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  • 特開-ポリイミド樹脂のエッチング方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022008065
(43)【公開日】2022-01-13
(54)【発明の名称】ポリイミド樹脂のエッチング方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/00 20060101AFI20220105BHJP
   H05K 3/46 20060101ALI20220105BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
H05K3/00 K
H05K3/46 G
H05K3/46 T
H05K1/03 610N
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021075790
(22)【出願日】2021-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2020088219
(32)【優先日】2020-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021015582
(32)【優先日】2021-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021035307
(32)【優先日】2021-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】後閑 寛彦
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 隆
(72)【発明者】
【氏名】豊田 裕二
(72)【発明者】
【氏名】田邉 昌大
【テーマコード(参考)】
5E316
【Fターム(参考)】
5E316AA02
5E316AA12
5E316AA43
5E316CC10
5E316CC32
5E316DD02
5E316EE02
5E316EE08
5E316EE12
5E316EE13
5E316FF01
5E316FF03
5E316GG15
5E316GG16
5E316GG18
5E316GG28
5E316HH40
(57)【要約】
【課題】ポリイミド樹脂の開口径がΦ100μm以下となるような小径開口処理でも未エッチング箇所の発生を抑制することができるポリイミド樹脂のエッチング方法を提供することが本発明の課題である。
【解決手段】ポリイミド樹脂のエッチング方法において、エッチング液を用いてポリイミド樹脂をエッチング加工するエッチング工程及び水洗液による水洗工程をこの順に有し、該エッチング液が第1成分としての25~45質量%のアルカリ金属水酸化物及び第2成分としての10~40質量%のエタノールアミン化合物を含有し、水洗液が芳香族アルコール化合物、芳香族エーテル化合物及び両性界面活性剤からなる群から選ばれる1種以上の化合物を含有し、水洗液に対する該化合物1種当たりの含有量が0.1~3質量%であることを特徴とするポリイミド樹脂のエッチング方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド樹脂のエッチング方法において、エッチング液を用いてポリイミド樹脂をエッチング加工するエッチング工程及び水洗液による水洗工程をこの順に有し、該エッチング液が第1成分としての25~45質量%のアルカリ金属水酸化物及び第2成分としての10~40質量%のエタノールアミン化合物を含有し、水洗液が芳香族アルコール化合物、芳香族エーテル化合物及び両性界面活性剤からなる群から選ばれる1種以上の化合物を含有し、水洗液に対する該化合物1種当たりの含有量が0.1~3質量%であることを特徴とするポリイミド樹脂のエッチング方法。
【請求項2】
