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  • 特開-鍛造プレス及びその異常監視方法 図1
  • 特開-鍛造プレス及びその異常監視方法 図2
  • 特開-鍛造プレス及びその異常監視方法 図3A
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  • 特開-鍛造プレス及びその異常監視方法 図4
  • 特開-鍛造プレス及びその異常監視方法 図5
  • 特開-鍛造プレス及びその異常監視方法 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022081203
(43)【公開日】2022-05-31
(54)【発明の名称】鍛造プレス及びその異常監視方法
(51)【国際特許分類】
   B21J 13/02 20060101AFI20220524BHJP
   B30B 15/28 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
B21J13/02 Z
B30B15/28 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020192600
(22)【出願日】2020-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】507305406
【氏名又は名称】株式会社ケイエステック
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木下 裕次
【テーマコード(参考)】
4E087
4E089
【Fターム(参考)】
4E087AA10
4E087CA13
4E087CB03
4E087EA15
4E087EB07
4E087EC02
4E087GA01
4E087GA02
4E087GB01
4E089EA01
4E089EB03
4E089EC10
4E089EF08
4E089FC04
4E089GA02
4E089GB01
4E089GC05
(57)【要約】
【課題】鍛造プレスにおいて、精度の高い鍛造品の良否判定を行えるようにする。
【解決手段】サーボモータ3で回転駆動されるクランクシャフト5によりコンロッド6を介してスライド7を昇降動作させてワークWの鍛造作業を行う。このとき、コンロッド6に加わる荷重を計測する油圧封入式ポイント荷重計8と、サーボモータ3の状態を計測するモータトルク検知部21と、下金型11又は下金型11を支持する下金型プレート12のアコースティックエミッションを計測するAEセンサ20とからの鍛造時の計測値を測定し、測定したデータのうち、正常な鍛造品の測定値及び異常のある鍛造品の測定値から正常品と異常品の特徴を学習して正常品か異常品かの判定モデルを作成し、鍛造品を鍛造するときに測定値をリアルタイムで計測し、判定モデルの異常品に該当したときに、報知又は鍛造プレス1の停止を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーボモータで回転駆動されるクランクシャフトによりコンロッドを介してスライドを昇降動作させて鍛造品の鍛造作業を行う鍛造プレスであって、
上記コンロッド又は上記スライドに加わる荷重を計測するスライド側荷重検知部と、
上記サーボモータの状態を計測するモータ側検知部と、
金型又は該金型を支持する金型プレートのアコースティックエミッションを計測するAEセンサと、
上記AEセンサの計測値を、上記スライド側荷重検知部及び上記モータ側検知部の計測値と共に受信し、該スライド側荷重検知部及びモータ側検知部の計測値から特定される所定範囲におけるAEセンサの計測値の波形が、正常時の波形と異なる波形となったのを検知して鍛造品の仕上がり品質の異常を検出する制御部とを備えている
ことを特徴とする鍛造プレス。
【請求項2】
請求項1に記載の鍛造プレスであって、
上記モータ側検知部は、上記サーボモータの回転トルクを検出し、
上記制御部は、上記所定範囲における上記AEセンサの測定値の波形が正常時の波形と異なることから鍛造品の仕上がり品質の異常を検出するように構成されている
ことを特徴とする鍛造プレス。
【請求項3】
サーボモータで回転駆動されるクランクシャフトによりコンロッドを介してスライドを昇降動作させて鍛造品の鍛造作業を行う鍛造プレスの異常監視方法であって、
上記コンロッド又は上記スライドに加わる荷重を計測するスライド側荷重検知部と、
上記サーボモータの状態を計測するモータ側検知部と、
金型又は該金型を支持する金型プレートのアコースティックエミッションを計測するAEセンサとからの鍛造時の計測値を測定する測定工程と、
