(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022081154
(43)【公開日】2022-05-31
(54)【発明の名称】造影方法
(51)【国際特許分類】
A61K 49/04 20060101AFI20220524BHJP
【FI】
A61K49/04
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020192522
(22)【出願日】2020-11-19
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】503303466
【氏名又は名称】学校法人関西文理総合学園
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野村 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】田邉 瑠里子
【テーマコード(参考)】
4C085
【Fターム(参考)】
4C085HH05
4C085JJ03
4C085KB07
4C085LL01
(57)【要約】
【課題】
本発明は、毛細血管のように内径が10μm以下の管腔器官を造影することを課題とする。
【解決手段】
造影剤を、動物の管腔器官に注入する工程と、造影剤を注入した動物、又は造影剤を注入した動物から採取した器官を70mMから200mMの塩化ナトリウムを含む溶液、50%(v/v)から100%(v/v)の炭素数1から3の低級アルコール液、30%(v/v)から100%(v/v)のアセトン液、pH 3以下の酸液、又はこれらの混合液からなる浸漬液に浸漬する工程と、造影剤を注入した動物の管腔器官のX線画像を取得する工程を含む、動物の管腔器官の造影方法(但し、前記動物からは生きたヒトは除かれる)であって、
前記造影剤は、酸化チタン(IV)粒子の分散液であり、前記酸化チタン(IV)粒子の一次粒子径は1nmから500nmの範囲内であり、前記造影剤に含まれる成分の合計を100%(重量)としたときの前記酸化チタン(IV)粒子の含有量が、3%(重量/重量)から55%(重量/重量)である、造影方法により、課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造影剤を、動物の管腔器官に注入する工程と、
造影剤を注入した動物、又は造影剤を注入した動物から採取した器官を70mMから200mMの塩化ナトリウムを含む溶液、50%(v/v)から100%(v/v)の炭素数1から3の低級アルコール液、30%(v/v)から100%(v/v)のアセトン液、pH 3以下の酸液、又はこれらの混合液からなる浸漬液に浸漬する工程と、 造影剤を注入した動物の管腔器官のX線画像を取得する工程を含む、
動物の管腔器官の造影方法(但し、前記動物からは生きたヒトは除かれる)であって、
前記造影剤は、酸化チタン(IV)粒子の分散液であり、前記酸化チタン(IV)粒子の一次粒子径は1nmから500nmの範囲内であり、前記造影剤に含まれる成分の合計を100%(重量)としたときの前記酸化チタン(IV)粒子の含有量が、3%(重量/重量)から55%(重量/重量)である、造影方法。
【請求項2】
前記酸化チタン(IV)粒子の一次粒子径は1nmから100nmの範囲内である、請求項1に記載の造影方法。
【請求項3】
前記酸化チタン(IV)粒子の一次粒子径は70nmから500nmの範囲内である、請求項1に記載の造影方法。
【請求項4】
前記酸化チタン(IV)粒子が、第1の酸化チタン(IV)粒子と第2の酸化チタン(IV)粒子とを含み、第1の酸化チタン(IV)粒子の一次粒子径が1nmから100nmの範囲内であり、第2の酸化チタン(IV)粒子の一次粒子径が70nmから500nmの範囲内である、請求項1に記載の造影方法。
【請求項5】
前記酸化チタン(IV)粒子の含有量が5%(重量/重量)から35%(重量/重量)である、請求項1から4のいずれか一項に記載の造影方法。
【請求項6】
前記酸化チタン(IV)粒子の表面が中性である、請求項1から5のいずれか一項に記載の造影方法。
【請求項7】
前記酸化チタン(IV)の結晶形がアナタース形又はルチル形である、請求項1から6のいずれか一項に記載の造影方法。
【請求項8】
造影剤を、動物の管腔器官に前記動物の正常の血圧と同等の範囲の圧力で注入する、請求項1から7のいずれか一項に記載の造影方法。
【請求項9】
酸化チタン(IV)粒子の一次粒子径が1nmから100nmの範囲内である場合に、前記酸化チタン(IV)粒子の分散液は、酸化チタン(IV)粒子の集合体のスラリー液、酸化チタン(IV)粒子のゾル液、酸化チタン(IV)粒子の集合体のスラリー液及び酸化チタン(IV)粒子のゾル液の混合液、又はこれらの希釈液である、請求項2から8のいずれか一項に記載の造影方法。
【請求項10】
酸化チタン(IV)粒子の一次粒子径が70nmから500nmの範囲内である場合に、前記酸化チタン(IV)粒子の分散液は、酸化チタン(IV)粒子のスラリー液、又はこの希釈液である、
請求項3から9のいずれか一項に記載の造影方法。
【請求項11】
前記管腔器官の内径が0.5μmから10μmである、請求項1から10のいずれか一項に記載の造影方法。
【請求項12】
前記管腔器官が毛細血管である、請求項1から10のいずれか一項に記載の造影方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書には、動物の管腔器官の造影方法が開示される。
【背景技術】
【0002】
造影法は循環障害のみならず腫瘍の診断にも効果を発揮する重要な技術として医療現場で広く使用されている。
【0003】
マウスをはじめとする実験動物は、ヒトの病態をかなり正確に再現できるため、モデル動物として有用である。しかし、小動物の血管等の管腔器官はサイズが小さいので、ヒトに用いられる造影剤を小動物に使用すると非常に大きい血管しか造影できない。
