(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022081197
(43)【公開日】2022-05-31
(54)【発明の名称】人工礁
(51)【国際特許分類】
A01K 61/70 20170101AFI20220524BHJP
A01G 33/00 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
A01K61/70
A01G33/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020192589
(22)【出願日】2020-11-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 野母崎三和漁業協同組合(実証実験の報告書の配布) 令和元年11月25日 株式会社朝日テック(自社ウェブサイトにて公開) 令和2年2月10日 長崎新聞社(長崎新聞朝刊にて公開) 令和2年2月21日 長崎新聞社(長崎新聞社のウェブサイトにて公開)令和2年2月21日 株式会社朝日テック(YouTubeにて公開) 令和2年4月22日 株式会社朝日テック(YouTubeにて公開) 令和2年5月28日 長崎県庁(実証実験の報告書の配布) 令和2年6月8日 長崎市役所別館(実証実験の報告書の配布) 令和2年6月10日 長崎県庁大会議室(長崎未来平和フォーラムにて公開) 令和2年8月1日 長崎新聞社(長崎新聞朝刊にて公開) 令和2年8月7日 長崎県壱岐市役所(実証実験の報告書の配布) 令和2年9月4日 世界日報社(Sunday 世界日報週刊新聞にて公開) 令和2年9月20日 NBC長崎放送(「世界一の九州が始まる!」の放送) 令和2年9月27日 長崎市雲仙市役所(実証実験の報告書の配布) 令和2年10月9日 宮崎県都農町役場(実証実験の報告書の配布) 令和2年10月12日 長崎県雲仙市役所(実証実験の報告書の配布) 令和2年10月14日 長崎県対馬市役所(実証実験の報告書の配布) 令和2年11月11日 アバンセ佐賀ホール(佐賀未来フォーラムにて公開) 令和2年11月14日
(71)【出願人】
【識別番号】519021233
【氏名又は名称】株式会社朝日テック
(74)【代理人】
【識別番号】100172225
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 宏行
(72)【発明者】
【氏名】大野 正夫
(72)【発明者】
【氏名】堀田 健治
(72)【発明者】
【氏名】池田 修
【テーマコード(参考)】
2B003
2B026
【Fターム(参考)】
2B003AA01
2B003BB03
2B003DD01
2B003DD02
2B003DD03
2B003EE04
2B026AA02
2B026AA05
2B026AB05
2B026AC03
2B026EA03
(57)【要約】
【課題】安定して海藻の育成に必要な成分を供給することができる人工礁、水中施肥材、水中施肥材の製造方法、ならびに水中施肥構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】人工礁1は、本体部2と、本体部2の少なくとも一部に付着させて水中に設置する施肥材(水中施肥材3)と、を含む。本体部2は、内部に形成された内部空洞と、上部2bに形成され、内部空洞まで貫通する上部開口5と、側部2cに形成され、内部空洞まで貫通する側部開口6と、を有している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体部と、
前記本体部の少なくとも一部に付着させて水中に設置する施肥材と、を含む、人工礁。
【請求項2】
前記本体部は、
前記本体部の内部に形成され、前記本体部の外と連通する内部空洞と、
前記本体部の外面から前記内部空洞まで貫通する保持部を、有し、
前記施肥材は、前記保持部に付着されている、請求項1に記載の人工礁。
【請求項3】
前記本体部は、
上部に形成され、前記内部空洞まで貫通する上部開口と、
側部に形成され、前記内部空洞まで貫通する側部開口と、を有する、請求項2に記載の人工礁。
