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特開2022-8090運動開始前の情報に基づき抗加齢能力に関わる指標を求める方法および装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022008090
(43)【公開日】2022-01-13
(54)【発明の名称】運動開始前の情報に基づき抗加齢能力に関わる指標を求める方法および装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/22 20060101AFI20220105BHJP
   A61B 5/026 20060101ALI20220105BHJP
   A61B 5/029 20060101ALI20220105BHJP
   A61B 5/0205 20060101ALI20220105BHJP
   A61B 5/145 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
A61B5/22 110
A61B5/026
A61B5/029
A61B5/0205
A61B5/145
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082528
(22)【出願日】2021-05-14
(31)【優先権主張番号】P 2020084933
(32)【優先日】2020-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020157814
(32)【優先日】2020-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】506320336
【氏名又は名称】特定非営利活動法人熟年体育大学リサーチセンター
(74)【代理人】
【識別番号】100102934
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 彰
(72)【発明者】
【氏名】増木 静江
(72)【発明者】
【氏名】眞鍋 憲正
(72)【発明者】
【氏名】能勢 博
【テーマコード(参考)】
4C017
4C038
【Fターム(参考)】
4C017AA02
4C017AA03
4C017AA08
4C017AA11
4C038KK01
4C038KL05
4C038KX01
(57)【要約】
【課題】簡易に抗加齢能力に関する指標を推定できるシステムを提供する。
【解決手段】端末10の抗加齢能力推定ユニット21は、被験者2の自発運動開始直前の脳血流、心拍数、総末梢血管抵抗、心拍出量、血圧、酸素摂取量および組織酸素飽和度の少なくともいずれかの情報を含む事前情報18を取得する機能22と、少なくとも事前情報および被験者の年齢に基づき被験者の抗加齢能力に関する指標Inの1つとして最高酸素摂取量VO2peakを推定する機能23aとを有する。算出する機能23aは、被験者の自発運動開始直前の事前情報の変化Sと、被験者の年齢Ageとを含む以下の式により、被験者の最高酸素摂取量VO2peakなどの指標Inを求めてもよい。
In=c1+c2・Age+c3・S
ただし、c1、c2およびc3は係数である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の自発運動開始直前の脳血流、心拍数、総末梢血管抵抗、心拍出量、血圧、酸素摂取量および組織酸素飽和度の少なくともいずれかの情報を含む事前情報を取得する機能と、
前記事前情報に含まれる前記被験者の脳血流、心拍数、総末梢血管抵抗、心拍出量、血圧、酸素摂取量および組織酸素飽和度のいずれかの第1の情報の、前記被験者が自発運動開始を意識した第1の時点より前のデータに対する、前記第1の時点から自発運動開始までの第1の期間の変化を示す取得データ、および前記被験者の年齢に基づき、少なくとも前記取得データおよび年齢に相関する前記被験者の抗加齢能力に関わる指標を推定する機能とを有するシステム。
【請求項2】
請求項1において、
前記推定する機能は、前記被験者の前記取得データSと、前記被験者の年齢Ageとを含む以下の式により、前記被験者の抗加齢能力に関わる指標Inを求める第1の算出機能を含む、システム。
In=c1+c2・Age+c3・S
ただし、c1、c2およびc3は係数である。
【請求項3】
請求項2において、
前記係数c2は負である、システム。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記推定する機能は、前記被験者の前記取得データSと、前記被験者の年齢Ageと、前記自発運動の体位を含む運動要素Diとを含む以下の式により、前記被験者の抗加齢能力に関わる指標Inを求める第2の算出機能を含む、システム。
In=c1+c2・Age+c3・S+Σdi・Di
ただし、c1、c2およびc3は係数であり、diはi番目の運動要素Diに対する係数である。
【請求項5】
請求項2ないし4のいずれかにおいて、
前記推定する機能は、前記取得データSを、前記被験者に前記自発運動開始までの所定の時間を示す開始前情報を与えた前記第1の時点から前記自発運動開始までの前記第1の期間の前記第1の情報の第1の平均値S1と前記第1の時点の直前の前記第1の情報の第2の平均値Sbとの比S1/Sbとして求める機能を含む、システム。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、
前記被験者に前記自発運動開始を示すカウントダウンを通知する機能を有する、システム。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、
前記被験者の脳血流、心拍数、総末梢血管抵抗、心拍出量、血圧、酸素摂取量および組織酸素飽和度の少なくともいずれかの情報を含む身体情報を実質的に連続して記録する機能を有し、
前記事前情報を取得する機能は、前記自発運動開始前に記録された前記身体情報から前記事前情報を抽出する機能を含む、システム。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかにおいて、
前記推定する機能は、前記指標として身体能力に関する最高酸素摂取量の推定量を求める機能を含む、システム。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかにおいて、
前記推定する機能は、前記指標として精神能力に関する認知機能評価の推定結果を求める機能を含む、システム。
【請求項10】
被験者の脳血流、心拍数、総末梢血管抵抗、心拍出量、血圧、酸素摂取量および組織酸素飽和度の少なくともいずれかの情報を含む身体情報を実質的に連続して記録する機能と、
前記被験者の運動開始を検出する機能と、
前記被験者の運動開始前に記録された前記身体情報から、運動開始直前の事前情報を抽出する機能と、
前記事前情報に含まれる前記被験者の脳血流、心拍数、総末梢血管抵抗、心拍出量、血圧、酸素摂取量および組織酸素飽和度のいずれかの第1の情報の、前記被験者が自発運動開始を意識した第1の時点より前のデータに対する、前記第1の時点から自発運動開始までの第1の期間の変化を示す取得データおよび前記被験者の年齢に基づき、少なくとも前記取得データおよび年齢に相関する前記被験者の抗加齢能力に関わる指標を推定する機能とを有するシステム。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかにおいて、
推定された前記被験者の抗加齢能力に関わる指標に基づき、抗加齢能力の維持または向上に関する運動処方をアドバイスする機能を有する、システム。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかに記載のシステムを搭載した携帯端末。
【請求項13】
被験者の自発運動開始直前の脳血流、心拍数、総末梢血管抵抗、心拍出量、血圧、酸素摂取量および組織酸素飽和度の少なくともいずれかの情報を含む事前情報を取得することと、