【0004】
非特許文献1には、0.1%メチルセルロース-2.5%二酸化チタン又は50%グリセリン-2.5%二酸化チタンを主成分とする造影剤により、25μm径の血管を造影したことが記載されている。
【0005】
特許文献1には、酸化チタン(IV)粒子の分散液を含む造影剤により、径20μmの血管を造影したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】私立大学戦略的研究基盤形成支援事業研究成果報告書・2012年度採択「個体レベルの新規分子イメージング技術の開発とその有効性の検証」(事業期間:2012年度~2016年度)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
動物の器官において管腔の内径が狭い代表的な器官は、毛細血管であり、内径は3μmから4μmである。
特許文献1に記載の造影方法では、毛細血管の造影は困難であった。
本発明は、毛細血管のように内径が10μm以下の管腔器官を造影することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意研究を重ねたところ、造影剤を注入した動物、又は造影剤を注入した動物から採取した器官を所定の溶液に浸漬することにより、管腔器官内に酸化チタン(IV)粒子を滞留させることができ、内径が狭い器官の造影が可能となることを見出した。
本発明は、当該知見に基づいて完成されたものであり、以下の態様を含む。
項1.造影剤を、動物の管腔器官に注入する工程と、造影剤を注入した動物、又は造影剤を注入した動物から採取した器官を70mMから200mMの塩化ナトリウムを含む溶液、50%(v/v)から100%(v/v)の炭素数1から3の低級アルコール液、30%(v/v)から100%(v/v)のアセトン液、pH 3以下の酸液、又はこれらの混合液からなる浸漬液に浸漬する工程と、造影剤を注入した動物の管腔器官のX線画像を取得する工程を含む、動物の管腔器官の造影方法(但し、前記動物からは生きたヒトは除かれる)であって、前記造影剤は、酸化チタン(IV)粒子の分散液であり、前記酸化チタン(IV)粒子の一次粒子径は1nmから500nmの範囲内であり、前記造影剤に含まれる成分の合計を100%(重量)としたときの前記酸化チタン(IV)粒子の含有量が、3%(重量/重量)から55%(重量/重量)である、造影方法。
項2.前記酸化チタン(IV)粒子の一次粒子径は1nmから100nmの範囲内である、項1に記載の造影方法。
項3.前記酸化チタン(IV)粒子の一次粒子径は70nmから500nmの範囲内である、項1に記載の造影方法。
項4.前記酸化チタン(IV)粒子が、第1の酸化チタン(IV)粒子と第2の酸化チタン(IV)粒子とを含み、第1の酸化チタン(IV)粒子の一次粒子径が1nmから100nmの範囲内であり、第2の酸化チタン(IV)粒子の一次粒子径が70nmから500nmの範囲内である、項1に記載の造影方法。
項5.前記酸化チタン(IV)粒子の含有量が5%(重量/重量)から35%(重量/重量)である、項1から4のいずれか一項に記載の造影方法。
項6.前記酸化チタン(IV)粒子の表面が中性である、項1から5のいずれか一項に記載の造影方法。
項7.前記酸化チタン(IV)の結晶形がアナタース形又はルチル形である、項1から6のいずれか一項に記載の造影方法。
項8.造影剤を、動物の管腔器官に前記動物の正常の血圧と同等の範囲の圧力で注入する、項1から7のいずれか一項に記載の造影方法。
項9.酸化チタン(IV)粒子の一次粒子径が1nmから100nmの範囲内である場合に、前記酸化チタン(IV)粒子の分散液は、酸化チタン(IV)粒子の集合体のスラリー液、酸化チタン(IV)粒子のゾル液、酸化チタン(IV)粒子の集合体のスラリー液及び酸化チタン(IV)粒子のゾル液の混合液、又はこれらの希釈液である、項2から8のいずれか一項に記載の造影方法。
項10.酸化チタン(IV)粒子の一次粒子径が70nmから500nmの範囲内である場合に、前記酸化チタン(IV)粒子の分散液は、酸化チタン(IV)粒子のスラリー液、又はこの希釈液である、項3から9のいずれか一項に記載の造影方法。
項11.前記管腔器官の内径が0.5μmから10μm程度である、項1から10のいずれか一項に記載の造影方法。
項12.前記管腔器官が毛細血管である、項1から10のいずれか一項に記載の造影方法。
【発明の効果】
【0010】
より内径の狭い管腔器官を造影することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】(A)は、TKD-801のみ、(B)は、表2に示す試薬を加えていない実施例1の造影剤、(C)は、実施例1の造影剤に終濃度50%となるようにエタノールを添加したもの、(D)は、実施例1の造影剤に終濃度70%となるようにエタノールを添加したものの顕微鏡写真を示す。
【
図2】(A)は、実施例2の造影剤のみ、(B)は、実施例2の造影剤に1/2のPBSを添加したもの、(C)は、実施例2の造影剤に1/2のPBSを添加したものに終濃度50%となるようにエタノールを添加したもの、(D)は、実施例2の造影剤に1/2のPBSを添加したものに終濃度70%となるようにエタノールを添加したものの顕微鏡写真を示す。
【
図4】(A)は、造影剤を注入した肝臓のヘマトキシリン-エオジン染色を示す。(B)は、ヘマトキシリン-エオジン染色を行った切片を水洗し、エオジン色素の脱色時間を延長した肝臓の組織画像を示す。
【
図5】(A)は、造影剤を注入した腎臓のヘマトキシリン-エオジン染色を示す。(B)は、ヘマトキシリン-エオジン染色を行った切片を水洗し、エオジン色素の脱色時間を延長した腎臓の組織画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、動物の管腔器官の造影方法に関する。