上記測定工程で測定したデータのうち、正常な鍛造品の測定値及び異常のある鍛造品の測定値から正常品と異常品の特徴を学習して正常品か異常品かの判定モデルを作成する学習工程と、
鍛造品を鍛造するときに上記測定値をリアルタイムで計測し、計測値が上記判定モデルの異常品に該当したときに、報知又は上記鍛造プレスの停止を行うリアルタイム判断工程とを含む
ことを特徴とする鍛造プレスの異常監視方法。
【請求項4】
請求項3に記載の鍛造プレスの異常監視方法であって、
上記モータ側検知部によって上記サーボモータの回転トルクを検出し、
上記学習工程において、上記スライド側荷重検知部及び回転トルクの計測値から特定される所定範囲における上記AEセンサの測定値の波形に基づいて正常品か異常品かの判定モデルを作成する
ことを特徴とする鍛造プレスの異常監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍛造プレス及びその異常監視方法に関し、特にAE(アコースティックエミッション)法を利用したものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アコースティック・エミッション(AE)とは、振動周波数よりも高い領域の周波数(60kHz~1MHz程度)であり、材料が変形又は亀裂が発生する際に、材料に蓄えられていた歪エネルギーを弾性波として放出する現象である。この弾性波を材料の表面等に設置した変換子すなわちAEセンサで検出し、信号処理を行うことにより、材料の破壊過程を評価する手法がAE法である。材料により発生する周波数が異なり、鉄の場合60~150kHzである。AE波は弾性限度内でほとんどないが、材料の降伏点に近付くと、大きなAE波が発生する。また、AE波は主に超音波領域の高い周波数成分を持つことが知られている。
【0003】
例えば、プレス式切断機におけるAE波を、図6に示すように、横軸に時間、縦軸にAE測定値のバイナリー値で表すと、図6(a)に示す正常時に比べ、図6(b)に示す異常時では、AE波が正常時よりも長い時間、続いている。このことから、刃物の切れ味が悪くなるなどにより、製品品質が悪化していることを検知できる。
【0004】
例えば、特許文献1のようなプレス機に用いられる金型の異常を予測するための異常予測システムが知られている。この異常予測システムは、金型を用いてプレス機でプレス加工する際に、金型の加工部分で生じた弾性波を検出するAEセンサと、金型を用いてプレス機でプレス加工する際の金型の状態に関するパラメータのうち、弾性波以外のパラメータを検出するプレス状態検出部と、AEセンサ及びプレス状態検出部の各出力信号に基づいて、金型の異常予測スコアを算出するスコア算出部と、このスコア算出部によって算出された結果に基づいて、金型の異常発生を予測する異常予測部とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-019016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のAE法を用いた異常監視方法では、検出されたAE波の波形だけで異常発生を判定しようとしているので、実際のプレス機に発生する荷重やプレス機のサーボモータのトルクの変動とは時間軸のずれが生じるという問題がある。
【0007】
特許文献1の方法では、AEセンサの値を用いて金型の異常を検出するものであり、鍛造品自体の品質異常をリアルタイムで検出できず、鍛造品の品質向上に即座に対応できない。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、リアルタイムに精度の高い鍛造品の良否判定を行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、この発明では、AE波以外の検出データを即時処理するようにした。
【0010】
具体的には、第1の発明では、サーボモータで回転駆動されるクランクシャフトによりコンロッドを介してスライドを昇降動作させて鍛造品の鍛造作業を行う鍛造プレスであって、
上記コンロッド又は上記スライドに加わる荷重を計測するスライド側荷重検知部と、
上記サーボモータの状態を計測するモータ側検知部と、
金型又は該金型を支持する金型プレートのアコースティックエミッションを計測するAEセンサと、
上記AEセンサの計測値を、上記スライド側荷重検知部及び上記モータ側検知部の計測値と共に受信し、該スライド側荷重検知部及びモータ側検知部の計測値から特定される所定範囲におけるAEセンサの計測値の波形が、正常時の波形と異なる波形となったのを検知して鍛造品の仕上がり品質の異常を検出する制御部とを備えている。
【0011】
