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特開2022-8097疎氷性コーティング及びコーティングされた物品
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022008097
(43)【公開日】2022-01-13
(54)【発明の名称】疎氷性コーティング及びコーティングされた物品
(51)【国際特許分類】
   C09D 163/04 20060101AFI20220105BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20220105BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20220105BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
C09D163/04
C09D183/04
C09D7/20
B05D7/24 302U
B05D7/24 302R
B05D7/24 302L
B05D7/24 302Y
B05D7/24 301B
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021084737
(22)【出願日】2021-05-19
(31)【優先権主張番号】16/906,560
(32)【優先日】2020-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】596064112
【氏名又は名称】ポール・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】Pall Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ヌードセン, バーナード
【テーマコード(参考)】
4D075
4J038
【Fターム(参考)】
4D075AA00
4D075AB00
4D075AC57
4D075AC64
4D075BB13X
4D075BB16X
4D075CA02
4D075CA39
4D075CA44
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA19
4D075DA25
4D075DB01
4D075DB07
4D075DB13
4D075DB14
4D075DB31
4D075DC08
4D075DC15
4D075DC16
4D075EA05
4D075EA07
4D075EB16
4D075EB33
4D075EB37
4D075EB43
4D075EB53
4D075EB56
4D075EC30
4D075EC51
4D075EC54
4J038DB071
4J038DL071
4J038JA17
4J038JA33
4J038KA06
4J038MA07
4J038MA09
4J038NA07
4J038PB06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】物品の表面の氷の形成を抑制する方法であって、物品の表面に塗布されると表面に耐久性疎氷性コーティングが形成される、コーティング組成物を提供する。
【解決手段】ポリ(フェニルグリシジルエーテル)-co-ホルムアルデヒド及び硬化剤を含むエポキシ樹脂、フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂、並びに特定のハンセン溶解度パラメーターを有する2種類の溶媒を含む、溶媒混合物を含む、疎氷性コーティング組成物が提供される。さらに、上流表面及び下流表面を有する多孔質媒体を備える、コーティングされたフィルターであって、少なくとも上流表面が、コーティング組成物から形成されたコーティングを有する、コーティングされたフィルターが提供される。コーティングされた物品、並びにコーティングされた物品を形成する方法、及び氷の形成を抑制する方法もまた記載される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(フェニルグリシジルエーテル)-co-ホルムアルデヒド及び硬化剤を含むエポキシ樹脂、
フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂、並びに
溶媒混合物であり、
ハンセン溶解度パラメーター14≦δ≦17、6≦δ≦13、及び4≦δ≦8の第1の溶媒、及び
ハンセン溶解度パラメーター16≦δ≦19、4≦δ≦9、及び11≦δ≦15の第2の溶媒
を含む、溶媒混合物
を含む、コーティング組成物。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂が、約153℃未満のガラス転移温度を有する、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂及びフルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂が、前記溶媒混合物に可溶性である、請求項1又は2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂対前記フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂の比が、85:15~60:40である、請求項1~3のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
第1の溶媒対前記第2の溶媒の比が、90:10~98:2である、請求項1~4のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項6】
コーティングされた物品を形成する方法であって、請求項1~5のいずれか一項に記載のコーティング組成物を前記物品の表面の少なくとも一部分に塗布するステップを含む、方法。
【請求項7】
前記コーティング組成物を塗布するステップの前に、前記コーティング組成物を調製するステップをさらに含み、
前記コーティング組成物を調製するステップが、
前記第1の溶媒及び第2の溶媒を含む混合溶媒を用意すること、
前記混合溶媒に前記フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂を溶解すること、並びにその後、
前記混合溶媒に前記エポキシ樹脂を溶解すること
を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
溶液が、約1.25wt%以下の溶解されたフルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記コーティング組成物を塗布するステップが、噴霧、浸漬、スピニング、ワイピング、ローリング、又はそれらの組合せを含む、請求項6~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記コーティング組成物を塗布するステップの後で、前記コーティング組成物を硬化にさらす、請求項6~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記硬化を、前記第1の溶媒の大部分が前記コーティング組成物から蒸発した後で行う、請求項11に記載の方法。
