(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022080834
(43)【公開日】2022-05-30
(54)【発明の名称】めっき用樹脂組成物およびめっき成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 51/04 20060101AFI20220523BHJP
C08L 55/02 20060101ALI20220523BHJP
C08L 53/00 20060101ALI20220523BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20220523BHJP
C08L 25/12 20060101ALI20220523BHJP
【FI】
C08L51/04
C08L55/02
C08L53/00
C08L69/00
C08L25/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021136288
(22)【出願日】2021-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2020191946
(32)【優先日】2020-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】399034220
【氏名又は名称】日本エイアンドエル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】浅野 宏徳
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BC061
4J002BC06X
4J002BL02Z
4J002BN15X
4J002BN15Y
4J002CG011
4J002FD20X
4J002FD20Y
4J002FD20Z
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】ゴム質重合体を含むグラフト共重合体を用い、流動性および成形品のめっきに対する密着強度に優れるめっき用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ゴム質重合体と芳香族ビニル系単量体を含む単量体成分とがグラフト重合したグラフト共重合体(A)およびアクリル系ブロック共重合体(B)を含有し、さらに、その他の熱可塑性樹脂(C)を含んでいてもよく、グラフト共重合体(A)、アクリル系ブロック共重合体(B)、およびその他の熱可塑性樹脂(C)の合計100質量%に対し、グラフト共重合体(A)およびその他の熱可塑性樹脂(C)の合計の含有割合が51~99.5質量%、アクリル系ブロック共重合体(B)の含有割合が0.5~49質量%である、めっき用樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム質重合体と芳香族ビニル系単量体を含む単量体成分とがグラフト重合したグラフト共重合体(A)およびアクリル系ブロック共重合体(B)を含有し、さらに、その他の熱可塑性樹脂(C)を含んでいてもよく、
グラフト共重合体(A)、アクリル系ブロック共重合体(B)、およびその他の熱可塑性樹脂(C)の合計100質量%に対し、グラフト共重合体(A)およびその他の熱可塑性樹脂(C)の合計の含有割合が51~99.5質量%、アクリル系ブロック共重合体(B)の含有割合が0.5~49質量%である、めっき用樹脂組成物。
【請求項2】
前記ゴム質重合体が共役ジエン系ゴムを含む請求項1に記載のめっき用樹脂組成物。
【請求項3】
前記単量体成分がさらにシアン化ビニル系単量体を含む請求項1または2に記載のめっき用樹脂組成物。
【請求項4】
前記ゴム質重合体の含有割合は、グラフト共重合体(A)、アクリル系ブロック共重合体(B)、およびその他の熱可塑性樹脂(C)の合計100質量%に対し、7~20質量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載のめっき用樹脂組成物。
【請求項5】
アクリル系ブロック共重合体(B)のショア硬度(タイプA)が10~99である請求項1~4のいずれか1項に記載のめっき用樹脂組成物。
【請求項6】
アクリル系ブロック共重合体(B)の230℃におけるメルトフローレートが30g/10min以上である請求項1~5のいずれか1項に記載のめっき用樹脂組成物。
【請求項7】
アクリル系ブロック共重合体(B)はアクリル酸エステル重合体ブロックとメタクリル酸エステル重合体ブロックとのブロック共重合体である請求項1~6のいずれか1項に記載のめっき用樹脂組成物。
【請求項8】
その他の熱可塑性樹脂(C)として、芳香族ビニル-シアン化ビニル共重合体および/またはポリカーボネート樹脂を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のめっき用樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のめっき用樹脂組成物の成形品にめっきが施されているめっき成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき用樹脂組成物およびめっき成形品に関する。より具体的には、本発明は、めっき用樹脂組成物および上記めっき用樹脂組成物の成形品にめっきが施されためっき成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ABS樹脂を代表とするスチレン系樹脂は、優れた成形加工性と機械的特性バランスを有し、塗装性や電気絶縁性に優れていることから、車両内外装部品や建材、家庭電化製品、電気・電子機器、事務機器部品、OA機器などの広範な分野で用いられている。
【0003】
ABS樹脂を用いた成形品は、外観に意匠性を有することが求められることがある。例えば、軽量化の目的で金属の代替材料としてABS樹脂が使用される場合、ABS樹脂に金属調を有する装飾用のめっきを施して使用される例が多い。ABS樹脂を用いためっき用の樹脂組成物としては、例えば特許文献1および2に開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-292921号公報
【特許文献2】国際公開第2018/008669号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、ABS樹脂等、ゴム質重合体と芳香族ビニル系単量体を含む単量体成分とがグラフト重合したグラフト共重合体を用いためっき用の樹脂組成物には、成形品のめっきに対する密着強度がさらに優れることが求められる。上記密着強度を向上させるためには、ゴム質重合体の配合割合を高くすることが考えられる。しかしながら、この手法では、樹脂組成物の流動性が低下し、樹脂組成物の成形性が劣るという問題がある。
【0006】
