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特開2022-81038道路橋用コンクリート床版の防水方法及び道路橋用コンクリート床版の防水構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022081038
(43)【公開日】2022-05-31
(54)【発明の名称】道路橋用コンクリート床版の防水方法及び道路橋用コンクリート床版の防水構造
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/08 20060101AFI20220524BHJP
   E01C 11/24 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
E01D19/08
E01C11/24
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020192324
(22)【出願日】2020-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】591063453
【氏名又は名称】日進化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】特許業務法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下山 莉奈
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 伸武
(72)【発明者】
【氏名】焼山 明生
【テーマコード(参考)】
2D051
2D059
【Fターム(参考)】
2D051AA01
2D051AC02
2D051AG01
2D051AG03
2D051AG04
2D051AG17
2D051AH03
2D051CA02
2D059AA14
2D059GG01
2D059GG02
(57)【要約】
【課題】防水性や接着性が高く、低温時における浸透性の高い浸透型防水材を用いた防水方法を提供する。
【解決手段】道路橋用コンクリート床版1上に設けられる防水方法であって、道路橋用コンクリート床版上に浸透型防水材を塗布し、浸透型防水材を道路橋用コンクリート床版の表面部に含浸させた後、硬化させることにより浸透型防水層Aを形成する工程と、浸透型防水層の上にアスファルト防水材を塗布して硬化させることによりアスファルト防水層Bを形成する工程と、を有する。そして、浸透型防水材は、メタクリル酸メチルとアクリル樹脂とを含有する第1液と、硬化剤である第2液との混合物であり、アスファルト防水材は、石油アスファルトを含有する。第1液と第2液との混合物の混合直後の粘度は、5℃において50mPa・s以下であり、第1液には、エポキシアクリレートを含まない。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路橋用コンクリート床版上に設けられる防水方法であって、
前記道路橋用コンクリート床版上に浸透型防水材を塗布し、前記浸透型防水材を道路橋用コンクリート床版の表面部に含浸させた後、硬化させることにより浸透型防水層を形成する工程と、
前記浸透型防水層の上にアスファルト防水材を塗布して硬化させることによりアスファルト防水層を形成する工程と、を有し、
前記浸透型防水材は、メタクリル酸メチルとアクリル樹脂とを含有する第1液と、硬化剤である第2液との混合物であり、
前記アスファルト防水材は、石油アスファルトを含有する、防水方法。
【請求項2】
請求項1記載の防水方法において、
前記第1液と前記第2液との混合物の混合直後の粘度は、5℃において50mPa・s以下である、防水方法。
【請求項3】
請求項1記載の防水方法において、
前記第1液には、エポキシアクリレートを含まない、防水方法。
【請求項4】
請求項1記載の防水方法において、
前記第1液のメタクリル酸メチルとアクリル樹脂との合計量に対するメタクリル酸メチルの割合は、55重量%以上65重量%以下であり、
前記第1液のメタクリル酸メチルとアクリル樹脂との合計量に対するアクリル樹脂の割合は、35重量%以上45重量%以下である、防水方法。
【請求項5】
請求項1記載の防水方法において、