【請求項12】
上流表面及び下流表面を有する多孔質媒体を備える、コーティングされたフィルターであって、前記上流表面が、請求項1~5のいずれか一項に記載のコーティング組成物から形成されたコーティングを有する、コーティングされたフィルター。
【請求項13】
前記コーティングが、1~500μmの厚さを有する、請求項13に記載のコーティングされたフィルター。
【請求項14】
前記コーティングが、前記フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂の大部分を含む、前記上流表面と反対の最外側の層、前記エポキシ樹脂の大部分を含む、前記上流表面に隣接する最内側の層、並びに前記フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂及びエポキシ樹脂の混合物を含む、前記最外側の層と最内側の層との間に介在する層を含む、請求項13又は14に記載のコーティングされたフィルター。
【請求項15】
物品の表面の氷の形成を抑制する方法であって、
請求項1~5のいずれか一項に記載のコーティング組成物を前記物品の表面の少なくとも一部分に塗布するステップ、及び
前記コーティング組成物を硬化させて、異なる組成を有する異なる層を含むコーティングをもたらすステップ
を含む、方法。
【請求項16】
前記コーティングが、前記フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂の大部分を含む、前記表面と反対の最外側の層、前記エポキシ樹脂の大部分を含む、前記表面に隣接する最内側の層、並びに前記フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂及びエポキシ樹脂の混合物を含む、前記最外側の層と最内側の層との間に介在する層を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項17】
前記コーティング組成物を塗布するステップの前に、前記コーティング組成物を調製するステップをさらに含み、
前記コーティング組成物を調製するステップが、
前記第1の溶媒及び第2の溶媒を含む混合溶媒を用意すること、
前記混合溶媒に前記フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂を溶解すること、並びにその後、
前記混合溶媒に前記エポキシ樹脂を溶解すること
を含む、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項18】
前記物品が、フィルターデバイスである、請求項16~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記フィルターデバイスが、多孔質媒体と、入口及び出口を有し、且つ流体流路を横切るハウジング中に配置された多孔質フィルターエレメントで前記入口と前記出口との間の流体流路を画定するハウジングとを含む、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
[0001]航空における氷結状態は、航空機の氷の蓄積を引き起こし、悪影響を及ぼす可能性がある。従来、グリコールと水との混合物である除氷液を加熱し、航空機に噴霧して、氷及び雪を除去している。さらなる氷結を防止するために、除氷液と類似したより濃縮された組成物を有する第2の防氷液を任意選択で塗布してもよい。しかし、除氷液を塗布するプロセスは、速さ及び完璧さを含め、氷の蓄積を防止する能力に影響を及ぼす。除氷コーティングは一時的であり、表面は、氷結状態が存在するたびに毎回、再コーティングしなければならない。さらに、除氷液は、航空機の外部表面に塗布され、氷結しやすい可能性が同様にある内部部品には塗布されない。
【0002】
[0002]その上、航空機が高い高度で飛行する場合、燃料フィルター、マニホールド、及びバルブなどの航空機の様々な部品に氷が形成される可能性があり、これらの部品における氷の蓄積は航空機に悪影響を及ぼし得る。特に、航空機燃料フィルターにおける氷の蓄積は、航空機エンジンの性能を妨害し、悪影響を及ぼし得る。
【0003】
[0003]したがって、耐久性コーティングで表面の氷の蓄積を防止する必要性が未だにある。
【発明の簡単な概要】
【0004】
[0004]本発明は、ポリ(フェニルグリシジルエーテル)-co-ホルムアルデヒド及び硬化剤を含むエポキシ樹脂、フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂、並びに溶媒混合物であり、(i)ハンセン溶解度パラメーター14≦δ≦17、6≦δ≦13、及び4≦δ≦8の第1の溶媒及び(ii)ハンセン溶解度パラメーター16≦δ≦19、4≦δ≦9、及び11≦δ≦15の第2の溶媒を含む、溶媒混合物を含む、コーティング組成物を提供する。
【0005】
[0005]さらに、フィルターなどのコーティングされた物品を形成する方法であって、コーティング組成物を物品の表面の少なくとも一部分に塗布するステップを含む、方法が提供される。コーティングされた物品は、氷を落とし、氷の形成を抑制することになる。その上、コーティングされた物品は、コーティングが疎水性でも親水性でもないので、水を吸収しないか、又はコアレッサーとして働かないことになる。したがって、上流表面及び下流表面を有する多孔質媒体を備える、コーティングされたフィルターであって、少なくとも上流表面がコーティング組成物から形成されたコーティングを有する、コーティングされたフィルターが提供される。
【0006】
[0006]本発明は、物品の表面の氷の形成を抑制する方法であって、コーティング組成物を物品の表面の少なくとも一部分に塗布するステップ、及びコーティング組成物を硬化させて、異なる組成を有する異なる層を含むコーティングをもたらすステップを含む、方法もまた、提供する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の疎氷性コーティングの略図である。
図2】本発明のコーティングへの氷の付着を測定するための試験技術の略図である。
図3A】本発明の実施形態に従ってコーティングできる、図解した航空機燃料フィルターの斜視図である。
図3B図3Aに示された航空機燃料フィルターの部分切り取り図である。
図4】本発明の実施形態に従ってコーティングできる、航空機燃料フィルターデバイスハウジング(燃料フィルターを含むことが示されている)を備える、図解した航空機燃料フィルターデバイスの等角側面図である。
図5A】本発明の実施形態に従ってコーティングできる、別の航空機燃料フィルターハウジングの等角側面図である。
図5B図5Aに示された別の航空機燃料フィルターハウジングの等角正面図である。
図5C図5Aに示された別の航空機燃料フィルターハウジングの上面図である。
図6A】本発明の実施形態に従ってコーティングできる、さらに別の航空機燃料フィルターハウジングの等角側面図である。
図6B図6Aに示されたさらに別の航空機燃料フィルターハウジングの等角正面図である。
図6C図6Aに示されたさらに別の航空機燃料フィルターハウジングの上面図である。
図7A】本発明の実施形態に従ってコーティングできる、航空機のためのデバイス中のバルブ(バイパスバルブとして示されている)及びフィルターの等角図である。
