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  • 特開-中空糸炭素膜の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022080660
(43)【公開日】2022-05-30
(54)【発明の名称】中空糸炭素膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20220523BHJP
   B01D 69/08 20060101ALI20220523BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20220523BHJP
【FI】
B01D71/02
B01D69/08
C01B32/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020191861
(22)【出願日】2020-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩和
【テーマコード(参考)】
4D006
4G146
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006HA01
4D006MA01
4D006MB03
4D006MB16
4D006MC05X
4D006NA04
4D006NA05
4D006NA63
4D006NA64
4D006NA74
4D006NA75
4D006PA01
4D006PA02
4D006PB17
4D006PB18
4D006PB19
4G146AA01
4G146AB07
4G146AD32
4G146BA13
4G146BB06
4G146BC03
4G146BC33B
4G146CB01
4G146CB08
(57)【要約】
【課題】中空糸炭素膜の製造能力が向上すると共に成形性が向上した中空糸炭素膜が得られる、中空糸炭素膜の製造方法を提供すること。
【解決手段】炭素を含む中空糸状物を紡糸する工程と、紡糸した中空糸状物を多角形の外周を有するボビンの外周上に巻き取る工程と、ボビンを回転させながらボビンに巻き取った中空糸状物を乾燥させる工程と、乾燥後の中空糸状物に不融化処理を行う工程と、不融化処理を行った中空糸状物に炭化処理を行う工程と、を有する中空糸炭素膜の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素を含む中空糸状物を紡糸する工程と、
紡糸した前記中空糸状物を、多角形の外周を有するボビンの該外周上に巻き取る工程と、
前記ボビンを回転させながら前記ボビンに巻き取った中空糸状物を乾燥させる工程と、
乾燥後の前記中空糸状物に不融化処理を行う工程と、
前記不融化処理を行った中空糸状物に炭化処理を行う工程と、
を有する中空糸炭素膜の製造方法。
【請求項2】
前記多角形は四角形である、請求項1に記載の中空糸炭素膜の製造方法。
【請求項3】
前記中空糸状物を紡糸する工程では、二重管ノズルの外管から製膜原液を押し出し、かつ前記二重管ノズルの内管から芯液を押し出すことにより、中空糸状物を紡糸する、請求項1または2に記載の中空糸炭素膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、中空糸炭素膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から各種の有機膜や無機膜は、気体等の分離膜としての使用が検討されている。ポリスルホン、酢酸セルロース等からなる有機膜は成形性が良く安価であるという長所を有するものの、耐溶剤性および耐熱性が低いという特性を有する。一方、無機膜は優れた耐溶剤性および耐熱性という長所を有するものの、成形が難しく高価であるという特性を有する。そこで、成形性、耐溶剤性および耐熱性に優れると共に安価であるという特性を有する中空糸炭素膜が近年、注目されている。
【0003】
特許文献1(特開平4-011933号公報)はポリイミドからなる中空糸炭素膜の製造方法を開示し、特許文献2(特開2009-034614号公報)はポリフェニレンオキシド誘導体からなる中空糸炭素膜の製造方法を開示する。より具体的には、特許文献2は、下記の紡糸工程、乾燥工程、不融化処理工程、および炭化処理工程により、中空糸炭素膜を製造する方法を開示する。
(1)紡糸工程
二重管の構造を有する中空糸紡糸ノズルを用いて、ポリフェニレンオキシド誘導体ポリマーを含有する有機溶媒溶液(製膜原液)と、無機塩水溶液、水等の芯液とを、湿式紡糸法または乾湿式紡糸法によって同時に押し出すことにより中空糸状物を紡糸する(図2)。
(2)乾燥工程
