(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022081089
(43)【公開日】2022-05-31
(54)【発明の名称】走行制御装置
(51)【国際特許分類】
G05D 1/02 20200101AFI20220524BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
G05D1/02 S
G08G1/16 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020192407
(22)【出願日】2020-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】左右田 洋希
【テーマコード(参考)】
5H181
5H301
【Fターム(参考)】
5H181AA27
5H181CC03
5H181CC14
5H181LL01
5H181LL02
5H181LL09
5H181LL11
5H301BB07
5H301CC03
5H301CC06
5H301GG08
5H301LL01
5H301LL06
5H301LL11
5H301LL14
(57)【要約】 (修正有)
【課題】低コスト化及び処理の簡素化を図りつつ、障害物を回避しながら移動体を走行させることができる走行制御装置を提供する。
【解決手段】走行制御装置は、移動体2の前方に存在する障害物4を含む移動体2の周辺環境を検知するレーザセンサと、レーザセンサの検知データに基づいて、移動体2の左右両側において移動体2の前後方向に延びる基準線Kからの距離が最も短い物体の位置を通路幅算出用観測点Qとして設定する観測位置設定部と、観測位置設定部により設定された通路幅算出用観測点Qに基づいて、移動体2が走行可能となる走行可能通路幅Wを算出する通路幅算出部と、通路幅算出部により算出された走行可能通路幅Wに応じた走行可能エリアAを設定する走行エリア設定部と、走行エリア設定部により設定された走行可能エリアAに沿って移動体2を走行させるように制御する走行制御部とを備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の進行方向に存在する障害物を含む前記移動体の周辺環境を検知する検知部と、
前記検知部の検知データに基づいて、前記移動体の左右両側において前記移動体の前後方向に延びる基準線からの距離が最も短い物体の位置をそれぞれ観測位置として設定する観測位置設定部と、
前記観測位置設定部により前記移動体の左右両側にそれぞれ設定された前記観測位置に基づいて、前記移動体が走行可能となる走行可能通路幅を算出する通路幅算出部と、
前記通路幅算出部により算出された前記走行可能通路幅に応じた走行可能エリアを設定する走行エリア設定部と、
前記走行エリア設定部により設定された前記走行可能エリアに沿って前記移動体を走行させるように制御する走行制御部とを備える走行制御装置。
【請求項2】
前記検知部の検知データに基づいて、前記観測位置設定部により設定された前記観測位置に前記移動体が達したかどうかを判断する到達判定部を更に備え、
前記観測位置設定部は、前記到達判定部により前記移動体が前記観測位置に達したと判断したときは、前記移動体の左右両側のうち前記観測位置に達した側において前記観測位置を新たに設定し、
前記通路幅算出部は、前記観測位置設定部により前記移動体の左右両側にそれぞれ設定された最新の観測位置に基づいて、前記走行可能通路幅を新たに算出し、
前記走行エリア設定部は、前記通路幅算出部により新たに算出された前記走行可能通路幅が前回算出された前記走行可能通路幅と異なるときは、前記新たに算出された走行可能通路幅に応じて前記走行可能エリアを更新する請求項1記載の走行制御装置。
【請求項3】
前記走行エリア設定部は、前記新たに算出された走行可能通路幅が前記前回算出された走行可能通路幅よりも広いときは、前記観測位置設定部により新たに設定された観測位置を前記移動体が通過した後に、前記走行可能エリアを更新し、前記新たに算出された走行可能通路幅が前記前回算出された走行可能通路幅よりも狭いときは、前記走行可能エリアを直ちに更新する請求項2記載の走行制御装置。