特許文献1の熱可塑性樹脂組成物によれば、ABS樹脂のめっき性を損なうことなく、その溶融流動性が改良されると記載されている。しかし、特許文献1において溶融流動性を向上させるための成分である特定の共重合体を配合すると、成形品のめっきに対する密着強度が低下する。このため、上記グラフト共重合体を用いた樹脂組成物であって、樹脂組成物の流動性を低下させずに成形品のめっきに対する密着強度に優れるめっき用の樹脂組成物が求められている。
【0007】
従って、本発明の目的は、ゴム質重合体を含むグラフト共重合体を用い、流動性および成形品のめっきに対する密着強度に優れるめっき用樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、ゴム質重合体を含むグラフト共重合体に、アクリル系ブロック共重合体を特定の割合で配合することにより、流動性および成形品のめっきに対する密着強度に優れるめっき用樹脂組成物が得られることを見出した。本開示はこれらの知見に基づいて完成させたものに関する。
【0009】
すなわち、本発明は、ゴム質重合体と芳香族ビニル系単量体を含む単量体成分とがグラフト重合したグラフト共重合体(A)およびアクリル系ブロック共重合体(B)を含有し、さらに、その他の熱可塑性樹脂(C)を含んでいてもよく、
グラフト共重合体(A)、アクリル系ブロック共重合体(B)、およびその他の熱可塑性樹脂(C)の合計100質量%に対し、グラフト共重合体(A)およびその他の熱可塑性樹脂(C)の合計の含有割合が51~99.5質量%、アクリル系ブロック共重合体(B)の含有割合が0.5~49質量%である、めっき用樹脂組成物を提供する。
【0010】
上記ゴム質重合体は共役ジエン系ゴムを含むことが好ましい。
【0011】
上記単量体成分はさらにシアン化ビニル系単量体を含むことが好ましい。
【0012】
上記ゴム質重合体の含有割合は、グラフト共重合体(A)、アクリル系ブロック共重合体(B)、およびその他の熱可塑性樹脂(C)の合計100質量%に対し、7~20質量%であることが好ましい。
【0013】
アクリル系ブロック共重合体(B)のショア硬度(タイプA)は10~99であることが好ましい。
【0014】
アクリル系ブロック共重合体(B)の230℃におけるメルトフローレートは30g/10min以上であることが好ましい。
【0015】
アクリル系ブロック共重合体(B)はアクリル酸エステル重合体ブロックとメタクリル酸エステル重合体ブロックとのブロック共重合体であることが好ましい。
【0016】
上記めっき用樹脂組成物は、その他の熱可塑性樹脂(C)として、芳香族ビニル-シアン化ビニル共重合体および/またはポリカーボネート樹脂を含むことが好ましい。
【0017】
また、本発明は、上記めっき用樹脂組成物の成形品にめっきが施されているめっき成形品を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明のめっき用樹脂組成物は、ゴム質重合体を含むグラフト共重合体を用いており、流動性に優れ、成形品のめっきに対する密着強度に優れる。また、上記めっき用樹脂組成物を用いて、耐衝撃性にも優れる成形品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のめっき用樹脂組成物は、ゴム質重合体と芳香族ビニル系単量体を含む単量体成分とがグラフト重合したグラフト共重合体(A)およびアクリル系ブロック共重合体(B)を少なくとも含有する。本発明のめっき用樹脂組成物は、グラフト共重合体(A)およびアクリル系ブロック共重合体(B)以外のその他の熱可塑性樹脂(C)を含んでいてもよい。
【0020】
本発明のめっき用樹脂組成物は、その成形品表面に金属調の表面処理(めっき)が施される用途で使用される樹脂組成物である。
【0021】
(グラフト重合体(A))
グラフト共重合体(A)は、ゴム質重合体と、芳香族ビニル系単量体を含む単量体成分とがグラフト重合して得られるものである。グラフト重合体(A)は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0022】
上記ゴム質重合体としては、特に限定されず、公知乃至慣用の重合方法により得られるものが挙げられる。上記ゴム質重合体としては、例えば、ポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)等の共役ジエン系ゴム;エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-非共役ジエン(エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン等)ゴム等のエチレン-プロピレン系ゴム;ポリブチルアクリレートゴム等のアクリル系ゴム;シリコーン系ゴムなどが挙げられる。上記ゴム質重合体は、一種のみを使用してもよく、二種以上を使用してもよい。
【0023】
上記アクリル系ゴムとしては、コアシェル構造を有するゴムも挙げられる。上記コアシェル構造を有するゴム(コア/シェルで記載)としては、例えば、共役ジエン系ゴム/アクリル系ゴム、シリコーン系ゴム/アクリル系ゴム、硬質重合体(ガラス転移温度が20℃以上の重合体)/アクリル系ゴムなどが挙げられる。上記硬質重合体としては、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、および(メタ)アクリル酸エステル系単量体からなる群より選択される1種以上を含有する単量体に由来する構成単位を含む重合体が挙げられる。上記硬質重合体のガラス転移温度は、FOXの式より算出することができる。
【0024】
上記ゴム質重合体としては、中でも、ポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、エチレン-プロピレン-非共役ジエンゴム、アクリル系ゴムが好ましい。上記アクリル系ゴムとしては、コアシェル構造を有するゴムが好ましく、より好ましくは、共役ジエン系ゴム/アクリル系ゴム、シリコーン系ゴム/アクリル系ゴム、硬質重合体/アクリル系ゴム(コア/シェルで記載)である。
【0025】
上記ゴム質重合体の質量平均粒子径に特に制限はないが、成形品の耐衝撃性に優れる観点から、0.1~2.0μmが好ましく、成形品のめっきに対する密着強度がより優れる観点から、より好ましくは0.2~1.0μmである。また、上記質量平均粒子径は、質量平均粒子径が0.05~0.3μmのゴム質重合体を凝集肥大化させることで調整することもできる。
【0026】
グラフト共重合体(A)は、上記ゴム質重合体に、芳香族ビニル系単量体を含む単量体成分をグラフト重合して得られるものである。
【0027】
グラフト共重合体(A)中の上記ゴム質重合体の含有割合は、流動性や成形品の耐衝撃性などの物性バランスがより優れる観点から、グラフト共重合体(A)の総量100質量%に対して、20~80質量%が好ましく、より好ましくは40~70質量%である。