前記事前情報に含まれる前記被験者の脳血流、心拍数、総末梢血管抵抗、心拍出量、血圧、酸素摂取量および組織酸素飽和度のいずれかの第1の情報の、前記被験者が自発運動開始を意識した第1の時点より前のデータに対する、前記第1の時点から自発運動開始までの第1の期間の変化を示す取得データ、および前記被験者の年齢に基づき、少なくとも前記取得データおよび年齢に相関する前記被験者の抗加齢能力に関わる指標を求める少なくとも前記事前情報と前記被験者の年齢とに基づき前記被験者の最高酸素摂取量を推定することとを有する方法。
【請求項14】
請求項13において、
前記被験者の脳血流、心拍数、総末梢血管抵抗、心拍出量、血圧、酸素摂取量および組織酸素飽和度の少なくともいずれかの情報を含む身体情報を実質的に連続して記録することを有し、
前記事前情報を取得することは、前記自発運動開始前に記録された前記身体情報から前記事前情報を抽出することを含む、方法。
【請求項15】
請求項13または14において、
前記事前情報は、自発運動開始直前の、脳血流上昇、心拍応答および筋血管拡張を示す情報を含む、方法。
【請求項16】
請求項13ないし15のいずれかにおいて、
前記推定することは、前記被験者の前記取得データSと前記被験者の年齢Ageとを変数として含む一次関数により前記被験者の抗加齢能力に関わる指標Inを求めることを含む、方法。
【請求項17】
請求項16において、
前記推定することは、さらに、前記自発運動の体位を含む運動要素Diを変数として含む一次関数により前記被験者の抗加齢能力に関わる指標Inを求めることを含む、方法。
【請求項18】
請求項16または17において、
前記推定することは、前記取得データSを、前記被験者に前記自発運動開始までの所定の時間を示す開始前情報を与えた前記第1の時点から前記自発運動開始までの前記第1の期間の前記第1の情報の第1の平均値S1と前記第1の時点の直前の前記第1の情報の第2の平均値Sbとの比S1/Sbとして求めることを含む、方法。
【請求項19】
請求項13ないし18のいずれかにおいて、
前記事前情報を取得することは、前記自発運動がカウントダウンにより開始された前記被験者の前記事前情報を取得することを含む、方法。
【請求項20】
請求項13ないし18のいずれかにおいて、
推定された前記被験者の抗加齢能力に関わる指標に基づき、抗加齢能力の維持または向上に関する運動処方をアドバイスすることを、さらに有する方法。
【請求項21】
コンピュータを、請求項1ないし11のいずれかに記載のシステムとして機能させるための命令を有するプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動開始前の情報に基づき、加齢による生命力の低下に対抗する抗加齢に関わる指標を求める方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、被験者に高負荷を掛けずに簡単に被験者の持久力を算出することが開示されている。被験者に着脱可能に装着される持久力算出装置は、被験者に作用する加速度を測定する加速度センサと、加速度センサにより出力された加速度の値に基づいて、被験者に作用する力積を算出するCPUと、被験者が低速から被験者の成し得る最大限の速度で歩行するように促す情報である歩行情報を出力する表示部又はスピーカとを備えている。CPUは、表示部又はスピーカにより歩行情報が出力された後に、算出した力積の最大値に基づいて該力積の最大値と相関関係を持つ被験者の持久力を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-238970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
超高齢社会における運動を核にした予防医学の確立が求められている。例えば、体力は、一般的に20歳代をピークとし、それ以降、10歳加齢するごとに10%程度ずつ低下する。この体力低下と医療費とが相関するため、もし運動処方などにより、10%体力が向上すれば、20%医療費が削減できることを意味する。運動を核にして、加齢に対抗する機能の向上あるいは低下予防を目指すためには、加齢に対抗する機能の程度を示す指標を簡易な方法で取得できることが重要である。例えば、体力(持久力)は生命維持機能の1つであり加齢に対抗する機能の程度を示す指標の1つと捉えることができる。したがって、持久力などの抗加齢能力に関する指標を、被験者が低速から最大限の速度で歩行するような行為を経ずして、さらに簡易に、評価できることが要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、被験者の自発運動開始直前の脳血流、心拍数、総末梢血管抵抗、心拍出量、血圧、酸素摂取量および組織酸素飽和度の少なくともいずれかの情報を含む事前情報を取得する機能と、事前情報に含まれる被験者の脳血流、心拍数、総末梢血管抵抗、心拍出量、血圧、酸素摂取量および組織酸素飽和度のいずれかの第1の情報の、被験者が自発運動開始を意識した第1の時点より前のデータに対する、第1の時点から自発運動開始までの第1の期間の変化を示す取得データ、および被験者の年齢に基づき、少なくとも取得データおよび年齢に相関する被験者の抗加齢能力(抗加齢機能)に関わる指標を推定する機能とを有するシステムである。このシステムは、システムとしての機能を搭載した携帯端末として提供してもよい。また、コンピュータをこのシステムとして機能させるための命令を有するプログラム(プログラム製品、アプリケーション)として、ネットワークを介して、または適当な記録媒体に記録して提供してもよい。
【0006】
本発明の他の態様の1つは、被験者の自発運動開始直前の脳血流、心拍数、総末梢血管抵抗、心拍出量、血圧、酸素摂取量および組織酸素飽和度の少なくともいずれかの情報を含む事前情報を取得することと、事前情報から得られる取得データと被験者の年齢とに少なくとも基づき被験者の抗加齢能力に関わる指標を推定することとを有する方法である。抗加齢能力に関わる指標の典型的なものの1つの例は、身体能力(身体機能)に関わる指標であり、その1つは最高酸素摂取量である。抗加齢能力に関わる指標の典型的なものの他の例の1つは、精神能力(精神機能)に関わる指標であり、その1つは認知機能の評価(認知力検査)の結果である。これらの指標は、被験者の生活の質(QOL、Quality of Life)の維持および/または低下の抑制を判断するためにも有用である。
【0007】
本願の発明者らは、自発運動開始前に、脳血流が上昇すること、心拍数が上昇すること、および筋血管が拡張することを見出すとともに、脳血流の情報(脳血流上昇)、心拍応答、筋血管拡張などの自発運動開始前の事前情報が、被験者の抗加齢能力に関する指標との間に一定の相関があることを見出した。したがって、事前情報を得ることにより、例えば、抗加齢能力の低下を抑制する運動処方を実行する(実行しようとする)都度、抗加齢能力の状態を簡単に、また、継続的にモニタリングすることができる。さらに、発明者らは、事前情報に加えて、被験者の年齢を考慮することにより、さらに精度よく被験者の、抗加齢能力に関する指標を推定(算出)できることを見出した。したがって、自発運動開始直前の脳血流、心拍数、総末梢血管抵抗、心拍出量、血圧、酸素摂取量および組織酸素飽和度の少なくともいずれかを測定する簡易な方法により、被験者が低速から最大限の速度で歩行するような、測定のための行為を経ずして、あるいはそのような方法と併用して、被験者の抗加齢能力およびその変化を簡易にモニターでき、被験者に対する運動処方を評価したり、被験者の生活の質(QOL、Quality of Life)の低下を抑制したり、医療費の削減に寄与したりなど、様々な効果を得ることができる。
【0008】
抗加齢能力に関する指数の算出(推定)に際しては、被験者の自発運動開始直前の事前情報の変化を示す取得データSと被験者の年齢Ageとを変数として含む一次関数により指標Inを求めてもよい。抗加齢能力の一例は身体機能を示す指標の1つの最高酸素摂取量VO2peakである。抗加齢能力の他の例の1つは精神能力を示す認知機能の評価結果CFI(Cognitive Function Index)である。指標Inを推定する一次関数の一例は以下の式(1)であってもよい。
In=c1+c2・Age+c3・S ・・(1)
ただし、c1、c2およびc3は係数である。上記関数において、指標Inと年齢Ageとの間には負の相関が見られてもよく、係数c2は負であってもよい。