図7B図7Aに示された航空機のためのデバイス中のバルブ(バイパスバルブとして示されている)及びフィルターの断面図である。
図7C図7Bに示された細部Bの拡大図である。
【発明の詳細な説明】
【0008】
[0014]本発明は、物品の表面に塗布されると表面に耐久性疎氷性コーティングが形成される、コーティング組成物を提供する。疎氷性であることに加えて、コーティングは、コーティングされた基体に他の粘着性物質が付着するのを防止するために、さらに使用できる。したがって、ポリ(フェニルグリシジルエーテル)-co-ホルムアルデヒド及び硬化剤を含むエポキシ樹脂、フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂、並びに溶媒混合物であり、(i)ハンセン溶解度パラメーター14≦δ≦17、6≦δ≦13、及び4≦δ≦8の第1の溶媒及び(ii)ハンセン溶解度パラメーター16≦δ≦19、4≦δ≦9、及び11≦δ≦15の第2の溶媒を含む、溶媒混合物を含む、コーティング組成物が提供される。コーティング組成物の成分が、高温及び薬品に対する耐性並びに低い機械的柔軟性を有する、基体の表面のコーティング層の形成を可能にすることが分かった。
【0009】
[0015]コーティングされた物品が航空機燃料フィルターである場合、余分な氷を保持する容量を必要としないので、疎氷性コーティングによって、フィルターのサイズ及び重量を削減できる。
【0010】
[0016]エポキシ樹脂は、ポリ(フェニルグリシジルエーテル)-co-ホルムアルデヒド及び硬化剤を含む。必要とあれば、その他の成分、例えば、触媒及び/又は希釈剤が、コーティング層の形成を可能にするためにエポキシ樹脂中に存在できる。ポリ(フェニルグリシジルエーテル)-co-ホルムアルデヒドは、式(I)
【化1】

のエポキシフェノールポリマーであり得て、
式中、Rは、H又はアルキル(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル)であり、ベンゼン環の間の結合は、オルト-オルト、オルト-パラ、及び/又はパラ-パラである。ポリ(フェニルグリシジルエーテル)-co-ホルムアルデヒドの数平均分子量は、典型的に、約2,000g/mol以下(例えば、約1500g/mol以下、約1200g/mol以下、約1000g/mol以下、約800g/mol以下、約700g/mol以下、又は約600g/mol以下)である。ポリ(フェニルグリシジルエーテル)-co-ホルムアルデヒドの特定の例は、CAS登録番号28064-14-4(数平均分子量約570g/mol)を有する。エポキシフェノールポリマーは、市販で購入できるか、又はノボラックポリマー及びエピクロロヒドリンから合成できる。ノボラックポリマーは、フェノール及びホルムアルデヒドから得られる低分子量ポリマーとして、当技術分野において既知である。
【0011】
[0017]硬化剤は、いずれかの適切なエポキシ樹脂硬化剤、例えば、アミン(例えば、脂肪族アミン、変性脂肪族アミン、脂環式アミン、芳香族アミン、アミドアミン、ポリアミド、及びそれらの付加物)、酸(カルボン酸などの有機酸及びそれらの酸無水物)、フェノール、アルコール、チオール、又はそれらのいずれかの組合せである。硬化剤の詳細な例としては、例えば、アミノエチルピペラジン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、メチレンジアニリン、N-(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミアゾール、ジシアノジアミド、ヘキサヒドロフタル酸無水物、メラミン、フェノール、尿素ホルムアルデヒド、三フッ化ホウ素とのアミン錯体(例えば、三フッ化ホウ素モノエチルアミン)、三塩化ホウ素とのアミン錯体(例えば、三塩化ホウ素N,N-ジメチルオクチルアミン)、ベンジルジメチルアミン、イソ酪酸、ヘキサン酸、ピバル酸、ヒドロキシピバル酸、シクロヘキサンカルボン酸、1-メチルシクロヘキサンカルボン酸、安息香酸、2-メチル安息香酸、3-メトキシ安息香酸、3-メトキシ安息香酸、2-エトキシ安息香酸、4-エトキシ安息香酸、フェノール、ノニルフェノール、脂肪族アルコール-アルキレンオキシド付加物、メタンジチオール、プロパンジチオール、シクロヘキサンジチオール、2-メルカプトエチル-2,3-ジメルカプトスクシネート、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール(2-メルカプトアセテート)、ジエチレングリコールビス(2-メルカプトアセテート)、1,2-ジメルカプトプロピルメチルエーテル、ビス(2-メルカプトエチル)エーテル、トリメチロールプロパントリス(チオグリコレート)、ペンタエリトリトールテトラ(メルカプトプロピオネート)、ペンタエリトリトールテトラ(チオグリコレート)、エチレングリコールジチオグリコレート、トリメチロールプロパントリス(β-チオプロピオネート)、ジ-、トリス-又はテトラ-メルカプトベンゼン、ビス-、トリス-又はテトラ-(メルカプトアルキル)ベンゼン、ビス-、トリス-又はテトラ-(メルカプトアルキルチオ)アルカン、ジメルカプトビフェニル、トルエンジチオール、ナフタレンジチオール、アミノ-4,6-ジチオール-sym-トリアジン、アルコキシ-4,6-ジチオール-sym-トリアジン、アリールオキシ-4,6-ジチオール-sym-トリアジン、1,3,5-トリス(3-メルカプトプロピル)イソシアヌレート、ビス(メルカプトアルキル)ジスルフィド、ヒドロキシアルキルスルフィドビス(メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシアルキルスルフィドビス(メルカプトアセテート)、メルカプトエチルエーテルビス(メルカプトプロピオネート)、1,4-ジチアン-2,5-ジオールビス(メルカプトアセテート)、チオジグリコール酸ビス(メルカプトアルキルエステル)、チオジプロピオン酸ビス(2-メルカプトアルキルエステル)、4,4-チオ酪酸ビス(2-メルカプトアルキルエステル)、3,4-チオフェンジチオール、ビスマスチオール、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール、及びそれらの組合せが挙げられる。好ましい実施形態において、硬化剤は、アミン付加物(例えば、三塩化ホウ素N,N-ジメチルオクチルアミン)などのアミンである。
【0012】
[0018]好ましくは、エポキシ樹脂は一液系であり、ポリ(フェニルグリシジルエーテル)-co-ホルムアルデヒド及び硬化剤が、使用の前に同じ容器中にある。いくつかの実施形態において、エポキシ樹脂は、コーティングされた物品の作動温度未満のガラス転移温度を有する。例えば、エポキシ樹脂のガラス転移温度は、約153℃未満(例えば、約145℃未満、約140℃未満、約135℃未満、又は約130℃未満)であり得る。エポキシ樹脂の実施形態のいずれにおいても、エポキシ樹脂は、室温で、透明で、安定していて(例えば、室温で6か月間安定した有効期間を有し)、フィラーを含有せず、及び/又は航空宇宙用流体ヒートソーク(例えば、スカイドロール(SKYDROL)(商標)、Jet-A、MIL-PRF-23699、及びMIL-PRF-83282)において分解しない。