【0028】
グラフト共重合体(A)を構成する芳香族ビニル系単量体としては、スチレン構造を有する単量体(スチレン系単量体)が挙げられる。上記スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-エチルスチレン、p-イソブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、ブロモスチレン、クロロメチルスチレンなどが挙げられる。中でも、スチレン、α-メチルスチレンが好ましい。上記芳香族ビニル系単量体は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0029】
上記単量体成分は、芳香族ビニル系単量体以外に、芳香族ビニル系単量体と共重合可能なその他の単量体を含んでいてもよい。上記その他の単量体としては、例えば、シアン化ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、アミド系単量体、不飽和カルボン酸系単量体などが挙げられる。上記その他の単量体は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0030】
上記シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フマロニトリルなどのニトリル基含有単量体が挙げられる。上記(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸4-t-ブチルフェニル、(メタ)アクリル酸ジブロモフェニル、(メタ)アクリル酸クロロフェニルなどの、置換基を有していてもよいアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。上記アミド系単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミドなどのアミド基含有単量体が挙げられる。上記不飽和カルボン酸系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのカルボキシ基含有単量体が挙げられる。
【0031】
上記単量体成分中の芳香族ビニル系単量体の含有割合は、上記単量体成分の総量100質量%に対して、30~95質量%が好ましく、より好ましくは50~90質量%、さらに好ましくは60~80質量%である。上記その他の単量体の含有割合は、上記単量体成分の総量100質量%に対して、5~70質量%が好ましく、より好ましくは10~50質量%、さらに好ましくは20~40質量%である。
【0032】
グラフト共重合体(A)のグラフト率は、特に限定されないが、流動性や成形品の耐衝撃性などの物性バランスがより優れる観点から、20~150質量%が好ましく、より好ましくは30~100質量%、さらに好ましくは36~75質量%である。また、グラフト共重合体(A)のアセトン可溶分の還元粘度は、特に限定されないが、0.1~1.5dl/gが好ましく、より好ましくは0.2~0.6dl/gである。
【0033】
上記グラフト率および上記アセトン可溶分の還元粘度は、下記により求めることができる。
【0034】
<分別方法>
三角フラスコにグラフト共重合体(A)を約2g、アセトンを60ml投入し、24時間浸漬させる。その後、遠心分離器を用いて15000rpmで30分間、遠心分離することで可溶部と不溶部に分離する。不溶分は、真空乾燥により常温で一昼夜乾燥させることで得られる。可溶分は、アセトン可溶部をメタノールに沈殿させ、真空乾燥により常温で一昼夜乾燥させることで得られる。
<グラフト率>
グラフト率(質量%)=(X―Y)/Y×100
X:真空乾燥後のアセトン不溶分量(g)
Y:グラフト共重合体中のゴム質重合体量(g)
<アセトン可溶分の還元粘度(dl/g)>
アセトン可溶分をN,N-ジメチルホルムアミドに溶解し、0.4g/100mlの濃度の溶液とした後、キャノンフェンスケ型粘度管を用い30℃で測定した流下時間より還元粘度を求める。
【0035】
グラフト共重合体(A)を作製する際、通常、ゴム質重合体に芳香族ビニル系単量体を含む単量体成分がグラフトしたグラフト化重合体(a1成分)が主として含有される他、ゴム質重合体にグラフトしていない芳香族ビニル系単量体を含む単量体成分が共重合された共重合体(a2成分)が生成し得る。なお、共重合体(a2)成分は、その他の熱可塑性樹脂(C)に該当する。
【0036】
(アクリル系ブロック共重合体(B))
アクリル系ブロック共重合体(B)は、ソフトセグメントである重合体ブロックとハードセグメントである重合体ブロックとを有するブロック共重合体である。アクリル系ブロック共重合体(B)は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0037】
アクリル系ブロック共重合体(B)は、ソフトセグメントおよびハードセグメントのうちの少なくとも一方の重合体ブロックを構成する単量体成分としてアクリル系モノマー(アクリロイル基またはメタクリロイル基を有するモノマー)を含む。
【0038】
上記ソフトセグメントを構成するアクリル系モノマーとしては、アクリル酸エステルが好ましい。すなわち、上記ソフトセグメントである重合体ブロックはアクリル酸エステル重合体ブロック(b1)であることが好ましい。上記アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec-ブチル、アクリル酸tert-ブチル、アクリル酸n-ペンチル、アクリル酸イソペンチル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸2-メトキシエチルなどの、アルコキシ基を有していてもよい炭化水素基を有するアクリル酸エステル(特に、アルコキシ基を有していてもよいアクリル酸アルキルエステル)が挙げられる。上記アクリル酸エステルにおける炭化水素基は、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、これらの2以上が結合した基のいずれであってもよい。上記アクリル系モノマーは、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0039】
アクリル酸エステル重合体ブロック(b1)を構成するアクリル系モノマーとしては、中でも、流動性および成形品の耐衝撃性がより優れる観点から、炭化水素基の炭素数が1~22(好ましくは1~10、より好ましくは1~4)の炭化水素基を有するアクリル酸エステルが好ましい。また、同様の観点から、上記アクリル酸エステルにおける炭化水素基は脂肪族炭化水素であることが好ましい。したがって、上記アクリル酸エステルとしては、特に、アクリル酸アルキルエステルが好ましく、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシルがより好ましい。