【請求項4】
前記施肥材は、セメント、硫化鉄、シリコンを含む、請求項1から3のいずれかに記載の人工礁。
【請求項5】
前記施肥材のイオン化指数は8未満である、請求項4に記載の人工礁。
【請求項6】
前記本体部は、コンクリートで形成されている、請求項1から5のいずれかに記載の人工礁。
【請求項7】
前記本体部の少なくとも外面は、多数の凹凸形状を有する、請求項1から6のいずれかに記載の人工礁。
【請求項8】
前記本体部の表面には、硫化鉄を含む層が形成されている、請求項1から7のいずれかに記載の人工礁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に設置する人工礁に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磯焼けした海底で海藻などを育てて、魚やウニなどの生物を呼び戻すための人工礁が多数開発されている。特許文献1には、複数の通水孔を有するブロック本体上に、ケイ砂、水産加工廃水汚泥、木くずなどを原料とする肥料溶出体を載置し、海藻の育成に必要なリン、窒素などを極少量ずつ供給する人工礁(海藻類造成礁)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、海藻などを育てる人工礁は、水深が10m以下の比較的浅い砂地や砂礫地の上に設置されるため、台風などによる大波の影響を受けやすく、特許文献1を含む従来技術では、大波の影響で人工礁が設置点から移動したり、転倒したり、砂に埋没したり、人工礁に載置された肥料溶出体が流れ出て散失されるという問題点があった。
【0005】
そこで本発明は、安定して海藻の育成に必要な成分を供給することができる人工礁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の人工礁は、本体部と、前記本体部の少なくとも一部に付着させて水中に設置する施肥材と、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、安定して海藻などの育成に必要な成分を供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】本発明の一実施の形態の人工礁の製造工程の説明図
【
図4】本発明の一実施の形態の人工礁の機能の説明図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に図面を用いて、本発明の一実施の形態を詳細に説明する。以下で述べる構成、形状、成分等は説明のための例示であって、人工礁、水中施肥材の仕様に応じ、適宜変更が可能である。以下では、全ての図面において対応する要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0010】
まず
図1、
図2を参照して、人工礁1の構成について説明する。人工礁1は、内部に内部空洞2aが形成された略球状の本体部2と、本体部2に形成された保持部4に充填して水中に設置される施肥材(以下、「水中施肥材3」と称する。)を含んで形成されている。本体部2の上部2bには、内部空洞2aまで貫通する上部開口5が少なくとも1つ形成されている。また、本体部2の側部2cには、内部空洞2aまで貫通する複数の側部開口6が形成されている。人工礁1は、本体部2の底部2dが海底に接地するように設置される。なお、本体部2の形状は、海底に安定して設置できる形状であればよく、岩を模した不規則な形状であってもよい。
【0011】
図2において、本体部2は、内部空洞2a側の基部7と、基部7の外側に形成された外殻部8を含んで形成されている。基部7は、セメント、砂利、砂、珪藻土、減水剤などを含み、ち密なコンクリートで形成されている。これにより、基部7は、海水中でも長時間強度を維持することができる。外殻部8は、セメント、砂利、砂、珪藻土、減水剤などを含み、多数の凹凸形状や細孔が形成されている。本体部2の上部2b、側部2c、底部2d、内部2e(内部空洞2aを形成する基部7の面)を含む本体部2の表面には、硫化第一鉄を含む硫化鉄、マグネシウム、ストロンチウム、ルビジウムなど含む硫化鉄含有層9が形成されている。
