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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022080682
(43)【公開日】2022-05-30
(54)【発明の名称】シス型カロテノイドの安定化方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 403/24 20060101AFI20220523BHJP
【FI】
C07C403/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020191888
(22)【出願日】2020-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】大澤 友紀子
(72)【発明者】
【氏名】平澤 和明
(72)【発明者】
【氏名】本田 真己
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AD40
4H006UC12
4H006UC21
4H006UC22
(57)【要約】
【課題】シス型カロテノイドの保管方法の提供。
【解決手段】シス型カロテノイドを、抗酸化剤、有機酸塩又は植物油若しくはサメ肝油の存在下で保管することを特徴とする、シス型カロテノイドの保管方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シス型カロテノイドを、抗酸化剤、有機酸塩又は植物油若しくはサメ肝油の存在下で保管することを特徴とする、シス型カロテノイドの保管方法。
【請求項2】
前記シス型カロテノイドが、シス型アスタキサンチンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗酸化剤又は有機酸塩を、シス型カロテノイドに対して1~10倍の量を添加して保管する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
-5℃~50℃で少なくとも3週間保管する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記抗酸化剤が、トコフェロール、没食子酸プロピル、ブチルヒドロキシアニソール、ジブチルヒドロキシトルエン及びアスコルビン酸からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~4のいずれか1項に記載の保管方法。
【請求項6】
前記有機酸塩が、酢酸カリウムである、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記植物油のヨウ素価が、10~190である、請求項1~6のいずれか1項に記載の保管方法。
【請求項8】
前記植物油が、ヘンプシード、ダイズ、ゴマ、ベニバナ、コメ、アルガン、オリーブ、ヒマワリ、マカダミア及びパームからなる群から選ばれる少なくとも1種から得られる植物油である、請求項1~7のいずれか1項に記載の保管方法。
【請求項9】
抗酸化剤、有機酸塩又は植物油若しくはサメ肝油を含む、シス型カロテノイドの保管安定化剤。
【請求項10】
前記シス型カロテノイドが、シス型アスタキサンチンである、請求項9に記載の保管安定化剤。
【請求項11】
前記シス型カロテノイドを、少なくとも3週間にわたり安定化させる、請求項9又は10に記載の保管安定化剤。
【請求項12】
前記抗酸化剤が、トコフェロール、没食子酸プロピル、ブチルヒドロキシアニソール、ジブチルヒドロキシトルエン及びアスコルビン酸からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項9~11のいずれか1項に記載の保管安定化剤。
【請求項13】
前記有機酸塩が、酢酸カリウムである、請求項9~12のいずれか1項に記載の保管安定化剤。
【請求項14】