【0040】
アクリル酸エステル重合体ブロック(b1)を構成するアクリル系モノマーとしては、上記アルコキシ基を有していてもよい炭化水素基を有するアクリル酸エステル以外のその他のアクリル系モノマーを含んでいてもよい。上記その他のアクリル系モノマーとしては、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸アリルなどの架橋性官能基を有するアクリル酸エステル;ハードセグメントを構成するメタクリル酸エステル;メタクリル酸、アクリル酸等のカルボキシ基含有モノマーなどが挙げられる。また、上記ソフトセグメントを構成する単量体成分として、さらに、芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体;オレフィンなどの他の単量体を含んでいてもよい。なお、アクリル酸エステル重合体ブロック(b1)中の上記アルコキシ基を有していてもよい炭化水素基を有するアクリル酸エステルの割合は、アクリル酸エステル重合体ブロック(b1)を構成する単量体成分の総量100質量%に対して、90質量%以上が好ましく、より好ましくは95質量%以上である。
【0041】
アクリル酸エステル重合体ブロック(b1)のガラス転移温度は、特に限定されないが、-100~20℃が好ましく、より好ましくは-80~0℃、さらに好ましくは-60~-40℃である。
【0042】
上記ハードセグメントを構成するアクリル系モノマーとしては、メタクリル酸エステルが好ましい。すなわち、上記ハードセグメントである重合体ブロックはメタクリル酸エステル重合体ブロック(b2)であることが好ましい。上記メタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec-ブチル、メタクリル酸tert-ブチル、メタクリル酸n-ペンチル、メタクリル酸イソペンチル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ペンタデシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸2-メトキシエチルなどの、アルコキシ基を有していてもよい炭化水素基を有するメタクリル酸エステル(特に、アルコキシ基を有していてもよいメタクリル酸アルキルエステル)が挙げられる。上記メタクリル酸エステルにおける炭化水素基は、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、これらの2以上が結合した基のいずれであってもよい。上記アクリル系モノマーは、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0043】
メタクリル酸エステル重合体ブロック(b2)を構成するアクリル系モノマーとしては、中でも、成形品の耐衝撃性および耐熱性がより優れる観点から、炭化水素基の炭素数が1~22(好ましくは1~10、より好ましくは1~4)の炭化水素基を有するメタクリル酸エステルが好ましい。また、同様の観点から、上記メタクリル酸エステルにおける炭化水素基は脂肪族炭化水素であることが好ましい。したがって、上記メタクリル酸エステルとしては、特に、メタクリル酸アルキルエステルが好ましく、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸tert-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニルがより好ましく、特に、メタクリル酸メチルが好ましい。
【0044】
メタクリル酸エステル重合体ブロック(b2)を構成するアクリル系モノマーとしては、上記アルコキシ基を有していてもよい炭化水素基を有するメタクリル酸エステル以外のその他のアクリル系モノマーを含んでいてもよい。上記その他のアクリル系モノマーとしては、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸アリルなどの架橋性官能基を有するメタクリル酸エステル;ソフトセグメントを構成するアクリル酸エステル;メタクリル酸、アクリル酸等のカルボキシ基含有モノマーなどが挙げられる。また、メタクリル酸エステル重合体ブロック(b2)を構成する単量体成分として、さらに、芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体;オレフィンなどの他の単量体を含んでいてもよい。なお、メタクリル酸エステル重合体ブロック(b2)中の上記アルコキシ基を有していてもよい炭化水素基を有するメタクリル酸エステルの割合は、メタクリル酸エステル重合体ブロック(b2)を構成する単量体成分の総量100質量%に対して、90質量%以上が好ましく、より好ましくは95質量%以上である。
【0045】
メタクリル酸エステル重合体ブロック(b2)のガラス転移温度は、特に限定されないが、30~180℃が好ましく、より好ましくは60~160℃、さらに好ましくは100~120℃である。
【0046】
アクリル系ブロック共重合体(B)は、アクリル酸エステル重合体ブロック(b1)およびメタクリル酸エステル重合体ブロック(b2)以外のその他の重合体ブロック(b3)を有していてもよい。上記その他の重合体ブロックは、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステル以外の単量体成分から構成される。その他の重合体ブロックを構成する単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン、1-オクテン等のα-オレフィン;ブタジエン、イソプレン、ミルセン等の共役ジエン;スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体;酢酸ビニル、ビニルピリジン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ビニルケトン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、アクリルアミド、メタクリルアミド、ε-カプロラクトン、バレロラクトンなどが挙げられる。
【0047】
アクリル系ブロック共重合体(B)を構成する各重合体ブロックの結合の形態は、特に限定されないが、線状、分枝状、放射状などが挙げられる。上記結合の形態としては、例えば、{(b1)-(b2)}n構造、{(b1)-(b2)}n-(b1)構造、(b2)-{(b1)-(b2)}n構造、(b2)-{(b1)-(b2)}n-(b3)構造、(b3)-(b2)-{(b1)-(b2)}n-(b3)構造等の線状構造;{(b1)-(b2)}nZ構造(nはいずれも自然数、Zはカップリング剤残基を表す)などが挙げられる。めっき用樹脂組成物中でのグラフト共重合体(A)やその他の熱可塑性樹脂(C)の分散性により優れる観点から、線状構造が好ましく、アクリル酸エステル重合体ブロック(b1)の両端にメタクリル酸エステル重合体ブロック(b2)が結合したトリブロック共重合体を用いることがより好ましい。