造影方法は、(1)造影剤を、動物の管腔器官に注入する工程と、(2)造影剤を注入した動物、又は造影剤を注入した動物から採取した器官を70mMから200mMの塩化ナトリウムを含む溶液、50%(v/v)から100%(v/v)の低級アルコール液、30%(v/v)から100%(v/v)のアセトン、pH 3以下の酸液、又はこれらの混合液からなる浸漬液に浸漬する工程と、(3)造影剤を注入した動物の管腔器官のX線画像を取得する工程を含む。
【0013】
1.造影剤及び造影剤の投与
造影剤は、酸化チタン(IV)粒子を含む、X線撮影又は超音波撮影で目的の器官の造影を可能とする組成物である。本開示において造影とは、X線撮影又は超音波撮影で目的の器官(特に管腔器官)をより鮮明に写し出すことを意図する。
【0014】
酸化チタン(IV)は、二酸化チタン(TiO2)とも称される。酸化チタン(IV)粒子は、好ましく結晶形態である。前記結晶形態には、アナタース形、ルチル形、及びブルッカイト形が含まれるが、好ましくは、アナタース形、又はルチル形である。
【0015】
本明細書において、「酸化チタン(IV)粒子」は一次粒子を意図する。酸化チタン(IV)粒子は、一次粒子径が1nmから500nm程度の範囲内であることが好ましい。好ましくは、一次粒子径の下限は、1nm、2nm、3nm、5nm、6nm、8nm、及び10nmから適宜選択し得る。一次粒子径の上限は、500nm、400nm、350nm、300nm、250nm、200nm、100nm、80nm、70nm、60nm、及び50nmから適宜選択し得る。下限と上限の組み合わせも適宜設定することができる。より好ましくは、2nmから350nm、5nmから300nmの範囲内を挙げることができる。
【0016】
前記酸化チタン(IV)粒子として、好ましくは、異なる一次粒子径を有する第1の酸化チタン(IV)粒子と、第2の酸化チタン(IV)粒子を挙げることができる。また第1の酸化チタン(IV)粒子と第2の酸化チタン(IV)粒子とを組み合わせて造影剤に添加することができる。
【0017】
例えば、第1の酸化チタン(IV)粒子は、一次粒子径が1nmから100nm程度の範囲内であることが好ましい。第1の酸化チタン(IV)粒子の一次粒子径の下限は、1nm、2nm、3nm、5nm、6nm、8nm、及び10nmから適宜選択し得る。第1の酸化チタン(IV)粒子の一次粒子径の上限は、100nm、80nm、70nm、60nm、及び50nmから適宜選択し得る。より好ましくは、第1の酸化チタン(IV)粒子の一次粒子径は、1nmから70nm、又は5nmから50nmの範囲内を挙げることができる。
【0018】
また、第2の酸化チタン(IV)粒子は、一次粒子径が70nmから500nm程度の範囲内であることが好ましい。第2の酸化チタン(IV)粒子の一次粒子径の下限は、70nm、80nm、100nm、150nm及び200nmから適宜選択し得る。第1の酸化チタン(IV)粒子の一次粒子径の上限は、500nm、400nm、350nm、300nm、及び250nmから適宜選択し得る。より好ましくは、第2の酸化チタン(IV)粒子の一次粒子径は、80nmから400nm、又は100nmから300nmの範囲を挙げることができる。
【0019】
一次粒子は酸化チタン(IV)の結晶であってもよい。一次粒子が酸化チタン(IV)の結晶である場合、一次粒子径は、酸化チタン(IV)の結晶子径となる。
【0020】
一次粒子径の測定方法は、例えば、特開2000-191325号公報、及び特開2011-12031号公報に記載されているように公知である。一次粒子径は、X線回折法等で測定することができる。また、X線回折法による測定上限値(100nm)を超える場合には、後述する酸化チタン(IV)粒子集合体の粒子径の測定方法に準じて測定することができる。好ましくは、一次粒子径は透過型電子顕微鏡又は走査型電子顕微鏡下で各粒子の一次粒子径を測定し、数平均で求めた数平均粒子径を意図する。数平均粒子径の求め方は特開2011-12031号公報等に記載されている。ここで、一次粒子径とは、一次粒子の最短部の粒子径を意図し、最短部の粒子径とは、一次粒子の中心を通る最短の長さを意味する。例えば、金属酸化物微粒子の形状が球状であれば、球の直径を意味し、形状が楕円体状であれば、短径を意味し、形状が多角体状であれば、一次粒子の中心を通る最短の長さを意味し、形状が鱗片状、(六角)板状などの薄片状であれば、板面方向に垂直な方向(すなわち、厚さ方向)において、一次粒子の中心を通る最短の長さ(=厚さ)を意味し、形状が針状、柱状、棒状、筒状などであれば、長さ方向に対して垂直方向に測定される一次粒子の中心を通る最短の長さを意味する。
【0021】
市販の酸化チタン(IV)粒子を使用する場合には、製品の添付書類に記載されている酸化チタン(IV)粒子の一次粒子径が、上記粒子径の範囲に入っていればよい。
【0022】
また、酸化チタン(IV)粒子は、所定の粒度分布の範囲内に入ることが好ましい。一次粒子径が1nmから100nm程度の範囲内である場合、許容される粒度分布は、下限値が0.5nm程度、上限値が200nm程度でありうる。好ましくは1nmから100nm、より好ましくは3nmから50nm程度である。一次粒子径が70nmから500nm程度の範囲内である場合、許容される粒度分布は、下限値が50nm程度、上限値が700nm程度でありうる。好ましくは1nmから100nm、より好ましくは3nmから50nm程度である。所定の粒度分布の範囲内に入るとは、酸化チタン(IV)粒子の分散液に含まれる酸化チタン(IV)粒子の90%以上、93%以上、95%以上、98%以上、99%以上、99.5%以上又は100%以上が、前記粒度分布の範囲に入ることを意図する。
【0023】
酸化チタン(IV)粒子は、酸化チタン(IV)粒子そのものが溶媒にスラリー状に分散するか、酸化チタン(IV)粒子の集合体(以下、酸化チタン(IV)集合体ともいう)を形成した状態で溶媒にスラリー状に分散しうる(以下、スラリー液ともいう)。また、酸化チタン(IV)粒子は、ゾル状態で溶媒に分散し得る(以下、ゾル液ともいう)。