前記アスファルト防水材は、前記石油アスファルトと、熱可塑性エラストマーと、ワックスと、熱可塑性樹脂とを含有する、防水方法。
【請求項6】
請求項5記載の防水方法において、
前記アスファルト防水材に対し、
前記石油アスファルトは、50重量%以上であり、
前記熱可塑性エラストマーは、15重量%以上であり、
前記ワックスは、5重量%以上であり、
前記熱可塑性樹脂は、5重量%以上である、防水方法。
【請求項7】
請求項6記載の防水方法において、
前記アスファルト防水材に対し、
前記熱可塑性エラストマーは、30重量%以下であり、
前記ワックスは、20重量%以下であり、
前記熱可塑性樹脂は、20重量%以下である、防水方法。
【請求項8】
道路橋用コンクリート床版上に設けられる防水構造であって、
前記道路橋用コンクリート床版上の浸透型防水層と、
前記浸透型防水層の上のアスファルト防水層と、を有し、
前記浸透型防水層は、メタクリル酸メチルと、アクリル樹脂と、硬化剤とを含有し、
前記アスファルト防水層は、石油アスファルトを含有する、防水構造。
【請求項9】
請求項8記載の防水構造において、
前記浸透型防水層は、メタクリル酸メチルとアクリル樹脂とを含有する第1液と、硬化剤である第2液との混合物であって、5℃における粘度が50mPa・s以下の混合物を前記道路橋用コンクリート床版上に塗布し、硬化させたものである、防水構造。
【請求項10】
請求項8記載の防水構造において、
前記浸透型防水層は、エポキシアクリレートを含まない、防水構造。
【請求項11】
請求項8記載の防水構造において、
前記浸透型防水層のメタクリル酸メチルとアクリル樹脂との合計量に対するメタクリル酸メチルの割合は、55重量%以上65重量%以下であり、
前記浸透型防水層のメタクリル酸メチルとアクリル樹脂との合計量に対するアクリル樹脂の割合は、35重量%以上45重量%以下である、防水構造。
【請求項12】
請求項8記載の防水構造において、
前記アスファルト防水層は、前記石油アスファルトと、熱可塑性エラストマーと、ワックスと、熱可塑性樹脂とを含有する、防水構造。
【請求項13】
請求項12記載の防水構造において、
前記アスファルト防水層に対し、
前記石油アスファルトは、50重量%以上であり、
前記熱可塑性エラストマーは、15重量%以上であり、
前記ワックスは、5重量%以上であり、
前記熱可塑性樹脂は、5重量%以上である、防水構造。
【請求項14】
請求項13記載の防水構造において、
前記アスファルト防水層に対し、
前記熱可塑性エラストマーは、30重量%以下であり、
前記ワックスは、20重量%以下であり、
前記熱可塑性樹脂は、20重量%以下である、防水構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路橋用コンクリート床版の防水方法及び道路橋用コンクリート床版の防水構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高速道路や橋等は、コンクリート床版とその上に設けられた舗装アスファルト層とを有する。車両等の負荷および風雨に絶えず曝される高速道路や橋等のコンクリート床版には、疲労や雨水の侵入により劣化が促進し、クラックが生じ易くなる。
【0003】
このようなコンクリート床版の劣化を防止するため、コンクリート床版と舗装アスファルト層との間に防水構造を設けることが提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、コンクリート床版に樹脂接着剤を塗布、含浸させた状態で硬化させたエポキシ樹脂接着剤よりなる樹脂接着剤層と、この樹脂接着剤層の上に塗布して硬化させたアスファルト塗膜とで構成される防水層をコンクリート床版に形成させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-57119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、コンクリート床版とその上に設けられた舗装アスファルト層との間の防水構造についての研究開発に従事しており、その研究開発過程において、防水性や接着性が高く、低温時における浸透性の高い浸透型防水材を用いた防水方法や防水構造を見出した。
【0007】