【0009】
抗加齢能力の指標Inを推定する際には、さらに、自発運動の体位を含む運動要素Diを変数として含む一次関数により指標Inを求めてもよい。一次関数の一例は以下の式(2)であってもよい。
In=c1+c2・Age+c3・S+Σdi・Di ・・(2)
ただし、diはi番目の運動要素Diに対する係数である。例えば、運動要素D1は体位であってもよく、半座位の運動の際に「1」、立位の運動の際に「0」であってもよい。
【0010】
自発運動開始直前の事前情報の変化を示す取得データSは以下の式(3)により求められてもよい。
S=S1/Sb ・・・(3)
S1は、被験者に自発運動開始までの所定の時間を示す開始前情報を与えた第1の時点(第1の時刻、第1の時間)t1から自発運動開始t0までの第1の期間の事前情報に含まれる第1の情報の第1の平均値であり、Sbは第1の時点t1の直前の事前情報に含まれる第1の情報の第2の平均値である。
【0011】
システムは、開始前情報として、被験者に自発運動開始を示すカウントダウンを通知する機能を有してもよい。また、事前情報を取得することは、自発運動がカウントダウンにより開始された被験者の事前情報を取得することを含んでもよい。
【0012】
システムは、さらに、被験者の脳血流、心拍数、総末梢血管抵抗、心拍出量、血圧、酸素摂取量および組織酸素飽和度の少なくともいずれかの情報を含む身体情報を実質的に連続して記録する機能を有し、事前情報を取得する機能は、自発運動開始前に記録された身体情報から事前情報を抽出する機能を含んでもよい。また、システムは、被験者の運動開始を検出する機能と、被験者の運動開始前に記録された身体情報から、被験者の抗加齢能力に関する指標Inを算出するための運動開始直前の事前情報を抽出する機能とを含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】モニタリングシステムの概要を示すブロック図。
図2】3段階ステップアップ歩行により最高酸素摂取量VO2peakを求める方法を示す図。
図3】3段階ステップアップ歩行により求められた最高酸素摂取量VO2peakの推定値と、自転車エルゴメータ負荷漸増法と呼気ガス分析器で求めた最高酸素摂取量VO2peakとの相関を示す図。
図4】事前情報となる身体情報のいくつかの例を示す図。
図5】若年者群の自転車半座位のデータを示す図。
図6】高齢者群の自転車半座位のデータを示す図。
図7】高齢者群の自転車アップライトのデータを示す図。
図8】高齢者群の歩行のデータを示す図。
図9】被験者群の特性を示す図。
図10】実験プロトコルを説明する図。
図11】実験により得られる事前情報の典型例を示す図。
図12】実験により得られた全データを示す図。
図13】若年者群の自転車半座位と、高齢者群の自転車半座位とについて得られた回帰式により得られた推定VO2peak(X軸)を実測VO2peak(Y軸)に対し示す図。
図14】若年者群の自転車半座位と、高齢者群の自転車半座位とについて、年齢を含めた重回帰分析により得られた推定VO2peak(X軸)を実測VO2peak(Y軸)に対し示す図。
図15】全てのデータについて年齢および体位を含めた重回帰分析により得られた推定VO2peak(X軸)を実測VO2peak(Y軸)に対し示す図。
図16】端末により最高酸素摂取量VO2peakを取得するプロセスを示すフローチャート。
図17】高齢者が運動トレーニングによって、最高酸素摂取量(VO2peak)が上昇すると、認知機能の評価結果(CFI)が上昇するという結果を示す図。
図18図17に続き、高齢者で運動トレーニングによって、最高酸素摂取量(VO2peak)が上昇すると、認知機能の評価結果(CFI)が上昇するという結果を示す図。
図19】認知機能検査の被験者群の特性を示す図。
図20】認知機能評価結果と若年者群の自転車半座位のデータを示す図。
図21】認知機能評価結果と高齢者群の自転車半座位のデータを示す図。
図22】認知機能評価結果と高齢者群の自転車アップライトのデータを示す図。
図23】認知機能評価結果と高齢者群の歩行のデータを示す図。
図24】実験により得られた全データを示す図。
図25】全てのデータについて年齢および体位を含めた重回帰分析により得られた認知機能評価結果の推定値(X軸)を認知機能評価結果の実測値(Y軸)に対し示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に、人の活動をモニタリングするシステムの一例の概要を示している。このシステム(モニタリングシステム)1は、ユーザー(被測定者、被験者、受験者)2に装着される携帯型またはウェアラブルの端末(ユーザー端末)10と、クラウド9、例えばインターネットなどのコンピュータネットワークを介して端末10と接続されたサーバーシステム50とを含む。活動量をモニタリングするシステム1は、端末10のみで提供されてもよく、クラウド9を介してサーバーシステム50でデータを蓄積し、後日、さらに詳しく、またはアップデートされた方法により解析されるシステムとして提供されてもよい。端末10の一例は、スマートホン、またはユーザー2の身体に装着できる携帯端末であってもよい。端末10は、腕時計型や、眼鏡型のウェアラブルな端末であってもよい。
【0015】
端末10は、センサー群11と、センサー群11から得られたデータを処理する機能を含むプロセッサ12と、入出力を行うユーザーインターフェイス13と、携帯電話網などを介してクラウド9に接続可能な通信ユニット14と、メモリー15とを含む。センサー群11は、3軸加速度センサー11a、高度計11b、脈拍計(心拍計)11c、体温計11dなどを含み、これらに限定されず、脳血流や総末梢血管抵抗などを測定するセンサーを含んでもよい。高度を測定するセンサー(第1のセンサー)11bの一例は、気圧計である。
【0016】
プロセッサ12では、メモリー15にダウンロードされたアプリケーション(ソフトウェア、以下で説明する処理を実行する命令を含むプログラム)15aを展開することにより様々な機能が提供される。プロセッサ12により提供される機能は、活動量(消費エネルギー量)のモニタリング機能(消費エネルギーモニタリングユニット)20と、抗加齢能力推定ユニット21とを含む。
【0017】
モニタリングユニット(モニター)20は、センサー群11から所定の測定データ16を取得して、測定データ16をメモリー15に一時的に格納する測定ユニット25と、ユーザー2の活動の種別を判断して、活動形態に基づいて所定の推定式により酸素消費量eVO2を推定する酸素消費量推定ユニット(VO2ユニット)27と、推定された酸素消費量を用いてエネルギー消費量を求めるエネルギー消費量推定ユニット(CALユニット)28と、推定値および推定に用いられたセンサーの測定値を含めた測定データ16を、通信ユニット14を介してサーバーシステム50に提供するユニット29と、求められた消費エネルギー量などを、ユーザーインターフェイス13を介してユーザー2に提供する出力ユニット26とを含む。
【0018】
ユーザー2の活動種別(活動形態)は例えば、加速度センサー11aの測定結果より自動的に判断してもよく、ユーザー2が選択または入力してもよく、ユーザー2の生活習慣などから自動的に判断してもよい。活動種別には、例えば、歩行中3a、サイクリング中(自転車アップライト)3b、半座位で自転車による運動中(自転車半座位)3c、自家用車あるいは他の交通機関で移動中、休憩中などが含まれ、各活動種別によりVO2ユニット27または抗加齢能力推定ユニット21において、抗加齢能力の指標(指標値)Inの算出(推定)に影響する運動要素、例えば体位が選択されてもよい。
【0019】
抗加齢能力(機能)(Anti-aging Activity (Function))は加齢による生命力の低下を防止または抑制する能力であり、「生命力、生活力(Vitality)」あるいは「生命維持機能(能力)(Life-maintenance function (Activity))」と共通する。高酸素摂取量VO2peakは抗加齢能力の身体機能(能力)(Physical Function (Activity))の指標の1つの例であり、認知機能の評価結果CFIは精神機能(能力)(Mental Function (Activity))の指標の1つの例である。
