IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田自動織機の特許一覧

<>
  • 特開-湿式駐車ブレーキ装置 図1
  • 特開-湿式駐車ブレーキ装置 図2
  • 特開-湿式駐車ブレーキ装置 図3
  • 特開-湿式駐車ブレーキ装置 図4
  • 特開-湿式駐車ブレーキ装置 図5
  • 特開-湿式駐車ブレーキ装置 図6
  • 特開-湿式駐車ブレーキ装置 図7
  • 特開-湿式駐車ブレーキ装置 図8
  • 特開-湿式駐車ブレーキ装置 図9
  • 特開-湿式駐車ブレーキ装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022080688
(43)【公開日】2022-05-30
(54)【発明の名称】湿式駐車ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 7/10 20060101AFI20220523BHJP
   F16D 55/38 20060101ALI20220523BHJP
   F16D 65/18 20060101ALI20220523BHJP
   F16D 121/14 20120101ALN20220523BHJP
   F16D 125/28 20120101ALN20220523BHJP
【FI】
B60T7/10 Q
F16D55/38
F16D65/18
F16D121:14
F16D125:28
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020191894
(22)【出願日】2020-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】丸田 裕己
【テーマコード(参考)】
3D124
3J058
【Fターム(参考)】
3D124AA12
3D124BB02
3D124CC01
3D124DD03
3D124DD04
3J058AA44
3J058AA48
3J058AA53
3J058AA59
3J058AA79
3J058AA87
3J058BA01
3J058BA18
3J058CC08
3J058CC52
3J058FA11
(57)【要約】      (修正有)
【課題】操作部の操作力を小さくしつつ、駐車制動能力を確保することができる湿式駐車ブレーキ装置を提供する。
【解決手段】湿式駐車ブレーキ装置1の押付ユニット5は、湿式ブレーキ4を押し付ける押付ロッド部材11と、押付ロッド部材11の下軸部に連結され、下軸部の径方向に延在するレバー13と、レバー13を湿式ブレーキ4に対する押付方向に対応する側の反対側に付勢するコイルバネ14と、トグルレバーとレバー13とを接続するワイヤケーブル16と、ワイヤケーブル16をレバー13の先端部に保持する保持具17とを備え、保持具17は、ワイヤケーブル16の一端と連結され、レバー13の先端部を挟むホルダ本体30と、ホルダ本体30をレバー13に係止するピン31とを有し、レバー13の先端部には、レバー13の長手方向に沿って延在し、ピン31が挿通する長孔状の挿通孔24が設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケース内に配置された回転軸と、前記回転軸を制動する湿式ブレーキと、前記湿式ブレーキを前記回転軸の軸方向に押し付ける押付ユニットとを具備した湿式駐車ブレーキ装置において、
前記押付ユニットは、
前記回転軸が挿通するロッド本体部の下部に配置された軸部を有し、前記湿式ブレーキを押し付ける押付ロッド部材と、
前記軸部に連結され、前記軸部の径方向に延在するレバーと、
前記レバーを前記湿式ブレーキに対する押付方向に対応する側の反対側に付勢する付勢部材と、
前記レバーを前記付勢部材の付勢力に抗して引っ張るための操作部と前記レバーとを接続する線状部材と、
前記線状部材を前記レバーの先端部に保持する保持具とを備え、
前記保持具は、前記線状部材の一端と連結され、前記レバーの先端部を挟むホルダ本体と、前記ホルダ本体を前記レバーに係止するピンとを有し、
前記レバーの先端部には、前記レバーの長手方向に沿って延在し、前記ピンが挿通する長孔状の挿通孔が設けられている湿式駐車ブレーキ装置。
【請求項2】
前記ケースには、前記線状部材を支持する支持部が設けられており、
前記挿通孔の延在方向の両端の縁部は、半円状をなしており、