前記植物油が、ヘンプシード、ダイズ、ゴマ、紅花、コメ、アルガン、オリーブ、ヒマワリ、マカダミア及びパームからなる群から選ばれる少なくとも1種から得られる植物油である、請求項9~13のいずれか1項に記載の保管安定化剤。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シス型カロテノイドの保管安定性を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カロテノイドは、自然界に広く存在する天然色素であり、カロテノイドの一種としてアスタキサンチン、アドニルビン、アドニキサンチン、ゼアキサンチン、β-クリプトキサンチン等が知られている。これらのカロテノイドには各種生理作用を有することが知られており、食品、医薬品等としての用途が期待されている。
しかし、カロテノイドは光や熱などによって容易に酸化されることが知られているため、安定化する方法が種々検討されている。
【0003】
例えば、アスタキサンチンにニコチン酸アミドを含有させると熱、光、酸化等のカロテノイドの劣化が促進されるが、ビタミンE類(抗酸化剤)を添加することで、アスタキサンチンの劣化を抑制する方法(特許文献1)、カロテノイドにδ-トコフェロールおよびジブチルヒドロキシトルエン(いずれも抗酸化剤)を含有させることで、カロテノイドを安定化させる方法(特許文献2)、有機酸塩(特に、酢酸カリウム)を用いることによりカロテノイドの立体異性体比を維持する方法(特許文献3)などが検討されている。そして、特許文献3の実施例は、酢酸カリウムが9Z-シス型アスタキサンチンおよび13Z-シス型アスタキサンチンの増加を抑制、すなわちトランス型アスタキサンチンのシス体への転化を抑制することで、トランスアスタキサンチンの比率を維持していることを示している。
【0004】
しかし、特許文献1に記載の安定化方法は、光照射時の安定性を評価したものであり、長期保管時の安定性については検証されておらず、またアスタキサンチンのシス体の安定性については言及されていない。また、特許文献2に記載の安定化方法は、天然の原料、すなわちトランス型カロテノイドの安定化方法であり、シス体の安定性は評価されていない。さらに、特許文献3に記載の方法では、カロテノイドの残存量を比較した期間が5日間であり、長期保管安定性の効果は示されておらず、シス型アスタキサンチンの保管安定性効果についての開示もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-131550号公報
【特許文献2】特許第5530058号
【特許文献3】特許第6519087号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シス型カロテノイドは、トランス型よりも体内吸収性が高く、トランス型カロテノイドよりも優れた効果が期待できるため、使用に際し、長期間安定させる必要がある。このため、シス型カロテノイドを安定して保管する方法の開発が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、抗酸化剤や所定の油脂がシス型カロテノイドを安定化させることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)シス型カロテノイドを、抗酸化剤、有機酸塩又は植物油若しくはサメ肝油の存在下で保管することを特徴とする、シス型カロテノイドの保管方法。
(2)前記シス型カロテノイドが、シス型アスタキサンチンである、(1)に記載の方法。
(3)前記抗酸化剤又は有機酸塩を、シス型カロテノイドに対して1~10倍の量を添加して保管する、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)-5℃~50℃で少なくとも3週間保管する、(1)~(3)のいずれか1項に記載の方法。
(5)前記抗酸化剤が、トコフェロール、没食子酸プロピル、ブチルヒドロキシアニソール、ジブチルヒドロキシトルエン及びアスコルビン酸からなる群から選択される少なくとも1種である、(1)~(4)のいずれか1項に記載の保管方法。
(6)前記有機酸塩が、酢酸カリウムである、(1)~(5)のいずれか1項に記載の方法。
(7)前記植物油のヨウ素価が、10~190である、(1)~(6)のいずれか1項に記載の保管方法。
(8)前記植物油が、ヘンプシード、ダイズ、ゴマ、ベニバナ、コメ、アルガン、オリーブ、ヒマワリ、マカダミア及びパームからなる群から選ばれる少なくとも1種から得られる植物油である、(1)~(7)のいずれか1項に記載の保管方法。