該エッチング液が第3成分としての芳香族アルコール化合物、芳香族エーテル化合物及び両性界面活性剤からなる群から選ばれる1種以上の化合物を含有し、エッチング液に対する第3成分の含有量が1種の化合物当たり0.1~3質量%である請求項1記載のポリイミド樹脂のエッチング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド樹脂のエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は、耐熱性・耐薬品性・電気特性・機械特性・寸法安定性等に優れることから、フレキシブルプリント配線板や、TAB(Tape Automated Bonding)、COF(Chip on film)実装用に使用されるフィルムキャリアの用途に用いられている。これらの用途において、ポリイミド樹脂は金属層と積層された状態で利用されている。また、ポリイミド樹脂には、熱可塑性ポリイミド樹脂と非熱可塑性ポリイミド樹脂がある。ポリイミド樹脂と金属層の積層方法としては、(1)ポリイミド樹脂上にスパッタやめっき等により金属層を形成する、(2)金属層上に液状のポリイミド樹脂やポリイミド樹脂の前駆体をコーティング又はキャスティングする、(3)ポリイミド樹脂と金属層を接着層で張り合わせる、等の方法が挙げられる。ポリイミド樹脂と金属層の接着に優れ、適用可能な接着層が多い等の理由から、(3)の方法が広く利用されている。
【0003】
(3)の方法において使用される接着層には、従来、エポキシ系、アクリル系の接着剤が多用されている。しかし、接着層を原因とした特性の低下を回避するために、接着層として熱可塑性ポリイミド樹脂を使用する場合が増えてきている。
【0004】
熱可塑性ポリイミド樹脂層と非熱可塑性ポリイミド樹脂層の積層体としては、各社から数多く市販されており、例えば、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社の商品名「エスパネックス(登録商標)」、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社の商品名「ネオフレックス(登録商標)」、宇部興産株式会社の商品名「ユーピレックス(登録商標)VT」等が挙げられる。
【0005】
また、ポリイミド樹脂と金属層との積層体において、ポリイミド樹脂の穴開け等の加工としては、レーザー加工、プラズマ加工、ウェットエッチング加工(エッチング加工)等の方法が挙げられ、レーザーやプラズマのように特別な装置を必要とせず、生産性が良い等の理由からウェットエッチング加工による方法が広く利用されている。例えば、特開2007-008969号公報(特許文献1)には、ウェットエッチング加工においてアルカリ金属水酸化物、エタノールアミン等を成分とする各種エッチング液によるエッチング方法が開示されている。また、特開2013-082099号公報(特許文献2)には、耐アルカリ基材上にパターン状に形成され、ポリイミド樹脂を含有する絶縁層を有する積層体が開示されていて、絶縁層が熱可塑性層(熱可塑性ポリイミド樹脂層)/非熱可塑性層(非熱可塑性ポリイミド樹脂層)/熱可塑性層の3層構造である例が開示されている。また、ポリイミドフィルム上にレジストを形成した後、エッチングによりパターニングしたものが開示されている。
【0006】
しかしながら、熱可塑性ポリイミド樹脂層と非熱可塑性ポリイミド樹脂層の積層体を、特許文献1及び2記載のエッチング方法でエッチングした場合、ポリイミド樹脂の開口径がΦ100μm以下となるような小径開口処理において未エッチング箇所が発生してしまう場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-008969号公報
【特許文献2】特開2013-082099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ポリイミド樹脂の開口径がΦ100μm以下となるような小径開口処理でも、未エッチング箇所の発生を抑制することができるポリイミド樹脂のエッチング方法を提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、下記手段によって、上記課題を解決できることを見出した。
【0010】
(1)ポリイミド樹脂のエッチング方法において、エッチング液を用いてポリイミド樹脂をエッチング加工するエッチング工程及び水洗液による水洗工程をこの順に有し、該エッチング液が第1成分としての25~45質量%のアルカリ金属水酸化物及び第2成分としての10~40質量%のエタノールアミン化合物を含有し、水洗液が芳香族アルコール化合物、芳香族エーテル化合物及び両性界面活性剤からなる群から選ばれる1種以上の化合物を含有し、水洗液に対する該化合物1種当たりの含有量が0.1~3質量%であることを特徴とするポリイミド樹脂のエッチング方法。