【0024】
酸化チタン(IV)粒子の一次粒子径が70nmから500nmである場合には(好ましくは結晶形がルチル形の場合には)、酸化チタン(IV)粒子がスラリー状に分散するため、分散粒子径は一次粒子径と同じとなる。酸化チタン(IV)粒子の一次粒子径が1nmから100nm程度の範囲内である場合には、溶媒の中で集合体を形成しスラリー状に分散し得る。
【0025】
酸化チタン(IV)粒子が、酸化チタン(IV)集合体として分散している場合(すなわち、スラリー液では)、酸化チタン(IV)集合体の見掛け上の平均粒子径(分散粒子径)は、酸化チタン(IV)粒子の一次粒子径に依存するが、例えば、10nmから300nm、好ましくは50nmから100nmの範囲を例示することができる。酸化チタン(IV)集合体の形状は制限されないが、例えば、球状であることが好ましい。ここで、球状とは、平均軸比が0.7以上、好ましくは0.8以上、より好ましくは0.9以上をいう(真球の軸比は1)。軸比は、一塊の酸化チタン(IV)集合体(以下、1試料という)について最長方向で測定した軸長(例えばx nm)と該最長方向に対して垂直な方向の軸長(例えばy nm)との比(軸比=y/x)を意図する。
【0026】
1試料の軸長は、例えば、酸化チタン(IV)集合体の透過型顕微鏡画像を取得し、1試料ずつ軸長を計測することにより測定することができる。平均粒子径は、1試料が球形であると仮定して、計測した軸長の平均値として求めることができる。平均は、酸化チタン(IV)粒子の一定単位重量あたりについて求められる重量平均であってもよく、計測した試料数の平均であっても良い。
【0027】
さらに、酸化チタン(IV)粒子又は酸化チタン(IV)集合体は、所定の比表面積を有することが好ましい。比表面積は、例えば、150m2/g以上である。比表面積は、好ましくは200m2/gから350m2/g、より好ましくは、250m2/gから320m2/gの範囲である。比表面積は、例えば比表面積測定装置(湯浅アイオニクス株式会社)等を使用して測定することができる。
【0028】
酸化チタン(IV)集合体をスラリー状に分散させる場合、酸化チタン(IV)粒子の結晶形は、好ましくはアナタース形又はルチル形である。
【0029】
酸化チタン(IV)粒子又は酸化チタン(IV)集合体は、表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、無機化合物(アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、酸化亜鉛、メタリン酸等)で処理する方法、有機化合物(ステアリン酸、イソステアリン酸、又はラウリン酸等の脂肪酸;アルギン酸等の多糖類;シリコーンオイル;アルキルシラン化合物(アルキルの炭素数は1から4)等)で処理する方法が挙げられる。
【0030】
酸化チタン(IV)粒子又は酸化チタン(IV)集合体の表面のpHは、作業雰囲気下、若しくは造影剤内で、塩基性、酸性、又は中性を示し得るが、好ましくは中性である。塩基性とは、例えばpH8より高く、好ましくはpH8.5からpH11の範囲内であることを意図する。酸性等は、例えばpH1.5以上、pH4.5未満を意図する。中性とは、pH4.5以上、pH8程度、好ましくはpH6からpH8程度の範囲を意図する。
【0031】
酸化チタン(IV)粒子又は酸化チタン(IV)集合体の表面のpHは、表面処理に依存し得る。例えば、アルミナで処理した場合には、酸化チタン(IV)粒子の表面のpHは、塩基性を示し得る。シリカ、ジルコニアで処理した場合には、酸化チタン(IV)粒子の表面のpHは、酸性を示し得る。チタニア、ジルコニア、有機化合物で処理した場合には、酸化チタン(IV)粒子又は酸化チタン(IV)集合体の表面のpHは、中性を示し得る。また、酸化チタン(IV)粒子又は酸化チタン(IV)集合体の表面のpHが塩基性になる処理と、酸化チタン(IV)粒子又は酸化チタン(IV)集合体の表面のpHが酸性になる処理とを組み合わせることにより、酸化チタン(IV)粒子又は酸化チタン(IV)集合体の表面のpHを、中性、又は所望のpHに制御し得る。
【0032】
酸化チタン(IV)粒子又は酸化チタン(IV)集合体の表面処理方法として、例えば特開2000-219819号公報(ケイ素、アルミニウム水、及びアルギン酸で表面処理)、特開2018-20952公報(シランカップリング剤及びチタネートカップリング剤で表面処理)等に記載の方法を例示することができる。
【0033】
上記のような特性を有する酸化チタン(IV)粉体として、テイカ株式会社製のAMT-100(アナタース形、一次粒子径6nm、比表面積280m2/g、中性)、TKP-101(アナタース形、一次粒子径6nm、比表面積300m2/g、弱酸性)、JR-301(ルチル形、一次粒子径300nm、Al処理、pH 6.0から8.0)、JR-403(ルチル形、一次粒子径250nm、Al・Si処理、pH 6.0から8.0)、JR-405(ルチル形、一次粒子径210nm、Al処理、pH 6.0から8.0)、JR-600A(ルチル形、一次粒子径250nm、Al処理、pH 6.0から8.0)、JR-605(ルチル形、一次粒子径250nm、Al処理、pH 6.0から8.0)、JR-600E(ルチル形、一次粒子径270nm、Al処理、pH 6.0から8.0)、JR-603(ルチル形、一次粒子径280nm、Al・Zr処理、pH 6.0から8.0)、JR-805(ルチル形、一次粒子径290nm、Al・Si処理、pH 6.5から8.5)、JR-806(ルチル形、一次粒子径250nm、Al・Si処理、pH 6.5から8.5)、JR-701(ルチル形、一次粒子径270nm、Al・Si・Zn処理、pH 6.0から8.0)、JRNC(ルチル形、一次粒子径270nm、Al・Si・Zn処理、pH 6.0から8.0)、JR-800(ルチル形、一次粒子径270nm、Al・Si処理、pH 6.5から8.5)、JR(ルチル形、一次粒子径270nm、pH 6.5から9.5)等を例示できる。