(9)抗酸化剤、有機酸塩又は植物油若しくはサメ肝油を含む、シス型カロテノイドの保管安定化剤。
(10)前記シス型カロテノイドが、シス型アスタキサンチンである、(9)に記載の保管安定化剤。
(11)前記シス型カロテノイドを、少なくとも3週間にわたり安定化させる、(9)又は(10)に記載の保管安定化剤。
(12)前記抗酸化剤が、トコフェロール、没食子酸プロピル、ブチルヒドロキシアニソール、ジブチルヒドロキシトルエン及びアスコルビン酸からなる群から選択される少なくとも1種である、(9)~(11)のいずれか1項に記載の保管安定化剤。
(13)前記有機酸塩が、酢酸カリウムである、(9)~(12)のいずれか1項に記載の保管安定化剤。
(14)前記植物油が、ヘンプシード、ダイズ、ゴマ、紅花、コメ、アルガン、オリーブ、ヒマワリ、マカダミア及びパームからなる群から選ばれる少なくとも1種から得られる植物油である、(9)~(13)のいずれか1項に記載の保管安定化剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、3週以上、例えば6週以上にわたり、シス型カロテノイドを安定して保管することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】3週間保管後の総シス型アスタキサンチン残存率に及ぼす各成分の影響を示す図である。
図2】6週間保管後の総シス型アスタキサンチン残存率に及ぼす各成分の影響を示す図である。
図3】3週間保管後の総シス型アスタキサンチン残存率に及ぼす各油脂の影響を示す図である。
図4】6週間保管後の総シス型アスタキサンチン残存率に及ぼす各油脂の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、カロテノイドの保管安定性を向上させる方法であり、特にシス体を豊富に含むシス型アスタキサンチンにおいて、抗酸化剤(α-トコフェロール、BHT、アスコルビン酸等)や酢酸カリウムの添加、または特定の油脂(ヒマワリ油やダイズ油)への懸濁下で安定性が向上することを見出した。
【0012】
本発明において、保管及び安定化の対象となるシス型カロテノイドは、シス型アスタキサンチン、シス型アドニルビン、シス型アドニキサンチン、シス型カンタキサンチン、シス型β-カロテン、シス型β-クリプトキサンチン及びシス型ゼアキサンチンからなる群から選ばれる1以上のカロテノイドであり、溶媒に溶解させた組成物の形態とすることができる。この場合、組成物中には上記これらのカロテノイド化合物のトランス型を一部に含んでいてもよい。
【0013】
ここで、カロテノイドの構造は、中央に 9個の共役二重結合からなるポリエン鎖とその両端に付くエンドグループ(末端基)から構成されており、ポリエン鎖となる炭素骨格が同じ側につくとシス型、反対側につくとトランス型の幾何異性体となる。本明細書においては、炭素骨格の配置がシス型のときをZ、トランス型のときをEとして表し、その位置を番号で表す。例えば、下記に示す構造式の上は(13Z)-アスタキサンチンを表し(13位の炭素がシス型)、下は(9Z)-アスタキサンチン(9位の炭素がシス型)を表す。他の位置のシス型についても、同様に表記する。
【0014】
【化1】
【0015】
本発明において、「安定化」とは、組成物中に含まれるトランス体からシス体への転化率を維持又は向上させること、及びシス型カロテノイドの残存率を長期間維持することを意味する。この残存率を維持することは、主としてシス型アスタキサンチンの分解抑制に起因するものである。「長期間」とは、製造から出荷を経てユーザの利用に至るまでの期間を包含する期間であり、少なくとも1週間である。本発明の一態様では、例えば少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも5週間、又は少なくとも6週間である。本発明においては6週間以上にわたり、シス型アスタキサンチンを安定的に保管し得る物質を多数見出した。そこで本発明においては、これらの物質を保管安定化剤として使用する。
【0016】
本発明において保管の対象となるカロテノイド組成物は、市販品を用いることができ、あるいは従来の化学合成法により製造することができる。また、化学合成品のカロテノイド及び天然由来のカロテノイドを混合することにより製造されたものであってもよい。ヒトに摂食させる場合には、安全性の観点から、天然物由来のカロテノイドであることがより好ましい。