【0013】
[0019]フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂は、本明細書に記載されている通り、エポキシ樹脂と一緒に適切なコーティングを形成する、いずれかのフルオロシリコーンゴムである。本明細書で使用されるとき、フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂は、少なくとも1個のフルオロ置換基(例えば、1、2、又は3個のフルオロ置換基、好ましくは3個のフルオロ置換基)を含有するジオルガノシロキサン単位の大部分を含む。用語「大部分」は、ポリシロキサンの少なくとも50mol%(例えば、少なくとも60mol%、少なくとも70mol%、少なくとも80mol%、又は少なくとも90mol%)が、フルオロ置換ジオルガノシロキサン単位を含むことを指す。
【0014】
[0020]フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂は、式(II)
【化2】

を有することができ、
式中、R1~5は、同じ又は異なり、それぞれアルキルであるが、ただし、R及びRのうちの少なくとも1つはフルオロ置換アルキルである、Rは、アルケニルである、並びにXのそれぞれの例は、同じ又は異なり、それぞれH又はアルキル置換シリル基である。下付きのmは1~1000の整数であり、下付きのnは0又は1~500の整数であり、oは0又は1~500の整数である。m、n、及びoに関連する繰り返し単位は、それぞれのポリマー鎖においてランダムに配置できる。いくつかの実施形態において、(i)Rはメチルであり、Rは3,3,3,-トリフルオロプロピルであり、n及びoはそれぞれ0である、(ii)R、R、及びRはそれぞれメチルであり、Rは3,3,3,-トリフルオロプロピルであり、oは0である、並びに(iii)R、R、R、及びRはメチルであり、Rは3,3,3-トリフルオロプロピルであり、Rはエテニルである。これらの実施形態のいずれにおいても、Xは、OH又は-Si(Me)OHである。好ましくは、フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂は、3,3,3,-トリフルオロプロピル置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂である。
【0015】
[0021]好ましくは、フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂は、コーティングされた物品の作動温度未満のガラス転移温度を有する、及び/又は航空宇宙用流体ヒートソーク(例えば、スカイドロール(商標)、Jet-A、MIL-PRF-23699、及びMIL-PRF-83282)において分解しない。
【0016】
[0022]本明細書の実施形態のいずれにおいても、用語「アルキル」は、例えば、約1~約45個の炭素原子(例えば、約1~約30個の炭素原子、約1~約20個の炭素原子、約1~約12個の炭素原子、約1~約8個の炭素原子、約1~約6個の炭素原子、又は約1~約4個の炭素原子)を含有する、直鎖又は分枝状アルキル置換基を意味する。アルキル基の例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、n-ヘキシル等が挙げられる。アルキルは、本明細書に記載されている通り、置換又は非置換であり得る。実施形態において、アルキルは、フルオロなどの、1つ又は複数(例えば、1、2、3、4、5、又は6)の部分で置換されている。アルキルがアルキレン鎖(例えば、-(CH-)である場合でさえも、アルキル基は、本明細書に記載されている通り、置換又は非置換であり得る。
【0017】
[0023]本明細書の実施形態のいずれにおいても、用語「アルケニル」は、本明細書で使用されるとき、例えば、約2~約18個の炭素原子(例えば、約2~約12個の炭素原子、約2~約10個の炭素原子、約2~約8個の炭素原子、約2~約6個の炭素原子)を含有する、直鎖状アルケニル置換基を意味する。実施形態に従って、アルケニル基は、C~Cアルケニルである。アルケニル基の例としては、エテニル、アリル、2-プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、1-ペンテニル、2-ペンテニル、3-ペンテニル、1-ヘキセニル等が挙げられる。アルケニルは、本明細書に記載されている通り、置換又は非置換であり得る。
【0018】
[0024]エポキシ樹脂対フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂の比は、約85:15~60:40である。フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂の量が15wt%未満である場合、コーティングは、有効に氷を落とさないことが分かった。エポキシ樹脂が60wt%未満である場合、エポキシは、頑強な表面を形成しないことがさらに分かった。或る実施形態において、エポキシ樹脂対フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂は、約80:20~70:30、特に、約80:20である。
【0019】
[0025]いくつかの実施形態において、コーティング組成物は、ポリシランを含有しない。
【0020】
[0026]コーティング組成物は、ハンセン溶解度パラメーター(HSP)によって最もよく定義された2種の溶媒を含む、溶媒混合物を含む。ハンセン溶解度パラメーターは、Hansen,C.、Hansen Solubility Parameters,A User’s Handbook、第2版、2007に収載されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。HSPは、分子間の分散力からのエネルギーを特徴付けるδ、分子間の双極性分子間力からのエネルギーを特徴付けるδ、分子間の水素結合からのエネルギーを特徴付けるδの3つのパラメーターに基づいて溶媒を定義する。理論ではあるが、これらの値は、十分確立していて、多くのデータベースに見られる。好ましくは、エポキシ樹脂及びフルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂は、溶媒混合物に少なくとも部分的に又は完全に可溶性である。
【0021】
[0027]第1の溶媒は、14≦δ≦17、6≦δ≦13、及び4≦δ≦8のハンセン溶解度パラメーターを有する。いくつかの実施形態において、第1の溶媒は、15≦δ≦17、7≦δ≦11、及び5≦δ≦7.5のHSPを有する。適切な第1の溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、ブチルグリコールアセテート、1-ニトロプロパン、メチルアセテート、及びプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートが挙げられる。好ましくは、第1の溶媒は、アセトンである。
【0022】