本発明の目的は、特性の良好な防水構造を得ることができる防水方法を提供することにある。また、本発明の目的は、防水構造の特性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0009】
[1]本願において開示される防水方法は、道路橋用コンクリート床版上に設けられる防水方法であって、前記道路橋用コンクリート床版上に浸透型防水材を塗布し、前記浸透型防水材を道路橋用コンクリート床版の表面部に含浸させた後、硬化させることにより浸透型防水層を形成する工程と、前記浸透型防水層の上にアスファルト防水材を塗布して硬化させることによりアスファルト防水層を形成する工程を有し、前記浸透型防水材は、メタクリル酸メチルとアクリル樹脂とを含有する第1液と、硬化剤である第2液との混合物であり、前記アスファルト防水材は、石油アスファルトを含有する。
【0010】
[2]本願において開示される防水構造は、道路橋用コンクリート床版上に設けられる防水構造であって、前記道路橋用コンクリート床版上の浸透型防水層と、前記浸透型防水層の上のアスファルト防水層を有し、前記浸透型防水層は、メタクリル酸メチルと、アクリル樹脂と、硬化剤を含有し、前記アスファルト防水層は、石油アスファルトを含有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の防水方法によれば、特性の良好な防水構造を得ることができる。
【0012】
本発明の防水構造によれば、その特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施の形態1のコンクリート床版の防水構造を示す図である。
図2】実施の形態1のコンクリート床版の防水方法を示す図である。
図3】ワックス添加量と針入度の関係を示すグラフである。
図4】ワックス添加量と軟化点の関係を示すグラフである。
図5】実施の形態4のコンクリート床版の防水構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施の形態1)
以下に図面を参照しながら本実施の形態を説明する。なお、以下の説明においてA~Bは、原則としてA以上B以下を示すものとする。
【0015】
図1は、本実施の形態のコンクリート床版の防水構造を示す図である。図1に示すように、コンクリート床版の防水構造は、コンクリート床版1の表面に形成される浸透型防水層Aと、この上に形成されるアスファルト防水層Bにより構成されている。浸透型防水層Aとアスファルト防水層Bとにより、防水層(防水構造、防水構造体)2が構成される。浸透型防水層は、「樹脂接着層」等と呼ばれることもある。また、アスファルト防水層は、「特殊改質アスファルト層」、「加熱アスファルト塗膜系樹脂層」、「アスファルト塗膜」等と呼ばれることもある。
【0016】
浸透型防水層Aは、アクリル系モノマーとアクリル系樹脂よりなる第1液と、硬化剤(第2液、硬化促進剤、反応促進剤)の混合物(反応物)よりなる。アクリル系モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、これらのエステルなどを用いることができ、中でも、メタクリル酸メチルを用いることが好ましい。アクリル系樹脂としては、アクリル系モノマー(アクリル酸、メタクリル酸、これらのエステル)の重合体などを用いることができ、中でも、ポリメタクリル酸メチルを用いることが好ましい。
【0017】
アクリル系モノマーとアクリル系樹脂の配合比率としては、これらの合計量を100重量%とした場合において、アクリル系モノマーは55重量%~65重量%とすることが好ましく、また、アクリル系樹脂は35重量%~45重量%とすることが好ましい。
【0018】
硬化剤としては、有機過酸化物を用いることができる。
【0019】
ここで、本実施の形態においては、アクリル系モノマーまたはアクリル系樹脂としてエポキシアクリレートを含まない。このように、浸透型防水層Aを、エポキシアクリレートを含まない材料で構成しても、防水層2の特性を向上させることができる。
【0020】
第1液と第2液の混合物の5℃における粘度は50mPa・s以下である。このような粘度の浸透型防水材を用いることにより、コンクリート床版の表面部のマイクロクラック内にも浸透型防水材が均一に浸透し、接着強度を高めることができる。特に、塗布量が多くなる場合においても、接着性、防水性を向上させ、さらに、耐荷性が優れていることにより走行車両による負荷を軽減し、防水構造の延命を図ることができる。