前記線状部材における前記支持部に支持される部分の任意点を基準点とし、前記挿通孔における前記レバーの先端側の半円の中心点を第1中心点とし、前記挿通孔における前記レバーの基端側の半円の中心点を第2中心点としたときに、
前記操作部の非操作状態では、前記基準点から前記第2中心点までの距離が前記基準点から前記第1中心点までの距離よりも短く、
前記操作部の操作状態では、前記基準点から前記第1中心点までの距離が前記基準点から前記第2中心点までの距離よりも短い請求項1記載の湿式駐車ブレーキ装置。
【請求項3】
前記挿通孔の形状は、長円形状であり、
前記第2中心点は、前記レバーの回動中心点と前記第1中心点とを結ぶ仮想直線上に位置している請求項2記載の湿式駐車ブレーキ装置。
【請求項4】
前記挿通孔の形状は、前記線状部材側に凹状となるような長孔円弧形状であり、
前記操作部の非操作状態では、前記第2中心点は、前記レバーの回動中心点と前記第1中心点とを結ぶ仮想直線よりも前記線状部材側に位置し、
前記操作部の操作状態では、前記第2中心点は、前記基準点を中心とし且つ前記第1中心点を通るような仮想円よりも前記線状部材の反対側に位置している請求項2記載の湿式駐車ブレーキ装置。
【請求項5】
前記操作部の操作状態では、前記基準点と前記第1中心点とを結ぶ第1仮想直線と前記レバーの回動中心点と前記第1中心点とを結ぶ第2仮想直線とが直交している請求項2~4の何れか一項記載の湿式駐車ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式駐車ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の湿式駐車ブレーキ装置としては、例えば特許文献1に記載されている技術が知られている。特許文献1に記載の湿式駐車ブレーキ装置では、パーキングレバーが操作されると、アーム部材がワイヤケーブルにより引っ張られて、ピニオン軸部材を支点として回動し、ピニオン軸部材の回転によりラック部材がピストンプレートを押圧する。これにより、ブレーキディスクとステータとが互いに圧接し、回転軸に対する制動力が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-138384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、必要な駐車制動能力を満たすと共にパーキングレバー(操作部)の操作力が小さくなるような湿式駐車ブレーキ装置の構造を考えると、ワイヤケーブルの引張力を小さくすると共にピストンプレートに対する押付力を大きくするような設計が望ましい。このためには、アーム部材の長手方向の寸法は、できるだけ大きいほうがよい。しかし、アーム部材の必要な回動角度が一定値として決まっている場合には、アーム部材の長手方向の寸法を大きくするほど、パーキングレバーの操作時に必要とされるワイヤケーブルのストローク量が大きくなる。一方で、ワイヤケーブルの最大ストローク量は、パーキングレバーの設計内容によって決まっている。従って、パーキングレバーの操作力を小さくするような設計を目指した場合には、ワイヤケーブルのストローク量が設計の限界を決めることになる。この場合には、アーム部材の長手方向の寸法を必要以上に大きくすることができない。その結果、ピストンプレートに対する必要な押付力が得られず、駐車制動能力の確保が困難になることがある。
【0005】
本発明の目的は、操作部の操作力を小さくしつつ、駐車制動能力を確保することができる湿式駐車ブレーキ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、ケース内に配置された回転軸と、回転軸を制動する湿式ブレーキと、湿式ブレーキを回転軸の軸方向に押し付ける押付ユニットとを具備した湿式駐車ブレーキ装置において、押付ユニットは、回転軸が挿通するロッド本体部の下部に配置された軸部を有し、湿式ブレーキを押し付ける押付ロッド部材と、軸部に連結され、軸部の径方向に延在するレバーと、レバーを湿式ブレーキに対する押付方向に対応する側の反対側に付勢する付勢部材と、レバーを付勢部材の付勢力に抗して引っ張るための操作部とレバーとを接続する線状部材と、線状部材をレバーの先端部に保持する保持具とを備え、保持具は、線状部材の一端と連結され、レバーの先端部を挟むホルダ本体と、ホルダ本体をレバーに係止するピンとを有し、レバーの先端部には、レバーの長手方向に沿って延在し、ピンが挿通する長孔状の挿通孔が設けられている。
【0007】