本発明において、カロテノイド組成物は、微生物による発酵法、又は動物や植物等からの抽出及び精製方法等により製造された天然由来のものを使用することができる。例えば、本発明のカロテノイド組成物として、パラコッカス属(Paracoccus)に属する微生物、例えば、パラコッカス・カロティニファシエンス(Paracoccus carotinifaciens)等から抽出及び精製により製造したものを使用することができる。
【0017】
パラコッカス属(Paracoccus)に属する微生物由来のカロテノイド組成物は、例えば特開2012-158569号公報に記載の方法に準じて製造することができる。具体的には、パラコッカス・カロティニファシエンス(Paracoccus carotinifaciens)の乾燥菌体を、アセトンを使用する室温抽出に供し、抽出液をエバポレーターで濃縮し、濃縮液が二層に分離したところで濃縮物にヘキサン-クロロホルム(1:1)混合液を加えて良く混和した後、分液操作により有機溶媒層を得る。前記有機溶媒層をエバポレーターで濃縮乾固する。濃縮乾固物をクロロホルムに溶解し、シリカゲルカラムにて各カロテノイドを分離する。例えばアセトン:ヘキサン(3:7)で溶出する画分をさらにHPLC(Shim-pack PRC-SIL、アセトン:ヘキサン(3:7))で精製することでアドニルビン遊離体を得ることができる。また、アセトン:ヘキサン(5:5)で溶出する画分を濃縮し、4℃で放置することで、アスタキサンチン遊離体を結晶として得ることができる。さらに、アセトンで溶出する画分をさらにHPLC(Shim-pack PRC-SIL、アセトン:ヘキサン(4:6))で精製することで、アドニキサンチン遊離体を得ることができる。
【0018】
本発明において、シス型カロテノイドはそのまま用いることができるが、シス化変換処理を施すことにより、シス化率を高めることができる。上記カロテノイド組成物をシス型に変換するには、当分野における公知手法、例えば、熱処理をすればよい。熱処理は、酢酸エチル、エタノール、アセトン等の溶媒中で実施してもよい。なお、シス型カロテノイド含有率を調製するための処理は、熱処理に限られず、光照射処理やカロテノイドのシス異性化反応を促進する触媒を用いた処理等であってもよい。さらに、シス型カロテノイド含有率を高度に高める手法としては、トランス型とシス型カロテノイドの溶解度の差を利用した分離法等を行うこともできる。
【0019】
本発明において、組成物中のシス型カロテノイド(例えばシス型アスタキサンチン)は、当該組成物全体の質量(100%)を基準として、少なくとも20%を含み、下限値として20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、55%以上又は60%以上含む。また、上限値として90%以下、80%以下、75%以下、70%以下、又は65%以下の割合で含む。なお、本発明においては、シス型カロテノイドの組成物全体の含有率を「シス体比率」という。
【0020】
シス体化率の下限値及び上限値は任意に組み合わせることができ、例えば、組成物全体の質量を基準として、20~90%、例えば80%を含有する。
このうち、シス型アスタキサンチンは20~80%であり、これに2~20%のシス型アドニルビンや2~20%のシス型アドニキサンチンを含有してもよい。
【0021】
このようにして得られたシス型カロテノイドを、抗酸化剤、有機酸塩又は植物油若しくはサメ肝油(これらをまとめて「保管安定化剤」という)の存在下で保管する。「保管安定化剤の存在下で保管する」とは、保管安定化剤を、シス型カロテノイドを含有する組成物中に添加して保管すること、保管安定化剤を含む組成物中にシス型カロテノイドを添加して保管すること、及び、シス型カロテノイドを含有する組成物と保管安定化剤を含む組成物とを混合して保管することのいずれをも意味するものである。
【0022】
本発明の一態様では、適当な溶媒(例えばエゴマ油)に溶解させたシス型カロテノイド含有組成物中に、上記保管安定化剤を添加する。このときの添加量は、組成物中のカロテノイドに対して0.01~100倍、0.1~50倍、又は1~10倍の量である。