[0028]第2の溶媒は、16≦δ≦19、4≦δ≦9、及び11≦δ≦15のハンセン溶解度パラメーターを有する。いくつかの実施形態において、第2の溶媒は、17≦δ≦18.5、4≦δ≦8.2、及び12≦δ≦14.5のHSPを有する。適切な第2の溶媒としては、例えば、ベンジルアルコール、2-フェノキシエタノ-ル、テトラヒドロフルフリルアルコール、シクロヘキサノール、プロピレングリコールフェニルエーテル、2-クロロフェノール、及びヘキシレングリコールが挙げられる。好ましくは、第2の溶媒は、ベンジルアルコールである。
【0023】
[0029]溶媒混合物は、本明細書に記載されているコーティング層の形成を可能にする、いずれかの適切な比の第1の溶媒対第2の溶媒を含む。或る実施形態において、第1の溶媒対第2の溶媒の比は、90:10~98:2であり得る。第1の溶媒は、より多い量で存在して、フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂の溶解を助ける。好ましい実施形態において、第1の溶媒対第2の溶媒の比は、約98:2である。例えば、溶媒混合物は、約98:2の比のアセトン対ベンジルアルコールを含む。
【0024】
[0030]本発明は、コーティングされた物品、例えば、コーティングされたフィルターエレメント及びフィルター(図3A、及び3Bを参照、内側のフィルターコア及び外側のラップもまた示しているフィルターエレメント210(ひだ状フィルターとして示されている)を含む、フィルター200を示す)、フィルターデバイス(図4を参照、入口1及び出口2からの流体流路を横切ってハウジング本体10中に配置された多孔質フィルターエレメント210を含む多孔質フィルター200を有する、ハウジング本体、並びに入口及び出口を含む、フィルターデバイス2000を示す)、ハウジング本体10、入口1、及び出口2を含むフィルターハウジング1000(図5A~5C及び6A~6Cを参照)、マニホールド、並びに/又はバルブ(図7A~7Cを参照、フィルターを有するバイパスバルブ付きのデバイスを示す)を形成する方法を提供する。この方法は、本明細書に記載されている通り、コーティング組成物を物品の少なくとも1つの表面の少なくとも一部分に塗布するステップを含む。この方法は、コーティング組成物を塗布するステップの前に、コーティング組成物を調製するステップをさらに含むことができる。したがって、方法は、第1の溶媒及び第2の溶媒を含む混合溶媒を用意すること、混合溶媒にフルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂を溶解すること、並びにその後、混合溶媒にエポキシ樹脂を溶解することを含むことができる。
【0025】
[0031]いくつかの実施形態において、溶液が約1.25wt%以下(例えば、約1.1wt%以下、約1wt%以下)の溶解されたフルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂を含むように、フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂を、混合溶媒に加える。特に、フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂は、攪拌及び/又は超音波処理によって混合溶媒に溶解できる。必要とあれば、モニターし、いかなる喪失した第1の溶媒も元に戻すという注意を払う限りは、溶液を、低温(例えば、約30℃)まで加熱できる。いずれの代替の混合スキームも、所望の溶媒比がモニターされ、維持される限り、使用できる。
【0026】
[0032]エポキシ樹脂は、攪拌及び/又は超音波処理を使用して、フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂を含有する混合溶媒に溶解できる。本明細書に記載されている通り、攪拌は、手作業、機械作業、又はその両方であり得る。
【0027】
[0033]塗布は、いずれかの適切な塗布技術、例えば、噴霧、浸漬、スピニング、ワイピング、ローリング、又はそれらの組合せを含むことができる。好ましい実施形態において、コーティング組成物は、コーティングの厚さを制御するために、調節可能な噴霧デバイスを使用して塗布される。コーティング組成物が少なくとも1つの表面に塗布された後で、コーティング組成物はさらに、硬化にさらすことができる。典型的には、硬化は、第1の溶媒の大部分がコーティング組成物から蒸発した後で行う。
【0028】
[0034]好ましい実施形態において、結果として生じるコーティングは、硬く、滑らかで、連続性があり、通常の溶媒(例えば、アルコール又はアセトン)によって、台無しに又は損傷されない。
【0029】
[0035]コーティングは、氷を落とし、はじくことができる限り、いずれの厚さを有してもよい。一般的に、コーティングは、少なくとも約1μm(例えば、少なくとも約5μm、少なくとも約10μm、少なくとも約20μm、少なくとも約50μm、少なくとも約80μm、少なくとも約100μm、少なくとも約110μm、少なくとも約120μm、少なくとも約130μm、少なくとも約140μm、少なくとも約150μm、少なくとも約160μm、少なくとも約170μm、少なくとも約180μm、又は少なくとも約190μm)の厚さを有することになる。典型的には、コーティングは、約500μm以下(例えば、約400μm以下、約350μm以下、約300μm以下、約250μm以下、約200μm以下、約180μm以下、約150μm以下、約120μm以下、約100μm以下、約80μm以下、約50μm以下、約20μm以下、又は約10μm以下)の厚さを有することになる。前述の端点の数値のうちのいずれか2つを使用して、両端が決まっている範囲を定義できるか、又は単一の端点の数値を使用して、両端のいずれかが決まっていない範囲を定義できる。例えば、コーティングは、約1~500μm又は約10~100μm又は約50~200μm又は約100~180μmの厚さを有することができる。スピンコーティングされた層は、噴霧コーティングされた層(例えば、およそ15μm)と比較して厚くなる(例えば、およそ150μm)傾向がある。
【0030】
[0036]フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂は、第1の溶媒に可溶性である一方で、フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂は、第2の溶媒中で非常に限定的な溶解度を有する。溶媒混合物中の溶媒は異なる速度で蒸発するので、フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂が、より可溶性でなくなり、表面へ移動することが分かった。溶媒混合物がおよそ等分の第1及び第2の溶媒を含有する場合、フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂は、溶液から外へ出ることになり、まだそれでも溶解しているエポキシ樹脂の表面に固体浮遊物を形成することになる。結果として生じるコーティング層は、勾配組成物を有し、その後硬化される。特に、コーティング層の勾配(重層化)構造は、フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂の大部分を含む、コーティングされた表面と反対の最外側の層、エポキシ樹脂の大部分を含む、コーティングされた表面に隣接する最内側の層、並びにフルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂及びエポキシ樹脂の混合物を含む、最外側の層と最内側の層との間に介在する層を含む。図1を参照。いかなる理論にも束縛されるものではないが、エポキシに富む層は、結合強度、耐熱性、及び耐薬品性を実現する熱硬化性層であるが、一方、フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂に富む層は、氷を落とすことを実現する熱可塑性層であると考えられる。