【請求項4】
前記走行制御部は、前記移動体が前記走行可能エリアから逸脱しないように前記移動体を制御する請求項1~3の何れか一項記載の走行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の走行制御装置としては、例えば特許文献1に記載されている技術が知られている。特許文献1に記載の走行制御装置は、レーザを用いて作業車両から測距点までの距離を測定するライダーセンサと、超音波を用いて作業車両から測距点までの距離を測定するソナーユニットと、車載電子制御ユニットとを備えている。車載電子制御ユニットは、ライダーセンサ及びソナーユニットの測定情報に基づいて、所定距離内の物体や人等の測距点を障害物として検知する障害物検知部と、この障害物検知部により障害物が検知されると、作業車両の衝突回避制御を行う衝突回避制御部とを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術においては、ライダーセンサ等の死角に位置する障害物を認識することはできない。このため、過去に検知された障害物の位置情報に基づいて、障害物を回避するように衝突回避制御を行う必要がある。しかし、検知された全ての障害物の位置を記憶することになると、高価な大容量メモリが必要となることに加え、電子制御ユニットの処理が複雑になるため、処理時間が長くなってしまう。
【0005】
本発明の目的は、低コスト化及び処理の簡素化を図りつつ、障害物を回避しながら移動体を走行させることができる走行制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る走行制御装置は、移動体の進行方向に存在する障害物を含む移動体の周辺環境を検知する検知部と、検知部の検知データに基づいて、移動体の左右両側において移動体の前後方向に延びる基準線からの距離が最も短い物体の位置をそれぞれ観測位置として設定する観測位置設定部と、観測位置設定部により移動体の左右両側にそれぞれ設定された観測位置に基づいて、移動体が走行可能となる走行可能通路幅を算出する通路幅算出部と、通路幅算出部により算出された走行可能通路幅に応じた走行可能エリアを設定する走行エリア設定部と、走行エリア設定部により設定された走行可能エリアに沿って移動体を走行させるように制御する走行制御部とを備える。
【0007】
このような走行制御装置においては、移動体の周辺環境を検知する検知部の検知データに基づいて、移動体の左右両側において移動体の前後方向に延びる基準線からの距離が最も短い物体の位置がそれぞれ観測位置として設定される。このとき、移動体の進行方向に障害物が存在している場合には、障害物の位置が観測位置として設定される。そして、移動体の左右両側にそれぞれ設定された観測位置に基づいて、移動体が走行可能となる走行可能通路幅が算出され、その走行可能通路幅に応じた走行可能エリアが設定される。そして、移動体は、走行可能エリアに沿って走行するように制御される。このように走行可能通路幅を算出して走行可能エリアを設定することにより、全ての障害物の位置を記憶しなくて済むため、大容量メモリ及び複雑な処理が不要となる。これにより、低コスト化及び処理の簡素化を図りつつ、障害物を回避しながら移動体を走行させることができる。
【0008】
走行制御装置は、検知部の検知データに基づいて、観測位置設定部により設定された観測位置に移動体が達したかどうかを判断する到達判定部を更に備え、観測位置設定部は、到達判定部により移動体が観測位置に達したと判断したときは、移動体の左右両側のうち観測位置に達した側において観測位置を新たに設定し、通路幅算出部は、観測位置設定部により移動体の左右両側にそれぞれ設定された最新の観測位置に基づいて、走行可能通路幅を新たに算出し、走行エリア設定部は、通路幅算出部により新たに算出された走行可能通路幅が前回算出された走行可能通路幅と異なるときは、新たに算出された走行可能通路幅に応じて走行可能エリアを更新してもよい。
【0009】