【0021】
アスファルト防水層Bは、石油アスファルトにポリマーを加え、性状を改質したアスファルトよりなる。
【0022】
石油アスファルトとしては、アスファルテンと呼ばれる高分子炭化水素(縮合多環芳香族の層状構造:MW=1,000~100,000)と、マルテンと呼ばれる炭化水素(飽和:MW=300~2,000、芳香族:MW=500~2,000)からなる材料を用いることができる。アスファルテンはヘキサンなどの軽質炭化水素に不溶であり、マルテンは可溶である。アスファルテンの構造の一例を以下に示す。マルテンはレジン(縮合多環芳香族:MW=500~50,000)と油に分けられ、油分にはパラフィンやナフテンがある。レジンは比較的融点が高い樹脂状物質であり、アスファルトの塑性変形性に重要な接着性や可塑性を高める役割を果たす。
【0023】
【化1】
【0024】
ポリマーとしては、熱可塑性エラストマー、熱可塑性樹脂、ポリエチレンなどのポリオレフィン(ワックス)を用いることができる。
【0025】
熱可塑性エラストマー(ゴムを含む)は、弾性を有する高分子であり、熱可塑性、即ち、熱を加えると軟化して流動性を示し、冷却すればゴム状に戻る性質を有する。熱可塑性エラストマーの例としては、SBS(スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体)、SEBS(スチレン-エチレンブチレン-スチレンブロック共重合体)、SEPS(スチレン-エチレンプロピレン-スチレンブロック共重合体)、TPO(オレフィン系熱可塑性エラストマー)、R-TPO(リアクターオレフィン系熱可塑性エラストマー)、TPVC(ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー)、TPEE(ポリエステル系熱可塑性エラストマー)、TPU(ポリウレタン系熱可塑性エラストマー)などが挙げられる。以下にSEBSの一般構造式を示す。
【0026】
【化2】
【0027】
ポリオレフィンは、アスファルト防水層に硬度を付与する役割を果たす。特に、ポリエチレンは耐水性、耐薬品性に優れ、耐寒性と適度な柔軟性を有するため、アスファルト防水材のポリマー成分として用いて好適である。
【0028】
熱可塑性樹脂は、熱可塑性エラストマーやポリエチレンを石油アスファルトに分散させるための相溶化剤としての役割を果たす。熱可塑性樹脂としては、DCPD(ジシクロペンタエン)、C5C9(C5留分およびC9留分を原料とした石油樹脂)、ポリスチレンなどの石油樹脂を用いることができる。このような石油樹脂は、熱可塑性エラストマーのサイドブロックの補強効果を奏し、アスファルト防水層の耐熱性を向上させる役割を有する。
【0029】
このようなアスファルト防水層Bを、浸透型防水層A上に設けることにより、コンクリート床版と、アスファルト防水層B上に設けられる舗装アスファルト層との間の接着性および防水性を向上させることができる。
【0030】
この後、アスファルト防水層B上に、舗装アスファルト層4が形成される。舗装アスファルト層4は、骨材、フィラーおよびアスファルトを混合した材料よりなり、骨材は、例えば、粗骨材や細骨材よりなり、その粒径(ふるい粒径)は19.0~0.075mm程度である。フィラーは、例えば、炭酸カルシウムよりなり、その粒径は0.6~0.075mm程度である。浸透型防水層Aと舗装アスファルト層4との間にレベリング層3を設けてもよい。レベリング層3は、骨材、フィラーおよびアスファルトを混合した材料よりなり、骨材は、例えば、粗骨材や細骨材よりなり、その粒径は13.2~0.075mm程度である。
【0031】
次に、コンクリート床版1上に防水層2を形成する方法について説明する。図2は、本実施の形態のコンクリート床版の防水方法を示す図である。
【0032】
図2(A)に示すように、浸透型防水材ALを調製する。アクリル系モノマーとアクリル系樹脂とを含有する第1液に、硬化剤(第2液)を添加することにより、浸透型防水材ALを形成する。この浸透型防水材ALの5℃における粘度は50mPa・s以下であり、優れた浸透性を有する。
【0033】