【0012】
このように、本体部2は、コンクリートで形成されており、本体部2の少なくとも外面(上部2b、側部2c)は、多数の凹凸形状や細孔を有している。本体部2の外面に多数の凹凸形状や細孔を有することで、人工礁1の外面に海藻などが容易に付着して成長することができる。なお、本体部2の外面の凹凸形状や細孔は、付着して生育する海藻の種類に応じて、自在に設計される。また、本体部2の表面(上部2b、側部2c、底部2d、内部2e)に硫化鉄等を含む硫化鉄含有層9を形成することで、人工礁1が海水と接する表面付近の水素イオン指数(pH)を海藻の成長に適する環境となるように調整することができる。例えば、人工礁1が海水と接する表面付近の水素イオン指数(pH)は、海水と同程度の7.8~8.4が望ましい。
【0013】
図2において、保持部4は、本体部2の外面(側部2c)から外殻部8、基部7を貫いて内部空洞2aまで貫通して形成されている。保持部4には、水中施肥材3が充填されている。水中施肥材3は、セメント、硫酸第一鉄を含む硫化鉄、シリコン、珪藻土、粒状(例えば、直径3mm~5mm)の石材などを含んで構成されている。水中施肥材3が含む石材としては、マグネシウム、バリウム、ストロンチウム、ルビジウムなどの元素を含むものが望ましい。水中施肥材3の水素イオン指数(pH)は8未満であり、7.7~7.9が最も望ましい。
【0014】
水中施肥材3は、セメントにより保持部4の内部や本体部2の表面に固形の状態で付着させることができる。また、水中施肥材3は、海藻などの育成に必要な成分であるミネラル等をその内部から少量ずつ長時間にわたって供給することができる。さらに、水中施肥材3を保持部4に充填することで、ミネラル等を適度に安定的に供給することができる。
【0015】
なお、水中施肥材3は、内部空洞2aと本体部2の外面の少なくともいずれかに露出していればよい。また、水中施肥材3は、必ずしも保持部4に完全に充填させる必要はなく、保持部4の内壁の一部に詰められている状態でもよい。さらに、本体部2の外面(上部2b、側部2c)に溝を形成し、その溝に水中施肥材3を付着させる構成であってもよい。このように、人工礁1は、本体部2と、本体部2の少なくとも一部に付着させる、セメント、硫化鉄、シリコンを含む水中施肥材3と、を含んでいる。
【0016】
海藻などの成長に必要な鉄分を人工礁1から安定的に供給するためには、本体部2を構成する基部7、外殻部8に、硫酸第一鉄を含む硫酸鉄を混ぜ込むことが望ましい。しかし、硫化鉄の混入率を増加させると、人工礁1の構造体である本体部2のコンクリートの強度が低下するおそれがある。そのため、本実施の形態の人工礁1では、本体部2には強度を維持するために硫化鉄を混入しない、もしくは、混入率は低く抑える一方で、水中施肥材3に硫化鉄を大量に混入させている。これにより、人工礁1の強度を長期維持しつつ、鉄分などのミネラルを長期間に安定的に供給することができる。
【0017】
図1、
図2において、人工礁1のサイズは、高さが20cmから2m程度であり、設置する場所、育成対象の海藻や魚などの種類に応じて、適宜変更される。例えば、高さが70cmの人工礁1では、本体部2の厚さは基部7と外殻部8を合わせて15cm、重量が170kgである。また、上部開口5は直径30cm、側部開口は直径15cmから25cm、保持部4は直径10cmから15cmである。上部開口5や側部開口6は、人工礁1を設置する位置に生息する魚が自由に外部と内部空洞2aを往来できる大きさが望ましい。また、重量(本体部2の厚さ)は、台風などの大波で人工礁1が移動しない重さが望ましい。
【0018】
次に
図3を参照して、人工礁1の製造工程について説明する。まず、型枠に基部7となる所定の材料を含む生コンクリート(固まっていないコンクリート)を流し込んで、基部7を作成する(
図3(a))。型枠には、予め内部空洞2a、上部開口5、側部開口6となる形状が形成されている。次に、基部7の外面部分を加工して、多数の凹凸形状や細孔を有する外殻部8を形成する(
図3(b))。なお、外殻部8は、基部7の外面に追加で塗布した生コンクリートを加工して形成してもよい。