【0048】
アクリル系ブロック共重合体(B)の重量平均分子量は、10000~200000が好ましく、より好ましくは15000~150000である。アクリル系ブロック共重合体(B)の重量平均分子量が10000以上であると、溶融粘度が適度であり、グラフト共重合体(A)やその他の熱可塑性樹脂(C)との溶融混練性が良好であり、成形品中の熱可塑性樹脂の分散性がより良好となる。上記重量平均分子量が200000以下であると、溶融高粘度化を抑制し、溶融成形時のメルトフラクチャーを防止し、成形品の外観を良好なものとすることができる。なお、アクリル系ブロック共重合体(B)中のアクリル酸エステル重合体ブロック(b1)およびメタクリル酸重合体ブロック(b2)の重量平均分子量は、いずれも、2000~100000が好ましく、より好ましくは5000~80000である。
【0049】
アクリル系ブロック共重合体(B)中のアクリル酸エステル重合体ブロック(b1)の合計の含有割合は、アクリル系ブロック共重合体(B)の総量100質量%に対して、35~85質量%が好ましく、より好ましくは40~80質量%、さらに好ましくは45~75質量%である。上記含有割合が35質量%以上であると、流動性および成形品の柔軟性がより良好となる。上記含有割合が85質量%以下であると、めっき用樹脂組成物において膠着をより起こりにくくすることができる。同様の観点から、アクリル系ブロック共重合体(B)中のメタクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の合計の含有割合は、アクリル系ブロック共重合体(B)の総量100質量%に対して、15~65質量%が好ましく、より好ましくは20~60質量%、さらに好ましくは25~55質量%である。
【0050】
アクリル系ブロック共重合体(B)中のアクリル酸エステル重合体ブロック(b1)およびメタクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の合計の含有割合は、アクリル系ブロック共重合体(B)の総量100質量%に対して、60質量%以上が好ましく、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。
【0051】
アクリル系ブロック共重合体(B)の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、1.01以上1.50未満が好ましく、より好ましくは1.01~1.35、さらに好ましくは1.01~1.20である。分子量分布が上記範囲内であると、めっき用樹脂組成物を溶融成形する際の成形加工性がより安定となる。
【0052】
アクリル系ブロック共重合体(B)のショア硬度(タイプA)は、10~99が好ましく、より好ましくは20~98、さらに好ましくは40~97である。また、アクリル系ブロック共重合体(B)のショア硬度(タイプD)は、60以下(例えば、0超60以下)が好ましく、より好ましくは5~55、さらに好ましくは10~50である。上記ショア硬度が上記範囲内であると、めっき用樹脂組成物の流動性がより優れる。上記ショア硬度は、ISO 7619-1に基づいて測定される値である。
【0053】
アクリル系ブロック共重合体(B)の、190℃におけるメルトフローレート(MFR)は、1~50g/10minが好ましく、より好ましくは1.5~40g/10min、さらに好ましくは10~30g/10minである。また、アクリル系ブロック共重合体(B)の、230℃におけるMFRは、30g/10min以上(例えば、30~600g/10min)が好ましく、より好ましくは100g/10min以上(例えば、100~500g/10min)、さらに好ましくは200g/10min以上(例えば、200~400g/10min)である。上記MFRが上記範囲内であると、めっき用樹脂組成物の流動性がより優れ、成形品の加工性がより良好となる。上記MFRは、ISO 1133に基づいて、圧力2.16kgにて測定される値である。
【0054】
アクリル系ブロック共重合体(B)は、必要に応じて、分子鎖中または分子鎖末端に水酸基、カルボキシル基、酸無水物、アミノ基などの官能基を有していてもよい。
【0055】
(その他の熱可塑性樹脂(C))
その他の熱可塑性樹脂(C)としては、特に限定されず、公知乃至慣用の熱可塑性樹脂を用いることができる。その他の熱可塑性樹脂(C)としては、例えば、芳香族ビニル系樹脂;ポリメチルメタクリレート樹脂等のアクリル系樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリ乳酸樹脂等の生分解性樹脂;(変性)ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリオキシメチレン系樹脂、ポリスルフォン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリフェニレン系樹脂、熱可塑性ポリウレタン系樹脂等のエンジニアリングプラスチックスなどが挙げられる。その他の熱可塑性樹脂(C)は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0056】
その他の熱可塑性樹脂(C)は、成形品の耐衝撃性により優れる観点から、中でも、芳香族ビニル系樹脂、ポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0057】
上記芳香族ビニル系樹脂は、芳香族ビニル系単量体に由来する構成単位を含む。上記芳香族ビニル系単量体としてはスチレン系単量体が好ましい。すなわち、上記芳香族ビニル系樹脂としては、スチレン系樹脂であることが好ましい。上記スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-エチルスチレン、p-イソブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、ブロモスチレン、クロロメチルスチレンなどが挙げられる。中でも、スチレン、α-メチルスチレンが好ましい。上記芳香族ビニル系単量体は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0058】
上記芳香族ビニル系樹脂は、芳香族ビニル系単量体以外に、芳香族ビニル系単量体と共重合可能なその他の単量体に由来する構成単位を含んでいてもよい。上記その他の単量体としては、上述のグラフト共重合体(A)を構成し得るその他の単量体として例示および説明されたものが挙げられる。上記その他の単量体は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0059】