このような湿式駐車ブレーキ装置においては、操作部が操作されると、線状部材によりレバーが付勢部材の付勢力に抗して引っ張られ、レバーが押付ロッド部材の軸部を支点として回動する。すると、押付ロッド部材が回転することで、押付ロッド部材のロッド本体部が湿式ブレーキを押し付け、湿式ブレーキにより回転軸が制動される。ここで、レバーが回動するときに、保持具のピンが長孔状の挿通孔に沿ってレバーの長手方向に移動することで、線状部材のストローク量が短くなる。従って、その分だけレバーの長手方向の寸法を大きくすることで、湿式ブレーキに対する必要な押付力を得ることができる。これにより、操作部の操作力を小さくしつつ、駐車制動能力を確保することができる。
【0008】
ケースには、線状部材を支持する支持部が設けられており、挿通孔の延在方向の両端の縁部は、半円状をなしており、線状部材における支持部に支持される部分の任意点を基準点とし、挿通孔におけるレバーの先端側の半円の中心点を第1中心点とし、挿通孔におけるレバーの基端側の半円の中心点を第2中心点としたときに、操作部の非操作状態では、基準点から第2中心点までの距離が基準点から第1中心点までの距離よりも短く、操作部の操作状態では、基準点から第1中心点までの距離が基準点から第2中心点までの距離よりも短くてもよい。
【0009】
このような構成では、操作部が非操作状態(通常状態)にあるときは、保持具のピンが挿通孔におけるレバーの基端側の端部に位置している。操作部が操作されることで、レバーが押付ロッド部材の軸部を支点として回動すると、保持具のピンが挿通孔に沿って移動して、挿通孔におけるレバーの先端側の端部に達するようになる。従って、線状部材のストローク量が確実に短くなる。
【0010】
挿通孔の形状は、長円形状であり、第2中心点は、レバーの回動中心点と第1中心点とを結ぶ仮想直線上に位置していてもよい。このような構成では、長孔状の挿通孔の構造が単純になるため、挿通孔の加工及び形成を容易に行いつつ、線状部材のストローク量を短くすることができる。
【0011】
挿通孔の形状は、線状部材側に凹状となるような長孔円弧形状であり、操作部の非操作状態では、第2中心点は、レバーの回動中心点と第1中心点とを結ぶ仮想直線よりも線状部材側に位置し、操作部の操作状態では、第2中心点は、基準点を中心とし且つ第1中心点を通るような仮想円よりも線状部材の反対側に位置していてもよい。このような構成では、操作部が非操作状態にあるときは、第2中心点がレバーの回動中心点と第1中心点とを結ぶ仮想直線よりも線状部材側に位置するため、その分だけ線状部材のストローク量が更に短くなる。
【0012】
操作部の操作状態では、基準点と第1中心点とを結ぶ第1仮想直線とレバーの回動中心点と第1中心点とを結ぶ第2仮想直線とが直交していてもよい。このような構成では、線状部材によりレバーを付勢部材の付勢力に抗して引っ張る際のトルクの成分分解が抑えられるため、操作部の操作力を更に小さくすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、操作部の操作力を小さくしつつ、駐車制動能力を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態に係る湿式駐車ブレーキ装置を示す平面図である。
図2図1に示された湿式駐車ブレーキ装置の要部の斜視図である。
図3図2に示されたレバーにワイヤケーブルが保持具を介して保持された状態を示す斜視図である。
図4図2に示されたレバーの斜視図である。
図5図4に示されたレバーが回動する様子を示す平面図である。
図6図5におけるレバーの先端部を含む領域の拡大平面図である。
図7】比較例としての湿式駐車ブレーキ装置において、レバーが回動する様子を示す平面図である。
図8図7に示されたレバーの斜視図である。
図9】本発明の第2実施形態に係る湿式駐車ブレーキ装置におけるレバーを示す斜視図である。
図10図9に示されたレバーが回動する様子を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図中、同一または同等の要素には同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
図1は、本発明の第1実施形態に係る湿式駐車ブレーキ装置を示す平面図である。図2は、図1に示された湿式駐車ブレーキ装置の要部の斜視図である。図1及び図2において、本実施形態の湿式駐車ブレーキ装置1は、例えばフォークリフト等の産業車両に搭載されている。
【0017】
湿式駐車ブレーキ装置1は、ケース2内に配置された回転軸3と、この回転軸3を制動する湿式ブレーキ4と、この湿式ブレーキ4を回転軸3の軸方向に押し付ける押付ユニット5とを具備している。