【0034】
スラリー液には、スラリー液に含まれる全成分の合計を100%(重量)とした時に、酸化チタン(IV)粒子を5%(重量/重量)から55%(重量/重量)程度、好ましくは10%(重量/重量)から50%(重量/重量)程度含有させることができる。
【0035】
スラリー液の調製において、酸化チタン(IV)集合体をスラリー状に分散させる溶媒としては、アクリル酸エステル共重合物、アクリル酸エステル等を挙げることができる。アクリル酸エステル共重合物としては、アクリル酸と炭素数1から3のアルコール(直鎖であっても分岐鎖であってもよい)のエステルの共重合物を例示することができる。アクリル酸エステルとしては、アクリル酸と炭素数1から3のアルコール(直鎖であっても分岐鎖であってもよい)のエステルを例示することができる。
【0036】
スラリー液は、市販の製品を購入してもよい。例えば、市販の製品としては、テイカ株式会社より販売されている、TKD-801(AMT-100の中性の水スラリーであり、酸化チタン(IV)の含有量は10から20%)、TKD-802(TKP-101の中性の水スラリーであり、酸化チタン(IV)の含有量は15から20%)、WD0456(酸化チタン(IV)の含有量は35から45%、一次粒子径及び分散粒子径250nm)等を例示することができる。
【0037】
また、酸化チタン(IV)粒子がゾル状態で溶媒に分散している場合(すなわち、ゾル液では)、酸化チタン(IV)粒子は、酸化チタンヒドロゾル(溶媒は水、水溶液等)又は酸化チタンオルガノゾル(溶媒は、メタノール、エタノール等)の状態で分散していることが好ましい。より好ましくは酸化チタンハイドロゾルである。酸化チタン(IV)粒子の結晶形はアナタース形であってもルチル形であってもよい。好ましくはアナタース形である。
【0038】
ゾル状の酸化チタン(IV)粒子の平均分散粒子径(平均ミセル径)は、3nmから1,000nmを例示することができる。平均分散粒子径の下限値は、例えば3nm、5nm、6nm、8nm、10nm、12nm、15nm及び20nmの中から選択することができる。平均分散粒子径の上限値は、例えば1,000nm、500nm、300nm、200nm、100nm、及び50nmの中から選択することができる。前記下限値及び上下値は適宜組み合わせることができる。結晶形がアナタース形の場合には、平均分散粒子径の下限値は、好ましくは5nm、6nm、8nm、10nm、12nmから選択することができ、上限値は、300nm、200nm、100nm、及び50nmの中から選択することができる。結晶形がルチル形の場合には、平均分散粒子径の下限値は、6nm、8nm、10nm、12nm、15nm及び20nmの中から選択することができ、上限値は、1,000nm、500nm、300nm、200nm、及び100nmの中から選択することができる。
【0039】
ゾル液には、ゾル液に含まれる全成分の合計を100%(重量)としたときに、酸化チタン(IV)粒子を5%(重量/重量)から40%(重量/重量)程度、好ましくは10%(重量/重量)から35%(重量/重量)程度含有させることができる。
【0040】
ゾル状の酸化チタン(IV)粒子は、例えば特開2007-246351号公報(ケイ素の水酸化物、又はケイ素、スズ、アルミニウム、及びジルコニウムの水酸化物で酸化チタンを被覆)、特開2000-290015号公報(リン酸で酸化チタンを被覆)等に記載の方法により調製することができる。ゾル状の酸化チタン(IV)粒子は、市販の製品を購入してもよい。例えば、市販の製品としては、テイカ株式会社より販売されている、TKS-203(一次粒子径は6nm、酸化チタン(IV)の含有量は15から25%、中性チタニアゾル)等を例示することができる。
【0041】
造影剤中で、酸化チタン(IV)粒子は、酸化チタン(IV)集合体がスラリー状で及び/又はゾル状で分散して存在する。すなわち、造影剤は酸化チタン(IV)粒子の分散液である。
【0042】
造影剤は、酸化チタン(IV)集合体のスラリー液をそのまま、或いは希釈液で希釈して使用することができる。また、造影剤は、別の態様として、酸化チタン(IV)粒子のゾル液をそのまま、或いは希釈液で希釈して使用することができる。スラリー液とゾル液を混合して造影剤として使用しても良く、スラリー液とゾル液の混合液をさらに希釈液で希釈して造影剤として使用してもよい。造影剤を調製するタイミングは制限されないが、好ましくは使用時に、具体的には使用する5分前、3分前、又は2分前に行うことができる。
【0043】
希釈液としては、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)等を例示することができる。
【0044】
造影剤に含まれる酸化チタン(IV)粒子の含有量は、造影剤に含まれる全成分の合計を100%(重量)としたときに、3%(重量/重量)から55%、好ましくは5%(重量/重量)から40%(重量/重量)程度とすることができる。
【0045】
造影剤として好ましくは、テイカ株式会社製のTKD-801、TKD-802及びこれらの希釈液(例えば、容積比で1.2倍から3倍希釈液、好ましくは1.4倍から2倍希釈液)を例示することができる。造影剤の別の態様では、テイカ株式会社製のTKS-203及びその希釈液(例えば、容積比で1.2倍から3倍希釈液、好ましくは1.4倍から2倍希釈液)を例示することができる。造影剤の別の態様では、テイカ株式会社製のWD0456及びその希釈液(例えば、容積比で1.2倍から3倍希釈液、好ましくは1.4倍から2倍希釈液)を例示することができる。造影剤の別の態様では、テイカ株式会社製のTKS-203及びWD0456の混合液(混合比率は、例えば容積比で1から3:3から1程度)を例示することができる。例えば肝臓の造影には、テイカ株式会社製のTKD-801のPBS希釈液(例えば、容積比で1.2倍から3倍希釈液、好ましくは1.4倍から2倍希釈液、より好ましくはTKD-801:PBS=4:2)を使用することが好ましい。