このような構成では、移動体が観測位置を達すると、移動体の左右両側のうち観測位置を達した側において観測位置が新たに設定される。そして、最新の観測位置に基づいて新たな走行可能通路幅が算出され、新たな走行可能通路幅が前回の走行可能通路幅と異なるときは、走行可能エリアが更新される。従って、障害物の通路幅方向のサイズに応じた最適な走行可能エリアが得られる。
【0010】
走行エリア設定部は、新たに算出された走行可能通路幅が前回算出された走行可能通路幅よりも広いときは、観測位置設定部により新たに設定された観測位置を移動体が通過した後に、走行可能エリアを更新し、新たに算出された走行可能通路幅が前回算出された走行可能通路幅よりも狭いときは、走行可能エリアを直ちに更新してもよい。
【0011】
このような構成では、新たな走行可能通路幅が前回の走行可能通路幅よりも広いときは、移動体が新たな観測位置を通過した後に、走行可能エリアが更新されるため、前回の観測位置に対応する障害物に移動体が衝突しにくくなる。一方、新たな走行可能通路幅が前回の走行可能通路幅よりも狭いときは、走行可能エリアが直ちに更新されるため、新たな観測位置に対応する障害物に移動体が衝突しにくくなる。従って、障害物に対する移動体の急激な回避行動を実施しなくて済む。
【0012】
走行制御部は、移動体が走行可能エリアから逸脱しないように移動体を制御してもよい。このような構成では、移動体が走行可能エリアから逸脱することが防止されるため、移動体が障害物に一層衝突しにくくなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低コスト化及び処理の簡素化を図りつつ、障害物を回避しながら移動体を走行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る走行制御装置を示す概略構成図である。
【
図2】移動体が障害物を含む周辺環境を検知しながら走行する様子を示す平面図である。
【
図3】
図1に示された演算処理部により実行される演算処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【
図4】走行可能エリアが設定される様子を示す平面図である。
【
図5】走行可能エリアが更新される様子を示す平面図である。
【
図6】走行可能エリアが更新される様子を示す平面図である。
【
図7】
図1に示された走行制御部により実行される走行制御処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【
図8】移動体が走行可能エリアから逸脱しないように走行するための走行用指令値を求める手法を示す平面図である。
【
図9】移動体が障害物を回避しながら走行可能エリアに沿って走行する様子を示す平面図である。
【
図10】比較例として、移動体が障害物を回避しながら走行する様子を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、図面において、同一または同等の要素には同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る走行制御装置を示す概略構成図である。
図1において、本実施形態の走行制御装置1は、
図2に示されるように、移動体2を自動走行させるように制御する装置である。
【0017】
移動体2は、例えば無人搬送車またはフォークリフト等の産業車両である。移動体2は、例えば左右両側の壁3に囲まれた通路Rに沿って、障害物4を回避しながら目的地まで走行する。障害物4としては、荷物等の物体及び作業者等の人物が挙げられる。
【0018】
走行制御装置1は、レーザセンサ5と、コントローラ6と、駆動部7とを備えている。走行制御装置1は、移動体2に搭載されている。
【0019】
レーザセンサ5は、
図2に示されるように、移動体2の前方にレーザLを照射し、レーザLの反射光を受光することにより、移動体2の前方に存在する障害物4を含む移動体2の周辺環境を検知する検知部を構成している。移動体2の前方は、移動体2の進行方向である。レーザセンサ5としては、レーザLを2次元に照射する2Dのレーザレンジファインダ等が用いられる。
【0020】