【0018】
回転軸3は、駆動源(図示せず)からの回転力を駆動輪(図示せず)に伝達するアクスルシャフトである。回転軸3の外側端部には、車輪のホイール(図示せず)と連結された筒状部6が設けられている。
【0019】
湿式ブレーキ4は、回転軸3に固定された複数の円板状のブレーキディスク7と、ケース2に固定された複数の円板状のステータ8とを有している。ブレーキディスク7及びステータ8は、回転軸3の軸方向に交互に配置されている。従って、ステータ8は、隣り合う2つのブレーキディスク7の間に配置されている。
【0020】
ブレーキディスク7は、回転軸3の外周面にスプライン嵌合されている。ブレーキディスク7は、回転軸3の軸方向に移動可能である。ステータ8は、ケース2の内壁面にスプライン嵌合されている。ステータ8は、回転軸3の軸方向に移動可能である。
【0021】
最も車幅方向外側(車輪側)に位置するブレーキディスク7よりも外側には、ピストンプレート9が配置されている。ピストンプレート9には、回転軸3が挿通する挿通孔9aが設けられている。ピストンプレート9は、ケース2に回転軸3の軸方向に移動可能に取り付けられている。
【0022】
ピストンプレート9の車幅方向外側の面には、2つの被押圧部10が突設されている。これらの被押圧部10は、挿通孔9aを挟むようにピストンプレート9の上下方向に配置されている。被押圧部10の先端部には、平面視で円弧状の凹状曲面10aが設けられている。
【0023】
押付ユニット5は、押付ロッド部材11と、シャフト12と、レバー13と、コイルバネ14と、ストッパ15と、ワイヤケーブル16と、保持具17とを備えている。
【0024】
押付ロッド部材11は、湿式ブレーキ4よりも車幅方向外側に配置され、湿式ブレーキ4を押し付ける。押付ロッド部材11は、湿式ブレーキ4のピストンプレート9を押圧するロッド本体部18と、このロッド本体部18の上部に配置された上軸部19と、ロッド本体部18の下部に配置された下軸部20とを有している。
【0025】
ロッド本体部18には、回転軸3が挿通する挿通孔18aが設けられている。ロッド本体部18におけるピストンプレート9と対向する面には、2つの押圧部21が突設されている。これらの押圧部21は、挿通孔18aを挟むようにロッド本体部18の上下方向に配置されている。押圧部21の先端部には、被押圧部10の凹状曲面10aと係合する平面視で円弧状の凸状曲面21aが設けられている。
【0026】
上軸部19及び下軸部20は、ロッド本体部18と一体的に形成されている。上軸部19及び下軸部20は、同軸である。上軸部19は、ケース2に回転可能に支持されている。
【0027】
シャフト12は、押付ロッド部材11の下軸部20とレバー13とを連結する。シャフト12には、下軸部20が嵌合する収容凹部12aが設けられている。シャフト12は、ケース2に固定されたベース板22(ベース部材)を挿通している。
【0028】
レバー13は、シャフト12を介して押付ロッド部材11と連結されている。レバー13は、ベース板22の下側に配置されている。つまり、レバー13は、ベース板22に対して押付ロッド部材11の反対側に配置されている。レバー13は、押付ロッド部材11の上軸部19及び下軸部20の径方向に延在している。レバー13は、平面視で一端側から他端側に向けて先細りとなるような形状を有している。
【0029】
図3及び図4に示されるように、レバー13の基端部(一端部)には、シャフト12が嵌合する収容凹部13aが設けられている。レバー13の車幅方向外側の側部には、ストッパ15と係合する受け用突部23が設けられている。なお、図3及び図4では、レバー13が表裏逆向きで示されている。
【0030】
また、図4に示されるように、レバー13の先端部(他端部)には、長孔状の挿通孔24が設けられている。挿通孔24は、レバー13の長手方向(延在方向)に沿って延在している。挿通孔24の形状は、平面視で長円形状である。つまり、挿通孔24の延在方向の両端の縁部24aは、平面視で半円状をなしている。挿通孔24の各縁部24a間の縁部24bは、平面視で直線状をなしている。挿通孔24については、後で詳述する。
【0031】
コイルバネ14は、レバー13とベース板22に設けられた支持板25との間に配置されている。支持板25は、ベース板22の車幅方向外側の端部に接合されている。コイルバネ14の一端部は、レバー13に連結されている。コイルバネ14の他端部は、支持板25に連結されている。コイルバネ14は、レバー13を湿式ブレーキ4に対する押付方向に対応する側の反対側に付勢する付勢部材である。