【0011】
(2)該エッチング液が第3成分としての芳香族アルコール化合物、芳香族エーテル化合物及び両性界面活性剤からなる群から選ばれる1種以上の化合物を含有し、エッチング液に対する第3成分の含有量が1種の化合物当たり0.1~3質量%である上記(1)記載のポリイミド樹脂のエッチング方法
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリイミド樹脂のエッチング方法によって、ポリイミド樹脂の開口径がΦ100μm以下となるような小径開口処理でも、未エッチング箇所の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のポリイミド樹脂のエッチング方法の一例を示す断面工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を実施するための形態について説明する。なお、本明細書において下記のとおり略記する場合がある。
【0015】
ポリイミド樹脂用エッチング液:エッチング液
ポリイミド樹脂のエッチング方法:エッチング方法
熱可塑性ポリイミド樹脂層と非熱可塑性ポリイミド樹脂層の積層体:積層体
【0016】
<ポリイミド樹脂>
ポリイミド樹脂としては、非熱可塑性ポリイミド樹脂及び熱可塑性ポリイミド樹脂が挙げられる。
【0017】
<非熱可塑性ポリイミド樹脂>
非熱可塑性ポリイミド樹脂は、加熱しても軟化し難く、接着性を示さないポリイミド樹脂であり、ピロメリット酸無水物と芳香族ジアミンとの反応から製造されるポリピロメリット酸イミド系ポリイミド、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とジアミンから製造されるポリビフェニルテトラカルボン酸系イミド等が好ましく用いられる。この非熱可塑性ポリイミド樹脂としては、市販品を用いることができ、例えば米国デュポン社の商品名「カプトン(登録商標)」、株式会社カネカの商品名「アピカル(登録商標)」や宇部興産株式会社の商品名「ユーピレックス(登録商標)」等が挙げられる。
【0018】
<熱可塑性ポリイミド樹脂>
熱可塑性ポリイミド樹脂は、加熱によって軟化して接着性を発揮するポリイミド樹脂である。この熱可塑性ポリイミドとしては、市販品を用いることができ、例えば三井化学株式会社の商品名「オーラム(登録商標)」、株式会社カネカの商品名「ピクシオ(登録商標)」等が挙げられる。
【0019】
<熱可塑性ポリイミド樹脂層と非熱可塑性ポリイミド樹脂層の積層体>
本発明において、エッチング加工の対象となるポリイミド樹脂としては、熱可塑性ポリイミド樹脂を含有するもの、非熱可塑性ポリイミド樹脂を含有するものが挙げられる。また、熱可塑性ポリイミド樹脂及び非熱可塑性ポリイミド樹脂の両方を含有しても良い。両方を含有するポリイミド樹脂としては、熱可塑性ポリイミド樹脂層と非熱可塑性ポリイミド樹脂層の積層体が挙げられる。この積層体は、熱可塑性ポリイミド樹脂層と非熱可塑性ポリイミド樹脂層をそれぞれ1層以上有する積層体である。
【0020】
積層体は、熱可塑性ポリイミド樹脂層と非熱可塑性ポリイミド樹脂層を加熱圧着することによって得ることができる。加熱圧着の方法としては、ホットプレス法、ロールプレス法、ラミネート法等が挙げられる。熱可塑性ポリイミド樹脂層と非熱可塑性ポリイミド樹脂層と一緒に金属層を積層しても良い。金属層としては銅層が一般的である。
【0021】
なお、熱可塑性ポリイミド樹脂層と非熱可塑性ポリイミド樹脂層の積層体としては、熱可塑性ポリイミド樹脂層/非熱可塑性ポリイミド樹脂層からなる積層体、熱可塑性ポリイミド樹脂層/非熱可塑性ポリイミド樹脂層/熱可塑性ポリイミド樹脂層からなる積層体等が挙げられる。これらの積層体は市販品として入手可能である。また、熱可塑性ポリイミド樹脂層/非熱可塑性ポリイミド樹脂層/熱可塑性ポリイミド樹脂層からなる積層体は、熱可塑性ポリイミド樹脂層と非熱可塑性ポリイミド樹脂層と熱可塑性ポリイミド樹脂層とを熱圧着することによって、又は、熱可塑性ポリイミド樹脂層/非熱可塑性ポリイミド樹脂層からなる積層体と熱可塑性ポリイミド樹脂層とを加熱圧着することによって、得ることもできる。
【0022】