上記芳香族ビニル系樹脂を構成する単量体成分は、上記その他の単量体として、シアン化ビニル系単量体を含むことが好ましい。上記シアン化ビニル系単量体としては、上述のグラフト共重合体(A)を構成し得るシアン化ビニル系単量体として例示および説明されたものが挙げられる。すなわち、上記芳香族ビニル系樹脂は、芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体の共重合体(C1)(芳香族ビニル-シアン化ビニル共重合体)であることが好ましい。
【0060】
共重合体(C1)を構成する単量体成分は、芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体と共重合可能なその他の単量体が含まれていてもよい。上記その他の単量体としては、上述のグラフト共重合体(A)を構成し得るその他の単量体として例示および説明されたものが挙げられる。上記その他の単量体は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0061】
共重合体(C1)中の芳香族ビニル系単量体に由来する構成単位の含有割合は、共重合体(C1)の総量100質量%に対して、50~90質量%が好ましく、より好ましくは60~80質量%である。共重合体(C1)中のシアン化ビニル系単量体に由来する構成単位の含有割合は、共重合体(C1)の総量100質量%に対して、10~50質量%が好ましく、より好ましくは20~40質量%である。
【0062】
上記芳香族ビニル系樹脂の具体例としては、スチレン重合体(PS樹脂)、スチレン・アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、α-メチルスチレン・アクリロニトリル共重合体(αMS-ACN樹脂)、メタクリル酸メチル・スチレン共重合体(MS樹脂)、メタクリル酸メチル・アクリロニトリル・スチレン共重合体(MAS樹脂)、スチレン・N-フェニルマレイミド共重合体(S-NPMI樹脂)、スチレン・N-フェニルマレイミド・アクリロニトリル共重合体(S-A-NPMI樹脂)などが挙げられる。
【0063】
上記芳香族ビニル系樹脂の還元粘度は、特に限定されないが、流動性や成形品の耐衝撃性などの物性バランスにより優れる観点から。0.2~1.5dl/gが好ましく、より好ましくは0.3~1.0dl/gである。上記還元粘度は、芳香族ビニル系樹脂を、N,N-ジメチルホルムアミドに溶解し、0.4g/100mlの濃度の溶液とした後、キャノンフェンスケ型粘度管を用い30℃で測定した流下時間より還元粘度を求めることができる。
【0064】
ポリカーボネート樹脂としては、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネート等の炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体が挙げられる。ポリカーボネート樹脂としては、具体的には、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンおよびビスフェノールAから製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0065】
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4-ヒドロキシジフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-第3ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-ブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルファイド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルファイドのようなジヒドロキシジアリールスルファイド類、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。上記ジヒドロキシジアリール化合物は、一種のみを使用してもよく、二種以上を使用してもよい。上記ポリカーボネート樹脂において、上記ジヒドロキシジアリール化合物以外に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4'-ジヒドロキシジフェニル類等を混合してもよい。
【0066】
さらに、上記のジヒドロキシジアリール化合物と以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用してもよい。3価以上のフェノール化合物としては、フロログルシン、4,6-ジメチル-2,4,6-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ヘプテン、4,6-ジメチル-2,4,6-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ヘプタン、1,3,5-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)ベンゾール、1,1,1-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス-[4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル]プロパンなどが挙げられる。
【0067】
ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量は、例えば10000~80000であり、好ましくは15000~60000である。上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定することができる。
【0068】
さらに、本発明のめっき用樹脂組成物には、ヒンダードアミン系の光安定剤、ヒンダードフェノール系、含硫黄有機化合物系、含リン有機化合物系等の酸化防止剤、フェノール系、アクリレート系等の熱安定剤、ベンゾエート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系の紫外線吸収剤、有機ニッケル系、高級脂肪酸アミド類等の滑剤、リン酸エステル類等の可塑剤、ポリブロモフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノール-A、臭素化エポキシオリゴマー、臭素化等の含ハロゲン系化合物、リン系化合物、三酸化アンチモン等の難燃剤・難燃助剤、臭気マスキング剤、カーボンブラック、酸化チタン等の顔料、染料等を添加することもできる。さらに、タルク、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスウール、炭素繊維、金属繊維等の補強剤や充填剤を添加することもできる。
【0069】