紡糸工程で得られたポリフェニレンオキシド誘導体ポリマーの中空糸状物を乾燥させる。
(3)不融化処理工程
乾燥した中空糸状物を150~300℃、0.5~4時間の加熱処理条件下で不融化処理を行う。
(4)炭化処理工程
10-4気圧以下の減圧下、または空気をヘリウムガス、アルゴンガス、窒素ガス等で置換した不活性ガス雰囲気下で、不融化処理後の中空糸状物を、450~850℃で0.5~4時間、加熱する。
【0004】
上記の乾燥工程では、中空糸状物の中空部分に残留する芯液を除去する。従来から、この芯液の除去を効率的に行うための乾燥方法が検討されている。特許文献3(特開2012-081375号公報)は、中空糸状物を所定長さに切り揃えた後、該中空糸状物を1本毎に鉛直方向に吊り下げて中空糸状物の中空部分に残留する芯液を取り除いた後、中空糸状物のポリマー部分から水分を蒸発させて乾燥させる方法を開示する。
【0005】
また、特許文献4(特開2013-000713号公報)は、紡糸した中空糸状物をボビンに巻き取り、巻き取られた中空糸状物の一端部を開放した状態で他端部より中空糸状物の中空部に空気を送り込むことで、中空糸状物の中空部分に残留する芯液を除去する、中空糸炭素膜の製造方法を開示する。この製造方法では、100m以上の長さの中空糸状物を切断することなく、ボビンに巻き取った状態での不融化処理、炭化処理が可能となるため、中空糸炭素膜の製造能力が向上し、省人力化を図ることも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4-011933号公報
【特許文献2】特開2009-034614号公報
【特許文献3】特開2012-081375号公報
【特許文献4】特開2013-000713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来よりも更に中空糸炭素膜の製造に要する時間を短縮して、中空糸炭素膜の製造能力を向上させることが求められていた。また、直線形状を有し、成形性に優れた中空糸炭素膜が求められていた。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、中空糸炭素膜の製造能力が向上すると共に成形性が向上した中空糸炭素膜が得られる、中空糸炭素膜の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の各態様は、以下のとおりである。
[1]炭素を含む中空糸状物を紡糸する工程と、
紡糸した前記中空糸状物を、多角形の外周を有するボビンの該外周上に巻き取る工程と、
前記ボビンを回転させながら前記ボビンに巻き取った中空糸状物を乾燥させる工程と、
乾燥後の前記中空糸状物に不融化処理を行う工程と、
前記不融化処理を行った中空糸状物に炭化処理を行う工程と、
を有する中空糸炭素膜の製造方法。
[2]前記多角形は四角形である、上記[1]に記載の中空糸炭素膜の製造方法。
[3]前記中空糸状物を紡糸する工程では、二重管ノズルの外管から製膜原液を押し出し、かつ前記二重管ノズルの内管から芯液を押し出すことにより、中空糸状物を紡糸する、上記[1]または[2]に記載の中空糸炭素膜の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
中空糸炭素膜の製造能力が向上すると共に成形性が向上した中空糸炭素膜が得られる、中空糸炭素膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、一実施形態の中空糸炭素膜の製造方法の乾燥工程を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の中空糸炭素膜の製造方法は、炭素を含む中空糸状物を紡糸する工程と、紡糸した中空糸状物を多角形の外周を有するボビンの該外周上に巻き取る工程と、ボビンを回転させながらボビンに巻き取った中空糸状物を乾燥させる工程と、乾燥後の中空糸状物に不融化処理を行う工程と、不融化処理を行った中空糸状物に炭化処理を行う工程とを有する。なお、「中空糸状物」とは中空糸炭素膜を製造する途中の工程で得られた、炭素材料からなる糸状の成形物を表し、「中空糸炭素膜」とは本発明の製造方法により最終的に得られた、炭素材料からなる糸状の成形物を表す。本発明の中空糸炭素膜の製造方法ではまず、湿式紡糸法または乾湿式紡糸法等によって、炭素を含む中空糸状物を紡糸する。中空糸状物を紡糸する工程では、二重管ノズルの外管から製膜原液を押し出し、かつ二重管ノズルの内管から芯液を押し出すことにより、中空糸状物を紡糸することができる。二重管ノズルは、内管と、該内管を覆うように内管の外周上に間隔を開けて設けられた外管とを有する構造からなり、内管および外管からそれぞれ異なる材料を同時に押し出しできるようになっている。