【0046】
ここで、TKS-203及びWD0456の混合液を造影剤として使用する場合、細い管腔器官内での酸化チタン(IV)粒子の滞留を向上させるために、造影剤に終濃度で50mMから100mM程度の塩化ナトリウムを添加することが好ましい。また、TKS-203及びWD0456の混合液に塩化ナトリウムを添加する場合には、PBS等のpH調整機能を有する溶媒としてTKS-203及びWD0456の混合液に混合することが好ましい。
【0047】
造影剤は、少なくとも動物に注入時に造影対象となっている動物の正常の血圧(110mmHgから140mmHg程度)と同等の圧力の範囲で血管に注入できる粘度であることが好ましい。このような条件を満たすことができる造影剤の粘度は、血液と同等であることが望ましい。具体的には、造影剤の粘度は3.0mm2/秒{cSt}以上、4.0mm2/秒{cSt}以下であり、血液の粘度(概ね3から4程度)と同様である。前記粘度は、株式会社エー・アンド・デイ 音叉振動式粘度計 SV-1Aにより測定した23℃における動粘度(mm2/秒{cSt})である。より好ましくは、25Gの翼状針(テルモ社製)を使って、マウスの血管に133mmHgから138mmHg(流速5.3ml/分から5.5ml/分)程度で注入できる粘度以下である。造影剤をこのような仕様とすることで、細い管腔器官、例えば管腔器官の内径が25μm以下、好ましくは20μm程度の管腔器官に物理的な負荷をかけることを低減でき、本来の器官の形態に近い形態で造影することができる。
【0048】
造影剤は、調製後直ちに動物に注入してもよいが、調製後10分から30分経過後に注入することが好ましい。このようにすることで、酸化チタン(IV)粒子が組織内により滞留しやすくなる。
【0049】
本開示において動物は、無脊椎動物であっても、脊椎動物であっても良い。脊椎動物には、哺乳類、鳥類、魚類、は虫類、両生類等を含み得る。動物として、好ましくは実験に使用される動物であり、より好ましくは哺乳類又は鳥類である。実験動物としては、マウス、ラット、モルモット、スナネズミ、ウサギ、イヌ、ネコ、フェレット、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ウシ、ブタ、サル、ニワトリ等を挙げることができる。動物は、生体であっても死体であってもよいが、動物が生体である場合、本開示の造影剤からは、生きたヒトに投与されるものは除かれる。より好ましくはヒトに投与されるものは除かれる。
【0050】
前記造影剤は、動物の器官を造影するために使用される。前記器官は、他の器官から独立した器官であってもよく、他の器官内に存在する管腔器官であってもよい。
【0051】
動物の器官は、特に制限されない。例えば、器官として、循環器系器官(心臓、動脈、静脈、リンパ管等)、呼吸器系器官(鼻腔、副鼻腔、喉頭、気管、気管支、肺等)、消化器系器官(口唇、頬部、口蓋、歯、歯肉、舌、唾液腺、咽頭、食道、胃、十二指腸、空腸、回腸、盲腸、虫垂、上行結腸、横行結腸、S状結腸、直腸、肛門、肝臓、胆嚢、胆管、胆道、膵臓、膵管等)、泌尿器系器官(尿道、膀胱、尿管、腎臓)、神経系器官(大脳、小脳、中脳、脳幹、脊髄、末梢神経、自律神経等)、女性生殖器系器官(卵巣、卵管、子宮、膣等)、乳房(乳腺)、男性生殖器系器官(陰茎、前立腺、精巣、精巣上体、精管)、内分泌系器官(視床下部、下垂体、松果体、甲状腺、副甲状腺、副腎等)、外皮系器官(皮膚、毛、爪等)、造血器系器官(血液、骨髄、脾臓等)、免疫系器官(リンパ節、扁桃、胸腺等)、骨軟部器官(骨、軟骨、骨格筋、結合組織、靱帯、腱、横隔膜、腹膜、胸膜、脂肪組織(褐色脂肪、白色脂肪)等)、感覚器系器官(眼球、眼瞼、涙腺、外耳、中耳、内耳、蝸牛等)が挙げられる。器官として、好ましくは心臓、動脈、静脈、毛細血管、リンパ管、気管、気管支、肺、食道、胃、十二指腸、空腸、回腸、盲腸、虫垂、上行結腸、横行結腸、S状結腸、直腸、肝臓、胆嚢、胆管、胆道、膵臓、膵管、尿道、膀胱、尿管、腎臓、卵管、精管等の管腔構造を有する器官(管腔器官ともいう)を挙げることができる。動脈、静脈、毛細血管等の血管、及びリンパ管等は、他の器官内に存在し得る管腔器官である。
器官は、体内に存在していてもよいが、摘出されていてもよい。
【0052】
また、前記造影剤は、好ましくは、各器官に含まれる血管を造影するために使用することができる。血管造影が特に有用な器官として、脳、心臓、肝臓、腎臓、肺等を挙げることができる。
【0053】
本発明の造影方法は、内径が0.5μmから10μm程度、好ましくは3μmから4μm程度の管腔器官の造影に有効である。また、このような管腔器官として、毛細血管を挙げることができる。
【0054】
毛細血管には、連続型毛細血管、有窓性毛細血管、及び非連続性毛細血管の3種類が報告されている。連続型毛細血管が毛細血管でもっとも一般的なタイプであり筋組織、皮膚、結合組織、肺、外分泌腺、胸腺、神経組織などに存在する。有窓性毛細血管は腎臓、腸管、脈絡叢、内分泌腺など組織と血液間での迅速な物質交換を必要とする器官でみられる。非連続性毛細血管は、細胞内と細胞間に大小の孔があるタイプの毛細血管であり、肝臓の類洞毛細血管等がこれに分類される。造影方法は、いずれのタイプの毛細血管も造影することができる。
【0055】