次いで、コンクリート床版1の表面に浸透型防水材ALを塗布する(図2(B))。この塗布工程の前に、コンクリート床版1の表面に対してブラスト処理を行ってもよい。ブラスト処理により、コンクリート床版1の表面に凸凹が形成され、接着面積を確保することができる。
【0034】
浸透型防水材ALの塗布方法に制限はないが、浸透型防水材ALをハケやローラー等を用いてコンクリート床版1の表面に塗ることができる。また、本実施の形態の浸透型防水材は低粘度であるためスプレー塗布を行うことができる。この塗布工程により、浸透型防水材がコンクリート床版1の表面に塗布されるとともに、コンクリート床版1の表面のクラックに浸透する。硬化剤(第2液)を添加して浸透型防水材ALを調製した後、コンクリート床版1の表面に塗り広げるまでの時間としては15分以内が好ましい。
【0035】
塗布工程の後、30~50分程度放置することで、コンクリート床版1の表面やクラック内の浸透型防水材ALが硬化し、浸透型防水層Aが形成される(図2(C))。この浸透型防水層Aにより、コンクリート床版1の表面が強化される。
【0036】
次いで、ブロック状の固形アスファルト防水材を200℃以上に加熱し、溶融した後、溶融液を浸透型防水層A上に塗布する(図2(D))。アスファルト防水材の溶融液(BL)の塗布方法に制限はないが、加熱したハケ、金ゴテや金属製のスクイージ等を用いて浸透型防水層Aの表面に塗ることができる。アスファルト防水材を溶融した後、溶融液を浸透型防水層Aの表面に瞬時に塗り広げ、3分程度放置することで、溶融液が凝固(固化)し、アスファルト防水層Bが形成される(図2(E))。このアスファルト防水層Bにより、防水性が向上し、さらに、その上部の舗装アスファルト層(3、4)との一体化を図ることができる。また、アスファルト防水層Bは、ベタつきが少なく、ベタつきを軽減するために散布する珪砂の量を低減する、または珪砂の散布を不要とすることができる。
【0037】
上記工程により、浸透型防水層Aとその上のアスファルト防水層Bとの積層体よりなる防水層2が形成される(図2(E))。
【0038】
(実施例A)
コンクリート片上に浸透型防水材を塗布し、浸透型防水層を形成した。浸透型防水材として、アクリル系モノマーとアクリル系樹脂よりなる第1液(日進化成株式会社製:エポックシールR開発品)と、硬化剤(日進化成株式会社製:エポックシールRの硬化剤)の混合物を用いた。この混合物の5℃における粘度は、50mPa・s以下であった。塗布量は、0.3~0.5kg/mとした。
【0039】
次いで、浸透型防水層上に200℃~230℃に加熱したアスファルト防水材を塗布し、アスファルト防水層を形成した。アスファルト防水材として、石油アスファルト、熱可塑性エラストマー、熱可塑性樹脂およびポリエチレンよりなるアスファルト防水材(日進化成株式会社製:エポックシールAC開発品)を用いた。
【0040】
なお、コンクリート片については、表面に凹凸を付したものと、表面を平滑処理したものとの2種を用い、それぞれについて浸透型防水層およびアスファルト防水層よりなる防水層を形成した。コンクリート表面の凹凸は、平滑なコンクリート片を切削ビットで10mm程度切削して形成した。
【0041】
浸透型防水材およびアスファルト防水材の組成を表1に示す。また、比較例Aとして、A社製の浸透型防水材と開発品のアスファルト防水材を用い、実施例Aと同様にして浸透型防水層およびアスファルト防水層を形成した。A社製の浸透型防水材は、メチルメタクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂、メタクリル樹脂などを含有する。
【0042】
次いで、実施例Aおよび比較例Aのアスファルト防水層上に、舗装アスファルト層を敷設した。
【0043】
【表1】
【0044】
(評価)
実施例Aおよび比較例Aの防水構造について、阪神高速道路株式会社「既設RC床版を対象とした床版防水マニュアル(2020年5月版)」に基づき、性能照査試験を行った。その結果を表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
表2に示すように、防水性試験IIおいては、実施例A、比較例Aとも漏水はなく、上記性能照査試験の判断基準を満たした。
【0047】