また、紡糸した中空糸状物は円筒形状のボビンの外周上に巻き取った形で保持してもよい。次いで、紡糸した中空糸状物を、多角形の外周を有するボビンの外周上に巻き取る。ここで、「ボビンの外周」とは、巻き取った中空糸状物を保持するためのボビンの側面(ボビンの回転軸に垂直な断面)の周囲を表し、ボビンが格子状の場合にはボビンをその回転軸に垂直な断面で見たときに格子点によって構成される形状を有する。この後、ボビンを回転させながらボビンに巻き取った中空糸状物を乾燥させる。この際、ボビンの回転により、中空糸状物の内部に残留する芯液(典型的には、大部分が水から構成される芯液)は容易に中空糸状物の内部を重力によって移動して中空糸状物内を浸透・透過すると共に、中空糸状物の表面から蒸発させることができる。このため、中空糸状物から芯液を除去するための追加の処理や工程を行う必要がなく、短時間で中空糸状物の乾燥を行うことができる。この結果、中空糸炭素膜の製造能力を向上させることができる。また、ボビンに巻き取られた中空糸状物は、ボビンの外周の形状(多角形)に沿った形状となるため直線状となっている。このため、円筒状のボビンに中空糸状物を巻き取った状態で乾燥した場合に生じる中空糸状物の湾曲化を防止することができる。また、中空糸状物は乾燥後も直線形状を維持している。この後、ボビンに巻き取った中空糸炭素膜に不融化処理、および炭化処理を行う。不融化処理および炭化処理を行った後も中空糸状物は該直線形状を維持しているため、最終的に得られる中空糸炭素膜の成形性を向上させることができる。例えば、中空糸炭素膜を中空糸炭素膜モジュールに充填する際には、中空糸炭素膜の充填密度を高くすることができ、高透過量の中空糸炭素膜モジュールとすることができる。また、上記のように製造した中空糸炭素膜は様々な物質の分離処理に利用することができ、分離処理としては例えば、水素分離などの気体分離を挙げることができる。
【0012】
以下では、一実施形態の中空糸炭素膜の製造方法の各工程を詳細に説明する。
(1)紡糸工程
紡糸工程では、炭素を含む中空糸状物を紡糸する。中空糸状物の材料は公知の中空糸炭素膜の材料(ポリマー)であれば特に限定されないが、好ましくはポリフェニレンオキシド系ポリマー、より好ましくはポリフェニレンオキシドもしくはポリフェニレンオキシドの芳香族環を構成する1~4個の水素原子がハロゲン原子、スルホン基、カルボキシル基、低級アルキル基、トリ(低級アルキル)シリル基、ジアリールホスフィノ基で直接、置換された誘導体、または-CH-を介してこれらの原子もしくは基が置換された誘導体であるのがよい。また、上記の低級アルキルは、炭素数1~5のアルキルであるのがさらに好ましい。上記のようなポリマーを任意の可溶性有機溶媒、例えば、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、またはこれらの混合物等に、好ましくは20~40重量%、より好ましくは25~35重量%の濃度で溶解させた製膜原液を調製する。湿式紡糸法または乾湿式紡糸法によって、二重管環状構造の中空糸紡糸ノズルの外管から製膜原液を凝固浴中に押し出し、該中空糸紡糸ノズルの内管から製膜原液の溶媒およびポリマーに対して非溶解性の芯液を同時に押し出すことにより中空糸状物を紡糸する。この際、中空糸紡糸ノズルの外管の径、および後述するボビンによる中空糸状物の巻き取り時の巻き取り速度等を適宜、調節することにより所定の膜外径を有し、炭素材料からなる中空糸状物を得ることができる。
【0013】
芯液および凝固浴の溶媒は、中空糸状物の材料(ポリマー)が溶解しない溶媒とするのがよい。例えば、ポリマーがポリフェニレンオキシド系ポリマーの場合には溶媒として、水、または硝酸アンモニウム、塩酸アンモニウム、硫酸アンモニウム等のアンモニウム塩の水溶液を用いることができる。芯液および凝固浴の温度は-20~60℃が好ましく、0~30℃がより好ましい。次に、上記のようにして紡糸した中空糸状物を円筒状のボビンに巻き取る。ボビンの外径は0.5~2.0mが好ましく、0.7~1.2mがより好ましく、ボビンによる中空糸状物の巻き取り速度は10~60m/分が好ましく、20~40m/分がより好ましい。また、ボビンで巻き取る中空糸状物全体の長さは100~8000mが好ましく、2000~4000mがより好ましい。このように円筒状のボビンに巻き取った中空糸状物に対しては直ちに続く乾燥工程を行ってもよいが、該中空糸状物を一定期間、水中で保管してもよい。
【0014】
(2)乾燥工程