【0032】
ストッパ15は、支持板25に支持されている。ストッパ15の先端部は、レバー13の受け用突部23に当接している。ストッパ15は、レバー13の通常状態(後述)の位置を設定する部材である。
【0033】
ワイヤケーブル16は、トグルレバー26とレバー13とを接続する線状部材である。トグルレバー26は、産業車両の運転席に配置されている。トグルレバー26は、運転者がレバー13をコイルバネ14の付勢力に抗して引っ張るための操作部である。
【0034】
ワイヤケーブル16は、ベース板22に設けられた支持板27(支持部)に支持されている。支持板27は、ベース板22の車幅方向内側の端部に接合されている。支持板27には、U字状の切欠部27aが設けられている。ワイヤケーブル16は、切欠部27aの奥部まで入り込んだ状態で、車幅方向の両側からボルト28で支持板27に締結されている。
【0035】
保持具17は、ワイヤケーブル16をレバー13の先端部に保持する。保持具17は、図3に示されるように、ワイヤケーブル16の一端と連結され、レバー13の先端部を挟むホルダ本体30と、このホルダ本体30をレバー13に係止するピン31とを有している。ワイヤケーブル16の他端は、トグルレバー26に連結されている。
【0036】
ここでは、保持具17は、ワイヤケーブル16の一端側のワイヤ16aを露出させた状態で、そのワイヤ16aをレバー13の先端部に保持する。ホルダ本体30は、U字状のクレビスである。ピン31の軸部は、レバー13の挿通孔24を挿通する。なお、ピン31の軸部の径は、挿通孔24の両端部の径と略等しい。ピン31の先端部には、抜け止め用の割ピン32が設けられている。
【0037】
以上のような湿式駐車ブレーキ装置1において、図2に示されるように、運転者がトグルレバー26を引くと、ワイヤケーブル16によりレバー13がコイルバネ14の付勢力に抗して引っ張られる。このため、図5に示されるように、レバー13が、シャフト12を介して押付ロッド部材11の上軸部19及び下軸部20を支点として回動する。すると、押付ロッド部材11の回転によって、押付ロッド部材11のロッド本体部18の押圧部21が湿式ブレーキ4のピストンプレート9の被押圧部10を押し付ける。これにより、湿式ブレーキ4のブレーキディスク7及びステータ8が互いに圧接され、回転軸3に対して制動力が発生する。
【0038】
ここで、レバー13の先端部に設けられた挿通孔24は、上述したように長円形状を呈している。図5に示されるように、ワイヤケーブル16における支持板27に支持された部分の任意点を基準点Aとし、挿通孔24におけるレバー13の先端側の半円の中心点を中心点B,B´(第1中心点)とし、挿通孔24におけるレバー13の基端側の半円の中心点を中心点C,C´(第2中心点)としたときに、以下の関係が成り立つ。
【0039】
トグルレバー26の非操作状態では、基準点Aから中心点Cまでの距離LACは、基準点Aから中心点Bまでの距離LABよりも短い(図5中の実線参照)。つまり、LAC<LABである。このため、トグルレバー26の非操作状態では、保持具17のピン31は、挿通孔24におけるレバー13の基端側の端部に位置することになる。トグルレバー26の非操作状態は、トグルレバー26の引き操作が行われていない状態(通常状態)である。
【0040】
トグルレバー26の操作状態では、基準点Aから中心点B´までの距離LAB´は、基準点Aから中心点C´までの距離LAC´よりも短い(図5中の2点鎖線参照)。つまり、LAB´<LAC´である。このため、トグルレバー26の操作状態では、保持具17のピン31は、挿通孔24におけるレバー13の先端側の端部に位置することになる。トグルレバー26の操作状態は、トグルレバー26の引き操作が行われている状態である。
【0041】
ここでは、基準点Aは、ワイヤケーブル16において露出したワイヤ16aの根元部の中心点である。中心点C,C´は、レバー13の回動中心点Oと中心点B,B´とを結ぶ仮想直線P,P´上に位置している。具体的には、中心点Cは、図6に示されるように、レバー13の回動中心点Oと中心点Bとを結ぶ仮想直線Pと、基準点Aを中心とした仮想円Qとの2つの交点X間に位置している。このとき、中心点Cは、基準点Aを中心とした仮想円Qよりも内側(基準点A側)に位置することになる。
【0042】
また、トグルレバー26の操作状態では、基準点Aと中心点Bとを結ぶ仮想直線T(第1仮想直線)と、レバー13の回動中心点Oと中心点Bとを結ぶ仮想直線P(第2仮想直線)とは直交している。
【0043】