【0020】
身体能力(身体機能)の指標の他の例の1つは、LSDスコア(生活習慣病指標、LSDリスクファクタ、Lifestyle-related disease)である。LSDスコア(生活習慣病指標)とは、いわゆるメタボ指標であり、以下の4項目の診断基準について、1つ該当すれば1点を加算する。したがって、4項目すべて該当すれば4点満点とした診断基準である。
1)最高血圧≧130mmHg、または最低血圧≧85mmHg
2)空腹時血糖≧100mg/dl、
3)BMI≧25kg/m
4)中性脂肪≧150mg/dlまたはHDLコレステロール≦40mg/dl
【0021】
本例では認知機能の評価結果CFI(Cognitive Function Index)として浦上式認知症簡易スクリーニング法による15点満点による評価結果を例に説明しているが、精神能力の指標としては、うつ症状(Depression)、不安症(Anxiety)、不眠症(insomnia)のそれぞれの評価指標(評価結果)を用いてもよい。認知機能の評価は、他の方法で行われてもよい。例えば、MMSE(Mini-mental state examination、Folstein, M.F., Folstein, S.E., McHugh, P.R., 1975. “Mini-mental state”. A practical method for grading the cognitive state of patients for the clinician. J. Psychiatr. Res. 12 (3), 189-198.、Kaufer, D.I., Williams, C.S., Braaten, A.J., Gill, K., Zimmerman, S., Sloane, P.D., 2008. Cognitive screening for dementia and mild cognitive impairment in assisted living: comparison of 3 tests. J. Am. Med. Dir. Assoc. 9 (8), 586-593.を参照)。浦上式認知症簡易スクリーニングでは、ヘッドホンから流れる設問を聞き、口答か記述で回答する。問1は即時再生(各1点×3問)、問2は時間の見当識(各1点×4問)、問3は遅延再生(各2点×3問)、問4は空間認知(各2点×1問)に関するものである。
【0022】
抗加齢能力推定ユニット21は、一例では、体力測定ユニット21として機能し、測定データ16の中から、最高酸素摂取量算出に要する身体データ17、例えば心拍数17aを事前情報18として取得する(抽出する)機能(事前情報取得ユニット)22と、事前情報18に基づきユーザー2の抗加齢能力に関する指標(評価)In19の1つとして最高酸素摂取量(VO2peak、最高酸素摂取量の推定量)19aを算出(推定)する機能(VO2peak算出ユニット)23aと、ユーザー2の運動(活動)の開始を判断する自発運動検出ユニット24とを含む。抗加齢能力推定ユニット21は、事前情報18に基づきユーザー2の抗加齢能力の指標In19の1つとして認知機能検査の結果(CFI、認知機能評価の推定結果)19bを推定する認知能力推定ユニット23bを含んでいてもよい。抗加齢能力推定ユニット21は、身体能力推定ユニットとして機能してもよく、精神能力推定ユニットとして機能してもよい。
【0023】
自発運動検出ユニット24は、加速度センサー11aなどから自発運動の開始を検出してもよく、自発運動の開始をユーザー2に知らせるためのカウントダウン(CD)を、ユーザーインターフェイス13を介してユーザー2に提供してもよい。事前情報18は、心拍数17aとともに他の情報、例えば、脳血流、心拍数、総末梢血管抵抗(全末梢血管抵抗)、血圧、酸素摂取量および組織酸素飽和度のいずれかまたは複数の情報を含んでいてもよい。メモリー15には、最高酸素摂取量算出、エネルギー消費量の算出などに要するユーザーの属性情報150が記録されており、それぞれの算出処理において参照される。属性情報150の一例は、年齢、体重であり、本例においては、最高酸素摂取量などの具体的な身体能力および精神能力の推定において年齢Ageが参照され、エネルギー消費量の算出において体重Wが参照される。
【0024】
クラウド9を介して端末10と通信可能なサーバーシステム50は、クラウド9を介して測定データ16を受信するインターフェイス51と、測定データ16などを格納するデータベース52と、端末10から提供される情報、例えば測定データ16に基づきユーザー2の活動を解析するユニット54と、測定データ16および解析ユニット54の処理結果に基づいてユーザー2に活動方針などについてのアドバイスを行うサービスプロバイダ(アドバイザー)ユニット53とを含む。解析ユニット54は、端末10のモニタリングユニット20と、抗加齢能力推定ユニット21との機能を備えていてもよい。抗加齢能力推定ユニット21は、身体能力推定ユニットとして機能してもよく、精神能力推定ユニットとして機能してもよい。
【0025】
アドバイザーユニット53は、推定された被験者の抗加齢能力に関わる指標Inに基づき、抗加齢能力の維持または向上に関する運動処方をアドバイスする機能を含んでいてもよい。すなわち、アドバイザーユニット(アドバイザー)53は、定期的にデータベースに格納された、各ユーザーの抗加齢能力の指標In、例えば、体力(最高酸素摂取量)19aおよび/または認知機能19b、消費エネルギー量の履歴52aなどを参照し、各ユーザー2が計画したスケジュールと、各運動処方に対して得られた抗加齢能力に関する指標Inの改善または悪化に対する処方をアドバイスしたり、過剰または過少な運動(エネルギー消費)に対するアラームを提供したり、抗加齢能力(身体機能や精神機能)に基づき生活環境・活動環境のアドバイスを提供するなどの機能を含む。
【0026】
上述したように、体力は20歳代をピークとし、それ以降、10歳加齢するごとに10%ずつ低下すると言われており、この体力低下と医療費とに相関があることが知られている。したがって、もし運動処方により、10%体力が向上すれば、20%医療費が削減できる。これを目指して、これまで1日一万歩が推奨されてきた。しかしながら、この方法は、個人の体力にあった運動処方ではなく、運動強度が考慮されていない。そのため、体力が上がらない、という問題が指摘されている。
【0027】
一方、体力の向上には、ジムでマシントレーニングを行うのが、国際標準である。この際、呼気ガス分析によりVO2peakを測定し、トレーニング強度を決定する。しかしながら、場所と時間の制約があり、トレーニングのための費用を考えると必ずしも誰でもできるという方法ではない。それに対して、発明者らは、インターバル速歩トレーニング(IWT)を提唱している。
【0028】
IWTを始めとする体力増進トレーニングを実施する上での1つの課題は、最大体力(最高酸素摂取量VO2peak)を求めることである。従来、最高酸素摂取量VO2peakは、ジムで自転車エルゴメータ、トレッドミルなどの運動負荷装置を用い、負荷漸増し、個人の最大値まで追い込んだときの酸素消費量から求めることがルーチンであった。これに対し、本願の発明者らは、まず、体育館などのフィールドで3段階ステップアップ歩行を実施し、その際の運動量を携帯型カロリー計で測定した値と従来のマシンを使った値が一致することを明らかにし、わざわざジムに行かなくてもフィールドで簡便に最高酸素摂取量VO2peakが測定できることを明らかにした。
【0029】
図2に、3段階ステップアップ歩行により最高酸素摂取量VO2peakを求める方法を示している。この方法では、被験者に低速111、中速112、高速113で歩いてもらい、最高速で歩いている際の最後の1分の酸素摂取量115を加速度計から推定し、最高酸素摂取量VO2peakとする。具体的には、体育館など平らな床面が確保できる場所で、被験者に携帯型カロリー計を腰に装着させ、安静、ゆっくり111、中くらい112、最大の速さ113の歩行を3分間ずつ段階的に負荷し、最大の速さで歩いたときの最後の1分問のエネルギー消費量を個人の最高酸素摂取量(最大運動強度)VO2peakとし、その際の心拍数116を最高心拍数とする。