また、引張接着試験においては、実施例A、比較例Aとも上記性能照査試験の判断基準を満たしたものの、実施例Aの強度が比較例Aの強度より大きく、より接着性が高いことが判明した。凹凸面を用いた試料についても同様に実施例Aの強度が比較例Aの強度より大きく、より接着性が高いことが判明した。
【0048】
また、せん断試験(EU式)においては、実施例A、比較例Aとも上記性能照査試験の判断基準を満たしたものの、実施例Aの強度が比較例Aの強度より大きく、より接着性が高いことが判明した。凹凸面を用いた試料についても同様に実施例Aの強度が比較例Aの強度より大きく、より接着性が高いことが判明した。特に、比較例Aにおいては、凹凸面におけるせん断強度の低下が大きいことから、凹み部分において浸透型防水層の膜厚が大きくなることで接着性が低下することが原因と考えられる。これに対し、実施例Aにおいては、凹凸面におけるせん断強度の低下がほとんどなく、浸透型防水層の膜厚が不均一であっても、浸透型防水層全体として強固な接着性が得られることが判明した。
【0049】
さらに、せん断試験(EU式)における変位量は、実施例Aの方が比較例Aよりも大きく、応力に対する変形性が高いことが判明した。
【0050】
ここで、コンクリート片上に浸透型防水材の塗布量を変えて浸透型防水層を形成し、せん断試験(EU式)を行った。その結果を、表3に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
表3に示すように、実施例Aおよび比較例Aとも、浸透型防水材の塗布量の増加に伴い最大試験力(強度)や斜めせん断応力は向上する傾向が見られたが、最大点変位(変位量)について、実施例Aの場合は、浸透型防水材の塗布量の増加に伴い増大するが、比較例Aの場合は、浸透型防水材の塗布量の増加に伴い低下した。強度と変位量から仕事量を算出した。
【0053】
高速道路や橋等においては、走行車両の走行方向への応力が加わるため、走行方向へのせん断が懸念される。しかしながら、実施例Aの浸透型防水層においては、走行方向への応力を緩和することができ、特に、コンクリート床版においてその膜厚にばらつきがあるような場合においても、走行車両による応力を緩和することができ、結果として接着性を向上させることができる。別の言い方をすれば、塗布量の微調整をすることなく、良好な接着性を得ることができる。
【0054】
また、水浸引張接着試験においては、実施例A、比較例Aとも上記性能照査試験の判断基準(水浸前の50%以上)を満たした。
【0055】
また、ひび割れ追従性試験Iにおいては、実施例A、比較例Aとも上記性能照査試験の判断基準(折損なし)を満たした。
【0056】
また、局部変形性試験においては、実施例A、比較例Aとも上記性能照査試験の判断基準(透水量0.1mL以下)を満たした。
【0057】
また、耐薬品性試験においては、実施例A、比較例Aとも上記性能照査試験の判断基準を満たした。即ち、飽和水酸化カルシウム溶液および3%塩化ナトリウム溶液について、耐性を有した。
【0058】
このように、実施例Aの防水構造においては、表2に示す基準をすべて満たしていることが判明した。
【0059】
また、比較例Aについては、エポキシアクリレート樹脂(アクリル酸とエポキシ化合物との付加反応物)を含んでいる。エポキシアクリレートは活性なエポキシ基を持ち、活性水素を有する化合物と容易に反応し、架橋構造樹脂となりやすい。このため、接着性が良好となると言われているものの、実施例Aにおいては、エポキシアクリレート樹脂を含まない浸透型防水材を用いたが前述したように比較例Aより良好な特性の防水構造を得ることができた。
【0060】
また、上記実施例Aの浸透型防水層について、阪神高速道路株式会社「既設RC床版を対象とした床版防水マニュアル(2020年5月版)」に基づき、性能照査試験を行った。その結果を表4に示す。
【0061】
【表4】
【0062】
表4に示すように、上記実施例Aの浸透型防水層については、浸透性試験(5℃)、浸透性試験(23℃)、ブリスタリング抵抗性試験、引張接着試験において、すべて基準を満たすことが判明した。舗装におけるブリスタリングとは、床版に含まれる水分や油分が温められることで蒸気圧が大きくなり、防水層に閉じ込められた蒸気が材料表皮を水ぶくれのように持ち上げる現象を言う。上記のとおり、実施例Aの浸透型防水層については、ブリスタリング現象は確認されなかったが、比較例Aにおいては、今回の試験条件下において材料表皮にブリスタリング現象が確認された。