【0031】
[0037]コーティングされる物品は、固体又は透過性であり得る。いくつかの実施形態において、物品は、多孔質、透過性、半透性、又は選択透過性であり、除去速度は、ミクロ多孔質又はそれ以上の粗さから、ウルトラ多孔質、ナノ多孔質、又はそれ以上の細かさの範囲内にあり得る。適切なデプスフィルター材料は、多孔質媒体の最終用途に応じて、約0.1μm~約100μm(例えば、約0.1~10μm)、約0.005μm~約0.1μm、又は約0.001μm~約0.01μmの範囲内の多孔度を有する。
【0032】
[0038]さらに、物品は、いずれかの適切な材料、例えば、金属性材料、セラミック材料、ガラス、ポリマー材料、又はそれらの組合せから作ることができる。
【0033】
[0039]本発明における使用にとって適切な金属材料としては、例えば、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、タンタル、アルミニウム、銅、金、銀、白金、亜鉛、ニッケルチタン合金(ニチノール)、並びにニッケル、クロム、及び鉄の合金(インコネル(INCONEL)(商標)、Special Metals, Corporation、Elkhart、IN)、イリジウム、タングステン、ケイ素、マグネシウム、スズ、亜鉛メッキ鋼、溶融亜鉛メッキ鋼、電気亜鉛メッキ鋼、焼き鈍した溶融亜鉛メッキ鋼、前述の金属のいずれかの合金、前述の金属のいずれかを含有するコーティング、並びにそれらの組合せが挙げられる。いくつかの実施形態において、金属性材料は、焼結される。
【0034】
[0040]本発明における使用にとって適切なセラミック材料としては、例えば、希土類の酸化物、アルミン酸塩の酸化物、ケイ酸塩の酸化物、チタン酸塩の酸化物、窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、アルミナ、シリカ、二酸化チタン、及びそれらの組合せが挙げられる。いくつかの実施形態において、セラミック材料は、焼結される。
【0035】
[0041]本発明における使用にとって適切な天然ポリマー材料としては、例えば、多糖体(例えば、綿、セルロース)、シェラック、コハク、ウール、絹、天然ゴム、及びそれらの組合せが挙げられる。
【0036】
[0042]本発明における使用にとって適切な合成ポリマー材料としては、例えば、ポリビニルピロリドン、アクリル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン、ポリアクリロニトリル、アセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリイミド、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン(例えば、高密度ポリエチレン)、ポリジメチルシロキサン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンジフルオリド、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンイミン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリオルトエステル、ポリ酸無水物、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシブチレートバレレート、ポリラクトン、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、並びにそれらのコポリマー及び組合せが挙げられる。いくつかの実施形態において、ポリマー材料は、焼結される。
【0037】
[0043]これらの方法に従って、上流表面及び下流表面を有する多孔質媒体を備える、コーティングされたフィルターであって、少なくとも上流表面が、本明細書に記載されたコーティング組成物から形成されたコーティングを有する、コーティングされたフィルターが提供される。図3A、3B、及び4は、本発明の実施形態に従ってコーティングできる多孔質媒体を備える、図解したフィルターエレメント及び図解したフィルターデバイスを示す。多孔質媒体は、フィルター内に組み立てられる前にコーティングできるか、又はフィルターが部分的に組み立てられる間にコーティングできるか、又は組み立てられたフィルター内でコーティングできる。所望であれば、多孔質媒体の上流及び下流表面の両方を、コーティングできる。フィルターを形成する多孔質媒体は、フィッター媒体層、1つ若しくは複数の排水及び/若しくは支持層、並びに/又はクッション層を含む、1つ又は複数の層を有するひだ状又はらせん状に巻かれた透過性シートを含み得る。代替方法としては、多孔質媒体は、透過性中空繊維の束又は透過性の塊、例えば、中空円筒型の透過性の塊を含むことができる。多孔質媒体は、例えば、織若しくは不織のシート、メッシュ、フィラメント若しくは繊維の塊として、又は、例えばシート若しくは中空繊維の形態での、透過性膜として、作り出すことができる。コーティングされる多孔質媒体は、市販の多孔質媒体であってもよい。
【0038】
[0044]さらに、物品、特に、フィルターエレメント及びフィルター(図3A及び3Bを参照、内側のフィルターコア及び外側のラップもまた示す)、フィルターデバイス(図4を参照)、フィルターハウジング(図5A~5C及び6A~6Cを参照)、マニホールド、並びに/又はバルブ(図7A~7Cを参照、バイパスバルブを含むデバイス3000を示す、例えば、コーティングは、バイパスバルブのための入口の壁及びフィルターエレメントのための入口の壁、並びに、スプリング又はワッシャ(ベルビルワッシャとして示されていて、バイパスのための入口に面しているワッシャの少なくとも表面がコーティングされている)などのバルブの少なくとも一部分に塗布でき、図解したデバイス3000は、本発明の実施形態に従ってまたコーティングできる多孔質フィルターエレメント210’を含む、多孔質フィルター200’もまた含む)の表面の氷の形成を抑制する方法が提供される。この方法は、本明細書に記載されている通り、コーティング組成物を物品の表面の少なくとも一部分に塗布するステップ、及びコーティング組成物を硬化させて、異なる組成を有する異なる層を含むコーティングをもたらすステップを含む。特に、コーティングは、フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂の大部分を含む、表面と反対の最外側の層(例えば、フィルター媒体の上流表面)、エポキシ樹脂の大部分を含む、上流表面に隣接する最内側の層(例えば、フィルター媒体の上流表面)、並びにフルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂及びエポキシ樹脂の混合物を含む、最外側の層と最内側の層との間に介在する層を含む。氷の形成を抑制する方法の一部として、コーティング組成物は、本明細書に記載された通りコーティング組成物を塗布するステップの前に調製できる。