【0030】
図3に、本願の発明者らが測定した、3段階ステップアップ歩行により求められた最高酸素摂取量VO2peakの推定値を、自転車エルゴメータ負荷漸増法と呼気ガス分析器で求めた最高酸素摂取量VO2peakに対してプロットした結果を示している。両者が非常によく相関していることがわかる。3段階ステップアップ歩行法によれば、呼気ガス分析器が不要であり、簡単に最高酸素摂取量VO2peakを得ることができる。したがって、以降においては、3段階ステップアップ歩行により求められた最高酸素摂取量VO2peakを実測値として事前情報18により算出される最高酸素摂取量VO2peakの推定値と比較する。
【0031】
すなわち、3段階ステップアップ歩行により求められる最高酸素摂取量VO2peakは十分に精度も高く、従来の方法と比較すると簡易であるが、被験者2が、体育館などに出かけて、最大体力を発揮する状態まで追い込まないといけないという条件がある。体力測定のための時間、労力を考えれば、生活の中で、無理せずに、さらに簡単に最高酸素摂取量VO2peakが得られることが望ましい。
【0032】
これに対し、本願の発明者らは、運動開始前の脳心血管反応が、個々の被験者(ユーザー)2のピーク有酸素能力、すなわち最高酸素摂取量VO2peakと関連することを見出した。自発運動前のカウントダウン(CD)が脳の活性化と昇圧反応を引き起こし、続いて筋肉の血管拡張が起き、これらの応答は個々の被験者2のピーク有酸素容量VO2peakに関連付けられることを見出した。
【0033】
図4に、14人の青年におけるCD+およびCD-を用いたサイクル運動の開始前に測定された被験者の身体情報17を示す。CD+条件においては、運動の開始は30秒のカウントダウン(CD1)によって合図された。CD-条件においては、運動はCDなしで開始された。CD+条件では、運動を始める前に、さらに次の単語CD2およびCD3が与えられた。CD2は「15秒前」という言葉が与えられ、CD3は、「10、9、8…1、運動開始」という言葉で運動開始時に与えられた。この例においては、身体情報17として、被験者の脳血流CBF、心拍数HR、心拍出量CO、平均動脈圧(Mean Arterial Pressure、MAP)、相互相関のZ変換値(Z transformed R(t)、ZR(t)、(R(t)は、収縮期血圧の変化(Δsystolic arterial pressure)と、心拍数変化(ΔHR)、酸素消費量VO2、総末梢抵抗TPR、および筋組織中の酸素飽和度(組織酸素飽和度、Oxygen Saturation in the muscle tissue、StO2)を含む。図4には、-90秒から、破線で示したベースラインからの変化(Δ)として表されている。各値の30秒平均と標準誤差S.E.とが14人の被験者に対するバーとして1秒毎に示されている。なお、ZR(t)は、移行期、CDの±5秒間および運動の±5秒間には決定されなかった。実線は、CD+状態を示し、点線は、CD-状態を示す。また、図中の「*」は、CD-条件に対して有意な差(P<0.05)がある部分を示す。「(CD+対CD-)×時間」で示す相互作用効果において、全ての変数で有意な差(すべて、P<0.008)が認められた。
【0034】
図5図8に、年齢層の異なる2つの群の実験により得られた事前情報18に含まれる身体情報17のいずれかの第1の情報、本例においては心拍数17aの変化(変動)を示す取得データS(X軸)と、3段階ステップアップ歩行により求められた最高酸素摂取量VO2peak(実測VO2peak、Y軸、ml/kg/min)との関係を示している。図5は、若年者群により自発運動として自転車半座位3cの運動を行った場合を示し、図6は、高齢者群により自発運動として自転車半座位3cの運動を行った場合を示し、図7は、高齢者群により自発運動として自転車アップライト3bの運動を行った場合を示し、図8は、高齢者群により自発運動として歩行3aを行った場合を示している。
【0035】
図9(a)に若年者群に含まれる27人の諸特性を示している。また、図9(b)に高齢者群に含まれる33人の諸特性を示している。図10に、カウントダウンのプロトコルを示している。図5図7に示した実験においては、運動開始時(t0)から30秒前の第1の時点(第1の時間(t1)、-30秒)に最初のカウントダウンCDとして「あと30秒で運動を開始してください」のメッセージを発信し、15秒前に「あと15秒で開始してください」のメッセージを発信し、続いて「10秒前,9,8,・・・1,運動を始めてください」というコールにより時刻(自発運動開始時)t0に運動が開始された。図8に示した実験においては、運動開始時(t0)から15秒前の第1の時点(第1の時間(t1)、-15秒)に最初のカウントダウンCDとして「あと15秒で運動を開始してください」のメッセージを発信し、続いて「10秒前,9,8,・・・1,運動を始めてください」というコールにより時刻(自発運動開始時)t0に運動が開始された。
【0036】
図11に、事前情報18として得られる心拍数17aの典型的な例を示している。最初のカウントダウンが通知された時刻t1(-30秒)以降に心拍数が上昇していることがわかる。本例においては、事前情報取得ユニット22が、事前情報18に含まれる心拍数(第1の情報)17aの変化を取得データSとして算出する機能を含む。具体的には、式(3)に基づき、被験者に自発運動開始t0までの所定の時間、例えば30秒を示す開始前情報(カウントダウン)を与えた第1の時点t1(-30秒)から自発運動開始までの心拍数17aの第1の平均値S1と、第1の時点t1の直前の心拍数17aの第2の平均値Sbとの比S1/Sbを取得データSとして求める。
S=S1/Sb ・・・(3)
第1の平均値S1は、-30秒から0秒までの心拍数の平均値HRs1で求められ、その前の第2の平均値Sbは、-35秒から-30秒までの心拍数の平均値HRbaseで求めることができる。最初のカウントダウンの通知時刻(第1の時間t1)が-15秒の実験においては、第1の平均値S1は、-15秒から0秒までの心拍数の平均値HRs1であり、その前の第2の平均値Sbは、-20秒から-15秒までの心拍数の平均値HRbaseで求めることができる。
【0037】
事前情報18に含まれる心拍数17aなどの身体または認知機能との相関が認められる第1の情報の変化(変数)に関する取得データSは、開始前情報(カウントダウン)が与えられた時刻t1から自発運動開始時点t0までの期間(第1の期間)の状態(値、変位、変動)を、その前の期間の状態(値、ベースラインBL)を基準として評価したデータであればよく、平均値の比に限られない。例えば、取得データSは、開始前情報(カウントダウン)が与えられた時刻t1(例えば、-30秒)から自発運動開始時点t0までの期間(第1の期間、本例においては、-30秒から0秒)の曲線と、その前の期間(例えば、-90秒から-30秒)により求められるベースラインBLとの面積の積算で求めてもよく、その他の方法により求めてもよい。
【0038】
図12に、図5~8に示した全データを示している。若年者群の自転車半座位は〇、高齢者群の自転車半座位は×、高齢者群の自転車アップライトは△、高齢者群の歩行は□により示している。これらのデータを回帰分析すると、図12に示しているように、最高酸素摂取量VO2peak(実測VO2peak、Y軸)と、心拍数17aの変動S1/Sbとの間に正の相関があることがわかる。ただし、決定係数Rは0.2705(p<0.01)である。
【0039】
図13に、若年者群の自転車半座位(〇)と、高齢者群の自転車半座位(×)とについて、最高酸素摂取量VO2peak(実測VO2peak、Y軸)と、心拍数17aの変動S1/Sbとの間で回帰分析を行い、その結果得られた以下の一次関数(回帰式)(A)により得られた最高酸素摂取量VO2peak(推定VO2peak、X軸)を、最高酸素摂取量VO2peak(実測VO2peak、Y軸)に対して示している。なお、回帰式の信頼区間を破線により示している。
VO2peak = -85.504 + 120.442×S1/Sb ・・・(A)
最高酸素摂取量VO2peakの単位はml/kg/minであり、心拍数17aの平均S1およびSbはbeats/minである。