熱可塑性ポリイミド樹脂層と非熱可塑性ポリイミド樹脂層の積層体としては、市販品を用いることができ、例えば、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社の商品名「エスパネックス(登録商標)」、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社の商品名「ネオフレックス(登録商標)」、宇部興産株式会社の商品名「ユーピレックス(登録商標)VT」等が挙げられる。
【0023】
<エッチング液>
本発明において、エッチング液はポリイミド樹脂用エッチング液である。
【0024】
エッチング液は、第1成分としての25~45質量%のアルカリ金属水酸化物を含有する。アルカリ金属水酸化物の含有量が25質量%以上である場合、ポリイミド樹脂の溶解性に優れ、アルカリ金属水酸化物の含有量が45質量%以下である場合、アルカリ金属水酸化物の析出が起こり難いことから、液の経時安定性に優れる。アルカリ金属水酸化物の含有量は、より好ましくは30~45質量%である。
【0025】
上記アルカリ金属水酸化物としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム及び水酸化リチウムの群から選ばれる少なくとも1種の化合物が好適に用いられる。アルカリ金属水酸化物として、これらの中の1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
エッチング液は、第2成分としての10~40質量%のエタノールアミン化合物を含有する。エタノールアミン化合物の含有量が10質量%以上である場合、ポリイミド樹脂の溶解性に優れ、40質量%を超える場合、非熱可塑性ポリイミド樹脂の溶解性が高くなり過ぎるため、熱可塑性ポリイミド樹脂と非熱可塑性ポリイミド樹脂の溶解性の差が大きくなる。エタノールアミン化合物の含有量は、より好ましくは15~35質量%である。
【0027】
上記エタノールアミン化合物としては、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン等どのような種類でもよく、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。代表的なアミン化合物の一例としては、第一級アミンである2-アミノエタノール;第一級アミンと第二級アミンの混合体(すなわち、一分子内に第一級アミノ基と第二級アミノ基とを有する化合物)である2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール;第二級アミンである2-(メチルアミノ)エタノールや2-(エチルアミノ)エタノール;第三級アミンである2,2′-メチルイミノジエタノール(別名:N-メチル-2,2′-イミノジエタノール)や2-(ジメチルアミノ)エタノール等が挙げられる。中でも、2-アミノエタノール及び2-(2-アミノエチルアミノ)エタノールがより好ましい。
【0028】
エッチング液は、第3成分としての芳香族アルコール化合物、芳香族エーテル化合物及び両性界面活性剤からなる群から選ばれる1種以上の化合物を含有しても良い。また、エッチング液に対する第3成分の含有量が1種の化合物当たり0.1~3質量%であることが好ましい。第3成分の総含有量は、7質量%以下であることが好ましく、6質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。芳香族アルコール化合物、芳香族エーテル化合物及び両性界面活性剤の具体例としては、下記<水洗液>で例示されているものを挙げることができる。
【0029】
第3成分としての芳香族アルコール化合物又は芳香族エーテル化合物を含有する場合、エッチング液に溶け込んだポリイミド樹脂由来の成分が沈殿物として析出することを抑制し、また、沈殿物の凝固によってエッチング液全体が固体化することを抑制する効果に優れる。また、第3成分としての芳香族アルコール化合物又は芳香族エーテル化合物の含有量が3質量%以下であると、水に対する相溶性が高くなり、相分離が起こりにくくなり、エッチング阻害が起こり難くなり、経時安定性と処理均一性に優れる。第3成分としての芳香族アルコール化合物又は芳香族エーテル化合物の含有量は、より好ましくは0.5~2.5質量%である。
【0030】