コントローラ6は、CPU、RAM、ROM及び入出力インターフェース等により構成されている。コントローラ6は、レーザセンサ5の受光データを入力し、移動体2の走行制御に関する所定の処理を実行し、駆動部7を制御する。駆動部7は、特に図示はしないが、移動体2を走行させる走行モータと、移動体2を操舵する操舵モータとを有している。
【0021】
コントローラ6は、演算処理部10と、走行制御部11とを有している。演算処理部10は、観測位置設定部12と、通路幅算出部13と、走行エリア設定部14と、到達判定部15とを有している。
【0022】
観測位置設定部12は、レーザセンサ5の受光データに基づいて、移動体2の左右両側において移動体2の前後方向に延びる基準線K(
図4~
図6参照)からの距離が最も短い物体の位置をそれぞれ観測位置として設定する。物体は、荷物、壁または柱等である。レーザセンサ5の受光データは、レーザセンサ5の検知データに相当する。
【0023】
通路幅算出部13は、観測位置設定部12により移動体2の左右両側にそれぞれ設定された観測位置に基づいて、移動体2が走行可能となる走行可能通路幅W(
図4~
図6参照)を算出する。
【0024】
走行エリア設定部14は、通路幅算出部13により算出された走行可能通路幅Wに応じた走行可能エリアA(
図4~
図6参照)を設定する。走行可能エリアAは、移動体2が安全に走行することが可能なエリアである。
【0025】
到達判定部15は、レーザセンサ5の受光データに基づいて、観測位置設定部12により設定された観測位置に移動体2が達したかどうかを判断する。
【0026】
走行制御部11は、走行エリア設定部14により設定された走行可能エリアAに沿って移動体2を走行させるように駆動部7を制御する。
【0027】
図3は、演算処理部10により実行される演算処理手順の詳細を示すフローチャートである。本処理は、移動体2の走行開始が指示されると、実行される。
【0028】
図3において、演算処理部10は、まずレーザセンサ5の受光データを取得する(手順S101)。レーザセンサ5の受光データは、
図2に示されるように、多数(例えば1000点程度)のレーザ点Pからなる点群データである。レーザ点Pは、レーザセンサ5から照射されたレーザLが反射する点である。
【0029】
続いて、演算処理部10は、レーザセンサ5の受光データに基づいて、移動体2の左右両側において通路幅算出用観測点Qa,Qbをそれぞれ設定する(手順S102)。通路幅算出用観測点Qa,Qbは、
図4(a)に示されるように、基準線Kからの距離が最も短いレーザ点Pであり、上記の観測位置に相当する。基準線Kは、移動体2の車幅方向(左右方向)の中心を通る線である。このとき、移動体2の前方に障害物4が存在している場合は、障害物4における通路Rの幅方向中心側の端面4aの位置が通路幅算出用観測点として設定される。
【0030】
また、基準線Kからの距離が最も短いレーザ点Pが複数存在する場合は、移動体2から最も遠いレーザ点Pが通路幅算出用観測点Qa,Qbとして設定されてもよいし、移動体2に最も近いレーザ点Pが通路幅算出用観測点Qa,Qbとして設定されてもよいし、或いは移動体2から最も遠いレーザ点Pと移動体2に最も近いレーザ点Pとの間に位置する任意のレーザ点Pが通路幅算出用観測点Qa,Qbとして設定されてもよい。ここでは、通路幅算出用観測点Qa,Qbは、移動体2の進行方向にずれるように設定される。なお、通路幅算出用観測点Qa,Qbをまとめて通路幅算出用観測点Qという。
【0031】
続いて、演算処理部10は、移動体2の左右両側にそれぞれ設定された通路幅算出用観測点Qa,Qbに基づいて、走行可能通路幅Wを算出する(手順S103)。走行可能通路幅Wは、
図4(b)に示されるように、基準線Kから左側の通路幅算出用観測点Qaまでの距離Laと、基準線Kから右側の通路幅算出用観測点Qbまでの距離Lbとの加算値である。
【0032】
続いて、演算処理部10は、走行可能通路幅Wに応じた走行可能エリアAを設定する(手順S104)。走行可能エリアAは、
図4(c)に示されるように、移動体2の前方において走行可能通路幅Wに対応するエリアである。続いて、演算処理部10は、走行可能エリアのデータを走行制御部11に出力する(手順S105)。