【0040】
図14に、若年者群の自転車半座位(〇)と、高齢者群の自転車半座位(×)について、最高酸素摂取量VO2peak(実測VO2peak、Y軸)と、心拍数17aの変動S1/Sbと、被験者の年齢Ageとの間で重回帰分析を行い、その結果得られた以下の一次関数(回帰式、一次多項式)(B)により得られた最高酸素摂取量VO2peak(推定VO2peak、X軸)を、最高酸素摂取量VO2peak(実測VO2peak、Y軸)に対して示している。なお、回帰式の信頼区間を破線により示している。
VO2peak = -25.314 -0.239×Age +71.774×S1/Sb ・・・(B)
回帰式(A)により得られた推定VO2peakと実測VO2peakとの相関の決定係数Rは0.2901(p<0.001)であったのに対し、年齢を含めた多重回帰分析による回帰式(B)により得られた推定VO2peakと実測VO2peakの決定係数Rは0.5256(p<0.001)である。したがって、回帰式(B)により、心拍数17aの変動S1/Sbに基づきさらに精度よく最高酸素摂取量VO2peakが推定できることがわかる。
【0041】
図15に、若年者群の自転車半座位(〇)と、高齢者群の自転車半座位(×)とに加え、高年齢者群の自転車アップライト(△)と、高年齢者群の歩行(□)とについて、最高酸素摂取量VO2peak(実測VO2peak、Y軸)と、心拍数17aの変動S1/Sbと、被験者の年齢Ageと、運動要素の1つである体位D1との間で重回帰分析を行い、得られた以下の一次関数(回帰式、一次多項式)(C)により得られた最高酸素摂取量VO2peak(推定VO2peak、X軸)を、最高酸素摂取量VO2peak(実測VO2peak、Y軸)に対して示している。
VO2peak = -25.166 -0.226×Age +62.703×S1/Sb+8.764×D1
・・・(C)
ただし、運動要素D1は半座位が「1」、他は「0」である。年齢に加え、体位を含めた多重回帰分析による回帰式(C)により得られた推定VO2peakと実測VO2peakの決定係数Rは0.7716(p<0.01)である。したがって、今回の実験によって得られた全てのデータに対し、年齢および体位を考慮した回帰式(C)により、心拍数17aの変動S1/Sbに基づきさらに精度よく最高酸素摂取量VO2peakを推定できることがわかる。
【0042】
半座位の運動において係数がプラスになることは、最高酸素摂取量VO2peakが同じ者の場合、立位と比較して半座位の方がカウントダウン時の心拍数の上昇度が小さいことを示唆している。この現象は、臥位に近い半座位での自発運動においては、末梢から心臓へ戻る血液の量が増え、心臓が伸展され、バゾプレシンの分泌が抑制されることに起因すると考えられる。例えば、臥位ではカウントダウンによる反応がほぼ消滅することが、Kazumasa Manabe, et al. “Countdown before voluntary exercise induces muscle vasodilation with decreased muscle sympathetic nerve activity in humans”(The FASEB Journal, 20 Apr 2018)に報告されている。
【0043】
このように事前情報18を得ることにより、簡易に、身体機能の指標Inの1つである最高酸素摂取量VO2peakが推定できることが分かった。最高酸素摂取量VO2peakの算出に際し、被験者の自発運動開始直前の事前情報18に含まれる第1の情報、本例では心拍数17aの変化の取得データSと被験者の年齢Ageとを変数として含む一次関数を用いることにより、若年者あるいは高齢者に限定せずに、全ての年齢の被験者に対して、精度よく最高酸素摂取量VO2peakを推定できる。年齢Ageを変数として含む一次関数(一次多項式)の一例は以下の式(11)である。
VO2peak=c11+c12・Age+c13・S ・・(11)
S=S1/Sb ・・・(3)
【0044】
事前情報18として取得される第1の情報として心拍数17aを採用し、その変動データSとしてカウントダウン前後の平均値の比を示す式(3)を採用した場合の係数c11(ml/kg/min)、c12(ml/kg/Year/min)およびc13(ml/kg/min)の一例は以下の通りである。
-85.072<c11<34.445
-0.351<c12<-0.128
16.341<c13<127.208・・・(B11)
【0045】
実験により得られた年齢Ageの係数c2はマイナスであり、最高酸素摂取量VO2peakが同程度の被験者の場合、若年者と比較して高齢者の方がカウントダウン時の心拍数の上昇度が大きいことを示唆している。したがって、事前情報18に基づき最高酸素摂取量VO2peakを推定する方法は、高齢者の体力を推定する方法として適しており、高齢者に対して体力測定の負荷を軽減でき、より精度よく体力の変化をモニタリングすることができる。
【0046】
さらに、姿勢(体位)などの運動要素が異なる自発運動を行う際においては、事前情報18を得て、姿勢を考慮することにより、さらに精度よく最高酸素摂取量VO2peakを推定できることが分かった。最高酸素摂取量VO2peakの算出に際し、被験者の自発運動開始直前の事前情報18の第1の情報、例えば、心拍数17aの変化Sと、被験者の年齢Ageと、体位などの運動要素Diとを変数として含む一次関数(一次多項式)を用いることにより、年齢に加えて、自発運動の種類を限定することなく、精度よく最高酸素摂取量VO2peakを推定できる。年齢Ageに加えて自発運動の体位を含む運動要素Diを変数として事前情報18に含まれる第1の情報の変動に関わる取得データSにより被験者の最高酸素摂取量VO2peakを求める一次関数の一例は以下の式(12)である。
VO2peak=c1+c2・Age+c3・S+Σdi・Di ・・(12)
【0047】
事前情報18として心拍数17aを採用し、その変動データSとしてカウントダウン前後の平均値の比を示す式(3)を採用し、運動要素として体位D11(半座位の運動の際に「1」、立位の運動の際に「0」)を考慮した場合の係数c11、c12、c13、d11(ml/kg/min)の一例は以下の通りである。
-64.333<c11<14.001
-0.304<c12<-0.148
26.815<c13<98.591
5.381<d11<12.146 ・・・(C12)
【0048】
図16に、端末10において、抗加齢能力を示す指標Inとして身体能力の1つの最高酸素摂取量VO2peakを求めるプロセスをフローチャートにより示している。ステップ121において、モニタリングユニット20は、身体情報17を含む測定データ16を連続して取得してメモリー15に格納する。ステップ121において、身体情報17を含む測定データ16は実質的に連続して記録されていればよく、過去の全ての測定データ16を記録してもよく、所定の期間の測定データ16をサイクリックに記録してもよい。また、連続して記録されることには、測定データ16が数10m秒程度の間隔で断続的に記録されることも含まれる。
【0049】
ステップ122において、体力測定ユニットとして機能している抗加齢能力推定ユニット21の自発運動検出ユニット24は、測定データ16に含まれる加速度情報から自発運動開始のタイミングt0を取得する。自発運動検出ユニット24は、被験者2に自発運動開始を示すカウントダウンCDを通知する機能を備えていてもよい。
【0050】
ステップ123において、自発運動が検出されると、例えば、CDがゼロになると、事前情報取得ユニット22は、メモリー15に記録された、自発運動開始前の身体情報17の中から、自発運動開始時点t0に先立つ、自発運動開始直前の事前情報18を抽出(取得)する。事前情報取得ユニット22は、被験者に自発運動開始までの所定の時間を示す開始前情報(カウントダウン、CD)を与えた第1の時点(第1の時間)t1から自発運動開始の時点t0までの第1の期間の事前情報18の中の第1の情報、本例では心拍数17aの第1の平均値S1と、第1の時間t1の直前の事前情報の第2の平均値Sb(例えば、第1の時間t1の5秒前からの平均)との比S1/Sbを取得データSとして求める機能を備えていてもよい。上記においては、カウントダウンは30秒前、または15秒前から開始されるが、カウントダウンの開始はこれらの期間(秒数、分数)に限定されない。