【0039】
[0045]或る実施形態において、コーティングされる物品は、フィルターデバイスであり、多孔質媒体と、入口及び出口を有し、且つ流体流路を横切る多孔質媒体で入口と出口との間の流体流路を画定するハウジングとを含む(図4を参照、入口1と出口2との間の流体流路を横切って配置された、ハウジング10中のフィルター200を含む、フィルターデバイス2000を示す)。多孔質媒体及びハウジングの両方ともコーティングできるか、又は多孔質媒体若しくはハウジングのいずれかがコーティングできる。フィルターを形成する多孔質媒体は、本明細書に記載されている通りである。ハウジングは、多孔質媒体の使用を可能にするいずれかの部品、例えば、容器、壁、取り付け具、リザーバー等を含む。フィルターを形成する多孔質媒体及び多孔質媒体の周りのハウジングは、フィルターデバイスの作動温度及び圧力に耐えることができるいずれかの適切な材料から調製できる。多孔質媒体及びハウジングは、互いに同じ又は異なる材料から形成できる。多孔質媒体及びハウジングは、本明細書に記載されている通り、金属性材料、セラミック材料、ガラス、ポリマー材料、又はそれらの組合せから形成できる。多孔質媒体は、透過性の織若しくは不織の繊維状シート、透過性の担持若しくは非担持膜、又は透過性の繊維状の塊の形態であり得て、焼結された金属微粒子若しくは繊維、ガラス繊維、又はポリマー繊維若しくは透過性ポリマーシートを含む、天然又は合成ポリマーから作り出されてもよい。
【0040】
[0046]ハウジングは、金属性材料又はポリマー材料から、好ましくは構成される。例えば、ハウジングは、ステンレス鋼、ポリプロピレン、又は高密度ポリエチレンから形成できる。典型的には、航空機フィルターデバイスのためのハウジングは、金属、例えば、アルミニウム、マグネシウム、ステンレス鋼から、又は金属を含む複合体から形成される。所望であれば、ハウジングは、例えば、鋳造、付加製造、押出成形、及び光重合によって製造できる。
【0041】
[0047]例えば、ハウジングは、付加製造(「付加層製造」又は3Dプリンティングと呼ばれることもある)によって一体化製造でき、典型的には、活性化可能なバインダーと一緒に結合される金属粉末の反復積層(例えば、バインダージェッティング、「ドロップオンパウダー」と呼ばれることもある)によって形成され、典型的には、その後、例えば焼結によって、粉末を凝集できる。その他の適切な方法としては、押出成形(例えば、ペースト押出成形、熱溶解フィラメント製造、及び熱溶解積層法)及び光重合(例えば、光造形法(SLA)及びデジタルライトプロセッシング(DLP))が挙げられる。
【0042】
[0048]本明細書で使用されるとき、用語「約」は、典型的には、値の±1%、値の±5%、又は値の±10%のことである。
【0043】
[0049]以下の実施例は、本発明をさらに例証するものであるが、もちろん、いかなる方法においても本発明の範囲を制限するものと解釈されるべきではない。
【0044】
実施例1
[0050]この実施例は、本発明の実施形態に従ってコーティング組成物を調製する方法を実証する。
【0045】
[0051]アセトン98vol%及びベンジルアルコール2vol%の原液を調製した。シラスティック(SILASTIC)(商標)LS-5-8725フルオロシリコーンゴム8mg(約1wt%)の塊を、原液に溶解した。溶解のために、フルオロシリコーンゴムを、小さく切り分けて、次に、溶解するまでしっかり蓋を閉めて超音波処理した。超音波処理の数時間後、混合物を、攪拌プレートに移し、溶媒が漏れないようにしっかり蓋を閉めて攪拌した。フルオロシリコーンゴムを完全に溶解させたらすぐに、エポキシ樹脂(エピック樹脂(Epic Resins)A0222)32mgを、原液に溶解し、その結果、エポキシ樹脂対フルオロシリコーンゴムの重量比は、約80:20であった。コーティングを、基体の表面に塗布し、コーティングを、使用された特定のエポキシのために推奨される条件に従って、オーブンで硬化させた。
【0046】
実施例2
[0052]この実施例は、本発明の実施形態に従ってコーティング組成物の疎氷特性を試験する方法を実証する。
【0047】
[0053]実施例1で調製された80:20のコーティング組成物を、使用した。同様のコーティング組成物を、エポキシ樹脂:フルオロシリコーンゴム重量比90:10で調製した。それぞれのコーティング組成物を、アルミニウム基体へ塗布して、コーティング層を形成した。試料の氷を、コーティングされた基体の上に置いて、力を加えた。表1に、5回実行された試験の結果を示し、平均値を求めた。
【0048】
【表1】
【0049】
[0054]せん断応力(τice)が100kPa(14.5psi)未満のとき、コーティングは疎氷性と考えられる)。表1に見られる通り、実施例1で調製された80:20のコーティング組成物は、90:10のコーティング組成物よりも、氷を落とすのに4倍超有効であった。
【0050】
[0055]本明細書に引用された全ての参考文献は、公表文献、特許出願、及び特許を含め、それぞれの参考文献が参照により組み込まれると個々に及び詳細に示され、その全体が本明細書に述べられているかのごとく、それと同程度に参照によって本明細書に組み込まれる。
【0051】
[0056]本発明を記載する文脈において(特に、以下の請求の範囲の文脈において)、用語「a」及び「an」及び「the」及び「少なくとも1つ」及び同様の指示対象の使用は、本明細書で特段の指示がないか、又は文脈と明らかに矛盾しない限り、単数及び複数の両方を取り扱うと解釈すべきである。1つ又は複数の品目のリストが後に続く用語「少なくとも1つ」の使用(例えば、「A及びBの少なくとも1つ」)は、本明細書で特段の指示がないか、又は文脈と明らかに矛盾しない限り、収載された品目から選択された1つの品目(A又はB)又は収載された品目の2つ以上のいずれかの組合せ(A及びB)を意味すると解釈されるべきである。用語「comprising(含む、備える)」、「having(有する)」、「including(挙げられる、含む)」、及び「containing(含有する、包含する)」は、特段の記載がない限り、制約のない用語(つまり、「含むが、限定するものではない」を意味する)として解釈されるべきである。本明細書の値の範囲の列挙は、本明細書に特段の指示がない限り、範囲内に収まるそれぞれ別々の値を個々に言及する簡潔な方法として働くことが単に意図されていて、それぞれ別々の値は、本明細書に個々に列挙されているかのごとく、本明細書内に組み込まれる。本明細書に記載された全ての方法は、本明細書で特段の指示がないか、又は文脈と明らかに矛盾しない限り、いずれかの適切な順序で実施できる。例のいずれか及び全ての使用、又は本明細書に与えられた例示の言語(例えば、「などの、例えば」)は、本発明をより明快にすることを単に意図し、特段の請求がない限り本発明の範囲を限定しない。本明細書のいかなる言語も、いずれかの非請求要素が本発明の実施に不可欠であることを示すと、解釈されるべきではない。