【0033】
続いて、演算処理部10は、レーザセンサ5の受光データを取得する(手順S106)。そして、演算処理部10は、レーザセンサ5の受光データに基づいて、移動体2が通路幅算出用観測点Qに達したかどうかを判断する(手順S107)。このとき、演算処理部10は、移動体2が左右両側の通路幅算出用観測点Qa,Qbの何れかに達したかどうかを判断する。
【0034】
演算処理部10は、移動体2が通路幅算出用観測点Qに達していないと判断したときは、手順S106を再度実行する。演算処理部10は、移動体2が通路幅算出用観測点Qに達したと判断したときは、移動体2の左右両側のうち通路幅算出用観測点Qに達した側において通路幅算出用観測点Qを新たに設定する(手順S108)。
【0035】
このとき、
図5(a)に示されるように、移動体2の前方に障害物4が存在しない場合は、壁3で反射したレーザ点Pが新たな通路幅算出用観測点Qとして設定される。
図6(a)に示されるように、移動体2の前方に障害物4が存在する場合は、障害物4の端面4aで反射したレーザ点Pが新たな通路幅算出用観測点Qとして設定される。
【0036】
続いて、演算処理部10は、移動体2の左右両側にそれぞれ設定された最新の通路幅算出用観測点Qa,Qbに基づいて、走行可能通路幅Wを新たに算出する(手順S109)。新たな走行可能通路幅Wは、
図5(b)及び
図6(b)に示されるように、基準線Kから左側の最新の通路幅算出用観測点Qaまでの距離Laと、基準線Kから右側の最新の通路幅算出用観測点Qbまでの距離Lbとの加算値である。
【0037】
続いて、演算処理部10は、新たに算出された走行可能通路幅Wが前回算出された走行可能通路幅Wと異なるかどうかを判断する(手順S110)。このとき、演算処理部10は、両者の走行可能通路幅Wが僅かでも異なる場合に、両者の走行可能通路幅Wが異なると判定してもよいし、両者の走行可能通路幅Wが所定量以上異なる場合に、両者の走行可能通路幅Wが異なると判定してもよい。
【0038】
演算処理部10は、新たに算出された走行可能通路幅Wが前回算出された走行可能通路幅Wと異なると判断したときは、新たに算出された走行可能通路幅Wが前回算出された走行可能通路幅Wよりも広いかどうかを判断する(手順S111)。
【0039】
演算処理部10は、
図5(b)に示されるように、新たに算出された走行可能通路幅Wが前回算出された走行可能通路幅Wよりも広いと判断したときは、レーザセンサ5の受光データを取得する(手順S112)。そして、演算処理部10は、レーザセンサ5の受光データに基づいて、移動体2が新たな通路幅算出用観測点Qを通過したかどうかを判断する(手順S113)。
【0040】
演算処理部10は、
図5(c)に示されるように、移動体2が新たな通路幅算出用観測点Qを通過したと判断したときは、新たに算出された走行可能通路幅Wに応じて走行可能エリアAを更新する(手順S114)。そして、演算処理部10は、走行可能エリアAのデータを走行制御部11に出力する(手順S115)。
【0041】
演算処理部10は、
図6(b)及び
図6(c)に示されるように、新たに算出された走行可能通路幅Wが前回算出された走行可能通路幅Wよりも狭いと判断したときは、手順S112,S113を実行することなく、新たに算出された走行可能通路幅Wに応じて走行可能エリアAを直ちに更新する(手順S114)。そして、演算処理部10は、走行可能エリアAのデータを走行制御部11に出力する(手順S115)。
【0042】
演算処理部10は、新たに算出された走行可能通路幅Wが前回算出された走行可能通路幅Wと等しいと判断したときは、上記の手順S111~S115を実行しない。その後、演算処理部10は、例えばレーザセンサ5の受光データ等に基づいて、移動体2が目的地に達したかどうかを判断する(手順S116)。
【0043】
演算処理部10は、移動体2が目的地に達していないと判断したときは、手順S106を再度実行する。演算処理部10は、移動体2が目的地に達したと判断したときは、本処理を終了する。
【0044】