【0063】
(実施の形態2)
本実施の形態については、アクリル系モノマーとアクリル系樹脂よりなる第1液の配合比率について検討した。浸透型防水材のアクリル系モノマーとアクリル系樹脂の組成以外については実施の形態1の場合と同様にして防水構造を得ることができる。
【0064】
(実施例B)
第1A液と第1B液を混合して第1液とした。
【0065】
第1A液と第1B液の組成を表5に、第1A液と第1B液の特性を表6に示す。なお、実施の形態1において説明した比較例Aの浸透型防水材についても、組成および特性をそれぞれの表に示した。
【0066】
【表5】
【0067】
【表6】
【0068】
なお、第1A液は、アクリル樹脂成分が第1B液より多く、粘度が高い。このような二種の材料を混合することにより、容易に第1液を調製することができる。
【0069】
第1A液と第1B液との配合比を重量比において、75:25、50:50、25:75として、第1液を調整し、表4に示す場合と同様にして浸透性試験を行った。その結果を表7に示す。
【0070】
【表7】
【0071】
表7に示すように、第1A液と第1B液との配合比を75~25:25~75で調整しても、浸透深さが10mm以上の基準を満たし、さらに、浸透しすぎることによる浸透型防水層の形成ムラなども確認されなかった。但し、配合比が25:75のものについては、表面塗布面積率が65%であるため、膜厚を確保するために塗布量を増やすことが必要となる。よって、配合比としては、75~50:25~50がより好ましいと言える。また、比較例Aとの対比から配合比として50:50近傍(例えば、45~55:55~45)がさらに好ましいと言える。
【0072】
ここで、第1液と混合する硬化剤は、例えば、冬季においては、第1液:硬化剤を100:5で混合し、夏期においては、第1液:硬化剤を100:1.5で混合する。
【0073】
(実施の形態3)
本実施の形態においては、実施の形態1の防水構造に用いて好適なアスファルト防水層(アスファルト防水材)について説明する。
【0074】
表8は、主に鉄筋コンクリート構造物、鉄骨構造物及びその他これに準じる構造物の防水工事、防湿工事に用いられる一般的なアスファルト塗膜の品質規格であり、表9は、道路橋用コンクリート床版の防水構造体に用いられるアスファルト防水層の品質規格である。
【0075】
【表8】
【0076】
【表9】
【0077】
表8と表9との比較から明らかなように、道路橋用コンクリート床版の防水構造に適用される複合防水工法におけるアスファルト防水層には、高い品質基準が設定されている。
【0078】
例えば、表8と表9との比較から、道路橋用コンクリート床版の防水構造に用いられるアスファルト防水層においては、硬さ(針入度が低いこと)が求められる。各種アスファルトの一般的な性状を調査したところ、表10に示す結果が得られた。例えば、ブローンアスファルト10-20、ブローンアスファルト20-30およびストレートアスファルト20-40について、一般的に針入度を満たす硬い性状であるが、軟化点規格80℃以上を満たしながら伸びに優れているものはなかった。
【0079】
加えて、複合防水工法においては、表9に示す基準の他に、以下の表11に示す新たな評価指標が示されている。
【0080】
【表10】
【0081】
【表11】
【0082】
このように、引張接着試験、せん断試験における強度および変位量の基準値をも満たす必要があるため、上記ブローンアスファルトやストレートアスファルトのような市販のアスファルトでは、各種基準を満たすことが困難であることが分かる。
【0083】
そこで、本発明者らは、表12に示す材料を用いてアスファルト防水層の特性の向上を試みた。以下に詳細に説明する。
【0084】
【表12】
【0085】
(検証1)
ワックスの添加量による軟化点の調整を試みた。ストレートアスファルトにワックスを0~30重量%の範囲で添加し、針入度を測定した。結果を図3に示す。図3は、ワックス添加量と針入度の関係を示すグラフである。横軸がワックス添加量[重量%]であり、縦軸が針入度[mm]である。図3から、針入度の基準値である1mm~5mmを満たすワックス添加量は、5重量%~20重量%、より好ましくは7重量%~15重量%であることが判明した。