本発明において保管に使用される保管安定化剤としては、例えば以下のものが挙げられる。
【0023】
<抗酸化剤>
抗酸化剤とは、活性酸素の発生やその働きを抑制したり、活性酸素そのものを取り除く物質を意味し、抗酸化物質ともいう。
抗酸化物質としては、例えば以下のものが挙げられる。
α-トコフェロール、没食子酸プロピル、BHA(ブチルヒドロキシアニソール)、BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)、アスコルビン酸、コエンザイムQ10、ユビキノン、ポリフェノール(カテキン、アントシアニン、タンニン、ルチン、イソフラボン、ノビレチン、ノビレチン、クロロゲン酸、エラグ酸、リグナン、セサミン、クルクミン、クマリン、オレオカンタール、オレウロペイン、レスベラトロール、ケルセチン)、グルタチオン、N-アセチルシステイン、尿酸、ビリルビン、グルコース。
中でも、α-トコフェロール、没食子酸プロピル、BHA(ブチルヒドロキシアニソール)、BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)、アスコルビン酸が好ましい。
【0024】
<有機酸塩>
有機酸は、酸性を示す有機化合物の総称である。ほとんどの有機酸はカルボン酸であり、カルボキシル基(-COOH)を持つ。スルホン酸は比較的強い有機酸でスルホ基(-SOH)を持つ。有機酸としては、酢酸、乳酸、クエン酸、酒石酸などが挙げられ、有機酸の塩としては、例えばカリウム塩、ナトリウム塩などが挙げられる。
本発明においては、例えば酢酸カリウムが挙げられる。
【0025】
<植物油>
植物油とは、植物に含まれる脂質を抽出及び精製した油脂又は油であり、植物油脂ともいう。本発明において使用される植物油としては、食用油として使用されるものであれば特に限定されるものではなく、例えば以下のものが挙げられる。なお、それぞれの油の名称は、由来する植物を表す。
ココナッツ油、コーン油、紅花油(サフラワー油)、綿実油、オリーブ油、パーム油(レッドパーム油)、パーム核油、ピーナッツ油、ナタネ油、ゴマ油(未焙煎、焙煎)、大豆油、ヒマワリ油、ナッツ油(アーモンド、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、マカダミアナッツ、モンゴンゴ、ペカン、松の実、ピスタチオ、クルミ、グリーンナッツ等)、ヒョウタン実油、バッファローカボチャ油、カボチャ実油、スイカ実油、アサイー油、カシス油、ルリジサ種子油、月見草油、マスタード油、アマランサス油、アンズ油、リンゴ油、アルガン油、アーティーチョーク油、アボガド油、ババス油、モリンガ油、ボルネオ脂、ケープ栗油、ココアバター、キャロブ油、コフネヤシ油、コリアンダー種油、ディカ油、アマナズナ油、アマニ油、グレープシード油、ヘンプシード油、カポック実油、ラッレマンチア油、マルーラ油、メドウフォーム油、カラシ油、ナツメグバター、オクラ油、パパイヤ油、シソ油(エゴマ油)、ペクイ油、ケシ油、プルーン油、キヌア油、ニガー種子油、コメ油、Royle油、サッチャインチオイル、ツバキ油、アザミ油、トマト油、コムギ油、カブ油。
【0026】
中でも、大豆油、グレープシード油、マスタード油、レッドパーム油、ゴマ油(焙煎ゴマ油、未焙煎ゴマ油)、紅花油(サフラワー油)、アルガン油、グリーンナッツ油、ヘンプシード油、ヒマワリ油、アマニ油、マカダミアナッツ油、オリーブ油、ナタネ油、ココナッツ油、ピーナッツ油、エゴマ油、コメ油、コーン油、などが好ましい。
本発明において使用される植物油は、ヨウ素価が10~190であることが好ましく、50~170がより好ましい。ヨウ素価は、この値が大きいほど試料中の脂肪酸の不飽和度が高い(二重結合の数が多い)ことを示す。
【0027】
<動物油>
動物油は、動物由来の油脂であり、原料によって陸産動物油脂と水産動物油脂に分類できる。動物油としては、例えばサメ肝油が挙げられる。
【0028】
<他の成分>
本発明の一態様では、カロテノイド組成物の保管中にトランス型をシス型に異性化を促進する物質、又はシス型カロテノイドの分解を抑制する物質を含めることにより、保管安定化効果を引き起こすことができる。そこで本発明においては、カロテノイド組成物中には、上記保管安定化剤の他に、カロテノイドの異性化促進剤を含有させることができる。