また、第3成分としての両性界面活性剤を含有する場合、ポリイミド樹脂における開口部の開口径がΦ100μm以下となるような小径開口処理においても、未エッチング箇所の発生を抑制することができる。得られる効果が増大せず、不経済であり、エッチング工程後の水洗に時間が掛かる上、水洗が不十分な場合には両性界面活性剤の凝集によって、未エッチング箇所の発生につながる恐れがある等の観点から、両性界面活性剤の含有量は3質量%以下であることが好ましい。第3成分としての両性界面活性剤の含有量は、より好ましくは0.5~2質量%である。
【0031】
エッチング液には、必要に応じてカップリング剤、レベリング剤、着色剤、界面活性剤、消泡剤、有機溶媒等を適宜添加することもできる。有機溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、カルビトールアセテート等の酢酸エステル類;セロソルブ、ブチルカルビトール等のカルビトール類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド系溶媒等が挙げられる。
【0032】
エッチング液は、アルカリ水溶液であることが好ましい。エッチング液に使用される水としては、水道水、工業用水、純水等を用いることができる。このうち純水を使用することが好ましい。本発明では、一般的に工業用に用いられる純水を使用することができる。
【0033】
エッチング液の温度は、好ましくは60~95℃である。ポリイミド樹脂の種類や厚み、エッチング加工のパターン形状等により最適温度が異なるが、エッチング液の温度は、より好ましくは70~90℃である。
【0034】
<水洗液>
水洗液は、芳香族アルコール化合物、芳香族エーテル化合物及び両性界面活性剤からなる群から選ばれる1種以上の化合物を含有し、芳香族アルコール化合物、芳香族エーテル化合物及び両性界面活性剤からなる群から選ばれる1種以上の化合物の含有量が水洗液に対して1種の化合物当たり0.1~3質量%である。芳香族アルコール化合物、芳香族エーテル化合物及び両性界面活性剤からなる群から選ばれる1種以上の化合物の総含有量は、7質量%以下であることが好ましく、6質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。1種の化合物当たりの含有量が0.1質量%以上である場合、エッチング液中で溶解したポリイミド樹脂が水洗液中で速やかに分散し除去できる。特に開口径が小さくなり、水洗液が浸透し難い場合に効果が発揮され、ポリイミド樹脂の開口径がΦ100μm以下となるような小径開口処理でも未エッチング箇所の発生を抑制する効果に優れる。また、1種の化合物当たりの含有量が3質量%以下であると、水洗液に対する相溶性が高くなり、相分離が起こり難くなり、経時安定性と処理均一性に優れる。1種の化合物当たりの含有量は、より好ましくは0.5~2.5質量%である。
【0035】
上記芳香族アルコール化合物としては、例えば、アラルキルアルコール(例えば、ベンジルアルコール、4-メチルベンジルアルコール、3-メチルベンジルアルコール、2-メチルベンジルアルコール、2-フェニルエタノール、3-フェニルプロパノール、1-フェニル-1-プロパノール、1-フェニル-2-プロパノール、4-フェニル-1-ブタノール、4-フェニル-2-ブタノール、1-フェニル-2-ブタノール、2-フェニル-2-ブタノール等)、(ポリ)アルカンジオールモノアリールエーテル(例えば、2-フェノキシエタノール、フェニルジグリコール、フェニルプロピレングリコール、フェニルジプロピレングリコール等)、(ポリ)アルカンジオールモノアラルキルエーテル(例えば、ベンジルグリコール、ベンジルジグリコール等)等が挙げられる。これらの芳香族アルコールの中でも、ベンジルアルコール及び2-フェノキシエタノールがより好ましく、特に2-フェノキシエタノールが好ましい。また、芳香族アルコール化合物は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