【0051】
ステップ124において、VO2peak算出ユニット23aが、事前情報18に基づき被験者の最高酸素摂取量VO2peakを算出する。VO2peak算出ユニット23aは、最高酸素摂取量VO2peakを式(11)により求める第1の算出機能を含んでいてもよく、最高酸素摂取量VO2peakを式(12)により求める第2の算出機能を含んでいてもよい。事前情報18は、被験者2の自発運動開始直前の脳血流CBF、心拍数HRおよび総末梢血管抵抗TPRの少なくともいずれかの情報を含んでいればよく、上記においては第1の情報として心拍数HRの情報17aを用いた例を説明したが他の情報を用いて最高酸素摂取量VO2peakを推定してもよい。事前情報18は、被験者2の脳血流CBF、心拍数HR、総末梢血管抵抗TPRの他に、心拍出量CO、血圧(例えば平均動脈圧MAP)、酸素摂取量VO2および組織酸素飽和度(StO2)の少なくともいずれかの情報を含んでいてもよい。これらの処理を行うアプリケーション(プログラム、プログラム製品)15aは、記録媒体に記録して提供してもよく、ネットワークを介して提供してもよい。
【0052】
上記では、自発運動がカウントダウンにより開始された被験者2の事前情報18を取得することを含む方法を示している。これに代わり、またはこれとともに、端末10により、日常活動時の心拍数HRと活動量をモニターし、活動の開始直前のHRの上昇の程度から最高酸素摂取量VO2peakを推定してもよい。最高酸素摂取量VO2peakの高い人では、運動開始前の事前情報18に含まれる心拍数HR17aの上昇度が大きいのに対して、最高酸素摂取量VO2peakの低い人では、心拍数HR17aの上昇度が小さい。また、上記では、カウントダウンを行うことにより運動開始時点(活動開始時点)を被験者に認識させているが、日常生活または運動において、被験者は自ら運動開始を意識した時点で、脳血流量が上昇し、心拍数が上昇し、筋血管拡張することによる総末梢抵抗の低下がみられ、それらを事前情報18として取得することができる。被験者は日常生活の中で、無理なく、簡便に最高酸素摂取量VO2peakを知ることができ、最高酸素摂取量VO2peakの変動を、日常的に継続して記録することができる。
【0053】
端末10は、モニタリングユニット20と連動してインターバル速歩トレーニングIWTの実施を被験者2にガイドするインターバル速歩トレーナ機能(インターバル速歩トレーナユニット、IWTユニット)30を含んでもよい。IWTユニット30は、加速度センサー11aおよび高度計11bより、IWT中の酸素摂取量VO2を計算する。歩行中の酸素消費量の推定値VO2を求める推定式(1)については、本願の発明者らの「Yamazaki T, Gen-no H, Kamijo Y, Okazaki K, Masuki S, and Nose H. A new device to estimate VO2 during incline walking by accelerometry and barometry. Med Sci Sports Exerc, 41: 2213-2219, 2009」に開示されている。
【0054】
IWTユニット30は、普通歩行をガイドする第1のユニット31と、速歩をガイドする第2のユニット32と、IWTの履歴やIWTによる消費エネルギー量を管理するマネージメントユニット33とを含んでもよい。第1のユニット31は、数10m秒程度の適当な間隔で酸素消費量VO2を推定し、普通歩行の継続時間を管理し、所定の時間、例えば3分が経過すると、速歩への移行を促すガイドを出力する。第2のユニット32は、求められた酸素消費量VO2が最高酸素摂取量VO2peakの70%を超えると、その速度を維持することを、音声などを用いてガイドし、その後、所定の時間、例えば3分が経過すると、普通歩行へ移行することを促すガイドを出力する。この端末10においては、体力測定ユニット(抗加齢能力推定ユニット)21により随時、被験者(ユーザー)2の最高酸素摂取量VO2peak19aを測定し、その値を更新することができる。このため、被験者2のその時の状態に合致した条件でIWTをガイドすることができ、被験者2に無理なく、また、体力の増強が見込まれる強度で、IWTを実施させることができる。
【0055】
発明者らの研究によると、(1)若年者(または高齢者)で、最高酸素摂取量の高い人ほど、自発運動開始時の心拍応答が高いという結果、(2)若年者(または高齢者)で、最高酸素摂取量が高い人ほど、自発運動開始時の脳血流の上昇程度が高いという結果が得られている。
【0056】
さらに、(3)高齢者で運動トレーニングによって、最高酸素摂取量(VO2peak)が上昇すると、認知機能の評価結果(CFI)が上昇するという結果が得られており、高齢者において、自発運動開始時の心拍応答や脳血流上昇などから認知機能を推定することができる。すなわち、モニタリングシステム1は、自発運動開始時の心拍応答17aから、身体能力のみならず、精神能力の指標Inである認知機能の評価が可能であり、本発明により、心拍応答に基づく認知機能の評価を含む抗加齢能力の評価方法を提供でき、さらに、抗加齢能力の評価システムを提供できる。
【0057】
図17に運動トレーニングとしてインターバル速歩(IWT)を行った被験者と、行わなかった被験者(CNT)との最高酸素摂取量VO2peakの変化ΔVO2peak(図17(a))、LSDスコアーの変化ΔLSDスコアー(図17(b))、認知機能の変化ΔCFIスコアー(図17(c))を示している。インターバル速歩を行った被験者(IWT)の変化は、週4日、一日あたり30分のインターバル速歩(合計15分速歩、15分通常歩行)を5か月行った後の変化を示している。IWTでは、最高酸素摂取量VO2peakが増加(体力が増加)し、LSDスコアーが低下し、認知機能が向上していることがわかる。
【0058】
図18に、認知機能の変化ΔCFスコアーと最高酸素摂取量VO2peakの変化ΔVO2peakとの相関(図18(a))と、認知機能の変化ΔCFスコアーとLSDスコアーの変化ΔLSDスコアーとの相関(図18(b))を示している。最高酸素摂取量VO2peakが増加すると認知機能CFIスコアーは改善し、LSDスコアーが低下すると認知機能CFIスコアーが改善する傾向があることがわかる。
【0059】
このモニタリングシステム1の抗加齢能力推定ユニット21は、事前情報18に基づきユーザー2の精神能力に関わる認知機能検査の評価結果(CFI)19bを推定する認知機能推定ユニット23bを含む。認知機能検査(認知力テスト)の一例は、上述した浦上式認知症簡易スクリーニングであり、15点満点で認知機能を検査する。
【0060】
図19に示した特性の被験者を年齢層で分けた実験により得られた認知機能の評価に関する実験結果を図20図23に示している。実験結果は、事前情報18に含まれる身体情報17のいずれかの第1の情報、本例においても心拍数17aの変化(変動)を示す取得データS(X軸)と、認知機能検査の結果(CFI、点数、15点満点)との関係を示している。図20は、若年者群により自発運動として自転車半座位3cの運動を行った場合を示し、図21は、高齢者群により自発運動として自転車半座位3cの運動を行った場合を示し、図22は、高齢者群により自発運動として自転車アップライト3bの運動を行った場合を示し、図23は、高齢者群により自発運動として歩行3aを行った場合を示している。
【0061】
カウントダウンのプロトコルは図10に示したものと同様である。心拍数(第1の情報)17aの変化を取得データSは、式(3)に基づき、被験者に自発運動開始t0までの所定の時間、例えば30秒を示す開始前情報(カウントダウン)を与えた第1の時点t1(-30秒)から自発運動開始までの心拍数17aの第1の平均値S1(認知機能の実験例ではS1HRとして示す)と、第1の時点t1の直前の心拍数17aの第2の平均値Sb(認知機能の実験例ではbaseHRとして示す)との比S1HR/baseHRを取得データSとして求める。
【0062】