【0019】
次に、本体部2の側部2cに内部空洞2aまで貫通する保持部4を形成する(
図3(c))。保持部4となる穴は、コアドリルなどで形成する。なお、保持部4は、必ずしも内部空洞2aまで貫通した形状である必要はなく、本体部2の表面(上部2b、側部2c、底部2d、内部2e)に形成した凹部であっても、溝であってもよい。また、保持部4の位置、数は、適宜設計可能である。また、保持部4を本体部2の上部2bに形成してもよい。また、保持部4は、上部開口5、側部開口6と同様に、基部7の作成時に形成してもよい。
【0020】
次に、本体部2に形成された保持部4、上部開口5、側部開口6の内壁を含む本体部2の表面(上部2b、側部2c、底部2d、内部2e)に、硫化鉄を含む液剤を塗布する(
図3(d))。硫化鉄を含む液剤は、海藻などの育成に必要なミネラルを含む石材の粉末、硫化第一鉄、海水などを混合して製造する。硫化鉄を含む液剤は、エアガンで本体部2に塗布しても、容器(槽)に貯めた硫化鉄を含む液剤に本体部2を浸して塗布してもよい。本体部2(外殻部8)の表面に塗布された硫化鉄はコンクリートに浸入して、硫化鉄含有層9を形成する。
【0021】
次に、水中施肥材3となる所定の材料に水を加えてペースト状にする。次に、ペースト状のものを保持部4などに充填、付着させて、所定の形状に形成する(
図4(e))。その後、乾燥させることで、固形の水中施肥材3となる。このように、本実施の形態の水中施肥材3は、水を加えてペースト状にして、所定の箇所に充填、付着させることで、多様な形状を容易に作成することができる。また、乾燥後は固形となって、包含するミネラル等を水中に少量ずつ長時間にわたって供給することができる。
【0022】
次に
図4を参照して、人工礁1の機能について説明する。
図4は、海底10に設置した人工礁1を示している。人工礁1の保持部4に充填されている水中施肥材3からは、人工礁1の外(矢印a)と内部空洞2a(矢印b)の海水11にミネラルが供給される。人工礁1の側部開口6A、側部開口6Bから内部空洞2aに流れ込む水流は(矢印c)、内部空洞2aの内部を流れ(矢印d)、上部開口5から人工礁1の外部に流出する(矢印e)。これにより、水中施肥材3から内部空洞2aに供給されたミネラルが人工礁1の遠方まで供給される。
【0023】
このように、内部空洞2aは、本体部2の内部に形成され、本体部2の外と上部開口5、側部開口6A、6Bを通じて連通している。また、保持部4は、複数の側部開口6A、6Bのいずれかより上方の位置に配置するのが望ましい。これにより、保持部4に充填されている水中施肥材3から内部空洞2aに浸出したミネラルを、効率的に上部開口5から外部に供給することができる。
【0024】
また、側部開口6A、6Bと上部開口5は、台風などで発生し、人工礁1の側部2cに押し寄せる大波を、側部開口6A、6Bから上部開口5に流出させることにより、人工礁1を横方向に移動させる力を分散させることができる。これにより、砂地や砂礫地に設置した人工礁1が設置場所から移動したり、転倒したり、砂に埋没することを防止して、安定した状態を維持することができる。さらに、保持部4に水中施肥材3を付着させることで、大波によって水中施肥材3が散失することも防止することができる。
【0025】
このように水中施肥材3から供給されるミネラル等などの成分により、人工礁1の外面(上部2b、側部2c)や人工礁1の周辺の海底10に海藻などが生育する。すなわち、水中施肥材3が付着された人工礁1は、水中に海藻やサンゴの育成に必要なミネラル等を供給する水中施肥構造体である。なお、水中施肥構造体は、人工礁1の他、水中または海岸や河岸に設置する消波ブロックなどであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0026】
安定して海藻などの育成に必要な成分を供給することができる人工礁を提供する。
【符号の説明】
【0027】
1 人工礁(水中施肥構造体)
2 本体部
2a 内部空洞
2b 上部(外面)
2c 側部(外面)
3 水中施肥材
4 保持部
5 上部開口
6、6A、6B 側部開口