本発明のめっき用樹脂組成物中のグラフト共重合体(A)およびその他の熱可塑性樹脂(C)の合計の含有割合は、グラフト共重合体(A)、アクリル系ブロック共重合体(B)、およびその他の熱可塑性樹脂(C)の合計100質量%に対して、51~99.5質量%であり、好ましくは70~99質量%、より好ましくは80~98.5質量%である。上記含有割合は、本発明のめっき用樹脂組成物がその他の熱可塑性樹脂(C)を含まない場合は、グラフト共重合体(A)およびアクリル系ブロック共重合体(B)の合計100質量%に対するグラフト共重合体(A)の含有割合である。
【0070】
本発明のめっき用樹脂組成物中のアクリル系ブロック共重合体(B)の含有割合は、グラフト共重合体(A)、アクリル系ブロック共重合体(B)、およびその他の熱可塑性樹脂(C)の合計100質量%に対して、0.5~49質量%であり、好ましくは1~30質量%、より好ましくは1.5~20質量%である。上記含有割合は、本発明のめっき用樹脂組成物がその他の熱可塑性樹脂(C)を含まない場合は、グラフト共重合体(A)およびアクリル系ブロック共重合体(B)の合計100質量%に対するアクリル系ブロック共重合体(B)の含有割合である。
【0071】
本発明のめっき用樹脂組成物中のグラフト共重合体(A)の含有割合は、本発明のめっき用樹脂組成物の総量100質量%に対して、1~60質量%が好ましく、より好ましくは5~55質量%、さらに好ましくは10~50質量%である。上記含有割合が1質量%以上であると、グラフト共重合体(A)を配合することの効果が得られやすく成形品の耐衝撃性などの物性により優れる。上記含有割合が60質量%以下であると、その他の熱可塑性樹脂(C)を充分な量で配合することが可能となり、その他の熱可塑性樹脂(C)を配合することの効果がより得られやすい。
【0072】
本発明のめっき用樹脂組成物中のその他の熱可塑性樹脂(C)の含有割合は、本発明のめっき用樹脂組成物の総量100質量%に対して、90質量%以下が好ましく、より好ましくは85質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下である。上記含有割合が90質量%以下であると、グラフト共重合体(A)を配合することの効果が得られやすく成形品の耐衝撃性などの物性により優れる。上記含有割合の下限は、例えば10質量%であり、30質量%、50質量%、60質量%であってもよい。
【0073】
本発明のめっき用樹脂組成物中のゴム質重合体の含有割合は、グラフト共重合体(A)、アクリル系ブロック共重合体(B)、およびその他の熱可塑性樹脂(C)の合計100質量%に対して、7~20質量%が好ましく、より好ましくは8~18質量%、さらに好ましくは10~15質量%、特に好ましくは11~14質量%である。上記範囲となるように調整することによりめっき析出性とめっき密着強度のバランスを向上させることができる。
【0074】
本発明のめっき用樹脂組成物中の、グラフト共重合体(A)およびその他の熱可塑性樹脂(C)(例えば共重合体(C1))を構成する芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体の含有割合の合計は、グラフト共重合体(A)、アクリル系ブロック共重合体(B)、およびその他の熱可塑性樹脂(C)の合計100質量%に対して、20~73質量%が好ましく、より好ましくは30~65質量%、さらに好ましくは36~59質量%である。上記含有割合が上記範囲内であると、成形品のめっきに対する密着強度に優れつつ、めっき析出性に優れる。
【0075】
本発明のめっき用樹脂組成物中の、グラフト共重合体(A)、アクリル系ブロック共重合体(B)、およびその他の熱可塑性樹脂(C)の合計の含有割合は、本発明のめっき用樹脂組成物の総量100質量%に対して、50質量%以上が好ましく、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。上記含有割合が50質量%以上であると、本発明が奏する効果がより向上する。
【0076】
本発明のめっき用樹脂組成物の、ISO試験方法179に準拠したノッチ付きシャルピー衝撃値(試験片厚み:4mm厚み、測定温度:23℃)は、20kJ/m2以上が好ましく、より好ましくは30kJ/m2以上、さらに好ましくは50kJ/m2以上である。上記シャルピー衝撃値20kJ/m2以上であると、成形品の耐衝撃性がより優れる。
【0077】
本発明のめっき用樹脂組成物の、ISO試験方法1133に準拠した、220℃、98.07N荷重の条件におけるメルトボリュームフローレイト(MVR)は、2~30cm3/10分が好ましく、より好ましくは4~29cm3/10分、さらに好ましくは8~27cm3/10分である。上記MVRが上記範囲内であると、成形品のめっきに対する密着強度に優れつつ、流動性がより優れる。
【0078】
本発明のめっき用樹脂組成物の、ISO試験方法75に準拠した、荷重1.8MPaの荷重たわみ温度は、75℃以上が好ましく、より好ましくは80℃以上、さらに好ましくは82℃以上、特に好ましくは85℃以上である。上記荷重たわみ温度が75℃以上であると、成形品のめっきに対する密着強度に優れつつ、成形品の耐熱性がより優れる。
【0079】
本発明のめっき用樹脂組成物は、上述の各種樹脂および必要に応じて添加剤を混合し溶融混練して得られる。上記混合には、樹脂の混合に通常使用される公知乃至慣用の混練機を使用することができ、例えば、ロール、バンバリーミキサー、押出機、ニーダーなどが挙げられる。
【0080】
このようにして得られためっき用樹脂組成物は、射出成形、押出成形、圧縮成形、射出圧縮成形、ブロー成形等により成形され、樹脂成形品(成形品)を製造することができる。上記成形品は、表面にめっき処理を施すことでめっき成形品が得られる。上記めっき処理として、公知のめっき方法、例えば通常のABS樹脂のめっき条件と同様の条件にてめっき加工することができる。
【0081】
上記樹脂成形品にめっきが施されためっき成形品の、JIS H8630に準拠しためっき密着強度は、9N/cm以上が好ましく、より好ましくは10N/cm以上、さらに好ましくは12N/cm以上である。本発明のめっき用樹脂組成物は成形品のめっきに対する密着強度が優れるため、上記めっき密着強度を達成することができる。
【0082】
上記めっき密着強度は、例えば、めっき用樹脂組成物を射出成形機により成形して厚さ3mmの樹脂成形品を作製し、得られた樹脂成形品に脱脂、エッチング、触媒付与、水洗等の一般的な処理を施した後、無電解メッキ(硫酸ニッケル-次亜燐酸ソーダ-クエン酸ソーダを主体とするニッケルメッキ液、50℃×8分間)、水洗、および電気銅めっき(室温×2時間、電流密度3A/dm2、膜厚50μm)を行って得られためっき成形品について測定することができる。
【実施例0083】
以下に実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。なお、実施例中にて示す部および%は質量に基づくものである。