カロテノイドの異性化促進剤としては、アリルイソチオシアネート、スルフォラファン、ジアリルジスルフィド、ジアリルトリスルフィドなどが挙げられる。
【0029】
<保管方法>
カロテノイドの保管温度は、特に限定されるものではなく、室温、冷蔵(チルド保存温度を含む)、冷凍のいずれでもよく、室温以上の高温下でもよい。例えば、-5℃~50℃の範囲で任意に選択することができる。本発明の一態様では、例えば-5℃、0℃、5℃、10℃、20℃、30℃、40℃、又は50℃である。
保管場所は特に限定されるものではなく、例えば室内の暗所である。
カロテノイドの保管期間は特に限定されるものではなく、例えば1週間以上、2週間以上、3週間以上、4週間以上、5週間以上、6週間以上である。
【0030】
組成物中のシス型カロテノイドは、各種液体クロマトグラフィー(HPLC等)により測定することができ、保管試験前後におけるシス型カロテノイドのピーク面積比により、総シス型及び各異性体(例えばアスタキサンチンの9Z、13Z、15Z、他の異性体)の残存率を算出することができる。そして、所定期間保管後の総シス型及び各異性体のいずれかの残存率が、対照と比較して高い場合(少なくとも1ポイント、例えば少なくとも2ポイント、少なくとも10ポイント高い場合等)に、安定して保管された(安定保管効果が得られた)ものと判断するが、判断基準は例えば実施例に記載のように適宜設定することができる。
【実施例0031】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
(実施例1)
抗酸化剤及び有機酸塩、その他によるアスタキサンチンの保管安定性
【0032】
シス型アスタキサンチン(シス体比率80%)を溶媒(エゴマ油)に懸濁し、アスタキサンチン濃度0.3wt%の溶液を調製した。表1に示す各成分を1wt%添加し、30℃の暗所で保管し、経時的なアスタキサンチン残存量を分析した。残存量の分析は、HPLC(Prominence、島津製作所社製)により行った。
【0033】
【表1】
【0034】
アスタキサンチン(AST)残存量は、下記式に従って算出された残存率に基づいて評価した。
【数1】
【0035】
(実施例2)
各種油脂によるシス型アスタキサンチンの保管安定性
シス型アスタキサンチン(シス体比率80%)を表2に示す油脂に懸濁し、アスタキサンチン濃度0.3wt%の溶液を調製した。30℃の暗所で保管し、経時的なアスタキサンチン残存量を分析した。
残存量の分析、及び残存率の評価は実施例1と同様に行った。
【0036】
【表2】
【0037】
各油脂のヨウ素価を表3に示す。
【表3】
【0038】
(実施例1及び2の測定結果)
<抗酸化剤や有機酸塩等の保管安定性>
抗酸化剤や有機酸塩等を用いたときの3週間及び6週間保管(30℃)後のシス型アスタキサンチン(総シス型アスタキサンチン)の残存率を、それぞれ図1及び図2に示す。
【0039】
図1において、α-トコフェロール、BHA、BHT、没食子酸プロピル、アスコルビン酸、クルクミン、レスベラトロール、ユビキノン、ジアリルジスルフィド、ジアリルトリスルフィド、スルフォラファン、アリルイソチオシアネート、EDTA、メタリン酸ナトリウム、クエン酸、サポニン、及び酢酸カリウムを用いた場合に、総シス型アスタキサンチン残存率は対照と比較して高く(残存率40%以上)、3週間の保管安定効果が示された。また、図2において、α-トコフェロール、BHA、BHT、没食子酸プロピル、アスコルビン酸、及び酢酸カリウムを用いた場合に、総シス型アスタキサンチン残存率は対照と比較して高く(残存率40%以上)、6週間の保管安定効果が示された。
【0040】
さらに、1、2、3及び6週間保管(30℃)後の各シス型アスタキサンチンのシス型アスタキサンチン(9Z、13Z、15Z、その他)の残存率を表4に示す。
表4において、「AST」はアスタキサンチンを表し、「9Z」は9シス型、「13Z」は13シス型、「15Z」は15シス型を表す。「Other Z」は9Z、13Z及び15Z以外の他のシス型を表す。本実施例において、以下、同様に表記する。
【0041】
【表4】
【0042】
各シス型アスタキサンチンに対する保管安定性は以下の通りである。