上記芳香族エーテル化合物としては、例えば、フェニルエーテル類、ベンジルエーテル類、ナフチルエーテル類等どのような種類でもよく、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。代表的な芳香族エーテル化合物の一例としては、フェニルエーテル類であるアニソール(メトキシベンゼン、メチルフェニルエーテル)、フェネトール(エトキシベンゼン)、プロポキシベンゼン(フェニルプロピルエーテル)、イソプロポキシベンゼン(イソプロピルフェニルエーテル)、ブトキシベンゼン(ブチルフェニルエーテル)、シクロヘキシルオキシベンゼン(シクロヘキシルフェニルエーテル)、アリルオキシベンゼン(アリルフェニルエーテル)、フェノキシベンゼン(ジフェニルエーテル)、フェノキシメチルベンゼン(ベンジルフェニルエーテル);ベンジルエーテル類であるベンジルメチルエーテル、ベンジルエチルエーテル、ベンジルイソプロピルエーテル、ベンジルブチルエーテル、ベンジルシクロヘキシルエーテル、アリルベンジルエーテル、ジベンジルエーテル;ナフチルエーテル類である1-メトキシナフタレン(メチル1-ナフチルエーテル)、1-エトキシナフタレン(エチル1-ナフチルエーテル)、1-プロポキシナフタレン(プロピル1-ナフチルエーテル)、1-ブトキシナフタレン(ブチル1-ナフチルエーテル)、2-メトキシナフタレン(メチル2-ナフチルエーテル)、2-プロポキシナフタレン(2-ナフチルプロピルエーテル)、1-メチル-2-メトキシナフタレン、2-メチル-1-メトキシナフタレン、6-(トリフェニルシリル)-2-メトキシナフタレン等が挙げられる。これらの芳香族エーテル化合物の中でも、フェニルエーテル類及びベンジルエーテル類がより好ましく、アニソール及びベンジルメチルエーテルがさらに好ましく、特にアニソールが好ましい。
【0037】
上記両性界面活性剤としては、例えば、コカミノプロピオン酸ナトリウム、ステアリルアミノプロピオン酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム、ラウリルアミノ酢酸ナトリウム、N-ラウロイル-N′-カルボキシメチル-N′-ヒドロキシエチルエチレンジアミンナトリウム、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリン酸アミドプロピルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタイン、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等が挙げられる。これらの両性界面活性剤の中でも、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリン酸アミドプロピルベタインがより好ましく、特にラウリン酸アミドプロピルベタインが好ましい。また、これらの両性界面活性剤は1種単独で使用しても良いし、2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0038】
水洗液に使用される水としては、水道水、工業用水、純水等を用いることができる。このうち純水を使用することが好ましい。本発明では、一般的に工業用に用いられる純水を使用することができる。
【0039】
<エッチング方法>
本発明のエッチング方法は、エッチング液を用いてポリイミド樹脂をエッチング加工するエッチング工程及び水洗液による水洗工程をこの順に有する。
【0040】
図1を用いて、本発明のエッチング方法について説明する。図1は、本発明のエッチング方法の一例を示す断面工程図である。図1に示したエッチング方法では、金属層4上の熱可塑性ポリイミド樹脂層2/非熱可塑性ポリイミド樹脂層1/熱可塑性ポリイミド樹脂層2からなる積層体3の一部を除去することによって、熱可塑性ポリイミド樹脂層2/非熱可塑性ポリイミド樹脂層1/熱可塑性ポリイミド樹脂層2からなる積層体3パターンを形成することができる。
【0041】
工程(I)では、金属層4上の熱可塑性ポリイミド樹脂層2/非熱可塑性ポリイミド樹脂層1からなる積層体を準備する。
【0042】
工程(II)では、非熱可塑性ポリイミド樹脂層1上に、別の熱可塑性ポリイミド樹脂層2を介してマスク材5を形成する。工程(II)によって、金属層4上に熱可塑性ポリイミド樹脂層2/非熱可塑性ポリイミド樹脂層1/熱可塑性ポリイミド樹脂層2からなる積層体3及びマスク材5が形成される。
【0043】
工程(III)では、マスク材5をパターニングし、積層体エッチング用のパターンマスク6を形成する。
【0044】
工程(IV)では、パターンマスク6を介し、ポリイミド樹脂用エッチング液を用いて、金属層4が露出するまで、積層体3をエッチングする。
【0045】
工程(V)では、パターンマスク6を除去し、熱可塑性ポリイミド樹脂層2/非熱可塑性ポリイミド樹脂層1/熱可塑性ポリイミド樹脂層2からなる積層体3パターンを形成する。形成された積層体3パターンでは、金属層4の一部が積層体3から露出している。