このような構成により、トグルレバー26の引き操作が行われることで、レバー13が押付ロッド部材11の上軸部19及び下軸部20を支点として回動するときには、保持具17のピン31は、挿通孔24におけるレバー13の基端側の端部からレバー13の先端側に移動して、最終的に挿通孔24におけるレバー13の先端側の端部に至るようになる。
【0044】
図7は、比較例としての湿式駐車ブレーキ装置において、レバーが回動される様子を示す平面図である。図7において、本比較例の湿式駐車ブレーキ装置50は、本実施形態と同様に、レバー13を備えている。ただし、レバー13の先端部には、図8に示されるように、平面視で円形状の挿通孔51が設けられている。挿通孔51の径は、ピン31の軸部の径と略等しい。
【0045】
ところで、必要な駐車制動能力を満たすと共に、トグルレバー26の操作力を小さくするためには、ワイヤケーブル16の引張力を小さくすると共に、押付ロッド部材11による湿式ブレーキ4に対する押付力を大きくする必要がある。このためには、レバー13の長手方向の寸法Rを大きくするのが望ましい。ここでのレバー13の長手方向の寸法Rは、レバー13の回動中心点Oから挿通孔51の中心点D,D´までの距離である。しかし、レバー13の必要な回動角度θが固定値として決まっている状況では、レバー13の長手方向の寸法Rを大きくするほど、トグルレバー26の操作時におけるワイヤケーブル16のストローク量Sが大きくなる。ワイヤケーブル16のストローク量Sは、基準点Aから挿通孔51の中心点Dまでの距離LADと、基準点Aから挿通孔51の中心点D´までの距離LAD´との差分(=LAD-LAD´)である。一方で、ワイヤケーブル16の最大ストローク量は、トグルレバー26の設計内容によって決まっている。
【0046】
従って、トグルレバー26の操作力を小さくするような設計を目指した場合には、ワイヤケーブル16のストローク量が設計の限界を決めることになる。この場合には、レバー13の長手方向の寸法Rを必要以上に大きくすることができない。その結果、湿式ブレーキ4に対する必要な押付力が得られず、駐車制動能力の確保が困難になることがある。
【0047】
そのような課題に対し、本実施形態においては、トグルレバー26が操作されると、ワイヤケーブル16によりレバー13がコイルバネ14の付勢力に抗して引っ張られ、レバー13が押付ロッド部材11の上軸部19及び下軸部20を支点として回動する。すると、押付ロッド部材11が回転することで、押付ロッド部材11のロッド本体部18が湿式ブレーキ4を押し付け、湿式ブレーキ4により回転軸3が制動される。ここで、レバー13が回動するときに、保持具17のピン31が長孔状の挿通孔24に沿ってレバー13の長手方向に移動することで、比較例に比べてワイヤケーブル16のストローク量Sが短くなる。従って、その分だけレバー13の長手方向の寸法Rを大きくすることで、湿式ブレーキ4に対する必要な押付力を得ることができる。これにより、トグルレバー26の操作力を小さくしつつ、駐車制動能力を確保することができる。
【0048】
また、本実施形態においては、ワイヤケーブル16における支持板27に支持された部分の任意点を基準点Aとし、挿通孔24におけるレバー13の先端側の半円の中心点を中心点B,B´とし、挿通孔24におけるレバー13の基端側の半円の中心点を中心点C,C´としたときに、トグルレバー26の非操作状態では、基準点Aから中心点Cまでの距離LACが基準点Aから中心点Bまでの距離LABよりも短く、トグルレバー26の操作状態では、基準点Aから中心点B´までの距離LAB´が基準点Aから中心点C´までの距離LAC´よりも短い。このため、トグルレバー26が非操作状態(通常状態)にあるときは、保持具17のピン31が挿通孔24におけるレバー13の基端側の端部に位置している。トグルレバー26が操作されることで、レバー13が押付ロッド部材11の上軸部19及び下軸部20を支点として回動すると、保持具17のピン31が挿通孔24に沿って移動して、挿通孔24におけるレバー13の先端側の端部に達するようになる。従って、ワイヤケーブル16のストローク量Sが確実に短くなる。
【0049】
また、本実施形態においては、挿通孔24の形状が長円形状であり、中心点Cがレバー13の回動中心点Oと中心点Bとを結ぶ仮想直線P上に位置している。このため、長孔状の挿通孔24の構造が単純になるため、挿通孔24の加工及び形成を容易に行いつつ、ワイヤケーブル16のストローク量Sを短くすることができる。
【0050】