造影剤を動物の管腔器官に注入する方法は、特に制限されないが、シリンジ等に造影剤を充填し注射針(針の太さは、管腔器官の内径に応じて選択することができる。例えば25Gから18G)を使って、目的の管腔器官に注入することができる。造影処置を始める前に、動物は深麻酔で眠らせておくか、犠牲死させておくことが好ましい。管腔器官に内容物が入っている場合には、あらかじめ生理食塩水、PBS等を灌流することで内容物を除去することができる。また、管腔器官の内容物を除去した後、造影剤を注入する前に、組織固定液(例えば4%パラホルムアルデヒド/PBS溶液等)を灌流し、組織を固定してもよい。
【0056】
管腔器官が血管である場合、造影剤は、ペリスタポンプにつないだ注射針又は翼状針等を使って前記動物の正常の血圧と同等の圧力を生じる範囲で注入することが好ましい。例えば、マウスの左心室から造影剤を注入する場合であれば、流速5ml/分から6ml/分程度、好ましくは流速5.3ml/分程度で注入することが好ましい。管腔器官が血管以外の器官の場合には、造影対象器官に生理的な条件下で負荷される内圧を超えない範囲で、造影剤を注入することが好ましい。このようにすることで、管腔器官に注入した際の、特に細い管腔器官の変形を低減することができる。
【0057】
2.造影剤を注入した動物、又は造影剤を注入した動物から採取した器官の浸漬
次に、造影剤を注入した動物、又は造影剤を注入した動物から採取した器官を70mMから200mMの塩化ナトリウムを含む溶液、50%(v/v)から100%(v/v)の炭素数1から3の低級アルコール液、30%(v/v)から100%(v/v)のアセトン、pH 3以下の酸液、又はこれらの混合液からなる浸漬液に浸漬する。この工程により、管腔器官内に存在する酸化チタン(IV)粒子が滞留し、より細い管腔器官も造影が可能となる。
【0058】
70mMから200mM程度の塩化ナトリウムを含む溶液として、好ましくは塩化ナトリウム水溶液、又はバッファー機能のある水性溶媒に塩化ナトリウムを添加した溶液を挙げることができる。塩化ナトリウム濃度は、好ましくは75mMから100mM程度である。塩化ナトリウムを含む溶液のpHは6.0から8.0程度を例示できる。
【0059】
50%(v/v)から100%(v/v)の炭素数1から3の低級アルコール液として、炭素数1から3の低級アルコール原液を水等の水性溶媒で希釈した希釈液、又は炭素数1から3の低級アルコール原液を挙げることができる。ここで、原液とは、コマーシャルベースで購入可能な原液を意図する。炭素数1から3の低級アルコールとして、エタノール、メタノール、1-プロピルアルコール、2-プロピルアルコール、及びこれらの混合物よりなる群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。より好ましくはエタノール、又はメタノールであり、最も好ましくはエタノールである。炭素数1から3の低級アルコール液のアルコール含有量として、好ましくは60%(v/v)から90%(v/v)、より好ましくは70%(v/v)から80%(v/v)である。
【0060】
30%(v/v)から100%(v/v)のアセトン液として、アセトン原液を水等の水性溶媒で希釈した希釈液、又はアセトン原液を挙げることができる。アセトン液のアセトン含有量として、好ましくは60%(v/v)から90%(v/v)、より好ましくは70%(v/v)から80%(v/v)である。
【0061】
pH 3以下の酸液として、酸の原液を水等の水性溶媒で希釈した希釈液を挙げることができる。酸としては、特に制限されないが、例えば、酢酸、塩酸、硫酸、硝酸等を挙げることができる。例えば、酢酸、硫酸、又は硝酸を使用する場合、2%(v/v)から50%(v/v)の範囲、好ましくは3%(v/v)から20%(v/v)の範囲、より好ましくは4%(v/v)から15%(v/v)の範囲に希釈した希釈液を酸液として使用することができる。例えば、塩酸を使用する場合、30mMから300mMの範囲、好ましくは40mMから200mMの範囲、より好ましくは50mMから100mMの範囲に希釈した希釈液を酸液として使用することができる。
【0062】
浸漬液としては、実験室内での操作性、安全性の点から、70mMから200mM程度の塩化ナトリウムを含む溶液、又は50%(v/v)から100%(v/v)の炭素数1から3の低級アルコール液を使用することが好ましい。
【0063】
浸漬液に、造影剤を注入した動物、又は造影剤を注入した動物から採取した器官を浸漬する時間は、30分から16時間程度を挙げることができる。また、浸漬する際の温度は、4℃から30℃程度を挙げることができる。例えば、浸漬温度が4℃から10℃程度である場合には、浸漬時間は、8時間から16時間程度とすることが好ましい。また、浸漬温度が10℃を超える温度から30℃程度である場合には、浸漬時間は、30分から3時間程度とすることが好ましい。
【0064】
動物が、マウスやラットである場合には、造影剤を注入後、個体そのものを浸漬液に浸漬することができる。大きな動物の場合、造影剤を注入後、各個体から目的とする器官を摘出する前に、観察する管腔器官の管腔器官の近位部位と遠位部位を結紮してから採取し、浸漬液に浸漬することが好ましい。
【0065】
3.造影
次に、造影剤を注入した動物の管腔器官のX線画像又は超音波画像を撮像する。
X線画像又は超音波画像の取得は、造影対象器官の撮像ができる限り制限されない。このような撮像装置は公知である。X線画像の取得は、単純撮影であってもCT撮影であってもよいが、好ましくはCT撮影である。CT撮影装置は、動物の器官の大きさに対応した解像度を有する限り制限されない。例えばCT撮影装置としては、実験動物用3DマイクロX線CT (micro-CT Scan X mate E090 Scanner コムスキャンテクノ株式会社)、CT装置(Rigaku マイクロCT, CT Lab HX)等を挙げることができる。超音波画像の取得は、例えば小動物用 超音波高解像度イメージングシステム Vevo(登録商標)2100等を用いて行うことができる。
【実施例0066】
以下に実施例を示して本発明についてより詳細に説明するが、本発明は実施例に限定して解釈されるものではない。