【0086】
(検証2)
ワックスの添加量による軟化点の調整を試みた。ストレートアスファルトにワックスを0~30重量%の範囲で添加し、軟化点を測定した。結果を図4に示す。図4は、ワックス添加量と軟化点の関係を示すグラフである。横軸がワックス添加量[重量%]であり、縦軸が軟化点[℃]である。図4から、ワックス添加量を、5重量%以上とすることで、軟化点を80℃以上とできることが判明した。
【0087】
(検証3)
上記検証1、2からワックスの添加量は5重量%~20重量%が好ましく、7重量%~15重量%がより好ましいことが判明したため、以下の検証を行った。
【0088】
ベースアスファルトに対し、ワックスの添加量を最適な10重量%に固定した場合における、熱可塑性エラストマー(TPE)による「引張強度」および「破断時の伸び率」の調整を試みた。熱可塑性エラストマー(TPE)の添加量を0~30重量%の範囲で変化させ、「引張強度」および「破断時の伸び率」を測定した。結果を表13に示す。
【0089】
【表13】
【0090】
表13から、「引張強度(23℃)」の基準である0.35N/mmおよび「破断時の伸び率」の基準である300%を満たすためには、熱可塑性エラストマー(TPE)の添加量を15重量%以上、より好ましくは20重量%以上とする必要があることが判明した。
【0091】
(検証4)
上記検証1、2からワックスの添加量は5重量%~20重量%が好ましく、また、熱可塑性エラストマー(TPE)の添加量は15重量%以上、より好ましくは20重量%以上とすることが判明したため、以下の検証を行った。
【0092】
ベースアスファルトに対し、ワックスの添加量を10重量%に固定し、さらに、熱可塑性エラストマー(TPE)の添加量を20重量%に固定した場合における、タッキファイヤー(熱可塑性樹脂)による「引張接着強度」および「せん断強度」、「変位量」の調整を試みた。タッキファイヤーの添加量を0~30重量%の範囲で変化させ、「引張接着強度」および「せん断強度」、「変位量」を測定した。結果を表14に示す。
【0093】
【表14】
【0094】
表14から、「引張強度」の基準である1.2N/mmを満たすためには、タッキファイヤーの添加量を5重量%以上とする必要があることが判明した。また、タッキファイヤーの添加量が30重量%の場合、「せん断試験(-10℃)」の変位量が0.6であり、基準(0.5以上)は満たすものの、範囲の上限は、30重量%、より好ましくは20重量%以下であることが判明した。
【0095】
以上の検証から得られたアスファルト防水層(アスファルト防水材)の好ましい配合比率を表15に示す。
【0096】
【表15】
【0097】
表15に示す組成範囲のアスファルト防水層(アスファルト防水材)を用いてその性能を評価した。その結果を表16に示す。
【0098】
【表16】
【0099】
表16に示すように、上記アスファルト防水層は、すべての項目について基準を満たし、道路橋用コンクリート床版の防水構造に用いられるアスファルト防水層(アスファルト防水材)として用いて好適であることが判明した。
【0100】
(実施の形態4)
図5は、本実施の形態のコンクリート床版の防水構造を示す図である。図5に示すように、コンクリート床版の防水構造において、路肩に壁(立ち上がり)が形成されていてもよい。このような路肩部5においては、コンクリートの壁面の下方にも浸透型防水材やアスファルト防水材を塗布する必要がある。
【0101】
本発明者らの検討によれば、上記路肩部5において、上記実施の形態1~3で説明した浸透型防水層Aやアスファルト防水層Bを適用した場合においても、接着性や防水性が良好であり、特性の良好な防水構造が得られることが確認できた。
【0102】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態および実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0103】
1 コンクリート床版
2 防水層
3 レベリング層
4 舗装アスファルト層
5 路肩部
A 浸透型防水層
AL 浸透型防水材
B アスファルト防水層
BL アスファルト防水材の溶融液
図1
図2
図3
図4
図5