【0084】
実施例および比較例
表1記載の各種材料を表1に示す配合割合で混合した後、シリンダー温度250℃に設定したφ26mmの2軸押出機にて主スクリュー回転数400rpm、吐出量20kg/hrの条件で溶融混練してペレット化し、ペレット(めっき用樹脂組成物)を製造した。なお、実施例および比較例で使用した各種材料は、以下のようにして準備したものである。
【0085】
グラフト共重合体(A)
ガラスリアクターに、凝集肥大化スチレン-ブタジエンゴムラテックス(スチレン5質量%、ブタジエン95質量%、質量平均粒子径440nm)を固形分換算で60質量部仕込み、撹拌を開始させ、窒素置換を行った。窒素置換後、槽内を昇温させ65℃に到達したところで、ブドウ糖0.06質量部、無水ピロリン酸ナトリウム0.03質量部、および硫酸第一鉄0.001質量部を脱イオン水10質量部に溶解した水溶液を添加した後に、70℃に昇温した。その後、アクリロニトリル10質量部、スチレン30質量部、ターシャリードデシルメルカプタン0.3質量部、t-ブチルハイドロパーオキサイド0.1質量部の混合液およびオレイン酸カリウム1.0質量部(固形分換算)を脱イオン水20質量部に溶解した乳化剤水溶液を4時間かけて連続的に滴下した。滴下後、3時間保持してグラフト共重合体ラテックスを得た。その後、塩析、脱水、乾燥させ、グラフト共重合体(A)のパウダーを得た。得られたグラフト共重合体(A)のグラフト率は42質量%、アセトン可溶部の還元粘度は0.28dl/gであった。また、上記凝集肥大化スチレン-ブタジエンゴムラテックスの質量平均粒子径は下記のように求めた。
四酸化オスミウム(OsO4)で染色し、乾燥後に透過型電子顕微鏡で写真撮影した。画像解析処理装置(装置名:旭化成(株)製、「IP-1000PC」)を用いて800個のゴム粒子の面積を計測し、その円相当径(直径)を求め、質量平均粒子径を算出した。
【0086】
アクリル系ブロック共重合体(B1)
商品名「クラリティ LA4285」、(株)クラレ製
【0087】
アクリル系ブロック共重合体(B2)
商品名「クラリティ LA2250」、(株)クラレ製
【0088】
共重合体(C11)
公知の塊状重合法により、スチレン75質量部、アクリロニトリル25質量部からなる共重合体を得た。上述の方法により、得られた共重合体の還元粘度は0.50dl/gであった。
【0089】
共重合体(C12)
公知の塊状重合法により、スチレン75質量部、アクリロニトリル25質量部からなる共重合体を得た。上述の方法により、得られた共重合体の還元粘度は0.60dl/gであった。
【0090】
ポリカーボネート樹脂(C21)
ホスゲンとビスフェノールAからなる粘度平均分子量20500のポリカーボネート樹脂。
【0091】
ポリカーボネート樹脂(C22)
ホスゲンとビスフェノールAからなる粘度平均分子量19000のポリカーボネート樹脂。
【0092】
[測定および評価]
各実施例および比較例で得られためっき用樹脂組成物について、以下の評価を行った。結果は表1に示した。
【0093】
(1)メルトボリュームフローレイト(MVR)
各実施例および比較例で得られたペレットを用い、ISO試験方法1133に準拠して、220℃、98.07N荷重の条件でメルトボリュームフローレイトを測定した。単位:cm3/10分
【0094】
(2)シャルピー衝撃強度(NC)
各実施例および比較例で得られたペレットを用い、ISO試験方法294に準拠して各種試験片を成形し、ISO試験方法179に準拠し、4mm厚みで、ノッチ付きシャルピー衝撃値を測定した。単位:kJ/m2
【0095】
(3)荷重たわみ温度(HDT)
各実施例および比較例で得られたペレットを用い、ISO試験方法294に準拠して各種試験片を成形し、ISO試験方法75に準拠し、荷重1.8MPaの荷重たわみ温度を測定した。単位:℃
【0096】
(4)めっき密着強度
各実施例および比較例で得られたペレットを射出成形機にてめっき用平板成形品(55×90×3mm)を成形し、以下の方法にてめっきを施した後、析出しためっき膜の密着強度を、JIS H8630に基づき、めっき成形品の金属膜に基材に達する1cm間隔の切傷を入れ、金属膜を垂直な方向に引き剥がす時の応力(N/cm)で示した。
<めっき処理工程>
上記めっき用平板成形品を55℃の脱脂液(界面活性剤水溶液)に3分間浸し脱脂した。脱脂後の平板を室温の水で1分間水洗した後、整面液(硫酸水溶液-界面活性剤水溶液)に3分間浸し整面処理を行った。整面後の平板を68℃のエッチング液(無水クロム酸:400g/l、硫酸:400g/l)に15分間浸しエッチングを行った。エッチング後の平板を室温の水で1分間水洗した後、室温の中和液(塩酸水溶液)に2分間浸し中和処理を行った。中和後の平板を室温の水で1分間水洗した後、35℃の触媒付与液(塩化パラジウム-塩化第一スズ-塩酸水溶液)に5分間浸し、触媒付与を行った。触媒付与処理後の平板を室温の水で1分間水洗した後、40℃のアクセレーター液(塩酸水溶液)に5分間浸し活性化処理を行った。活性化後の平板を室温の水で1分間水洗した後、50℃の無電解めっき液(硫酸ニッケル-次亜燐酸ソーダ-クエン酸ソーダを主体とするニッケルめっき液)に8分間浸し無電解ニッケルめっき処理を行った。無電解ニッケルめっき処理した平板を室温の水で1分間水洗した後、電気銅めっき浴に25℃で2時間、電流密度3A/dm2の電流を通電して、膜厚50μmの電気銅めっき膜を平板に析出させた。電気銅めっき後の平板を室温の水で1分間水洗した後、電気銅めっきされた平板を室温で乾燥した。乾燥後の平板を80℃で2時間エージングし一晩放置した。
【0097】
(5)グラフト率の測定
グラフト共重合体(A)をアセトンを用い分別作業を行うことでアセトン不溶部の重量比率を求めたところ42質量%であった。
【0098】
【0099】
表1に示すように、本発明のめっき用樹脂組成物は、流動性および成形品のめっきに対する密着強度に優れ、さらには成形品の耐衝撃性に優れると評価された(実施例)。一方、アクリル系ブロック共重合体(B)を含まない場合(比較例1および3~5)、成形品のめっきに対する密着強度が劣っていた。また、比較例1は、同じく共重合体(C11)を含む実施例1に比べて、流動性および成形品の耐衝撃性にわずかに劣っていた。また、比較例3は、同じく共重合体(C11)およびポリカーボネート樹脂(C21)を含む実施例2および3に比べて、流動性が劣っていた。アクリル系ブロック共重合体(B)の配合量が多い場合(比較例2)、成形品にめっきを施すことができなかった。また、比較例4および5は、同じく共重合体(C12)およびポリカーボネート樹脂(C21)を含む実施例4~6に比べて、成形品の耐衝撃性が顕著に劣っていた。
本発明のめっき用樹脂組成物は、流動性に優れ、且つ、成形品のめっき密着強度および耐衝撃性に優れる。このため、例えば車両内装、外装用部品等、市場のニーズに合わせて多彩な用途に使用することができる。