また、本実施例における動物実験は、長浜バイオ大学付属実験施設運営委員会の承認の元に行った。
【0067】
1.調製例
本実施形態の一例として表1に示す組成で造影剤を調製した。
WD0456、TKS-203、TKD-801は、テイカ株式会社より譲渡を受けた。
【0068】
【表1】
※実施例2を調製する際、凝集・沈殿を防ぐため使用直前にTKS-203にWD0456を添加した。
【0069】
2.実験例1
造影剤として用いる酸化チタンナノ粒子分散液は、酸化チタンナノ粒子と分散剤によって構成されており、分散剤の効果により酸化チタンナノ粒子が溶媒中で凝集せず分散している。酸化チタンナノ粒子を凝集させるための試薬を検討するため、実施例1又は2の造影剤に表2に示す試薬を添加し、酸化チタンナノ粒子の凝集及び分散剤の凝集を観察した。
【0070】
(1)実施例1の造影剤
実施例1の造影剤に添加した試薬及び終濃度と、分散剤の凝集の有無、及び酸化チタンナノ粒子の凝集の有無を表2に示す。
【0071】
【表2】
「+」は凝集体が認められたことを示す。「-」は凝集体が認められなかったことを示す。「±」は弱い凝集が認められたことを示す。
【0072】
図1に、(A)TKD-801のみ、(B)表2に示す試薬を加えていない実施例1の造影剤、(C)実施例1の造影剤に終濃度50%となるようにエタノールを添加したもの、(D)実施例1の造影剤に終濃度70%となるようにエタノールを添加したものの顕微鏡写真を示す。(A)では凝集体は全く認められなかった。(B)では、直径約2μmの分散剤凝集体が認められた。(C)では、複数の分散剤の凝集体が会合した状態が認められた。(D)では、酸化チタンナノ粒子の凝集が認められた。
【0073】
(2)実施例2の造影剤
実施例2の造影剤に添加した試薬及び終濃度と、分散剤の凝集の有無、及び酸化チタンナノ粒子の凝集の有無を表3に示す。結果は実施例1の造影剤とほぼ同様であった。
【0074】
【表3】
「+」は凝集体が認められたことを示す。「-」は凝集体が認められなかったことを示す。「±」は弱い凝集が認められたことを示す。
【0075】
図2に、(A)実施例2の造影剤のみ、(B)実施例2の造影剤に1/2のPBSを添加したもの、(C)実施例2の造影剤に1/2のPBSを添加したものに終濃度50%となるようにエタノールを添加したもの、(D)実施例2の造影剤に1/2のPBSを添加したものに終濃度70%となるようにエタノールを添加したものの顕微鏡写真を示す。実施例1の造影剤と同様に(A)では凝集体は全く認められなかった。(B)では、直径約2μmの分散剤凝集体が認められた。(C)では、複数の分散剤の凝集体が会合した状態が認められた。(D)では、酸化チタンナノ粒子の凝集が認められた。
【0076】
表2及び表3に示すように、例えば、エタノール濃度を50%以上にすると分散剤の効果がなくなり、酸化チタンナノ粒子が凝集し始めた。このような現象は、50%エタノールの他、70%エタノール、0.5× PBS、50%キシレン、50% イソプロピルアルコール、5%酢酸、10%酢酸、50% メタノール、70%メタノール、30% アセトン、50% アセトン、50mM 塩酸、100mM 塩酸、100mM NaCl、500mM NaCl、及び10% 硫酸でも認められた。
【0077】
以上の結果から、溶液の塩濃度を上昇させることによって、エタノール等の非極性液体試薬を添加することによって、又はpHを低下させることによって、分散剤が凝集することが明らかとなった。
【0078】
3.実験例2
本明細書に開示される造影方法により、毛細血管の造影を行った。
(1)方法
マウス(ICR 25~30 g)腹腔に200 mg/kgの濃度になるようペントバルビタールを注射し、深麻酔下において胸部を切開し、右心房の先端をハサミで切断した。左心室に翼状針を穿刺し、6 ml/minの速度で生理食塩水(0.9% NaCl)を注入し、右心房より流出する液体に血液の混在が目視で確認できなくなるまで灌流を行った。約20 mlの生理食塩水を用いた。次に5 %中性ホルマリン(和光純薬)溶液を6 ml/minの速度で灌流し、肝臓などの主要臓器の硬化をもって灌流固定を終了した。約20 mlの中性ホルマリン溶液を用いた。
【0079】
灌流固定完了後、5.3 ml/minの速度で実施例1の造影剤6 mlを注入した。造影剤は、注入の10 分程度前に調製した。
【0080】
マウスに注入する各液体が左心室に与える圧力は生理食塩水110 mmHg、中性ホルマリン溶液 114 mmHg、造影剤133 mmHgでありマウス正常血圧の範囲内であった。造影剤注入後、マウスを70%エタノールに2時間浸漬したのち臓器を摘出し、CT装置(Rigaku マイクロCT, CT Lab HX)にて撮影を行った(50keV, 180mA)。撮影終了後臓器をエタノール系列で脱水し、パラフィンに包埋し、厚さ4μmの切片を得て、ヘマトキシリン-エオジン染色を行い酸化チタンナノ粒子の存在を確認した。
【0081】
(2)結果
図3に肝臓の造影画像を示す。門脈の周囲に刷毛状に伸びている類洞毛細血管(径3~4μm)が造影された。
【0082】
図4に、造影を行った肝臓の組織画像を示す。
図4(A)は、ヘマトキシリン-エオジン染色を示す。
図4(B)は、ヘマトキシリン-エオジン染色を行った切片を水洗し、エオジン色素を抜いた組織画像を示す。矢印は、類洞毛細血管に集積した酸化チタンナノ粒子を示す。
【0083】
図5に、造影を行った腎臓の糸球体の組織画像を示す。
図5(A)は、ヘマトキシリン-エオジン染色を示す。
図5(B)は、ヘマトキシリン-エオジン染色を行った切片を水洗し、エオジン色素を脱色時間を延長した組織画像を示す。黒矢印は、類洞毛細血管に集積した酸化チタンナノ粒子を示す。
図5(B)の白抜き矢印は分散剤の凝集体を示す。
以上の結果から、本明細書に開示される造影方法により、毛細血管の造影が可能であることが示された。