トコフェリルリン酸ナトリウム等、APPSの安定性に影響を及ぼす添加剤を含有する美容液として提供される場合においても、本発明により、1,2-ヘキサンジオールを用いた場合と同程度にAPPSが安定化されることが示唆された。
【0034】
以上詳述したように、本発明により、アスコルビン酸-2-リン酸-6-脂肪酸エステルまたはその塩を安定に含有し、製剤安定性に優れ、かつ不快な刺激感が低減されて使用感も良好な化粧料を提供することができる。
本発明の化粧料は、安定した美白作用、抗酸化作用、コラーゲン合成促進作用等を発揮し得るとともに、使用感が良好な化粧料として提供され得る。