図24に、図20~23に示した全データを示している。若年者群の自転車半座位は×、高齢者群の自転車半座位は■、高齢者群の自転車アップライトは▲、高齢者群の歩行は〇により示している。これらのデータを回帰分析すると、図24に示しているように、認知機能の評価結果(実測)と、心拍数17aの変動S1HR/baseHRとの間に正の相関があることがわかる。ただし、決定係数Rは0.1844(p<0.001)である。
【0063】
図25に、若年者群の自転車半座位と、高齢者群の自転車半座位と、高年齢者群の自転車アップライトと、高年齢者群の歩行とについて、認知機能の評価結果の実測値(実測CFI)と、心拍数17aの変動S1HR/baseと、被験者の年齢Ageと、運動要素の1つである体位D1との間で重回帰分析を行い、得られた以下の一次関数(回帰式、一次多項式)(D)により得られた認知機能の評価結果(推定CFI、X軸)を、認知機能の評価結果の実測値(実測CFI、Y軸)に対して示している。
CFI= 7.154 -0.008×Age +6.0153×S1HR/baseHR+0.921×D1
・・・(D)
ただし、運動要素D1は半座位が「1」、他は「0」である。年齢に加え、体位を含めた多重回帰分析による回帰式(C)により得られた推定CFIと実測CFIの決定係数Rは0.6408(p<0.001)である。したがって、今回の実験によって得られた全てのデータに対し、年齢および体位を考慮した回帰式(D)により、心拍数17aの変動S1HR/baseHRに基づき精度よく認知機能を推定できることがわかる。
【0064】
このように、被験者の年齢を考慮し、さらに、姿勢(体位)などの運動要素が異なる自発運動を行う際においては、姿勢を考慮することにより、最高酸素摂取量VO2peakと同様に、精度よく認知機能の評価結果CFIを推定できることが分かった。したがって、被験者の認知機能を推定する際に、被験者の自発運動開始直前の事前情報18の第1の情報、例えば、心拍数17aの変化の取得データSと、被験者の年齢Ageと、体位などの運動要素Diとを変数として含む一次関数(一次多項式)を用いることにより、年齢、自発運動の種類を限定することなく、精度よく推定できる。年齢Ageに加えて自発運動の体位を含む運動要素Diを変数として事前情報18に含まれる第1の情報の変動に関わる取得データSにより被験者の認知機能の評価結果CFIを求める一次関数の一例は以下の式(22)である。
CFI=c21+c22・Age+c23・S+Σdi・Di ・・(22)
【0065】
認知機能の評価結果CFIとして浦上式認知症簡易スクリーニング(15点満点)を採用し、事前情報18として心拍数17aを採用し、その変動データSとしてカウントダウン前後の平均値の比を示す式(3)を採用し、運動要素として体位D21(半座位の運動の際に「1」、立位の運動の際に「0」)を考慮した場合の係数c21(ml/kg/min)、c22(ml/kg/min/year)、c23(ml/kg/min)、d21(ml/kg/min)の一例は以下の通りである。
3.255<c21<11.052
-0.17<c22<-0.002
2.560<c23<9.470
0.582<d21<1.260・・・(C22)
【0066】
端末10において、抗加齢能力に関する指標Inとして認知機能の評価結果CFIを求めるプロセスは、図16に示した最高酸素摂取量VO2peakを求めるプロセスと共通する。すなわち、ステップ121において、モニタリングユニット20は、身体情報17を含む測定データ16を連続して取得してメモリー15に格納する。ステップ122において、認知機能評価ユニットとして機能する抗加齢能力推定ユニット21の自発運動検出ユニット24は、測定データ16に含まれる加速度情報から自発運動開始のタイミングt0を取得する。ステップ123において、自発運動が検出されると、例えば、CDがゼロになると、事前情報取得ユニット22は、メモリー15に記録された、自発運動開始前の身体情報17の中から、自発運動開始時点t0に先立つ、自発運動開始直前の事前情報18を抽出(取得)する。事前情報取得ユニット22は、心拍数17aの第1の平均値S1(S1HR)と、第1の時間t1の直前の事前情報の第2の平均値Sb(baseHR)との比S1/Sb(S1HR/baseHR)を取得データSとして求める。ステップ124において、VO2peak算出ユニット23aの代わりにCFI算出ユニット23bが、事前情報18に基づき被験者の認知機能の評価結果CFIを推定する。CFI算出ユニット23bは、認知機能の評価結果CFIを式(22)により求める算出機能を含んでいてもよい。事前情報18は、被験者2の自発運動開始直前の脳血流CBF、心拍数HRおよび総末梢血管抵抗TPRの少なくともいずれかの情報を含んでいればよく、上記においては第1の情報として心拍数HRの情報17aを用いた例を説明したが他の情報を用いても認知機能の評価結果CFIを推定できることは最高酸素摂取量VO2peakと同様である。事前情報18は、被験者2の脳血流CBF、心拍数HR、総末梢血管抵抗TPRの他に、心拍出量CO、血圧(例えば平均動脈圧MAP)、酸素摂取量VO2および組織酸素飽和度(StO2)の少なくともいずれかの情報を含んでいてもよい。
【0067】
このように事前情報18を得ることにより、被験者が運動を行うたびに、抗加齢能力に関する指標(評価)Inを簡単に推定することが可能となる。上記に示した抗加齢能力の指標Inの一例は、身体能力に関する最高酸素摂取量VO2peakであり、他の例は、神経能力に関する認知機能の評価結果(認知力検査結果)CFIであり、これらを簡単に精度よく推定できることを示した。抗加齢能力のこれらの指標Inの算出に際し、被験者の自発運動開始直前の事前情報18に含まれる第1の情報、本例では心拍数17aの変化の取得データSと被験者の年齢Ageとを変数として含む一次関数を用いることにより、若年者あるいは高齢者に限定せずに、全ての年齢の被験者に対して、精度よく、抗加齢能力の指標Inを推定できる。年齢Ageを変数として含む一次関数(一次多項式)の一例は以下の式(1)であり、事前情報18に含まれる第1の情報として心拍数17aを採用し、その変動データSとしてカウントダウン前後の平均値の比を示す式(3)を採用した場合の係数c1、c2およびc3の一例は式(B11)に示すものである。
In=c1+c2・Age+c3・S ・・(1)
S=S1/Sb ・・・(3)
【0068】
さらに、姿勢(体位)などの運動要素が異なる自発運動を行う際においても、事前情報18を得ることにより、簡易に、運動を行う都度、抗加齢能力の指標Inを推定できることを示した。年齢Ageに加えて自発運動の体位を含む運動要素Diを変数として事前情報18の変動Sにより被験者の抗加齢能力に関する指標Inを求める一次関数の一例は以下の式(2)である。事前情報18として心拍数17aを採用し、事前情報の変動Sとしてカウントダウン前後の平均値の比を示す式(3)を採用し、運動要素として体位D1(半座位の運動の際に「1」、立位の運動の際に「0」)を考慮した場合の係数c1、c2、c3、d1の一例は式(C12)および式(C22)に示すものである。
In=c1+c2・Age+c3・S+Σdi・Di ・・(2)
【0069】
以上に説明したように、抗加齢能力の維持および・または改善には、個人の状態、例えば、体力、精神力にフィットしたトレーニングが大切である。本発明により、トレーニングを行うたびに、さらにはトレーニングの開始時に、被験者の抗加齢能力を推定することが可能であり、被験者の状態に適した、安全で効果的な運動処方を提供でき、また、その成果を評価することができる。特に、身体機能の指標として最高酸素摂取量VO2peak、精神能力の指標として認知機能の評価結果CFIを簡便に推定(測定)できることは重要である。体力増進のトレーニングの1つとして、最大体力(最高酸素摂取量VO2peak)を意識したインターバル速歩は認知機能の向上あるいは維持にも有用であり、本発明において提供するデバイス(端末)10により、個々のユーザー2の状態に適当した、特に、抗加齢能力の向上に適したトレーニングを提供できる。
【符号の説明】
【0070】
1 モニタリングシステム、 10 ユーザー端末(デバイス)、 50 サーバーシステム
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