ここで、観測位置設定部12は、手順S101,S102,S108を実行する。通路幅算出部13は、手順S103,S109を実行する。走行エリア設定部14は、手順S104,S105,S110,S111,S114,S115を実行する。到達判定部15は、手順S106,S107,S112,S113を実行する。
【0045】
図7は、走行制御部11により実行される走行制御処理手順の詳細を示すフローチャートである。本処理も、移動体2の走行開始が指示されると、実行される。
【0046】
図7において、走行制御部11は、まず演算処理部10から出力された走行可能エリアAのデータを取得する(手順S121)。そして、走行制御部11は、移動体2が走行可能エリアAに沿って走行するための走行用指令値を求める(手順S122)。
【0047】
具体的には、走行制御部11は、移動体2が走行可能エリアAから逸脱しないように且つ障害物4を回避するように走行可能エリアAに沿って走行するための走行用指令値を求める。
【0048】
このとき、走行制御部11は、例えば
図8(a)に示されるように、地図情報を利用して、移動体2の前方の通路Rのうち走行可能エリアA以外を禁止領域Xに設定することで、移動体2が走行可能エリアAから逸脱しないような走行用指令値を求める。また、走行制御部11は、
図8(b)に示されるように、走行可能エリアAの左右両側に仮想障害物Yを設定することで、移動体2が走行可能エリアAから逸脱しないような走行用指令値を求めてもよい。
【0049】
そして、走行制御部11は、走行用指令値を駆動部7に出力する(手順S123)。これにより、移動体2が走行可能エリアAに沿って走行するようになる。
【0050】
以上において、
図9に示されるように、移動体2の左右両側に障害物4が存在する通路Rを移動体2が走行する場合、各障害物4に通路幅算出用観測点Qa,Qbが設定される(
図9(a)参照)。そして、移動体2の基準線Kから通路幅算出用観測点Qa,Qbまでの距離を加算した走行可能通路幅Wが算出され、その走行可能通路幅Wに応じた走行可能エリアAが設定される。そして、移動体2が走行可能エリアAに沿って走行する。
【0051】
移動体2が左側の通路幅算出用観測点Qaに達すると、左側の壁3に新たな通路幅算出用観測点Qaが設定される(
図9(b)参照)。そして、移動体2の基準線Kから最新の通路幅算出用観測点Qa,Qbまでの距離を加算した新たな走行可能通路幅Wが算出される。ただし、新たな走行可能通路幅Wは前回の走行可能通路幅Wよりも広いため、移動体2は走行可能エリアAに沿った走行を継続する(
図9(c)参照)。
【0052】
そして、移動体2が左側の新たな通路幅算出用観測点Qaを通過した後、新たな走行可能通路幅Wに応じて走行可能エリアAが更新される(
図9(d)参照)。そして、移動体2は、更新された走行可能エリアAに沿って走行する。
【0053】
ところで、
図10に示されるように、レーザセンサ5により障害物4を検知し、障害物4を回避しながら移動体2を走行させる場合、レーザセンサ5の死角に存在する障害物4を検知することができない。このため、移動体2の回避行動によって、レーザセンサ5の検知範囲外の障害物4に移動体2が衝突する可能性がある。また、レーザセンサ5の検知範囲内でも、既知の障害物4の影にある障害物4mを検知することができない。このため、移動体2の回避行動によって、移動体2が障害物4mに衝突する可能性もある。
【0054】
従って、レーザセンサ5により過去に検知された障害物4の位置情報と、障害物4により死角となったレーザセンサ5の死角領域Dの位置情報とを活用して、障害物4,4mを回避する必要がある。しかし、この場合には、障害物4及びレーザセンサ5の死角領域Dの位置情報を記憶するための高価な大容量メモリが必要となることに加え、コントローラ6の演算処理が複雑になるため、コントローラ6の演算時間が長くなってしまう。
【0055】