次いで、円筒状のボビンに巻き取ったボビンから更に中空糸状物を送り出して、紡糸した中空糸状物を、多角形の外周を有するボビンの外周上に巻き取る。ボビン外周の形状は多角形であれば特に限定されず、三角形、四角形、五角形、六角形、その他n角形(nは7以上の整数)等を挙げることができるが、ボビンの巻き取り性能および乾燥後の中空糸状物の形状の直線性が優れていることから、ボビン外周の形状は四角形であることが好ましい。また、ボビン外周の形状は正多角形、または各々の内角が異なる多角形の何れであってもよいが、中空糸状物の形状の直線性が優れていることから正多角形であることが好ましい。
【0015】
図1は、四角形の外周を有するボビンの一例を表す図である。図1のボビン2は格子状となっており、A方向に回転しながら、外周4に沿って中空糸状物1を巻き取ることができるようになっている。外周4は、ボビン2の回転軸に垂直な断面において、角部分3に由来する4つの格子点から構成される長方形の形状を有している。このようにボビン2に巻き取られた中空糸状物1は、ボビン2の外周の角部分3を除いて直線状となっている。従って、ボビン2の回転により、中空糸状物1の内部に残留する芯液(典型的には、大部分が水から構成される芯液)は容易に中空糸状物1の内部を重力によって移動して中空糸状物1内を浸透・透過すると共に、中空糸状物1の表面からも蒸発する。このため、中空糸状物1から芯液を除去するための追加の処理や工程を行う必要がなく、効率的かつ短時間で中空糸状物1の乾燥を行うことができる。この結果、中空糸炭素膜の製造能力を向上させることができる。また、乾燥後の中空糸状物1は、ボビン2の外周の形状に沿って直線形状を維持しているため、中空糸炭素膜の成形性を向上させることができる。
【0016】
図1のボビン2の外周に沿って1周分、中空糸状物1を巻き取った時の該中空糸状物1の長さは2.5~5mが好ましく、3~4mがより好ましい。図1のボビン2による中空糸状物1の巻き取り速度は2~20m/分が好ましく、4~14m/分がより好ましい。図1のボビン2の外周に沿って中空糸状物1を1周分、巻き取った場合を1巻きとした場合、中空糸状物1を好ましくは400~1200巻き、より好ましくは600~1000巻き、ボビン2に巻き取るのがよい。図1のボビン2に中空糸状物1を巻き取る際には、コイル状の溝を設けることで、1巻き分の中空糸状物1が互いに、好ましくは0.5~5mm、より好ましくは1~2mmの間隔を開けて保持されるように巻き取られるのがよい。ボビン2に中空糸状物1を巻き取る際には、中空糸状物1の乾燥を促進させるために、通風による乾燥を行ってもよい。この時の通風速度は線速度換算で5~100cm/秒が好ましく、30~80cm/秒がより好ましい。
【0017】
次いで、中空糸状物1のボビン2への巻き取りが終了した後、ボビン2を引き続き回転させる。中空糸状物1を巻き取った状態でのボビン2の回転時間は30~150分が好ましく、60~90分がより好ましい。中空糸状物1を巻き取った状態でのボビン2の回転速度は特に限定されないが、4~14m/分の速度で中空糸状物1を巻き取る時と同じ回転速度とするのが好ましい。
【0018】
(3)不融化処理工程
次いで、図1のようなボビン2に巻き取られた状態の乾燥後の中空糸状物1に不融化処理を行う。不融化処理の条件は中空糸状物1の材料の種類および巻き取り数等によって適宜、設定できる。不融化処理工程の条件は例えば、空気存在下で150~300℃、0.5~4時間とすることができ、後述する炭化処理工程の温度よりも低い温度で中空糸状物1の加熱を行う条件とすることができる。この不融化処理工程では、酸化によって中空糸状物1を構成する材料の分子間架橋等が起こり中空糸状物の耐熱性が向上する。従って、後述する炭化処理工程等で中空糸状物が溶融することを有効に防止することができる。また、この分子間架橋は、耐熱性向上だけでなく、最終的に得られる中空糸炭素膜の機械的強度特性を向上させることができる。この後、中空糸状物を所定の長さ(例えば、0.2~1m)へ切り出す。この際、不融化処理工程後の中空糸状物は、乾燥後の直線形状を維持している。
【0019】
(4)炭化処理工程
次に、切り出した状態の中空糸状物を容器内に収容し、好ましくは10Pa以下、より好ましくは4~10Paの減圧下、または減圧を行わずに空気をヘリウムガス、アルゴンガス、窒素ガス等で置換した不活性ガス雰囲気下で加熱することにより、不融化処理を行った中空糸状物に炭化処理を行う。これにより、最終的に中空糸炭素膜を製造する。炭化処理の条件は中空糸状物の材料の種類および巻き取り数等によって適宜、設定できるが、450~850℃、0.5~4時間といった条件とすることが好ましい。この炭化処理工程により、中空糸炭素膜の炭素含有率を大きくすることができる。炭化処理後に得られる中空糸炭素膜は、乾燥後の直線形状を維持しており、その成形性を向上させることができる。例えば、中空糸炭素膜を中空糸炭素膜モジュールに充填する際には、中空糸炭素膜の充填密度を高くすることができ、高透過量の中空糸炭素膜モジュールとすることができる。