抗酸化剤や有機酸塩等の成分の保管安定性については、残存率が、以下の(a)~(c)のうち少なくとも1つの基準を満たすものを、保管安定効果を有するとした。
(a)2週目において対照よりも2%以上高いもの
(b)3週目において対照よりも1%以上高いもの
(c)6週目において3週目の残存率の50%以上を維持しているもの
【0043】
その結果、9Zについては、α-トコフェロール、BHA、BHT、没食子酸プロピル、アスコルビン酸、及び酢酸カリウム(本実施例において「6成分」という。)において、6週まで保管安定効果が認められた。また、クルクミン、レスベラトロール、ユビキノン、ジアリルジスルフィド、ジアリルトリスルフィド、スルフォラファン、アリルイソチオシアネート、EDTA、メタリン酸ナトリウム、クエン酸、及びサポニンにおいて、3週まで保管安定効果が認められた。
【0044】
13Zについては、上記6成分において6週まで保管安定効果が認められ、レスベラトロール、ユビキノン、ジアリルジスルフィド、ジアリルトリスルフィド、EDTA、及びクエン酸において、3週まで保管安定効果が認められた。
15Zについては、上記6成分において6週まで保管安定効果が認められ、クルクミン、レスベラトロール、ユビキノン、ジアリルジスルフィド、ジアリルトリスルフィド、スルフォラファン、アリルイソチオシアネート、EDTA、メタリン酸ナトリウム、クエン酸、及びサポニンにおいて、3週まで保管安定効果が認められた。
【0045】
<油脂の保管安定性>
油脂を用いたときの3週間及び6週間保管(30℃)後のシス型アスタキサンチンの残存率を、それぞれ図3及び図4に示す。
【0046】
図3において、アマニ油(ヨウ素価190.3)、グリーンナッツ油(ヨウ素価185.0)、ヘンプシード油(ヨウ素価163.8)、ナタネ油(ヨウ素価163.8)、グレープシード油(ヨウ素価136.2)、ダイズ油(ヨウ素価131.7)、コーン油(ヨウ素価126.7)、ゴマ油(ヨウ素価113.1)、紅花油(ヨウ素価105.0)、コメ油(ヨウ素価104.3)、アルガン油(ヨウ素価103.2)、ピーナッツ油(ヨウ素価99.9)、マスタード油(ヨウ素価98.3)、オリーブ油(ヨウ素価184.0)、ヒマワリ油(ヨウ素価80.3)、マカダミアナッツ油(ヨウ素価78.6)、パーム油(ヨウ素価52.8)、ココナッツ油(ヨウ素価12.6)、及びサメ肝油は3週間保管後でも40%以上の残存率を示し、このうち、アマニ油及びサメ肝油以外の油は、6週間保管後でも40%以上の残存率という高い保管安定効果を示した(図4)。
さらに、ヘンプシードオイル、ダイズ油、ゴマ油、紅花油、コメ油、アルガンオイル、オリーブ油、ヒマワリ油、マカダミアオイルおよびパーム油を用いた場合は、6週後の総シス型アスタキサンチン残存率が60%以上であった。なかでも、ダイズ油とヒマワリ油は、総シス型アスタキサンチン残存率が70%以上であり、極めて高い保管安定効果を示した。6週後の総シス型アスタキサンチン残存率が60%以上の植物油のヨウ素価は50~170であった。
【0047】
また、1、3及び6週間保管(30℃)後の各シス型アスタキサンチンのシス型アスタキサンチン(9Z、13Z、15Z、その他)の残存率を表5に示す。なお、表中各油脂名の右括弧内に記載した数値は各油脂のヨウ素価である。
【0048】
【表5】
【0049】
油脂の各種シス体に対する保管安定性については、残存率が、以下の(d)及び(e)のうち少なくとも一方の基準を満たすものを、保管安定効果を有するとした。
(d)3週目において対照よりも20%以上高いもの
(e)6週目において3週目の残存率の50%以上の残存率を維持しているもの
【0050】
その結果、9Zについては、アマニ油、及びサメ肝油において3週まで保管安定効果が示された。また、9Z、13Z及び15Zについては、グリーンナッツ油、ヘンプシード油、ナタネ油、グレープシード油、ダイズ油、コーン油、ゴマ油、ゴマ油(焙煎品)、紅花油、コメ油、アルガン油、ピーナッツ油、マスタード油、オリーブ油、ヒマワリ油、マカダミアナッツ油、パーム油、及びココナッツ油において、6週まで保管安定効果が示された。9Z、13Z及び15Zについて、6週まで保管安定効果が示を示した植物油のヨウ素価は10~190であった。
図1
図2
図3
図4