また、本実施形態においては、トグルレバー26の操作状態では、基準点Aと中心点Bとを結ぶ仮想直線Tと、レバー13の回動中心点Oと中心点Bとを結ぶ仮想直線Pとは直交している。このため、ワイヤケーブル16によりレバー13をコイルバネ14の付勢力に抗して引っ張る際のトルクの成分分解が抑えられるため、トグルレバー26の操作力を更に小さくすることができる。
【0051】
さらに、本実施形態においては、トグルレバー26の操作力を従来品と同じように設計した場合には、ワイヤケーブル16のストローク量Sを短くすることができる。一方、ワイヤケーブル16のストローク量Sを従来品と同じように設計した場合には、トグルレバー26の操作力を小さくすることができる。これにより、ワイヤケーブル16のストローク量Sとトグルレバー26の操作力とを両立させる設計の自由度を向上させることができる。
【0052】
図9は、本発明の第2実施形態に係る湿式駐車ブレーキ装置におけるレバーを示す斜視図である。図9において、本実施形態の湿式駐車ブレーキ装置1のレバー13には、上記の第1実施形態における挿通孔24に代えて、挿通孔34が設けられている。
【0053】
挿通孔34は、レバー13の長手方向(延在方向)に沿って延在している。挿通孔34の形状は、図10に示されるように、平面視でワイヤケーブル16側に凹状となるような長孔円弧形状である。つまり、挿通孔34の長手方向の両端の縁部34aは、平面視で半円状をなしている。挿通孔34の各縁部34a間の縁部34bは、平面視で円弧状(曲線状)をなしている。
【0054】
図10に示されるように、トグルレバー26の非操作状態では、基準点Aから中心点Cまでの距離LACは、基準点Aから中心点Bまでの距離LABよりも短い(図10中の実線参照)。このとき、中心点Cは、レバー13の回動中心点Oと中心点Bとを結ぶ仮想直線Pよりもワイヤケーブル16側に位置している。
【0055】
一方、トグルレバー26の操作状態では、基準点Aから中心点B´までの距離LAB´は、基準点Aから中心点C´までの距離LAC´よりも短い(図10中の2点鎖線参照)。このとき、中心点C´は、基準点Aを中心とし且つ中心点B´を通るような仮想円Q´よりも外側(ワイヤケーブル16の反対側)に位置している。
【0056】
このような本実施形態においては、トグルレバー26が非操作状態(通常状態)にあるときは、中心点Cがレバー13の回動中心点Oと中心点Bとを結ぶ仮想直線Pよりもワイヤケーブル16側に位置するため、その分だけワイヤケーブル16のストローク量Sが更に短くなる。
【0057】
なお、本発明は、上記実施形態には限定されない。例えば上記実施形態では、トグルレバー26の操作状態において、基準点Aと中心点B´とを結ぶ仮想直線Pと、レバー13の回動中心点Oと中心点B´とを結ぶ仮想直線Tとは直交しているが、特にその形態には限られず、仮想直線Pと仮想直線Tとが直交していなくてもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、押付ロッド部材11の下軸部20がシャフト12を介してレバー13と連結されているが、特にその形態には限られず、押付ロッド部材11の下軸部20がレバー13と直接連結されていてもよい。
【0059】
また、上記実施形態では、押付ロッド部材11の上軸部19がケース2に回転可能に支持されているが、そのような上軸部19は、特に無くてもよい。
【0060】
また、上記実施形態では、トグルレバー26とレバー13とがワイヤケーブル16により接続されているが、トグルレバー26とレバー13とを接続する線状部材としては、特にワイヤケーブル16には限られず、例えば紐等であってもよい。
【0061】
また、上記実施形態の湿式駐車ブレーキ装置1は、産業車両に搭載されているが、本発明は、産業車両以外の車両にも適用可能である。
【符号の説明】
【0062】
1…湿式駐車ブレーキ装置、2…ケース、3…回転軸、4…湿式ブレーキ、5…押付ユニット、11…押付ロッド部材、13…レバー、14…コイルバネ(付勢部材)、16…ワイヤケーブル(線状部材)、17…保持具、18…ロッド本体部、20…下軸部(軸部)、22…ベース板(ベース部材)、24…挿通孔、24a…縁部、26…トグルレバー(操作部)、27…支持板(支持部)、30…ホルダ本体、31…ピン、34…挿通孔、34a…縁部、A…基準点、B,B´…中心点(第1中心点)、C,C´…中心点(第2中心点)、P,P´…仮想直線(第2仮想直線)、Q,Q´…仮想円、T…仮想直線(第1仮想直線)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10