上記の構成によると、荷重やサーボモータの状態を同時に計測することで、鍛造品の変形に伴うこれらの測定値から正常時のAEセンサの波形と比較するAEセンサの比較範囲を正確に特定できるので、制御部が測定値を受信する際の時間差に影響されずに異常時の波形が正常時の波形と異なることを確実に検出できる。
【0012】
第2の発明では、第1の発明において、
上記モータ側検知部は、上記サーボモータの回転トルクを検出し、
上記制御部は、上記所定範囲における上記AEセンサの測定値の波形が正常時の波形と異なることから鍛造品の仕上がり品質の異常を検出するように構成されている。
【0013】
上記の構成によると、鍛造品の変形に伴ってサーボモータの回転トルクが変動するので、その計測値の波形からAE波形の比較範囲を正確に特定できる。
【0014】
第3の発明では、サーボモータで回転駆動されるクランクシャフトによりコンロッドを介してスライドを昇降動作させて鍛造品の鍛造作業を行う鍛造プレスの異常監視方法を対象とし、
上記鍛造プレスの異常監視方法は、
上記コンロッド又は上記スライドに加わる荷重を計測するスライド側荷重検知部と、
上記サーボモータの状態を計測するモータ側検知部と、
金型又は該金型を支持する金型プレートのアコースティックエミッションを計測するAEセンサとからの鍛造時の計測値を測定する測定工程と、
上記測定工程で測定したデータのうち、正常な鍛造品の測定値及び異常のある鍛造品の測定値から正常品と異常品の特徴を学習して正常品か異常品かの判定モデルを作成する学習工程と、
鍛造品を鍛造するときに上記測定値をリアルタイムで計測し、計測値が上記判定モデルの異常品に該当したときに、報知又は上記鍛造プレスの停止を行うリアルタイム判断工程とを含む。
【0015】
上記の構成によると、AEセンサの波形を、荷重やサーボモータの状態と同時に計測することで、正常時と異常時のパターンを学習でき、鍛造品の変形に伴うこれらの測定値をリアルタイムに取り込んで異常時の判定をすることで、制御部が測定値を受信する際の時間差に影響されずに異常品をリアルタイムで確実に検出できる。
【0016】
第4の発明では、第3の発明において、
上記モータ側検知部によって上記サーボモータの回転トルクを検出し、
上記学習工程において、上記スライド側荷重検知部及び回転トルクの計測値から特定される所定範囲における上記AEセンサの測定値の波形に基づいて正常品か異常品かの判定モデルを作成する構成とする。
【0017】
上記の構成によると、鍛造品の変形に伴ってサーボモータの回転トルクが変動するので、その計測値の波形と合わせることで、正常時と異常時のパターンを正確に特定できる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、荷重やサーボモータの計測値を用いてAE波の比較範囲を特定して正常値とのAE波の波形の違いを検出し、異常品である判断するようにしているので、測定値の受信タイミングのずれにかかわらず、精度の高い鍛造品の良否判定を行える。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に実施形態に係る鍛造プレスの概要を示す正面図である。
図2】ダイクッション部分を拡大して示す断面図である。
図3A】各センサの検出値と鍛造品形状の変化を示す図である。
図3B】所定範囲における正常時と異常時の波形の変化を比較する図である。
図4】リンクモーションにおけるスライド等のストロークの変化を示すグラフである。
図5】クランクモーションにおけるスライド等のストロークの変化を示すグラフである。
図6】従来の切断機における正常時と異常時のAE波形の違いを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
-鍛造プレスの構成-
図1及び図2は、本発明の実施形態の鍛造プレスの概要を示し、この鍛造プレス1では、フレーム状のプレス本体2の上側に設けたサーボモータ3の動力を遊星ギアなどの減速機4を介してクランクシャフト5に伝達するように構成されている。クランクシャフト5に伝達された回転運動は、コンロッド6を介して上下運動に変換され、このコンロッド6に連結されたスライド7が昇降運動をするようになっている。詳しくは図示しないが、スライド7には、後述する下金型と対となる上金型及びそのダイホルダが設けられている。
【0022】
コンロッド6の下側には、スライド側荷重検知部としての、油圧封入式ポイント荷重計8が設けられている。例えば、油圧封入式ポイント荷重計8は、スライド7が受ける鍛造時の反力によって内部の作動油の圧力が上がると、油圧計の値が上昇することから、スライド7に加わる荷重を検出することができるようになっている。スライド側荷重検知部は、例えば、スライド7に加わる荷重を直接的に検出する荷重計でもよい。
【0023】