【0052】
[0057]本発明の好ましい実施形態は、本発明を実行するために本発明者らにとって既知の最善の方法を含み、本明細書に記載されている。好ましい実施形態の変更形態は、前述の記載を読んですぐに、当業者にとって明白となり得る。本発明者らは、当業者が好適なかかる変更形態を使用することを予期し、本発明者らは、本発明が本明細書に詳細に記載されたのと別の方法で実践されることを意図する。したがって、本発明は、適用可能な法律によって許可されている通り本明細書に添付されている特許請求の範囲に列挙されている対象の全ての改変物及び均等物を含む。さらに、全ての可能な変更形態の上に記載された要素のいずれの組合せも、本明細書で特段の指示がないか、又は文脈と明らかに矛盾しない限り、本発明に網羅される。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
【手続補正書】
【提出日】2021-10-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(フェニルグリシジルエーテル)-co-ホルムアルデヒド及び硬化剤を含むエポキシ樹脂、
フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂、並びに
溶媒混合物であり、
ハンセン溶解度パラメーター14≦δ≦17、6≦δ≦13、及び4≦δ≦8の第1の溶媒、及び
ハンセン溶解度パラメーター16≦δ≦19、4≦δ≦9、及び11≦δ≦15の第2の溶媒
を含む、溶媒混合物
を含む、コーティング組成物。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂が、約153℃未満のガラス転移温度を有する、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂及びフルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂が、前記溶媒混合物に可溶性である、請求項1又は2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂対前記フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂の比が、85:15~60:40である、請求項1~3のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
第1の溶媒対前記第2の溶媒の比が、90:10~98:2である、請求項1~4のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項6】
コーティングされた物品を形成する方法であって、請求項1~5のいずれか一項に記載のコーティング組成物を前記物品の表面の少なくとも一部分に塗布するステップを含む、方法。
【請求項7】
前記コーティング組成物を塗布するステップの前に、前記コーティング組成物を調製するステップをさらに含み、
前記コーティング組成物を調製するステップが、
前記第1の溶媒及び第2の溶媒を含む混合溶媒を用意すること、
前記混合溶媒に前記フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂を溶解すること、並びにその後、
前記混合溶媒に前記エポキシ樹脂を溶解すること
を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
溶液が、約1.25wt%以下の溶解されたフルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記コーティング組成物を塗布するステップが、噴霧、浸漬、スピニング、ワイピング、ローリング、又はそれらの組合せを含む、請求項6~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記コーティング組成物を塗布するステップの後で、前記コーティング組成物を硬化にさらす、請求項6~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記硬化を、前記第1の溶媒の大部分が前記コーティング組成物から蒸発した後で行う、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
上流表面及び下流表面を有する多孔質媒体を備える、コーティングされたフィルターであって、前記上流表面が、請求項1~5のいずれか一項に記載のコーティング組成物から形成されたコーティングを有する、コーティングされたフィルター。
【請求項13】
前記コーティングが、1~500μmの厚さを有する、請求項12に記載のコーティングされたフィルター。
【請求項14】
前記コーティングが、前記フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂の大部分を含む、前記上流表面と反対の最外側の層、前記エポキシ樹脂の大部分を含む、前記上流表面に隣接する最内側の層、並びに前記フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂及びエポキシ樹脂の混合物を含む、前記最外側の層と最内側の層との間に介在する層を含む、請求項12又は13に記載のコーティングされたフィルター。
【請求項15】
物品の表面の氷の形成を抑制する方法であって、
請求項1~5のいずれか一項に記載のコーティング組成物を前記物品の表面の少なくとも一部分に塗布するステップ、及び
前記コーティング組成物を硬化させて、異なる組成を有する異なる層を含むコーティングをもたらすステップ
を含む、方法。
【請求項16】
前記コーティングが、前記フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂の大部分を含む、前記表面と反対の最外側の層、前記エポキシ樹脂の大部分を含む、前記表面に隣接する最内側の層、並びに前記フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂及びエポキシ樹脂の混合物を含む、前記最外側の層と最内側の層との間に介在する層を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記コーティング組成物を塗布するステップの前に、前記コーティング組成物を調製するステップをさらに含み、
前記コーティング組成物を調製するステップが、
前記第1の溶媒及び第2の溶媒を含む混合溶媒を用意すること、
前記混合溶媒に前記フルオロ置換ポリ(アルキルシロキサン)樹脂を溶解すること、並びにその後、
前記混合溶媒に前記エポキシ樹脂を溶解すること
を含む、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
前記物品が、フィルターデバイスである、請求項1517のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記フィルターデバイスが、多孔質媒体と、入口及び出口を有し、且つ流体流路を横切るハウジング中に配置された多孔質フィルターエレメントで前記入口と前記出口との間の流体流路を画定するハウジングとを含む、請求項18に記載の方法。
【外国語明細書】