【0046】
本発明のエッチング方法において、エッチング工程には、浸漬処理、パドル処理、スプレー処理、ブラッシング、スクレーピング等の方法を用いることができる。この中でも、浸漬処理が好ましい。
【0047】
マスク材5としては、金属マスクやドライフィルムレジストを使用することができ、これらのマスク材5にパターン形成してパターンマスク6とする。
【0048】
本発明のエッチング方法は、エッチング工程後に水洗液による水洗工程を行う。水洗工程の温度は特に指定しないが、70℃以上が好ましく、ポリイミド樹脂の小径開口処理の場合、未エッチング箇所の発生を抑制することができる。水洗液の温度は、より好ましくは、75℃以上である。また、得られる効果が頭打ちとなり、温度を維持するためのエネルギーが増えて不経済であるとの理由から、水洗液の温度は90℃以下であることが好ましい。
【0049】
本発明のエッチング方法において、水洗工程には、浸漬処理、パドル処理、スプレー処理、ブラッシング、スクレーピング等の方法を用いることができる。この中でも、浸漬処理が好ましい。
【実施例0050】
以下、実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0051】
厚み18μmの銅箔(金属層4)上に、厚さ1.5μmの熱可塑性ポリイミド樹脂層2及び厚さ13μmの非熱可塑性ポリイミド樹脂層1をこの順で積層し、ホットプレス法によって加熱圧着して接着させて、金属層4上に熱可塑性ポリイミド樹脂層2及び非熱可塑性ポリイミド樹脂層1からなる積層体を得た。その後、非熱可塑性ポリイミド樹脂層1上に、厚さ1.5μmの熱可塑性ポリイミド樹脂層2、厚さ3μmの銅箔(マスク材5)、剥離層及びキャリア箔とがこの順に積層された金属箔を、非熱可塑性ポリイミド樹脂層1と熱可塑性ポリイミド樹脂層2が接するように積層し、ホットプレス法によって加熱圧着して接着させて、次に、剥離層とキャリア箔を剥離した。これにより、金属層4上に、熱可塑性ポリイミド樹脂層2/非熱可塑性ポリイミド樹脂層1/熱可塑性ポリイミド樹脂層2からなる積層体3及びマスク材5が形成された。マスク材5上にエッチングレジストを形成した後、銅用エッチング液(塩化第二鉄液)を用いてマスク材5をエッチングして、パターンマスク6を形成し、パターンマスク6付きの積層体3を準備した。
【0052】
表1に記載した各種エッチング工程及び表2~4に記載した水洗工程の条件(温度:エッチング液又は水洗液の温度、時間:浸漬時間)にて、パターンマスク6付きの積層体3に対し、浸漬方式によるエッチング工程及び浸漬方式による水洗工程を含むエッチング処理を行い、積層体3パターンを得た。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
【表4】
【0057】
図1に示されているマスク材5の開口長さaが50μmであるときの、マスク材5の開口部100箇所の確認から、積層体3の開口部の底部長さbが50μm以上である箇所をエッチングされていて(未エッチングではなく)、小径開口処理ができている箇所と判断し、下記(小径開口)で評価した。結果を表5~7に示した。
【0058】
(小径開口)
○:小径開口処理ができている箇所が95箇所以上である。
○△:小径開口処理ができている箇所が90箇所以上95箇所未満である。
△:小径開口処理ができている箇所が85箇所以上90箇所未満である。
△×:小径開口処理ができている箇所が80箇所以上85箇所未満である。
×:小径開口処理ができている箇所が80箇所未満である。
【0059】
【表5】
【0060】
【表6】
【0061】
【表7】
【0062】
表5~7の結果から判るように、本発明は、比較例と比べて、ポリイミド樹脂の開口径がΦ100μm以下となるような小径開口処理でも未エッチング箇所の発生を抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のエッチング方法では、耐熱性、機械強度、耐化学薬品性等に優れたポリイミド樹脂をエッチング加工することができる。例えば、多層ビルドアップ配線板、部品内蔵モジュール基板、フリップチップパッケージ基板、パッケージ基板搭載用マザーボード等におけるポリイミド樹脂の微細加工に利用できる。
【符号の説明】
【0064】
1 非熱可塑性ポリイミド樹脂層
2 熱可塑性ポリイミド樹脂層
3 積層体
4 金属層
5 マスク材
6 パターンマスク
図1