【0020】
(中空糸炭素膜モジュール)
一実施形態では、ケースと、ケース内に収容された中空糸炭素膜とを有する中空糸炭素膜モジュールとすることができる。該中空糸炭素膜は本発明の中空糸炭素膜の製造方法で製造されたものであるため、該中空糸炭素膜モジュール内の中空糸炭素膜は直線状であり、ケース内の中空糸炭素膜の充填密度を高くすることができる。この結果、高透過量の中空糸炭素膜モジュールとすることができる。
【実施例0021】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明の好適な例を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0022】
(実施例1)
(1)紡糸工程
ポリフェニレンオキシド系ポリマーであるスルホン化ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキシド)50gをジメチルホルムアミド150gに溶解させて濃度が25重量%の製膜原液を調製した。外径が0.5mm、内径が0.25mmの二重管構造のノズルの外管から調製した製膜原液を水中に押し出し、これと同時に内管から純水の芯液を水中に押し出し、乾湿式紡糸法により中空糸状物を得た。この後、中空糸状物を、外周の長さが1mの円筒状のボビンの外周上に20m/分の速度で巻き取った。中空糸状物の総長さは1000mであった。
【0023】
(2)乾燥工程
円筒状のボビンの外周上に巻き取った中空糸状物を送り出して、さらに図1に示される、外周の形状が長方形のボビン2の外周上に巻き取った。図1のボビン2の外周を構成する長方形の長辺は1.2m、短辺は0.4m、外周1周分の長さは3.2mであった。図1のボビン2への中空糸状物の巻き取り速度は4m/分、巻き取り後の隣り合う1巻分の中空糸状物の間の間隔は1mmであり、300巻きとなるまでボビン2の外周上に中空糸状物を巻き取った。図1のボビン2への中空糸状物の巻き取りが終了した後、引き続きボビン2を同じ速度で60分間、回転させることにより中空糸状物を乾燥させた。この結果、短時間で中空糸状物の乾燥を行うことができ、本発明の方法により中空糸炭素膜の製造能力が向上することを確認できた。また、乾燥後の中空糸状物は直線形状を有しており、優れた成形性を有することを確認できた。
【0024】
(3)不融化処理工程
中空糸状物を巻き取った状態の図1のボビン2を加熱装置内に設置し、290℃で2時間、加熱処理を行うことにより不融化処理を行った。次いで、中空糸状物を0.5mの長さに2400本、切り出した。切り出した中空糸状物は直線形状を保持しており、優れた成形性を有することを確認できた。
【0025】
(4)炭化処理工程
切り出した中空糸状物のうち2000本について不活性ガス雰囲気下で600℃、1時間の間、加熱を行うことにより中空糸炭素膜を得た。得られた中空糸炭素膜の形状を確認したところ、不融化処理後の直線形状を維持しており、曲がりや折れのない成形性の良いものであった。このように優れた直線形状を有する中空糸炭素膜は、中空糸炭素膜モジュール製造時に中空糸炭素膜の充填密度を高くすることができ、高透過量の中空糸炭素膜モジュールとできることを確認した。
【0026】
(比較例1)
実施例1の乾燥工程の代わりに以下の(a)乾燥工程を行った以外は実施例1と同様にして中空糸炭素膜を製造した。
(a)乾燥工程
円筒状のボビンの外周上に巻き取った、紡糸後の中空糸状物を送り出して、さらに円筒状のボビンで該中空糸状物を巻き取った後、中空糸状物の乾燥を行った。より具体的には、この(a)乾燥工程で用いた円筒状のボビンの外周1周分の長さは3mであり、中空糸状物の巻き取り速度は4m/分、隣り合う1巻きの中空糸状物ごとの間隔は1mmとし、中空糸状物を300巻きとなるまで巻き取った。円筒状のボビンの外周上への中空糸状物の巻き取りが終了した後、巻き取り時と同じ回転速度でボビンを回転させながら中空糸状物の乾燥を行った。この乾燥の際、中空糸状物内の水は中空糸状物の内部に滞留したため、中空糸状物の乾燥に180分の時間を要した。従って、比較例1では、実施例1と比べて中空糸状物の乾燥に長時間を要し、中空糸炭素膜の製造能力が低かった。また、(a)乾燥工程後の中空糸状物に対して、実施例1と同様に不融化処理工程および炭化処理工程を行った後、不融化処理工程および炭化処理工程の各々の工程後の中空糸状物の形状を確認したところ、円形の曲率を有しており直線形状を有していなかった。従って、比較例1で得た中空糸炭素膜の成形性は悪く、中空糸炭素膜モジュール製造時に該中空糸炭素膜の充填密度を高くすることができないことを確認した。
【符号の説明】
【0027】
1…中空糸状物、2…ボビン、3…角部分、4…外周
図1