このスライド7の対向する位置にダイクッション10が設けられている。図2に拡大して示すように、ダイクッション10において、鍛造品となるワークWが載置される下金型11が下金型プレート12上において突き上げピン13やピストンクッション14を含むシリンダ15によって支持されている。下金型プレート12には、アコースティックエミッションを計測するAEセンサ20が設けられている。なお、下金型11にAEセンサ20を設けてもよい。要は、ワークWの変形に伴うアコースティックエミッションをリアルタイムで検知できる位置にAEセンサ20を設けるとよい。
【0024】
サーボモータ3には、サーボモータ3の状態を計測するモータ側検知部としてのモータトルク検知部21が設けられている。モータトルク検知部21は、サーボモータ3の電流値から検出するようにしてもよい。モータトルク検知部21としては、図3Aに示すようなサーボモータ3の回転速度を計測する速度計等を含んでいてもよい。
【0025】
そして、詳しい作用は後述するが、鍛造プレス1は、AEセンサ20の計測値を、油圧封入式ポイント荷重計8及びモータトルク検知部21の計測値と共に受信し、これら油圧封入式ポイント荷重計8及びモータトルク検知部21の計測値から特定される所定範囲におけるAEセンサ20の計測値の波形が、正常時の波形と異なる波形となったのを検知して鍛造品の仕上がり品質の異常を検出する制御部40を備えている。
【0026】
制御部40は、鍛造プレス1全体の制御を行うPLC(プログラマブルコントローラ)、例えば、サンプリング周波数10MHzの8チャンネル同時測定が可能なECU(エッジコンピュータユニット)、ECUコントロール用PC等を含む。
【0027】
-鍛造プレスの異常監視方法-
次に、本実施形態に係る鍛造プレスの異常監視方法について説明する。
【0028】
本実施形態では、クランクシャフト5を有する鍛造プレス1でクランクシャフト5に減速機4とサーボモータ3とが連結されているので、一定速度でサーボモータ3が回転するときは、図5に示すようなクランクモーションになるが、サーボモータ3の回転を制御することで図4に示すリンクモーションなどにモーションを変えることができる。
【0029】
サーボモータ3を回転させると、クランクシャフト5に取り付けられているコンロッド6を介してスライド7が上下運動する。例えば、図3Aに示すように、ワークWが歯車の場合の冷間鍛造において、スライド7が下死点よりも15mm上の時点から材料が変形していき、下死点の0.1mm上からコンロッド6に取り付けてある油圧封入式ポイント荷重8の計測値が下がる。下がる理由は、材料が弾性域から塑性域に変わるためである。
【0030】
AE波は、100kHz程度の周波数であるため、波形を分析するときに時間軸を合わせることが難しい。なぜならトリガを設定するトリガ信号は、制御部40のPLCなどで発生するが、ラダープログラムのためにスキャンタイムの影響で20ms程度のばらつきが発生するためである。また、クランクシャフト5の回転角度を基準にするためにメカニカルなバックラッシュなどのばらつきも影響する。波形のピークを基準ポイントとする方法もあるが、ピークポイントのばらつきもあり、測定したデータを比較する基準の取り方が課題であった。
【0031】
本実施形態では、油圧封入式ポイント荷重8の検出値において弾性域から塑性域に変わるポイントを基準とすることで、AE波形やモータトルクなど取得したデータの基準ポイントができるので、正確なデータ比較が可能となる。
【0032】
具体的には、図3Aの下段に示すように、密閉冷間鍛造のワークWにおいては、弾性域から塑性域に変わり加圧されて下金型11と同じ形状になる。しかし、変形するのには時間的な要素があるので、AE波形の比較により波形量が少なければ塑性変形が不十分なため、弾性変形が残り、歯厚が膨らむ異常品となる。
【0033】
また、加圧しすぎると下金型11に応力が集中するために下金型11にクラックなどが発生し歯に余肉が付いたりする異常品が発生する。
【0034】
しかし、AE波を比較することでこれらの不具合をリアルタイムで検知することが可能となる。
【0035】
次いで、システム構成のフローについて説明する。
【0036】
まず、測定工程では、油圧封入式ポイント荷重8、AEセンサ20、モータトルク検知部21からポイント荷重、AE波、モータトルク(モータ電流値)を制御部40のECUが受信し、ECUコントロールPCが記憶する。
【0037】
学習工程では、例えばECUコントロールPCが、測定したデータのうち、正常品と異常品があればそれぞれのデータから特徴量を見つけて機械学習して判定モデルを作成する。仮に正常品しかデータが取れない場合は、正常品データをオートエンコーダ処理で正常品判定モデルを作成する。又は、傾向が分かる特徴量を見つける(例えば、RMSと符号反転数など)。