そのような課題に対し、本実施形態では、移動体2の周辺環境を検知するレーザセンサ5の検知データに基づいて、移動体2の左右両側において移動体2の前後方向に延びる基準線Kからの距離が最も短い物体の位置がそれぞれ通路幅算出用観測点Qとして設定される。このとき、移動体2の前方に障害物4が存在している場合には、障害物4の位置が通路幅算出用観測点Qとして設定される。そして、移動体2の左右両側にそれぞれ設定された通路幅算出用観測点Qに基づいて、移動体2が走行可能となる走行可能通路幅Wが算出され、その走行可能通路幅Wに応じた走行可能エリアAが設定される。そして、移動体2は、走行可能エリアAに沿って走行するように制御される。
【0056】
このように走行可能通路幅Wを算出して走行可能エリアAを設定することにより、
図9に示されるように、全ての障害物4及びレーザセンサ5の死角領域Dの位置を記憶しなくて済むため、大容量メモリ及びコントローラ6の複雑な演算処理が不要となる。これにより、低コスト化及び処理の簡素化を図りつつ、障害物4,4mを回避しながら移動体2を走行させることができる。
【0057】
また、走行可能エリアAを設定することにより、移動体2が前もって障害物4,4mを避けることができ、移動体2の回避行動が最小限で済む。その結果、移動体2の走行速度を上げることが可能となる。
【0058】
また、本実施形態では、移動体2が通路幅算出用観測点Qに達すると、移動体2の左右両側のうち通路幅算出用観測点Qに達した側において通路幅算出用観測点Qが新たに設定される。そして、最新の通路幅算出用観測点Qa,Qbに基づいて新たな走行可能通路幅Wが算出され、新たな走行可能通路幅Wが前回の走行可能通路幅Wと異なるときは、走行可能エリアAが更新される。従って、障害物4の通路幅方向のサイズに応じた最適な走行可能エリアAが得られる。
【0059】
また、本実施形態では、新たな走行可能通路幅Wが前回の走行可能通路幅Wよりも広いときは、移動体2が新たな通路幅算出用観測点Qを通過した後に、走行可能エリアAが更新されるため、前回の通路幅算出用観測点Qに対応する障害物4に移動体2が衝突しにくくなる。一方、新たな走行可能通路幅Wが前回の走行可能通路幅Wよりも狭いときは、走行可能エリアAが直ちに更新されるため、新たな通路幅算出用観測点Qに対応する障害物4に移動体2が衝突しにくくなる。従って、障害物4に対する移動体2の急激な回避行動を実施しなくて済む。
【0060】
また、本実施形態では、移動体2が走行可能エリアAから逸脱することが防止されるため、移動体2が障害物4に一層衝突しにくくなる。
【0061】
なお、本発明は、上記実施形態には限定されない。例えば上記実施形態では、2Dタイプのレーザセンサ5を使用して、移動体2の周囲環境が検知されているが、使用するレーザセンサ5としては、特に2Dタイプには限られず、レーザLを3次元に照射する3Dタイプであってもよい。この場合には、複数のレーザ点Pのうち通路Rの路面に垂直な平面に一番近いレーザ点Pを通路幅算出用観測点Qとしてもよい。
【0062】
また、上記実施形態では、特に移動体2の自己位置が推定されていないが、例えばレーザセンサ5によるSLAM手法等を用いて、移動体2の自己位置を推定しながら、移動体2を走行させてもよい。この場合、
図3における手順S107,S113,S116の処理については、移動体2の自己位置に基づいて実行してもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、移動体2が障害物4を回避しながら前進走行しているが、特にその形態には限られず、移動体2が障害物4を回避しながら後進走行してもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、レーザセンサ5によって移動体2の進行方向に存在する障害物4を含む移動体2の周辺環境が検知されているが、移動体2の周辺環境を検知する検知部としては、特にレーザセンサ5に限られず、例えばカメラ等の画像センサまたは赤外線センサ等であってもよい。
【符号の説明】
【0065】
1…走行制御装置、2…移動体、4…障害物、5…レーザセンサ(検知部)、11…走行制御部、12…観測位置設定部、13…通路幅算出部、14…走行エリア設定部、15…到達判定部、K…基準線、R…通路、Q,Qa,Qb…通路幅算出用観測点(観測位置)、W…走行可能通路幅、La,Lb…距離、A…走行可能エリア。