【0038】
リアルタイム判断工程では、学習工程で作成したモデルをECU(エッジコンピュータユニット)又はECUコントロールPCに入れ込んで正常品か異常品のリアルタイム判断を行う。そして、異常品が発見されたときには、報知を行ったり鍛造プレス1を停止したりする。
【0039】
次いで、判定のフローについて説明する。
【0040】
下死点上15mm(材料変形スタート)及びポイント荷重減少位置からトリガスタート(計測スタート)を設定し、計測を70ms行う。
【0041】
次いで、リアルタイムに取り込んだ計測データと予め作成した判定モデルとの比較を行う。ここでは、正常品か異常品の判定を行い、異常品判定時は、警告ランプ点灯などの警告表示を行う又は鍛造プレス1を停止する。
【0042】
図3Bに示すように、計測スタート位置でポイント荷重が減少しているが、これは、応力歪み曲線における、材料の特性から弾性域から塑性域に変わる降伏点と考えられる。
【0043】
サーボトルク値においても、計測スタート位置から少し経過してからトルク値が上昇していることから応力歪曲線と同じ傾向で値が変化している。
【0044】
また、降伏点付近でのAE波の発生が大きいことが分かっており、実際の計測範囲でも、AE波が発生していることから、材料が弾性域から塑性域になり下金型11の形状と同じ形になったことが判定できる。
【0045】
図3Bに示す冷間密閉鍛造では、計測スタートからエンドまでは70msほどであり、下死点上0.1mmから下死点までの時間になる。
【0046】
この0.1mmの加圧する時間が短いと弾性域から塑性域へ変わるのが不十分なために弾性域が残った状態になり歯形が膨張した異常品となる。そのときのAE波も少ない波形になる。弾性域から塑性域に変わって加圧時間が十分でないと下金型11と同じ形状にならず、異常品になる。
【0047】
また、下金型11は、鍛造工程で加圧や材料の滑りで発熱するために下金型11の温度が上昇する。温度が上がると下金型11が膨張するので先ほどの計測スタート位置が下死点上0.1mmだったのが0.08mm等少なくなるため、膨張分だけ余分に加圧することになる。余分な加圧がされると下金型11に発生する応力も上昇して下金型11にクラックが入って異常品(不良品)を作ることになる。また、加圧力が高くなるので下金型11の合わせ面(パーティングライン)などに材料が逃げるためにバリが発生する。
【0048】
それら波形が、図3Bのような異常波形として検出でき、それにより対策を行うことで、余分な加圧や下金型11のクラックなどの発生を防止できる。また、下金型11に応力が繰り返し加わって下金型11にクラックが入った場合は、大きなAE波が発生するので、それも検出できる。
【0049】
このように、サーボモータ3の電流値や荷重値などAE波だけでない複数のデータでモデル化を行うので、従来のように時間軸のずれを気にしなくてよくなった。
【0050】
本実施形態では、荷重やサーボモータ3の状態を同時に計測することで、ワークWの変形に伴うこれらの測定値から正常時のAEセンサ20の波形と比較するAEセンサ20の比較範囲を正確に特定できるので、制御部40が測定値を受信する際の時間差に影響されずに異常時の波形が正常時の波形と異なることを確実に検出できる。
【0051】
本実施形態では、ワークWの変形に伴ってサーボモータ3の回転トルクが変動するので、その計測値の波形からAE波形の比較範囲を正確に特定できる。
【0052】
したがって、本実施形態に係る鍛造プレス1及びその異常監視方法によると、測定値の受信タイミングのずれにかかわらず、精度の高いワークWの良否判定を行える。
【0053】
(その他の実施形態)
本発明は、実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0054】
すなわち、実施形態では、ワークWが密閉鍛造のものに限定して説明したが、必ずしも密閉鍛造に限定されず、正常品と異常品の違いが波形で現れるその他の鍛造方式でもよい。
【0055】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【符号の説明】
【0056】
1 鍛造プレス
2 プレス本体
3 サーボモータ
4 減速機
5 クランクシャフト
6 コンロッド
7 スライド
8 油圧封入式ポイント荷重計(スライド側荷重検知部)
10 ダイクッション
11 下金型
12 下金型プレート
13 ピン
14 ピストンクッション
15 シリンダ
20 AEセンサ
21 モータトルク検知部(モータ側検知部)
40 制御部
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6